(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5703062
(24)【登録日】2015年2月27日
(45)【発行日】2015年4月15日
(54)【発明の名称】トーションビーム式サスペンション
(51)【国際特許分類】
B60G 9/04 20060101AFI20150326BHJP
【FI】
B60G9/04
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2011-40528(P2011-40528)
(22)【出願日】2011年2月25日
(65)【公開番号】特開2012-176685(P2012-176685A)
(43)【公開日】2012年9月13日
【審査請求日】2014年2月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】391002498
【氏名又は名称】フタバ産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】宇野 貴昭
(72)【発明者】
【氏名】久保園 聡
【審査官】
梶本 直樹
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第6533300(US,B1)
【文献】
特開2002−120534(JP,A)
【文献】
特開2006−281885(JP,A)
【文献】
特開2011−183906(JP,A)
【文献】
特開2011−088461(JP,A)
【文献】
特開2011−194963(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 1/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端側が車体に揺動可能に支持され、他端側に車輪を回転可能に支持する左右の中空状トレーリングアームと、該左右のトレーリングアームを連結するトーションビームとを備えたトーションビーム式サスペンションにおいて、
前記トーションビームの両端側に前記トレーリングアームの断面形状に応じた切欠を形成すると共に、前記切欠は前記トレーリングアームの径方向に開口を有し、また、前記トレーリングアームに前記トーションビームを溶接して連結する接合位置と前記トレーリングアームの径方向から前記切欠の前記開口を通して挿入可能な挿入位置とを設け、前記接合位置では前記切欠に挿入した前記トレーリングアームの外周を前記トーションビームが半周以上囲み、かつ、前記接合位置では前記トレーリングアームの径方向から前記切欠の前記開口に挿入できない大きさに前記開口を形成し、
前記挿入位置で前記切欠の前記開口から前記トレーリングアームを挿入してから軸方向に移動して前記接合位置で溶接して連結することを特徴とするトーションビーム式サスペンション。
【請求項2】
前記挿入位置には、前記トレーリングアームの外周を窪ませた溝を形成して前記溝に前記トーションビームの前記切欠の前記開口を合わせて前記トレーリングアームの径方向から前記トーションビームを挿入可能としたことを特徴とする請求項1に記載のトーションビーム式サスペンション。
【請求項3】
前記溝を前記トレーリングアームの外周の上下に、かつ、略平行に形成したことを特徴とする請求項2に記載のトーションビーム式サスペンション。
【請求項4】
前記接合位置と前記挿入位置とを隣合わせに配置したことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のトーションビーム式サスペンション。
【請求項5】
前記トーションビームの両端は、前記トレーリングアームの径方向に膨出して前記切欠を形成したことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のトーションビーム式サスペンション。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、左右のトレーリングアームをトーションビームで連結したトーションビーム式サスペンションに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、左右のトレーリングアームをトーションビームで連結したトーションビーム式サスペンションが知られている。このようなトーションビーム式サスペンションとしては、例えば、特許文献1にあるように、左右のトレーリングアームとトーションビームとを溶接して連結すると共に、トーションビームの両端にトレーリングアームの断面形状に応じた切欠を形成し、切欠に挿入したトレーリングアームをトーションビームに溶接する。また、トーションビームとトレーリングアームとに跨るガゼットを配置し、ガゼットにもトレーリングアームの断面形状に応じた切欠を形成して、トーションビームとガゼットとの両切欠によりトレーリングアームの外周を半周以上囲むようにして、溶接長を確保し強度及び耐久性を満足していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−8123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、こうした従来のものでは、溶接長を確保するために、ガゼットを必要とするので、補強に適した形状にガゼットを成形しなければならず成形が煩わしいと共に、部品点数が多くなり、また、重量が増加し、ガゼットをトレーリングアームとトーションビームとに溶接するので溶接長が長くなるという問題があった。
【0005】
本発明の課題は、部品点数を削減すると共に、溶接長を短縮でき、軽量化を図ったトーションビーム式サスペンションを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を達成すべく、本発明は課題を解決するため次の手段を取った。即ち、
一端側が車体に揺動可能に支持され、他端側に車輪を回転可能に支持する左右の中空状トレーリングアームと、該左右のトレーリングアームを連結するトーションビームとを備えたトーションビーム式サスペンションにおいて、
前記トーションビームの両端側に前記トレーリングアームの断面形状に応じた切欠を形成すると共に、前記切欠は前記トレーリングアームの径方向に開口を有し、また、前記トレーリングアームに前記トーションビームを溶接して連結する接合位置と前記トレーリングアームの径方向から前記切欠の前記開口を通して挿入可能な挿入位置とを設け、前記接合位置では前記切欠に挿入した前記トレーリングアームの外周を前記トーションビームが半周以上囲み、かつ、前記接合位置では前記トレーリングアームの径方向から前記切欠の前記開口に挿入できない大きさに前記開口を形成し、
前記挿入位置で前記切欠の前記開口から前記トレーリングアームを挿入してから軸方向に移動して前記接合位置で溶接して連結することを特徴とするトーションビーム式サスペンションがそれである。
【0007】
前記挿入位置には、前記トレーリングアームの外周を窪ませた溝を形成して前記溝に前記トーションビームの前記切欠の前記開口を合わせて前記トレーリングアームの径方向から前記トーションビームを挿入可能とした構成としてもよい。その際、前記溝を前記トレーリングアームの外周の上下に、かつ、略平行に形成した構成としてもよい。また、前記接合位置と前記挿入位置とを隣合わせに配置した構成としてもよい。更に、前記トーションビームの両端は、前記トレーリングアームの径方向に膨出して前記切欠を形成した構成としてもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明のトーションビーム式サスペンションは、切欠に挿入したトレーリングアームの外周をトーションビームが半周以上囲んで溶接されるので、溶接長を長く取ることができ、また、ガゼットを用いることなく連結できるので、部品点数を削減でき、軽量化を図ることができるという効果を奏する。
【0009】
トレーリングアームの挿入位置に溝を形成することにより、切欠の開口からトレーリングを容易に挿入できる。また、溝をトレーリングアームの上下に略平行に形成することにより、溝を容易に成形できる。更に、接合位置と挿入位置とを隣り合わせに配置することにより、組立が容易になる。トーションビームの両端を膨出して切欠を形成することにより、切欠を容易に形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態としてのトーションビーム式サスペンションの平面図である。
【
図4】本実施形態のトレーリングアームの要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明を実施するための形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1に示すように、1は中空状の左のトレーリングアームで、トレーリングアーム1は、本実施形態では、断面円形のパイプを曲げ加工して形成されている。左のトレーリングアーム1と、これと左右対称の右のトレーリングアーム2とがトーションビーム4により連結されている。
【0012】
左のトレーリングアーム1の一端には、カラー6が溶接により固定されている。カラー6を介して、図示しない車体に左のトレーリングアーム1が揺動可能に支持される。また、トレーリングアーム1の他端には、車輪支持部材8が溶接により固定されている。車輪支持部材8には、図示しない車輪が回転可能に取り付けられる。更に、左のトレーリングアーム1にはばね受け部材10が溶接により固定されており、ばね受け部材10と図示しない車体との間にコイルスプリングが配置される。
【0013】
右のトレーリングアーム2も、前述した左のトレーリングアーム1と同様、右のトレーリングアーム2の端にカラー12が取り付けられると共に、右のトレーリングアーム2の他端には、車輪支持部材14が溶接により固定されている。右のトレーリングアーム2にはばね受け部材16が溶接により固定されている。
【0014】
トーションビーム4は、板材を折り返した開放断面形状にプレス成形により形成されており、その断面形状が略U字状又は略V字状に、車体の下側が開口された鞍型形状に形成されている。
【0015】
本実施形態では、トーションビーム4の両端側にはトレーリングアーム1,2の径方向に膨らまされた膨出部18,20が形成されており、膨出部18,20はトレーリングアーム1,2の外周よりも上下方向に飛び出すように膨らまされている。
【0016】
両膨出部18,20には切欠22(一方のみ図示する)が形成されている。
図2に示すように、右のトレーリングアーム2側のトーションビーム4の膨出部20には、切欠22が形成されており、切欠22はトレーリングアーム2の断面形状に応じて形成されると共に、トレーリングアーム2の軸方向に貫通して形成されている。
【0017】
本実施形態では、トーションビーム4が略U字状の断面形状に形成されており、その両側壁4a,4bにそれぞれ切欠22が貫通して形成されている。切欠22には開口24が設けられており、開口24はトレーリングアーム2の径方向に向かって開いて形成されている。また、切欠22は、切欠22にトレーリングアーム2の接合位置Gを挿入した際に、トレーリングアーム2の外周に切欠22の内周が接触するようにほぼ円弧状に形成されている。
【0018】
トレーリングアーム2の接合位置Gは、
図1に示すように、トーションビーム4の両端をトレーリングアーム1,2に溶接により連結する位置であり、本実施形態では、接合位置Gに隣接して挿入位置Iがトレーリングアーム2に設けられている。
【0019】
挿入位置Iには、
図3に示すように、溝26,28が形成されており、本実施形態では、トレーリングアーム2の上側に2つの溝26が形成されると共に、トレーリングアーム2の下側に2つの溝28が形成されており、各溝26,28はそれぞれ略平行に形成されている。
【0020】
上側の溝26と下側の溝28とは、トレーリングアーム2の軸方向では同じ位置に形成されており、また、上側の2つの溝26の間隔は、断面形状が略U字状のトーションビーム4の両側壁4a,4bの間隔と同じに形成されている。
【0021】
切欠22にトレーリングアーム2の接合位置Gを挿入した状態では、トーションビーム4がトレーリングアーム2の外周を半周以上囲むように切欠22が形成されており、これにより、トレーリングアーム2の接合位置Gを径方向から開口24を通して切欠22内にトレーリングアーム2を挿入しようとしても、トーションビーム4の端がトレーリングアーム2の外周と干渉して挿入できない大きさに開口24が形成されている。
【0022】
また、上側の溝26と下側の溝28との底の間隔は、開口24の間隔よりも小さく形成されており、上下の溝26,28に切欠22を合わせて、径方向から切欠22内にトレーリングアーム2を挿入できるように構成されている。
【0023】
更に、切欠22内にトレーリングアーム2を挿入した後、トーションビーム4をトレーリングアーム2の軸方向に移動することにより、トーションビーム4を接合位置Gに移動できるように構成されている。トーションビーム4を接合位置Gに移動した後、トーションビーム4に沿って溶接することにより、トーションビーム4とトレーリングアーム2とを連結する。左のトレーリングアーム1側のトーションビーム4の端側にも同様の切欠が形成され、また、左のトレーリングアーム1にも接合位置Gと溝が設けられた挿入位置Iとが形成されている。
【0024】
左右のトレーリングアーム1,2の一端にカラー6,12を溶接すると共に、他端にそれぞれ車輪支持部材8,14を溶接し、また、それぞればね受け部材10,16を溶接する。更に、
図2、
図3に示すように、トーションビーム4の右端側の切欠22を、右のトレーリングアーム2の挿入位置Iの溝26,28に合わせて溝26,28を通し、開口24から切欠22内にトレーリングアーム2を挿入する。
【0025】
そして、相対的にトーションビーム4をトレーリングアーム2の軸方向に移動して、トーションビーム4の切欠22をトレーリングアーム2の接合位置Gに合わせる。これにより、切欠22にトレーリングアーム2の外周が隙間なく接触し、切欠22に沿って溶接して連結する。左のトレーリングアーム1とトーションビーム4とも同様にして溶接して連結する。
【0026】
一方、走行中に、左右の両輪が車体に対して同じ方向の同じ量だけストロークした場合には、トーションビーム式サスペンションは、そのまま上下に動き、ねじれは発生しないが、例えば車体に遠心力が働き車体が傾き、左右の両輪が車体に対し逆方向にストロークする場合には、トーションビーム4がねじられ、そのねじり剛性に比例したねじり反力が発生する。
【0027】
ねじり反力による応力が左右のトレーリングアーム1,2とトーションビーム4との溶接箇所に発生するが、トーションビーム4はトレーリングアーム1,2にトレーリングアーム1,2の外周の半分以上を溶接されているので、溶接長を長く取ることができ、応力が拡散され、応力集中による過度の応力が発生することはない。
【0028】
このように、ガゼットを用いることなく、トーションビーム4と左右のトレーリングアーム1,2とを溶接により連結することができるので、部品点数を削減できる。また、ガゼットを溶接する場合よりも短い溶接長でトーションビーム4と左右のトレーリングアーム1,2とを溶接でき、溶接長を低減できる。更に、ガゼットを用いないので、軽量化を図ることができる。
【0029】
本実施形態では、挿入位置Iに溝26,28を形成した場合を例としたが、これに限らず、
図4(ロ)(ハ)に示すように、トレーリングアーム2の溝26,28を形成することなく、トレーリングアーム2の径を開口24の幅よりも小さくして、開口24から切欠22内にトレーリングアーム2を挿入するようにしてもよい。その際、挿入位置Iの断面形状は、楕円、長円、真円等でもよい。
【0030】
以上本発明はこの様な実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得る。
【符号の説明】
【0031】
1,2…トレーリングアーム 4…トーションビーム
4a,4b…側壁 6,12…カラー
8,14…車輪支持部材 10,16…ばね受け部材
18,20…膨出部 22…切欠
24…開口 26,28…溝