(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記融除又は蒸発により前記ターゲットからガスのクヌーセン層が生成され、前記クヌーセン層の範囲内に前記基板を配置することにより、前記ミクロン規模寸法のパターンを成膜することを特徴とする請求項1に記載の装置。
【背景技術】
【0002】
ZnOは、室温で3.37eVの直接遷移型ワイドバンドギャップを備えた半導体材料である。このワイドバンドギャップと、大きな励起子結合エネルギー(60meV)により、ZnOは、発光ダイオード(LED)、レーザダイオード(LD)、紫外線光検出器のような短波長オプトエレクトロニクスデバイスに使用する大きな可能性を有している。これまでこの分野では、製造コストが非常に高額なGaN、SiCのような別の材料が優勢であった。これに対し、ZnOの製造コストは非常に安価である。こうした理由から、ZnOは、固体照明、透明な電子機器、フラットパネルディスプレイ、太陽電池のような広範囲の用途に考慮されてきた。しかし、ZnOは、ノンドープではn型であることと、信頼性の高い強固なp型ZnOの製造方法が存在しないことが、ZnO系のデバイスの商業化を妨げている。
【0003】
これまで、p型ZnOの製造に最も広く使用される方法は窒素(N)添加であった。しかし、この方法を用いるには窒素の溶解性と膜の構造品質との間の妥協が必要である。これは高い構造品質を得るためには高温の成膜温度が必要である一方で、成膜温度によって窒素溶解性が低下してしまうからである。特許文献1は、酸素用の置換位置に高いN密度(及び、高いホール密度)を備えるZnOに、p型伝導性を達成するGaとNの同時添加アプローチを提供する。しかし、これ以外にいくつかの方法を試みた結果(非特許文献1及び2参照。)、この同時添加方法の使用は一貫性に欠け、再現不可能であることが分かった。更に最近になって、特許文献2にて「温度変調成膜」と呼ばれる製造方法が開示された。この方法は、周期的に成膜温度を高速に変化させることで、N溶解性と膜構造品質の間の相互排他性を処理するものであり、実際には、これは非常に複雑な製造方法である。
【0004】
特許文献3は、N元素をアルカリ金属元素と同時添加することで、p型ZnO膜を製造する方法を開示している。アルカリ金属原子同士を同時添加すると、ZnO膜のドナー欠陥が補償され、その結果、p型伝導性が促進されると考えられている。
【0005】
上述したNドーピングアプローチでは、NO及びNO
2(特許文献4)のようなガス源、又はN
2、N
2O、NO、NO
2ガスを放出するプラズマ源を採用している。しかし、酸化窒素(NO
x)ガスを使用するため、環境への悪影響は避けられない。これに加え、Nドーピングにおける技術上の欠点もある。これらの欠点は、例えば、非特許文献3及び4において検討されている。例えば、窒素に関連したドナー欠陥は、成膜中にプラズマ源内に多発する電子衝撃と気相反応の競合によって、ドーピングプロセスの最中に発生する可能性がある。
【0006】
窒素の他に、リン(P)やヒ素(As)のようなV族元素も他のドーパントとして使用されてきた(非特許文献5−7及び特許文献5参照。)。しかし、報告された結果は広く認知されなかった。
【0007】
本発明は、パルスレーザ堆積を使用して、ZnO膜及び他の材料の膜を成膜する。パルスレーザ堆積法(PLD)は、複雑な複合薄膜を成膜するための強力なツールである。従来のナノ秒PLDでは、典型的な数ナノ秒のパルス幅を持つパルスレーザ光のビームを個体ターゲットに集光させる。パルスレーザの高いピークパワー密度により、照射された材料は急速にその融点以上にまで加熱され、蒸発した材料がターゲットの表面から放出されて真空内に入り、プラズマ(「プルーム」とも呼ばれる)を形成する。複合ターゲットの場合、プルームは、中性ラジカル、及びターゲットの組成と類似した化学量論的組成比を有する、陽イオン及び陰イオンの両方の励起された高エネルギー・イオンを含んでいる。これは、化学気相堆積(CVD)や分子ビームエピタキシ(MBE)のような従来の薄膜成膜技術と比較した、PLDの最も独特な利点の1つである。この成膜方法の特徴は、最近のいくつかの論文記事において概説されており、又、クリゼイ(Chrisey)とハブラー(Hubler)による著書でも要約されている(例えば、非特許文献8−10を参照。)。
【0008】
市販されている超高速パルスレーザ(典型的な数ピコ秒から数十フェムト秒までのパルス幅)と共に使用するようにしたところ、超高速PLDは多くの注目を集めた。第1に、非常に短いパルス幅と、これによる高いピークパワー密度とによって、透明な材料内部で自由キャリアの多光子励起が著しく増加し、アブレーションの臨界フルエンスが従来のナノ秒レーザアブレーションと比べて1〜2桁減少した。その結果、ナノ秒レーザアブレーションにおいて一般的に好まれている紫外線波長が、超高速PLDでは不要となった。事実、ワイドバンドギャップ材料を融除(ablate)する場合には、集光させた超高速パルス赤外線レーザが使用されてきた。第2に、レーザパルス幅がキャリア光子相互作用の時間スケール(典型的には数ピコ秒)よりも短い場合、ターゲット内部における熱拡散は無視できる程度のものである。この理由から、超高速PLDは、長い間PLDの使用拡大の妨げとなってきた液滴発生の問題への優れた解決法として考慮されてきた。熱拡散を制限した結果のこれ以外の利点は、ターゲット材料の除去をレーザ集光スポット内の範囲に限定できることである。この機構により、超高速レーザを使用したサブミクロン解像度の精密レーザ加工が可能となった。
【0009】
本発明では更に、PLDの利点、特に超高速PLDに関連した利点を利用することで、パターン構造の直接堆積の分野におけるPLDの用途を考慮する。パルスレーザを使用する直接描画技術には数種ある。(ここで使用している「描画」とは、基板上に材料を追加する、即ち堆積させること、又は基板から材料を除去する、即ちエッチングすることのいずれかを意味する。)堆積の方法でパターン材料を書き込むために、レーザ化学気相堆積(LCVD)は金属のCVD前駆物質のレーザ励起分解を使用し、更に、これを金属のライン及びドットを堆積するために使用できる。これ以外の技術にはレーザ誘起転写法(LIFT)がある(非特許文献11参照。)
LIFTでは、まず金属薄膜を透明なターゲット基板の片面に被覆する。ターゲット基板の別の面(即ち被覆されていない面)からパルスレーザビームを入射させ、表面(即ち被覆された面)上に集光させる。レーザによって金属膜が融除され、この金属蒸気が、ターゲット基板に非常に近接配置されている(10μm以下)被堆積基板の表面へ送られる。様々な形態のLIFTが提案されており、これらは、本出願で引用又は参照しているいくつかの米国特許に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第WO 0022202号パンフレット
【特許文献2】国際公開第WO 05076341号パンフレット
【特許文献3】米国特許出願公開第2005/0170971号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2005/0170971号明細書
【特許文献5】米国特許第6610141号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】K.中原(K. Nakahara)等著、ジャーナル・オブ・クリスタルグロース(Journal of Crystal Growth)、2002年、第237〜239巻、p.503
【非特許文献2】M.角谷 (M. Sumiya)等著、アプライド・サーフェイス・サイエンス(Applied Surface Science)、2004年、第223巻、p.206、
【非特許文献3】E.C.リー(Lee)等著、フィジカル・レビュー(Phys. Rev.)B、第64巻,p.085−120、2001年
【非特許文献4】H.松井(Matsui)等著、ジャーナル・オブ・アプライドフィジックス(J. Appl. Phys)、第95巻,p.5882、2004年
【非特許文献5】K.K.キム(Kim)等著、アプライドフィジックス・レターズ(Appl.Phys.Lett.)第83巻,p.63、2003年
【非特許文献6】Y.R.リュー(Ryu)等著、アプライドフィジックス・レターズ(Appl.Phys.Lett.)第83巻,p.87、2003年
【非特許文献7】D.C.ルック(Look)等著、アプライドフィジックス・レターズ(Appl.Phys.Lett.)、第85巻,p.5269、2004年
【非特許文献8】P.R.ウィルモット(Willmott)、J.R.ハブラー(Hubler)著、「パルスレーザ蒸発及び堆積(Pulsed Laser Vaporization and Deposition)」、レビュー・オブ・モダンフィジックス(Review of Modern Physics)、第72巻(2000年)、p.315〜327、
【非特許文献9】J.シェン・チェン・ガイ(Shen、Zhen Gai)、J.クリシュナー(Kirschner)著、「パルスレーザ堆積による金属薄膜及び多層膜の磁化及び成長(Growth and Magnetism of Metallic Thin Films and Multilayers by Pulsed Laser Deposition)」、サーフェイス・サイエンス・レポート(Surface Science Reports)、第52巻(2004年)、p.163〜218
【非特許文献10】D.B.クリゼイ(Chrisey)、G.K.ハブラー(Hubler)著の「薄膜のパルスレーザ堆積(Pulsed Laser Deposition of Thin Films)」、ニューヨーク州ジョン・ウィリー・アンド・サンズ・インク(John Wiley & Sons,Inc.)発行、1994年
【非特許文献11】J.ボハンディ(Bohandy)、B.F.キム(Kim)、F.J.アドリアン(Adrian)著、「エキシマレーザを用いた支持された金属膜からの金属堆積(Metal Deposition from a Supported Metal Film Using an Excimer Laser)」、ジャーナル・オブ・アプライドフィジックス(J. Appl. Phys)、第60巻、(1986年)、p.1538〜1539
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述した2つの技術の使用にはいくつかの制限がある。LCVDには、複雑なCVDシステムと有害な有機金属ガスが関与している。LIFTでは、薄金属膜のために堆積できる材料の量が制限される。又、金属薄膜はターゲット基板によって支持されるため、膜と直接接しているターゲット基板表面の融除が関与することになり、堆積した材料が汚染されてしまう。最後に、どちらの技術も金属の堆積にしか適さない。
【0013】
別タイプの材料を転写するには、LIFTの応用形としての、マトリックス支援パルスレーザ蒸着(MAPLE)及び直接描画がある。この方法では、転写する材料を、揮発性で、融除及び真空排気が容易なマトリックス材料と混合する。ジャーナル・オブ・アプライドフィジックス(J. Appl. Phys)、第74巻(2003年)、p.2546〜2557、P.K.ウー(Wu)等著の「生体材料のレーザ輸送:マトリックス支援パルスレーザ蒸着(MAPLE)及びMAPLE 直接描画(Laser Transfer of Biomaterials: Matrix-Assisted Pulsed Laser Evaporation (MAPLE)and MAPLE Direct Write)」を参照できる。次に、LIFT方法と同様に、この混合物で支持ターゲット基板を被覆する。MAPLE方法は、生体分子を破壊せずに生体材料を転写する場合に適している。誘電体の場合、堆積物が元の粉体形状のまま残ることが多く、非エピタキシャル性質とマトリックス材料による汚れによって、接着性と純度が確実に得られなくなる可能性がある。
【0014】
これ以外のレーザ支援直接堆積技術には、レーザインクジェット印刷及びマイクロペン(Micropen)(商標)技術がある。両方ともウェット技術であるため(即ち液体の結合剤が関与する)、電子及び光子用途には適していない。したがって、成膜(即ちエピタキシ)の方法で、パターン化した高純度誘電体材料を直接堆積させるための適切な方法はまだ存在しない。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の1つの目的は、高キャリア密度と高伝導度のp型ZnO膜を、簡単且つ高再現性で製造可能な製造方法を提供することである。この方法では、この目的を達成するために2つのドーパント元素を使用する。
【0016】
理論的な予測によれば、I族元素とV族元素の両方とも、ZnOにおけるp型ドーパントの有効な候補である。その一方で、ZnOは本質的にはn型の材料である。即ち、これをp型にするには、解決しなければならないネイティブドナー欠陥が数多くある。実際、ZnOにLiと単独添加すると、Li関連のドナー欠陥を自己補償して半絶縁性ZnOが得られ、V族元素と単独添加したZnOは、これらの元素の低溶解性と、ドーパントが誘発したドナー欠陥とによって不安定であることが多い。本発明では、材料をLiとPの両方とドープすることでp型ZnOを製造する。この同時添加方法を成功させる2つの有効な理由として次を挙げる:1つ目は、PとLiを同時添加して、Li関連欠陥と、ドナーが元々有するこれ以外の欠陥とを正常化すること;2つ目は、LiをZnで置換することで、P原子がより多くの酸素位置を占有すること。後者はアクセプタの形成にとって望ましい。したがって、LiとPはアクセプタとして機能する上で互いに恩恵をもたらす。
【0017】
本発明は、パルスレーザ堆積法(PLD)を使用してp型ZnO材料を成膜させる。この方法では、LiとPの両方を含有する化合物とZnOとの混合物からなる固体ターゲット上にパルスレーザビームを集光させる。集光されたレーザパルスの高いパワー密度により、ターゲット表面上の材料が融除されてプラズマが形成され、これが基板表面上に堆積する。ターゲットと基板は両方とも高真空室内に設置されており、フィードスルー機構によってその動作を制御されている。
【0018】
PLDの中で最も幅広く使用されているパルスレーザソースはエキシマレーザである。エキシマレーザは数ナノ秒(ns)のパルス幅と、UV領域内の波長とを備えている。その典型的なフルエンス(エネルギー範囲密度)は、典型的な10mm
2の集光スポットについて数J/cm
2である。ナノ秒レーザPLDの1つの欠点は、約数ミクロンの寸法の大型液滴が発生することである。これによって工業製造業界でのナノ秒PLDの幅広い使用が妨げられてきた。
【0019】
本発明では、アブレーションのエネルギー源として、フェムト秒レーザ又は類似の超短パルスレーザを使用する。ナノ秒レーザパルスと比べて、フェムト秒〜ピコ秒のレーザパルスはその超短のパルス幅のためにピークパワーが遥かに高く、又、アブレーション機構もナノ秒レーザアブレーションのものとは本質的に異なる。1つの基本的な違いは、フェムト秒パルス幅中、ターゲット材料内部には無視できる程度の熱伝導しか生じないため、アブレーションは基本的に非溶融状況において発生する。(アプライド・サーフェイス・サイエンス(Applied Surface Science)、第109/110巻, p.1、1997年、D.リンデ(Linde)等著;アプライド・サーフェイス・サイエンス(Applied Surface Science)、197-8,699、2002年、E.G.ガマリー(Gamaly)等著;ジャーナル・オブ・アプライドフィジックス(J. Appl. Phys)、第92−5巻,p.2867、2002年、Z.ツァング(Zhang)等著)。その結果、フェムト秒PLDを用いれば液滴の発生しない薄膜成膜が得られる。
【0020】
本発明では、異なるドーパント元素を膜に組み込むために、ZnO粉体に異なる不純物化合物と混合して形成した固体ターゲットを使用する。このような混合物からなる固体ターゲットを使用することで、成膜における不純物添加方法が大幅に簡素化する。例えば、単純に、所望のドーパント元素が含有された化合物を選択することができる。更に、不純物化合物の重量比率を変えればドーパント密度を制御することもできる。特に、本発明の、ターゲット作製に関する1つの新規的態様は、ZnO粉体を、本質的にLiドーパントとPドーパントを含有するリン酸リチウム(Li
3PO
4)粉体と混合することである。ガス源(例えばCVDにおける前駆物質)と蒸着源とを使用する別のドーピング方法と比較すると、この方法は実行が簡単且つコスト効率的であり、環境への悪影響もほとんどない。
【0021】
本発明の別の目的は、透明な基板上に、透明な薄膜をパルスレーザ堆積し、又多層周期構造を直接堆積する方法を提供することである。このための装置構造は、パルスレーザ源と、パルスレーザの波長に対して透明な基板と、基板に照射して加熱するための連続波(CW)赤外線レーザと、マルチターゲットシステムとを装備している。基板の裏面からパルスレーザを入射し、基板を貫通してターゲット上に集光させる。ターゲットから融除された材料が、ターゲットと対向した基板の表面上に付着する。基板をターゲットに対して並進移動させることで、基板からターゲットまでの距離を変更できる。基板をターゲットから遠ざければ、大面積薄膜を成膜できる。基板をターゲットに極接近させれば、基板/ターゲット間の短い距離と、その基部におけるアブレーションプルームの狭い角度分布とによって、基板上にレーザの集光スポットと同程度の寸法の微細パターンを成膜することができる。基板を横方向に並進移動させることで、パターン構造(例えば、周期的なライン、格子、ドット)を成膜できる。基板/ターゲット間の長い距離と短い距離のそれぞれにて、異なる材料を用いて、2つの成膜プロセスを交互に実施することで、多層の周期的誘電体構造を成膜できる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、第一に、経済的で信頼性の高いp型半導体ZnO膜の製造方法を提供する。この製造手順には、融除ターゲットの作成、ターゲット及び薄膜堆積の真空レーザアブレーション(融除)、成長後の熱処理が含まれる。
図1に、フェムト秒パルスレーザ堆積(fs−PLD)システムの構成を概略的に示している。
【0024】
レーザアブレーションのターゲットは、ZnO粉体とリン酸リチウム(Li
3PO
4)粉体を最大2重量%混合した混合物である。リン酸リチウムを使用することは、2種類のドーパントを同時に導入する効率的な方法である。この混合粉体をまず油圧プレスによって2〜6トン/cm
2の圧力で圧縮する。次に、この固体ターゲットディスクを最高1000℃の温度で10時間かけて焼結する。この焼結の間、ターゲットをZnO粉体内に埋めて分解を防止する。こうして出来上がったターゲットの密度は90%である。高密度(少なくとも80%)のターゲットは、膜品質の低下、即ち、特にfs−PLDの場合の結晶性及び表面モホロジーの低下を招く可能性のあるアブレーションプルーム内の微粒子を低減する上で好ましい。又、成長室内への導入前にターゲット表面に研磨を施す。ターゲットマニピュレータは、ターゲット表面に、横方向への動作及び回転動作を与える。ターゲットホルダ・カルーセルは、異なるターゲットを収容する4個のステーションを装備しているため、異なる化学気相堆積によって多層膜を成長させることができる。
【0025】
ZnO膜を製造するためのPLDプロセスにフェムト秒パルスレーザを使用する。このレーザビームのパルス幅は10fs〜1ps、パルスエネルギーは2μJ〜100mJである。最初に、ビームを顕微鏡で10倍に拡大し、その後、集光レンズでターゲット表面上に集光する。これを小さく集光することで、集光スポットにおけるフルエンス(エネルギー密度)を、400μm
2のスポット寸法で最大250J/cm
2まで変化できる。超短パルスの非常に高いピークパワー(>5×10
6W)のために、フェムト秒レーザを使用するZnOの融除の閾値は、ナノ秒パルスレーザの場合と比べて比較的低い。ZnOターゲットを融除し、アブレーションプラズマを生成するためには、フルエンスは1J/cm
2よりも高ければ十分である。しかし、プラズマプルーム中の粒子数を減少させるためには、最大5J/cm
2の高いフルエンスが好ましい。
【0026】
ナノ秒レーザ又はピコ秒レーザのような別のパルスレーザをPLD(パルスレーザ堆積)プロセスに使用し、又、電子ビーム又はイオン/プラズマのような高エネルギー源を、固体ターゲットを蒸着又はスパッタリングする目的で使用できる。そのため、上で詳述した理由から、好ましい高エネルギー源はフェムト秒から低ピコ秒のパルスレーザであるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0027】
基板を最高900℃にまで加熱できる基板ヒータに基板を搭載する。基板マニピュレータは、基板の表面に横方向及び回転的な動作を与える。基板マニピュレータを使用して基板とターゲットの間の距離を調整することもできる。
【0028】
真空系はターボ分子ポンプで真空排気されて、1.5×10
-8Torrのベース圧力で動作する。成長中に、吸気口と排気口(
図1には示していない)から別のガスを室に充填することもできる。本発明の成長実験中には、室を0.1〜20ミリTorrの酸素で充填する。
【0029】
レーザアブレーションは、レーザビームがターゲット表面上に集光された際に生じる。PLD成長中に、レーザ集光スポットが固定される一方で、ディスク型のターゲットがその表面垂直軸の周囲で回転されて、その表面に沿って、横方向に行ったり来たりの並進運動を行う。これは、ターゲット表面にわたるレーザビームの走査に相当する。回転の角速度は1rev/秒である。横方向への並進運動速度は0.3mm/秒である。フルエンスは20J/cm
-2である。パルス繰り返し周波数は1kHzに保つ。これらのパラメータは全て可変である。本発明はこれらの値に規制されるものではないが、これらの値はここで説明している成長について許容できる通常の値であることが分かっている。
【0030】
膜堆積の前に、基板を最高600℃に加熱してガスを放出させておく。次に、基板を酸素プラズマで約5分間処理して、炭化水素による汚れを除去する。通常、膜堆積の前に、20分間かけてターゲット表面のプレアブレーション(事前融除)を行う。プレアブレーションの目的は、製造過程で汚れたターゲット表面を洗浄することである。プレアブレーションの最中、ターゲットと基板の間にシャッタが挿入されて基板表面を保護する。
【0031】
成長は、まずアンドープZnOを、約20分間、300〜400℃の低温で成膜させることから始まる。この低温層の厚さは約30nmである。サファイア上のヘテロエピタキシの場合、この初期成長段階によって、ZnOとサファイアの間の大きな格子不整合から生じたひずみを吸収するバッファ層が得られる。バッファ層の成長の後に、ドープされていないZnOターゲットを移動させ、LiとPとが同時添加されたZnOターゲットをアブレーション位置に設置して、ドープ層の成長が開始される。基板温度を450〜700℃の高温範囲へ上昇させる。成長温度が高いほど原子表面の移動度が増加し、膜の結晶性が増す。膜の総厚さは300nm以上(最大1ミクロン)である。成長が完了したら、サンプルを数Torrの酸素のバックグラウンド内でゆっくりと冷却する。
【0032】
成長後の処理には主に、管状炉内の大気雰囲気下での熱処理が含まれる。熱処理温度は500〜1000℃の範囲内、好ましくは600〜800℃の範囲内である。熱処理の所要合計時間は、一般に2〜60分間である。成長室が酸素で充填される場合には、熱処理を、成長後に成長室(真空室)内(in-situ)で実行することもできる。しかし、熱処理温度が高く、加熱及び冷却速度が速いことから、管状炉内での成長室外(ex-situ)熱処理を行うことが好ましい。
【0033】
膜の結晶構造と電気及び光学特性を、X線回折(XRD)測定、ホール測定、透過率測定によって検査する。二次イオン質量分析(SIMS)によって、ドーパントの深さ方向分布を検査する。
【0034】
図2(a)は、サファイア(0001)基板上にバッファ層を400℃で堆積させ、不純物添加層を450℃で堆積させた、LiとPを同時添加されたZnO膜の典型的なθ-2θXRDパターンを示している。ウルツ鉱構造ZnOの基底面と、サファイア基板の基底面2つのピークが存在する。機器の検出及び解像能力の限度内では、ZnOの他の面から、又はリンやリチウムに関連した不純物相からは回折は検出されなかった。(0002)ZnOロッキングカーブの半値全幅(FWHM)は0.8°である。
図2(b)に示すように、極点図測定によって、ZnOと基板の間のエピタキシャル関係は、[2−1−10]
ZnO//[10−10]
sapphireであると評価された。又これは、30°回転させていないものと比べてひずみの少ないエピタキシャル関係でもある。
【0035】
図3に、上述のサンプルの表面モホロジーを示す。この表面モホロジーは、膜が微粒子で構成されていることを示唆している。平均的な粒子サイズは約70nmと測定されている。
図4は、サンプルの光透過スペクトルを示す。370nmの明瞭なカットオフ端は、バンドギャップが3.35eV付近にあることを示し、可視領域から近赤外線領域までの高透過率は優れた光学特性を示す。
【0036】
図5は、サファイア上のZnO膜成長における、Li、P、Al不純物のSIMS(二次イオン質量分析)の深さ方向分布を示す。このサンプルに使用するターゲットは、1%のLi
3PO
4公称密度を有する。SiやGaAsのような従来の半導体における典型的なドーパント密度よりも遥かに多い著しい量のLi(10
20cm
-3)とP(10
21cm
-3)が膜内に存在することが観察された。この存在の理由の1つは、0.1%未満の非常に低い活性化効率を付与する、ZnO内の高いアクセプタの活性化エネルギーである。別の理由は、
図5のSIMSプロファイルで明らかなように、基板から膜内へのAlの内部拡散である。AlはZnOの有効なドナーである。そのため、Alドナーを補償するために多量のアクセプタが必要になる。Al信号を密度に変換すると、膜内で等価なAl密度は平均10
18cm
-3であることが分かった。同様に、GaもZnOの有効ドナーであるので、GaN基板も類似の内部拡散問題を生じる可能性がある。そのため、MgO、SiC、Siのような他の基板を使用してZnOを絶縁することによってLiとPが高密度であることが不要となり、これに関連してターゲット中のリン酸リチウムの重量比率を0.01%にまで下げることが可能になる。
【表1】
【0037】
表1は、異なる条件下で成長された、LiとPを同時添加された数個のサンプルのホール測定結果を列挙している。このサンプルは全て、成長後に管状炉内の大気雰囲気下で熱処理を実施したものである。ターゲットは、ZnOと1重量%のLi
3PO
4の混合物である。LとPを同時添加されたサンプルを600℃で熱処理し、このように成長されたサンプル(表には示していない)は両方とも脆いn型材料である。700℃で熱処理をすると、サンプルはp型に変換する。熱処理温度が高いほど(>900℃)高抵抗になるが、p型材料であることは変わらない。
【表2】
【0038】
表2は、他の条件は、類似する条件下で成長させた、アンドープZnOとPドープしたZnOのホール測定の結果を比較する。Pドープしたバージョンのターゲットは、ZnOと1重量%のP
2O
5の混合物からなる。P−ZnOは、成長後の処理をいくつか実施しても依然強力なn型材料であることが分かる。(アズグローン(成長したままの)P−ZnOも強力なn型である。)
したがって、本発明の同時添加技術によって、この技術を用いなければ作製できないp型ZnOが得られることが分かる。
【0039】
本発明は、特に透明基板上に透明な薄膜を成長させる方法も提供する。
図6に装置構成を示す。ターゲットから離れた場所に基板を設置する。パルスレーザを、透明な基板の裏から入射してターゲットに集光するように誘導する。必要であれば、多くの誘電体によって強力に吸収できる、CO
2レーザ(波長10.6μm)のようなCW赤外線レーザによって基板を加熱してもよい。基板は、x―y―z搬送システムによって、横方向及び縦方向に並行移動する。
【0040】
この配列では、基板及び堆積した材料とは、パルスレーザ波長に対して透明である必要があるので、不透明な基板及び堆積した材料はこの装置構成から除外される。例えば800nmのTi―サファイア、1μmのNd:YAGのような、一般的に使用される近赤外線パルスレーザ波長については多くの誘電体が透明であるため、ターゲット材料として使用することができる。これにはアルミナ(Al
2O
3)、シリカ(SiO
2)、酸化金属(MgO、ZnO、TiO
2、ZrO
2、Nb
2O
5)が含まる。酸化金属には、例えばIn−Sn−O、F−Sn−O、Nb−Ti−O、Ga−Zn−O、Al−Zn−Oのような透明伝導性酸化物(TCOs)、p型の酸化デラフォス石CuM(III)O
2、(M(III)=Al,Ga,In)、ワイドバンドギャップIII−V族化合物半導体及びII−VI族化合物半導体、及びその合金(GaN、AlN、ZnS、ZnSe、ZnTe)が含まれる。しかし、本発明はこれらに限定されるものではない。基板は、サファイア、石英、ガラス、透明な重合体基板のような透明な絶縁体であってよいが、しかしこれらに限定されるものではない。
【0041】
基板はx−y面で横方向へ並進運動できるため、この装置構成により、大面積の薄膜堆積によりPLDを大型化することを可能にする。異なる材料からなるターゲットを単に交互に配置すれば、多層の薄膜を成長させることもできる。
【0042】
図7は、基板をターゲットに非常に接近させて配置する状況を示している。基板をターゲットに接近させる目的は、小型形状の堆積を得ることである。この目的のために、いくつかの事項について考慮する必要がある。
【0043】
第1の重要な態様は、アブレーションプルームの形状である。一般に、プルームの角度分布はf(θ)=cos
n(θ)として記され、ここで、θはターゲットの法線ベクトルとによって形成された角度であり、nはアブレーションパラメータに依存する数である。そのため、プルーム密度が最大値の半分になる角度はθ
1/2=cos
-1(2
-n)で示される。ナノ秒のアブレーションでは、パルス継続期間、パルスエネルギー、波長、ターゲット材料のタイプ(即ち、透明か不透明)によって約3〜20以上までの広範囲のnの値が報告されている。最近、同一のターゲット材料と類似のフルエンスで、超高速レーザアブレーションのプルームがナノ秒レーザアブレーションのプルームよりも遥かに狭くなることが分かった。例えば、金属製のターゲットでは、典型的なナノ秒レーザアブレーションプルームは(n〜4に関連して)約33°のθ
1/2を有する一方、ピコ秒及びサブピコ秒アブレーションでは、θ
1/2値は(n〜10に関連して)20°しかなかった。アプライド・サーフェイス・サイエンス(Applied Surface Science)、第210巻、(2003年)、p.307〜317、R.テジル(Teghil)等著「準粒子のピコ秒及びフェムト秒レーザアブレーションと堆積(Picosecond and Femtosecond Pulsed Laser Ablation and Deposition of Quasiparticles)」を参照。
【0044】
酸化物の場合には(例えばZnO)、フェムト秒とナノ秒レーザのアブレーションプルーム形状の比較から、非常に狭い角度分布(CCD画像から判断した20°未満のθ
1/2)、即ち、フェムト秒レーザアブレーションプルームの強力な前方ピーキングも分かる。ジャーナル・オブ・アプライドフィジックス(J. Appl. Phys)、第91巻、(2002年)、p.690〜696、J. ペリエ(Perrier)等著「フェムト秒レーザアブレーションとナノ秒レーザアブレーションで成長したZnO膜の比較(Comparison Between ZnO Films Grown by Femtosecond and Nanosecond Laser Ablation)」を参照。
【0045】
上述の斟酌に加えて、レーザアブレーションプルームの進化の初期段階における注意深い検査は、基板/ターゲット間の短い距離にて付着物の形状寸法(最小寸法)を縮小する可能性を更に示唆する。レーザアブレーションでは、ターゲット面によって課された境界条件のために、蒸発したガスがターゲット面に倒して直角な圧力を発生させ、これにより、ガスの層(いわゆるクヌーセン(Knudsen)層)が法線ベクトルに沿って一次元的に拡大する。三次元の断熱膨張は、このガス層が衝突を介して熱平衡に達した後に起こる。
図8に、これらの段階を概略的に示している(アプライド・サーフェイス・サイエンス(Applied Surface Science)、第69巻、(1993年)、p.133〜139、J.C.S.クールス(Kools),E.バンデリエ(Van de Riet),J.デーレマン(Dieleman)著、「形状寸法」より採用)。フィジカル・レビュー(Phys. Rev.) A、第43巻、(1991年)、p.6722〜6734、D.シボルド(Sibold)、H.M.アーバゼク(Urbassek)著、「真空中へのパルス脱離流の動的研究(Kinetic Study of Pulsed Desorption Flows into Vacuum)」で報告されたモンテカルロ・シミュレーションによれば、高速のアブレーション速度(>1モノレイヤ/パルス)で、クヌーセン層の厚さは約20λであり、この場合、λは平均自由行程である。典型的なナノ秒レーザアブレーション条件下において、この厚さは約数ミクロンである。フルエンスを低下させ、これによりアブレーションレートを0.1モノレイヤ/パルス未満に低下させることで、クヌーセン層を100μmにまで厚くすることができる(衝突が減少するため)。更に、超高速レーザアブレーションは、フルエンスが類似したナノ秒レーザアブレーションよりも高速の原子とイオンを生成でき、又、融除された原子とイオンの速度が加速するため、超高速レーザアブレーションにおいて、この厚さを更に厚くすることができる。その一方で、典型的なナノ秒レーザアブレーション条件下で実施された実験では、300n秒という比較的長い時間スケールの後に三次元膨張が発生した。ジャーナル・オブ・アプライドフィジックス(J. Appl. Phys)、第92巻(2002年)、頁2267〜2874、Z.ツァング(Zhang)、P.A.バンロンペイ(VanRompay)、J.A.ニーズ(Nees)、P.P.プロンコ(Pronko)著、「フェムト秒パルスレーザプラズマとナノ秒パルスレーザプラズマの多診断的比較(Multi-diagnostic Comparison of Femtosecond and Nanosecond Pulsed Laser Plasmas)」;アプライドフィジックス・レターズ(Appl.Phys.Lett.)、第58巻(1991年)、頁1597〜1599、R.ギルゲンバッハ(Gilgenbach)、P.L.G.ベンツェエク(Ventzek)著、「色素レーザの共鳴吸収写真から測定されたエキシマレーザにより融除されたアルミニウムの中性原子のプルームの動力学(Dynamics of Excimer Laser-Ablated Aluminum Neutral Atom Plume Measured by Dye Laser Resonance Absorption Photography)」を参照。クヌーセン層に500m/秒の典型的なドリフト速度を想定した場合、この時間スケールは150μmの厚さを示唆する。
【0046】
上述で推測した一次元膨張層の厚さ、即ち約100μm(好ましくは低フルエンスで)が実質的に達成可能な基板ターゲット間距離であるため、
図7に示すように、基板をターゲットに極接近させ、超高速レーザアブレーションプルームの狭い角度分布を利用することで、レーザ集光スポットに近い寸法の微細パターンの堆積を達成することができる。ビーム拡張と開口数の高い集光レンズとを使用することで、レーザ集光スポットの典型的な寸法を(直径数ミクロンからサブミクロンへ)非常に小さくできる点に留意すること。又、蒸発ゾーンは、超高速レーザアブレーション内のレーザ集光スポットよりも小さい直径の内部に納まっている(制限された熱拡散による)点にも留意すること。この堆積プロセスは、基板上に材料を直接描画する機能を実現できる。これに加え、高繰り返し周波数(典型的にはMHz)超高速レーザを使用して、高い堆積速度を達成することも可能である。
【0047】
上記にて紹介した、ミクロン規模の最小寸法の精密な堆積機能を用いれば、単に基板をターゲット付近に配置し、横方向に並進移動させるだけで、ドット及びライン配列のような二次元的パターン構造が得られる。したがって、この工程は、材料の直接描画手段として機能する。
【0048】
ターゲット/基板間の長い距離とターゲット/基板間の短い距離における2つの成長プロセスを組み合わせれば、様々なデザインの成長パターンを提供できる。例えば、
図9に示すように、ターゲット/基板間の長い距離とターゲット/基板間の短い距離における2つの成長プロセスを別のターゲット材料によってそれぞれ交互に行うことで横方向(面内)周期構造が得られ、その後これが別の材料の中間層で被覆される。この方法は、例えば、赤外線及びマイクロ波帯域における、誘電体鏡のようなフォトニックデバイス、例えば、ブラッグ反射鏡や、二次元、三次元PBG材料を製造するのに適切である。
【0049】
いくつかの例又は実施形態を説明してきたが、本発明はこれに制限されるものではない。又本発明は、各々の新規特徴と、特に請求された特徴の全ての組み合わせを含む特徴の各々の組み合わせとがたとえ請求項又は明細書中で明確に述べられていなくても、これらの新規特徴及び新規特徴の組み合わせにおいて実現されるものである。これに加え、付属の特許請求の範囲で述べられている全ての組み合わせの全体は本願明細書中に組み込まれる。