特許第5703786号(P5703786)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5703786-転がり軸受の組立方法 図000002
  • 特許5703786-転がり軸受の組立方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5703786
(24)【登録日】2015年3月6日
(45)【発行日】2015年4月22日
(54)【発明の名称】転がり軸受の組立方法
(51)【国際特許分類】
   F16C 43/08 20060101AFI20150402BHJP
【FI】
   F16C43/08
【請求項の数】1
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2011-15907(P2011-15907)
(22)【出願日】2011年1月28日
(65)【公開番号】特開2012-154458(P2012-154458A)
(43)【公開日】2012年8月16日
【審査請求日】2013年12月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100079038
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 彰
(74)【代理人】
【識別番号】100060874
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 瑛之助
(74)【代理人】
【識別番号】100106091
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 直都
(72)【発明者】
【氏名】村上 正之
【審査官】 広瀬 功次
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第03783482(US,A)
【文献】 特開2006−177507(JP,A)
【文献】 特開2006−336752(JP,A)
【文献】 実開昭59−037426(JP,U)
【文献】 米国特許第03428378(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 43/00−43/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪と、内輪と、両輪間に配置された複数の転動体とを備えている転がり軸受を組み立てる方法であって、
外輪および内輪を同心に配置した状態で、外輪のみを両側から挟んで略長円形に弾性変形させることで、内輪と外輪との間に、挟持されている部分が両端部となり、この両端部が他の部分よりも狭くなっている2つの略円弧状の転動体挿入空間を対称状に形成し、これら転動体挿入空間に所要数の転動体を挿入することを特徴とする転がり軸受の組立方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、転がり軸受の組立方法に関し、特に、転動体の数を通常よりも多く配置するのに適した転がり軸受の組立方法に関する。
【背景技術】
【0002】
転がり軸受の組立方法として、図2に示すように、外輪(1)に対して内輪(2)を偏心配置することで、外輪(1)と内輪(2)との間に転動体挿入空間(21)を形成し、この転動体挿入空間(21)に所要数の転動体(3)を挿入した後、内輪(2)を外輪(1)に対して同心位置に移動させるものが知られている。
【0003】
特許文献1には、図2に示した状態で、外輪(1)を弾性変形させることで、転動体(3)の数を通常よりも(外輪(1)を弾性変形させない場合に比べて、)多く配置できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−68985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の転がり軸受の組立方法では、内輪と外輪とを互いに偏心配置した状態で転動体を挿入するので、その後、内輪と外輪とを同心配置とする必要があり、この同心配置工程に手間がかかるという問題があった。
【0006】
この発明の目的は、簡素化された工程によって、転動体の数を通常よりも多く配置することを可能とした転がり軸受の組立方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明による転がり軸受の組立方法は、外輪と、内輪と、両輪間に配置された複数の転動体とを備えている転がり軸受を組み立てる方法であって、外輪および内輪を同心に配置した状態で、外輪のみを両側から挟んで略長円形に弾性変形させることで、内輪と外輪との間に、挟持されている部分が両端部となり、この両端部が他の部分よりも狭くなっている2つの略円弧状の転動体挿入空間を対称状に形成し、これら転動体挿入空間に所要数の転動体を挿入することを特徴とするものである。
【0008】
転がり軸受の組立方法は、転動体の挿入工程、転動体の等間隔配列工程および保持器挿入工程などからなり、この発明の転がり軸受の組立方法は、転動体の挿入工程に特徴がある。この転動体の挿入工程は、従来、内輪と外輪とが偏心配置された状態で行われていたが、この発明においては、内輪と外輪とが同心配置された状態で転動体が挿入される。この際、外輪は、両側から挟持治具に挟まれることで、略長円形に弾性変形させられる。この外輪の弾性変形によって、内輪と外輪との間に2つの略円弧状(挟持されている部分が両端部となり、この両端部が他の部分よりも狭くなっている円弧状)の転動体挿入空間が対称状に形成され(従来の転動体挿入空間は、「1つの大きな略円弧状」とされていた)、これらの転動体挿入空間に転動体を挿入することで、内輪と外輪とが偏心配置された状態で外輪を弾性変形させずに転動体を挿入する場合に比べて、挿入する転動体の数を多く(例えば、玉軸受において、20個の玉の挿入が限度であったものが23個に、22個が限度であったものが27個に)することができる。2つの略円弧状転動体挿入空間には、同数の転動体を挿入してもよく、いずれか一方を1つ少なくするようにしてもよい。
【0009】
転動体の挿入工程の後、串玉割方式や磁気玉割方式などの適宜な方法で転動体を等間隔に配列して、保持器を挿入することで転がり軸受の組立てが完了する。
【0010】
転動体挿入工程後、従来のものでは、外輪および内輪を同心となるように位置合わせする工程が必要であったが、この発明による転がり軸受の組立方法では、転動体挿入工程時において、外輪および内輪を同心に配置しているので、この位置合わせが不要(または容易に行うことが可能)となる。したがって、簡素化された工程によって、転動体の数を通常よりも多く配置することができる。これにより、軸受の定格負荷を高めることができ、軸受の寿命を長くすることができる。
【0011】
内輪は、例えば、内輪が嵌められる円柱状凸部を有する保持具に保持され、この内輪に対して、外輪が同心となるように配置される。外輪は、これを両側から挟持する挟持治具に挟まれることで、弾性変形させられる。外輪の変形量は、例えば、外輪の片側の変形量が転動体径の10%〜80%とされる。
【0012】
なお、この発明による転がり軸受の組立方法は、従来と同様の工程によって内外輪間に所定数より少ない数の転動体を挿入した後に、この組立方法を付加することで不足分を追加で挿入するという形態とすることもできる。
【発明の効果】
【0013】
この発明の転がり軸受の組立方法によると、外輪および内輪を同心に配置した状態で、外輪を両側から挟んで弾性変形させることで、内輪と外輪との間に転動体挿入空間を対称状に2つ形成し、これら2つの転動体挿入空間に所要数の転動体を挿入することにより、内輪と外輪とが偏心配置された状態で外輪を弾性変形させずに転動体を挿入する場合に比べて、挿入する転動体の数を多くすることができる。すなわち、定格負荷を高めて、軸受寿命を長くすることができる。しかも、偏心配置された状態を同心位置に戻す工程が不要であるので、転動体の挿入工程を簡素化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、この発明による転がり軸受の組立方法を模式的に示す図である。
図2図2は、従来の転がり軸受の組立方法を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
この発明の実施の形態を、以下図面を参照して説明する。
【0016】
図1は、この発明の転がり軸受の組立方法の1実施形態を示している。
【0017】
転がり軸受は、よく知られているように、外輪(1)、内輪(2)、両輪(1)(2)間に配置された複数の転動体(3)およびこれらの転動体(3)を保持する保持器(図示略)とよりなる。
【0018】
この発明の転がり軸受の組立方法は、転動体(3)の挿入工程に特徴があり、この転動体挿入工程は、まず、図1(a)に示すように、位置決めされた内輪(2)に対し、同心となるように外輪(1)を配置し、次いで、図1(b)に示すように、外輪(1)を径方向の両側から挟んで矢印の方向に力を作用させ、外輪(1)を略長円形に弾性変形させる。これにより、内輪(2)と外輪(1)との間に2つの略円弧状転動体挿入空間(11)(12)が形成される。
【0019】
略円弧状転動体挿入空間(11)(12)は、矢印で示されている挟持部近傍(11a)(12a)を両端部とするもので、この両端部(11a)(12a)が他の部分よりも狭くなっており、その分、中央部分(11b)(12b)が他の部分よりも少し広くなっている。これにより、転動体挿入空間(11)(12)の転動体挿入可能部分の長さを長くすることができる。
【0020】
したがって、この後、図1(c)に示すように、これら2つの転動体挿入空間(11)(12)に所要数の転動体(3)を挿入すると、外輪(1)に対して内輪(2)を偏心配置することで形成された転動体挿入空間(21)に(外輪(1)を弾性変形させずに)転動体(3)を挿入する場合(図2参照)に比べて、挿入できる転動体(3)の数を多くすることができる。
【0021】
ここで、図2に示した状態で、外輪(1)を弾性変形させて転動体(3)を挿入することによっても、挿入できる転動体(3)の数を多くすることができるが、外輪(1)と内輪(2)とが偏心配置されていることから、これらを同心位置に移動させる工程が必要となり、その手間が大きいものとなる。
【0022】
この発明によると、図1(c)に示す状態で、外輪(1)に作用させていた力を解除すると、図1(d)に示すように、外輪(1)は、内輪(2)と同心位置に戻り、外輪(1)または内輪(2)を同心位置に相対移動させる工程が不要となる。
【0023】
この後、串玉割(円環状の基部とその基部から軸方向に延設された順次長さの異なる複数の腕部を有する串状の治具を用いて複数の玉を等間隔に配列する方法)などの適宜な方法で、図1(e)に示すように、転動体(3)を等間隔に配列し、さらに、保持器を挿入することで、転がり軸受が完成する。
【0024】
なお、一旦、図2に示す偏心配置として、所要数の転動体(3)を挿入した後、外輪(1)と内輪(2)とを同心配置し、さらに、外輪(1)を弾性変形させると、2つの略円弧状転動体挿入空間(11)(12)が形成され、これらの転動体挿入空間(11)(12)には、新たに転動体(3)を追加挿入するスペースが生じる。したがって、図1(c)に示す工程を従来の工程の途中に追加することによっても、転動体(3)を多く挿入することができる。
【0025】
2つの転動体挿入空間(11)(12)には、同数の転動体(3)を挿入してもよく、2つの転動体挿入空間(11)(12)のうちのいずれか一方の転動体(3)が1つ少なくなるように挿入してもよい。すなわち、2つの転動体挿入空間(11)(12)は、対称状に形成されるが、全く同じ大きさとする必要はなく、左右で若干大きさが違うようにしてもよい。
【0026】
この発明の転がり軸受の組立方法を使用して、玉軸受に玉(3)を挿入する場合、内径φ19.4で、外径φ24.8の玉軸受で、玉径がφ2.0、P.C.D.が22.1mmの場合、外輪(1)を変形させない従来方法では、玉数20 個が限度であるのに対し、玉数を23個とすることができる。このときの外輪(1)の変形量は、1.0mmである。また、内径がφ34で、外径がφ43の玉軸受で、玉径がφ3.0、P.C.D.が38.5mmの場合、外輪(1)を変形させない従来方法では、玉数22個が限度であるのに対し、玉数を27個とすることができる。このときの外輪(1)の変形量は、1.2mmである。
【符号の説明】
【0027】
(1) 外輪
(2) 内輪
(3) 転動体
(11)(12) 転動体挿入空間
図1
図2