(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5703428
(24)【登録日】2015年2月27日
(45)【発行日】2015年4月22日
(54)【発明の名称】有機系廃棄物由来の球状シリカ粒子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/12 20060101AFI20150402BHJP
C01B 33/18 20060101ALI20150402BHJP
【FI】
C01B33/12 E
C01B33/18 Z
【請求項の数】16
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-555645(P2014-555645)
(86)(22)【出願日】2014年7月14日
(86)【国際出願番号】JP2014068719
【審査請求日】2014年11月14日
(31)【優先権主張番号】特願2013-147229(P2013-147229)
(32)【優先日】2013年7月16日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504100802
【氏名又は名称】近藤 勝義
(73)【特許権者】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(73)【特許権者】
【識別番号】000211123
【氏名又は名称】中外炉工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001586
【氏名又は名称】特許業務法人アイミー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 勝義
(72)【発明者】
【氏名】道浦 吉貞
(72)【発明者】
【氏名】霜村 潤
(72)【発明者】
【氏名】笹内 謙一
(72)【発明者】
【氏名】友澤 健一
【審査官】
伊藤 光貴
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2008/053711(WO,A1)
【文献】
特開2009−221054(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00−33/193
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカを含む有機系廃棄物を出発原料として準備する工程と、
前記有機系廃棄物を液中に浸漬してシリカの純度を上げる工程と、
前記有機系廃棄物を焼成してシリカ粉末を得る工程と、
前記シリカ粉末を粉砕してシリカ微粒子を得る工程と、
前記シリカ微粒子を火炎中で溶融球状化して球状シリカ粒子を得る工程とを備える、球状シリカ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記粉砕前のシリカ粉末粒子の粒径は10mm以下であり、
前記粉砕後のシリカ微粒子の粒径は15μm以下である、請求項1に記載の球状シリカ粒子の製造方法。
【請求項3】
前記溶融球状化処理前のシリカ微粒子は多孔質である、請求項1または2に記載の球状シリカ粒子の製造方法。
【請求項4】
前記溶融球状化処理後の球状シリカ粒子の平均粒径は20μm以下である、請求項1〜3のいずれかに記載の球状シリカ粒子の製造方法。
【請求項5】
前記有機系廃棄物は、籾殻、稲わら、米ぬか、麦わら、木材、間伐材、建設廃材、おが屑、樹皮、バガス、トウモロコシ、サトウキビ、サツマイモ、大豆、落花生、キャッサバ、ユーカリ、シダ、パイナップル、竹、ゴム、古紙からなる群から選ばれたいずれかである、請求項1〜4のいずれかに記載の球状シリカ粒子の製造方法。
【請求項6】
前記有機系廃棄物を浸漬する液は、酸溶液である、請求項1〜5のいずれかに記載の球状シリカ粒子の製造方法。
【請求項7】
前記酸溶液はクエン酸である、請求項6に記載の球状シリカ粒子の製造方法。
【請求項8】
前記クエン酸の濃度は0.5%〜10%である、請求項7に記載の球状シリカ粒子の製造方法。
【請求項9】
前記有機系廃棄物を浸漬する液は常温〜80℃の水である、請求項1〜5のいずれかに記載の球状シリカ粒子の製造方法。
【請求項10】
前記有機系廃棄物の焼成は大気雰囲気中で行い、その焼成温度は300℃以上1100℃以下である、請求項1〜9のいずれかに記載の球状シリカ粒子の製造方法。
【請求項11】
前記火炎処理の温度は1750℃〜2500℃である、請求項1〜10のいずれかに記載の球状シリカ粒子の製造方法。
【請求項12】
前記シリカ微粒子のシリカ純度に対して、前記溶融球状化処理後の球状シリカ粒子の純度は0.2%以上高い、請求項1〜11のいずれかに記載の球状シリカ粒子の製造方法。
【請求項13】
シリカを含む有機系廃棄物を出発原料としてシリカ微粒子を作成し、このシリカ微粒子を火炎中で溶融球状化して得られた、有機系廃棄物由来の球状シリカ粒子。
【請求項14】
含有成分として、少なくともSiO2、MgO、K2OおよびCaOを含み、それらの質量基準含有量は以下のとおりである、請求項13に記載の有機系廃棄物由来の球状シリカ粒子。
SiO2:95.60%以上
MgO:0.12〜0.16%
K2O:0.02〜0.08%
CaO:0.50〜0.65%
【請求項15】
含有成分として、さらにP2O5およびMnOを含み、それらの質量基準含有量は以下のとおりである、請求項13または14に記載の有機系廃棄物由来の球状シリカ粒子。
P2O5:0.08〜0.12%
MnO:0.03〜0.06%
【請求項16】
前記有機系廃棄物は、籾殻、稲わら、米ぬか、麦わら、木材、間伐材、建設廃材、おが屑、樹皮、バガス、トウモロコシ、サトウキビ、サツマイモ、大豆、落花生、キャッサバ、ユーカリ、シダ、パイナップル、竹、ゴム、古紙からなる群から選ばれたいずれかである、請求項13〜15のいずれかに記載の有機系廃棄物由来の球状シリカ粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、半導体デバイスの封止材等に使用される球状シリカ粒子およびその製造方法に関するものであり、特に有機系廃棄物由来の球状シリカ粒子およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば半導体デバイスの封止材として、シリカ(酸化ケイ素)が使用されている。このような用途のシリカは高純度であることが要求されるので、原料として高純度の硅石が使用されている。
【0003】
硅石を粉砕することによって得られるシリカ粉末粒子は角張った形状なので、流動性が悪く、充填性も悪い。そこで、例えば特開2009-221054号公報(特許文献1)に記載されているように、粉砕したシリカ粉末を火炎中で溶融・球状化して球状シリカ粒子を得ることが行われている。
【0004】
硅石は、本来的にシリカ(SiO
2)純度が高いので、半導体デバイスの封止材としての用途に適しているという利点を有している。他方、硅石は産地が特定されているので、広範囲な地域で入手することができないという欠点を有している。また、火炎処理に先立ち、直径(最大長さ)が5cm〜6cmの硅石を例えばボールミルで粉砕し、それをさらに3〜30μmの微粒子にまで粉砕する必要があるが、その粉砕エネルギーは多大であり、装置も大型化してしまう。
【0005】
例えば、特許第5213120号公報(特許文献2)は、籾殻、稲わら、米ぬか、木材などの有機系廃棄物(バイオマス原料)を酸処理した後に加熱焼成することによって、シリカ粉末を得ることを開示している。
【0006】
上記の有機系廃棄物は広範囲の地域で入手することが可能であるという利点を有している。他方、有機系廃棄物由来のシリカ粉末は、硅石に比べて、シリカの純度が低く、鉄(Fe)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、炭素(C)などの成分が多く含まれているので、特に電気絶縁性が要求される半導体デバイスの封止材としては不適なものであると考えられていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009-221054号公報
【特許文献2】特許第5213120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本願発明者らは、籾殻等の有機系廃棄物を適正な条件で処理すれば比較的高純度のシリカ粉末粒子を得ることができること、さらに高温の火炎処理によって不純な金属成分を減少させ得ることに着目した。
【0009】
本発明の目的は、有機系廃棄物を出発原料として用いて高純度の球状シリカ粒子を製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に従った球状シリカ粒子の製造方法は、シリカを含む有機系廃棄物を出発原料として準備する工程と、有機系廃棄物を液中に浸漬してシリカの純度を上げる工程と、有機系廃棄物を焼成してシリカ粉末を得る工程と、シリカ粉末を粉砕してシリカ微粒子を得る工程と、シリカ微粒子を火炎中で溶融球状化して球状シリカ粒子を得る工程とを備える。
【0011】
好ましくは、粉砕前のシリカ粉末粒子の粒径は10mm以下であり、粉砕後のシリカ微粒子の粒径は15μm以下である。
【0012】
溶融球状化処理前のシリカ微粒子は、有機系廃棄物を出発原料としているので、多孔質の状態である。したがって、シリカ微粒子は表面積が大きく、内部空隙も多い。そのため、硅石原料に比べて、溶融球状化処理後の粒径の増加が抑制される。好ましくは、溶融球状化処理後の球状シリカ粒子の平均粒径は20μm以下である。
【0013】
有機系廃棄物は、好ましくは、籾殻、稲わら、米ぬか、麦わら、木材、間伐材、建設廃材、おが屑、樹皮、バガス、トウモロコシ、サトウキビ、サツマイモ、大豆、落花生、キャッサバ、ユーカリ、シダ、パイナップル、竹、ゴム、古紙からなる群から選ばれたいずれかである。
【0014】
一つの実施形態では、有機系廃棄物を浸漬する液は、酸溶液である。酸溶液の一例は、クエン酸である。好ましいクエン酸の濃度は0.5%〜10%である。
【0015】
他の実施形態では、有機系廃棄物を浸漬する液は常温〜80℃の水である。
【0016】
好ましくは、有機系廃棄物の焼成は大気雰囲気中で行い、その焼成温度は300℃以上1100℃以下である。好ましい火炎処理の温度は1750℃〜2500℃である。
【0017】
有機系廃棄物を出発原料とした一つの実施形態では、シリカ微粒子のシリカ純度に対して、溶融球状化処理後の球状シリカ粒子の純度は0.2%以上高い。
【0018】
本発明に従った有機系廃棄物由来の球状シリカ粒子は、シリカを含む有機系廃棄物を出発原料としてシリカ微粒子を作成し、このシリカ微粒子を火炎中で溶融球状化して得られる。
【0019】
出発原料として使用される有機系廃棄物は、硅石等に比べて、多くの種類の不純物成分を含む。したがって、有機系廃棄物由来の球状シリカ粒子と鉱物由来の球状化シリカ粒子とは、含有成分において明確に区別し得る。
【0020】
具体的には、好ましい有機系廃棄物由来の球状シリカ粒子は、含有成分として、少なくともSiO
2、MgO、K
2OおよびCaOを含み、それらの質量基準含有量は以下のとおりである。
【0021】
SiO
2:95.60%以上
MgO:0.12〜0.16%
K
2O:0.02〜0.08%
CaO:0.50〜0.65%
【0022】
好ましい有機系廃棄物由来の球状シリカ粒子は、含有成分として、さらにP
2O
5およびMnOを含み、それらの質量基準含有量は以下のとおりである。
【0023】
P
2O
5:0.08〜0.12%
MnO:0.03〜0.06%
【0024】
有機系廃棄物は、好ましくは、籾殻、稲わら、米ぬか、麦わら、木材、間伐材、建設廃材、おが屑、樹皮、バガス、トウモロコシ、サトウキビ、サツマイモ、大豆、落花生、キャッサバ、ユーカリ、シダ、パイナップル、竹、ゴム、古紙からなる群から選ばれたいずれかである。
【発明の効果】
【0025】
本発明においては、有機系廃棄物を出発原料として球状シリカ粒子を得るものであるので、球状シリカ粒子の原料を広範囲に入手可能である。また、硅石を出発原料とするものに比べて、粉砕に要するエネルギーをかなり小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の実施形態に係る製造方法のステップを示す図である。
【
図2】溶融球状化処理前後のシリカ粒子の光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1は、本発明の製造方法に従った処理工程を順に示している。本発明の方法は、有機系廃棄物を出発原料として用いて、最終的に球状シリカ粒子を得るものである。出発原料の有機系廃棄物を液中で浸漬して不純物を減少させつつシリカ純度を上げる。その後、この有機系廃棄物を所定の温度で焼成してシリカ粉末を得る。そして、シリカ粉末を粉砕してシリカ微粒子とし、これを火炎中で溶融球状化して球状シリカ粒子を得る。以下、各工程について、詳しく説明する。
【0028】
[有機系廃棄物の準備]
準備すべき出発原料は、シリカを含む有機系廃棄物である。具体的には、籾殻、稲わら、米ぬか、麦わら、木材、間伐材、建設廃材、おが屑、樹皮、バガス、トウモロコシ、サトウキビ、サツマイモ、大豆、落花生、キャッサバ、ユーカリ、シダ、パイナップル、竹、ゴム、古紙からなる群から選ばれたいずれかである。これらの原料は、硅石と異なり、広範囲な地域で入手可能である。本発明者らは、入手し易く、かつ取り扱い易い籾殻を使用して本発明の実験を行なったが、他の有機系廃棄物を使用しても同等の作用効果を期待できる。
【0029】
籾殻のサイズ(最大長さ)は10数ミリ程度であり、5〜6cmサイズの硅石に比べて、はるかに小さい。溶融球状化のための火炎処理をするには、粒径3〜15μm程度の微粒子になるまで粉砕加工をしなければならない。硅石をこの粒径になるまで粉砕するには多大なエネルギーが必要となるが、籾殻等の有機系廃棄物であれば、比較的小さなエネルギーで所望サイズまで粉砕することができる。この点において、有機系廃棄物は、硅石に比べて有利である。
【0030】
なお、液中への浸漬に先立ち、有機系廃棄物を微小サイズになるまで粉砕しても良い。
【0031】
[液中への浸漬]
出発原料である有機系廃棄物に対して、酸溶液または温水中に浸漬して撹拌することによって原料から不純物を取り除き、シリカ純度を高める。酸は、水酸基を有するカルボン酸が好ましく、より好ましくはクエン酸である。
【0032】
この酸処理及び引き続いての水洗処理を施すことにより、原料中に含まれるカリウム、カルシウム、アルミニウムなどの金属不純物をキレート反応ならびに脱水反応によって原料から系外に排出して除去する。酸処理及び水洗処理後の有機系廃棄物は、常温または温風により乾燥する。
【0033】
クエン酸の好ましい濃度は、0.5%〜10%である。濃度が0.5%未満では十分なキレート効果が得られず、他方、10%を超えてもキレート効果は向上せず、むしろ次の水洗処理の回数が増えるといった経済性の問題を引き起こす。不純物除去効果を高めるために、クエン酸等の酸水溶液の温度を常温以上、好ましくは50℃〜80℃にすることが好ましい。
【0034】
有機系廃棄物を浸漬する液としては、酸に代えて、常温〜80℃の水(温水)であってもよい。温水を使用しても、不純物除去効果を期待できる。
【0035】
[焼成]
シリカ純度を高めるためには、不純物金属元素の含有量を事前に低減して燃焼後の残留炭素量を減少することが必要である。さらに、燃焼過程において水酸基による脱水反応および十分な空気(酸素)供給による炭水化物の完全燃焼を実現することにより、残留炭素量を削減することも重要である。液中での浸漬後の有機系廃棄物を燃焼する条件として、好ましくは、大気雰囲気中で300℃以上1100℃以下の加熱温度とすることが望ましい。300℃未満では、炭水化物が十分に燃焼しないために残留炭素成分が増加してシリカ純度が低下する。一方、燃焼温度が1100℃を超えると、シリカの結晶構造がクリストバライト化(結晶化)するといった問題が生ずる。
【0036】
原料籾殻の示差熱分析結果を見ると、300〜400℃および400〜480℃にかけて2段階の発熱ピークが観察される。これは籾殻に含まれる炭水化物(五炭糖成分および六炭糖成分の2種類の炭水化物)が燃焼する際に発生する熱量に相当するものである。この2つの発熱過程において完全に炭水化物を熱分解すれば、残留炭素量を減少させてシリカ純度を向上できる。そこで好ましくは、籾殻等の有機系廃棄物を大気雰囲気中で加熱する工程は、2つの発熱ピークが発現する300〜500℃において酸素を十分に供給した状態で原料を燃焼する第1次加熱工程と、続いて大気雰囲気中で600℃〜1100℃にて加熱する第2次加熱工程とを備える。このような2段階加熱により、炭水化物の完全燃焼が可能となる。
【0037】
[粉砕]
最終的に微細な球状シリカ粒子を得るためには、溶融球状化処理に先立ち、上記の焼成後に得られるシリカ粉末をより微細に粉砕してシリカ微粒子とすることが必要である。
【0038】
籾殻等の有機系廃棄物の焼成によって得られるシリカ粉末粒子の粒径(最大長さ)は、原料粒子の大きさに対応するものであり、典型的には10mm以下である。また、有機系廃棄物由来の粉末粒子は、多孔質である。比較として、硅石のサイズは5〜6cmであり、非多孔質である。有機系廃棄物由来のシリカ粉末粒子のサイズが10mm以下であること、および多孔質であることから、15μm以下のシリカ微粒子を得るまでの粉砕に要するエネルギーは、硅石粉砕のエネルギーに比べ、著しく小さい。
【0039】
[溶融球状化]
溶融球状化のための設備は、好ましくは、粉体供給装置、バーナ、溶融帯、冷却帯、粉体回収装置、吸引ファンによって構成される。上記の粉砕工程で処理された15μm以下のシリカ微粒子は、バーナに投入され、溶融帯の高温火炎内で球状化し、冷却帯にて燃焼排ガスとともに抜熱され、粉体回収装置で回収される。高温火炎内に投入されたシリカ微粒子は融点以上に達し、溶融・液状化の過程で微粒子自身の表面張力により球状化する。火炎処理の温度は、好ましくは、1750℃〜2500℃である。
【0040】
一般的に、バーナに投入前のシリカ微粒子の平均粒径に比べて、溶融球状化処理によって球状化した球状シリカ粒子の平均粒径は増加する。平均粒径が増加する一つの理由は、複数のシリカ微粒子が静電気や分子間引力により凝集した状態で球状化するからである。ここで注目すべきは、有機系廃棄物由来のシリカ微粒子を溶融球状化した場合、鉱物由来のシリカ微粒子に比べて、粒径の増加を抑制することが認められた。その理由はまだ十分に解明できていないが、有機系廃棄物由来のシリカ微粒子が多孔質であるので、表面積が大きく表面張力効果が高いこと、また内部に空隙があること等が考えられる。
【0041】
球状化処理時における粒子の平均粒径の増加を抑えることができれば、原料シリカ(破砕シリカ)の粉砕サイズを球状化品に近づけることができる。したがって、平均粒径の増加を見込んだ分まで粒子を細かく粉砕する必要がなくなる。結果的に粉砕コストを低減することができるので、出発原料として有機系廃棄物を用いることに意義がある。好ましくは、溶融球状化処理後の球状シリカ粒子の平均粒径は20μm以下である。鉱物由来のシリカ微粒子を用いた場合、溶融球状化処理後の球状シリカ粒子の平均粒径は20μmを超えることが認められた。
【0042】
硅石のシリカ純度は高く、他の不純物の含有量は小さい。そのため、鉱物由来のシリカ微粒子を溶融球状化処理しても、シリカ純度はほとんど変わらない。それに対して、有機系廃棄物由来のシリカ微粒子は、含有する不純物の種類が多いので、溶融球状化処理の過程で不純物の量が減少する。その結果、溶融球状化処理後の球状シリカ粒子のシリカ純度は、処理前の有機系廃棄物由来のシリカ微粒子のシリカ純度よりも高い。本発明者らが行った実験では、シリカ微粒子のシリカ純度に対して、溶融球状化処理後の球状シリカ粒子の純度が0.2%以上高くなった。
【0043】
[実施例1]
滋賀県産の籾殻を出発原料として用い、液中での浸漬処理を行うことなく焼成した未洗浄焼成品(試料No.1)の成分、温水中での浸漬処理を行なって焼成した温水処理焼成品(試料No.2〜No.6)の成分、クエン酸溶液中での浸漬処理を行って焼成したクエン酸処理焼成品(試料No.7〜No.8)の成分を比較した。
【0044】
温水の温度は、常温(試料No.2)、40℃(試料No.3)、50℃(試料No.4)、60℃(試料No.5)、80℃(試料No.6)であった。
【0045】
クエン酸溶液の温度は50℃であり、その濃度は1%(試料No.7)、0.5%(試料No.8)であった。
【0047】
試料No.1の未洗浄焼成品のシリカ純度が94.28%であったのに対し、温水処理焼成品(試料No.2〜No.6)のシリカ純度は96.26〜96.97%と向上した。水の温度が高いほど不純物除去効果が高いことが認められる。
【0048】
試料No.7および試料No.8のクエン酸処理焼成品のシリカ純度は98.60〜98.72%であり、温水洗浄よりも不純物除去効果が高いことが認められる。また、クエン酸の濃度を0.5%から1.0%に高めると、不純物除去がより促進され、シリカ純度が向上することが認められる。
【0049】
[実施例2]
溶融球状化後に成分がどのように変化するのかを調査した。その結果を、表2に示す。
【0051】
試料No.11は、クエン酸処理後に焼成し、さらに平均粒径が10μmになるまで粉砕した粉砕品である。試料No.12は、試料No.11の焼成粉砕品を、5kg/hrの処理量で溶融球状化した後の球状化品である。試料No.13は、試料No.11の焼成粉砕品を、15kg/hrの処理量で溶融球状化した後の球状化品である。
【0052】
試料No.14は、中国産の硅石を平均粒径が14μmになるまで粉砕した粉砕品である。試料No.15は、試料No.14の粉砕品を、5kg/hrの処理量で溶融球状化した後の球状化品である。試料No.16は、試料No.14の粉砕品を、15kg/hrの処理量で溶融球状化した後の球状化品である。
【0053】
溶融球状化処理の条件は、以下の通りであった。
【0054】
炉温:1300℃
火炎温度:2000℃以上
燃焼量:135,000kcal/hr
酸素比:1.05
【0055】
籾殻を出発原料とした場合、粉砕品のシリカ純度が98.71%であったのに対し、球状化処理後の球状化品では、シリカ純度が98.91〜98.93%に上昇した。その増加率は、0.2%以上である。
【0056】
硅石(鉱物)を出発原料とした場合、粉砕品のシリカ純度が99.91%であったのに対し、球状化処理後の球状化品では、シリカ純度が99.90%であり、純度の変化は認められなかった。
【0057】
球状化処理後の炭素含有量に関しては、籾殻を出発原料とした場合と硅石(鉱物)を出発原料とした場合とを比べると、鉱物由来の炭素含有量が0.01%に対して籾殻由来の炭素含有量が0.02〜0.03%と高くなっていることが認められる。
【0058】
[実施例3]
硅石(鉱物)を出発原料とした球状シリカ粒子と、籾殻(有機系廃棄物)を出発原料とした球状シリカ粒子に関して、球形度(円形度)および平均粒径を測定した。
【0059】
粉末の平均球形度(円形度)は、株式会社セイシン企業製の円形度測定装置(PITA−2)を用いて、動的画像解析法により測定した。具体的には、SEM写真から粒子の投影面積と周囲長を測定し、下記の式で球形度(円形度)を測定した。
【0060】
球形度(円形度)=4π×(投影面積)÷(周囲長)
2
上記の式で算出した値が1に近づくほど、真球に近くなる。
【0061】
溶融球状化処理の条件は、以下の通りであった。
【0062】
炉温:1300℃
火炎温度:2000℃以上
燃焼量:135,000kcal/hr
酸素比:1.05
【0063】
溶融球状化処理前の鉱物由来のシリカ微粒子の平均粒径は14.2μmであり、溶融球状化処理前の籾殻由来のシリカ微粒子の平均粒径は10.3μmであった。
【0064】
球形度および平均粒径の測定結果を表3に示す。
【0066】
また、溶融球状化処理前の鉱物由来のシリカ微粒子、溶融球状化処理前の籾殻由来のシリカ微粒子、溶融球状化処理後の鉱物由来の球状シリカ粒子、溶融球状化処理後の籾殻由来の球状シリカ粒子の顕微鏡写真を
図2に示す。球状化処理の処理量を5kg/hr、10kg/hr、15kg/hrとし、それぞれについて写真撮影した。
【0067】
使用した光学顕微鏡は、LEICA製DMLMである。
【0068】
表3の結果から、以下のことが認められる。
【0069】
a)籾殻由来の球状シリカ粒子の球形度は、鉱物(硅石)由来の球状シリカ粒子の球形度よりも高い。
【0070】
b)溶融球状化処理によって粒子の平均粒径は増加するが、その増加率は、鉱物(硅石)由来の球状シリカ粒子の方が高い。具体的には、例えば5kg/hrの処理量の場合、鉱物(硅石)由来の球状シリカ粒子の増加率が約147%であるのに対し、籾殻由来の球状シリカ粒子の増加率は約106%である。したがって、肥大化率が小さい球状シリカ粒子を得るには、籾殻を出発原料とする方が良い。
【0071】
c)鉱物(硅石)由来の球状シリカ粒子の平均粒径は20μmを超えるが、籾殻由来の球状シリカ粒子の平均粒径は20μm以下(具体的には15μm以下)である。
【0072】
図2の光学顕微鏡写真を見ても、籾殻由来の球状シリカ粒子のサイズは、鉱物(硅石)由来の球状シリカ粒子よりも小さいことが認められる。
【0073】
なお、表1および表2では、シリカ粒子の成分として、SiO
2、Na
2O、MgO、P
2O
5、SO
3、K
2O、CaO、Cr
2O
3、MnO、Fe
2O
3およびCを列挙し、これらの合計含有量を100%となるように各成分の実際の含有量を補正した。実際には、これらの列挙した成分以外に不可避不純物を含むので、シリカ粒子全体を100%とした場合の実際の各成分の含有量は、表1および表2に記載したものよりは若干少なくなる。
【0074】
以下に記載する表4は、有機系廃棄物(籾殻)由来のシリカ微粒子を0.5%クエン酸(50℃)で洗浄し、それを焼成した後の焼成品を火炎中で球状化処理して得られた有機系廃棄物由来の球状シリカ粒子の各成分の実際の含有量である。
【0076】
表4中の試料No.12および13は、表2の試料No.12および13と同一のものである。両者が異なっているのは、不可避不純物を合計含有量の中に含むか否かだけである。試料No.17、18、19および20の球状化処理の処理量は、それぞれ、7.5kg/hr、7.5kg/hr、7.5kg/hrおよび5kg/hrであった。
【0077】
出発原料して使用される有機系廃棄物(例えば籾殻)は、硅石等に比べて、多くの種類の不純物成分を含む。したがって、有機系廃棄物由来の球状シリカ粒子と鉱物由来の球状化シリカ粒子とは、含有成分において明確に区別し得る。
【0078】
具体的には、有機系廃棄物由来の球状シリカ粒子は、鉱物由来の球状シリカ粒子に比べて、MgO、P
2O
5、K
2O、CaOおよびMnOを多く含む。
【0079】
表4に記載の数値から読み取れる有機系廃棄物由来の球状シリカ粒子の含有量は、以下のとおりである。
【0080】
SiO
2:95.80%以上
MgO:0.13〜0.15%
P
2O
5:0.09〜0.11%
K
2O:0.03〜0.06%
CaO:0.55〜0.62%
MnO:0.04〜0.05%
【0081】
測定誤差等を考慮すると、鉱物由来の球状シリカ粒子と区別し得る有機系廃棄物由来の球状シリカ粒子は、含有成分として、少なくともSiO
2、MgO、K
2OおよびCaOを含み、それらの質量基準含有量は以下のとおりである。
【0082】
SiO
2:95.60%以上
MgO:0.12〜0.16%
K
2O:0.02〜0.08%
CaO:0.50〜0.65%
【0083】
有機系廃棄物由来の球状シリカ粒子が、含有成分として、さらにP
2O
5およびMnOを含む場合、測定誤差等を考慮すると、それらの質量基準含有量は以下のとおりである。
【0084】
P
2O
5:0.08〜0.12%
MnO:0.03〜0.06%
【0085】
なお、比較のために、鉱物由来の球状化シリカ粒子の成分の質量基準含有量を以下に記載する。
【0086】
SiO
2:99.90%以上
MgO:0〜0.01%
P
2O
5:0.03〜0.04%
K
2O:0%
CaO:0〜0.04%
MnO:0.01%
【0087】
以上、この発明を実施形態に基づいて説明したが、この発明は実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の発明と同一の範囲または均等の範囲内で種々の修正や変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0088】
この発明は、有機系廃棄物由来の球状シリカ粒子およびその製造方法として、有利に利用され得る。
【要約】
球状シリカ粒子の製造方法は、有機系廃棄物を出発原料として準備する工程と、有機系廃棄物を液中に浸漬してシリカの純度を上げる工程と、有機系廃棄物を焼成してシリカ粉末を得る工程と、シリカ粉末を粉砕してシリカ微粒子を得る工程と、シリカ微粒子を火炎中で溶融球状化して球状シリカ粒子を得る工程とを備える。