特許第5705334号(P5705334)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5705334
(24)【登録日】2015年3月6日
(45)【発行日】2015年4月22日
(54)【発明の名称】安定したエチルシリケートポリマー
(51)【国際特許分類】
   C08G 77/02 20060101AFI20150402BHJP
【FI】
   C08G77/02
【請求項の数】27
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2013-547492(P2013-547492)
(86)(22)【出願日】2011年12月6日
(65)【公表番号】特表2014-501320(P2014-501320A)
(43)【公表日】2014年1月20日
(86)【国際出願番号】US2011063360
(87)【国際公開番号】WO2012094084
(87)【国際公開日】20120712
【審査請求日】2013年9月13日
(31)【優先権主張番号】12/983,555
(32)【優先日】2011年1月3日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513167500
【氏名又は名称】シルボンド・コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】SILBOND CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マギー,ウォルター・エル
(72)【発明者】
【氏名】エマーソン,アダム・ダブリュ
(72)【発明者】
【氏名】ジョスリン,ウォレス・ジィ
(72)【発明者】
【氏名】オドニール,リチャード・エス
【審査官】 岡▲崎▼ 忠
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2009/0306326(US,A1)
【文献】 米国特許第06258969(US,B1)
【文献】 特開2002−265605(JP,A)
【文献】 米国特許第04290811(US,A)
【文献】 特開平11−171999(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 77/00−77/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチルシリケートポリマーであって、前記エチルシリケートポリマーの総重量に基づき、50重量%〜60重量%のシリカ(SiO2)と、1重量%以下のモノマーとを含み、動粘度が25℃で10cps〜1000cpsであり、
75%〜90%の量で加水分解されている、エチルシリケートポリマー。
【請求項2】
55℃で20日間加熱された後でも液状のままである、請求項1に記載のエチルシリケートポリマー。
【請求項3】
55℃の温度まで20日間加熱した後でも、25℃で10cps〜1,000cpsの動粘度を維持する、請求項1に記載のエチルシリケートポリマー。
【請求項4】
55℃の温度まで20日間加熱した後の動粘度の増加が25℃で300cps未満である、請求項1に記載のエチルシリケートポリマー。
【請求項5】
75%〜85%の量で加水分解されている、請求項1に記載のエチルシリケートポリマー。
【請求項6】
1重量%以下の少なくとも1つの直鎖状オリゴマーを含有し、前記直鎖状オリゴマーは、ピークの分子量(Mp)が210g/mol以下である、請求項1に記載のエチルシリケートポリマー。
【請求項7】
1重量%以下のシラノールを含有する、請求項1に記載のエチルシリケートポリマー。
【請求項8】
引火点が23℃と66℃との間である、請求項1に記載のエチルシリケートポリマー。
【請求項9】
ピークの分子量(Mp)が少なくとも35,000g/molである、請求項1に記載のエチルシリケートポリマー。
【請求項10】
平均モル質量(Mz)が少なくとも107,000g/molである、請求項1に記載のエチルシリケートポリマー。
【請求項11】
比重が1.18g/cm31.26g/cm3である、請求項1に記載のエチルシリケートポリマー。
【請求項12】
0.1重量以下の量のHClを含む、請求項1に記載のエチルシリケートポリマー。
【請求項13】
沸点が70℃〜100℃であるアルコール副生成物を、前記エチルシリケートポリマーおよび前記アルコール副生成物の総重量に基づき、5重量%以下の量で生成させるステップを含む方法によって製造される、請求項1に記載のエチルシリケートポリマー。
【請求項14】
TEOSモノマーおよびエタノールを含む混合物に窒化塩化リン三量体を含む触媒を加えるステップを含む方法によって製造される、請求項1に記載のエチルシリケートポリマー。
【請求項15】
前記窒化塩化リン三量体を含む触媒は、触媒の総重量に基づき、少なくとも90重量%の量の窒化塩化リン三量体を含む、請求項14に記載のエチルシリケートポリマー。
【請求項16】
前記方法は、前記窒化塩化リン三量体を含む触媒を加える前に、加水分解触媒を前記混合物に加えるステップを含む、請求項14に記載のエチルシリケートポリマー。
【請求項17】
前記加水分解触媒は少なくとも1つの鉱酸を含む、請求項16に記載のエチルシリケートポリマー。
【請求項18】
前記加水分解触媒は、塩酸、硫酸、硝酸、ホウ酸、リン酸、フッ化水素酸、および臭化水素酸からなる群から選択される少なくとも1つの鉱酸を含む、請求項17に記載のエチルシリケートポリマー。
【請求項19】
TEOSモノマーおよびエタノールを含む混合物を加水分解し、その後、前記混合物を窒化塩化リン三量体を含む触媒を用いて縮合するステップを含む方法によって製造される、請求項1に記載のエチルシリケートポリマー。
【請求項20】
揮発性物質を、前記エチルシリケートポリマーおよび前記揮発性物質の総重量に基づき、15重量%以下の量で生成させるステップを含む方法によって製造される、請求項1に記載のエチルシリケートポリマー。
【請求項21】
モノマーが本質的に存在しない、請求項1に記載のエチルシリケートポリマー。
【請求項22】
動粘度が25℃で85cps〜300cpsである、請求項1に記載のエチルシリケートポリマー。
【請求項23】
5重量%以下の総量で二量体、三量体、および四量体を含む、請求項1に記載のエチルシリケートポリマー。
【請求項24】
安定したエチルシリケートポリマーであって、
前記エチルシリケートポリマーの総重量に基づき、50重量%〜60重量%のシリカ(SiO2)と、1重量%未満のモノマーと、1重量%未満の少なくとも1つの直鎖状オリゴマーと、1重量%未満のシラノールと、0.1重量%未満のHClとを含み、
前記エチルシリケートポリマーは、75%〜85%の量で加水分解されており、
25℃での動粘度が10cps〜1000cpsであり、
55℃の温度まで20日間加熱した後の動粘度の増加が25℃で300cps未満であり、
引火点が23℃と66℃との間であり、
ピークの分子量(Mp)が33,000g/mol〜35,000g/molであり、
平均モル質量が400,000g/mol〜600,000g/molであり、
比重が1.18g/cm31.26g/cm3であり、かつ
TEOSモノマーおよびエタノールの混合物に加水分解触媒を加え、その後窒化塩化リン三量体を含む触媒を前記混合物に加えるステップと、沸点が70℃〜100℃であるアルコール副生成物を、前記エチルシリケートポリマーおよび前記低沸点アルコール副生成物の総重量に基づき、5重量%未満の量で生成させるステップとを含む方法によって製造される、エチルシリケートポリマー。
【請求項25】
請求項1に記載の安定したエチルシリケートポリマーを製造するための方法であって、
TEOSモノマーを用意するステップと、
加水分解触媒を前記TEOSモノマーに加えるステップと、
エタノールを前記TEOSモノマーおよび加水分解触媒に加えて混合物を形成するステップと、
前記混合物を加熱するステップと、
酸性化された水を前記混合物に加えるステップと、
縮合触媒を前記混合物に加えるステップと、
前記混合物を還流させるステップとを含む、方法。
【請求項26】
前記縮合触媒を加えるステップは、窒化塩化リン三量体を含む触媒を加えるステップを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記加水分解触媒を加えるステップは、鉱酸触媒を加えるステップを含む、請求項25に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
このPCT特許出願は、2011年1月3日に出願された米国特許出願番号第12/983,555号の利益を主張し、当該米国特許出願のすべての開示はこの出願の開示の一部であると考えられ、ここで参照により援用される。
【0002】
発明の分野
この発明は、50重量%以上の有効シリカ(SiO2)量と1重量%以下のモノマーとを含有する安定なエチルシリケートポリマーおよびこのようなポリマーを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
テトラエチルオルトシリケートは、式:Si(OC254で表される主要な化合物である。この化合物はしばしばTEOSと略記され、オルトシリケートと称されるSiO4イオンに結合する4つのエチル基を有する。TEOSはまた、オルト珪酸(Si(OH)4)のエチルエステルであると考えられ得、典型的なアルコキシドである。TEOSは、多くの類似体を有する四面体分子であり、その類似体のほとんどは四塩化珪素のアルコール分解またはシリコン金属およびエタノールの直接反応によって調製される。
【0004】
典型的にTEOSは、鉱酸触媒によって加水分解および縮合される。TEOSは十分なアルコールと混合されると、その反応水が酸触媒の存在下で部分的に混和性となる。これにより、エトキシ基の1つが水分子で置換され、エタノールが副生成物として遊離する初期反応が発生する。これは、以下の式によって説明される。
【0005】
Si(OC254+H2O→(C25O)3SiOH+C25OH (1)
加水分解反応から誘導されたシラノール、すなわちトリエトキシシラノール((RO)3SiOH(式中RはC25))の縮合は、酸触媒の存在下での競争反応である。これは、以下の式によって説明される。
【0006】
(C25O)3SiOH+HOSi(OC253→(C22O)3SiOSi(OC253+H2O (2)
このように、触媒の存在下での水によるTEOSの重合は、このような非常に単純化した視点で見ると、エトキシ基の加水分解とシラノールの縮合との連続により行われる。実際には、同等の重合を提供するエトキシ基とのシラノールの縮合のような他の反応も存在する。すべてのこれらのプロセスにより、複雑性が増加し、物性が多様であり、かつそれらの意図する用途において有用であるポリマーが得られる。
【0007】
典型的にこれらのポリマーは、直鎖状ポリマー、環状ポリマー、および多環状ポリマーの組合せであると考えられる。動粘度、粘度安定性、および有効シリカ量(SiO2重量%)といった物性は、TEOSと反応する水の量に依存する。これは、珪素に結合するすべてのエトキシ基を置換する水の理論量のパーセンテージとして表現される。この水の化学量論量は、TEOSが1モルに対して水が2モルである。これは、100%加水分解と称される。この量の水と反応すると、結果得られるポリマーは、非晶質シリカの物性を有する。これは、TEOSを2モルの水と反応させ、次いで副生成物のエタノールを蒸留によって除去することにより観察され得る。組成において典型的に98%以上といった高いパーセンテージのSiO2が残留している固体物質が残留している。実際には、流動性のある液体のような使用可能な物性を得るために、理論上の水の40%のみが加えられ、次いでエタノール副生成物が除去されることが分かっている。これにより、40重量%の有効SiO2量を含有する低粘性の液体エチルシリケートポリマー、すなわちエチルポリシリケートが得られる。この最終生成物のポリマーは、40%加水分解されたエチルシリケートポリマーであると考えられる。この物質は、SILBOND(商標)40またはDynasil(登録商標)40として公知の商品となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
TEOSは、SiO2へ容易に変換できるので、多くの用途がある。たとえばTEOSは、化学的機械研磨または低分子量トリメチルシロキシポリシリケート(MQ樹脂)の合成のために用いられてもよい。低分子量トリメチルシロキシポリシリケートは、感圧性接着剤用途における剥離コーティングのための添加剤および液状シリコーンゴムのための添加剤として有用である。このような調合物におけるMQ樹脂の役割は、硬化シリコーンゴムの特性を修正することである。シリコーンゴムは、MQ樹脂によって、より高いモジュラスまで固くされる。感圧性剥離用途の場合、MQ樹脂は当該接着剤の剥離力を増加させる。両方の用途において、この低分子量MQ樹脂の存在は不利益となる。
【0009】
低分子量物質の量が低減されたポリマー分布を有することが望ましいTEOSのさらに別の用途は一般的に、亜鉛高含有コーティング、インベストメント鋳造、耐火物、砂中子、およびセラミック製品のためのポリシリケートバインダの形成に関する。これらのすべての用途について生じている限界は、エチルシリケートポリマーのさらなる加水分解の間に遊離される低沸点物と称される低沸点アルコール副生成物の量である。これは、当該調合物に存在する揮発性有機成分(VOC(volatile organic component))の量を上昇させる。より環境にやさしい組成物が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明の概要
本発明は安定したエチルシリケートポリマーを提供する。このエチルシリケートポリマーは、エチルシリケートポリマーの総重量に基づき、50重量%〜60重量%のシリカ(SiO2)と、1重量%未満のモノマーとを含む。エチルシリケートポリマーは、25℃での動粘度が10センチポアズ(cps)〜1,000cpsである。好ましくは、エチルシリケートポリマーには、本質的にモノマーが存在しないか、または実質的にモノマーが存在しない。より好ましくは、エチルシリケートポリマーにはモノマーが完全に存在せず、エチルシリケートポリマーは1年以上の間、流動性のある状態のままである。
【0011】
本発明はまた、安定したエチルシリケートポリマーを製造するための方法に関する。得られるエチルシリケートポリマーは、エチルシリケートポリマーの総重量に基づき、50重量%〜60重量%のシリカを含み、25℃での動粘度が10cps〜1000cpsであり、1重量%未満のモノマーを含む。この方法は、一塊のTEOSモノマー、たとえば28重量%のSiO2を含む濃縮されたTEOSモノマーを用意し、たとえば鉱酸のような加水分解触媒を用いてTEOSモノマーを加水分解するステップを含む。この方法はさらに、鉱酸触媒を含むTEOSモノマーにエタノールを加えるステップを含む。次いで、この混合物が約72℃に加熱され、酸性化された水がある期間の間、加えられる。この水の添加の完了後、第2の触媒ステップが行われる。第2の触媒ステップはたとえば、窒化塩化リン三量体のような、99重量%の窒化塩化リンを含む触媒といった縮合触媒を加えるステップを含む。この混合物は、約2時間、還流下で撹拌され、当該アルコールのすべてが蒸留により除去される。
【発明の効果】
【0012】
2ステップの方法における鉱酸触媒およびPNC触媒の組合せにより、約90%までの加水分解量、より低い動粘度、および非常に高レベルの粘度安定性が達成される。ゲル浸透クロマトグラフィによって示されるような本発明のエチルシリケートポリマーの分子分布は、他のエチルシリケートポリマーとは異なるということも分かった。この違いは、より小さいサイズの分子へとシフトしたより狭い分布である。
【0013】
本発明のエチルシリケートポリマーは、さまざまな用途において用いられ得る。たとえば、エチルシリケートポリマーは、安定したMQ樹脂のようなさまざまな樹脂および亜鉛コーティングを形成するのに用いられ得る。
【0014】
ここで、添付の図面に関連して本発明を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】50重量%〜60重量%の有効SiO2量を有する安定したエチルシリケートポリマーを製造するための本発明に従った方法を示すフローチャートである。
図2】本発明のエチルシリケートポリマーのいくつかの例の物性を示すグラフ図である。
図3】40%加水分解された従来技術のシリケートポリマーのゲル浸透クロマトグラフである。
図4】50%加水分解されたシリケートポリマーのゲル浸透クロマトグラフである。
図5】触媒にメタンスルホン酸を用いた70%加水分解されたポリマーのゲル浸透クロマトグラフである。
図6】触媒にメタンスルホン酸およびPNC触媒を用いた70%加水分解されたポリマーのゲル浸透クロマトグラフである。
図7】本発明の別の例のエチルシリケートポリマーに従って製造された5つのそれぞれの実験生成物の物性を示すグラフ図である。
図8】MQ樹脂のGPCを示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
詳細な説明
有効なSiO2の含有量が50重量%〜60重量%である液状の安定したエチルシリケートポリマーを製造するための方法を、図1に関連して説明する。この安定したエチルシリケートポリマーは、25℃での動粘度が50cps〜70cpsであり、約1年間の間、液状のままである。このエチルシリケートポリマーの動粘度は安定している。たとえば、エチルシリケートポリマーを55℃まで加熱し、エチルシリケートポリマーをその温度で20日間維持した後でも、エチルシリケートポリマーは25℃で1000cps未満の動粘度を有する。
【0017】
本発明の方法は、たとえばSILBOND(商標)Condensedといった、28重量%のSiO2を含む濃縮されたTEOSモノマーのような一塊のTEOSを用意するステップ20を含む。代替的には、この方法は、TEOSを含む別のモノマーを用意するステップを含み得る。TEOSは、テトラエチルオルトシリケート、または同義的にテトラエトキシシランと称され得る。TEOSモノマーは以下の構造を有する。
【0018】
【化1】
【0019】
ステップ22において、TEOSに鉱酸のような加水分解触媒が加えられる。たとえば実験室では、当該方法は、780グラムのTEOSモノマーを用意するステップと、37重量%HClを含む鉱酸を2滴、780グラムのTEOSモノマーに加えるステップとを含んだ。加水分解触媒は、他のタイプの鉱酸を含み得る。ステップ24では、当該方法は、TEOS仕込量の総重量に基づき、当該混合物に10重量%〜12重量%のエタノールを加えるか、または125グラムの倍数のエタノールを加えるステップを含む。この例では、200プルーフのエタノールが125グラム加えられた。ステップ26では、当該混合物は、たとえば約72℃まで加熱される。次いで、ステップ28では、1時間に亘って、たとえば2滴の37%HClで酸性化された水のような酸性化された水が混合物に加えられる。70%加水分解を達成するために、この例の方法は、94.5グラムの酸性化された水を加えるステップを含んだ。80%の加水分解を達成するために、この例は108グラムの水を加えるステップを含んだ。ステップ30では、縮合触媒、好ましくは窒化塩化リン三量体のようなPNC触媒が混合物に導入される。PNC触媒は、PNCを含む別のタイプの触媒であり得る。好ましくは、縮合触媒は、PNC触媒の総重量に基づき、少なくとも50重量%、より好ましくは少なくとも70重量%、さらに好ましくは少なくとも90重量%、たとえば99重量%、といった量のPNCを含む。ステップ32では、当該混合物は、約2時間といった期間、還流下で撹拌された。ステップ34では、エタノールが加熱により除去された。この場合、温度は約3時間かけて80℃から約140℃まで増加した。ステップ36では、蒸留によってエタノールが回収され、クリアな安定したシリケートエステル混合物が得られた。
【0020】
40%加水分解された組成物の検査により、この組成物はさまざまな個々の成分の分布したものであることが分かる。たとえば、揮発性成分のみを分離する、当該液体物質のガスクロマトグラフィにより、当該物質はTEOS、二量体、三量体、および四量体などの混合物であることが分かる。これらの直鎖構造は、質量分光分析によって特徴決定された。この分析方法は揮発性成分のみを分離する。分子の大きさに基づき成分を分離する、ゲル浸透クロマトグラフィのような他の方法によれば、より複雑な分布が明らかになる。40%加水分解されたTEOSポリマーは、二量体、三量体、および四量体といった低オリゴマー成分からより複雑な環状および多環状の構造までにわたる複合混合物である。これらの成分の大きさは、数千の分子単位から数万の分子単位の範囲であり得る。
【0021】
加水分解量が増加すると、得られるポリマーの物性が変化する。加水分解レベルを50%加水分解まで増加させると、動粘度が2倍になり、シリカ含有量が45%まで増加し、分子量分布がより高い分子量成分にシフトする。粘度安定性は、ますます重要になっている問題である。粘度安定性は、ポリマー構造中に残存する縮合されていないシラノールの量の関数である。シラノールの量が高すぎると、得られるポリマーの粘性が時間とともに増加し、これによりポリマーの増粘性が増加する。
【0022】
加水分解量が70%以上であると、鉱酸を触媒として用いる場合、得られた単離されたポリマーの動粘度および粘度安定性は実用的でなくなる。これは、ポリマーが適切に流動せず、数日間放置の後、当該ポリマーはまったく流動しなくなり、扱いにくいゲル化した塊となることを意味する。
【0023】
窒化塩化リンが70%以上の加水分解量で用いられる場合、顕著な動粘度安定性を示す低動粘度ポリマー(25℃で50cps)が生成する。ゲル浸透クロマトグラフィによって示されるような分子分布も異なる。具体的には当該分布は狭く、より小さい大きさの分子にシフトしている。
【0024】
さらに、加水分解%の増加は典型的に、より環境に優しい方法につながる。たとえば、40%加水分解されたエチルシリケートポリマーは、ポリマーの1当量あたり、制限されているVOC成分であるエタノールを2.4モル放出する。70%加水分解されたエチルシリケートポリマーは、ポリマー1当量あたり1.2モルのエタノールのみを放出し、これは50%の削減である。
【0025】
TEOSは典型的に90%までの量が加水分解される。したがって、本発明のエチルシリケートポリマーの最終生成物は、典型的に90%まで、好ましくは75%〜85%の量が加水分解されている。
【0026】
上述したように、エチルシリケートポリマーの最終生成物は、50重量%〜60重量%の量のSiO2を含む。代替的には、エチルシリケートポリマーは、52重量%〜58重量%の量のSiO2を含む。エチルシリケートポリマーにおけるSiO2の量は、濃硫酸によってエチルシリケートポリマーをゲル化状態まで加水分解および脱水することによって決定される。ゲル化された試料は70%硝酸で処理され、残存する有機成分を酸化する。るつぼの内容物がゆっくりと焼やされ、シリカゲルがマッフル炉において焼成される。焼成されたSiO2は次いで計量され、これによりエチルシリケートポリマーにおけるSiO2の重量%が求められる。
【0027】
窒化塩化リン(PNC)は多くの形態を採る。そのもっとも一般的なものは、環状三量体である。この物質は市販されており、低動粘度ポリマーを生成させる。従来技術においては、等価な態様で作用するさまざまな直鎖状の塩化窒化リンポリマーが記載されている。
【0028】
エチルシリケートポリマーの最終生成物の各成分の重量%は核磁気共鳴(NMR)によって決定され得る。さらに、ガス浸透クロマトグラフィが、多孔充填剤を通るエチルシリケートポリマーの流れに基づき、分子の大きさに従ってエチルシリケートポリマーの成分を分離するのに用いられ得る。
【0029】
図1に示されるような、安定したエチルシリケートポリマーを製造する当該方法の中で、TEOSモノマーは、製造された安定したエチルシリケートポリマーにモノマーが存在しないか、実質的に存在しないか、または本質的に存在しないように90%までの量が加水分解され、縮合される。したがって、エチルシリケートポリマーは微量のモノマーを含むのみか、まったくモノマーを含まない。好ましくは、最終生成物のエチルシリケートポリマーには、モノマーが全く添加されていないかまたは残されていない。たとえば、エチルシリケートポリマーは、1重量%以下の量、より好ましくは0.5重量%以下の量、さらに好ましくは0.1重量%以下の量、もっとも好ましくは0重量%の量の少なくとも1つのモノマーを含み得る。上で示唆されたように、エチルシリケートポリマーは1つ以上のモノマーを含み得るが、好ましくはエチルシリケートポリマーの最終生成物は、残余のモノマーを含まず、したがって、微量のモノマーのみが存在するか、まったくモノマーが存在しないこととなる。
【0030】
エチルシリケートポリマーの最終生成物に存在し得るモノマーはTEOSモノマーである。上で示唆されたように、エチルシリケートポリマーには好ましくはTEOSモノマーが存在しないか、実質的に存在しないか、または本質的に存在しない。しかしながら、エチルシリケートポリマーは、1重量%以下の量、好ましくは0.5重量%以下の量、さらに好ましくは0.1重量%以下の量、もっとも好ましくは0重量%の量のTEOSモノマーを含み得る。
【0031】
TEOSモノマーは、低分子量成分を有し得る。たとえばこのモノマーは、ピークの分子量(Mp)が208.3g/molであるかまたは210g/mol以下であり得る。ピークの分子量は、平均分子量と称され得る。エチルシリケートポリマーの分子量とエチルシリケートの成分の分子量とはGPCによって決定され得る。
【0032】
好ましくは、エチルシリケートポリマーは、実質的に直鎖状オリゴマーが存在しない。しかしながら、エチルシリケートポリマーは、1重量%以下の量、好ましくは0.5重量%以下の量、さらに好ましくは0.1重量%以下の量、もっとも好ましくは0重量%の量の少なくとも1つの直鎖状オリゴマーを含み得る。上で示唆されたように、エチルシリケートポリマーは1つ以上の直鎖状オリゴマーを含み得るが、好ましくはエチルシリケートポリマーは直鎖状オリゴマーを含まない。直鎖状オリゴマーの少なくとも1つは、ピークの分子量が208.33g/molであるかまたは210g/mol以下であり得る。
【0033】
さらに、存在し得る直鎖状オリゴマーの少なくとも1つは、二量体、三量体、および四量体を含む群から選択される。
【0034】
エチルシリケートポリマーは、5重量%以下の量、好ましくは4重量%以下の量、より好ましくは2重量%以下の量、もっとも好ましくは0重量%の量の少なくとも1つの二量体を含み得る。当該二量体はヘキサエトキシジシロキサンを含み得る。上で示唆されたように、エチルシリケートポリマーは1つ以上の二量体を含み得るが、好ましくはエチルシリケートポリマーは二量体を含まない。二量体の少なくとも1つは、ピークの分子量が342.5g/molであるかまたは345g/mol以下であり得る。
【0035】
エチルシリケートポリマーは、20重量%以下の量、好ましくは16重量%以下の量、より好ましくは15重量%以下の量の少なくとも1つの三量体を含み得る。当該三量体は、ピークの分子量が347.66g/molであるかまたは350g/mol以下である窒化塩化リン三量体を含み得る。三量体はまた、分子量が476.7g/molであるかまたは480g/mol以下の直鎖のTEOS三量体を含み得る。当該三量体はまた、分子量が392.6g/molであるかまたは480g/mol以下の環状のTEOS三量体を含み得る。上で示唆されたように、エチルシリケートポリマーは1つ以上の三量体を含み得るが、好ましくはエチルシリケートポリマーは三量体を含まない。
【0036】
エチルシリケートポリマーは、20重量以下の量、好ましくは16重量%以下の量、さらに好ましくは15重量%以下の量の少なくとも1つの四量体を含み得る。四量体は、ピークの分子量が610.9g/molであるかまたは615g/mol以下である直鎖状のTEOS四量体を含み得る。四量体はまた、分子量が615g/mol以下である環状の四量体を含み得る。上で示唆されたように、エチルシリケートポリマーは1つ以上の四量体を含み得るが、好ましくはエチルシリケートポリマーは四量体を含まない。
【0037】
オリゴマーの少なくとも1つは、いずれも通常環状である五量体または六量体であり得る。
【0038】
エチルシリケートポリマーには好ましくはシラノールが存在しないか、または本質的に存在しない。エチルシリケートポリマーは、エチルシリケートポリマーの総重量に基づき、1重量%以下、好ましくは0.5重量%以下、より好ましくは0.01重量以下、もっとも好ましくは0重量%以下のシラノールを含み得る。
【0039】
エチルシリケートポリマーは、25℃で10cps〜1,000cpsの動粘度を有する。代替的には25℃で60cps〜500cpsまたは85cps〜300cpsの動粘度を有する。エチルシリケートポリマーの動粘度は、ASTM D 445−06規格に従って測定され得る。動粘度は、標準体積の液体エチルシリケートポリマーが較正キャピラリを通って流れるのに必要な時間(秒単位)を測定することによって決定される。この時間は、粘度計定数およびエチルシリケートポリマーの比重と乗算され、これにより、エチルシリケートポリマーの動粘度がcpsで求められる。
【0040】
20日間エチルシリケートポリマーを加熱した後、エチルシリケートポリマーの25℃での動粘度が測定される。エチルシリケートポリマーは、20日間55℃の温度まで加熱された後、25℃で10cps〜1,000cpsの動粘度を維持する。代替的には、エチルシリケートポリマーは、20日間55℃の温度に加熱された後、25℃で60cps〜500cps、85cps〜410cps、または190cps〜350cpsの動粘度を維持し得る。
【0041】
好ましくは、エチルシリケートポリマーを55℃の温度で20日間加熱した後、エチルシリケートポリマーは25℃で300cps未満の動粘度の増加を示す。20日間加熱された後のエチルシリケートポリマーの動粘度が、加熱前のエチルシリケートポリマーの動粘度と比較される。加熱後の動粘度の増加が低いことは、エチルシリケートポリマーの動粘度が安定であることを示す。エチルシリケートポリマーは、55℃の温度で20日間加熱された後、ゲルを形成しない。動粘度の増加が低いことはまた、エチルシリケートポリマーが少なくとも6ヶ月間室温でゲルを形成しないということを示している。
【0042】
上述したように、上記のエチルシリケートポリマーは、粘度安定性が向上している。好ましくはエチルシリケートポリマーは、少なくとも4ヶ月、さらに好ましくは少なくとも5ヶ月、もっとも好ましくは少なくとも6ヶ月の間、25℃で10cpsから1,000cpsの動粘度を維持する。
【0043】
エチルシリケートポリマーのピークの分子量(Mp)、平均モル質量(Mz)、および多分散性は、屈折率検出を伴う従来のGPCによって決定され得る。ピークの分子量(Mp)は、平均分子量と称され得る。好ましくは、エチルシリケートポリマーは少なくとも34,600g/molのMpを有する。代替的には、エチルシリケートポリマーは33000g/mol〜35000g/molのMpを有する。
【0044】
エチルシリケートポリマーは好ましくは、少なくとも107,000g/molの平均モル質量(Mz)を有する。代替的には、エチルシリケートポリマーは400,000g/mol〜600,000g/molのMzを有する。Mzは、エチルシリケートポリマーの重量平均分子量をエチルシリケートポリマーの数平均分子量で除算することによって決定される。
【0045】
好ましくは、エチルシリケートポリマーは、75°F〜150°Fの引火点を有する。代替的には、エチルシリケートポリマーは80°F〜130°F、または88°F〜118°Fの引火点を有する。エチルシリケートポリマーの引火点は、ASTM D 56−05規格に従って測定される。
【0046】
好ましくは、エチルシリケートポリマーは、1.18g/cm3〜1.26g/cm3の比重を有する。代替的には、エチルシリケートポリマーは、1.19g/cm3〜1.24g/cm3の比重、または1.20g/cm3〜1.22g/cm3の比重を有する。比重は、ASTM D 891−09に従って測定される。
【0047】
エチルシリケートポリマーの色は、米国公衆衛生協会(American Public Health Association)によって制定された白金コバルト(ハーゼン)標準に従ってテストされ得る。これは、エチルシリケートポリマーの試料を、合致したネスラー管において用意された標準と目視比較することを伴う。好ましくは、エチルシリケートポリマーは15〜60の色値を有する。代替的には、エチルシリケートポリマーは18〜55、または20〜50の色値を有する。
【0048】
エチルシリケートポリマーには、エチルシリケートポリマーの加水分解の間に遊離する低沸点アルコール副生成物のような低沸点物がないか、実質的にないか、または本質的にない。低沸点アルコール副生成物の含有により、エチルシリケートポリマーに存在する揮発性有機成分(VOC)の量が上昇する。低沸点物は、沸点が70〜100℃の高速蒸発溶剤である。好ましくは、エチルシリケートポリマーは、5重量以下の量、より好ましくは0.1重量%〜3重量%以下の量、もっとも好ましくは0重量%以下の量の低沸点物を含む。低沸点物の量は、気液クロマトグラフィを用いて測定される。
【0049】
エチルシリケートポリマーを製造する方法の間、蒸留によって回収され得る生成されたVOCの量を制限するのが望ましい。エチルシリケートポリマーは、エチルシリケートポリマーおよび揮発性物質の総重量に基づき、15重量%以下、より好ましくは12重量%以下の揮発性物質を含む。エチルシリケートポリマーの揮発性物質の量は、ASTM D 2369−07規格に従って測定される。
【0050】
エチルシリケートポリマーは好ましくはHCl酸を含まない。しかしながら、エチルシリケートポリマーは、エチルシリケートポリマーの総重量に基づき、0.1重量%以下の量、好ましくは0.006重量%以下の量のHCl酸を含み得る。HClの量は、エチルシリケートポリマーの試料をニュートラルレッド―メチレンブルーの終点まで滴定し、次いで、酸性またはアルカリ性の重量パーセントを計算することにより測定され得る。
【0051】
エチルシリケートポリマーを製造する方法は、TEOSの珪素に結合したエトキシ基を水で置換するステップを含む。これは、すべてのエトキシ基を置換する水の理論量のパーセンテージとして表現される。水の化学量論量は、1モルのTEOSに対して水が2モルである。これは100%加水分解と称される。エチルシリケートポリマーは、TEOSの50%〜60%加水分解を含む方法によって製造され得る。代替的には、エチルシリケートポリマーは、TEOSの65%〜85%加水分解を含む方法によって製造される。
【0052】
上で示唆されたように、エチルシリケートポリマーを製造する方法は、反応器中にテトラTEOSモノマーのような一塊のテトラTEOSモノマーを用意するステップと、エタノールをTEOSモノマーに加えて混合物を形成するステップとを含む。この方法は、鉱酸のような加水分解触媒を混合物に加え、その後、縮合触媒、好ましくはPNC三量体のようなPNC触媒を加えるステップを含む。当該混合物は、還流しながら、PNC触媒とともに撹拌および加熱される。次いで、当該方法は、水を混合物に加えるステップと、エタノールを混合物から回収するステップと、エチルシリケートポリマーを回収するステップとを含む。
【0053】
当該方法は好ましくは、TEOSモノマーおよびエタノールを含む混合物を鉱酸の存在下で加水分解し、その後混合物をPNC触媒を用いて縮合するステップを含む。典型的に、この方法は、PNC触媒を加える前に、鉱酸のような加水分解触媒をTEOSモノマーに加えるステップを含む。加水分解触媒の例は、塩酸、硫酸、硝酸、ホウ酸、リン酸、フッ化水素酸、および臭化水素酸といった鉱酸を含む。加水分解触媒を加えた後、当該方法は、鉱酸によって酸化された水を加えて混合物を形成するステップを含む。次いで、縮合触媒を混合物に加え、エタノールおよびエチルシリケートポリマーを回収する。
【0054】
以下は、触媒の2ステップでの添加を用いて製造される低動粘度エチルシリケートポリマーの調製の例である。1つのステップは、塩化窒化リン触媒を加えることを含む。
【実施例】
【0055】
実施例1
PNC触媒を用いたエチルシリケートポリマーの製造
中央撹拌機、温度計、クライゼンテイクオフアダプタ、および添加漏斗を備えた2リットルの四つ口の丸底フラスコに、28重量%のSiO2を含む780グラムの濃縮されたTEOSモノマーと、2滴の37%HClと、125グラムの200プルーフのエタノールとを仕込む。当該混合物を72℃に加熱する。この熱い撹拌混合物に、2滴の37%HClで酸性化された94.5グラムの水を1時間に亘って加える。酸性化された水の添加の完了後、0.1グラムの99%塩化窒化リン三量体(PNC触媒)を導入した。この混合物は、2時間、還流下で撹拌され、次いですべてのエタノールを加熱により除去した。混合物の温度は約3時間かけて80℃から140℃に増加した。次いで、530グラムの揮発性物質を蒸留によって集め、443グラムのクリアなシリケートエステル混合物が残留した。当該クリアなエチルポリシリケート混合物は、55℃で20日間加熱した後でも安定しており、100cpsから200cpsの動粘度の緩やかな増加を示しただけであった。これは、室温で6〜12ヶ月を超える安定性を示している。
【0056】
図2に示されるグラフは、上記の複数の実験の結果を示す。
比較例1
エチルシリケートポリマーの製造(PNC触媒なし)
中央撹拌機、温度計、クライゼンテイクオフアダプタ、および添加漏斗を備えた2リットルの四つ口の丸底フラスコに、28重量%のSiO2を含む780グラムの濃縮されたTEOSモノマーと、0.1グラムのメタンスルホン酸と、125グラムの200プルーフのエチルアルコールとを仕込む。当該混合物を76℃に加熱する。この熱い撹拌混合物に、94.5グラムの水を約0.25時間に亘って加える。この混合物は、約2時間、還流下で撹拌され、次いですべてのエタノールを加熱により除去した。混合物の温度は約3時間かけて80℃から140℃に増加した。558グラムの揮発性物質を蒸留によって集め、413グラムのクリアなシリケートエステル混合物が残留した。このシリケートエステル混合物を放置したところ、3日後ゲル化した。
【0057】
分子分布の比較
ゲル浸透クロマトグラフィにより、大きさに従って分子成分を分離する。適切な孔径を有するクロマトグラフィの充填剤を選択することにより、シリケートオリゴマーが簡便に分離される。この技術は、40%加水分解されたエチルシリケートポリマーの製造について品質管理目的で用いられる。個々の成分は、各成分の分子の大きさに依存して、機器上により長い期間保持される。当該一連の成分において、TEOS、二量体、三量体、四量体、およびそれより高い同族体は、分子の大きさが増加すると、保持時間が減少する。40%加水分解されたエチルシリケートポリマーについての典型的な図を図3に示す。はっきりと分離されたより高い同族体の各々を有するTEOSモノマーで開始する直鎖状オリゴマーの進展が図3に示される。この分布は、複数の成分が分子の大きさが増加している成分の連続体を形成するが個々に分離されない状態で継続する。
【0058】
図4の図は、50%加水分解されたエチルシリケートポリマーの分布を示す。40%加水分解されたエチルシリケートポリマーと対照的に、直鎖状オリゴマーの量は、各々は明らかにまだ存在しているものの、低減されている。分子のサイズの大きい成分は、40%加水分解されたエチルシリケートポリマーの分布と比較して、量が増加している。
【0059】
図5に示される、触媒にメタンスルホン酸を用いて70%加水分解されたポリマーについての分布は、より短い直鎖状の成分の量が減少し、非常に高い分子量分布を示している。少ない直鎖状の成分の検出可能なレベルは明確なままである。この分布は、3日後には、不安定なゲル化となった。
【0060】
図6に示される分布は、2ステップの付加的な触媒を用いることにより発生する分子分布を示す。当該触媒の1つは塩化窒化リン触媒である。この分布では、低分子量オリゴマーは除去されている。さらに、測定されたシリカ含有量が54重量%のSiO2であっても、分子のサイズが大きい物質の量も低減されている。この物質は、55℃で20日保存された後でも、分布変化をほとんど示さなかった。これにより、エチルシリケートポリマーの多くの用途のためにより好適な分子分布が得られる。
【0061】
実施例2
PNC触媒を用いたエチルシリケートポリマーの製造
中央撹拌機、温度計、クライゼンテイクオフアダプタ、および添加漏斗を備えた5リットルの四つ口の丸底フラスコに、28重量%のSiO2を含む3120グラムの濃縮されたTEOSモノマーと、4グラムのPNCl2と、塩化ベンゾイル溶液として調製されたPNC触媒と、500グラムのSDA29変性エチルアルコールとを仕込む。当該混合物を80℃に加熱した。この熱い撹拌混合物に378グラムの水を加えた。この水が加えられる際に、塩化ベンゾイルの加水分解を介して、混合物にHClを導入する。この混合物は、2時間、還流下で撹拌され、次いですべてのエタノールを加熱により除去した。混合物の温度は約3時間かけて80℃から140℃に増加した。次いで、2300グラムの揮発性物質を蒸留によって回収し、1690グラムのクリアなシリケートエステル混合物が残留した。
【0062】
実施例3
PNC触媒を用いたエチルシリケートポリマーの製造
中央撹拌機、温度計、クライゼンテイクオフアダプタ、および添加漏斗を備えた5リットルの四つ口の丸底フラスコに、28重量%のSiO2を含む3120グラムの濃縮されたTEOSモノマーと、0.4グラムのメタンスルホン酸(150ppm)と、500グラムのSDA29変性アルコールとを仕込む。当該混合物を80℃に加熱する。この熱い撹拌混合物に378グラムの水を加える。水の添加の完了後、0.4グラムの塩化窒化リン三量体(PNC触媒)を導入した。この混合物は、2時間、還流下で撹拌され、次いですべてのエタノールを加熱により除去した。混合物の温度は約3時間かけて80℃から140℃に増加した。次いで、2253グラムの揮発性物質を蒸留によって回収し、1704グラムのクリアなシリケートエステル混合物が残留した。5つの繰り返された実験により、図7に示されるデータが得られた。
【0063】
比較例3
エチルシリケートポリマーの製造(PNC2触媒なし)
中央撹拌機、温度計、クライゼンテイクオフアダプタ、および添加漏斗を備えた四つ口の丸底フラスコに、28重量%のSiO2を含む3120グラムの濃縮されたTEOSモノマーと、0.5グラムのメタンスルホン酸と、500グラムのSDA29変性アルコールとを仕込む。当該混合物を80℃に加熱する。この熱い撹拌混合物に378グラムの水を加える。この混合物は、2時間、還流下で撹拌され、次いですべてのエタノールを加熱により除去した。混合物の温度は約3時間かけて80℃から140℃に増加した。次いで、2178グラムの揮発性物質を蒸留によって回収し、1722グラムのクリアなシリケートエステル混合物が残留した。このシリケートエステル混合物は、動粘度が1188cpsであり、混合物は放置されるとゲル化した。
【0064】
エチルシリケートポリマーから製造された亜鉛コーティング
低分子量物質の量が低減されたポリマー分布が望まれる1つの用途は、亜鉛高含有コーティングに関する。エチルシリケートポリマーは、耐腐食コーティングのための亜鉛末のための好ましいバインダである。これは、従来技術においてよく立証されている。亜鉛高含有コーティングを形成するのに用いられるエチルシリケートポリマーを製造する方法は、珪素に結合されるエトキシ基を水で置換するステップを含む。これは、すべてのエトキシ基を置換する水の理論量のパーセンテージとして表現される。水の化学量論量は、1モルのTEOSに対して水が2モルである。これは、100%加水分解と称される。亜鉛高含有コーティングは、90%までの加水分解、たとえば50%〜90%加水分解を含む方法によって製造され得る。代替的には、亜鉛高含有コーティングは、75%〜85%加水分解を含む方法によって製造される。
【0065】
実施例3に従って製造されたエチルシリケートポリマーは、当該コーティングを製造するのに用いられ得る。この用途について生じている制限の1つは、エチルシリケートポリマーの加水分解の間に遊離される低沸点アルコール副生成物の量である。これは、コーティング調合物に存在する揮発性有機成分の量を上昇させる。より高度に加水分解されたエチルシリケートポリマーの使用により、船舶用コーティング産業の要件を満たしながらも環境にやさしい組成物が提供される。40%加水分解されたエチルシリケートポリマーの場合、質量の74%は、潜在的にエタノールを遊離する。70%加水分解されたポリマーの場合、質量の53%のみがエタノールである。これは、副生成物エタノールの28%の削減を示している。
【0066】
エチルシリケートポリマーから製造されるシリコーン樹脂
TEOSまたはエチルシリケートポリマーは、シリコーン樹脂技術における成分として頻繁に用いられる。当業者は、さまざまな種類の樹脂およびそれらの組合せに精通している。いくつかの例としては、TQ樹脂、MQ樹脂、DQ樹脂、MQV樹脂、MQD樹脂、およびDTQ樹脂がある。樹脂製造において非常に複雑であるのは、TEOSを四官能珪素(Q単位)の源として用いる場合に加水分解および共重合の間に遊離するエタノールの量である。さらに、テトラキストリメチルシリケート(ネオペンタマー)のような低分子量副生成物を最小化または除去する分子分布を達成することが特に望ましい。
【0067】
MQ樹脂は、感圧性接着剤用途における剥離コーティングおよび液体シリコーンゴムのための添加剤として有用である。これらの調合物におけるMQ樹脂の役割は、最終的に硬化されるシリコーンゴムの物性の修正である。シリコーンゴムはこの成分によって、より高いモジュラスになるように固くされる。感圧性剥離用途の場合、これは、当該接着剤の剥離力を増加させるので、MQ樹脂は、MQ樹脂の量の増加に伴って剥離力を増加させる「剥離添加剤の対照」として知られている。液体シリコーンゴムにおいて、MQ樹脂の存在によって、当該ゴムのショア硬さが増加し、ゴムの変形性が減少する。両方の用途において、低分子量MQ樹脂の存在は、これらの用途に対して害を与えるものである。特に、テトラキストリメチルシロキシシリケート(ネオペンタマー)は、抽出可能な低分子成分を硬化シリコーンゴム内に導入することによって、シリコーンゴム調合物について重大な問題を引き起こす。
【0068】
好ましくは、MQ樹脂は、上述したように、本発明の安定したエチルシリケートポリマーを用いて形成される。たとえば、液体のMQ樹脂は、低分子量オリゴマーのない図6に示される分子量分布を有するエチルシリケートポリマーを用いて製造され得る。エチルシリケートポリマーの総重量に基づき、1重量%未満の低分子量オリゴマーと、50重量%〜60重量%のシリカ含有量とを有するエチルシリケートポリマーがMQ樹脂の合成のためには好ましい。MQ樹脂は、液体状または固体状であり得る。この出願において論じられるMQ樹脂の組成および特性は、特に別途記載しない限り、液体のMQ樹脂および固体のMQ樹脂の両方に該当する。
【0069】
MQ樹脂の最終生成物は、シリコーン材料であり、具体的には官能基(CH33SiO(M基)およびSiO4(Q基)を含むトリメチルシロキシポリシリケートである。MQ樹脂は以下の構造を有する。
【0070】
【化2】
【0071】
好ましくは、MQ樹脂の最終生成物は、M基対Q基の比率が0.1〜0.6である。代替的には、MQ樹脂は、M基対Q基の比率が0.4〜0.5である。
【0072】
たとえば、MQ樹脂は、M基対Q基の比率が0.2であり得、MQ樹脂の総重量に基づき、16.67重量%の量のM基と、83.33重量%の量のQ基とを含む。
【0073】
代替的には、MQ樹脂は、M基対Q基の比率が0.4であり得、MQ樹脂の総重量に基づき、25.57重量%の量のM基と、71.43重量%の量のQ基とを含む。
【0074】
代替的には、MQ樹脂は、M基対Q基の比率が0.6であり得、MQ樹脂の総重量に基づき、62.55重量%の量のM基と、37.45重量%の量のQ基とを含む。
【0075】
好ましくは、MQ樹脂の最終生成物は、50重量%〜60重量%の量のSiO2を含む。代替的には、MQ樹脂は、53重量%〜55重量%の量のSiO2を含む。液体のMQ樹脂におけるSiO2の量は、濃硫酸によりMQ樹脂をゲル化状態へと加水分解および脱水することにより決定される。当該ゲル化された試料は、70%硝酸で処理され、残留する有機成分を酸化する。るつぼの内容物がゆっくりと焼やされ、シリカゲルがマッフル炉においてSiO2になるよう焼成される。焼成されたSiO2は、次いで計量され、これにより液体のMQ樹脂におけるSiO2の重量%が求められる。
【0076】
好ましくは、MQ樹脂の最終生成物は、50重量%〜60重量%のSiO2を含むエチルシリケートポリマーと、エチルアルコール(ETOH)と、水と、メタンスルホン酸(CH3SO3H)と、トルエン(C78すなわちC65CH3)と、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)(C618OSi2)といった成分を含む。MQ樹脂の各成分の重量%は、核磁気共鳴(NMR)によって決定され得る。さらに、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)は、多孔充填剤を通る液体のMQ樹脂の流れに基づき、分子の大きさに従って、液体のMQ樹脂の成分を分離するのに用いられ得る。
【0077】
好ましくは、MQ樹脂の最終生成物は、上述したように、50重量%〜60重量%のSiO2含有量、または55重量%のSiO2を含むエチルシリケートポリマーを含む。好ましくは、MQ樹脂は、MQ樹脂の総重量に基づき、少なくとも30重量%の量のエチルシリケートポリマーを含む。代替的には、MQ樹脂は、30重量%〜50重量%または36重量%〜44重量%の量のエチルシリケートポリマーを含む。
【0078】
MQ樹脂の最終生成物は典型的には、8重量%〜15重量%または10重量%〜14重量%の量のETOHのようなアルコールを含む。
【0079】
MQ樹脂の最終生成物は典型的には、5重量%〜10重量%または6重量%〜9重量%の量の水を含む。
【0080】
MQ樹脂の最終生成物は典型的に、0.001重量%〜0.1重量%または0.01重量%〜0.07重量%の量のメタンスルホン酸(CH3SO3H)を含む。
【0081】
最終生成物のMQ樹脂は典型的には、18重量%〜35重量%または22重量%〜26重量%の量のトルエンを含む。
【0082】
MQ樹脂の最終生成物は典型的には、18重量%〜35重量%または22重量%〜26重量%の量のHMDSOを含む。
【0083】
MQ樹脂の最終生成物は典型的には、5重量%以下、1重量%以下、または0.01重量%〜5重量%の量のテトラキストリメチルシロキシシリケート(ネオペンタマー)を含む。
【0084】
液体および固体のMQ樹脂のピークの分子量(Mp)、平均モル質量(Mz)、および多分散性は、屈折率検出を伴う従来のGPCによって決定され得る。
【0085】
上述したように、シリコーンゴム用途での使用のためのMQ樹脂は好ましくは高い分子量を有する。MQ樹脂の最終生成物は液状であり得、ピークの分子量(Mp)は少なくとも33,000g/mol、33,000g/mol〜36,000g/mol、または34,000g/mol〜35,000g/molであり得る。たとえば、液体のMQ樹脂は、ピークの平均分子量(Mp)が35,000であり得る。ピークの分子量(Mp)は、平均分子量と称され得る。
【0086】
液体のMQ樹脂は典型的に、少なくとも400,000g/mol、400,000g/mol〜600,000g/mol、または500,000g/mol〜600,000g/molの平均モル質量(Mz)を有する。たとえば、液体のMQ樹脂は、平均モル質量(Mz)が535,000g/molであり得る。
【0087】
液体のMQ樹脂は典型的に、多分散性が6〜10、または7.2〜9.4であり得る。たとえば、液体のMQ樹脂は、多分散性が8.3であり得る。
【0088】
MQ樹脂はさらに固体状態であり得、ピークの分子量(Mp)が少なくとも34,000g/mol、または34,000g/mol〜36,000g/molである。たとえば、液体のMQ樹脂は、ピークの平均分子量(Mp)が34,600であり得る。
【0089】
固体のMQ樹脂は典型的に、少なくとも90,000g/mol、または90,000g/mol〜110,000g/molの平均モル質量(Mz)を有する。たとえば、固体のMQ樹脂は、平均モル質量(Mz)が107,000g/molであり得る。平均モル質量(Mz)は、MQ樹脂の重量平均分子量をMQ樹脂の数平均分子量で除算することにより決定される。
【0090】
固体のMQ樹脂は典型的に、多分散性が2〜4、または2.3〜3.2であり得る。たとえば、固体のMQ樹脂は、多分散性が2.8であり得る。
【0091】
上で示唆されたように、MQ樹脂を製造するために用いられるエチルシリケートポリマーには、TEOSモノマーのようなモノマーが存在しないか、本質的に存在しないか、または実質的に存在しない。したがって、MQ樹脂の最終生成物は、モノマーが存在しないか、本質的に存在しないか、または実質的に存在しない。好ましくは、MQ樹脂は、1重量%以下の量、より好ましくは0.5重量%以下の量、さらに好ましくは0.1重量%以下の量、もっとも好ましくは0重量%の量のモノマーを含む。
【0092】
上で示唆されたように、MQ樹脂の最終生成物は好ましくは、エチルシリケートポリマーの加水分解の間に遊離される低沸点アルコール副生成物のような低沸点物を含まない。低沸点アルコール副生成物(低沸点物)の含有により、MQ樹脂に存在する揮発性有機成分(VOC)のような揮発性物質の量が上昇する。好ましくは、MQ樹脂は、MQ樹脂および低沸点物の総重量に基づき、2.5重量%未満の量の低沸点物を含む。MQ樹脂は、0.1重量%〜2.5重量%の量の低沸点物を含み得る。低沸点物の量は、気液クロマトグラフィを用いて測定される。
【0093】
MQ樹脂を製造するために用いられるエチルシリケートポリマーを製造する方法中に、蒸留によって回収され得る、生成された揮発性物質(VOC)の量を制限することが望ましい。MQ樹脂を製造する方法は好ましくは、MQ樹脂および揮発性物質の総重量に基づき、15重量%、好ましくは12重量%以下の揮発性物質を生成するステップを含む。たとえば、当該方法は、MQ樹脂および揮発性物質の総重量に基づき、1重量〜12重量%の揮発性物質を生成するステップを含み得る。MQ樹脂の揮発性物質の量は、ASTM D 2369−07規格に従って測定される。
【0094】
MQ樹脂の最終生成物は好ましくはHCl酸を含まない。MQ樹脂は、MQ樹脂の総重量に基づき、0.1重量%以下の量のHCl酸を含み得、好ましくはMQ樹脂の総重量に基づき0.006重量%以下の量のHCl酸を含み得る。HClの量は、MQ樹脂の試料をニュートラルレッド―メチレンブルーの終点まで滴定し、次いで、酸性またはアルカリ性の重量パーセントを計算することにより測定され得る。
【0095】
液体のMQ樹脂は典型的に、25℃での動粘度が50cps〜750cps、または25℃で50cps〜55cpsである。動粘度は、標準体積の液体のMQ樹脂が較正キャピラリを通って流れるのに必要な時間(秒単位)を測定することによって決定される。この時間は、粘度計定数と、液体のMQ樹脂の比重とによって乗算され、これにより、液体のMQ樹脂の動粘度がcpsで求められる。
【0096】
上で示唆されるように、液体のMQ樹脂は粘度安定性が向上している。好ましくは、液体のMQ樹脂は、少なくとも2ヶ月間、より好ましくは少なくとも3ヶ月間、25℃で50cps〜750cpsの動粘度を維持する。
【0097】
好ましくは、液体のMQ樹脂は、少なくとも100°F、より好ましくは少なくとも110°Fの引火点を有する。液体のMQ樹脂の引火点は、ASTM D 56−05規格に従って測定される。
【0098】
MQ樹脂は典型的に、1.14g/cm3〜1.25g/cm3の比重を有する。代替的には、MQ樹脂は、1.16g/cm3〜1.24g/cm3または1.19g/cm3〜1.22g/cm3の比重を有する。この比重は、ASTM D 891−09に従って測定される。
【0099】
上で示唆されたように、MQ樹脂を製造する方法において、加水分解の間に遊離するエタノールの量と、したがって低沸点物の量とを制限するのが望ましい。当該方法の間に生成されるエタノールの量は、以下の式で決定される。
【0100】
生成されるエタノール重量%=2×エタノールのモル質量×加えられたH2O(重量%)/H2Oのモル質量 (3)
上述したように、当該方法は、加水分解の間に生成されるエタノールを遊離させるステップを含む。好ましくは、MQ樹脂を製造する方法は、70重量%以下の量、より好ましくは60重量%の量、もっとも好ましくは35重量%以下の量のエタノールを遊離させるステップを含む。
【0101】
上述したように、MQ樹脂を形成するために用いられるエチルシリケートポリマーを製造する方法は、TEOSモノマーの珪素に結合したエトキシ基を水で置換するステップを含む。これは、すべてのエトキシ基を置換する水の理論量のパーセンテージとして表現される。水の化学量論量は、1モルのTEOSに対して水が2モルである。これは、100%加水分解と称される。MQ樹脂は典型的に、TEOSモノマーの50%〜90%加水分解またはTEOSモノマーの75%〜85%加水分解を含む方法によって製造される。
【0102】
図5および図6に示されるGPCトレースは、40%加水分解されたエチルシリケートポリマー由来のMQ樹脂と、本発明の例示的な安定したエチルシリケートポリマーから調製されたMQ樹脂とを比較するものであり、PNCによって触媒されたエチルシリケートポリマーは55重量%のSiO2を含む。これらの図において分かるように、16分の保持時間を下回る小さいサイズの物質の量は無視できる。40%加水分解されたポリマーにおける小さいサイズの物質の量は実質的により多い。これは、ポリマー分布に存在する遊走性物質は、本発明の生成物を出発物質として用いることにより有利に低減されるであろうということを示す。
【0103】
MQ樹脂は、安定したエチルシリケートポリマーを上述したようにアルコールおよびメタンスルホン酸のような加水分解触媒と混合するステップを含む方法によって製造される。次いで、当該方法は当該混合物を80℃の温度に加熱し、水を混合物に加えるステップを含む。この混合物は還流下で撹拌され、次いでトルエンおよびヘキサメチルジシロキサンが加えられる。揮発性物質が除去され、これによりMQ樹脂が提供される。
【0104】
Q単位を含む樹脂の調製
以下の実施例は、これらの新規な分子分布の有用性を示す。上で論じたように、MQ樹脂は、シリコーンエラストマーおよび感圧性接着剤において有用性を有するシリケート樹脂である。これらの樹脂の質の重要な測定値は、テトラキストリメチルシリルシリケートの平均分子量および含有量である。以下に、この発明に記載されるエチルシリケートポリマーを用いてこれらの樹脂を製造する利点の例を示す。
【0105】
実施例4
エチルシリケートポリマーからのMQ樹脂の製造
中央撹拌機、温度計、クライゼンテイクオフアダプタ、および添加漏斗を備えた四つ口の丸底フラスコに、55重量%のSiO2を含む835グラムのエチルシリケートポリマーと、0.5グラムのメタンスルホン酸と、250グラムのSDA29変性アルコールとを仕込む。エチルシリケートポリマーは、上記の特性を有し、図1に示される方法に従って製造される。混合物は80℃に加熱される。この熱い撹拌混合物に155グラムの水を加える。この混合物は2時間、還流下で撹拌され、次いで500グラムのトルエンと、324グラムのヘキサメチルジシロキサンとが加えられる。800グラムの揮発性物質が取り除かれ、固形分50%のMQ樹脂の溶液が製造された。MQ樹脂の試料は、粉末状で提供され、ゲル浸透クロマトグラフィによって分析される。ゲル浸透クロマトグラフィによるMQ樹脂の分析は、以下の分子分布を算出した。
【0106】
【表1】
【0107】
得られたMQ樹脂の分子分布は、トリメチルシリル化された成分を示さず、文献において報告されたMQ樹脂よりも実質的に高い分子量を示した。J. Appl Polym Sci 70:1753−1757,1998における論文では、4200〜4956の分子量と、長い保持時間で大きなピークを示した分子分布が報告されており、テトラキストリメチルシリルシリケートのような低分子量のトリメチルシリル化された成分の存在を示している。
【0108】
実施例5
エチルシリケートポリマーからのMQ樹脂の組成
液体のMQ樹脂が、50重量%のSiO2を含む加水分解されたエチルシリケートポリマーから形成される。この液体のMQ樹脂は、M基対Q基のモル比率が0.4である。このMQ樹脂は、40.45重量%のエチルシリケートポリマーと、12.1重量%のETOHと、7.5重量%の水と、0.04重量%のメタンスルホン酸と、24.22重量%のトルエンと、15.69重量%のHMDSOとを含む。
【0109】
本発明をその好ましい実施形態に関連して説明したが、添付の特許請求の範囲から逸脱することがなければ、変更および修正がなされてもよいということが認識されるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8