特許第5705268号(P5705268)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5705268転写フィルムおよび透明導電積層体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5705268
(24)【登録日】2015年3月6日
(45)【発行日】2015年4月22日
(54)【発明の名称】転写フィルムおよび透明導電積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20150402BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20150402BHJP
   B32B 7/02 20060101ALI20150402BHJP
   B32B 7/06 20060101ALI20150402BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20150402BHJP
【FI】
   B32B27/30 A
   B32B27/18 J
   B32B7/02 104
   B32B7/06
   H01B5/14 A
   H01B5/14 B
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-101256(P2013-101256)
(22)【出願日】2013年5月13日
(65)【公開番号】特開2014-221522(P2014-221522A)
(43)【公開日】2014年11月27日
【審査請求日】2013年5月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000235783
【氏名又は名称】尾池工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】室 幸志
(72)【発明者】
【氏名】佐野 明日美
【審査官】 河原 肇
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−247099(JP,A)
【文献】 特開2005−231089(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/035660(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/093530(WO,A1)
【文献】 特開平01−046998(JP,A)
【文献】 特開昭63−299998(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00− 43/00
B44C 1/16− 1/175
C08J 7/04− 7/06
C09D 1/00− 10/00
101/00−201/10
H01B 5/00− 5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムの一方の面上に、少なくとも、離型層と、導電性高分子組成物とバインダー樹脂とを含む透明導電層と、導電性メッシュと、接着剤層と、をこの順に備えた転写フィルムであって、前記バインダー樹脂は、ポリエステル系樹脂およびポリグリシジルエーテル系樹脂のいずれか一方または両方を含有する樹脂であり、前記離型層は、メラミン樹脂の含有比が樹脂全量に対して60〜90重量%であるアクリルメラミン系樹脂、または、アクリル系樹脂に対して0.1〜2重量%のフッ素系添加剤を添加したアクリルフッ素系樹脂であり、前記接着剤層は、アクリル系樹脂接着剤、ポリスチレン系樹脂接着剤、またはポリアミド系樹脂接着剤のいずれかもしくは複数によるものであり、かつその厚みは前記導電性メッシュの厚さの1.5倍以上であること、を特徴とする転写フィルム。
【請求項2】
請求項1に記載の転写フィルムを用い、前記転写フィルムの透明導電層側を樹脂成形体の表面に接着剤層を介して接着させた後に、基材フィルムを剥離することにより、樹脂成形体表面に導電性メッシュと透明導電層とを形成することを特徴とする透明導電積層体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電層を形成するための転写フィルム、および、この転写フィルムを用いた透明導電積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
透明導電性材料は、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ等のディスプレイデバイス、太陽電池、タッチパネルなどの透明電極、ならびに電磁波シールド材などの透明導電膜として極めて有用であるため、幅広く利用されている。
【0003】
従来、透明導電膜は、例えば、インジウム錫酸化物(ITO)、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛等の導電性材料を、スパッタリング法、または蒸着法によりガラス板や透明フィルムなど基材上に堆積させることにより形成していた。しかし、スパッタリング法、または蒸着法を用いた透明導電膜の製造は、高額な大型の生産設備を必要とし、少量多品種の生産には適さない。また、このスパッタリング法や蒸着法により形成したITOなどの金属酸化物の透明導電膜は、フィルムなどの基材の撓みによりクラックが入りやすく、そのため導電性の低下が起こりやすいという問題があった。
【0004】
一方、低温かつ低コストで成膜可能な透明導電膜の形成方法として、透明フィルムなどの基材にウェットプロセスにより導電性高分子膜を製膜する方法が提案されている。導電性高分子膜を塗布形成する透明導電性フィルムの製造方法は、製造コストが比較的安く、生産性に優れるという利点がある。
【0005】
また、導電性高分子により形成される透明導電性高分子膜は、膜自体に柔軟性があるため、クラックなどの問題が生じにくい。そのため、支持体がフィルムのような可撓性のあるものに限らず、可撓性に乏しい材料でも、支持体が曲面等の3次元構造を有する樹脂成形体など、導電性高分子膜の塗布形成が困難な場合、その表面に透明導電層を形成する方法として、導電性高分子の透明導電層を有する転写フィルムを用い、転写する方法が知られている。
【0006】
例えば、特許文献1には、透明基材フィルムの少なくとも片面に、π電子共役系導電性高分子と、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、及びメラミン系樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂とを含有する帯電防止層を有する転写フィルムを用い、樹脂成形体に転写する方法が開示されている。また、特許文献2には、導電性の金属メッシュと金属メッシュ上および開口部に導電性高分子を設けた導電層を転写して、有機エレクトロルミネッセンス素子等の用途に適した透明導電性フィルムを製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2008/035660号
【特許文献2】特開2009−231194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示の転写フィルムは、その抵抗値が10Ω/□程度であり必ずしも低抵抗値ではない。また、特許文献2に開示のものは、導電性の金属メッシュと導電性高分子とを組み合わせた導電層は低抵抗値であるが、その転写性や柔軟性は不十分である。したがって、タッチセンサー等の用途に適した低抵抗値の透明導電層を、曲面等の3次元形状の樹脂成形体の表面に形成する方法としては、不十分であるという課題がある。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するもので、低抵抗値、柔軟性、転写性の各特性を満足する透明導電層を有する転写フィルムであり、例えば、曲面等の3次元形状の樹脂成形体の表面に、低抵抗値の透明導電層を形成することができる転写フィルム、および、この転写フィルムを用いた透明導電積層体の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の転写フィルムは、基材フィルムの一方の面上に、少なくとも、離型層と、導電性高分子組成物とバインダー樹脂とを含む透明導電層と、導電性メッシュとをこの順に備えた転写フィルムであって、前記バインダー樹脂は、ポリエステル系樹脂およびポリグリシジルエーテル系樹脂のいずれか一方または両方を含有する樹脂であり、前記離型層は、メラミン樹脂の含有比が樹脂全量に対して60〜90重量%であるアクリルメラミン系樹脂、または、アクリル系樹脂に対して0.1〜2重量%のフッ素系添加剤を添加したアクリルフッ素系樹脂であることを特徴とする。
【0011】
そして、本発明の透明導電積層体の製造方法は、上記本発明の転写フィルムを用い、前記転写フィルムの透明導電層側を樹脂成形体の表面に接着剤層を介して接着させた後に、基材フィルムを剥離することにより、樹脂成形体表面に導電性メッシュと透明導電層とを形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の転写フィルムによれば、透明導電層は、導電性高分子組成物とバインダー樹脂とを含み、バインダー樹脂は、ポリエステル系樹脂およびポリグリシジルエーテル系樹脂のいずれか一方または両方を含有する樹脂としたので、低抵抗値であるとともに、柔軟性に優れた透明導電層となる。また、離型層は、アクリルメラミン系樹脂またはアクリルフッ素系樹脂としたので、上記の透明導電層と組み合わせた場合に、上記透明導電層の剥離が容易となり、転写性に優れた転写フィルムとなる。
【0013】
そして、本発明の透明導電積層体の製造方法によれば、上記本発明の転写フィルムを用いるので、タッチセンサー等の用途に適した低抵抗値の透明導電層を、例えば、曲面等の3次元形状の樹脂成形体の表面に、容易かつ生産性良く形成することができ、優れた透明導電積層体の製造方法となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の転写フィルムについて詳細に説明する。本発明の転写フィルムは、基材フィルムの一方の面上に、少なくとも、離型層と、導電性高分子組成物とバインダー樹脂とを含む透明導電層と、導電性メッシュとをこの順に備えた転写フィルムであって、前記バインダー樹脂は、ポリエステル系樹脂およびポリグリシジルエーテル系樹脂のいずれか一方または両方を含有する樹脂であり、前記離型層は、メラミン樹脂の含有比が樹脂全量に対して60〜90重量%であるアクリルメラミン系樹脂、または、アクリル系樹脂に対して0.1〜2重量%のフッ素系添加剤を添加したアクリルフッ素系樹脂である構成としたものである。本発明の転写フィルムとその製造方法について、以下に、各層毎に順に説明する。
【0015】
本発明の転写フィルムの基材フィルムとしては、ポリエステル系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ナイロン樹脂、ビニロン樹脂、アセテート樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂などのプラスチックフィルムを使用することができる。中でも、好ましくは、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等の2軸延伸ポリエステル樹脂フィルムである。特に、2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムは、耐熱性、機械的強度に優れ、比較的安価な点等で好ましい。なお、基材フィルムの厚さとしては、特に制限はなく、例えば、12〜250μmのものが使用できる。
【0016】
本発明の転写フィルムの離型層としては、後記の導電性高分子組成物とバインダー樹脂とを含む透明導電層と組み合わせた場合に、優れた剥離性と転写性が得られる効果の観点から、アクリルメラミン系樹脂またはアクリルフッ素系樹脂を用いて形成する。具体的には、アクリルメラミン系樹脂は、アクリル系樹脂とメラミン樹脂とを含有し、メラミン樹脂の含有比を樹脂全量に対して60〜90重量%とすることにより、後記透明導電層と組み合わせた場合に、優れた剥離性と転写性が得られる。メラミン樹脂の含有比が90重量%を超えると硬化に要する温度が高く、基材フィルムの耐熱温度の点から好ましくない。また、アクリルフッ素系樹脂は、アクリル系樹脂にフッ素系添加剤を加えたものであり、フッ素系添加剤の添加量をアクリル系樹脂の重量に対して0.1〜2重量%とすることにより、後記透明導電層と組み合わせた場合に、優れた剥離性と転写性が得られる。
【0017】
離型層の厚さとしては、0.1μm未満では十分な効果が得られず、10μmを超えると離型層の膜にうねりのような膜厚のばらつきが発生し、後に形成する後記透明導電層の膜厚にばらつきが発生し、抵抗値のばらつきが発生する恐れであるので、0.1μm以上10μm以下が好ましい。離型層の形成方法としては、グラビアコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法などの塗工法が使用できる。
【0018】
次に、本発明の転写フィルムの透明導電層について、詳細に説明する。透明導電層は、導電性高分子組成物とバインダー樹脂とを含有する塗料を用いて形成される。透明導電層の形成に用いられる塗料に含まれる導電性高分子組成物は、高い透明性、高い導電性、および高い耐環境性が確保できるという観点から、導電性高分子がポリ(3,4−エチレンジオキシ)チオフェンであり、ドーパントがポリスチレンスルホン酸またはポリスチレンスルホン酸の共重合体である導電性高分子組成物である。すなわち、導電性高分子とドーパントの組み合わせが、ポリ(3,4−エチレンジオキシ)チオフェン/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS)構造の導電性高分子組成物である。
【0019】
また、透明導電層の形成に用いられる塗料は、透明導電層の膜としての強度を確保するため、および透明導電層を可撓性のある膜とするために、バインダー樹脂を含有する。バインダー樹脂の成分としては、ポリエステル系樹脂およびポリグリシジルエーテル系樹脂のいずれか一方または両方を含有する樹脂が好ましい。これらの樹脂をバインダー樹脂として含有することにより、透明導電層が可撓性のある膜となるとともに、膜としての強度が確保できる。そして、これらの樹脂のオリゴマー、ポリマーを組み合わせることが出来る。より詳しくは、ポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート水分散体、ポリエチレンナフタレート水分散体、ポリブチレンテレフタレート水分散体、ポリブチレンナフタレート水分散体などが挙げられる。ポリグリシジルエーテル系樹脂としては、エピクロルヒドリンポリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0020】
バインダー樹脂の含有量は、透明導電層の導電性、膜強度等の観点から、固形分重量として、導電性高分子とドーパントとの導電性高分子組成物の固形分重量の0.1〜10倍とすることが好ましい。バインダー樹脂の量によって導電性および膜強度が異なり、樹脂成分が多くなれば、膜強度は大きくなるが導電性が低下し抵抗値が高くなるため好ましくない。導電性と膜強度の観点からバインダー樹脂の量を、上記範囲に調整するのが好ましい。
【0021】
透明導電層の形成に用いられる塗料の溶媒としては、特に、水または水とアルコールの混合液が好ましい。アルコールは、メタノールまたはエタノール、1−プロピルアルコール、2−プロピルアルコールが好ましい。これらは単独で用いても、併用してもよい。また、導電性高分子組成物とバインダー樹脂とを溶媒に分散させる方法としては、例えば、ディスクミル法、ボールミル法、超音波分散法などの公知の方法を適用することができる。
【0022】
透明導電層の形成に用いられる塗料は、上記のほかに必要に応じて、二次ドーパント、安定な分散や基材への濡れ性を高めるための界面活性剤、レベリング剤、有機溶媒など、種々の添加剤を添加することも可能である。
【0023】
透明導電層の形成に用いられる塗料の粘度は、透明導電層を形成する際の塗布方法、および形成すべき膜厚に応じて調製することが、好ましい。なお、塗布方法としては、例えば、グラビアコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法などの公知の塗布方法を採用することができる。そして、透明導電層の膜厚としては、50nm未満では低抵抗化が困難であり、500nmを超えると透明性の確保が困難であるので、50nm以上500nm以下が好ましい。
【0024】
本発明の転写フィルムにおいては、上記の透明導電層上に導電性メッシュを設けて導電性高分子の透明導電層と組み合わせて導電層を形成している。導電性メッシュと導電性高分子の透明導電層とを組み合わせて導電層を形成することにより、導電層をより一層低抵抗化することができる。また、導電性メッシュを設ける位置として、離型層の上に直接ではなく、透明導電層の上に導電性メッシュを設ける理由は、以下のとおりである。導電性メッシュは下記に説明するように極めて幅の小さい細線で形成するので、導電性メッシュを離型層の上に直接設けた場合、後の転写のために転写性を優先して離型層を設けると、導電性メッシュの細線が剥離脱落しやすく、他方、細線の剥離脱落を防止するために離型層の離型性を低下させると、後に転写不良を生じやすくなる。しかし、導電性メッシュを透明導電層の上に設けることにより、すなわち、離型層、透明導電層、導電性メッシュの順に設けることにより、これらの問題が解決でき、低抵抗値、柔軟性、転写性の各特性を満足する導電層を有する転写フィルムが実現できる。
【0025】
また、本発明の転写フィルムを用い、導電性メッシュと透明導電層とを転写形成して作製した透明導電積層体は、導電性メッシュ上に導電性高分子の透明導電層が形成されて保護された構造となるので、導電性メッシュの耐環境特性が向上し、湿度等の使用環境による導電性の劣化を防止できる。
【0026】
続いて、本発明の転写フィルムの導電性メッシュについて、より具体的に説明する。導電性メッシュは、金、白金、鉄、銅、銀、アルミニウム、クロム、コバルト、ステンレス等の各種金属材料を用いて形成する。好ましい金属材料としては、銅、銀、アルミニウム、金等の低抵抗金属が挙げられ、中でも、比較的安価で導電性に優れる銀もしくは銅が好ましい。
【0027】
導電性メッシュの形状については特に制限がなく、全てが直線状であっても網目状であっても構わず、曲線状であっても不定形であってもよい。しかしながら、導電性に方向性が少ないことが好ましく、網目状であることが好ましい。網目の形状については、特に限定されるものではなく、正方形、長方形、菱形、ハニカム形状でもよい。また、網目の開口部の形状が、円状、楕円状、その他、不定形の形状であっても、また、前記種々の開口部の形状と、種々の大きさの組合せであってもよい。網目のサイズおよび開口部のサイズは、光透過性、導電性、および導電性能の均一性などを考慮して調整すればよい。導電性メッシュの開口率は、75%以上が好ましく、85%以上がより好ましい。
【0028】
導電性メッシュの厚みは、特に制限は無いが、0.01μm以上10μm以下が好ましい。導電性メッシュの配線の線幅は、光透過性と導電性の観点から、1μm以上100μm以下が好ましく、3μm以上20μm以下がより好ましい。また、導電性メッシュのピッチは、50μm以上2000μm以下であることが好ましく、100μm以上1000μm以下がより好ましい。そして、導電性メッシュは、大面積集電のために、より太線のバスラインを有していても良い。バスラインの太さやピッチは、使用される用途に応じて適宜決定すればよい。
【0029】
導電性メッシュの形成方法としては、公知の方法を適宜選択して用いることができる。例えば、蒸着もしくはスパッタ法を用いて金属膜を全面に形成した後にエッチングして網目状の金属膜を形成する方法、溶剤溶解性の材料をパターン印刷して遮蔽マスクとして用い金属をスパッタまたは真空蒸着した後に遮蔽マスクを溶解除去して行なうリフトオフ法による方法、さらには、銀粉などの金属材料を樹脂材料中に分散させた導電性ペーストを用い、スクリーン印刷、インクジェット印刷などの各種印刷法により網目状に導電材料を形成する方法、マスク蒸着法等を用いて網目状の金属膜を基材表面に直接形成する方法等が挙げられる。
【0030】
そして、本発明の転写フィルムにおいては、樹脂成形体に貼り付けるために、導電性メッシュと透明導電層の上に、予め接着剤層を備えていても良い。接着剤層は、後述する転写法や成形同時転写法などにより、本発明の転写フィルムを樹脂成形体に接着転写させるための層である。接着剤層を構成する接着剤の材料としては、転写法や成形同時転写法などにより樹脂成形体に転写する際に、転写時の加熱温度により軟化して粘着性を生ずる接着剤が好ましく、アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂等の熱可塑性樹脂が好ましい。樹脂成形体の材質がアクリル系樹脂の場合は、アクリル系樹脂接着剤を用いることが好ましい。また、樹脂成形体の材質がフェニレンオキシド・スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、スチレン共重合体系樹脂の場合は、これらの樹脂と親和性のあるアクリル系樹脂接着剤、ポリスチレン系樹脂接着剤、ポリアミド系樹脂接着剤などを選択して使用することが好ましい。接着剤層の厚さは、導電性メッシュが埋め込まれる必要があるため、導電性メッシュの厚さの1.5倍以上が好ましく、0.5〜15μmの範囲が好ましい。
【0031】
さらに、本発明の転写フィルムを用いた本発明の透明導電積層体の製造方法について説明する。
【0032】
本発明の透明導電積層体を製造するための樹脂成形体に用いられる樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリイミド樹脂等の公知の熱可塑性樹脂がいずれも使用できる。
【0033】
本発明の転写フィルムを用いて、樹脂成形体に導電性メッシュと透明導電層とを転写形成する転写法は、次のようにして行う。まず、樹脂成形体の表面に、転写フィルムの導電性メッシュと透明導電層上に予め形成した接着剤層を密着させる。次に、シリコンラバーなどの耐熱性弾性体を備えたロール転写機、アップダウン転写機などの転写機を用い、耐熱性弾性体を介して転写フィルムの基材フィルム側から熱および圧力を加える。これにより、接着剤層が樹脂成形体の表面に接着する。そして、樹脂成形体が冷却した後に基材フィルムを剥がすと、接着剤層とともに、導電性メッシュと透明導電層とが樹脂成形体の表面に転写される。以上により、転写工程が完了し、樹脂成形体の表面に導電性メッシュと透明導電層とを形成した透明導電積層体が得られる。
【0034】
次に、成形同時転写法によって、本発明の透明導電積層体を製造する方法について説明する。本発明の転写フィルムを用いて、樹脂成形体に導電性メッシュと透明導電層とを転写形成する成形同時転写法は、次のようにして行う。まず、可動型と固定型とからなる成形用金型内に、導電性メッシュと透明導電層上に予め接着剤層を形成した転写フィルムを、基材フィルム側が金型キャビティに面するように金型内に配置する。そして、成形用金型を閉じた後、ゲートから成形樹脂を金型内に射出充填させ、樹脂を固化して樹脂成形体を形成するとともに、その表面に転写フィルムを接着させる。樹脂成形体を冷却した後、成形用金型を開いて樹脂成形体を取り出す。最後に、樹脂成形体から基材フィルムを剥がすと、接着剤層とともに、導電性メッシュと透明導電層とが樹脂成形体の表面に転写形成される。以上により、成形同時転写工程が完了し、樹脂成形体の表面に導電性メッシュと透明導電層とを形成した透明導電積層体が得られる。
【0035】
上記の転写法および成形同時転写法によって得られる本発明の製造方法による透明導電積層体は、曲面などの3次元形状の樹脂成形体の表面に、タッチセンサー等の用途に適した低抵抗値の透明導電層を形成することができ、多様な要望に応えられるものとなる。
【0036】
なお、上記の透明導電積層体の製造方法においては、導電性メッシュと透明導電層上に予め接着剤層を形成した転写フィルムを用いた場合を例として説明したが、接着剤層は、必ずしも転写フィルムに予め形成する必要はなく、樹脂成形体側に転写時または予め接着剤層を設けても良い。
【実施例】
【0037】
以下に、本発明の転写フィルムおよび透明導電積層体の製造方法について、実施例に基づき具体的に説明する。ただし、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0038】
本実施例においては、本発明の範囲外の比較例も含めて、試料No.1〜10の10種類の転写フィルム、およびこれを用いた透明導電積層体を作製して、これらを評価した。試料No.1〜10の10種類の転写フィルムは、離型層を形成するために用いた離型樹脂組成物が異なるのみであり、具体的には、(表1)に示すように、アクリルメラミン系樹脂を用いて離型層を形成した試料No.1〜5の5種類、および、アクリルフッ素系樹脂を用いて離型層を形成した試料No.6〜10の5種類である。
【0039】
次に、試料No.1〜10の10種類の転写フィルム、およびこれを用いた透明導電積層体の作製方法について、具体的に説明する。まず、基材フィルムとして、厚さ50μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム準備した。
【0040】
また、試料No.1〜10の10種類の転写フィルムの透明導電層を形成するための導電性高分子組成物を作製し準備した。導電性高分子組成物として、具体的には、PEDOT/PSS(ポリ3,4−エチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸)水分散液(ヘレウス社製PH1000、固形分量1.0%)100重量部に、導電性向上剤としてジメチルスルホキシドを5重量部、バインダー樹脂としてポリエステル系樹脂(固形分量10%)を2.5重量部、ポリグリシジルエーテル系樹脂(固形分量10%)を2.5重量部、希釈溶剤としてイソプロパノール75%水溶液を100重量部加えて攪拌し、導電性高分子組成物を作製した。
【0041】
はじめに、試料No.1の転写フィルムは、以下のようにして作製した。まず、離型層を形成するための離型樹脂組成物を作製した。試料No.1の転写フィルムの離型樹脂組成物として、樹脂の組成をアクリル系樹脂60重量部、メラミン系樹脂40重量部とし、これに、トルエン50重量部、メチルエチルケトン50重量部の溶剤を加え離型樹脂組成物を調製した。
【0042】
この離型樹脂組成物を用い、基材フィルムとして準備した厚さ50μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、離型樹脂組成物を乾燥後の厚さが1μmとなるよう塗工し、120℃で1分乾燥させ、離型層を形成した。
【0043】
次に、この離型層の上に、上記で作製し準備した導電性高分子組成物を乾燥後の厚さが100nmになるように塗工し、120℃で1分乾燥させて透明導電層を形成した。
【0044】
続いて、この透明導電層の上に、銀ペースト(藤倉化成製、ドータイトFA−401CA)を用いてスクリーン印刷法によりライン幅75μm、間隔2900μmの格子状パターンを印刷し、140℃で15分乾燥させて、高さ6μmの導電性メッシュを形成した。
【0045】
さらに、接着剤としてアクリル系樹脂を乾燥後10μmの厚さになるように塗工し、120℃で3分乾燥させ、接着剤層を形成した。以上により、試料No.1の転写フィルムを得た。
【0046】
そして、試料No.1の転写フィルムの接着剤層側を、厚さ2mmアクリル板に当接し、ロール転写機を用いて、200℃、1.2m/分、10kg/cmの条件で加熱加圧し、冷却した後、基材フィルムを剥離した。以上により、アクリル板の表面に導電性メッシュと透明導電層とを転写して形成し、試料No.1の転写フィルムを用いた透明導電積層体を作製した。
【0047】
試料No.2の転写フィルムは、離型層を形成するための離型樹脂組成物として、樹脂の組成をアクリル系樹脂50重量部、メラミン系樹脂50重量部とした離型樹脂組成物を用いた以外は、試料No.1の転写フィルムと全く同様にして作製した。また、同様に、試料No.2の転写フィルムを用いた透明導電積層体を作製した。
【0048】
試料No.3の転写フィルムは、離型層を形成するための離型樹脂組成物として、樹脂の組成をアクリル系樹脂40重量部、メラミン系樹脂60重量部とした離型樹脂組成物を用いた以外は、試料No.1の転写フィルムと全く同様にして作製した。また、同様に、試料No.3の転写フィルムを用いた透明導電積層体を作製した。
【0049】
試料No.4の転写フィルムは、離型層を形成するための離型樹脂組成物として、樹脂の組成をアクリル系樹脂30重量部、メラミン系樹脂70重量部とした離型樹脂組成物を用いた以外は、試料No.1の転写フィルムと全く同様にして作製した。また、同様に、試料No.4の転写フィルムを用いた透明導電積層体を作製した。
【0050】
試料No.5の転写フィルムは、離型層を形成するための離型樹脂組成物として、樹脂の組成をアクリル系樹脂10重量部、メラミン系樹脂90重量部とした離型樹脂組成物を用いた以外は、試料No.1の転写フィルムと全く同様にして作製した。また、同様に、試料No.5の転写フィルムを用いた透明導電積層体を作製した。
【0051】
試料No.6の転写フィルムは、離型層を形成するための離型樹脂組成物として、樹脂を、アクリル系樹脂100重量部に対しフッ素系添加剤0.05重量部を添加した組成とした離型樹脂組成物を用いた以外は、試料No.1の転写フィルムと全く同様にして作製した。また、同様に、試料No.6の転写フィルムを用いた透明導電積層体を作製した。
【0052】
試料No.7の転写フィルムは、離型層を形成するための離型樹脂組成物として、樹脂を、アクリル系樹脂100重量部に対しフッ素系添加剤0.1重量部を添加した組成とした離型樹脂組成物を用いた以外は、試料No.1の転写フィルムと全く同様にして作製した。また、同様に、試料No.7の転写フィルムを用いた透明導電積層体を作製した。
【0053】
試料No.8の転写フィルムは、離型層を形成するための離型樹脂組成物として、樹脂を、アクリル系樹脂100重量部に対しフッ素系添加剤1重量部を添加した組成とした離型樹脂組成物を用いた以外は、試料No.1の転写フィルムと全く同様にして作製した。また、同様に、試料No.8の転写フィルムを用いた透明導電積層体を作製した。
【0054】
試料No.9の転写フィルムは、離型層を形成するための離型樹脂組成物として、樹脂を、アクリル系樹脂100重量部に対しフッ素系添加剤2重量部を添加した組成とした離型樹脂組成物を用いた以外は、試料No.1の転写フィルムと全く同様にして作製した。また、同様に、試料No.9の転写フィルムを用いた透明導電積層体を作製した。
【0055】
試料No.10は、離型層を形成するための離型樹脂組成物として、樹脂を、アクリル系樹脂100重量部に対しフッ素系添加剤3重量部を添加した組成とした離型樹脂組成物を用いた。そして、試料No.10では、形成した離型層に対する導電性高分子組成物の濡れ性が非常に悪く、透明導電層を良好な塗膜として形成できず、試料No.10の転写フィルムは、作製することができなかった。
【0056】
以上により得られた試料No.1〜9の9種類の転写フィルム、およびこれらを用いた透明導電積層体について、評価した。評価としては、接着剤層形成前の転写フィルムの透明導電層のシート抵抗値R、転写後の透明導電積層体のシート抵抗値R、および耐環境試験後の透明導電積層体のシート抵抗値Rを測定し、転写性と耐環境性を評価した。また、転写後の透明導電積層体の全光線透過率を評価した。評価結果を、転写フィルムの離型樹脂組成物の内容とともに、(表1)に示す。
【0057】
なお、それぞれの評価は、次のようにして行った。シート抵抗値は、(株)三菱化学アナリテック製表面抵抗測定器MCP−T610を用いて、JIS K7194に準じて、四端子法により測定した。電圧端子間距離は5mmとした。
【0058】
耐環境試験は、試料の透明導電積層体を60℃、95%RHの環境下に250時間放置して耐湿熱試験を行い、試験後の透明導電積層体のシート抵抗値Rを測定して、耐環境性を評価した。
【0059】
また、全光線透過率は、日本電色工業(株)製NDH−4000を用い、JIS K7361−1に準じて、入射光強度に対する透過光強度の割合を全光線透過率として測定した。透明導電層側を入射光側として測定した。
【0060】
【表1】
【0061】
(表1)の評価結果に示したように、試料No.1〜9の転写フィルムを用いて作製した透明導電積層体は、いずれも、シート抵抗値Rが3.0Ω/□であり転写前後の変化がなく、また、全光線透過率が86%であり、用いた転写フィルムによる違いは見られなかった。しかしながら、耐環境試験後の透明導電積層体のシート抵抗値Rには、用いた転写フィルムによる違いがあり、耐環境性には差違があった。
【0062】
この原因は、透明導電層の転写性の差違によるものと考えられる。すなわち、転写後の透明導電積層体のシート抵抗値Rは、導電性メッシュの抵抗値によって決定されるため違いが見られない。しかし、耐環境性では、透明導電層の転写性の良好な転写フィルムの場合は、導電性メッシュ上に導電性高分子の透明導電層が形成され保護された構造となるので、導電性メッシュの耐環境特性が向上し、シート抵抗値Rは変化しないが、透明導電層の転写性の悪い転写フィルムの場合は、導電性メッシュ上に導電性高分子の透明導電層が形成されず導電性メッシュが露出するため、耐環境性が低下し、湿度等により導電性が劣化しシート抵抗値Rが増加したものと考えられる。
【0063】
そして、(表1)のように、試料No.3〜5および試料No.7〜9の転写フィルムを用いて作製した透明導電積層体は、いずれも、耐環境試験後の透明導電積層体のシート抵抗値Rが3.0Ω/□であり、耐環境試験前後のシート抵抗値に変化がなく、耐環境性に優れ、低抵抗値の透明導電層を有する積層体が得られた。そして、試料No.3〜5および試料No.7〜9の転写フィルムは、いずれも剥離性および転写性に優れていることが確認できた。
【0064】
上記試料No.3〜5の転写フィルムは、離型層がメラミン樹脂の含有比が樹脂全量に対して60〜90重量%であるアクリルメラミン系樹脂である。また、上記試料No.7〜9の転写フィルムは、離型層がアクリル系樹脂に対して0.1〜2重量%のフッ素系添加剤を添加したアクリルフッ素系樹脂である。
【0065】
以上のように、透明導電層が導電性高分子組成物とバインダー樹脂とを含み、そのバインダー樹脂がポリエステル系樹脂およびポリグリシジルエーテル系樹脂のいずれか一方または両方を含有する樹脂である透明導電層の場合には、転写フィルムの離型層として、メラミン樹脂の含有比が樹脂全量に対して60〜90重量%であるアクリルメラミン系樹脂、または、アクリル系樹脂に対して0.1〜2重量%のフッ素系添加剤を添加したアクリルフッ素系樹脂とすることにより、いずれも、優れた剥離性と転写性が得られる。
【0066】
一方、上記の試料以外の、試料No.1、試料No.2、および試料No.6の転写フィルムは、いずれも、本発明の範囲外の比較例であり、試料No.1、試料No.2、および試料No.6の転写フィルムを用いて作製した透明導電積層体は、耐環境試験後の透明導電積層体のシート抵抗値Rが3.3Ω/□以上であり、耐環境試験前のシート抵抗値の1.1倍以上に増加しており耐環境性が悪く、導電性高分子の透明導電層の転写性が劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明に係る転写フィルム、およびこの転写フィルムを用いた透明導電積層体の製造方法は、低抵抗値、柔軟性、転写性の各特性を満足する透明導電層を有する転写フィルムであり、比較的簡易に、樹脂成形体の表面に低抵抗値の透明導電層を形成することができ、例えば、曲面のタッチセンサー等の用途に適した透明導電層を形成する方法として、特に有用である。