【実施例】
【0050】
実験1. 3H2Pの調製
アスコルビン酸の酸化物であるデヒドロアスコルビン酸5.0268g (和光純薬工業株式会社製)に50mlの精製水を添加し、これを3時間、100℃で加熱することにより加熱処理液を得た。
【0051】
この加熱処理液を酢酸エチルにより抽出した。酢酸エチル層を回収し、これに無水硫酸ナトリウムを加え、一晩冷蔵保存することにより脱水処理を行った。この酢酸エチル層を減圧蒸留器により濃縮し、濃縮液を調製した。濃縮液を時計皿に入れ、その上にビーカーを被せ、時計皿を80℃、8時間加熱し、昇華した成分をビーカー内に付着させた。これを乾燥させ、結晶状の昇華物293.7mgを回収した。本昇華物を高速液体クロマトグラフィー (HPLC)により分析した結果、3-ヒドロキシ-2-ピロン(3H2P)と2-フランカルボン酸(2FA)が混在していることが確認された。
【0052】
更に2FAを除去するために、得られた昇華物293.7mgを0.05% HCl含有精製水8mlに溶解し、sep-pak C18 (Waters社製)に負荷し、0.05% HCl含有精製水と0.05% HCl含有10%メタノール溶液で溶出させ、3H2Pを含有する画分を回収した。これを減圧蒸留器により濃縮し、酢酸エチルにより抽出を行い酢酸エチル層を回収した。これに無水硫酸ナトリウムを加え冷蔵保存して脱水処理し、減圧蒸留濃縮液を時計皿に入れ、その上にビーカーを被せ、時計皿を80℃、3時間加熱し、昇華した3H2Pをビーカー内に付着させた。これを乾燥させ、結晶状の3H2P 139.9mgを回収した。本昇華物をHPLCにより分析し、高純度な3H2Pであることを確認した。
【0053】
実験2. チロシナーゼ活性阻害作用の測定
チロシナーゼは、アミノ酸であるチロシンからメラニン色素が生成する過程で作用する重要な酵素として知られており、多くの美白作用成分はチロシナーゼ活性阻害作用を有する。そこで、コウジ酸、アスコルビン酸及び実験1で調製した3H2Pのチロシナーゼ活性阻害作用を測定した。
【0054】
試験は、72 units/mlのチロシナーゼ酵素(シグマ社製)溶液0.2mLと基質混合液(6mML-DOPA溶液、濃度調製した試験化合物(以下「サンプル」という)、リン酸緩衝液の、2:2:1の混合液)1.0mLを混合し、37℃で0分と3分の475nmの吸光度を測定し、チロシナーゼ活性阻害率を以下の式により算出した。
【0055】
チロシナーゼ活性阻害率(%)
=(1−(サンプルの0分から3分の吸光度差)/(ブランクの0分から3分の吸光度差))x100
結果を
図1に示す。この測定により、3H2Pは、コウジ酸よりやや弱いがアスコルビン酸と同等のチロシナーゼ活性阻害作用を有することが判明した。
【0056】
実験3. メラニン生成抑制試験
実験2において3H2Pにチロシナーゼ活性阻害作用が確認されたため、更に、動物細胞に対するメラニン生成抑制試験を実施した。サンプルとして実験1で調製された3H2P、アルブチン及びコウジ酸を用いた。
【0057】
マウス由来B16メラノーマ細胞4A5(理研)を、10%FBSを含むDMEM培地にて6ウェルプレートに 5.0×10
4個/ウェルになるように播種し、37℃、二酸化炭素濃度5%中にて培養した。1日後、サンプルを添加した培地に交換し、さらに5日間サンプル添加培地にて培養した。培養6日後に培地を除去、細胞をトリプシン溶液により剥離し、細胞を回収した。回収した細胞を1N水酸化ナトリウムに懸濁、加温して、メラニンを抽出した。このメラニン抽出液の405nmの吸光度を測定し、試薬メラニン (SIGMA社製) の検量線よりメラニン量を定量した。さらに回収した細胞から DC Protein Assay KIT (BIO-RAD社製)を用いてタンパク量を求め、細胞数の指標とした。これらの測定より、サンプル無添加のコントロールを100としたときのメラニン量と細胞数を算出した。結果を表1及び
図2に示す。この結果から、3H2Pのメラニン生成抑制作用は、コウジ酸よりも強く、アルブチンと同等の作用を示すことが判明した。また3H2Pは、1ppm (1μg/mL、0.0001%)の低濃度でもメラニン生成抑制作用を示すことから、強力な皮膚美白剤であると考えられる。
【表1】
【0058】
実験4. α-ピロン類のチロシナーゼ活性阻害作用の比較 (1)
3-ヒドロキシ-2-ピロンのチロシナーゼ活性阻害作用を、γ-ピロン化合物であるコウジ酸、α-ピロン化合物であるクマリン(coumalin)(α-ピロン)、クマリン酸と比較した。コウジ酸、クマリン及びクマリン酸は特許文献1でメラニン生成抑制作用があることが報告されている。
【化2】
【0059】
試験は、特許文献1に記載されている方法と同様な方法で行った。
【0060】
1%3H2P水溶液、1%クマリン(東京化成工業株式会社製)水溶液、1%クマリン酸(東京化成工業株式会社製)水溶液及び0.01%コウジ酸水溶液をそれぞれ調製した。次に試験管にL-チロシン水溶液(0.3mg/mL)、3H2P等のサンプル溶液及びマッキルバイン緩衝液(pH6.8)を混合した基質-サンプル混合溶液を1.45mL入れ、チロシナーゼ溶液(1mg/mL)を0.05mL添加して、37℃恒温機能付の分光光度計にセットして475nmにおける吸光度を経時的(0〜15分間、1分単位)に測定した。その結果を
図3に示した。
【0061】
ブランクである精製水(H
2O)添加群は、チロシナーゼ活性阻害成分がないため反応開始後2分までに急速にドーパクロム量が増大した。それに対してクマリン水溶液で僅かに阻害作用が認められ、クマリン酸水溶液では強い阻害作用が認められた。3H2P水溶液は、この試験条件ではクマリン及びクマリン酸より非常に強いチロシナーゼ活性阻害作用が認められた。
【0062】
実験5. α-ピロン類のチロシナーゼ活性阻害作用の比較(2)
クマリン(α-ピロン、東京化成工業株式会社製)、クマリン酸(東京化成工業株式会社製)水溶液及び3H2Pのチロシナーゼ活性阻害作用について検討した。
【0063】
試験は、72 units/mlのチロシナーゼ酵素(シグマ社製)溶液0.2mLと基質混合液(6mML-DOPA溶液、濃度調製したサンプル、pH6.8リン酸緩衝液を2:2:1の混合液)1.0mLを混合し、37℃で0分と3分の475nmの吸光度を測定し、チロシナーゼ活性阻害率を以下の式により算出した。
【0064】
チロシナーゼ活性阻害率(%)
=(1−(サンプルの0分から3分の吸光度差)/(ブランクの0分から3分の吸光度差))x100
各検体の終濃度を0.3%、0.1%、0.033%で試験を行い、チロシナーゼ活性阻害作用を比較した結果、明かにクマリン及びクマリン酸より3H2Pが強い阻害活性を有することが判明した。結果を
図4に示す。
【0065】
実験6. 3-ヒドロキシ-4-ピロンとのチロシナーゼ活性阻害作用の比較
美白作用を有することなどが既に報告されている3-ヒドロキシ-4-ピロン(以下、3H4Pとする。別名:ピロメコン酸、ピロコメン酸、3-ハイドロキシ-4-ピロンなど)は、3H2Pと分子式が同一であるが、γ-ピロン類に分類される化合物である。尚、3H4Pは、MOLEKULA 社製の試薬を使用した。
【化3】
【0066】
試験は、72 units/mlのチロシナーゼ酵素(シグマ社製)溶液0.2mLと基質混合液(6mML-DOPA溶液、濃度調製したサンプル、リン酸緩衝液を2:2:1の混合液)1.0mLを混合し、37℃で0分と3分の475nmの吸光度を測定し、チロシナーゼ活性阻害率を以下の式により算出した。
【0067】
チロシナーゼ活性阻害率(%)
=(1-(サンプルの0分から3分の吸光度差)/(ブランクの0分から3分の吸光度差))x100
測定の結果、γ-ピロン類のコウジ酸が最も強いチロシナーゼ活性阻害活性を示し、3H2Pと3H4Pは同等のチロシナーゼ活性阻害活性を示した(
図5)。
【0068】
実験7. 3H2Pと3H4Pのメラニン生成抑制作用の比較
3H4P、3H2Pおよびコウジ酸のメラニン生成抑制作用について比較検討を行った。3H4Pは、MOLEKULA社製を使用した。
【0069】
実験は以下の方法によって行った。
【0070】
マウス由来B16メラノーマ細胞4A5(理研)を、10%FBSを含むDMEM培地にて6ウェルプレートに 5.0×10
4個/ウェルになるように播種し、37℃、二酸化炭素濃度5%中にて培養した。1日後、サンプルを添加した培地に交換し、さらに5日間サンプル添加培地にて培養した。培養6日後に培地を除去、細胞をトリプシン溶液により剥離し、細胞を回収した。回収した細胞を1N水酸化ナトリウムに懸濁、加温して、メラニンを抽出した。このメラニン抽出液の405nmの吸光度を測定し、試薬メラニン (SIGMA社製) の検量線よりメラニン量を定量した。さらに回収した細胞から DC Protein Assay KIT (BIO-RAD社製)を用いてタンパク量を求め、細胞数の指標とした。これらの測定より、サンプル無添加のコントロールを100としたときのメラニン量と細胞数を算出した。結果を表2及び
図6に示す。
【表2】
【0071】
この結果、3H4Pとコウジ酸のメラニン生成抑制作用は同等であるが、これらγ-ピロン化合物類より3H2Pが強いメラニン生成抑制作用を有することが判明した。