特許第5704087号(P5704087)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5704087
(24)【登録日】2015年3月6日
(45)【発行日】2015年4月22日
(54)【発明の名称】水素吸蔵合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 27/02 20060101AFI20150402BHJP
   C22C 30/00 20060101ALI20150402BHJP
   C22C 27/06 20060101ALI20150402BHJP
   B22F 1/00 20060101ALN20150402BHJP
   B22F 9/04 20060101ALN20150402BHJP
【FI】
   C22C27/02 101Z
   C22C30/00
   C22C27/06
   !B22F1/00 R
   !B22F9/04 D
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-25584(P2012-25584)
(22)【出願日】2012年2月8日
(65)【公開番号】特開2013-159852(P2013-159852A)
(43)【公開日】2013年8月19日
【審査請求日】2013年10月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100110227
【弁理士】
【氏名又は名称】畠山 文夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123537
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 かおる
(72)【発明者】
【氏名】砥綿 真一
(72)【発明者】
【氏名】青木 正和
(72)【発明者】
【氏名】則竹 達夫
(72)【発明者】
【氏名】三輪 和利
【審査官】 藤代 佳
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−236084(JP,A)
【文献】 特開平11−335770(JP,A)
【文献】 特開2001−279361(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第101235458(CN,A)
【文献】 Huang Taizhong et al.,Effect of stoichiometry on hydrogen storage performance of Ti-Cr-VFe based alloys,Intermetallics,2005年,Vol.13,p.1075-1078
【文献】 Takeshi Fuda et al.,Effects of Additions of BCC Former Elements on Protium Absorbing Properties of Cr-Ti-V Alloys,Materials Transactions,2000年,Vol.41, No.5,p.577-580
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 27/02
C22C 27/06
C22C 30/00 − 30/06
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の(1)式で表される組成を有するbcc構造相を主相とする水素吸蔵合金。
TixCryzNbvFew ・・・(1)
但し、1.5≦y/x<3、15≦z<65、2≦v≦8、0≦w<5、
x+y+z+v+w=100。
【請求項2】
1.6≦y/x≦2.8
である請求項1に記載の水素吸蔵合金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可逆的な水素の貯蔵・放出が可能な水素吸蔵合金に関する。
【背景技術】
【0002】
地球環境問題の解決、及び、省エネルギーの促進のために、水素エネルギー社会の実現に向かって、様々な施策が世界中で実施されている。中でも、水素を使った燃料電池は、究極のクリーンエネルギー源として注目を集めている。しかし、水素の貯蔵と輸送の問題解決が必要である。
水素吸蔵合金は、金属格子内に水素を原子として蓄えることができ、コンパクトな水素貯蔵物質である。これまで希土類元素を用いたLaNi5系合金、TiやZrを使ったラーベス相合金など様々な合金が開発されてきた。最近では、体心立方晶を有するTi−Cr−V合金が高水素吸蔵量を持つとして注目されている。しかしながら、Ti−Cr−V合金は、水素吸蔵・放出の繰り返しにおける劣化が問題になっている。
【0003】
そこでこの問題を解決するために、従来から種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、
(a)Ti:V:Cr:Nb=0.35:0.20:0.41:0.04となるように配合された原料をメカニカルアロイング(MA)処理し、
(b)得られた粉体を不活性ガス雰囲気下において、800℃で1分間熱処理する
ことにより得られる水素吸蔵合金が開示されている。
同文献には、
(a)得られた合金の水素吸蔵量が2.40wt%である点、及び、
(b)得られた合金の加熱・冷却を50回繰り返しても、合金の平均粒径はほとんど変化しない(すなわち、合金の微粉化が生じにくい)点
が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、水素吸蔵量を増加させる方法として、V−Ti−Cr系水素吸蔵合金に対して水素の吸蔵・放出を行う場合において、吸蔵温度より高い温度で水素を放出させる方法が開示されている。
同文献には、
(a)このような方法により、低圧プラトー領域又は低圧プラトーの下部プラトー領域における合金中の吸蔵水素の安定性が低下し、より多くの水素を放出することが可能となる点、及び、
(b)V40Ti25Cr35Nb3合金に対してこのような方法を適用すると、有効水素量が増大する点
が記載されている。
【0005】
さらに、特許文献3には、Ti−Cr−V系合金対し、Fe、Si及び/又はAlを添加した水素吸蔵合金が開示されている。
同文献には、Fe、Si及び/又はAlの添加によって、サイクル耐性が向上する点が記載されている。
【0006】
特許文献1〜3には、水素吸蔵・放出の繰り返しによる劣化を防ぐ方法や、水素吸蔵量を増大させる方法が提案されている。一方、常温付近での使用を考えた場合、水素放出の平衡圧(プラトー圧)は高い方が好ましい。しかしながら、特許文献1、2に記載された材料は、常温付近における水素放出の平衡圧が低い。また、水素放出の平衡圧が高いものであっても、V量が多いものは、高コストになる。さらに、Feなどの水素原子との親和性の低い元素を添加する場合は、水素吸蔵量が減少する可能性も考えられる。
さらに、特許文献2では、Ti−Cr−V系合金にNbを添加することが述べられている。しかしながら、同文献では、Nbはbcc固溶体を形成する傾向の強い元素(すなわち、有効水素量を増大させるための元素)として添加されており、Nbの耐久性に関する効果は述べられていない。また、同文献で開示されている組成では、室温付近での使用を考えた場合、平衡圧が低すぎる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−098336号公報
【特許文献2】特開2003−096532号公報
【特許文献3】特開2010−236084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、常温付近で水素の吸蔵・放出が可能な水素吸蔵合金を提供することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、有効水素吸蔵量が多く、かつ、低コストな水素吸蔵合金を提供することにある。
さらに、本発明が解決しようとする他の課題は、サイクル耐性に優れた水素吸蔵合金を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明に係る水素吸蔵合金は、次の(1)式で表される組成を有するbcc構造相を主相とすることを要旨とする。
TixCryzNbvFew ・・・(1)
但し、1.5≦y/x<3、15≦z<65、2≦v≦8、0≦w<5、
x+y+z+v+w=100。
【発明の効果】
【0010】
Ti−Cr−V−Nb系合金において、Cr/Ti比(y/x)を最適化すると、水素吸蔵・放出の平衡圧を常温付近に維持することができる。また、V量を最適化すると、製造コストを増大させることなく、高い有効水素吸蔵量が得られる。さらに、所定量のNb又はNb+Feを添加すると、サイクル耐性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】Nb添加量と10サイクル後の有効水素量の保持率との関係を示す図である。
図2】Nb添加量と初期有効水素量との関係を示す図である。
図3】Cr/Ti比と初期有効水素量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 水素吸蔵合金]
本発明に係る水素吸蔵合金は、次の(1)式で表される組成を有するbcc構造相を主相とする。
TixCryzNbvFew ・・・(1)
但し、1.5≦y/x<3、15≦z<65、1≦v≦10、0≦w<5、
x+y+z+v+w=100。
【0013】
[1.1. 合金組成]
[1.1.1. y/x]
本発明において、「最大水素量」とは、理論的に取り出すことが可能な水素量の最大値をいう。また、本発明において、「有効水素量」とは、0.01〜10MPaの範囲で可逆的に吸蔵放出することが可能な水素量をいう。また、本発明において、「初期有効水素量」とは、有効水素量の初期値をいう。
【0014】
xは、合金中に含まれるTi量(at%)を表す。yは、合金中に含まれるCr量(at%)を表す。さらに、y/xは、合金中におけるTi量に対するCr量の原子比(Cr/Ti)を表す。
y/x比が小さくなる(すなわち、Ti量が多くなる)ほど、最大水素量が多くなる。しかしながら、y/xが小さくなりすぎると、平衡圧が低下する。平衡圧が過度に低下すると、水素を取り出すために減圧が必要となるので、有効水素量が少なくなる。従って、y/xは、1.5以上である必要がある。y/xは、さらに好ましくは、1.6以上、さらに好ましくは、1.7以上、さらに好ましくは、1.8以上である。
【0015】
一方、y/xが大きくなる(すなわち、Cr量が多くなる)ほど、平衡圧が増大し、水素を取り出しやすくなる。しかしながら、平衡圧が高くなりすぎると、水素を吸蔵させるために高圧力が必要となる。また、y/xが大きくなりすぎると、最大水素量も少なくなる。従って、y/xは、3未満である必要がある。y/xは、さらに好ましくは、2.8以下である。
【0016】
[1.1.2. z]
zは、合金中に含まれるV量(at%)を表す。Vは高価であるため、zが小さくなる(すなわち、V量が少なくなる)ほど、製造コストを低減することができる。しかしながら、zが小さくなりすぎると、サイクル耐性が低下する。製造コストを増大させることなくサイクル耐性を向上させるためには、zは、15at%以上である必要がある。zは、さらに好ましくは、20at%以上、さらに好ましくは、25at%以上である。
一方、V量が過剰になると、高コスト化するだけでなく、初期有効水素量が少なくなる。従って、zは、65at%未満である必要がある。zは、さらに好ましくは、50at%以下である。
【0017】
[1.1.3. v]
vは、合金中に含まれるNb量(at%)を表す。所定の組成を有するTi−Cr−V合金に対して、さらにNbを添加すると、サイクル耐性が向上する。このような効果を得るためには、vは、1at%以上である必要がある。vは、さらに好ましくは、1.5at%以上、さらに好ましくは、2.0at%以上である。
一方、Nb量が過剰になると、かえってサイクル耐性が低下する。また、Nbの過剰添加は、初期有効水素量の低下をもたらす。従って、vは、10at%以下である必要がある。vは、さらに好ましくは、9.0at%以下、さらに好ましくは、8.0at%以下である。
【0018】
[1.1.4. w]
wは、合金中に含まれるFe量(at%)を表す。Feは、必ずしも必要な元素ではないが、所定の組成を有するTi−Cr−V系合金に対して、Nbに加えてさらにFeを添加すると、サイクル耐性を向上させることができる。また、最大水素量を大きく低下させることなく、平衡圧を高くすることができる。wは、さらに好ましくは、0.1at%以上、さらに好ましくは、0.5at%以上である。
一方、wが大きくなりすぎると、有効水素量が極端に低下する。従って、wは、5at%未満である必要がある。wは、さらに好ましくは、3at%以下、さらに好ましくは、2at%以下である。
【0019】
[1.2. bcc構造相]
上述した組成が得られるように原料を配合し、溶解鋳造すると、(1)式で表されるbcc構造相を主相とする水素吸蔵合金が得られる。水素吸蔵合金は、bcc構造相のみからなるのが好ましいが、不可避的不純物が含まれていても良い。不可避的不純物としては、例えば、純Ti、TiCr2(ラーベス相)などがある。水素吸蔵放出特性に悪影響を及ぼす不可避的不純物は、少ないほど良い。
本発明において、「bcc構造相を主相とする」とは、水素吸蔵合金に含まれるbcc構造相の体積割合が80vol%以上であることをいう。bcc構造相の体積割合は、さらに好ましくは、90vol%以上である。
【0020】
[1.3. 粒径]
水素吸蔵合金の粒径は、水素の吸蔵・放出特性に影響を与える。一般に、粒径が小さくなりすぎると、表面積が増加する。その結果、表面の酸化層が増大し、水素貯蔵量が減少する。また、粒径を小さくするために長時間の粉砕処理を行うと、水素吸蔵合金に歪が導入される。その結果、水素貯蔵量が減少し、あるいは、プラトー平坦性が低下する。従って、水素吸蔵合金の粒径は、活性化処理前において、1.0mm以上が好ましい。
一方、水素吸蔵合金の粒径が大きくなりすぎると、表面積が小さくなる。そのため、活性化処理に長時間、高温及び/又は高圧が必要となる。従って、水素吸蔵合金の粒径は、活性化処理前において、5mm以下が好ましい。
ここで、「水素吸蔵合金の粒径」とは、ふるい(メッシュ)による分級試験で用いられるふるい目の大きさをいう。
【0021】
[2. 水素吸蔵合金の製造方法]
本発明に係る水素吸蔵合金の製造方法は、溶解・鋳造工程と、熱処理工程と、活性化工程とを備えている。
【0022】
[2.1 溶解・鋳造工程]
溶解・鋳造工程は、(1)式で表される組成となるように配合された原料を溶解・鋳造する工程である。なお、(1)式の詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。
TixCryzNbvFew ・・・(1)
但し、1.5≦y/x<3、15≦z<65、1≦v≦10、0≦w<5、
x+y+z+v+w=100。
【0023】
原料の溶解・鋳造方法は、特に限定されるものではなく、アーク溶解法、高周波誘導溶解法等、種々の方法を用いることができる。
原料の溶解・鋳造は、多量の酸素混入による合金特性の悪化を防ぐために、不活性ガス雰囲気、還元雰囲気、真空下(1×10-1〜1×10-6Torr(13.3〜1.33×10-4Pa))などの非酸化雰囲気下で行うのが好ましい。溶解温度及び溶解時間は、特に限定されるものではないが、均一な溶湯が得られる温度及び時間であれば良い。
【0024】
[2.2 熱処理工程]
熱処理工程は、溶解・鋳造工程で得られた鋳塊を熱処理する工程である。
一般に、TiCrV系合金のbcc構造相は、高温平衡相である。溶解・鋳造時に形成される各成分の凝固偏析(特に、Ti成分とV成分のデンドライト状の凝固偏析)を解消して均質化するためには、bcc構造相の安定な高温域での熱処理(均質化熱処理)が必要となる。また、均質化熱処理を行うと、プラトーの平坦性が増し、水素吸蔵・放出特性を向上させることができる。
【0025】
構成元素を短時間で拡散させ、成分を均質化するためには、熱処理温度は、1200℃以上が好ましい。
一方、合金の部分的溶融を抑制するためには、熱処理温度は、合金の融点以下が好ましい。熱処理温度は、さらに好ましくは、融点より20〜100℃低い温度である。
【0026】
十分な均質化効果を得るためには、熱処理時間は、一般に長いほどよい。熱処理時間は、具体的には、5分以上が好ましい。
一方、必要以上の熱処理は、効果が飽和するので、実益がない。従って、熱処理時間は、24時間以下が好ましい。
【0027】
熱処理は、合金の酸化を防ぐために、不活性ガス雰囲気、還元雰囲気、真空下(1×10-1〜1×10-6Torr(13.3〜1.33×10-4Pa))などの非酸化雰囲気下で行うのが好ましい。
【0028】
[2.3 活性化工程]
活性化工程は、熱処理された鋳塊に水素を吸蔵・放出させる処理を少なくとも1回行う工程である。
活性化処理は、鋳塊を所定の温度に加熱した状態で減圧し、次いで鋳塊を加圧した水素に接触させることにより行う。
活性化処理の温度が低すぎると、水素を吸蔵させるのが困難となる。従って、活性化処理の温度は、300℃以上が好ましい。
一方、活性化処理の温度が高くなりすぎると、均質化した組織が不均一になるおそれがある。従って、活性化処理の温度は、450℃以下が好ましい。
【0029】
減圧時の圧力及び水素吸蔵時の水素圧力は、特に限定されるものではなく、活性化が十分に行える圧力であれば良い。減圧時の圧力は、通常、1×10-4Torr(1.33×10-2Pa程度である。また、水素吸蔵させる際の水素圧力は、通常、50atm(5.07MPa)程度である。
【0030】
本発明に係る水素吸蔵合金において、活性化処理は、少なくとも1回行う必要がある。一般に、水素吸蔵合金の活性化処理は数回繰り返す必要があるが、本発明に係る水素吸蔵合金は、1回の処理によっても十分に活性化させることができる。
【0031】
[3. 水素吸蔵合金の作用]
従来のTi−Cr−V系合金は、水素放出の平衡圧力が低いものや耐久性の低いものが多い。これに対し、Ti−Cr−V系合金の内、V量の多いものは、水素吸蔵・放出に対する耐久性があると言われている。しかしながら、Vは高価であるため、V量の増加は、製造コストの増大を招く。また、V量が相対的に少ないTi−Cr−V系合金において、耐久性を向上させる方法が提案された例は、従来にはない。
【0032】
これに対し、Ti−Cr−V−Nb系合金において、Cr/Ti比(y/x)を最適化すると、水素吸蔵・放出の平衡圧を常温付近に維持することができる。また、V量を最適化すると、製造コストを増大させることなく、高い有効水素吸蔵量が得られる。さらに、所定量のNb又はNb+Feを添加すると、サイクル耐性が向上する。Nb、又は、Nb+Feの添加によって耐久性が向上するのは、水素吸蔵・放出に伴う結晶格子歪みが低減されるためと考えられる。
【実施例】
【0033】
(実施例1〜7、比較例1〜5)
[1. 試料の作製]
Ti、Cr、V、Nb及びFeの純粋金属を準備し、これらを所定の組成になるように、かつ、総量で10〜15gとなるように秤量した。秤量された原料から、プラズマボタン溶解炉にてボタンインゴットを溶製した。溶解前に、炉内を真空排気し、アルゴンガスによる雰囲気ガス置換を3〜4回繰り返した。
次に、得られたボタンインゴットを反転させ、上記と同様のアルゴンガス置換及びボタンインゴットの再溶製を行った。このような反転−アルゴンガス置換−再溶製を、3〜4回繰り返した。
【0034】
得られたインゴットをアルゴンガス雰囲気にて均質化処理した。温度は1350℃、時間は7〜10分とした。熱処理したインゴットを室温まで冷却した後に、大気中にてインゴットの表面を研磨した。このインゴットをステンレス鋼製セルに挿入して、水素化粉砕を行った。条件は、温度:400℃、水素圧:約1MPaとした。
【0035】
[2. 試験方法]
得られた試料を用いて、水素吸蔵特性評価、及び、10サイクルまでの水素吸蔵・放出繰り返し試験を行った。評価は、雰囲気温度:0〜30℃、水素圧:0〜10MPaの範囲で行った。さらに、初期有効水素量及び10サイクル後の有効水素量から、保持率(=10サイクル目の有効水素量×100/初期有効水素量(%))を算出した。
【0036】
[3. 結果]
表1に、評価結果をまとめて示す。なお、表1には、各試料の組成も併せて示した。また、図1に、Nb添加量と10サイクル後の有効水素量の保持率との関係を示す。図2に、Nb添加量と初期有効水素量との関係を示す。さらに、図3に、Cr/Ti比と初期有効水素量との関係を示す。
【0037】
表1、及び、図1〜3より、以下のことがわかる。
(1)Nbを含まない場合、及び/又は、Cr/Ti比が適切でない場合、保持率が低下する。また、組成によっては、室温近傍における初期有効水素量が著しく低下する。
(2)Nb添加量を1〜10at%とすると、保持率は88%以上となる。Nb添加量を1.5〜8.5at%とすると、保持率は91%以上となる。Nb添加量を2〜8at%とすると、保持率は93%以上となる。さらに、Nb添加量を2.5〜6%とすると、保持率は94%以上となる。
(3)Nb添加量が10at%を超えると、初期有効水素量が低下する。
【0038】
(4)Cr/Ti比を1.5〜2.8とすると、初期有効水素量は2.0mass%以上となる。Cr/Ti比を1.6〜2.8とすると、初期有効水素量は2.1mass%以上となる。
【0039】
【表1】
【0040】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明に係る水素吸蔵合金は、燃料電池システム用の水素貯蔵手段、ケミカル式ヒートポンプ、アクチュエータ、ニッケル−水素蓄電池等に用いられる水素貯蔵媒体として使用することができる。
図1
図2
図3