特許第5705220号(P5705220)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5705220
(24)【登録日】2015年3月6日
(45)【発行日】2015年4月22日
(54)【発明の名称】耐久性に優れた耐汚染塗料組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 167/08 20060101AFI20150402BHJP
   C09D 161/28 20060101ALI20150402BHJP
   C09D 183/02 20060101ALI20150402BHJP
   C09D 5/16 20060101ALI20150402BHJP
   B05D 5/00 20060101ALI20150402BHJP
   B05D 7/14 20060101ALI20150402BHJP
【FI】
   C09D167/08
   C09D161/28
   C09D183/02
   C09D5/16
   B05D5/00 H
   B05D7/14 Z
【請求項の数】11
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2012-522531(P2012-522531)
(86)(22)【出願日】2011年6月1日
(86)【国際出願番号】JP2011062626
(87)【国際公開番号】WO2012002095
(87)【国際公開日】20120105
【審査請求日】2013年12月19日
(31)【優先権主張番号】特願2010-146689(P2010-146689)
(32)【優先日】2010年6月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001409
【氏名又は名称】関西ペイント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松田 英樹
(72)【発明者】
【氏名】林 眞弘
(72)【発明者】
【氏名】三好 裕也
(72)【発明者】
【氏名】田幸 昇
【審査官】 安藤 達也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−81719(JP,A)
【文献】 特開2008−69336(JP,A)
【文献】 特開平11−76933(JP,A)
【文献】 特開平11−335621(JP,A)
【文献】 特開2008−178867(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/090812(WO,A1)
【文献】 特開2001−139877(JP,A)
【文献】 特開2002−273340(JP,A)
【文献】 特開2000−191982(JP,A)
【文献】 特開平10−67945(JP,A)
【文献】 特開平11−181334(JP,A)
【文献】 特開平11−124501(JP,A)
【文献】 特開平11−124518(JP,A)
【文献】 特開平10−67844(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D1/00〜C09D201/10
B32B1/00〜B32B43/00
B05D1/00〜B05D7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)数平均分子量5000〜30000、水酸基価5〜100mgKOH/g、油長3〜30%である脂肪酸変性ポリエステル樹脂(A1)を固形分として50〜100質量%含有するポリエステル樹脂であって、
該脂肪酸変性ポリエステル樹脂(A1)が、
(a1):脂環族多塩基酸(a1−1)を含む多塩基酸、
(a2):3価以上の多価アルコール(a2−1)を含むアルコール、及び
(a3):脂肪酸
の反応によって得られ、
該反応において多塩基酸(a1)中の脂環族多塩基酸(a1−1)の含有量が、多塩基酸(a1)の総量を基準にして50〜100mol%の範囲内、及び
アルコール(a2)中の3価以上の多価アルコール(a2−1)の含有量が、アルコール(a2)の総量を基準にして10〜70mol%の範囲内である、ポリエステル樹脂;
(B)ブチルエーテル化メラミン樹脂(B1)を固形分として50〜100質量%含有するメラミン樹脂;及び
(C)下記一般式で表されるオルガノシリケート及び/又はその縮合物:
一般式:(R−Si−(OR4−n
[式中、Rはエポキシ基又はメルカプト基で置換されていてもよい炭素数1〜18のアルキル基又はフェニル基であり、Rは炭素数が1〜6のアルキル基であり、nは0又は1である。]
を含有し、
(C)成分の固形分含有量が、(A)成分及び(B)成分の固形分総量を基準にして、0.1〜50質量%である耐汚染塗料組成物。
【請求項2】
脂肪酸変性ポリエステル樹脂(A1)を得る反応において、多塩基酸成分(a1)中の脂環族多塩基酸(a1−1)の合計含有量が、多塩基酸成分(a1)の総量を基準として、85〜100mol%の範囲内である請求項1に記載の耐汚染塗料組成物。
【請求項3】
ポリエステル樹脂成分(A)及びメラミン樹脂成分(B)の固形分総量を基準にして、ポリエステル樹脂成分(A)を固形分として50〜90質量%、及びメラミン樹脂成分(B)を固形分として10〜50質量%含有する請求項1に記載の耐汚染塗料組成物。
【請求項4】
脂環族多塩基酸(a1−1)が、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、3−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、4−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸および1,3,5−シクロヘキサントリカルボン酸の脂環族多価カルボン酸、該脂環族多価カルボン酸の無水物、並びに、該脂環族多価カルボン酸の低級アルキルエステル化物からなる群から選択される少なくとも1種である請求項1に記載の耐汚染塗料組成物。
【請求項5】
3価以上の多価アルコール(a2−1)が、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ジグリセリン、トリグリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトールおよびマンニットの3価以上のアルコール;該3価以上のアルコールにラクトン化合物を付加させたポリラクトンポリオール化合物;並びに、トリス(ヒドロキシアルキル)イソシアヌレートからなる群から選択される少なくとも1種である請求項1に記載の耐汚染塗料組成物。
【請求項6】
脂肪酸(a3)が、ヤシ油脂肪酸、綿実油脂肪酸、麻実油脂肪酸、米ぬか油脂肪酸、魚油脂肪酸、トール油脂肪酸、大豆油脂肪酸、アマニ油脂肪酸、桐油脂肪酸、ナタネ油脂肪酸、ヒマシ油脂肪酸、脱水ヒマシ油脂肪酸、サフラワー油脂肪酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸およびリノレン酸からなる群から選択される少なくとも1種の直鎖炭化水素の1価のカルボン酸である、請求項1に記載の耐汚染塗料組成物。
【請求項7】
さらに、艶消し剤(D)を含有する請求項1に記載の耐汚染塗料組成物。
【請求項8】
艶消し剤(D)を、ポリエステル樹脂(A)及びメラミン樹脂(B)の固形分総量に対し、固形分として0.1〜30質量%含有する、請求項7に記載の耐汚染塗料組成物。
【請求項9】
金属板上の片面又は両面上に、クロムフリープライマー塗料によりプライマー塗膜を形成する工程、及び
前記形成されたプライマー塗膜の少なくとも一方の上に、請求項1に記載の耐汚染塗料組成物により上塗塗膜を形成する工程
を含むことを特徴とする塗膜形成方法。
【請求項10】
金属板上の片面又は両面上に、クロムフリープライマー塗料によりプライマー塗膜を形成する工程、及び
前記形成されたプライマー塗膜の少なくとも一方の上に、請求項1に記載の耐汚染塗料組成物により上塗塗膜を形成する工程
を含むことを特徴とする塗装金属板の製造方法。
【請求項11】
請求項9または10に記載の方法により得られる、塗装金属板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に雨水等に対する経時における耐汚染性の保持性に優れた塗膜を形成できる耐汚染塗料組成物、特に塗装金属板の上塗塗膜形成に適した耐汚染塗料組成物、該耐汚染塗料組成物を用いた耐雨水汚染性に優れた塗膜の形成方法、及び該耐汚染塗料組成物による硬化塗膜が形成された塗装金属板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、屋外の基材(例えば建造物、表示物、ガードフェンス、器具、機械等)には、装飾又は保護を目的として耐候性に優れた屋外用塗料が塗装されている。屋外用として使用されている塗料としてはポリウレタン樹脂系塗料、フッ素樹脂系塗料、シリコン樹脂含有塗料、アクリル樹脂含有塗料、ポリエステル含有塗料などが例示されるが、これらの塗装物は屋外に曝されることにより、砂塵、鉄粉、雨(酸性雨)、太陽光線等の影響によって塗装物表面が汚れ易くなり、塗膜外観が低下するという欠点がある。
【0003】
本出願人は、この問題点を解決するため、水酸基含有フッ素樹脂及びアミノ樹脂架橋剤を反応硬化形有機樹脂として含有する有機溶剤含有塗料組成物(1)又は水酸基含有フッ素樹脂および/または水酸基含有アクリル樹脂と(ブロック化)ポリイソシアネート化合物架橋剤とを反応硬化形有機樹脂として含有する有機溶剤含有塗料組成物(2)に対して、テトラアルキルシリケート及び/又はその縮合物を配合してなる塗料組成物であって、酸処理後の塗膜表面の水に対する接触角が70度以下であることを特徴とする耐汚れ性に優れた上塗塗料組成物を提案した(特許文献1参照 国際公開WO94/06870号公報)。
【0004】
しかしながら、特許文献1の上塗塗料組成物は、屋外使用において、雨筋汚れ等、雨水等に対する耐汚染性の保持性が不十分であり、また、屋外使用における初期段階においても、雨水等に対する耐汚染性は十分でなかった。
【0005】
また、雨筋汚染に対する耐汚染性、加工性、塗膜外観に優れたプレコート鋼板用塗料組成物として、(A)5〜300のヒドロキシル価、数平均分子量500〜20000のポリオール樹脂、(B)アミノ樹脂、(C)アルコキシシラン化合物、(D)硬化触媒からなる熱硬化性樹脂組成物が提案されている。(特許文献2参照)しかしながら、この熱硬化性樹脂組成物から得られる塗膜の経時における長期の雨筋汚染に対する耐汚染性は、光沢のある塗膜とした場合は良好であるが、艶消し剤等を添加して半艶以下の光沢(60°光沢が50程度以下)の塗膜とした場合の耐汚染性、耐食性の保持性は不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開WO94/06870号公報
【特許文献2】特開平10−67945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は雨水等に対する耐汚染性及び耐食性の保持性に優れた塗膜を形成できる耐汚染塗料組成物、特に、半艶以下の光沢の塗装金属板の上塗塗膜形成に適した耐汚染塗料組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、従来の上記問題点を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の脂肪酸変性ポリエステル樹脂を含有するポリエステル樹脂成分とブチルエーテル化メラミン樹脂を含有するメラミン樹脂成分とを含有する樹脂バインダに、特定のオルガノシリケート及び/又はその縮合物成分を含有する塗料組成物が、特に、半艶以下の光沢(60°光沢が50程度以下)の塗膜において、雨水等に対する耐汚染性の保持性に優れた塗膜を形成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち,本発明は以下の発明を包含する:、
項1、(A)数平均分子量5000〜30000、水酸基価5〜100mgKOH/g、油長3〜30%である脂肪酸変性ポリエステル樹脂(A1)を固形分として50〜100質量%含有するポリエステル樹脂であって、
該脂肪酸変性ポリエステル樹脂(A1)が、
(a1):脂環族多塩基酸(a1−1)を含む多塩基酸、
(a2):3価以上の多価アルコール(a2−1)を含むアルコール、及び
(a3):脂肪酸
の反応によって得られ、
該反応において多塩基酸(a1)中の脂環族多塩基酸(a1−1)の含有量が、多塩基酸(a1)の総量を基準にして50〜100mol%の範囲内、及び
アルコール(a2)中の3価以上の多価アルコール(a2−1)の含有量が、アルコール(a2)の総量を基準にして10〜70mol%の範囲内である、ポリエステル樹脂;
(B)ブチルエーテル化メラミン樹脂(B1)を固形分として50〜100質量%含有するメラミン樹脂;及び
(C)下記一般式で表されるオルガノシリケート及び/又はその縮合物:
一般式:(R−Si−(OR4−n
[式中、Rはエポキシ基又はメルカプト基で置換されていてもよい炭素数1〜18のアルキル基又はフェニル基であり、Rは炭素数が1〜6のアルキル基であり、nは0又は1である。]
を含有し、
(C)成分の固形分含有量が、(A)成分及び(B)成分の固形分総量を基準にして、0.1〜50質量%である耐汚染塗料組成物。
項2、脂肪酸変性ポリエステル樹脂(A1)を得る反応において、多塩基酸成分(a1)中の脂環族多塩基酸(a1−1)の合計含有量が、多塩基酸成分(a1)の総量を基準として、85〜100mol%の範囲内である項1に記載の耐汚染塗料組成物。
項3、ポリエステル樹脂成分(A)及びメラミン樹脂成分(B)の固形分総量を基準にして、ポリエステル樹脂成分(A)を固形分として50〜90質量%、及びメラミン樹脂成分(B)を固形分として10〜50質量%含有する項1又は2に記載の耐汚染塗料組成物。
項4、脂環族多塩基酸(a1−1)が、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、3−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、4−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸および1,3,5−シクロヘキサントリカルボン酸の脂環族多価カルボン酸、該脂環族多価カルボン酸の無水物、並びに、該脂環族多価カルボン酸の低級アルキルエステル化物からなる群から選択される少なくとも1種である項1〜3のいずれか1項に記載の耐汚染塗料組成物。
項5、3価以上の多価アルコール(a2−1)が、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ジグリセリン、トリグリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトールおよびマンニットの3価以上のアルコール;該3価以上のアルコールにラクトン化合物を付加させたポリラクトンポリオール化合物;並びに、トリス(ヒドロキシアルキル)イソシアヌレートからなる群から選択される少なくとも1種である項1〜4のいずれか1項に記載の耐汚染塗料組成物。
項6、脂肪酸(a3)が、ヤシ油脂肪酸、綿実油脂肪酸、麻実油脂肪酸、米ぬか油脂肪酸、魚油脂肪酸、トール油脂肪酸、大豆油脂肪酸、アマニ油脂肪酸、桐油脂肪酸、ナタネ油脂肪酸、ヒマシ油脂肪酸、脱水ヒマシ油脂肪酸、サフラワー油脂肪酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸およびリノレン酸からなる群から選択される少なくとも1種の直鎖炭化水素の1価のカルボン酸である、項1〜5のいずれか1項に記載の耐汚染塗料組成物。
項7、さらに、艶消し剤(D)を含有する項1〜6のいずれか1項に記載の耐汚染塗料組成物。
項8、艶消し剤(D)を、ポリエステル樹脂(A)及びメラミン樹脂(B)の固形分総量に対し、固形分として0.1〜30質量%含有する、項7に記載の耐汚染塗料組成物。
項9、金属板上の片面又は両面上に、クロムフリープライマー塗料によりプライマー塗膜を形成する工程、及び
前記形成されたプライマー塗膜の少なくとも一方の上に、項1〜8のいずれか1項に記載の耐汚染塗料組成物により上塗塗膜を形成する工程
を含むことを特徴とする塗膜形成方法。
項10、金属板上の片面又は両面上に、クロムフリープライマー塗料によりプライマー塗膜を形成する工程、及び
前記形成されたプライマー塗膜の少なくとも一方の上に、項1〜8のいずれか1項に記載の耐汚染塗料組成物により上塗塗膜を形成する工程
を含むことを特徴とする塗装金属板の製造方法。
項11、項9または10に記載の方法により得られる、塗装金属板。
【発明の効果】
【0010】
本発明の耐汚染塗料組成物は、特定の脂肪酸変性ポリエステル樹脂を含有するポリエステル樹脂成分とブチルエーテル化メラミン樹脂を含有するメラミン樹脂成分とを含有する樹脂バインダに、特定のオルガノシリケート及び/又はその縮合物成分を含有する塗料組成物であり、本塗料組成物により、特に、半艶以下の光沢(60°光沢が50程度以下)の塗膜において、雨水等に対する耐汚染性の保持性に優れた塗膜を形成することができる。
【0011】
また、必須成分である特定の脂肪酸変性ポリエステル樹脂は、多塩基酸成分のうちの50mol%以上が脂環族多塩基酸であるので、耐侯性、耐加水分解性が良好であり、また、脂肪酸変性部分は、通常、本耐汚染塗料組成物に用いられる顔料成分の吸着に関与している。
【0012】
本発明の耐汚染塗料組成物による塗膜が、特に、半艶以下の光沢の塗膜とした場合において、雨水等に対する耐汚染性の保持性に優れた塗膜を形成することができる理由は、明らかではないが、以下のように考えている。
【0013】
本発明の耐汚染塗料組成物の基体樹脂である、多塩基酸成分として、脂環族多塩基酸を多用した脂肪酸変性ポリエステル樹脂は、耐侯性、耐加水分解性が良好であり、さらに、顔料成分との吸着部分(脂肪酸変性部分)も有していることから、顔料成分の劣化抑制にも有利に働くものと考えられる。
【0014】
艶消し剤等により半艶以下の光沢とした塗膜は、光沢のある塗膜に比べ、表面形状が凸凹であり、水の濡れが良く、耐加水分解性に関してより厳しい状況に曝されることから、従来のポリエステル塗料系とした場合、塗装表面の劣化(チョーキング等)が加速され、見栄えの悪い外観状態となりやすい。
【0015】
本発明の耐汚染塗料組成物により得られる塗膜は、耐加水分解性に優れ、顔料成分の劣化も抑制されることから、従来のポリエステル塗料系に比較して、優れた外観及び耐汚染性の保持性を発揮することができるものと考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
耐汚染塗料組成物
本発明の耐汚染塗料組成物は、下記のポリエステル樹脂成分(A)、メラミン樹脂成分(B)及び、オルガノシリケート及び/又はその縮合物成分(C)を含有する塗料組成物である。
【0017】
(A)ポリエステル樹脂成分
本発明の塗料組成物においてポリエステル樹脂成分(A)は、下記脂肪酸変性ポリエステル樹脂(A1)を、ポリエステル樹脂成分(A)の固形分総量に対して、固形分として50〜100質量%含有する。
【0018】
(A1)脂肪酸変性ポリエステル樹脂
ポリエステル樹脂成分(A)の必須成分である脂肪酸変性ポリエステル樹脂(A1)は、下記多塩基酸成分(a1)、アルコール成分(a2)及び脂肪酸(a3)の反応によって得られる。
【0019】
(a1)多塩基酸成分
上記脂肪酸変性ポリエステル樹脂(A1)を得る反応において、多塩基酸成分(a1)は、脂環族多塩基酸(a1−1)を含有し、多塩基酸成分(a1)中の脂環族多塩基酸(a1−1)の合計含有量が、多塩基酸成分(a1)の総量を基準にして、50〜100mol%の範囲内である。脂環族多塩基酸(a1−1)の合計含有量は、好ましくは70〜100mol%、さらに好ましくは85〜100mol%の範囲内である。
【0020】
上記脂環族多塩基酸(a1−1)は、一般に、1分子中に1個以上の脂環式構造(例えば、4〜6員環)と2個以上のカルボキシル基を有する化合物、該化合物の酸無水物、該化合物のエステル化物であって、例えば、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、3−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、4−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸、1,3,5−シクロヘキサントリカルボン酸等の脂環族多価カルボン酸;該脂環族多価カルボン酸の無水物;該脂環族多価カルボン酸の低級アルキルエステル化物(ここで、低級アルキルとは例えば、炭素数1〜5程度のアルキルを指す。)等が挙げられる。なかでも、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸無水物、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物を好適に使用することができる。
【0021】
上記のうち、耐加水分解性の観点から、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸無水物が特に好ましい。
【0022】
上記脂環族多塩基酸(a1−1)は単独でもしくは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0023】
上記脂肪酸変性ポリエステル樹脂(A1)を得る反応において、多塩基酸成分としては、脂環族多塩基酸(a1−1)の他、芳香族多塩基酸(a1−2)及び脂肪族多塩基酸(a1−3)を含めることができる。
【0024】
上記芳香族多塩基酸(a1−2)は、一般に、1分子中に2個以上のカルボキシル基を有する芳香族化合物、該芳香族化合物の酸無水物、該芳香族化合物のエステル化物であって、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の芳香族多価カルボン酸;該芳香族多価カルボン酸の無水物;該芳香族多価カルボン酸の低級アルキルエステル化物(ここで、低級アルキルとは例えば、炭素数1〜5程度のアルキルを指す。)等が挙げられる。上記芳香族多塩基酸(a1−2)は単独でもしくは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0025】
上記脂肪族多塩基酸(a1−3)は、一般に、1分子中に2個以上のカルボキシル基を有する脂肪族化合物、該脂肪族化合物の酸無水物、該脂肪族化合物のエステル化物である。具体的には、例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、ブラシル酸、オクタデカン二酸、クエン酸等の脂肪族多価カルボン酸;該脂肪族多価カルボン酸の無水物;該脂肪族多価カルボン酸の低級アルキルエステル化物(ここで、低級アルキルとは例えば、炭素数1〜5程度のアルキルを指す。)等が挙げられる。上記脂肪族多塩基酸は単独でもしくは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0026】
上記脂肪族多塩基酸(a1−3)としては、炭素数4〜18のアルキル鎖を有するジカルボン酸を使用することが好ましい。上記炭素数4〜18のアルキル鎖を有するジカルボン酸としては、例えば、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、ブラシル酸、オクタデカン二酸等が挙げられ、なかでもアジピン酸を好適に使用することができる。
【0027】
(a2)アルコール成分
上記脂肪酸変性ポリエステル樹脂(A1)を得る反応において、アルコール成分(a2)は、3価以上の多価アルコール(a2−1)を含有し、アルコール成分(a2)中の3価以上の多価アルコール(a2−1)の合計含有量が、アルコール成分(a2)の総量を基準にして、10〜70mol%の範囲内である。3価以上の多価アルコール(a2−1)の合計含有量は、好ましくは20〜65mol%、さらに好ましくは30〜60mol%の範囲内である。
【0028】
上記3価以上の多価アルコール(a2−1)としては、例えば、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ジグリセリン、トリグリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトール、マンニット等の3価以上のアルコール;これらの3価以上のアルコールにε−カプロラクトン等のラクトン化合物を付加させたポリラクトンポリオール化合物;トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、トリス(2−ヒドロキシプロピル)イソシアヌレート、トリス(2−ヒドロキシブチル)イソシアヌレート等のトリス(ヒドロキシアルキル)イソシアヌレート等が挙げられる。
【0029】
これらのうち、脂肪酸変性ポリエステル樹脂(A1)の高分子量化及び脂肪酸(a3)との変性反応の反応性向上の観点から、特に、トリメチロールプロパンが好ましい。
【0030】
上記脂肪酸変性ポリエステル樹脂(A1)を得る反応において、アルコール(a2)成分としては、3価以上の多価アルコール(a2−1)の他、2価アルコール(a2−2)及びモノアルコール(a2−3)を使用することができる。
【0031】
2価アルコール(a2−2)としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、3−メチル−1,2−ブタンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、2,3−ジメチルトリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、3−メチル−4,3−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,5−ヘキサンジオール、1,4−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、水添ビスフェノールA、水添ビスフェノールF等の2価アルコール;これらの2価アルコールにε−カプロラクトン等のラクトン化合物を付加したポリラクトンジオール;ビス(ヒドロキシエチル)テレフタレート等のエステルジオール化合物;ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール等のポリエーテルジオール化合物等が挙げられる。
【0032】
モノアルコール(a2−3)としては、例えば、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、ステアリルアルコール、2−フェノキシエタノール等のモノアルコール;プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、合成高分岐飽和脂肪酸のグリシジルエステル(商品名「カージュラE10」、HEXION Specialty Chemicals社製)等のモノエポキシ化合物と酸とを反応させて得られたアルコール化合物等が挙げられる。
【0033】
(a3)脂肪酸
上記脂肪酸変性ポリエステル樹脂(A1)を得る反応において、脂肪酸(a3)は、直鎖炭化水素の1価のカルボン酸であり、例えば、ヤシ油脂肪酸、綿実油脂肪酸、麻実油脂肪酸、米ぬか油脂肪酸、魚油脂肪酸、トール油脂肪酸、大豆油脂肪酸、アマニ油脂肪酸、桐油脂肪酸、ナタネ油脂肪酸、ヒマシ油脂肪酸、脱水ヒマシ油脂肪酸、サフラワー油脂肪酸等の脂肪酸;ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等を挙げることができる。上記脂肪酸は単独でもしくは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0034】
これらのうち、耐侯性の観点から、不飽和度が低いもの、具体的には、ヨウ素価が20以下、特に10以下のものが好ましい。ヨウ素価は化合物の不飽和度を表わす指標となる数値であり、試料100gが吸収するヨウ素のg数で表わされる。測定はJIS K 5421の規格に従い行なうことができる。
【0035】
上記不飽和度の観点から、脂肪酸(a3)としては、ヤシ油脂肪酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、特にヤシ油脂肪酸を好適に使用することができる。
【0036】
脂肪酸変性ポリエステル樹脂(A1)の製造は、特に限定されるものではなく、通常の方法に従って行なうことができる。例えば、前記多塩基酸成分(a1)、アルコール成分(a2)及び脂肪酸(a3)を窒素気流中、150〜250℃で、5〜10時間反応させることにより、エステル化反応またはエステル交換反応を行なう方法が挙げられる。
【0037】
脂肪酸(a3)による変性は、前記多塩基酸成分(a1)とアルコール成分(a2)とのエステル化反応もしくはエステル交換反応と同時に、またはエステル化反応後もしくはエステル交換反応後のいずれにおいても行なうことができる。
【0038】
上記多塩基酸成分(a1)、アルコール成分(a2)及び脂肪酸(a3)は、一度に添加してもよいし、数回に分けて添加してもよい。また、はじめにカルボキシル基含有脂肪酸変性ポリエステル樹脂を合成した後、上記アルコール成分(a2)を用いて、該カルボキシル基含有脂肪酸変性ポリエステル樹脂をエステル化してもよい。さらに、はじめに水酸基含有脂肪酸変性ポリエステル樹脂を合成した後、酸無水物を反応させて、水酸基含有脂肪酸変性ポリエステル樹脂をハーフエステル化させてもよい。
【0039】
前記エステル化またはエステル交換反応の際には、反応を促進させるために、触媒を用いてもよい。前記触媒としては、ジブチル錫オキサイド、三酸化アンチモン、酢酸亜鉛、酢酸マンガン、酢酸コバルト、酢酸カルシウム、酢酸鉛、テトラブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート等の既知の触媒を使用することができる。
【0040】
また、脂肪酸変性ポリエステル樹脂(A1)は、該樹脂の調製中、もしくは調整後に、モノエポキシ化合物で変性することもできる。モノエポキシ化合物としては、例えば、合成高分岐飽和脂肪酸のグリシジルエステル(商品名「カージュラE10」、HEXION Specialty Chemicals社製)を好適に用いることができる。
【0041】
脂肪酸変性ポリエステル樹脂(A1)は、得られる塗膜の加工性、平滑性の観点から、5000〜30000、好ましくは7000〜25000、さらに好ましくは10000〜20000の範囲内の数平均分子量を有することが好適である。
【0042】
また、脂肪酸変性ポリエステル樹脂(A1)は、得られる塗膜の硬化性の観点から、一般に5〜100mgKOH/gの範囲内の水酸基価を有しており、好ましくは10〜90mgKOH/g、さらに好ましくは40〜80mgKOH/gの範囲内の水酸基価を有することが好適である。
【0043】
また、脂肪酸変性ポリエステル樹脂(A1)は、得られる塗膜の耐候性の観点から、3〜30%の範囲内の油長を有しており、好ましくは5〜20%の範囲内の油長を有することが好適である。ここで、油長とは、構成成分である多塩基酸成分(a1)、アルコール成分(a2)及び脂肪酸成分(a3)の総量に対する脂肪酸成分(a3)の質量%である。
【0044】
また、脂肪酸変性ポリエステル樹脂(A1)は、得られる塗膜の硬度、加工性などの観点から、0〜50℃、好ましくは10〜40℃の範囲内のガラス転移温度を有することが好適である。
【0045】
脂肪酸変性ポリエステル樹脂(A1)の数平均分子量及び水酸基価の調整は、例えば、前記多塩基酸成分(a1)及び脂肪酸成分(a3)中のカルボキシル基と前記アルコール成分(a2)中の水酸基の当量比(COOH/OH)を調整する方法、又は前記エステル化反応又はエステル交換反応における反応時間を調整する方法等によって行なうことができる。
【0046】
また、上記多塩基酸成分(a1)中のカルボキシル基とアルコール成分(a2)中の水酸基の当量比(COOH/OH)としては、一般に、0.5〜0.98、好ましくは0.6〜0.95の範囲内であることが好適である。
【0047】
なお、本明細書における数平均分子量及び重量平均分子量は、ゲルパーミュエーションクロマトグラフ(東ソー(株)製、「HLC8120GPC」)で測定した数平均分子量及び重量平均分子量を、標準ポリスチレンの分子量を基準にして換算した値である。この測定において、カラムは、「TSK−gel G4000HXL」、「TSK−gel G3000HXL」、「TSK−gel G2500HXL」、「TSK−gel G2000HXL」(いずれも商品名、東ソー(株)製)の4本を用い、移動相テトラヒドロフラン、測定温度40℃、流速1mL/min、検出器RIという測定条件を使用した。
【0048】
また、本明細書において、ガラス転移温度(Tg)は、示差熱分析(DSC)によるものである。
【0049】
ポリエステル樹脂成分(A)として、脂肪酸変性ポリエステル樹脂(A1)の他、通常の脂肪酸変性されていない通常の、オイルフリーポリエステル樹脂(A2)を含めることができる。
【0050】
オイルフリーポリエステル樹脂(A2)は、常法により、多塩基酸成分(a1)及びアルコール成分(a2)のエステル化反応又はエステル交換反応によって得られるポリエステル樹脂であり、多塩基酸成分(a1)及びアルコール成分(a2)としては、上記脂肪酸変性ポリエステル樹脂(A1)で例示したものを使用して、上記脂肪酸変性ポリエステル樹脂(A1)で例示した方法と同様にして、製造することができる。
【0051】
本発明において、ポリエステル樹脂成分(A)の固形分総量に対して、脂肪酸変性ポリエステル樹脂(A1)の固形分含有量は、50〜100質量%である。特に、得られる塗膜の耐候性及び耐食性の保持性の観点から、好ましくは60〜100質量%、さらに好ましくは70〜100質量%の範囲内である。
【0052】
(B)メラミン樹脂成分
本発明の塗料組成物において、メラミン樹脂成分(B)は、下記ブチルエーテル化メラミン樹脂(B1)を、メラミン樹脂成分(B)の固形分総量に対して、固形分として50〜100質量%含有する。
【0053】
(B1)ブチルエーテル化メラミン樹脂
ブチルエーテル化メラミン樹脂は、メラミンとホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒドなどのアルデヒド成分との付加反応生成物(1量体及び多量体のいずれであってもよい)であるメチロール化メラミン樹脂中のメチロール基の一部又は全部を、n−ブチルアルコール又はイソブチルアルコールでエーテル化したメラミン樹脂である。ここで、ブチルエーテル化メラミン樹脂には、メチロール化メラミン樹脂中のメチロール基の一部又は全部を、n−ブチルアルコールでエーテル化したメラミン樹脂、イソブチルアルコールでエーテル化したメラミン樹脂、n−ブチルアルコール及びイソブチルアルコールでエーテル化したメラミン樹脂のいずれも含まれる。得られる塗膜の加工性、及び耐汚染性等の点から、該ブチルエーテル化メラミン樹脂の数平均分子量が800〜8000、特に、1000〜5000の範囲にあることが好ましい。ブチルエーテル化メラミン樹脂(B1)は、1種で又は2種以上の混合物として使用することができる。
【0054】
ブチルエーテル化メラミン樹脂(B1)の市販品としては、例えば、ユーバン20SE、ユーバン225(以上、いずれも三井化学(株)製)、スーパーベッカミンJ820−60、スーパーベッカミンL−117−60、スーパーベッカミンL−109−65、スーパーベッカミン47−508−60、スーパーベッカミンL−118−60、スーパーベッカミンG821−60(以上、いずれもDIC(株)製)等を挙げることができる。
【0055】
メラミン樹脂成分(B)としては、上記ブチルエーテル化メラミン樹脂(B1)以外のメラミン樹脂(メラミン樹脂(B2))を含めることができる。
【0056】
具体的には、例えば、メラミンとホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒドなどのアルデヒド成分との付加反応生成物(1量体及び多量体のいずれであってもよい)であるメチロール化メラミン樹脂中のメチロール基の一部又は全部を、n−ブチルアルコール及びイソブチルアルコール以外の1種又は2種以上のアルコールによってエーテル化したメラミン樹脂、n−ブチルアルコール及び/又はイソブチルアルコール、並びに、n−ブチルアルコール及びイソブチルアルコール以外の1種又は2種以上のアルコールによってエーテル化したメラミン樹脂を挙げることができる。エーテル化に用いられるn−ブチルアルコール及びイソブチルアルコール以外のアルコールの例としてはメチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、2−エチルブタノール、2−エチルヘキサノール等の1価アルコールを挙げることができる。メラミン樹脂(B2)の具体例として、メチルアルコールによりエーテルされたメラミン樹脂(メチルエーテル化メラミン樹脂)、メチルアルコール及びブチルアルコールによりエーテルされたメラミン樹脂(メチル/ブチル混合エーテル化メラミン樹脂)などが挙げられる。
【0057】
メチルアルコールによりエーテルされたメラミン樹脂としては、例えば、スミマールM−100、スミマールM−40S、スミマールM−55(いずれも住友化学(株)製、商品名)、サイメル300、サイメル303、サイメル325、サイメル327、サイメル350、サイメル370、サイメル730、サイメル736、サイメル738(以上、いずれも日本サイテックインダストリイズ(株)製、商品名)、メラン522、メラン523(以上、いずれも日立化成工業(株)製、商品名)、ニカラックMS17、ニカラックMS15、ニカラックMS001、ニカラックMX430、ニカラックMX650(いずれも(株)三和ケミカル製、商品名)、レジミン740、レジミン741、レジミン747(以上、いずれもモンサント社製、商品名)等のメチルエーテル化メラミン樹脂を挙げることができる。
【0058】
メチルアルコール及びブチルアルコールによりエーテルされたメラミン樹脂としては、例えば、サイメル232、サイメル235、サイメル202、サイメル238、サイメル254、サイメル266、サイメル272、サイメル1130、サイメルXV−514、サイメルXV805(いずれも日本サイテックインダストリイズ(株)製、商品名)、スミマールM66B(住友化学(株)製、商品名)、レジミン753、レジミン755(以上、いずれもモンサント社製)等のメチル/ブチル混合エーテル化メラミン樹脂を挙げることができる。
【0059】
本発明において、メラミン樹脂成分(B)の固形分総量に対して、ブチルエーテル化メラミン樹脂(B1)の固形分含有量は、50〜100質量%である。特に、得られる塗膜の加工性及び耐汚染性の保持性の観点から、好ましくは70〜100質量%、さらに好ましくは80〜100質量%の範囲内である。
【0060】
ブチルエーテル化メラミン樹脂(B1)は、メチルエーテル化メラミン樹脂、メチル/ブチル混合エーテル化メラミン樹脂などと比べ極性が低く、基体樹脂であるポリエステル樹脂(A)との相溶性が良好である。そのため、ブチルエーテル化メラミン樹脂(B1)を含有する耐汚染塗料組成物から得られる塗膜は、架橋の均一性が優れている。
【0061】
また、ブチルエーテル化メラミン樹脂(B1)は、メチルエーテル化メラミン樹脂、メチル/ブチル混合エーテル化メラミン樹脂と比べ塗膜中の表層への局在化が生じにくい。そのため、ブチルエーテル化メラミン樹脂(B1)を含有する耐汚染塗料組成物から得られる塗膜は、耐侯性も優れている。
【0062】
また、ポリエステル樹脂成分(A)とメラミン樹脂成分(B)との硬化反応を促進するため、必要に応じて、硬化触媒を使用することができる。この硬化反応を促進するための硬化触媒としては、一般に、スルホン酸化合物又はスルホン酸化合物の中和物が用いることができる。
【0063】
スルホン酸化合物としては、p−トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸等を挙げることができる。スルホン酸化合物の中和物における中和剤としては、1級アミン、2級アミン、3級アミン、アンモニア、苛性ソーダ、苛性カリなどの塩基性化合物を挙げることができる。
【0064】
本発明の耐汚染塗料組成物において、上記ポリエステル樹脂成分(A)及びメラミン樹脂成分(B)の固形分含有比率は、ポリエステル樹脂成分(A)及びメラミン樹脂成分(B)の固形分総量を基準にして、ポリエステル樹脂成分(A)が50〜90質量%及びメラミン樹脂成分(B)が10〜50質量%である。特に、ポリエステル樹脂成分(A)が60〜80質量%及びメラミン樹脂成分(B)が20〜40質量%であることが、得られる塗膜の硬化性、耐汚染性、機械的強度、加工性、耐溶剤性、耐食性、耐候性等の観点から好ましい。
【0065】
(C)オルガノシリケート及び/又はその縮合物成分
本発明の(C)成分は、
一般式:(R−Si−(OR4−n
[式中、Rはエポキシ基又はメルカプト基で置換されていてもよい炭素数1〜18のアルキル基又はフェニル基であり、Rは炭素数が1〜6のアルキル基であり、nは0または1である。]
で表わされるオルガノシリケート及び/又はその縮合物である。
【0066】
本発明の塗料組成物が含有する(C)成分は、塗布後に効率よく基材表面で親水化効果を塗膜が発揮するために使用されるものであり、この効果の観点から、上記オルガノシリケートの縮合物がより好ましい。
【0067】
上記一般式におけるRの具体例としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、n−オクチル、2−エチルヘキシル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、オクタデシル、グリシジル、メチルグリシジル(2−メチルグリシジル)、メルカプトメチル、2−メルカプトエチル、2−メルカプトプロピル、3−メルカプトプロピル、4−メルカプトブチル、フェニル、p−メルカプトフェニル基などを挙げることができる。
【0068】
(C)成分のオルガノシリケートの具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトライソブトキシシランなどの4官能シラン;メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、メチルトリn−ブトキシシラン、メチルトリイソブトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリプロポキシシラン、フェニルトリイソプロポキシシラン、フェニルトリn−ブトキシシラン、フェニルトリイソブトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、ラウリルトリメトキシシラン、ラウリルトリエトキシシラン、メルカプトメチルトリメトキシシラン、メルカプトエチルトリメトキシシラン、メルカプトメチルトリエトキシシラン、メルカプトエチルトリエトキシシラン、メルカプトプロピルトリメトキシシラン、メルカプトプロピルトリエトキシシラン等の3官能シランが挙げられる。上記オルガノシリケートの縮合物としては、これらの4官能もしくは3官能シランの1種又は2種以上の組合せでの縮合物などが挙げられる。
【0069】
オルガノシリケートの縮合物は、常法により製造することができ、市販品としては、例えば、MKCシリケートMS51、MS56、MS57、MS56S、MS56SB5、MS58B15、MS58B30、ES40、EMS31、BTS(以上、いずれも三菱化学(株)製、商品名)、メチルシリケート51、エチルシリケート40、エチルシリケート40T、エチルシリケート48(以上、いずれもコルコート(株)製、商品名)、KR500、KR9218、X−41−1805、X−41−1810、X−41−1818、X−41−1053、X−41−1056(以上、いずれも信越化学工業(株)製、商品名)等を挙げることができる。また、これらのオルガノシリケートの縮合物を単体で、又は2種以上を組合せて部分加水分解縮合することによっても得ることができる。オルガノシリケートの縮合物は、分枝状もしくは直鎖状の縮合物であって、縮合度が2〜100、好ましくは2〜20であることが好適である。本発明の塗料組成物においては、(C)成分のオルガノシリケートやオルガノシリケートの縮合物は、単独で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0070】
前記一般式で表わされるオルガノシリケート及び/又はその縮合物において、OR基としてメトキシ基と炭素原子数2〜6のアルコキシ基とを有し、メトキシ基/炭素原子数2〜6のアルコキシ基との数の比が95/5〜30/70の範囲内であることが、塗料作成後の可使時間(ポットライフ)の観点から好適である。
【0071】
本発明の塗料組成物において、(C)成分の固形分含有量は、(A)成分及び(B)成分の固形分総量を基準にして、0.1〜50質量%であり、好ましくは0.5〜30質量%、さらに好ましくは1〜20質量%である。
【0072】
(C)成分量が上記範囲内にあることによって、(C)成分を含有する効果がより発揮され、得られる塗膜の初期耐汚染性、及び耐汚染性の保持性、並びに、得られる塗膜の機械的強度及び耐久性の面からも好適である。
【0073】
本発明の塗料組成物において、前記した(A)、(B)及び(C)成分の他に、酸性を示す界面活性剤やホウ酸系化合物などの加水分解促進剤、着色顔料、シリカ微粒子等の体質顔料、有機樹脂粉末、無機質骨材、顔料分散剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、消泡剤、表面調整剤等の塗料添加剤、溶剤等従来から塗料に使用されている公知の材料も含めることができる。
【0074】
上記酸性を示す界面活性剤やホウ酸系化合物は、上記オルガノシリケート及び/又はその縮合物成分(C)の加水分解を促進させる作用を有するものである。酸性を示す界面活性剤やホウ酸系化合物等の加水分解促進剤は、併用すると本発明の塗料組成物のポットライフが短くなるが、耐汚染性向上の観点から使用することができる。
【0075】
酸性を示す界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンリン酸エステル、アルキルリン酸エステル塩などのリン酸エステル塩;例えばラウリルスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアルキル又はアルキルベンゼンスルホン酸塩、イソプロピルナフタレンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩などスルホン酸塩;例えばアルキル又はアルキルベンゼン硫酸塩、(ポリ)オキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩などの硫酸エステル塩;例えばアルキルスルホコハク酸塩などのカルボン酸塩などの界面活性剤が挙げられる。ホウ酸系化合物としては、例えば、ホウ酸トリメチル、ホウ酸トリエチル、ホウ酸トリブチルなどのホウ酸トリアルキル;ホウ酸などが挙げられる。これらの加水分解促進剤の固形分含有量は、前記(A)成分及び(B)成分の固形分総量に対し、30質量%以下、特に、0.5〜20質量%、さらに特に、1〜10質量%であることが好ましい。
【0076】
上記体質顔料としては、シリカ微粒子、タルク、マイカ粉、バリタ等を挙げることができる。体質顔料の固形分含有量は、前記(A)成分及び(B)成分の固形分総量に対し、0.1〜20質量%、特に0.5〜15質量%、さらに特に1〜10質量%であることが好ましい。
【0077】
また、本発明の塗料組成物には、得られる塗膜を、艶消し、半艶等の仕上り外観とするための光沢調整の目的で艶消し剤(D)を含めることができる。艶消し剤(D)は得られる塗膜の光沢を低下させるために使用されるものであり、有機系艶消し剤及び無機系艶消し剤のいずれであってもよい。また、これらは、単独で又は2種以上を組合せて使用することができる。
【0078】
本発明の耐汚染塗料組成物は、艶消し、半艶等の光沢を低下させた仕上り外観の塗膜において、特に、耐汚染性、耐食性の保持性に優れた塗膜を形成させることができる。
【0079】
有機系艶消し剤としては、例えば、塗膜形成時の焼付けによって完全には溶融しない有機樹脂微粒子を挙げることができる。この有機樹脂微粒子は、通常、平均粒子径が3〜80μm、好ましくは5〜60μmの範囲内にあることが塗膜外観、塗装作業性等の観点から好適である。有機系艶消し剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデンやポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂、ポリアミド、アクリル樹脂、ポリウレタン、フェノール樹脂、シリコン樹脂、ポリプロピレン、及びナイロン11やナイロン12等のポリアミド等を挙げることができる。
【0080】
無機系艶消し剤としては、シリカ、マイカ、アルミナ、タルク、クレー、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等を挙げることができる。
【0081】
上記艶消し剤(D)は、単独で又は2種以上を組合せて使用することができる。艶消し剤(D)固形分含有量は、前記(A)成分及び(B)成分の固形分総量に対し、0.1〜30質量%、特に0.5〜20質量%であることが好ましい。
【0082】
本発明の耐汚染塗料組成物は、上記(A)〜(C)成分、及び必要に応じて、上記その他の成分を均一に混合することによって製造することができる。好ましくは、顔料分を予め、樹脂成分(A)の一部及び/又は顔料分散剤と混合、分散して顔料ペーストを作成し、該顔料ペーストを残りの成分と混合することによって製造することができる。
【0083】
本発明の塗料組成物は、一液型塗料とすることもできるが、(C)成分であるオルガノシリケート及び/又はその縮合物を他の成分と分離しておき、使用直前に混合する二液型塗料とすることもできる。貯蔵性の観点等から、二液型塗料とすることが好適である。
【0084】
本発明の耐汚染塗料組成物を用いて塗膜を形成する方法としては、塗料組成物を必要に応じて有機溶剤等を添加することにより所望の粘度に調整した後、エアスプレー、静電エアスプレー、ロールコーター、フローコーター、ディッピング形式による塗装機、刷毛、バーコーター、アプリケーターなどを用いて乾燥後の塗膜の膜厚が通常0.5〜300μm、好ましくは5〜50μmになるように塗装し、通常80〜300℃の温度で5秒間〜1時間程度加熱して硬化させる方法等が挙げられる。なお、塗装方法としては、上記の方法のうち、スプレー塗装やロールコーター塗装が好適である。
【0085】
塗膜形成方法
本発明の塗膜形成方法は、金属板上の片面又は両面上に、クロム含有防錆成分を含有しないことを特徴とするクロムフリープライマー塗料によるプライマー塗膜を形成し、プライマー塗膜の少なくとも一方の上に、上記本発明の耐汚染塗料組成物による上塗塗膜を形成してなることを特徴とする塗膜形成方法である。
【0086】
換言すると、本発明の塗膜形成方法は、金属板上の片面又は両面上に、クロムフリープライマー塗料によるプライマー塗料によりプライマー塗膜を形成する工程、及び
前記形成されたプライマー塗膜の少なくとも一方の上に、上記本発明の耐汚染塗料組成物により上塗塗膜を形成する工程
を含むことを特徴とする塗膜形成方法である。
【0087】
また、上記塗膜形成方法の各工程を含む塗装金属板の製造方法、及び上記塗膜形成方法もしくは塗装金属板の製造方法により得られる塗装金属板も本発明により提供される。
【0088】
本発明の塗膜形成方法は、プレコート塗装にもポストコート塗装にも用いることができる。好適な使用例として、前述の屋外の基材(例えば建造物、表示物、ガードフェンス、器具、機械等)への塗装などが挙げられる。
【0089】
本発明の塗膜形成方法における被塗物である金属板としては、冷延鋼板、溶融亜鉛メッキ鋼板、電気亜鉛メッキ鋼板、合金亜鉛メッキ鋼板(鉄−亜鉛、アルミニウ−亜鉛、ニッケル−亜鉛などの合金亜鉛メッキ鋼板)、アルミニウム板、ステンレス鋼板、銅板、銅メッキ鋼板、錫メッキ鋼板等が挙げられる。
【0090】
金属類に塗装する場合に被塗装材である金属表面が油等汚染物質で汚染されていなければそのままプライマーを塗装してもかまわないが、塗膜との間の付着性、耐食性を改善するために公知の金属表面処理を施すのが望ましい。これら公知の表面処理方法としてリン酸塩系表面処理、クロム酸塩系表面処理、ジルコニウム系表面処理などが挙げられる。
【0091】
本発明において、金属板上にプライマー塗膜を形成するプライマーとして、環境保護の観点から、クロム含有防錆成分を含有しないことを特徴とするクロムフリープライマー塗料を使用する。上記プライマーは、クロムフリープライマー塗料であれば、着色カラー鋼板塗装分野、産業用機械塗装分野、金属部品塗装分野等で用いられる公知のプライマーを適用することができる。
【0092】
クロムフリープライマー塗料は、被塗装材の種類、金属表面処理の種類によって適宜選択される。特にエポキシ系、ポリエステル系プライマー塗料及びそれらの変性プライマー塗料が好適であり、加工性が特に要求される場合はポリエステル系プライマー塗料が好適である。
【0093】
プライマー塗膜を形成する具体的な手段として、プライマー塗料を塗装し、その後必要に応じて加熱して硬化させる手段が例示される。この場合、プライマー塗料は、プライマー塗膜厚が、1〜30μm、好ましくは2〜20μmとなるようにロール塗装、スプレー塗装等公知の塗装方法により塗装され、通常、雰囲気温度80〜300℃の温度で5秒間〜1時間程度加熱して硬化させる。プレコート塗装する場合には、好ましくは、素材到達最高温度が140〜250℃となる条件で15秒間〜120秒間加熱して硬化させることが好ましい。
【0094】
プライマー塗膜の層構造は特に限定されるものではなく、例えば、一層であってもよいし、第1のプライマー塗膜の上に第2のプライマー塗膜(中塗塗膜)が形成された二層であってもよい。プライマー塗膜を二層とする場合、第1のプライマー塗膜に防食機能を持たせ、第2のプライマー塗膜(中塗塗膜)に、加工性、耐チッピング性能を持たせるなど、二層のプライマー塗膜に異なる機能を持たせることもできる。
【0095】
次いで、本発明の塗膜形成方法においては、上記金属板上の片面もしくは両面上に形成されたプライマー塗膜の少なくとも一方の上に、本発明の耐汚染塗料組成物により上塗塗膜が形成される。すなわち、上塗塗膜は、形成されたプライマー塗膜の少なくとも片面上に重ねて形成される。ここで、「プライマー塗膜の少なくとも一方の上」とは、金属板上の片面上にプライマー塗膜が形成された場合は、該片面上に形成されたプライマー塗膜の上を指し、金属板上の両面上にプライマー塗膜が形成された場合は、該両面上に形成されたプライマー塗膜のうち金属板上の片面上に形成されたプライマー塗膜の上、もしくは、該両面上に形成されたプライマー塗膜の上を指す。
【0096】
上塗塗膜を形成する具体的な手段として、本発明の耐汚染塗料組成物を塗装し、その後必要に応じて加熱して硬化させる手段が例示される。塗装方法としては、カーテン塗装、ロールコーター塗装、浸漬塗装、スプレー塗装等を挙げることができる。膜厚は、通常、乾燥後の塗膜厚が5〜50μm、好ましくは8〜25μmの範囲内となるように塗装される。
【0097】
本発明の塗料組成物をプレコート塗装する場合、その塗装方法に制限はないがプレコート鋼板塗装の経済性からカーテン塗装、ロールコーター塗装が好ましい。ロールコーター塗装を適用する場合には、実用性の観点から、2本ロールによるボトムフィード方式(いわゆるナチュラルリバース塗装、ナチュラル塗装)が好ましい。あるいは、塗面の均一性を最良のものにするとの観点から、3本ロールによるトップフィードもしくはボトムフィード方式を行うこともできる。
【0098】
本発明の塗料組成物による上塗塗膜の硬化条件は、通常、素材到達最高温度120〜260℃で15秒間〜30分間程度である。コイルコーティングなどによって塗装するプレコート塗装分野においては、通常、素材到達最高温度160〜260℃で焼付時間15〜90秒間の範囲で行なわれる。
【実施例】
【0099】
以下、製造例、実施例によって本発明をより具体的に説明する。本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお、以下、「部」および「%」はいずれも質量基準によるものである。
【0100】
ポリエステル樹脂の製造
製造例1
温度計、攪拌機、加熱装置及び精留塔を備えたフラスコ内に下記原材料を仕込んだ:
1,2−シクロヘキサンジカルボン酸無水物 150.9部(0.98モル)
ネオペンチルグリコール 38.9部(0.37モル)
ブチルエチルプロパンジオール 9.6部(0.06モル)
トリメチロールプロパン 77.8部(0.57モル)
ヤシ油脂肪酸 44.1部(0.21モル)
ジブチル錫オキサイド(触媒) 0.03部。
【0101】
次いで内容物を攪拌しながら160℃まで昇温し、160℃から230℃まで3時間かけて徐々に昇温し、230℃で30分間反応を続けた後、精留塔を水分離器と置換し、副生する縮合水の除去を促進するため、全仕込み量に対して5%のキシレンを加えて230℃でさらに反応を進め、酸価が4mgKOH/gとなったところで加熱を止め、スワゾール1500(炭化水素系溶剤)を加えて希釈し、固形分65%のポリエステル樹脂(A1−1)溶液を得た。
【0102】
得られた樹脂は、数平均分子量15000、水酸基価(樹脂1gを中和するのに要する水酸化カリウムのmg数)75mgKOH/g、油長14.7%、ヨウ素価5>を有していた。
【0103】
製造例2〜13
下記表1に示す配合にて、製造例1と同様にして、固形分65%の各ポリエステル樹脂(A1−2)〜(A1−13)の溶液を得た。表1の各成分の組成比はモル比である。
【0104】
各樹脂の、数平均分子量、水酸基価、油長及びヨウ素価を併せて表1に示す。なお、製造例7〜13のポリエステル樹脂(A1−7)〜(A1−13)は、比較例用の樹脂である。
【0105】
【表1】
【0106】
耐汚染塗料組成物の製造及び性能試験
実施例1〜18及び比較例1〜10
後記表2及び表3に示す組成にて塗料化を行い、各耐汚染塗料組成物No.1〜28を得た。耐汚染塗料組成物No.19〜28は比較例用の塗料組成物である。
【0107】
化成処理が施された厚さ0.35mmの溶融55%アルミ−亜鉛めっき鋼板(ガルバリウム鋼板)の表面および裏面のそれぞれに、KPカラー8620プライマー(関西ペイント(株)製、プレコート鋼板用ポリエステル系プライマー)を乾燥膜厚が5μmとなるように塗装し、素材到達最高温度が220℃となるように加熱して40秒間焼付け、プライマー塗装鋼板を得た。このプライマー塗装鋼板の表面上に上記のようにして得た各耐汚染塗料組成物をバーコーターにて乾燥膜厚が約15μmとなるように塗装し、素材到達最高温度が230℃となるように加熱して50秒間焼付けて各塗装鋼板を得た。得られた各塗装鋼板について下記性能試験を行った。
【0108】
試験結果を併せて表2及び表3に示す。なお表2及び表3における各成分の量は固形分質量である。なお、耐汚染塗料組成物の塗料化に際しては、白色顔料である二酸化チタンの分散を行った。また、シクロヘキサノン/スワゾール1500(丸善石油(株)製、芳香族石油系高沸点溶剤)=60/40(質量比)の混合溶剤を塗料組成物の粘度調整等のために使用した。塗装に際しては、塗料組成物粘度をフォードカップ#4で約100秒(25℃)に調整した。
【0109】
【表2】
【0110】
【表3】
【0111】
なお、表2及び表3の(注1)〜(注11)は以下のとおりである。
(注1)ユーバン20SE−60:三井化学(株)社製、ブチルエーテル化メラミン樹脂、重量平均分子量約4000。
(注2)スーパーベッカミンJ820−60:商品名「スーパーベッカミンJ−820−60」、DIC(株)製、n−ブチルエーテル化メラミン樹脂溶液。
(注3)スーパーベッカミンL−118−60:商品名「スーパーベッカミンL−118−60」、DIC(株)製、n−ブチルエーテル化メラミン樹脂溶液。
(注4)サイメル303:日本サイテックインダストリイズ(株)製、低分子量メチルエーテル化メラミン樹脂。ヘキサキス(メトキシメチル)メラミンの含有量が60重量%以上。
(注5)スミジュールBL3175:住化バイエルウレタン(株)製、トリメチロールプロパンアダクト型ヘキサメチレンジイソシアネートのメチルエチルケトンオキシムブロック化合物。
(注6)MS56S:三菱化学(株)製、商品名「MKCシリケートMS56S」、テトラメトキシシランの縮合物であるメチルエステル化シリケート。
(注7)MS58B30:三菱化学(株)製、商品名「MKCシリケートMS58B30」、テトラアルコキシシランの縮合物であるメチル/ブチル混合エステル化シリケート、メチル/ブチル数の比率は70/30。
(注8)X−41−1805:信越化学工業(株)製、商品名、メルカプトアルキル基含有トリアルコキシシランの縮合物、メルカプトアルキル基の炭素数は18以下、アルコキシ基の炭素数は6以下である。
(注9)サイロイド161W:GRACEGMBH社製、商品名、有機処理されたシリカ微粉末、吸油量170ml/100g。
(注10)Nacure5225:米国キング・インダストリーズ製、ドデシルベンゼンスルホン酸の第2級アミン中和物のイソプロパノール溶液。ドデシルベンゼンスルホン酸/アミンの中和度は約1.1(モル比)。有効成分約33重量%で、うち、ドデシルベンゼンスルホン酸/アミン(質量比)は約8/25。表2中の数値は、ドデシルベンゼンスルホン酸の固形分質量部である。
(注11)フォーメートTK−1:武田薬品工業(株)製の有機錫溶液である硬化触媒、ブロック化ポリイソシアネート化合物の解離触媒。
【0112】
表2及び表3中における性能試験は以下の方法及び評価基準に従って行った。
【0113】
60°光沢:
JISK−54007.6(1990)に規定の60度鏡面光沢度に従い、60度鏡面反射率を測定した。
【0114】
加工性:
20℃の室内において、塗面を外側にして試験板を180度折曲げて、折曲げ部分にワレが発生しなくなるT数を表示した。T数とは、折曲げ部分の内側に何もはさまずに180度折曲げを行なった場合を0T、試験板と同じ厚さの板を1枚はさんで折曲げた場合、1T、2枚の場合2T、3枚の場合3T、4枚の場合4T、5枚の場合5T、6枚の場合6Tとした。結果を以下により判定した。:A:4T曲げ加工において、殆どワレが認められない、
B:4T曲げ加工では明らかなワレが認められるが、6T曲げ加工において殆どワレが認められない、
C:6T曲げ加工において、明らかなワレが認められる。
【0115】
屋外曝露試験:
屋外曝露試験試験片(100×300mm)を、軒先をモデル化した設置台に、北側に塗膜を面するように取り付け、尼崎市神崎町の関西ペイント(株)屋上にて曝露試験を行い、耐汚染性及び耐雨筋汚染性(雨筋状の汚れ跡)を下記基準にて評価した。耐汚染性は曝露前後の色差(ΔE)をJISZ8370に基づいて、スガ試験機(株)製の多光源分光測色計MSC−5Nを用いて測定した。耐雨筋汚染性は目視にて判定した。
【0116】
耐汚染性:
屋外曝露試験前後でのΔEにより以下の基準により評価した:
S:ΔEが2未満、
A:ΔEが2以上かつ3未満、
B:ΔEが3以上かつ5未満、
C:ΔEが5以上。
【0117】
耐雨筋汚染性:
屋外暴露試験後の雨筋跡を以下の基準により評価した:
S:雨筋跡が見られない、
A:雨筋跡がわずかに認められる、
B:雨筋跡がかなり認められる、
C:雨筋跡が濃く残る。
【0118】
促進耐候性:
過酸化水素キセノン7サイクル(161時間)試験後の塗板のチョーキング発生具合により以下の基準により評価した:
S:チョーキングの発生が認められない、
A:チョーキングの発生がわずかに認められるか、又は塗膜の白化がわずかに認められる、
B:白化が認められ、光沢感がなく、チョーキングがやや発生している、
C:著しいチョーキングの発生が認められる。
【0119】
総合評価:
耐汚染塗料組成物においては、被塗物の加工性、得られる塗膜の耐汚染性、耐雨筋汚染性及び促進耐候性の全てが高いことが重要である。従って、以下の基準にて総合評価を行なった。
S:加工性、耐汚染性、耐雨筋汚染及び促進耐候性の評価がすべてS又はAであり、かつ少なくとも1つがSである、
A:加工性、耐汚染性、耐雨筋汚染及び促進耐候性の評価がすべてAである、
B:加工性、耐汚染性、耐雨筋汚染及び促進耐候性の評価がすべてS、A又はBであり、かつ少なくとも1つがBである
C:耐擦り傷性、初期付着性、及び耐候性の評価のうち少なくとも1つがCである。