特許第5703544号(P5703544)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5703544
(24)【登録日】2015年3月6日
(45)【発行日】2015年4月22日
(54)【発明の名称】水性インキ組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/30 20140101AFI20150402BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20150402BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20150402BHJP
【FI】
   C09D11/30
   B41M5/00 E
   B41J2/01 501
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2009-98578(P2009-98578)
(22)【出願日】2009年4月15日
(65)【公開番号】特開2010-248357(P2010-248357A)
(43)【公開日】2010年11月4日
【審査請求日】2011年10月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】依田 純
(72)【発明者】
【氏名】山田 康平
(72)【発明者】
【氏名】間 清二
【審査官】 桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−260820(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/105289(WO,A1)
【文献】 特開2008−208232(JP,A)
【文献】 特開2007−175923(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/30
B41J 2/01
B41M 5/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも顔料、水、水以上の沸点を有する水溶性有機溶剤およびバインダー樹脂を含有し、
さらに、水と溶剤を混合させた混合液の溶解性パラメーター値(δ)が17〜20であり、
更に、水以上の沸点を有する水溶性有機溶剤が、
溶解性パラメーター値(δ)=10〜30の水溶性有機溶剤であり、片末端水酸基を有するモノアルキルエーテル系溶剤を1つ以上と、
溶解性パラメーター値(δ)=10〜30の水溶性有機溶剤であり、両末端アルキル基を有するジアルキルエーテル系溶剤を1つ以上と、
含窒素系または含硫黄系またはラクトン系で溶解性パラメーター値(δ)=15〜25の溶剤を1つ以上とを含むことを特徴とする非吸収性基材印刷用水性インクジェットインキ組成物。
【請求項2】
更に、バインダー樹脂として、水性樹脂エマルションまたは水溶性高分子化合物を用いることを特徴とする請求項記載の非吸収性基材印刷用水性インクジェットインキ組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ塩化ビニルシート等の非吸収基材表面に、耐擦性・耐エタノール性・耐水性等に優れた画像や文字を印刷する事ができる、水性インキに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、非吸収性基材を対象とした印刷方式として、軟包材用グラビア印刷、サニタリー用フレキソ印刷、金属版用シルクスクリーン印刷、屋内外広告用インクジェット印刷などが一般的に知られている。
【0003】
なかでも、インクジェットヘッドのノズルから吐出された微小なインク滴によって、画像や文字を印刷するインクジェット印刷では、近年A−0サイズにも対応できるプリンターが開発され、屋外用ポスターなどの屋外用途での使用環境が増えた背景より、耐水性、耐候性、耐摩擦性に優れたインクジェット印刷用インクの開発が盛んに行われている。
【0004】
特に、サイン業界向けに使用されているインクジェット印刷用インクでは、一般的な水に水溶性染料等の着色剤を加えた水性インクジェットインクに代わり、溶媒として有機溶剤を使用した顔料系溶剤インクジェットインキが主に使用されている。これは、屋外広告等の媒体として用いられている、ポリ塩化ビニルシート等の非吸収性基材表面に直接印刷をする性能が必要である為、耐候性に優れた顔料と、前記顔料を非吸収性基材表面に強固に密着させるバインダー樹脂と、前記バインダー樹脂や非吸収性基材表面を溶解する事のできる有機溶剤を含むような顔料インク組成物が好適であると考えられているためである。
【0005】
ただ溶剤の長期の使用は、VOC等の環境問題や、急性毒性,変異原性,発癌性,生殖毒性といった有害性の問題などが存在するため好ましくない。よって現在は、着色剤に顔料を用いた水性インクジェットインキの開発が進められている(特許文献1)。
【0006】
しかしながら、開発された水性インクジェットインキは紙などの吸収性基材への直接印刷はできるものの、非吸収性基材表面には直接印刷ができない。これは、非吸収性基材表面を溶解する事ができる水溶性溶剤を水性インキ中に添加すると、基材表面を侵食する性能が大きく低下するため、インキ塗膜と基材との密着性が悪くなり、印刷物耐性も弱いため、屋外広告用途では使用されていないのが現状である(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−183920号公報
【特許文献2】特許公報第4148424号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は、非吸収基材中の可塑剤を溶解する高沸点の水溶性溶剤を用い、溶剤と水の混合溶液の溶解性パラメーター値(δ)を可塑剤の溶解性パラメーター値(δ)に近づけることで、紙などの吸収性基材だけでなく非吸収性基材に対しても直接印刷する事ができ、溶剤インキにて印刷された印刷物よりも優れた印刷物耐性を実現し、且つ印刷安定性良好な顔料を用いた水性インキ組成物、特にインクジェットインキ組成物を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は、以下の構成により達成される。
【0010】
少なくとも顔料、水、水以上の沸点を有する水溶性有機溶剤およびバインダー樹脂を含有し、
さらに、水と溶剤を混合させた混合液の溶解性パラメーター値(δ)が17〜20であり、
更に、水以上の沸点を有する水溶性有機溶剤が、
溶解性パラメーター値(δ)=10〜30の水溶性有機溶剤であり、片末端水酸基を有するモノアルキルエーテル系溶剤を1つ以上と、
溶解性パラメーター値(δ)=10〜30の水溶性有機溶剤であり、両末端アルキル基を有するジアルキルエーテル系溶剤を1つ以上と、
含窒素系または含硫黄系またはラクトン系で溶解性パラメーター値(δ)=15〜25の溶剤を1つ以上とを含むことを特徴とする非吸収性基材印刷用水性インクジェットインキ組成物。
【0015】
更に、バインダー樹脂として、水性樹脂エマルションまたは水溶性高分子化合物を用い ることを特徴とする水性インキ組成物。
更に、インクジェットインキである水性インキ組成物。
更に、非吸収性基材印刷用のインクジェットインキである水性インキ組成物に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、非吸収基材中の可塑剤溶解性が良好な高沸点の水溶性溶剤を用い、溶剤と水の混合溶液の溶解性パラメーター値(δ)を可塑剤の溶解性パラメーター値(δ)に近づけることで、紙などの吸収性基材だけでなく非吸収性基材に対しても直接印刷する事ができ、溶剤インキにて印刷された印刷物よりも優れた印刷物耐性を実現し、且つ印刷安定性良好な顔料を用いた水性インキ組成物、特にインクジェットインキ組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のインキ組成物は、少なくとも耐候性に優れた顔料と、前記顔料を非吸収性印刷媒体表面に強固に密着させるバインダー樹脂と、水以上の沸点を有する水溶性有機溶剤と、水を含む水性顔料インク組成物である。本発明に使用する有機溶剤としては、水以上の沸点を有する水溶性有機溶剤であることが好ましい。沸点が水よりも低いと、インクジェットインキとして使用した際に、インクジェットヘッドノズル上での乾燥が速まり、詰まりの原因となる。
【0018】
更に、水と水以上の沸点を有する水溶性有機溶剤を混合させた混合液の溶解性パラメーター値(δ)はHansenの方法によって計算されたものであり、その値が17〜20であることが最も好ましい。これは、非吸収基材の可塑剤として最も一般的に用いられているフタル酸ビス(2−エチルヘキシル)の溶解性パラメーター値(δ=18.24)に水と溶剤を混合させた混合液の溶解性パラメーター値(δ)に近づける事で、プリンターへの腐食性がないにも関わらず、非吸収基材に含まれる可塑剤を溶剤が侵食する事により、基材の表面を僅かに溶解させることで、インキ塗膜の非吸収性基材に対する密着性良好な水性インキ組成物を作成する事ができるからである。
Hansenの方法は、株式会社情報機構発行の『溶解性パラメーター適用事例集〜メカニズムと溶解性の評価・計算例等を踏まえて〜』68ページを参考とし、以下の計算式を用いて計算を行った。
【0019】
【0020】
前記、水以上の沸点を持つ水溶性有機溶剤としては、溶解性パラメーター値(δ)が10〜30であることが好ましい。使用する水溶性溶剤の溶解性パラメーター値(δ)が10以下では水に溶解する溶剤が無く、30以上では非吸収性基材表面が腐食されない為、インキ塗膜の密着性が著しく低下する。
【0021】
溶解性パラメーター値(δ)が10〜30である水以上の沸点を持つ水溶性有機溶剤としては、ブチルアルコール、1,3−プロパンジオール等のアルコール系溶剤ないし、含窒素系または含硫黄系またはラクトン系溶剤ないし、一般式(1)で表される溶剤のいずれか1つ以上を含むことが好ましい。
(OROR・・・(1)
(式中、Rはエチレン基又はプロピレン基、R、Rはそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基、Zは1〜6の整数を表す。)
【0022】
一般式(1)で溶解性パラメーター値(δ)=10〜30に該当する有機溶剤としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール等のグリコール類、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールn−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル等のグリコールエーテル類がある。
【0023】
また、一般式(1)で表される溶解性パラメーター値(δ)=10〜30の溶剤を1つ以上と、含窒素系または含硫黄系またはラクトン系で溶解性パラメーター値(δ)=15〜25の溶剤を1つ以上含むことが好ましい。
【0024】
含窒素系または含硫黄系またはラクトン系溶剤で溶解性パラメーター値(δ)=15〜25に該当する有機溶剤としては、3−メチルオキサゾリジノン、3−エチルオキサゾリジノン、2−ピロリドン、1−メチル−2−ピロリドン、1−エチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、γ−ブチロラクタム、ε−カプロラクトン、ε−カプロラクタム、δ−バレロラクトン、δ−バレロラクタム、ジメチルスルホキシドやβ−アルコキシプロピオンアミド類がある。
【0025】
更に、一般式(1)で表される溶剤としては、片末端水酸基を有するモノアルキルエーテル系溶剤を1つ以上と、両末端アルキル基を有するジアルキルエーテル系溶剤を1つ以上併用し含むことが好ましい。これは、沸点が高く且つインキの粘度調節ができる片末端水酸基を有するモノアルキルエーテル系溶剤と、沸点が高く且つ非吸収基材中の可塑剤への侵食性能に優れる両末端アルキル基を有するジアルキルエーテル系溶剤を併用する事により、様々なインクジェットヘッドに対応でき、且つインクジェットヘッドノズル上にて乾燥せず印刷安定性に優れ、非吸収基材に対し優れた密着性を実現できる水性インキ組成物が作成できる。
【0026】
更に、片末端水酸基を有するモノアルキルエーテル系溶剤の溶解性パラメーターを(δa)、両末端アルキル基を有するジアルキルエーテル系溶剤の溶解性パラメーターを(δb)と置くと、│δa−δb│=2〜15であることが好ましく、│δa−δb│=3〜10であることが最も好ましい。0≦│δa−δb│<2であると、モノアルキルエーテル系溶剤とジアルキルエーテル系溶剤の性質が似てしまう為、非吸収基材中の可塑剤への侵食性能に優れ、且つインクジェットヘッド上にて乾燥しない水性インキを作成する事ができない。また、│δa−δb│>15であると、水への溶解性が悪く分離してしまうことから好ましくない。
【0027】
本発明に使用する非吸収性印刷媒体表面に対する密着性に優れたバインダー樹脂としては、非水溶性樹脂エマルションまたは水溶性高分子化合物が好ましく、中でも非水溶性樹脂エマルションが最も好ましい。非水溶性樹脂エマルションが最も好ましい理由としては、高樹脂固形分でありながら低粘度のインキを作成することができるため、インキ塗膜の耐性が良好であると共に、インクジェットヘッドからの吐出性能も良好だからである。
【0028】
非水溶性樹脂エマルションとしては、塩化ビニル系樹脂エマルション・アクリル系樹脂エマルジョン・ポリプロピレン系樹脂エマルションが好ましく、なかでも乳化重合法によって得られたエマルションが最も好ましい。これは乳化分散法を使用する事により、高分子量,低酸価の塩化ビニル系樹脂を高固形分で乳化させることが可能であり、転相乳化法や乳化分散法にて得られたエマルションを使用したインキでは満たすことのできない、非吸収性印刷媒体表面へのインキ塗膜密着性と耐性を実現できる為である。具体例としては、日信化学社製ビニブラン271、ビニブラン278、ビニブラン603、ビニブラン690、ビニブラン900、ビニブラン902、ビニブラン985、ダウケミカル社製UCAR AW−875、日本製紙ケミカル社製スーパークロンE−480T,スーパークロンE−503,スーパークロンE−604,スーパークロンS−4249,アウローレンAE−301,アウローレンS−6097が挙げられる。樹脂はインキ中に0.1〜40重量%含まれることが好ましく、3.0〜30重量%含まれることが特に好ましい。添加量がインキ中0.1重量%以下であると、印刷媒体表面への密着が悪く、塗膜の耐性が低下してしまい、40重量%以上になるとインキ粘度が高すぎるため、印刷適性が低下してしまうために好ましくない。
【0029】
本発明に使用される顔料は、印刷インキ、塗料等に使用される種々の顔料が使用できる。このような顔料をカラーインデックスで示すと、ピグメントブラック7、ピグメントブルー15,15:1,15:3,15:4,15:6,60、ピグメントグリーン7,36、ピグメントレッド9,48,49,52,53,57,97,122,149,168,177,178,179,206,207,209,242,254,255、ピグメントバイオレット19,23,29,30,37,40,50、ピグメントイエロー12,13,14,17,20,24,74,83,86,93,94,95,109,110,117,120,125,128,137,138,139,147,148,150,151,154,155,166,168,180,185、213、ピグメントオレンジ36,43,51,55,59,61,71,74等があげられる。また、カーボンブラックについては中性、酸性、塩基性等のあらゆるカーボンブラックを使用することができる。顔料はインキ中に0.1〜10重量%含まれることが望ましい。
【0030】
本発明のインキ組成物は可塑剤、表面調整剤、紫外線防止剤、光安定化剤、酸化防止剤、加水分解防止剤、活性剤、分散剤等の種々の添加剤を使用することができる。
【0031】
本発明のインキ組成物の印刷方式としては、グラビア印刷、フレキソ印刷、シルクスクリーン印刷、インクジェット印刷等が挙げられ、特に好ましくはインクジェット印刷方式である。
【0032】
本発明のインキ組成物は、まず始めにペイントシェーカー、サンドミル、ロールミル、メディアレス分散機等によって、水もしくは水−有機溶剤混合溶媒中で顔料を分散し、得られた水性顔料分散体を、本発明の水,有機溶剤およびバインダー樹脂で希釈して製造されるものである。
【0033】
以下、実施例をあげて本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に特に限定されるものではない。なお、実施例中、「部」および「%」は「重量部」および「重量%」を表す。
【0034】
[製造例1]
(水性分散体1の製造)
粗製銅フタロシアニン(東洋インキ製造社製銅フタロシアニン):250部、塩化ナトリウム:2500部、およびポリエチレングリコール300(東京化成社製):160部をスチレン製1ガロンニーダー(井上製作所社製)に仕込み、4時間混練した。次に、この混合物を2.5リットルの温水に投入し、約80度に過熱しながらハイスピードミキサーで約1時間攪拌してスラリー状とした後、濾過、水洗を5回繰り返して塩化ナトリウムおよび溶剤を除き、固形分50%の水性顔料分散体(処理顔料分散体)を得た。
【0035】
上記水性顔料分散体(処理顔料分散体,固形分50%品):30.0部、アクリル樹脂水溶液(ジョンソンポリマー社製『ジョンクリル62』固形分34.6%):3.0部、分散剤(花王社製『エマルゲン420』:2.0部、精製水:50.0部、グリセリン6.0部をサンドミルに入れ4時間分散し、その後1μmおよび0.45μmのメンブランフィルターにて濾過して水性顔料分散体1を得た。
【0036】
[製造例2]
(水性分散体2の製造)
製造例1の粗製銅フタロシアニンの代わりに、黄色顔料(ヘキスト社製『ポスターパームイエローH3G』):260部を用い、製造例1と同様の手順にて水性顔料分散体2を作成した。
【0037】
[製造例3]
(水性分散体3の製造)
赤顔料(ヘキスト社製『ポスターパームピンクE』):250部、塩化ナトリウム:2500部、およびポリエチレングリコール300(東京化成社製):160部をスチレン製1ガロンニーダー(井上製作所社製)に仕込み、3時間混練した。次に、この混合物を2.5リットルの温水に投入し、約80度に過熱しながらハイスピードミキサーで約1時間攪拌してスラリー状とした後、濾過、水洗を5回繰り返して塩化ナトリウムおよび溶剤を除き、固形分50%の水性顔料分散体(処理顔料分散体)を得た。
【0038】
上記水性顔料分散体(処理顔料分散体,固形分50%品):30.0部、アクリル樹脂水溶液(ジョンソンポリマー社製『ジョンクリル62』固形分34.6%):3.0部、分散剤(花王社製『エマルゲン420』:2.0部、精製水:50.0部、グリセリン6.0部をペイントシェーカーに入れ4時間分散し、その後1μmおよび0.45μmのメンブランフィルターにて濾過して水性顔料分散体3を得た。
【0040】
[実施例2〜5、10、11、14、15。比較例1〜3]
表1にて記載した原料を成分とし、ハイスピードミキサーにて攪拌混合し、その後、1μmおよび0.45μmのメンブランフィルターにて濾過し、水性インクジェットインキ1を得た。
【0041】
【表1】
【0042】
表1中の略称は、以下に示す通りである。
・ NMP :1−メチル−2−ピロリドン
・ NEP :1−エチル−2−ピロリドン
・ GBL :γ−ブチロラクトン
・ ε−CL:ε−カプロラクトン
・ MOZ :3−メチルオキサゾリジノン
・ EOZ :3−エチルオキサゾリジノン
・ DMI :1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン
・ BTG :トリエチレングリコールモノブチルエーテル
・ BDG :ジエチレングリコールモノブチルエーテル
・ BEG :エチレングリコールモノブチルエーテル
・ MFG :プロピレングリコールモノメチルエーテル
・ MFDG :ジプロピレングリコールモノメチルエーテル
・ MFTG :トリプロピレングリコールモノメチルエーテル
・ PFG :プロピレングリコールモノプロピルエーテル
・ PNP :プロピレングリコールn−プロピルエーテル
・ DPNP :ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル
・ DMTG :トリエチレングリコールジメチルエーテル
・ DMDG :ジエチレングリコールジメチルエーテル
・ DMTeG : テトラエチレングリコールジメチルエーテル

【0043】
【表2】
【0044】
表2から明らかのように、インク中に本発明にて特定した水以上の沸点を持ち、溶解性
パラメーター値(δ)=10〜30である水溶性有機溶剤を添加した実施例2〜5、10、11、14、15のインク組成物は、表面が無処理のポリ塩化ビニル樹脂シートのような非吸収性基材に対し直接印刷が可能であるだけでなく、印刷基材中の可塑剤を溶解させインキ塗膜を作成する事により、印刷物耐性である耐エタノール性、耐水性、耐擦性が全て優れる。なかでも実施例〜5は、印刷物耐性だけではなく、インキ塗膜光沢度も高く、印刷時にインクジェットヘッド上での乾燥が起きない為、印刷安定性にも優れている。
【0045】
比較例1〜3で使用されている水溶性有機溶剤は、水性インクジェットインキに一般的に用いられているグリセリンを使用した。これを、比率違いにてインキ化し、同様の評価を行ったところ、水と混合されることにより非吸収性基材であるポリ塩化ビニル樹脂シート表面を浸食する事ができないために、印刷物耐性も劣る結果となった。これは、グリセリン自体の溶解性パラメーター値(δ)が30以上である有機溶剤である為、有機溶剤とイオン交換水の混合溶液の溶解性パラメーター値(δ)を、ポリ塩化ビニル樹脂シートに一般的に用いられる可塑剤のフタル酸ビス(2−エチルヘキシル)の溶解性パラメーター値(δ)=18.24に近づけることができない為である。
【0046】
評価方法について下記に示す。
【0047】
<耐アルコール性>
実施例2〜5、10、11、14、15、比較例1〜3で得られたインキ組成物について、Hi−Fi JET PRO II Model FJ−540(Roland DG社製)にて、表面が無処理のポリ塩化ビニル樹脂シートに印字率100%のベタ印刷を行い、印刷面をラビングテスター(テスター産業製、型式AB301)にて耐アルコール性を評価。評価条件としては試験用布片(金巾3号)にてエタノール/水=70/30で希釈した液を1滴たらし加重500g、50往復で実施し、塗布面が全く剥ぎ取られなかったものを5、試験用布片に着色が見られたが、印刷面には目立った変化の見られないものを4、試験片が着色、印刷面にも若干の色落ちが見られるものを3、剥ぎ取られたが基材が見えたものを2、インキが剥ぎ取られ、基材が半分以上見えるものを1と評価した。
【0048】
<耐水性>
実施例2〜5、10、11、14、15、比較例1〜3で得られたインキ組成物について、Hi−Fi JET PRO II Model FJ−540(Roland DG社製)にて、表面が無処理のポリ塩化ビニル樹脂シートに印字率100%のベタ印刷を行い、印刷面をラビングテスター(テスター産業製、型式AB301)にて耐水性を評価。評価条件としては試験用布片(金巾3号)にて水を1滴たらし加重500g、50往復で実施し、塗布面が全く剥ぎ取られなかったものを5、試験用布片に着色が見られたが、印刷面には目立った変化の見られないものを4、試験片が着色、印刷面にも若干の色落ちが見られるものを3、剥ぎ取られたが基材が見えたものを2、インキが剥ぎ取られ、基材が半分以上見えるものを1と評価した。
【0049】
<耐擦性>
実施例2〜5、10、11、14、15、比較例1〜3で得られたインキ組成物について、Hi−Fi JET PRO II Model FJ−540(Roland DG社製)にて、表面が無処理のポリ塩化ビニル樹脂シートに印字率100%のベタ印刷を行い、印刷面をラビングテスター(テスター産業製、型式AB301)にて耐擦性を評価。評価条件としては試験用布片(金巾3号)、加重1000g、50往復で実施し、塗布面が全く剥ぎ取られなかったものを5、試験用布片に着色が見られたが、印刷面には目立った変化の見られないものを4、試験片が着色、印刷面にも若干の色落ちが見られるものを3、剥ぎ取られたが基材が見えたものを2、インキが剥ぎ取られ、基材が半分以上見えるものを1と評価した。
【0050】
<光沢>
実施例2〜5、10、11、14、15、比較例1〜3で得られたインキ組成物について、Hi−Fi JET PRO II Model FJ−540(Roland DG社製)にて、表面が無処理のポリ塩化ビニル樹脂シートに印字率100%のベタ印刷を行い、60度光沢計にて光沢度を測定した。
<印刷安定性>
実施例2〜5、10、11、14、15、比較例1〜3で得られたインキ組成物について、25℃環境下でHi−Fi JET PRO II Model FJ−540(Roland DG社製)にて、表面が無処理のポリ塩化ビニル樹脂シートに2時間連続印刷し、ドット抜け、飛行曲がり又はインクの飛び散りの発生頻度を評価した。表には、2時間連続印刷後ノズルチェックパターンを印字し、ドット抜け、飛行曲がり又はインクの飛び散りが何箇所あるかを確認し、その数を記載した。