(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5703599
(24)【登録日】2015年3月6日
(45)【発行日】2015年4月22日
(54)【発明の名称】排気ガス浄化システム
(51)【国際特許分類】
F01N 3/023 20060101AFI20150402BHJP
F01N 3/025 20060101ALI20150402BHJP
F01N 3/029 20060101ALI20150402BHJP
F01N 3/02 20060101ALI20150402BHJP
F01N 3/24 20060101ALI20150402BHJP
F01N 3/36 20060101ALI20150402BHJP
B01D 46/42 20060101ALN20150402BHJP
【FI】
F01N3/02 321B
F01N3/02 301K
F01N3/02 301L
F01N3/24 EZAB
F01N3/24 S
F01N3/24 T
F01N3/36 A
!B01D46/42 B
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2010-134514(P2010-134514)
(22)【出願日】2010年6月11日
(65)【公開番号】特開2011-256846(P2011-256846A)
(43)【公開日】2011年12月22日
【審査請求日】2013年5月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068021
【弁理士】
【氏名又は名称】絹谷 信雄
(72)【発明者】
【氏名】池田 卓史
(72)【発明者】
【氏名】椋梨 隆之
(72)【発明者】
【氏名】石川 弘幸
【審査官】
稲村 正義
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−190668(JP,A)
【文献】
特開2006−189024(JP,A)
【文献】
特開2009−167906(JP,A)
【文献】
特開2004−68804(JP,A)
【文献】
特開2004−44524(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/00−3/38
B01D 46/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの排気管に設置されて粒子状物質を捕集するフィルタと、
前記フィルタより上流側の前記排気管に設置された酸化触媒と、
前記酸化触媒より上流側の前記排気管内に燃料を噴射する排気管インジェクタと、
前記エンジンの排気マニホールドから吸気マニホールドへ指示された排気再循環開度に応じて排気ガスを循環させる排気再循環装置と、
前記排気管に設置されたタービンと前記エンジンの吸気管に設置されたコンプレッサとが一体回転されることで過給を行い、アクチュエータによって過給量が調節可能な可変ノズル式ターボチャージャと、
前記ターボチャージャと前記吸気マニホールドの間に設置されて指示された吸気スロットル開度に応じて吸気量を制限する吸気スロットルと、
前記フィルタの再生時に、エンジンブレーキによる車両の減速が行われると、前記排気再循環装置の開度を全閉、前記吸気スロットルの開度を全開とし、かつ、前記可変ノズル式ターボチャージャによる過給量を増加させる排気ガス流量増加制御を行うとともに、前記酸化触媒が活性化温度未満になったとき、前記排気再循環装置の開度を大、前記吸気スロットルの開度を小とする保温モードに移行し、かつ、上記排気管インジェクタによる燃料噴射を停止する再生減速時吸排気制御部とを備えたことを特徴とする排気ガス浄化システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DPF再生用の燃料を噴射する排気ガス浄化システムに係り、DPF再生中に減速となってもDPF再生が継続できる排気ガス浄化システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンの排気ガスから粒子状物質(Particurate Matter;以下、PMという)を除去して排気ガスを浄化するために、排気管にディーゼルパティキュレートフィルタ(Diesel Particulate FilterまたはDefuser;以下、DPFという)が設けられる。DPFは、多孔質のセラミックで構成したハニカム構造体にPMを捕集するものである。捕集されたPMが過剰に蓄積されると排気ガスの流通の障害となるが、DPFに蓄積されたPMは排気ガス温度を高めることで、焼却除去することができる。これをDPF再生という。
【0003】
PMが焼却できる温度まで排気ガス温度を高める方式として、従来は、DPFの上流に白金等からなる酸化触媒(Diesel Oxidation Catalyst;以下、DOCという)を設置し、エンジンの推進力を得るために複数回に分けて燃料噴射を行うマルチ噴射において、燃料噴射量を多くすることで排気ガス温度をDOCの活性化温度まで高め、その後の適宜なクランク角でDPF再生用の燃料噴射(ポスト噴射)を行い、このポスト噴射によって炭化水素(Hydrocarbon;以下、HCという)をDOCに供給し、HCの酸化熱で排気ガス温度を高める方式がある。しかし、ポスト噴射を行うと、噴射された燃料がエンジンの潤滑油に混入して潤滑油が希釈されるオイルダイリューションが発生する。また、ポスト噴射による未燃燃料が排気再循環(Exhaust Gas Recirculation;以下、EGRという)に混入すると、EGRクーラの性能低下やピストンリングの不具合の原因となる。
【0004】
そこで、近年では、排気管に新たな装置を設けて排気管内に燃料を噴射する排気管噴射を行ってHCをDOCに供給し、HCの酸化熱で排気ガス温度を高める方式が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−106691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
排気管噴射では、シリンダ内に燃料を噴射するポスト噴射と異なりクランク角に依存せずに噴射時期が決められると共に、燃料噴射量も任意に決められる。しかしながら、排気管噴射は新規な技術であり、燃料の無駄がなく効果的に排気ガス温度が高められる噴射時期及び燃料噴射量を見いだすには、実験に相当多くの時間を費やさなくてはならない。これに対し、ポスト噴射の技術は既に多くの実験を経て確立されており、適切な噴射時期及び燃料噴射量がマップ化されている。そこで、本発明者らは、排気管噴射における燃料噴射量の目標噴射量をポスト噴射における目標噴射量を基礎にして設定することを考えた。エンジンの1燃焼サイクルに各気筒でポスト噴射する燃料噴射量に見合う量の燃料を1燃焼サイクルに相当する所定時間内に排気管噴射するよう、排気管噴射における目標噴射量のマップを設定する。このように、既に確立されたポスト噴射の噴射時期と目標噴射量を排気管噴射に変換して使うことで、いわゆるゼロベースから始めるのに比べ、実験に費やされる時間を短縮することができる。
【0007】
ところで、従来は、アクセルペダルが開放された(未踏となった)ことによる車両の減速時、すなわちエンジンブレーキ時には、ポスト噴射を禁止していた。これは、エンジンブレーキ時には、マルチ噴射における燃料噴射量が少ないことから排気ガス温度が低下し、この排気ガスによってDOCが冷却されてDOCの温度が活性化温度より低くなってしまうため、ポスト噴射した燃料がDOCで酸化されずに、排気管から白煙となって放出されてしまうからである。このため、DPF再生中にエンジンブレーキが作動するとDPF再生を中断せざるを得なかった。
【0008】
これに対し、本発明者らは、エンジンブレーキ時に、DPF及びDOCを高温に保持する保温モードを提案している。保温モードとは、吸気スロットルの開度を小さくして新気の取り込みを少なくすると同時に、EGR装置の開度を大きくして排気ガスを大きくエンジンに再循環させ、排気管に流れ出る排気ガスを減らすことで、DPF及びDOCの温度がエンジンブレーキ開始前の高温から下がらないようにするモードである。これにより、DOCを活性化温度に一定時間、保持することが可能となった。また、DPFがPMの焼却温度に保持されるので、エンジンブレーキ時でも再生温度の急激な低下を防ぐことを可能にしている。
【0009】
ところが、保温モードを実行しつつ排気管噴射を行うと、新気の空気量不足により、再生温度が高温になり、DPFやその下流に設けられるSCR装置が溶損することが懸念される。DPF及びDOCの温度が高温になる一因は、排気管に流れ出る排気ガス量が少なく、排気ガスが排気管内で滞留している状態となり、噴射された燃料がDOCの方へ流れていかず、排気管内で発火してしまうためと考えられる。また、DPFの入口温度を検出してDPFが再生温度になるまで排気管噴射量を増加させるという制御を行う場合、排気ガスが流れないため、噴射した燃料がDOCに届く時間が長くなり、燃料の噴射に対してDPFの入口温度が上昇する応答が遅くなることから、排気管噴射量が極端に増加して、発火の要因となる。
【0010】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、DPF再生中に減速となってもDPF再生が継続できる排気ガス浄化システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明は、エンジンの排気管に設置されて粒子状物質を捕集するディーゼルパティキュレートフィルタと、前記エンジンの排気マニホールドから吸気マニホールドへ指示された排気再循環開度に応じて排気ガスを循環させる排気再循環装置と、前記排気管に設置されたタービンと前記エンジンの吸気管に設置されたコンプレッサとが一体回転されることで過給を行い、アクチュエータによって過給量が調節可能な可変ノズル式ターボチャージャと、前記ターボチャージャと前記吸気マニホールドの間に設置されて指示された吸気スロットル開度に応じて吸気量を制限する吸気スロットルと、前記ディーゼルパティキュレートフィルタの再生時に、車両の減速が行われると、前記排気再循環装置の開度及び前記吸気スロットルの開度を制御し、かつ、前記可変ノズル式ターボチャージャによる過給量を調節することで、前記排気管内の排気ガス流量を増加させる再生減速時吸排気制御部とを備えたものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明は次の如き優れた効果を発揮する。
【0013】
(1)DPF再生中に減速となってもDPF再生が継続できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の排気ガス浄化システムが適応される車両におけるエンジン、吸排気系統及び燃料噴射系統のシステム構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0016】
図1に、本発明の排気ガス浄化システムが適応される車両におけるエンジン、吸排気系統及び燃料噴射系統のシステム構成を示す。
【0017】
まず、排気系統の構成を説明すると、エンジン101の排気マニホールド102には、エンジン101の排気ガスを大気に排出するための排気管103が接続され、排気管103の最上流には、排気マニホールド102から吸気マニホールド104へ排気ガスを循環させるためのEGR配管105が設けられている。EGR配管105には、排気ガスを冷却するEGRクーラ106と、EGR量(またはEGR率)を調整するためのEGR弁107が設けられている。EGR配管105とEGRクーラ106とEGR弁107を一括してEGR装置123と呼ぶ。EGR装置123は、排気マニホールド102から吸気マニホールド104へ指示されたEGR開度に応じて排気ガスを循環させるものである。
【0018】
排気管103の下流には、高圧段ターボチャージャ108のタービン109が設けられ、さらに下流には、低圧段ターボチャージャ110のタービン111が設けられている。タービン111の下流には、排気管103を閉鎖する排気ブレーキ弁112が設けられ、さらに下流には、DPFユニット113が設けられている。DPFユニット113は、DPF再生時に排気管103に噴射された燃料の酸化を促進するDOC114とPMを捕集するDPF115とからなる。DPFユニット113の下流に排気スロットル116が設けられる場合もあり、排気スロットル116の下流にて排気管103が大気に開放されている。なお、排気管103には、図示しないがSCR(Selective Catalytic Reduction;選択還元触媒)装置を設けてもよい。
【0019】
次に、吸気系統の構成を説明すると、吸気マニホールド104には、大気からエンジン101に空気を取り込むための吸気管117が接続されている。吸気管117の最上流は大気に開放されており、その下流に塵埃等の異物を除去するエアクリーナ118が設けられている。エアクリーナ118の下流には、低圧段ターボチャージャ110のコンプレッサ119が設けられ、さらに下流には、高圧段ターボチャージャ108のコンプレッサ120が設けられている。コンプレッサ120の下流には、低圧段ターボチャージャ110と高圧段ターボチャージャ108で過給された吸気を冷却するインタークーラ121が設けられ、さらに下流には、指示された吸気スロットル開度に応じて吸気量を制限する吸気スロットル122が設けられている。吸気スロットル122の下流で、吸気管117が吸気マニホールド104に接続されている。
【0020】
次に、燃料噴射系統の構成を説明すると、エンジン101の一部を破断して示したシリンダ131内をピストンヘッド132がストロークするように構成されており、シリンダ131には、燃料を噴射するためのインジェクタ133が取り付けられ、ピストンヘッド132の上死点位置より上部に、インジェクタ133の噴射口が配置されている。図は簡略に示したが、エンジン101は、複数個のシリンダ131を有し、各シリンダ131にそれぞれインジェクタ133が設けられる。各インジェクタ133は、コモンレール134から高圧の燃料を供給される。インジェクタ133は、詳しくは図示しないがコイルの電磁力で駆動される弁体を有し、コイルに通電するパルス電流の時間幅(通電時間)に応じて噴射口が開放されるものである。
【0021】
コモンレール134には、高圧ポンプ135から高圧(コモンレール燃圧)の燃料を供給する高圧燃料管136が接続される。高圧ポンプ135には、フィードポンプ137からコモンレール燃圧より低く大気圧より高い中間圧(排気管噴射燃圧)の燃料を供給する中間圧燃料管138が接続される。フィードポンプ137は、大気圧の燃料タンク139から低圧燃料管140を介して燃料を取り込むようになっている。フィードポンプ137は、図示しないクランクシャフトに連結されており、エンジン101に随伴して回転されエンジン回転数に応じた送り出し力で燃料を送り出すことにより、エンジン回転数に応じた排気管噴射燃圧の燃料を中間圧燃料管138に供給することができる。
【0022】
本発明では、低圧段ターボチャージャ110のタービン111の下流で排気ブレーキ弁112より上流に、排気管103内に燃料を噴射するための排気管インジェクタ141が設けられている。排気管インジェクタ141には、中間圧燃料管138を介してフィードポンプ137からの燃料が供給されるようになっている。
【0023】
高圧ポンプ135、コモンレール134、インジェクタ133のそれぞれには、燃料タンク139へ余剰の燃料を回収する回収燃料管142が接続されている。
【0025】
エンジン101には、冷却水温を検出する水温センサ151、図示しないクランクシャフト上の指標をクランク角の基準位置として検出するクランク角センサ152、エンジンオイルの残量を検出するオイルレベルセンサ153等が設けられる。排気マニホールド102には、エンジン排気温度センサ154が設けられる。吸気マニホールド104には、ブースト圧センサ155が設けられる。
【0026】
DPFユニット113には、DOC114の入口における排気ガス温度を検出するDOC入口排気ガス温度センサ156と、DPF115の入口における排気ガス温度を検出するDPF入口排気ガス温度センサ157と、DPF115の入口と出口間の排気ガスの圧力差である差圧を検出する差圧センサ158が設けられる。DPF115にPMが蓄積すると、その蓄積量の増加に伴って差圧が大きくなるので、差圧に基づいてDPF再生時期を判定することができる。DPF入口排気ガス温度センサ157が検出するDPF入口排気ガス温度により、DPF再生時等におけるDPF115の温度を確認することができる。
【0027】
中間圧燃料管138には、排気管インジェクタ141に加わる燃料圧力である排気管噴射燃圧を検出する排気管噴射燃圧センサ159が設けられる。高圧ポンプ135の入口には、燃料の温度を検出する燃料温度センサ160が設けられる。コモンレール134には、各シリンダ131のインジェクタ133に加わる燃料圧力であるコモンレール燃圧を検出するコモンレール燃圧センサ161が設けられる。吸気管117のエアクリーナ118の下流には、吸気管117に吸い込まれた空気の流量を検出する空気流量センサ(Mass Airflow sensor;MAFセンサ)162が設けられる。
【0028】
高圧段ターボチャージャ108には、タービン109とコンプレッサ120を連結するシャフトの回転数を検出する高圧段ターボ回転数センサ163が設けられる。
【0029】
図示説明した以外にも、エンジン101、吸排気系統及び燃料噴射系統には、従来公知のあらゆるセンサが設けられているものとする。
【0031】
高圧段ターボチャージャ108は、可変ノズル式ターボチャージャ(Variable Nozzle Turbocharger;VNT。可変容量ターボVGT、可変翼ターボVGSとも言う)であり、排気管103に設置されたタービン109と吸気管117に設置されたコンプレッサ120とがシャフトで連結されて一体回転されることで過給を行うが、このときアクチュエータによって過給量が調節可能である。すなわち、タービン109の上流にタービン109の開口面積を調節するノズルアクチュエータ164が設けられる。ターボコントローラ165は、高圧段ターボ回転数センサ163が検出するシャフトの回転数を参照しつつ、ノズルアクチュエータ164を駆動することにより、過給量または過給圧を制御するものである。
【0032】
エンジン101への燃料噴射を含む車両の各部を制御する手段は、電子制御装置(Electronical Control Unit;ECU)171にプログラムとして組み込まれている。ECU171は、エンジン状態を表すエンジンパラメータとして、エンジン回転数、アクセル開度、負荷トルク、空気量などを常時検出して燃料噴射制御等の制御を行うようになっている。ECU171は、エンジン101の推進力を得るべく、各シリンダ131の1燃焼サイクル内に、適宜なクランク角でインジェクタ133から複数回の燃料噴射を行うマルチ噴射制御を行うようになっている。このマルチ噴射制御は、排気ガス温度を高めるためにも利用される。
【0033】
ECU171には、排気管噴射を制御することでDPF再生を行う排気管噴射再生制御部172と、排気管噴射によるDPF再生時に、エンジンブレーキによる車両の減速が行われると、EGR装置123の開度を全閉とし、かつ、吸気スロットル122の開度を全開し、かつ、高圧段ターボチャージャ108による過給量を増加させることで、排気管103内の排気ガス流量を増加させる再生減速時吸排気制御部173とが設けられている。
【0034】
ECU171では、車両の走行距離が所定距離に達するごとに、DPF再生を行うようになっており、かつ、差圧センサ158が検出する差圧が所定値以上になったときDPF再生を行うようになっている。
【0035】
以下、本発明の排気ガス浄化システムの動作を説明する。
【0036】
ECU171では、車両の走行距離が所定距離に達するか、または差圧センサ158が検出する差圧が所定値以上になるとDPF再生を開始する。
【0037】
具体的には、ECU171は、DOC入口排気ガス温度センサ156が検出するDOC114の入口における排気ガス温度がDOC114の活性化温度よりも低いときは、マルチ噴射制御における燃料噴射量を多くすることで排気ガス温度をDOC114の活性化温度まで高める。
【0038】
DOC入口排気ガス温度センサ156が検出する排気ガス温度がDOC114の活性化温度に達すると、排気管噴射再生制御部172は、排気管噴射を制御する。すなわち、DPF入口排気ガス温度センサ157が検出するDPF115の入口における排気ガス温度がPMの焼却温度よりも低いときは、排気管インジェクタ141からの燃料噴射量を多くし、DPF115の入口における排気ガス温度がPMの焼却温度より十分に高ければ排気管インジェクタ141からの燃料噴射量を少なくする。これにより、DPF115の温度がPMの焼却温度に保たれ、DPF115が再生される。
【0039】
ここで、アクセルペダルが開放され、エンジンブレーキが作動したとする。再生減速時吸排気制御部173は、排気管噴射によるDPF再生時に、エンジンブレーキによる車両の減速が行われたことから、EGR装置123の開度を全閉とし、かつ、吸気スロットル122の開度を全開し、かつ、高圧段ターボチャージャ108による過給量をそれまでよりも増加させることで、排気管103内の排気ガス流量を増加させる。すなわち、EGR装置123においてEGR弁107が全閉されたことで、排気マニホールド102から吸気マニホールド104に再循環する排気ガスがなくなり、エンジン101の排気ガスは全て排気管103を通って下流に流れる。また、吸気スロットル122の開度が全開されたことにより、高圧段ターボチャージャ108のコンプレッサ120からの過給された新気が全てエンジン101に供給される。さらに、高圧段ターボチャージャ108による過給量がそれまでよりも増加されたことで、エンジン101に供給される新気はいっそう多くなる。これにより、排気管103内の排気ガス流量がそれまでよりもDPF再生を考慮しながらも、増加することが可能になる。
【0040】
本発明者らは、排気管103内の排気ガスを滞留させると、排気管インジェクタ141からの燃料が排気管103内で発火してしまい、DPF115及びDOC114の温度が高温になることを究明したが、排気ガス流量を高めると燃料が排気管103内で発火しないことも確認した。したがって、前述した再生減速時吸排気制御部173の制御によって排気管103内の排気ガス流量が増加すると、排気管インジェクタ141からの燃料が排気管103内で発火することが防止される。よって、排気管噴射の継続が可能となる。
【0041】
このように、本発明では、排気管噴射によるDPF再生時に、エンジンブレーキによる車両の減速が行われたとき、基本的には排気管103内の排気ガス流量を増加させる。このとき、エンジンブレーキ中はエンジン101から排出される排気ガスの温度が低いため、排気ガス流量を増加させるとDOC114の温度がそれだけ低下しやすい。そこで、高圧段ターボチャージャ108による過給量を増加させすぎないよう、過給量を所定値に制御することで、DOC114の温度が早く低下するのを防止する。
【0042】
エンジンブレーキが長く継続されると、結局は、排気ガスによってDOC114が冷却されて活性化温度未満となる。このときは、白煙防止のため、排気管噴射を停止し、既に述べた保温モードに移行する。このように、本発明では、DOC114の温度が活性化温度を維持している期間のみ排気管噴射を続ける。例えば、エンジン101を全負荷運転して車両が走行していた後、アクセルペダルが開放されてエンジンブレーキが作動した場合、エンジンブレーキ作動開始からしばらくの間(車種によって異なるが、例えば、30秒間程度)はDOC114の温度が活性化温度を維持することが分かっている。このようにDOC114の温度が活性化温度である間は、排気管噴射を継続できる。なお、全負荷運転とは、アクセル開度が大きく、エンジン回転数が高く、出力トルクが大きい状態での運転を言う。
【0043】
したがって、例えば、車両が高速道路を加速走行中、登坂中などに排気管噴射によるDPF再生が開始され、その状態で下り坂にさしかかって、あるいは前車との車間が詰まって、アクセルペダルの開放によるエンジンブレーキが開始された場合に、DPF再生が継続されることになる。
【0044】
以上説明したように、本発明の排気ガス浄化システムによれば、排気管噴射によるDPF再生時に、エンジンブレーキによる車両の減速が行われると、EGR装置123の開度を全閉とし、かつ、吸気スロットル122の開度を全開し、かつ、高圧段ターボチャージャ108による過給量を増加させることで、排気管103内の排気ガス流量を増加させるようにしたので、燃料が排気管103内で発火することが防止され、DPF再生が継続できる。
【0045】
なお、本実施形態では、エンジンブレーキのみの作動時について説明したが、フットブレーキ操作時においてもアクセルペダルが開放となるので、本発明は適用できる。しかし、排気ブレーキ使用時は、排気管インジェクタ141とDPFユニット113との間を排気ブレーキ弁112が遮断してしまい、排気圧力が過大になるので、排気管噴射は行わない。
【符号の説明】
【0046】
101 エンジン
102 排気マニホールド
103 排気管
104 吸気マニホールド
108 高圧段ターボチャージャ(可変ノズル式ターボチャージャ)
115 ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)
123 排気再循環装置(EGR装置)
141 排気管インジェクタ
171 ECU
172 排気管噴射再生制御部
173 再生減速時吸排気制御部