(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
電子素子を覆わないように、第一無機材料層、第二無機材料層、及び/又はフィル部無機材料層を形成する、請求項1から4のいずれか一項に記載の電子素子の封止方法。
前記第一無機材料層、第二無機材料層、及び/又はフィル部無機材料層を、金属、半導体、窒化物、窒化酸化物、酸化物及び炭化物からなる群から選択される無機材料を主成分として形成する、請求項1から5のいずれか一項に記載の電子素子の封止方法。
前記第一無機材料層、第二無機材料層、及び/又はフィル部無機材料層を形成する前に、第一無機材料層、第二無機材料層、及び/又はフィル部無機材料層が形成される露出表面に無機材料又は有機材料からなる単層又は複層を形成する、請求項1から6のいずれか一項に記載の電子素子の封止方法。
表面上に電子素子が形成され、有機材料を含む封止部が当該電子素子より大きい厚みで当該電子素子を囲むように形成された第一基板に、第二基板を接合することで当該電子素子を封止する方法において、
少なくとも前記封止部の露出表面に第一無機材料層を形成する第一無機材料層形成工程と、
少なくとも第一基板上の前記封止部に対応する第二基板の接合部位に、第二無機材料層を形成する第二無機材料層形成工程と、
互いに接触させる第一基板側表面及び第二基板側表面の少なくとも一方を、所定の運動エネルギーを有する粒子を照射することで活性化させる、表面活性化工程と、
第一基板の第一無機材料層と第二基板の第二無機材料層とを互いに直接接触させ、第一基板と第二基板とを接合する基板接合工程と、
を備え、前記無機材料層形成工程から前記基板接合工程までの工程が、圧力が1×10−5Pa以下の真空雰囲気中で行われる電子素子の封止方法。
【発明の概要】
【0006】
上記の課題を解決するために、本願発明は、有機EL素子などの電子素子の封止方法において、有機材料で形成された封止部(ダム部)又は封止部とカバー基板との接合界面を介した水や酸素などの外気の透過を抑制し、比較的低温で接合を可能にする電子素子の封止方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明において、基板は、板状又はフィルム状の半導体、ガラス、セラミックス、金属、有機材料、プラスチックなどの材料、又はこれらの複合材料により形成されていてもよく、円形、長方形等の種々の形状に形成されてもよい。
【0008】
本願発明において、電子素子は、有機ELデバイスを含むがこれに限定されない。電子素子には、例えば、電子デバイス、光デバイス、光電子デバイス、MEMS(Micro−Electro−Mechanical Systems)デバイスなども含まれる。
【0009】
上記の技術的課題を解決するために、本願発明に係る電子素子の封止方法は、電子素子が形成された第一基板の表面上に、有機材料を含む封止部を、当該電子素子より大きい厚みで当該電子素子を囲んで形成する封止部形成工程と、少なくとも前記封止部の露出表面に第一無機材料層を形成する第一無機材料層形成工程と、第一基板上の封止部と第二基板の接合部位とを互いに押し付けて、第一基板と第二基板とを接合する基板接合工程と、を備えるようにしたものである。本願発明によれば、水や酸素などの環境に曝されることで機能が劣化する電子素子を、高温プロセスを経ずに比較的低温で封止し、封止部又は封止部とカバー基板との接合界面を介した水や酸素などの外気の透過を抑制し、電子素子の劣化を抑制することができるという効果を奏する。
【0010】
本願発明に係る電子素子の封止方法は、少なくとも第一基板上の封止部に対応する第二基板の接合部位に、第二無機材料層を形成する第二無機材料層形成工程を更に備え、第一基板の第一無機材料層と第二基板の第二無機材料層を相互に接合するようにしたものである。これにより、所定の無機材料間で接合界面を形成し、比較的強度が高く封止性の高い接合界面を形成することができる。
【0011】
本願発明に係る電子素子の封止方法は、封止部形成工程後で第一無機材料層形成工程前に、第一基板の表面上の電子素子をフィル剤で覆うフィル部を形成するフィル部形成工程と、当該フィル部表面を無機材料で覆うようにフィル部無機材料層を第一無機材料層形成工程において形成するか、又はフィル部に対応する第二基板上の部位を無機材料で覆うようにフィル部無機材料層を形成する工程と、を更に備えるようにしたものである。これにより、フィル部により電子素子を保護するとともに、無機材料層同士の接合面積が増加するので、接合強度を向上させることができる。また、フィル剤を無機材料層で覆うことにより、例えば表面活性化処理を真空中で行う場合の、フィル剤からのガスの放出を抑え、適切な真空度において表面活性化処理を行うことができる。
【0012】
本願発明に係る電子素子の封止方法は、前記封止部形成工程後かつ前記第一無機材料層形成工程後に、第一基板の表面上の電子素子をフィル剤で覆うフィル部形成工程と、当該フィル部表面又はフィル部に対応する第二基板上の部位を無機材料で覆うようにフィル部無機材料層を形成する工程と、を更に備えるようにしたものである。これにより、無機材料層同士の接合面積が増加するので、接合強度を向上させることができる。また、フィル剤と封止部を覆う無機材料層を例えば1回の工程で形成することにより、効率的に無機材料層を形成することができる。また、フィル剤を無機材料層で覆うことにより、例えば表面活性化処理を真空中で行う場合の、フィル剤からのガスの放出を抑え、適切な真空度において表面活性化処理を行うことができる。
【0013】
本願発明に係る電子素子の封止方法は、第一基板の表面上の電子素子に対応する第二基板の表面部位にフィル剤よりなるフィル部を形成する工程と、当該フィル部表面を無機材料で覆うようにフィル部無機材料層を形成する工程と、を更に備えるようにしたものである。これにより、フィル部を形成する工程を封止部の形成などの第一基板についての工程と分離して行うことができるので、効率よく電子素子の封止の諸工程を行うことができる。
【0014】
本願発明に係る電子素子の封止方法は、電子素子を覆わないように、第一無機材料層、第二無機材料層、及びフィル部無機材料層を形成するようにしたものである。これにより、例えば電子素子が発光デバイスである場合に、当該発光デバイスから放射される光を第二基板側から効率よく放出させることが可能になる。
【0015】
本願発明に係る電子素子の封止方法は、第一無機材料層、第二無機材料層、及び/又はフィル部無機材料層を、金属、半導体、窒化物、窒化酸化物、酸化物及び炭化物からなる群から選択される無機材料を主成分として形成するようにしたものである。これにより、封止部を介した水や酸素などを含む外気の透過を効率的に抑制することができる。
【0016】
本願発明に係る電子素子の封止方法は、第一無機材料層、第二無機材料層、及び/又はフィル部無機材料層を形成する前に、第一無機材料層、第二無機材料層、及び/又はフィル部無機材料層が形成される露出表面に無機材料又は有機材料からなる単層又は複層を形成するようにしたものである。これにより、多層膜構造により、封止部を介した水や酸素などを含む外気の透過を更に効率的に抑制することができる。
【0017】
本願発明に係る電子素子の封止方法は、基板接合工程の前に、基板接合工程において接触する第一基板側表面及び第二基板側表面の少なくとも一方を、所定の運動エネルギーを有する粒子を照射することで活性化させる、表面活性化工程を更に備えるようにしたものである。これにより、基板接合工程において、接合界面の接合強度を高めるとともに、接合界面を介した水や酸素などを含む外気の透過を更に効率的に抑制することができる。
【0018】
本願発明に係る電子素子の封止方法は、封止部形成工程が、複数の封止部を、電子素子を入れ子状に囲んで形成することで行われるようにしたものである。これにより、電子素子は複数の封止部で囲まれるので、もしある封止部の封止性能が低い場合でも、他の封止部で封止できるので、電子素子は外気から保護された状態に保つことができる。その結果、電子素子の寿命を長くすることができる。
【0019】
本願発明に係る電子素子の封止方法は、基板接合工程が、真空雰囲気中又は不活性ガス雰囲気中で行われるようにしたものである。これにより、電子素子を真空雰囲気又は不活性ガス雰囲気中に封止することができ、電子素子の寿命を長くすることができる。
【0020】
本願発明に係る電子素子の封止方法は、表面上に電子素子が形成され、有機材料を含む封止部が当該電子素子より大きい厚みで当該電子素子を囲むように形成された第一基板に、第二基板を接合することで当該電子素子を封止する方法において、少なくとも封止部の露出表面に第一無機材料層を形成する第一無機材料層形成工程と、第一基板上の封止部と第二基板の接合部位とを互いに押し付けて、第一基板と第二基板とを接合する基板接合工程と、を備えるようにしたものである。
【0021】
本願発明に係る、電子素子を封止した基板接合体は、電子素子を表面に備えた第一基板と、第一基板の表面上に電子素子より大きい厚みで電子素子を囲んで形成された封止部と、封止部の表面に形成された無機材料層と、第一基板に、間に電子素子及び封止部を介在させて接合された第二基板と、を備えるようにしたものである。本願発明によれば、水や酸素などの環境に曝されることで機能が劣化する電子素子に対して、封止部又は封止部とカバー基板との接合界面を介した水や酸素などを含む外気の透過を抑制し、電子素子の劣化を抑制するという効果を奏する。
【0022】
本願発明に係る、電子素子を封止した基板接合体は、少なくとも第一基板上の封止部に対応する第二基板の接合部位に形成された無機材料層を更に備えるようにしたものである。これにより、所定の無機材料間で接合界面を形成し、比較的強度が高く封止性の高い接合界面を形成することができ、電子素子の封止性能が高くなる。
【0023】
本願発明に係る、電子素子を封止した基板接合体は、無機材料層が、金属、半導体、窒化物、窒化酸化物、酸化物及び炭化物からなる群から選択される無機材料を主成分として形成されてなるようにしたものである。これにより、封止部を介した水や酸素などを含む外気の透過を効率的に抑制することができる。
【0024】
本願発明に係る、電子素子を封止した基板接合体は、無機材料層が、無機材料又は有機材料からなる単層又は複層を更に備えるようにしたものである。これにより、多層膜構造により、封止部を介した水や酸素などを含む外気の透過を更に効率的に抑制することができる。
【0025】
本願発明に係る、電子素子を封止した基板接合体は、封止部が、電子素子を入れ子状に囲んで形成された複数の封止部を含むようにしたものである。これにより、電子素子は複数の封止部で囲まれるので、もしある封止部の封止性能が低い場合でも、他の封止部で封止できるので、電子素子は外気から保護された状態に保つことができる。その結果、電子素子の寿命を長くすることができる。
【0026】
本願発明に係る、表面上に電子素子が形成され、有機材料によりなる封止部が電子素子より大きい厚みで電子素子を囲むように形成された第一基板に、第二基板を接合する電子素子の封止装置は、少なくとも封止部の露出表面に無機材料層を形成する無機材料層形成手段と、第一無機材料層の表面に、所定の運動エネルギーを有する粒子を照射して表面を活性化させる表面活性化手段と、第一無機材料層の活性化された表面を有する第一基板上の封止部に第二基板を押し付けて、第一基板と第二基板とを接合する基板接合手段とを有して構成される。
【発明の効果】
【0027】
本願発明によれば、水や酸素などの環境に曝されることで機能が劣化する電子素子を、高温プロセスを経ずに比較的低温で封止し、封止部又は封止部とカバー基板との接合界面を介した水や酸素などの外気の透過を抑制し、電子素子の劣化を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、添付の図面を参照して本願発明に係る実施形態を説明する。
【0030】
<1. 第一の実施形態>
図1は、本願発明の電子素子の第一の実施形態に係る電子素子の封止方法を示すフローチャートである。
図2は、本願発明の第一の実施形態に係る電子素子の封止方法の各工程を示す概略断面図である。
【0031】
デバイス基板(第一基板)1の、接合際に第二基板に対向する面(第一基板側接合面)2上に電子素子3が形成されている。この電子素子3を囲むように、第一基板1の第一基板側接合面2上に、有機材料によりダム(封止部)4と電子素子を覆うフィル部とを形成する(工程S1、
図2(a))。少なくとも工程S1で形成された封止部4の表面を覆うように第一無機材料層6を形成する(工程S2、
図2(b))。工程S2で形成された第一無機材料層6の表面に対して所定の運動エネルギーを有する粒子7を照射して表面活性化処理を行う(工程S3、
図2(c))。工程S3で表面活性化処理された第一無機材料層6の表面が第二基板8の接合面(第二基板側接合面)9と接触するように(
図2(d)に示す場合では、第二基板側接合面9上に形成された第二無機材料層10と接触するように)、封止部4を介して第一基板と第二基板とを接合する(工程S4、
図2(d)及び
図2(e))。
【0032】
<1.1 封止部の形成>
工程S1において、封止部4は、電子素子3が形成されているデバイス基板(第一基板)1の表面(第一基板側接合面)2上に形成される。一般に、第一基板側接合面2上には、電子素子3が外部との信号の授受のために、電子素子3から延びる電気配線が設けられる(図示せず)。したがって、電気配線の上を通って電子素子3を囲むように液状のダム剤を塗布して、電気配線の有無にかかわらず、第一基板側接合面2上にほぼ同じ高さの封止部4を形成することができる。第一基板側接合面2上にほぼ同じ高さに形成された封止部4を介して、電気配線などによる第一基板側接合面2上の凹凸と関係なく、デバイス基板(第一基板)1とカバー基板(第二基板)8とを接合して、第一基板1、第二基板8及び封止部4からなる封止空間を形成することが可能になる。この封止空間を形成するために、封止部4の第一基板側接合面2上の高さは、電子素子3や電気配線など第一基板1が接合面上に配置された構造より大きい必要がある。
【0033】
封止部4は、例えば液状材料用のディスペンサを、電子素子3を周回するように移動させつつ液状のダム剤を第一基板側接合面2上に放出させることで形成される。しかし、封止部4の形成する手法はこれに限らない。
【0034】
ダム剤は、主成分としてエポキシ系樹脂からなる有機材料であることが好ましいが、これに限られない。
【0035】
典型例として、封止部4は、その断面形状が、幅1ミリメートル(mm)から2mm程度、第一基板側接合面2上の高さが50ミクロンメータ(μm)から100μmとなるように構成される。しかし、この断面形状は、電子素子3や電気配線などの寸法や、封止部4に使用される材料の特性、封止特性に応じて適宜設定されうる。
【0036】
また、封止部4は第一基板側接合面2上で電子素子3を囲むように形成されるが、この囲む形状は、四角形や多角形又は曲線で定義される図形など適宜選択される。
【0037】
さらに、封止部4は、第一基板側接合面2上で電子素子3を一周のみの構造に形成されてもよいが、複数の封止部が電子素子を囲むように入れ子状に形成されてもよい。これにより、万が一ある封止部が欠陥などで封止特性が悪化した場合でも、他の封止部により電子素子の封止特性を維持することができる。よって、これら複数の封止部を同様の特性を有する材質で形成する場合には、封止部の第一基板側接合面2上の高さをほぼ同じにすることが好ましい。これにより、複数の封止部による電子素子の封止特性を向上させることができる。複数の封止部が入れ子状に形成される場合、複数の封止部は互いに離間されていても、封止部同士が部分的に連結されていてもよい。
【0038】
封止部の中に、デバイス基板(第一基板)とカバー基板(第二基板)との間の距離を一定に保つための粒子状のスペーサを混入させてもよい。これにより、工程S4の第一基板と第二基板とが互いに押さえつけられたときに、スペーサの直径により定まる一定の高さまで、封止部が高さ方向に圧縮して変形がとまることで、第一基板と第二基板との間の距離を、これらの基板面上の位置に依存せずに、一定の値に保つことができる。スペーサの粒子の直径は、10μmから50μmの値が好ましいが、これに限られない。
【0039】
封止部の中には、上記スペーサの目的以外の目的で、有機材料又は無機材料からなる物質を混合させることもできる。たとえば、封止部の有機材料に、硝子ビーズを混合させてもよい。また、有機材料に、鉄などの金属や金属錯体などを混合させてもよい。
【0040】
また、封止部には種々の機能を付加してもよい。たとえば、封止部を形成する有機材料に水分を吸収する機能を持たせることもできる。
【0041】
<1.2 フィル部の形成>
フィル部は、例えば
図2(b)に示すように、電子デバイスを覆うように、液状フィル剤を塗布することで形成される。液状フィル剤は、主成分としてエポキシ系樹脂からなる有機材料であることが好ましいが、これに限られない。なお、フィル部は液状のフィル剤で形成されるとは限らない。たとえば、シート状の所定の位置に貼り付けることでフィル部を形成してもよい。
【0042】
<1.3 無機材料層の形成>
工程S1で形成された封止部4の表面を覆うように第一無機材料層6を形成する(工程S2)。第一無機材料層は特に水や酸素の透過性が低いものが好ましい。
【0043】
たとえば、第一無機材料層の材料として、アルミニウム(Al)やニッケル(Ni)、銅(Cu)、鉄(Fe)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、金(Au)や白金(Pt)などの遷移金属を含む金属、スズ(Sn)、銀(Ag)を含むはんだ合金又はこれらの合金、シリコン(Si)などの半導体、酸化ケイ素(SiO
2)、窒化ケイ素(SiNx)、酸化窒化ケイ素(SiNxOy)、酸化アルミニウム(Al
2O
3)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化チタン(TiN)など炭化ケイ素(SiC)、炭化チタン(TiC)などの窒化物、窒化酸化物、酸化物又は炭化物を採用することができる。
【0044】
無機材料層を、上記の材料により各層が形成された多層膜として形成してもよい。無機材料層を多層膜として形成する場合には、接合に関与する最表面層を除く位置に、例えばポリアクリレートにより形成された有機材料層を設けてもよい。
【0045】
無機材料層は、プラズマ促進化学気相成長法(PECVD)やスパッタ蒸着など堆積方法で形成されることが好ましいが、これに限られない。無機材料層を形成する際に、所定のマスクを用いることで、第一基板側接合面上の所定の領域にのみ形成することができる。
【0046】
また、所定の無機材料をプラズマ促進化学気相成長法(PECVD)やスパッタ蒸着などで所定の無機材料を堆積させることで無機材料層を形成する際に、当該所定の無機材料以外の無機材料を混合させてもよい。たとえば、粒子ビームをスパッタターゲットに照射することで、スパッタターゲットの所定の無機材料を当該スパッタターゲットから放出させてスパッタ蒸着を行う際に、粒子ビームの経路に当該所定の無機材料以外の無機材料からなるターゲットを配置してもよい。これにより、所定の無機材料に当該所定の無機材料以外の無機材料が混合した混合無機材料をスパッタ蒸着することができる。たとえば、上記所定の無機材料をシリコン(Si)とし、上記所定の無機材料以外の無機材料を鉄(Fe)などの遷移金属とすることが好ましい。これにより、無機材料層の接合力が高まり、強度が高く封止性能の高い接合界面を形成することができる。
【0047】
有機材料層は、例えばアクリルモノマーを真空中でフラッシュ蒸着し、続いてUV硬化させることで形成されてもよい。
【0048】
たとえば、
図2(b)に示すように、フィル部5が電子素子3上に形成されている場合には、第一無機材料層6は、封止部4の表面上とフィル部5の表面上とに塗布されることが好ましい。封止部4の表面のみならずフィル部5の表面にも第一無機材料層6(フィル部無機材料層)を塗布することで、後述の表面活性化処理の過程おいて、フィル部5から雰囲気への脱ガスを無機材料層により遮断し又は抑制することができる。これにより、表面活性化処理中の雰囲気を清浄に保ち、表面活性化処理された接合面の再汚染を防ぎ、清浄な接合界面を形成することができる。しかし、フィル部5の表面上に無機材料層(フィル部無機材料層)を形成しなくてもよい。
【0049】
「少なくとも封止部の露出表面に第一無機材料層を形成する」とは、たとえば
図2(b)に示すように第一無機材料層を形成する前に、既に封止部4の表面の一部がフィル部5などにより覆われている場合には、必ずしも、当該既に覆われている封止部4の表面の一部をも第一無機材料で覆うことを意味するものではない。この場合、たとえば
図2(b)に示すように、封止部4の電子素子3から見て外側の表面が、接合後にも第一無機材料層により覆われるように(
図2(d))、第一無機材料層6を封止部4の表面上に塗布すればよい。これにより、第一無機材料層6は、接合後に封止部4を透過する水などを遮断し又は抑制するように機能することができる。
【0050】
<1.4 第二基板上への無機材料層の形成>
第二基板側接合面9上で少なくとも封止部4と接合される領域(第二基板側接合領域)に、第一無機材料層に採用されうる材料を用いて第二無機材料層10を形成してもよい。第二無機材料層10は、第二基板側接合面9上の第二基板側接合領域以外の領域に形成されなくてもよいが、
図2(b)から
図2(d)に示すように、第二基板側接合面9上の、フィル部5に対応する領域に形成されてもよい。少なくとも、第一基板側接合面上の封止部4が第一無機材料層6を介して第二基板側接合面9と密着して接合されればよい。
【0051】
<1.5 表面活性化処理>
第一無機材料層6の表面活性化処理は、所定の運動エネルギーを有した粒子7を第一無機材料層6の表面に対して衝突させることで表面活性化処理を行う(工程S3、
図2(c))。
【0052】
所定の運動エネルギーを有する粒子7を衝突させて、接合面を形成する物質を物理的に弾き飛ばす現象(スパッタリング現象)を生じさせることで、酸化物や汚染物など表面層を除去し、表面エネルギーの高い、すなわち活性な無機材料の新生表面を露出させることができる。
【0053】
表面活性化処理に用いる粒子として、例えば、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)などの希ガス又は不活性ガスを採用することができる。これらの希ガスは、衝突される接合面を形成する物質と化学反応を起こしにくいので、化合物を形成するなどして、接合面の化学的性質を大きく変化させることはない。
【0054】
表面活性化される接合面に衝突させる粒子には、粒子ビーム源やプラズマ発生装置を用いて、粒子を接合面に向けて加速することで所定の運動エネルギーを与えることができる。
【0055】
表面活性化される接合面に衝突させる粒子の運動エネルギーは、1eVから2keVであることが好ましい。上記の運動エネルギーにより、効率的に表面層におけるスパッタリング現象が生じると考えられる。除去すべき表面層の厚さ、材質などの性質、新生表面の材質などに応じて、上記運動エネルギーの範囲から所望の運動エネルギーの値を設定することもできる。
【0056】
第二基板上のカバー基板(第二基板)の第二基板側接合面に対しても、表面活性化処理を行うことが好ましい。これにより、最終的に接合強度を向上させることができる。
【0057】
粒子ビーム源を用いて、粒子に所定の運動エネルギーを与えることができる。粒子ビーム源は、例えば圧力が1×10
−5Pa(パスカル)以下などの、比較的高い真空中で作動する。比較的高い真空に引くために真空ポンプの作動により、金属領域の表面から除去された物質が効率よく雰囲気外へ排気される。これにより、露出された新生表面への望ましくない物質の付着を抑制することができる。さらに、粒子ビーム源は、比較的高い加速電圧を印加することができるので、高い運動エネルギーを粒子に付与することができる。したがって、効率よく表面層の除去及び新生表面の活性化を行うことができると考えられる。
【0058】
粒子ビーム源として、イオンビームを放射するイオンビーム源や中性原子ビームを放射する中性原子ビーム源を用いることができる。
【0059】
イオンビーム源としては、コールドカソード型イオン源を用いることができる。
【0060】
中性原子ビーム源としては、高速原子ビーム源(FAB,Fast Atom Beam)を用いることができる。高速原子ビーム源(FAB)は、典型的には、ガスのプラズマを発生させ、このプラズマに電界を掛けて、プラズマから電離した粒子の陽イオンを摘出し電子雲の中を通過させて中性化する構成を有している。この場合、例えば、希ガスとしてアルゴン(Ar)の場合、高速原子ビーム源(FAB)への供給電力を、1.5kV(キロボルト)、15mA(ミリアンペア)に設定してもよく、あるいは0.1から500W(ワット)の間の値に設定してもよい。たとえば、高速原子ビーム源(FAB)を100W(ワット)から200W(ワット)で稼動してアルゴン(Ar)の高速原子ビームを2分ほど照射すると、接合面の上記酸化物、汚染物等(表面層)は除去され、新生表面を露出させることができる。
【0061】
本願発明において、表面活性化に用いられる粒子は、中性原子又はイオンでもよく、さらには、ラジカル種でもよく、またさらには、これらが混合した粒子群でもよい。
【0062】
各プラズマ又はビーム源の稼動条件、又は粒子の運動エネルギーに応じて、表面層の除去速度は変化しえる。そこで、表面活性化処理に必要な処理時間を調節する必要がある。例えば、オージェ電子分光法(AES,Auger Electron Spectroscopy)やX線光電子分光法(XPS,X−ray Photo Electron Spectroscopy)などの表面分析法を用いて、表面層に含まれる酸素や炭素の存在が確認できなくなる時間又はそれより長い時間を、表面活性化処理の処理時間として採用してもよい。
【0063】
プラズマ発生装置を用いて、粒子に所定の運動エネルギーを与えることもできる。基板の接合面に対して、交番電圧を印加することで、接合面の周りに粒子を含むプラズマを発生させ、プラズマ中の電離した粒子の陽イオンを、上記電圧により接合面に向けて加速させることで、所定の運動エネルギーを与える。プラズマは数パスカル(Pa)程度の低真空度の雰囲気で発生させることができるので、真空システムを簡易化でき、かつ真空引きなどの工程を短縮化することができる。
【0064】
また、表面活性化処理(工程S3)を行わずに基板接合(工程S4)を行ってもよい。例えば真空中で蒸着などにより形成された無機材料層は、表面において酸化や不純物による汚染などが進んでおらず、表面エネルギーが高い状態にある。この無機材料層の表面同士を接触させることで、比較的強度の高い接合界面を形成することができる。また、第二基板の表面が、封止部上に形成された無機材料と強く結合する場合には、第二基板上に第二無機材料層を形成する必要はない。
【0065】
<1.6 基板接合>
表面活性化処理後に、カバー基板(第二基板)8の第二基板側接合面9を、デバイス基板(第一基板)1の第一基板側接合面2に向かい合わせて(
図2(d))、第二基板側接合面9上の、封止部4が接合される第二基板側接合領域が、第二無機材料層10を介して、第一無機材料層6の表面と接触するように、第二基板8と第一基板1とを互いに対して押し付けて、第一基板1と第二基板8とを接合する(工程S4、
図2(e))。表面活性化された無機材料層同士の表面の接触により形成された接合界面は、比較的高い機械的強度を有する。
【0066】
表面活性化処理が完了してから接合までの間、表面活性化処理が行われた第一基板又はさらに第二基板の雰囲気を、表面活性化処理前の真空度、例えば1×10
−5Pa(パスカル)以下の真空度に保つことが好ましい。または、表面活性化処理後に窒素やアルゴンなどの不活性ガスを雰囲気に導入して、不活性ガス雰囲気中で基板接合を行うようにしてもよい。
【0067】
表面活性化処理(工程S3)を行わない場合には、無機材料層を形成した(工程S2)後に、基板接合を行う。基板接合をする際には、雰囲気を例えば1×10
−5Pa(パスカル)以下の真空度に保つことが好ましい。または、表面活性化処理後に窒素やアルゴンなどの不活性ガスを雰囲気に導入して、不活性ガス雰囲気中で基板接合を行うようにしてもよい。
【0068】
これにより、雰囲気中の酸素や不純物などの望ましくない物質が付着することにより、表面活性化処理された無機材料層の表面などの接合に係る接合面の表面エネルギーが低下することを抑制することができる。さらには、最終的に形成される接合界面の接合強度を向上させることができる。
【0069】
第一基板と第二基板とが互いに対して押し付けられる際には、第一基板と第二基板との間隔が基板面に亘り一定になるように調節されるのが好ましい。封止部が例えばエポキシ系樹脂のような弾性を有する有機材料で形成されている場合には、第二基板が第一基板に対して押し付けられる過程で、封止部は高さ方向に圧縮変形する。この場合、封止部の中に所定の径又は寸法を有する弾性の小さい粒子(スペーサ)を混合させておくことが好ましい。これにより、封止部が高さ方向に圧縮された場合でも、封止部の粒子の径に対応する間隔を、基板面に亘り一定に保つことができる。このような目的に使用される粒子としては、プラスチックやシリカなどで数μmから20μm程度の粒径のものが挙げられる。
【0070】
第一基板と第二基板とが所定の間隔を有するように押し付けられた状態で、封止部を形成するダム剤を硬化させてもよい。これにより、第一基板と第二基板との間に確定された間隔を固定するとともに、封止部の弾性変形を抑制し接合界面での強度を向上させることができる。
【0071】
ダム剤の硬化は、たとえば、ダム剤として一般的な液状の紫外線(UV)硬化樹脂を使用し、紫外線(UV)光を所定時間に亘り照射して硬化させることで行うことができる。
【0072】
<1.7 変形例1>
またたとえば、
図3(a)に示すように、第一無機材料層6は、第一基板側接合面2上に、電子素子3が形成された領域の外側に、少なくとも封止部4を覆うように塗布されることで形成されてもよい。すなわち、第一無機材料層6は、封止部4の表面には塗布するが、電子素子3上には塗布しないように、又は電子素子3を覆わないように形成されてもよい。この場合、無機材料層を形成する工程で所定のマスクを用いることで、基板上の所定の部位に無機材料層を塗布しないようにすることが好ましい。この後、フィル部5が、電子素子3上に形成されてもよい(
図3(b))。さらに、当該電子素子3を有機EL素子のような発光素子として形成し、第二基板8及びフィル部5を当該発光素子が発する光又は電磁波の波長に対して透明な材料で構成し、第二無機材料層10を、電子素子3に対応する第一基板上の領域には形成しないように構成することが好ましい(
図3(c))。これにより、発光素子が発する光等を、第二基板を通って、第一基板と第二基板とからなる接合体の外部へ効率よく放出させることができる電子素子の封止構造を製造することができる(
図3(d))。すなわち、これにより所謂トップエミッション型の有機ELディスプレイを製造することができる。
【0073】
<1.8 変形例2>
図4に示すように、封止部4を形成した後に、封止部4の表面を覆うように第一無機材料6を塗布し(
図4(a))、次にフィル剤を電子素子を覆うように塗布してフィル部5を形成し(
図4(b))、続いて、フィル部5の表面を覆うように第一無機材料を塗布することで(
図4(c))、第一無機材料層6を形成してもよい。これにより、封止部4の全表面を第一無機材料層6で覆うことができるので、電子素子3から見ると封止部4の内側と外側の面に第一無機材料層6が形成される。すなわち、封止部4を通過する水等を2重の第一無機材料層6で遮断することができるので、接合により形成された封止構造において、水等が封止部4を透過するのを遮断し又は抑制ことができる。すなわち、電子素子3の封止性を向上させることができる。さらに、フィル部5の表面を第一無機材料層6で覆うことにより、第二基板と接合されたときの接合強度を向上させることができる。
【0074】
第一無機材料層6のうちのフィル部5の表面を覆う部分(フィル部無機材料層)は形成されなくてもよい。
【0075】
<2. 第二の実施形態>
図5に示すように、フィル部5は、デバイス基板(第一基板)1側ではなく、カバー基板(第二基板)8側に形成されてもよい。この場合、フィル部5は、第一基板1と第二基板8が接合されるときに、第一基板側接合面2上に形成された電子素子3に対応する第二基板接合面9上の領域に形成される。これにより、第一基板1と第二基板8とが接合されることで、フィル部5で電子素子3の表面は覆われる。
【0076】
好ましくは、第一無機材料層6は、封止部4の表面と電子素子3の表面を覆うように、第一基板接合面2上に形成され、第二無機材料10は、第二基板側接合面9上の、封止部4と接合される第二基板側接合面9上の領域に形成されるが、これに限られない。所定の最終製品の特性、封止工程の諸条件などに応じて、電子素子3上に、無機材料層を形成しなくてもよい。また、第二基板側接合面9上のフィル部5の表面を覆うように、第二無機材料10が形成されるのが好ましい(
図5)。これにより、フィル部5から雰囲気への脱ガスを無機材料層により遮断し又は抑制することができる。
【0077】
<3. 装置構成>
図6を参照しつつ、本願発明の電子素子を封止する方法を実施するための装置構成の一例と当該装置を用いた電子素子の封止方法とを説明する。
【0078】
図6(a)に示す電子素子封止装置100は、真空容器101と、真空容器101の内部に配置されて、第一基板102と第二基板103とを移動可能に支持する基板支持体104と、表面活性化処理手段として粒子ビーム源105と、無機材料層を形成するための無機材料形成手段として無機材料スパッタ源106と、接合手段として基板支持体104は回転軸104Aと加圧手段(図示せず)を有して構成されている。この構成により、真空中で良質な無機材料層の形成を行い、さらに、真空を破らずに、表面活性化処理と基板接合とを行えるので、強度の高い接合界面を形成することができる。
【0079】
また、電子素子が形成された基板の表面上に、有機材料よりなる封止部を、電子素子を囲むように形成するための封止部手段(図示せず)は、電子素子封止装置100と別個に構成されることができる。封止部手段として、例えば液状樹脂などの液体又は液状物質を所定の経路上に所定量だけ吐出する装置であるディスペンサなどが挙げられる。
【0080】
<3.1 無機材料層形成手段>
図6(a)に示すように、真空容器101には、真空ポンプ(図示せず)が接続され、真空容器101内部の真空度を1×10
−5Pa以下の圧力に維持することができる。また、粒子ビーム源105は、回転軸105A周りに回転可能であり、無機材料スパッタ源106に向けて粒子を加速させて無機材料をスパッタさせ、また、基板支持体104の位置に応じて第一基板102又は第二基板103の表面に向けて所定の運動エネルギーを有する粒子による粒子ビーム105Bを放射させて基板表面の表面活性化処理を行うことができるように構成されている。無機材料スパッタ源106は、回転軸106A周りに回転可能であり、所定の回転角度を固定することで、スパッタターゲットT1、T2、T3及びT4のいずれかが粒子ビーム源105からの粒子ビーム105Bを受けて、スパッタターゲットT1からT4に設置された無機材料が第一基板102又は第二基板103のいずれかに向けて放射されるように構成されている。これにより、所定の第一無機材料及び第二無機材料が、それぞれ第一基板側接合面又は第二基板側接合面上に堆積されて、第二無機材料層及び第二無機材料層が形成される。これら基板上の所定の領域のみに無機材料を堆積させる場合には、基板上に当該所定の領域を規定するマスクが配置される(図示せず)。
【0081】
また、無機材料が堆積されている間に、基板支持体104を走査させて、第一基板102又は第二基板103上の堆積条件を均一にすることができる。無機材料層の厚さは、所定の粒子ビーム源105の作動条件や、粒子ビーム源105、無機材料スパッタ源106、及び基板102、103の真空容器101内の所定の配置位置に対して、走査回数により段階的に制御されてもよい。
【0082】
スパッタターゲットに設置される材料として、アルミニウム(Al)やニッケル(Ni)、銅(Cu)、鉄(Fe)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、金(Au)や白金(Pt)などの遷移金属を含む金属、スズ(Sn)、銀(Ag)を含むはんだ合金又はこれらの合金、シリコン(Si)などの半導体、酸化ケイ素(SiO
2)、窒化ケイ素(SiNx)、酸化窒化ケイ素(SiNxOy)、酸化アルミニウム(Al
2O
3)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化チタン(TiN)など炭化ケイ素(SiC)、炭化チタン(TiC)などの窒化物、窒化酸化物、酸化物又は炭化物を採用することができる。また、有機材料層を形成する場合には、有機材料が設置されたスパッタターゲットを用意することができる。
【0083】
また、
図6に示す装置では、スパッターゲットの数Nは4つであるが、これに限定されない。たとえば、スパッターゲットの数Nは、無機材料スパッタ源106の回転軸106Aに垂直な断面形状をN角形とし、このNを変えることで、変更されてもよい。
【0084】
無機材料層を多層膜として形成するためには、各層を、無機材料スパッタ源106を回転させて、形成されるべき各層の材料が設置された所定のスパッタターゲットを、粒子ビーム105Bが照射される方向に向けることで形成すればよい。
【0085】
<3.2 表面活性化手段>
表面活性化処理は、
図6(b)に示すように、粒子ビーム源105を回転軸105A周りに回転させて、第一基板102又は第二基板103に向いた位置で固定して、第一基板102又は第二基板103に対して所定の運動エネルギーを有する粒子による粒子ビーム105Bを放射させることにより行われる。基板上の所定の領域のみに対して表面活性化処理を行う場合には、基板上に当該所定の領域を規定するマスクが配置される(図示せず)。
【0086】
図7に示す粒子ビーム源105の一例は、ライン型の粒子ビーム源(
図7)であり、より具体的にはライン型のコールドカソード型イオンビーム源である。ライン型粒子ビーム源とは、ライン型(線状)の又は細長い粒子ビーム放射口105Cを有する粒子ビーム源105であり、この放射口からライン型(線状)に粒子ビームを放射することができる。放射口105Cの長さは、粒子ビームが照射される基板の直径より大きいことが好ましい。基板が円形でない場合には、放射口105Cの長さは、粒子ビーム源に対して相対的に移動させられる基板に係る放射口105Cが延びる方向の最大寸法より大きいことが好ましい。
【0087】
ライン型粒子ビーム源105から放射された粒子ビーム105Bは、表面活性化処理中のある時刻においては、基板上の、
図6において紙面に垂直方向に延びた線状の領域を照射している。そして、ライン型粒子ビーム源105から基板102又は103に向けて粒子ビーム105Bを放射させつつ、放射口が延びる方向と垂直方向(
図6において横方向)に基板支持体104を走査させる。その結果、線状の粒子ビームの照射領域が基板のすべての接合部上を通過する。ライン型の粒子ビーム源が、基板上を通過し終えると、基板全体が、粒子ビーム105Bにより均一に照射され、表面活性化される。
【0088】
ライン型の粒子ビーム源は、比較的面積の大きい基板の表面を、比較的均一に粒子ビームで照射する際に適している。また、ライン型の粒子ビーム源は、基板の様々な形状に対応して、比較的均一に粒子ビームを照射することができる。
【0089】
多層膜を形成する場合に、各層の形成後に、形成された層の表面に対して適切な表面活性化処理を行うことで、各層間の接着強度を高めることができる。
【0090】
また、無機材料層を非金属材料を主成分として形成する場合には、無機材料層に所定の量の金属を混合させることが好ましい。これにより、接合強度を向上させることができる。たとえば、ケイ素(Si)を主成分として無機材料層を形成する場合には、鉄やニッケルなどの遷移金属を、無機材料層の表面に1原子層未満の割合で存在するように混合させることが好ましい。この場合、粒子ビーム源105内又は近傍において、加速された粒子ビーム105Bの一部が衝突する位置に、混合すべき金属からなる部材が配置される。その結果、無機材料層をケイ素(Si)などの所定の非金属材料で形成した後に、粒子ビーム源105から粒子ビーム105Bを作動させることで、粒子ビーム105Bに所定の鉄やニッケルなどの金属を混合させることができる。この金属の混合量は、粒子ビーム源105の作動条件、混合すべき金属からなる部材の配置や、真空容器101内の各部材の配置などにより制御される。
【0091】
<3.3 接合手段>
図6(c)に示すように、基板支持体104は、接合手段として、第一基板102と第二基板103とを支持する箇所の間に設けられた回転軸104Aを有して構成されている。基板支持体104は、この回転軸104A回りに第一基板102と第二基板103とが向かい合うように、折り畳まれるように構成されている。これにより、
図6(c)に示すように、簡略な構成を用いて第一基板102と第二基板103とを、当接させ、互いにほぼ全面積に亘って均等に同じ圧力を加えることができる。
【0092】
接合の際に、第一基板102と第二基板103とを互いに押し付けるように、折り畳まれた基板支持体104の外側から、所定の力を加える加圧手段(図示せず)が配置されてもよい。また、接合の際に、第一基板102と第二基板103とを、電子素子の機能を低下させない範囲で所定の温度で加熱する加熱手段(図示せず)が配置されてもよい。
【0093】
また、第一基板102と第二基板103とを互いに押し付けられている間に、封止部に紫外線(UV)を照射することができる紫外線照射手段(図示せず)が配置されてもよい。
【0094】
図6に示す装置構成は、本願発明の電子素子を封止する方法を実施するための装置構成の一例であって、これに限定されない。
【0095】
図6では模式的に、表面活性化処理工程と基板接合工程とが同じ真空容器101内で行われるように装置が構成されているが、これに限られない。たとえば、表面活性化処理工程を行う真空容器と、基板接合工程を行う真空容器又はチャンバを別個に設ける装置構成としてもよい(図示せず)。
【0096】
図6では模式的に、基板支持体104が回転軸104A周りに折り畳まれることで第一基板と第二基板が接合されるように装置が構成されているが、これに限らない。たとえば、第一基板と第二基板の接合面が互いに向き合うようにほぼ平行に支持することのできる一対の基板支持体を設け、いずれかの基板を他の基板に対して近づけ、又はさらに圧力を掛けることができるように装置が構成されてもよい。この際に、一対の基板支持体はロボットにより作動され、基板支持体の近接移動をサーボモータ等で制御するように装置が構成されてもよい。また加圧を、両側の基板の裏側から掛けてもよく、いずれかの基板を固定し他の基板の裏側からのみ掛けるように装置が構成されてもよい(図示せず)。
【0097】
接合手段には、第一基板と第二基板とを接合する際に、接合面に平行なX−Y方向の位置決め、接合面の法線周りの回転角の位置決めなどの両基板間の位置決めを行う位置決め機構が設けられてもよい。これらの位置決めは、たとえば、基板上のマーキングや基板支持体のマーキングをCCDカメラなどで観察しつつ、両基板間で当該マーキング同士を所定の精度内に合わせることで行うことができる(図示せず)。
【実施例】
【0098】
以下、本願発明を実施例によって詳細に説明するが、本願発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0099】
第一の実施形態の一実施例として、無機材料層にアルミニウム(Al)、銅(Cu)又はケイ素(Si)を採用した場合の接合について、それぞれ説明する。
【0100】
これらの実施例では、厚さ125マイクロメータ(μm)で約7cm四方の大きさの一対のPETフィルムを第一基板及び第二基板として使用した。
【0101】
<実施例1>
まず、無機材料層としてアルミニウム(Al)又はケイ素(Si)を採用した場合について説明する。アルミニウム(Al)による無機材料層の形成とケイ素(Si)による無機材料層の形成とを、同じライン型粒子ビーム源の動作条件で行った。ライン型粒子ビーム源から、プラズマにより発生されて1.2kVの電位差で加速されたアルゴン(Ar)粒子を、アルミニウム(Al)又はケイ素(Si)のスパッタターゲットに対して照射した。ライン型粒子ビーム源(コールドカソード型イオンビーム源)は、93sccmのアルゴン(Ar)供給量で、1.2kV、400mAの条件で駆動した。加速されたアルゴンイオンの大部分は、ニュートラライザにより、運動エネルギーをほぼ保ちながら中性化された。粒子ビーム源から放射されたアルゴン原子ビームの衝突によるスパッタリング現象により、スパッタターゲットからアルミニウム(Al)又はケイ素(Si)の原子又はクラスターが無機材料層に向けて放射された。ライン型粒子ビーム源及びライン型スパッタターゲットを、一体として、基板に対して1200mm/minの相対速度で合計3回、走査させた。上記条件で、基板上に10nm程度のアルミニウム(Al)又はケイ素(Si)の層が形成された。
【0102】
続いて、真空雰囲気を破らずに、形成されたアルミニウム(Al)又はケイ素(Si)の層の表面を表面活性化処理した。表面活性化処理には、無機材料層の形成に用いられたのと同一のライン型粒子ビーム源を使用した。ライン型粒子ビーム源を、70sccmのアルゴン(Ar)供給量で、1.0kV、100mAの条件で駆動させることで基板に向けてアルゴン粒子ビームを放射させ、基板に対して1200mm/minの相対速度で1回、走査させた。
【0103】
<実施例2>
次に、無機材料層として銅を採用した場合について説明する。ライン型粒子ビーム源から、プラズマにより発生されて1.2kVの電位差で加速されたアルゴン(Ar)粒子を銅(Cu)スパッタターゲットに対して照射した。ライン型粒子ビーム源は、93sccmのアルゴン(Ar)供給量で、1.2kV、400mAの条件で駆動した。加速されたアルゴンイオンの大部分は、ニュートラライザにより、運動エネルギーをほぼ保ちながら中性化された。粒子ビーム源から放射されたアルゴン原子ビームの衝突によるスパッタリング現象により、スパッタターゲットから銅(Cu)の原子又はクラスターを基板に向けて放射させた。ライン型粒子ビーム源及びライン型スパッタターゲットを、一体として、基板に対して1200mm/minの相対速度で合計6回、走査させた。上記条件で、基板上に10nm程度の銅の層が形成された。
【0104】
続いて、真空雰囲気を破らずに、形成された銅の層の表面を表面活性化処理した。表面活性化処理には、無機材料層の形成に用いられたのと同一のライン型粒子ビーム源を使用した。ライン型粒子ビーム源を、70sccmのアルゴン(Ar)供給量で、1.0kV、100mAの条件で駆動させて基板に向けてアルゴン粒子ビームを放射させ、基板に対して1200mm/minの相対速度で合計2回、走査させた。
【0105】
上記の条件で表面活性化されたアルミニウム、銅、又はケイ素である同じ材料から形成された2つの無機材料層を互いに当接させて、基板同士を常温で接合することができた。この際、直径50mm程度のほぼ平坦な表面を有する円形の治具により、3分に亘り、約5MPa程度の圧力を加えた。
【0106】
<実施例3>
実施例3では、基板としてPENを採用し、無機材料層をケイ素の層とアルミニウムの層とを積層して形成した。本実施例において、無機材料層の形成の条件及び表面活性化処理の条件は、実施例1と異なり、これら以外の条件は同様であった。以下、無機材料層の形成の条件及び表面活性化処理の条件について説明する。
【0107】
まず、基板にケイ素の層を形成するために、ライン型粒子ビーム源により、プラズマ化されて1.2kVの電位差で加速されたアルゴン(Ar)粒子をケイ素(Si)のスパッタターゲットに対して照射した。ライン型粒子ビーム源を、93sccmのアルゴン(Ar)供給量で、1.2kV、400mAの条件で駆動した。加速されたアルゴンイオンの大部分は、ニュートラライザにより、運動エネルギーをほぼ保ちながら中性化された。粒子ビーム源から放射されたアルゴン粒子の衝突によるスパッタリング現象により、スパッタターゲットからケイ素(Si)の原子又はクラスターが基板に向けて放射された。ライン型粒子ビーム源及びライン型スパッタターゲットを、一体として、基板に対して1200mm/minの相対速度で1回、走査させた。
【0108】
次に、スパッタターゲットをケイ素(Si)からアルミニウム(Al)に取り替えて、同様の条件で、アルミニウム(Al)の層を、ケイ素(Si)の層上に堆積した。これにより、5ナノメートル程度の無機材料層が形成された。
【0109】
続いて、真空雰囲気を破らずに、形成されたアルミニウム(Al)の層の表面を表面活性化処理した。表面活性化処理には、無機材料層の形成に用いたのと同一のライン型粒子ビーム源を用いた。ライン型粒子ビーム源を、70sccmのアルゴン(Ar)供給量で、1.0kV、100mAの条件で駆動して、基板に向けてアルゴン粒子ビームを放射させ、基板に対して1200mm/minの相対速度で1回、走査させた。
【0110】
また、無機材料層内の材料の積層の順番を替えて、まず基板上にアルミニウム(Al)の層を形成し、この上にケイ素(Si)の層を形成し、他の条件を同じとする実験も行い、同様の結果が得られた。(図示せず)
【0111】
<実施例4>
以下、本実施例に係る封止構造の性能評価のために行った試験について説明する。
【0112】
<本実施例に係る封止構造の準備>
まず、本実施例に係る封止構造の準備方法について説明する。カバー基板を45mm四方のガラス材料で、電子素子が形成される基板を50mm四方のガラス材料で形成し、電子素子として有機EL素子を採用した。ダム部は、ノボラック系樹脂を、スピンコーティングとフォトリソグラフィなどのフォトプロセスとにより電子素子基板上に形成した。本実施例では、ダム部にノボラック系樹脂を使用したが、PI(ポリイミド)を使用しても、同様の形状のダム部を形成し、同様の効果を得ることができる。当該ダム部の高さは、1から3μm、ダム部の幅は2mm程度であった。
【0113】
その後有機EL素子を覆うようにシートを貼り付けた。このシートの役割は、真空中での貼り合わせであるため、中央部が撓む事で有機EL素子を傷つける事をさけるために行われた。このシートは乾燥剤の役割は持っていない。その後、このシートは熱により硬化するため、硬化条件の100℃で2時間加熱をおこなった。
【0114】
その後、カバー基板(カバーガラス)のダム部上と当該ダム部に対応する電子素子基板の箇所との各々に、これらを覆うように、厚さ約30nmのSiN薄膜を形成した。このように、基板表面を絶縁膜で覆うことで基板上の導通を防ぐことができる。上記SiN薄膜を形成するために、バックグラウンド圧力を1.0×10
−5Pa未満の状態で、ライン型粒子ビーム源により、プラズマ化されて1.5kVの電位差で加速されたアルゴン(Ar)粒子を窒化ケイ素(SiN)のスパッタターゲットに対して照射した。ライン型粒子ビーム源を、80sccmのアルゴン(Ar)供給量で、1.5kV、400mAの条件で駆動した。加速されたアルゴンイオンの大部分は、ニュートラライザにより、運動エネルギーをほぼ保ちながら電気的に中性化された。粒子ビーム源から放射されたアルゴン粒子の衝突によるスパッタリング現象により、スパッタターゲットから窒化ケイ素(SiN)のクラスターが基板の所定の部位に向けて放射された。ライン型粒子ビーム源及びライン型スパッタターゲットを、一体として、基板に対して1200mm/minの相対速度で20回、走査させた。これにより、カバー基板のダム部上と当該ダム部に対応する電子素子基板の箇所に、厚さ約30nmのSiN薄膜を形成した。
【0115】
その後、カバー基板(カバーガラス)のダム部上と当該ダム部に対応する電子素子基板の箇所との各々に、これらを覆うように、厚さ約20nmのSi薄膜を形成した。このSi薄膜が接合用の薄膜の役割を果たす。上記Si薄膜を形成するために、バックグラウンド圧力を1.0×10
−5Pa未満の状態で、ライン型粒子ビーム源により、プラズマ化されて1.2kVの電位差で加速されたアルゴン(Ar)粒子をケイ素(Si)のスパッタターゲットに対して照射した。ライン型粒子ビーム源を、80sccmのアルゴン(Ar)供給量で、1.2kV、400mAの条件で駆動した。加速されたアルゴンイオンの大部分は、ニュートラライザにより、運動エネルギーをほぼ保ちながら電気的に中性化された。粒子ビーム源から放射されたアルゴン粒子の衝突によるスパッタリング現象により、スパッタターゲットからケイ素(Si)の原子又はクラスターが基板の所定の部位に向けて放射された。ライン型粒子ビーム源及びライン型スパッタターゲットを、一体として、基板に対して1200mm/minの相対速度で5回、走査させた。これにより、カバー基板のダム部上と当該ダム部に対応する電子素子基板の箇所に、厚さ約20nmのSi薄膜を形成した。
【0116】
続いて、真空雰囲気を破らずに、形成されたSi薄膜の表面に対して表面活性化処理を行った。当該表面活性化処理には、無機材料層の形成に用いたものと同一のライン型粒子ビーム源を用いた。ライン型粒子ビーム源を、70sccmのアルゴン(Ar)供給量で、1.0kV、100mAの条件で駆動して、基板に向けてアルゴン粒子ビームを放射させ、基板に対して1200mm/minの相対速度で1回、走査させた。
【0117】
その後、真空雰囲気を破らずに、表面活性化処理された両基板のSi薄膜の表面同士を、5.0kNの力で5分間加圧した。これにより、封止構造が形成された。
【0118】
<環境試験>
次に、本実施例に係る封止構造Aについて、環境試験器を用いて、有機EL素子を点灯させていない状態で、温度摂氏85度、湿度85%の条件下で耐久試験を行った。
図8(a)は、耐久試験開始時の発光の様子を示す写真である。一方、
図8(b)は、耐久試験開始から約140時間が経過した時点での発光の様子を示す写真である。数箇所に当初から見られる発光欠陥に変化もなく、また発光部位にも欠陥の発現は認められなかった。300時間が経過すると若干の水分侵入かまたは内部にもともと存在したダークスポットが成長を開始した。
【0119】
このように、85℃/85%RH環境試験でも、140時間経過後も発光特性の変化や欠陥の成長又は増加が認められなかった。すなわち、本試験においても、本願発明により、封止性能を格段に向上させることができることが確認された。当該環境試験での耐久時間は、工程の再検証、ならびに有機EL蒸着工程での水分侵入要因の改善により更に延び得ると考えられる。
【0120】
上述のとおり、本願発明により、PI又はノボラック系樹脂をダム部として使用することができる上に、環境試験でも高い封止性能を示す封止構造を提供することができる。
【0121】
以上、本願発明の幾つかの実施形態及び実施例について説明したが、これらの実施形態及び実施例は、本願発明を例示的に説明するものである。特許請求の範囲は、本願発明の技術的思想から逸脱することのない範囲で、実施の形態に対する多数の変形形態を包括するものである。したがって、本明細書に開示された実施形態及び実施例は、例示のために示されたものであり、本願発明の範囲を限定するものと考えるべきではない。