特許第5705355号(P5705355)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5705355
(24)【登録日】2015年3月6日
(45)【発行日】2015年4月22日
(54)【発明の名称】壁部の加工方法および工具経路生成装置
(51)【国際特許分類】
   B23C 3/00 20060101AFI20150402BHJP
   G05B 19/4093 20060101ALI20150402BHJP
【FI】
   B23C3/00
   G05B19/4093 D
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-106949(P2014-106949)
(22)【出願日】2014年5月23日
【審査請求日】2014年5月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000154990
【氏名又は名称】株式会社牧野フライス製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100102819
【弁理士】
【氏名又は名称】島田 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100130133
【弁理士】
【氏名又は名称】曽根 太樹
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100171251
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 拓也
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 太輔
【審査官】 足立 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−277031(JP,A)
【文献】 特許第4614935(JP,B2)
【文献】 特開平9−131610(JP,A)
【文献】 特開平10−118823(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材部から立設し、一方が固定端部で他方が自由端部の壁部を切削または研削にて加工する壁部の加工方法であって、
目標厚さよりも厚く壁部を加工する第1の加工工程と、
目標厚さまで壁部を加工する第2の加工工程とを含み、
第1の加工工程は、固定端部の厚さよりも自由端部の厚さが薄くなるように加工する工程を含み、
第2の加工工程は、壁部の目標高さよりも長い刃長を有する工具を用いて、壁部の高さ方向の全体を1回の加工により目標厚さまで加工する工程を含む、壁部の加工方法。
【請求項2】
第1の加工工程は、壁部を高さ方向において複数の領域に分割し、分割した領域ごとに厚さが一定になるように加工し、固定端部から自由端部に向かうほど徐々に薄くなるように階段状に壁部を加工する工程を含む、請求項1に記載の壁部の加工方法。
【請求項3】
壁部の目標高さよりも長い刃長を有する工具を用いて、壁部の高さ方向の全体を1回の加工により目標厚さまで壁部を加工したときに、厚さの許容範囲を超える壁部の境界位置が予め設定されており、
第1の加工工程は、境界位置において領域を分割し、境界位置で厚さを変化させる工程を含む、請求項2に記載の壁部の加工方法。
【請求項4】
第2の加工工程にて加工した時に加工面の品位が許容される許容厚さが予め設定されており、
第1の加工工程は、自由端部の厚さが許容厚さ以上になるように加工する工程を含む、請求項1に記載の壁部の加工方法。
【請求項5】
基材部から立設し、一方が固定端部で他方が自由端部の壁部を切削または研削にて加工する工具経路を生成する工具経路生成装置であって、
ワークの形状データに基づいて工具経路を生成する経路生成部を備え、
経路生成部は、目標厚さよりも厚く壁部を加工する第1の工具経路と、目標厚さまで壁部を加工する第2の工具経路とを生成し、
第1の工具経路は、固定端部の厚さよりも自由端部の厚さが薄くなるように加工する経路を含み、
第2の工具経路は、壁部の高さよりも長い刃長を有する工具を用いて、壁部の高さ方向の全体を1回の加工により目標厚さまで加工する経路を含む、工具経路生成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、壁部の加工方法および工具経路生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の技術においては、回転工具を回転させて、ワークの加工を行う工作機械が知られている。また、このような工作機械において回転工具の経路を所定の送り軸の座標等により指定し、ワークに対して回転工具を自動的に移動させながら加工を行う数値制御式の工作機械が知られている。数値制御式の工作機械では、ワークを様々な形状に加工することができる。
【0003】
特開2001−277031号公報には、インボリュート形状の中心軸の回りに工作物を回転させる工程と、インボリュート形状の基礎円の接線に沿って工作物と工具を相対移動させる工程とを同時に実行する加工方法において、インボリュート形状の外側端部の近傍のみ2度加工する加工方法が開示されている。
【0004】
特許第4614935号明細書には、エンドミルを用いて、ワークの薄肉部を加工する切削加工方法が開示されている。この切削加工方法では、所望する形状に対して仕上げ代を残してワークを加工する第1工程と、ワークを所望する形状に加工する第2工程とを有し、第1工程及び第2工程を予め定められた深さごとに繰り返すことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−277031号公報
【特許文献2】特許第4614935号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
数値制御式の工作機械では、ワークを切削して板状の壁部を形成することができる。特に、ワークの所定の部分から立設する壁部を形成することができる。この場合には、エンドミルや軸付き砥石等の回転工具を用いて、所望の形状に沿って相対移動することにより壁部を形成することができる。
【0007】
ところが、所定の部分から立設する壁部を形成する時に、壁部が薄いと壁部の端部が目標厚さよりも厚くなるという問題があった。例えば、エンドミルの側面にて一度で壁部の表面を切削すると、壁部の先端部ほど切削抵抗による弾性変形量が大きくなり、壁部の先端部を十分に切削できずに厚くなるという問題があった。
【0008】
上記の特開2001−277031号公報に開示されている方法では、同一の工具で同一の工具経路により2回の加工を行っている。すなわち、いわゆるゼロカットによる加工を行っている。しかしながら、この方法では、2回目の加工のときの切り込み量が小さ過ぎて、加工面にびびりマークと称される細かい凹凸が発生するという問題がある。また、上記の特許第4614935号明細書に開示されている方法では、加工する深さが浅くなるように加工領域を分割し、加工領域ごとに切削する方法を採用している。この加工方法では、壁部の先端部が厚くなることを抑制できるものの、分割した領域の境界に繋ぎ目や段差が生じる場合があり、改善の余地があった。
【0009】
本発明は、加工精度の優れた壁部を形成できる壁部の加工方法および工具経路生成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の壁部の加工方法は、基材部から立設し、一方が固定端部で他方が自由端部の壁部を切削または研削にて加工する壁部の加工方法であって、目標厚さよりも厚く壁部を加工する第1の加工工程と、目標厚さまで壁部を加工する第2の加工工程とを含む。第1の加工工程は、固定端部の厚さよりも自由端部の厚さが薄くなるように加工する工程を含み、第2の加工工程は、壁部の目標高さよりも長い刃長を有する工具を用いて、壁部の高さ方向の全体を1回の加工により目標厚さまで加工する工程を含む。
【0011】
上記発明においては、第1の加工工程は、壁部を高さ方向において複数の領域に分割し、分割した領域ごとに厚さが一定になるように加工し、固定端部から自由端部に向かうほど徐々に薄くなるように階段状に壁部を加工する工程を含むことができる。
【0012】
上記発明においては、壁部の目標高さよりも長い刃長を有する工具を用いて、壁部の高さ方向の全体を1回の加工により目標厚さまで壁部を加工したときに、厚さの許容範囲を超える壁部の境界位置が予め設定されており、第1の加工工程は、境界位置において領域を分割し、境界位置で厚さを変化させる工程を含むことができる。
【0013】
上記発明においては、第2の加工工程にて加工した時に加工面の品位が許容される許容厚さが予め設定されており、第1の加工工程は、自由端部の厚さが許容厚さ以上になるように加工する工程を含むことができる。
【0014】
本発明の工具経路生成装置は、基材部から立設し、一方が固定端部で他方が自由端部の壁部を切削または研削にて加工する工具経路を生成する工具経路生成装置であって、ワークの形状データに基づいて工具経路を生成する経路生成部を備える。経路生成部は、目標厚さよりも厚く壁部を加工する第1の工具経路と、目標厚さまで壁部を加工する第2の工具経路とを生成する。第1の工具経路は、固定端部の厚さよりも自由端部の厚さが薄くなるように加工する経路を含む。第2の工具経路は、壁部の高さよりも長い刃長を有する工具を用いて、壁部の高さ方向の全体を1回の加工により目標厚さまで加工する経路を含む。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、加工精度の優れた壁部を形成できる壁部の加工方法および工具経路生成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施の形態の加工方法にて加工している時のワークおよび工具の斜視図である。
図2】比較例の加工方法にて加工している時のワークおよび工具の正面図である。
図3】比較例の加工方法にて加工した後のワークの正面図である。
図4】比較例の加工方法にて加工した時の壁部の厚さのグラフである。
図5】実施の形態における加工方法の第1の加工工程の説明図である。
図6】実施の形態における加工方法の第1の加工工程を実施した後のワークの正面図である。
図7】実施の形態における加工方法の第2の加工工程の説明図である。
図8】実施の形態の加工方法にてワークを加工した時の壁部の厚さのグラフである。
図9】実施の形態における加工システムのブロック図である。
図10】実施の形態における他のワークの斜視図である。
図11】実施の形態における他の第1の加工工程にて加工した後のワークの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1から図11を参照して、実施の形態における壁部の加工方法および工具経路生成装置について説明する。本実施の形態の加工は、ワークの一部を削り取ることにより所望の形状に加工する切削加工である。本実施の形態の加工方法は、数値制御式の工作機械にて実施することができる。工作機械としては、壁部を形成することができる任意の工作機械を用いることができる。
【0018】
図1に、本実施の形態におけるワークを加工している時のワークおよび工具の斜視図を示す。本実施の形態の加工方法では、ワーク21に板状の壁部23を形成する。壁部23は、基材部22から立設している。壁部23は、基材部22の側が固定端になり、基材部22と反対側が自由端になる。図1に示す例では、一方の端部である下部が固定端部24になり、他方の端部である上部が自由端部25になる。
【0019】
本実施の形態では、基材部22から垂直に延びるように壁部23が形成される。固定端部24と自由端部25とを有する壁部23を工具14の側面で加工する。本実施の形態の工具14は、フラットエンドミルである。壁部23を形成する場合には、工具14の軸方向が壁部23の目標形状の表面と平行な状態を維持する。本実施の形態では、工具14の軸方向が壁部23の高さ方向と平行な状態を維持する。そして、矢印91に示すように、工具14を壁部23の延びる方向に沿って相対移動させる。工具14としては、フラットエンドミルに限られず、工具の軸方向に延びる側面で加工できる任意の工具を用いることができる。
【0020】
図2に、比較例の加工方法にて壁部を加工している時の正面図を示す。工具14は、刃長が壁部23の目標の高さよりも長いものが用いられている。すなわち、壁部23の設計高さよりも長い有効刃長を有する工具14が用いられている。このために、一度の相対移動で壁部23の表面を加工することができる。壁部23の固定端部24の部分まで工具14を進入させる。また、目標の厚さまで切削できる位置まで工具14を壁部23に切り込ませる。この状態を維持しながら、壁部23の延びる方向に工具14を相対的に移動させる。一度の加工で壁部23を形成することができる。
【0021】
ところが、比較例の加工方法では、矢印92に示すように、壁部23の自由端部25が切削抵抗によって、外側に向かって弾性変形し、壁部23の自由端部25では、切削深さが所望の深さよりも浅くなる。
【0022】
図3に、比較例の加工方法にて加工した後のワークの正面図を示す。壁部23の固定端部24の厚さdaは、所望の厚さになるが、壁部23の自由端部25の厚さdbは、所望の厚さよりも厚くなってしまう。このように、自由端部25では、壁部23が厚くなる。
【0023】
図4に、比較例の加工方法にて加工をした後の壁部の厚さのグラフを示す。横軸は、壁部の高さ方向の位置であり、縦軸は壁部の厚さである。工作機械にて加工を行うときには、設計値に対して許容範囲が予め定められる。固定端部では、壁部の厚さが許容範囲内であるが、自由端部に向かうにつれて除々に厚くなっている。そして、境界位置Hxよりも自由端部の側になると、壁部の厚さが許容範囲から逸脱している。このように、比較例の加工方法では、自由端部の近傍にて壁部が許容範囲よりも厚くなってしまう。
【0024】
本実施の形態の壁部の加工方法では、目標厚さよりも厚く壁部23を加工する第1の加工工程と、目標厚さまで壁部23を加工する第2の加工工程とを含む。そして、第1の加工工程では、固定端部24の厚さよりも自由端部25の厚さが薄くなるように加工する。第2の加工工程では、壁部23の高さ方向の全体を1回の加工により目標厚さまで加工する。
【0025】
図5に、本実施の形態の第1の加工工程を行っている時のワークおよび工具の正面図を示す。一点鎖線は、目標形状を示している。最終的には、この目標形状まで切削加工を行う。本実施の形態の壁部23の加工方法では、壁部23の高さ方向において複数の領域に分割する。図5に示す例では、固定端部24を含む領域R1と自由端部25を含む領域R2とに分割する。そして、それぞれの領域R1,R2について、切り込み量を変更する。
【0026】
第1の加工工程では、第2の加工工程にて切削するための仕上げ代を残すように加工する。全ての領域R1,R2において仕上げ代を残す。ここで、領域R2における仕上げ代mbは、領域R1における仕上げ代maよりも薄くなっている。
【0027】
また、本実施の形態では、分割した領域ごとに厚さが一定になるように加工する。領域R1,R2の各範囲内では、壁部23の厚さが一定になるように加工している。すなわち、第1の加工工程を実施すると、壁部23の加工面は階段状になる。本実施の形態の第1の加工工程では、領域R1において、仕上げ代maが壁部23の延びる方向の全体に形成されるように、壁部23に対して工具14を相対移動させる。また、領域R2において、仕上げ代mbが壁部23の延びる方向の全体に形成されるように、壁部23に対して工具14を相対移動させる。なお、第1の加工工程では、領域R1または領域R2の加工を個別に行うことができる工具を用いることができる。したがって、工具14としては、壁部23の高さよりも短い刃長のものを用いても構わない。
【0028】
図4を参照して、領域R1と領域R2との境界の位置は、工具14にて壁部23の高さ方向の全体にわたって1回の加工により目標厚さまで壁部23を加工した時に、壁部23の厚さの許容範囲を超える境界位置Hxに設定している。境界位置Hxよりも固定端部24の側では、壁部23の厚さが許容範囲内であるが、境界位置Hxよりも自由端部の側では壁部23の厚さが許容範囲から逸脱している。このように、領域を分割する境界位置は、比較例の方法にて加工すると許容範囲を逸脱する位置に設定することができる。
【0029】
なお、複数の領域に分割する境界位置は、任意に設定することができるが、少なくとも図4に示す境界位置Hxよりも固定端部の側に設定することが好ましい。すなわち、比較例の加工方法にて加工しても壁部23の厚さが許容範囲内になる位置に設定することが好ましい。この方法により、より確実に壁部23の全体を目標厚さに近づけることができる。
【0030】
図6に、第1の加工工程を実施した後のワークの正面図を示す。厚さdtは目標厚さである。すなわち、設計では壁部23の厚さは目標厚さdtである。領域R2の厚さdbは、領域R1の厚さdaよりも薄く形成されている。または、領域R2の仕上げ代mbは、領域R1の仕上げ代maよりも薄く形成されている。このように、第1の加工工程では、固定端部24から自由端部25に向かって、仕上げ代が徐々に小さくなるように階段状に加工する。
【0031】
次に、第2の加工工程では、壁部の目標高さよりも長い刃長を有する工具を用いて目標厚さdtまで加工する。領域R2では仕上げ代mbの部分を切削し、領域R1では、仕上げ代maの部分を切削する。
【0032】
図7に、本実施の形態の第2の加工工程を実施している時のワークおよび工具の正面図を示す。第2の加工工程では、壁部23の高さ方向の全体を加工する。また、一回の加工により目標厚さdtまで切り込んで加工する。このときに、領域R1は、固定端部24を含む領域であるために壁部23の弾性変形は抑制される。領域R2は、自由端部25を含む領域であるが、切削する厚さが小さいために外側への弾性変形が抑制される、この結果、壁部23の高さ方向の全体にわたって優れた加工精度で壁部23を形成することができる。
【0033】
図8に、本実施の形態の加工方法にてワークを加工した時の壁部の厚さのグラフを示す。図8のグラフには、実施例1および実施例2が示されている。実施例1および実施例2では、壁部23の高さ方向の境界位置Hx(図4参照)において領域を分割している。実施例1と実施例2とでは、領域R1,R2の仕上げ代の厚さを変更している。実施例1の仕上げ代は、実施例2の仕上げ代よりも薄くしている。
【0034】
図4および図8を参照して、実施例1および実施例2の両方ともに、比較例の加工方法よりも、自由端部における厚さが設計値に近づいていることが分かる。そして、実施例1では、固定端部から自由端部までの高さ方向の全体にわたって、壁部の厚さが許容範囲内になっている。このように、本実施の形態における加工方法では、寸法精度の優れた壁部を形成することができる。また、第2の加工工程では、高さ方向の全体にわたって一度で壁部を加工するために、加工面に繋ぎ目や段差が生じることがなく、高品位の加工面を得ることができる。
【0035】
ところで、図6を参照して、自由端部25を含む領域R2では仕上げ代mbが小さいほど、第2の加工工程において外側への弾性変形を抑制することができる。たとえば、図8に示す実施例2より実施例1の方が厚さの誤差を小さくすることができる。しかしながら、仕上げ代mbが小さすぎると、第2の加工工程において、びびり振動により所謂びびりマークが加工面に生じて、加工面の品位が悪化する場合がある。このために、仕上げ代mbは、加工中にびびり振動が生じないようにある程度厚くすることが好ましい。本実施の形態では、第2の加工工程にて加工しても加工面の品位が許容される許容厚さが予め設定されている。または、仕上げ代mbが予め設定されていても構わない。そして、第1の加工工程では、領域R2の厚さ(dt+mb)が許容厚さ以上になるように加工している。特に、自由端部25の厚さが許容厚さ以上になるように加工している。この方法を採用することにより、第2の加工工程において、びびり振動が生じることを抑制し、高品位の加工面を得ることができる。
【0036】
ここで、仕上げ代の厚さを変更するための領域を分割する最適な境界位置は、ワークの材質、壁部の厚さおよび高さ、工具の材質や形状、および工具の回転速度や送り速度等の加工条件等に依存する。このため、本実施の形態の加工方法を実施する場合には、予め実験により複数の領域に分割する境界位置を定めておくことが好ましい。また、仕上げ代の厚さについても同様に、予め実験により最適な仕上げ代の厚さを定めておくことが好ましい。たとえば、びびり振動が生じない仕上げ代を予め実験にて確認しておくことが好ましい。
【0037】
本実施の形態の壁部の加工方法は、薄壁部を形成する加工に好適である。または、高さの高い壁部を形成する加工に好適である。例えば、高さと厚さとの比(アスペクト比)が10以上の薄壁部に好適である。また、壁部の剛性が小さくなり、比較例の加工方法にて加工すると、壁部の先端部が厚くなる加工に好適である。たとえば、ヒートシンク等に形成される冷却フィン、直方体状のリブケース、スクロールコンプレッサの部品、または航空機用フレームコンポネントなどの薄い壁部を有する部材の製造に好適である。
【0038】
本実施の形態においては、壁部の高さ方向において領域を2つに分割しているが、この形態に限られず、領域を3つ以上に分割しても構わない。3つ以上の領域に分割した場合には、第1の加工工程にて、それぞれの領域に対して壁部を切削する工程を実施する。このときに、固定端部から自由端部に向かって徐々に壁部が薄くなるように階段状に壁部を形成することができる。
【0039】
次に、本実施の形態における工具経路生成装置について説明する。本実施の形態の工具経路生成装置は、前述の第1の加工工程および第2の加工工程を実施する工具経路を生成する。
【0040】
図9に、本実施の形態における工具経路生成装置を備える加工システムのブロック図を示す。本実施の形態においては、CAD(computer aided design)装置51にてワーク21の形状を設計する。CAD装置51は、ワーク21の形状データ52を工具経路生成装置75に供給する。形状データ52にはワーク21の目標形状のデータが含まれている。
【0041】
工具経路生成装置75は、CAM(computer aided manufacturing)装置の機能を有する。工具経路生成装置75は、形状データ52に基づいて、工作機械11の制御装置12に入力するための加工プログラム53を生成する。工具経路生成装置75は、形状データ読取部76と、経路生成部77とを備える。形状データ読取部76は、ワーク21を加工した後の目標形状を含む形状データ52を読み取る。形状データ52は、経路生成部77に送出される。
【0042】
工具経路生成装置75には、入力データ74が入力される。入力データ74には、例えば使用する工具の種類や工作機械の種類等の情報が含まれる。また、入力データ74には、ワークの材質、壁部の高さ方向の領域の分割方法、仕上げ代の寸法、または工具を駆動する時の加工条件などが含まれる。工具経路生成装置75は、記憶部79を備える。入力データ74は、記憶部79にて記憶される。経路生成部77は、ワークの形状データ52および入力データ74を読み込んで工具経路を生成する。経路生成部77は、作成した工具経路に基づいて加工プログラム53を生成する。
【0043】
工作機械11の制御装置12は、加工プログラム53に基づいて各送り軸サーボモータ13を駆動する。各送り軸サーボモータ13には、X軸サーボモータおよびY軸サーボモータ等の各送り軸のサーボモータが含まれる。各送り軸サーボモータ13が駆動されることにより、ワーク21に対して工具14を相対的に移動させることができる。
【0044】
本実施の形態の経路生成部77は、第1の工具経路および第2の工具経路を生成する。経路生成部77は、目標厚さよりも厚く壁部を加工する第1の工具経路と、目標厚さまで壁部を加工する第2の工具経路とを生成する。上記の第1の加工工程における工具経路が第1の工具経路に相当する。また、上記の第2の加工工程における工具経路が第2の工具経路に相当する。
【0045】
そして、第1の工具経路としては、固定端部の厚さよりも自由端部の厚さが薄くなるように加工する経路を生成する。また、第2の工具経路としては、壁部の高さよりも長い刃長を有する工具を用いて、壁部の高さ方向の全体を1回の加工により目標厚さまで加工する経路を生成する。
【0046】
次に、経路生成部77は、表示部78に第1の工具経路の情報および第2の工具経路の情報を送出する。表示部78は、生成された工具経路の情報を表示する。また、本実施の形態の表示部78は、作業者が入力データや生成された工具経路を修正できるように形成されている。作業者が入力データや工具経路を修正した場合には、入力データや工具経路が、再び経路生成部77に送出される。経路生成部77は、必要に応じて再び第1の工具経路および第2の工具経路を生成して、生成した工具経路を表示部78に送出する。このように、本実施の形態の工具経路生成装置75は、作業者により生成された工具経路の修正を行うことができる。
【0047】
本実施の形態の工具経路生成装置は、加工精度の優れた壁部を生成するための工具経路を生成することができる。
【0048】
図10に、本実施の形態における他のワークの斜視図を示す。他のワーク26においては、矢印93に示す壁部23の延びる方向に沿って壁部23の高さが変化している。このようなワーク26であっても、予め、第1の加工工程における仕上げ代を変更するための複数の領域を設定することができる。ここでは、領域R1および領域R2を定めている。この場合に、複数の領域に分割される境界位置は、壁部23の高さが変化しても基材部22からの壁部23の高さ方向の距離によって設定することができる。その他に、境界位置は、壁部23の高さに対する割合で設定することもできるし、コーナ部のように壁部23の剛性が高い部位では領域R1を長く設定することもできる。
【0049】
図11に、第1の加工工程にて加工した他のワークの正面図を示す。前述の第1の加工工程では、壁部の断面形状が階段状になるように加工しているが、この例では、第1の加工工程において、壁部23の断面形状が固定端部24から自由端部25に向かって、連続的に徐々に薄くなるように加工している。この加工は、例えば、工具としてテーパーエンドミルを用いることにより、またはA軸やB軸のような回転送り軸を有した工作機械を用いることにより実施できる。このように、第1の加工工程においては、自由端部25の厚さdbが固定端部24の厚さdaよりも薄くなるような任意の加工を実施することができる。なお、第二の加工工程については、前述と同様の方法にて加工することができる。
【0050】
本実施の形態においては、ワークを切削する切削加工を例示して説明したが、この形態に限られず、ワークを砥石で研削する研削加工にも本発明を適用することができる。たとえば、エンドミル等の工具の代わりに軸付き砥石を工作機械の主軸に取り付けて、本実施の形態と同様に薄壁を形成することができる。
【0051】
上記の実施の形態は、適宜組み合わせることができる。上述のそれぞれの図において、同一または相等する部分には同一の符号を付している。なお、上記の実施の形態は例示であり発明を限定するものではない。また、実施の形態においては、特許請求の範囲に示される実施の形態の変更が含まれている。
【符号の説明】
【0052】
14 工具
21,26 ワーク
22 基材部
23 壁部
24 固定端部
25 自由端部
74 入力データ
75 工具経路生成装置
76 形状データ読取部
77 経路生成部
【要約】
【課題】加工精度の優れた壁部を形成できる壁部の加工方法を提供する。
【解決手段】一方が固定端部24で他方が自由端部25の壁部23を加工する壁部23の加工方法であって、目標厚さよりも厚く壁部23を加工する第1の加工工程と、目標厚さまで壁部23を加工する第2の加工工程とを含む。第1の加工工程は、固定端部24の厚さよりも自由端部25の厚さが薄くなるように加工する工程を含み、第2の加工工程は、壁部23の目標高さよりも長い刃長を有する工具を用いて、壁部23の高さ方向の全体を1回の加工により目標厚さまで加工する工程を含む。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11