(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
エンジンからの回転動力を変速して出力する変速装置と、前記変速装置の変速比を設定する変速制御ユニットと、前記エンジンのエンジン回転数を設定するエンジン制御ユニットとを備えた車両のための変速制御システムにおいて、
運転者の操作により操作指令を送出する操作器が備えられ、
前記操作指令に基づいて前記エンジン制御ユニットで設定されているエンジン回転数を所定量だけ低減させる回転数低下指令を前記エンジン制御ユニットに与えるとともに、車両速度を維持するために当該回転数低下指令によるエンジン回転数の低下を補償するように変速比の変更を前記変速制御ユニットに要求する変速比変更指令を与える変速モジュールが備えられ、
前記変速装置を操作するための変速操作器によって設定された第1の変速位置から第2の変速位置への変速位置切替時において、前記第1の変速位置に与えられていた前記回転数低下指令は前記第2の変速位置に引き継がれる変速制御システム。
エンジンからの回転動力を変速して出力する変速装置と、前記変速装置の変速比を設定する変速制御ユニットと、前記エンジンのエンジン回転数を設定するエンジン制御ユニットとを備えた車両のための変速制御システムにおいて、
運転者の操作により操作指令を送出する操作器が備えられ、
前記操作指令に基づいて前記エンジン制御ユニットで設定されているエンジン回転数を所定量だけ低減させる回転数低下指令を前記エンジン制御ユニットに与えるとともに、車両速度を維持するために当該回転数低下指令によるエンジン回転数の低下を補償するように変速比の変更を前記変速制御ユニットに要求する変速比変更指令を与える変速モジュールが備えられ、
エンジン回転数を調整するためのアクセル操作器によって設定された第1のアクセル位置から第2のアクセル位置へのアクセル位置切替時において、前記第1のアクセル位置に与えられていた前記回転数低下指令は前記第2のアクセル位置に引き継がれる変速制御システム。
エンジンからの回転動力を変速して出力する変速装置と、前記変速装置の変速比を設定する変速制御ユニットと、前記エンジンのエンジン回転数を設定するエンジン制御ユニットとを備えた車両のための変速制御システムにおいて、
運転者の操作により操作指令を送出する操作器が備えられ、
前記操作指令に基づいて前記エンジン制御ユニットで設定されているエンジン回転数を所定量だけ低減させる回転数低下指令を前記エンジン制御ユニットに与えるとともに、車両速度を維持するために当該回転数低下指令によるエンジン回転数の低下を補償するように変速比の変更を前記変速制御ユニットに要求する変速比変更指令を与える変速モジュールが備えられ、
前記変速制御ユニットにおいて前記エンジン回転数の低下を補償する変速比の変更が不可能な場合は、当該変更が可能になるまで前記回転数低下指令の前記エンジン制御ユニットへの付与が猶予される変速制御システム。
エンジンからの回転動力を変速して出力する変速装置と、前記変速装置の変速比を設定する変速制御ユニットと、前記エンジンのエンジン回転数を設定するエンジン制御ユニットとを備えた車両のための変速制御システムにおいて、
運転者の操作により操作指令を送出する操作器が備えられ、
前記操作指令に基づいて前記エンジン制御ユニットで設定されているエンジン回転数を所定量だけ低減させる回転数低下指令を前記エンジン制御ユニットに与えるとともに、車両速度を維持するために当該回転数低下指令によるエンジン回転数の低下を補償するように変速比の変更を前記変速制御ユニットに要求する変速比変更指令を与える変速モジュールが備えられ、
前記操作器は、前記操作指令に基づくエンジン回転数の低下及び補償変速比の変更を取り消すための戻し操作指令の送出が可能であり、
前記変速装置が、エンジン回転数の低下を補償するように変速比の変更を行う主変速装置と、複数段の副変速装置とからなり、前記副変速装置を低速段から高速段に切り替える変速切り替え指令に基づいて前記エンジン回転数の低下及び補償変速比の変更が解消される変速制御システム。
エンジンからの回転動力を変速して出力する変速装置と、前記変速装置の変速比を設定する変速制御ユニットと、前記エンジンのエンジン回転数を設定するエンジン制御ユニットとを備えた車両のための変速制御システムにおいて、
運転者の操作により操作指令を送出する操作器が備えられ、
前記操作指令に基づいて前記エンジン制御ユニットで設定されているエンジン回転数を所定量だけ低減させる回転数低下指令を前記エンジン制御ユニットに与えるとともに、車両速度を維持するために当該回転数低下指令によるエンジン回転数の低下を補償するように変速比の変更を前記変速制御ユニットに要求する変速比変更指令を与える変速モジュールが備えられ、
前記エンジンからの回転動力を外部作業機に伝達するPTO伝動系にPTO変速装置が備えられ、
前記回転数低下指令によるエンジン回転数の低下時に、前記PTO変速装置によるPTO回転数の低下を低減させる変速位置の選択を促す報知が行われる変速制御システム。
前記操作指令に基づくエンジン回転数の低下及び補償変速比の変更は複数段階の実行が可能であり、前記戻し操作指令に基づいて前記エンジン回転数の低下及び補償変速比の変更は段階的に戻される請求項4に記載の変速制御システム。
前記変速比は段階的に設定されることで複数の変速段を作り出されるものであり、前記操作指令に基づくエンジン回転数の低下及び補償変速比の変更は1段の変速段の変更に相当する請求項1から7のいずれか一項に記載の変速制御システム。
エンジン負荷が所定レベルを超えたかどうかを判定するエンジン負荷判定部が備えられ、前記所定レベルを越えるエンジン負荷が判定された場合、前記操作指令に基づくエンジン回転数の低下及び補償変速比の変更を取り消すための戻し操作指令が出力される請求項1から9のいずれか一項に記載の変速制御システム。
所定取消条件の成立に伴って、前記操作指令に基づくエンジン回転数の低下及び補償変速比の変更を取り消すための戻し操作指令を強制的に出力する強制戻し制御部が備えられている請求項1から10のいずれか一項に記載の変速制御システム。
前記エンジン制御ユニットに与える回転数低下指令に含まれる低減エンジン回転数は、当該低減エンジン回転数によるエンジン回転数の低下が前記変速制御ユニットによる変速比の変更によって補償することできるように算定される請求項1から11のいずれか一項に記載の変速制御システム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記実情に鑑み、本発明の目的は、エンジンの余力の運転者感覚を省エネルギー運転に生かせるような制御機能を備えた変速制御システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
エンジンからの回転動力を変速して出力する変速装置と、前記変速装置の変速比を設定する変速制御ユニットと、前記エンジンのエンジン回転数を設定するエンジン制御ユニットとを備えた車両のための変速制御システムにおいて上記目的を達成するために、本発明では、運転者の操作により操作指令を送出する操作器が備えられ、前記操作指令に基づいて前記エンジン制御ユニットで設定されているエンジン回転数を所定量だけ低減させる回転数低下指令を前記エンジン制御ユニットに与えるとともに、車両速度を維持するために当該回転数低下指令によるエンジン回転数の低下を補償するように変速比の変更を前記変速制御ユニットに要求する変速比変更指令を与える変速モジュールが備えられている。
【0007】
この構成によると、運転者がエンジントルクに余裕があると感じ、省エネルギー(以下省エネと略称する)運転等の目的でエンジン回転数を下げたいと思った時に、操作器、例えばボタンやレバーを操作することにより、予め設定されている所定量だけエンジン回転数を下げる回転数低下指令をエンジン制御ユニットに与えることができる。しかもその際、同時に、低下するエンジン回転数に見合うだけの変速比を変更して車両速度を維持するように変速制御ユニットに変速比変更指令を与える。つまり、車両巡航中に、操作器を操作するだけで、車両速度はそのままで、エンジン回転数を下げる運転操作が簡単に実現する。
本発明による変速制御システムでは、上記特徴に加え、以下に示す特徴が選択的に組み込まれる。
(a)車両走行中には、走行条件や運転条件の変動等に適応するため、変速装置の変速位置を変更するための変速操作器(変速レバーなど)やエンジン回転数を調整するためのアクセル操作器(アクセルレバーなど)を操作することがある。このように、変速操作器やアクセル操作器の操作によって基準となるエンジン回転数や変速比(車両速度)が運転者の意思によって切り替えられた場合でも、新たに基準となるエンジン回転数や車両速度で省エネ運転等の目的でエンジン回転数低下処理を続行することも意義がある。このため、本発明の特徴の1つでは、前記変速装置を操作するための変速操作器によって設定された第1の変速位置から第2の変速位置への変速位置切替時において、前記第1の変速位置に与えられていた前記回転数低下指令は前記第2の変速位置に引き継がれる。また、他の1つの特徴として、エンジン回転数を調整するためのアクセル操作器によって設定された第1のアクセル位置から第2のアクセル位置へのアクセル位置切替時において、前記第1のアクセル位置に与えられていた前記回転数低下指令は前記第2のアクセル位置に引き継がれる。
(b)変速比(増速)に余裕がない場合には、このエンジン回転数低下処理を実行することができないが、変速装置に対して低速側の変速操作がなされると増速側の変速に余裕が生じて、エンジン回転数低下処理の実行が可能となる。このため、前記変速制御ユニットにおいて前記エンジン回転数の低下を補償する変速比の変更が不可能な場合は、当該変更が可能になるまで前記回転数低下指令の前記エンジン制御ユニットへの付与が猶予されるような構成を採用することも、本発明に組み込むことができる特徴の1つである。
(c)一般に、作業車両における高低副変速装置の高速段は、アクセル操作が頻繁に発生する路上走行時に適用され、その結果エンジン回転数が頻繁に変動することになる。このような運転状況化ではエンジン回転数低下処理を続行することは好ましくはない。従って、本発明の特徴の1つでは、前記変速装置が、エンジン回転数の低下を補償するように変速比の変更を行う主変速装置と、複数段の副変速装置とからなり、前記副変速装置を低速段から高速段に切り替える変速切り替え指令に基づいて前記エンジン回転数の低下及び補償変速比の変更が解消される。
(d)エンジン回転数の低下が、外部作業機の動作にとって不都合な回転数の低下を導く場合、このことを運転者が把握しておく必要がある。もしPTO変速装置が備えられているなら、その変速位置を調整することでPTO回転数の変動を抑えることができる。従って、前記エンジンからの回転動力を外部作業機に伝達するPTO伝動系にPTO変速装置が備えられている場合、前記回転数低下指令によるエンジン回転数の低下時に、前記PTO変速装置によるPTO回転数の低下を低減させる変速位置の選択を促す報知が行われるのも本発明に組み込むことができる特徴の1つである。PTO変速装置は有段変速装置でも無段変速装置でもよい。
【0008】
車両速度を維持しながらエンジン回転数を下げ過ぎるとエンジントルクに余裕がなくなり、車両走行が不安定になり、エンジンストールの恐れが生じる。また、車輪接地地面の状態や、何らかの作業を行っている場合にはその作業状態の変動によりエンジン負荷が大きくなることもある。このため、運転者が車両走行の不安定さを感じた場合、一旦下げたエンジン回転数を簡単な操作で元に復帰させることが好適である。この目的のため、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記操作器は、前記操作指令に基づくエンジン回転数の低下及び補償変速比の変更を取り消すための戻し操作指令の送出が可能となるように構成されている。
【0009】
エンジン回転数低下及びその復帰(回転数増加)を指令するための操作器の具体的な形態としては、下げ用ボタンと復帰用ボタンを並設したボタン対や、揺動方向によって低下指令又は戻し指令を与えるシーソスイッチや揺動レバーが挙げられる。
【0010】
車両の走行安定性を考慮するなら、上述したような車両速度を維持しながらエンジン回転数を下げる操作は、段階的に行うことが好適である。このため、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記操作指令に基づくエンジン回転数の低下及び補償変速比の変更は複数段階の実行が可能であり、前記戻し操作指令に基づいて前記エンジン回転数の低下及び補償変速比の変更は段階的に戻されるように構成されている。
【0011】
変速装置が有段変速タイプならもちろんであるが、無段変速タイプであっても、その変速装置に対する変速比変更(変速段変更)が段階的に設定されている場合が少なくない。そのような構成の場合、1回の操作におけるエンジン回転数の低下量及びその結果としての変速比の変更は変速段数に一致させると、変速制御の構成が簡単となり、好都合である。従って本発明の好適な実施形態の1つでは、前記変速比は段階的に設定されることで複数の変速段を作り出されるものであり、前記操作指令に基づくエンジン回転数の低下及び補償変速比の変更は1段の変速段の変更に相当する。
【0012】
前記回転数低下指令によるエンジン回転数低下処理と、前記変速比変更指令による変速比変更処理とが、シーケンシャルに実行された場合、例えば、エンジン回転数が下がった後、変速比の変更処理を行うと、車両速度が一旦落ちてから再び上昇することになり、車両走行性が悪化する。従って、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記回転数低下指令によるエンジン回転数低下処理と、前記変速比変更指令による変速比変更処理とは、車両速度の変化が小なくなるように相互の処理の制御タイミングが調整されるように構成されている。この構成により、エンジン回転数低下処理によって車両速度が低下する単位時間当たり変化量と変速比変更処理によって車両速度が増加する単位時間当たり変化量ができる限り一致するような制御が実現する。例えば、エンジン回転数低下処理を構成する制御単位と変速比変更処理を構成する制御単位とが実行されるタイミングを調整することで、その制御の間での車両速度の変化を小さくすることができる。簡単な方法の一つは、この処理における変化率が大きい方(処理速度が速い方)の処理を、その変化率が小さい方(処理速度が遅い方)の処理にあわせるべく、その処理中に遅れを入れることである。いずれにせよ、このエンジン回転数低下処理と変速比変更処理とをできるだけ協調的に実行させることで、この処理中における車両速度の変化を小さくすることができる。
【0013】
最近のエンジン(例えばコモンレール方式のディーゼルエンジンなど)では、正確にエンジン負荷を推定演算しながら、エンジン運転を制御しているので、そのようなケースでは、エンジン負荷がエンジンストールの恐れが生じるレベルに達した場合には、回転数低下指令によるエンジン回転数低下処理を取り消すことが好ましい。このことを実現するため、本発明の好適な実施形態の1つでは、エンジン負荷が所定レベルを超えたかどうかを判定するエンジン負荷判定部が備えられ、前記所定レベルを越えるエンジン負荷が判定された場合、前記操作指令に基づくエンジン回転数の低下及び補償変速比の変更を取り消すための戻し操作指令が出力される。
【0014】
上述したような所定レベル以上のエンジン負荷だけでなく、強制的にこのエンジン回転数低下処理を取り消すことが望ましいケースがある。例えば、エンジンキーをオフにして車両運転を終了した場合、一定速度走行が不可能な一般道路走行に移行した場合などである。従って、本発明の好適な実施形態の1つでは、所定取消条件の成立に伴って、前記操作指令に基づくエンジン回転数の低下及び補償変速比の変更を取り消すための戻し操作指令を強制的に出力する強制戻し制御部が備えられている。
【0016】
本発明の好適な実施形態の1つでは、前記エンジン制御ユニットに与える回転数低下指令に含まれる低減エンジン回転数は、当該低減エンジン回転数によるエンジン回転数の低下が前記変速制御ユニットによる変速比の変更によって補償することできるように算定される。この構成を採用すれば、エンジン回転数低下が要求されると、まず現時点の変速比である現変速比に基づいて変速比(増速)に余裕があるかどうか判断し、その余裕に応じて実行すべきエンジン回転数低下量が算定される。これにより、変速装置に増速側の余裕がある限り、本発明のエンジン回転数低下処理を実行することができる
。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施の形態を、具体的に説明する前に、
図1と
図2の模式図を用いて本発明による変速制御システムにおけるエンジン回転数低下処理の基本的な流れを説明する。
図1は、運転者の自発的な操作入力(ここでは省エネボタンとしてのエンジン回転数低下ボタン90の操作)をトリガーとして、エンジン回転数を下げるとともに変速比を変更して車両速度(以下単に車速と略称する)を維持する制御の流れを図解している。運転者が作業用車両を運転し一定車速で耕耘作業を行っている際に、例えば、省エネ運転のためにエンジン回転数を低下させたいときには、エンジン回転数低下ボタン90(以下単に下げボタンと称する)を押す。なお、図では回転数を200rpm低減させることを意味する「−200」がボタン操作面に描かれているが、この数値は一例に過ぎない。下げボタン90が操作されたことにより、下げ操作指令としての下げ操作信号が省エネ変速モジュール7に出力される。この省エネ変速モジュール7は下げ操作指令をトリガーとして、回転数低下指令と変速比変更指令とを生成する。回転数低下指令は、現時点のエンジン回転数を基準としてそれから予め設定されている所定のエンジン回転数分だけ低下させた省エネエンジン回転数となるようにエンジン制御することをエンジン制御ユニット(以下エンジンECUと略称する)5に要求するものである。変速比変更指令は、現時点の変速装置2における変速比を基準として、上記省エネエンジン回転数へのエンジン回転数低下によってもたらされる車速の低下を補償して現車速を維持するための変速比、つまり補償変速比を作り出すように変速装置2ないしは変速制御ユニット(以下変速ECUと略称する)6に要求するものである。
【0021】
この回転数低下指令と変速比変更指令との出力である省エネ処理は、複数回行うことができる。つまり、運転者がエンジン回転数下げボタン90を押す毎に、回転数低下指令と変速比変更指令とが出力され、段階的に低下するエンジン回転を作り出すとともに、その都度、変速装置2における変速比を変更して車速が実質的に変わらないようにする。もちろん、エンジントルクに余裕がなくなるとエンジンストールが発生するので、この省エネ処理の実施回数は制限される。
【0022】
走行負荷や作業負荷が増大して、車両走行が不安定であることを運転者が感じた場合には、段階処理されている省エネ処理を一段階ずつ戻すことが必要となる。
図2は、そのために行われる戻し処理の制御の流れを図解している。ここでは、運転者の自発的な操作入力(ここでは省エネボタンとしてのエンジン回転数低下戻しボタン91の操作)をトリガーとして、省エネ運転のために下げられたエンジン回転数を段階的に元に戻すとともに変速比を変更して車両速度(以下単に車速と略称する)が維持される。省エネ運転のためのエンジン低下処理を何段階にわたってさせていた場合、まず、エンジン回転数低下戻しボタン(以下単に戻しボタンと称す)91を押す。なお、図では回転数を200rpm戻すことを意味する「+200」がボタン操作面に描かれているが、この数値は一例に過ぎない。戻しボタン91が操作されたことにより、戻し操作指令としての戻し操作信号が省エネ変速モジュール7に出力される。この省エネ変速モジュール7は戻し操作指令をトリガーとして、新たな回転数低下指令と変速比変更指令とを生成する。ここでいう回転数低下指令は、最初の省エネ処理における基準エンジン回転数となったエンジン回転数からの低下を意味しており、実質的には、現状のエンジン回転数を増加させる指令である。この回転数低下指令がエンジンECU5に与えられることにより、エンジン回転数は省エネ処理での対応する段階で行われたエンジン低下分が解消され、実質的にエンジン回転数は増加する。同時に、その解消されたエンジン低下分によるエンジン回転数の変化、結果的には増加によってもたらされる車速の上昇を補償して現車速を維持するための変速比、つまり補償変速比を作り出す必要がある。変速比変更指令は、この目的で、その補償変速比を変速装置2ないしは変速制御ユニット6に要求するものである。この戻し処理は、基準エンジン回転数に基づいて行われた省エネ処理の処理段階数だけ実行可能である。
【0023】
上述した基本的なエンジン回転数低下処理を提供する変速制御システムの具体的な実施形態を以下に説明する。
図3は、本発明による変速制御システムを搭載したトラクタの斜視図であり、
図4はトラクタの運転部に備えられた各種操作器を含む運転席の俯瞰図である。
図5はこの実施形態における変速制御システムを図解した説明図である。
このトラクタは、車輪3によって支持された機体の後部に、ここでは耕耘装置である外部作業機4を装備している。機体の前部に配置されているエンジン1はコモンレール1a方式で回転制御される形式のディーゼルエンジン1である。エンジン1の出力軸10からの動力は、変速装置2を構築する、油圧機械式の無段変速装置(以下、HMTと略称する)20と前後進切換装置23と複数段(ここでは高低2段)の変速を行う副変速装置24とを通じて変速出力軸11に伝達され、最終的に駆動輪(前輪または後輪あるいはその両方)3を回転させる。さらに、このエンジン1の出力軸10からの分岐動力はPTO伝動系12を経てトラクタに装備されている耕耘作業機などの外部作業機4にも伝達される。
【0024】
HMT20は、エンジン1の出力軸10からの動力を受ける斜板式可変吐出型油圧ポンプと当該油圧ポンプからの油圧によって回転して動力を出力する油圧モータとからなる静油圧式変速機構21と、遊星歯車機構22とか構成されている。遊星歯車機構22は、エンジン1の出力軸10からの動力と油圧モータからの動力とを入力として、その変速出力を前後進切換装置23に供給するように構成されている。
【0025】
この静油圧式変速機構21では、エンジン1からの動力がポンプ軸に入力されることにより、油圧ポンプから油圧モータに圧油が供給され、油圧モータが油圧ポンプからの油圧によって回転駆動されてモータ軸を回転させる。油圧モータの回転はモータ軸を通じて遊星歯車機構22に伝達される。静油圧式変速機構21は、油圧ポンプの斜板に連動されているシリンダを変位させることにより、この斜板の角度変更が行なわれ、正回転状態、逆回転状態、及び正回転状態と逆回転状態の間に位置する中立状態に変速され、かつ正回転状態に変速された場合においても逆回転状態に変速された場合においても、油圧ポンプの回転速度を無段階に変更して油圧モータの回転速度(時間当たり回転数)を無段階に変更する。その結果、油圧モータから遊星歯車機構22に出力する動力の回転速度を無段階に変更する。静油圧式変速機構21は、斜板が中立状態に位置されることで、油圧ポンプによる油圧モータの回転を停止、結果的には油圧モータから遊星歯車機構22に対する出力を停止する。
【0026】
遊星歯車機構22は、サンギヤと、当該サンギヤの周囲に等間隔で分散して配置された3個の遊星ギヤと、各遊星ギヤを回転自在に支持するキャリヤと、3個の遊星ギヤに噛合うリングギヤと、前後進切換装置23に連結している出力軸11とを備えている。なお、この実施形態では、キャリヤは外周にエンジン出力軸10に取り付けられた出力ギヤと噛み合うギヤ部を形成しているとともに、サンギヤのボス部に相対回転自在に支持されている。
【0027】
上述した構成により、このHMT20は、静油圧式変速機構21の斜板角度を変更することにより、駆動輪3への動力伝達を、無段階で変速することができる。この斜板制御は、変速ECU6からの制御指令に基づいて動作する油圧制御ユニット6aの油圧制御によって実現する。
【0028】
斜板制御は、人為的な操作による操作信号入力と機械的に生成された操作信号入力の両方で可能であるが、人為的入力のための変速操作具として機能する変速ペダル30は、運転操作領域の右側のフロアに配置されている。変速ペダル30には、この変速ペダル30を任意の位置で保持する位置保持機構31が設けられている。さらに、運転者がこの変速ペダル30を踏み込むことによって生じる操作量(ここでは揺動角度)を検出信号として生成するペダルセンサ92も設けられている。ペダルセンサ92は、例えばポテンショメータなどにより構成される。また、運転操作領域には、本発明に特に関係するものとして、エンジン回転数を調整するために運転者の操作による操作指令を送出する操作器としてのエンジン回転数下げボタン90とエンジン回転数戻しボタン91、及びアクセルレバー32と当該アクセルレバー32の操作位置を検出して操作信号を生成するレバーセンサ93が備えられている。エンジン回転数下げボタン90とエンジン回転数戻しボタン91は、この実施形態では
図4に示されているように、後輪フェンダの上部を覆うサイドパネル上に設けられているが、左側のサイドパネルやステアリングハンドルやハンドル前方のフロントパネルなどに設けてもよい。
【0029】
この変速制御システムの制御系は、エンジン制御ユニット(以下エンジンECUと略称する)5、変速制御ユニット(以下変速ECUと略称する)6、省エネ変速モジュール7、表示ECU8、車両状態検出ECU9、外部作業機ECU40などから構成され、それぞれは車載LANによってデータ伝送可能に接続されている。
【0030】
車両状態検出ECU9は、トラクタに配備されている種々のセンサからの信号や、運転者によって操作される操作器の状態を示す操作入力信号を入力し、必要に応じて信号変換や評価演算を行い、得られた信号やデータを車載LANに送り出す。この車両状態検出ECU9に入力される信号のうち、特に本発明に関係するものとしては、変速ペダル30の操作量を検出するペダルセンサ92からの信号、アクセルレバー32の操作量を検出するレバーセンサ93からの信号、トラクタ車速の演算にも用いることができる変速出力軸11の回転速度(回転数)を検出する回転センサ(又は車速センサ)94からの信号、後で詳しく説明するエンジン回転数下げボタン90及びエンジン回転数戻しボタン91からの信号などが挙げられる。
【0031】
エンジンECU5は、よく知られているように、エンジン1を電子制御するための中核機能部であり、外部操作入力信号及び内部センサ信号等によって推定されるエンジン1の運転状態に応じて、予め設定されているプログラムに基づく制御、例えば定回転数制御や定トルク制御など種々のタイプのエンジン制御を行う。
【0032】
変速ECU6は、外部操作入力信号や内部センサ信号等に基づいて前述した変速装置2の油圧制御要素を油圧制御ユニット6aを介して制御して、変速装置2の変速比を設定し、トラクタを所望の速度で走行させる。外部作業機ECU40は、外部作業機4を制御するための制御信号を生成する。表示ECU8は、運転操作領域に設けられている液晶ディスプレイなどからなるモニタ80に各種報知情報を表示するための制御信号を生成する。この実施形態では、モニタ80は、
図2に示すように、運転席の手元(右側)領域のサイドパネル上に、エンジン回転数下げボタン90とエンジン回転数戻しボタン91とからなるスイッチパネルに隣接して配置されている液晶パネルであるが、これに代えて又はこれに加えて、車速計やタコメータなどを配置しているフロントパネルに組み込むことができる。いずれにしても、このモニタ80には、車両操作などの種々の情報が表示されるが、本発明に関係するものとしては、次の表示事象が挙げられる。
(1)
図1を用いて説明したエンジン回転数低下処理又は
図2を用いて説明したエンジン回転数低下処理の実行中に、エンジン回転低下量の表示を行う。
(2)上記エンジン回転数低下処理又は
図2を用いて説明したエンジン回転数低下処理が行われていることを示す点灯表示を行う。この点灯表示は、液晶パネルとは別にLEDを設けて実施してもよい。また、この処理は省エネを意図しているので、エコを示す青色点灯が好ましい。
(3)この制御は省エネを意図しているが、PTO作業を行っている場合には、車速一定のままでエンジン回転数(つまりPTO回転数)の低下をもたらすので、作業ピッチの変化などの作業上の変動をもたらす。従って、その変動が所定値を越える場合には、その旨を運転者に報知するメッセージを表示する。なおその際、このメッセージ表示に代えてあるいはこれに加えて音声報知も行うと好適である。
【0033】
省エネ変速モジュール7は、一時的なエンジン回転数低下処理を実現する制御モジュールである。省エネ変速モジュール7の重要な機能は次の2つである。
(1)この実施形態ではエンジン回転数下げボタン(以下、下げボタンと略称する)90とエンジン回転数戻しボタン(以下戻しボタンと略称する)91として構成されている、運転者によって操作される操作器から送出される操作指令に基づいて、エンジンECU5で設定されている、定回転数制御のためのエンジン回転数を所定量だけ低減させる回転数低下指令をエンジンECU5に与える。
(2)定速度走行制御中での車両速度を維持するために下げボタン90の操作に基づく当該回転数低下指令によるエンジン回転数の低下を補償するように変速比の変更を変速ECU6に要求する変速比変更指令を与える操作器が用意されている。この実施形態では、戻しボタン91を操作することで、上記戻し操作指令の送出が行われる。
なお、この実施形態の具体例では、下げボタン90を1回操作するごとに、エンジン回転数は、定速度走行制御のために設定された設定回転数:N0より200rpmずつ低下し、戻しボタン91を1回操作すると、直前の下げボタン操作によるエンジン回転数の低下及び補償変速比の変更が取り消され、直前の下げボタン操作の前の状態に復帰するように構成されている。
また、下げボタン90によるエンジン回転数の低下回数は、所定回数に制限されることが好ましい。例えば、この実施形態では、この制限回数を4回とすることで、800rpmまでのエンジン回転数低下に制限することができる。もちろん、この制限回数は任意の回数に設定可能にすることが好ましい。
【0034】
省エネ変速モジュール7は、他のECUとの間でデータ交換が可能なコンピュータによって構築され、主にコンピュータプログラムによってその機能が作り出される。従って、エンジンECU5や変速ECU6などの他のECUの内部に構築することも可能である。ここでは、分かりやすい説明のために、独立したユニットとして記載している。
図6に示すように、省エネ変速モジュール7には、上記機能を実現するため、回転数低下指令生成部71、変速比変更指令生成部72、下げ処理履歴メモリ73、エンジン負荷判定部74、強制戻し制御部75が含まれている。
【0035】
回転数低下指令生成部71は、運転者の下げボタン90の押下による操作指令に基づいて現状のエンジン回転数を200rpmだけ低下させる回転数低下指令を生成して、エンジンECU5に送り出す。その際、変速比変更指令生成部72は、この回転数低下指令によるエンジン回転数の低下が車速の低下を伴わないように、その低下分を補償する変速比の変更値を求め、その変更値に基づいた変速比変更指令を生成し、この変速比変更指令を変速ECU6に送り出す。アクセルレバー32の操作位置によって設定された基本エンジン回転数を制御目標としてエンジンECU8がエンジン1の回転数を制御しているが、この回転数低下指令は、その基本エンジン回転数を低下させるものであり、この実施形態では複数回数、例えば4回にわたる回転数低下を指令することができる。つまり、1回目の回転数低下指令で基本エンジン回転数から200rpmの低下、2回目の回転数低下指令でさらに200rpmつまり低下基本エンジン回転数から400rpmの低下が指令されることになる。もちろん、そのエンジン回転数低下に伴う車速の低下は、その都度の変速比変更指令生成部72からの変速比変更指令によって補償される。
【0036】
さらに運転者が戻しボタン91を押し下げた場合には、戻し操作指令が、省エネ変速モジュール7に与えられ、回転数低下指令生成部71は、現時点で設定されている回転数低下指令の積算回数を1段階取り消す戻し指令をエンジンECU8に送る。これにより、回転数低下指令が1回設定されているだけの状態なら、その1回分のエンジン回転数低下が取り消され、エンジンECU8でのエンジン1の目標回転数は、元の基本エンジン回転数となる。回転数低下指令が2回設定されている状態なら、1回分のエンジン回転数低下が取り消され、エンジンECU8でのエンジン1の目標回転数は、基本エンジン回転数より200rpmだけ低下させた回転数となる。回転数低下指令によるエンジン回転数の低下が設定されていない状態で戻しボタン91が押し下げられても、回転数低下指令は生成されない。戻しボタン91は、回転数低下指令の取消処理を行うだけである。当然ながら、戻しボタン91の操作による戻し操作指令によりエンジン回転数低下が修正された場合には、同時に、その修正に伴う車速の増加は、変速比変更指令生成部72からの変速比変更指令によって補償され、車速は一定に維持される。
【0037】
このため、回転数低下指令生成部71によってエンジンECU5に設定される回転数低下指令の回数を記録しておく必要があり、このため下げ処理履歴メモリ73が備えられている。下げ処理履歴メモリ73はスタックメモリのようなメモリ構造が適しており、回転数低下指令が生成されると回転数低下に関する情報が下げ処理履歴メモリ73に書き込まれ(プッシュ)、戻し指令が生成されると最後に書き込まれた回転数低下に関する情報が読み出され消去される(ポップ)。もちろん、回転数低下指令や戻し操作指令を時系列的に記録する履歴メモリのようなメモリ構造を採用してもよい。いずれにしても、回転数低下指令生成部71によって、エンジンECU5に回転数低下指令が送られると、1回の下げボタン90の操作による200rpmのエンジン回転数低下の情報が必要に応じて変速比変更の情報も含めて下げ処理履歴メモリ73に書き込まれる。そして、下げ処理履歴メモリ73にアクセスすれば、現状の下げボタン90の操作履歴と現状エンジンECU5に指令しているエンジン回転数の低下量、現状の変速比を知ることができる。
【0038】
エンジン負荷判定部74は、エンジン負荷が所定レベルを超えたかどうかを判定する機能を有し、所定レベルを越えるエンジン負荷が判定された場合、回転数低下指令によって設定されている目標エンジン回転数の低下及び補償変速比の変更を取り消すための戻し指令が生成される。エンジンECU5ではエンジン負荷制御を行う機能を有しているので、エンジン負荷判定のために必要なエンジン負荷レベルは、エンジンECU5から取得することができる。
【0039】
強制戻し制御部75は、エンジン負荷以外でも予め設定しておいた所定取消条件が成立した場合に、戻し操作指令を強制的に出力して、エンジンECU5に設定されたエンジン回転数の低下及び変速ECU6に施された補償変速比の変更を取り消す。この取消条件は、定速走行が必要な作業走行のモードから車速を任意に調整しながら走行する必要がある一般路上走行のモードになった場合など、定速走行が不要な状況が検知されるというのが典型的な条件である。また、エンジンキーをオフにして車両運転を終了した場合も、強制的にエンジン回転数の低下を取り消すことが好ましい。
【0040】
なお、アクセル操作器を操作することによって基本エンジン回転数が調整されると、エンジン回転数は人為的に変更されるが、その際でも回転数低下指令を引き継ぐように構成されている。これにより、アクセル操作器であるアクセルレバー32の操作を頻繁に行ったとしても、省エネ運転が維持できる。同様に、変速操作器である変速ペダル30によって変速装置2の変速比も人為的に変更されるが、その際でも変速比の変更に伴うエンジン回転数の変更とその後の回転数低下及びその回転数の低下に伴う補償変速比の設定が行われるように構成されている。
【0041】
回転数低下指令によるエンジン回転数低下処理と前記変速比変更指令による変速比変更処理とをシーケンシャルに行うと、エンジン回転数低下処理が終了した段階で車速が低下しており、その後の変速比変更処理に伴って元の車速に戻っていく。このような省エネ変速処理への切換時に車速の低下と増加をできるだけ小さくするために、車両速度の変化が小なくなるように相互の処理の制御タイミングが調整される技術が導入されている。つまり、エンジン回転数低下処理を構成する制御単位と変速比変更処理を構成する制御単位とが実行されるタイミングを調整することで、その制御の間での車両速度の変化を小さくしている。
【0042】
上述したように構成された変速制御システムにおける省エネ変速処理の一例を
図7から
図11のフローチャートを用いて以下に説明する。
まず、この省エネ変速処理に基づく200rpm単位のエンジン回転数低下を強制的に取り消したい時に“1”にセットされる取消フラグの内容が“0”であるかどうかをチェックする(#01)。作業走行から一般路上走行への移行など、予め決められている条件が成立した場合に、強制戻し制御部75が戻し操作指令として取消フラグの内容を“1”にセットする。取消フラグの内容が“1”であれば(#01No分岐)、後で説明する強制取消処理を行い(#60)、省エネ変速処理の終了が要求されていなければ、ステップ#01に戻る。取消フラグの内容が“0”であれば(#01Yes分岐)、このエンジン回転数低下処理の積算回数を示す下げ処理回数:Nを読み出す(#02)。この処理回数:Nに1回の回転数低下指令によって低下させられる単位回転数低下量である200rpmを乗算した値が現時点の基本エンジン回転数からのエンジン回転数低下量である。ついで、省エネ変速処理の実行中に変速ペダル30やアクセルレバー32が操作されたときにセットされる操作フラグの内容がチェックされる(#03)。この操作フラグの内容をリセットする必要があるので、ここでリセットしておくために操作フラグに“0”をセットする(#04)。
【0043】
変速ペダル30の操作に基づく変速操作処理は
図10に示されている。まず、この変速操作処理の終了命令が出ているかどうかチェックし(#81)、終了命令が出ていなければ(#81No分岐)、変速ペダル30を用いた変速操作が行われたかどうかチェックする(#82)。変速操作が行われていなければ(#82No分岐)、ステップ#81に戻り、変速操作が行われたなら(#82Yes分岐)、その操作量を演算する(#83)。さらに演算された操作量に基づいて変速操作処理が実行され(#84)、それによって実現した変速比を基準変速比として記録する(#85)。最後に操作フラグに“1”を設定する(#86)。この変速操作処理は変速ECU6で実行されるが、記録された基準変速比の読み出しや操作フラグの内容チェックは省エネ変速モジュール7で行えるものとする。
【0044】
アクセルレバー32の操作に基づくアクセル操作(エンジン回転数設定)処理は
図11に示されている。ここでも、このアクセル操作処理の終了命令が出ているかどうかチェックし(#91)、終了命令が出ていなければ(#91No分岐)、アクセルレバー32を用いたアクセル操作が行われたかどうかチェックする(#92)。アクセル操作が行われていなければ(#92No分岐)、ステップ#91に戻り、変速操作が行われたなら(#92Yes分岐)、その操作量を演算する(#93)。さらに演算された操作量に基づいてアクセル操作処理が実行され(#94)、それによって実現したエンジン回転数を基準エンジン回転数として記録する(#95)。最後に操作フラグに“1”を設定する(#96)。このアクセル操作処理はエンジンECU5で実行されるが、記録された基準エンジン回転数の読み出しや操作フラグの内容チェックは省エネ変速モジュール7で行えるものとする。
【0045】
図7のフローチャートに戻って、ステップ#03のチェックで操作フラグの内容が“1”であれば(#03Yes分岐)、操作フラグの内容を“0”に書き換え(#04)、さらに処理回数:Nが“0”であるかどうかチェックする(#05)。処理回数:Nが“0”でなければ(#05No分岐)、エンジン回転数を200rpm単位で低下させる省エネ変速が実行されていることであるので、人為的な変速操作やアクセル操作が行われることで基本エンジン回転数や基本変速比が変更されても、先に設定されているエンジン回転数低下設定を引き継いで行うための変速追随処理を実行する(#40)。ステップ#03のチェックで操作フラグの内容が“0”であるか(#03No分岐)、あるいはステップ#05のチェックで処理回数:Nが“0”であれば(#05Yes分岐)、省エネボタンである下げボタン90又は戻しボタン91が操作されたかどうかチェックされる(#06)。省エネボタンが操作されていなければ(#06No分岐)、ステップ#01に戻る。
【0046】
省エネボタンが操作されていれば(#06Yes分岐)、以下に述べるようなボタン操作によるエンジン回転数低下処理が実行される。まず、現状の基準エンジン回転数と基準変速比が読み出され(#07)、省エネボタン操作が、下げボタン90による操作か、戻しボタン91による操作かがチェックされる(#08)。
【0047】
〔下げボタン90による操作の場合〕
この操作指令は、エンジン回転数を200rpm単位で低下させることを意味するので、以下の式に基づき、省エネのために目標とされる低下回転数を算定する(#09)。
低下回転数=基準回転数−200*(N+1)
N:処理回数。
算定された低下回転数を含む回転数低下指令をエンジンECU5に送るために生成する(#10)。さらに、この低下回転数において現車速が維持できる変速比を算定して、変速ECU6に送るために、その変速比を含む変速比変更指令を生成する(#11)。新たに設定されるエンジン回転数と変速比に基づいてエンジン負荷率を算定する(#12)。算定されたエンジン負荷率から今回のエンジン回転数低下が許可されるかどうかしきい値等を用いて判定する(#13)。エンジン回転数低下が許可される場合(#13Yes分岐)、回転数低下指令と変速比変更指令との実施に基づく車速変化がより少ない適切な指令実行タイミングを算定して、その指令実行タイミングを各指令に記述する(#14)。回転数低下指令をエンジンECU5に送信し、変速比変更指令を変速ECU6に送信する(#15)。処理回数:Nをインクリメントしてステップ#01に戻る(#16)。エンジン回転数低下が許可されない場合(#13No分岐)、エンジン回転数の低下処理が不可能であることを報知して、今回の下げボタン90によるエンジン回転数低下を中止して、ステップ#01に戻る(#17)。
なお、ステップ#13の下げ処理可能かどうかの判定において、エンジン回転数低下の処理回数:Nを4回までに制限する条件も加えることができる。つまり、この判定時において、(N+1)が5になる場合、エンジン回転数低下が許可されないと判定して、ステップ#17へ分岐する。この処理回数:Nによる下げ処理の可能判定は、優先判定条件としてステップ#09の前に行うようにしてもよい。
【0048】
〔戻しボタン91による操作の場合〕
この操作指令は、下げボタン90の操作によって低下させたエンジン回転数を200rpm単位で戻すことを意味するので、先にエンジン回転数低下処理がなされているかどうかをチェックする(#18)。処理回数:Nが“0”でエンジン回転数低下処理がなされていない場合(#18No分岐)、この下げボタン90の操作は無効なので、何も処理はせずにステップ#01に戻る。処理回数:Nが“0”でなければ(#18Yes分岐)、1回以上のエンジン回転数低下処理がなされていることを意味するので、以下の式の基づき、戻し処理後の目標となる低下回転数を算定する(#19)。
低下回転数=基準回転数−200*(N-1)
N:処理回数。
次に、算定された低下回転数を含む回転数低下指令をエンジンECU5に送るために生成する(#20)。さらに、この低下回転数において現車速が維持できる変速比を算定して、変速ECU6に送るために、その変速比を含む変速比変更指令を生成する(#21)。回転数低下指令と変速比変更指令との実施に基づく車速変化がより少ない適切な指令実行タイミングを算定して、その指令実行タイミングを各指令に記述する(#22)。回転数低下指令をエンジンECU5に送信し、変速比変更指令を変速ECU6に送信する(#23)。処理回数:Nをディクリメントする(#24)。ディクリメントしたNの値が“0”ならば(#25Yes分岐)、エンジン回転数低下処理が全て解除されていることになるので、その旨の報知を行い(#26)、ステップ#01に戻る。ディクリメントしたNの値が“0”以外ならば(#25No分岐)、まだ、エンジン回転数低下処理が維持されているので、そのままステップ#01に戻る。
【0049】
次に前述した、人為的な変速操作やアクセル操作が行われることで基本エンジン回転数や基本変速比が変更されても、先に設定されているエンジン回転数低下設定を引き継いで行う変速追随処理(#40)を
図8のフローチャートを用いて説明する。
まず、新たな操作を通じて更新された基準回転数及び基準変速比を読み出す(#41)。エンジン回転数低下設定を引き継ぐために、更新された基準回転を用いて、低下回転数を算定し直す(低下回転数=基準回転数−200*N、N:処理回数)(#42)。
算定された低下回転数を含む回転数低下指令をエンジンECU5に送るために生成する(#43)。さらに、この低下回転数を考慮して修正変速比を算定して、この修正変速比を含む変速比変更指令を生成する(#44)。新たに設定されるエンジン回転数と変速比に基づいてエンジン負荷率を算定する(#45)。算定されたエンジン負荷率から今回のエンジン回転数低下が許可されるかどうかしきい値等を用いて判定する(#46)。エンジン回転数低下が許可される場合(#46Yes分岐)、回転数低下指令と変速比変更指令との実施に基づく車速変化がより少ない適切な指令実行タイミングを算定して、その指令実行タイミングを各指令に記述する(#47)。回転数低下指令をエンジンECU5に送信し、変速比変更指令を変速ECU6に送信して(#48)、このサブルーチンを終了する。エンジン回転数低下が許可されない場合(#46No分岐)、エンジン回転数の低下処理が不可能であることを報知して(#49)、エンジン回転数低下の処理は行わずにこのサブルーチンを終了する。
【0050】
強制戻し制御部75によって取消フラグが“1”に設定された場合に実行される強制取消処理(#60)を
図9のフローチャートを用いて説明する。
まず、取消フラグの内容を“0”に書き換え(#61)、エンジン回転数低下処理の積算回数を示す下げ処理回数:Nを読み出す(#62)。読み出した処理回数:Nが“0”でないかどうか、つまり現時点で、エンジン回転数低下処理が行われているかどうかをチェックする(#63)。エンジン回転数低下処理が行われていない場合(#63No分岐)、この回転数低下処理を取り消す必要ないのでこのサブルーチンを終了する。エンジン回転数低下処理が行われている場合(#63Yes分岐)、現状の基準エンジン回転数と基準変速比が読み出される(#64)。現在実施されているエンジン回転数低下量を取り消すための回転数低下取消指令を生成するとともに(#65)、現在実施されている補償変速比を元の基準変速比に戻すための変速比変更指令を生成する(#66)。さらに、この回転数低下取消指令と変速比変更指令との実施に基づく車速変化がより少ない適切な指令実行タイミングを算定して、その指令実行タイミングを各指令に記述する(#67)。そして、回転数低下指令をエンジンECU5に送信し、変速比変更指令を変速ECU6に送信して(#68)、さらに処理回数:Nの値を“0”にして(#69)、このサブルーチンを終了する。
【0051】
上述したように、本発明によるエンジン回転数低下処理は、運転者がエンジン1に余力を感じた際に所定量のエンジン回転数を段階的に下げるために適しており、これにより燃料消費の節約が期待できる。例えば、このようなエンジン回転数低下処理による燃費改善を実験的評価して得られたグラフが
図12に示されている。このグラフから、基準回転数が2700rpmの時に、下げボタン90を1回押す毎に、約10%ずつ燃費が改善されることが理解できる。なお、上記の例では、説明を簡単にするため、基準回転数に関係なく200rpm単位で回転数を低下させる制御としていたが、基準回転数に応じてそこから低下させる単位低下回転数を変えることも可能である。
【0052】
上述したように、本発明によるエンジン回転数低下処理では、燃費の改善が車速の実質的変化なしで行われるので利点が大きいが、エンジン回転数の低下がPTO回転数の低下に連動するため、PTO作業を行っている場合には、不都合を生じる場合がある。但し、
図13に示すように、エンジン1からの回転動力を外部作業機4に伝達するPTO伝動系12に複数段のPTO変速装置12Aが備えられている構成では、そのPTO回転数の低下が大きくなれば、PTO変速装置12Aの変速段をアップすることで、できるだけPTO回転数の低下を低減させる変速段の選択を促す報知を行う。PTO変速装置12Aの変速段はそれほど多く用意されていないので、エンジン回転数の低下を正確に補償するような変速段を設定することは困難であるが、PTO回転数の変動が最も少ない変速段を選ぶとよい。PTO変速装置12Aが、油圧制御ユニット6aを介して変速ECU6から変速段の選択が行える構成の場合、エンジン回転数低下をこのPTO変速装置12Aの変速段に選択に連動させることが可能となる。また、PTO変速装置12Aに無段変速装置を採用した場合には、本発明によるエンジン回転数低下処理において、実質的には、PTO回転数を一定に維持することができる。なお、PTO変速装置12Aの変速段は、直接変速段を検出するセンサを設けてもよいが、より簡単には、エンジン回転数とPTO回転数とから変速段を算定するとよい。
【0053】
上記のフローチャートを用いたエンジン回転数低下処理の説明では、説明を簡単にするため、基準回転数から低下回転数を算定するための所定量を200rpmとしていたが、これは自由に設定可能である。また、この所定量は、一連のエンジン回転数低下処理において同じ値を使う必要もなく、下げボタン90の操作回数毎に変えてもよい。また、下げボタン90が操作された時点で、HMT20の変速範囲に余裕がなく、200rpmのエンジン回転数低下を補償するだけの変速比(増速)を設定することができない場合、HMT20で設定可能な変速比に適合するように低下回転数を算定するための所定量(<200rpm)を決定する。このような構成を採用する場合、下げ処理履歴メモリ73には、戻し指令によって元の状態に復帰するに必要なデータ、例えば、下げボタン90の各操作時のエンジン回転数の低下量と設定変速比などが格納される。つまり、より一般的に言えば、このエンジン制御ユニット5に与える回転数低下指令に含まれる低減エンジン回転数は、当該低減エンジン回転数によるエンジン回転数の低下がHMT20における変速比の変更によって補償することできるように算定される。このことを
図1で説明すると、下げ操作信号が入力されると、現変速比に基づいて変速比(増速)の余裕度を判断し、その余裕度と限界エンジン回転数低下量(例えば200rpm)とから実行すべきエンジン回転数低下量を算定し、その算定された低下量を示す回転数低下指令がエンジンECU5に与えられる。
【0054】
HMT20における変速比に余裕がない場合、つまり斜板角が限度でエンジン回転数の低下を補償する変速比の変更が不可能な場合は、
図7のフローチャートでは下げ処理不可とみなし、下げ処理不可の対処処理としてステップ#17で下げ処理不可が報知される。この下げ処理不可の対処処理として、この下げ操作信号の入力は一旦受け入れ、HMT20の変速比が下げられた時に(減速)、当該下げ操作信号に基づくエンジン回転数低下処理を実行することも可能である。この下げ操作信号の仮受付を複数回可能とすれば、下げボタン90の操作回数分だけ、その後のHMT20の変速状態の変化(減速)に適用する分のエンジン回転数低下処理を実行することになる。つまり、エンジン回転数の低下を補償する変速比の変更が不可能な場合は、当該変更が可能になるまで回転数低下指令のエンジンECU5への付与が猶予されるのである。
【0055】
上記のフローチャートを用いたエンジン回転数低下処理の説明では、下げボタン90の操作による下げ操作指令よって実行された1つ以上のエンジン回転数低下イベントは戻しボタン91の操作による戻し操作指令により順次解消される。この戻し操作指令は、他の操作によっても省エネ変速モジュール7に与えることができる。例えば、高低副変速装置24を低速段から高速段に切り替えるための変速切り替え指令を戻し操作指令とみなして、その時点で実行されているエンジン回転数低下状態を解消する。一般に、作業車両における高低副変速装置24の高速段は、アクセル操作が頻繁に発生する路上走行時に適用される。このようなエンジン回転数が頻繁に変動する運転状況では、エンジン回転数低下処理を解消したほうがよい。従って、低速段または中速段から高速段への切り替えと同時にエンジン回転数低下処理を解消することは利点がある。その際、下げ操作が複数回行われているような場合には、一回分だけ戻してもよいが、好ましくは全ての回数分のエンジン回転数低下を戻すとよい。但し、急速な車速の変化を回避するため、そのエンジン回転数低下の戻し、つまりエンジン回転数増加はゆっくりと行うことが好ましい。
【0056】
〔別実施形態〕
(1)上述した実施の形態では、無段式の変速機構が用いられており、運転者は任意の無段階変速位置を設定可能としていたが、本発明の変速制御システムは有段式変速装置にも適用可能であり、その際補償変速比の選択は最も近い補償変速比を与える変速段を選択することになる。また、無段式の変速装置が用いられていても、運転者は段階式に設定される変速レバーによって有段的にしか変速位置を選択できないものもある。このような変速装置2に対しても同様に本発明の適用が可能である。操作器を通じての操作指令に基づくエンジン回転数の低下及び補償変速比の変更が複数段階で実行されるものであるケースでは、戻し操作指令に基づくエンジン回転数の低下及び補償変速比の変更も段階的に行われるように構成される。
(2)変速比を段階的に設定することで複数の変速段を作り出される有段式変速装置に本発明を適用する場合には、前記操作指令に基づくエンジン回転数の低下及び補償変速比の変更は1段の変速段の変更に相当する単位で行うとよい。
(3)上述した実施の形態では、無段式変速機構として、HMTが採用されていたがこれに代えて、HSTやCVTなどが用いられても、本発明を同様に適用することができる。
(4)上述した実施の形態では、車両としてトラクタに変速制御システムを採用した例を示したが、田植機やコンバインや芝刈機やバックホウなどの他の作業車、乗用車、トラックなどにおいても、本発明を同様に適用することができる。