(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5704187
(24)【登録日】2015年3月6日
(45)【発行日】2015年4月22日
(54)【発明の名称】圧電素子
(51)【国際特許分類】
H01L 41/047 20060101AFI20150402BHJP
H01L 41/09 20060101ALI20150402BHJP
H01L 41/43 20130101ALI20150402BHJP
H01L 41/29 20130101ALI20150402BHJP
B41J 2/14 20060101ALI20150402BHJP
【FI】
H01L41/047
H01L41/09
H01L41/43
H01L41/29
B41J2/14 305
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-85638(P2013-85638)
(22)【出願日】2013年4月16日
(65)【公開番号】特開2014-207409(P2014-207409A)
(43)【公開日】2014年10月30日
【審査請求日】2014年3月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(72)【発明者】
【氏名】池田 佳生
(72)【発明者】
【氏名】坂本 英也
(72)【発明者】
【氏名】立本 一志
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 誠志
【審査官】
境 周一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−187188(JP,A)
【文献】
特開2008−055871(JP,A)
【文献】
特開2006−044199(JP,A)
【文献】
特開2005−072327(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 41/00−41/47
B41J 2/00−2/525
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電体と、
前記圧電体の表面に設けられ、前記圧電体を活性化する活性部と、外部配線に接続される接続部とを有し、前記活性部と前記接続部とが一体的に形成された表面電極とを備え、
前記接続部が、前記圧電体に埋まるとともに前記圧電体の側に突出する凸部を有し、
前記表面電極の前記活性部および前記接続部が前記圧電体に埋まっている、圧電素子。
【請求項2】
前記接続部が、前記圧電体とは反対の側にも突出している、請求項1に記載の圧電素子。
【請求項3】
圧電体と、
前記圧電体の表面に設けられ、前記圧電体を活性化する活性部と、外部配線に接続される接続部とを有する表面電極と、
を備える圧電素子の製造方法であって、
前記圧電体となるべきグリーンシートの表面に、前記表面電極となるべき電極パターンを形成する電極形成工程と、
前記電極パターンが形成された前記グリーンシートを、その厚さ方向に沿ってプレスするプレス工程と、
前記プレス工程においてプレスされた前記グリーンシートを焼成する工程とを含み、
前記電極形成工程において、前記接続部となる箇所の電極パターンの厚さを、前記活性部となる箇所の電極パターンの厚さよりも厚くし、
前記プレス工程において、前記活性部となる箇所の電極パターンと前記接続部となる箇所の電極パターンとが前記グリーンシートに埋まる、圧電素子の製造方法。
【請求項4】
前記電極形成工程の際、前記接続部となる箇所の電極パターンの厚さを、パターン形成を複数回繰り返して厚くする、請求項3に記載の圧電素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、圧電素子の一種として圧電アクチュエータ素子が知られている。たとえば、下記特許文献1には、複数の表面電極と共通電極とを有し、複数の表面電極がマトリクス状に配置された圧電アクチェータ素子が開示されている。
【0003】
このような圧電アクチュエータ素子は、インクジェットプリンタのヘッドに用いられ、その際、各表面電極の接続部の表面に、外部配線基板の配線が接続される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−97280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術に係る圧電アクチュエータ素子においては、表面電極は、外部配線基板の配線から引張方向の力が加わった場合に、その接続部において剥がれる事態が生じやすかった。
【0006】
本発明は、上述の問題を解決するためになされたものであり、表面電極が剥がれる事態が抑制された圧電素子およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る圧電素子は、圧電体と、圧電体の表面に設けられ、圧電体を活性化する活性部と、外部配線に接続される接続部とを有する表面電極とを備え、接続部が、圧電体に埋まるとともに圧電体の側に突出する凸部を有する。
【0008】
上記圧電素子においては、表面電極の接続部は、凸部によって圧電体との間の接合強度の向上が図られているため、接続部において表面電極が剥がれる事態が抑制されている。
【0009】
また、表面電極の活性部および接続部が圧電体に埋まっている態様であってもよく、接続部が、圧電体とは反対の側にも突出している態様であってもよい。
【0010】
本発明に係る圧電素子の製造方法は、圧電体と、圧電体の表面に設けられ、圧電体を活性化する活性部と、外部配線に接続される接続部とを有する表面電極とを備える圧電素子の製造方法であって、圧電体となるべきグリーンシートの表面に、表面電極となるべき電極パターンを形成する電極形成工程と、電極パターンが形成されたグリーンシートを、その厚さ方向に沿ってプレスするプレス工程と、プレス工程においてプレスされたグリーンシートを焼成する工程とを含み、電極形成工程において、接続部となる箇所の電極パターンの厚さを、活性部となる箇所の電極パターンの厚さよりも厚くする。
【0011】
上記圧電素子の製造方法においては、電極形成工程において、接続部となる箇所の電極パターンの厚さを、活性部となる箇所の電極パターンの厚さよりも厚くすることで、後段のプレス工程において接続部となる箇所の電極パターンがグリーンシート側に突出する。その後、焼成工程を経ることで、グリーンシート側に突出した部分が圧電体に埋まった凸部となる。この凸部が、表面電極の接続部と圧電体との間の接合強度を高めることで、接続部において表面電極が剥がれる事態が抑制される。
【0012】
また、電極形成工程の際、接続部となる箇所の電極パターンの厚さを、パターン形成を複数回繰り返して厚くする態様であってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、表面電極が剥がれる事態が抑制された圧電素子およびその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に圧電素子を示す断面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す圧電素子の表面電極の平面形状を示した図である。
【
図3】
図3は、
図1に示す圧電素子の共通電極の平面形状を示した図である。
【
図4】
図4は、
図1の圧電素子の製造方法の一工程を示した図である。
【
図5】
図5は、
図1を用いたインクジェットプリンタのヘッドを示した概略断面図である。
【
図6】
図6は、異なる態様の圧電素子を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0016】
まず、
図1〜3を参照しつつ、本発明の実施形態に係る圧電素子である圧電アクチュエータ素子1について説明する。
【0017】
圧電アクチュエータ素子1は、アレイ構造の薄型アクチュエータ素子であり、2層の圧電層11、12、複数の表面電極21および共通電極24が積層された積層構造を有している。圧電アクチュエータ素子1の外形寸法は、一例として、縦幅20mm、横幅25mmである。
【0018】
2層の圧電体層11、12はそれぞれ圧電セラミック材料によって構成されている。圧電セラミック材料としては、主成分であるチタン酸ジルコン酸鉛に、NbやSrなどの元素を添加した圧電セラミック材料を用いることができる。2層の圧電体層11、12は、後述する共通電極24を挟んで、上下に重なっている。一例として、圧電体層11の厚さは25μmであり、圧電体層12の厚さは15μmである。
【0019】
各表面電極21は、上側の圧電体層11の表面11aに設けられている。
図2に示すように、各表面電極21は、長方形状の活性部22と、活性部22の短辺側から長辺方向に延出する半月状の接続部23とによって構成されている。表面電極21の外形寸法は、一例として、0.4mm×0.2mmである。表面電極21の構成材料には、Ag−Pb合金(Pd30%、Ag70%)が用いられる。ただし、PdとAgの比率はこれに限らず、また、Pdの代わりにPtを用いたり、Agの代わりにAuを用いたりすることもでき、さらに、Cuで構成される電極を使用することも可能である。
【0020】
複数の表面電極21は、圧電体層11上において、マトリクス状に所定間隔で整列されており(たとえば、横方向に75個および縦方向に8列の合計600個)、また、集積度を高めるために
図2のように上下に隣り合う表面電極21は接続部23側が向かい合わせになっている。なお、圧電体層11の周縁部にダミー電極を設けて、後述する外部配線基板60との張り合わせ時にバランスを取りやすくしてもよい。
【0021】
図1に戻って、表面電極21の接続部23は、その厚さD1が活性部22の厚さD2よりも厚く(D1>D2)、また、活性部22の下面よりも下側(圧電体層11の側)に突出する凸部23aを有している。各表面電極21は、
図1に示すように、活性部22も接続部23もその下側が圧電体層11に埋まっており、上記凸部23aも圧電体層11に埋まっている。また、各表面電極21は、活性部22も接続部23もその上側が圧電体層11の表面11aから露出しており、接続部23は活性部22の上面よりも上側(圧電体層11とは反対の側)に突出している。なお、表面電極21の厚さはたとえば1〜2μmであり、接続部23の厚さは2μm、活性部22の厚さD2を1μmとすることができる。
【0022】
共通電極24は、上側の圧電体層11と下側の圧電体層12との間に介在している。共通電極24は、
図3に示すように、圧電体層11と圧電体層12との間のほぼ全域に亘って形成されており、かつ、表面電極21の接続部23に対応する箇所にスリット24aを有している。共通電極24の厚さは表面電極21の厚さよりも厚く、好ましくは表面電極21の厚さよりも5〜50%だけ厚く、より好ましくは10〜30%だけ厚い。このようにすることで、後述する焼成工程において、素子の反りが発生しにくくなる。共通電極24は、表面電極21と同じ材料で構成することができる。
【0023】
上述した圧電アクチュエータ素子1においては、表面電極21の接続部23に後述する外部配線基板60の配線62を電気的に接続して、個別電極である表面電極21と共通電極24との間に電圧が印加される。なお、配線62と共通電極24との導通には、
図2のスルーホール25が用いられる。それにより、表面電極21の活性部22と共通電極24との間の圧電体層11が活性化されて変位する。
【0024】
次に、上述した圧電アクチュエータ素子1を作製する手順について、
図4を参照しつつ説明する。
【0025】
圧電アクチュエータ素子1を作製する際には、まず、準備工程として、圧電体層11、12となるべき圧電グリーンシート31、32を準備する。圧電グリーンシート31、32は、上述した圧電体層11、12を構成する圧電セラミック粉にバインダや有機溶剤などの成分を加えてペースト化し、例えばドクターブレード法によって所定厚さに作製される。なお、圧電グリーンシート31には、スルーホール25のための貫通孔がたとえばYAGレーザにより設けられる。
【0026】
次に、電極形成工程として、上側の圧電体層11となるべき圧電グリーンシート31上に、表面電極21となるべき電極パターン41を形成するとともに、下側の圧電体層12となるべき圧電グリーンシート32上に、共通電極24となるべき電極パターン44を形成する。電極パターン41、44の形成には、たとえば電極ペーストを塗布するスクリーン印刷が採用され得る。電極ペーストは、Ag−Pb合金(Pd30%、Ag70%)を含むペーストである。
【0027】
このとき、電極パターン41は、
図4に示すように、圧電グリーンシート31の表面31a上において、接続部23となる箇所の電極パターン43の厚さが、活性部22となる箇所の電極パターン42の厚さよりも厚くなるように印刷される。このように、接続部23となる箇所の電極パターン43の厚さを厚くする方法としては、電極パターン43の部分のみを2度印刷する方法(すなわち、2度塗り)がある。なお、電極パターン43をより厚くしたい場合には印刷回数を増やしてもよい。
【0028】
その後、プレス工程として、電極パターン41が形成された圧電グリーンシート31と、電極パターン44が形成された圧電グリーンシート32とを重ね合わせて、その積層方向(すなわち、圧電グリーンシート31の厚さ方向)に沿ってプレスする。プレス方法としては、温間等方圧プレス(WIP)等の等方圧プレスや、一軸プレスを用いることができる。
【0029】
等方圧プレスの場合、電極パターン41にも電極パターン41で覆われていない圧電グリーンシート31にもほぼ同時に圧力がかかり、電極パターン41は、下側に位置する圧電グリーンシート31に完全には埋まらず、電極パターン41の一部は表面31aより上側に存在し、接続部23となる箇所の電極パターン43は、凸部23aが形成されるように下側に突出し、かつ、上側にも突出する。プレス条件は、一例として、水温65℃、圧力80MPaである。
【0030】
最後に、焼成工程として、プレスされた圧電グリーンシート31、32を焼成することで、
図1に示した圧電アクチュエータ素子1が得られる。より詳しくは、焼成工程において、プレスされた圧電グリーンシート31、32を安定化ジルコニアで構成されたセッターに載せて脱バインダ処理をおこなった後、そのセッターをマグネシア質の匣鉢に入れて、1100℃にて焼成する。なお、焼成後は、分極処理(たとえば、100℃で、電界強度2kV/mmの電圧を3分間印加)する。
【0031】
続いて、上述した圧電アクチュエータ素子1のインクジェットプリンタのヘッドへの適用について、
図5を参照しつつ説明する。
【0032】
インクジェットプリンタのヘッドに適用するときには、流路部材50上に、圧電アクチュエータ素子1を接合する。流路部材50には、上述した表面電極21に対応する領域に、互いに隔壁で仕切られた複数のインク室51が設けられている。
【0033】
そして、圧電アクチュエータ素子1上には、圧電アクチュエータ素子1の表面に対面するように、フレキシブルプリント基板である外部配線基板60がCOF(チップオンフィルム)実装される。外部配線基板60は、各圧電アクチュエータ素子1に駆動電圧を印加するためのリード線等の配線62を複数備えている。配線62は、表面電極21の接続部23と対面する位置において、導電ペースト63を介して、表面電極21と電気的に接続される。導電ペースト63としては、たとえば異方性導電樹脂ペースト(ACP)が用いられる。
【0034】
圧電アクチュエータ素子1は、外部配線基板60の配線62により、個別電極である表面電極21と共通電極24との間に電圧が印加されると、表面電極21の活性部22と共通電極24との間の圧電体層11が活性化されて変位する。すると、インク室51内に供給されたインクが加圧されて、吐出孔からインク滴が吐出される。このようなインクジェットプリンタのヘッドは、高速で高精度なインク吐出が可能であり、高速印刷に好適である。
【0035】
以上で説明したとおり、圧電アクチュエータ素子1は、圧電体層11と、圧電体層11の表面11aに設けられ、圧電体層11を活性化する活性部22と、外部配線62に接続される接続部23とを有する表面電極21とを備え、接続部23が、圧電体層11に埋まるとともに圧電体層11の側に突出する凸部23aを有している。
【0036】
ここで、マトリクス型の圧電アクチュエータ素子1は、装置の小型化のため、変位部位の面積を縮小し、かつ変位部位の数が増やされる。また、アクチュエータとして各変位部位を駆動するためには、各々の変位部位に対して配線62が必要であるが、配線62を接続する接続部23は変位の妨げになるため活性部22とは異なる部分にあることが好ましい。さらに、変位部位をできるだけ多く設けるためには、接続部23の面積ができるだけ小さいことが好ましい。
【0037】
しかしながら、接続部23の面積が小さくなると、表面電極21が圧電体層11から剥離し、その結果、接続部23に接続された配線62も剥離してしまう。特に、COF実装で、一度に多数の部位に配線62を接続する場合は、このような剥離の問題が顕著であった。
【0038】
圧電アクチュエータ素子1の表面電極21においては、凸部23aにより、接続部23と圧電体層11との間の接触面積が効果的に拡大されて、より大きなアンカー効果が得られ、それにより接続部23と圧電体層11との間の接合強度が高められている。そのため、たとえば、表面電極21は、外部配線基板60と接続されたときに、接続部23と配線62とを電気的に接続する導電ペースト63がその硬化時等において、接続部23を上方向に引っ張る事態が生じても、接続部23において表面電極21が剥がれる事態が抑制されている。
【0039】
なお、活性部22を厚く形成した場合には、電極の負荷(応力)となって厚い活性部22が変位量を阻害するため、凸部23aは変位量に影響しない接続部23に設けるとともに、活性部22の厚さD2は可能な限り薄くすることが好ましい。
【0040】
圧電アクチュエータ素子1においては、表面電極21の接続部23が、上側に突出しているため、
図5に示すように、接続部23が、導電ペースト63が付着される外部配線基板60の凹部に入り込み、COF実装する際の外部配線基板60の位置合わせが容易になっている。
【0041】
なお、本発明は上述した実施形態に限らず、様々な変形が可能である。
【0042】
たとえば、プレス工程では、等方圧プレスの代わりに、一軸プレスを用いてもよい。この場合、
図6に示すように、圧電体層11の表面11aと表面電極21の表面とが同一平面上に存在する。このような圧電アクチュエータ素子1Aであっても、凸部23aが、接続部23と圧電体層11との間の接合強度を高めるため、上述した効果と同様の効果を奏する。
【0043】
また、上述した実施形態では、圧電体層が2層である積層構造のみを示したが、層数は適宜変更可能であり、電極21、24の層数も適宜変更可能である。また、圧電体層の厚さも適宜変更可能である。さらに、ダミー層を挿入してもよい。
【符号の説明】
【0044】
1、1A…圧電素子、11、12…圧電体層、21…表面電極、22…活性部、23…接続部、23a…凸部、24…共通電極、31、32…圧電グリーンシート、41、44…電極パターン、60…外部配線基板、62…配線。