(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
有機半導体層およびこれに電気的に接続される電極を備える素子における前記有機半導体層と前記電極との間に配置されて、該有機半導体層と該電極との間の電気伝導がホールによって担われることを抑制するホールブロック層の製造方法であって、
過酸化水素およびオキシ硫酸チタン(IV)を含む水溶液と該ホールブロック層が形成されるべき部材の表面とを接触させ、前記部材の表面上にアモルファス酸化チタン前駆体が析出するように当該水溶液と前記部材の表面との50〜120℃での接触を保持するステップ、および前記部材上に析出したアモルファス酸化チタン前駆体を乾燥するステップを備えており、前記接触を保持するステップにおいて電解分解を行わないこと
を特徴とするホールブロック層の製造方法。
有機半導体層およびこれに電気的に接続される電極を備える素子における前記有機半導体層と前記電極との間に配置されて、該有機半導体層と該電極との間の電気伝導がホールによって担われることを抑制するホールブロック層の製造方法であって、
下記の一般式(i)で表される有機チタン化合物および低級アルキルアミンを含有する非水溶液と前記ホールブロック層が形成されるべき部材の表面とを接触させて、その表面上に前記非水溶液の液層を形成するステップ、前記非水溶液の液層に含まれる前記有機チタン化合物を加水分解して前記有機チタン化合物の加水分解生成物を前記非水溶液の液層に形成するステップ、前記有機チタン化合物の加水分解生成物を含有する前記非水溶液の液層を乾燥させるステップを備えること
を特徴とするホールブロック層の製造方法:
Ti(OR1)4 (i)
ここで、R1は、それぞれ、C1〜C8のアルキル基、シクロアルキル基およびアリール基、ならびにこれらのヒドロキシ、アルコキシ、アミノおよびフルオロ誘導体からなる群から選ばれるものであって、互いに異なっていてもよい。
前記ホールブロック層を形成するための非水溶液に含まれる前記有機チタン化合物の低級アルキルアミンに対するモル比(前記有機チタン化合物/低級アルキルアミン)が0.25〜1である請求項4記載のホールブロック層の製造方法。
前記低級アルキルアミンがジエチルアミンであって、前記有機チタン化合物の加水分解生成物を含有する前記部材上の非水溶液を乾燥させるステップにおける乾燥温度が100℃以下である請求項4または5記載のホールブロック層の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明に係る光電変換素子およびその製造方法、ならびにその光電変換素子を用いてなる有機薄膜太陽電池パネルについて詳細に説明する。
I.第1の実施形態
1.ホールブロック層
本発明において、ホールブロック層とは、有機半導体層およびこれに電気的に接続される電極を備える素子における有機半導体層と電極との間に配置されて、有機半導体層と電極との間の電気伝導がホールによって担われることを抑制するものをいい、ホールブロック層によるホールの通過を抑制する特性をホールブロック性という。
【0037】
本発明に係るホールブロック層は実質的にアモルファス酸化チタンからなる。ここで、「アモルファス酸化チタン」とは、酸素とチタンとの原子数比が化学量論的な比率(チタン:酸素=1:2)以外のものをも含有する酸化チタンであって、短距離秩序(数原子〜十数個原子オーダー)を有しても、長距離秩序(数百〜数千個の原子オーダー)を有さない構造を有しているものをいう。以下、実質的にアモルファス酸化チタンからなる本発明に係るホールブロック層を「アモルファス酸化チタン層」と記す。なお、「実質的」とは、本発明に係るホールブロック層が、その製造上の理由によりアモルファス酸化チタン以外に水分などを若干量含有することを意味する。
【0038】
本発明に係るアモルファス酸化チタン層はこのホールブロック性に優れるため、このホールブロック層により挟まれる有機半導体層と電極との間の電荷輸送は、電子によって優先的に行われ、有機半導体層と電極との間をホールが移動することが効率的に抑制される。このため、このホールブロック層を備える光電変換素子が太陽電池であれば、光照射により有機半導体層内に生成した電子が効率的に電極に到達することが実現される。また光電変換素子が有機EL素子のような発光素子であれば、電子注入電極から注入された電子が発光層をなす有機半導体層に効率的に注入されることが実現される。したがって、かかるアモルファス酸化チタン層を備える光電変換素子は、光照射された場合でも電荷注入された場合でも光電変換効率が高い。
【0039】
光電変換素子が有機薄膜太陽電池である場合については詳しく後述するため、ここでは、光電変換素子が有機EL素子である場合について以下に説明する。
有機EL素子は、電子注入電極とホール注入電極との間に有機半導体を含む有機発光層(すなわち有機半導体層)が介在する構成を基本構造とする。この素子の両端に電圧を印加すると、電子注入電極から有機発光層に電子が注入され、ホール注入電極からホールが有機発光層に注入される。そして、注入された電子とホールとが有機発光層内で再結合することにより発光現象が生じる。
【0040】
ここで、この有機発光層に対する電子注入電極からの電子注入に比してホール注入電極からのホール注入が勝っている場合には、有機発光層内をホールが優先的に通過することによって電流が主に流れてしまう。このため、発光が起こらないか、あるいは、発光効率が非常に低い状態となってしまう。
【0041】
そこで、本発明に係るホールブロック層を電子注入電極(電極)と有機発光層(有機半導体層)との間に挿入すると、ホールブロック層においてホールの通過が阻止され、電子注入層から有機発光層への電子注入が促進される。さらに、ホールブロック層と有機発光層との界面の有機発光層側にホールが蓄積される。このため、電子注入電極からホールブロック層へと注入された電子とブロックされたホールとがこの界面近傍で再結合する確率が増加する。その結果として、発光効率の向上が期待される。
【0042】
以上説明したように、本発明に係るアモルファス酸化チタン層をホールブロック層として用いることにより有機EL素子の機能を高めることが実現される。
また、本発明に係るホールブロック層として用いたアモルファス酸化チタン層は優れた光透過性を有する。このため、光照射面または発光面側に設けられた電極と有機半導体層との間に配置されても、有機半導体層における光電変換反応を阻害しにくい。この観点からも、本発明に係るホールブロック層を備える光電変換素子は光変換効率に優れる。
【0043】
なお、アモルファス酸化チタン層は、ホールブロック層におけるホールブロック性がアモルファス酸化チタンにより支配的にもたらされている限り、他の材料を含有してもよい。例えば、電子輸送効率を高めるためにドーパントが含有されていてもよい。
【0044】
アモルファス酸化チタン層は、本発明においては次の析出および乾燥ステップを備える製造方法により製造される。
i)析出ステップ
過酸化水素およびオキシ硫酸チタン(IV)を含む水溶液(以下、「水溶液」と略記する。)と、ホールブロック層が形成されるべき部材(以下、「基材」と略記する。)の表面とを接触させ、この基材の表面上にアモルファス酸化チタン前駆体が析出するように水溶液と基材との50〜120℃での接触を保持する。
【0045】
なお、ホールブロック層が形成されるべき基材の表面をなす要素は、電極であってもよいし、有機半導体層であってもよく、ホールブロック層を備える光電変換素子全体の製造方法を設計するときに適宜設定すればよい。化学的な安定性の観点からは当該要素は電極であることが好ましい。また、有機半導体層上にホールブロック層を形成する場合には、水溶液に界面活性剤を添加して、水溶液と有機物からなる層との濡れ性を高めておくことが好ましい。
【0046】
上記の水溶液内において、次の反応式(1)および反応式(2)で示される反応が進行していると推測される。
TiO
2++ H
2O
2 → Ti(O
2)
2++ H
2O (1)
mTi(O)
22+ + nH
2O → [TiO
p(OH)
q]
m・rH
2O + 2mH
+ (2)
ここで、m、n、p、q、r、および、後述のsとxは不明の数値である。
そして、基材の表面に析出した[TiO
p(OH)
q]
m・rH
2O(本発明においてこの化学物質を「アモルファス酸化チタン前駆体」ともいう。)を乾燥させることにより、次の反応式(3)で示される脱水反応が進行し、アモルファス酸化チタン層が基材の表面上に形成される。なお、下記式では、アモルファス酸化チタンはTiO
xとして示されている。
【0047】
[TiO
p(OH)
q]
m・rH
2O → mTiO
x + sH
2O (3)
上記のように、アモルファス酸化チタン前駆体が析出する反応には水が関与する。このため、上記の反応は通常の大気中で行うことが可能である。これに対し、特許文献2に記載されるようなゾルゲル法を用いてアモルファス酸化チタン層を形成する場合には、ゾルゲル法によるアモルファス酸化チタンの前駆体(本発明に係るアモルファス酸化チタン前駆体とは相違する。)はきわめて加水分解されやすいため、グローブボックスなど雰囲気を制御する設備が必要とされる。したがって、本発明に係るアモルファス酸化チタン層の製造方法は、従来技術に係るアモルファス酸化チタンの製造方法に比べて、簡便であり、生産性が高い。
【0048】
また、上記の水溶液は室温において安定であり、50℃程度以上まで加熱しなければ、上記反応式(2)の反応はほとんど進行しない。これに対し、特許文献2に記載されるような電解還元析出のための反応液の場合には、0℃近くまで冷却しなければ、反応液の分解が生じてしまう。このため、特許文献2に記載される電解還元析出法を実施するためには、電解のための設備に加えて、反応液の冷却設備も必要とされる。一般的に、冷却設備は加熱設備に比べて設備導入時のコストおよびランニングコストの双方とも高い。したがって、本発明に係るアモルファス酸化チタン層の製造方法は、この観点からも、従来技術に係るアモルファス酸化チタン層の製造方法に比べて、簡便であり、生産性が高いといえる。
【0049】
このように、簡便で生産性が高いことから、本発明に係るホールブロック層は、品質の安定化、大面積化などの、現在、そして今後も継続的に太陽電池に対して求められる生産技術上の課題に対応しやすい。具体的には、バッチあたり処理面積を大きくすることが可能であるし、基材がシート状であってこれが水溶液内に移動しつつ浸漬されることによってホールブロック層が連続的に形成されるような製造方法も可能である。
【0050】
上記の水溶液の組成に関し、過酸化水素およびオキシ硫酸チタン(IV)を含有し、アモルファス酸化チタン前駆体を現実的な処理時間の範囲で析出させることができれば、各成分の濃度の下限は特に限定されない。一方または双方の成分の濃度が過度に高い場合には、基材の表面をなす要素(電極または有機半導体層)および/またはこれを支持する基板の腐食が懸念されることに加え、結晶粒径の粗大化による有機半導体層を構成する材料との界面の面積の低下、副生成物の堆積による実効的な上記の界面の低下などに基づく光電変換素子としての機能低下が懸念される。このため、いずれの成分についても、0.005〜1mol/L程度とすることが好ましく、0.01〜0.5mol/L程度とすればさらに好ましい。また、処理時間の短縮、生成されるアモルファス酸化チタン層の品質およびなどの腐食抑制を高度に両立する観点から、成分モル比、すなわち(過酸化水素のモル濃度)/(オキシ硫酸チタン(IV)のモル濃度)は0.1〜10程度とすることが好ましく、1〜10とすればさらに好ましい。
【0051】
基材の表面と水溶液との接触方法は特に限定されない。浸漬、スプレー、スピンコート、ロールコート、インクジェットによる水溶液を構成する液体の吐出など任意の手段を使用すればよい。ただし、析出を安定化させる観点からは、静置状態での接触が維持されることが有利であるため、水溶液に基材を浸漬させ、その状態で静置することが好ましい。
【0052】
基材の表面と水溶液との接触状態を保持しているときの水溶液の温度は50〜120℃とする。温度が過度に低い場合には析出に要する時間が長くなり生産性の低下を招く。温度が過度に高い場合にはアモルファス酸化チタン前駆体の析出が不安定化し、分解物など副生成物の影響によりアモルファス酸化チタン層の品質が低下することが懸念される。その上、基材の表面をなす要素(電極または有機半導体層)の腐食の可能性が高まり光電変換素子の特性低下が著しくなるおそれがある。高い生産性と優れた品質とを高次に両立する観点からは、50〜90℃とすることが好ましく、60〜90℃とすればさらに好ましい。
【0053】
基材の表面と水溶液との接触状態を保持する時間は、水溶液の組成、浴温度、求めるアモルファス酸化チタン層の厚さを考慮して適宜設定される。
図1は、0.03mol/Lの過酸化水素および0.03mol/Lのオキシ硫酸チタン(IV)を含有する水溶液からなる水溶液を80℃に保持した状態でITOからなる光透過性電極層と接触させ、光透過性電極層上にアモルファス酸化チタン前駆体を析出させ、後述する乾燥ステップを経ることにより得られたアモルファス酸化チタン層の厚さの、水溶液との接触時間依存性を示すグラフである。
図1に示されるように、接触状態の保持時間を管理することにより、本発明に係るアモルファス酸化チタン層の厚さを制御することが可能である。
【0054】
アモルファス酸化チタン層の厚さは適宜設定されるべきものである。アモルファス酸化チタン層は厚い方がホールブロック性は高いが、その光透過性は若干低下する傾向を示す。このため、光透過性が求められない場合にはプロセス上許容される限り厚いほうが好ましい。
【0055】
アモルファス酸化チタン層の表面粗さは小さければ小さいほど好ましい。アモルファス酸化チタン層に接触するように形成される電極または有機半導体層との間にボイドが形成されにくくなり、特性の劣化が抑制されるためである。
【0056】
この点について電極上に上記の方法によりアモルファス酸化チタン層が形成される場合を例として具体的に説明する。アモルファス酸化チタン層の厚みが小さい場合には、電極上に形成されるアモルファス酸化チタン層は、電極の微細な凹凸を埋めるように成長する。しかしながら、アモルファス酸化チタン層の厚みが大きくなりすぎると、それ自体が凹凸を有するように成長してしまうため、アモルファス酸化チタン層上に有機半導体層を形成する際にボイドが形成される可能性が高まる。したがって、アモルファス酸化チタン層の表面粗さ(Ra)は、ホールブロック層が形成される部材の表面粗さ、本例では電極の表面粗さ以下になるようにアモルファス酸化チタン層の厚みを設定することが、光電変換素子の特性の安定性確保の観点から好ましい。
【0057】
ii)乾燥ステップ
上記の析出ステップにより基材の表面上に析出したアモルファス酸化チタン前駆体を乾燥して水分を除去することにより、実質的にアモルファス酸化チタンからなるホールブロック層が光透過性電極層上に形成される。
【0058】
乾燥手段、乾燥温度および乾燥時間は特に限定されない。公知技術に基づき適宜設定すればよい。一例を挙げれば、アモルファス酸化チタン前駆体がその表面に析出した光透過性電極層を備える部材を、150℃に保持したホットプレート上にて1時間乾燥させることにより、アモルファス酸化チタン層を備える部材を得ることができる。また、特に加熱することなく、室温で乾燥させる風乾としても、従来技術に係るホールブロック層を備える光電変換素子よりも優れた特性を有する光電変換素子をもたらすことが可能なアモルファス酸化チタン層が得られる。
【0059】
一般的傾向として、乾燥温度が高いほど、得られたホールブロック層を備える有機薄膜太陽電池の最大出力が大きくなる。このような傾向が得られる原因は明確ではないが、乾燥温度が高いほど、結晶構造が適正化されて有機半導体層において発生したホールを遮蔽する能力が高くなっている可能性がある。すなわち、乾燥温度が高いほどホールブロック性が高いホールブロック層が得られていると推測される。乾燥温度が200℃以上であれば、優れた特性のホールブロック層を安定的に得ることが実現され、好ましい。製造上の制約が少なく乾燥温度を高くすることが可能である場合には、乾燥温度を300℃以上とすることがさらに好ましい。なお、乾燥温度が400℃を超えるとアモルファス酸化チタン層が結晶質の酸化チタン(TiO
2)層となってしまうため、乾燥温度は400℃以下とすることが好ましく、380℃程度を上限とすればさらに好ましい。
【0060】
一方、乾燥時間については、長いほど最大出力に到達するまでの時間が短くなる。乾燥時間が長いほど、水分の影響を受けにくくなり出力低下が短期に解消されている可能性がある。なお、通常、光電変換素子の製造においては、素子として完成した後にエージング処理を行う場合が多い。したがって、アモルファス酸化チタン層を製造する工程において特に乾燥時間を長く設定する必要はない。
【0061】
アモルファス酸化チタン層の厚みはホールブロック性および光透過性のバランス、さらには生産性を考慮して適宜設定すればよい。基本的な傾向として、アモルファス酸化チタン層が厚いほど、ホールブロック性は高くなるが光透過性が低下する。また、アモルファス酸化チタン層の厚みを大きくするためには水溶液との接触時間を長くする必要がある。光電変換効率の観点からは、アモルファス酸化チタン層の厚みは5〜200nmの範囲でほぼ一定である。したがって、アモルファス酸化チタン層の厚みを5〜200nmとすることが好ましい。より好ましいアモルファス酸化チタン層の厚みは10〜100nmであり、10〜50nmとすれば特に好ましい。
【0062】
2.光電変換素子
本発明に係る光電変換素子は、好ましい一態様として、第1の集電極層、ホールブロック層、有機半導体層、ホール輸送層および第2の集電極層が積層されているとともに、第1の集電極層および第2の集電極層の少なくとも一方が光透過性を有する。
【0063】
詳しく説明すれば、薄膜状の第1の集電極層、第1の集電極層の表面上に設けられた無機酸化物からなるホールブロック層、ホールブロック層における第1の集電極層と接している面と反対側の面上に設けられた有機半導体層、有機半導体層におけるホールブロック層と接している面と反対側の面上に設けられたホール輸送層、およびホール輸送層における有機半導体層と接している面と反対側の面上に設けられた薄膜状の第2の集電極層を、本発明に係る光電変換素子は備え、第1の集電極層および第2の集電極層の少なくとも一方が光透過性を有する。
【0064】
光電変換素子が有機薄膜半導体である場合を例として、各層について以下に詳しく説明する。
(1)第1の集電極層
本発明に係る第1の集電極層は、有機系、無機系、または金属の導電性材料からなり、後述する第2の集電極層との少なくとも一方が光透過性を有する。以下の説明では、第1の集電極層が光透過性を有する光透過性電極層であり、第2の集電極層が光透過性を有さない金属からなる場合を例として説明する。
【0065】
本発明に係る光透過性電極層は、光電変換素子に照射される光を効率的に有機半導体層に供給できる光透過性の高い層が好ましい。また、有機半導体層で生成した電気エネルギーを効率的に取り出せる導電性の高い層が好ましい。
【0066】
光透過性電極層の材料として、ITO、FTO(Fluorine−doped Tin Oxide)等の導電性金属酸化物、PEDOT:PSSのような有機系の透明導電性物質が例示される。このほか、金属薄膜からなる層として光透過性を有させてもよい。そのような金属薄膜として、10nm以下、好ましくは5nm程度の厚さの金膜、銀膜およびアルミニウム膜が例示される。
【0067】
光透過性電極層の厚さは構成材料の光透過性と導電性とを考慮して適宜設定される。1〜10000nm程度が好ましく、10〜300nm程度がより好ましい。
(2)ホールブロック層
本発明に係るアモルファス酸化チタン層からなるホールブロック層を適用すればよい。かかるホールブロック層は前述のように優れた特性を有する。また、光電変換素子が有機薄膜太陽電池である場合には、さらに、アモルファス酸化チタン層を用いることにより、結晶質酸化チタン層(TiO
2層、例えば、アナターゼ型酸化チタン層)を用いる場合よりも有機薄膜太陽電池の耐久性を向上させることができる。
【0068】
アモルファス酸化チタン層の厚みは、ホールブロック性および光透過性のバランス、さらには生産性を考慮して適宜設定すればよい。基本的な傾向として、アモルファス酸化チタン層が厚いほど、ホールブロック性は高くなるが光透過性が低下する。また、アモルファス酸化チタン層の厚みを大きくするためには水溶液との接触時間を長くする必要がある。光電変換効率の観点からは、アモルファス酸化チタン層の厚みは5〜200nmの範囲でほぼ一定である。したがって、アモルファス酸化チタン層の厚みを5〜200nmとすることが好ましい。より好ましいアモルファス酸化チタン層の厚みは10〜100nmであり、10〜50nmとすれば特に好ましい。
【0069】
(3)有機半導体層
本発明において、「有機半導体層」とは、半導体としての性質を有する有機物を備える膜状体であって、その層の半導体として性質がその有機物により主としてもたらされるものをいう。
【0070】
特に、光電変換素子の一要素として用いられる有機半導体層は、光照射によって電荷分離状態が発生する程度のバンドギャップを有し、光照射により生じた正負の電荷が、それぞれ第1および第2の集電極層に継続的に移動できる程度の移動度を有していることが必要とされる。
【0071】
そのような有機半導体層を構成する材料として、ペンタセンの他、例えば、低分子系材料としては、フタロシアニン系誘導体、ナフタロシアニン系誘導体、アゾ化合物系誘導体、ペリレン系誘導体、インジゴ系誘導体、キナクリドン系誘導体、アントラキノン類などの多環キノン系誘導体、シアニン系誘導体、フラーレン類誘導体、あるいはインドール、カルバゾール、オキサゾール、インオキサゾール、チアゾール、イミダゾール、ピラゾール、オキサアジアゾール、ピラゾリン、トリアゾールなどの含窒素環式化合物誘導体、ヒドラジン誘導体、トリフェニルアミン誘導体、トリフェニルメタン誘導体、スチルベン類、アントラキノンジフェノキノン等のキノン化合物誘導体、ポルフィリン誘導体、アントラセン、ピレン、フェナントレン、コロネンなどの多環芳香族化合物誘導体などが挙げられる。高分子材料としては、ポリパラフェニレン等の芳香族系共役性高分子、ポリアセチレン等の脂肪族系共役性高分子、ポリピノールやポリチオフェン等の複素環式共役性高分子、ポリアニリン類やポリフェニレンサルファイド等の含ヘテロ原子共役性高分子、ポリ(フェニレンビニレン)やポリ(アニーレンビニレン)やポリ(チェニレンビニレン)等の共役性高分子の構成単位が交互に結合した構造を有する複合型共役系高分子等の炭素系共役高分子が挙げられる。また、ポリシラン類やジシラニレンアリレンポリマー類、(ジシラニレン)エテニレンポリマー類、(ジシラニレン)エチニレンポリマー類のようなジシラニレン炭素系共役性ポリマー構造などのオリゴシラン類と炭素系共役性構造が交互に連鎖した高分子類などが挙げられる。他にもリン系、窒素系等の無機元素からなる高分子鎖でも良く、さらにフタロシアナートポリシロキサンのような高分子鎖の芳香族系配位子が配位した高分子類、ペリレンテトラカルボン酸のようなペリレン類を熱処理して縮環させた高分子類、ポリアクリロニトリルなどのシアノ基を有するポリエチレン誘導体を熱処理して得られるラダー型高分子類、さらにペロブスカイト類に有機化合物がインターカレートした複合材料が挙げられる。
【0072】
有機半導体層は、単一の有機材料から構成されていてもよいし、複数の有機材料から構成されていてもよい。複数の有機材料から構成される場合には、積層構造を有していてもよいし、混合物であってもよい。例えば、有機半導体層におけるホールブロック層との界面には自己組織化膜(SAM:Self-Assembled Monolayer)、具体的にはフラーレン誘導体が例示される、が形成され、有機半導体のその他の部分は複数の有機半導体の混合物、具体的には前述のP3HTおよびPCBMの混合物が例示される、からなる構成が挙げられる。
【0073】
本発明に係る有機半導体層は、有機材料以外の材料、例えば無機材料が含有されていてもよいが、有機半導体層が有する半導体特性は、主として有機材料によりもたらされているべきである。
【0074】
光電変換素子としての機能を高める観点から、本発明に係る有機半導体層は、電子ドナーとしての共役高分子と電子アクセプターとしてのフラーレン誘導体とを備えることが好ましい。すなわち、本発明に係る光電変換素子の好ましい一態様は、いわゆるバルクへテロジャンクション型有機薄膜太陽電池に属する。
【0075】
電子ドナーとしての共役高分子の具体例には、上記のP3HT、PCPDTBT(ポリ[2,6−(4,4−ビス(2−エチル−ヘキシル)−4H−シクロペンタ[2,1−b:3,4−b’]チジオフェン)−alt−4,7−(2,1,3−ベンゾチアジアゾール)])のほかに、PA−PPV(ポリ(フェニルイミノ−1,4−フェニレン−1,2−エチニレン−2,5−ジヘキシロキシ−1,4−フェニレン−1,2−エチニレン−1,4−フェニレン))が例示される。
【0076】
電子アクセプターとしてのフラーレン誘導体の具体例には、上記のPCBM、PC
70BMのほかに、下記式で示されるbis[60]PCBMやbis[70]PCBMが例示される。
【0078】
上記の有機半導体層は、共役高分子とフラーレン誘導体との2成分のみから形成すればよいが、適宜、光電変換作用を有する導電性材料や色素などを更に添加しても良い。
導電性材料としては、例えば、ポリアセチレン系、ポリピロール系、ポリチオフェン系、ポリパラフェニレン系、ポリパラフェニンビニレン系、ポリチエニレンビニロン系、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)系、ポリフルオレン系、ポリアニリン系、ポリアセン系の導電性材料が挙げられる(但し、PEDOT:PSSは除く)。
【0079】
また、色素としては、例えば、シアニン系、メロシアニン系、フタロシアニン系、ナフタロシアニン系、アゾ系、キノン系、キノイシン系、キナクドリン系、スクアリリウム系、トリフェニルメタン系、キサンテン系、ポルフィリン系、ペリレン系、インジコ系の色素が挙げられる。
【0080】
有機半導体層を共役高分子とフラーレン誘導体との2成分から構成する場合には、両者の配合割合は特に限定されない。共役高分子としてP3HTを用い、フラーレン誘導体としてPCBMを用いる場合には、P3HT:PCBM(質量比)は5:3〜5:6程度が好ましく、5:3〜5:4程度がより好ましい。
【0081】
その他の添加剤(導電性材料や色素)を添加する場合には、これらの添加量は限定的ではないが、共役高分子とフラーレン誘導体との合計量を100質量部として、1〜100質量部程度が好ましく、1〜40質量部程度がより好ましい。
【0082】
有機半導体層の形成方法は限定されない。例えば、ホールブロック層を備える部材のホールブロック層上に、共役高分子とフラーレン誘導体とを含有する溶液をスピンコートすることにより形成される。この溶液の溶媒としては2,6−ジクロロトルエン:クロロホルム混合溶媒が例示される。
【0083】
その他の添加剤を含む場合には、前記溶液に予めその添加剤を混合または溶解しておくことが好ましい。
有機半導体層の厚さは限定的ではないが、50〜400nm程度が好ましく、200〜300nm程度がより好ましい。
【0084】
なお、上記の共役高分子とフラーレン誘導体と含む有機半導体層をスピンコートにより製造する場合には、得られた有機半導体層を60〜150℃、好ましくは80〜120℃で10〜30分間加熱することが好ましい。このようにすることで、有機半導体層に含まれる溶媒が確実に揮発すると共に、共役高分子(例えばP3HT)とフラーレン誘導体(例えばPCBM)との間での光キャリア発生に有利なバルクヘテロジャンクション相分離が促進される。さらに、P3HTの結晶化が進行する。このため、光照射により有機半導体層内で発生した電荷が溶媒構成分子やアモルファス状のP3HTによりトラップされる事態が生じにくい。
【0085】
(4)ホール輸送層
本発明に係る光電変換素子は、上記の有機半導体層と第2の集電極層との間に、ホール輸送層を有してもよい。「ホール輸送層」とは、有機半導体層と第2の集電極層との間の電荷移動がホールにより担われることを促進し、好ましくは電子によって担われることを抑制する機能を有する層をいう。すなわち、ホール輸送層はホールにより電気伝導が行われるp型の半導体特性を有する。
【0086】
有機半導体層と第2の集電極層との間にホール輸送層を有することにより、光照射により有機半導体層に発生した電荷のうち、ホールが第2の集電極層に優先的に到達することになり、光電変換効率が高くなる。
【0087】
本発明に係る光電変換素子におけるホール輸送層を構成する材料は、ホール輸送層としての機能を果たすことができる限り特に限定されない。具体例を挙げれば、銅フタロシアニンなどのフタロシアニン誘導体、ビス(ジ(p−トリル)アミノフェニル)−1,1−シクロヘキサン、N,N,N’,N’−テトラアミノ−4,4’−ジアミノビフェニル、前述のNPD等のトリフェニルジアミン類や、トリス(4−(N,N−ジ−m−トリルアミノ)フェニル)アミン等のスターバースト型分子、アントラセン、テトラセン、ペンタセン等アセン類か、上述のP3HT、ポリ−3−オクチルチオフェン(P3OT)、ポリ−3−ドデシルチオフェン(P3DDT)などのポリアルキルチオフェン類が例示される。このほか、ポリ[bis(4−フェニル)(2,4,6−トリメチルフェニル)アミン(PTAA)、ポリ[2−メトキシ−5−(2−エチルヘキシルオキシ)−1,4−フェニレンビニレン](MEH−PPV)、ポリ[2−メトキシ−5−(3’、7’−ジメチルオクチルオキシ)−1,4−フェニレンビニレン](MDMO−PPV)、ポリ[9,9−ジ−n−オクチルフルオレニル−2,7−ジイル]−alt−(ベンゾ[2,1,3]チアジアゾール−4,8−ジイル)](F8BT)、ポリ[9,9−ジ−n−オクチルフルオレニル−2,7−ジイル]−co−ビチオフェニル](F8T2)なども例示される。
【0088】
これらの材料は単独でも用いてもよいし、複数を積層したり混合したりして用いてもよい。
これらの材料の中でも、ポリ−3,4−エチレンジオキシチオフェン(PEDOT)およびポリスチレンスルホン酸(PSS)の混合物であるPEDOT:PSSが最も一般的である。
【0089】
本発明に係る光電変換素子も、ホール輸送層としてPEDOT:PSSを用いることが好ましい。特に、光透過性電極層、ホールブロック層および有機半導体層が積層された部材における有機半導体層の表面と、PEDOTおよびPSSならびに非イオン性界面活性剤を含有する水溶液とを接触させるステップを有するプロセスにより製造されたものであることが好ましい。
【0090】
従来、PEDOT:PSSは、PEDOTとPSSとを含有する市販の水分散液(例えば、Aldrich製1.3質量%水分散液)をそのまま用い、スピンコートなどの方法により形成されていた。
【0091】
しかしながら、有機半導体層が電子ドナーとしての共役高分子と電子アクセプターとしてのフラーレン誘導体とを備える場合には、この有機半導体層は疎水性であるため、上記の水分散液をスピンコートしようとしても、この有機半導体層上に均一な分散液層を形成することができない。このため、形成されたホール輸送層の厚みも不均一となり、十分なホール輸送特性を実現することができなかった。
【0092】
そこで、本発明においては、上記のPEDOTとPSSとを含有する水分散液に非イオン性界面活性剤を添加し、上記の水分散液の本発明に係る有機半導体層に対する濡れ性を高めている。このようにすることで、PEDOTとPSSとを含有する水分散液と本発明に係る有機半導体層とを接触させたときに均一な分散液層が形成され、その結果、均一な厚みのホール輸送層を形成することが実現される。
【0093】
本発明に係る水分散液に含有される非イオン性界面活性剤として、具体的には、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレンソルビタンエステル、ソルビタンエステル、ソルビトールエステル、蔗糖脂肪酸エステル、メチルグルコシドエステル、メチルマンノシドエステル、エチルグルコシドエステル、N−メチルグルカミド、環状N−メチルグルカミド、アルキルグルコシド、アルキルポリグルコシド、アルキルグリセリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアシルエステル、脂肪酸グリコシドエステル、脂肪酸メチルグリコシドエステル、アルキルメチルグルカミド等が例示される。これらの中でもHLB(親水親油バランス)が10〜20程度のもの、すなわち、親水性が高いものが好ましい。なお、HLB値の算出方法には、アトラス法、グリフィン法、デイビス法、川上法など複数の方法が存在するが、その算出方法は特に限定されず、親水性のほうが相対的に親油性よりも勝ればよい。
【0094】
そのような好ましい非イオン性界面活性剤の一例として、下記の一般式(1)で示されるポリオキシアルキレンアルキルエーテルが挙げられる。
R(OCH
2CH
2)
nOH (1)
ここで、RはC
10〜C
15のアルキル基を意味し、nは5〜15の整数である。
【0095】
さらに具体的にはポリオキシエチレントリデシルエーテル(PTE、C
13H
27(OCH
2CH
2)
nOH,n=6〜12の整数)が例示される。
好ましい非イオン性界面活性剤の他の一例として、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(当該化合物はロシュ・ダイアグノスティックス株式会社製トリトンX−100(登録商標)として入手可能である。)などの、環状のπ電子共役系をなす基を備える非イオン性界面活性剤が挙げられる。そのような基は分散質であるPEDOT:PSSと相互作用しやすいため、当該基を有する界面活性剤はこれらの水への分散を促進しやすい。このため、分散質がより均一に分散した水分散液を得ることが実現される。また、有機半導体層もフラーレン誘導体のように環状のπ電子共役系をなす基を備える場合が多いため、上記の基を有する界面活性剤は水分散液と接触する有機半導体層の表面にある有機半導体と相互作用しやすい。このため、有機半導体層はその表面がより親水化して、水分散液に対する濡れ性が向上する。このことはホール輸送層が均一に形成されることに貢献する。
【0096】
PEDOTとPSSとを含有する水分散液に対する非イオン性界面活性剤の添加量は、有機半導体層の疎水性、水分散液の組成、非イオン性界面活性剤の特性等を考慮して、ホール輸送層が有機半導体層上に適切に形成されるように、適宜設定される。
【0097】
ホール輸送層の形成方法は限定されない。例えば、有機半導体層を備える部材の有機半導体層上に、PEDOTとPSSとを含有する水分散液に非イオン性界面活性剤が添加されたものをスピンコートすることにより形成される。上記の分散液に対する有機半導体層への濡れ性を向上させるために、分散液を加温(例えば50〜90℃)してもよい。
【0098】
ホール輸送層の厚さは限定的ではないが、20〜120nm程度が好ましく、30〜90nm程度がより好ましい。
(5)第2の集電極層
本発明に係る第2の集電極層は、有機系、無機系、または金属の導電性材料からなり、上記の第1の集電極層との少なくとも一方が光透過性を有する。
【0099】
本発明に係る第2の集電極層が光透過性を有さない金属からなる場合には、第2の集電極層は金電極からなることが好ましい。その製造方法は限定されない。公知の方法、例えば真空蒸着法により、有機半導体層またはその上に形成されたホール輸送層の上に金を成膜してもよい。
【0100】
なお、真空成膜プロセスにより有機半導体層またはその上に形成されたホール輸送層がダメージを受けることが問題となる場合には、金あるいは銀をその表面にあらかじめ薄く蒸着した金属箔やITO(具体的にはアルミニウム箔やフィルムITOが例示される。)を、有機半導体層またはその上に形成されたホール輸送層の表面に接触させてもよい。
【0101】
いずれの方法により第2の集電極層を形成した場合でも、有機半導体層またはその上に形成されたホール輸送層と第2の集電極層との間の導電性を向上させる目的で、80〜150℃程度の温度で5分間程度、有機半導体層またはその上に形成されたホール輸送層と第2の集電極層との界面を含む領域を加熱することが好ましい。
【0102】
さらに、光電変換素子が形成された部材全体を70℃程度の温度で1時間程度エージング処理することが好ましい。
なお、本発明に係る第1および第2の集電極層が光透過性を有する場合には、光電変換素子全体が光透過性を有する構造とすることが可能である。そのような光電変換素子を例えば窓ガラスなどに貼り付ければ、採光しつつ発電することが実現される。
【0103】
また、第1の集電極層、ホールブロック層、有機半導体層および第2の集電極層、ならびに必要に応じホール輸送層からなる光電変換素子を、複数積層させてタンデム型の光電変換素子としてもよい。この場合において、積層される光電変換素子の接続部をなす2つの集電極層は一体化していてもよい。そのような光電変換素子として、第1の集電極層、ホールブロック層、有機半導体層、第2の集電極層兼第1の集電極層となる集電極層、ホールブロック層、有機半導体層および第2の集電極層のような配列で各層が積層された光電変換素子が例示される。
【0104】
さらに、ホール輸送層を追加して、ホールブロック層とホール輸送層とのホール移動性の差に基づいて光電変換を行う場合には、透明集電極層、ホールブロック層、有機半導体層、ホール輸送層、透明集電極層、ホールブロック層、有機半導体層、ホール輸送層、透明集電極層、・・・といった積層構造の光電変換素子を得ることが可能である。
【0105】
2.有機薄膜太陽電池パネル
本発明に係る有機薄膜太陽電池パネルは、光透過性基板、この光透過性基板上に光透過性を有する電極層が接するように設けられた本発明に係る光電変換素子、およびこの光電変換素子を封止する筐体を備える。
【0106】
光透過性基板としては、例えば、ガラス基板、樹脂フィルム等の公知の透明性基板が使用できる。特に樹脂フィルム等を用いる場合には、有機薄膜太陽電池パネルに柔軟性を持たせてフレキシブル化できる点で好ましい。
【0107】
本発明に係る光電変換素子を封止する筐体としては、光電変換素子を透明性基板と筐体間で挟み込んで外気から封止できる部材であれば特に限定されない。その形状は限定されず、箱型、プレート型が例示される。有機薄膜太陽電池筐体封止パネルを薄膜化する観点からは、平坦な薄板状のガラス板が好ましい。なお、筐体として柔軟性のある樹脂フィルムを用いる場合には、有機薄膜太陽電池パネルに柔軟性を持たせてフレキシブル化できる点で好ましい。
【0108】
II.第2の実施形態
本発明は、第2の実施形態として下記の一般式(2)で表される有機チタン化合物およびジエチルアミン、トリエチルアミンなどの低級アルキルアミン(以下、「錯化剤」という。)を含有する非水溶液(以下、「非水溶液」と略記する。)とホールブロック層が形成されるべき部材(以下、「基材」という。)の表面とを接触させて、その表面上に非水溶液の液層(以下、「非水溶液層」という。)を形成するステップ、非水溶液層に含まれる有機チタン化合物を加水分解して有機チタン化合物の加水分解生成物を非水溶液層に形成するステップ、有機チタン化合物の加水分解生成物を含有する非水溶液層を乾燥させるステップを備えるプロセスにより製造されるホールブロック層を提供する。
【0109】
Ti(OR
1)
4 (2)
ここで、R
1は、それぞれ、C
1〜C
8のアルキル基、シクロアルキル基およびアリール基、ならびにこれらのヒドロキシ、アルコキシ、アミノおよび/またはフルオロ誘導体からなる群から選ばれるものであって、互いに異なっていてもよい。
【0110】
かかる製造方法によれば、乾燥ステップにおける乾燥温度を100℃程度にすることが可能となる。このため、ホールブロック層が形成されるべき所定の部材がPETなどの樹脂フィルムであっても、そのフィルムを劣化させることなくホールブロック層を形成することが実現される。
【0111】
このため、例えば光電変換効率が高い光電変換素子をフィルム基板上に形成することが可能となり、いわゆるフレキシブル太陽電池を実現することができる。なお、光電変換素子を構成する他の要素については、第1の実施形態に係る光電変換素子と同様であるから、説明を省略する。
【0112】
以下に、上記の製造方法における各ステップについて詳しく説明する。
(1)接触ステップ
接触ステップでは、非水溶液(有機チタン化合物および錯化剤を含有する非水溶液)に基材(ホールブロック層が形成されるべき部材)の表面を接触させて、その表面に非水溶液層を形成する。
【0113】
接触ステップに用いられる非水溶液は、ホールブロック層を構成するアモルファス酸化チタンのチタン源となる有機チタン化合物、および、この有機チタン化合物から形成されるチタンを含むイオンを安定化させるための錯化剤としての低級アルキルアミンを含む。アモルファス酸化チタンの形成を阻害しない限り、他の成分を含んでもよい。ただし、非水溶液であるから、水分を実質的に含有しない。水分を含有してしまうと、次の加水分解ステップに至る前に加水分解が進行してしまい、生産性が低下したり、ホールブロック層の特性が低下したりする。
【0114】
上記の一般式(1)で表される有機チタン化合物の具体例として、チタン酸テトラメチル、チタン酸テトラエチル、チタン酸テトライソプロピル、チタン酸テトラブチル、チタン酸テトラ(sec−ブチル)、チタン酸テトラ(tert−ブチル)、チタン酸テトラ(2−エチルヘキシル)、チタン酸テトラシクロヘキシル、チタン酸テトラフェニル、チタン酸テトラ(2,6−キシリル)、オルトチタン酸テトラ(2−ヒドロキシエチル)、チタン酸テトラキス[2−[(2−プロペニル)オキシメチル]ブトキシ]、α−チタン酸テトラキス[2−(ジメチルアミノ)エチル]、チタン酸テトラ(2,2,2−トリフルオロエチル)、およびチタン酸テトラ[1−(トリフルオロメチル)−2,2,2−トリフルオロエチル]が挙げられる。これらの中でも、取扱い性が比較的高く、かつ加水分解時に生成する物質が揮発しやすいチタン酸テトラエチル、チタン酸テトライソプロピルおよびチタン酸テトラブチルが特に好ましい。
【0115】
有機チタン化合物の非水溶液中の濃度は、濃度が過度に低い場合には得られるホールブロック層の厚みが過度に薄くなること、および濃度が過度に高い場合には非水溶液の安定性が著しく低下することを考慮して、適宜設定される。好ましい濃度範囲は0.1〜1mol/Lである。
【0116】
ジエチルアミン、トリエチルアミンなどの低級アルキルアミンは錯化剤としての機能が高い。しかも、沸点が50〜150℃程度(ジエチルアミン:55℃、トリエチルアミン:89℃)であるため、通常室温で行われる接触ステップおよび加水分解ステップでは揮発しにくく、その一方で乾燥ステップでは比較的低温の乾燥温度で十分に揮発することが実現され、好ましい。したがって、本発明において「低級アルキルアミン」とは、チタンを含むイオンに対する錯体形成能に優れ、かつ沸点が150℃以下、好ましくは100℃以下のものをいう。したがって、低級アルキルアミンはモノアルキルアミンでもよいし、ジアルキルアミンでもトリアルキルアミンでもよい。また、低級アルキルアミンは1種の化合物から構成されていてもよいし複数種類の化合物から構成されていてもよい。
【0117】
これらの中でも、乾燥温度を100℃以下としても乾燥が安定的に行われることからジエチルアミンが特に好ましい。乾燥温度が100℃以下であれば、光電変換素子を形成する基板をPETなどの高分子材料から構成することができる。
【0118】
一方、他の錯化剤として例えば特許文献2に開示されるアセチルアセトンなどを用いると、生産性を考慮して乾燥ステップの作業時間を現実的な範囲にしようとすると、減圧条件で乾燥を行うことが必要となり、作業性が低下する上に、品質の安定性を低下させる要因にもなる。
【0119】
低級アルキルアミンの非水溶液中の濃度は、濃度が過度に低い場合には有機チタン化合物を非水溶液中で安定化させる機能が得られなくなること、および濃度が過度に高い場合には乾燥ステップにおいて揮発させるのに時間を要することを考慮して、適宜設定される。好ましい濃度範囲は0.1〜4mol/Lである。
【0120】
有機チタン化合物の錯化剤全体に対するモル比(有機チタン化合物/錯化剤)は特に限定されないが、錯化剤が適切に機能し、得られるホールブロック層の特性が高くなる観点から、0.1〜2とすることが好ましく、0.25〜1がさらに好ましい。特に好ましい範囲は0.3〜0.7である。
【0121】
この非水溶液の溶媒は、上記の溶質の溶解度を高める観点から、アルコールなどの極性溶媒であることが好ましい。ただし、アルコールは水を含みやすく、溶媒が水を含有しているとその水分により加水分解が生じてしまうため、溶媒としてアルコールを使用する場合には、あらかじめ十分に脱水を行っておくべきである。好適な溶媒として、2−メトキシエタノールおよびイソプロパノールが例示される。
【0122】
非水溶液と基材との接触方法は限定されない。浸漬、スプレー、スピンコート、ロールコート、インクジェットによる非水溶液の吐出など任意の手段を使用すればよい。非水溶液層の厚さを簡便に制御できるため、スピンコートが好ましい接触手段である。
【0123】
非水溶液層の厚さは非水溶液層に含まれる溶質の濃度などをも考慮して適宜設定される。
(2)加水分解ステップ
加水分解ステップでは、上記の接触ステップにより基材上に形成された非水溶液層に含まれる有機チタン化合物を加水分解して有機チタン化合物の加水分解生成物を非水溶液層に形成する。
【0124】
加水分解の方法は特に限定されない。上記のように非水溶液は水分を実質的に含有していないため、非水溶液層に水分を適宜供給することにより、非水溶液層中の有機チタン化合物が加水分解してアモルファス酸化チタンの前駆体となる加水分解生成物が形成される。
【0125】
非水溶液層中に水分を適宜供給する最も簡便な方法は、適度な湿度の雰囲気に放置することである。例えば、相対湿度45%(温度:25℃)の環境に30分放置することにより、非水溶液層中の有機チタン化合物を加水分解させることができる。
【0126】
水分を含む環境に放置することにより加水分解ステップを行う場合には、その環境温度を高めることにより、実質的に加水分解ステップと次に説明する乾燥ステップとを同時に行ってもよい。その場合には、加水分解が十分に進行する前に溶媒が揮発しきってしまわないように留意すべきである。この観点から、環境温度を段階的または連続的に高めていってもよい。
【0127】
(3)乾燥ステップ
乾燥ステップでは、有機チタン化合物の加水分解生成物を含有する非水溶液層を乾燥させる。この工程により、実質的に(若干量の溶媒、錯化剤、水分などが残留する可能性はある。)アモルファス酸化チタンからなるホールブロック層が基材上に形成される。
【0128】
乾燥手段、乾燥温度および乾燥時間は、溶媒、錯化剤などが揮発するように、公知技術に基づき適宜設定すればよい。上記の非水溶液は含有される溶媒および錯化剤の沸点が比較的低いため、乾燥温度を100℃程度とすれば、比較的短時間で生産性高く乾燥ステップを実行することが可能である。
【0129】
一例を挙げれば、加水分解生成物がその表面に形成された基材を、100℃に保持したホットプレート上にて1時間程度乾燥させることにより、ホールブロック層を基材上に形成することができる。
【0130】
ホールブロック層の厚みは、その層が使用される素子の特性に応じて適宜設定すればよい。例えば、ホールブロック層が光電変換素子に使用される場合には、ホールブロック性および光透過性のバランス、さらには生産性を考慮して適宜設定される。光電変換素子に適用する場合を例にすれば、ホールブロック層の厚みを5〜200nmとすることが好ましい。より好ましいホールブロック層の厚みは10〜100nmであり、10〜50nmとすれば特に好ましい。
【0131】
上記の方法により製造されたホールブロック層も水溶液から形成されたホールブロック層と同様に、ホールブロック性に優れるとともに高い生産性を有する。
【実施例】
【0132】
以下、実施例および比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し本発明は実施例に限定されない。
(実施例1)
(1)有機薄膜太陽電池の製作
0.03mol/Lの過酸化水素(H
2O
2)および0.03mol/Lの(TiOSO
4)を含有する水溶液(以下、「水溶液」と略記する。)を調製した。
【0133】
ガラス基板(22mm×38mm、厚さ1.1mm)の一方の面上にスパッタリングによってITO膜が積層されたITO膜付きガラス基板(フルウチ化学(株)製)を準備した。その膜厚は200nmであり、光透過性電極層をなすITO膜のシート抵抗は10Ω/□であった。
【0134】
ガラス基板におけるITO膜が形成された側と反対側の面はポリイミドフィルムで覆い、ガラス基板全体を2−プロパノール中で煮沸洗浄した。
オイルバスを用いて浴温が80℃に維持された水溶液に、一方の面にITO膜が形成され、他方の面がポリイミドフィルムで覆われた洗浄後のガラス基板を5分間浸漬させた。
【0135】
このガラス基板を水溶液から取り出し、150℃の雰囲気に1時間放置して、厚みが30nmのアモルファス酸化チタン層をガラス基板のITO膜上に形成した。
P3HT(ポリチオフェン誘導体、Aldrich製)とフラーレン誘導体PCBM(フロンティアカーボン(株)製)とを質量比5:4で混合した3.9質量%2,6−ジクロロトルエン:クロロホルム溶液(混合体積比;2,6−ジクロロトルエン:クロロホルム=1:1)を調製した。
【0136】
アモルファス酸化チタン層の上に上記2,6−ジクロロトルエン:クロロホルム溶液をスピンコート(1500rpm,60s)し、室温にて約10分間乾燥させて、有機半導体層を250nm成膜した。
【0137】
ポリオキシエチレントリデシルエーテル(C
13H
27(OCH
2CH
2)
nOH,n=6)を1質量%およびキシレンを1質量%含有し、水およびイソプロパノールを溶媒とする非イオン性界面活性剤(Aldrich製)を用意し、1.3質量%PEDOT:PSS水分散(Aldrich製)100質量部に対してこの非イオン性界面活性剤0.5質量部を混合してPTE含有PEDOT:PSS水分散液を調製した。
【0138】
上記のPTEを含有するPEDOT:PSS水分散液を50〜90℃に加温し、これを有機半導体層の上にスピンコート(6000rpm,60s)し、室温での自然乾燥によりホール輸送層を80nm成膜した。
【0139】
次に、ホール輸送層の上にAu電極層(集電極層)を膜厚約100nmになるように真空蒸着した。詳細には、4mm×25mmの電極形状に対応するシャドウマスクおよびホール輸送層までが形成されたガラス基板をチャンバー内に設置し、ロータリーポンプおよびターボ分子ポンプを用いてチャンバー内を減圧とし、チャンバー内圧力を2×10
−3Pa以下とした。このチャンバー内で金線を抵抗加熱し、シャドウマスクを介して、ホール輸送層上に金を100nm成膜した。成膜速度は10〜15nm/minとし、成膜時の圧力は1×10
−2Pa以下であった。
【0140】
その後、上記の製造方法により一方の面上にITO膜(光透過性電極層)、ホールブロック層、有機半導体層、ホール輸送層、および集電極層としての金膜が形成されたガラス基板を150℃で5分間加熱処理し、さらに70℃で1時間保持した。
【0141】
以上の工程を経て、4mm×25mm、すなわち1.0cm
2の光電変換面積をもつ有機薄膜太陽電池を作製した。
(2)評価
上記の製造方法により製造された有機薄膜太陽電池パネルに対して、大気中未封止で次の評価を行った。
【0142】
i)電流−電圧特性 太陽擬似光源装置(SAN−EI Electric 製,XES−502S)を用いて、AM1.5Gのスペクトル分布を有し、100mW/cm
2の光強度を有する擬似太陽光を、有機薄膜太陽電池パネルに対してITO電極層側から照射した。この状態でリニアスイープボルタンメトリー(LSV)測定装置(Hokuto Denko製,HZ−5000)を用いて、有機薄膜太陽電池の光電流−電圧プロフィールを測定した。
【0143】
このプロフィールから短絡電流(絶対値、J
sc/mAcm
−2)、開放電圧(V
oc/V)、曲線因子(FF)、エネルギー変換効率(η/%)を算出した。
ii)耐久性
上記の光源を用いて、AM1.5G−100mW/cm
2の太陽擬似光を有機薄膜太陽電池に連続照射させた状態で、上記のLSV測定装置を用いて、自然電位を常時測定するとともに、1時間おきに光電流−電圧プロフィールの測定を行った。得られた有機薄膜太陽電池の光電流-電圧プロフィールから太陽電池性能の耐久性を評価した。
【0144】
(実施例2)
実施例1に記載される製造方法により、厚みが30nmのアモルファス酸化チタン層がガラス基板のITO膜上に形成された部材を製造した。
【0145】
P3HT(ポリチオフェン誘導体、Aldrich製)とフラーレン誘導体bis[60]PCBM(Solenne製)とを質量比5:4で混合した3.9質量%2,6−ジクロロトルエン:クロロホルム溶液(混合体積比;2,6−ジクロロトルエン:クロロホルム=1:1)を調製した。
【0146】
アモルファス酸化チタン層の上に上記2,6−ジクロロトルエン:クロロホルム溶液をスピンコート(1500rpm,60s)し、室温にて約10分間乾燥させて、有機半導体層を250nm成膜した。
【0147】
以下、実施例1と同じ製造方法を実施して、有機薄膜太陽電池を作製した。
この有機薄膜太陽電池について、実施例1と同様の電流−電圧特性評価を行った。
また、実施例1と同様の耐久性評価も行った。
【0148】
(比較例1−1)
特許文献2の実施例1−1に記載される方法により厚みが30nmのアモルファス酸化チタンからなるホールブロック層を形成した以外は、実施例1と同じ方法で有機薄膜太陽電池を作製した。
【0149】
この有機薄膜太陽電池について、実施例1と同様の電流−電圧特性評価を行った。
(比較例1−2)
特許文献2の実施例1−2に記載される方法により厚みが90nmのアモルファス酸化チタンからなるホールブロック層を形成した以外は、実施例1と同じ方法で有機薄膜太陽電池を作製した。
【0150】
この有機薄膜太陽電池について、実施例1−1と同様の電流−電圧特性評価を行った。
(比較例2)
実施例1と同様の製造方法であるが、光透過性電極層の材質をITOに代えてFTOとするとともに、ホールブロック層を、実施例1に記載される製造方法に代えて、特許文献1に記載される製造方法、すなわち下記の製造方法とすることにより、厚みが100nmのTiO
2からなる酸化物半導体層として、有機薄膜太陽電池を作製した。
【0151】
窒素ガスをフローした100mL三つ首フラスコに脱水トルエン5mLを量りとり、フラスコを氷水浴中で10分間冷却した。チタニウムテトラn−ブトキシド(和光純薬工業(株)、試薬1級)4.25gを、フラスコ中のトルエンを撹拌しながら注射器を使ってゆっくりフラスコ内に滴下し、滴下後、窒素雰囲気下氷水浴で冷却しながら30分間トルエン溶液を撹拌した。続いて、窒素雰囲気下80℃で1時間フラスコ内のトルエン溶液を加温し、加熱後の溶液を10分間放冷し、さらに、氷水浴中で30分間冷却した。
【0152】
最終的に得られるTiO
2前駆体溶液におけるTiとH
2Oとのモル濃度比がTi:H
2O=1:1.5になるように、25mLメスフラスコに蒸留水0.37gを量りとり、これに脱水1−ブタノール(和光純薬工業(株)、試薬特級)を加えて、0.825mol/LH
2O含有1−ブタノール20mL調製した。このH
2O含有1−ブタノールを上記の冷却後のトルエン溶液にゆっくりと滴下し、滴下後の溶液を、窒素雰囲気下氷水浴中で冷却しながら30分間撹拌した。続いて、窒素雰囲気下60℃で2時間加温し、加熱後の溶液を10分間放冷し、さらに氷水浴中で30分間冷却した。
【0153】
上記の冷却後の溶液が入ったフラスコを浴温が30〜50℃に保持されたウオーターバス内に浸漬させ、エバポレーターを用いて溶媒の追加の揮発がなくなるまで濃縮した。濃縮後の液体を脱水2−プロパノール(関東化学(株)、有機合成用試薬)15mLで希釈して、TiO
2前駆体溶液とした。
【0154】
上記の手順で調製したTiO
2前駆体溶液をFTO基板上に0.15mL程度滴下し、2000rpmで1分間スピンコートした。
100℃に設定したホットプレート上で1時間の予備乾燥し、さらに450℃に設定したマッフル炉で1時間の焼成を行った。
【0155】
上記の前駆体溶液のスピンコート、予備乾燥および焼成の操作を三回繰り返すことで、FTO基板表面の凹凸が緩和されたTiO
2からなり、厚さが100nmの酸化物半導体層を得た。
【0156】
この有機薄膜太陽電池について、実施例1と同様の電流−電圧特性評価を行った。
また、実施例1と同様の耐久性評価も行った。
電流−電圧特性評価の結果を表1および
図2に、実施例1に係る有機薄膜太陽電池の耐久性の評価結果を表2に示す。また、実施例1および比較例1−1に係る有機太陽電池の耐久性の評価結果を比較したものを表3および
図3に示す。
【0157】
【表1】
【0158】
【表2】
【0159】
【表3】
【0160】
上記の表に示されるように、実施例に係る有機薄膜太陽電池は、初期の光電変換効率が3%を超え、特に、bis[60]PCBMを用いた場合には、3.8%もの高い光電変換効率が得られた。また、10時間の連続照射を行った後も、エネルギー変換効率の相対的な減衰率は10%であり、優れた耐久性を有することが確認された。
【0161】
なお、比較例2に係る有機薄膜太陽電池は、10分程度で開放電圧が0.1V以下まで減衰してしまい、耐久性の測定を行うことができなかった。
この理由について、比較例2に係る有機薄膜太陽電池における酸化物半導体層(ホールブロック層)はTiO
2からなるため、光触媒作用が発現してしまい、有機半導体層を構成する化学物質が変質・分解してしまっている可能性がある。
【0162】
実施例1に係る有機薄膜太陽電池の耐久性が比較例1に係る有機薄膜太陽電池よりも若干低くなった理由も、実質的にアモルファス酸化チタンからなるホールブロック層に若干量含まれるTiO
2の光触媒反応が関与している可能性がある。
【0163】
すなわち、実施例1に係る有機薄膜太陽電池におけるホールブロック層は水溶液を用いて製造される。このため、乾燥ステップを経ているとはいえ、ホールブロック層には若干量の水分が残留している。これに対して、比較例1−1に係る有機薄膜太陽電池におけるホールブロック層は、ゾルゲル法を用いて製作されるため、実質的に水分を含有していない。
【0164】
また、いずれの製造方法により製造されたホールブロック層も、マクロ的にはアモルファス状態にある酸化チタンではあるが、微細領域では化学量論的なチタン酸化物、すなわちTiO
2が生成している場合がある。すなわち、ホールブロック層は若干量のTiO
2を含有している。
【0165】
ここで、TiO
2の光触媒反応が進行するためには水分が不可欠であるため、実施例1に係る有機薄膜太陽電池の場合には、ホールブロック層に若干含まれるTiO
2が、同様にホールブロック層に若干量含まれる水分の存在により光触媒作用を生じ、このため、ホールブロック層に接する有機半導体層の一部が失活している可能性がある。
【0166】
しかしながら、表3および
図3に示されるように、実施例1に係る有機薄膜太陽電池の光電変換効率の低下は10%と少なく、10時間経過後であっても比較例1−1に係る有機薄膜太陽電池よりも高い光電変換効率を有している。さらに、実施例1に係る有機薄膜太陽電池は大気中で容易に製造できることを考慮すると、総合的な評価では、実施例1に係る有機薄膜太陽電池の方が比較例1−1に係る有機薄膜太陽電池よりも優れているといえる。
【0167】
(実施例3)
0.03mol/Lの過酸化水素(H
2O
2)および0.03mol/Lのオキシ硫酸チタン(IV)(TiOSO
4)を含有する水溶液を調製した。
【0168】
ガラス基板(25mm×40mm、厚さ0.45mm)の一方の面上にスパッタリングによってITO膜が積層されたITO膜付き研摩無しガラス基板((株)倉元製作所製)を準備した。その膜厚は300〜360nmであり、ITO膜のシート抵抗は4.5Ω/□であった。
【0169】
ガラス基板におけるITO膜が形成された側と反対側の面はポリイミドフィルムで覆い、ガラス基板全体を2−プロパノール中で煮沸洗浄した。
オイルバスを用いて浴温が80℃に維持された水溶液に、一方の面にITO膜が形成され、他方の面がポリイミドフィルムで覆われた洗浄後のガラス基板を5分間浸漬させた。
【0170】
このガラス基板を水溶液から取り出し、150〜300℃の雰囲気に1時間放置して、厚みが30nmのアモルファス酸化チタン層をガラス基板のITO膜上に形成した。
P3HT(ポリチオフェン誘導体、Rieke Metal製)とフラーレン誘導体PCBM(Aldrich製)とを質量比5:3で混合したクロロベンゼン溶液を調製した。
【0171】
アモルファス酸化チタン層の上に上記クロロベンゼン溶液をスピンコート(700rpm,60s)し、室温にて約10分間乾燥させて、有機半導体層を250nm成膜した。
ポリオキシエチレントリデシルエーテル(C
13H
27(OCH
2CH
2)
nOH,n=12)を1質量%およびキシレンを1質量%含有し、水およびイソプロパノールを溶媒とする非イオン性界面活性剤(Aldrich製)を用意し、1.3質量%PEDOT:PSS水分散(Aldrich製)100質量部に対してこの非イオン性界面活性剤0.5質量部を混合して、PTE含有PEDOT:PSS水分散液を調製した。
【0172】
上記のPTEを含有するPEDOT:PSS水分散液を50〜90℃に加温し、これを有機半導体層の上にスピンコート(6000rpm,60s)し、室温にて自然乾燥してホール輸送層を80nm成膜した。
【0173】
次に、ホール輸送層の上にAu電極層(集電極層)を膜厚約100nmになるように真空蒸着した。詳細には、0.5cm
2の電極形状に対応する開口を有するシャドウマスクおよびホール輸送層までが形成されたガラス基板をチャンバー内に設置し、ロータリーポンプおよびターボ分子ポンプを用いてチャンバー内を減圧とし、チャンバー内圧力を2×10
−3Pa以下とした。このチャンバー内で金線を抵抗加熱し、シャドウマスクを介して、ホール輸送層上に金を100nm成膜した。成膜速度は10〜15nm/minとし、成膜時の圧力は1×10
−2Pa以下であった。
【0174】
その後、上記の製造方法により一方の面上にITO膜、ホールブロック層、有機半導体層、ホール輸送層、および集電極層としての金膜が形成されたガラス基板を150℃で5分間加熱処理し、さらに70℃で1時間保持した。
【0175】
以上の工程を経て、約0.5cm
2、具体的には0.44〜0.48cm
2の光電変換面積をもつ有機薄膜太陽電池を作製した。
上記の製造方法により製造された有機薄膜太陽電池に対して次の評価を行った。
【0176】
電流−電圧特性 150mW/cm
2の光強度を有するメタルハライドランプ光を、有機薄膜太陽電池パネルに対してITO電極層側から照射した。この状態で半導体特性評価システム(ケースレーインスツルメンツ(株)製 4200-SCS型)を用いて、有機薄膜太陽電池の光電流−電圧プロフィールを測定した。
【0177】
このプロフィールから短絡電流(J
sc/mAcm
−2)、開放電圧(V
oc/V)、曲線因子(FF)、最大出力(P
max/mWcm
−2)およびエネルギー変換効率(η/%)を算出した。
【0178】
その結果を表4に示す。
【0179】
【表4】
【0180】
(実施例4)
実施例1において作製した有機薄膜太陽電池を、次のような方法で複数個設置することにより、200mm×200mmの太陽電池モジュールを作成した。
【0181】
ガラス基板(200mm×200mm、厚さ0.5mm)の一方の面上にシャドウマスクを用いたスパッタリングによってパターン化されたITO膜付きガラス基板((株)倉元製作所製)を準備した。ITOのシート抵抗は4.5Ω/□であった。
【0182】
この基板上に実施例1と同様の洗浄、成膜方法でアモルファス酸化チタン層、有機半導体層、ホール輸送層を全面に成膜した。この際、基板面積の増加に伴い、使用溶液量も増加させ、機器も基板面積に合わせた仕様とした。Au電極層についても実施例1と同様にシャドウマスクを用いた真空蒸着により、パターン化した。以上の工程を経て、10mm×70mm、即ち7cm
2の光電変換面積を20素子(合計の光変換面積は140cm
2)持つ20cm×20cm基板の太陽電池を作製した。
【0183】
こうして、得られた太陽電池に対して、10mW/cm
2の太陽光を照射したところ、開放電圧が2.0V、短絡電流が13mAとなり、モータ((株)ナリカ製、RF−330TK)を安定的に動作させることができた。
【0184】
(実施例5)
PET基板(22mm×38mm、厚さ125μm)の一方の面上にスパッタリングによってITO膜が積層されたITO膜付きPET基板を準備した。光透過性電極層をなすITO膜のシート抵抗は30Ω/□であった。
【0185】
脱水2−メトキシエタノール(Aldrich製)12.5mLを予め入れた窒素ガスをフローした100mL三つ首フラスコに、チタン酸テトライソプロピル(Aldrich製)1.85mLを注射器で注ぎいれ、このフラスコを氷水浴中で10分間冷却した。
続いて、窒素雰囲気下80℃で1時間フラスコ内の2−メトキシエタノール溶液を加温、さらに2時間還流し、加熱後の溶液を10分間放冷し、さらに、氷水浴中で30分間冷却した。この溶液にジエチルアミン(Aldrich製)0.65mLを、フラスコ中の2−メトキシエタノールを撹拌しながら注射器を使ってゆっくりフラスコ内に滴下し、滴下後、窒素雰囲気下氷水浴で冷却しながら10分間2−メトキシエタノール溶液を撹拌した。続いて、窒素雰囲気下80℃で1時間フラスコ内の2−メトキシエタノール溶液を加温、さらに2時間還流し、加熱後の溶液を10分間放冷し、さらに、氷水浴中で30分間冷却した。
【0186】
この2−メトキシエタノール溶液0.3mLを脱水2−プロパノール(関東化学(株)製、有機合成用試薬)1mLで希釈して、ホールブロック層をなす酸化物半導体層を形成するための非水溶液とした。
【0187】
上記の手順で調製した非水溶液をITO基板上に0.3mL程度滴下し、2000rpmで1分間スピンコートした。
非水溶液層が表面に形成されたITO基板を、室温(25℃)にて相対湿度が45%の雰囲気に30分間放置し、加水分解させた。
【0188】
30分放置後のITO基板を、100℃に設定したホットプレート上で50分間乾燥させて、溶媒等を揮発させた。
こうして、厚さが40nmのホールブロック層となる酸化物半導体層を得た。
【0189】
以下、実施例1と同様の製造方法を実施することにより、光電変換面積が1cm
2であるフレキシブル有機薄膜太陽電池を作製した。
この有機薄膜太陽電池について、実施例1と同様の電流−電圧特性評価を行った。その結果を表5に示す。
【0190】
【表5】
【0191】
(実施例6)
窒素で充満したグローブボックス内(酸素濃度1ppm以下、水分濃度1ppm以下)で、室温において、容量15mLのガスバイアル管に、脱水2−メトキシエタノール(Aldrich製)6.25mLを量り取り、次にこの溶媒中にチタン酸テトライソプロピル(Aldrich製)0.925mLを量り取って注ぎ入れ、撹拌した。さらに、この溶液にジエチルアミン(Aldrich製)0.325mLを量り取って注ぎ入れ、撹拌した。この溶液に密栓をして、グローブボックス内で約2週間放置した。
【0192】
その後は実施例5と同様の操作でホールブロック層を有する有機薄膜太陽電池を作製したが、ITO基板として実施例1に記載されるガラス上にITO膜が形成されたものを用いた。この場合、ホールブロック層を形成する非水溶液におけるチタン酸テトライソプロピル(Aldrich製)のジメチルアミン(Aldrich製)に対するモル比(チタン酸テトライソプロピル/ジメチルアミン、以下、「T/D比」という。)を変化させたものを作製した。
【0193】
この有機薄膜太陽電池について、実施例1と同様の電流−電圧特性評価を行った。その結果を表6に示す。
【0194】
【表6】
【0195】
(実施例7)
以下、本発明に係るホールブロック層の製造方法の繰り返し安定性について検討した結果を説明する。
【0196】
(1)有機薄膜太陽電池の製作
0.03mol/Lの過酸化水素(H
2O
2)および0.03mol/Lのオキシ硫酸チタン(IV)(TiOSO
4)を含有する水溶液(以下、「水溶液」と略記する。)を調製した。
【0197】
ガラス基板(2.5cm×4cm、厚さ0.5mm)の一方の面上にスパッタリングによってITO膜が積層されたITO膜付きガラス基板((株)倉元製作所製)を準備した。その膜厚は300〜360nmであり、光透過性電極層をなすITO膜のシート抵抗は4.5Ω/□であった。
【0198】
ガラス基板におけるITO膜が形成された側と反対側の面はポリイミドフィルムで覆い、ガラス基板全体を2−プロパノール中で煮沸洗浄した。
室温の水溶液が50mL入っている50mL用サンプル瓶内に、煮沸洗浄後のガラス基板を浸漬させ、そのサンプル瓶を125℃に加熱されたホットプレート上に置いて、瓶内の水溶液を加熱した。20分程度経過した時点で水溶液は白濁した。このときの水溶液の温度は60〜70℃であった。この状態で5分間保持し、保持後、ガラス基板をサンプル瓶から取り出し、超純水が入ったビーカーに浸漬させ、ビーカーごと超音波衝撃を加えて洗浄を10分間行った。洗浄後のガラス基板を取り出し、基板表面に残留する水分をアルゴンガスのブローで除去した。ブロー後の基板を150℃に加熱されたホットプレート上に置き、60分間基板を加熱した。こうして、ガラス基板上のITO膜上にアモルファス酸化チタン層が50nm形成された部材を得た。
【0199】
その後、この部材に対して実施例3に記載される製造方法を実施して、0.5cm
2の光電変換面積をもつ有機薄膜太陽電池を作製した。
(2)評価
上記の製造方法により製造された41枚の有機薄膜太陽電池パネルに対して実施例3と同じく、電流−電圧特性の評価を行い、短絡電流(絶対値、J
sc/mAcm
−2)、開放電圧(V
oc/V)、曲線因子(FF)、エネルギー変換効率(η/%)を算出した。
【0200】
(3)結果
得られた結果を表7に示す。
【0201】
【表7】
【0202】
表7に示されるように、本発明に係るホールブロック層の製造方法を用いることにより、特性ばらつきの特に少ない有機薄膜太陽電池を得ることができる。
(実施例8)
以下、本発明に係るホールブロック層の製造方法の安定性についてさらに検討した結果を説明する。
【0203】
(1)有機薄膜太陽電池の製作
0.03mol/Lの過酸化水素(H
2O
2)および0.023mol/Lのオキシ硫酸チタン(IV)(TiOSO
4)を含有する水溶液(以下、「水溶液」と略記する。)を調製した。
【0204】
20cm×20cm、厚さ0.5mmのガラス基板を12枚用意した。また、2.5cm×4cm、厚さ0.5mmのガラス基板の一方の面上にスパッタリングによってITO膜が積層されたITO膜付きガラス基板((株)倉元製作所製)を12枚準備した。その膜厚は300〜360nmであり、光透過性電極層をなすITO膜のシート抵抗は4.5Ω/□であった。
【0205】
上記の12枚の20cm×20cmのガラス基板および12枚の2.5cm×4cmのITO膜付きガラス基板を2−プロパノール中で煮沸洗浄した。
煮沸洗浄後の5枚の2.5cm×4cmのITO膜付きガラス基板を、煮沸洗浄後の1枚の20cm×20cmガラス基板の中央および角部近傍の5箇所に固定した。また、他の煮沸洗浄後の7枚の2.5cm×4cmのITO膜付きガラス基板のそれぞれを、煮沸洗浄後の7枚の20cm×20cmのガラス基板のそれぞれの中央部の1箇所に固定した。
【0206】
室温の水溶液が8L入っている10L用ビーカーに、12枚の2.5cm×4cmのITO膜付きガラス基板が上記のように固定された7枚を含む、12枚の20cm×20cmのガラス基板を、
図4に示されるような配置で浸漬させた。それらのガラス基板が浸漬されたビーカーをアルミホイルで蓋をし、250℃に加熱されたホットプレート上に置いて、ビーカー内の水溶液を加熱した。35分程度経過した時点で水溶液は白濁した。このときの水溶液の温度は60〜70℃であった。この状態で5分間保持し、保持後、12枚の2.5cm×4cmのITO膜付きガラス基板をビーカーから取り出し、超純水が入ったビーカーに浸漬させ、ビーカーごと超音波衝撃を加えて洗浄を10分間行った。洗浄後のガラス基板を取り出し、基板表面に残留する水分をアルゴンガスのブローで除去した。ブロー後の基板を150℃に加熱されたホットプレート上に置き、60分間基板を加熱した。こうして、2.5cm×4cmのガラス基板上のITO膜上にアモルファス酸化チタン層が50nm形成された部材を12枚得た。
【0207】
その後、この部材に対して実施例3に記載される製造方法を実施して、個別に0.5cm
2の光電変換面積をもつ12枚の有機薄膜太陽電池を作製した。
(2)評価
上記の製造方法により製造された12枚の有機薄膜太陽電池パネルに対して実施例3と同じく、電流−電圧特性の評価を行い、短絡電流(絶対値、J
sc/mAcm
−2)、開放電圧(V
oc/V)、曲線因子(FF)、エネルギー変換効率(η/%)を算出した。
【0208】
(3)結果
得られた結果を表8に示す。
【0209】
【表8】
【0210】
上記の結果から明らかなように、発明に係るホールブロック層の製造方法を用いることにより、バッチ内で特性ばらつきの少ない有機薄膜太陽電池を得ることができる。