(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5704793
(24)【登録日】2015年3月6日
(45)【発行日】2015年4月22日
(54)【発明の名称】プリント配線板の絶縁層構成用の樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08G 59/20 20060101AFI20150402BHJP
C08G 59/50 20060101ALI20150402BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20150402BHJP
C08L 29/04 20060101ALI20150402BHJP
C08L 75/00 20060101ALI20150402BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20150402BHJP
【FI】
C08G59/20
C08G59/50
C08L63/00 A
C08L29/04
C08L75/00
H05K1/03 610L
【請求項の数】8
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2008-521668(P2008-521668)
(86)(22)【出願日】2008年3月21日
(86)【国際出願番号】JP2008055222
(87)【国際公開番号】WO2008114858
(87)【国際公開日】20080925
【審査請求日】2011年1月25日
(31)【優先権主張番号】特願2007-73703(P2007-73703)
(32)【優先日】2007年3月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124327
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 勝博
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】松島 敏文
【審査官】
武貞 亜弓
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−003702(JP,A)
【文献】
特開2001−181475(JP,A)
【文献】
特開2005−002294(JP,A)
【文献】
特開2000−256537(JP,A)
【文献】
特開2005−353918(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00− 59/72
C08L 1/00−101/14
H05K 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半硬化状態における耐吸湿特性を備える樹脂組成物であって、
当該樹脂組成物は、以下のA成分〜E成分を含み、樹脂組成物重量を100重量%としたときA成分が3重量部〜20重量部、B成分が3重量部〜30重量部、C成分が10重量部以下、E成分が樹脂組成物重量を100重量%としたときリン原子を0.5重量%〜3.0重量%の範囲となるように定めた重量部で含有したことを特徴とするプリント配線板の絶縁層構成用の樹脂組成物。
A成分: エポキシ当量が200以下で、25℃で液状のビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂の群から選ばれる1種又は2種以上。
B成分: 架橋可能な官能基を有する線状ポリマーとしてのポリビニルアセタール樹脂。
C成分: A成分とB成分との架橋反応を起こさせるための架橋剤としてのウレタン系樹脂。
D成分: イミダゾール系エポキシ樹脂硬化剤。
E成分: リン含有エポキシ樹脂。
【請求項2】
前記E成分であるリン含有エポキシ樹脂は、分子内に2以上のエポキシ基を備える9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイドからの誘導体として得られるエポキシ樹脂を用いる請求項1に記載のプリント配線板の絶縁層構成用の樹脂組成物。
【請求項3】
前記E成分であるリン含有エポキシ樹脂は、以下に示す化1〜化3のいずれかに示す構造式を備える化合物の1種又は2種を混合して用いる請求項2に記載のプリント配線板の絶縁層構成用の樹脂組成物。
【化1】
【化2】
【化3】
【請求項4】
銅箔の表面に樹脂層を備えた樹脂付銅箔において、
当該樹脂層は、請求項1〜請求項3のいずれかに記載の樹脂組成物を用いて、5μm〜100μmの厚さの半硬化樹脂膜として形成したことを特徴とするプリント配線板製造用の樹脂付銅箔。
【請求項5】
前記銅箔の樹脂層を形成する表面にシランカップリング処理層を備える請求項4に記載のプリント配線板製造用の樹脂付銅箔。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載のプリント配線板製造用の樹脂付銅箔の製造方法であって、
以下の工程a、工程bの手順で樹脂層の形成に用いる樹脂ワニスを調製し、当該樹脂ワニスを銅箔の表面に塗布し、乾燥させることで5μm〜100μmの換算厚さの半硬化樹脂膜として樹脂付銅箔とすることを特徴とするプリント配線板製造用の樹脂付銅箔の製造方法。
工程a: A成分(エポキシ当量が200以下で、25℃で液状のビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂の群から選ばれる1種又は2種以上)、B成分(ポリビニルアセタール樹脂)、C成分(架橋剤としてのウレタン系樹脂)、D成分(イミダゾール系エポキシ樹脂硬化剤)、E成分(リン含有エポキシ樹脂)からなり、樹脂組成物重量を100重量%としたときリン原子を0.5重量%〜3.0重量%の範囲となるように各成分を混合して樹脂組成物とする。
工程b: 前記樹脂組成物を、有機溶剤を用いて溶解し、樹脂固形分量が25wt%〜50wt%の樹脂ワニスとする。
【請求項7】
前記E成分であるリン含有エポキシ樹脂に、分子内に2以上のエポキシ基を備える9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイドからの誘導体として得られるリン含有エポキシ樹脂を用いる請求項6に記載のプリント配線板製造用の樹脂付銅箔の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載の樹脂組成物を用いて絶縁層を構成したことを特徴とするプリント配線板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件出願に係る発明は、プリント配線板の絶縁層構成用の樹脂組成物及び樹脂付銅箔並びに樹脂付銅箔の製造方法等に関する。特に、銅張積層板に加工する前であって、樹脂付銅箔の樹脂層が半硬化状態にあるとき、吸湿して樹脂層の性能が劣化する現象を軽減した樹脂付銅箔に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂付銅箔は、プリント配線板製造の分野で、種々の使用目的の下で用いられてきた。例えば、特許文献1には、周辺の銅箔が露出した余白部があるように樹脂を銅箔の表面に形成した樹脂付銅箔を採用して、樹脂付銅箔の裏面での打痕の発生を防止することが開示され。樹脂付銅箔の形態をプレス加工時の打痕の防止に用いている。
【0003】
また、特許文献2には、ビルドアッププリント配線板でビルドアップ層を形成するため樹脂付銅箔をコア層に積層する製造方法において、積層時コア層IVH近傍の銅箔凹みを抑え、レジスト用ドライフィルムの密着性が良好で気泡の発生が無く、結果として精細パターンが精度良く得ることを目的として、コア層IVHに樹脂付銅箔の樹脂層の樹脂成分を流入させ、影響の無い凹みに抑えるために、必要な厚さの銅箔の樹脂付銅箔を用いることが開示されている。
【0004】
その他、樹脂付銅箔は、その樹脂層に、骨格材を用いないため耐マイグレーション性に優れ、ガラスクロスを骨格材として用いたプリプレグと異なりクロス目が基板表面に浮き出すのを防止する用途等に用いられてきた。例えば、特許文献3には、高電圧で使用しても絶縁劣化の虞れが無く、しかもコストアップが充分に抑制できるようにしたプリント配線板等の提供を目的として、ガラス繊維基板材と配線層及び配線パターンの間に、ガラス繊維を含んでいない絶縁膜を設け、配線層及び配線パターンがガラス繊維基板材内にあるガラス繊維に接触することがないようにするにあたり、前記ガラス繊維を含まない絶縁膜が、絶縁樹脂付銅箔の絶縁樹脂部分で形成され、前記配線パターンが形成された銅箔層が、この絶縁樹脂付銅箔の銅箔部分で形成されていることを特徴とするプリント配線板を採用することが開示されている。この結果、耐マイグレーション性が向上し、絶縁層と配線層及び配線パターンの接着強度が向上し、高い信頼性と長寿命化を得ることができるとしている。
【0005】
以上のことから理解できるように、樹脂付銅箔は、プリント配線板の形状起因の欠点を補う用途で使用されてきた。
【0006】
そして、本件出願人等は、以上のような用途に最適な樹脂付銅箔として、特許文献4に開示の発明を行ってきた。この特許文献4には、ハロゲン元素を含まず、且つ高い難燃性を有し、優れた耐水性、耐熱性、および基材と銅箔との間の良好な引き剥がし強さを有する樹脂付き銅箔を提供を目的として、窒素が5〜25重量%であるエポキシ樹脂硬化剤を含むエポキシ系樹脂と、熱硬化性を有するマレイミド化合物とを含み、ハロゲン元素を含有しない組成を有するものであることを特徴とする樹脂化合物を樹脂付銅箔の樹脂層構成用に用いた。
【0007】
また、本件出願人等は、特許文献5で、難燃性、樹脂流れ性、耐水性、引き剥がし強さの各特性のトータルバランスに優れたプリント配線板製造用の樹脂付銅箔を提供するため、銅箔の片面に樹脂層を備えた樹脂付銅箔において、当該樹脂層は、a.分子中に架橋可能な官能基を有する高分子ポリマーおよびその架橋剤 5〜30重量部 b.25℃で液体であるエポキシ樹脂 5〜30重量部 c.化4に示す構造を備えた化合物 40〜90重量部の組成の樹脂組成物からなることを特徴とする技術を開示している。
【0008】
【化4】
【0009】
以上の特許文献4及び特許文献5に開示の発明は、プリント配線板に加工して以降の高い難燃性を示し、優れた耐水性、耐熱性等及び基材と銅箔との間の良好な引き剥がし強さを有し、従来の樹脂付銅箔以上の性能を発揮してきた。即ち、特許文献4及び特許文献5に開示の発明で言う優れた耐水性とは、樹脂付銅箔の樹脂層が硬化して以降の耐水性である。
【0010】
【特許文献1】特開平11−348177号公報
【特許文献2】特開2001−24324号公報
【特許文献3】特開2001−244589号公報
【特許文献4】特開2002−179772号公報
【特許文献5】特開2002−359444号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、本件出願の発明者等が鋭意研究した結果、プリント配線板に加工して以降の高い難燃性を確保するためには、樹脂付銅箔の樹脂が硬化する前の品質安定性が、非常に重要であることが判明してきた。そこで、本件発明者等は、樹脂付銅箔の樹脂層が硬化する前であって、樹脂付銅箔の半硬化状態にある樹脂層の品質の安定化が必要となった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで、本件発明者等は、鋭意研究の結果、上述のような問題点を解決することのできる樹脂組成物に想到した。以下、この本件発明の概要に関して述べる。
【0013】
樹脂組成物: 本件出願に係る樹脂組成物は、半硬化状態における耐吸湿特性を備える樹脂組成物であって、当該樹脂組成物は、以下のA成分〜E成分を含み、樹脂組成物重量を100重量%としたとき
A成分が3重量部〜20重量部、B成分が3重量部〜30重量部、C成分が10重量部以下、E成分が樹脂組成物重量を100重量%としたときリン原子を0.5重量%〜3.0重量%の範囲となるように定めた重量部で含有したことを特徴とするプリント配線板の絶縁層構成用の樹脂組成物である。
【0014】
A成分: エポキシ当量が200以下で、25℃で液状のビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂の群から選ばれる1種又は2種以上。
B成分: 架橋可能な官能基を有する線状ポリマーとしてのポリビニルアセタール樹脂。
C成分:
A成分とB成分との架橋反応を起こさせるための架橋剤としてのウレタン系樹脂。
D成分: イミダゾール系エポキシ樹脂硬化剤。
E成分: リン含有エポキシ樹脂。
【0015】
また、本件出願に係る樹脂組成物を構成する前記E成分であるリン含有エポキシ樹脂は、分子内に2以上のエポキシ基を備える9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド(以下に示す化6)からの誘導体として得られるエポキシ樹脂を用いることが好ましい。
【0016】
そして、当該前記E成分のエポキシ樹脂としては、以下に示す化7〜化9のいずれかに示す構造式を備える化合物の1種又は2種を混合して用いる事が好ましい。
【0017】
以上の述べてきた本件発明に係る樹脂組成物は、樹脂組成物重量を100重量部としたとき、A成分が3重量部〜20重量部、B成分が3重量部〜30重量部、D成分が1重量部〜5重量部の範囲で混合して使用することが好ましい。
【0018】
樹脂付銅箔: 本件出願に係る樹脂付銅箔は、銅箔の片面に樹脂層を備えた樹脂付銅箔において、当該樹脂層を上述の樹脂組成物を用いて、5μm〜100μmの厚さの半硬化樹脂膜として形成したことを特徴とするプリント配線板製造用の樹脂付銅箔である。
【0019】
そして、本件出願に係る樹脂付銅箔において、樹脂付銅箔の製造に用いる銅箔の樹脂層を形成する表面にシランカップリング処理層を備えることが好ましい。
【0020】
樹脂付銅箔の製造方法: 本件出願に係る樹脂付銅箔の製造方法において、以下の工程a、工程bの手順で樹脂層の形成に用いる樹脂ワニスを調製し、当該樹脂ワニスを銅箔の表面に塗布し、乾燥させることで5μm〜100μmの換算厚さの半硬化樹脂膜として樹脂付銅箔とすることを特徴とするプリント配線板製造用の樹脂付銅箔の製造方法である。
【0021】
工程a: A成分(エポキシ当量が200以下で、25℃で液状のビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂の群から選ばれる1種又は2種以上)、B成分(
ポリビニルアセタール樹脂)、C成分(架橋剤としてのウレタン系樹脂)、D成分(イミダゾール系エポキシ樹脂硬化剤)、E成分(リン含有エポキシ樹脂)からなり、樹脂組成物重量を100重量%としたときリン原子を0.5重量%〜3.0重量%の範囲となるように各成分を混合して樹脂組成物とする。
工程b: 前記樹脂組成物を、有機溶剤を用いて溶解し、樹脂固形分量が25wt%〜50wt%の樹脂ワニスとする。
【0022】
そして、本件出願に係る樹脂付銅箔の製造方法において、前記E成分であるリン含有エポキシ樹脂に、分子内に2以上のエポキシ基を備える9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイドからの誘導体として得られるリン含有エポキシ樹脂を用いることが好ましい。
【0023】
プリント配線板: 本件出願に係るプリント配線板は、上述の樹脂組成物を用いて絶縁層を構成したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0024】
本件出願に係る樹脂組成物は、環境負荷の低いハロゲンフリー組成を備え、且つ、半硬化状態の樹脂膜(層)の段階での耐吸湿性に優れる。その結果、高温多湿の環境に長時間置かれても、硬化後の樹脂層としての品質が劣化しない。従って、この樹脂組成物を用いた樹脂層を備える樹脂付銅箔は、長期保存安定性に優れ、高温多湿の環境に長時間保存されても、樹脂付銅箔としての品質劣化が非常に小さい。よって、この樹脂組成物又は樹脂付銅箔を用いて製造されるプリント配線板は、樹脂層が吸湿劣化したときに発生するソルダーリフロー工程の溶融はんだ温度が負荷されたときのふくれ(ブリスタ)の発生が抑制される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本件発明を実施するための最良の形態に関して、項目毎に述べることとする。
【0026】
樹脂組成物の形態: 本件出願に係る樹脂組成物はプリント配線板の絶縁層構成用に用いるものであり、半硬化状態における耐吸湿特性を備える樹脂組成物である。そして、この樹脂組成物は、以下のA成分〜E成分を含み、樹脂組成物重量を100重量%としたときリン原子を0.5重量%〜3.0重量%の範囲で含有したことを特徴とするハロゲンフリー組成のプリント配線板の絶縁層構成用の樹脂組成物である。
【0027】
ここで、樹脂組成物は、樹脂組成物重量を100重量%としたときリン原子を0.5重量%〜3.0重量%の範囲で含有するとしているのは、硬化後の樹脂層としての難燃性を確保する観点からである。当該リン原子の含有量が0.5重量%未満の場合には、良好な難燃性を得ることが出来なくなる。一方、当該リン原子の含有量が3.0重量%を超えて含有させても、硬化後の樹脂層の難燃性は向上しない。以下、樹脂組成物の構成成分ごとに説明する。
【0028】
A成分は、所謂ビスフェノール系エポキシ樹脂である。そして、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂の群から選ばれる1種又は2種以上を混合して用いることが好ましい。ここで、ビスフェノール系エポキシ樹脂を選択使用しているのは、25℃で液状のエポキシ樹脂であり、半硬化状態の樹脂層を備える樹脂付銅箔を製造すると、カール現象の抑制効果が顕著に得られるからである。また、硬化後の樹脂膜と銅箔との良好な密着性、及び、凹凸表面の形状に沿った適度なレジンフローを得る事が可能だからである。なお、液状エポキシが高純度の場合には、過冷を受けると常温に戻しても結晶化状態が維持され、外観上は固形に見えるものもある。この場合には、液状に戻して使用することが可能であるため。ここで言う液状エポキシ樹脂に含まれる。更に、ここで25℃という温度を明記したのは、室温付近でという意味を明確にするためである。
【0029】
そして、エポキシ当量が200を超えると、25℃で半固形状ないしは固形状になるので樹脂組成物の調製も困難で、樹脂付銅箔を製造したときのカール現象の抑制にも寄与できなくなるため好ましくない。なお、ここで言うエポキシ当量とは、1グラム当量のエポキシ基を含む樹脂のグラム数(g/eq)である。更に、上述のビスフェノール系エポキシ樹脂であれば、1種を単独で用いても、2種以上を混合で用いても構わない。しかも、2種以上を混合して用いる場合には、その混合比に関しても特段の限定はない。
【0030】
このビスフェノール系エポキシ樹脂は、樹脂組成物を100重量部としたとき、3重量部〜20重量部の配合割合で用いられる。当該エポキシ樹脂が3重量部未満の場合には、硬化後に脆くなり樹脂割れを生じやすくなる。一方、20重量部を越えると、25℃で樹脂面に粘着性を生じるためハンドリング性に欠ける。
【0031】
B成分は、架橋可能な官能基を有する線状ポリマーである。ここで、架橋可能な官能基を有する線状ポリマーは、水酸基、カルボキシル基等のエポキシ樹脂の硬化反応に寄与する官能基を備えるもの
を用いる。そして、この架橋可能な官能基を有する線状ポリマーは、沸点が50℃〜200℃の温度の有機溶剤に可溶
なものとする。ここで言う官能基を有する線状ポリマーを具体的に例示すると、
ポリビニルアセタール樹脂がある。
【0032】
この架橋可能な官能基を有する線状ポリマーは、樹脂組成物を100重量部としたとき、3重量部〜30重量部の配合割合で用いられる。当該エポキシ樹脂が3重量部未満の場合には、樹脂流れが大きくなる。この結果、製造した銅張積層板の端部から樹脂粉の発生が多く見られ、半硬化状態での樹脂層の耐吸湿性も改善出来ない。一方、30重量部を超えても、樹脂流れが小さく、製造した銅張積層板の絶縁層内にボイド等の欠陥を生じやすくなる。
【0033】
また、ここで言う沸点が50℃〜200℃の温度の有機溶剤を具体的に例示すると、メタノール、エタノール、メチルエチルケトン、トルエン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、シクロヘキサノン、エチルセロソルブ等の群から選ばれる1種の単独溶剤又は2種以上の混合溶剤である。沸点が50℃未満の場合には、加熱による溶剤の気散が著しく、樹脂ワニスの状態から半硬化樹脂とする場合に、良好な半硬化状態が得られにくくなる。一方、沸点が200℃を超える場合には、半硬化状態で溶剤が残りやすい。通常要求される揮発速度を満足せず、工業生産性を満足しない。
【0034】
C成分は、B成分とエポキシ樹脂との架橋反応を起こさせるための架橋剤であり、ウレタン系樹脂を使用する。この架橋剤は、B成分の混合量に応じて添加されるものであり、本来厳密にその配合割合を明記する必要性はないものと考える。しかしながら、
本件発明では、当該C成分を、樹脂組成物を100重量部としたとき、10重量部以下の配合割合で
用いる。10重量部を超えて、ウレタン系樹脂であるC成分が存在すると、半硬化状態での樹脂層の耐吸湿性が劣化し、硬化後の樹脂層が脆くなるからである。
【0035】
D成分は、イミダゾール系エポキシ樹脂硬化剤である。本件発明に係る樹脂組成物で、半硬化状態の樹脂層の耐吸湿性を向上させるという観点からイミダゾール系エポキシ樹脂硬化剤を選択的に用いる事が好ましい。中でも、以下の化5に示す構造式を備えるイミダゾール系エポキシ樹脂硬化剤を用いる事が好ましい。この化5に示す構造式のイミダゾール系エポキシ樹脂硬化剤を用いることで、半硬化状態の樹脂層の耐吸湿性を顕著に向上でき、長期保存安定性に優れる。なお、エポキシ樹脂に対するエポキシ樹脂硬化剤の添加量は、反応当量から計算するのではなく、実験上得られる最適量を採用することが好ましい。イミダゾール系エポキシ樹脂硬化剤は、エポキシ樹脂の硬化に際して触媒的な働きを行うものであり、硬化反応の初期段階において、エポキシ樹脂の自己重合反応を引き起こす反応開始剤として寄与するからである。
【0036】
【化5】
【0037】
E成分は、リン含有エポキシ樹脂である。リン含有エポキシ樹脂とは、エポキシ骨格の中にリンを含んだエポキシ樹脂の総称として用いている。そして、本件出願に係る樹脂組成物のリン原子含有量を、樹脂組成物重量を100重量%としたとき、リン原子を0.5重量%〜3.0重量%の範囲とできるリン含有エポキシ樹脂であれば、いずれの使用も可能である。しかしながら、分子内に2以上のエポキシ基を備える9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイドからの誘導体として得られるリン含有エポキシ樹脂を用いることが、半硬化状態での樹脂品質の安定性に優れ、同時に難燃性効果が高いため好ましい。参考のために、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイドの構造式を化6に示す。
【0038】
【化6】
【0039】
そして、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイドからの誘導体として得られるエポキシ樹脂を具体的に例示すると、化7に示す構造式を備える化合物の使用が好ましい。半硬化状態での樹脂品質の安定性に優れ、同時に難燃性効果が高いため好ましい。
【0040】
【化7】
【0041】
また、E成分のリン含有エポキシ樹脂として、以下に示す化8に示す構造式を備える化合物も好ましい。化7に示すリン含有エポキシ樹脂と同様に、半硬化状態での樹脂品質の安定性に優れ、同時に高い難燃性の付与が可能であるため好ましい。
【0042】
【化8】
【0043】
更に、E成分のリン含有エポキシ樹脂として、以下に示す化9に示す構造式を備える化合物も好ましい。化7及び化8に示すリン含有エポキシ樹脂と同様に、半硬化状態での樹脂品質の安定性に優れ、同時に高い難燃性の付与が可能であるため好ましい。
【0044】
【化9】
【0045】
この9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイドからの誘導体として得られるエポキシ樹脂は、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイドにナフトキノンやハイドロキノンを反応させて、以下の化10(HCA−NQ)又は化11(HCA−HQ)に示す化合物とした後に、そのOH基の部分にエポキシ樹脂を反応させてリン含有エポキシ樹脂としたものである。
【0046】
【化10】
【0047】
【化11】
【0048】
そして、本件出願に係る樹脂組成物において、E成分に関しては、1種類を単独で用いても、2種類以上のリン含有エポキシ樹脂を混合して用いても構わない。但し、E成分の総量を考慮して、樹脂組成物重量を100重量%としたとき、リン原子を0.5重量%〜3.0重量%の範囲となるように重量部を定めることが好ましい。リン含有エポキシ樹脂は、その種類によりエポキシ骨格内に含有するリン原子量が異なるため、E成分の混合割合を、単に重量部として記載することが困難である。そこで、上述のようにリン原子の含有量を記載して、E成分の添加量に代えた。
【0049】
樹脂付銅箔の形態: 本件出願に係るプリント配線板製造用の樹脂付銅箔は、銅箔の片面に樹脂層を備えたものである。そして、この樹脂層を上述の樹脂組成物を用いて、5μm〜100μmの厚さの半硬化樹脂膜として形成したものである。このように上述の樹脂組成物を用いて形成した樹脂層は、耐吸湿性に優れる。この結果、当該樹脂付銅箔を、高温多湿の環境下に長く置いたとしても、樹脂層の品質が吸湿劣化する傾向が小さくなる。従って、厳密な保存環境の管理が不必要になり、管理コストの削減が可能になる。
【0050】
ここで、当該樹脂層の厚さが5μm未満の場合には、内層回路を備える内層コア材の外層に対し、当該樹脂付銅箔を張り合わせるときに、内層回路の形成する凹凸形状との張り合わせが不可能になる。一方、当該樹脂層の厚さが100μmを超えるものとしても問題はないが、塗布して厚い樹脂膜を形成することは困難で生産性に欠ける。しかも、樹脂層を厚くすれば、プリプレグと比較して差異のないものとなり、樹脂付銅箔の形態の製品を採用する意義が没却する。
【0051】
そして、銅箔には、電解法又は圧延法等の、その製造方法には拘泥せず、あらゆる製造方法の使用が可能である。そして、その厚さに関しても、特段の限定はない。また、この銅箔の樹脂層を形成する面には、粗化処理を施しても、施さなくとも良い。粗化処理があれば、銅箔と樹脂層との密着性は向上する。そして、粗化処理を施さなければ、平坦な表面となるため、ファインピッチ回路の形成能が向上する。更に、当該銅箔の表面には、防錆処理を施しても構わない。防錆処理に関しては、公知の亜鉛、亜鉛系合金等を用いた無機防錆、又は、ベンゾイミダゾール、トリアゾール等の有機単分子被膜による有機防錆等を採用することが可能である。更に、当該銅箔の樹脂層を形成する最表面には、シランカップリング処理層を備えることが好ましい。
【0052】
また、特に粗化処理していない銅箔表面と樹脂層との濡れ性を改善し、基材樹脂にプレス加工したときの密着性を向上させるため、銅箔表面にシランカップリング剤層を設けることが好ましい。例えば、銅箔の粗化を行わずに、防錆処理を施し、シランカップリング剤処理に、エポキシ官能性シランカップリング剤、オレフィン官能性シラン、アクリル官能性シラン、アミノ官能性シランカップリング剤又はメルカプト官能性シランカップリング剤等種々のものを用いることが可能であり、用途に応じて好適なシランカップリング剤を選択使用することで、引き剥がし強度が0.8kgf/cmを超えるものになる。
【0053】
ここで用いることの出来るシランカップリング剤を、より具体的に明示しておくことにする。プリント配線板用にプリプレグのガラスクロスに用いられると同様のカップリング剤を中心にビニルトリメトキシシラン、ビニルフェニルトリメトキシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、4−グリシジルブチルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−3−(4−(3−アミノプロポキシ)プトキシ)プロピル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、イミダゾールシラン、トリアジンシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等を用いることが可能である。
【0054】
このシランカップリング剤層の形成は、一般的に用いられる浸漬法、シャワーリング法、噴霧法等、特に方法は限定されない。工程設計に合わせて、最も均一に銅箔とシランカップリング剤を含んだ溶液とを接触させ吸着させることのできる方法を任意に採用すれば良いのである。これらのシランカップリング剤は、溶媒としての水に0.5〜10g/lとなるように溶解させて、25℃レベルの温度で用いる。シランカップリング剤は、銅箔の表面に突きだしたOH基と縮合結合することにより、被膜を形成するのであり、いたずらに濃い濃度の溶液を用いても、その効果が著しく増大することはない。従って、本来は、工程の処理速度等に応じて決められるべきものである。但し、0.5g/lを下回る場合は、シランカップリング剤の吸着速度が遅く、一般的な商業ベースの採算に合わず、吸着も不均一なものとなる。また、10g/lを超える濃度であっても、特に吸着速度が速くなることもなく不経済となる。
【0055】
樹脂付銅箔の製造方法の形態: 本件出願に係る樹脂付銅箔の製造方法は、最初に以下の工程a、工程bの手順で樹脂ワニスを調製する。
【0056】
工程aでは、上述のA成分(エポキシ当量が200以下で、25℃で液状のビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂の群から選ばれる1種又は2種以上)、B成分(
ポリビニルアセタール樹脂)、C成分(架橋剤としてのウレタン系樹脂)、D成分(イミダゾール系エポキシ樹脂硬化剤)、E成分(リン含有エポキシ樹脂)からなり、樹脂組成物重量を100重量%としたときリン原子を0.5重量%〜3.0重量%の範囲となるように各成分を混合して樹脂組成物とする。このときの各成分の混合順序、混合手段等に特段の限定は無い。従って、公知のあらゆる混合手法を採用することが可能である。そして、これらの各成分に関しては、既に述べているので、ここでの説明は省略する。
【0057】
また、E成分のリン含有エポキシ樹脂には、上述した分子内に2以上のエポキシ基を備える9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイドからの誘導体として得られるリン含有エポキシ樹脂を、樹脂組成物重量を100重量%としたとき、リン原子が0.5重量%〜3.0重量%の範囲となるように用いることが好ましい。
【0058】
工程bでは、前記樹脂組成物を、有機溶剤を用いて溶解し、樹脂固形分量が25wt%〜50wt%の樹脂ワニスとする。このときの有機溶剤には、上述のように沸点が50℃〜200℃の範囲にある溶剤であり、メタノール、エタノール、メチルエチルケトン、トルエン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、シクロヘキサノン、エチルセロソルブ等の群から選ばれる1種の単独溶剤又は2種以上の混合溶剤を用いることが好ましい。上述したと同様の理由からである。そして、ここで樹脂固形分量を25wt%〜50wt%の樹脂ワニスとする。なお、樹脂固形分量とは、樹脂ワニスを加熱して揮発分を除去したときに残留する固形分量をwt%で表示したものである。ここに示した樹脂固形分量の範囲が、銅箔の表面に塗布したときに、最も膜厚を精度の良いものに制御できる範囲である。樹脂固形分が25wt%未満の場合には、粘度が低すぎて、銅箔表面への塗布直後に流れて膜厚均一性を確保しにくい。これに対して、樹脂固形分が50wt%を越えると、粘度が高くなり、銅箔表面への薄膜形成が困難となる。なお、ここに具体的に挙げた溶剤以外でも、本件発明で用いるすべての樹脂成分を溶解することの出来るものであれば使用が可能である。
【0059】
以上のようにして得られる樹脂ワニスを、銅箔の片面に塗布する場合には、特に塗布方法に関しては限定されない。目的とする換算厚さ分を精度良く塗布しなければならないことを考えれば、形成する膜厚に応じた塗布方法、塗布装置を適宜選択使用すればよい。また、銅箔の表面に樹脂皮膜を形成した後の乾燥は、樹脂溶液の性質に応じて半硬化状態とすることのできる加熱条件を適宜採用すればよい。
【0060】
このとき乾燥後の半硬化樹脂層として5μm〜100μmの厚さとして、本件発明に係る樹脂付銅箔となる。なお、厚さの限定理由に関しては、上述のとおりである。
【0061】
プリント配線板の形態: 本件出願に係るプリント配線板は、上述の樹脂組成物を用いて絶縁層を構成したことを特徴とするものである。即ち、本件発明に係る樹脂組成物を樹脂ワニスとして、この樹脂ワニスを用いて樹脂付銅箔を製造する。そして、この樹脂付銅箔を用いて、内層コア配線板に張り合わせて多層銅張積層板として、多層プリント配線板に加工することができる。また、本件発明に係る樹脂組成物を樹脂ワニスとして、この樹脂ワニスをガラスクロス、ガラス不織布等の骨格材に含浸させプリプレグとして、公知の方法で銅張積層板を製造し、プリント配線板に加工することもできる。即ち、上記樹脂組成物を用いることで、公知のあらゆる製造方法でプリント配線板の製造が可能になる。なお、本件発明に言うプリント配線板とは、所謂片面板、両面板、3層以上の多層板を含むものである。以下、実施例に関して説明する。
【実施例1】
【0062】
この実施例1では、以下に述べる樹脂組成物を調製し、樹脂ワニスとして、この樹脂ワニスを用いて樹脂付銅箔を製造し、評価を行った。
【0063】
E成分の合成: 以下の方法により、化9の構造式を備えるリン含有エポキシ樹脂を得た。攪拌装置、温度計、冷却管、窒素ガス導入装置を備えた4つ口のガラス製セパラブルフラスコに、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド(三光株式会社製 商品名HCA) 141重量部とエチルセロソルブ 300重量部を仕込み、加熱して溶解した。その後、1,4−ナフトキノン(試薬) 96.3重量部を反応熱による昇温に注意しながら分割投入した。このとき1,4−ナフトキノンとHCAのモル比は1,4−ナフトキノン/HCA=0.93であった。反応後、エポトート YDPN−638 (東都化成社製フェノールノボラック型エポキシ樹脂) 262.7重量部、および、YDF−170(東都化成社製ビスフェノールF型エポキシ樹脂) 409.6重量部を仕込み、窒素ガスを導入しながら攪拌を行い、120℃まで加熱を行って溶解した。トリフェニルホスフィン(試薬)を0.24重量部添加して130℃で4時間反応した。得られたリン含有エポキシ樹脂のエポキシ当量は326.9g/eq、リン含有率は2.0重量%であった。この実施例1及び以下の実施例2では、このE成分を用いた。
【0064】
樹脂組成物の調製:以下のA成分〜F成分を混合して、樹脂組成物を100重量%としたときのリン原子の割合が1.2重量%である樹脂組成物を調製した。
【0065】
A成分: エポキシ当量が200以下の25℃で液状のビスフェノールA型エポキシ樹脂 (商品名:エポトートYD−128、東都化成社製)/15重量部
B成分: 架橋可能な官能基を有する線状ポリマーとして、ポリビニルアセタール樹脂(商 品名:デンカブチラール5000A、電気化学工業社製)/15重量部
C成分: 架橋剤として、ウレタン樹脂(商品名:コロネートAPステーブル、日本ポリ ウレタン工業社製)/5重量部
D成分: エポキシ樹脂硬化剤として、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチ ルイミダゾール(商品名:キュアゾール2P4MHZ、四国化成工業社製)/ 3重量部
E成分: 上記の方法で合成したリン含有エポキシ樹脂/62重量部(固形分換算)
【0066】
樹脂ワニスの調製: 上記組成の樹脂組成物を、メチルエチルケトンとジメチルホルムアミドとの混合溶剤(混合比:メチルエチルケトン/ジメチルホルムアミド=1/1)に溶解し、樹脂固形分量35%の樹脂ワニスを調製した。
【0067】
樹脂付銅箔の製造: 上述の樹脂ワニスを、公称厚さ18μmの電解銅箔の粗化面に均一に塗布し、風乾後、140℃×5分間の加熱処理を行い、半硬化状態の樹脂層を備えた樹脂付銅箔を得た。このときの樹脂層の厚さは85μmとした。
【0068】
吸湿はんだ耐熱性試験:当該樹脂付銅箔を、温度30℃、相対湿度65%の恒温恒湿槽内に、15時間保持して吸湿させた。その後、試験用内層回路を形成した両面プリント配線板を内層コア配線板として用いて、この両面に当該樹脂付銅箔を張り合わせて積層した。この張り合わせは、樹脂付銅箔の樹脂層が、内層コア配線板の表面と接触するように積層配置して、圧力20kgf/cm
2、温度170℃×2時間の熱間プレス成形を行い、4層の銅張積層板を製造した。そして、この積層板を、260℃に加熱したはんだバスに浮かべ、ふくれが発生するまでの時間を計測した。その結果を、比較例との対比が可能なように表1に示す。
【実施例2】
【0069】
この実施例2では、以下に述べる樹脂組成物を調製し、樹脂ワニスとして、この樹脂ワニスを用いて樹脂付銅箔を製造し、評価を行った。基本的には、実施例1と同様であり、樹脂組成のみが異なる。従って、実施例1と異なる「樹脂組成物の調製」及び「樹脂ワニスの調製」に関してのみ詳細に述べる。
【0070】
樹脂組成物の調製:以下のA成分〜F成分を混合して、樹脂組成物を100重量%としたときのリン原子の割合が0.9重量%である樹脂組成物を調製した。
【0071】
A成分: エポキシ当量が200以下の25℃で液状のビスフェノールA型エポキシ樹脂 (商品名:エポトートYD−128、東都化成社製)/20重量部
B成分: 架橋可能な官能基を有する線状ポリマーとして、ポリビニルアセタール樹脂(商 品名:デンカブチラール5000A、電気化学工業社製)/24重量部
C成分: 架橋剤として、ウレタン樹脂(商品名:コロネートAPステーブル、日本ポリ ウレタン工業社製)/7重量部
D成分: エポキシ樹脂硬化剤として、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチ ルイミダゾール(商品名:キュアゾール2P4MHZ、四国化成工業社製)/ 4重量部
E成分: 実施例1に記載の方法で合成したリン含有エポキシ樹脂/45重量部(固形分換算)
【0072】
樹脂ワニスの調製: 上記組成の樹脂組成物を、メチルエチルケトンとジメチルホルムアミドとの混合溶剤(混合比:メチルエチルケトン/ジメチルホルムアミド=1/1)に溶解し、樹脂固形分量30%の樹脂ワニスを調製した。
【0073】
以下、実施例1と同様に、「樹脂付銅箔の製造」及び「吸湿はんだ耐熱性試験」を行った。その結果を、以下の比較例との対比が可能なように表1に示す。
【実施例3】
【0074】
この実施例3では、以下に述べる樹脂組成物を調製し、樹脂ワニスとして、この樹脂ワニスを用いて樹脂付銅箔を製造し、評価を行った。基本的には、実施例1と同様であり、樹脂組成のみが異なる。そして、実施例1と異なるのはE成分のみであり「E成分の合成」に関してのみ詳細に述べる。
【0075】
E成分の合成: 攪拌装置、温度計、冷却管、窒素ガス導入装置を備えた4つ口のガラス製セパラブルフラスコに、10−(2,5−ジヒドロキシフェニル)−10H−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド(三光株式会社製 商品名HCA−HQ)324重量部とエチルセロソルブ300重量部とを仕込み、加熱して溶解した。その後、680重量部のYDF−170(東都化成社製ビスフェノールF型エポキシ樹脂)を仕込み、窒素ガスを導入しながら攪拌を行い、120℃まで加熱を行って溶解した。トリフェニルホスフィン(試薬)を0.3重量部添加して160℃で4時間反応した。得られたリン含有エポキシ樹脂のエポキシ当量は501.0g/eq、リン含有率は3.1重量%であった。以下、この実施例3では、これをE成分として用いた。
【0076】
以下、実施例1と同様に、「樹脂組成物の調製」、「樹脂ワニスの調製」、「樹脂付銅箔の製造」及び「吸湿はんだ耐熱性試験」を行った。その結果を、以下の比較例との対比が可能なように表1に示す。
【0077】
[比較例1]
この比較例では、以下に述べる樹脂組成物を調製し、樹脂ワニスとして、この樹脂ワニスを用いて樹脂付銅箔を製造し、評価を行った。なお、実施例での難燃成分がリンであるのに対し、この比較例では臭素を難燃成分として用いている。
【0078】
樹脂組成物の調製:以下のa成分〜g成分を混合して、硬化促進剤を除く樹脂組成物を100重量%としたときの臭素原子の割合が15.4重量%である樹脂組成物を調製した。
【0079】
a成分: ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名:エポトートYD−128、東都化 成社製)/15重量部
b成分: 架橋可能な官能基を有する線状ポリマーとしてのポリビニルアセタール樹脂 (商品名:デンカブチラール5000A、電気化学工業社製)/15重量部
c成分: 架橋剤としてのウレタン樹脂(商品名:コロネートAPステーブル、日本ポリ ウレタン工業社製)/5重量部
d成分: エポキシ樹脂硬化剤(25%ジメチルホルムアミド溶液として調製したジシア ンジアミド(試薬)/3重量部(固形分換算)
e成分: 臭素化エポキシ樹脂1(商品名:エピクロン1121N−80M、大日本イン キ化学工業社製)/30重量部
臭素化エポキシ樹脂2(商品名:BREN−304、日本化薬社製)/20重 量部
f成分: 硬化促進剤(商品名:キュアゾール2E4MZ、四国化成工業社製)/0.5 重量部
g成分: オルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(商品名:エピクロンN−680、 大日本インキ化学工業社製)/12重量部
【0080】
以上、実施例の成分と異なる組成を採用し、且つ、硬化促進剤を用いている点が異なる。
【0081】
樹脂ワニスの調製: 実施例1と同様にして、樹脂固形分量35%の樹脂ワニスを調製した。
【0082】
樹脂付銅箔の製造: 実施例1と同様にして、厚さは85μmの半硬化状態の樹脂層を備えた樹脂付銅箔を得た。
【0083】
吸湿はんだ耐熱性試験:実施例1と同様にして行った。その結果を、実施例との対比が可能なように表1に示す。
【0084】
[比較例2]
この比較例では、以下に述べる樹脂組成物を調製し、樹脂ワニスとして、この樹脂ワニスを用いて樹脂付銅箔を製造し、評価を行った。なお、実施例での難燃成分がリンであるのに対し、この比較例では臭素を難燃成分として用いている
【0085】
樹脂組成物の調製:以下のa成分〜f成分を混合して、硬化促進剤を除く樹脂組成物を100重量%としたときの臭素原子の割合が15.4重量%である樹脂組成物を調製した。
【0086】
a成分: ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名:エポトートYD−128、東都化成社製)/15重量部
b成分: 架橋可能な官能基を有する線状ポリマーとしてポリビニルアセタール樹脂(商品名:デンカブチラール5000A、電気化学工業社製)/15重量部
c成分: 架橋剤としてウレタン樹脂(商品名:コロネートAPステーブル、日本ポリウレタン工業社製)/5重量部
d成分: エポキシ樹脂硬化剤として、ノボラック型フェノール樹脂(商品名:フェノライトTD−2131、大日本インキ化学工業社製)/23重量部
e成分: オルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(商品名:エピクロンN−680、大日本インキ化学工業社製)/7重量部
f成分: 臭素化エポキシ樹脂(商品名:BREN−304、日本化薬社製)/35重量部
g成分: 硬化促進剤(商品名:キュアゾール2E4MZ、四国化成工業社製)/0.5重量部
【0087】
以上、実施例の成分と異なる組成を採用し、且つ、硬化促進剤を用いている点が異なる。
【0088】
樹脂ワニスの調製: 実施例1と同様にして、樹脂固形分量35%の樹脂ワニスを調製した。
【0089】
樹脂付銅箔の製造: 実施例1と同様にして、厚さは85μmの半硬化状態の樹脂層を備えた樹脂付銅箔を得た。
【0090】
吸湿はんだ耐熱性試験:実施例1と同様にして行った。その結果を、実施例との対比が可能なように表1に示す。
【0091】
[比較例3]
この比較例では、以下に述べる樹脂組成物を調製し、樹脂ワニスとして、この樹脂ワニスを用いて樹脂付銅箔を製造し、評価を行った。なお、実施例での難燃成分と同じリンを用いた。
【0092】
樹脂組成物の調製:以下のa成分〜e成分を混合して、樹脂組成物を100重量%としたときのリン原子の割合が1.2重量%である樹脂組成物を調製した。
【0093】
a成分: ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名:エポトートYD−128、東都化 成社製)/15重量部
b成分: 架橋可能な官能基を有する線状ポリマーとして、ポリビニルアセタール樹脂(商 品名:デンカブチラール5000A、電気化学工業社製)/15重量部
c成分: 架橋剤として、ウレタン樹脂(商品名:コロネートAPステーブル、日本ポリ ウレタン工業社製)/5重量部
d成分: エポキシ樹脂硬化剤(25%ジメチルホルムアミド溶液として調製したジシア ンジアミド(試薬))/3重量部
e成分: 実施例1で用いたと同様のリン含有エポキシ樹脂/62重量部(固形分換算)
【0094】
樹脂ワニスの調製: 実施例1と同様にして、樹脂固形分量35%の樹脂ワニスを調製した。
【0095】
樹脂付銅箔の製造: 実施例1と同様にして、厚さは85μmの半硬化状態の樹脂層を備えた樹脂付銅箔を得た。
【0096】
吸湿はんだ耐熱性試験:実施例1と同様にして行った。その結果を、実施例との対比が可能なように表1に示す。
【0098】
[実施例と比較例との対比]
実施例1〜実施例3の場合の吸湿はんだ耐熱性試験のふくれ発生までの時間は600秒以上である。これに対し、比較例1〜比較例3のそれぞれのふくれ発生までの時間が300秒以下である。この結果、本件出願に係る樹脂組成物を用いて製造した樹脂層は、半硬化状態で吸湿させても、本件発明に係る樹脂組成物の場合の吸湿劣化が小さいことが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本件出願に係る樹脂組成物は、半硬化状態の樹脂膜(層)の段階で、耐吸湿性に優れ、高温多湿の環境に長時間置かれても、硬化後の樹脂層としての品質が劣化しない。しかも、本件出願に係る樹脂組成物は、所謂ハロゲンフリー組成であり、環境負荷が低いものであり、グリーン購入の対象物として好ましい。従って、この樹脂組成物を用いて、高品質のプリント配線板製造に用いるプリプレグ又は樹脂付銅箔等の製造が可能である。しかも、この樹脂組成物は、その製造方法に関しても特殊な方法を採用する必要が無く、容易に製造する事が可能である。
【0100】
そして、多層プリント配線板の薄い内層絶縁層の形成するためには、樹脂付銅箔が用いられる。係る樹脂付銅箔の樹脂層の形成に、上記樹脂組成物を用いることが好ましい。高温多湿の環境に長時間保存されても、長期保存安定性に優れた樹脂付銅箔となるからである。
【0101】
更に、上記樹脂組成物又は樹脂付銅箔を用いて製造されるプリント配線板は、樹脂層が吸湿劣化したときに発生しやすいふくれ現象(ソルダーブリスタ)の発生が抑制される。従って、プリント配線板品質が大きく向上する。