(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第1の直流配線パターンの所定位置に第1のスイッチング素子および第1のダイオードの半導体チップが実装され、交流配線パターンの所定位置に第2のスイッチング素子および第2のダイオードの半導体チップが実装される半導体パワーモジュールにおいて、
前記第1の直流配線パターンと前記交流配線パターンとが同一平面に接合された第1の絶縁基板と、
前記第1の絶縁基板上であって前記第1の直流配線パターンに近接して配置された第2の直流配線パターンと、
前記第1の直流配線パターンに実装された前記第1のダイオードを前記交流配線パターンと電気的に接続する第1の接続導体と、
前記交流配線パターンに実装された前記第2のスイッチング素子を前記第2の直流配線パターンと電気的に接続する第2の接続導体と、
前記第1の直流配線パターンに実装された前記第1のスイッチング素子を前記交流配線パターンと電気的に接続する第3の接続導体と、
前記交流配線パターンに実装された前記第2のダイオードを前記第2の直流配線パターンと電気的に接続する第4の接続導体と、
一方の平面には前記第1または第3の接続導体が接合されるとともに、他方の平面に前記第2または第4の接続導体が接合された第2の絶縁基板と、
を備え、
前記第1の直流配線パターンおよび前記交流配線パターンが配置される方向に対して直交する一の方向に、前記第1の直流配線パターンでは前記第1のダイオードおよび前記第1のスイッチング素子がこの順に配置されるとともに、前記交流配線パターンでは前記第2のスイッチング素子および前記第2のダイオードがこの順に配置されており、
前記第2の絶縁基板は、その表面および裏面に前記第1の接続導体および前記第2の接続導体が平面視で重ならないようにずらした状態に近接して配置されるとともに、前記第3の接続導体および前記第4の接続導体が平面視で重ならないようにずらした状態に近接して配置されていることを特徴とする半導体パワーモジュール。
前記半導体チップは、前記第1のスイッチング素子と前記第1のダイオードとが逆並列に接続され、前記第2のスイッチング素子と前記第2のダイオードとが逆並列に接続されたものであることを特徴とする請求項1記載の半導体パワーモジュール。
前記第1の直流配線パターンには、前記第2の絶縁基板上で前記第1および第2の接続導体に流れる電流方向と平行する形状の切込みが設けられていることを特徴とする請求項1記載の半導体パワーモジュール。
【背景技術】
【0002】
従来から、電力用半導体装置として電力用半導体素子とこの素子に逆並列に接続されたダイオードとを1アームとして複数個直列接続したもの、またはこれらをさらに複数個並列に接続して構成される半導体パワーモジュールが使用されている。
【0003】
図30は、従来の半導体パワーモジュールの一例を示す平面図である。
一般的な半導体パワーモジュール101は、第1の直流配線パターン1、第2の直流配線パターン2、および3つの交流配線パターン31,32,33が絶縁性のセラミック基板4の同一主面に形成され、それぞれ所定位置に複数の半導体チップ11s,11dなどが実装されたものである。また、セラミック基板4の裏面には、放熱体接続用パターンを介して放熱体5が接続されている。
【0004】
セラミック基板4の表面に形成された直流配線パターン1上には、6個の半導体チップ11s,11d,12s,12d,13s,13dが所定の位置に実装され、3つの交流配線パターン31,32,33上には、それぞれ2個の半導体チップ31s〜33s,31d〜33dが実装されている。半導体チップ11s〜13sおよび31s〜33sは、IGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)などの半導体スイッチ素子であって、残りの半導体チップ11d〜13dおよび31d〜33dは、FWD(フリーホイールダイオード)などの半導体スイッチ素子である。
【0005】
IGBTである半導体チップ11s〜13sおよび31s〜33sは制御端子を備え、そこに外部から制御信号を供給するための配線ワイヤ51〜56が接続されている。また、直流配線パターン1からは、半導体パワーモジュール100の外部に配置された直流電源の正極と接続するための引き出しワイヤ57Pがボンディングされて引き出されている。
【0006】
交流配線パターン31,32,33からは、半導体パワーモジュール100の外部の負荷に接続するための引き出しワイヤ57U〜57Wが引き出されている。さらに、第2の直流配線パターン2からは、直流電源の負極と接続するための引き出しワイヤ57Nがボンディングされて引き出されている。
【0007】
このうち、U相分の交流信号の出力回路要素を含む破線部分60では、以下の内部配線によって半導体チップ11s,11dと31d,31sが第2の直流配線パターン2、および交流配線パターン31に接続されている。すなわち、直流配線パターン1上の半導体チップ11sと11dは、交流配線用のワイヤ61Uによって互いに接続されるとともに、交流配線用のワイヤ62Uによって交流配線パターン31の所定位置と接続されている。また、交流配線パターン31上の半導体チップ31sと31dは、直流配線用のワイヤ63Uによって互いに接続されるとともに、直流配線用のワイヤ64Uによって第2の直流配線パターン2の所定位置と接続されている。なお、V,W相分の出力回路要素についても、同様の内部配線により接続されている。
【0008】
図31は、
図30における破線部分の等価回路を示す回路図である。
いま、引き出しワイヤ57Pおよび57Nには、外部直流電源を接続して直流電圧が印加されるものとする。ここで、上アーム側の半導体チップ11s,11dは、直流配線パターン1上で互いに逆並列に接続されている。すなわち、IGBTのコレクタとFWDのカソードが直流配線パターン1によって正極側の引き出しワイヤ57Pに接続され、直流配線パターン1によって浮遊インダクタンスL1,L2が生じる。また、IGBTのエミッタとFWDのアノードは、半導体チップ11s,11dの上面から交流配線用のワイヤ62Uによって交流配線パターン31に接続され、浮遊インダクタンスL3,L4,L5が生じる。同様に、下アーム側の半導体チップ31s,31dと負極側の引き出しワイヤ57Nなどとの入出力端子間でも、浮遊インダクタンスL6〜L9が生じる。
【0009】
ここで、図示しないゲート駆動装置では、半導体チップ11s〜13sおよび31s〜33sのゲートに制御信号を与えて、IGBTをオンオフ動作させることで、図示しない負荷に所望の出力電圧を出力できる。ところが、IGBTがオフからオン、あるいはオンからオフに切換わる際には、主回路を流れる電流量が大きく変化する。この電流の時間変化率di/dtが大きいと、主回路配線に生じた浮遊インダクタンスL1〜L9によって大きなサージ電圧が発生する。IGBTがオンからオフに切換わる際には、正極側のワイヤ57P→第1の直流配線パターン1→半導体チップ11d(FWD)→交流配線用のワイヤ61U,62U→交流配線パターン31→半導体チップ31s(IGBT)→直流配線用のワイヤ63U,64U→第2の直流配線パターン2→負極側のワイヤ57Nの経路を流れる電流が急変する。
【0010】
したがって、上述した従来の半導体パワーモジュールでは、一つの出力回路要素でその電流経路が長くなれば浮遊インダクタンスLが比例して大きくなって、大きなサージ電圧が発生する。他のV,W相分の出力回路要素においても、同様の理由からサージ電圧を避けることができない。
【0011】
つぎに、浮遊インダクタンスの低減を可能にした別の従来技術について説明する。
図32は、従来の半導体パワーモジュールの別の一例を示す平面図である。また、
図33には、
図32の半導体パワーモジュールのX−X断面構成を示している。
【0012】
図32および
図33に示す半導体パワーモジュール102において、第1の直流配線パターン1には、半導体チップ11s,11dなどとともに、そのチップ未実装部分にセラミック基板9が接合されている。そして、この第1の直流配線パターン1の上方に、セラミック基板9を介して第2の直流配線パターン2が配置されている。その他の構成は
図30に示した半導体パワーモジュール101と同一の構成であり、ここでは対応する符号を付けてそれらの説明を省略する。
【0013】
半導体パワーモジュール102では、直流電源の正極と接続された引き出しワイヤ57Pからの電流が直流配線パターン1のチップ未実装部分を
図32の下から上に流れる。これに対して、直流配線パターン2の電流はセラミック基板9を介して平行かつ反対方向に流れることになる。そのため、2つの直流配線パターン1,2を近接させて配置すれば、そこに発生する磁束が相互に打消されるから、浮遊インダクタンスを低減することができる(例えば特許文献1参照)。
【0014】
上述した従来技術によれば、セラミック基板9の厚さを例えば0.2〜0.3mm程度まで薄くすることによって、2つの直流配線パターン1,2のチップ未実装部における浮遊インダクタンスが半分程度まで低減される。ところが、半導体パワーモジュール102の浮遊インダクタンスの大半(2/3〜3/4程度)を占めるチップ実装部での浮遊インダクタンスは変化しない。したがって、半導体パワーモジュール102の全体のインダクタンス低減としては、1/10〜1/5程度にとどまる。
【0015】
そこで、このような半導体パワーモジュール102において、さらにチップ実装部での浮遊インダクタンスを低減するには、例えば直流配線用のワイヤ63U,64Uや交流配線用のワイヤ61U,62Uを互いに近接して配置することが必要となる。しかし、製造工程などでの振動等によって、配線用のワイヤ形状を一意に決めることは困難であり、またワイヤ相互間での干渉にも考慮しなければならず、ワイヤの近接配置によって浮遊インダクタンスを低減することが容易ではない。
【0016】
つぎに、チップ実装部での浮遊インダクタンスの低減を可能にした別の従来技術について説明する。
図34は、従来の半導体パワーモジュールの異なる例を示す平面図、
図35は、
図34の半導体パワーモジュールのX−X断面構成を示す断面図である。
【0017】
図34および
図35に示す半導体パワーモジュール103では、直流配線用の導体バー81〜86が半導体チップ31s〜33s,31d〜33dを第2の直流配線パターン2に接続するように構成されている。これらの直流配線用の導体バー81〜86は、第2の直流配線パターン2側が絶縁性の支持台2aによって、交流配線パターン31,32,33側では絶縁性の支持台3aによって、それぞれ共通に保持されている。このとき、U相分の出力回路の導体バー81,82では、その両端に第2の直流配線パターン2との間を接続する直流配線用のワイヤ65U,67U、および半導体チップ31sのエミッタ端子との間を接続する直流配線用のワイヤ66U,68Uがそれぞれボンディングされる。また、V,W相分の出力回路の導体バー83〜86についても、同様にワイヤなどにより接続されている。ここでは、直流配線用の導体バー81〜86が
図30に示した半導体パワーモジュール101における直流配線用のワイヤ63U,64Uなどの代わりに用いられている以外は同一の構成であり、対応する符号を付けてそれらの説明を省略する。
【0018】
半導体パワーモジュール103では、製造工程などで振動等があっても直流配線用の導体バー81〜86はその形状に変化が生じない。したがって、直流配線用のワイヤ63U,64Uに代えて導体バー81〜86を用いたことで、交流配線用のワイヤ61U,62Uなどの上方に直流配線用の導体バー81〜86を近接配置すれば、浮遊インダクタンスを低減することが可能となる(例えば、特許文献2参照)。
【0019】
ところが、交流配線用のワイヤ61U,62Uとの空間的な距離を小さくして直流配線用の導体バー81〜86を配置すると、直流配線用のワイヤ66U,68Uと導体バー81,82の間での干渉が懸念される。そのため、導体バー81〜86と半導体チップ31sのエミッタ端子との間を接続するワイヤ66U,68Uとを5〜10mm程度までしか近接できず、交流配線用のワイヤ61U,62Uとの間で生じる浮遊インダクタンスを十分に低減することが容易ではない。
【0020】
つぎに、配線用のワイヤとの干渉を除去するようにした、さらに別の従来技術について説明する。
図36は、従来の半導体パワーモジュールのさらに別の一例を示す断面図である。
【0021】
この半導体パワーモジュール104は、第1のセラミック基板4の上面に第2の直流配線パターン2だけを配置し、この第2の直流配線パターン2上で第2のセラミック基板9を介して第1の直流配線パターン1を配置したものである。また、第2のセラミック基板9の表面に、第1の直流配線パターン1と交流配線パターン31〜33が接合され、第2の直流配線パターン2の裏面に第1のセラミック基板4が接合される。さらに、第1のセラミック基板4の裏面には、放熱体接続用パターン6を介して放熱体5が接続されている。ここでは、第2のセラミック基板9の裏面に第2の直流配線パターン2を設けていることによって、
図35に示す半導体パワーモジュール103の導体バー81〜86を不要にしている。その他は
図35の半導体パワーモジュール103と同一の構成であって、対応する符号を付けてそれらの説明を省略する。
【0022】
半導体パワーモジュール104では、第2の直流配線パターン2が第2のセラミック基板9を介して第1の直流配線パターン1と近接して配置されるから、配線用のワイヤの干渉を考慮せずに浮遊インダクタンスを低減できる(例えば、特許文献3参照)。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、この発明の半導体パワーモジュールについて、いくつかの実施形態について、図面を参照しながら説明する。
[第1の実施形態]
図1は、この発明の第1の実施形態である半導体パワーモジュールの主要部分の断面構成を示す断面図である。
【0036】
半導体パワーモジュール111は、複数の回路パターンが積層された複合基板を有する半導体装置である。第1の直流配線パターン1、第2の直流配線パターン2および交流配線パターン3は、セラミック基板などからなる第1の絶縁基板4の同一平面上に、それぞれ互いに所定間隔をもって接合された回路パターンである。第1の直流配線パターン1および交流配線パターン3のそれぞれ所定位置には、複数の半導体チップ11d,31sなどが実装され、それらの半導体チップ11d,31sからの発熱を逃がすための放熱体5を有している。この放熱体5は、第1の絶縁基板4の裏面に形成された放熱体接続用パターン6を介して接着され、複数の半導体チップ11d,31sとは反対側で放熱用基板を構成している。
【0037】
ここで、第2の直流配線パターン2は第1の絶縁基板4上で第1の直流配線パターン1に近接して配置され、半導体チップ11d,31sの上方でそれらを接続する第1の接続導体7および第2の接続導体8が配置されている。第1の接続導体7は、第1の直流配線パターン1に実装された半導体チップ11dなどを、隣接する交流配線パターン3の所定位置と電気的に接続するものである。第2の接続導体8は、交流配線パターン3に実装された半導体チップ31sなどを、第1の直流配線パターン1を跨いで第2の直流配線パターン2と電気的に接続するものである。これら第1の接続導体7および第2の接続導体8は、セラミック基板などからなる第2の絶縁基板9の表裏面にそれぞれ接合されることによって、互いに絶縁された状態で、かつ近接して配置される。
【0038】
いま、半導体チップ11dがFWDを構成する半導体スイッチ素子であって、半導体チップ31sがIGBTを構成する半導体スイッチ素子であるとする。半導体パワーモジュール111の外部に延びる引き出しワイヤ57Pは、第1の直流配線パターン1に一端がボンディングされ、他端が図示しない直流電源の正極と接続されている。この引き出しワイヤ57Pにより、第1の直流配線パターン1を介して半導体チップ11dのカソード電極に直流電源が供給される。半導体チップ11dは、その上面のアノード電極が導電性の支持部材7aを介して第1の接続導体7の一端と電気的に接続されるとともに、導電性の支持部材7bを介して第1の接続導体7の他端が、交流配線パターン3の所定位置と電気的に接続される。
【0039】
また、交流配線パターン3に配置された半導体チップ31sには、その上面に位置するゲート電極(制御電極)に制御信号用の配線ワイヤ54が接続され、そのエミッタ電極が導電性の支持部材8aを介して第2の接続導体8の一端と電気的に接続される。また、交流配線パターン3からは、引き出しワイヤ57Uを介して1相分の交流出力が取り出される。第2の接続導体8の他端は、導電性の支持部材8bを介して第2の直流配線パターン2の所定位置と電気的に接続される。第2の直流配線パターン2には、半導体パワーモジュール111の外部に延びる引き出しワイヤ57Nの一端がボンディングされ、その他端が図示しない直流電源の負極と接続されている。こうして、半導体チップ11d,31sなどを含む半導体装置は、半導体パワーモジュール111の外部直流電源から直流電源を供給するようにしている。
【0040】
なお、第2の絶縁基板9は支持部材7a,7b,8a,8bによって水平に支持されている。
図2は、第1の実施形態に対応する半導体パワーモジュールの全体構成を示す平面図であり、
図3は、
図2の半導体パワーモジュールのY−Y断面構成を示す断面図である。
【0041】
第1の絶縁基板4の表面には、
図2に示すように、負極側の第2の直流配線パターン2と正極側の第1の直流配線パターン1を構成する直流配線パターン部10が左右位置に縦長に、並べて形成されている。また、この直流配線パターン部10の右側には、3つの直流配線パターン部11〜13が接続するように形成され、さらにそれらの右側には、それぞれに対応する交流配線パターン31〜33が、所定距離だけ離間して形成されている。こうして、
図3に示すようなスリット(切込み)S1とS2が、直流配線パターン部11〜13の間に設けられ、同様のスリットで3つの直流配線パターン部11〜13と交流配線パターン31〜33とが第1の絶縁基板4の表面に離間して配置される。
【0042】
ここで、直流配線パターン部11〜13にはそれぞれ1組ずつIGBT11s〜13sとFWD11d〜13dが実装され、交流配線パターン31〜33にはそれぞれ1組ずつIGBT31s〜33sとFWD31d〜33dが実装されている。FWD11d〜13dの上面にはそれぞれアノード電極が形成されていて、
図3に示すように、導電性の支持部材71a,73a,75aによって第1の接続導体71,73,75と接続される。第1の接続導体71,73,75は、FWD11d〜13dと交流配線パターン31〜33とを電気的に接続する交流配線となる。一方、第2の接続導体81,83,85は、それぞれ第2の絶縁基板91,93,95を介して第1の接続導体71,73,75の上方で並行するように接合されている。
図2に示すように、これらの第2の接続導体81,83,85がIGBT31s〜33sと第2の直流配線パターン2とを電気的に接続する直流配線となる。
【0043】
直流配線パターン部11〜13に実装されたIGBT11s〜13sは、その上面にそれぞれエミッタ電極が形成されていて、導電性の支持部材72a,74a,76aにより、第3の接続導体72,74,76と接続される。この第3の接続導体72,74,76が、IGBT11s〜13sと交流配線パターン31〜33とを電気的に接続する交流配線となる。一方、第4の接続導体82,84,86は、第2の絶縁基板92,94,96を介して第3の接続導体72,74,76の上方で並行するように接合されている。
図2に示すように、これらの第4の接続導体82,84,86がFWD31d〜33dと第2の直流配線パターン2を接続する直流配線となる。
【0044】
さらに、制御信号用の配線ワイヤ51〜56からは、IGBT11s〜13sとIGBT31s〜33sに制御信号を与える。半導体パワーモジュール111には、その外部から引き出しワイヤ57P,57Nによって直流電源が接続される。そして、半導体パワーモジュール111の交流配線パターン31〜33には、引き出しワイヤ57U,57V,57Wによって外部負荷が接続される。
【0045】
図4は、第1の実施形態の半導体パワーモジュールにおける
図2の破線部分の等価回路を示す回路図である。
図4に示す半導体パワーモジュール111の等価回路は、9つの浮遊インダクタンスL1〜L9を含み、
図2の破線部分60に相当するU相分の交流信号の出力回路要素が示されている。浮遊インダクタンスL1は、各相に共通のものであって、その大きさは引き出しワイヤ57Pが接続される直流配線パターン部10によって決まる。浮遊インダクタンスL2は、直流配線パターン部10から延びる直流配線パターン部11の大きさによって決まる。浮遊インダクタンスL2を介して接続されたFWD11dは、そのアノード電極側に第1の接続導体71による浮遊インダクタンスL3が形成される。このFWD11dとは逆並列に接続されたIGBT11sは、そのエミッタ電極側に第3の接続導体72による浮遊インダクタンスL4が形成される。
【0046】
浮遊インダクタンスL5,L6は、引き出しワイヤ57Uを介して接続される外部負荷との間に発生するものであって、その大きさは、交流配線パターン31の大きさによって決まる。交流配線パターン31上に実装されたIGBT31sとFWD31dは、それぞれエミッタ電極およびアノード電極が第2の接続導体81および第4の接続導体82によって第2の直流配線パターン2に接続されるため、それぞれ浮遊インダクタンスL7,L8が形成される。また、浮遊インダクタンスL9は、引き出しワイヤ57Nを接続する第2の直流配線パターン2によって、その大きさが決まる。
【0047】
この半導体パワーモジュール111は、IGBT11s〜13sとIGBT31s〜33sが制御信号によってスイッチング動作することで、所定の交流出力を負荷に供給できる。そして、IGBT31sがオンからオフに切換わる際には、以下の第1の経路を流れている電流が急変する。また、IGBT11sがオンからオフに切換わる際には、以下の第2の経路を流れる電流が急変する。
【0048】
第1の経路:引き出しワイヤ57P−直流配線パターン部10−直流配線パターン部11−FWD11d−第1の接続導体71−交流配線パターン31−IGBT31s−第2の接続導体81−第2の直流配線パターン2−引き出しワイヤ57N
第2の経路:引き出しワイヤ57P−直流配線パターン部10−直流配線パターン部11−IGBT11s−第3の接続導体72−交流配線パターン31−FWD31d−第4の接続導体82−第2の直流配線パターン2−引き出しワイヤ57N
IGBT12s,13s,32s,33sを含む他の相の交流信号出力回路においても同様の関係で、IGBT12s,13s,32s,33sのスイッチング時には、それらに対向するFWD12d,13d,32d,33dには急変する大きさで電流が流れる。そこで、これらのIGBT11s〜13sと31s〜33sに対向配置されたFWD11d〜13dと31d〜33dに流れる電流の経路に着目して、それらの配線を近接して配置することによって、浮遊インダクタンスを低減するようにしている。
【0049】
具体的には、
図3に示すように、第2の絶縁基板91〜96によって、第2の接続導体81,83,85、第4の接続導体82,84,86と第1の接続導体71,73,75、第3の接続導体72,74,76との間の絶縁を保持しつつ、相互の空間的な位置関係が近接した状態に保持している。
【0050】
上述したように、第1の実施形態の半導体パワーモジュール111では、交流配線用の導体71〜76と直流配線用の導体81〜86とを、第2の絶縁基板91〜96を介して近接配置することができる。これにより、
図4に示す浮遊インダクタンスL3と浮遊インダクタンスL7が、破線M1で示すように磁気的に結合されるとともに、浮遊インダクタンスL4と浮遊インダクタンスL8が、破線M2に示すように磁気的に結合される。そして、交流配線用の導体71〜76を流れる電流方向は、直流配線用の導体81〜86を流れる電流とは逆方向であるので、半導体パワーモジュール111全体の浮遊インダクタンスを低減できる。
【0051】
また、第1の直流配線パターン1を構成する半導体チップの実装部分となる直流配線パターン部11〜13には、直流配線用の導体81〜86と平行するスリット(切込み)S1とS2が設けられている。そのため、直流配線パターン部11〜13の電流経路を、それぞれ第2の接続導体81,83,85、第4の接続導体82,84,86の直下に導くことができる。したがって、そこに発生する浮遊インダクタンスL2と浮遊インダクタンスL7が、
図4に破線M4で示すように磁気的に結合されるとともに、浮遊インダクタンスL2と浮遊インダクタンスL8が、破線M5に示すように磁気的に結合される。そして、直流配線パターン部11〜13を流れる電流方向は、交流配線用の導体71〜76を流れる電流とは逆方向であるので、スイッチング電流により発生する磁束が相互に打消されることになって、さらに浮遊インダクタンスを低減できる。
【0052】
一般に、第1の実施形態の半導体パワーモジュール111では、その発生する放射ノイズはスイッチング時の電流経路を囲む面積(放射面積)に比例することが知られている。したがって、半導体パワーモジュール111では第1の直流配線パターン1と交流配線パターン31〜33を近接配置したことにより、スイッチング時の電流経路を囲む面積が小さくなる。このため、浮遊インダクタンスだけでなく、放射ノイズも低減できる。また、半導体パワーモジュール111によれば、浮遊インダクタンスの低減と冷却性能の向上とを両立させることができる。これによりサージ電圧や過熱による半導体チップの破壊がない半導体装置を提供することができる。
[第2の実施形態]
図5は、第2の実施形態に対応する半導体パワーモジュールの全体構成を示す平面図であり、
図6は、
図5の半導体パワーモジュールのY−Y断面構成を示す断面図である。
【0053】
第2の実施形態の半導体パワーモジュール112では、第1の実施形態における第2の絶縁基板91,93,95に第3の接続導体72,74,76を追加して配置するとともに、第2の接続導体81,83,85が第4の接続導体82,84,86にも相当するものとして配置されている。これにより、第2の絶縁基板92,94,96を構成するセラミック基板が省略できる。その他の構成は、第1の実施形態と同一であるので、
図6および
図5では対応する番号を付けてそれらの説明を省略する。
【0054】
以上、第2の実施形態によれば、直流配線用の導体である第2の接続導体81,83,85を隣接する第4の接続導体82,84,86と共通化することで、部品点数を少なくして工程を簡素化できる。また、第1の実施形態で使用していた第2の絶縁基板91〜96のうち、絶縁基板92,94,96を用いずに、第2の絶縁基板91,93,95を構成するセラミック基板を、第2の絶縁基板92,94,96を構成するセラミック基板に相当するように共用しても、第2の接続導体81,83,85と第1の接続導体71,73,75、第3の接続導体72,74,76との間の絶縁性能、あるいは空間的な位置関係は変更されない。したがって、第2の実施形態の半導体パワーモジュール112によれば、少ない部品点数で第1の実施形態と同様の浮遊インダクタンス低減効果やノイズ低減効果を得ることができる。
[第3の実施形態]
図7は、第3の実施形態に対応する半導体パワーモジュールの全体構成を示す平面図であり、
図8は、
図7の半導体パワーモジュールのY−Y断面構成を示す断面図である。
【0055】
第3の実施形態では、第2の実施形態における3枚の第2の絶縁基板91,93,95のうち、一枚だけ(第2の絶縁基板9として示している。)を使用して、半導体パワーモジュール113が構成される。すなわち、第2の接続導体81,83,85、および第1の接続導体71,73,75と第3の接続導体72,74,76が、第2の絶縁基板9の上に配置されている。その他の構成は、
図5に示す第2の実施形態と同一であるので、
図8および
図7では対応する番号を付けてそれらの説明を省略する。
【0056】
以上、第3の実施形態によれば、一枚のセラミック基板を利用して第2の絶縁基板9を構成した場合でも、第2の接続導体81,83,85、および第1の接続導体71,73,75と第3の接続導体72,74,76の間の絶縁性能、あるいは空間的な位置関係は変更されない。また、所定の接続導体が形成された第2の絶縁基板9を一枚だけ実装すれば、IGBT11s〜13s,31s〜33sやFWD11d〜13d,31d〜33dなどの半導体チップの配線ができ上がるため、その組立て工数を少なくすることが可能である。したがって、第3の実施形態によれば、少ない組立て工数で第1、2の実施形態の半導体パワーモジュールと同様に、浮遊インダクタンスを低減し、そのノイズ低減効果を得ることができる。
[第4の実施形態]
図9は、第4の実施形態に対応する半導体パワーモジュールの全体構成を示す平面図であり、
図10は、
図9の半導体パワーモジュールのX−X断面構成を示す断面図である。
【0057】
図9の半導体パワーモジュール114では、裏面に第1の直流配線パターン1として直流配線パターン部10が接合され、表面に第2の直流配線パターン2が接合された第3の絶縁基板97が使用されている。この第3の絶縁基板97によって、第2の直流配線パターン2が第1の直流配線パターン1の上面に配置される。
【0058】
このように、第4の実施形態の半導体パワーモジュール114は、第1の実施形態で左右に並べて配置されていた第1、第2の直流配線パターン1,2を、第3の絶縁基板97を介して上下方向に配置したものである。これにより、半導体パワーモジュール114では、直流配線パターン部10およびこれに接続する直流配線パターン部11〜13と、交流配線パターン31〜33だけが、第1の絶縁基板4上の同一平面に接合されることになる。これによって、スイッチング時の電流経路を囲む面積がさらに小さくなる。その他の構成は第1の実施形態と同一であるので、
図9および
図10では対応する番号を付けてそれらの説明を省略する。
【0059】
以上、第4の実施形態によれば、第2の直流配線パターン2の位置を変更しても、第1の接続導体71,73,75および第3の接続導体72,74,76と第2の接続導体81,83,85および第4の接続導体82,84,86との間の絶縁性能、あるいは空間的な位置関係は変更されない。したがって、第4の実施形態の半導体パワーモジュール114によれば、第1および第2の直流配線パターン1,2の浮遊インダクタンスを確実に低減でき、上述した第2、第3の実施形態と同様の浮遊インダクタンス低減効果やノイズ低減効果を得ることができる。
【0060】
なお、ここまで説明した第1ないし第4の実施形態において、IGBT11s〜13sとIGBT31s〜33sをMOSFETやバイポーラトランジスタ等に置き換えても、それらの接続に用いられる交流配線用の導体7(第1の接続導体71,73,75および第3の接続導体72,74,76)と直流配線用の導体8(第2の接続導体81,83,85および第4の接続導体82,84,86)との間の絶縁性能、あるいは空間的な位置関係は変わらない。また、第1ないし第4の実施形態において、IGBT31s〜33sとFWD11d〜13dだけをそれぞれMOSFETやバイポーラトランジスタ等に置き換えて、残りのFWD31d〜33dとIGBT11s〜13sを省略する場合でも、第1の接続導体71,73,75と第2の接続導体81,83,85との間の絶縁性能、あるいは空間的な位置関係は変わらない。したがって、半導体チップとしてMOSFETやバイポーラトランジスタ等を使用した半導体装置についても、同様に浮遊インダクタンスの低減効果やノイズ低減効果を実現することができる。
[第5の実施形態]
図11は、この発明の第5の実施形態である半導体パワーモジュールの主要部分の断面構成を示す断面図、
図12は、第5の実施形態に対応する半導体パワーモジュールの全体構成を示す平面図である。
【0061】
図11は、
図12に示す半導体パワーモジュール115のX−X断面構成を示すものであって、第1の実施形態(
図1)で説明したものと同様に、複数の回路パターンが積層された複合基板を有する半導体装置である。
【0062】
すなわち、
図11に示す第1の直流配線パターン1、第2の直流配線パターン2および交流配線パターン3は、セラミック基板などからなる第1の絶縁基板4の同一平面上に、それぞれ互いに所定間隔をもって接合された回路パターンである。これらの回路パターンのうち、第1の直流配線パターン1および交流配線パターン3のそれぞれ所定位置には、複数の半導体チップ11d,31sなどが実装され、さらに半導体チップ11d,31sからの発熱を逃がすための放熱体5を有している。この放熱体5は、第1の絶縁基板4の裏面に形成された放熱体接続用パターン6を介して接着され、複数の半導体チップ11d,31sとは反対側で放熱用基板を構成している。
【0063】
第1の絶縁基板4の表面には、
図12に示すように、負極側の第2の直流配線パターン2と第1の直流配線パターン1を構成する正極側の直流配線パターン部10が、左右位置に並べられて縦長に形成されている。また、直流配線パターン部10の右側には、3つの直流配線パターン部11〜13が接続するように形成され、さらにそれらの右側には、それぞれに対応する交流配線パターン31〜33が、所定距離だけ離間して形成されている。ここで、直流配線パターン部11〜13には、半導体チップとして1組ずつIGBT11s〜13sとFWD11d〜13dがそれぞれ実装され、交流配線パターン31〜33にもそれぞれ1組ずつIGBT31s〜33sとFWD31d〜33dが実装されている。
【0064】
半導体パワーモジュール115の第1の実施形態のものと異なる点は、第2の絶縁基板9(91〜96)が、第1の絶縁基板4の上面でその主面が垂直となるように配置されていることである。第2の直流配線パターン2は第1の絶縁基板4上で第1の直流配線パターン1の直流配線パターン部10に近接して配置されている。第1の接続導体71,73,75は、直流配線パターン部11〜13に実装されたFWD11d〜13dを隣接する交流配線パターン3の所定位置と電気的に接続するものである。そして、第3の接続導体72,74,76は、直流配線パターン部11〜13に実装されたIGBT11s〜13sを隣接する交流配線パターン3の所定位置と電気的に接続するものである。また、第2の接続導体81,83,85は、交流配線パターン3に実装されたIGBT31s〜33sを、第1の直流配線パターン1を跨いで第2の直流配線パターン2の所定位置と電気的に接続するものである。そして、第4の接続導体82,84,86は、交流配線パターン3に実装されたFWD31d〜33dを、第1の直流配線パターン1を跨いで第2の直流配線パターン2の所定位置と電気的に接続するものである。
【0065】
なお、
図11には半導体チップ11d,31sの上方でそれらを接続する第2の接続導体8だけが示され、第1の接続導体は第2の絶縁基板9の後ろ側に配置されているため、図示されていない。その他の構成は、第1の実施形態と同一であるので、
図11および
図12では対応する番号を付けてそれらの説明を省略する。
【0066】
図13は、
図11の半導体パワーモジュールのZ1−Z1断面構成を示す断面図である。
ここでは、半導体パワーモジュール115における直流配線用の導体8と負極側の直流配線パターン2との接続状態を示す。すなわち、第2の接続導体81,83,85が負極側の直流配線パターン2と導電性の支持部材81b,83b,85bによって接続され、第4の接続導体82,84,86が負極側の直流配線パターン2と導電性の支持部材82b,84b,86bによって接続されている。
【0067】
図14は、
図11の半導体パワーモジュールのZ2−Z2断面構成を示す断面図である。
半導体パワーモジュール115の第2の接続導体81,83,85は、それぞれ第2の絶縁基板91,93,95を挟んで接合された第1の接続導体71,73,75と並行して配置され、第2の絶縁基板91,93,95によって第1の絶縁基板4に対して垂直に保持されている。第4の接続導体82,84,86も、それぞれ第2の絶縁基板92,94,96を挟んで接合された第3の接続導体72,74,76と並行して配置され、同様に垂直に保持されている。ここに示すスリット(切込み)S1とS2は、第1の絶縁基板4の表面に配置された直流配線パターン部11〜13の間に設けられており、同様のスリットが交流配線パターン31〜33の間にも設けられている。
【0068】
ここでは、第1の接続導体71,73,75が直流配線パターン部11〜13のFWD11d〜13dと導電性の支持部材71a,73a,75aによって接続され、第3の接続導体72,74,76が直流配線パターン部11〜13のIGBT11s〜13sと導電性の支持部材72a,74a,76aによって接続されている。
【0069】
図15は、
図11の半導体パワーモジュールのZ3−Z3断面構成を示す断面図である。
ここでは、半導体パワーモジュール115における交流配線用の導体7と交流配線パターン31〜33との接続状態を示す。すなわち、第1の接続導体71,73,75が交流配線パターン31〜33と導電性の支持部材71b,73b,75bによって接続され、第3の接続導体72,74,76が交流配線パターン31〜33と導電性の支持部材72b,74b,76bによって接続されている。
【0070】
第2の絶縁基板91〜96、第2の接続導体81,83,85および第4の接続導体82,84,86との位置関係などは、
図14に示すZ2−Z2断面構成と同じである。
図16は、
図11の半導体パワーモジュールのZ4−Z4断面構成を示す断面図である。
【0071】
ここでは、半導体パワーモジュール115における直流配線用の導体8と交流配線パターン31〜33上の半導体チップ31s〜33s,31d〜33dとの接続状態を示す。すなわち、第2の接続導体81,83,85が交流配線パターン31〜33のIGBT31s〜33sと導電性の支持部材81a,83a,85aによって接続され、第4の接続導体82,84,86が交流配線パターン31〜33のFWD31d〜33dと導電性の支持部材82a,84a,86aによって接続されている。
【0072】
図17は、第5の実施形態の半導体パワーモジュールにおける
図12の破線部分の等価回路を示す回路図である。
この等価回路は、浮遊インダクタンスL1〜L6,L71,L72,L81,L82およびL9を含み、
図2の破線部分60に相当するU相分の交流信号の出力回路要素が示されている。
【0073】
浮遊インダクタンスL1は、各相に共通のものであって、その大きさは引き出しワイヤ57Pが接続される直流配線パターン部10によって決まる。浮遊インダクタンスL2は、直流配線パターン部10から延びる直流配線パターン部11の大きさによって決まる。浮遊インダクタンスL2を介して接続されたFWD11dは、そのアノード電極側に第1の接続導体71による浮遊インダクタンスL3が形成される。このFWD11dとは逆並列に接続されたIGBT11sは、そのエミッタ電極側に第3の接続導体72による浮遊インダクタンスL4が形成される。
【0074】
浮遊インダクタンスL5,L6は、引き出しワイヤ57Uを介して接続される外部負荷との間に発生するものであって、その大きさは、交流配線パターン31の大きさによって決まる。交流配線パターン31上に実装されたIGBT31sとFWD31dは、それぞれエミッタ電極およびアノード電極が第2の接続導体81および第4の接続導体82によって第2の直流配線パターン2に接続されるため、それぞれ直列の浮遊インダクタンスL71,L72と浮遊インダクタンスL81,L82が形成される。
【0075】
浮遊インダクタンスL71は、第2の接続導体81のうち、第1の接続導体71に面している部分によって形成され、浮遊インダクタンスL72は、第2の接続導体81のうち、第1の接続導体71に面していない部分によって形成される。また、浮遊インダクタンスL81は、第4の接続導体82のうち、第3の接続導体72に面している部分によって形成され、浮遊インダクタンスL82は、第4の接続導体82のうち、第3の接続導体72に面していない部分によって形成される。なお、浮遊インダクタンスL9は、引き出しワイヤ57Nを接続する第2の直流配線パターン2によって、その大きさが決まる。
【0076】
この半導体パワーモジュール115は、IGBT11s〜13sとIGBT31s〜33sが制御信号によってスイッチング動作することで、所定の交流出力を負荷に供給できる。そして、IGBT31sがオンからオフに切換わる際には、以下の第1の経路を流れている電流が急変する。また、IGBT11sがオンからオフに切換わる際には、以下の第2の経路を流れる電流が急変する。
【0077】
第1の経路:引き出しワイヤ57P−直流配線パターン部10−直流配線パターン部11−FWD11d−第1の接続導体71−交流配線パターン31−IGBT31s−第2の接続導体81−第2の直流配線パターン2−引き出しワイヤ57N
第2の経路:引き出しワイヤ57P−直流配線パターン部10−直流配線パターン部11−IGBT11s−第3の接続導体72−交流配線パターン31−FWD31d−第4の接続導体82−第2の直流配線パターン2−引き出しワイヤ57N
IGBT12s,13s,32s,33sを含む他の相の交流信号出力回路においても同様の関係で、IGBT12s,13s,32s,33sのスイッチング時には、それらに対向するFWD12d,13d,32d,33dには急変する大きさで電流が流れる。そこで、これらのIGBT11s〜13sと31s〜33sに対向配置されたFWD11d〜13dおよび31d〜33dを流れる電流経路に着目して、それらの配線を近接して配置することによって、浮遊インダクタンスを低減するようにしている。
【0078】
具体的には、
図11に示すように、第1の絶縁基板4の上面でその主面が垂直となるように配置された第2の絶縁基板91〜96によって、第2の接続導体81,83,85、および第4の接続導体82,84,86と、第1の接続導体71,73,75、および第3の接続導体72,74,76との間の絶縁を保持しつつ、相互の空間的な位置関係が近接した状態に保持している。
【0079】
上述したように、第5の実施形態の半導体パワーモジュール115では、交流配線用の導体71〜76と直流配線用の導体81〜86とは、厚みが数百μ程度と薄い第2の絶縁基板91〜96を介して近接配置することができる。これにより、
図17に示す浮遊インダクタンスL3と浮遊インダクタンスL71が、破線M1で示すように磁気的に結合されるとともに、浮遊インダクタンスL4と浮遊インダクタンスL81が、破線M2に示すように磁気的に結合される。そして、交流配線用の導体71〜76を流れる電流方向は、直流配線用の導体81〜86を流れる電流とは逆方向であるので、半導体パワーモジュール111全体の浮遊インダクタンスを低減できる。
【0080】
また、第1の直流配線パターン1を構成する半導体チップの実装部分となる直流配線パターン部11〜13には、直流配線用の導体81〜86と平行するスリット(切込み)S1とS2が設けられている。そのため、第1の直流配線パターン1を流れる電流経路を第2の直流配線パターン2側に導くことができる。したがって、そこに発生する浮遊インダクタンスL1と浮遊インダクタンスL9が、
図17に破線M3で示すように磁気的に結合されるとともに、浮遊インダクタンスL2と浮遊インダクタンスL72,L82が、それぞれ破線M4,M5に示すように磁気的に結合される。そして、直流配線パターン部11〜13を流れる電流方向は、交流配線用の導体71〜76を流れる電流とは逆方向であるので、スイッチング電流により発生する磁束が相互に打消されることになって、さらに浮遊インダクタンスを低減できる。
【0081】
一般に、第5の実施形態の半導体パワーモジュール115でも、その発生する放射ノイズはスイッチング時の電流経路を囲む面積(放射面積)に比例することが知られている。したがって、半導体パワーモジュール115で第1の直流配線パターン1と交流配線パターン31〜33を近接配置したことにより、スイッチング時の電流経路を囲む面積が小さくなる。このため、浮遊インダクタンスだけでなく、放射ノイズも低減できる。また、半導体パワーモジュール115によれば、浮遊インダクタンスの低減と冷却性能の向上とを両立させることができる。これによりサージ電圧や過熱による半導体チップの破壊がない半導体装置を提供することができる。
[第6の実施形態]
図18は、この発明の第6の実施形態である半導体パワーモジュールの主要部分の断面構成を示す断面図であり、
図19は、第6の実施形態に対応する半導体パワーモジュールの全体構成を示す平面図である。
【0082】
図18に示す半導体パワーモジュール116の断面図は、
図19のX−X断面構成であって、第1の絶縁基板4には第1の直流配線パターン1、第2の直流配線パターン2および交流配線パターン3が設けられている。第1の直流配線パターン1の直流配線パターン部11〜13には、それぞれ1組ずつIGBT11s〜13sとFWD11d〜13dが実装され、直流配線パターン部11〜13の第2の接続導体8(81,83,85)の直下で、その近接する位置には、
図18の断面図に示すような絶縁体900が設けられている。この絶縁体900は、後述する
図21における絶縁体901〜903などとして明示されている。
【0083】
また、第1の直流配線パターン1の直流配線パターン部11〜13との接続部分には、
図19に示すように、第2の接続導体81,83,85と直交する方向で切込みS3が形成されている。第6の実施形態では、第5の実施形態における第2の接続導体81,83,85に第2の絶縁基板91,93,95を介して第3の接続導体72,74,76を配置することで、第4の接続導体82,84,86を省略している。その他の構成は、
図11などに示す第5の実施形態と同一であるので、
図18および
図19では対応する番号を付けてそれらの説明を省略する。
【0084】
図20は、
図18の半導体パワーモジュールのZ1−Z1断面構成を示す断面図である。
ここでは、半導体パワーモジュール116における直流配線用の導体8と負極側の直流配線パターン2との接続状態を示す。すなわち、第2の接続導体81が負極側の直流配線パターン2と導電性の支持部材81b,82bによって左右側で接続され、第2の接続導体83が負極側の直流配線パターン2と導電性の支持部材83b,84bによって左右側で接続され、第2の接続導体85が負極側の直流配線パターン2と導電性の支持部材85b,86bによって左右側で接続されている。
【0085】
図21は、
図18の半導体パワーモジュールのZ2−Z2断面構成を示す断面図である。
第2の接続導体81,83,85は、それぞれ第2の絶縁基板91と92,93と94,95と96によって挟まれた状態で第1の絶縁基板4に対して垂直に保持され、さらに絶縁体901〜903によってそれぞれ直流配線パターン部11〜13と確実に絶縁されている。
【0086】
図22は、
図18の半導体パワーモジュールのZ3−Z3断面構成を示す断面図である。
ここでは、半導体パワーモジュール116における交流配線用の導体7と交流配線パターン31〜33との接続状態を示す。すなわち、第1の接続導体71,73,75が交流配線パターン31〜33と導電性の支持部材71b,73b,75bによって接続され、第3の接続導体72,74,76が交流配線パターン31〜33と導電性の支持部材72b,74b,76bによって接続されている。第1の接続導体71,73,75と第3の接続導体72,74,76の間には、それぞれ第2の絶縁基板91〜96を介して第2の接続導体81,83,85が保持されている。
【0087】
図23は、
図18の半導体パワーモジュールのZ4−Z4断面構成を示す断面図である。
ここでは、半導体パワーモジュール116における直流配線用の導体8として各相で共通に設けられた第2の接続導体81,83,85と、交流配線パターン31〜33上の半導体チップ31s〜33sおよび31d〜33dとの接続状態を示している。
【0088】
こうして、第1の直流配線パターン1には切込みS3が設けられることによって、第1の直流配線パターン1の直流配線パターン部11〜13を流れる電流の経路を、それぞれ第2の接続導体81,83,85の下に導くことができる。これにより、
図17に示す浮遊インダクタンスL2と浮遊インダクタンスL72および浮遊インダクタンスL2と浮遊インダクタンスL82が、それぞれ破線M4,M5に示すように磁気的に結合される。また、直流配線パターン部11〜13を流れる電流は、第2の接続導体81,83,85を流れる電流方向とは逆方向であるから、スイッチング電流により発生する磁束が相互に打消され、浮遊インダクタンスを低減することができる。
【0089】
さらに、直流配線パターン部11〜13に絶縁体901〜903を設けることによって、第2の接続導体81,83,85を直流配線パターン部11〜13と近接して設けることが可能になる。しかも、これらの絶縁体901〜903の厚さは、数百μ程度まで薄くできる。したがって、浮遊インダクタンスL2と浮遊インダクタンスL72および浮遊インダクタンスL82との磁気的な結合を強め、浮遊インダクタンスの低減効果をさらに高めることができる。
【0090】
以上、第6の実施形態によれば、直流配線用の導体である第2の接続導体81,83,85を隣接する第4の接続導体82,84,86と共通化することで、部品点数を少なくして工程を簡素化できる。そして、これらを共通化しても、第2の接続導体81,83,85と第1の接続導体71,73,75、第3の接続導体72,74,76との間の絶縁性能、あるいは空間的な位置関係は変更されない。したがって、第2の実施形態の半導体パワーモジュール112によれば、少ない部品点数で第5の実施形態と同様の浮遊インダクタンス低減効果やノイズ低減効果を得ることができる。
[第7の実施形態]
図24は、この発明の第7の実施形態である半導体パワーモジュールの主要部分の断面構成を示す断面図である。
【0091】
図24には、この半導体パワーモジュール117の、第6の実施形態を示す
図21に相当する断面を示している。半導体パワーモジュール117が第6の実施形態と異なるのは、第1の絶縁基板4の上面でその主面が垂直となるように配置された第2の接続導体81,83,85の上下左右が一様に、絶縁層910,930,950によって覆われていることである。
【0092】
すなわち、第7の実施形態では、第2の接続導体81,83,85が絶縁層910,930,950によって包まれており、その両側面に第1の接続導体71,73,75と第3の接続導体72,74,76が配置されている。その他の構成は、
図11などに示す第5の実施形態と同一であるので、
図24では対応する番号を付けてそれらの説明を省略する。
【0093】
以上、第7の実施形態の半導体パワーモジュール117では、第6の実施形態で使用されていた第2の絶縁基板91〜96および絶縁体901〜903に代えて、厚さ数百μ程度の絶縁層910,930,950を利用した点に特徴があり、これにより半導体パワーモジュール117の構成部品の点数を減らすことができる。また、こうした絶縁層910,930,950を使用しても、第2の接続導体81,83,85と第1の接続導体71,73,75、第3の接続導体72,74,76との間の絶縁性能、あるいは空間的な位置関係は変更されない。したがって、第7の実施形態の半導体パワーモジュール117によれば、少ない部品点数で第1の実施形態と同様の浮遊インダクタンス低減効果やノイズ低減効果を得ることができる。
[第8の実施形態]
図25は、この発明の第8の実施形態に対応する半導体パワーモジュールの全体構成を示す平面図であり、
図26は、
図25の半導体パワーモジュールのY−Y断面構成を示す断面図である。
【0094】
図25の半導体パワーモジュール118では、裏面に第1の直流配線パターン1の直流配線パターン部10が接合され、表面に第2の直流配線パターン2が接合された第3の絶縁基板97が使用されている。この第3の絶縁基板97によって、第2の直流配線パターン2が第1の直流配線パターン1の上面に配置される。
【0095】
このように、第8の実施形態の半導体パワーモジュール118は、第5ないし第7の実施形態で左右に並べて配置されていた第1、第2の直流配線パターン1,2を、第3の絶縁基板97を介して上下方向に配置したものである。これにより、半導体パワーモジュール118では、直流配線パターン部10およびこれに接続する直流配線パターン部11〜13と、交流配線パターン31〜33だけが、第1の絶縁基板4上の同一平面に接合されることになる。これによって、スイッチング時の電流経路を囲む面積がさらに小さくなる。その他の構成は第1の実施形態と同一であるので、
図25および
図26では対応する番号を付けてそれらの説明を省略する。
【0096】
以上、第8の実施形態によれば、第2の直流配線パターン2の位置を変更しても、第1の接続導体71,73,75および第3の接続導体72,74,76と第2の接続導体81,83,85および第4の接続導体82,84,86との間の絶縁性能、あるいは空間的な位置関係は変更されない。したがって、第8の実施形態の半導体パワーモジュール118によれば、第1および第2の直流配線パターン1,2の浮遊インダクタンスを確実に低減でき、上述した第5ないし第7の実施形態と同様の浮遊インダクタンス低減効果やノイズ低減効果を得ることができる。
[第9の実施形態]
図27は、第9の実施形態に係る半導体パワーモジュールの全体構成を示す平面図である。
【0097】
第9の実施形態では、第2の直流配線パターン2を第1の直流配線パターン1と交流配線パターン3との中間位置に配置している。さらに、この半導体パワーモジュール119では、
図12に示した第5の実施形態における第1の接続導体71,73,75に第2の絶縁基板91,93,95を介して、第2の接続導体81,83,85を配置することで、第4の接続導体82,84,86を省略している。
【0098】
ここでは、第2の接続導体81,83,85、第4の接続導体82,84,86を共通化しても、第1の接続導体71,73,75および第3の接続導体72,74,76と第2の接続導体81,83,85との間の絶縁や空間的な位置関係は変わらない。したがって、第9の実施形態によれば少ない部品点数で、第5の実施形態と同様の浮遊インダクタンス低減効果やノイズ低減効果を得ることができる。
【0099】
なお、ここまで説明した第5ないし第9の実施形態において、IGBT11s〜13sとIGBT31s〜33sをMOSFETやバイポーラトランジスタ等に置き換えても、それらの接続に用いられる交流配線用の導体7(第1の接続導体71,73,75および第3の接続導体72,74,76)と直流配線用の導体8(第2の接続導体81,83,85および第4の接続導体82,84,86)との間の絶縁性能、あるいは空間的な位置関係は変わらない。また、第5ないし第9の実施形態において、IGBT31s〜33sとFWD11d〜13dだけをそれぞれMOSFETやバイポーラトランジスタ等に置き換えて、残りのFWD31d〜33dとIGBT11s〜13sを省略する場合でも、第1の接続導体71,73,75と第2の接続導体81,83,85との間の絶縁性能、あるいは空間的な位置関係は変わらない。したがって、半導体チップとしてMOSFETやバイポーラトランジスタ等を使用した半導体装置についても、同様に浮遊インダクタンスの低減効果やノイズ低減効果を実現することができる。
【0100】
さらに、配線パターンの熱抵抗はセラミック基板の熱抵抗に比べ小さく無視できると仮定し、半導体チップの冷却性能について検討する。第5ないし第9の実施形態に記載された半導体チップは第1の絶縁基板4を介して放熱体5に接続されている構造であり、従来技術として説明したものと同等な熱抵抗を実現できる。したがって、第5ないし第9の実施形態に記載した半導体装置では、従来技術に記載された半導体チップと同等の冷却性能が維持できる。
[第10の実施形態]
つぎに、第6、第7、第8の実施形態で説明したような、第2の接続導体81,83,85と第1の接続導体71,73,75および第3の接続導体72,74,76を一体化した配線部材について、その製作工程を説明する。
【0101】
図28は、導体バーの組立て工程を説明する図である。
図28において破線部は谷折線、一点破線は山折線を示す。
図28(A)に示す形状に切断された板状の導体80を、同図(B)に示すように折り曲げ加工をする。これにより、導体80が第2の接続導体81と導電性の支持部材81a,81bとして一体に成型できる。
【0102】
図28(C)に示す形状に切断された板状の導体70R,70Lを、同図(D)に示すように折り曲げ加工をする。これにより、導体70R,70Lがそれぞれ第1の接続導体71と導電性の支持部材71a,71b、および第3の接続導体72と導電性の支持部材72a,72bとして一体に成型できる。
【0103】
その後、
図28(E)に示す形状の絶縁基板90を用意して、折り曲げ加工済みの導体80の両面に接合したうえで、さらに絶縁基板90の両側にそれぞれ折り曲げ加工済みの導体70R,70Lを接合する。こうして、各相U,V,Wの配線用接続導体をそれぞれ一体化した配線用の導体バーとして組み立てることができる。
【0104】
なお、折り曲げ加工より先に接合加工を行ってもよく、絶縁基板90はセラミック基板以外の絶縁物であってもよい。
図29は、別の導体バーの組立て工程を説明する図である。
【0105】
図29では、同図(C)に示すように、一枚の板状の導体70Wを折り曲げ加工することにより、第1の接続導体71と第3の接続導体72を一体のものとして成型している。この場合には、一体化した接続導体70Wを、同図(E)に示す形状の絶縁基板90の両側を跨ぐように配置すれば良い。第5および第9の実施形態に用いられる導体バーも、同様な構成により一体化した配線部材として組み立てることができる。
【0106】
以上、この発明の実施形態によれば、配線部材の一体化により半導体パワーモジュールの部品数を低減できる。また、部品数の低減により位置決め等の工程を少なくでき、生産コストを抑えることができる。