(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、切刃を構成する超硬質チップをシャンクの一端部に取付け、切刃をシャンクの径方向内方の内方部と、その外側の外方部とで構成し、外方部の切刃に、丸め加工、チャンファ加工等を施し、その切削性を鈍化させた回転切削工具が開示されている。
【0005】
特許文献2では、ドリル先端の中心部分に設けられる食付き刃部の先端角が135°〜150°の範囲内で、周辺刃部の先端角よりも大きくされているため、肩部の強度を損なうことなく中心部分の強度が高くなり、穴明け加工時の負荷が大きい大径穴(例えば穴径が12mm以上)を加工する大径の超硬ドリルにおいても、先端中心部分の切れ刃の欠損が抑制されて、実用上満足できる耐久性が得られるようになるドリルが開示されている。
【0006】
特許文献3では、軸線回りに回転されるドリル本体の先端部に配設された超高圧焼結体チップ上に、ドリル本体の先端外周から内周側に向けて延びる切刃を周方向に間隔をあけて複数形成し、これらの切刃に、周方向に隣接する切刃同士で軸線回りの回転軌跡をずらすように凹溝状のニックを形成するとともに、切刃の外周側で内周側よりも幅狭となるホーニングを施すドリルが開示されている。
【0007】
しかしながら、従来の回転切削工具では、切り屑を微細化することが困難であり、加工精度および加工能率が低下しやすいという問題があった。
【0008】
そこで、この発明は上記の問題を解決するためになされたものであり、切りくずを微細化することが可能な回転切削工具を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明は、外周面に複数の溝が形成された回転切削工具であって、超硬合金製の工具本体と、工具本体の先端に設けられた多結晶焼結ダイヤモンド製のチップとを備え、チップは、溝の先端側に位置する先端切れ刃を有し、先端切れ刃は回転切削工具の内周側から外周側へ延在しており、先端切れ刃には、すくい面に対して負の角度をなすネガランド領域が設けられ、ネガランド領域の内周側端部と工具本体との境界部分は曲線形状である。
【発明の効果】
【0010】
この発明に従えば、切り屑を微細化することが可能な回転切削工具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】
図1中のIIで囲んだ部分を拡大して示す図である。
【
図3】
図1中の矢印IIIで示す方向から見た斜視図である。
【
図4】
図2中のIV−IV線に沿った断面図である。
【
図5】実施例においてワークに形成される孔を示す断面図である。
【
図6】ドリルのネガランド領域の角度と幅を変えた場合の切削抵抗を表わすグラフである。
【
図7】ドリルのネガランド領域の角度を一定にし、幅を変えた場合の切削抵抗を表わすグラフである。
【
図8】ドリルのネガランド領域の角度を一定にし、幅を変えた場合の切削抵抗を表わすグラフである。
【
図9】ドリルのネガランド領域の幅を一定にし、角度を変えた場合の切削抵抗を表わすグラフである。
【
図10】下孔有り、送り0.3mm/rev、x=0mm、θ=0°の条件で切削加工を行った場合に排出された切り屑の写真である。
【
図11】下孔有り、送り0.3mm/rev、x=0.1mm、θ=10°の条件で切削加工を行った場合に排出された切り屑の写真である。
【
図12】下孔有り、送り0.3mm/rev、x=0.1mm、θ=15°の条件で切削加工を行った場合に排出された切り屑の写真である。
【
図13】下孔有り、送り0.3mm/rev、x=0.2mm、θ=5°の条件で切削加工を行った場合に排出された切り屑の写真である。
【
図14】下孔有り、送り0.3mm/rev、x=0.2mm、θ=10°の条件で切削加工を行った場合に排出された切り屑の写真である。
【
図15】下孔有り、送り0.3mm/rev、x=0.2mm、θ=15°の条件で切削加工を行った場合に排出された切り屑の写真である。
【
図16】下孔有り、送り0.3mm/rev、x=0.2mm、θ=20°の条件で切削加工を行った場合に排出された切り屑の写真である。
【
図17】下孔有り、送り0.3mm/rev、x=0.3mm、θ=10°の条件で切削加工を行った場合に排出された切り屑の写真である。
【
図18】下孔有り、送り0.3mm/rev、x=0.3mm、θ=15°の条件で切削加工を行った場合に排出された切り屑の写真である。
【
図19】下孔有り、送り0.2mm/rev、x=0mm、θ=0°の条件で切削加工を行った場合に排出された切り屑の写真である。
【
図20】下孔有り、送り0.2mm/rev、x=0.1mm、θ=10°の条件で切削加工を行った場合に排出された切り屑の写真である。
【
図21】下孔有り、送り0.2mm/rev、x=0.1mm、θ=15°の条件で切削加工を行った場合に排出された切り屑の写真である。
【
図22】下孔有り、送り0.2mm/rev、x=0.2mm、θ=5°の条件で切削加工を行った場合に排出された切り屑の写真である。
【
図23】下孔有り、送り0.2mm/rev、x=0.2mm、θ=10°の条件で切削加工を行った場合に排出された切り屑の写真である。
【
図24】下孔有り、送り0.2mm/rev、x=0.2mm、θ=15°の条件で切削加工を行った場合に排出された切り屑の写真である。
【
図25】下孔有り、送り0.2mm/rev、x=0.2mm、θ=20°の条件で切削加工を行った場合に排出された切り屑の写真である。
【
図26】下孔有り、送り0.2mm/rev、x=0.3mm、θ=10°の条件で切削加工を行った場合に排出された切り屑の写真である。
【
図27】下孔有り、送り0.2mm/rev、x=0.3mm、θ=15°の条件で切削加工を行った場合に排出された切り屑の写真である。
【
図28】ドリルのネガランド領域の角度と幅を変えた場合の切削抵抗を表わすグラフである。
【
図29】下孔なし、送り0.3mm/rev、x=0mm、θ=0°の条件で切削加工を行った場合に排出された切り屑の写真である。
【
図30】下孔なし、送り0.3mm/rev、x=0.1mm、θ=10°の条件で切削加工を行った場合に排出された切り屑の写真である。
【
図31】下孔なし、送り0.3mm/rev、x=0.1mm、θ=15°の条件で切削加工を行った場合に排出された切り屑の写真である。
【
図32】下孔なし、送り0.3mm/rev、x=0.2mm、θ=10°の条件で切削加工を行った場合に排出された切り屑の写真である。
【
図33】下孔なし、送り0.3mm/rev、x=0.2mm、θ=15°の条件で切削加工を行った場合に排出された切り屑の写真である。
【
図34】下孔なし、送り0.3mm/rev、x=0.3mm、θ=10°の条件で切削加工を行った場合に排出された切り屑の写真である。
【
図35】下孔なし、送り0.3mm/rev、x=0.3mm、θ=15°の条件で切削加工を行った場合に排出された切り屑の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[本願発明の実施形態の説明]
最初に本願発明の実施態様を列記して説明する。
【0013】
回転切削工具は、外周面に複数の溝が形成された回転切削工具であって、超硬合金製の工具本体と、工具本体の先端に設けられた多結晶焼結ダイヤモンド製のチップとを備え、チップは、溝の先端側に位置する先端切れ刃を有し、先端切れ刃は回転切削工具の内周側から外周側へ延在しており、先端切れ刃には、すくい面に対して負の角度をなすネガランド領域が設けられ、ネガランド領域の内周側端部と工具本体との境界部分は曲線形状である。
【0014】
このように構成された回転切削工具では、ネガランド領域を形成することにより切り屑を微細化することができる。さらに、ネガランド領域の内周側端部と工具本体との境界部分が曲線形状であるため、チップを工具本体に接合した後にネガランド領域を砥石で研削して形成しやすくなる。特開2007−50477号公報に開示されたような、内周側端部が角型のネガランド領域(ホーニング)を形成する場合には超硬の切れ刃部分にネガランド領域を形成する可能性がある。その場合には切削抵抗が大きくなるという問題がある。
【0015】
チップにネガランド領域を設けた上で工具本体にチップを接合すれば上記の問題は生じないが、チップと超硬切れ刃の逃げ面を面一(同一平面)にすることが困難である。面一にするためにはチップを接合した後に逃げ面を研削することになるが、逃げ面を研削すればネガランド領域の幅が変わってしまうためネガランド領域の効果を発揮することが困難となる。
【0016】
さらに、上記の境界部分を曲線形状とすることで、この部分の応力集中を緩和することができる。また、加工に伴って境界部分も摩擦熱で加熱されるが、ネガランド領域の内周側端部が角型である場合と比較して、熱応力の集中を抑制することができる。
【0017】
好ましくは、負の角度は−5°から−15°である。
好ましくは、ネガランド領域の幅は0.05mmから0.3mmである。
【0018】
[本願発明の実施形態の詳細]
図1は、実施の形態に従ったドリルの正面図である。
図1を参照して、回転切削工具としてのドリル1は、工具本体10と、工具本体10の外周面に取り付けられた多結晶焼結ダイヤモンド製のチップ20とを備える。工具本体10は長手方向に延在しており、工具本体の外周面には長手方向に延在する溝11が設けられている。溝11の先端にはチップ20が配置されている。
【0019】
図2は、
図1中のIIで囲んだ部分を拡大して示す図である。
図3は、
図1中の矢印IIIで示す方向から見た斜視図である。
図2および
図3を参照して、チップ20の先端にネガランド領域30が設けられている。外周面に複数の溝11が形成されており、超硬合金製の工具本体10と、工具本体10の先端に設けられた多結晶焼結ダイヤモンド製のチップ20とを備え、チップ20は、溝11の先端側に位置する先端切れ刃21を有し、先端切れ刃21はドリル1の内周側から外周側へ延在しており、先端切れ刃21には、すくい面25に対して負の角度をなすネガランド領域30が設けられ、ネガランド領域30の内周側端部と工具本体との境界部分は曲線形状31である。
【0020】
先端切れ刃21は工具先端15から外周へ向かって延びており、中央部では超硬合金によって構成されており、外周部ではチップ20を形成する多結晶焼結ダイヤモンドによって構成されている。
【0021】
チップ20の内周前端32から曲線形状31が形成されており、外周側で直線形状33に繋がる。曲線形状31と直線形状33で囲まれた領域がネガランド領域30であり、ネガランド領域30が切り屑を微細化する。
【0022】
工具本体10には潤滑剤供給孔12が設けられており、潤滑剤供給孔12から潤滑剤が供給される。これにより先端切れ刃21および外周切れ刃22と、工作物との間に潤滑剤が供給されるためにスムーズに切削加工が行われる。
【0023】
図4は、
図2中のIV−IV線に沿った断面図である。
図4を参照して、すくい面25と逃げ面26との間にネガランド領域30が設けられており、ネガランド領域30はすくい面25に対して負の角度(−θ)を形成している。負の角度とは、矢印3で示す工作物の移動方向に向かって刃先側が傾斜するような角度をいう。ネガランド領域30の幅xおよび角度θは、さまざまに設定することが可能である。
【0024】
[実施例1]
実施例1では、アルミニウム製(ADC12)ワークに
図1から4で示すドリルを用いて孔を開けることでドリルを評価した。送り0.2mm/rev、下孔有り、研削液(潤滑剤)はユシローケンFX88(商品名)を10体積%含む水溶液とした。ドリルの回転数は10000min
-1とした。
図5は、実施例においてワークに形成される孔を示す断面図である。
図5を参照して、孔101の直径は5mmであり、下孔102の直径は3.5mmである。ネガランド領域30の幅xおよび角度θ、ならびにドリルの送りをさまざまに変化させて切削テストを行った。なお、「θ(°)=10」と表記した場合には、ネガランド領域30は、すくい面25に対して、負の角度(−10°)をなしていることを意味する。
【0025】
[実施例2]
実施例2では、アルミニウム製(ADC12)ワークに
図1から4で示すドリルを用いて孔を開けることでドリルを評価した。送り0.3mm/rev、下孔有り、研削液(潤滑剤)はユシローケンFX88(商品名)を10体積%含む水溶液とした。ドリルの回転数は10000min
-1とした。実施例1および2の結果を
図6から27で示す。
【0026】
図6は、ドリルのネガランド領域の角度と幅を変えた場合の切削抵抗を表わすグラフである。
図6では、送り0.2mm/rev、x=0mm、θ=0°のサンプルの切削抵抗を100とした場合の他のサンプルでの切削抵抗を示している。ネガランド領域30の幅xが大きくなるほど、かつ、角度θが大きくなるほど切削抵抗が大きくなっていることが分かる。
【0027】
図7および
図8は、ドリルのネガランド領域の角度を一定にし、幅を変えた場合の切削抵抗を表わすグラフである。
図9は、ドリルのネガランド領域の幅を一定にし、角度を変えた場合の切削抵抗を表わすグラフである。これらを参照して、ネガランド領域30の幅xが大きくなるほど、かつ、角度θが大きくなるほど切削抵抗が大きくなっていることが分かる。
【0028】
図10から
図18は、下孔有り、送り0.3mm/revで、ネガランド領域30の幅xと角度θをさまざまに変化させた条件で切削加工を行った場合に排出された切り屑の写真である。
【0029】
図19から
図27は、下孔有り、送り0.2mm/revで、ネガランド領域30の幅xと角度θをさまざまに変化させた条件で切削加工を行った場合に排出された切り屑の写真である。
【0030】
これらの図から、θは5°から15°の範囲が好ましいことが分かる。xは0.05mmから0.3mmまでの範囲が好ましいことが分かる。特に、
図6の結果から、ネガランドを設けていないものと比較すると、ネガランドを設けることで切削抵抗が上がり、切り屑を微細化させる効果が得られるので、xは0.05mm以上あればその効果が得られると考えられる。より好ましくは、xは0.1mm以上である。
【0031】
実施例1および2の各ドリルを用いた切削で発生した切り屑のサイズを表1で示す。
【0033】
表1において、ネガランド角度θおよびネガランド幅xがさまざまに変更されると、切り屑の大きさが1.0から6.5の範囲においてばらついていることが分かる。なお、大きさは指数化されており、ネガランド角度θが15°、ネガランド幅xが0.1mmのドリルを用いた切削から発生した切り屑の大きさを1.0とした。切り屑はいろいろな形状を有しており、直線状、J字状、S字状、C字状、L字状などの切り屑がある。各々の切り屑において一番長さの大きい部分を測定してその寸法を切り屑のサイズとした。各切削条件および各ドリルの仕様での切削において、無作為に切り屑を20個取り出し、20個の切り屑の各々の上記の最大寸法を平均して表1の切り屑の指数化された大きさを算出した。
【0034】
表1から、幅xが0.3mm以下のネガランドが形成されていれば、切り屑が微細化されていることが分かる。
【0035】
[実施例3]
実施例3では、アルミニウム製(ADC12)ワークに
図1から4で示すドリルを用いて孔を開けることでドリルを評価した。送り0.3mm/rev、下孔無し、研削液(潤滑剤)はユシローケンFX88(商品名)を10体積%含む水溶液とした。ドリルの回転数は10000min
-1とした。その結果を
図28から35で示す。
【0036】
図28は、ドリルのネガランド領域の角度と幅を変えた場合の切削抵抗を表わすグラフである。
図28では、x=0mm、θ=0°のサンプルの切削抵抗を100とした場合の他のサンプルでの切削抵抗を示している。ネガランド領域30の幅xが大きくなるほど、かつ、角度θが大きくなるほど切削抵抗が大きくなっていることが分かる。
【0037】
図29から
図35は、下孔無し、送り0.3mm/revで、ネガランド領域30の幅xと角度θをさまざまに変化させた条件で切削加工を行った場合に排出された切り屑の写真である。
【0038】
これらの図から、θは15°以下の範囲が好ましいことが分かる。xは0.3mm以下の範囲が好ましいことが分かる。
【0039】
実施例3の各ドリルを用いた切削で発生した切り屑のサイズを表2で示す。
【0041】
表2において、ネガランド角度θおよびネガランド幅xがさまざまに変更されると、切り屑の大きさが1.5から2.5の範囲においてばらついていることが分かる。なお、大きさは指数化されており、表1のネガランド角度θが15°、ネガランド幅xが0.1mmのドリルを用いた切削から発生した切り屑の大きさを1.0とした。切り屑はいろいろな形状を有しており、直線状、J字状、S字状、C字状、L字状などの切り屑がある。各々の切り屑において一番長さの大きい部分を測定してその寸法を切り屑のサイズとした。各切削条件および各ドリルの仕様での切削において、無作為に切り屑を20個取り出し、20個の切り屑の各々の上記の最大寸法を平均して表2の切り屑の指数化された大きさを算出した。
【0042】
表2から、幅xが0.3mm以下のネガランドが形成されていれば、切り屑が微細化されていることが分かる。
【0043】
実施例1から3で示されるように、切削抵抗が大きくなると、切り屑が小さくなる傾向がある。しかし、切削抵抗が大きくなるほど加工時の熱が発生するため、切り屑が切れ刃に溶着し、加工面粗さを悪化させる上、最悪の場合には工具が折損するトラブルが発生する。これにより孔の加工径が不安定になる等、品質面が悪化する問題がある。
【0044】
一方、切削抵抗を小さくする(切れ味が良くなる)と、工具寿命や加工面の品質は向上するが、切り屑が長くなる傾向がある。上記の実施例1から3では切削抵抗を許容できる範囲に抑えた上で、切り屑の長さを小さくできる工具を提供することができる。
【0045】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【解決手段】外周面に複数の溝11が形成されており、超硬合金製の工具本体10と、工具本体10の先端に設けられた多結晶焼結ダイヤモンド製のチップ20とを備え、チップ20は、溝11の先端側に位置する先端切れ刃21を有し、先端切れ刃21はドリル1の内周側から外周側へ延在しており、先端切れ刃21には、すくい面25に対して負の角度をなすネガランド領域30が設けられ、ネガランド領域30の内周側端部と工具本体との境界部分は曲線形状31である。