(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記強化ガラス基板の第1エッジにエッジ傷を形成するステップをさらに含み、前記貫通割れ目が該エッジ傷の位置で開始したものであり、かつ前記貫通割れ目が、前記ガラス物品と前記強化ガラス基板との間の前記切断ラインに沿って、分離部を先導することを特徴とする請求項1記載の方法。
前記レーザビームを走査させるステップが、前記切断ラインに沿って走査レーザラインを生成するものであり、該走査レーザラインの長さが、おおよそ前記切断ラインの長さ以上であることを特徴とする請求項1または3記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
ここで、強化ガラス基板を切断するための種々の実施形態について詳細に参照し、これらの例を添付の図面の中で説明する。可能な限り、図面を通じて、同じまたは同様の部品の参照には同じ参照数字を使用する。本書において説明するように、強化ガラス基板からガラス物品を切断する方法は、概して、強化ガラス基板上に傷を形成するステップを含む。この傷は、分離部を画成する切断ライン上に設けられる。レーザビームを、切断ラインの全長沿いおよびエッジ傷上に素早く走査させ、貫通した割れ目をエッジ傷の位置で開始させる。この貫通した割れ目は、ガラス基板を完全に貫通して(すなわち最上層と最下層との間で)進む。走査されたレーザラインに沿って貫通割れ目がガラス基板に素早く伝播しガラス基板からガラス物品を切断するよう、レーザビームを連続的に切断ラインの長さに沿って走査させてもよい。ガラス物品を切断する方法の種々の実施形態について、本書において以下でより詳細に説明する。
【0013】
図1および2を参照すると、ガラス基板110の厚さを完全に貫通して延びている貫通割れ目140(
図4Aおよび4B参照)を用いてガラス基板110からガラス物品150を切断する、例示的なシステム100が概略的に描かれている。この例示的なシステム100は、概してレーザ光源104およびレーザ走査器106を含み、これらは支持表面120上に置かれたガラス基板110を、このガラス基板110の切断ライン116(すなわち、分離部)に沿って加熱するためのものである。
【0014】
本書において説明する実施形態において、ガラス基板110は、第1表面117、第2表面119、第1エッジ111、および第2エッジ113を有するものとしてもよい。ガラス基板110は、限定するものではないが、例えばホウケイ酸ガラスまたはアルミノケイ酸ガラスを含め、種々のガラス組成で形成したものとすることができる。本書において説明する方法の実施形態により切断されるガラス基板は、強化工程によって強化されたものでもよく、強化工程としては例えば、イオン交換による化学強化工程、熱焼戻し、あるいはCORELLE(登録商標)製品のような積層ガラス構造などが挙げられる。本書では実施形態を化学強化ガラス基板に関連付けて説明しているが、本書において説明する方法を用いて他の種類の強化ガラス基板を切断し得ることを理解されたい。
【0015】
図9は、例えばイオン交換強化工程などの強化工程により化学的に強化されたガラス基板110を概略的に示したものである。ガラス基板110は、2つの表面圧縮層122aおよび122bと内部引張層124とを含む。表面圧縮層122aおよび122bは圧縮応力状態で維持され、これがガラス基板110に強度を与える。内部引張層124は、表面圧縮層122aおよび122b内の圧縮応力を補償する引張応力下にあり、これらの力が互いに平衡を保つことで、ガラス基板を破砕させないようなものとなっている。
【0016】
化学強化ガラス基板の耐損傷性は、強化工程中にガラス基板110上に形成される表面圧縮層122aおよび122bによりもたらされるが、この強化工程としては例えば、「化学強化」または「化学的焼戻し」と称されることの多いイオン交換強化工程が挙げられる。化学強化工程は、ガラス基板が使用温度で表面圧縮応力を発現するように、ガラス基板の表面層内部のイオンをある温度でサイズの異なるイオンと交換するものである。イオン交換工程により得られる圧縮応力の大きさと表面圧縮層の深さは、ガラスの組成に依存する。一例として、化学強化されたGORILLA(登録商標)ガラスにおいては、750MPaを超える表面圧縮応力および40μmを超える圧縮層深さが存在し得る。これに比較して、化学強化されたソーダ石灰ガラス基板においては、750MPa(基準)未満の表面圧縮応力および15μm未満の圧縮層深さが存在し得る。
【0017】
一例の化学強化工程として、ガラス基板をそのガラスの歪点を下回る温度で保たれている溶融塩浴に浸漬させるステップを含む、イオン交換強化工程をガラス基板に施してもよい。このときの浸漬時間の長さは、所望の応力プロファイルを得るためにイオンをガラス表面の所望の深さにまで拡散させるのに十分な程度とされる。イオン交換強化工程により、ガラス表面の圧縮応力が増加しかつガラスの内部領域の引張応力が増加した、強化ガラス基板110が得られる。このガラス基板の熱膨張係数(CTE)は、例えば30×10
-7/℃を超えるものでもよい。
【0018】
レーザ光源104およびレーザ走査器106はシステムコントローラ(図示なし)により制御してもよく、このコントローラはコンピュータでもよい。レーザ光源104は、ガラス基板110上に光子エネルギーを伝達するのに適した波長を有するレーザを含んでもよい。例えば、レーザ光源104を、赤外領域の波長を有するレーザビーム108を放射するように構成してもよい。レーザの波長は、ガラス基板内で吸収が起きるように選択されるべきである。吸収が小さい場合には、レーザ分離工程を可能にする温度にまでガラス基板を加熱するよう、高出力レーザまたは多重経路吸収技術のいずれかを使用してもよい。本書において説明する実施形態において、レーザ光源は、約9.4μmから約10.6μmまでの波長を有する赤外光ビームを生成するCO
2レーザである。このCO
2レーザ光源は、連続波モードで動作するDCレーザ光源でもよい。CO
2レーザはパルスモードで動作するものでもよく、約5kHzから約200kHzまでの範囲内のパルス放射線を提供する高周波励起レーザ光源でもよい。レーザ光源104を走査および切断操作中に動作させる際の出力は、ガラス基板110の厚さや表面積に依存する。ガラス基板110の厚さおよび/または表面積が大きくなると、切断操作に要するレーザ出力はより大きくなり得る。本書において説明する実施形態のレーザ光源104は、概して、数十Wから数百または数千Wまでの範囲内の連続波出力で動作し得る。以下で詳細に説明するが、いくつかの実施形態ではレーザ光源104とともにウォータージェットを使用する。ウォータージェットを使用する実施形態においては、レーザ光源104の出力をより低くし得る。
【0019】
レーザ光源104の動作時の出力や、レーザビームが集束する際の焦点距離は、ガラス基板110の第1表面117上での過熱およびレーザアブレーションを防ぐようなものとすることができる。ビーム拡大器(図示なし)および1以上の集束レンズ(図示なし)をシステム100内で使用し、所望のレーザビームサイズおよび焦点距離を得るようにしてもよい。一実施の形態において、レーザビーム108の直径を10mmとしてもよく、また第1表面117上での直径を1mmまで絞り込んだものとしてもよい。
【0020】
ポリゴン走査ミラーまたは走査用ガルバノメータミラーなどのレーザ走査器106を、レーザ光源104に続いて光路内に位置付けてもよい。レーザ走査器106は、ガルバノメータを用いて、レーザビーム108を切断ライン116の全長に沿って矢印107で示したような方向に、単一方向にまたは双方向に素早く走査させるように構成してもよい。あるいは、別の実施形態において、レーザビーム108をポリゴンミラーを用いて単一方向に連続的に走査させてもよい。一実施の形態において、レーザ走査器106は、レーザビーム108を約1m/sの速さで走査させるよう動作可能なものである。
図1および2では、ガラス基板110を横切って走査されているレーザビーム108を表現するために、素早く走査されているレーザビーム108を複数のレーザビーム108a〜108eで示している。レーザビーム108は、ガラス基板110の第1表面117上に切断ライン116に沿って円形のビームスポット(例えば、109b〜109d)を生成する。ビームスポット109b〜109dは、切断ラインに沿って矢印118で示すように前後に進む。本書において後に説明するように、走査レーザビームが与えた熱によるガラス基板110の温度変化により引張応力が切断ライン116に沿って発現し、それにより、ガラス基板110の厚さを完全に貫通して延び(すなわち、「フルボディ」切断し)、かつ制御された形で切断ライン116に沿って伝播する、貫通割れ目140(
図4Aおよび4B参照)が形成される。
【0021】
一実施の形態において、ビームスポットは
図3に示すような楕円形のレーザビームスポット209でもよい。楕円ビームスポット209は、加熱領域を切断ライン116に沿ってより狭く限定することができる。したがって、レーザ出力密度が低下し、過熱またはアブレーションを防ぐことができる。楕円ビームスポット209は一般に、長さaの短軸280と長さbの主軸290とを有するものとすることができる。短軸280は、
図3に示すように、楕円形のレーザビームスポットの中心点を横切って延在する。主軸290は、
図3に示すように、楕円ビームスポット209の先端エッジ282と後端エッジ284との間の、概して楕円ビームスポット209の長さbのものとし得る。楕円ビームスポット209が第1表面上に生成されるようにレーザビーム108を成形するため、シリンドリカルレンズおよび/または他の光学素子を使用してもよい。レーザビームを成形して楕円ビームスポットを形成するために使用されるシリンドリカルレンズおよび/または他の光学素子は、例えば、レーザ光源104またはレーザ走査器106と一体化させたものでもよいし、あるいは別個の構成要素としてもよい。
【0022】
図1および2を参照すると、一実施の形態により貫通割れ目を伝播させてガラス基板110からガラス物品150を切断する方法は、割れ目の開始点を形成するために、ガラス基板110のエッジ111の位置で第1表面117に傷112を最初に生じさせるステップを含み得る。この傷はエッジに位置するものでもよいし(すなわちエッジ傷)、またはエッジからいくらか離れた位置や、あるいはガラス基板110のバルク内に設けられるものでもよい。後に説明するいくつかの実施形態においては、この傷は化学強化ガラス基板のエッジに形成される。
【0023】
エッジ傷112は、ガラス基板110のエッジ位置またはエッジ面上の、小さい切り込み線でもよい。エッジ傷112は一般に、ガラス基板110を続いて分離し得る際に沿う切断ライン116(すなわち、分離部)沿いの位置にエッジ傷112がくるように、ガラス基板110の第1表面117上に位置付けてもよい。エッジ傷112は機械的に形成することができ、例えば、機械的スクライブ、機械的研削ホイール、あるいはレーザアブレーションまたはガラス基板バルク内のレーザ誘発損傷などを使用し得る。
【0024】
エッジ傷112が形成されると、レーザ走査器106がレーザ光源104からのレーザビーム108をガラス基板110の第1表面117上に導きかつ走査させてもよく、このとき、走査レーザビーム108が切断ライン116に入射する走査レーザラインを形成するようにしてもよい。レーザビーム108は、例えば0.5m/sを超える速さで、矢印107で示した方向に走査させてもよい。走査レーザビーム108の速さは、ガラス基板110の厚さ、表面積、および強度に依存し得る。レーザビーム108a〜108eで表現されている走査レーザビームは、走査レーザラインを画成する複数のビームスポット109b〜109dを形成する。レーザビーム108a〜108eおよびビームスポット109b〜109dは、単に説明のためのものであり、レーザビーム108がガラス基板110の第1表面117を横切って素早く走査されることを表すために用いられたものであることを理解されたい。以下でより詳細に説明するが、切断ライン116に入射する走査レーザラインは、貫通割れ目を伝播させるためのガイドとして機能する。貫通割れ目を確実に適切に誘導するために、走査レーザラインの長さがガラス基板110すなわち切断ライン116の長さ以上となるように、レーザ走査器106を操作するべきである。走査レーザラインがガラス基板110の長さより短いと、貫通割れ目が切断ラインから外れ、誤ったエッジを有するガラス物品を生成してしまう可能性がある。
【0025】
走査レーザビーム108は、エッジ傷112位置での加熱を含め、ガラス基板110を切断ラインに沿って加熱するような出力レベルで動作し得る。ガラス基板110は赤外レーザ光源で比較的強い吸収を示す。この赤外レーザ光源は、例えば波長約10.6μmで動作するCO
2レーザでもよい。CO
2レーザは、ガラス材料の表面を素早く加熱する、表面ヒータのように作用する。しかしながら、レーザビーム108をレーザ走査器106によって素早く走査させることで、生成された熱をガラス基板110のバルクに通して拡散させることを可能にすると同時に、圧縮応力下にある第1表面117の過熱と応力緩和とを回避する。
【0026】
図1、2、4A、および4Bを参照すると、走査レーザビーム108でエッジ傷112を加熱することにより、エッジ傷112の位置またはエッジ傷112に近接した位置である、位置142で、貫通割れ目140が生じる。本書において使用する「貫通割れ目」という表現は、第1表面117(例えば、最上面)から第2表面119(例えば、底面)までを貫通して延在している割れ目を意味するものである。
図4Aを参照すると、貫通割れ目140は位置142に示されている。貫通割れ目140は、走査レーザビーム108により与えられた熱によってエッジ傷112の位置に生じる。
図4Aの貫通割れ目140は、貫通割れ目140が位置142にどのように生じるかを説明するため、誇張したサイズ/形状で描かれている。例えば、貫通割れ目140はエッジ傷112から始まる小さな亀裂でもよい。
【0027】
図4Aに示すように、貫通割れ目140はガラス基板110を貫通して切断ライン116に沿って伝播し始める。貫通割れ目140は、ガラス基板110からガラス物品150を分離する切断ライン116に沿った、分離部を先導する。
図4Bは、エッジ111のエッジ傷112からガラス基板を通って第2エッジ113まで、真っ直ぐな切断ライン116に沿って伝播した貫通割れ目140を描いたものであり、これによりガラス物品150はガラス基板110から分離される。貫通割れ目140は最も抵抗の少ない方向に加速するが、この方向は、切断ライン116に沿った走査レーザラインによって与えられる。一実施の形態において、貫通割れ目140は、約1.3km/sの伝搬速度で切断ライン116に沿ってガラス基板110を素早く伝播する。走査レーザビーム108は、ガラス基板110のバルク内に、走査レーザライン(すなわち、切断ライン116)方向に垂直な引張応力場を生成する。貫通割れ目が素早く伝播するのは、走査レーザラインに垂直な正味の引張応力の結果である。引張応力は固有応力場と過渡応力場との重ね合わせにより生じる。強化ガラス基板の場合には、ガラスの厚さを横切って圧縮‐引張‐圧縮となる固有応力場が、強化工程またはグレイジング工程(glazing process)の間に生成される。引張‐圧縮‐引張となり得る過渡応力は、走査レーザラインに沿ったレーザ加熱によって生成される。分離部における正味の引張応力により、走査レーザライン方向に貫通割れ目を伝播させることが可能になる。正味の引張応力は板ガラスのバルク内で最も高い。亀裂前方はガラスのバルク内で最初に伝播し、続いて表面のガラス圧縮層を突破り得る。
【0028】
一例であって限定するものではないが、ガラス基板110はイオン交換強化工程により化学強化された100×150×0.95mmの厚い板ガラスを含み、これを上述の方法で切断した。この板ガラスは、100%KNO
3の溶融浴に410℃で8時間浸漬させた。このイオン交換強化工程により、深さ約51μmで圧縮応力が約769MPaの表面圧縮層と、計算上約46MPaの中心引張領域とを有する、化学強化板ガラスが生じた。中心張力(CT)は次の式を用いて計算した。
【数1】
【0029】
ここで、CSは表面圧縮応力、DOLは圧縮層の深さ、そしてtはガラス基板の厚さである。
【0030】
エッジ傷は、板ガラスの最上面のエッジの位置で、カーバイドチップを用いて板ガラスに罫書きし生じさせた。レーザ光源を動作させ、約80Wの出力で波長が約10.6μmであり、かつガラス表面上でデフォーカスされたビーム直径が1mmであるレーザビームを放射した。レーザ走査器を用いてレーザビームを真っ直ぐな切断ライン上に約1m/sの速さで前後に素早く走査させ、走査レーザラインを生成した。走査レーザラインの長さは約125mmであり、ガラス基板よりも長いものとした。おおよそ2度目のレーザビーム走査の後、貫通割れ目がエッジ傷の位置で始まり、さらにこれが板ガラスを通って素早く伝播し、板ガラスが切断ラインに沿って分離された。
【0031】
貫通割れ目を伝播させることによってガラス基板110からガラス物品150を切断する方法の別の実施形態を、
図5Aおよび5Bに示す。この実施形態のシステム100は、加熱されたガラス基板110の傷112の方へとウォータージェット132を導くためのウォータージェットノズル130をこのシステムが含んでいることを除き、
図1Aおよび1Bに示した実施形態と類似している。この実施形態では、傷112が、ガラス基板110の最上面117上のエッジ111から外れた位置に設けられている。例えば、この傷をエッジ111から約5mmの位置にあるものとしてもよい。ウォータージェットを利用する他の実施形態において、この傷をガラス基板のエッジに位置付けてもよい。ウォータージェット132が傷112を急冷することで、ガラス基板110の温度が傷112の位置で変化する。この温度変化により引張応力が傷112上で発現し、これによりガラス基板110の厚さを完全に貫通して延在する貫通割れ目140(
図4Aおよび4B参照)が傷112の位置に形成される。
【0032】
ウォータージェットは、概して、ウォータージェットノズルから放射され、かつガラス基板の表面上に導かれる、加圧流体流を含んでもよい。加圧流体は水を含んでもよい。水はこの傷を冷却するために使用し得る冷却剤の一種であるが、液体窒素やエタノールなど、他の液体を利用してもよい。あるいは、ウォータージェットは、例えば圧縮空気、圧縮窒素、圧縮ヘリウム、または類似の圧縮気体などの圧縮気体を含んでもよい。さらにウォータージェットは、液体と圧縮気体との混合物を含んでもよい。例えば、いくつかの実施形態では、ウォータージェットは圧縮空気と水の混合物である。
【0033】
ウォータージェット132は、ウォータージェットノズル130の端部のオリフィス(図示なし)から放射してもよい。一実施の形態において、オリフィスは75μmのオリフィスであって、流量3ccmを実現する。
図5Bを参照すると、ウォータージェット132がガラス基板110の第1表面117に向かって進むとき、ウォータージェット132のエッジはウォータージェットノズル130の中心から発散し、このとき、ウォータージェット132がガラス基板110の第1表面117に入射する位置のウォータースポット134の直径D
jが、ウォータージェットノズル130内のオリフィスより大きいものとなるように発散する。ウォータージェットノズル130は走査方向107に対し、レーザ光源104の後ろに位置付けてもよい。本書において説明する実施形態においては、ガラス基板110の第1表面117に対するウォータージェットノズル130の配向角度を、ウォータージェット132がガラス基板110の第1表面117に対して90度未満の角度で入射するような角度としてもよい。
【0034】
図1および2を参照して上で説明したように、レーザビーム108はガラス基板110の第1表面117上を切断ライン116に沿って矢印107で示した方向に前後に素早く走査される。走査レーザビーム108はレーザビーム108a〜108eとしても表されている。走査レーザビーム108は、矢印118で示した方向において、切断ライン116に沿いに複数のビームスポット109b〜109dを生成する。ビームスポット109b〜109dは、切断ライン116に沿って走査レーザラインを形成する。この走査レーザラインがガラス基板110を切断ライン116に沿って加熱する。
【0035】
走査レーザビームがガラス基板110を切断ラインに沿って加熱している間に、ウォータージェット132を傷112に適用してもよい。あるいは、レーザ走査器106を用いて最初にレーザビーム108を切断ライン116に沿って一定時間(例えば1秒間) 走査させ、その後ウォータージェットノズル130が傷112の位置でウォータージェット132流を流し始めるときに、レーザ光源104によるレーザビーム108の放射を止めるようにしてもよい。これにより、ウォータージェット132を適用して冷却する前に傷112が最高温度に達して、貫通割れ目を開始させることが可能になるであろう。
【0036】
傷112にウォータージェット132を適用することで、傷112の位置で貫通割れ目140を開始させるのに必要なレーザ出力を低減することが可能になり得る。例えば、いくつかの実施形態では、ウォータージェット132を使用して貫通割れ目140を開始させる場合に必要なレーザビームの出力は、ウォータージェット132を使用しないときに必要とされるレーザビーム出力よりもおおよそ20%少ないものとなり得る。
図1および2で示した実施形態に関連して上記した例を参照すると、同様に用意されたイオン交換板ガラスを真っ直ぐな切断ラインで切断するために、出力約65Wのレーザビームを使用した。
【0037】
ここで
図1、2、および6を参照し、貫通割れ目を伝播させることによってガラス基板110からガラス物品150を切断する方法の別の実施形態を示す。この実施形態においてレーザビーム108は、上述したものと同様、ガラス基板110の第1表面117を横切って切断ライン116の全長に沿いに一定時間(例えば1/2秒間)、単一方向または双方向に素早く走査される。全長走査の後、レーザビーム108を短縮された走査ライン114に沿って矢印107で示した方向に素早く走査させるようレーザ走査器106を制御する。短縮走査ライン114はエッジ傷112を含み、かつ切断ライン116と重なる。短縮走査ライン114を生成する間のレーザビーム108の走査速度は、切断ライン116に亘って全長走査ラインを生成する間のレーザビーム108の走査速度と同様としてもよい(例えば、約1m/s)。レーザビーム108fおよび108gは、短縮走査ライン114上で走査されている走査レーザビーム108を表現したものである。走査レーザビーム108により生成されたビームスポット(例えば、ビームスポット109fおよび109g)が、短縮走査ライン114を画成する。短縮走査ラインの長さは、貫通割れ目140の生成を開始させるためにエッジ傷112の位置で局所加熱を生み出すような長さとし得る。一実施の形態において、短縮走査ライン114の長さを、例えば約10mmとしてもよい。
【0038】
短縮走査ライン114の局所加熱により、さらなる引張応力がエッジ傷112で生成され、これにより貫通割れ目140が生じる。全長走査レーザラインを適用した間に分離部が既に加熱されたため、これが貫通割れ目140の伝播のために最も抵抗の少ない経路を提供し、切断ライン116に沿って貫通割れ目140が伝播する。
【0039】
本書において説明する方法を使用して、薄い(例えば、0.5mm未満の)ポリマー材料で被覆されたガラス基板や、あるいは例えば化学的エッチングプロセスにより粗面化された表面を少なくとも1つ有するガラス基板を、切断することもできる。ガラス基板の1表面が被覆されている場合には、被覆された表面上にレーザを走査させると同時に、被覆されていない表面上に機械的に傷を生じさせて、被覆されたガラス基板を1ステップで切断することができる。ガラス基板が少なくとも1つの粗面化された表面を有している場合には、粗面化されていない表面が得られるのであれば、この粗面化されていない表面上にレーザを走査させてもよい。粗面化された側からレーザ走査を利用してガラス基板を切断するためには、表面からの散乱損失により、より高いレーザ出力が必要となるであろう。
【0040】
ガラス表面での走査レーザビーム108の反射(フレネル)損失がさらに考慮および補償され得ることにも留意されたい。ガラス基板110の表面上でレーザビームが走査されるとき、反射損失は入射角が増加するにつれて増加し得る(垂直入射の入射角は0°である)。反射損失は、レーザビームの走査速度を対応して変化させること(例えば、速度プロファイリングまたは可変速度走査)で補償し得る。例えば
図1を参照すると、走査レーザビーム108の入射角が垂直入射であるとき、走査レーザビーム108が切断ラインに沿って基準走査速度で走査されるようレーザ走査器106を制御してもよい(ビーム108c)。走査レーザビーム108が切断ライン116に沿って走査されるにつれ、走査レーザビームの入射角が増加すると、これに対応して走査レーザビーム108の走査速度を減速させて反射損失を補償するようレーザ走査器106を制御してもよい(例えば、ビーム108aおよび108e)。走査レーザビームの走査速度を減速させることで、ビームが提供する放射熱加熱が増加し、入射角の増加による任意の反射損失が補償される。
【0041】
本書において開示される実施形態は、湾曲エッジを有するガラス物品を化学強化ガラス基板から切断するためにも利用し得る。
図7Aおよび7Bは、ガラス基板210に含まれる、湾曲エッジ215を有するガラス物品250の分離を説明したものである。分離された例示的なガラス物品250は、
図7Bに示したように湾曲エッジ215を有する。ガラス基板210からガラス物品250を切断するために、第1表面217の第1エッジ211上にエッジ傷212が最初に形成される。上述したものと同様、エッジ傷212は機械的にまたはレーザアブレーションにより設けてもよい。
【0042】
図7Aを参照すると、湾曲切断ライン216によって湾曲した分離部が画成される。この例において、湾曲切断ライン216は、第1エッジ211から始まりかつ第2エッジ218を終端としている。切断ラインは、切断ラインが1つのエッジ(例えば、第1エッジ211)を起点および終点とするように、2つの湾曲部を含んだものでもよい。
図1および2で示したようなレーザビームを、湾曲切断ライン216上で走査させてもよい。生成された貫通割れ目が伝播中に湾曲切断ライン216から確実に外れないよう、湾曲走査レーザラインを湾曲切断ライン216より長いものとしてもよい。湾曲走査レーザラインの湾曲部分を複数の小さい直線部分を含むものとしてもよく、これらの直線部分をそれらの間でおおよそ90°向きを変えるものとしてもよい。この手法で、湾曲走査レーザラインの湾曲部分を生成し得る。
【0043】
レーザビームを湾曲走査レーザラインに沿って走査させると、上述したように貫通割れ目が生じる(
図4Aおよび4B参照)。湾曲した切断を実行する際、上述したようなウォータージェットまたは短縮走査ラインを利用して、貫通割れ目140の生成を開始させてもよい。その後、貫通割れ目140は湾曲切断ライン216に沿って素早く伝播し、湾曲エッジ215を有するガラス物品250がガラス基板210から分離される。
【0044】
一例であって限定するものではないが、ガラス基板は上述のイオン交換強化工程により化学強化された100×150×0.95mmの厚い板ガラスを含み、これを上述したような湾曲走査レーザラインによって切断した。用意された板ガラスは、前回の例において上述した板ガラスと実質的に同じ応力プロファイルを有するものであり、また切断ラインが含む湾曲部分の曲率半径は約10mmであった。エッジ傷は、板ガラスの第1エッジにカーバイドチップを用いて切り込み線を形成することにより生成した。レーザ出力が約90Wのレーザビームを、おおよそ1m/sの速度で湾曲切断ライン上に素早く走査させた。走査レーザラインの湾曲部分は複数の直線部分を含み、かつこれらの間でおおよそ90°向きを変えるものとした。貫通割れ目がエッジ傷の位置で始まり、そして湾曲切断ラインに沿って伝播した。
【0045】
本書において説明する方法は、種々の形状を有するガラス物品を化学強化ガラス基板から切断するためにも利用し得る。種々の形状とは、1以上の湾曲エッジを含み得る。一実施の形態において、成形される部分の外周に沿ってレーザビームを上述したように走査させ、その形状を切断してもよい。比較的長い外周を有する形状に対しては、貫通割れ目を開始および伝播させる前に切断ラインを確実に適切に加熱するため、レーザ出力を増加させる必要があるであろう(例えば、100Wを上回るレーザ出力)。別の実施形態において、湾曲形状または任意形状を有するガラス物品を、2つの切断ステップで化学強化ガラス基板から分離してもよい。第1ステップでは、ガラス基板からより小さい長方形シートの状態で、湾曲エッジまたは任意のエッジを有するガラス物品を上述した方法を用いて最初に分離する。第2ステップでは、レーザビームをガラス物品の湾曲部分または成形部分の上に走査させて所望の形状を得る。この実施形態では、より小さい長方形形状に分離することで、レーザ出力が広がり得る表面積が小さくなり、必要なレーザ出力を低減することができる。
【0046】
成形切断方法の例示的な実施形態を以下で説明する。2つの60×100×0.55mmの厚い板ガラスから成る2つのガラス基板110を、イオン交換工程により化学強化した。これらのガラス基板のCTEは91×10
-7/℃であった。板ガラスの1つをイオン交換して780MPaの圧縮応力と7μmの層深さ(DOL)を達成し、計算上の中心張力は10MPaであった。もう一方の板ガラスはイオン交換して圧縮応力を780MPaかつDOLを30μmとし、計算上の中心張力は48MPaであった。高周波CO
2レーザ光源を20kHzで動作させ、波長約10.6μmのレーザビームを放射した。このレーザビームは85Wで動作され、その直径は1mmであり、かつ各ガラス表面上でデフォーカスされた。レーザ走査器が、湾曲した角部(各角部の半径は10mm)を有する長方形パターン上に、レーザビームを速度約1.5m/sで単一方向に素早く走査させた。走査レーザビームは、カーバイドチップで生成したエッジ傷に重ねた。おおよそ1〜2秒間の反復走査の後、丸い角部を有する40×80mmの2つの長方形部分が生成された。
【0047】
貫通割れ目の伝播は非常に高速である(例えば、1.3km/s)ため、本書において説明した実施形態は大量生産施設で使用するのに魅力的であろう。化学強化ガラスを切断する従来の方法は、ガラス物品を最初に大型の非化学強化ガラス基板から分離した後に化学強化するものや、あるいは時間がかかり厄介なスクライブ・アンド・ブレイクプロセスで切断するものなど、時間のかかる方法である。さらに、極薄いガラス基板(例えば、厚さ1mm未満)はスクライブ・アンド・ブレイクプロセス中に容易に破損し得、これにより無駄な材料が大量に生じ得る。
【0048】
図8は、本書において説明した方法を使用して複数の長方形ストリップ350a〜350jに切断し得る、大型の化学強化ガラス基板310を示したものである。エッジ傷312a〜312iは、ガラス基板310のエッジ311に沿って形成してもよい。単一のレーザ光源を動作させて、エッジ傷(例えば、エッジ傷312a)の位置から始まる切断ライン上でレーザビームを前後に順に走査させ、ガラス基板310の長さよりも長い走査レーザライン(例えば、走査レーザライン316a)を生成してもよい。レーザビームは、ガラス基板310から長方形ストリップ(例えば、長方形ストリップ350a)が分離されるまで走査させてもよい。この動作を、各長方形ストリップ350a〜350jが切断されるまで順に繰り返してもよい。別の実施形態では、多数のレーザ光源を使用して、ガラス基板から長方形ストリップ350a〜350jを切断してもよい。長方形ストリップ350a〜350jが分離された後、ガラス物品の所望形状を得るためにさらにレーザ切断を行ってもよい。この手法においては、化学処理されたガラス基板からの高速かつ効率的なガラス物品の大量切断を実現し得る。
【0049】
一例であって限定するものではないが、ガラス基板110はイオン交換強化工程により化学強化された225×300×0.975mmの厚い板ガラスを含み、これを上述したような方法で切断した。このガラスイオン交換強化工程により、DOL約46μmで圧縮応力が約720MPaの表面圧縮層と、計算上約37MPaの中心引張領域とを有する化学強化板ガラスが生じた。このガラス基板のCTEは91×10
-7/℃であった。
【0050】
長方形の板ガラスの2つの300mmエッジのうちの一方に沿って、5つの傷を等間隔に生じさせた。これらの傷は、カーバイドチップを用いて板ガラスに罫書きすることにより板ガラスの最上面に位置付けた。レーザ光源を動作させて、波長約10.6μmかつ出力約105Wのレーザビームを放射した。このレーザビームは、ガラス表面上でデフォーカスされた1mmの直径を有するものであった。レーザ走査器を用いてレーザビームを真っ直ぐな切断ライン上に約2.5m/sの速さで前後に素早く走査させ、走査レーザラインを生成した。走査レーザラインは約250mmであり、ガラス基板の長さ(225mm)よりも長いものであった。走査しているレーザビームと傷とを位置合わせした後、ガラス基板は順に同じサイズ(50×225mm)の6つの片に切断された。
【0051】
これらの6つの片夫々をさらに切断するため、この6つの長方形片の中心に、225mmエッジの1つに沿って機械的なエッジ傷を生じさせた。12片の50×122.5mmが得られるまで同じ手順を繰り返した。
【0052】
ここで、本書において説明する実施形態は、化学強化ガラス基板を切断するために利用し得ることを理解されたい。ガラス基板上に傷を形成し、かつレーザビームを切断ラインの全長に沿って走査させることで、切断ラインに沿って伝播する貫通割れ目を開始させてガラス基板からガラス物品を分離することができる。
【0053】
本書における実施形態を説明および画成するために、「おおよそ」「約」および「実質的に」という用語は、任意の定量比較、値、測定値、または他の表現に起因し得る、固有の不確実さの度合いを表すために本書において利用されていることに留意されたい。さらに「実質的に」という用語は、定量的表現が、論じている主題の基本的機能に変化を生じさせることなく、記載した基準から変動し得る度合いを表すために本書において利用される。
【0054】
本書において、本発明の構成要素が特定の状態で「構成される」または「動作可能である」という記述、または特定の性質を具現化するように、あるいは特定の手法において機能するように「構成される」または「動作可能である」という記述は、目的用途の記述ではなく構造的記述であることに留意されたい。より具体的には、ある構成要素が「構成される」または「動作可能である」様態を本書において参照する際には、その構成要素の現存の物理的条件を意味し、したがってその構成要素の構造的特徴の明確な記述と理解されるべきである。
【0055】
1以上の以下の請求項は、伝統的な表現として「ことを特徴とする」という用語を使用していることに留意されたい。本書で説明した実施形態を画成するために、この用語は、構造体に関する一連の特性の記述を紹介するために使用される、オープンエンドの伝統的表現として請求項に導入されたものであり、また、より一般的に使用されているオープンエンドの前文の用語「ことを含む」と同じように解釈されるべきであることに留意されたい。
【0056】
請求される主題の精神および範囲から逸脱することなく、本書において説明した実施形態の種々の改変および変形が作製可能であることは当業者には明らかであろう。すなわち、本書において説明した種々の実施形態の改変および変形が、添付の請求項およびその同等物の範囲内であるならば、本明細書はこのような改変および変形を含むと意図されている。