【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン(HCC-240db)を出発原料として用い、これを気相中で特定の酸化クロム触媒の存在下において、酸素の存在下、フッ化水素(HF)と加熱下で反応させる方法によれば、驚くべきことに、一段階の反応操作によって、目的とするHFO-1234yfを高収率で製造することができ、従来のHFO-1234yfの製造方法における欠点を解消して、工業的スケールにおいて、HFO-1234yfを効率良く製造することが可能となることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。尚、本発明で酸化クロム触媒と記すとき、酸化クロム又は酸化クロムをフッ素化して得られるフッ素化酸化クロムを含む場合がある。
【0011】
また、本発明は、出発原料に1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン(HCC-240db)を用いることにより、重合禁止剤などの安定剤を不要とすることができる。更に、反応器出口の生成物のうち、構造式がCF
3R (Rが-CCl=CH
2である化合物(HCFC-1233xf), Rが-CF
2CH
3である化合物(HFC-245cb))で表される化合物(有用物)のうち、少なくとも1つの化合物とフッ化水素(HF)を反応器にリサイクルすることにより、簡便な方法で、HFO-1234yfを効率良く製造することができる。
【0012】
即ち、本発明は、下記の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法を提供するものである。
1. 2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法であって、
(1)反応器において、
(1-1) 1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパンと、前記1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン1モルに対して10〜100モルのフッ化水素とを、
(1-2) 組成式:CrOm(1.5<m<3)で表される酸化クロム又は該酸化クロムをフッ素化して得られるフッ素化酸化クロムの存在下で、
(1-3) 前記1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン1モルに対して0.02〜1モルの酸素の存在下で、
(1-4) 320〜390℃の温度範囲の気相状態で反応させて、
2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含む反応生成物を得る工程
を含む、製造方法。
2. 前記工程(1)で得られた前記反応生成物が、塩化水素と、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン及び1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパンから選ばれる少なくとも1つの化合物と、フッ化水素とを含み、
(2)前記反応生成物中の2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン及び1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパンから選ばれる少なくとも1つの化合物と、フッ化水素とを前記反応器に再循環させる工程
を更に含む、上記項1に記載の製造方法。
3. 前記1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン1モルに対する前記フッ化水素が、15〜50モルである、上記項1又は2に記載の方法。
4. 前記反応器の反応圧力が0.08〜0.8MPaである、上記項1〜3のいずれかに記載の方法。
5. 前記工程(1)及び工程(2)を連続的に行う、上記項2〜4のいずれかに記載の方法。
【0013】
以下、本発明の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法について具体的に説明する。
【0014】
(1)原料化合物
本発明では、原料化合物としては、1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン(HCC-240db)を用いる。この化合物を原料として、後述する条件に従ってフッ化水素(HF)との反応を行うことによって、一段階の反応工程で、目的とする2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)を高収率で製造できる。1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン(HCC-240db)は、入手が容易で安価な化合物である点において有利な原料化合物である。
【0015】
(2)反応方法
本発明の製造方法は、反応器内で、特定の酸化クロム触媒の存在下において、加熱下に、上記1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン(HCC-240db)とフッ化水素とを、酸素の存在下、気相状態で反応させる方法である。即ち、本発明の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法は、
(1)反応器において、
(1-1) 1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパンと、前記1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン1モルに対して10〜100モルのフッ化水素とを、
(1-2) 組成式:CrOm(1.5<m<3)で表される酸化クロム又は該酸化クロムをフッ素化して得られるフッ素化酸化クロムの存在下で、
(1-3) 前記1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン1モルに対して0.02〜1モルの酸素の存在下で、
(1-4) 320〜390℃の温度範囲の気相状態で反応させて、
2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含む反応生成物を得る工程
を含む、ことを特徴とする。
【0016】
この様な条件下において、上記原料化合物をフッ化水素と反応させることによって、一段階の反応工程によって、高い選択率で目的とする2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)を得ることができる。
【0017】
本発明の製造方法では、上記した原料化合物とフッ化水素とを気相状態で反応させることが重要である。本発明方法で用いる反応器の形態は特に限定されるものではなく、例えば、触媒を充填した断熱反応器や、熱媒体を用いて除熱・反応器内の温度分布を均一化した多管型反応器等を用いることもできる。尚、反応器材質としては、ハステロイ(HASTALLOY)、インコネル(INCONEL)、モネル(MONEL)及びインコロイ(INCOLLOY)等のフッ化水素の腐食作用に抵抗性がある材料によって構成されるものを用いることが好ましい。
【0018】
フッ化水素(HF)は、通常、原料化合物と共に、気相状態で反応器に供給すればよい。フッ化水素の供給量は、上記した1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン(原料化合物、HCC-240db)1モルに対して、10〜100モルの範囲であり、15〜50モル程度の範囲とすることが好ましく、15〜35モル程度の範囲とすることがより好ましい。フッ化水素の供給量を前記範囲とすることで、不純物の生成を低減することができ、生成物のHFO-1234yfの選択率が高く、高収率で回収することができる。
【0019】
酸素は、通常、原料化合物である1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン(HCC-240db)1モルに対して、0.02〜1モルの存在下で供給する。酸素は、HCC-240db 1モルに対して、0.05〜0.5モル程度の範囲を供給することが好ましく、0.05〜0.4モル程度の範囲を供給することがより好ましい。酸素の供給量を前記範囲とすることで、触媒劣化を防ぐことができ、高い触媒活性を維持することができる。酸素を供給する形態として、酸素のみで供給しても良いし、あるいは、窒素(airとして供給しても良い)、ヘリウム及びアルゴン等の不活性ガスで希釈して供給しても良い。
【0020】
また、反応温度は、反応器の中の温度として、320〜390℃の範囲であり、330〜380℃程度がより好ましく、気相状態での反応を行う温度である。この温度範囲より高温になるとHFO-1234yfの選択率が低下し、低温になると良好な触媒活性を持続できる期間が低下するので、いずれも好ましくない。
【0021】
上記反応条件と、後述する特定の酸化クロム触媒の存在下によれば、反応器出口では、CF
3CF=CH
2(2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、HFO-1234yf)を含む反応生成物を得ることができる。そして、この反応生成物から、CF
3CF=CH
2(2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、HFO-1234yf)を分離して回収することができる。
【0022】
前記工程(1)で得られた前記反応生成物には、CF
3CF=CH
2(2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、HFO-1234yf)の他に、原料化合物の1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン(HCC-240db)から生成される塩化水素(HCl)、及び、供給したフッ化水素(HF)が含まれる。更に、前記反応生成物には、CF
3CCl=CH
2(2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、HCFC-1233xf)及びCF
3CF
2CH
3(1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン、HFC-245cb)から選ばれる少なくとも1つの化合物が含まれる場合がある。
【0023】
この場合、これらの成分のうち、CF
3CF=CH
2(2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、HFO-1234yf)を分離して回収し、塩化水素(HCl)を除去した後、CF
3CCl=CH
2(2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、HCFC-1233xf) 及びCF
3CF
2CH
3(1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン、HFC-245cb)から選ばれる少なくとも1つの化合物(有用物)と、フッ化水素(HF)とを、前記工程(1)で使用した反応器に再循環させることが好ましい(工程(2))。この再循環の操作を更に含むことにより、良好な収率でHFO-1234yfを製造することができる。
【0024】
前記有用物を再循環させる場合(工程(2))、前記フッ化水素及び酸素の供給量、使用する酸化クロム等の触媒、並びに反応温度は、前記工程(1)に準じた条件であることが好ましい。
【0025】
また、前記2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン及び1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパンから選ばれる少なくとも1つの化合物(有用物)を、別の反応器に供給して、この有用物から2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを製造することもできる。
【0026】
反応器内の反応時の圧力については、上記した1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン(HCC-240db)とフッ化水素が気相状態で存在できる圧力で実施することができ、常圧下、加圧下又は減圧下のいずれでもよく、0.08〜0.8Mpaの範囲内が好ましい。
【0027】
反応時間については、特に限定的ではないが、通常、触媒充填量W(g)と反応系に流す原料ガスの全流量Fo(0℃、1atmでの流量:cc/sec)との比率:W/Foで表される接触時間を2〜30 g・sec/cc、好ましくは4〜20 g・sec/cc程度の範囲とすればよい。反応時間(W/Fo)を前記範囲とすることで、高いHFO-1234yfの選択率を維持することができる。
【0028】
尚、前記反応器内の反応時の圧力及び反応時間は、前述の工程(1)及び(2)の両工程に適用することができる。
【0029】
また、本発明の製造方法においては、前記工程(1)及び工程(2)を連続的に行うことにより、より良好な収率でHFO-1234yfを製造することができる。例えば、(i)前記工程(1)の反応を行い、(ii)次に反応器出口成分のうち、HClを分離・除去し、(iii)次にHFO-1234yfを分離し、(iv)次にHFC-245cb及びHCFC-1233xfのうち少なくとも1つの化合物とHFとを再循環させることで、前記工程(1)及び工程(2)の連続的な操作とすることができる。
【0030】
以上、上記した反応条件の範囲内と、以下に説明する触媒を用いることにより、優れたHFO-1234yfの製造方法を達成することができる。そして、分離・回収して得られたHFO-1234yfは、蒸留などによって精製し、反応により生成した不純物を除去した後に回収することができ、そのまま目的とする用途に用いても良いし、他の化合物へと変換することもできる。
【0031】
HCC-240dbからHFO-1234yfを製造する本発明の概念を以下のスキームに示す。
【0032】
【化1】
【0033】
本発明で用いる特定の触媒の内で、酸化クロムとしては、例えば、組成式:CrOmにおいて、mが1.5<m<3の範囲にあるもの、好ましくは2≦m≦2.75の範囲にあるもの、より好ましくは2≦m≦2.3の範囲にあるものを用いることができる。酸化クロム触媒の形状は粉末状、ペレット状など反応に適していればいかなる形状のものも使用できる。なかでもペレット状のものが好ましい。
【0034】
上記した酸化クロム触媒は、例えば、特開平5-146680号公報に記載された方法によって調製することができる。また、フッ素化された酸化クロムについては、特開平5-146680号公報に記載された方法によって調製することができる。例えば、上記した方法で得られる酸化クロムをフッ化水素によりフッ素化(HF処理)することによって、フッ素化酸化クロムを得ることができる。フッ素化の温度は、例えば100〜460℃程度とすればよい。
【0035】
フッ素化処理により触媒の表面積は低下するが、一般に高比表面積である程活性が高くなる。フッ素化された段階での比表面積は、25〜130 m
2/g程度であることが好ましく、40〜100 m
2/g程度であることがより好ましいが、この範囲に限定されるものではない。
【0036】
酸化クロムのフッ素化反応は、後述する本発明方法の実施に先立って、酸化クロムを充填した反応器にフッ化水素を供給することによって行ってもよい。この方法で酸化クロムをフッ素化した後、原料とする1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン(HCC-240db)を反応器に供給することによって、CF
3CF=CH
2(HFO-1234yf)の生成反応を進行させることができる。
【0037】
フッ素化の程度については、特に限定的ではないが、例えば、フッ素含有量が10〜30%程度までのものを好適に用いることができる。
【0038】
更に、特開平11-171806号公報に記載されている、インジウム、ガリウム、コバルト、ニッケル、亜鉛及びアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素が添加されたクロム化合物を主成分とし、前記クロム化合物におけるクロムの平均原子価数が+3.5以上、+5.0以下であり、かつ、非晶質状態にあるクロム系触媒についても、本発明において、酸化クロム触媒又はフッ素化された酸化クロム触媒として用いることができる。
【0039】
上記した酸化クロム又はフッ素化された酸化クロムからなるフッ素化触媒は、アルミナ、活性炭等の担体に担持して使用することもできる。
【0040】
本発明では、フッ素化処理をした酸化クロムを用いて反応を行うことから、特に、フッ素化酸化クロムを用いることが好ましい。