(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート造の建造物には、柱と梁との結合部を剛結合としたラーメン構造が多く採用されており、従来、柱の仕口部のコンクリートと梁のコンクリートとを同時に打設する現場打ちで構築されることが多かった。近年では、工期の短縮やコストの削減などを目的として、柱や梁をプレキャストコンクリートとして工場で製造するようにし、製造した部材を現場で組み立ててラーメン架構を構築してゆく工法が開発されている。
【0003】
プレキャスト製の構造部材は、トレーラーなどで工場から建設現場へ搬送され、タワークレーンなどの揚重機で所定の位置に配置される。そのため、部材の長さや重量に一定の制限がある。例えば、梁部材は、プレストレスを導入することで、重量増大を抑制しつつ軸方向長さを長くすることが可能であるが、現実的には工場から現場までの運搬が困難となるため、やはり部材長さを長くするには限度がある。
【0004】
ところで、梁にプレストレスを導入する場合には、曲げ耐力を効果的に向上させるために、PC鋼線などの緊張材を曲線状に配置することが多い。しかし、このような緊張材の配置は、シース管を位置決めするために治具が必要になり、設置に多大な手間がかかる。また、プレストレスの導入は通常、柱に架け渡した後に行うポストテンション方式となるため、プレストレス導入時の緊張やグラウト注入などの作業およびその管理が複雑になりがちであり、設置にも多大な労力と時間がかかる。
【0005】
このような課題を解決し得る発明として、プレキャストコンクリート梁を一対の端部ピースと中央ピースとに分割し、端部ピースには上端側に緊張材を直線状に配置し、中央ピースには下端側に緊張材を直線状に配置して予めプレテンション方式のプレキャストプレストレストコンクリート製(以下、PCaPCと記す。)部材として製造するものとし、現場においては、中央ピースを端部ピースの間に配置した状態で、互いに対向する接合端面から突出させた主筋同士を重ね合わせ、中央ピースと端部ピースとの間の接合部に現場打ちコンクリートを打設することで、これらピースを一体化するようにした発明が提案されている(特許文献1参照。)。この発明によれば、プレテンション緊張材を直線状に配置することで各ピースの製造を容易にし、現場でのプレストレスの導入を排除することにより、施工の容易化や工期の短縮が可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の発明では、ピース間の接合部に現場打ちコンクリートを使用するため、そのための型枠組立、鉄筋組立、コンクリート打設、養生などが必要となり、工期の短縮に更なる改善の余地があった。
【0008】
本発明は、このような背景に鑑みなされたものであり、プレキャスト品の製造および現場への搬送を容易としたうえで、現場での組立・設置作業をも容易にして工期の短縮が可能なプレキャストプレストレストコンクリート梁を提供することをその主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、軸方向に分割された3つのピースから構成され、一対の柱(2、2)間に架け渡されるプレキャストプレストレストコンクリート梁(10)であって、軸方向端部に配置される2つの端部ピース(11)はそれぞれ、一端に一体形成された前記柱の仕口部(2a)と、前記軸方向に延在する主筋(25)と、上部に配置されたプレテンション緊張材(27)とを有し、軸方向中央に配置される中央ピース(12)は、前記軸方向に延在する主筋(35)と、下部に配置されたプレテンション緊張材(37)とを有し、前記端部ピースの主筋と前記中央ピースの主筋とが鉄筋接合手段(40)により互いに接合されることにより、前記端部ピースと前記中央ピースとが互いに直接的に接合されるように構成する。ここで、直接的に接合とは、接合部に現場打ちコンクリートを打設することなく、グラウトなどの隙間埋め用の接合材のみを使用して或いは何も使用せずに接合することをいう。
【0010】
このような構成とすることにより、端部ピースおよび中央ピースの製造を容易にするとともに、現場への搬送も容易にできるうえ、現場でのピースの接合時に現場打ちコンクリートを使用せずにピース同士を直接的に接合できるため、組立・設置作業をも容易にして工期の短縮を図ることができる。
【0011】
また、本発明の一側面によれば、前記端部ピースの主筋の本数は、前記中央ピースの主筋の本数よりも多く、前記鉄筋接合手段が前記中央ピースの主筋の本数に合わせて設置される構成とすることができる。この構成によれば、端部ピースと中央ピースとについてそれぞれ最適な主筋の配筋を可能とし、且つ接合部では、本数が少ない側の中央ピースの本数に合わせて主筋を接合させることで、必要な曲げ耐力およびせん断耐力を確保するとともに、施工を容易にすることができる。また、鉄筋接合手段の設置スペースの確保が容易になるため、接合部の梁の小断面化も可能である。
【0012】
また、本発明の一側面によれば、前記鉄筋接合手段は、スリーブ部材(41)と、該スリーブ部材に前記主筋が挿入された状態で該スリーブ部材の内部に充填されるグラウト(4
2)とを有するものであり、前記中央ピースと前記端部ピースとの一方(11)において、前記主筋(25)が接合端面(11a)から延出するように配置され、前記中央ピースと前記端部ピースとの他方(12)において、前記スリーブ部材が接合端面(12a)に臨むように埋め込まれる構成とすることができる。この構成によれば、各ピースを軸方向に移動させて、一方の接合端面から延出する主筋を他方の接合端面に臨むスリーブ部材に挿入して主筋同士を容易且つ確実に接合することができる。
【0013】
また、本発明の一側面によれば、前記端部ピースは、前記仕口部側から前記中央ピース側へ向けてその高さが漸減するように形成され、前記中央ピースは、前記端部ピースの接合端面と同一の高さを有するように形成される構成とすることができる。オフィスビルなどの商業ビルにおいては、天井裏に空調、給排水、電力供給等のためのダクトや配管類が多数設置されることが多い。そこで、このような構成とすることにより、天井高さを低くすることなく中央ピースの下方にこれらの設置スペースを確保することができる。
【0014】
また、本発明の一側面によれば、前記端部ピースは、上側フランジ部(21)と、下側フランジ部(2
2)と、該上側フランジ部および該下側フランジ部を連結するウェブ部(23)とを有し、前記ウェブ部は、前記仕口部側から前記中央ピース側へ向けてその高さが漸減するように形成され、下側フランジ部は、前記仕口部との連結部(11b)において前記上側フランジよりも幅広に形成されるとともに、前記仕口部側から前記中央ピース側へ向けてその幅が漸減するように形成される構成とすることができる。この構成によれば、プレキャストプレストレスト梁の下方に配管類の設置スペースを確保できるうえ、曲げ応力が最も大きくなる仕口部との連結部における断面二次モーメントを効果的に大きくすることができ、梁の軽量化または設計耐荷重の増大を実現できる。
【発明の効果】
【0015】
このように本発明によれば、プレキャスト製造を容易とし、且つ現場への搬入および揚重を容易としたうえで、現場での組立・設置作業をも容易にして工期を短縮することのできるプレキャストプレストレストコンクリート梁を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明に係るプレキャストプレストレストコンクリート梁(以下、単にPCaPC梁10と記す。)をオフィスビルなどの多層建物の架構構造1に適用した実施形態について詳細に説明する。なお、
図1は、建物の基準階となる1つの階の架構構造1を示す平面図であり、ハッチングを省略して示している。図が煩雑となるのを避けるため、他の図においても必要に応じてハッチングを省略する。
【0018】
図1に示すように、架構構造1は、梁間方向および桁行方向に所定の間隔をもって矩形状に配置された複数の柱2と、建物の外周に沿って桁行方向に延在し、隣接する一対の柱2を連結する梁3と、建物の外周に沿って梁間方向に延在し、隣接する一対の柱2を連結する梁4と、建物の外周よりも内側にて梁間方向に延在し、対向する一対の柱2を連結する梁5とを備えている。なお、架構構造1は、
図1に想像線で示すように、外側に連結する架構をさらに備えていてもよい。また、建物の外周に配置されて耐力壁として機能する壁面構造体や壁ブレースなどを架構構造1が含んでいてもよい。
【0019】
これら柱2および梁3、4、5は、プレキャストコンクリート製の部材を接合して構築される。ここでは、柱2が梁間方向の2列に4本、桁行方向の2列に6本ずつ配置され、梁5が梁4よりも長く形成されて梁4の3スパン分を1スパンとして対向する一対の柱2間に架け渡されることで、架構構造1の内部に内柱のない広い空間が形成される。
【0020】
図2および
図3に示すように、長尺の梁5は、軸方向(梁間方向)に分割された3つのピース(一対の端部ピース11および中央ピース12)を接合部13で互いに接合させたPCaPC梁10によって構成される。PCaPC梁10は、当階の柱2を構成するPCa柱ピース50の上に架け渡され、さらにその上に上階の柱2を構成するPCa柱ピース50が載置され、両端が固定される。
【0021】
PCaPC梁10の軸方向端部に配置される2つの端部ピース11は、それぞれ一端に柱2の仕口部2aを含むように仕口部2aと一体形成されており、両端固定梁であるPCaPC梁10の曲げモーメントおよびせん断力が共に比較的小さくなる領域に接合部13が位置するようにその長さが設定されている。なお、PCaPC梁10の軸方向とは、梁5の両端面における断面中心を結んだ直線の方向をいうものとする。
【0022】
図4に併せて示すように、端部ピース11は、上端に配置された上側フランジ部21と、下端に配置された下側フランジ部22と、上側フランジ部21および下側フランジ部22をそれぞれの幅方向の中央にて連結するウェブ部23とを有するように構成される。上側フランジ部21および下側フランジ部22は、軸方向について同一厚さ且つ上側フランジ部21の方が下側フランジ部22よりも厚く形成されている。ウェブ部23は仕口部2a側から中央ピース12側へ向けてその高さが漸減するように形成されている。これにより、端部ピース11は仕口部2a側から中央ピース12側へ向けてその高さが漸減するアーチ形状となっている。
【0023】
また、
図3に示すように、端部ピース11の下側フランジ部22は、仕口部2aとの連結部11b(
図4の断面)において上側フランジ部21よりも幅広に形成されるとともに、仕口部2a側から中央ピース12側へ向けてその幅を漸減させ、中央ピース12に対する接合端面11aにおいて、
図5に示すようにウェブ部23と同一寸法になっている。したがって、端部ピース11は、接合端面11aにおいて断面がT字形となり、それ以外の部分において断面が略I字形となる。
【0024】
図6に示すように、中央ピース12は、上端に配置された上側平板部31と、上側平板部31の幅方向の中央から下方へ突出する下側突出部32とを有するように構成される。中央ピース12は、全長にわたって端部ピース11の接合端面11a(
図5の断面)と同一形状(断面T字形)および同一寸法を有するように形成されており、端部ピース11に対する両接合端面12aに対向配置された端部ピース11と接合部13で直接的に接合されている。つまり、上側平板部31が端部ピース11の上側フランジ部21と接合され、下側突出部32が端部ピース11の下側フランジ部22と接合される。
【0025】
ここで、直接的に接合とは、
図3に示すように隣接する両ピース11、12の接合部13(接合端面11a、12a間)に現場打ちコンクリートを打設することなく接合することを意味し、本実施形態においては、両接合端面11a、12a間に20mm程度の隙間を設け、この隙間にグラウト14を充填して端部ピース11と中央ピース12とを密着させるとともに、後述するように主筋25、35の接合によって両ピース11、12を互いに接合させている。なお、両接合端面11a、12aの平坦性を確保して両ピース11、12を密着させることが可能であれば、グラウト14を充填することなく接合端面11a、12a同士を直接当接させた状態で接合させてもよい。
【0026】
各ピース11、12がこのような形状とされたことにより、
図2に示すようにPCaPC梁10の梁成が中央部において小さくなり、その下端面とその下方に配置される図示しない天井パネルとの間に配管類などを配置できる空間が形成される。そして、PCaPC梁10の上には、スラブパネル15(ここでは、複数のコア孔が形成されたPCa製のもの)が載置され、さらにその上に現場打ちコンクリートからなるトップコンクリート16が形成されることで、スラブパネル15とトップコンクリート16とが一体となった合成床が構築される。なお、スラブパネル15を用いる代わりに、現場打ちコンクリートによってスラブを構築してもよい。
【0027】
図4および
図5に示すように、端部ピース11の上側フランジ部21の内部には、主筋25として6本の上端筋25aおよび6本の下端筋25bの計12本がそれぞれ軸方向に平行且つ均等間隔に配置され、これら主筋25を取り囲む肋筋26aが軸方向に所定の間隔に配置されている。また、主筋25(25a、25b)および肋筋26aの内側には、直線状のプレテンション緊張材27が軸方向に平行に複数(ここでは2段、6列の計12本)配置されている。
【0028】
端部ピース11の下側フランジ部22の内部には、仕口部2aとの連結部11b(
図4)において主筋として6本の下端筋25c、25dが均等間隔に配置され、中央ピース12に対する接合端面11a(
図5の断面)において2本の下端筋25cが配置されている。これら主筋25(25c、25d)は、下側フランジ部22の下面のアーチ形状に沿って曲線状に配置される一方、
図7に示すように平面視においては、幅方向の両端に位置する下端筋25cが下側フランジ部22の幅の変化に合わせて軸方向に対して斜めに配置されて接合端面11aから突出し、それ以外の下端筋25dが軸方向に平行に配置されて接合端面11aに至らない長さとされている。
図4、
図5に戻り、これら主筋25(25c、25d)を取り囲むように、肋筋26bが幅寸法を変えながら所定の間隔に配置されている。また、肋筋26bの内側における左右両端には2本の上端筋25eが配置されている。
【0029】
端部ピース11のウェブ部23の内部(正確には、ウェブ部23を上下に延長した領域)には、上側フランジ部21の幅方向の中央に配置された上下4本の主筋25および下側フランジ部22の幅方向の中央に配置された2本の主筋25を取り囲む肋筋26cが、ウェブ部23の高さの変化に合わせて高さ寸法を変えながら所定の間隔に配置されている。
【0030】
図6に示すように、中央ピース12の上側平板部31の内部には、主筋35として4本の上端筋35aがそれぞれ軸方向に平行且つ均等間隔に配置され、これら主筋35を取り囲むように肋筋36aが所定の間隔に配置されている。また、肋筋36aの内側における左右両端には2本の下端筋35bが配置されている。
【0031】
中央ピース12の下側突出部32の内部には、主筋35として2本の下端筋35cがそれぞれ軸方向に平行に配置されている。上側フランジ部21の幅方向の中央に配置された2本の上端筋35aおよび下側突出部32の2本の下端筋35cを取り囲むように肋筋36cが所定の間隔に配置されている。また、肋筋36cの内側下部には、直線状のプレテンション緊張材37が軸方向に平行に複数(ここでは3段、2列の計6本)配置されている。
【0032】
中央ピース12に配置された6本の主筋35(35a、35c)の両端には、
図2に示すようにそれぞれ中央ピース12に埋め込まれる態様で鉄筋継手40が取り付けられている。この鉄筋継手40により、中央ピース12の主筋35と端部ピース11の対応する主筋25とが互いに接合される。鉄筋継手40は具体的には
図7の部分拡大図に示すように、中央ピース12の主筋35の端部に取り付けられて中央ピース12の接合端面12aに臨むように埋め込まれる金属製のスリーブ41と、スリーブ41に端部ピース11の主筋25が挿入された状態でスリーブ41の内面と主筋25の外面との間に充填されるグラウト42とから構成される機械式継手である。
【0033】
したがって、端部ピース11の接合端面11aに配置された14本の主筋25のうち、中央ピース12の主筋35と対応する位置に配置された6本の主筋25のみが、スリーブ41に挿入されるべく接合端面11aから延出するように配置され、残りの
8本の主筋25は、接合端面11aから延出しないように配置される。
【0034】
他方、端部ピース11に一体形成された仕口部2aには、平面視(
図3)において、その周縁に沿う柱主筋51に合わせた位置に複数のシース17が配置されている。シース17は、仕口部2aの上面から下面に至るように埋め込まれており、仕口部2aに上下方向の貫通孔を形成しており、その上方に配置されるPCa柱ピース50の下面に突出形成された柱主筋51(
図9(F)参照)をその下方に配置されるPCa柱ピース50へ至るように貫挿させる。
【0035】
また、
図9(F)を参照すると、PCa柱ピース50には、柱主筋51の上端に取り付けられた鉄筋継手52のスリーブ53がPCa柱ピース50の上面に臨むように埋め込まれている。そして、柱主筋51は、PCa柱ピース50の下面から下方へ延出するように配置され、柱主筋51の延出した部分が端部ピース11のシース17を貫通し且つ下方のPCa柱ピース50のスリーブ53に挿入された状態でシース17およびスリーブ53内にグラウト54が充填されることで、PCa柱ピース50、端部ピース11および上階のPCa柱ピース50が一体接合される。なお、ここでも各ピース11、50が密着するように互いに対向する接合端面間にグラウトを充填してもよい。
【0036】
端部ピース11および中央ピース12は、それぞれ専用のPC工場で成形されるプレキャスト製品であり、それぞれ型枠内に設置したプレテンション緊張材27、37に張力を加えて緊張した状態でコンクリートを打設し、コンクリートの硬化後に張力を除去してコンクリートにプレストレスを導入するプレテンション方式のPCaPC成形品である。プレテンション緊張材27、37としては、表面が滑らかな円形断面のPC鋼線を用いてもよいが、表面に凹凸が形成されたインデントPC鋼線を用いたり、PC鋼より線の端部に圧着グリップを設けたりして付着強度を確保することが望ましい。
【0037】
このように、プレテンション方式のPC梁では、コンクリートに対する付着によりプレテンション緊張材27、37の定着を図るため、定着具およびグラウト注入によって定着を図るポストテンション方式のPC梁に比較して、緊張材端部にプレストレスを導入することが難しいが、
図2に示すように端部ピース11が仕口部2aを含むように形成されてプレテンション緊張材27が仕口部2aの側端面に至るように配置されたことにより、曲げモーメントが最も大きく、大きな引張力が作用するPCaPC梁10の仕口部2aとの連結部11b上部にも必要なプレストレスを導入することが可能になっている。
【0038】
一方、端部ピース11のプレテンション緊張材27は上部に配置され、中央ピース12のプレテンション緊張材37は下部に配置されているため、両緊張材27、37は互いに接合されるものではなく、端部ピース11の接合部13近傍、および中央ピース12の接合部13近傍においても、緊張材端部が定着に供されるためにプレストレスが導入されないことになる。しかし、上記したように、接合部13が曲げモーメントの小さな領域に設けられているため、この部分の断面性能が問題となることはなく、曲げモーメントによって引張力が大きくなる中央ピース12の軸方向中央下部には必要なプレストレスが導入される。
【0039】
そして、端部ピース11と中央ピース12とが、主筋25、35の接合によって直接的に接合する構成とされているため、接合部13に現場打ちコンクリートを打設する必要がなく、そのための型枠組立、鉄筋組立、コンクリート打設、養生などの作業が不要となり、PCaPC梁10の組立・設置作業が容易になるとともに工期の短縮が可能になる。
【0040】
また、端部ピース11の主筋25の本数が中央ピース12の主筋35の本数よりも多く、鉄筋継手40が中央ピース12の主筋35の本数に合わせて設置される構成とされたことにより、端部ピース11と中央ピース12とについてそれぞれ最適な主筋25、35の配筋が可能となり、且つ接合部13では、本数が少ない側の中央ピース12に合わせて主筋25、35を接合させることで、必要な曲げ耐力およびせん断耐力を確保するとともに、施工の容易性が図られる。また、これにより、鉄筋継手40の設置スペースの確保が容易になるため、接合部13周辺の小断面化が可能となり、上記形状のPCaPC梁10が実現可能となっている。
【0041】
また、鉄筋継手40が、中央ピース12の主筋35の端部に取り付けられたスリーブ41と、接合端面11aから延出するように形成された端部ピース11の主筋25をスリーブ41に挿入した状態でスリーブ41内に充填されるグラウト42とから構成される機械式継手とされたことにより、各ピース11、12を軸方向に移動させて、延出する主筋25をスリーブ41に挿入して主筋25、35同士を容易且つ確実に接合することが可能である。
【0042】
そして、端部ピース11が仕口部2a側から中央ピース12側へ向けてその高さが漸減するように形成され、中央ピース12が端部ピース11の接合端面11aと同一高さ寸法を有するように形成されたことにより、天井高さを低くすることなく、天井裏に空調、給排水、電力供給等のためのダクトや配管類などの設置スペースを確保でき、特にオフィスビルなどの商業ビルに対する付加価値を提供することになる。
【0043】
さらに、端部ピース11が上側フランジ部21、下側フランジ部22およびウェブ部23を有し、ウェブ部23が仕口部2a側から中央ピース12側へ向けてその高さを漸減させるように形成され、下側フランジ部22が仕口部2aとの連結部11bにおいて上側フランジ部21よりも幅広に形成されるとともに、仕口部2a側から中央ピース12側へ向けてその幅を漸減させるように形成されたことにより、PCaPC梁10の下方に配管類の設置スペースを確保できるうえ、梁5の曲げ応力が最も大きくなる仕口部2aとの連結部11bにおける断面二次モーメントを効果的に大きくして、梁の軽量化または設計耐荷重の増大が実現できる。
【0044】
加えて、端部ピース11の主筋25と中央ピース12の主筋35とを鉄筋継手40により接合する際には軸方向への移動が必要になるが、端部ピース11の仕口部2aに、上階のPCa柱ピース50の下面に突出形成された柱主筋51を当階のPCa柱ピース50へ至るように貫挿させるシース17が埋め込まれ、PCaPC梁10を載置する下方の柱ピース50から柱主筋51が伸びていないことにより、梁ピースをPCa柱ピース50上で直接組み立てることができるため、PCaPC梁10の設置のために大型の揚重機が必要なく、既設のタワークレーンのみで組立・設定作業を行うことができる。そのため、PCaPC梁10の組立用に専用のヤードも必要ない。
【0045】
なお、桁行方向に延在する梁3を構成するPCa梁部材の柱2への接合構造は、本発明に直接関わるものではないため、図示や詳細な説明は省略するが、例えば、端部ピース11の仕口部2aに鉄筋継手のスリーブを埋め込んでおいたり、梁主筋をPCa梁部材に対する接合端面から延出するように配置しておき、PCa梁部材の接合端面に鉄筋継手のスリーブを埋め込んでおいたりしてもよく、或いは、端部ピース11を、柱2の仕口部2aに加えて分割した梁3の端部を一体に含むように構成し、梁端部の接合端面にPCa梁部材を接合するようにしてもよい。
【0046】
次に、
図8および
図9を参照して、PCaPC梁10の組立・設置手順について説明する。
【0047】
まず、(A)に示すように、上述した構成を有する端部ピース11および中央ピース12、並びにPCa柱ピース50をPC工場などで製造し、これをトレーラーなどで現場へ搬入する。次に、(B)に示すように、PCaPC梁10の接合部13近傍を支持させるべく予め用意しておいた2基の架台60を一対のPCa柱ピース50(柱2)の間に配置する。この架台60は、組立の際に端部ピース11および中央ピース12を支持するものであり、高さ調整や組立後の撤去が可能なようにねじジャッキなどの高さ調整手段61が組み込まれたものである。ここでは、各架台60が複数の型枠支保工用のパイプサポートを備えるように構成されている。その後、(C)に示すように、端部ピース11の1つを図示しないタワークレーンにより吊り上げ、一端を架台60に支持させる状態でPCa柱ピース50上の所定の位置に配置する。この状態では、端部ピース11の接合端面11aから延出する6本の主筋25が水平方向に延在している。
【0048】
次に、(D)に示すように、中央ピース12を同様にタワークレーンで水平に吊り上げて架台60上で水平に移動させ、端部ピース11の主筋25を中央ピース12のスリーブ41に挿入させながら所定の位置(接合端面11a、12a間にグラウト14充填用の隙間が形成される位置)まで移動させる。そして、その両端を2基の架台60に支持させる。同様にして(E)に示すように、残りの端部ピース11をタワークレーンで水平に吊り上げて架台60およびPCa柱ピース50上で水平に移動させ、端部ピース11の主筋25を中央ピース12のスリーブ41に挿入させながら所定の位置まで移動させて、その両端を架台60およびPCa柱ピース50に支持させる。
【0049】
その後、中央ピース12に埋め込まれたスリーブ41に無収縮モルタルなどのグラウト42を注入して主筋25とスリーブ41とを固定するとともに、端部ピース11と中央ピース12との接合部13の隙間にも同様にグラウト14を充填して隣接する各ピース11、12を直接的に接合する。
【0050】
その後、或いはこれと並行して、(F)に示すように、上階のPCa柱ピース50を仕口部2aの上に固定して上階のPCa柱ピース50、端部ピース11および当階のPCa柱ピース50を一体接合する。具体的には、PCa柱ピース50を鉛直状態に吊り上げ、柱主筋51を下面から鉛直に突出させた状態で降下させ、延出する柱主筋51を仕口部2aのシース17に挿入する。PCa柱ピース50を仕口部2aの上面に載置すると、柱主筋51の下端部が下方のPCa柱ピース50のスリーブ53に挿入された状態となるので、シース17およびスリーブ53にグラウト54を注入して上下両PCa柱ピース50の柱主筋51を接続することで上階のPCa柱ピース50、端部ピース11および当階のPCa柱ピース50を一体接合する。これにより、1階分のPCaPC梁10の組立・設置作業が完了するので、上記手順を繰り返して多層建物の架構構造1を構築する。
【0051】
以上で具体的実施形態についての説明を終えるが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。各部材の具体的形状や、配置、数量などは、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、上記実施形態では、各ピース11、12を所定の設置位置に配置しながらPCaPC梁10を組み立てているが、組み立てたPCaPC梁10を揚重できる設備があれば、本来の設置位置とは別の組立ヤードで組立作業を行った後に、PCaPC梁10を所定の設置位置に配置してもよい。このようにすれば、PCaPC梁10を載置すべきPCa柱ピース50の上面から柱主筋51が延出した状態でPCaPC梁10を載置する工法に対しても、PCaPC梁10を適用することができる。また、上記実施形態では、中央ピース12が一定の断面形状を有するように構成しているが、断面形状が変形するようにしてもよい。一方、端部ピース11については梁部分の全長にわたって高さが漸減するようにしているが、一部の区間で同一断面となるような形態としてもよい。さらに、上記実施形態では、端部ピース11の上側フランジ部21に配置された主筋25のすべてが接合端面11aに至るような長さとされているが、鉄筋継手40と接合しない主筋25については、その長さを短くして接合端面11aに至らないようにしてもよい。また、上記実施形態に示した本発明に係るPCaPC梁10の各構成要素およびPCaPC梁10の各組立・設置ステップは、必ずしも全てが必須ではなく、少なくとも本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて適宜取捨選択することが可能である。