特許第5704264号(P5704264)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許57042642,3,3,3−テトラフルオロプロペンの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5704264
(24)【登録日】2015年3月6日
(45)【発行日】2015年4月22日
(54)【発明の名称】2,3,3,3−テトラフルオロプロペンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 17/25 20060101AFI20150402BHJP
   C07C 21/18 20060101ALI20150402BHJP
   B01J 27/132 20060101ALI20150402BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20150402BHJP
【FI】
   C07C17/25
   C07C21/18
   B01J27/132 Z
   !C07B61/00 300
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-557969(P2013-557969)
(86)(22)【出願日】2012年6月22日
(65)【公表番号】特表2014-523395(P2014-523395A)
(43)【公表日】2014年9月11日
(86)【国際出願番号】JP2012066633
(87)【国際公開番号】WO2013015068
(87)【国際公開日】20130131
【審査請求日】2013年12月20日
(31)【優先権主張番号】61/511,663
(32)【優先日】2011年7月26日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】能勢 雅聡
(72)【発明者】
【氏名】小松 雄三
【審査官】 前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2009/0240090(US,A1)
【文献】 国際公開第2010/116150(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/101198(WO,A1)
【文献】 特開平11−180908(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 17/00
C07C 21/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法であって、
(1)反応器において、
(1-1) 1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパンと、前記1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン1モルに対して10〜100モルのフッ化水素とを、
(1-2) 組成式:CrOm(1.5<m<3)で表される酸化クロム又は該酸化クロムをフッ素化して得られるフッ素化酸化クロムの存在下で、
(1-3) 前記1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン1モルに対して0.02〜1モルの酸素の存在下で、
(1-4) 320〜390℃の温度範囲の気相状態で反応させて、
2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含む反応生成物を得る工程
を含む、製造方法。
【請求項2】
前記工程(1)で得られた前記反応生成物が、塩化水素と、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン及び1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパンから選ばれる少なくとも1つの化合物と、フッ化水素とを含み、
(2)前記反応生成物中の2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン及び1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパンから選ばれる少なくとも1つの化合物と、フッ化水素とを前記反応器に再循環させる工程
を更に含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン1モルに対する前記フッ化水素が、15〜50モルである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記反応器の反応圧力が0.08〜0.8MPaである、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記工程(1)及び工程(2)を連続的に行う、請求項2〜4のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハロプロペンの一つである化学式:CF3CF=CH2(HFO-1234yf)で表される2,3,3,3-テトラフルオロプロペンは、冷媒として有用な化合物であり、オゾン破壊係数(ODP)がゼロでありかつ地球温暖化係数(GWP)が極めて小さいため、代替フロンとして使用可能な冷媒及び混合冷媒等の構成成分として注目されている。また、噴射剤、熱交換媒体及び消化剤にも有用である他、重合体におけるモノマー成分としても有用である。
【0003】
HFO-1234yfの製造方法としては、例えばCX3CHClCH2X (X = F, Cl, Br, Iのうち、いずれかのハロゲン元素であり、同一でも異なっていてもよい)で表される化合物を気相でCr触媒と作用させることにより、直接CF3CF=CH2(HFO-1234yf)を含む成分として製造する方法が特許文献1に記載されている。しかしながら、この方法は、不純物が多く生成するため収率が低く、改善が必要である上、触媒が短時間で劣化するために、実用的な方法ではない。
【0004】
また、下記特許文献2には、CH2ClCCl=CCl2で表されるHCC-1230xaを出発物質として、フッ素化触媒の存在下にHFと反応させて、CF3CCl=CH2で表されるHCFC-1233xfを製造し、更にCF3CFClCH3で表されるHCFC-244bbを経由してHFO-1234yfを製造する方法が記載されている。しかしながら、この方法では、工程が複雑でありかつ長く多段階に及ぶため、経済性に問題がある。
【0005】
また、下記特許文献3には、CCl3CHClCH2Clで表されるHCC-240dbを出発物質としてフッ素化されたCr触媒存在下で気相中、反応温度255℃でHFと反応させる方法が記載されているが、この方法ではHFO-1234yfがHFC-245cbと合わせてわずか0.5%生成しているのみであり、主生成物はHCFC-1233xf(98.3%生成)であるため、HFO-1234yfの実用的な製法とは言えない。
【0006】
更に、下記特許文献4では、CH2ClCCl=CCl2で表されるHCC-1230xaを出発物質として、気相中、150psi以上の圧力下でHFにより活性化させたフッ素化触媒の存在下、酸素を同伴させながらHFと反応させることにより、一段の反応でHFO-1234yfを製造する方法が記載されている。しかしながら、この方法では、出発原料にHCC-1230xaを用いているために、オレフィン特有の重合による触媒劣化が進行し、それを抑制するためには酸素の同伴と重合禁止剤などの安定剤の両方が必要となり、経済的にコストアップの要因となっている。
【0007】
以上の通り、これらの方法については、いずれも問題点を有しているため、更なる改善が必要であり、工業的にHFO-1234yfを製造するための有効な方法とは言い難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO2008/054781号公報
【特許文献2】WO2007/079431号公報
【特許文献3】US2009/0240090号公報
【特許文献4】WO2009/158321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、工業的スケールでの実施に適した簡便かつ経済的に有利な方法によって、効率よく2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)を製造できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン(HCC-240db)を出発原料として用い、これを気相中で特定の酸化クロム触媒の存在下において、酸素の存在下、フッ化水素(HF)と加熱下で反応させる方法によれば、驚くべきことに、一段階の反応操作によって、目的とするHFO-1234yfを高収率で製造することができ、従来のHFO-1234yfの製造方法における欠点を解消して、工業的スケールにおいて、HFO-1234yfを効率良く製造することが可能となることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。尚、本発明で酸化クロム触媒と記すとき、酸化クロム又は酸化クロムをフッ素化して得られるフッ素化酸化クロムを含む場合がある。
【0011】
また、本発明は、出発原料に1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン(HCC-240db)を用いることにより、重合禁止剤などの安定剤を不要とすることができる。更に、反応器出口の生成物のうち、構造式がCF3R (Rが-CCl=CH2である化合物(HCFC-1233xf), Rが-CF2CH3である化合物(HFC-245cb))で表される化合物(有用物)のうち、少なくとも1つの化合物とフッ化水素(HF)を反応器にリサイクルすることにより、簡便な方法で、HFO-1234yfを効率良く製造することができる。
【0012】
即ち、本発明は、下記の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法を提供するものである。
1. 2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法であって、
(1)反応器において、
(1-1) 1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパンと、前記1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン1モルに対して10〜100モルのフッ化水素とを、
(1-2) 組成式:CrOm(1.5<m<3)で表される酸化クロム又は該酸化クロムをフッ素化して得られるフッ素化酸化クロムの存在下で、
(1-3) 前記1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン1モルに対して0.02〜1モルの酸素の存在下で、
(1-4) 320〜390℃の温度範囲の気相状態で反応させて、
2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含む反応生成物を得る工程
を含む、製造方法。
2. 前記工程(1)で得られた前記反応生成物が、塩化水素と、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン及び1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパンから選ばれる少なくとも1つの化合物と、フッ化水素とを含み、
(2)前記反応生成物中の2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン及び1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパンから選ばれる少なくとも1つの化合物と、フッ化水素とを前記反応器に再循環させる工程
を更に含む、上記項1に記載の製造方法。
3. 前記1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン1モルに対する前記フッ化水素が、15〜50モルである、上記項1又は2に記載の方法。
4. 前記反応器の反応圧力が0.08〜0.8MPaである、上記項1〜3のいずれかに記載の方法。
5. 前記工程(1)及び工程(2)を連続的に行う、上記項2〜4のいずれかに記載の方法。
【0013】
以下、本発明の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法について具体的に説明する。
【0014】
(1)原料化合物
本発明では、原料化合物としては、1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン(HCC-240db)を用いる。この化合物を原料として、後述する条件に従ってフッ化水素(HF)との反応を行うことによって、一段階の反応工程で、目的とする2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)を高収率で製造できる。1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン(HCC-240db)は、入手が容易で安価な化合物である点において有利な原料化合物である。
【0015】
(2)反応方法
本発明の製造方法は、反応器内で、特定の酸化クロム触媒の存在下において、加熱下に、上記1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン(HCC-240db)とフッ化水素とを、酸素の存在下、気相状態で反応させる方法である。即ち、本発明の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法は、
(1)反応器において、
(1-1) 1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパンと、前記1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン1モルに対して10〜100モルのフッ化水素とを、
(1-2) 組成式:CrOm(1.5<m<3)で表される酸化クロム又は該酸化クロムをフッ素化して得られるフッ素化酸化クロムの存在下で、
(1-3) 前記1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン1モルに対して0.02〜1モルの酸素の存在下で、
(1-4) 320〜390℃の温度範囲の気相状態で反応させて、
2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含む反応生成物を得る工程
を含む、ことを特徴とする。
【0016】
この様な条件下において、上記原料化合物をフッ化水素と反応させることによって、一段階の反応工程によって、高い選択率で目的とする2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)を得ることができる。
【0017】
本発明の製造方法では、上記した原料化合物とフッ化水素とを気相状態で反応させることが重要である。本発明方法で用いる反応器の形態は特に限定されるものではなく、例えば、触媒を充填した断熱反応器や、熱媒体を用いて除熱・反応器内の温度分布を均一化した多管型反応器等を用いることもできる。尚、反応器材質としては、ハステロイ(HASTALLOY)、インコネル(INCONEL)、モネル(MONEL)及びインコロイ(INCOLLOY)等のフッ化水素の腐食作用に抵抗性がある材料によって構成されるものを用いることが好ましい。
【0018】
フッ化水素(HF)は、通常、原料化合物と共に、気相状態で反応器に供給すればよい。フッ化水素の供給量は、上記した1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン(原料化合物、HCC-240db)1モルに対して、10〜100モルの範囲であり、15〜50モル程度の範囲とすることが好ましく、15〜35モル程度の範囲とすることがより好ましい。フッ化水素の供給量を前記範囲とすることで、不純物の生成を低減することができ、生成物のHFO-1234yfの選択率が高く、高収率で回収することができる。
【0019】
酸素は、通常、原料化合物である1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン(HCC-240db)1モルに対して、0.02〜1モルの存在下で供給する。酸素は、HCC-240db 1モルに対して、0.05〜0.5モル程度の範囲を供給することが好ましく、0.05〜0.4モル程度の範囲を供給することがより好ましい。酸素の供給量を前記範囲とすることで、触媒劣化を防ぐことができ、高い触媒活性を維持することができる。酸素を供給する形態として、酸素のみで供給しても良いし、あるいは、窒素(airとして供給しても良い)、ヘリウム及びアルゴン等の不活性ガスで希釈して供給しても良い。
【0020】
また、反応温度は、反応器の中の温度として、320〜390℃の範囲であり、330〜380℃程度がより好ましく、気相状態での反応を行う温度である。この温度範囲より高温になるとHFO-1234yfの選択率が低下し、低温になると良好な触媒活性を持続できる期間が低下するので、いずれも好ましくない。
【0021】
上記反応条件と、後述する特定の酸化クロム触媒の存在下によれば、反応器出口では、CF3CF=CH2(2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、HFO-1234yf)を含む反応生成物を得ることができる。そして、この反応生成物から、CF3CF=CH2(2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、HFO-1234yf)を分離して回収することができる。
【0022】
前記工程(1)で得られた前記反応生成物には、CF3CF=CH2(2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、HFO-1234yf)の他に、原料化合物の1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン(HCC-240db)から生成される塩化水素(HCl)、及び、供給したフッ化水素(HF)が含まれる。更に、前記反応生成物には、CF3CCl=CH2(2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、HCFC-1233xf)及びCF3CF2CH3(1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン、HFC-245cb)から選ばれる少なくとも1つの化合物が含まれる場合がある。
【0023】
この場合、これらの成分のうち、CF3CF=CH2(2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、HFO-1234yf)を分離して回収し、塩化水素(HCl)を除去した後、CF3CCl=CH2(2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、HCFC-1233xf) 及びCF3CF2CH3(1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン、HFC-245cb)から選ばれる少なくとも1つの化合物(有用物)と、フッ化水素(HF)とを、前記工程(1)で使用した反応器に再循環させることが好ましい(工程(2))。この再循環の操作を更に含むことにより、良好な収率でHFO-1234yfを製造することができる。
【0024】
前記有用物を再循環させる場合(工程(2))、前記フッ化水素及び酸素の供給量、使用する酸化クロム等の触媒、並びに反応温度は、前記工程(1)に準じた条件であることが好ましい。
【0025】
また、前記2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン及び1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパンから選ばれる少なくとも1つの化合物(有用物)を、別の反応器に供給して、この有用物から2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを製造することもできる。
【0026】
反応器内の反応時の圧力については、上記した1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン(HCC-240db)とフッ化水素が気相状態で存在できる圧力で実施することができ、常圧下、加圧下又は減圧下のいずれでもよく、0.08〜0.8Mpaの範囲内が好ましい。
【0027】
反応時間については、特に限定的ではないが、通常、触媒充填量W(g)と反応系に流す原料ガスの全流量Fo(0℃、1atmでの流量:cc/sec)との比率:W/Foで表される接触時間を2〜30 g・sec/cc、好ましくは4〜20 g・sec/cc程度の範囲とすればよい。反応時間(W/Fo)を前記範囲とすることで、高いHFO-1234yfの選択率を維持することができる。
【0028】
尚、前記反応器内の反応時の圧力及び反応時間は、前述の工程(1)及び(2)の両工程に適用することができる。
【0029】
また、本発明の製造方法においては、前記工程(1)及び工程(2)を連続的に行うことにより、より良好な収率でHFO-1234yfを製造することができる。例えば、(i)前記工程(1)の反応を行い、(ii)次に反応器出口成分のうち、HClを分離・除去し、(iii)次にHFO-1234yfを分離し、(iv)次にHFC-245cb及びHCFC-1233xfのうち少なくとも1つの化合物とHFとを再循環させることで、前記工程(1)及び工程(2)の連続的な操作とすることができる。
【0030】
以上、上記した反応条件の範囲内と、以下に説明する触媒を用いることにより、優れたHFO-1234yfの製造方法を達成することができる。そして、分離・回収して得られたHFO-1234yfは、蒸留などによって精製し、反応により生成した不純物を除去した後に回収することができ、そのまま目的とする用途に用いても良いし、他の化合物へと変換することもできる。
【0031】
HCC-240dbからHFO-1234yfを製造する本発明の概念を以下のスキームに示す。
【0032】
【化1】
【0033】
本発明で用いる特定の触媒の内で、酸化クロムとしては、例えば、組成式:CrOmにおいて、mが1.5<m<3の範囲にあるもの、好ましくは2≦m≦2.75の範囲にあるもの、より好ましくは2≦m≦2.3の範囲にあるものを用いることができる。酸化クロム触媒の形状は粉末状、ペレット状など反応に適していればいかなる形状のものも使用できる。なかでもペレット状のものが好ましい。
【0034】
上記した酸化クロム触媒は、例えば、特開平5-146680号公報に記載された方法によって調製することができる。また、フッ素化された酸化クロムについては、特開平5-146680号公報に記載された方法によって調製することができる。例えば、上記した方法で得られる酸化クロムをフッ化水素によりフッ素化(HF処理)することによって、フッ素化酸化クロムを得ることができる。フッ素化の温度は、例えば100〜460℃程度とすればよい。
【0035】
フッ素化処理により触媒の表面積は低下するが、一般に高比表面積である程活性が高くなる。フッ素化された段階での比表面積は、25〜130 m2/g程度であることが好ましく、40〜100 m2/g程度であることがより好ましいが、この範囲に限定されるものではない。
【0036】
酸化クロムのフッ素化反応は、後述する本発明方法の実施に先立って、酸化クロムを充填した反応器にフッ化水素を供給することによって行ってもよい。この方法で酸化クロムをフッ素化した後、原料とする1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン(HCC-240db)を反応器に供給することによって、CF3CF=CH2(HFO-1234yf)の生成反応を進行させることができる。
【0037】
フッ素化の程度については、特に限定的ではないが、例えば、フッ素含有量が10〜30%程度までのものを好適に用いることができる。
【0038】
更に、特開平11-171806号公報に記載されている、インジウム、ガリウム、コバルト、ニッケル、亜鉛及びアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素が添加されたクロム化合物を主成分とし、前記クロム化合物におけるクロムの平均原子価数が+3.5以上、+5.0以下であり、かつ、非晶質状態にあるクロム系触媒についても、本発明において、酸化クロム触媒又はフッ素化された酸化クロム触媒として用いることができる。
【0039】
上記した酸化クロム又はフッ素化された酸化クロムからなるフッ素化触媒は、アルミナ、活性炭等の担体に担持して使用することもできる。
【0040】
本発明では、フッ素化処理をした酸化クロムを用いて反応を行うことから、特に、フッ素化酸化クロムを用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0041】
本発明の方法によれば、1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン(HCC-240db)を原料として、一段階の反応操作によって、比較的短い接触時間で、選択率が高く、高収率で2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)を製造することができる。更に、本発明の方法によれば、HFO-1234yfを高収率で得ることができると共に、HFO-1234yf以外の化合物であり、HFO-1234yfの前駆体となる、CF3CCl=CH2(HCFC-1233xf) 及びCF3CF2CH3(HFC-245cb)等の有用物についても、選択率が高く、高収率で得ることもでき、再循環(リサイクル)させて、HFO-1234yf製造の原料として使用することができる。
【0042】
また、本発明の製造法は、常圧や減圧状態等の穏和な条件下で実施が可能であり、連続製造に適した気相反応を利用する製造方法である。
【0043】
更に、本発明方法によれば、従来の触媒を用いる製造方法の欠点を解消した上で、触媒の長寿命を維持しながら目的とする2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを得ることができる。
【0044】
このため、本発明の方法は、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)の製造方法として工業的に非常に有利な方法である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、原料である1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン(HCC-240db)の製造例と、本発明の実施例を記載して本発明を更に詳細に説明する。
【0046】
製造例1
以下の(1)〜(3)の工程を順次行うことにより、1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン(HCC-240db)を製造した。
【0047】
(1) 1,1,1,3-テトラクロロプロパン(HCC-250fb)の製造工程
温度計、真空ライン、窒素パージライン、仕込みライン、ゲージ及び圧力開放弁を設置した1000mlオートクレーブに、軟鉄粉9.72g(171mmol)、トリエチルフォスフェート48g(260mmol)、塩化第二鉄200mg、及び四塩化炭素810g(5.26mol)を仕込み、窒素で5回、エチレンで1回パージした。オートクレーブ内を真空にして攪拌しながらエチレンをゲージ圧0.4MPaになるまで仕込んだ。110℃まで加熱すると反応が始まり、内温は134℃まで上昇し、圧力は0.8MPaから0.25MPaまで低下した。エチレン圧を0.8MPaに保ちながら、内温120℃で9時間攪拌した。その後、トリエチルフォスフェート24g(130mmol)を圧入して、更に120℃で7時間反応させた。
【0048】
反応終了後、粗生成物をガスクロマトグラフィーにて分析し、四塩化炭素が完全に消費されたことを確認した。粗生成物の3倍量の水で2回洗浄し、有機層を硫酸マグネシウム上で乾燥することによって、ガスクロマトグラフィー純度79.8%のHCC-250fbを得た。副生成物はエチレンにHClが付加したオリゴマーであった。
【0049】
得られた粗生成物を減圧下(10mmHg)で蒸留して、70〜74℃の留分を集めることにより、純度98%以上のHCC-250fb、814g(4.94mol、収率91%)を得た。
【0050】
(2) 1,1,3-トリクロロプロペン(HCC-1240za)と3,3,3-トリクロロプロペン(HCC-1240zf)の製造工程
温度計と冷却管を備えた1000ml四つ口フラスコに、上記(1)工程で得た540g(3.0mol)のHCC-250fbと40%KOH水溶液630g、相関移動触媒(aliquat 336)10gを仕込んだ。攪拌しながらオイルバスで80℃、3時間反応させた。反応終了後、冷却し減圧下(10〜20mmHg)で蒸留して、67.7〜81.9℃の留分を集めることにより、HCC-1240zf:HCC-1240za=62:38の混合物390g(2.68mol、収率89.3%)を得た。
【0051】
(3) 1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン(HCC-240db)の製造工程
上記工程(2)で得た1,1,3-トリクロロプロペン(HCC-1240za)と3,3,3-トリクロロプロペン(HCC-1240zf)の混合物265gを、高圧水銀灯、磁気攪拌子及び2個のガス口を備えた500mlフラスコに仕込み、氷浴中で0℃に冷却した。内容物に紫外光を照射しながら攪拌し、ガス口の一方から内容物の液面より上方に、20〜120mL/minで塩素ガスを導入した。時々反応混合物をサンプリングし、ガスクロマトグラフィーにて分析して、塩素化度を測定した。3時間後、全てのトリクロロプロペンが消費され、370gの生成物が得られた。得られた生成物を減圧下(3mmHg)で蒸留して51〜53℃の留分を集めることにより、1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン(HCC-240db)330gを純度99.6%で得た。
【0052】
実施例1
CrO2.0の組成からなる酸化クロムにフッ素化処理を施して得られた触媒17.2 g (フッ素含有量約17.0%)を、内径15mm、長さ1mの管状ハステロイ製反応器に充填した。反応器内部では、上部から差込み管を挿入し、触媒充填層の反応管内部の温度を3点測定し、これらの平均を反応温度とした。
【0053】
この反応器内を大気圧(1 atm)および300℃に維持し、無水フッ化水素(HF)を160 cc/min(0℃、1atmでの流量)、窒素(N2)を100 cc/min(0℃、1atmでの流量)で反応器に供給して2時間維持した。その後、窒素(N2)の供給を止め、反応器の温度を360℃に変更し、酸素(O2)を2.0cc/min(0℃、1atmでの流量)で反応器に供給して、更に1時間維持した後、1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン(HCC-240db、純度99.6%)を10.0cc/min(0℃、1atmでの流量)の速度で供給し、この時点で反応開始とした。1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン(HCC-240db)に対するHFのモル比は16であり、接触時間(W/F0)は6.0 g・sec/ccであった。
【0054】
反応生成物の内で、沸点が50℃以上の高沸点物については、以下に説明する方法で定量した。即ち、内部標準物質として所定量のパークロロエチレンを溶解したHCFC-225と氷水を混合して分液状態にしておき、反応器出口成分を一定時間HCFC-225層にバブリングして、有機物をHCFC-225層で抽出し、フッ化水素と塩化水素の酸分は氷水に溶解させた。
【0055】
抽出液は20℃まで加温し、HCFC-225層をガスクロマトグラフ(FID)で分析した。カラムにはDB-624(60m)のキャピラリーカラムを使用し、内部標準物質であるパークロロエチレンと各生成物との検出エリア比から、それぞれガスクロマトグラフでの係数を考慮して、各生成物の生成量をモル比に換算した。
【0056】
一方、沸点が50℃以下の低沸点物については、以下に説明する方法で定量した。即ち、反応器出口に水を入れた水洗塔を2本連結して接続し、ウォーターバスに浸して予め60℃に加温した後、反応器流出物を流し込み、バブリングさせて酸分を洗った後、CaCl2管を通して脱水したガス成分を捕集してガスクロマトグラフ(FID)で分析した。この時、反応器出口側から水洗塔に内部標準物質として所定量のHFC-32を同伴させた。カラムとしては、gsgaspro(60m)のキャピラリーカラムを使用し、内部標準物質であるHFC-32と各生成物との検出エリア比から、それぞれガスクロマトグラフでの係数を考慮して、各生成物の生成量をモル比に換算した。
【0057】
以上の方法を用いて反応開始から時間の経過に伴い、反応器出口成分の定量を行った。反応開始から22時間後と165時間後の結果をそれぞれ実施例1-1及び1-2として表1に示す。
【0058】
本実施例での生成物は以下の通りである。下記4つの化合物の内で、目的物であるHFO-1234yf以外の化合物は、いずれもHFO-1234yfの前駆体であり、リサイクルして原料として使用できるため有用物とみなす。
・CF3CF=CH2(HFO-1234yf)
・CF3CCl=CH2 (HCFC-1233xf)
・CF3CF2CH3(HFC-245cb)
以下の化合物は、本反応により生成する不純物とみなす。
・CF3CCl=CHCl (HCFC-1223xd-E体+Z体)
・CF3CH=CHCl (HCFC-1233zd-E体+Z体)
・CF3CH=CHF (HFC-1234ze-E体+Z体)
・CF3CH2CHF2(HFC-245fa)
・CF3CH=CH2 (HFC-1243zf)
【0059】
実施例2
使用した触媒の充填量を39.0gに変更し、反応器に供給する無水フッ化水素(HF)を224 cc/min(0℃、1atmでの流量)に、酸素(O2)を0.8cc/min(0℃、1atmでの流量)に、1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン(HCC-240db、純度99.6%)を8.0cc/min(0℃、1atmでの流量)に変更し、反応温度を355℃に変更した以外は、実施例1と同様の条件で反応を行った。1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン(HCC-240db)に対するHFのモル比は28であり、接触時間(W/F0)は10.1 g・sec/ccであった。反応開始から39時間の時点での分析結果を表1に示す。
【0060】
実施例3
使用した触媒の充填量を34.0gに変更し、反応器に供給する無水フッ化水素(HF)を192 cc/min(0℃、1atmでの流量)に、1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン(HCC-240db、純度99.6%)を8.0cc/min(0℃、1atmでの流量)に変更し、反応温度を345℃に変更した以外は、実施例1と同様の条件で反応を行った。1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン(HCC-240db)に対するHFのモル比は24であり、接触時間(W/F0)は10.1 g・sec/ccであった。反応開始から28時間の時点での分析結果を表1に示す。
【0061】
以下、比較例を示し、本発明の特徴との比較を行った。
【0062】
比較例1
反応器に供給する酸素(O2)を4.0cc/min(0℃、1atmでの流量)に、反応温度を305℃に変更した以外は、実施例1と同様の条件で反応を行った。1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン(HCC-240db)に対するHFのモル比は16であり、接触時間(W/F0)は5.9 g・sec/ccであった。反応開始から166時間後の結果を比較例1として表2に示す。
【0063】
本比較例では実施例で記載した生成物の他に中間体となる化合物が生成した。これらの化合物は以下の通りである。
・CCl2=CClCH2Cl (HCC-1230xa)
・CF2ClCCl=CH2(HCFC-1232xf)
・CFCl2CCl=CH2(HCFC-1231xf)
・CF2ClCHClCH2Cl(HCFC-242dc)
・CFCl2CHClCH2Cl(HCFC-241db)
【0064】
比較例2
温度を405℃に変更した以外は、実施例1と同様の条件で反応を行った。1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン(HCC-240db)に対するHFのモル比は16であり、接触時間(W/F0)は6.0 g・sec/ccであった。反応開始から12時間後の結果を比較例2として表2に示す。
【0065】
比較例3
反応器に酸素(O2)を全く供給せず、反応温度を355℃に変更した以外は、実施例1と同様の条件で反応を行った。1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン(HCC-240db)に対するHFのモル比は16であり、接触時間(W/F0)は6.1 g・sec/ccであった。反応開始から24時間後と190時間後の結果をそれぞれ比較例3-1及び3-2として表2に示す。
【0066】
比較例4
使用した触媒の充填量を15.2gに変更し、反応器に供給する無水フッ化水素(HF)を80 cc/min(0℃、1atmでの流量)に、酸素(O2)を1.0cc/min(0℃、1atmでの流量)に変更し、反応温度を355℃に変更した以外は実施例1と同様の条件で反応を行った。1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン(HCC-240db)に対するHFのモル比は8であり、接触時間(W/F0)は10.0 g・sec/ccであった。反応開始から16時間の時点での結果を比較例4として表2に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
表中、「モル比(HF/240db)」とは、1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン(HCC-240db)に対するHFのモル比を示すもので、例えば実施例1-1では、240dbの1モルに対しHFが16モル供給されていることを示している。
【0069】
表中、「O2/240db(mol%)」とは、1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン(HCC-240db)に対するO2のモル%比を示すもので、例えば実施例1-1では、240dbの100モルに対しO2が20モル(言い換えると、240db 1モルに対しO2が0.2モル)供給されていることを示している。
【0070】
【表2】
【0071】
比較例1は、反応温度が320℃未満であり、触媒活性を十分に維持できないことから、HFO-1234yfの選択率が低かった。
【0072】
また、比較例2は、反応温度が390℃を超えるものであり、有用物の選択率が低く、不純物の選択率が高かった。
【0073】
比較例3-1及び3-2は、酸素の供給を行わずに反応させたものであり、触媒活性が短時間で低下したことから、HFO-1234yfの選択率が低かった。
【0074】
比較例4は、HCC-240db 1モルに対するHFの供給量が10モル未満であり、不純物の選択率が高くなったことから、HFO-1234yfの選択率が低かった。
【0075】
一方、実施例は、HCC-240dbを出発原料として用い、特定の酸化クロム触媒の存在下において、HCC-240dbに対して特定量の酸素の存在下、HCC-240dbに対して特定量のHFと加熱下で反応させる方法により、HFO-1234yfを得るものであり、HFO-1234yfの選択率が高く、高収率で製造することができた。更に、実施例では、HFO-1234yf以外の化合物であり、HFO-1234yfの前駆体となる、CF3CCl=CH2(HCFC-1233xf) 及びCF3CF2CH3(HFC-245cb)等の有用物を選択率が高く、高収率で得ることもできた。これら有用物は、リサイクルして原料として使用することができた。