(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
下記一般式(1)で表される有機亜鉛化合物または前記有機亜鉛化合物の水による部分加水分解物と3B族元素化合物または3B族元素化合物の水による部分加水分解物を、亜鉛に対する3B族元素のモル比が0.1を超え5以下の範囲で含有することを特徴とする複合酸化物薄膜製造用組成物(但し、3B族元素化合物を、有機亜鉛化合物に対する3B族元素化合物のモル比が0.1を超え0.3以下含む場合を除く)。
R1−Zn−R1 (1)
(式中、R1は炭素数1〜7の直鎖または分岐したアルキル基である。)
前記有機亜鉛化合物の水による部分加水分解物と3B族元素化合物の水による部分加水分解物は、前記有機亜鉛化合物及び3B族元素化合物に、水を前記有機亜鉛化合物と3B族元素化合物との合計に対するモル比が0.05〜0.8の範囲になるよう添加して、前記有機亜鉛化合物及び3B族元素化合物を部分的に加水分解して得られる生成物である、請求項1または2に記載の組成物。
前記電子供与性溶媒は、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、ジオキサン、炭化水素溶媒としてヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、のうち少なくとも一つを含む請求項6に記載の組成物。
前記一般式(2)の3B族元素化合物がトリメチルインジウム、トリエチルインジウム、トリメチルガリウム、トリエチルガリウム、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、トリスアセチルアセトナトアルミニウム、トリスアセチルアセトナトガリウム、トリスアセチルアセトナトインジウム、塩化アルミニウム、塩化ガリウム、塩化インジウム、トリメトキシボラン、トリエトキシボラン、トリイソプロポキシインジウム、トリイソプロポキシガリウム、トリイソプロポキシアルミニウム、トリtert−ブトキシインジウム、トリtert−ブトキシガリウムのうち少なくとも一つを含む請求項5〜9のいずれかに記載の組成物。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
これら特許文献は、酸化亜鉛薄膜に関するもので、In、Ga等の3B族元素は導電性を持たせるために数重量%程度の微量が添加されているに過ぎない。
発明者らは、公知の特許文献の材料を用いて前述のIGZOの組成に調整し、スピンコート法、ディップコート法、スプレー熱分解法で成膜を試みたが、透明な薄膜を得ることは困難であった。
【0011】
一方、本発明者らは、ジエチル亜鉛を部分加水分解した組成物、または、3B族元素化合物とジエチル亜鉛を部分加水分解した組成物の溶液を用いたスピンコート法による製膜を試み、可視光線に対して80%以上の平均透過率を有する酸化亜鉛薄膜が得られ、特許出願した(特許文献3、4)。
【0012】
特許文献3、4の発明においては、酸化亜鉛薄膜の導電性向上のために、In、Ga等の3B族元素を組成物中に共存させているが、亜鉛に対する3B族元素のモル比(組成比)は例えば、0.005〜0.1の範囲としており少なく、IGZO等、亜鉛に対する3B族元素の混合物のモル比が0.1を超える材料への適用については更なる検討が必要と考えた。
【0013】
そこで、本発明は、ジエチル亜鉛またはジエチル亜鉛等の有機亜鉛化合物の部分加水分解物をベースとした組成物に、IGZO等の酸化物半導体膜を成膜することができる新たな手段を提供することを目的とする。
【0014】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、アルキル基が亜鉛または3B族元素と結合した構造を有する化合物、より具体的な例としては、ジエチル亜鉛等の有機亜鉛化合物およびジエチル亜鉛等の有機亜鉛化合物と水との部分加水分解によって得られる生成物とIn、Ga等の3B族元素を含む化合物の混合物を含む組成物において、ジエチル亜鉛等の有機亜鉛化合物およびジエチル亜鉛等の有機亜鉛化合物と水との部分加水分解によって得られる生成物中の亜鉛に対するIn、Ga等の3B族元素の混合物中の3B族元素のモル比が0.1を超えるものであっても、塗布することで、可視光線に対して80%以上の平均透過率をもってIGZO等の酸化物半導体膜が容易に得られることを見出して本発明を完成させた。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するための本発明は、以下のとおりである。
(請求項1)
下記一般式(1)で表される有機亜鉛化合物または前記有機亜鉛化合物の水による部分加水分解物と3B族元素化合物または3B族元素化合物の水による部分加水分解物を、亜鉛に対する3B族元素のモル比が0.1を超え5以下の範囲で含有することを特徴とする複合酸化物薄膜製造用組成物。
R
1−Zn−R
1 (1)
(式中、R
1は炭素数1〜7の直鎖または分岐したアルキル基である。)
(請求項2)
有機溶媒をさらに含有する請求項1に記載の組成物。
(請求項3)
前記有機亜鉛化合物の水による部分加水分解物は、一般式(1)で表される有機亜鉛化合物と水をモル比が0.05〜0.8の範囲になるよう混合して、少なくとも前記有機亜鉛化合物を部分的に加水分解して得られる生成物であり、前記3B族元素化合物の水による部分加水分解物は、3B族元素化合物と水をモル比が0.05〜0.8の範囲になるよう混合して、少なくとも前記3B族元素化合物を部分的に加水分解して得られる生成物である、請求項1または2に記載の組成物。
(請求項4)
前記有機亜鉛化合物の水による部分加水分解物と3B族元素化合物の水による部分加水分解物は、前記有機亜鉛化合物及び3B族元素化合物に、水を前記有機亜鉛化合物と3B族元素化合物との合計に対するモル比が0.05〜0.8の範囲になるよう添加して、前記有機亜鉛化合物及び3B族元素化合物を部分的に加水分解して得られる生成物である、請求項1または2に記載の組成物。
(請求項5)
前記3B族元素化合物が下記一般式(2)または(3)で表される3B族元素化合物である請求項1〜4のいずれかに記載の組成物。
(式中、Mは3B族元素であり、R
2、R
3、R
4は独立に、水素、炭素数1〜7の直鎖もしくは分岐したアルキル基、炭素数1〜7の直鎖もしくは分岐したアルコキシル、カルボン酸、または、アセチルアセトナート基であり、Lは窒素、酸素、またはリンを含有した配位性有機化合物であり、nは0〜9の整数である。)
M
cX
d・aH
2O (3)
(式中、Mは3B族元素であり、Xは、ハロゲン原子、硝酸または硫酸であり、Xがハロゲン原子または硝酸の場合、cは1、dは3、Xが硫酸の場合、cは2、dは3、aは0〜9の整数である。)
(請求項6)
前記有機溶媒が、電子供与性溶媒、炭化水素溶媒およびそれらの混合物のうち少なくとも一つを含む請求項2〜5のいずれかに記載の組成物。
(請求項7)
前記有機溶媒の沸点が230℃以下である請求項2〜6のいずれかに記載の組成物。
(請求項8)
前記電子供与性溶媒は、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、ジオキサン、炭化水素溶媒としてヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、のうち少なくとも一つを含む請求項6に記載の組成物。
(請求項9)
前記有機亜鉛化合物がジエチル亜鉛である請求項1〜8のいずれかに記載の組成物。
(請求項10)
前記一般式(2)の3B族元素化合物がトリメチルインジウム、トリエチルインジウム、トリメチルガリウム、トリエチルガリウム、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、トリスアセチルアセトナトアルミニウム、トリスアセチルアセトナトガリウム、トリスアセチルアセトナトインジウム、塩化アルミニウム、塩化ガリウム、塩化インジウム、トリメトキシボラン、トリエトキシボラン、トリイソプロポキシインジウム、トリイソプロポキシガリウム、トリイソプロポキシアルミニウム、トリtert−ブトキシインジウム、トリtert−ブトキシガリウムのうち少なくとも一つを含む請求項5〜9のいずれかに記載の組成物。
(請求項11)
3B族元素がGa及びInである、請求項1〜9のいずれかに記載の組成物。
【発明の効果】
【0016】
本発明の複合酸化物薄膜製造用組成物を用いることで、IGZO等の酸化物半導体膜等、有用な複合酸化物薄膜をスピンコート法、ディップコート法、スプレー熱分解法等の塗布成膜で容易に成膜が可能であり、可視光線に対して80%以上の平均透過率を有する複合酸化物薄膜を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[複合酸化物薄膜製造用組成物]
本発明の複合酸化物薄膜製造用組成物は、下記一般式(1)で表される有機亜鉛化合物または前記有機亜鉛化合物の水による部分加水分解物と3B族元素化合物または3B族元素化合物の水による部分加水分解物を、亜鉛に対する3B族元素のモル比が0.1を超え5以下の範囲で含有することを特徴とする。
R
1−Zn−R
1 (1)
(式中、R
1は炭素数1〜7の直鎖または分岐したアルキル基である。)
【0019】
本発明の複合酸化物薄膜製造用組成物には、以下の態様が含まれる。
(i)前記一般式(1)で表される有機亜鉛化合物と3B族元素化合物を含有する組成物(以下、組成物1と呼ぶことがある)
(ii)前記一般式(1)で表される有機亜鉛化合物と3B族元素化合物の水による部分加水分解物を含有する組成物(以下、組成物2と呼ぶことがある)
(iii)前記一般式(1)で表される有機亜鉛化合物と3B族元素化合物および3B族元素化合物の水による部分加水分解物を含有する組成物(以下、組成物3と呼ぶことがある)
(iv)前記一般式(1)で表される有機亜鉛化合物の水による部分加水分解物と3B族元素化合物を含有する組成物(以下、組成物4と呼ぶことがある)
(v)前記一般式(1)で表される有機亜鉛化合物の水による部分加水分解物と3B族元素化合物の水による部分加水分解物を含有する組成物(以下、組成物5と呼ぶことがある)
(vi)前記一般式(1)で表される有機亜鉛化合物の水による部分加水分解物と3B族元素化合物および3B族元素化合物の水による部分加水分解物を含有する組成物(以下、組成物6と呼ぶことがある)
(vii)前記一般式(1)で表される有機亜鉛化合物と前記有機亜鉛化合物の水による部分加水分解物と3B族元素化合物を含有する組成物(以下、組成物7と呼ぶことがある)
(viii)前記一般式(1)で表される有機亜鉛化合物と前記有機亜鉛化合物の水による部分加水分解物と3B族元素化合物の水による部分加水分解物を含有する組成物(以下、組成物8と呼ぶことがある)
(ix)前記一般式(1)で表される有機亜鉛化合物と前記有機亜鉛化合物の水による部分加水分解物と3B族元素化合物および3B族元素化合物の水による部分加水分解物を含有する組成物(以下、組成物9と呼ぶことがある)
【0020】
さらに、本発明は、有機溶媒をさらに含有する上記組成物を包含する。
【0021】
本発明においては、前記3B族元素化合物は、例えば、下記一般式(2)または(3)で表される3B族元素化合物であることができる。
(式中、Mは3B族元素であり、R
2、R
3、R
4は独立に、水素、炭素数1〜7の直鎖もしくは分岐したアルキル基、炭素数1〜7の直鎖もしくは分岐したアルコキシル、カルボン酸、または、アセチルアセトナート基であり、Lは窒素、酸素、またはリンを含有した配位性有機化合物であり、nは0〜9の整数である。)
M
cX
d・aH
2O (3)
(式中、Mは3B族元素であり、Xは、ハロゲン原子、硝酸または硫酸であり、Xがハロゲン原子または硝酸の場合、cは1、dは3、Xが硫酸の場合、cは2、dは3、aは0〜9の整数である。)
【0022】
本発明の組成物のより具体的な例としては、以下のものを挙げることができる。但し、これらの限定される意図ではない。
(A)前記一般式(1)で表される有機亜鉛化合物を有機溶媒に溶解した溶液に、水を添加して、前記有機亜鉛化合物を少なくとも部分的に加水分解した後、少なくも1つの3B族元素を含んだ、前記一般式(2)および/または一般式(3)で表される3B族元素化合物との混合物を含む生成物 (以下、部分加水分解物1と呼ぶことがある)を含む組成物。
【0023】
(B)前記一般式(1)で表される有機亜鉛化合物と少なくも1つの3B族元素を含んだ、下記一般式(2)および/または一般式(3)で表される3B族元素化合物との混合物を有機溶媒に溶解した溶液に、水を添加して、少なくとも前記有機亜鉛化合物を少なくとも部分的に加水分解して得られる生成物(以下、部分加水分解物2と呼ぶことがある) を含む組成物。
【0024】
前記一般式(1)で表される有機亜鉛化合物におけるR
1として表されるアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、sec−ヘキシル基、tert−ヘキシル基、2−ヘキシル基、およびヘプチル基を挙げることができる。一般式(1)で表される化合物は、R
1が炭素数1、2、3、4、5、または6の化合物であることが好ましい。一般式(1)で表される化合物は、特にR
1が炭素数2である、ジエチル亜鉛であることが好ましい。
【0025】
前記一般式(2)で表される3B族元素化合物におけるMとして表される金属の具体例としては、B、Al、Ga、Inを挙げことができる。また、R
2、R
3、及びR
4は水素であることが好ましい。あるいは、R
2、R
3、及びR
4はアルキル基であることも好ましく、アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、sec−ヘキシル基、tert−ヘキシル基、2−ヘキシル基、およびヘプチル基を挙げることができる。R
2、R
3、及びR
4は、少なくとも1つが水素であり、残りがアルキル基であることも好ましい。また、アルコキシル基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシド基、tert−ブトキシ基等を挙げることができる。
【0026】
Lとして表される配位子は、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリフェニルアミン、ピリジン、モノフォリン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、トリフェニルフォスフィン、ジメチル硫黄、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランを挙げることができる。一般式(3)で表される3B族元素化合物は、特に、ジボラン、ボラン−テトラヒドロフラン錯体、ボラン−トリメチルアミン錯体、ボラン−トリエチルアミン錯体、トリエチルボラン、トリブチルボラン、アラン−トリメチルアミン錯体、アラン−トリエチルアミン錯体、トリメチルアルミニウム、ジメチルアミルニウムヒドリド、トリイソブチルアルミニウム、ジイソブチルアルミニウムヒドリド、トリメチルガリウム、トリエチルガリウム、トリメチルインジウム、トリメチルインジウム、トリエチルインジウム、トリメトキシボラン、トリエトキシボラン、トリイソプロポキシインジウム、トリイソプロポキシガリウム、トリイソプロポキシアルミニウム、トリtert−ブトキシインジウム、トリtert−ブトキシガリウムを挙げることができる。価格が安く入手が容易であるという点から、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリメチルガリウム、トリメチルインジウム、トリメトキシボラン、トリエトキシボラン、トリイソプロポキシインジウム、トリイソプロポキシガリウム、トリイソプロポキシアルミニウム、トリtert−ブトキシインジウム、トリtert−ブトキシガリウムが特に好ましい。
【0027】
3B族元素化合物における3B族元素および前記一般式(3)で表される3B族元素化合物におけるMとして表される金属の具体例としては、例えば、B、Al、Ga、Inを挙げことができる。また、Xとして表される塩の具体例としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、硝酸、硫酸を挙げることができる。一般式(2)で表される3B族元素化合物は、特に、フッ化ホウ素、塩化ホウ素、塩化アルミニウム、塩化アルミニウム6水和物、硝酸アルミニウム9水和物、塩化ガリウム、硝酸ガリウム水和物、塩化インジウム、塩化インジウム4水和物、硝酸インジウム5水和物を挙げることができる。
【0028】
本発明では、上記前述の金属を含む化合物を溶解するために有機溶媒を用いることができる。この有機溶媒としては、前述の亜鉛や3B族元素を溶解するもので、使用に問題がなければ特に制限はないが、一般的に工業的に使用されているエーテルなどの電子供与性有機溶媒やヘキサン、トルエンなどの炭化水素化合物を用いることが好ましい。これらの有機溶媒は単独または他の溶媒との混合物として使用してもよい。このような溶媒を用い、本発明の組成物を溶解して基板等に塗布することで、可視光線に対して80%以上の平均透過率をもってIGZO等の酸化物半導体膜が容易に得られる。
【0029】
この電子供与性有機溶媒の例として、エーテル化合物、アミン化合物等を上げることが出来、一般式(1)で表される有機亜鉛化合物及び水に対して溶解性を有するものであればよい。好ましい電子供与性有機溶媒の例としては、その沸点が230℃以下のものを例示することができ、例えば、ジn−ブチルエーテル(沸点142.4℃)、ジヘキシルエーテル(沸点226.2℃)、アニソール(沸点153.8℃)、フェネトール(沸点172℃)、ブチルフェニルエーテル(沸点210.3℃)、ペンチルフェニルエーテル(沸点214℃)、メトキシトルエン(沸点171.8℃)、ベンジルエチルエーテル(沸点189℃)、ジフェニルエーテル(沸点258.3℃)、ベラトロール(沸点206.7℃)、トリオキサン(沸点114.5℃)そして、1,2−ジエトキシエタン(沸点121℃)、1,2―ジブトキシエタン(沸点203.3℃)等のグライム、また、ビス(2−メトキシエテル)エーテル(沸点162℃)、ビス(2−エトキシエテル)エーテル(沸点188.4℃)、ビス(2−ブトキシエテル)エーテル(沸点254.6℃)等のジグライム、さらに、1,2−ビス(2−メトキシエトキシ)エタン(沸点216℃)、ビス[2−(2−メトキシエトキシエチル)]エーテル(沸点275℃)等のトリグライム、等のエーテル系溶媒、トリ−n−プロピルアミン(沸点150〜156℃)、トリ−n−ペンチルアミン(沸点130℃)、N,N−ジメチルアニリン(沸点193℃)、N,N−ジエチルアニリン(沸点217℃)、ピリジン(沸点115.3℃)等のアミン系溶媒等を挙げることができる。電子供与性有機溶媒としては、グライムの一種である1、2−ジエトキシエタン(沸点121℃)が、組成物調製時のゲルの抑制と溶媒自身の揮発性の両方の観点から好ましい。電子供与性有機溶媒の沸点の上限は、特にないが、得られた組成物を塗布した後に溶媒が除去されて塗膜となる際の乾燥時間が比較的短くなると言う観点からは、230℃以下であることが好ましい。
【0030】
また、本発明では、溶媒として炭化水素化合物を用いることが出来る。前記炭化水素化合物としては、炭素数5〜20のより好ましくは炭素数6〜12の直鎖、分岐炭化水素化合物または環状炭化水素化合物、炭素数6〜20の、より好ましくは炭素数6〜12の芳香族炭化水素化合物およびそれらの混合物を例示することが出来る。
【0031】
これら炭化水素化合物の具体的な例として、ペンタン、n−ヘキサン、ヘプタン、イソヘキサン、メチルペンタン、オクタン、2,2,4−トリメチルペンタン(イソオクタン)、n−ノナン、n−デカン、n−ヘキサデカン、オクタデカン、エイコサン、メチルヘプタン、2,2−ジメチルヘキサン、2−メチルオクタンなどの脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサンメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン、トリメチルベンゼン等の芳香族炭化水素、ミネラルスピリット、ソルベントナフサ、ケロシン、石油エーテル等の炭化水素系溶媒を上げることが出来る。
【0032】
上記の電子供与性有機溶媒とは異なる種類の有機溶媒、炭化水素化合物の沸点の上限は、特にないが、得られた組成物を塗布した後に溶媒が除去されて塗膜となる際の乾燥時間が比較的短くなると言う観点からは、電子供与性化合物と同様に230℃以下であることが好ましい。また、金属を含む化合物の安定性向上の観点からは、本発明の組成物中に電子供与性化合物が含有しているほうが望ましい。
【0033】
前記一般式(1)で表される化合物を前記電子供与性有機溶媒または前記電子供与性有機溶媒を含有する混合有機溶媒に溶解した溶液における、前記一般式(1)で表される化合物の濃度は、4〜12質量%の範囲とすることが好ましい。前記有機溶媒に溶解した溶液における一般式(1)で表される化合物の濃度は、好ましくは6〜10質量%の範囲である。
【0034】
有機溶媒に前記化合物または部分加水分解物を溶解した組成物は、前述のように溶解や反応したものがそのまま組成物となるものや、例えば部分加水分解反応等で生成物を得た後に、電子供与性有機溶媒や炭化水素化合物等の有機溶媒を任意に添加してその組成を調整することで、本発明の組成物とすることが出来る。
【0035】
前記部分加水分解物の調製における水の添加量は、例えば、部分加水分解物1においては、前記有機亜鉛化合物に対するモル比を0.05〜0.8の範囲とし、部分加水分解物2においては、前記有機亜鉛化合物と3B族元素化合物の合計量に対するモル比を0.05〜0.8の範囲とすることが好ましい。水の添加量がこの範囲であることで、スピンコート法、ディップコート法およびスプレー熱分解において、得られる部分加水分解物を含む反応生成物は、透明かつ導電性を有する酸化亜鉛薄膜を形成することができる。また、3B族元素化合物を単独で部分加水分解する場合も、3B族元素化合物に対する水のモル比を0.05〜0.8の範囲とすることが好ましい。
【0036】
例えば、水のモル比を0.4以上にすることにより、有機亜鉛化合物を部分加水分解する場合、原料中に含有する亜鉛を基準として90%以上の高収率で有機亜鉛化合物を部分加水分解した部分加水分解物を得ることができる。また、部分加水分解物2においては、3B族元素化合物も適量が部分加水分解される。モル比を0.4以上にすることで、部分加水分解物1の場合は、未反応の原料である有機亜鉛化合物の残量を、部分加水分解物2の場合は、有機亜鉛化合物と3B族元素化合物の残存量を抑えることができる。また、モル比を0.8以下にすることにより加水分解反応中のゲルの発生を抑制できる。加水分解反応中にゲルが発生すると、溶液の粘度が上がり、その後の操作が困難になる場合がある。水の添加モル比の上限は、上記観点から、好ましくは0.8、より好ましくは0.75である。
【0037】
この水の添加量の制御は、組成物の粘度や沸点等の物性の制御を可能とする。例えば、スピンコート法等の反応を伴いにくい塗布は水の添加量を増やすことで成膜が容易とすることができ、また、スプレー法等では加水分解を行なわないまたは水の添加を少なくすることにより得られた本発明の組成物では、低温での成膜等、より有機亜鉛化合物自身の反応性を反映した成膜を行なうことが出来る。
【0038】
前記一般式(1)で表される有機亜鉛化合物と、少なくも1つの3B族元素、例えば、前記一般式(2)および/または一般式(3)で表される3B族元素化合物との混合物を含む生成物においては、例えば、前記一般式(1)で表される有機亜鉛化合物と前記一般式(2)または(3)の3B族化合物を有機溶媒等に添加することにより組成物を製造することができる。前記3B族元素化合物の添加量は、前記有機亜鉛化合物の仕込み量に対して0.1を超え5以下の割合で添加するのが適当である。
【0039】
部分加水分解物1においては、有機亜鉛化合物に水を添加した後に、3B族元素化合物を添加することから、水の添加量等によるが、添加した水が有機亜鉛化合物の加水分解に消費された後に3B族元素化合物が添加される場合には、前記生成物は、通常、前記3B族元素化合物の加水分解物は含まない。3B族元素化合物は、加水分解されず、原料のままで含有されるか、あるいは、有機亜鉛化合物の部分加水分解物が有する有機基と3B族元素化合物の有機基(配位子)が交換(配位子交換)したものになる可能性もある。部分加水分解物3においては、有機亜鉛化合物と3B族元素化合物の混合溶液に水を添加するので、前記生成物は、通常、前記3B族元素化合物の加水分解物を含む。3B族元素化合物の加水分解物は、水の添加量等によるが、部分加水分解物であることができる。
【0040】
水の添加は、水を他の溶媒と混合することなく水のみで行うことも、水を他の溶媒と混合して得た混合溶媒を用いて行うこともできる。局所的な加水分解の進行を抑制するという観点からは、混合溶媒を用いることが好ましく、混合溶媒中の水の含有率は、例えば、1〜50質量%の範囲であることができ、好ましくは2〜20質量%である。水との混合溶媒に用いることができる溶媒は、例えば、上記電子供与性有機溶媒であることができる。さらに、電子供与性有機溶媒としては、沸点が110℃以上の有機溶媒であっても、沸点が110℃未満の有機溶媒であってもよい。但し、ジエチル亜鉛に対して不活性かつ水の溶解性が高い必要があるという観点からは、沸点が110℃未満の有機溶媒であることが好ましい。
【0041】
水の添加は、反応の規模にもよるが、例えば、60秒〜10時間の間の時間をかけて行うことができる。生成物の収率が良好であるという観点から、原料である前記一般式(1)の有機亜鉛化合物に水または水との混合溶媒を滴下することにより添加することが好ましい。水の添加は、一般式(1)で表される化合物と電子供与性有機溶媒との溶液を攪拌せずに(静置した状態で)または攪拌しながら実施することができる。添加時の温度は、−90〜150℃の間の任意の温度を選択できる。−15〜30℃であることが水と有機亜鉛化合物の反応性という観点から好ましい。
【0042】
水の添加後に、水と一般式(1)で表される化合物と一般式(2)または(3)で表される化合物、もしくは、水と一般式(1)で表される化合物との反応を進行させるために、例えば、1分から48時間、攪拌せずに(静置した状態で)置くか、または攪拌する。反応温度については、−90〜150℃の間の任意の温度で反応させることができる。反応温度は、5〜80℃の範囲であることが部分加水分解物を高収率で得るという観点から好ましい。反応圧力は制限されない。通常は、常圧(大気圧)で実施できる。水と一般式(1)で表される化合物との反応の進行は、必要により、反応混合物をサンプリングし、サンプルをNMRあるいはIR等で分析、もしくは、発生するガスをサンプリングすることによりモニタリングすることができる。
【0043】
本発明の組成物、例えば、部分加水分解物1及び2を含む組成物においては、前記一般式(1)で表される有機亜鉛化合物と有機亜鉛化合物に対する前記一般式(2)または(3)で表される3B族元素化合物のモル比は、0.1を超え5以下の割合で添加することが、3B族元素の添加効果が適度に発現したIGZO等の酸化物半導体膜等を得るという観点から適当である。同様の観点から、前記3B族元素化合物の添加量の上限は、好ましくは4.5、より好ましくは4、さらに好ましくは2.5、一層好ましくは2、特に好ましくは0.95である。但し、部分加水分解物1においては、有機亜鉛化合物を含有する溶液に水を添加して部分加水分解物を得、その上で、上記モル比で3B族元素化合物を添加する。また、部分加水分解物2においては、上記モル比で有機亜鉛化合物と3B族元素化合物を含有する溶液に水を添加して部分加水分解物を得る。
【0044】
前記の有機溶媒、原料である前記一般式(1)の有機亜鉛化合物、及び水または水との混合溶媒は、あらゆる慣用の方法に従って反応容器に導入することができる。これらの反応工程は回分操作式、半回分操作式、連続操作式のいずれでもよく、特に制限はないが、回分操作式が望ましい。
【0045】
上記反応により、前記一般式(1)の有機亜鉛化合物と前記一般式(2)または(3)の3B族元素化合物、または、前記一般式(1)の有機亜鉛化合物は、水により部分的に加水分解されて、部分加水分解物を含む生成物が得られる。一般式(1)の有機亜鉛化合物がジエチル亜鉛である場合、水との反応により得られる生成物についての解析は古くから行われているが、報告により結果が異なり、生成物の組成が明確に特定されている訳ではない。また、水の添加モル比や反応時間等によっても、生成物の組成は変化し得る。
【0046】
例えば、部分加水分解物1、2については、下記一般式(4)で表される化合物であるか、あるいは、pが異なる複数種類化合物の混合物であると推定される。
R
1−Zn−[O−Zn]
p−R
1 (4)
(式中、R
1は一般式(1)におけるR
1と同じであり、pは2〜20の整数である。)
【0047】
本発明においては、生成物の主成分は、例えば、部分加水分解物2については、下記一般式(5)および(6)で表される構造単位と下記一般式(7)で表される構造単位を組み合わせた化合物であるか、あるいはmが異なる複数種類の化合物の混合物であると推察される。
(R
1−Zn)− (5)
−[O−Zn]
m− (6)
(式中、R
1は一般式(1)におけるR
1と同じであり、mは2〜20の整数である。)
(式中、Mは一般式(2)または(3)におけるMと同じであり、Qは一般式(2)または(3)におけるX、R
2、R
3、R
4のいずれかと同じであり、mは2〜20の整数である。)
【0048】
前記有機亜鉛化合物の加水分解の際に、前記3B族元素化合物を共存させていない部分加水分解物1の場合、反応終了後、3B族元素化合物、例えば、前記一般式(2)または(3)の3B族化合物を添加することにより組成物を製造することができる。前記3B族元素化合物の添加量は、前述のように、前記有機亜鉛化合物の仕込み量に対して0.1を超え5以下の割合で添加するのが適当である。
【0049】
本発明の組成物を用いることで、In、GaおよびZnの酸化物(IGZO)からなる酸化物半導体膜の形成が可能である。
【0050】
上記IGZOの成膜を目的とした組成物は、亜鉛および3B族元素としてGa、Inを組成物中に必須として含むものである。即ち、本発明の組成物は前記一般式(1)の有機亜鉛化合物および部分加水分解物を含む生成物を用いてZnの使用を必須とし、かつ、3B族化合物、例えば、前記一般式(2)および/または(3)の3B族化合物において、3B族元素としてInおよびGaの2成分の共存での使用を必須とするものを包含する。その組成の割合は所望のIGZOの組成となるようにZn、In、Gaのモル比を調整することが可能である。このモル比は、InGaZnO
4,In2Ga
2ZnO
7、InGaZn
5O
8等、InGaO
3(ZnO)
m(m=1〜20の整数)が報告されているIGZOの一般的な組成やそれらの酸素欠損化合物等が得られるように調製が可能であり、その他組成比も整数比に限らず、各元素の添加量を調製することで任意の組成のものを調製が可能である。
【0051】
特に本発明の組成物は、前述のようにして調製された亜鉛を含む化合物として、下記一般式(1)で表される有機亜鉛化合物およびジエチル亜鉛等の有機亜鉛化合物と水との部分加水分解によって得られる生成物を用いることができる。この添加は、組成物を加水分解することで、有機亜鉛化合物および有機亜鉛化合物と水との部分加水分解によって得られる生成物に結合しているアルキル基R
1(ここで、R
1は炭素数1〜7の直鎖または分岐したアルキル基)から主として生成する炭化水素R
1Hの同定、定量により確認される。例えば、ジエチル亜鉛の場合、加水分解により生成するガスの主成分はエタンとなる。
【0052】
なお、この有機亜鉛化合物および有機亜鉛化合物と水との部分加水分解によって得られる生成物に結合しているアルキル基R
1(ここで、R
1は炭素数1〜7の直鎖または分岐したアルキル基)は、共存する3B族元素化合物の一般式(2)に示されるR
2、R
3、R
4(R
2、R
3、R
4は独立に、水素、炭素数1〜7の直鎖もしくは分岐したアルキル基)との交換反応によっても生成する場合がある。
【0053】
加水分解反応終了後、例えば、ろ過、濃縮、抽出、カラムクロマトグラフィー等の一般的な方法によって、上記生成物の一部または全部を回収及び精製することができる。また、加水分解反応終了後に3B族元素化合物を添加する場合には、ろ過によって、上記生成物の一部または全部を回収及び精製することができる。反応生成物中に、原料である一般式(1)の有機亜鉛化合物や(2)、(3)の3B族元素化合物が残存する場合には、上記方法で回収することもでき、回収することが好ましい。
【0054】
上記方法で調製した溶液は、複合酸化物薄膜形成用の塗布用の溶液としてそのまま使用できる。あるいは、適宜希釈または濃縮することもできるが、製造工程を簡素化できるという観点からは、上記方法で調製した溶液が、そのまま酸化複合酸化物形成用の塗布用の溶液として使用できる濃度であることが好ましい。
【0055】
[複合酸化物薄膜の製造方法]
本発明の複合酸化物薄膜形成用組成物を用いる複合酸化物薄膜の製造方法について説明する。基板表面に本発明の複合酸化物薄膜形成用組成物を塗布し、次いで、得られた塗布膜を加熱して複合酸化物薄膜を得る。塗布を例えば、スピンコート法、ディップコート法およびスプレー熱分解法で行う場合には、可視光線に対して80%以上の平均透過率を有しかつ導電性を有する複合酸化物薄膜を形成することができる。
【0056】
基板表面への塗布は、ディップコート法、スピンコート法、スプレー熱分解法、インクジェット法、スクリーン印刷法等の慣用手段により実施できる。
【0057】
組成物の基板表面への塗布は、窒素等の不活性ガス雰囲気下、空気雰囲気下、水蒸気を多く含有した相対湿度が高い空気雰囲気下、酸素等の酸化ガス雰囲気下、水素等の還元ガス雰囲気下、もしくは、それらの混合ガス雰囲気下等のいずれかの雰囲気下、かつ、大気圧または加圧下で実施することができる。
【0058】
スピンコート法、ディップコート法においては、不活性ガス雰囲気下で形成しても良く、さらには、不活性ガスと水蒸気を混合させることにより相対湿度2〜15%にした雰囲気下で行っても良い。
【0059】
スプレー熱分解法は、基板を加熱しながらできる方法であり、そのため、塗布と並行して溶媒を乾燥させることができ、条件によっては、溶媒乾燥のための加熱が不要である場合もある。さらに、条件によっては、乾燥に加えて、本発明の組成物の複合酸化物への反応も少なくとも一部、進行する場合もある。そのため、後工程である、所定の温度での加熱による複合酸化物薄膜形成をより容易に行える場合もある。基板の加熱温度は、例えば、50〜550℃の範囲であることができる。
【0060】
図1に、スプレー熱分解法で用いることができるスプレー製膜装置を示す。図中、1は塗布液を充填したスプレーボトル、2は基板ホルダ、3スプレーノズル、4はコンプレッサ、5は基板、6は水蒸気導入用チューブを示す。スプレー塗布は、基板を基板ホルダ2に設置し、必要によりヒーターを用いて所定の温度まで加熱し、その後、所定の雰囲気中で、基板の上方に配置したスプレーノズル3から圧縮した不活性ガスと塗布液を同時供給し、塗布液を霧化、噴霧させることにより基板上に複合酸化物薄膜を形成することができる。複合酸化物薄膜は、スプレー塗布することで、追加の加熱等することなしに形成される。
【0061】
塗布液のスプレー塗布は、塗布液をスプレーノズルより液滴の大きさが1〜15μmの範囲になるように吐出し、かつスプレーノズルと基板との距離を50cm以内として行うことが、良好な膜特性を有する複合酸化物薄膜を製造することができるという観点から好ましい。
【0062】
基板への付着性、溶媒の蒸発の容易性等を考慮すると、スプレーノズルより吐出される液滴の大きさについては、全ての液滴の大きさが1〜30μmの範囲にあることが好ましい。液滴の大きさは、より好ましくは3〜20μmの範囲にある。
【0063】
スプレーノズルから基板に到達するまでに溶媒が幾分蒸発し液滴の大きさが減少すること等を考慮すると、スプレーノズルと基板との距離は50cm以内であることが好ましい。スプレーノズルと基板との距離は、複合酸化物薄膜の形成が良好にできるという観点から、好ましくは2〜40cmの範囲である。
【0064】
スプレー熱分解法においては、不活性ガス雰囲気下で水蒸気導入用チューブ6から水蒸気を導入して組成物の分解を促進させることが、体積抵抗率がより低い複合酸化物薄膜を形成するという観点から好ましい。例えば、水蒸気の導入量は、供給された前記組成物中の亜鉛および3B族元素の合計量に対するモル比で0.05〜5であることが好ましく、透明度の高い複合酸化物薄膜を得るという観点から、0.1〜3であることがさらに好ましい。
【0065】
水蒸気の導入方法は、あらゆる慣用の方法に従って複合酸化物薄膜製造装置に導入することができる。水蒸気と組成物は加熱された基板付近で反応することが好ましく、例えば、水を不活性ガスでバブリングすることにより作製された水蒸気を含有する不活性ガスを加熱された基板付近に管で導入することが挙げられる。
【0066】
基板表面へ塗布液を塗布した後、必要により基板を所定の温度とし、溶媒を乾燥した後、所定の温度で加熱することにより複合酸化物薄膜を形成させる。
【0067】
溶媒を乾燥する温度は、例えば、20〜200℃の範囲であることができ、共存する有機溶媒の種類に応じて適時設定することができる。溶媒乾燥後の複合酸化物形成の為の加熱温度は、例えば、50〜550℃の範囲であり、好ましくは50〜500℃の範囲である。溶媒乾燥温度とその後の複合酸化物形成の為の加熱温度を同一にし、溶媒乾燥と複合酸化物形成を同時に行うことも可能である。
【0068】
必要に応じて、さらに、酸素等の酸化ガス雰囲気下、水素等の還元ガス雰囲気下、水素、アルゴン、酸素等のプラズマ雰囲気下で、上記加熱を行うことにより酸化亜鉛の形成を促進、または、結晶性を向上させることも可能である。複合酸化物薄膜の膜厚には特に制限はないが、実用的には0.05〜2μmの範囲であることが好ましい。上記製造方法によれば、スプレー熱分解法以外の場合、上記塗布(乾燥)加熱を1回以上繰り返すことで、上記範囲の膜厚の薄膜を適宜製造することができる。
【0069】
上記製造方法により形成される複合酸化物薄膜は、塗布方法及びその後の乾燥条件や加熱条件により変化する。体積抵抗率は単位体積当りの抵抗であり、表面抵抗と膜厚を掛けることにより求められる。表面抵抗は例えば四探針法により、膜厚は例えばSEM測定、触針式段差膜厚計等により測定される。体積抵抗率は、スプレー塗布時もしくは塗布後の加熱による複合酸化物の生成の程度により変化(増大)するので、薄膜の体積抵抗率が所望の抵抗値となるよう考慮して、スプレー塗布時もしくは塗布後の加熱条件(温度及び時間)を設定することが好ましい。
【0070】
上記製造方法により形成される複合酸化物薄膜は、好ましくは可視光線に対して80%以上の平均透過率を有するものであり、より好ましくは可視光線に対して85%以上の平均透過率を有する。「可視光線に対する平均透過率」とは、以下のように定義され、かつ測定される。可視光線に対する平均透過率とは、380〜780nmの範囲の光線の透過率の平均を云い、紫外可視分光光度計により測定される。尚、可視光線に対する平均透過率は、550nmの可視光の透過率を提示することによっても表現できる。可視光線に対する透過率は、スプレー塗布時もしくは塗布後の加熱による酸化亜鉛の生成の程度により変化(増大)するので、薄膜の可視光線に対する透過率が80%以上になるよう考慮してスプレー塗布時もしくは塗布後の加熱条件(温度及び時間)を設定することが好ましい。
【0071】
基板として用いられるのは、例えば、アルカリガラス、無アルカリガラス、透明基材フィルムであることができ、透明基材フィルムはプラスチックフィルムであることができる。但し、これら例示の材料に限定される意図ではない。
【0072】
[複合酸化物薄膜の用途]
上記方法により作製した複合酸化物薄膜は、優れた透明性と移動度を有することから、帯電防止膜、紫外線カット膜、透明導電膜等として使用できる。帯電防止膜は、例えば、固体電界コンデンザ、化学増幅系レジスト、窓ガラス等の建材等の分野に利用できる。紫外線カット膜は、例えば、画像表示装置の前面フィルター、ドライブレコーダー等の撮像装置、高圧放電ランプ等の照明器具、時計用カバーガラス、窓ガラス等の建材等の分野に利用できる。さらに、透明導電膜は、例えば、FPD、抵抗膜式タッチパネルおよび静電容量式タッチパネル、薄膜シリコン太陽電池および化合物(CdTe、CIS)系薄膜太陽電池、色素増感太陽電池、有機系薄膜太陽電池等の分野に利用できる。
特に、In、GaおよびZnの酸化物(IGZO)からなる酸化物半導体膜はアモルファスSi膜よりも移動度が大きいことを特徴として液晶表示装置、薄膜エレクトロルミネッセンス表示装置などのスイッチング素子(薄膜トランジスタ)などへの分野への利用が可能である。この薄膜トランジスタ(TFT)等の電界効果型トランジスタは、半導体メモリ集積回路の単位電子素子、高周波信号増幅素子、液晶駆動用素子等として広く用いられており、現在、最も多く実用されている電子デバイスである。但し、これらの分野に限定される意図ではない。
【実施例】
【0073】
以下に本発明を実施例によってさらに詳細に説明するが、これらの実施例は本発明を限定するものではない。全ての有機亜鉛化合物からの部分加水分解物を含む生成物の調製およびそれを用いた成膜は水分を制御した窒素ガス雰囲気下で行い、溶媒は全て脱水および脱気して使用した。
【0074】
[実施例1]
インジウムトリイソプロポキシド0.1879gおよびガリウムトリイソプロポキシド0.1579gが溶解した1,2−ジエトキシエタン溶液1.5388gおよびジエチル亜鉛と水とをO/Zn=0.6(モル比)で加水分解して得た生成物の1,2−ジエトキシエタン溶液(Zn=3.85wt%)1.0986gを室温で混合し、さらに、1,2−ジエトキシエタン6.2633gで希釈して複合酸化物としてIGZOが得られるように組成物を調製した。本組成物の各元素のモル比は In:Ga:Zn=1:0.99:1.01である。この組成物は、おおよその整数比から、IGZOとして、InGaZnO
4の成膜を意図したものである。
【0075】
[実施例2]
インジウムトリイソプロポキシド0.1807gおよびガリウムトリイソプロポキシド0.1612gが溶解した1,2−ジエトキシエタン溶液1.5713gおよびジエチル亜鉛と水とをO/Zn=0.6(モル比)で加水分解して得た生成物の1,2−ジエトキシエタン溶液(Zn=3.85wt%)0.5205gを室温で混合し、さらに、1,2−ジエトキシエタン6.3026gで希釈して複合酸化物としてIGZOが得られるように組成物を調製した。本組成物の各元素のモル比は In:Ga:Zn=2:2.16:1である。この組成物は、おおよその整数比から、IGZOとして、In
2Ga
2ZnO
7の成膜を意図したものである。
【0076】
[実施例3]
インジウムトリイソプロポキシド0.1280gおよびガリウムトリイソプロポキシド0.0933gが溶解した1,2−ジエトキシエタン溶液0.9093gおよびジエチル亜鉛と水とをO/Zn=0.6(モル比)で加水分解して得た生成物の1,2−ジエトキシエタン溶液(Zn=3.85wt%)3.5223gを室温で混合し、さらに、1,2−ジエトキシエタン3.6529gで希釈して複合酸化物としてIGZOが得られるように組成物を調製した。
本組成物の各元素のモル比は In:Ga:Zn=1:0.86:4.73である。
この組成物は、おおよその整数比から、IGZOとして、InGaZn
5O
8の成膜を意図したものである。
【0077】
[実施例4]
インジウムトリイソプロポキシド0.1741gおよびガリウムトリイソプロポキシド0.1607gが溶解した1,2−ジエトキシエタン溶液1.5659gおよびジエチル亜鉛と水とをO/Zn=0.6(モル比)で加水分解して得た生成物の1,2−ジエトキシエタン溶液(Zn=3.85wt%)1.0816gを室温で混合し、さらに、トルエン6.2927gで希釈して複合酸化物としてIGZOが得られるように組成物を調製した。本組成物の各元素のモル比は In:Ga:Zn=1:1.09:1.07である。
この組成物は、おおよその整数比から、IGZOとして、InGaZnO
4の成膜を意図したものである。
【0078】
[実施例5]
インジウムトリイソプロポキシド0.1724gおよびガリウムトリイソプロポキシド0.1583gが溶解した1,2−ジエトキシエタン溶液1.5424gおよびジエチル亜鉛と水とをO/Zn=0.6(モル比)で加水分解して得た生成物の1,2−ジエトキシエタン溶液(Zn=3.85wt%)0.5140gを室温で混合し、さらに、トルエン6.2895gで希釈して複合酸化物としてIGZOが得られるように組成物を調製した。本組成物の各元素のモル比は In:Ga:Zn=1:1.09:0.51である。
この組成物は、おおよその整数比から、IGZOとして、In
2Ga
2ZnO
7の成膜を意図したものである。
【0079】
[実施例6]
インジウムトリイソプロポキシド0.1185gおよびガリウムトリイソプロポキシド0.0935gが溶解した1,2−ジエトキシエタン溶液0.9112gおよびジエチル亜鉛と水とをO/Zn=0.6(モル比)で加水分解して得た生成物の1,2−ジエトキシエタン溶液(Zn=3.85wt%)3.5092gを室温で混合し、さらに、トルエン3.6729gで希釈して複合酸化物としてIGZOが得られるように組成物を調製した。本組成物の各元素のモル比は In:Ga:Zn=1:0.93:5.09である。
この組成物は、おおよその整数比から、IGZOとして、InGaZn
5O
8の成膜を意図したものである。
【0080】
[実施例7]
インジウムトリイソプロポキシド0.1746gおよびガリウムトリイソプロポキシド0.1511gが溶解した1,2−ジエトキシエタン溶液1.9881gおよびジエチル亜鉛の1,2−ジエトキシエタン溶液(Zn=3.706wt%)1.2243gを室温で混合し、さらに、トルエン4.4200gで希釈して複合酸化物としてIGZOが得られるように組成物を調製した。本組成物の各元素のモル比は In:Ga:Zn=1:1.02:1.16である。
この組成物は、おおよその整数比から、IGZOとして、InGaZnO
4の成膜を意図したものである。
【0081】
[実施例8]
実施例1で得た生成物含有塗布液をメンブレンフィルターでろ過し、塗布成膜に使用した。ろ過によって得た溶液は僅かに黄色を帯びたほとんど無色の透明溶液であった。この生成物含有塗布液をスピンコート法により18mm角のコーニング1737ガラス基板表面上に塗布した。その後、基板を300℃、5分加熱することで溶媒を乾燥させると同時に複合酸化物を形成させた。以上の操作をさらに5回繰り返した。得られた薄膜の膜厚はSEMによる分析より、188nmであり、全透過率は550nmにおいて96%であった。また、生成物含有塗布液をディップ法により18mm角のコーニング1737ガラス基板表面上に塗布した。その後、基板を300℃、5分加熱することで溶媒を乾燥させると同時に複合酸化物を形成させた。以上の操作をさらに5回繰り返した。得られた薄膜の透過率は94%であった。
【0082】
[実施例9]
実施例4で得た溶液を実施例8と同様の方法でスピンコート法により300℃で塗布成膜した。得られた薄膜の透過率は550nmにおいて96%であった。
【0083】
[実施例10]
実施例6で得た溶液を実施例8と同様の方法でスピンコート法により300℃で塗布成膜した。得られた薄膜の透過率は550nmにおいて81%であった。
得られた薄膜をSEMで観察したところ、膜厚が333nmであった。X線回折で分析し、2θ=30〜38°および50〜68°にブロードなアモルファスと考えられるピークを確認した。
【0084】
[実施例11]
実施例7で得た溶液を実施例8と同様の方法でスピンコート法により300℃で塗布成膜した。得られた薄膜の透過率は550nmにおいて84%であった。
得られた薄膜をSEMで観察したところ、膜厚が207nmであった。X線回折で分析し、2θ=30〜38°および50〜68°にブロードなアモルファスと考えられるピークを確認した。
【0085】
[比較例1]
実施例1において、インジウムトリイソプロポキシドの代わりにインジウムアセチルアセトナト、ガリウムトリイソプロポキシドの代わりにガリウムアセチルアセトナトおよびジエチル亜鉛の代わりに酢酸亜鉛を用い、溶媒として2−メトキシエタノール、助剤としてエタノールアミンを用いて、同様の組成の塗布液を調製した。
【0086】
得られた塗布液を、実施例8と同様に300℃で成膜を実施して薄膜を得た。550nmの可視光透過率は60%であり、透過率80%以下の不透明な薄膜しか得られなかった。さらに、得られた膜は濁りがあり不均一であった。