(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
人体を支持する基体の体圧作用面上に複数のセルが配設されていると共に、該セルの内部に形成された流体室の圧力を調節して該セルの高さを変更設定する圧力調節手段が設けられているマットレスにおいて、
前記セルの体圧作用面上に弾性を有するクッション層が設けられている一方、該セルの高さ方向中間部分に括れ部が形成されており、該セルが該括れ部において首振り変形するようになっていると共に、該セルの底面の中央部分だけが前記基体によって支持されており、該セルが該基体に対する傾動を許容されていることで、該セルの体圧作用面が該クッション層の変形に追従して傾斜するようにしたことを特徴とするマットレス。
前記クッション層が第1クッション層と第2クッション層を重ね合わせた2層構造とされており、それら第1クッション層と第2クッション層の間に体荷重を計測する体圧センサが配設されている請求項1〜4の何れか1項に記載のマットレス。
【背景技術】
【0002】
従来から、介護用ベッド等における人体の支持部分には、クッション作用を有するマットレスが採用されており、人体を弾性的に支持することで寝心地の改善が図られている。このマットレスは、例えば、ウレタンフォーム等の弾性材によって形成されている。
【0003】
ところで、寝返りをすることが困難な使用者等が、一般的なマットレスを長期に亘って連続的に使用すると、体圧(人体の荷重による圧力)の反力が使用者の局所に連続して作用することから、血流の悪化等に起因する褥瘡が生じるおそれがある。そこで、褥瘡の発生を防止するために、流体の圧力を利用して使用者の体圧の作用位置を変化させて、実質的に使用者に作用する体圧の反力を分散させることが可能な可動式のマットレスも提案されている。即ち、この可動式のマットレスは、体圧の作用部分(人体の支持部分)が複数のセルで構成されており、各セルの流体室に外部から空気等の流体が送入/排出されてセルの内圧が調節されることにより、セルの高さが所定時間毎に変更設定されるようになっている。これにより、実質的に使用者の体を支持するセルと支持しないセルが所定時間毎に入れ替えられて、使用者の体の一部が体圧の作用で長期に亘って圧迫されるのを防ぐようになっている。例えば、特許第4494818号公報(特許文献1)が、それである。
【0004】
ところが、特許文献1に示されているような、定期的なセルの伸縮によって人体支持部位を変化させる可動式のマットレスでは、使用者がマットレス上で必要以上に揺さ振られて、船酔いに類似する不快感を覚える場合があり、使用者が悪心や嘔気を催す要因ともなり得ることから、寝心地の改善が求められていた。
【0005】
また、特許第2615206号公報(特許文献2)には、体圧の分散化を目的として、セルの高さを調節することでマットレス表面の形状を人体の凹凸に合わせることが可能なマットレスが示されている。かかるマットレスによれば、使用者の体の凸部(臀部等)に荷重が集中的に作用するのを防ぐことができると共に、揺さ振られ感による悪心や嘔気が防止されるものと考えられた。
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載されたマットレスでは、各セルを所定の方向に保持するために、セル間を相互に連結する支持部材が設けられており、セルの変形が上下方向に略限定されていることから、体圧の分散機能が未だ充分ではなかった。即ち、特許文献2の構造では、滑らかな湾曲形状を呈する人体表面に対して、マットレスの表面形状が段差状にしか追従し得ないことによって、例えばセルの外周部分と人体との当接部分等に体圧が集中的に作用して、褥瘡が生じるおそれがあった。
【0007】
しかも、セルが支持部材によってマットレスの面方向で相互に位置決めされていることによって、マットレス表面の面方向への変形や変位が制限されており、使用者がマットレスの面方向に体を動かす場合に、使用者とマットレス表面の間で摩擦が生じて、褥瘡の原因となるおそれもあった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、使用感が向上されると共に、体圧分散による褥瘡の防止が有効に実現される、新規な構造のマットレスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明の第1の態様は、人体を支持する基体の体圧作用面上に複数のセルが配設されていると共に、該セルの内部に形成された流体室の圧力を調節して該セルの高さを変更設定する圧力調節手段が設けられているマットレスにおいて、前記セルの体圧作用面上に弾性を有するクッション層が設けられている
一方、該セルの高さ方向中間部分に括れ部が形成されており、該セルが該括れ部において首振り
変形する
ようになっていると共に、該セルの底面の中央部分だけが前記基体によって支持されており、該セルが該基体に対する傾動を許容されていることで
、該セルの
体圧作用面が該クッション層の変形に追従して傾斜するようにしたことを、特徴とする。
【0011】
このような第1の態様に従う構造とされたマットレスによれば、クッション層に使用者の体圧が作用してクッション層が凹み変形する際に、セルの上面にはクッション層との摩擦等によって面方向の力が作用する。その際、セルに括れ部が設けられていることにより、セルの括れ部よりも上側部分が下側部分に対して相対的に傾動する、換言すれば、セルが括れ部において首振り傾動することにより、セルの上面が傾斜する。これにより、セルの上面がクッション層の凹み形状に沿って、クッション層がセルによって広い面積で支持されると共に、クッション層がセルによって略一定のピッチで偏りなく支持される。それ故、使用者の体がセルによってより広い面積で略均一に支持されることから、使用者の体圧の分散化が図られて、体圧の集中的な作用による褥瘡の発生が防止されると共に、快適な寝心地が実現される。
【0012】
また、セルに括れ部が形成されていることにより、セルの投影面積を大きくすることなく、流体室の加圧によるセルの最大高さを高くすることが可能となって、セルのストロークが大きく確保されることで、底付きを防止しつつ、セル高さの制御による体圧分散を実現することができる。
【0013】
また、各セルが括れ部において変形することで、それらセルの上面が相対的な水平方向への変位を許容されている。これにより、使用者がクッション層の面方向に体をずらした場合には、セル上面の変位によって、クッション層が使用者の体に追従して変位する。それ故、使用者の体とクッション層との間に摩擦が生じるのを防いで、摩擦に起因する褥瘡の発生も防止される。
【0014】
また、相互に独立した複数のセルの上にクッション層が設けられていることにより、使用者はセルの隙間を感じることなく、クッション層の連続した表面によって支持されることとなる。それ故、相互に独立して傾動を許容されたセルを採用することによる支持面(体圧作用面)の不安定感が解消されて、良好な寝心地を提供することが可能となる。
【0015】
上記本発明の第
1の態
様に記載されたマットレスにおいて
は、
該セルの底面の中央部分
だけが前記基体によって支持されており、該セルが該基体に対する傾動を許容されている
態様が、採用されている。
【0016】
このような上記第
1の態様によれば、セルにおける括れ部よりも上側部分が、基体に対して傾動した下側部分に対して相対的に首振り傾動することで、セル上面の傾斜角度の自由度をより大きくすることができる。従って、クッション層が部分的に大きく凹み変形した場合にも、セルの上面がクッション層の形状に追従して、体圧の分散化や良好な寝心地を実現することができる。
【0017】
特にセルが底面の中央部分において基体に支持されていることにより、セルがどの方向に傾動する場合でも同じように傾動を許容することができて、クッション層における凹み変形の位置に関わらず、安定してセル上面の追従性が発揮される。
【0018】
本発明の第
2の態様は、第
1の態様に記載されたマットレスにおいて、前記複数のセルの高さが、前記圧力調節手段によって相互に独立して変更設定可能とされているものである。
【0019】
第
2の態様によれば、クッション層の部分的な凹み変形に対してセルの高さを精度よく対応させることが可能とされて、体表面の形状に沿うことによる体圧の分散化や良好な寝心地がより効果的に実現される。
【0020】
また、各セルの空気圧が独立して調節されることから、セルの間で流体が移動することはなく、1つのセルが強く圧迫されたとしても、そのセルの流体が他のセルに流れ込むことはない。それ故、流体圧を利用する従来のマットレスで問題となり易い流体の流動による不安定感が解消されて、良好な寝心地を安定して提供することができる。
【0021】
本発明の第
3の態様は、第1
又は第2の態様に記載されたマットレスにおいて、前記セルが高さ方向の投影において角丸矩形状とされているものである。
【0022】
第
3の態様によれば、セル上面の面積を大きく確保することができて、より広い面積でクッション層ひいては使用者の体を支持することができることから、体圧の分散化や寝心地の改善が有効に実現される。しかも、角部が丸められていることによって、膨張状態のセルに更に体圧が作用した場合等に、応力の集中による角部の損傷が防止されて、耐久性の向上が図られる。
【0023】
本発明の第
4の態様は、第1〜第
3の何れか1つの態様に記載されたマットレスにおいて、弾性を有する枠体が設けられており、該枠体の内周側に前記複数のセルが配設されているものである。
【0024】
第
4の態様によれば、枠体によって最外周に配設されるセルの外側への倒伏が防止されて、各セルが基体上に安定して立設される。しかも、枠体が弾性を有していることによって、使用者が枠体に腕等を打ち付けても負傷するといった不具合が生じないと共に、ベッドの背上げ等においてマットレスの屈曲変形が枠体によって阻害されることもない。
【0025】
本発明の第
5の態様は、第1〜第
4の何れか1つの態様に記載されたマットレスにおいて、前記クッション層が第1クッション層と第2クッション層を重ね合わせた2層構造とされており、それら第1クッション層と第2クッション層の間に体圧を計測する体圧センサが配設されているものである。
【0026】
第
5の態様によれば、例えば、体圧センサの検出結果に基づいて圧力調節手段が流体室の圧力を調節することによって、使用者の身体的な特徴による体圧分布の個人差や姿勢の変化等に応じてセルの高さを設定することができて、体圧の分散化等を効率的に実現することが可能となる。しかも、弾性を有するクッション層が第1クッション層と第2クッション層からなる2層構造とされて、それら第1, 第2クッション層の間に体圧センサが配設されることにより、寝心地への悪影響が抑えられると共に、体圧センサがクッション層によって保護されることで耐久性の向上が図られる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、括れ部を有するセルの体圧作用面上にクッション層が設けられており、クッション層の変形に伴ってセルが括れ部において首振り傾動することで、セルの体圧作用面が凹み変形したクッション層の形状に沿って傾斜するようになっている。これにより、セルの体圧作用面が使用者の体表面の凹凸に合わせて傾斜して、使用者の体がセルによってより広い面積で支持されることから、体圧の分散化による褥瘡の防止が実現される。しかも、クッション層を設けたことによって、セルの首振り変位を許容することによる支持面の不安定感が緩和されて、優れた寝心地を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0030】
図1,
図2には、本発明の1実施形態としてのマットレス10が示されている。マットレス10は、マットレス本体12を含んで構成されており、そのマットレス本体12が、箱状の筐体部14と、筐体部14に収容された複数のセル16とを、備えている。なお、以下の説明において、上下方向とは、原則として、鉛直上下方向である
図2中の上下方向を言う。
【0031】
より詳細には、筐体部14は、全体が弾性を有するクッション材で形成されており、枠体18の下側開口部に基体としての底部マット20が嵌め込まれていると共に、枠体18の上側開口部にクッション層としての天部マット22が嵌め込まれて形成されている。
【0032】
枠体18は、全体が多孔質のウレタンフォームで形成された弾性を有する部材であって、互いに平行をなすように配置された頭部側ブロック24と脚部側ブロック26が一対の側方ブロック28,28で連結された構造とされて、上下方向視で矩形枠状を呈している。なお、枠体18の形成材料は、特に限定されるものではなく、発泡性材料にも限定されないが、人体への接触や後述する背上げ時の変形追従性等を考慮すると、ウレタンフォームのような弾性を有する材料で形成されていることが望ましい。
【0033】
底部マット20は、枠体18に比して上下方向で薄肉とされた矩形板状の部材であって、本実施形態では多孔質のウレタンフォームによって形成されている。また、底部マット20は、上下方向視の形状が枠体18の開口部と対応しており、枠体18の下側開口部に嵌め込まれている。
【0034】
天部マット22は、底部マット20よりも厚肉の矩形板状を有する部材であって、それぞれが多孔質のウレタンフォームで形成された第1クッション層としての表層部30と、第2クッション層としての裏層部32とを有する2層構造とされている。また、天部マット22は、上下方向視の形状が底部マット20と略同一とされており、枠体18の上側開口部に嵌め込まれている。なお、表層部30と裏層部32は同一の材料で形成されていても良いが、弾性係数等が異なる材料で形成することで、より優れた寝心地が発揮され得る。
【0035】
また、天部マット22には、体圧センサ34が配設されている。体圧センサ34は、柔軟なシート状とされて、天部マット22の表層部30と裏層部32との間に挟み込まれて配設されており、それら表層部30と体圧センサ34と裏層部32が上下に重ね合わされている。体圧センサ34の具体的な構造は、特に限定されるものではないが、例えば、特開2011−75322号公報に示されているような、シート状の静電容量型センサが好適に採用される。即ち、ゴム弾性体等で形成された誘電体層の一方の面に帯状で柔軟な第1電極膜が配置されていると共に、他方の面に第1電極膜と略同一形状で異なる方向を長手とする第2電極膜が配置されており、それら第1, 第2電極膜の対向部分に検出部が構成されるようになっている。そして、検出部に体圧等の外力(体荷重)が作用すると、誘電体層の厚さ(第1,
第2電極膜の対向面間距離)が変化して、検出部に構成されるコンデンサの静電容量が変化することから、静電容量の変化に基づいて検出部に作用した体圧が検出されるようになっている。体圧センサ34は、寝心地に悪影響を及ぼさないために、薄肉であると共に、柔軟性を有することが望ましい。尤も、体圧センサ34としては、静電容量型センサの他、歪ゲージや磁歪体を用いたロードセル等を用いることも可能である。
【0036】
なお、特開2011−75322号公報では、縦16×横16で配置された検出部によって、256箇所の荷重を測定可能とされているが、本実施形態では、体圧センサ34の検出部の数は、後述するセル16の数に応じて設定されており、検出部が縦21×横7で配置されて、147箇所の荷重を測定可能とされる。この体圧センサ34の検出部の数は、必ずしもセル16の数と同数に限定されるものではなく、例えば、セル16よりも多くの検出部を設けて、より高精度に体荷重を検出することもでき得る。
【0037】
このような構造とされた筐体部14には、複数のセル16が収容配置されている。セル16は、
図3〜
図7に示されているように、平面視(高さ方向視)で角部が円弧上に丸められた略矩形(角丸矩形状)を呈する袋状乃至は風船状とされており、上側袋状部36と下側袋状部38を組み合わせた構造とされている。より詳細には、上側袋状部36が下方に開口する逆向きの略巾着形状を呈していると共に、下側袋状部38が上方に開口する略巾着形状を呈しており、上側袋状部36の開口部と下側袋状部38の開口部を相互に固着することでセル16が形成されている。なお、本実施形態では、セル16の縦方向寸法と横方向寸法が略等しくなっているが、何れかが長くなっていても良い。
【0038】
また、セル16の内部には、流体室40が形成されている。この流体室40は、上側袋状部36の内側空間と、下側袋状部38の内側空間が、それら袋状部36,38の開口部を利用した連通部41を通じて相互に連通されることによって、形成されている。また、流体室40は、外部から略密閉されており、セル16の底部に貫設された筒状のポート42を通じて外部に連通されている。そして、ポート42を通じて流体室40内に空気等の流体が給排されることにより、流体室40の圧力が調節されて、セル16が、
図3〜
図5に示された膨張状態や、
図6,
図7に示された収縮状態、或いはそれらの中間状態に、切り替えられるようになっている。
【0039】
なお、
図5,
図7からも明らかなように、膨張状態のセル16は、収縮状態のセル16に比して、高さ寸法が大きくなると共に、縦横の長さ寸法(高さ方向視での投影面積)が小さくなる。また、セル16の内圧は、
図5に示された最膨張状態と
図7に示された最収縮状態の2段階にのみ設定されるものではなく、最膨張状態と最収縮状態の間で連続的に或いは段階的に設定されるようになっている。また、セル16に給排される流体は、空気に限定されるものではなく、例えば、水等の液体を用いることもできる。
【0040】
また、セル16の高さ方向中間部分には、括れ部44が形成されている。即ち、セル16を構成する上側袋状部36と下側袋状部38が何れも開口部に向かって次第に窄む形状とされていることによって、上側袋状部36と下側袋状部38の固着部分(開口部)に括れ部44が形成されている。これにより、セル16は、括れ部44の設けられた高さ方向中間部分において細くなっており、膨張時の縦断面において略8の字形乃至は瓢箪形を呈する2段構造とされている。なお、本実施形態では、括れ部44における横断面形状が、上側袋状部36および下側袋状部38の横断面形状と略相似の角丸矩形状とされている。
【0041】
かくの如き構造とされたセル16は、
図9に示されているように、複数が筐体部14に収容されている。即ち、枠体18の内周側において、底部マット20の上面に複数のセル16が略隣接して配列されており、各セル16の底面が中央部分(ポート42の周囲)において底部マット20に固着されて、セル16が底部マット20に対して傾動可能に支持されている。更に、セル16の上面には、天部マット22が非固着で重ね合わされて、枠体18の上側開口部に嵌着されている。なお、本実施形態では、
図1に示されているように、縦に21行、横に7列となるように、147個のセル16が配設されている。
【0042】
また、
図2では省略されているが、各セル16のポート42が底部マット20を貫通して配設されている。なお、ポート42は、底部マット20を貫通することなく、底部マット20上に位置していても良く、その場合には、例えば、後述の給排路46が、底部マット20を貫通して配設される、或いは底部マット20上に配設されることにより、ポート42に接続される。
【0043】
さらに、ポート42は、筐体部14の外で給排路46に接続されており、セル16の流体室40が給排路46を通じてポンプ48と大気の何れかに選択的に連通されるようになっている。なお、流体室40のポンプ48への接続と大気への開放は、給排路46上に設けられた三方弁等の弁手段50によって切り替えられるようになっている。また、各セル16の流体室40は、実質的に相互に独立しており、セル16間で空気が流動することはない。このような流体室40の独立性は、給排路46を各セル16毎に独立させる等して実現される。
【0044】
そして、流体室40がポンプ48に接続されて流体室40に空気が送入されることにより、流体室40の圧力が高められて、セル16が
図3〜
図5に示されているような膨張状態とされる。一方、流体室40が大気に開放されて流体室40の空気が大気中に放出されることにより、流体室40の圧力が低下して、セル16が
図6,
図7に示されているような収縮状態とされる。これによって、
図5,
図7からも明らかなように、セル16の上下方向での高さ寸法が、流体室40の圧力を調節することで変更されるようになっている。なお、流体室40の圧力を調節する手段としては、弁手段50を用いる上記手段の他に、流体室40とポンプ48を常時接続すると共に、ポンプ48として空気の送出運転と吸引運転を切替え可能なものを採用して、ポンプ48の運転を制御することによっても実現される。
【0045】
さらに、ポンプ48および弁手段50は、制御手段52によって制御されている。この制御手段52は、天部マット22の体圧センサ34から入力される検出信号に基づいて制御信号を生成して、その制御信号をポンプ48および弁手段50に出力することで、ポンプ48の送風量や弁手段50の切替え等を制御するようになっている。また、本実施形態では、複数のセル16に対してそれぞれ異なる空気圧を設定することができるようになっており、例えば、各セル16毎に送風量を異ならせることが可能なポンプを採用しても良いし、弁手段50の切替タイミングを各セル16毎に調節することで空気圧を個別に設定することもできる。以上より明らかなように、流体室40の圧力を個別に調節してセル16の高さを変更設定するための圧力調節手段54が、体圧センサ34、給排路46、ポンプ48、弁手段50、制御手段52を含んで構成されている。
【0046】
また、底部マット20上に配設されたセル16では、膨張状態(中間状態を含む)で上面に面方向(
図5中、左右方向)の力が作用すると、
図8に示されているように、上側袋状部36が下側袋状部38に対して首振り傾動するようになっている。即ち、セル16の上側袋状部36と下側袋状部38の境界部分に、他の部分よりも細くされた括れ部44が設けられていることによって、上側袋状部36は、下側袋状部38に対して、括れ部44を中心とする首振り状の傾動を許容されている。このようにセル16が括れ部44において首振り傾動することにより、静置状態で略水平に広がるセル16の上面(上側袋状部36の上底面)が、水平面に対する傾斜を許容されている。
【0047】
さらに、セル16は、ポート42が設けられた中央部分だけが、底部マット20によって支持されており、下側袋状部38が、底面中央部のポート42を中心とする傾動を、下側袋状部38や底部マット20の変形によって許容されている。これにより、セル16の上面に許容される傾斜角度が、上側袋状部36の下側袋状部38に対する許容傾斜角度と、下側袋状部38の底部マット20に対する許容傾斜角度:θ
1 とを、和した角度:θ2とされている。なお、例えば、柔軟な取付用の基材の中央部分がセル16の底面中央部に固定されていると共に、外周部分が複数箇所で或いは全周に亘って底部マット20に取り付けられることによって、セル16が基材を介して実質的に底面の中央部分で支持されるようになっていても良い。この場合には、セル16の変形に加えて、基材の変形によっても、セル16の底面中央部を中心とする傾動が許容される。
【0048】
このように、セル16は、高さ方向中間部分に括れ部44を有していると共に、底面の中央部分だけが底部マット20で支持されていることによって、上面を大きな傾斜角度で傾斜させることが可能とされている。なお、セル16は、静置状態でのセル16の中心軸を中心とする放射方向であれば、任意の方向に傾動可能とされている。
【0049】
このような構造とされたマットレス10は、
図9に示されているように、マットレス本体12がベッド56の人体支持部58上に重ね合わされている。そして、マットレス10上に使用者が横たわると、天部マット22と複数のセル16と底部マット20に使用者の体圧が作用して、ベッド56の人体支持部58で支持されるようになっている。また、給排路46やポンプ48、弁手段50、制御手段52は、ベッド56の人体支持部58内やその下方等に設けられる収容スペースに配設される。なお、使用者に作用する重力に基づいた体荷重(体圧)が、下方に向かって作用することから、天部マット22、セル16、底部マット20、人体支持部58の各上面を、それぞれの体圧作用面と称する。
【0050】
このような構造とされた本実施形態のマットレス10では、天部マット22上に使用者が臥した場合に、マットレス本体12から使用者に及ぼされる体圧の反力が、局所的に大きくなるのを抑えることができる。
【0051】
具体的には、先ず、使用者が天部マット22上に横たわる前に、予め全てのセル16の流体室40にポンプ48から空気が送り込まれており、セル16の高さ寸法が最大に設定されている。これによって、使用者が横たわる際にセル16の底付きが防止されて、充分な緩衝性をもって使用者が支持されるようになっている。
【0052】
また、天部マット22上に横たわった使用者の体荷重が天部マット22の体圧センサ34に及ぼされることから、体圧センサ34が使用者の体表面の凹凸等に基づいた体圧分布を検出して、体圧分布の検出結果が検出信号として制御手段52に出力される。なお、体圧センサ34は、各セル16に作用する圧力(体圧)の大きさを個別に検出可能とされており、本実施形態では、体圧センサ34が147個のセル16についてそれぞれ検出信号を得るようになっている。
【0053】
また、制御手段52は、体圧センサ34から送られた検出信号に基づいて制御信号をポンプ48および弁手段50に出力する。そして、ポンプ48の送風量や、弁手段50による流体室40のポンプ48と大気の何れかへの選択的な接続の切替えが、制御信号に基づいて制御されることにより、セル16の流体室40の圧力が調節されて、セル16の高さが変更設定される。
【0054】
より具体的には、作用する体圧が大きいセル16において、流体室40の圧力が低く調節されて、セル16の高さ寸法が小さくされると共に、作用する体圧が小さいセル16において、流体室40の圧力が高く調節されて、セル16の高さ寸法が大きくされる。これにより、セル16の高さが人体表面の凹凸に沿うように調節されて、局所的に大きな体圧が作用するのを防ぐことで、体圧の分散化が図られる。
【0055】
さらに、マットレス10では、セル16の上面が傾斜することで、マットレス10の表面が滑らかな湾曲形状とされた人体表面の凹凸に沿うようになっている。即ち、使用者が静置されたマットレス10(
図10の(a))上に載ると、
図10(b)に示されているように、天部マット22が使用者の体重によって凹状に湾曲(凹み)変形して、最下点に向かって引き込まれるように変位する。その際、天部マット22の湾曲部分を支持するセル16は、天部マット22との間に作用する摩擦力等に基づいて、括れ部44よりも上部(上側袋状部36)が下部(下側袋状部38)に対して相対的に傾動(首振り傾動)する。そして、このようにセル16が括れ部44において首振り傾動することで、その上面(体圧作用面)が天部マット22の変形(変位)に追従して傾斜する。これにより、天部マット22の凹凸に対応する形状の支持面が、複数のセル16の上面によって構成されて、マットレス10の表面が人体表面の凹凸に沿った形状に変形可能とされている。なお、
図10において、ポート42や給排路46は、図示が省略されている。
【0056】
このように、天部マット22を支持するセル16の上面(体圧作用面)が使用者の体表面の凹凸に沿って傾斜することによって、セル16の上面が使用者の体表面に対してより広い面積で当接されて、体圧の分散化が実現される。これにより、使用者の体が局所的に強く圧迫されるのを防いで、褥瘡の発生を抑えることができる。
【0057】
しかも、セル16は、括れ部44によって上側袋状部36が下側袋状部38に対する相対的な首振り傾動を許容されているだけでなく、下側袋状部38が底部マット20に対して所定の角度:θ
1 の傾動を許容されている。それ故、セル16の上面は、括れ部44における首振り傾動だけの場合に比して、θ
1 だけ大きな角度:θ
2 の傾斜を許容されている。これにより、天部マット22の凹み変形に対するセル16の追従性が高められて、体圧を効率的に分散させて、褥瘡を防ぐことができる。
【0058】
また、各セル16が、平面視(
図4,
図6参照)において、角丸矩形状とされている。これにより、セル16の上面の面積が大きく確保されて、体圧の分散作用が効果的に発揮されると共に、角部が丸められていることで、角部に圧力が集中的に作用することによるセル16の損傷が防止されて、耐久性の向上が図られる。
【0059】
さらに、使用者の体圧が強く作用する部分では、セル16の内圧が低く設定されることから、セル16上面の形状が使用者の体表面に沿って変形し易くなる。それ故、天部マット22が凹変形する部分において、セル16上面と使用者の体との当接面積がより大きく確保されて、体圧の効果的な分散化が図られると共に、優れた寝心地を提供することができる。
【0060】
また、複数のセル16の高さは、圧力調節手段54によって個別に調節可能とされていることから、天部マット22の凹み変形に対してセル16の高さを段階的に変化させると共にセル16を傾動させることによって、天部マット22に対してセル16の上面をより高度に追従させることができる。従って、体圧の分散化が有利に実現されて、褥瘡の発生等の不具合を回避することができる。
【0061】
さらに、セル16間での空気の流動が防止されており、一部のセル16が強く押圧されたとしても、他のセル16に空気が流れ込むことはない。それ故、マットレス本体12の上面において不安定感が解消されて、船酔い感の低減による寝心地の改善が図られる。
【0062】
更にまた、複数のセル16が、相互に水平方向で拘束されることなく、底部マット20上に立設されている。それ故、使用者が天部マット22上で体をスライド(面方向に移動)させた場合に、セル16は、上面と底面がずれるように変形して、使用者の移動に合わせた天部マット22のスライド変位を許容する。これにより、使用者の体と天部マット22との間に生じる摩擦が抑えられて、摩擦に起因する床ずれが防止されるようになっている。
【0063】
加えて、セル16の高さが、体圧センサ34によって検出された使用者の体圧分布に基づいて制御されるようになっていることから、体圧がセル16高さの調節によって略均等に分散される。それ故、体圧の集中的な作用による褥瘡の発生をより効果的に防止することができる。
【0064】
しかも、体圧センサ34として柔軟な構造のものが採用されていると共に、その体圧センサ34が表層部30と裏層部32の間に挟み込まれている。それ故、体圧センサ34の配設によって体圧が集中的に作用することはなく、寝心地への悪影響も回避される。
【0065】
また、セル16の上面が天部マット22の変形に追従して傾斜することで、天部マット22がセル16によって満遍なく略均一なピッチで支持される。これにより、使用者の体がセル16によって広範囲に亘って安定的に支持されることから、良好な寝心地が実現される。
【0066】
また、セル16と使用者の体との間に弾性的な天部マット22が介在されていることによって、複数のセル16の隙間に使用者の体が入り込むことがなく、天部マット22の連続した表面によって安定して支持される。それ故、互いに独立して傾動可能とされたセル16を採用して人体表面の凹凸に対する追従性を高めつつ、マットレス10上での不安定感が緩和されることによって、船酔い感による嘔気や悪心が防止されて、寝心地の改善が図られる。
【0067】
また、複数のセル16が枠体18の内周側に配設されていることによって、セル16の外周側への倒伏が防止されている。これにより、伸縮方向が略上下方向となるようにセル16が保持されて、高さの調節による体圧の分散化が安定して実現される。しかも、枠体18の全体がウレタンフォーム等の弾性を有する柔軟な材料で形成されていることによって、使用者が寝返り等によって枠体18に体の一部(腕や足等)を打ち付けたとしても、打撲等の怪我を負うおそれはなく、安全性が確保される。
【0068】
なお、マットレス本体12を支持するベッド56は、マットレス本体12における使用者の上半身を支持する部分を、下半身を支持する部分に対して相対的に傾動させて、マットレス本体12を屈曲させる背上げ手段を備えていても良い。背上げ手段は、一般的な介護用ベッドが備えているものであって、例えば、人体支持部58の上半身支持部分とベッド56のフレームが、伸縮可能な支持ロッドで連結されており、油圧や電動モータの駆動力等による支持ロッドの伸縮によって、人体支持部58の上半身支持部分がベッド56のフレームに対して傾動されるようにしたものである。尤も、背上げ手段としては、上記の構造に限定されるものではなく、例えば、人体支持部58が上半身支持部分と下半身支持部分に分割されていると共に、それら上半身支持部分と下半身支持部分の間に電動モータによる駆動部が設けられて、電動モータの駆動力によって上半身支持部分が下半身支持部分に対して傾動させられるもの等も採用可能である。また、背上げ手段は、モータによって人体支持部58を屈曲させる電動式のものや、人力によって人体支持部58を屈曲させる手動のもの等、各種態様のものが採用され得る。
【0069】
本実施形態では、マットレス本体12を構成する筐体部14の全体が、ウレタンフォームで形成されており、弾性変形を許容されている。それ故、背上げ手段を備えたベッド56上にマットレス本体12を配設しても、背上げによるマットレス本体12の屈曲変形に際して、柔軟な筐体部14は変形を妨げることがなく、背上げが充分に許容される。
【0070】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、前記実施形態では、支持面積を大きく確保しながら、内圧の集中作用を回避するために、セル16が平面視において角丸矩形を呈していたが、セルは、平面視において円形、各種の多角形やその角部を丸めた角丸多角形、異形等、任意の形状が採用され得る。
【0071】
また、セル16の平面視における形状と、括れ部44(連通部41)の形状は、必ずしも略相似形状である必要はなく、例えば、角丸矩形状を呈するセルに円形の括れ部(連通部)が設けられていても良い。
【0072】
また、セル16は、上側袋状部36と下側袋状部38を開口部において相互に固着した構造とされていたが、セルの構造はこれに限定されるものではなく、例えば、
図11に示されているセル60のように、4枚のシートを相互に溶着することで形成されていても良い。即ち、セル60では、角丸矩形シート状の天部64と、角丸矩形シート状で中央部分に貫通孔が形成された上側中間部66とを、外周端部で相互に溶着することにより、上側袋状部36が形成されている。更に、角丸矩形シート状で中央部分にポート42が取り付けられた底部68と、角丸矩形シート状で中央部分に貫通孔が形成された下側中間部70とを、外周端部で相互に溶着することにより、下側袋状部38が形成されている。そして、上側中間部66と下側中間部70を内周端部で相互に溶着することにより、セル60が形成される。なお、セル60の製造に際しては、例えば、上側中間部66と下側中間部70を内周端部で溶着した後、天部64および底部68を上下の中間部60,70に溶着すれば良い。更に、例えば、中空の球状や柱状の袋状部を形成して、その袋状部の高さ方向中間部分を環状のワイヤ等で拘束して括れ部44を形成することにより、目的とするセルを得ること等も可能である。
【0073】
また、前記実施形態では、セル16が上側袋状部36と下側袋状部38を有する2段構造とされて、1つの括れ部44だけが形成されていたが、セルは、3段構造以上であっても良く、その場合には2つ以上の括れ部44が形成され得る。
【0074】
また、セル16の配置や数は特に限定されるものではない。具体的には、例えば、平面視で菱形のセルが斜め方向で隣接するように配置されていても良い。なお、この場合にも、前記実施形態と同様に、セルの配置や数に応じて、体圧センサ34における検出部の配置や数が設定されても良いし、体圧センサ34の数がセルの数よりも多く配設されていても良い。
【0075】
また、前記実施形態では、セル16の上面に天部マット22が非接着で重ね合わされていたが、セル16の上面は天部マット22の下面に接着等の手段で固着されていても良い。これによれば、セル16の傾動によって天部マット22の変形を充分に許容しながら、セル16による天部マット22の支持位置がずれるのを防いで、使用者の体を安定して支持することができる。
【0076】
また、基体や枠体、クッション層は、必ずしもウレタンフォームで形成される必要はない。更に、クッション層は、弾性体で形成されるが、発泡性材料には限定されず、例えば、非発泡の弾性体や3次元立体編物等によって形成されていても良い。
【0077】
また、体圧センサ34の配設箇所は、使用者の体荷重を計測可能であれば、特に限定されるものではない。例えば、2層構造の底部マットに体圧センサ34を挟み込んで配設したり、底部マット20の下面に体圧センサ34を重ね合わせて配設することも可能である。なお、体圧センサ34の配設位置が違う場合等に、天部マット22が単層構造とされていても良いことは言うまでもない。
【0078】
また、前記実施形態で示されたセル16の制御方法は、あくまでも例示であって、セル16の内圧制御は必ずしも体圧分散だけを目的としない。例えば、使用者が寝返りを打つ際に、セル16の内圧を高めてマットレス本体12を硬くすることで、体の沈み込みを抑えて、寝返りを打ち易くすることもできる。更に、寝返りによって使用者の転がる方向が低くなるようにセル16の高さを調節して、マットレス本体12の上面を傾斜させることによって、寝返りをより積極的に補助することも可能である。また、離床時や着床時等にも、マットレス本体12の硬さや表面形状を調節して、離床や着床を補助することが考えられる。
【0079】
また、前記実施形態では、使用者がマットレス本体12上に横たわる前に、全てのセル16が高さ寸法を最大にする初期状態に設定されるようになっていたが、例えば、使用者が横たわった後、使用者が寝たままの状態で内圧を調節して、セル16を初期状態に設定しても良いし、使用者が体位を変換した後(寝返りの後等)、セル16を初期状態に設定しても良い。なお、セル16の初期状態は、必ずしも高さ寸法を最大にした状態に限定されるものではなく、各セル16の高さ寸法が予め設定された任意の高さに調節された状態を言う。