(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
センターギアと、このセンターギアを回転軸とする上定盤と、このセンターギアを回転軸としつつ前記上定盤と向かい合うように配置される下定盤と、この下定盤の縁側に配置されるインターナルギアとから構成される研磨装置が用いられ、前記下定盤と前記上定盤との間に、Si,SiO2,C(ダイヤモンド),GaN,AlN,SiC,Cu,W,セラミックスのいずれか1つからなるウェハを配置して前記ウェハを研磨するウェハの研磨方法であって、
前記ウェハと前記上定盤および前記ウェハと下定盤との間に、所定の気体を気泡化したナノバブルのみを含ませた、フッ化カリウム水溶液,強塩基性試薬,水酸化ナトリウムと炭酸ナトリウムとの混合溶液の何れか1つの溶液を介在させて前記ウェハを前記溶液のみで研磨することを特徴とするウェハの研磨方法。
【背景技術】
【0002】
従来から、ウェハは、いわゆる研磨装置を用いて所定の厚さまで研磨されている。
かかる研磨装置は、研磨方式として、研磨剤による研磨方式を採用する。この研磨剤による研磨方式では、回転する下定盤上に載置された水晶片の表面及び裏面付近に、研磨剤及び水を含む混合液であるスラリーを供給しながら、回転する上定盤を下定盤方向に移動させることにより、ウェハの表面及び裏面を研磨する(例えば、特許文献1参照)。
所定の厚さまで研磨されたウェハは、例えば、そのウェハが水晶である場合、水晶発振器や水晶振動子に用いられる水晶片の製造に用いられる。
【0003】
スラリーは、研磨剤と分散剤とが混合されて用いられている。
研磨剤に用いられる砥粒は、例えば、ダイヤモンド、アルミナ、ジルコニウム、炭化ケイ素、酸化セリウム、酸化マンガン、シリカ系(コロイダルシリカ、フュ−ムドシリカ)材料が用いられている。
分散剤は、例えば、各種アミン、グリコール、が用いられている。
化学反応を伴う加工方法には、例えば、塩基(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム)、酸(フッ酸、塩酸、硝酸等)、各種金属の塩(硫酸銅、フェリシアン化カリウム等)、キレート剤(グリシン、EDAT等)、酸化還元剤(過酸化水素、クロム酸、シュウ酸等)が用いられる。
なお、研磨剤とともにナノバブルを用いた研磨方式も提案されている(例えば、特許文献2、特許文献3参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、研磨剤を用いた研磨方式では、ウェハの表面に研磨による傷が発生する場合がある。例えば、ウェハが水晶からなる場合、水晶ウェハと向かい合う上定盤又は下定盤との間に挟まる研磨剤が、水晶ウェハに傷をつける原因となっていると考えられる。
このような研磨剤を用いた研磨方式を用いると、研磨された水晶ウェハの洗浄に手間取るといった課題もある。研磨された後の水晶ウェハは、研磨剤を含む水溶液が表面に付着しており、これを除去する洗浄が繰り返し行う必要があった。そのため、製造コストが増大するという課題があった。
また、砥粒を用いた研磨では、砥粒の粒径によってウェハに変質層が形成されてしまう。この変質層がウェハに存在することによって、ウェハが欠けたり、割れたりすることがあった。また、研磨剤に用いられる砥粒は、資源の枯渇により入手が困難になる恐れがある。そのため、ウェハを研磨することができなくなり、ウェハより生産される部品を製造できなくなる恐れもある。
【0006】
そこで、本発明では、前記の問題を解決し、資源の枯渇に影響されることがなく、また、研磨による傷の発生を軽減し、安定した研磨が行えるウェハの研磨方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の
ウェハの研磨方法の一つの態様によれば、センターギアと、このセンターギアを回転軸とする上定盤と、このセンターギアを回転軸としつつ前記上定盤と向かい合うように配置される下定盤と、この下定盤の縁側に配置されるインターナルギアとから構成される研磨装置が用いられ、前記下定盤と前記上定盤との間に、Si,SiO
2,SiC,Cu,W,セラミックスのいずれか1つからなるウェハを配置して前記ウェハを研磨するウェハの研磨方法であって、前記ウェハと前記上定盤および前記ウェハと下定盤との間に、空気を気泡化したナノバブル
のみを含ませた、
フッ化カリウム水溶液,強塩基性試薬,水酸化ナトリウムと炭酸ナトリウムとの混合溶液の何れか1つの溶液を介在させてウェハを
前記溶液のみで研磨することを特徴とする。
【0008】
本発明の他の態様によれば、前記ナノバブルは、0.1μm以下の直径で形成されていることを特徴とする
。又、本発明の他の態様によれば、前記強塩基性試薬が水酸化カリウム溶液であることを特徴とす
る。
【0009】
また、本発明は、センターギアと、このセンターギアを回転軸とする下定盤と、この下定盤の縁側に配置されるインターナルギアと、前記センターギアを回転軸としつつ前記下定盤と向かい合うように配置される上定盤とから構成される研磨装置と、前記研磨装置を内部に配置し研磨で使用した、
研磨剤を含んでおらず気体を気泡化したナノバブルのみを含んだフッ化カリウム水溶液,強塩基性試薬,水酸化ナトリウムと炭酸ナトリウムとの混合溶液の何れか1つの溶液を溜める溶液漕と、
前記溶液内にナノバブルを生成するナノバブル発生装置と、前記ナノバブルを含む前
記溶液を攪拌する攪拌部と、この攪拌部から前記研磨装置の上定盤に前記ナノバブルを含む前記溶液
のみを供給する第一のポンプと、前記溶液漕に溜まった前記溶液を前記攪拌部へ供給する第二のポンプと、から構成される循環系設備と、を備えて構成されることを特徴とするナノバブル循環型研磨装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一つの態様によるウェハの研磨方法は、研磨剤を用いることなく、フッ化物の塩,強塩基性試薬,水酸化ナトリウムと炭酸ナトリウムとの混合溶液の何れか1つの溶液でウェハの表面を変質させた状態で、ナノバブルで変質した部分を除去する研磨を行うため、ウェハへの傷の発生を軽減させることができる。
また、本発明の一つの態様によるウェハの研磨方法において、フッ化物の塩、強塩基性試薬、水酸化ナトリウムと炭酸ナトリウム等を使用することで、気泡が細かく砕き、容易にマイクロバブルの大きさに生成することができる。
また、フッ化物の塩、強塩基性試薬、水酸化ナトリウムと炭酸ナトリウム等を使用することで、発生させたナノバブルを溶液中に安定して長期間、存続させることができる。したがって、溶液中のナノバブルの濃度が薄まるのを防ぐことができる。
【0011】
本発明の他の態様によれば、ナノバブルは、0.1μm以下の直径であり、ナノバブル中心の気体がその周りの液相の強い表面張力により圧縮されているため、ナノバブルの形状は変化しにくく、ウェハの研磨を安定して行うことに有利である。
また、本発明の一つの態様によるウェハの研磨方法は、ナノバブルの生成が容易であるため、ナノバブルの再利用および補充を容易に行うことができる。
【0012】
また、本発明のナノバブル循環型研磨装置は、新しいナノバブルを所定の溶液に生成しつつ、ナノバブルを含む使用済みの所定の溶液を再利用することができる。これにより、従来のような研磨剤の補充が不要となり、また、研磨剤の枯渇や入手困難による生産性の低下を防ぐことができるため、安定した研磨を行うことができる。
【0013】
また、従来のような研磨を行うと、研磨剤の粒径によってウェハに変質層が形成されていたが、本発明のナノバブル循環型研磨装置によれば、ウェハに作用する研磨物、つまり、ナノバブルが従来の研磨剤の粒径より極めて小さいため、ウェハの変質層の形成が軽減され、品質の高いウェハを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明を実施するための最良の形態(以下、「実施形態」という。)について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。なお、ウェハは、水晶が用いられた水晶ウェハとして説明する。また、説明を明確にするために、発明の構成を誇張して図示している。
【0016】
本発明の実施形態に係るウェハの研磨方法は、
図1(a)に示すように、ナノバブル循環型研磨装置100が用いられる。このナノバブル循環型研磨装置100は、研磨装置10と、この研磨装置10が接続される循環系設備20と、ウェハWと、ナノバブルNBを含む所定の溶液Yとが主に用いられる。
【0017】
(ウェハ)
ウェハについて説明する。
ウェハWは、例えば、水晶が用いられ図示しないが円盤形に形成されている。このウェハWは、X軸、Y軸、Z軸からなる水晶の結晶軸のうちの所定の1方向と直交する方向に切り欠きが設けられた状態となっている。
なお、ウェハWの形状は、四角い板状に形成されていても良い。
また、ウェハWは、Si,SiO
2,C(ダイヤモンド),GaN,AlN,SiC,Cu,W,セラミックスのいずれか1つを用いることができる。
【0018】
(研磨装置)
まず、研磨装置10の主な構成について説明する。
図1(a)に示すように、研磨装置10は、センターギア11と、このセンターギア11を回転軸とする下定盤12と、この下定盤12の縁側に配置されるインターナルギア13と、このセンターギア11を回転軸としつつ前記下定盤12と向かい合うように配置される上定盤14とから構成される。
なお、この研磨装置10では、ウェハWを下定盤12に配置するためのキャリアKが用いられる。
【0019】
センターギア11は、円柱状に形成されており、回転可能に設けられている。このセンターギア11は、外周面に図示しない歯が形成されおり、外歯車として機能する。なお、円柱状のセンターギア11は、その円柱の中心軸線を回転軸として回転する。言い換えれば、センターギア11は、外周面の中心を回転軸として、この外周面に対して面内回転する。
【0020】
下定盤12は、センターギア11の先端付近の周囲に設けられている。この下定盤12は、センターギア11の外径より大きい内径を有するセンターギア挿通用貫通孔を中央部分に有し、センターギア11と同一の回転軸を中心として当該センターギア11と同一の方向に回転するように、回転可能に設けられている。
すなわち、下定盤12は、センターギア11の先端付近の周囲に回転可能に設けられ、センターギア11の外径より大きい内径を有するようにして、中央部分に形成されたセンターギア挿通用貫通孔に、センターギア11の先端部分が挿通されている。
なお、下定盤12の盤面は、研磨面となる。
【0021】
インターナルギア13は、下定盤12の周囲付近に下定盤12の外径より大きい内径を有するように円筒状に形成されている。このインターナルギア13は、下定盤12と同一の回転軸を中心として当該下定盤12と同一の方向に回転するように、回転可能に設けられている。このインターナルギア13は、内周面に図示しない歯が形成され、内歯車として機能する。
すなわち、インターナルギア13は、下定盤12の周囲付近に回転可能に設けられ、下定盤12の外径より大きい内径で形成された内周面に、歯が形成された構成となっている。
【0022】
キャリアKは、
図1(c)に示すように、センターギア11の外周面からインターナルギア13の内周面までの長さに相当する直径を有して形成されており、外周面には、図示しない歯が形成されている。
このキャリアKには、研磨対象のウェハWを挿通することができる程度の内径、すなわち、ウェハWより大きい面積を有する研磨対象物収容用貫通孔KHが、外周に沿うようにして複数形成されている。なお、キャリアKは、ウェハWの厚さより薄い厚さを有するように形成されている。
このキャリアKは、当該キャリアKとセンターギア11とを歯合させると共に、当該キャリアKとインターナルギア13とを歯合させるようにして、下定盤12の盤面上に載置される。
【0023】
すなわち、キャリアKは、センターギア11の外周面からインターナルギア13の内周面までの長さに相当する外径を有し、かつ所望の内径を有する研磨対象物収容用貫通孔KHが形成されると共に、ウェハWの厚さより薄い厚さを有するように形成され、外周面に形成された歯によって、センターギア11と歯合されると共にインターナルギア13と歯合されるようにして、下定盤12の盤面上に載置されている。
【0024】
上定盤14は、
図1(a)に示すように、下定盤12と対応する形状を有し、また、下定盤12の上方に下定盤12と対向するように配置されている。この上定盤14は、下定盤12と同一の回転軸を中心として、当該下定盤12の回転方向と逆方向に回転するように、回転可能に設けられている。
また、上定盤14の上方には、溶液を供給するためのパイプ14aが設けられると共に、上定盤14の中央部分には、パイプ14aと連通するようにして研磨液供給用貫通孔14Hが形成されている。これにより、溶液は、上方からパイプ14aに流し込まれると、パイプ14a及び研磨液供給用貫通孔14Hを通じて、ウェハWの表面及び裏面付近に供給される。
【0025】
すなわち、上定盤14は、下定盤12の上方に、下定盤12と対向するようにして回転可能に設けられ、下定盤12と対応する形状を有すると共に、上方から溶液をウェハWに供給するための研磨液供給用貫通孔14Hが、所望の領域に形成された構成となっている。この研磨装置10は、研磨装置10から出た溶液を溜める溶液漕30内に配置されている。
【0026】
(循環系設備)
次に、循環系設備20について説明する。
【0027】
まず、ナノバブルNBは、フッ化物の塩,強塩基性試薬,水酸化ナトリウムと炭酸ナトリウムとの混合溶液の何れか1つの溶液(以下、これらを単に「溶液」という。)Yで発生させられた気泡であって、0.1μm以下の直径で形成されている。このナノバブルNBは、従来周知のナノバブル発生装置21を用いて溶液Yを所定の気体雰囲気中で発生させられる。
なお、フッ化物の塩としてはフッ化カリウム水溶液を用いることができ、強塩基性試薬としては水酸化カリウム溶液を用いることができる。
また、ここでは、気体を空気として説明するが、気体は空気以外に、O
2,O
3,N
2,CO
2,又はこれらの混合物のいずれかを用いることができる。
【0028】
次に、循環系設備20は、
図1(a)および(b)に示すように、ナノバブル発生装置21と、ナノバブルを含む溶液Yを攪拌する攪拌部22と、攪拌部22から研磨装置10の上定盤14に設けられたパイプ14aにナノバブルNBを含む溶液Yを供給する第一のポンプ23と、溶液漕30に溜まった溶液Yを攪拌部30へ供給する第二のポンプ24と、から主に構成されている。
【0029】
ナノバブル発生装置21は、従来周知のナノバブル発生装置を用いる。このナノバブル発生装置21は、図示しないが、ナノバブルよりも大きい気泡を生成するマイクロバブル生成装置とこのマイクロバブルをナノバブルに変える気泡縮小装置とで構成されている。
ここで、ナノバブルの生成について説明する。
ナノバブルの生成には主に3種類の方法がある。まず、1つ目の方法は、マイクロバブル発生装置により最初からナノバブルとして生成する方法である。このひとつめの方法は、マイクロバブル生成装置でマイクロバブルを生成したときと同時にナノバブルが生成される。しかし、生成されるマイクロバブルは、研磨で用いられるほど多くない。
【0030】
次に、2つ目の方法は、マイクロバブル生成装置で発生させたマイクロバブルの自己加圧効果によってバブルサイズを縮小させてナノバブルを発生させる方法である。
これは、ナノバブルも同様であるが、マイクロバブルは中心の気体の体積に対して表面積が大きく、周囲から大きな圧力、つまりマイクロバブル界面に生じる周囲の液相の表面張力を受けている。そのため、マイクロバブル内の気体は圧力をかけられるほど液体に対しての溶解度を増す(ヘンリーの法則)。これによりマイクロバブルは、内部の気体が周囲の液相に溶解してその径を小さくしていき、さらに、気泡の径が小さくなることにより、気泡にかかる圧力はさらに大きなものとなるため、さらに気泡の径は小さくなる。このように、気泡径の縮小により、気泡内の圧力の上昇と気泡内の気体の溶解度の上昇、気泡内の気体のモル数の低下と気泡径の縮小の連鎖が起こる。したがって、気泡が小さくなればなるほど、気泡径の縮小速度は増加し、最終的には気泡は完全に溶液中に溶解し消滅してしまうことになる。
【0031】
しかし、マイクロバブルを発生させる溶液Y中に電解質(NaCl、KF、KOH、Na
2CO
3等)が存在する場合、マイクロバブル界面のOH
−イオンに引き寄せられ、陽電荷をもつイオンが集まることでOH
−の負の電荷を打ち消すとともに、マイクロバブル界面のイオンの濃度が高まり、その結果、気体の溶解が抑えられ、マイクロバブルが消滅しにくくなる。しかし、マイクロバブルの径の縮小が止まるわけではない。
【0032】
このような気泡は、気泡径の縮小がさらに進み、ナノサイズとなると、気泡径の急速な縮小とともに、急激にイオン濃度が上昇し、さらにイオンを引き寄せるようになる。この段階では、イオンの各層の電荷により(中心はOH
−の負電荷、その周りの正電荷)、電場が形成され、バブルは電気的に安定する。電場が形成されない場合、イオンは溶液中へと拡散してしまうため、ナノバブルは安定しなくなる。つまり、バブル径の急激な縮小とバブル界面のイオン濃度の急激な上昇がナノバブル生成に必要となる。また、高濃度のイオンのため、ガスの溶解は止まり、バブルの縮小は止まる。こうして、ナノバブルNBは、溶液Y中のイオンの影響により安定して存在することが可能になる。また、電解質の濃度調整により、マイクロバブルからナノバブルへの変化を促進することができる。
【0033】
次に、3つ目の方法は、2つ目の方法に加えてさらに、外的刺激によってマイクロバブルを粉砕する方法である。マイクロバブルは、前記の状態でさらに、外的刺激により気泡径を急速にナノサイズへと近づけられることで、気泡界面へのイオンの濃縮が急激に起こり、結果、ナノバブルNBが多く生成される。
したがって、本発明は、この3つ目の方法を用いてナノバブルNBを発生させている。
【0034】
なお、ナノバブルの発生の方式としては、例えば、加圧溶解型、または二層流旋回型を用いることができる。加圧溶解型のナノバブル発生装置は、ナノバブル発生装置に溶液と空気を供給し、ナノバブル発生装置内で空気に高圧を加えてながら溶液に気泡状になった空気を溶解させて、その溶液を大気圧中に送出することで、過飽和になった空気をナノバブルとして生成させて用いる。二層流旋回型のナノバブル発生装置は、取り込んだ溶液と空気を送出するときに非常に強い水流を加えることで空気をせん断し、ナノバブルを生成させて用いる。
【0035】
このようにして発生したナノバブルNBは、溶液Y中で消滅することなく溶液Y中を漂い続ける性質がある。例えば、ナノバブルNBは、所定の条件により1日以上、溶液Y中に存在し続けることができる。また、このナノバブルNBは、直径が0.1μm以下の気泡となっている。そのため、ナノバブルNB内部の空気は、その周囲の液相の表面張力により高圧になっている。したがって、このようなナノバブルNBは、形状が外側からの応力により変形しない剛体とみなすことができる。
【0036】
また、ナノバブルNBは、内部の空気と液体との界面において溶液Y中の各種イオン(具体的には後述する実施例にて説明する)が高密度に集まった状態となっており、高いエネルギーを持っていると考えられる。したがって、研磨の際に前記イオンとウェハWとの反応を高めること、つまり、研磨効率が高いと考えられる。
【0037】
さらにナノバブルNBは、直径が0.1μm以下という大きさから、それ自体でブラウン運動をしている。このブラウン運動により、ナノバブルNBは、溶液中に均一に分散するため、研磨面に対して均一にナノバブルを供給することが可能であり、均一にウェハを研磨することができる。
なお、ブラウン運動とは、溶媒中の微粒子が不規則な運動をすることをいう。
【0038】
したがって、ナノバブルNBが0.1μmよりも大きいと、ブラウン運動が起こりにくくなり、また、溶液Y中で存在できる時間が短くなってしまい、ウェハWの研磨の効率が悪くなる。
【0039】
このナノバブル発生装置21は、第一配管部25と第二配管部26を介して攪拌部22と接続している。
ナノバブル発生装置21は、第一配管部21を用いて攪拌部へナノバブルNBを含む溶液Yを供給し、第二配管部26を用いて攪拌部22に溜まっている溶液Yを供給されるようになっている。
【0040】
攪拌部22は、ナノバブル発生装置21から供給された溶液Yをさらに攪拌する役割を果たし、かつ、溶液漕30に溜まった溶液Yを供給して攪拌しつつ一部をナノバブル発生装置21に供給する役割を果たす。
【0041】
第一のポンプ23は、第三配管部27を介して攪拌部22から研磨装置10の上定盤14に設けられたパイプ14aにナノバブルNBを含む溶液Yを供給する役割を果たす。
【0042】
第二のポンプ24は、研磨装置10が内部に配置された溶液漕30に溜まった溶液Yを、第四配管部28を介して攪拌部へ供給する役割を果たす。
【0043】
このように循環系設備20を構成したので、ナノバブルNBを含む溶液Yを研磨中は絶え間なく供給することができる。また、研磨でナノバブルNBが減少した場合でも、ナノバブル発生装置21から供給された新しいナノバブルNBを含む溶液Yと、研磨で使用されたナノバブルNBを含む溶液Yとを攪拌部22で混合させて再利用できる。そのため、従来のような研磨剤の補充が不要となり、簡易でかつ環境負荷の少ない研磨を行うことができる。
【0044】
次に、研磨装置10の動作とナノバブルNBの作用について説明する。
研磨装置10は、例えば、いわゆる4ウェイ駆動方式を採用している。この研磨装置10は、研磨を実行する際に、ウェハWを下定盤12と上定盤14とで挟んで所定の圧力をかけた状態にし、図示しない駆動手段によって、同一の回転軸を中心として、センターギア11、インターナルギア13及び下定盤12を異なる角速度で同一の方向に回転させると共に、上定盤14を当該方向と逆方向に回転させながら研磨を行う。
このとき、
図2に示すように、ウェハWと上定盤14との間、およびウェハWと下定盤12との間にはナノバブルNBを含む溶液Yが介在している。
【0045】
また、研磨対象のウェハWは、下定盤12の盤面と、キャリアKの研磨対象物収容用貫通孔KHとによって形成される凹部に収容されるようにして、下定盤12の盤面のうち、キャリアKの研磨対象物収容用貫通孔KHによって露出された領域上に載置されている。
これにより、キャリアKは、自転しながら、センターギア11の周囲を公転する。
研磨装置10による研磨は、研磨対象のウェハWの厚さが、キャリアKの厚さに達する前まで行われる。
【0046】
その際、ナノバブルNBを含む溶液Yが、上方からパイプ14aに流し込まれ、パイプ14a及び研磨液供給用貫通孔14Hを通じて、ウェハWの表面及び裏面付近に供給される。ナノバブルNBは、ウェハWと上定盤14とで圧力が加えられつつ挟まった状態であり、また、ウェハWと下定盤12とで圧力が加えられつつ挟まった状態となっている。
ウェハWは、溶液Yに含まれるナノバブルNBの界面に密集したイオンにより表面が変性(水和層)されるとともに、定盤より圧力を受けたナノバブルから圧力を加えられることで表面に微小のクラックWCを生じさせられる。または、ナノバブルから圧力を受けたウェハ表面に生じる微小のクラックWCに対してナノバブルNBが選択的に作用し、クラックWC部よりナノバブルNBの界面に密集したイオンにより溶解させられる。
そのため、ナノバブルNBは、上定盤14、下定盤12が回転運動することによりウェハWの表面を動き、クラックWCが入ったウェハWの変質部分を容易に除去することができる。つまり、ナノバブルNBの周囲のイオンとウェハWとが化学反応し、その後、ナノバブルNBがウェハWを破砕することで研磨が進行する。
【0047】
このようにして、研磨装置10は、ウェハWと上定盤14およびウェハWと下定盤12との間に、空気を気泡化したナノバブルNBを含ませた、フッ化物の塩,強塩基性試薬,水酸化ナトリウムと炭酸ナトリウムとの混合溶液の何れか1つの溶液Yを介在させて研磨対象のウェハWの表面及び裏面を研磨することにより、ウェハWの厚さを薄くしていく。かかる研磨は、研磨対象のウェハWの厚さが、キャリアKの厚さに達する前まで行われる。
【0048】
これにより、本発明の実施形態に係るウェハの研磨方法によれば、ウェハWの表面の傷の発生を軽減させた研磨を行うことができる。
【実施例】
【0049】
実施例1は、ウェハWが水晶ウェハで、溶液Yがフッ化カリウム水溶液である場合である。
実施例1において、ナノバブルNBは、フッ化カリウム水溶液に生成される。このとき、
図3に示すように、ナノバブルNBのフッ化カリウム水溶液の界面は、水酸化物イオン(OH
−)に覆われた状態となる。また、その水酸化物イオン(OH
−)の周囲をカリウムイオン(K
+)や水素イオン(H
+)が覆う状態となる。さらに、フッ化物イオン(F
−)がカリウムイオン(K
+)や水素イオン(H
+)のプラスの電荷に引き寄せられて周りに集まった状態となる。
このナノバブルNBが水晶ウェハWの表面に研磨装置10の上定盤14と下定盤12とで圧力をかけられた場合(
図4参照)、水晶はフッ化物イオン(F
−)と後述の反応を起こす。
SiO
2+6H
++6F
− → H
2SiF
6+2H
2O
【0050】
この化学反応の作用とナノバブルNBが水晶ウェハWに押し付けられることで、
図4に示すように、水晶ウェハに微小のクラックWCが入る。ナノバブルNBは、水晶ウェハWに押し付けられた状態で移動させられ、クラックWCが入った水晶ウェハWの表面を削り取る。または、ナノバブル界面に密集したイオンがクラックに対して優先的に作用することで変性、溶解させる(
図5参照)。以上の過程を繰り返すことで水晶ウェハWは、ナノバブルNBにより研磨される。
つまり、このような研磨方法は、水晶ウェハWに生じたクラックの亀裂部分の周囲にさらに多くのクラックが生じやすくなり、多く発生したクラックがナノバブルNBからの圧力により砕けて水晶ウェハWより剥がれる(
図6参照)。これが水晶ウェハWの両主面で繰り返し行われて研磨が進行する。
【0051】
なお、前記化学反応の作用について、ナノバブルNBが形成された後(
図3参照)、所定の溶液Yにより、水晶ウェハWの表面にクラックが生じるより先に変性、つまり、水和層の形成が行われ(
図6参照)、その後、ナノバブルNBにより水晶ウェハにクラックWCが入る場合がある(
図5参照)。
【0052】
実施例2は、ウェハWが水晶ウェハで、溶液Yが水酸化ナトリウムと炭酸ナトリウムとの混合溶液である場合である。
実施例2において、ナノバブルNBは、溶液Yが水酸化ナトリウムと炭酸ナトリウムとの混合溶液に生成される。
このナノバブルNBが水晶ウェハWの表面に研磨装置10の上定盤14と下定盤12とで圧力をかけられた場合、以下の反応を起こす。
SiO
2+2Na
++CO
32− → Na
2SiO
3+CO
2
【0053】
ナノバブルNBを含ませない水酸化ナトリウムと炭酸ナトリウムとの混合溶液では、この反応は進行しないが、ナノバブルNBを含ませることで、化学反応が進行すると考えられる。
【0054】
実施例3は、ウェハWが水晶ウェハで、溶液Yが水酸化カリウム溶液である場合である。
水晶ウェハWは、
図5に示すように、水酸化カリウム溶液の強塩基により水和層が形成される。この水和層は、他の水晶の部分よりも柔らかいため、剛体とみなせるナノバブルNBにより削り取られることとなる。これにより水晶ウェハWの研磨を行うことができる。