特許第5703313号(P5703313)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許57033133−ヒドロキシ−2−ピロンを含有する美白剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5703313
(24)【登録日】2015年2月27日
(45)【発行日】2015年4月15日
(54)【発明の名称】3−ヒドロキシ−2−ピロンを含有する美白剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/49 20060101AFI20150326BHJP
   A61Q 19/02 20060101ALI20150326BHJP
【FI】
   A61K8/49
   A61Q19/02
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-553510(P2012-553510)
(86)(22)【出願日】2011年1月20日
(86)【国際出願番号】JP2011050986
(87)【国際公開番号】WO2012098664
(87)【国際公開日】20120726
【審査請求日】2014年1月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】505145149
【氏名又は名称】株式会社ニチレイバイオサイエンス
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100120905
【弁理士】
【氏名又は名称】深見 伸子
(72)【発明者】
【氏名】永峰 賢一
(72)【発明者】
【氏名】川口 将和
(72)【発明者】
【氏名】桧物 綾香
【審査官】 弘實 謙二
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−047899(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K8/00− 8/99
A61Q1/00−90/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3-ヒドロキシ-2-ピロンを含有する美白剤。
【請求項2】
3-ヒドロキシ-2-ピロンを含有するチロシナーゼ活性阻害剤。
【請求項3】
3-ヒドロキシ-2-ピロンを含有するメラニン生成阻害剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3-ヒドロキシ-2-ピロンの美白剤、チロシナーゼ活性阻害剤、及びメラニン生成阻害剤としての用途に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚におけるシミなどの色素沈着は、一般に紫外線による刺激などによってメラノサイトが活性化され、メラニン色素の生合成が亢進されることにより発生するものと考えられている。そのため、メラニン色素の生合成を抑制する多くの成分が皮膚美白剤として開発されている。
【0003】
アスコルビン酸は、チロシナーゼ活性阻害作用などにより細胞のメラニン生成を抑制する美白作用を有することが広く知られている。しかし、アスコルビン酸は、水溶液中で分解し、褐色等の着色があることなどの問題がある。そのため、水溶液中でより安定な誘導体が多く開発されている。これらの誘導体は、アスコルビン酸の2位、3位、5位または6位の水酸基にリン酸基や、ステアリン酸などの脂肪酸や、グルコースなどの糖を導入してエステル化させた化合物である。これらは、生体内に吸収されて酵素によって加水分解を受けてアスコルビン酸を生成することにより、生体内で美白作用を示すことが期待されている。しかし、これらの誘導体は各種溶媒に対する溶解性などの問題や分解されなければ作用しないという問題がある。
【0004】
その他の美白作用を示す成分としては、ハイドロキノン誘導体、コウジ酸およびその誘導体、ピロン化合物および誘導体などが知られている(特許文献1及び2)。ただし、各種溶媒に対する溶解性、および美白作用などの点で問題があった。
【0005】
そのため、各種溶媒に対する溶解性に優れ、美白作用が期待できる美白剤が望まれている。
【0006】
一方、3-ヒドロキシ-2-ピロン (以下「3H2P」と表記する場合がある) は、非特許文献1においても報告されているアスコルビン酸の酸化分解物である。アスコルビン酸の酸化過程では、デヒドロアスコルビン酸、ジケトグルクロン酸に変化することは良く知られているが、その更に酸化された成分ついてはあまり知られていない。
【0007】
特許文献3及び非特許文献2には、3H2Pを、アスコルビン酸から酸化分解物として得る方法が記載されている。
【0008】
3H2Pの作用は良く知られておらず、報告は少ない。特許文献3には、3H2Pが両親媒性抗酸化物質であることが記載され、血小板凝集抑制作用及び肝障害改善作用に優れ、医薬用組成物及び機能性飲食品として利用可能であることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭53-3538号公報
【特許文献2】特開平4-2562号公報
【特許文献3】特開2007-246475号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, 69(11), p2129-2137 (2005)
【非特許文献2】N. Morita et al., Bull. Univ. Osaka Pref., Ser. B, Vol.41, p61-69 (1989)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、各種溶媒に対する溶解性に優れた化合物を有効成分とする美白剤、チロシナーゼ活性阻害剤及びメラニン生成阻害剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
3-ヒドロキシ-2-ピロン(3H2P)は各種溶媒に対する溶解性に優れた化合物である。3H2Pは、以下の構造:
【化1】
【0013】
を有し、分子式C5H4O3、分子量112.084、CAS登録番号496-64-0、体系名は3-ヒドロキシ-2-ピロン若しくは3-ヒドロキシ-2H-ピラン-2-オン、慣用名はイソピロ粘液酸、イソ焦性粘液酸などがある。3H2Pが美白作用を奏することは従来知られていない。
【0014】
本発明者らは、驚くべきことに3H2Pが高いチロシナーゼ活性阻害作用及びメラニン生成阻害作用を有しており、美白成分として有用であることを見出し、本発明を完成させるに至った。本発明は以下の発明を包含する。
【0015】
(1) 3-ヒドロキシ-2-ピロンを含有する美白剤。
【0016】
(2) 3-ヒドロキシ-2-ピロンを含有するチロシナーゼ活性阻害剤。
【0017】
(3) 3-ヒドロキシ-2-ピロンを含有するメラニン生成阻害剤。
【0018】
(4) 3-ヒドロキシ-2-ピロンと、皮膚への適用が許容される成分とを含有する、皮膚外用剤組成物。
【0019】
本発明は更に、以下の発明を包含する。
【0020】
(5) 皮膚の美白化を望むヒト等の対象 (subject)に3-ヒドロキシ-2-ピロンを投与する工程を含む、皮膚を美白化する方法。該方法は、医療のための方法であってもよいし、美容のための方法であってもよい。
【0021】
(6) 皮膚を美白化する用途のための、3-ヒドロキシ-2-ピロン。
【0022】
(7) 皮膚美白用皮膚外用剤の製造のための、3-ヒドロキシ-2-ピロンの使用。
【0023】
(8) 皮膚を美白化するための医薬の製造のための、3-ヒドロキシ-2-ピロンの使用。
【0024】
(9) In vivo またはin vitroにおいてチロシナーゼに3-ヒドロキシ-2-ピロンを付与する工程を含む、in vivo またはin vitroにおけるチロシナーゼ活性の阻害方法。ここで、in vivoにおけるチロシナーゼ活性の阻害方法は、医療のための方法であってもよいし、美容のための方法であってもよい。
【0025】
(10) チロシナーゼ活性の阻害により改善される疾患又は症状の予防又は治療を必要とするヒト等の対象に、3-ヒドロキシ-2-ピロンを投与する工程を含む、該疾患又は症状の予防又は治療方法。
【0026】
(11) In vivo またはin vitroにおいてチロシナーゼ活性を阻害する用途のための、3-ヒドロキシ-2-ピロン。
【0027】
(12) チロシナーゼ活性阻害用皮膚外用剤の製造のための、3-ヒドロキシ-2-ピロンの使用。
【0028】
(13) チロシナーゼ活性の阻害により改善される疾患又は症状の予防又は治療のための医薬の製造のための、3-ヒドロキシ-2-ピロンの使用。
【0029】
(14) In vivo またはin vitroにおいてヒト等の動物の細胞に3-ヒドロキシ-2-ピロンを付与する工程を含む、in vivo またはin vitroにおいてメラニン色素の生成を阻害する方法。ここで、in vivoにおいてメラニン色素の生成を阻害する方法は、医療のための方法であってもよいし、美容のための方法であってもよい。
【0030】
(15) メラニン色素の生成の阻害により改善される疾患又は症状の予防又は治療を必要とするヒト等の対象に、3-ヒドロキシ-2-ピロンを投与する工程を含む、該疾患又は症状の予防又は治療方法。
【0031】
(16) In vivo またはin vitroにおいて細胞によるメラニン色素の生成を阻害する用途のための、3-ヒドロキシ-2-ピロン。
【0032】
(17) メラニン生成阻害用皮膚外用剤の製造のための、3-ヒドロキシ-2-ピロンの使用。
【0033】
(18) 細胞におけるメラニン色素の生成の阻害により改善される疾患又は症状の予防又は治療のための医薬の製造のための、3-ヒドロキシ-2-ピロンの使用。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、各種溶媒に対する溶解性に優れた化合物である3-ヒドロキシ-2-ピロンを有効成分とする美白剤、チロシナーゼ活性阻害剤及びメラニン生成阻害剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】実験2において測定された、コウジ酸、アスコルビン酸及び3-ヒドロキシ-2-ピロン(3H2P)のチロシナーゼ活性阻害作用を示す。
図2】実験3において測定された、3-ヒドロキシ-2-ピロン(3H2P)、アルブチン及びコウジ酸のメラニン生成阻害作用を示す。
図3】実験4において測定された、コウジ酸及びα-ピロン類のチロシナーゼ活性阻害作用を示す。
図4】実験5において測定された、クマリン(α-ピロン)、クマリン酸及び3-ヒドロキシ-2-ピロン(3H2P)のチロシナーゼ活性阻害作用を示す。
図5】実験6において測定された、コウジ酸、3-ヒドロキシ-2-ピロン(3H2P)及び3-ヒドロキシ-4-ピロン(3H4P)のチロシナーゼ活性阻害作用を示す。
図6】実験7において測定された、コウジ酸、3-ヒドロキシ-2-ピロン(3H2P)及び3-ヒドロキシ-4-ピロン(3H4P)のメラニン生成阻害作用を示す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明において用いられる3-ヒドロキシ-2-ピロン(3H2P)は、例えば特許文献3に記載された手順に従ってデヒドロアスコルビン酸から合成することができる。
【0037】
3H2Pは単離及び精製された形態で用いられる必要はない。3H2Pはアセロラ等のアスコルビン酸含有天然物中に、アスコルビン酸の酸化分解物として含まれる。アセロラ等の3H2Pを含有する天然組成物、或いは、該天然組成物を処理して、3H2Pの濃度を通常の天然組成物よりも高めた非天然組成物(好ましくは組成物全量に対して3H2P濃度0.001重量%以上、より好ましくは0.01〜1.7重量%)を本発明の用途に用いることができる。
【0038】
3H2Pは水和物等の溶媒和物の形態で用いられてもよい。3H2Pが溶媒和物の形態である場合、生理学的に許容される溶媒和物、すなわち、医薬品、化粧品、飲食品等として許容される溶媒和物であることが好ましい。
【0039】
3H2Pはチロシナーゼ活性阻害作用、及び、細胞によるメラニン生成阻害作用を有する。これらの作用に基づいて3H2Pは美白化作用を奏する。
【0040】
美白化を望むヒト等の対象に3H2Pを投与することにより、皮膚を美白化する(すなわち、シミ、ソバカス等の、色素沈着に伴う皮膚の障害を抑制又は改善する)ことができる。この方法には、日焼け等により皮膚の色素沈着が生じる前に対象に3H2Pを投与して、皮膚の色素沈着を予防する又はその進行を抑制する方法と、色素沈着が既に生じている対象に3H2Pを投与して、色素沈着に伴う皮膚の障害を改善する方法とが含まれる。この方法は美容のための方法であってもよいし、医師等により行われる医療のための方法であってもよい。
【0041】
3H2Pは、in vivo またはin vitroにおいてチロシナーゼ活性を阻害する方法に用いることができる。In vivoにおけるチロシナーゼ活性の阻害とは、ヒト等の生体内でのチロシナーゼ活性の阻害(特に皮膚の細胞におけるチロシナーゼ活性の阻害)を指す。In vivoにおいてチロシナーゼ活性を阻害する方法は美容のための方法であってもよいし、医師等により行われる医療のための方法であってもよい。
【0042】
3H2Pは、チロシナーゼ活性の阻害により改善される疾患又は症状の予防又は治療のために用いることができる。このような疾患又は症状としては、シミやソバカスが挙げられる。
【0043】
3H2Pは、in vivo またはin vitroにおいてメラニンの生成を阻害する方法に用いることができる。In vivoにおけるメラニンの生成の阻害とは、ヒト等の生体内でのメラニン色素の生成の阻害(特に皮膚の色素細胞におけるメラニンの生成の阻害)を指す。In vivoにおいてメラニンの生成を阻害する方法は美容のための方法であってもよいし、医師等により行われる医療のための方法であってもよい。
【0044】
3H2Pは、メラニンの生成の阻害により改善される疾患又は症状の予防又は治療のために用いることができる。このような疾患又は症状としては、シミ、ソバカスが挙げられる。
【0045】
上記の美白化の用途、並びに、生体内でのチロシナーゼ活性又はメラニンの生成を阻害する用途のためにヒト等の対象に3H2Pを投与する形態は特に限定されず、該対象の皮膚に3H2Pを適用する経皮投与(例えば下記の皮膚外用剤の形態での投与)であってもよいし、経口投与(例えば散剤、錠剤、顆粒剤、細粒剤、液剤、カプセル剤、丸剤、トローチ、内用液剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、エリキシル剤等の形態での投与)や、経皮投与以外の非経口投与(注射剤、点滴剤、坐剤、吸入剤、経粘膜吸収剤等の形態での投与)により該対象に3H2Pを投与する形態が挙げられる。
【0046】
3H2Pは、皮膚美白作用、チロシナーゼ活性阻害作用又はメラニン生成阻害作用を提供する有効成分として、皮膚への適用が許容される成分(美白作用を有する他の成分、その他の有効成分、製剤化のための成分等)とともに、化粧品、医薬部外品、医薬品等の皮膚外用剤に配合して用いることができる。皮膚外用剤中での3H2Pの含有量は、皮膚美白作用、チロシナーゼ活性阻害作用、及び/又はメラニン生成阻害作用を提供することができる有効量であれば特に限定されないが、下記実験3での結果と、通常の皮膚外用剤に配合できる有効成分の量とを鑑みて、皮膚外用剤の組成物全量に対して、0.0001〜5重量%の範囲とすることが好ましい。
【0047】
皮膚外用剤に配合することができる美白作用を有する他の成分としては、アスコルビン酸、アスコルビン酸誘導体(アスコルビン酸リン酸エステル塩、アスコルビン酸硫酸エステル塩、アスコルビン酸グリコシド、アスコルビン酸エチル等)、γ-ピロン配糖体、及びγ-ピロン類であるコウジ酸及びコウジ酸誘導体、アルブチン等のハイドロキノン誘導体等が挙げられる。
【0048】
皮膚外用剤は、化粧品、医薬部外品、医薬品等の製剤化のために通常使用される成分を用いて製剤化することが可能である。該成分としては、例えば、精製水、アルコール類、油性物質、保湿剤、増粘剤、防腐剤、乳化剤、生薬成分、紫外線吸収剤、色素、香料、乳化安定剤、pH調整剤等が挙げられる。
【0049】
皮膚外用剤の剤型は限定されるものではなく、クリーム状、軟膏状、乳液状、ローション状、溶液状、ゲル状、パック状、スティック状など、どのような形態でもよい。
【実施例】
【0050】
実験1. 3H2Pの調製
アスコルビン酸の酸化物であるデヒドロアスコルビン酸5.0268g (和光純薬工業株式会社製)に50mlの精製水を添加し、これを3時間、100℃で加熱することにより加熱処理液を得た。
【0051】
この加熱処理液を酢酸エチルにより抽出した。酢酸エチル層を回収し、これに無水硫酸ナトリウムを加え、一晩冷蔵保存することにより脱水処理を行った。この酢酸エチル層を減圧蒸留器により濃縮し、濃縮液を調製した。濃縮液を時計皿に入れ、その上にビーカーを被せ、時計皿を80℃、8時間加熱し、昇華した成分をビーカー内に付着させた。これを乾燥させ、結晶状の昇華物293.7mgを回収した。本昇華物を高速液体クロマトグラフィー (HPLC)により分析した結果、3-ヒドロキシ-2-ピロン(3H2P)と2-フランカルボン酸(2FA)が混在していることが確認された。
【0052】
更に2FAを除去するために、得られた昇華物293.7mgを0.05% HCl含有精製水8mlに溶解し、sep-pak C18 (Waters社製)に負荷し、0.05% HCl含有精製水と0.05% HCl含有10%メタノール溶液で溶出させ、3H2Pを含有する画分を回収した。これを減圧蒸留器により濃縮し、酢酸エチルにより抽出を行い酢酸エチル層を回収した。これに無水硫酸ナトリウムを加え冷蔵保存して脱水処理し、減圧蒸留濃縮液を時計皿に入れ、その上にビーカーを被せ、時計皿を80℃、3時間加熱し、昇華した3H2Pをビーカー内に付着させた。これを乾燥させ、結晶状の3H2P 139.9mgを回収した。本昇華物をHPLCにより分析し、高純度な3H2Pであることを確認した。
【0053】
実験2. チロシナーゼ活性阻害作用の測定
チロシナーゼは、アミノ酸であるチロシンからメラニン色素が生成する過程で作用する重要な酵素として知られており、多くの美白作用成分はチロシナーゼ活性阻害作用を有する。そこで、コウジ酸、アスコルビン酸及び実験1で調製した3H2Pのチロシナーゼ活性阻害作用を測定した。
【0054】
試験は、72 units/mlのチロシナーゼ酵素(シグマ社製)溶液0.2mLと基質混合液(6mML-DOPA溶液、濃度調製した試験化合物(以下「サンプル」という)、リン酸緩衝液の、2:2:1の混合液)1.0mLを混合し、37℃で0分と3分の475nmの吸光度を測定し、チロシナーゼ活性阻害率を以下の式により算出した。
【0055】
チロシナーゼ活性阻害率(%)
=(1−(サンプルの0分から3分の吸光度差)/(ブランクの0分から3分の吸光度差))x100
結果を図1に示す。この測定により、3H2Pは、コウジ酸よりやや弱いがアスコルビン酸と同等のチロシナーゼ活性阻害作用を有することが判明した。
【0056】
実験3. メラニン生成抑制試験
実験2において3H2Pにチロシナーゼ活性阻害作用が確認されたため、更に、動物細胞に対するメラニン生成抑制試験を実施した。サンプルとして実験1で調製された3H2P、アルブチン及びコウジ酸を用いた。
【0057】
マウス由来B16メラノーマ細胞4A5(理研)を、10%FBSを含むDMEM培地にて6ウェルプレートに 5.0×104個/ウェルになるように播種し、37℃、二酸化炭素濃度5%中にて培養した。1日後、サンプルを添加した培地に交換し、さらに5日間サンプル添加培地にて培養した。培養6日後に培地を除去、細胞をトリプシン溶液により剥離し、細胞を回収した。回収した細胞を1N水酸化ナトリウムに懸濁、加温して、メラニンを抽出した。このメラニン抽出液の405nmの吸光度を測定し、試薬メラニン (SIGMA社製) の検量線よりメラニン量を定量した。さらに回収した細胞から DC Protein Assay KIT (BIO-RAD社製)を用いてタンパク量を求め、細胞数の指標とした。これらの測定より、サンプル無添加のコントロールを100としたときのメラニン量と細胞数を算出した。結果を表1及び図2に示す。この結果から、3H2Pのメラニン生成抑制作用は、コウジ酸よりも強く、アルブチンと同等の作用を示すことが判明した。また3H2Pは、1ppm (1μg/mL、0.0001%)の低濃度でもメラニン生成抑制作用を示すことから、強力な皮膚美白剤であると考えられる。
【表1】
【0058】
実験4. α-ピロン類のチロシナーゼ活性阻害作用の比較 (1)
3-ヒドロキシ-2-ピロンのチロシナーゼ活性阻害作用を、γ-ピロン化合物であるコウジ酸、α-ピロン化合物であるクマリン(coumalin)(α-ピロン)、クマリン酸と比較した。コウジ酸、クマリン及びクマリン酸は特許文献1でメラニン生成抑制作用があることが報告されている。
【化2】
【0059】
試験は、特許文献1に記載されている方法と同様な方法で行った。
【0060】
1%3H2P水溶液、1%クマリン(東京化成工業株式会社製)水溶液、1%クマリン酸(東京化成工業株式会社製)水溶液及び0.01%コウジ酸水溶液をそれぞれ調製した。次に試験管にL-チロシン水溶液(0.3mg/mL)、3H2P等のサンプル溶液及びマッキルバイン緩衝液(pH6.8)を混合した基質-サンプル混合溶液を1.45mL入れ、チロシナーゼ溶液(1mg/mL)を0.05mL添加して、37℃恒温機能付の分光光度計にセットして475nmにおける吸光度を経時的(0〜15分間、1分単位)に測定した。その結果を図3に示した。
【0061】
ブランクである精製水(H2O)添加群は、チロシナーゼ活性阻害成分がないため反応開始後2分までに急速にドーパクロム量が増大した。それに対してクマリン水溶液で僅かに阻害作用が認められ、クマリン酸水溶液では強い阻害作用が認められた。3H2P水溶液は、この試験条件ではクマリン及びクマリン酸より非常に強いチロシナーゼ活性阻害作用が認められた。
【0062】
実験5. α-ピロン類のチロシナーゼ活性阻害作用の比較(2)
クマリン(α-ピロン、東京化成工業株式会社製)、クマリン酸(東京化成工業株式会社製)水溶液及び3H2Pのチロシナーゼ活性阻害作用について検討した。
【0063】
試験は、72 units/mlのチロシナーゼ酵素(シグマ社製)溶液0.2mLと基質混合液(6mML-DOPA溶液、濃度調製したサンプル、pH6.8リン酸緩衝液を2:2:1の混合液)1.0mLを混合し、37℃で0分と3分の475nmの吸光度を測定し、チロシナーゼ活性阻害率を以下の式により算出した。
【0064】
チロシナーゼ活性阻害率(%)
=(1−(サンプルの0分から3分の吸光度差)/(ブランクの0分から3分の吸光度差))x100
各検体の終濃度を0.3%、0.1%、0.033%で試験を行い、チロシナーゼ活性阻害作用を比較した結果、明かにクマリン及びクマリン酸より3H2Pが強い阻害活性を有することが判明した。結果を図4に示す。
【0065】
実験6. 3-ヒドロキシ-4-ピロンとのチロシナーゼ活性阻害作用の比較
美白作用を有することなどが既に報告されている3-ヒドロキシ-4-ピロン(以下、3H4Pとする。別名:ピロメコン酸、ピロコメン酸、3-ハイドロキシ-4-ピロンなど)は、3H2Pと分子式が同一であるが、γ-ピロン類に分類される化合物である。尚、3H4Pは、MOLEKULA 社製の試薬を使用した。
【化3】
【0066】
試験は、72 units/mlのチロシナーゼ酵素(シグマ社製)溶液0.2mLと基質混合液(6mML-DOPA溶液、濃度調製したサンプル、リン酸緩衝液を2:2:1の混合液)1.0mLを混合し、37℃で0分と3分の475nmの吸光度を測定し、チロシナーゼ活性阻害率を以下の式により算出した。
【0067】
チロシナーゼ活性阻害率(%)
=(1-(サンプルの0分から3分の吸光度差)/(ブランクの0分から3分の吸光度差))x100
測定の結果、γ-ピロン類のコウジ酸が最も強いチロシナーゼ活性阻害活性を示し、3H2Pと3H4Pは同等のチロシナーゼ活性阻害活性を示した(図5)。
【0068】
実験7. 3H2Pと3H4Pのメラニン生成抑制作用の比較
3H4P、3H2Pおよびコウジ酸のメラニン生成抑制作用について比較検討を行った。3H4Pは、MOLEKULA社製を使用した。
【0069】
実験は以下の方法によって行った。
【0070】
マウス由来B16メラノーマ細胞4A5(理研)を、10%FBSを含むDMEM培地にて6ウェルプレートに 5.0×104個/ウェルになるように播種し、37℃、二酸化炭素濃度5%中にて培養した。1日後、サンプルを添加した培地に交換し、さらに5日間サンプル添加培地にて培養した。培養6日後に培地を除去、細胞をトリプシン溶液により剥離し、細胞を回収した。回収した細胞を1N水酸化ナトリウムに懸濁、加温して、メラニンを抽出した。このメラニン抽出液の405nmの吸光度を測定し、試薬メラニン (SIGMA社製) の検量線よりメラニン量を定量した。さらに回収した細胞から DC Protein Assay KIT (BIO-RAD社製)を用いてタンパク量を求め、細胞数の指標とした。これらの測定より、サンプル無添加のコントロールを100としたときのメラニン量と細胞数を算出した。結果を表2及び図6に示す。
【表2】
【0071】
この結果、3H4Pとコウジ酸のメラニン生成抑制作用は同等であるが、これらγ-ピロン化合物類より3H2Pが強いメラニン生成抑制作用を有することが判明した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6