(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記予備賦形工程と略同時に行われ、前記共通型と前記回転金型部の前記金型分割面の他方とが組み合わされて形成される第1キャビティに射出充填させて1次成形体を成形する1次射出工程と、
前記1次成形体を前記共通型に保持させ、予備賦形された前記表皮材を前記回転金型部の前記金型分割面の一方の金型キャビティ面に保持させた状態で型開きさせた後、前記回転金型部を回転させて、予備賦形された前記表皮材を前記共通型と対向する位置に移動させる第1回転金型回転工程と、
型締めにより、前記回転金型部の前記金型分割面の一方の金型キャビティ面に保持させた前記表皮材と前記共通型と前記共通型に保持させた前記1次成形体との間に形成される第2キャビティに溶融樹脂を射出充填させて2次成形体を成形し、前記表皮材と前記2次成形体と前記1次成形体とを融着一体化させた多層成形品を成形する第2射出工程と、
前記多層成形品が取り出された後、前記回転金型部を回転させて、前記回転金型部の前記金型分割面の一方を前記ダミープレートと対向する位置に、前記回転金型部の前記金型分割面の他方を前記共通型と対向する位置に移動させる第2回転金型回転工程と、
を有することを特徴とする請求項2に記載の多層成形方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の加飾成形品の製造装置においては、製品取出治具と押圧コアとを共通のアームに装着させて、型開き状態におけるシート延伸工程(予備賦形工程)と成形品取出工程とを連続で行わせることにより、これら工程の所要時間を短縮することができるものの、これらの工程を同時に行わせるものではない。また、これらの工程、あるいは射出工程、冷却固化工程等の内、複数の工程を同時に行うような大幅な成形サイクルタイムの短縮は構成上困難である。
【0009】
また、金型内に挿入された加飾用シート(表皮材)は型開き状態において、予め金型内に進入させた加熱板等(加熱手段)で加熱・軟化され、加熱板等を金型外に退避させた後に、共通アームを金型内に進入させて、押圧コアにより押圧され予備延伸された後に、真空引き(真空成形)によるシート延伸工程が行われる。そのため、加熱・軟化効率が悪く、一般的に、熱容量が小さく表面積の大きな加飾用シートにおいては、加熱板等の加熱手段の金型外への退避及び共通アームの金型内への挿入の間にも、その温度が低下し再硬化するため、真空引きでは十分に加飾用シートを金型キャビティ面に密着させることができないという問題がある。更に、温度低下を考慮して加飾用シートの加熱温度を上げると、想定以上の軟化により加飾用シートそのものの形状保持性が低下するドローダウン現象が発生し、加飾用シートの位置ズレ等が生じるという別の問題が発生する。また、省エネルギーの観点からも好ましくない。
【0010】
特許文献2のインモールド成形品の製造方法においては、加飾フィルムを真空成形により可動型の型表面形状に合わせて賦形させた後、賦形された加飾フィルムに光硬化型材料の硬化用光線を照射させてハードコート層を硬化させるため、成形品完成後に硬化用光線を照射する必要がなく、完成した成形品を劣化させることがない。すなわち、後工程において、硬化用光線を照射してハードコート層を硬化させる工程が不要になり、製造工程を簡略化できる。
【0011】
しかしながら、金型間に挿入させた加熱手段や硬化用光線の照射手段により加飾フィルムを加熱・軟化・硬化させるため、これらの手段の待機位置から金型間への挿入時間、軟化するまでの加熱時間、あるいは、硬化するまでの照射時間、金型間から待機位置までの退避時間等が必要となり、成形サイクルタイムの短縮が困難である。また、特許文献1と同様に加熱手段の金型外への退避、すなわち、加熱・軟化効率の悪さによる加飾フィルムの再硬化、及び、これを回避するための加熱温度上昇によるドローダウン現象の問題が残される。
【0012】
特許文献3の表皮への樹脂一体化方法においては、型締め後、表皮の真空成形(予備賦形工程)と、前サイクルで真空成形された表皮と熱可塑性樹脂との一体化(射出工程)とを同時に行うことができるため、特許文献1及び特許文献2と比較して成形サイクルタイムを大幅に短縮することができる。しかしながら、表皮材を金型内に挿入させる前に、金型外に配置される加熱ユニットにより加熱・軟化させるため、加熱・軟化効率が悪く、特許文献1の、表皮材の真空成形(予備賦形)時の温度低下に伴う表皮材の再硬化、及び、これを回避するための加熱温度上昇によるドローダウン現象の問題が残される。また、加熱された表皮は、真空成形される以前に型締めにより真空成形用のコアー型に接触して成形されるため、該接触部から熱量が急激に失われ表皮の硬化が進行するため、真空成形用のめす型のキャビティ形状が十分に表皮に転写されないという問題がある。
【0013】
本発明は、上記したような問題点に鑑みてなされたもので、具体的には、
光硬化型材料からなるハードコート層を有する表皮材の加熱・軟化効率を向上させる
と共に、ハードコート層を硬化させる硬化工程を含む予備賦形工程により、ドローダウン現象による表皮材の位置ズレを防止すると共に、成形サイクルタイムを短縮させ
、成形品完成後に硬化用光線を照射する必要がなく、完成した成形品を劣化させることがない多層成形装置と多層成形方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の上記目的は、請求項1に示すように、固定盤に取り付けられる共通型と、
前記共通型と組み合わされて金型キャビティが形成される少なくとも2つの金型分割面を有する回転金型部と、
可動盤に取り付けられ、前記回転金型部の前記金型分割面と対向する面に加熱手段
と、光硬化型材料の硬化用光線の照射手段と、が配置されたダミープレートと、
前記固定盤と前記可動盤との間に配置され、前記回転金型部を型開閉方向に直交する回転軸周りに回転可能に支持し、型開閉方向に移動させる回転金型支持手段と、
前記回転金型部の金型キャビティにおいて真空成形が可能な真空成形手段と、
を備えたことを特徴とする多層成形装置によって達成される。
【0015】
すなわち、ダミープレートと回転金型部との間に挿入された
、光硬化型材料からなるハードコート層を有する表皮材は、型締めによりこれら金型分割面の略全周で確実に把持され、表皮材と回転金型部の金型キャビティとで形成される空間は密封され真空成形に適した状態となる。この密封された金型キャビティ内において、ダミープレートの回転金型部の金型分割面と対向する側に配置された加熱手段の加熱面に略接触状態の表皮材が直接加熱されるため、型開き状態の開放された空間において、加熱手段を接近させて加熱する場合と比較して、保温性及び加熱性に優れ、加熱効率を向上させる。また、加熱を継続させたまま表皮材の真空成形を開始させることができるため、軟化効率を向上させる。更に、表皮材は、その略全周で確実に把持された状態で、加熱を継続させたまま表皮材の真空成形を開始させることができるため、表皮材の位置決め精度が高く、且つ、軟化効率に優れ、表皮材の温度低下を考慮して加熱温度を必要以上に上げる必要がない。そのため、表皮材が一方の金型に把持された金型間に加熱手段を挿入させる形態、あるいは、表皮材を金型外で加熱・軟化させた後に金型内に挿入させる形態と比較して、ドローダウン現象による表皮材の位置ズレ等を防止することができる。
【0017】
また、紫外線や電子線等の硬化用光線の照射により硬化させる半硬化状態の光硬化型材料からなるハードコート層
を有する表皮材が真空成形された後に、その照射手段により紫外線や電子線等の硬化用光線を照射させて表皮材のハードコート層を完全硬化させれば、多層成形品完成後に硬化用光線を照射する必要がなく、完成した成形品を劣化させることがない。すなわち、後工程において、硬化用光線を照射してハードコート層を硬化させる工程が不要になり、製造工程を簡略化できる。
【0018】
このような多層成形機について、請求項
2に示すように、前記ダミープレートと前記回転金型部の前記金型分割面の一方との間に
、光硬化型材料からなるハードコート層を有する表皮材を挿入させ、型締めにより前記金型分割面の略全周で前記表皮材を把持させた状態で、前記加熱手段により該表皮材を加熱・軟化させ、軟化させた該表皮材を前記真空成形手段により前記回転金型部の金型キャビティ形状に真空成形
させた後、真空成形された前記表皮材の前記ハードコート層を前記照射手段により硬化させる硬化工程を含む予備賦形工程と、
予備賦形された前記表皮材を前記回転金型部の前記金型分割面の一方の金型キャビティ面に保持させた状態で型開きさせた後、前記回転金型部を回転させて、予備賦形された前記表皮材を前記共通型と対向する位置に移動させる回転金型回転工程と、
型締めにより、前記回転金型部の前記金型分割面の一方の金型キャビティ面に保持させた前記表皮材と前記共通型との間に形成されるキャビティに溶融樹脂を射出充填させて、成形体を成形し、前記表皮材と前記成形体とを融着一体化させた多層成形品を成形する射出工程とを有し、
前記予備賦形工程と前記射出工程とを略同時に行うことを特徴とする請求項
1に記載の多層成形装置を使用する多層成形方法が好ましい。
【0019】
このような多層成形方法により、表皮材の加熱・軟化効率を向上させ、ドローダウン現象による表皮材の位置ズレ等を防止することができる予備賦形工程と射出工程とを略同時に行い、多層成形品の成形サイクルタイムを大幅に短縮することができる。更に、回転金型部の金型分割面の他方と共通金型との間で行われる射出工程及びその後の成形体の冷却固化工程が完了するまでの時間全てを、回転金型部の金型分割面の一方とダミープレートとの間で行われる予備賦形工程に費やすことができるため、表皮材毎の、加熱時や真空成形時における加熱手段の加熱温度、加熱パターン、吸引圧、吸引パターン
や、照射手段による硬化工程への移行タイミング、あるいはそれぞれの開始・変更・完了タイミング等の、予備賦形に係る各種設定条件の設定可能範囲が広がり、ドローダウン現象を含む表皮材の予備賦形に係る様々なトラブルを減少させることができる。
【0020】
また、多層成形方法として、請求項
3に示すように、前記予備賦形工程と略同時に行われ、前記共通型と前記回転金型部の前記金型分割面の他方とが組み合わされて形成される第1キャビティに射出充填させて1次成形体を成形する1次射出工程と、
前記1次成形体を前記共通型に保持させ、予備賦形された前記表皮材を前記回転金型部の前記金型分割面の一方の金型キャビティ面に保持させた状態で型開きさせた後、前記回転金型部を回転させて、予備賦形された前記表皮材を前記共通型と対向する位置に移動させる第1回転金型回転工程と、
型締めにより、前記回転金型部の前記金型分割面の一方の金型キャビティ面に保持させた前記表皮材と前記共通型と前記共通型に保持させた前記1次成形体との間に形成される第2キャビティに溶融樹脂を射出充填させて2次成形体を成形し、前記表皮材と前記2次成形体と前記1次成形体とを融着一体化させた多層成形品を成形する第2射出工程と、
前記多層成形品が取り出された後、前記回転金型部を回転させて、前記回転金型部の前記金型分割面の一方を前記ダミープレートと対向する位置に、前記回転金型部の前記金型分割面の他方を前記共通型と対向する位置に移動させる第2回転金型回転工程と、
を有することを特徴とする請求項
2に記載の多層成形方法を行うことができる。
【0021】
この多層成形方法であれば、成形工程は増えるものの、樹脂からなる基材層を2層で構成させることができ、表皮材からなる表皮層を加えた3層の多層成形品により、多層成形品の加飾性や機能性を更に高めることができる。
【0022】
また
、請求項
4に示すように、前記予備賦形工程において、
前記真空成形手段による吸引を継続させて、前記ハードコート層を硬化させた前記表皮材を前記回転金型部の金型キャビティ面に位置保持させることを特徴とする請求項2及び請求項3のいずれか1項に記載の多層成形方法を行うことができる。
【0023】
この多層成形方法であれば、
前成形サイクルで予備賦形された表皮材が、真空成形手段により所定圧力で吸引され、その金型キャビティ面に予備賦形された形状を維持した状態で保持されているため、溶融樹脂が射出充填される射出工程における、溶融樹脂の表皮材への衝突・接触による位置ずれを防止することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る多層成形用装置は、固定盤に取り付けられる共通型と、
前記共通型と組み合わされて金型キャビティが形成される少なくとも2つの金型分割面を有する回転金型部と、
可動盤に取り付けられ、前記回転金型部の前記金型分割面と対向する面に加熱手段
と、光硬化型材料の硬化用光線の照射手段と、が配置されたダミープレートと、
前記固定盤と前記可動盤との間に配置され、前記回転金型部を型開閉方向に直交する回転軸周りに回転可能に支持し、型開閉方向に移動させる回転金型支持手段と、
前記回転金型部の金型キャビティにおいて真空成形が可能な真空成形手段と、
を備えているので、
光硬化型材料からなるハードコート層を有する表皮材の加熱・軟化効率を向上させる
と共に、表皮材を多層成形品の意匠面形状に賦形・硬化させる予備賦形工程を行うことができ、ドローダウン現象による表皮材の位置ズレ等を防止することができる。
また、多層成形品成形後の後工程におけるハードコート層の硬化工程が不要になり、製造工程の簡略化が図れると共に、UV、EB光等の硬化用光線の樹脂成形体部分への照射による、後工程における該樹脂成形体部分の劣化が防止できる。
【0025】
更に、本発明に係る多層成形用金型を使用する多層成形方法は、前記ダミープレートと前記回転金型部の前記金型分割面の一方との間に表皮材を挿入させ、型締めにより前記金型分割面の略全周で前記表皮材を把持させた状態で、前記加熱手段により該表皮材を加熱・軟化させ、軟化させた該表皮材を前記真空成形手段により前記回転金型部の金型キャビティ形状に真空成形する予備賦形工程と、
予備賦形された前記表皮材を前記回転金型部の前記金型分割面の一方の金型キャビティ面に保持させた状態で型開きさせた後、前記回転金型部を回転させて、予備賦形された前記表皮材を前記共通型と対向する位置に移動させる回転金型回転工程と、
型締めにより、前記回転金型部の前記金型分割面の一方の金型キャビティ面に保持させた前記表皮材と前記共通型との間に形成されるキャビティに溶融樹脂を射出充填させて、成形体を成形し、前記表皮材と前記成形体とを融着一体化させた多層成形品を成形する射出工程とを有し、前記予備賦形工程と前記射出工程とを略同時に行うので、多層成形品の成形サイクルタイムを大幅に短縮することができる。更に、回転金型部の金型分割面の他方と共通金型との間で行われる射出工程及びその後の樹脂成形体の冷却固化工程が完了するまでの時間全てを、回転金型部の金型分割面の一方とダミープレートとの間で行われる予備賦形工程に費やすことができるため、表皮材毎の、加熱時や真空成形時における加熱手段の加熱温度、加熱パターン、吸引圧、吸引パターン
や、照射手段による硬化工程への移行タイミング、あるいはそれぞれの開始・変更・完了タイミング等の予備賦形に係る各種設定条件の設定可能範囲が広がり、ドローダウン現象を含む表皮材の予備賦形に係るトラブルを減少させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
【実施例1】
【0028】
図1及び
図2を参照しながら本発明の実施例1を説明する。
図1は本発明の実施例1に係る多層成形装置の概略側面図である。
図2は本発明の実施例1に係る多層成形工程を示す概略部分断面図である。
図2(a)が予備賦形工程及び射出工程直前の型閉じ状態、
図2(b)が予備賦形工程及び射出工程の開始状態、
図2(c)が予備賦形工程及び射出工程の完了状態、
図2(d)が型開きした後の製品取出工程を示す。
尚、本発明の実施例1は、本発明を理解するための参考として記載するものである。
【0029】
最初に、
図1を参照しながら、本発明に係る多層成形装置1の基本構成について説明する。多層成形装置1は製品取出工程が完了した型開き状態であり、ベッド2に固定された固定盤3と、固定盤3に対して型開閉方向に移動可能に設けられた可動盤5と、固定盤3及び可動盤5の間に配置され、取り付けられた回転金型部40を型開閉方向に直交する回転軸周りに回転可能に支持し、型開閉方向に移動させる回転金型支持手段4と、回転金型部40の一部を構成し、固定盤3及び可動盤5に対向する2つの金型取付面を有し、回転金型支持手段4に型開閉方向に直交する鉛直方向の回転軸周りに回転可能に支持される回転金型取付部41と、固定盤3側に設けられた第1射出ユニット17と、を有している。
【0030】
固定盤3には、正面側(可動盤5と対向する側)の面に共通型19が取り付けられると共に、背面側から正面側に亘って第1射出ユニット17を共通型19に向けて進退させるための貫通穴3aが形成されている。固定盤3の四隅からは図示しないタイバーが突出して設けられ、このタイバーは、可動盤5を貫通している。
【0031】
可動盤5には固定盤3と対向する面にダミープレート6が取り付けられる。また、可動盤5は図示しないタイバーに案内され、図示しない型締手段によって、固定盤3に対して進退自在に設けられている。ダミープレート6は、型締め時に、対向する回転金型部40の金型分割面を保護すると共に、その回転金型部40の金型取付面と対向する面に加熱手段6aが配置されている。加熱手段6aは加熱温度や加熱パターンの制御が容易な電気式ヒータが好ましい。また、加熱手段6aは、型締め時の破損防止のため、対向する回転金型部40の金型分割面と接触する部分へは配置せず、加熱面が直接、対向する回転金型部40の金型分割面側に露出するように配置されることが好ましい。万一、型締め時に対向する回転金型部40の金型分割面と接触する部分への配置が避けられない場合は、加熱効率の低下を防止しつつ、型締力から加熱手段6aの加熱面を保護する諸策が配慮されるべきである。また、対向する回転金型部40の金型分割面側以外の面からの熱エネルギーの喪失を防止するため、これらの部位には断熱材や断熱構造等の断熱・保温手段等が採用されることは言うまでもない。
【0032】
回転金型支持手段4は、固定盤3と可動盤5との間に配置され、ベッド2上を型開閉方向に進退自在に設けられている。回転金型支持手段4により、型開閉方向に直交する鉛直方向の回転軸周りに回転可能に支持される回転金型部40は、固定盤3及び可動盤5に対向する2つの金型取付面を有する回転金型取付部41と、回転金型取付部41の金型取付面にそれぞれ取り付けられた第1回転金型20及び第2回転金型21とから構成され、回転金型支持手段4に着脱可能に取り付けられている。これら回転金型取付部41と、第1回転金型20及び第2回転金型21とは、固定盤3及び可動盤5に対向する2つの金型分割面を有する1つの金型(回転金型部)として構成され、回転金型支持手段4に着脱可能に取り付けられても良い。また、回転金型部40は、固定盤3及び可動盤5に対向する金型分割面を2つ以上有していても良く、後述する、型締め中に略同時に行われる予備賦形工程及び射出工程の間に、型締めされず開放されている金型分割面から完成した多層成形品を取り出す製品取出工程や、開放されている金型分割面に保持させた表皮材、あるいは、後述する1次成形体にインサート部品をインサートする工程等、別の工程が行われても良い。更に、回転金型部40は、型開閉方向に直交する水平方向の回転軸周りに回転可能に支持される形態であっても良い。
【0033】
第1回転金型20及び第2回転金型21は同じ金型キャビティ形状を有しており、その金型キャビティ面が多層成形品の意匠面となる。これら回転金型の金型キャビティ面には、同金型キャビティ内の空気を吸引する複数の吸引孔42が設けられ、これら回転金型に配置された吸引管路43の一端と連通されている。吸引管路43の他端は回転金型取付部41に配置された真空成形手段44と接続され、吸引管路43に設けられた図示しない切替弁により、任意の金型キャビティ側の空気が吸引され真空成形が行われる。真空成形手段44は回転金型支持手段4に配置されても良い。
【0034】
回転金型部40の2つの金型分割面の一方、この場合、第1回転金型20の金型分割面は、その金型キャビティ面に、前成形サイクルにおいて、ダミープレート6と第1回転金型20とが型締めされて予備賦形された表皮材12aを保持させた状態で、回転金型部40の回転により、これから開始される成形サイクルに備えて、共通型19に対向する位置に移動されている。
【0035】
また、可動盤5に取り付けられたダミープレート6と、対向する回転金型部40の2つの金型分割面の他方、この場合、第2回転金型21の金型分割面との間に、表皮材12を供給できるように、表皮材供給手段45が配置されている。表皮材供給手段45は、多関節ロボット等の可動するアーム部を有する装置と、そのアーム部の先端に設けられた把持手段とで構成されており、ダミープレート6と、対向する回転金型部40の金型分割面との間に表皮材を1枚ずつ把持して供給する。
【0036】
表皮材供給手段45の別の形態として、搬送用フィルムに表皮材、あるいは、表皮材となる転写フィルムを張り合わせ、これをロール状に巻き取った供給ロールから、予備賦形が行われる金型間に連続で供給させる形態も公知である。その形態の場合、ダミープレート6、あるいは、回転金型部40の金型分割面に設けられたトリミング手段等により、型締め時に表皮材(転写フィルム)のみ、あるいは、表皮材(転写フィルム)及び搬送用フィルムの必要範囲がトリミング(切除)され、残った搬送用フィルムが、予備賦形が行われる金型を介して供給ロールの反対側に配置された回収ロールに巻き取られる。また、供給ロール及び回収ロールを含む表皮材供給手段の全体、あるいは、予備賦形が行われる金型間の部位のみが、型開閉動作に連動して移動可能に配置される。
【0037】
次に、
図2を参照しながら、本発明の実施例1に係る多層成形工程を説明する。
図2は成形工程の理解を容易にするために、
図1の金型部分(側面図)について成形工程を順に図示した概略部分断面図であり、成形工程に直接関係ない構成部位は図示していない。また、図を見易くするために、回転金型部40(回転金型取付部41、第1回転金型20及び第2回転金型21)には、断面であることを表すハッチングを割愛した。
【0038】
図1に示す型開き状態から、図示しない型締手段により回転金型部40とダミープレート6とを共通型19に型閉じさせ、
図2(a)に示す型閉じ状態とする。予備賦形工程及び射出工程はまだ開始されていない。このとき、図示しない表皮材供給手段45は、回転金型部40の金型分割面の他方、この場合、第2回転金型21の金型分割面と、ダミープレート6との間に、型閉じにより表皮材12が把持されたことがセンサ等で確認された後、自身と表皮材12との把持状態を解除させ、型開閉に支障のない位置に退避している。
【0039】
ダミープレート6と第2回転金型21との間に挿入された表皮材12は、型閉じによりこれらの金型分割面の略全周で確実に把持される。型開き状態で把持させる形態と比較して、容易且つ確実に表皮材12を把持させることができ、表皮材12の位置決め精度が高いことは言うまでもなく、この把持手段は公知の技術が適宜採用されれば良い。表皮材12と第2回転金型21の金型キャビティとで形成される空間は密封され真空成形に適した状態となると共に、型開き状態での加熱形態と比較して保温性に優れる。また、表皮材12はダミープレート6の第2回転金型21の金型分割面と対向する面に配置された加熱手段6aに直接接する、あるいは、非常に近距離で対向する状態となる。加熱手段6aを作動させると、略接している加熱手段6aの加熱面により表皮材12が略直接加熱されるため、型開き状態の開放された空間において、加熱手段を接近させて加熱する場合と比較して、加熱効率を大幅に向上させ、加熱温度、加熱時間等、省エネルギーの観点から有利である。また、加熱を継続させたまま表皮材の真空成形を開始させることができるため、軟化効率も大幅に向上させる。更に、表皮材12は、その略全周で確実に把持された状態で、加熱を継続させたまま表皮材の真空成形を開始させることができるため、表皮材の位置決め精度が高く、且つ、軟化効率に優れ、表皮材の温度低下を考慮して加熱温度を必要以上に上げる必要がない。そのため、表皮材が一方の金型に把持された金型間に加熱手段を挿入させる形態、あるいは、表皮材を金型外で加熱・軟化させた後に金型内に挿入させる形態と比較して、ドローダウン現象等による表皮材の位置ズレ等を防止することができる。
【0040】
このように、表皮材を、密封された空間で高い加熱効率で加熱させると共に、加熱を継続させたまま表皮材の真空成形を開始させることができるため、その素材が厚い、あるいは、その素材が薄くても伸び率が低く成形性が悪い、いわゆる腰のある表皮材であっても、コアー型を必要とせず、めす型(回転金型部)の真空成形のみで、基材層となる溶融樹脂の射出充填前に、表皮材を雌型の金型キャビティ形状、すなわち、意匠面形状に成形させる予備賦形が可能になる。更に、この加熱は表皮材12の意匠面の裏面から行われるため、表皮材12の意匠面を傷める可能性が非常に小さく、多層成形品の意匠面の品質を向上させることができる。
【0041】
一方、共通型19と第1回転金型20との間には、前成形サイクルで予備賦形された表皮材12aが、第1回転金型20の金型キャビティ面に設けられた複数の吸引孔42から吸引管路43を介して真空成形手段44により所定圧力で吸引され、その金型キャビティ面に予備賦形された形状を維持した状態で保持されている。
【0042】
図2(a)に示す型閉じ状態から、図示しない型締手段により型締力が付与された後、
図2(b)に示すように、射出工程と予備賦形工程とが略同時に開始される。共通型19と第1回転金型20との間では、第1回転金型20の金型キャビティ面に保持された予備賦形された表皮材12aの裏面と共通型19とで形成されるキャビティ30に、共通型19の射出ゲート19aを介して第1射出ユニット17から溶融樹脂が射出充填される射出工程が行われる。このとき、溶融樹脂の表皮材への衝突・接触による位置ずれを防止するために、真空成形手段44による予備賦形された表皮材12aの吸引保持を継続させることが好ましい。一方、ダミープレート6と第2回転金型21との間では、略全周を把持された表皮材12を加熱手段6aにより加熱・軟化させると共に、真空成形手段44により、第2回転金型21の金型キャビティ面に設けられた複数の吸引孔42から吸引管路43を介して、軟化させた表皮材12を所定圧力で吸引させ、金型キャビティ形状に真空成形させる予備賦形工程が行われる。
【0043】
予備賦形された表皮材12aを保持させるための第1回転金型20の吸引圧力と、加熱・軟化された表皮材12を真空成形させるための第2回転金型21の吸引圧力とが異なる場合は、それぞれの吸引管路43に圧力調整弁を設けて、それぞれの吸引圧力を調整させる。別の形態として、それぞれの真空成形手段が独立して設けられる形態や、真空成形のための吸引を行う真空成形手段44と別に、吸引孔42及び吸引管路43を共有する、予備賦形された表皮材12aを保持させるための吸引手段が設けられる形態でも良い。
【0044】
図2(b)に示す射出工程及び予備賦形工程の開始状態から、それぞれの工程が進行し、
図2(c)に示すように、射出工程及び予備賦形工程が完了する。共通型19と第1回転金型20との間では、第1回転金型20の金型キャビティ面に保持された予備賦形された表皮材12aの裏面と共通型19との間に形成されるキャビティ30に射出工程で射出充填された溶融樹脂が冷却固化して基材層となる成形体9aが成形されると共に、予備賦形された表皮材12aの裏面とその冷却固化の過程で融着一体化され、表皮材12aからなる表皮層と成形体9a(熱可塑性樹脂)からなる1層の基材層とを備えた多層成形品9が成形される。一方、ダミープレート6と第2回転金型21との間では、表皮材12が第2回転金型21の金型キャビティの形状に完全に真空成形され、新しく予備賦形された表皮材12aとして第2回転金型21の金型キャビティ面に保持される。第2回転金型21は次成形サイクルの射出工程のため、金型温度を上昇させた、あるいは、上昇中の状態ではあるが、新しく予備賦形された表皮材12aは、第2回転金型21の金型キャビティ面に接触することにより金型側に熱量を奪われ硬化が始まるため、予備賦形された表皮材12aの硬化防止及び軟化状態維持のために、加熱手段6aの加熱は継続されることが好ましい。
【0045】
図2(c)に示す射出工程及び予備賦形工程の完了後、図示しない型締手段によりダミープレート6と回転金型部40とを共通型19から型開きさせ、
図2(d)に示す型開き状態とする。多層成形品9は非意匠面である成形体9aが共通型19に保持された状態で型開きさせ、共通型19に配置された図示しない製品押出手段等で押し出させることが好ましい。押し出された多層成形品9は図示しない製品取出手段等により装置外に搬送させる。その後、図示しない回転金型支持装置4により回転金型部40を回転させて、第2回転金型21の金型キャビティ面に保持させた新しく予備賦形された表皮材12aを共通型19に対向する位置に移動させる回転金型回転工程が行われると、
図1に示す状態から第1回転金型20と第2回転金型21との位置が入れ替わった型開き状態となる。
【0046】
このように
図1から
図2(d)までの工程を繰り返すことにより、予備賦形された表皮材12aからなる表皮層と成形体9aからなる1層の基材層とを備えた多層成形品9が連続して成形される。装置外に搬送された多層成形品9は、後工程において表皮材12aの不要部分をトリミングされて最終製品としてハンドリングされる。また、先に説明した表皮材供給手段45の別の形態で、表皮材及び搬送用フィルムの必要範囲がトリミングされる場合は、後工程において表皮材12aの表面に付着している搬送フィルムが剥がされ、最終製品としてハンドリングされる。この場合、表皮材12aの不要部分をトリミングする際、搬送フィルムの不要部分もいっしょにトリミングさせて、表皮材12aの意匠面の範囲にのみ搬送フィルムを付着させた状態とし、これを多層成形品9の意匠面(表皮材12a)の保護フィルムとして活用しても良い。また、表皮材12aの不要部分を後工程でなく、型締め時に、共通型19の金型分割面等に配置された公知のトリミング手段によりトリミングさせる形態も可能である。
【0047】
ここで、先に説明した射出工程及び予備賦形工程は、使用する樹脂や表皮材によりそれぞれの工程に要する時間が相違することはあれ、同じ場合は少ない。すなわち、
図2(a)に示す型閉じ状態から
図2(d)に示す型開き状態までに要する成形サイクルタイムは、それぞれの工程に要する時間の長い方の時間に制約される。射出工程及び予備賦形工程に要する時間を比較した場合、一般的には、射出工程の時間の方が長い。その理由としては、樹脂成形体の方が表皮材よりも厚く、熱容量が大きな点、次に、真空成形可能な程度まで軟化させれば良い表皮材に対して、樹脂成形体は溶融状態から製品取り出しが可能な程度まで冷却固化させる必要がある点、最後に、樹脂成形体は、その意匠面と金型キャビティ面との間に該表皮材が融着一体化されるために、該表皮材が樹脂成形体の金型キャビティ面による冷却作用を防止する意図しない断熱・保温材として機能してしまい、意匠面側の金型側からの冷却効率が低下し、非意匠面側の金型側からの冷却が主となる点等が挙げられる。
【0048】
よって、樹脂成形体の冷却固化時間を含む、この射出工程に要する時間すべてを予備賦形工程に費やしても成形サイクルタイムには何の影響もない。そのため、これらの時間全てを予備賦形工程に有効に費やすことにより、溶融樹脂射出開始、溶融樹脂充填中、溶融樹脂充填完了、溶融樹脂冷却固化中等の射出工程における各段階に合わせて、表皮材毎の、加熱時や真空成形時における加熱手段の加熱温度、加熱パターン、吸引圧、吸引パターン、あるいはそれぞれの開始・変更・完了タイミング等の予備賦形に係る各種設定条件の設定可能範囲が広がり、ドローダウン現象を含む表皮材の予備賦形に係るトラブルを減少させ、多層成形品の品質を向上させることができる。
図2(b)の説明で”射出工程と予備賦形工程とが略同時に開始される”のように”略”同時としたのは、それぞれの工程の一部は必ずオーバーラップして進行するものの、必ずしも同時に開始される必要はないことを示唆したものである。
【0049】
また、万一、予備賦形工程に要する時間の方が長い場合であっても、成形サイクルタイムに影響するのは、予備賦形工程に要する時間から樹脂成形体の冷却固化時間を含む射出工程に要する時間を差し引いた時間分だけなので、これら工程を別々に行う特許文献1や、挿入前に表皮材の加熱・軟化を終了させる必要のある特許文献2と比較して、多層成形品の成形サイクルタイムの短縮や品質向上の観点から、本発明の奏する効果が低下するものではない。
【実施例2】
【0050】
図3及び
図4を参照しながら本発明の実施例2を説明する。
図3は本発明の実施例2に係る多層成形工程の前半を示す概略部分断面図である。
図3(a)が予備賦形工程及び第1射出工程直前の型閉じ状態、
図3(b)が予備賦形工程及び第1射出工程、
図3(c)が型開き状態を示す。
図4は本発明の実施例2に係る多層成形工程の後半を示す概略部分断面図である。
図4(a)が第1回転金型回転工程の完了状態、
図4(b)が第2射出工程の開始状態、
図4(c)が第2射出工程の完了状態、
図4(d)が再型開きした後の製品取出工程を示す。
尚、本発明の実施例2も、本発明を理解するための参考として記載するものである。
【0051】
実施例2における実施例1との基本構成上の相違点は、第1回転金型及び第2回転金型が異なる金型キャビティ形状を有する点と、第1射出ユニットに加えて、第2射出ユニットが使用される点である。これらの相違点により成形工程は増えるものの、熱硬化性樹脂からなる基材層を実施例1の1層から2層にさせることができる。それ以外の多層成形装置の基本構成や多層成形方法は実施例1と基本的に同じため、実施例1との相違点についてのみ説明する。また、
図3及び
図4においても、実施例1の
図2と同様に、成形工程に直接関係ない構成部位は図示しておらず、回転金型部の一部には、断面であることを表すハッチングを割愛した。
【0052】
図1に示す型開き状態から、回転金型部40とダミープレート6とを共通型19’に型閉じさせ、
図3(a)に示す型閉じ状態とする。共通型19’と第1回転金型20’との間には、第1キャビティ31が形成され、共通型19’に設けられた射出ゲート19bを介して、共通型19’に対して進退自在に配置された第2射出ユニット18から溶融樹脂を射出充填させるように構成されている。第2射出ユニット18は共通型19’の上面に垂直に配置させるように図示したが、実際には、共通型19’に設けられた射出ゲート19bに対して進退可能に配置されれば、共通型19’の側面のいずれかの側に配置されても、第1射出ユニット17と同様に共通型19’の背面側に第1射出ユニット17と並べて配置されても良く、多層成形装置の設置状況や射出ユニットの配置制約等に合わせて適宜最適な配置が選択されれば良い。一方、ダミープレート6と第2回転金型21’との間には、図示しない表皮材供給手段45により表皮材12が挿入され、型閉じにより同間に把持されるが、この表皮材12の挿入及び把持方法は実施例1と同じである。
【0053】
図3(a)に示す型閉じ状態から、図示しない型締手段により型締力が付与された後、
図3(b)に示すように、1次射出工程と予備賦形工程とが略同時に行われる。予備賦形工程と略同時に行われる1次射出工程は、実施例1の射出工程のように、基材層となる成形体を成形させ、その成形体と予備賦形された表皮材とを融着一体化させるのではなく、共通型19’と第1回転金型20’との間に形成される第1キャビティ31に第2射出ユニット18から溶融樹脂を射出充填させて第1の基材層となる1次成形体9bを成形させるものである。一方、ダミープレート6と第2回転金型21’との間で、1次射出工程と略同時に行われる予備賦形工程は実施例1と同じである。
【0054】
図3(b)に示す第1射出工程及び予備賦形工程の完了後、図示しない型締手段によりダミープレート6と回転金型部40とを共通型19’から型開きさせ、
図3(c)に示す型開き状態とする。実施例1と同様に、予備賦形された表皮材12aは真空成形手段44の吸引により第2回転金型21’の金型キャビティ面に保持される。また、実施例1と異なり、共通型19’には1次成形体9bが保持されている。
【0055】
図3(c)に示す型開き状態から、図示しない回転金型支持装置4により回転金型部40を回転させて、
図4(a)に示すように、第2回転金型21’の金型キャビティ面に保持された予備賦形された表皮材12aを共通型19’に対向する位置に移動させる第1回転金型回転工程が行われる。
【0056】
図4(a)に示す第1回転金型回転工程の完了状態から、図示しない型締手段により回転金型部40とダミープレート6とを共通型19’に型閉じさせた後、型締力が付与される。引き続き、
図4(b)に示すように、共通型19’と第2回転金型21’との間で、第2回転金型21’の金型キャビティ面に保持された予備賦形された表皮材12aの裏面と共通型19’と共通型19’に保持させた1次成形体9bとの間に形成される第2キャビティ32に、共通型19’の射出ゲート19aを介して第1射出ユニット17から溶融樹脂を射出充填させて第2の基材層となる2次成形体9cを成形させる第2射出工程が開始される。一方、ダミープレート6と第1回転金型20’とは型締めされるだけで、その間で何の工程も行われない。
【0057】
図4(b)に示す第2射出工程の開始状態から、
図4(c)に示すように第2射出工程が完了する。共通型19’と第2回転金型21’との間では、第2キャビティ32に第2射出工程で射出充填された溶融樹脂が冷却固化して第2の基材層となる2次成形体9cが成形されると共に、予備賦形された表皮材12aの裏面及び第1射出工程で成形された1次成形体9bとその冷却固化の過程で融着一体化され、表皮材12aからなる表皮層と1次成形体9b及び2次成形体9c(熱可塑性樹脂)からなる2層の基材層とを備えた多層成形品9’が成形される。
【0058】
図4(c)に示す第2射出工程の完了後、図示しない型締手段によりダミープレート6と回転金型部40とを共通型19’から型開きさせ、
図4(d)に示す型開き状態とする。多層成形品9’は非意匠面である1次成形体9b及び2次成形体9cが共通型19’に保持された状態で型開きさせ、共通型19’に配置された図示しない製品押出手段等で押し出させることが好ましい。押し出された多層成形品9’は図示しない製品取出手段により装置外に搬送させる。その後、図示しない回転金型支持装置4により回転金型部40を回転させて、第2回転金型21’の金型分割面をダミープレート6と対向する位置に、第1回転金型20’の金型分割面を共通型19’に対向する位置に移動させる第2回転金型回転工程が行われると、
図3(a)に示す型閉じ状態をそのまま型開きさせた状態となる。再び、表皮材供給手段45により、ダミープレート6と第2回転金型21’との間に表皮材12を供給させ、回転金型部40とダミープレート6とを共通型19’に型閉じさせれば、
図3(a)で示す型閉じ状態に戻る。
【0059】
このように
図3(a)から
図4(d)までの工程を繰り返すことにより、予備賦形された表皮材12aからなる表皮層と1次成形体9b及び2次成形体9cからなる2層の基材層とを備えた多層成形品9’が連続して成形される。この多層成形方法であれば、成形工程は増えるものの、熱可塑性樹脂からなる基材層を2層で構成させることができ、表皮材からなる表皮層を加えた3層の多層成形品により、多層成形品の加飾性や機能性を更に高めることができる。また、第1射出工程及びその後の1次成形体の冷却固化工程が完了するまでの時間全てを予備賦形工程に費やすことができることは言うまでもない。
【実施例3】
【0060】
図5及び
図6を参照しながら本発明の実施例3を説明する。
図5は本発明の実施例3に係る多層成形装置の概略側面図である。
図5(a)がダミープレート周りの概略側面図、
図5(b)が
図5(a)の要部A(表皮材)の詳細断面図である。
図6は本発明の実施例3に係る予備賦形工程を示す概略部分断面図である。
図6(a)が予備賦形工程直前の型閉じ状態、
図6(b)が予備賦形工程の開始状態、
図6(c)が予備賦形工程のハードコート層の硬化用光線の照射状態、
図6(d)が予備賦形工程の開始状態の完了状態を示す。
【0061】
実施例3における実施例1及び実施例2との相違点は、表皮材である加飾フィルムにハードコート層が含まれる点と、ダミープレートに、予備賦形工程においてハードコート層を硬化させるための硬化用光線の照射手段が配置されている点である。すなわち、これらは予備賦形工程における相違点であり、それ以外の多層成形装置の基本構成や多層成形方法は実施例1及び実施例2と基本的に同じため、これら実施例との相違点についてのみ説明する。そのため、
図5(a)の概略側面図においては予備賦形工程が行われるダミープレート周りの構成部位のみを図示している。
【0062】
図5(a)に示すように、可動盤5に取り付けられたダミープレート6に、加熱手段6aと硬化用光線の照射手段6bとが配置されている。照射手段6bは、型締め時に、対向する回転金型部40の金型分割面と接触する部分へは配置せず、型締め時に、対向する回転金型部40の金型分割面側の金型キャビティ面全体に硬化用光線を照射可能に配置される。そして、ダミープレート6と対向するように、回転金型取付部41の金型取付面に第2回転金型21”が取り付けられている。
【0063】
表皮材である加飾フィルム13は、他の実施例と同様に、表皮材供給手段45によりダミープレート6と回転金型部40の金型分割面、この場合、第2回転金型21”の金型分割面との間に挿入される。
図5(b)に示すように、加飾フィルム13は6層から構成されており、第2回転金型21”側から、基材フィルム13a、剥離層13b、ハードコート層13c、アンカー層13d、着色層13e、接着層13fとなっており、ハードコート層13cが含まれる。ここで、このハードコート層13cが含まれる加飾フィルム13の構成は一例であり、必要に応じて、層の追加・削除、あるいは、各層の順序の入れ替えが行われても良い。
【0064】
ハードコート層とは、比較的硬度が低い樹脂製品表面の傷付き等を防止し、樹脂成形品の意匠面の外観を長期間に亘って維持させるものである。ハードコート層は、遠赤外線等の熱線照射や加熱などにより硬化させる熱硬化型材料や、硬化反応促進剤を塗布させることにより硬化させる硬化促進剤塗布型材料等からなる場合もあるが、予備賦形時に、加飾フィルム等の基材フィルムを熱線照射や加熱により軟化させる場合が多いため、これらの軟化に支障がないように、UV(Ultraviolet:紫外線)やElectron Beam(EB)光(以後「UV、EB光」と呼称する。)等の照射により硬化する光硬化型材料からなるハードコート層が採用される場合が多い。本実施例3のハードコート層13cはこの光硬化型材料からなるハードコート層である。
【0065】
多層成形品の意匠面にハードコート層を形成させるには、ハードコート層が含まれる加飾フィルム等を、同ハードコート層が硬化された状態で金型内にインサートさせ、射出充填により基材層となる樹脂成形体と融着一体化させる方法や、ハードコート層が硬化していない、あるいは、半硬化状態の加飾フィルム等を金型内で予備賦形させた後、射出充填により基材層となる樹脂成形体と融着一体化させ、半完成品の多層成形品とした金型外へ取り出した後の後工程において、その多層成形品の意匠面にUV、EB光等の硬化用光線を照射させて、硬化していない、あるいは、半硬化状態のハードコート層を硬化させる方法等がある。
【0066】
前者の場合、硬化されたハードコート層は成形性や素材としての延性が非常に小さいため、深絞りや凹凸を有する金型キャビティ形状(意匠面形状)によっては、その形状への追従のための成形(変形)によりクラック(ひび割れ)や白濁等の不良が発生するという問題がある。後者の場合、前者のような問題は発生しないが、後工程で多層成形品の意匠面に照射させる硬化用光線が、基材層である樹脂成形体にも照射されるため、樹脂成形体が劣化するという問題がある。
【0067】
各層の機能を簡単に説明する。第2回転金型21”側の基材フィルム13aは、ハードコート層13cとなる、硬化していない、あるいは、半硬化状態の光硬化型材料を塗布、あるいは、付着させ、ハードコート層13cを硬化させるまで、加飾フィルム13としてフィルム形状を維持する層である。また、基材フィルム13aは、ハードコート層13cを硬化させる前においては、ハードコート層13cに塗布・付着させた光硬化型材料のモノマー成分等が回転金型部40の金型キャビティ面に付着して汚染されることを防止するための、あるいは、ハードコート層13cを硬化させた後においては、ハードコート層13cを保護する保護フィルムの機能も有する。更に、加飾フィルム13を供給ロールから連続供給させる形態の場合においては、搬送用フィルムとしての機能も有する。次の剥離層13bは、成形中においては、基材フィルム13aをハードコート層13c上に付着させた状態でハードコート層13cを保護させ、成形後の後工程においては、硬化させたハードコート層13cから保護用フィルム13aが容易に剥離するようにするもので、これらの機能を有しつつ、剥離時は、その剥離成分がハードコート層13c上に残らず、すべて基材フィルム13a側に付着するものが好ましい。これら基材フィルム13a及び剥離層13bは、最終的には意匠面から除去され、また、加飾フィルム13を供給ロールから連続供給させる形態の場合は搬送用フィルムも兼用するため、キャリア部等と呼称される。
【0068】
キャリア部に連続するハードコート層13cは、UV、EB光等の照射により硬化する光硬化型材料が、硬化していない、あるいは、半硬化状態で使用され、これらUV、EB光等の硬化用光線の照射により硬化され、非常に硬い層を形成させる。次のアンカー層13dは、着色層13eに溶剤系着色材(インク)が使用される場合に、着色層13eとハードコート層13cとの固着を確実にさせるものであり、着色層13eにハードコート層13cと同様の光硬化型着色材が使用される場合は不要である。次の着色層13eは、樹脂材料のみでは表現が難しい色彩や、通常、透明、あるいは、半透明のハードコート層13cを介することにより意匠面外観をより向上させる光沢等を意匠面に表現するものであり、ハードコート層13cと同様の光硬化型着色材があることは、先に説明したとおりである。ダミープレート6側の最後の接着層13fは、キャリア部以降の4層を基材層である成形体に確実に固着させるものである。これらキャリア部以降の4層は、キャリア部等の呼称に対して転写部等と呼称される。
【0069】
次に、
図6を参照しながら、本発明の実施例3に係る予備賦形工程を説明する。実施例1の
図2及び実施例2の
図3と同様に、
図6において、成形工程に直接関係ない構成部位は図示しておらず、回転金型部の一部には、断面であることを表すハッチングを割愛した。
【0070】
図5(a)に示す型開き状態から、図示しない型締手段により回転金型部40とダミープレート6とを型閉じさせ、
図6(a)に示す型閉じ状態とする。加飾フィルム13の予備賦形工程はまだ開始されていない。
【0071】
図6(a)に示す型閉じ状態から、図示しない型締手段により型締力が付与された後、共通型と第1回転金型との間で行われる射出工程、あるいは、第1射出工程と略同時に、
図6(b)に示すように、ダミープレート6と第2回転金型21”との間で予備賦形工程が開始される。この予備賦形工程は連続する、あるいは、一部がオーバーラップする2つの工程を備える。
【0072】
他の実施例と同様に、まず、略全周を把持された加飾フィルム13を加熱手段6aにより加熱・軟化させると共に、図示しない真空成形手段44により、第2回転金型21”の金型キャビティ面に設けられた複数の吸引孔42から吸引管路43を介して、軟化させた加飾フィルム13を所定圧力で吸引させ、金型キャビティ形状に真空成形させる真空成形工程が行われる。
【0073】
次に、加飾フィルム13が金型キャビティ形状に真空成形された後、
図6(c)に示すように、所定のタイミングでダミープレート6に配置された硬化用光線の照射手段6bから、硬化用光線を照射させ、第2回転金型21”の金型キャビティ面に保持された加飾フィルム13を第2回転金型21”の金型キャビティ形状に真空成形させた状態で硬化させる硬化工程が行われる。この硬化は、硬化用光線の照射による光重合反応のため、硬化完了までに要する時間が非常に短い。そのため、この硬化工程の際も、第2回転金型21”の金型キャビティ面の真空成形された加飾フィルム13に位置ズレ等が生じないよう、図示しない真空成形手段44による吸引は継続されることが好ましい。また、真空成形工程から硬化工程への移行タイミングは、第2回転金型21”の金型キャビティ面の吸引圧の変化や、同金型キャビティ面及び加飾フィルム13の距離や、加飾フィルム13の同金型キャビティ面への近接等を圧力、距離、近接センサ等で検出して、その検出値から適切な移行タイミングが決定されれば良い。
【0074】
光硬化型材料を硬化させるUV、EB光等の硬化用光線は、一般的に波長が短いため、素材への透過性が低いとされているが、先に説明した加飾フィルム13の接着層13f,着色層13e、アンカー層13dの3層は、比較的薄膜状に形成されているものが多く、これら3層越しでも硬化用光線をハードコート層13cに到達させることができ、同層を硬化させることができる。ここで、これら3層のように、ハードコート層と硬化用光線の照射手段間に介在する層に、硬化用光線の透過性を大幅に低下させる、あるいは、ほとんど透過させないような素材や成分が使用できないことは言うまでもないが、これら3層の硬化用光線の透過性が維持されていれば、3層の厚みが多少厚くなっても、予備賦形工程内でのハードコート層の硬化に問題はない。また、加熱手段6aも加熱時に光線の一種である遠赤外線を発生させるが、遠赤外線の波長はこれら硬化用光線の波長より非常に長いため、加熱手段6aの作動時にハードコート層13cを硬化させる虞はない。
【0075】
図6(c)に示す予備賦形工程の開始状態から、加飾フィルム13が、第2回転金型21”の金型キャビティ形状に真空成形させた状態で硬化が完了すると、
図6(d)に示すように予備賦形工程の完了となる。ダミープレート6と回転金型部40とを型開きさせれば、これ以降の成形工程は、実施例1においては、
図2(d)に示す型開きした後の製品取出工程(第2回転金型21”=第2回転金型21)へと、実施例2においては、
図3(c)に示す型開き状態(第2回転金型21”=第2回転金型21’)へと継続され、意匠面にハードコート層を形成させた多層成形品9、あるいは、多層成形品9’が連続して成形される。また、ハードコート層が含まれる加飾フィルムの予備賦形工程であっても、射出工程(第1射出工程)及びその後の成形体9a(1次成形体9b)の冷却固化工程が完了するまでの時間全てを費やすことができることは実施例1及び実施例2と同様であり、先に説明したように、ハードコート層の硬化は硬化用光線の照射による光重合反応のため、硬化完了までに要する時間が非常に短く、予備賦形工程に占める硬化工程の時間的割合はごくわずかである。
【0076】
このように、表皮材である加飾フィルムに硬化用光線により硬化させるハードコート層が含まれる場合であっても、予備賦形工程において加飾フィルムを多層成形品の意匠面形状に賦形・硬化させることができるので、ハードコート層の硬化工程により成形サイクルタイムが影響を受けることはない。また、多層成形品成形後の後工程におけるハードコート層の硬化工程が不要になり、製造工程の簡略化が図れると共に、UV、EB光等の硬化用光線の樹脂成形体部分への照射による、後工程における該樹脂成形体部分の劣化が防止できる。
【0077】
更に、ハードコート層が基材である熱硬化性樹脂と融着一体化される前の段階で、多層成形品の意匠面形状と略同じ形状に予備賦形された加飾フィルムに溶融樹脂を融着一体化させるため、溶融樹脂の射出充填による融着一体化に伴う、硬化したハードコート層の意匠面形状への追従のための成形(変形)がほとんど不要となり、深絞りや凹凸を有する意匠面形状でもあっても、ハードコート層のクラック(ひび割れ)や白濁等の不良の発生を防止することができる。ここで、加飾フィルムのハードコート層が基材フィルムや保護フィルムを介して金型キャビティ面に予備賦形されるように構成されれば、硬化していない、あるいは、半硬化状態の光硬化型材料を使用するハードコート層であっても、そのモノマー成分等で金型キャビティ面が汚染される虞は無い。
【0078】
本実施例3においては、表皮材である加飾フィルムに含まれるハードコート層に光硬化型材料が使用され、これを硬化させるために、UV、EB光等の波長が短い硬化用光線を照射させるものとしたが、これらより波長が長い可視光線領域の光線照射により硬化が促進されるハードコート層であっても、好適な照射手段の選択により加飾フィルムの予備賦形を行うことができる。また、ハードコート層に熱硬化型材料が使用されるものであっても、その硬化温度が、基材フィルムをその真空成形に必要な軟化状態にさせる温度より高い温度であれば、ダミープレートの加熱手段の加熱温度を加飾フィルムの軟化時と硬化時で適宜変更させることで、加飾フィルムの予備賦形を行うことができる。
【0079】
本発明は、上記の実施の形態に限定されることなく色々な形で実施できる。例えば
、実施例3において、表皮材(加飾フィルム)の予備賦形工程を真空成形手段44による真空成形で行わせる形態としたが、真空成形と同時に、ダミープレート側から圧縮空気を注入する圧空成形を行わせ、全体として真空圧成形で予備賦形を行わせる形態であっても良い。この形態であれば、意匠面が広く凹凸のある場合等の予備賦形に有用である。