特許第5705246号(P5705246)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5705246
(24)【登録日】2015年3月6日
(45)【発行日】2015年4月22日
(54)【発明の名称】保存米飯の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 1/10 20060101AFI20150402BHJP
【FI】
   A23L1/10 E
   A23L1/10 B
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2013-11631(P2013-11631)
(22)【出願日】2013年1月25日
(65)【公開番号】特開2014-140338(P2014-140338A)
(43)【公開日】2014年8月7日
【審査請求日】2013年1月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】595093049
【氏名又は名称】株式会社バイオテックジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】100084102
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 彰
(72)【発明者】
【氏名】山田 和典
(72)【発明者】
【氏名】松田 学
【審査官】 吉門 沙央里
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−298079(JP,A)
【文献】 特開2009−118760(JP,A)
【文献】 特開2007−282503(JP,A)
【文献】 特開2003−210121(JP,A)
【文献】 特開2003−102408(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 1/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
清浄処理した原料米に、所定の吸水をさせた後に蒸米処理し、その後冷却して澱粉の一部を老化させ、固まった前記蒸米を解し、再度吸水・蒸し・冷却を少なくとも一回は繰り返して、澱粉の一部を老化させるレジスタントスターチ生成処理した米を、ゲル化剤とともに、水分量が75%以上となるように加水して所定のパックに封入し、炊飯処理してなることを特徴とする保存米飯の製造方法。
【請求項2】
炊飯処理後に更に低温放置する老化処理を施してなる請求項1記載の保存米飯の製造方法。
【請求項3】
使用する原料米が、酵素処理や乳酸菌処理を行った低蛋白米である請求項1又は2記載の何れか保存米飯の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常温保管で、そのまま喫食できる非常食として有用な保存米飯の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
災害時に使用される米飯の保存食は、乾燥アルファ化米、炊飯米を密封パックした米飯、或いは密封状態で炊飯を行った米飯食品(特許文献1)が知られている。また特許文献2には、多加水(水分含有量が57〜70%)で炊飯を行うと、低温保存された状態でも、食味の低下が認められない米飯の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−147917号公報。
【特許文献2】特開2006−174780号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記した乾燥α化米は、水又はお湯を加えて加熱処理が必要であり、また炊飯米を密封パックした米飯や、特許文献1に開示されている機能性食品を添加したパック米飯は、喫食時の再加熱(再糊化)が必要である。
【0005】
また特許文献2に開示された多加水米飯は、1〜2日程度の保存の場合には、澱粉の老化が防止されて常温喫食が可能であるが、災害時の非常食として長期間保存すると、米粒が形状を失い粥状になり、食味の低下の問題がある。
【0006】
そこで本発明は、高水分含有量によってデンプンの老化を抑え、長期間保存しても米粒形状を保持する新規な保存米飯の製造方法を提案したものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る保存米飯の製造方法は、清浄処理した原料米に、所定の吸水をさせた後に蒸米処理し、その後冷却して澱粉の一部を老化させ、固まった前記蒸米を解し、再度吸水・蒸し・冷却を少なくとも一回は繰り返して、澱粉の一部を老化させるレジスタントスターチ生成処理した米を、ゲル化剤とともに、水分量が75以上となるように加水して所定のパックに封入し、炊飯処理してなることを特徴とするものである。
【0008】
而して洗米を行い或いは無洗米等の清浄処理した原料米を、水に浸漬して米に充分吸水させ、水切り後に蒸して蒸米処理を行うと、米粒内のデンプンは充分α化(糊化)する。次に前記蒸米を1〜4℃程度の低温で、1晩から数日間静置する。この冷却によって米中のデンプンが老化(β化)し、β化したデンプンの一部はレジスタントスターチに変化して、再加熱処理しても再糊化しない。β化処理した米粒は、固く固まっていることがあるので、米粒の塊を解し、再度吸水・蒸し・冷却を少なくとも数回(最低でも一回)繰り返し、米中のレジスタントスターチ量を多くする。
【0009】
前記のレジスタントスターチ生成処理を終了すると充分に解し、パウチやトレー等の適宜な包装体に、全体で水分含有量を75%以上となるようにゲル化剤を添加すると共に加水し、包装体を密封し、所定の加熱を行って炊飯する。特に水分量が75%以上であると、糊化デンプンの老化の進行が完全に防止され、長期間の保存によって米粒の硬化が生じ難い。
【0010】
通常の水分量の米飯は、そのまま長期間保存するとデンプンの老化が進行して固くなってしまい、再加熱が必要であり、またデンプンの老化が進行しない高水分量で炊飯すると、お粥になってしまい、粒状の米飯とはならない。これに対して前記の炊飯処理された米飯(以下「β米飯」という)は、高水分量であり、結晶化した老化デンプンが粒形状を維持し、非晶質の未老化の糊化デンプンは高水分を保持して老化が進行せずに、ゲル化剤によって糊化デンプンの保水力を補助すると共に、デンプン老化の離水水分を吸収して粒全体の保水力を維持することになる。これによって長期間の常温保存後であっても、全体がお粥状態とはならず、粒状を維持し粘りのある可食状態の米飯となっているものである。
【0011】
また炊飯処理前の加水時に、加水と共にゲル化剤を添加してなるもので、ゲル化剤を添加して製出したβ米飯は、ゲル化剤が、老化していない多くの水分を保持している糊化デンプンの保水力を補助するものであり、デンプン老化時に離水した水分を吸収して米粒全体の保水力を維持するものである。
【0012】
また本発明方法(請求項2)は、前記製造方法において、特に炊飯処理後に更に低温放置する老化処理を施してなるもので、炊飯処理後の未老化デンプンの老化を促進させて、食感を安定させる。
【0014】
また本発明方法(請求項3)は、前記製造方法において、使用する原料米が、酵素処理や乳酸菌処理を行った低蛋白米としたもので、精白米に比較して米粒保形性が優れている。




【発明の効果】
【0015】
本発明方法は上記のとおり、複数回の蒸米及び老化処理(以下β化処理)を施して、米粒中のデンプンの糊化を十分に進行させると共に、老化したデンプンの一部をレジスタントスターチへ変化させて再糊化しない状態にして、レジスタントスターチが高水分の米飯において米粒の形状を保つ役割を果たさせ、米飯が水分含有量73%以上を保って、米飯の長期間保存によっても米飯が固くならず、再加熱無しで喫食可能な、非常食として優れた効果を備える米飯(β米飯)を提供できたものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明方法の実施形態の工程フローチャート。
図2】同実施形態における試験区(本発明の実施形態)の材料表。
図3】同結果表1(ゲル化剤無添加)。
図4】同結果表2(ゲル化剤添加)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に本発明方法の実施形態(試験例)について説明する。試験例は、図2の表に示した原材料(ゲル化剤無添加の試験区2種、ゲル化剤添加の試験区5種)をもって、図2で示した工程に添って実施した。
【0018】
工程順に説明すると、原料米は図2の表で示した通りで、精白米とタンパク質低減率1/12.5とした低蛋白米を使用した。この原料米としては、この他低カロリー米等も使用することができ、清浄化のために洗米を行う。尚無洗を使用する場合には精米工程を省くことができる。
【0019】
次に清浄化した原料米に対してレジスタントスターチ生成処理を行った。前記処理は吸水処理、蒸米処理、β化処理、ほぐし処理を繰り返し行うものである。具体的には、吸水処理は、清浄原料米を水に30分間から一晩程度浸漬して吸水させ、蒸米処理は、吸水処理後の米を水切り後に蒸籠等の蒸し器により、100℃30分間の蒸しを行った。
【0020】
β化処理は、蒸米処理を施した蒸し米を粗くほぐし熱が籠らないように網に載せて4℃で一晩静置した。このβ化処理(老化処理)により米中デンプン(糊化デンプン)が老化し、老化デンプンの一部は、再加熱しても容易には再糊化しないレジスタントスターチに変化する。
【0021】
β化処理後の冷却米飯(β化処理米)は、解して再度1.5倍量の冷水(4℃)に浸漬(一晩)して吸水処理を行い、水切り後再度の蒸米処理(100℃、40分間)を行う。前記蒸し米は、再度β化処理(4℃、3晩)を行い、レジスタントスターチの含有量を高める。この繰り返し処理によっては、米中のデンプンが十分に糊化され、蒸米後の米の水分含量が50%程度とβ化が進行しやすい水分含量まで高くなったことによってレジスタントスターチの含有量が高められると考えられる。
【0022】
レジスタントスターチ生成処理は、β化処理米の解しで終わり、次の工程を行うもので解したβ化処理米は、パウチやトレーなどの包装容器に充填し、加水とゲル化剤添加を行う。ゲル化剤添加は、ゲル化剤として寒天(イナゲル:伊那食品工業製)を使用した。寒天は少量の水に溶いて予め121℃、15分間のオートクレーブ処理を行って滅菌し、50℃程度のお湯と混合して固まらないうちにβ化処理米を充填したパウチへの加水を行った。加水は水分含有量が75〜76%程度になるように行い、包装容器を密閉する。
【0023】
包装容器の密閉は、米飯の長期保存を考慮して堅牢なシールを施す。密閉処理後は、100℃、1時間の炊飯処理を行う。
【0024】
炊飯終了後には、急冷せずに、扉を少し開けたスチームコンベンクションオーブン内にて30分ほど置いて冷ましたのちに放冷する。この放冷時間で、ゲル化剤を米内部に完全に吸収させる。急冷するとゲル化剤が米の外側で固まる可能性がある。
【0025】
炊飯米飯(β米飯)は前記の放冷の後4℃、1晩以上の老化処理を行って、未老化デンプンの老化を促進させる。
【0026】
前記の処理工程を持って製出した各試験区の食味結果は図3,4のとおりで、ゲル化剤を添加していない試験区では、2℃で7日間の保存した後でも、多少のボロボロ感があるものの、非加熱で喫食することが可能であった。
【0027】
β化処理米の加水時に、ゲル化剤である寒天を添加することにより、無添加試験区と比較して米粒の弾力が増し、2℃で7日間の保存後でもボロボロとした食感が少なくなる傾向がみられた。また、寒天の添加量が少なくなると弾力も弱くなる傾向がみられた。これは寒天が米粒中に浸透し固化したことにより、米粒の弾力を保っている為と考えられる。
【0028】
原料米にタンパク低減率1/12.5低タンパク米粒を使用した区と、精白米を使用した区とを比較すると、精白米を使用した区はやや米粒表面が糊状となる傾向がみられた。
この結果から低タンパク米粒が、長期保存米飯により適していると認められる。
【0029】
以上の試験例から、ゲル化剤を添加したβ米飯は、老化していない糊化デンプンが多くの水分を保持しており、寒天などのゲル化剤が糊化デンプンの保水力を補助して、デンプン老化時に離水した水分を吸収して保水力を維持するなどの効果があり、水分含量を75〜76%程度まで高くすることにより、β化処理時に生じたレジスタントスターチが75%以上の高水分でも米粒の形状を維持し、全体が粥状になることを防いで、2℃で7日間の保存後でも柔らかさを保ち、再加熱無しで良好な食味を保つと認められる。
【0030】
尚前記製造工程において、加水時に乳化剤や加工デンプンを加えることにより、米飯の食感や保存性を向上させることができ、また加水に酸味料等のpH調整剤を添加してβ米飯pHを下げることも可能である。
【0031】
更に炊飯においても、121℃、4分間のレトルト炊飯も可能である。
【0032】
尚水分を72%以下にすると、同様な手段でβ米飯を製出しても、長期間保存後では水分が分離して米粒が固くなり、再加熱無しでは喫食に適さないことが認められた。
図1
図2
図3
図4