特許第5705402号(P5705402)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5705402
(24)【登録日】2015年3月6日
(45)【発行日】2015年4月22日
(54)【発明の名称】アルミニウム成形板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21D 13/04 20060101AFI20150402BHJP
   B21D 13/08 20060101ALI20150402BHJP
   B21D 53/84 20060101ALI20150402BHJP
   F01N 13/14 20100101ALI20150402BHJP
   F02B 77/11 20060101ALI20150402BHJP
【FI】
   B21D13/04 B
   B21D13/08
   B21D53/84 B
   F01N7/14
   F02B77/11 D
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2008-29003(P2008-29003)
(22)【出願日】2008年2月8日
(65)【公開番号】特開2009-184001(P2009-184001A)
(43)【公開日】2009年8月20日
【審査請求日】2010年10月4日
【審判番号】不服2013-22164(P2013-22164/J1)
【審判請求日】2013年11月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000110804
【氏名又は名称】ニチアス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086759
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 喜平
(74)【代理人】
【識別番号】100112977
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 有子
(72)【発明者】
【氏名】平岡 聡直
(72)【発明者】
【氏名】近藤 源典
(72)【発明者】
【氏名】加藤 忠克
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 隆弘
【合議体】
【審判長】 栗田 雅弘
【審判官】 久保 克彦
【審判官】 刈間 宏信
(56)【参考文献】
【文献】 特開平7−60371(JP,A)
【文献】 特表2001−504393(JP,A)
【文献】 特開平3−77730(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ0.2〜0.4mmのJIS規格による1050アルミニウム板を、断面が正弦波状の歯を有し、波高が2.8mmで、波頂間隔が6mmである一対の第1の波形付けロールに通して稜線が第1の方向に沿った第1の波形突起を形成した後、該アルミニウム板を前記第1の波形突起に対して直交するように水平回転し、
前記第1の波形突起を有するJIS規格による1050アルミニウム板を、前記第1の波形付けロールと同一歯形で、歯の稜線が平行で、かつ、ロール隙間が前記第1の波形付けロールのロール隙間の0.3〜1倍である一対の第2の波形付けロールに通し、該第2の波形付けロールの歯の稜線と、前記第1の波形突起の稜線とが直交した凹凸面を形成することを特徴とするアルミニウム成形板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば家電製品や、自動車の排気管やエンジン等の発熱部に配設される遮蔽カバーとして好適な波形の凹凸が形成されたアルミニウム成形板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車はエンジンの作動時に900℃以上の高温の排気ガスを発生するため、排気ガスの経路となるエキゾーストマニホールド、触媒システム、パイプ、マフラー等の排気系部品は高温となり、その周囲には熱害防止並びに火傷防止目的で、多くの遮熱カバーが設けられている。これらの遮熱カバーは、高温の排気系部品周辺の狭小かつ広範な範囲に設定されることが多いことから、相手形状に沿うような複雑かつ大型のカバーとなりがちである。また、昨今の地球温暖化問題から端を発したCO2抑制は重要な課題であり、自動車にとっては個々の部品がより軽量であることが求められる。特に上述したように高温化が進む自動車排気系周りの遮熱カバーでは使用箇所が増加の一途を辿っており、軽量化は非常に重量な課題となっている。
【0003】
従来、これら遮熱カバーには、鋼板(防錆上の問題から、実際は亜鉛メッキ鋼板、アルミめっき鋼板等が用いられる)の深絞り品が多用されてきた。鋼板は深絞りに必要な伸びを有し、かつ十分な強度、剛性を有することから、遮熱カバーとして必要な形状保持性、石はね等への耐久性を満足してきた。しかなしながら、大型の遮熱カバーになると数十キログラムの重量となり、それを支える固定部位にも強度、耐久性が求められ、自然と大型化、重量化が進み、軽量化とは逆行する。また、鋼板のように伸び性に優れた板材でも、板厚減少が伴う深絞り加工では部分的に低強度部位が存在し、深絞り成形時点で破断が生じる、もしくは破断の基となる応力集中箇所が内在し、自動車のような高付加環境下(高温、高振動、塩害環境、長時間補償等)で破損に至る不具合も多々あり、これら破断のきっかけを未然に防止することも信頼性の高い遮熱カバーを提供する上で重要課題である。
【0004】
これらの課題を解決すべく、既に幾つかの考案がなされ、実用化されている。例えば、鋼板またはアルミニウム板に複雑かつ径の異なる半球状の突起(エンボス)を絞り加工により付与した遮熱カバーが知られている(特許文献1参照)。これによれば、等厚の板材に対し、突起分の高剛性化を図ることができ、形状保持性が増すことで遮熱カバーの機能を発揮でき、軽量化も実現できる。しかしながら、突起の付与は絞り加工に依存していることから、カバー形状に対する成形は元の板材が有する材料特性に依存することになり、伸び率数十%を有する鋼板があればまだしも、アルミニウム板の場合は伸び率数%〜十数%が限界であり、十分な深絞り性を確保できるとは言い難い。また、突起部分は平面部分よりも板厚が薄くなるため、強度が低く、成形時に割れやピンホール等を生じることもある。
【0005】
また、曲げ加工により、内曲げ側壁を有するリッジを二次元平面に規則的に配置した板材も知られている(特許文献2参照)。これによれば、リッジが有する剛性によりカバーとしての形状保持性を向上させ、またカバー成形時には内曲げ側壁を有するリッジに蓄えられた材料が成形力により元に戻ることで結果的に深絞りと同様な成形性を発揮し、原理的にはリッジに蓄えた材料の比率が伸び率と等価となる。そのため、その範囲では板厚減少を生じることなく、軽量かつ複雑形状への成形性を有し、高負荷環境での耐久性を確保可能となる。しかしながら、カバーのプレス成形時に厚さ方向に圧縮されると、リッジ部に蓄えられた材料が開放されると同時にその近傍のリッジでは収縮することになるが、リッジにある内曲げ部に逆折りの力が負荷されることになる。通常、金属板は打ち曲げ側壁形成等の機械加工時に加工硬化している上、特にアルミニウム板等は伸び率が小さいことから、内曲げ側壁に負荷される逆曲げ力により曲げ部が破断する可能性があり、この破断部が振動環境下では弱点部となり、微小な破断が進行してカバーの破損に繋がる懸念がある。また、成形時にもリッジに沿って亀裂が発生することがある。
【0006】
【特許文献1】特開2000−136720号公報
【特許文献2】特表2001−507282号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、複雑形状への成形性があり、軽量と同時に十分な保形性を有し、かつ高負荷環境下での破断等に対する信頼性が高く、更には成形時の割れや破損も無く、遮熱カバーに好適なアルミニウム成形板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
図6は特許文献2に記載の遮熱板を模式的に示す上面図、図7図6のXX断面図及びYY断面図であるが、特許文献2に記載の遮熱板10は、アルミニウム平板を、第1の波形付けロールに通して第1の波形突起20aを形成した後、第1の波形付けロールとは歯面が直交するように配置された第2の波形付けロールに通すことで、第1の波形突起20aに直交させて第2の波形突起20bを重ね合わせて作製されるが、その際、第1の波形付けロール及び第2の波形付けロールに、歯形及びロール隙間(ロールとロールとの隙間)が同一のものを使用すると、屈曲部22が発生することを本発明者らは確認した。
【0009】
そこで、ロール隙間の異なる第1の波形付けロールと第2の波形付けロールとを用いて同様にアルミニウム平板を加工したところ、屈曲部が発生しないことを見出した。
【0010】
即ち、本発明は下記のアルミニウム成形板の製造方法を提供する。
厚さ0.2〜0.4mmのJIS規格による1050アルミニウム板を、断面が正弦波状の歯を有し、波高が2.8mmで、波頂間隔が6mmである一対の第1の波形付けロールに通して稜線が第1の方向に沿った第1の波形突起を形成した後、該アルミニウム板を前記第1の波形突起に対して直交するように水平回転し、
前記第1の波形突起を有するJIS規格による1050アルミニウム板を、前記第1の波形付けロールと同一歯形で、歯の稜線が平行で、かつ、ロール隙間が前記第1の波形付けロールのロール隙間の0.3〜1倍である一対の第2の波形付けロールに通し、該第2の波形付けロールの歯の稜線と、前記第1の波形突起の稜線とが直交した凹凸面を形成することを特徴とするアルミニウム成形板の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、断面が正弦波状の2つの波形突起が直交した部分に屈曲部を形成することなく、2つの波形突起が直交した凹凸面を有するアルミニウム成形板が得られる。また、全面にわたり出発金属板の板厚をそのまま維持でき、高強度で、しかも強度ムラもなく、成形時に割れやピンホールを生じることも無い。そのため、このアルミニウム成形板を遮熱カバーとして任意の形状に成形し、配設しても、2つの波形突起が直交した部分に亀裂が発生することがなく、耐久性に優れたものとなる。また、内曲げ側壁が無いため、曲げ戻し時の破断が起き難いことから振動する環境下での耐久性が高い。更に、曲げによるリッジ形成のため、曲げ戻しによる深絞り性と同等性能が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に関して図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
図1は、本発明の製造方法で得られるアルミニウム成形板を模式的に示す斜視図であり、その一部を拡大して示してある。図示されるように、アルミニウム成形板1は、第1の方向に沿う第1の波形突起2aの稜線と、第1の方向と直交する第2の方向に沿う第2の波形突起2bの稜線とが重なり合った凹凸面を有する。即ち、第1の波形突起2aの波頂と第2の波形突起2bの波頂との重なり部分が凹凸面の最高点Tとなり、この最高点Tが格子点に配置しており、各最高点Tから全方向に徐々に下降して傾斜面を形成している。また、凹凸面の最下点Bは、第1の波形突起2aの波底と第2の波形突起2bの波底との重なり部分となり、換言すると隣接する4つの最高点Tを結ぶ対角線の交点の直下に位置している。尚、図中の直線a,b、並びに各波形突起2a,2bの稜線や斜面に描かれた線は説明用であり、実際には見えない。但し、加工痕跡として一部残存することもある。
【0014】
また、図2に第1の波形突起2aの稜線に沿う断面図(図1のAA断面図)と、第2の波形突起2bの稜線に沿う断面図(図1のBB断面)とを示すが、それぞれが略同一の波形を呈しており、図7に示したような屈曲部は見られない。
【0015】
このようなアルミニウム成形板1を作製するには、2つの波形付けロールを用いる。先ず、図3に示すように、それぞれ表面に断面が正弦波状の波形の歯201を有する一対の第1の波形付けロール(ギアロール)200a,200bの間に、平坦な1000系アルミニウム板100(以下、アルミニウム板100)を通す。これにより、アルミニウム板100には、断面が正弦波状の第1の波形突起2aが形成される。尚、このときのアルミニウム板100の進行方向が、図1における第1の方向である。また、第1の波形付けロール200a,200bの波高は、強度と成形性とから2.8mmであり、波頂間隔(ピッチ)を3〜9mmとする。
【0016】
次いで、図4に示すように、第1の波形付けロール200a,200bとは、図5に拡大して示すように、同一歯形で、歯の稜線が平行で、かつ、ロール隙間(D)が、第1の波形付けロール200a,200bのロール隙間より小さい第2の波形付けロール(ギアロール)210a,210bに、第1の波形突起2aが形成されたアルミニウム板100aを、第1の波形突起2aの稜線と第2の波形付けロール210a,210bの歯211の稜線とが直交するように通す。尚、このときのアルミニウム板100aの進行方向が、図1における第2の方向である。そして、第2の波形付けロール210a,210bにより、第1の波形突起2aと直交する、断面が正弦波状の第2の波形突起2bが形成され、図1に示したアルミニウム成形板1が得られる。
【0017】
上記のように、本発明では、断面波形の凹部と凸部を歯車状に噛み合わせた一対の波形付けロール(ギアロールを用いて波付けを行う点に特徴がある。ギアロールではなく、ローラ軸に溝を有し、相互に噛合うローラ対を用いてエンボス模様を連続的に転写する方法では、模様部分での金属板が延伸されることになるため、その部分で板厚が薄くなるため、割れやピンホールが発生し易い。
【0018】
上記において、ロール隙間(D)は、第1の波形付けロール200a,200bよりも、第2の波形付けロール210a,210bの方を小さくする方が、第1の波形突起2aと第2の波形突起2bとの重なりが円滑に行われ、波形の変形も少なくなり好ましい。具体的には、第2の波形付けロール210a,210bのロール隙間を第1の波形付けロール200a,200bの上下ロール隙間の0.3〜1倍とすることが好ましい
【0019】
また、アルミニウム板100には、板厚0.2〜0.4mmのJIS規格による1050のアルミニウム板を用いる。
【0021】
本発明のアルミニウム成形板1は、遮熱カバーに使用することができる。金属成形板1は、第1の波形突起2aの稜線と第2の波形突起2bの稜線とが直交し、最高点Tが格子状に整列しているため、所望の方向に容易に湾曲させることができ、加工性に優れる。しかも、図7に示すような屈曲部もないため、加熱下で振動を受けても亀裂を生じたり、破断することもない。
【実施例】
【0022】
以下、本発明について実施例を挙げて更に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0023】
(実施例1)
板厚0.4mmの1050アルミニウム合金板から一辺が250mmの試験片を切り出し、波高2.8mm、歯頂間隔(ピッチ)6.0mm、上下ロール隙間(D)1.5mmの第1の波形付けロールに通した。次いで、第1の波形突起が形成された試験片を、第1の波形付けロールと同一歯形で、上下ロール隙間(D)1.0mmの第2の波形付けロールに、第1の波形突起の稜線が歯の稜線と直交するように通して第2の波形突起を第1の波形突起に重ね合わせず、図1に示すような凹凸面を形成した。
【0024】
凹凸面が形成された試験片の第1の波形付けロールの挿通方向の稜線に沿う断面(図2参照)、並びに第2の波形付けロールの挿通方向の稜線に沿う断面(図3)を観察したが、共に屈曲部が見られなかった。
【0025】
また、この波付けされたアルミニウム合金板について、下記の評価を行った。結果を表1に示す。
(1)曲げ剛性
万能試験機にて3点曲げ試験を行い(サンプルサイズ50mm×100mm)、最大強度(曲げ強度)を求めた。
(2)絞り加工性
金型でプレス絞りを実施し、絞り深さを測定した。また、加工時の割れやピンホールの発生の有無を確認した。
【0026】
(比較例1)
板厚0.4mmの1050アルミニウム合金板について、上記の(1)曲げ剛性及び(2)絞り加工性を評価した。結果を表1に示す。
【0027】
(比較例2)
板厚0.8mmの1050アルミニウム合金板について、上記の(1)曲げ剛性及び(2)絞り加工性を評価した。結果を表1に示す。
【0028】
(比較例3)
板厚0.3mmの1050アルミニウム合金板と板厚0.125mmの1050アルミニウム合金板とを用い、特許文献2に記載の方法に従い波付け加工を施した。得られたアルミニウム合金板は、図7に示す断面形状を呈していた。そして、この波付けされたアルミニウム合金板について、上記の(1)曲げ剛性及び(2)絞り加工性を評価した。結果を表1に示す。
【0029】
(比較例4)
板厚0.4mmの1050アルミニウム合金板用い、特許文献1に記載の方法に従いプレスによる絞り成形により、断面が半径3.7mm及び4.6mmの2種類の半球状の突起を多数形成した。そして、この絞り成形されたアルミニウム合金板について、上記の(1)曲げ剛性及び(2)絞り加工性を評価した。結果を表1に示す。
【0030】
(比較例5)
板厚0.4mmの1050アルミニウム合金板用い、プレスによる絞り成形により、断面が台形状(開口部の長さ8.0mm、深さ1.5mm、底部の長さ8.0mm)の突起を多数形成した。そして、この絞り成形されたアルミニウム合金板について、上記の(1)曲げ剛性及び(2)絞り加工性を評価した。結果を表1に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
表1から、本発明に従う実施例1の波付けアルミニウム合金板は、曲げ剛性に優れ、絞り加工性にも優れることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明の製造方法により得られるアルミニウム成形板の一部を模式的に示す斜視図である。
図2図1のAA断面図及びBB断面図である。
図3】第1の波形突起を形成する工程を示す模式図である。
図4】第2の波形突起を形成する工程を示す模式図である。
図5】第2の波形付けロールの歯周辺の拡大図である。
図6】従来の遮熱板を模式的に示す上面図である。
図7図6のXX断面図及びYY断面図である。
【符号の説明】
【0034】
アルミニウム成形板
2a 第1の波形突起
2b 第2の波形突起
100 アルミニウム
200a,200b 第1の波形付けロール
210a,210b 第2の波形付けロール
D ロール隙間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7