特許第5704388号(P5704388)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5704388-流体ポンプ 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5704388
(24)【登録日】2015年3月6日
(45)【発行日】2015年4月22日
(54)【発明の名称】流体ポンプ
(51)【国際特許分類】
   F04D 29/044 20060101AFI20150402BHJP
   F04D 29/42 20060101ALI20150402BHJP
【FI】
   F04D29/044
   F04D29/42 C
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2010-240750(P2010-240750)
(22)【出願日】2010年10月27日
(65)【公開番号】特開2012-92743(P2012-92743A)
(43)【公開日】2012年5月17日
【審査請求日】2013年9月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】アイシン精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107308
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 修一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100114959
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 徹也
(72)【発明者】
【氏名】服部 修二
【審査官】 加藤 一彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−006363(JP,A)
【文献】 特開2005−282371(JP,A)
【文献】 特開2003−314485(JP,A)
【文献】 特開昭59−165939(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 29/044
F04D 29/42
F04D 13/06
H02K 5/08
H02K 5/128
H02K 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプ部と、
固定されたステータとその内周側に回転自在に配設されたロータとを備えて前記ポンプ部を駆動するモータ部と、
少なくとも前記モータ部を収容するモータハウジングと、
前記ステータをインサート成形する合成樹脂材で構成され、前記モータハウジングに嵌合して前記ステータと前記ロータとの間を遮断する状隔壁部と、
前記ポンプ部を流通する流体の一部を冷却用として前記筒状隔壁部の内空部に迂回させる迂回路と、
前記筒状隔壁部と前記モータハウジングとの嵌合面の間に設けられたシールリングとを備え、
前記モータハウジングは、前記筒状隔壁部より耐熱性の高い材料で構成してあり、
前記シールリングを設置した前記モータハウジングと前記筒状隔壁部との筒状嵌合部において、前記筒状隔壁部に外嵌状態に備えた金属製のバンド部材で構成し、前記シールリングの当接力による前記筒状隔壁部のクリープ変形を抑制する体ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、インペラの回転駆動によって生じる流体の遠心力を利用したポンプ部と、前記ポンプ部を駆動するモータ部と、少なくとも前記モータ部を収容するモータハウジングと、前記モータハウジングの内周部に固定されたステータと、前記ステータの内周側で前記モータ部の回転駆動軸に備えられたロータと、前記ステータと前記ロータとの間を遮断する合成樹脂製の筒状隔壁部と、前記ポンプ部を流通する流体の一部を冷却用として前記筒状隔壁部の内空部に迂回させる迂回路とを備えた流体ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の流体ポンプとしては、ステータは、合成樹脂によって形成された有底筒状の筒部材の中に封入され、ロータは、筒部材の内空部で筒軸芯周りに回転自在に配置されたものがあり(例えば、特許文献1参照)、前記ステータとロータとは、前記筒部材の筒状隔壁部と底部とで密閉状態に遮られていた。
従って、ロータの周囲の前記迂回路に流通している流体は、合成樹脂製の前記筒部材によって遮られ、ステータ側へ漏出することが防止されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−144693号公報(図1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来の流体ポンプによれば、ステータとロータとの間の遮水性は確保されているものの、筒部材が合成樹脂製であるから放熱性に劣り、モータ部の回転制御を行う制御部での発熱をうまく放熱し難い問題点がある。
一般的には、筒部材の放熱性のみを考慮するならば、合成樹脂に替えてアルミニウム等の金属によって構成する方が好ましいが、前記ステータの絶縁性を確保する必要があることから少なくともステータの周囲部分は合成樹脂によって構成することが好ましい。
そこで、放熱性の向上と絶縁性の確保との双方を満たすものとして、ステータとロータとの間を遮断する筒状隔壁部を合成樹脂によって構成する一方、隣接する底部は、金属製のモータハウジングの一部として構成するものが考えられる。また、筒状隔壁部と底部とを嵌合構造として、互いの嵌合面の間にシールリングを備えることも防水性維持の観点から必要となる。
しかし、筒状隔壁部と底部との嵌合面には、互いにシールリングの弾性復元力が作用し続けるが、高温環境下においては、合成樹脂製の筒状隔壁部にはクリープ変形が発生してシールリングに対する抗力が低下する可能性があり、その結果、シールリングによる防水性が低下し、流体の漏れを起こしやすくなる新たな問題が考えられる。
【0005】
従って、本発明の目的は、上記問題点を解消し、モータ部での放熱性の向上と、流体漏れの防止とを叶えられる流体ポンプを提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の特徴構成は、ポンプ部と、固定されたステータとその内周側に回転自在に配設されたロータとを備えて前記ポンプ部を駆動するモータ部と、少なくとも前記モータ部を収容するモータハウジングと、前記ステータをインサート成形する合成樹脂材で構成され、前記モータハウジングに嵌合して前記ステータと前記ロータとの間を遮断する状隔壁部と、前記ポンプ部を流通する流体の一部を冷却用として前記筒状隔壁部の内空部に迂回させる迂回路と、前記筒状隔壁部と前記モータハウジングとの嵌合面の間に設けられたシールリングとを備え、前記モータハウジングは、前記筒状隔壁部より耐熱性の高い材料で構成してあり、前記シールリングを設置した前記モータハウジングと前記筒状隔壁部との筒状嵌合部において、前記筒状隔壁部に外嵌状態に備えた金属製のバンド部材で構成し、前記シールリングの当接力による前記筒状隔壁部のクリープ変形を抑制するころにある。
【0007】
本発明の徴構成によれば、モータ部での発熱をモータハウジングを介して放熱することができ、モータ部の放熱性の向上を図ることができる。
更には、変形抑制機構を設けてあるから、熱環境下においてシールリングの当接力を受ける筒状隔壁部のクリープ変形を抑制することができる。その結果、モータハウジングと筒状隔壁部との嵌合面におけるシールリングへの抗力を維持でき、シールリングによる防水性を確保し、モータ部からの流体漏れを防止できる。
【0008】
【0009】
また、筒状嵌合部において、モータハウジングに外嵌する筒状隔壁部の外周側から、前記バンド部材によって筒状隔壁部が拡径方向に変形するのを抑制でき、簡単な構造でありながら、筒状嵌合部における筒状隔壁部のクリープ変形を確実に抑制することができる。
【0010】
【0011】
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】流体ポンプの回転軸芯に直交する方向視での断面図
図2】別実施形態の流体ポンプの回転軸芯に直交する方向視での断面図
図3】別実施形態の流体ポンプの回転軸芯に直交する方向視での断面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1に示すように、本実施形態に係る流体ポンプ1は、ポンプ部2とポンプ部2を駆動するモータ部3と、モータ部3を制御するドライバ部4とを備えて構成してある。この流体ポンプ1は、ポンプ部2の側が不図示の車両用エンジンに取り付けられ、エンジン冷却水を循環させるためのウォータポンプとして機能する。
【0014】
ポンプ部2を収容しているポンプハウジング21は導電性の材料で構成してあり、筒状の吸入口21aと吐出口21bとが形成されている。この吸入口21a及び吐出口21bは、ポンプハウジング21の内部に形成されたインペラ室21cとそれぞれ連通している。インペラ室21cにはインペラ22が収容されており、インペラ22が回転すると、吸入口21aからインペラ室21cに流体が吸入されると共に、インペラ室21cから吐出口21bに流体が吐出される。
【0015】
モータ部3を収容しているモータハウジング31は、アルミ材で構成されている。アルミ材は導電性を有するので、ドライバ部4の基板42を設置するために利用することが可能となる。また、アルミ材は熱伝導性も高く有するので、モータ部3で発生した熱を、モータハウジング31を介して放熱し易くなる。但し、一定の導電性及び熱伝導性を有する材料であれば、モータハウジング31を他の材料で構成することも可能である。
【0016】
モータハウジング31の内部には、ステータ32、ステータ32の径方向内側に配設されるロータ36、及び、ロータ36の回転支軸である支軸38が設けられている。ステータ32にはコイル33が設けられ、ステータ32とコイル33とは合成樹脂で構成されるステータハウジング35によって鋳ぐるまれている。
【0017】
前記ステータハウジング35のうち、特に、ロータ36側に面する部分を、筒状隔壁部35bといい、ステータ32とロータ36との間を遮断している。
前記ステータハウジング35は、ポンプ部2の側に形成したフランジ部35aと、筒状隔壁部35bの一端部35cとをモータハウジング31に固定されている。
前記フランジ部35aは、ポンプハウジング21とモータハウジング31とで挟んだ状態でボルト締めされている。
前記一端部35cは、前記モータハウジング31の端面31aの裏面側(ポンプ部側)に形成された筒状の突出部31dに外嵌する状態で固定されている。
【0018】
前記筒状隔壁部35bの一端部35cは、ステータ32よりドライバ部4側に筒状のまま延出させてあり、この一端部35cと、モータハウジング31の突出部31dとによって筒状嵌合部Kが構成されている。
筒状嵌合部Kにおける前記一端部35cと突出部31dとの嵌合面の間には、全周にわたって弾性体で構成されたシールリングSが設けてあり、このシールリングSの弾性復元力によって筒状嵌合部Kの止水を図っている。当該実施形態においては、嵌合面でのモータハウジング31側に形成した周溝内に、前記シールリングSが納められている。
尚、同様のシールリングSは、例えば、前記フランジ部35aに対する、モータハウジング31やポンプハウジング21の各合わせ面間、及び、後述する台座43に対する、モータハウジング31やカバー41の各合わせ目間にも設置されている。
【0019】
また、筒状隔壁部35bの前記一端部35cの外周側には、金属製のバンド部材B1を全周にわたって外嵌させてある。
このバンド部材B1は、合成樹脂製の前記一端部35cのクリープ変形防止を図っている。即ち、合成樹脂製の前記一端部35cにおいては、前記シールリングSの弾性復元力が常に拡径方向に作用し続けているから、モータ部3やドライバ部4からの発熱で環境温度が高温となると、前記一端部35cが拡径方向にクリープ変形しやすくなる。従って、前記バンド部材B1によって前記一端部35cを外方から拘束することで、前記一端部35cの拡径方向のクリープ変形を抑制することができ、シールリングSによる止水効果を維持することができる。
前記バンド部材B1によって変形抑制機構Bが構成されている。
【0020】
前記筒状隔壁部35bの内空部には、前記ロータ36との間に、前記ポンプ部2を流通する流体の一部を冷却用として迂回させる迂回路39が形成してあり、迂回路39を流通する流体によってモータ部3やドライバ部4の冷却が図られている。
【0021】
モータハウジング31の端面31aに形成された開口部31bからは、コイル33とドライバ部4の基板42との電気的な接続を行うためのターミナル34がドライバ部4の側に突出している。
また、モータハウジング31の端面の内側に形成された前記突出部31dの内径側には、前記迂回路39の一部を構成する溝状の放熱部31cが形成されている。よって、ドライバ部4にて発生した熱は、モータハウジング31を経由して放熱部31cにおいて流体に回収されるので、ドライバ部4の温度上昇を抑制することができる。
【0022】
前記ロータ36は合成樹脂で成形された回転部材37の一端部と一体的に構成されており、コイル33に電流が流れてステータ32に回転磁界が発生すると、ロータ36及び回転部材37が支軸38を回転支軸として一体回転する。回転部材37が回転すると、回転部材37の他端部に形成されたインペラ22が回転してポンプ部2が作動する。
【0023】
前記ドライバ部4は、モータハウジング31の端面31aとカバー41とによって画定される空間内に、基板42と合成樹脂製の台座43とからなるドライバASSY48を備えて構成されている。前記台座43にはコネクタ部43aが形成されており、コネクタ部43aには不図示の電源と基板42とを電気的に接続するコネクタ端子46が設けられている。このコネクタ端子46のうち、台座43から突出した端子部46aが基板42と接続されている。また、基板42は、接続部材44を介してモータハウジング31と電気的に接続されている。
ドライバASSY48には電子素子が配設されており、前記ターミナル34を介してモータ部3の回転制御を行えるように構成されている。
【0024】
前記ポンプハウジング21とモータハウジング31とは、間に合成樹脂製のステータハウジング35のフランジ部35aを挟んだ状態で、導電性のボルト51によって共締めされている。この構成により、ポンプハウジング21とモータハウジング31との間に非導電性のステータハウジング35が存在しても、基板42を、接続部材44、モータハウジング31、ボルト51、ポンプハウジング21、及び、不図示のエンジン等を介して接地できる。
【0025】
本実施形態の流体ポンプ1によれば、モータ部3やドライバ部4での発熱をモータハウジング31を介して放熱することができ、モータ部3の放熱性の向上を図ることができる。
更には、熱環境下においてシールリングSの当接力を受ける筒状隔壁部35bのクリープ変形をバンド部材B1で抑制することができ、シールリングSによる防水性を確保し、モータ部3からの流体漏れを防止できる。
【0026】
〔別実施形態〕
以下に他の実施の形態を説明する。
【0027】
〈1〉 前記流体ポンプ1は、先の実施形態で説明したエンジン冷却水を循環させるためのウォータポンプに限るものではなく、例えば、車両用以外の用途に用いることも可能である。従って、流体も、冷却水に限るものではない。
また、ポンプ部2やモータ部3やドライバ部4の構造の変更も可能である。
〈2〉 前記変形抑制機構Bは、先の実施形態で説明したバンド部材B1に限るものではなく、例えば、図2に示すように、前記シールリングSを設置した前記モータハウジング31と前記筒状隔壁部35bとの筒状嵌合部Kにおいて、前記モータハウジング31から前記筒状隔壁部35bの外周面に突出状態に設けられた筒状部B2で構成してあってもよい。
この実施形態によれば、筒状嵌合部Kにおいて、モータハウジング31に外嵌する筒状隔壁部35bの外周側から、前記モータハウジング31の筒状部B2によって筒状隔壁部35bが拡径方向に変形するのを抑制でき、簡単な構造でありながら、筒状嵌合部Kにおける筒状隔壁部35bのクリープ変形を確実に抑制することができる。また、別部材を使用せずに、モータハウジング31の筒状部B2のみで筒状隔壁部25bのクリープ変形を抑制できるから、部品点数が少なくなり、部品管理や筒状嵌合部Kでの嵌合操作の手間を軽減できると共に、材料コストの低減を図ることが可能となる。
〈3〉 前記変形抑制機構Bは、先の実施形態で説明したステータハウジング35の前記一端部35cの外周側に配置するものに限らず、例えば、図3に示すように、ステータハウジング35のフランジ部35aの外周側に配置するものであってもよい。この実施形態においては、フランジ部35aの一方側のモータハウジング31との間にシールリングSが配置してあり、フランジ部35aの他方側は、インペラ室21cに面しており、前記変形抑制機構Bは、フランジ部35aの他方側の面に接着されたリング状の鉄板B3で構成されている。この鉄板B3によってフランジ部35aのクリープ変形(曲げ変形)を抑制している。
【0028】
尚、上述のように、図面との対照を便利にするために符号を記したが、該記入により本発明は添付図面の構成に限定されるものではない。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0029】
2 ポンプ部
3 モータ部
31 モータハウジング
32 ステータ
35b 筒状隔壁部
36 ロータ
39 迂回路
B 変形抑制機構
B1 バンド部材
B2 筒状部
K 筒状嵌合部
S シールリング
図1
図2
図3