【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 1.社団法人応用物理学会発行「2010年秋季 第71回応用物理学会学術講演会 講演予稿集」2010年8月30日DVD発行 2.国立大学法人山梨大学主催「平成22年度山梨大学大学院医学工学総合教育部 修士論文発表会」平成23年2月15日開催
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記雰囲気ガス、電子、イオン、準安定励起種、ラジカルは、水素または窒素または希ガスから選ばれる1種または複数の組み合わせたものから生成されることを特徴とする請求項1に記載のフッ素含有排ガスの固定化方法
【背景技術】
【0002】
CO
2(二酸化炭素)、CH
4(メタン)、NO
2(亜酸化窒素)、HFCs(ハイドロフルオロカーボン)
、PFCs(パーフルオロカーボン)、SF
6(六フッ化硫黄)、以上6種類の温室効果ガスが削減対象に決定され、温室効果ガスの排出抑制への動きは全世界的に広まっている。
温室効果ガスの中で問題となっているのはフッ素含有温室効果ガスFluorinated GreenHouse Gas ( F-GHG)、とりわけパーフルオロカーボン類PFCsである。PFCsはCF
4やC
2F
6のようなフッ素と炭素から構成される化合物の総称であり、半導体製造工場においてウエハーエッチングやChemical Vapor Deposition(CVD)チャンバーのクリーニングガスとして用いられている。半導体ICの製作において、配線の絶縁や層関絶縁に多く用いられる誘電体材料は、シリコン酸化膜である。これをエッチングするのに、CF
4やC
4H
8のようなPFCsガスの
放電が用いられる。
【0003】
F-GHGの分解・処理技術の従来技術として、化学吸着、触媒分解、熱分解がある。化学
吸着は吸着剤に反応させ取り込む方法でメンテナンスが容易、排水などの付帯設備が不要というメリットがあるが、高いランニングコスト、設置面積が大きいなどの問題点がある。触媒分解は熱分解の温度を触媒により低下させる方法で分解効率が高いが、ランニングコストが高い、設置面積が大きいといった問題がある。熱分解はH
2、LPGなどを使用して
熱分解を行う方法であるが、分解効率が悪いという問題がある。
半導体製造工程において排出されるフルオロカーボン(FC)の分解方法は現在、「高温燃焼酸化」、「触媒を利用した熱化学反応」、「プラズマ放電」などに大別される。これらの分解装置を設置するには,プロセスおよび混合処理されるガス種・量などガスの用途・目的を検討する必要がある。CVD装置系では、危険な可燃性ガスや堆積物やパーティクルの
同時処理、パージガスを含めた大容量の排気ガスを完全に処理可能な燃焼酸化方式による分解が効率・安全の面で有効的と言える。逆にエッチング装置系のように、排気ガスが小容量で処理対象ガスも同類の場合は,比較的に環境負荷の小さい薬剤を用いた化学反応方式およびプラズマ方式による分解が有効的と言える。また、スペースの面では、既存のラインに処理装置を追加する場合など多くのスペースを確保できた場合は,設置スペースのコンパクトなプラズマ方式が有効的となる。しかし、ドライポンプ下流にCO、HFの処理のためのウェット装置の併用が不可欠であり、ランニングコストが高いという問題がある。また例えば特許文献1のように酸性フッ化ナトリウムとして回収する方法が開示されているが、反応させるための材料や、反応器が必要となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の低温反応を利用した薄膜堆積法は、付加価値の高いフルオロカーボン薄膜や炭素膜に変換し、リサイクルすることを可能にすることに加え、排ガスのリユースするための有効利用方法及び装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、極低温に冷却された基材上に、フッ素含有排ガスを噴霧し、フッ素含有排ガスのみを凝縮薄膜として堆積させる工程と、該凝縮薄膜に雰囲気ガスとともに電子またはイオンまたは準安定励起種またはラジカルを照射することにより該フッ素含有排ガスを分解するとともに重合膜として固定化する工程と、固定化したフッ素含有重合膜を回収する工程を、含むことを特徴とするフッ素含有排ガスの固定化方法に関するものである。
【0007】
請求項2に係る発明は、特に処理対象物質としてフッ素含有排ガスが、パーフルオロカーボンまたはハイドロフルオロカーボンが好適である。
請求項3に係る発明は、前記雰囲気ガス、電子、イオン、準安定励起種、ラジカルは、水素または窒素または希ガスから選ばれる1種または複数の組み合わせたものから生成されたものを利用することができる。
【0008】
請求項4に係る発明は、排ガスを凝縮堆積させるための冷却装置を備えた基材と、該基材上に排ガスの供給を行う噴霧装置と、電子またはイオンまたは準安定励起種またはラジカルの発生装置と基材上に堆積した排ガスの凝縮物に発生させた電子またはイオンまたは準安定励起種またはラジカルを照射するための照射装置を備え、基材上に重合膜が固定化されるようになされているフッ素含有排ガスの処理装置に関するものである。
【0009】
このときの膜形成過程は主に以下のような段階に分かれ、それぞれの反応が複雑に作用し、薄膜を形成すると考えられる。はじめに電子がCF
4凝縮層に衝突することでFが解離し、また種々のラジカルが生成し、周囲のCF
4との重合反応が進行する。また、炭素膜中に
生成した反応性の高い−CF
2−は原料モノマーと反応しC
2F
6, C
3F
8, … C
nH
mと重合していく。また、C
nH
mはHによるFの引き抜き反応によって(H-Fの結合エネルギーは566 kJ/mol
と高いため)HFとして脱離する。このようにしてサブサーフェスから次第にFの濃度が減
少し、替わってダングリングボンドが形成され、さらにそこを起点とした重合反応が進む。以上のようにしてFを含むC-Cネットワークが形成されFを含むsp3炭素とsp2炭素が混在
する構造をもったアモルファス薄膜が合成されると考えられる。あおHe-DC放電により合
成したカーボン膜に比べ、H
2-DC放電により合成した場合の方が膜中のF濃度は低いことからサブサーフェスにおけるH原子の低温トンネル反応の効果が顕著であることがわかる。
《電子による分解過程》
【0010】
《ポリマー化》
【0011】
《F引き抜き反応、ダングリングボンド形成》
【0012】
《ダングリングボンド延伸、Fによる終端》
【発明の効果】
【0013】
本発明により、CF
4凝縮層への低速電子線照射によるフッ素化アモルファスカーボン膜
(a-C:F膜)を合成、固定化することができる。H
2-DC放電において、CF
4ガスの流量と基
板温度を変化させることで、電子による原料モノマーの分解や、化学的アニーリングが抑制させることができる。また、基板温度を高くすることは表面に結合したFの引き抜き反
応を抑制することができる。原料ガスと基板温度二つのパラメーターを変化させることにより薄膜の膜質をDLC、あるいはa-C:Fとするかを決定することが可能である。本発明により同じ原料ガスと装置からPTFEライクa-C:F膜、DLC膜の合成を可能とし、各々の複合材料への応用化する技術として期待される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
Fig2. 1に極低温製膜装置の概略図を示す。製膜チャンバーはロータリーポンプ(TRIVAC社D8C)とターボ分子ポンプ(BOC EDWARDS社STP-H1303C)により真空排気され、到達真
空度は約1×10
-6 Paである。基板の冷却には極低温冷凍機(住友重機械工業CRYOTEC V-204S)を用い11 Kまで冷却可能である。この冷凍機のコールドヘッド上に付けられた金鉄( Au-0.07% Fe )-クロメル熱電対(Thermo Couple)により測定する。しかし実際には100 K以下の温度領域では測定温度と基板温度に大きな差が生じる。これはコールドヘッドと基板の間にわずかな隙間が存在し、これにより熱伝導が大きくなるためである。そこで、Heガスをコールドヘッド側壁に巻きつけたステンレスチューブ(内径0.5 mm)を通すことにより冷却し(『熱交法』)、ガスをその隙間に流すことで基板を冷却する。Heガスは熱伝導のためのいわゆるスイッチとなる。(以下He-TSWと称す)。また、セラミック製ヒーターと温度調節器による比例積分微分制御(PID: Proportional Integral Derivative)に
より任意の温度に±0.1 Kの精度で制御可能である。また、昇温脱離法(TPDMS: Temperature-Programmed Desorption Spectroscopy)は基板温度を6.0 K / minの昇温速度により
測定される。
【0016】
基板は10 inchないし8 inchのSi基板を基板ホルダーに入るサイズ65×35に切り出した
物を用いた。原料ガスであるCF
4ガスはステンレス鋼製キャピラリーチューブ(I. D. f0.13×L1000)を通じ、ボトルネック型スプレーチューブ内に導入され基板に照射される。
【0017】
なお、蒸着したCF
4凝縮膜は薄膜表面の反応を制御するために、原子・分子レベルの膜
厚で極微量の蒸着を行う必要がある。本実験で使用した“キャピラリー法”によるガス導入装置は、原料ガスの導入量を精度よく制御できる。
【0018】
放電ガスも同様である。このボトルネック放電管内でH
2ガスあるいはN
2ガスの放電を起こして、低速電子線(E
k ≦ 200 eV)やNの準安定励起種(N
*)あるいは、H原子を生成し、基板に照射する。製膜実験を行う際、He-TSWの圧力と原料ガスの圧力、それに放電ガスの圧力が加わり、チャンバー内圧力は1×10
-4 Pa台になる。
【0019】
また、基板冷却の確認法として、N
2-DC放電により生成した活性種の失活過程N* (
2D )
→ N (
4S )における発光(波長520nm)の有無により判断した。
チャンバーには製膜の経過を観察するためにフーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)を、また、実験中と実験後のガス成分を観察するために四重極質量分析計(ANELVA社M-201QA-TDM-W)を取り付けた。
【実施例1】
【0020】
(H
2-DC放電を用いたa-C:F膜の製膜および物性評価)
高真空下(1×10
-4 〜1×10
-6 Pa)にて極低温に冷却したSi基板にCF
4をキャピラリー
法を用いて一定の流量で蒸着した。同時にガラス製ボトルネック型放電管よりH
2ガスを直流放電し、生成した低速電子および、H原子とH
2とともに照射(以下、H
2放電照射)する
ことによりa-C:F膜を合成した。高感度反射赤外分光法(IRRAS)を利用したin-situ FTIR測定により製膜の経過を観察し、サブサーフェスにおける膜形成反応の知見を得た。製膜後、分光エリプソメトリーにより得られた光学定数(屈折率、消衰係数)から膜厚および光学バンドギャップを算出した。薄膜の結晶構造を調査するためにレーザーラマン散乱分光法を、化学結合状態や元素組成を調査するためにX線光電子分光法(XPS)を用いた。
【0021】
高真空チャンバー内にてT
sub = 40 K、CF
4を蒸着速度60 ML/min( ML : Mono Layer )でSi基板に蒸着し、同時にH
2放電照射をしたときの赤外吸収スペクトルの時間変化を
図2に示す。1105 cm
-1はCF
3、1150, 1215, 1290 cm
-1はCF
2の伸縮振動に、1260 cm
-1はCF
4伸縮振動にそれぞれ帰属される。-CF
3と-CF
2は放電により分解したラジカル種やa-C:Fの表面
に主に生成したC-C網の終端基と考えられる。一方CF
4は解離を起こさずに未反応のままサブサーフェスに蒸着している、もしくはFとCF
3が再結合したものと考えられる。次に、T
sub=11 K, CF
4蒸着速度:12 ML/minの条件で合成したa-C:F膜のRamanスペクトルを
図3に
示す。
【0022】
1560 cm
-1のピークはグラファイト構造に起因するピーク(Gピーク)、1320 cm
-1のピ
ークは格子欠陥に起因する無秩序誘起ラマン散乱(Disordered induced raman scattering)を表わすピーク(Dピーク)にそれぞれ帰属される。なお、この条件以外ではこれら2
つのピークは観察されなかったことから、低温かつ蒸着速度が遅い方が結晶性をもった構造となると思われる。基板温度11 K、CF
4蒸着速度12, 60, 120 ML/ minで合成したカーボン膜のC1sのXPSスペクトルC1sをFig. 3に示す。高エネルギー側から-CF
3, -CF
2, -CF, -C-CF, -C-Cの結合状態に帰属される。12 ML/minでは-C-CFが支配的であるのに対し、120 ML/ minでは12 ML/minに比べると-C-CFに対して-CF
3, -CF
2の割合が増大している。これはCF
4の解離や、薄膜成長表面中のダングリングボンド形成に必要な低速電子やH原子のフラックスがCF
4に対して減少するため、C-Cリンクの少ないポリマーとしてFが多く固定化さ
れたためだと考えられる。なお、分光エリプソメトリー測定から得られる光学定数より算
出される製膜レートはCF
4蒸着速度に比例することがわかった。
図5にはT
sub:11 K, CF
4
蒸着速度:60ML/minで製膜した試料のXPS深さ分析の結果を示す。最表面には-CF
3, -CH
2
が多く存在するもののbulk中は濃度が表面に比べ大きく減少していることが確認された。これはサブサーフェスにおける炭素鎖が、Fで終端されているのに対し、堆積が進行する
につれ、電子励起によりC-Fが解離し、HとFの結合反応およびHによるa-C:FからのF引き抜き反応により、次第にFの濃度が減少するためである。XPS(C1s)の波形分離の結果から
基板温度が11 Kより40 Kで製膜した場合の方が、Fが多く固定化されることが確認された
。また、XPSのピーク面積から算出される膜中のF/C比は11 Kと40 Kでそれぞれ0.3〜0.8、0.6〜1.0であった。これは基板温度がより低温であるほどFの引き抜き反応が促進されて
いるためだと考えられる。He-DC放電およびN
2-DC放電による製膜を行ったところ、F/C比
が増大した。低温におけるH原子の反応F引き抜き反応が重要な膜成長に重要な役割を果たしている。
【実施例2】
【0023】
(He-DC放電を用いたCF
4分解による製膜および物性評価)
超高真空下にて極低温40Kに冷却したSi基板上にCF
4を蒸着しながらHe-DC放電により生
成した低速電子をHe原子、He*とともに同時に照射して炭素薄膜を形成した。製膜条件を
表1に示す。また、本実験では放電管サンプル照射チューブのSi基板からの距離は約4 cm
で一定とした。
フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)により製膜のin-situ観察を行った。製膜時間はい
ずれも4時間とし、製膜後は少しずつ基板温度を上げ、20, 30, 40, 50,60, 70, 80, 100,
120, 140, 160, 180, 200, (240), 290 Kの温度について同様にin-situ測定を行い、基
板上の反応生成物および未反応のCF
4を観察した。
【0024】
【表1】
【0025】
製膜中の反応中間体の観察や膜成長の様子を確認するためにin-situ FTIR測定を行った。測定条件は、分解能4 cm
-1、アパーチャー径100、測定範囲500-4500 cm
-1、積算回数500で行った。
【0026】
基板を極低温に冷却し4時間製膜を行った際の赤外吸収スペクトル(全域)を表1に、
示す。スペクトルの解析の結果、1260 cm
-1, 1280 cm
-1, 1100-1200 および1300-1400 cm
-1のピークはそれぞれ未反応のCF
4、ポリマー前駆体のCF
2、CFxの伸縮振動に帰属される
。H
2-DC放電の場合に見られた3250 cm
-1付近の-OH伸縮振動に起因するピークはH原子が反応系に無いため観察されなかった。
次に、製膜後に室温まで基板を昇温した時の赤外吸収スペクトルの時間変化を観察した。1300 cm
-1付近のCFx由来のピークが減少していることが確認できた。これは未反応のCF
4
が脱離し、重合反応によって形成された固体成分のみが観察されるようになったためと考えられる。また、1130 cm
-1には昇温することによって沈み込むピークが確認された。こ
れは、Si-O伸縮に起因するピークでSi基板表面にある酸化膜(厚さ数十 nm)がエッチン
グされたことを示唆している。低温の状態では他のCFxのピークと重なり、確認できない
ものが昇温してCFxのピークが小さくなったことで確認できるようになったと考えられる
。
【実施例3】
【0027】
(N
2-DC放電を用いたCF
4分解による製膜および物性評価)
超高真空下にて極低温11Kに冷却したSi基板上にCF
4を蒸着しながらN
2-DC放電により生
成した低速電子をN
2原子、N
2*とともに同時に照射して炭素薄膜を形成した。実験はCF4蒸着速度12 ML /minと60 ML / minの2通り行った。(表2)また、本実験では放電管サンプル照射チューブのSi基板からの距離は約4 cmで一定とした。
フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)により製膜のin-situ観察を行った。製膜時間はい
ずれも4時間とし、製膜後は少しずつ基板温度を上げ、各温度について同様にin-situ測定を行い、基板上の反応生成物および未反応のCF
4を観察した。
【0028】
なお、蒸着したCF
4凝縮膜はサブサーフェスにおける反応を制御するために、原子・分
子レベルでの膜厚を厳密に制御する必要があるためキャピラリー法によるガス導入を行っている。
【0029】
【表2】
【0030】
in-situ FTIR測定条件は、分解能4 cm
-1、アパーチャー100、測定範囲500-4500 cm
-1、積算500回で行った。基板を11 Kに冷却して4時間製膜を行った条件VIII(12 ML /min)のIRスペクトル(全域)とCF赤外吸収帯がある領域のスペクトルにおいて、1250, 1280 cm
-1の
ピークは未反応のCF
4の伸縮振動に帰属される。電子励起によりCF
2などが生成している可能性があるが、検出感度以下であるため観察されないと推察される。
次に、条件IX(60 ML /min)で製膜したときの膜成長を観察するために製膜途中のIRスペクトル(全域)とCF赤外吸収帯がある領域のスペクトルでは、条件IXと比べCF
4由来のピ
ークの強度が小さい以外は差異はないことが分かった。
次に条件IXで製膜した後、室温まで昇温した時の赤外吸収スペクトル(全域)とCFxの領
域のスペクトルを測定した。He-DC放電の時と同様に1130 cm
-1付近に沈み込むピークが確認され、Si基板表面にある酸化膜がエッチングされたと考えられる。1100 cm
-1付近のピ
ークはCFx由来のピークでありa-C:F膜が製膜されていると考えられる。条件VIIIについてもほぼ同様なスペクトルの変化が観察された。