特許第5703974号(P5703974)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5703974
(24)【登録日】2015年3月6日
(45)【発行日】2015年4月22日
(54)【発明の名称】表刷り用グラビアインキ組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/102 20140101AFI20150402BHJP
   C09D 11/106 20140101ALI20150402BHJP
   C09D 11/03 20140101ALI20150402BHJP
【FI】
   C09D11/102
   C09D11/106
   C09D11/03
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-125163(P2011-125163)
(22)【出願日】2011年6月3日
(65)【公開番号】特開2012-12597(P2012-12597A)
(43)【公開日】2012年1月19日
【審査請求日】2014年4月7日
(31)【優先権主張番号】特願2010-128395(P2010-128395)
(32)【優先日】2010年6月4日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】渡部 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】山崎 裕
(72)【発明者】
【氏名】松下 達也
【審査官】 牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−098778(JP,A)
【文献】 特開2002−294128(JP,A)
【文献】 特開2005−290085(JP,A)
【文献】 特開2006−299136(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/123124(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00〜11/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子ジオールとジイソシアネートとを反応させてなるポリウレタン樹脂(A)、
塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体(B)、
酸価10〜40mgKOH/gであるロジン変性マレイン酸もしくはロジンエステル(C)
及び/または
チタンキレート(D)
を含有するインキ組成物において、
高分子ジオールが、
側鎖を有するポリエーテルジオール25〜100モル%
であり、
高分子ジオールとジイソシアネートとを反応させてなるポリウレタン樹脂(A)が、
計算式(1)で表されるモル比1.5〜3.0
であり、さらに、
高分子ジオールとジイソシアネートとを反応させてなるポリウレタン樹脂(A)と塩
化ビニル/酢酸ビニル共重合体(B)とが、
計算式(2)で表される固形分重量比1.0〜6.0
であることを特徴とする表刷り用インキ組成物。
【数1】
計算式(2)
【数2】
【請求項2】
ロジン変性マレイン酸またはロジンエステル(C)が
インキ全量中に、固形分重量比0.5〜5.0重量%
含有されることを特徴とする請求項1記載の表刷り用インキ組成物。
【請求項3】
チタンキレート(D)が、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体(B)の水酸基に対して0.1〜1.0当量であることを特徴する請求項1または2記載の表刷り用インキ組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表刷り用グラビアインキ組成物に関し、より詳しくは、インキの長期保存が
可能であり、長期高温・多湿下での保存においてフィルム中に含まれる酸化防止剤の変色
の低減、テーブルクロスなどに用いられている軟質塩化ビニルシートと印刷物が接着しな
いための耐塩ビブロッキング性や耐熱性、追随性が良好でさらに環境衛生にも優れた表刷
り用グラビア印刷インキ組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、商品の包装物には装飾や表面保護のために印刷が施されているのが一般的である
。また、印刷物の意匠性、美粧性、高級感などの印刷品質のでき如何によって、消費者の
購入意欲をも左右している。
【0003】
一方、食品メーカーやコンバーターなどからは包装物の多様化、包装技術の高度化に伴
い、印刷インキに対して高度の品質、性能が要求されるようになってきている。
【0004】
さらに、プラスティックフィルムへの表刷り印刷の分野において、包装物の外面に印刷
される表刷り印刷インキの性能としては、印刷の品質はもちろんのこと、フィルム基材に
対する接着性、印刷して巻き取られた時にインキがフィルム基材の裏面に接着しないため
の耐ブロッキング性、印刷物同士が接着しないための耐ブロッキング性、テーブルクロス
などに用いられている軟質塩化ビニルシートと印刷物が接着しないための耐塩ビブロッキ
ング性、印刷面が傷つかないための耐摩擦性、油脂に対する耐油性、製袋時の耐熱性など
といった各種耐性が要求されている。
【0005】
さらに、最近では、環境問題に取り組むメーカーが多くなり、環境衛生に優れた材料を
用いて製品を構成する動きがある。例えば、印刷インキでは使用する有機溶剤において、
トルエンを選択しないような研究がなされている。
【0006】
そこで、特開平9−296143号公報などではトルエンを含有しないポリアミド樹脂
とセルロース誘導体をバインダーとするインキが開示されているが、ポリアミド樹脂を主
なバインダーするインキは高速での印刷には適さず、印刷機の反転ロールにインキが転移
し、印刷物の外観を損ねてしまう問題があった。
【0007】
一方、トルエンを含有せずに高速での印刷に適したインキとして、ポリウレタン樹脂と
ニトロセルロースをバインダーとするインキが用いられてきた。例えば、特開2002−
294128などで開示されている。
【0008】
しかしながら、ポリウレタン樹脂とニトロセルロースをバインダーとするインキは、フ
ェノール系酸化防止剤を含有するフィルムを用いた際、火薬学会誌.Vol.63,No
.3,2002で報告されているように長期間高温・多湿の状況に置かれるとニトロセル
ロースの分解が促進されNOxが発生する。発生したNOxはフェノール系酸化防止剤と
反応し、フェノール系酸化防止剤がキノン構造をとりフィルムの変色を引き起こすという
問題はよく知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−296143号公報
【特許文献2】特開昭61−37851号公報
【特許文献3】特願平7−183039号
【特許文献4】特開2002−294128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、表刷り用グラビアインキ組成物に関し、より詳しくは、インキの長期保存が
可能であり、長期高温・多湿下での保存においてフィルム中に含まれる酸化防止剤の変色
の低減、テーブルクロスなどに用いられている軟質塩化ビニルシートと印刷物が接着しな
いための耐塩ビブロッキング性や耐熱性、追随性が良好でさらに環境衛生にも優れた表刷
り用グラビア印刷インキ組成物に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の表刷り用インキ組成物は、
高分子ジオールとジイソシアネートとを反応させてなるポリウレタン樹脂(A)、
塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体(B)、
酸価10〜40mgKOH/gであるロジン変性マレイン酸もしくはロジンエステル(C)
及び/または
チタンキレート(D)
を含有するインキ組成物において、
高分子ジオールが、
側鎖を有するポリエーテルジオール25〜100モル%
であり、
高分子ジオールとジイソシアネートとを反応させてなるポリウレタン樹脂(A)が、
計算式(1)で表されるモル比1.5〜3.0
であり、さらに、
高分子ジオールとジイソシアネートとを反応させてなるポリウレタン樹脂(A)と塩
化ビニル/酢酸ビニル共重合体(B)とが、
計算式(2)で表される固形分重量比1.0〜6.0
であることを特徴とする表刷り用インキ組成物に関するものである。
計算式(1)
【数1】
計算式(2)
【数2】
【0012】
また、本発明は、ロジン変性マレイン酸またはロジンエステル(C)が
インキ全量中に、固形分重量比0.5〜5.0重量%
含有されることを特徴とする上記の表刷り用インキ組成物に関するものである。
【0013】
さらに、本発明は、チタンキレート(D)が、
塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体(B)の水酸基に対して0.1〜1.0当量
であることを特徴する上記の表刷り用インキ組成物に関するものである。
【発明の効果】
【0014】
インキの長期保存が可能であり、長期高温・多湿下での保存においてフィルム中に含ま
れる酸化防止剤の変色の低減、テーブルクロスなどに用いられている軟質塩化ビニルシー
トと印刷物が接着しないための耐塩ビブロッキング性や耐熱性、追随性が良好でさらに環
境衛生にも優れた表刷り用グラビア印刷インキ組成物を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
高分子ジオールとジイソシアネートの反応からなるポリウレタン樹脂(A)について説
明する。
本発明で利用可能なポリウレタン樹脂は、従来からの既知の方法で製造でき、製造方法
は特に制限されるものではない。例えば、高分子ジオール化合物とジイソシアネート化合
物とをイソシアネート基が過剰となる割合で反応させ、高分子ジオールの末端にイソシア
ネート基を有するプレポリマーを調整し、次いでこれを溶媒中で鎖延長剤、反応停止剤と
を反応させる二段法があげられる。二段法は均一な重合体溶液が得られやすい点で好まし
い。溶媒としては、エステル系溶剤、ケトン系溶剤およびアルコール系溶剤の単独または
2種以上の混合物を用いることができる。
【0016】
ここで、利用可能な高分子ジオール化合物としては、酸化エチレン、酸化プロピレン、
テトラヒドロフランなどの重合体または共重合体などのポリエーテルポリオール類;エチ
レングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタ
ンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ペンタジオール、メチ
ルペンタジオール、ヘキサジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、メチルノナン
ジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコールな
どの低分子グリコール類と、アジピン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレ
イン酸、フマル酸、こはく酸、しゅう酸、マロン酸、グルタル酸、ピメリン酸、アゼライ
ン酸、セバシン酸、ダイマー酸などの二塩基酸もしくはこれらの無水物とを脱水縮合せし
めて得られるポリエステルポリオール類;その他ポリカーボネートジオール類、ポリブタ
ジエングリコール類、ビスフェノールA酸化エチレンまたは酸化プロピレンを付加して得
られるグリコール類;ダイマージオール類などの各種公知のポリオールが挙げることがで
きる。これらのポリオールは、単独で用いても、2種以上併用しても良い。
【0017】
本発明においては側鎖を有するポリエーテルジオールを用いることが必要である。側鎖
を有するポリエーテルジオールとしてはPPG(ポリプロピレングリコール)やPTMG
−L(ポリオキシテトラメチレングリコール、三洋化成(株)社製)やPTG-L(ポリ
テトラメチレンエーテルグリコール、保土谷化学工業(株)社製)がある。
【0018】
また、側鎖を有するポリエーテルジオールは高分子ジオール中25〜100モル%用い
る。
【0019】
ポリエーテルジオールが高分子ジオール中25モル%以下の場合、耐塩ビブロッキング
性が低下する傾向にある。
【0020】
高分子ジオールの数平均分子量は、得られるポリウレタン樹脂の溶解性、乾燥性、耐ブ
ロッキング性等を考慮して適宜決定されるが、通常は500〜6000が好ましい。分子
量が500未満になると溶解性の低下に伴い印刷適性が劣る傾向にあり、また6000を
超えると乾燥性および耐ブロッキング性が低下する。
【0021】
次に、利用可能な有機ジイソシアネート化合物としては,芳香族、脂肪族または脂環族
の各種公知のジイソシアネート類が挙げることができる。たとえば、1,5ーナフチレン
ジイソシアネート、4,4’ージフェニルメタンジイソシアネート、4,4’ージフェニ
ルジメチルメタンジイソシアネート、4,4’ージベンジルイソシアネート、ジアルキル
ジフェニルメタンジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート
、1,3ーフェニレンジイソシアネート、1,4ーフェニレンジイソシアネート、トリレ
ンジイソシアネート、ブタンー1,4ージイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネ
ート、イソプロピレンジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、2,2,4ートリ
メチルヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサンー1,4ージイソシアネート、
キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、
ジシクロヘキシルメタンー4、4’ージイソシアネート、1,3ービス(イソシアネート
メチル)シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、ノルボルナンジイソ
シアネート、mーテトラメチルキシリレンジイソシアネートやダイマー酸のカルボキシル
基をイソシアネート基に転化したダイマージイソシアネート等である。
【0022】
次に、高分子ジオール化合物とジイソシアネートとを反応させる際のポリウレタン樹脂
の製造方法は特に限定されるものではない。たとえば、高分子ジオール化合物とジイソシ
アネートとを反応させる際の条件はジイソシアネートを過剰にする他に特に限定はないが
、イソシアネート基/水酸基の等量比が1.5/1〜3.0/1の範囲内にあることが望
ましい。イソシアネート基/水酸基の等量比が1.5/1以下であると得られたポリウレ
タン樹脂が脆弱なため、印刷インキに使用した際に塩ビブロッキングが発生し易くなる。
一方、イソシアネート基/水酸基の等量比が3.0/1より高いと反応に用いられなかっ
た遊離イソシアネート残基が多くなり、インキの経時での安定性が悪い。
【0023】
上記のポリウレタン化反応は、溶剤中で行ってもよいし、無溶剤雰囲気下で行ってもよ
い。溶剤を使用する場合は、後に示す溶剤を反応時の温度および粘度、副反応の制御の面
から適宜選択して用いるとよい。また無溶剤雰囲気下でポリウレタン化反応をする場合は
、均一なポリウレタン樹脂を得るために、攪拌が十分可能な程度に温度を上げて粘度を下
げて行うことが望ましい。ウレタン化反応は10分〜5時間行うのが望ましく、反応の終
点は粘度測定、IR測定によるNCOピーク、滴定によるNCO%測定等により判断され
る。
【0024】
更に、高分子ジオール化合物とジイソシアネートを反応させて末端イソシアネート基を
有するプレポリマーを合成した後、鎖延長剤および反応停止剤を用いてポリウレタン樹脂
中に尿素結合を導入し、ポリウレタン・ウレア樹脂とすることで、塗膜物性は更に向上す
る。
【0025】
本発明には、ポリウレタン樹脂とはウレア結合を有するポリウレタン・ウレア樹脂も含
めるものとする。
【0026】
次に、尿素結合を導入する際に利用可能な鎖延長剤としては、各種公知のアミン類を使
用することが出来る。たとえばエチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレン
ジアミン、トリエチレンテトラミン、ジエチレントリアミン、イソホロンジアミン、ジシ
クロヘキシルメタン−4,4’−ジアミンなどが挙げられる。その他、2−ヒドロキシエ
チルエチレンジアミン、2−ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、ジ−2−ヒドロキシ
エチルエチレンジアミン、ジ−2−ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、2−ヒドロキ
シプロピルエチレンジアミン、ジ−2−ヒドロキシプロピルエチレンジアミン等の分子内
に水酸基を有するジアミン類およびダイマー酸のカルボキシル基をアミノ基に転化したダ
イマージアミン等もその代表例として挙げられる。
【0027】
反応停止剤としては、例えば、ジ―n―ブチルアミン等のジアルキルアミン類やエタノ
ール, イソプロピルアルコール等のアルコール類が挙げられる。
【0028】
なお、ポリウレタン樹脂中に尿素結合を導入する製造方法も、特に限定されるものでは
ないが、プレポリマーの両末端に有する遊離のイソシアネート基の数を1とした場合の鎖
延長剤および反応停止剤中のアミノ基の合計数量が0.5〜1.3の範囲内であることが
好ましい。アミノ基の合計数量が0.5未満の場合、乾燥性、耐ブロッキング性、塗膜強
度が充分でなく、1.3より過剰になると、鎖延長剤および反応停止剤が未反応のまま残
存し、印刷物に臭気が残りやすい。
【0029】
本発明に用いられる塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体(B)は、塩化ビニルモノマーと
酢酸ビニルモノマーを共重合して得られる。また、水酸基を有する塩化ビニル/酢酸ビニ
ル共重合体は、共重合において更にビニルアルコールを用いたり、酢酸ビニルの一部をケ
ン化することができる。水酸基を有する塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体は、塩化ビニル
、酢酸ビニルおよびビニルアルコールのモノマー比率により樹脂被膜の性質や樹脂溶解挙
動が決定される。即ち、塩化ビニルは樹脂被膜の強靭さや硬さを付与し、酢酸ビニルは接
着性や柔軟性を付与し、ビニルアルコールは極性溶剤への良好な溶解性を付与する。本発
明においては、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体(B)は水酸基を持つことが好ましい。
【0030】
本発明においては、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体(B)の水酸基価は60〜170
mgKOH/gが好ましい。また、本発明においてはポリウレタン樹脂(A)と塩化ビニ
ル/酢酸ビニル共重合体(B)の固形分比が1.0〜6.0であることが必要である。ポ
リウレタン樹脂(A)と塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体(B)の固形分比が1.0以下
の場合、追随性が低下し、6.0以上の場合、耐塩ビブロッキング性が低下する傾向にあ
る。
【0031】
ロジン変性マレイン酸(C1)は、公知の方法により上記ロジン類にマレイン酸を反応
させたものをいう。この場合、反応温度は150〜300℃程度、反応温度時間は1〜2
4時間程度である。マレイン酸の仕込量は、ロジン類100重量部に対してマレイン酸2
0重量部程度以下である。
【0032】
ロジンエステル(C2)としては水素化ロジンとアルコールをエステル化した後に得ら
れたエステル化物を脱水素化反応させる方法、あるいは水素化ロジンとアルコールを脱水
素触媒の存在化にエステル化と脱水素化反応を進行させることにより得られるものである
【0033】
水素化ロジンはアビエチン酸、パラストリン酸、ネオアビエチン酸、ピマール酸、イソ
ピマール酸、デヒドロアビエチン酸等の樹脂酸を主成分とするガムロジン、ウッドロジン
、トール油ロジンを部分的にまたは完全に水素化反応したのち、精製して得られるもので
ある。
【0034】
またアルコール成分としては、n−オクチルアルコール、2−エチルヘキシルアルコー
ル、デシルアルコール、ラウリルアルコールのような1価アルコール;エチレングリコー
ル、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール等の2価ア
ルコール;グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、シクロヘキサ
ンジメタノール等の3価アルコール;ペンタエリスリトール、ジグリセリン等の4価アル
コールが挙げられる。反応に際しては、必ずしもエステル化触媒を必要としないが、反応
時間の短縮のために酢酸、パラトルエンスルホン酸等の酸触媒、水酸化カルシウム等のア
ルカリ金属の水酸化物、酸化カルシウム、酸化マグネシウム等の金属酸化物等を使用する
こともできる。
【0035】
また本発明において使用するロジンエステルの組成は、アビエチン酸1%未満、テトラ
ヒドロアビエチン酸10〜50重量%、ジヒドロアビエチン酸10〜40重量%、デヒド
ロアビエチン酸20〜60重量%が好ましい。
【0036】
ロジンエステル及びロジン変性マレイン酸の酸価は10〜40mgKOH/gであるこ
とが好ましい。10mgKOHより小さい場合、耐塩ビブロッキング性が悪くなり、40
mgKOH/gよりも大きくなってしまうと、結着樹脂との相溶性が悪くなってしまい好
ましくない。また、添加量についてはインキ組成物中に固形分比で、0.5〜5.0%で
あることが好ましい。0.5%以下の場合、耐塩ビブロッキング性への効果が低下し、5
.0%以上の場合は、インキ中に相溶しなくなり分離する。
【0037】
チタンキレート(D)としては、インキにおける凝集力向上を達成するために用いられ
る成分であり、1分子中に、Ti−O−C型結合をもつものであり、具体的には、チタン
アルコキシド、チタンアシレートなどのチタンキレートなどが挙げられる。
【0038】
チタンキレート(D)の代表例としては、テトライソプロピルチタネート、テトラノル
マルブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラ(2−エチルヘキシル)チタ
ネート、テトラメチルチタネート、テトラステアリルチタネートなどのチタンアルコキシ
ド、トリエタノールアミンチタネート、チタニウムアセチルアセテート、チタニウムエチ
ルアセトアセテート、チタニウムラクテート、オクチレングリコールチタネート、チタン
テトラアセチルアセトナートなどのチタンキレートを挙げることができる。これらのうち
キレートタイプのチタン有機化合物は、一般に架橋反応完結に加温が必要な反面、常温で
の加水分解が起り難く、安定性に優れておりインキへの使用に適しており、これらのうち
に特に分子中にアミンを有するものを好適に使用することが出来る。
【0039】
チタンキレート(D)は、1分子中に、アルコキシ基を有することによって樹脂の分子
間あるいは分子内架橋結合に寄与する。
【0040】
チタンキレート(D)の塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体(B)の水酸基に対する割合
は0.1:1〜1:1であることが好ましい。0.1当量以下の場合、耐塩ビブロッキン
グ性への効果が低下する。また、1.0当量以上の場合、インキの経時安定性が劣る。
【0041】
本発明で利用可能な顔料は、一般に印刷インキや塗料で使用できる各種の無機顔料とし
ては、酸化チタン、ベンガラ、紺青、群青、カーボンブラック、黒鉛などの有色顔料、お
よび、炭酸カルシウム、カオリン、クレー、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、タルク
等の体質顔料を挙げることができる。さらに有機顔料としては、溶性アゾ顔料、不溶性ア
ゾ顔料、アゾキレート顔料、縮合アゾ顔料、銅フタロシアニン顔料、縮合多環顔料などが
挙げることができる。これらの顔料の含有量としては、インキ組成物中に0.5〜50重
量%が適量である。
【0042】
次に、本発明のインキ組成物で利用する溶剤としては、主に、メタノール、エタノール
、n−プロパノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール系有機溶剤、アセ
トン,メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系有機溶剤、酢酸メチ
ル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチルなどのエステル系有機溶剤、n−ヘキサン、
n−ヘプタン、n−オクタンなどの脂肪族炭化水素系有機溶剤、および、シクロヘキサン
、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタンなど
の脂環族炭化水素系有機溶剤が挙げることができ、バインダー樹脂の溶解性や乾燥性など
を考慮して、混合して利用することが好ましい。これらの有機溶剤の使用量としては、通
常のインキでは30重量%以上含有される。
【0043】
さらに、本発明では、接着性や各種耐性の向上を目的として、各種ハードレジン、ワッ
クスを添加することができる。
【0044】
ここで、ハードレジンとしては、ダイマー酸系樹脂、マレイン酸系樹脂、石油樹脂、テ
ルペン樹脂、ケトン樹脂、ダンマー樹脂、コーパル樹脂、塩素化ポリプロピレン等が挙げ
られる。これらのハードレジンを利用すると、特に表面処理の行われていないプラスチッ
クフィルムに対して、接着性の向上効果が期待できる。
【0045】
また、表刷り用グラビア印刷インキでは、耐熱性、耐油性や耐摩擦性の向上を目的とし
て、架橋剤やワックス成分を含有させることができる。
一方、ワックスとしては、ポリオレフィンワックス、パラフィンワックスなどの既知の各
種ワックスが利用できる。
【0046】
さらに、顔料分散剤、レベリング剤、界面活性剤、可塑剤等の各種インキ用添加剤の添
加は任意である。
【0047】
これらの材料を利用して印刷インキを製造する方法として、まず、顔料、バインダー樹
脂、有機溶剤、および必要に応じて顔料分散剤、界面活性剤などを攪拌混合した後、各種
練肉機、例えば、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、パ
ールミル等を利用して練肉し、さらに、残りの材料を添加混合する方法がある。
【0048】
以上の材料と製造方法から得られた表刷り用インキ組成物は、グラビア印刷方式で、各
種プラスチックフィルム等の被着体に印刷することができる。具体的に、印刷可能なプラ
スチックフィルムとしては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの延伸および無延伸ポリ
オレフィン、ポリエステル、ナイロン、セロファン、ビニロンなどを挙げることができる

さらに、得られた印刷物は製袋されて、食品などの包装容器に利用される。
【実施例】
【0049】
以下,実施例でもって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに実施例に限
定されるものではない。なお、特に断りのない限り、本実施例において「部」および「%
」は「重量部」および「重量%」を表す。
【0050】
<ポリウレタン樹脂の合成>
(合成例1)
撹拌機、温度計、還流冷却器及び窒素ガス導入管を備えた四ツ口フラスコにアジピン酸
と3−メチル−1,5−ペンタンジオールから得られる数平均分子量(以下Mnという)
2000のポリエステルジオール(PMPA2000、クラレ社製)520.8部、Mn
2000のポリプロピレングリコール(PPG2000、日本油脂社製)520.8部、
イソホロンジイソシアネート266.7部、2−エチルヘキシル酸第一錫0.25部及び酢酸エチル200部を仕込み、窒素気流下に85℃で3時間反応させ、酢酸エチル366.0部を加え冷却し、末端イソシアネートプレポリマーの溶剤溶液1874.6部を得た。次いでイソホロンジアミン91.3部、ジ−n−ブチルアミン1.54部、アミノエチルエタノールアミン6.2部、酢酸エチル1200部、イソプロピルアルコール1120部を混合した物に、得られた末端イソシアネートプレポリマー1581.1部を室温で徐々に添加
し、次に50℃で1時間反応させ、固形分30%、重量平均分子量35000のポリウレ
タン樹脂(A1)を得た。
表1に示した配合で、合成例1と同様な方法でポリウレタン樹脂(A2)〜(A7)を
合成した。
【0051】
【表1】
【0052】
<塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体ワニスの調製>
塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体(ソルバインTA5R 日信化学(株)製 )25部を
、酢酸エチル75部に混合溶解させて、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体ワニス(塩酢ビ
ワニス(B1))を得た。水酸基価166.3KOHmg/g。
【0053】
<チタンキレート添加剤の調製>
テトライソプロピルチタネート(TPT 三菱ガス化学(株)製 )41部を、アセチル
アセトン59部に混合させて、チタンアセチルアセトネートとし、チタンキレート(D1
)を得た。
【0054】
<ロジン変性マレイン酸樹脂ワニスの調製>
ロジン変性マレイン酸(マルキード5 荒川化学(株)製、酸価:25mgKOH/g
)50部を酢酸エチル50部に混合溶解させて、ロジン変性マレイン酸樹脂ワニス(ロジ
ン樹脂ワニス(C1))を得た。固形分50%。その他のロジン変性マレイン酸も同様な
方法で調整した。
1)ロジン樹脂ワニス(C2):マルキード2(荒川化学(株)製、酸価:39mgK
OH/g)
【0055】
<ロジンエステル樹脂ワニスの調整>
ロジンエステル樹脂(酸価11mgKOH/g、荒川化学(株)製)50部を酢酸エチ
ル50部に混合溶解させて、ロジンエステル樹脂ワニス(ロジン樹脂ワニス(C3))を
得た。固形分50%。
更に比較例にはロジン変性フェノール樹脂タマノル803L(荒川化学(株)製、酸価
47mgKOH/g)を用いた。ロジン樹脂ワニス(C4)、固形分50%。
【0056】
<実施例1>
酸化チタン(チタニックスJR―808、テイカ(株)製)22部、ポリウレタン樹脂
(ポリウレタン樹脂(A1))20部、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体(塩酢ビワニス
(B1))17部、ロジン変性マレイン酸樹脂(ロジン樹脂(C1))5部、テトライソ
プロピルチタネート(チタンキレート(D1))1部、及びメチルエチルケトン:n−プ
ロピルアセテート:酢酸エチル:イソプロピルアルコール=40:25:45:5(重量
比)からなる混合溶剤35部をサンドミルで混練し、試験用インキ組成物(インキ1)を
調製した。
【0057】
<実施例2〜12><比較例1〜6>
表2、3に示した配合表により、実施例1と同様な方法で表刷り用インキ組成物(イン
キ2〜20)を得た。
【0058】
【表2】
【0059】
【表3】
【0060】
実施例1〜12、比較例1〜6で得られたインキ組成物、及び当該インキ組成物を用い
た印刷物について、経時安定性、耐塩ビブロッキング性、耐熱性、追随性を評価した。
尚、印刷においては、印刷インキ組成物を希釈溶剤(メチルエチルケトン:n−プロピル
アセテート:酢酸エチル:イソプロピルアルコール=40:25:45:5(重量比))
で希釈し、ZahnカップN0.3で15秒に調整し、印刷用インキとした。
次にコロナ放電処理したポリプロピレンフィルム(FOH、二村化学(株)製)にグラビ
ア校正機を利用して版深30ミクロンの腐蝕版により印刷し、1日経過させた評価サンプ
ルとした。評価方法及び評価基準は下記の通りである。評価結果を表4に示す。
【0061】
【表4】
【0062】
(経時安定性評価)
インキを40℃に1週間放置し、分離および沈殿の発生を評価した。
◎:分離及び/または沈殿が発生していない。
○:分離及び/または沈殿が僅かに発生した。
△:激しく分離及び/または沈殿が発生した。及び/またはゲル化した。
【0063】
(耐塩ビブロッキング性評価)
印刷物と同じ大きさに切った軟質塩化ビニルシートと印刷面とを重ね合わせて、0.5
kg/cm2の荷重をかけ、50℃80%RHの雰囲気で24時間放置後、印刷面と塩化
ビニルシートを引き剥がし、インキの剥離の程度から耐塩ビブロッキング性を評価した。
◎:インキが全く剥離しなかったもの。
○:インキがフィルムから剥離した面積が20〜50%のもの。
△:インキがフィルムから剥離した面積が50〜75%を超えるもの。
×:インキがフィルムから剥離した面積が75%を超えるもの。
【0064】
(耐熱性評価)
印刷物と同じ大きさに切ったアルミ箔と印刷面とを重ね合わせ、ヒートシール試験機を
用いて2kg/cm2の圧力で1秒間アルミ箔を押圧し、インキがアルミ箔に転移する最
低温度からインキ組成物の耐熱性を評価した。
◎:最低温度が160℃以上のもの
○:最低温度が140℃以上、160℃未満のもの。
△:最低温度が140℃未満のもの。
【0065】
(追随性評価)
インキ皮膜の基材への追随性は、インキを印刷した基材を400%まで引き延ばし、イ
ンキ受理層の剥離、破壊を4段階で評価した。
◎:インキ皮膜の剥離、破壊等が全くない。
○:インキ皮膜の剥離、破壊はないが、一部グロスが変化する。
△:インキ皮膜の一部に剥離や破壊がある。
×:インキ皮膜が完全に剥離するか破壊する。