特許第5705536号(P5705536)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5705536スチレン−ブタジエンコポリマー、その製造方法および高凝集接着組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5705536
(24)【登録日】2015年3月6日
(45)【発行日】2015年4月22日
(54)【発明の名称】スチレン−ブタジエンコポリマー、その製造方法および高凝集接着組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 212/08 20060101AFI20150402BHJP
   C08F 236/06 20060101ALI20150402BHJP
   C09J 109/06 20060101ALI20150402BHJP
   C09J 11/08 20060101ALI20150402BHJP
【FI】
   C08F212/08
   C08F236/06
   C09J109/06
   C09J11/08
【請求項の数】12
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2010-501611(P2010-501611)
(86)(22)【出願日】2008年4月7日
(65)【公表番号】特表2010-523754(P2010-523754A)
(43)【公表日】2010年7月15日
(86)【国際出願番号】IB2008000833
(87)【国際公開番号】WO2008122872
(87)【国際公開日】20081016
【審査請求日】2009年11月30日
(31)【優先権主張番号】PI0701521-6
(32)【優先日】2007年4月5日
(33)【優先権主張国】BR
(73)【特許権者】
【識別番号】509277327
【氏名又は名称】ランクセス・エラストメロス・ド・ブラジル・エス・エー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】マルクス・タデウ・モウラ・モウティーニョ
(72)【発明者】
【氏名】マノエル・レミージョ・ドス・サントス
(72)【発明者】
【氏名】リナウド・ファリアス・ルス
(72)【発明者】
【氏名】ウンベルト・ロチャ・ロヴィシ
(72)【発明者】
【氏名】マウロ・エドゥアルド・コスタ・ブラス・ピント
【審査官】 細井 龍史
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−077593(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第00050226(EP,A1)
【文献】 特開平03−026732(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/00−246/00
C09J 1/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温での水性乳化重合、界面活性剤としての樹脂石鹸の使用、および高レベルでのムーニー粘度およびスチレン含有率の維持を同時に含む、接着剤用組成物のためのスチレン−ブタジエンコポリマー(SBR)の製造方法であって、
前記樹脂石鹸の乳化剤が、凝固後にその酸形態で前記コポリマー中に組み込まれたままであり、前記コポリマーが、85〜150のムーニー粘度および50〜75重量%のスチレン含有率を有し、前記重合温度が、40〜65℃であり、ラテックスを無機酸の水溶液の凝固剤で凝固させる工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
重合温度が45℃〜60℃であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ムーニー粘度が100〜130であることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ラテックス相にあるとき、全固形分が20〜40重量%の範囲にあることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
全固形分が22〜30重量%であることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
総スチレン含有率が55〜75重量%であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
以下の工程:
− 反応器をガス窒素でパージして、反応の開始および展開のプロセスを阻害するであろう酸素を媒体から完全に除去する工程と、
− 40℃〜60℃の範囲の温度に予熱された乳化剤を加える工程と、
− モノマー(スチレンおよびブタジエン)と連鎖移動剤とを加える工程と、
− 予め調製されたフリーラジカル開始剤溶液を加える工程と、
− ムーニー粘度が85〜150の範囲内に調整され、そして全固形分が20〜40重量%の範囲に維持される、SBRコポリマーラテックスが形成されるまで40℃〜65℃の範囲の温度で重合させる工程と、
− モノマーの60重量%〜80重量%転化後に、反応停止剤を加えることによって重合を停止させる工程と、
− 未反応のブタジエンおよびスチレンモノマーを除去する工程と、
無機酸の水溶液の凝固剤を凝固容器に加えることによってラテックスを凝固させる工程と、
コポリマー中に組み込まれた樹脂酸を含有する、前記SBRコポリマーを洗浄しそして乾燥させる工程と
を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ムーニー粘度が100〜130の範囲に調整され、そして全固形分が22〜30重量%の範囲に維持されるSBRコポリマーラテックスが形成されるまで、45℃〜60℃の範囲の温度で重合が起こることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載された方法により得られた、接着剤用組成物のためのスチレン−ブタジエンコポリマー(SBR)。
【請求項10】
8〜20重量%の請求項9に記載のスチレン−ブタジエンコポリマーと、8〜24重量%の粘着付与剤と、0.5〜1.5重量%の保護剤と、54〜84重量%の溶剤とを含むことを特徴とする接着剤用組成物。
【請求項11】
12〜16重量%の前記スチレン−ブタジエンコポリマーを含むことを特徴とする請求項10に記載の接着剤用組成物。
【請求項12】
PVC、熱可塑性ゴム(TR)、皮革、再構成皮革、木材、発泡体、発泡ポリスチレン、ロックウール、ガラスウール、亜鉛めっき基材およびコンクリートから選択される基材の接合に適用されることを特徴とする請求項10または11に記載の接着剤用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンタクト接着剤および感圧接着剤の製造に特に有用であり、履物および家具工業で広く適用できる、水性乳化重合技術を用いて製造され、そして接着剤およびシーリング工業向けを意図されるスチレン−ブタジエンコポリマー(SBR)に関する。水性ベースまたは溶剤ベースを有する、接着剤の製造方法でのこの種のエラストマーの使用は、接着性を損なうことなく接着組成物に高い凝集力を提供する。
【0002】
本発明はまた、高温での水性乳化重合、特有の(界面活性剤)の使用ならびに高い範囲でのコポリマーのムーニー粘度および総スチレン含有率の維持を同時に含む、SBRコポリマーの取得方法を保護することを意図される。本特許出願の別の目的は、固体形態またはラテックス形態のいずれかの、SBRポリマーから得られる接着組成物の保護である。
【背景技術】
【0003】
定義によれば、接着剤は、2つの材料を、それらの表面を接合することによって結び付けることができる物質である。最近数十年にわたって、異なる材料の接合での技術的進歩は、接着剤が重要なクラスの材料として市場に現れてきたことを意味してきた。
【0004】
接着剤の効率は主に、その接着および凝集特性によって測定される。接着は、分子間力による、2つの材料の永久的な結合を示唆する表面現象である。他方で、凝集は、接着剤の粒子が一次および二次原子価力によって、結び付いたままに保たれている状態と定義される。
【0005】
接着および凝集は、接着組成物の効率の悪さによってのみならず、基材の固有の特性によっても損なわれるかもしれず、接着または凝集破壊として知られるものを引き起こす。接着破壊は、接着剤と被着材との間の界面連結の破断であると定義されるのに対し、凝集破壊は、破損張力が両基材中の接着剤の層の持久性を許すときに起こる。
【0006】
基材は接合されるべき材料であり、従って、その性質およびその表面処理は、接着プロセスにとって基本的な因子である。基材の気孔率、酸性度、アルカリ性度などは、接合結果に影響を及ぼす特徴である。相間および界面の性質もまた、このプロセスにとって決定的に重要な因子である。相間は、接着剤と基材との接触点近くの領域であり、連結層とも呼ばれる界面は、一材料の表面と別の材料の表面との接触域である。それ故に、接着剤の選択は、それが基材と相溶性でなければならないので重要である。
【0007】
典型的には、エラストマーは、それが前記組成物、特にコンタクト接着剤および感熱接着剤の組成物のポリマーベースであるので、接着組成物に使用される主原料である。接着組成物に最も多く使用されるポリマー材料の中に、天然ゴム、ポリクロロプレン、ニトリルゴムおよびブタジエン・スチレンゴム(SBR)がある。
【0008】
ブタジエン・スチレンゴムは、天然ゴム、ニトリルゴムまたはポリクロロプレンゴムの極上の接着特性を持たないが、これらのエラストマーより生産費および商業化コストが低い。有益なことに、天然ゴムの接着剤と比較したときに、SBR接着剤は、より低い耐熱性およびより低い吸水性を有し、より好適な温度範囲で加工することができる。しかしながら、ニトリルゴムおよびポリクロロプレンゴムベースの接着剤と比較した場合、SBR接着剤は、同じ耐油性、耐溶剤性および耐酸化性を持たない。本発明の最も重要な特徴の1つは、特に、履物および家具分野におけるポリクロロプレンの幾つかの用途での、最終接着剤製品の特性の改善とかなりの費用削減とを生み出す、これらのポリマーの全置換または部分置換の可能性である。
【0009】
ブタジエン・スチレンゴム中に存在する総スチレンの含有率は、接着プロセスにとって決定的に重要な別の変数である。SBRコポリマー分子中の総スチレン含有率の増加は、その極性を増大させ、接着組成物の多様な成分および基材との相溶性の改善を提供し、こうして接着剤の調合機の可能性の範囲を増大させ、金属材料の接合から、木材、凝集塊および様々な種類のプラスチックまで、様々なタイプの用途での調合接着剤の使用の可能性を高める。
【0010】
接着剤の粘度、基材の表面の凹凸、さらには基材上の混入物質の存在は、接着の効率にとって決定的に重要な他の因子である。接着剤は、一般に時間と共に急速に変わる有限の粘度を有し、そのため、基材の表面上に存在する混入物質および凹凸によって形成されるバリアを克服することはできない。従って、張力点が形成され、接着剤と被着材との界面上に破損を引き起こし、こうして接合性能を損なうこととなる。
【0011】
接着剤は、構造用接着剤と非構造用接着剤とに分類することができる。構造用接着剤という表現は一般に、それらの全体有効寿命の全体にわたって不変のままであり、かつ、高い剪断強度(ASTM D−1002規格に従って、典型的には7.0MPa超)を有し、そして厳しい気候に対して良好な耐性を有する接着剤を表すために用いられる。この種の接着剤では、接合を受ける材料間の凝集力が、その優秀さの尺度である決定的に重要な特性である。構造用接着剤には、エポキシ、ウレタンおよびアクリルなどの熱硬化性樹脂ベースのものが含まれる。
【0012】
構造用接着剤と比較して、非構造用接着剤は、材料接合剤としてより低い凝集力とより短い寿命とを有する。前記接着剤は通常、弱い基材の一時的固定または接合のために使用される。それらは容易に塗布することができ、素速く付けられ、かつ、最終接合において中レベル(7.0MPa未満)の凝集力を必要とする高速の接合ライン、操作で、および、それらが厳しい気候に対して相対抵抗を示すので、より穏やかな環境使用条件で使用される。最も一般的なタイプの非構造用接着剤は、PSA(感圧接着剤)、コンタクト接着剤、熱可塑性樹脂およびエラストマーエマルジョンならびにホットメルト接着剤(粘着性を持つか持たないかのいずれかであり、かつ、それらが固化するにつれて耐性を取得する、キャスト状態で塗布される熱可塑性ポリマーをベースとする、固体接着剤である)である。
【0013】
ポリマー材料をベースとする接着剤は、剪断強度に加えて、剥離強度、耐クリープ性および制御された粘度を持たなければならない。
【0014】
接着組成物では、エラストマーおよび接着エンハンサー樹脂が一般に2つの重要な成分である。SBRゴムは、接着特性に有利に働く粘着付与剤の組み込みを必要とする。
【0015】
接着エンハンサー樹脂は通常、松やに(ピッチ)およびその誘導体、炭化水素およびテルペン樹脂などの、天然起源の樹脂であり、それらは、選択されたエラストマーの濃度と比べて100〜300phr(百ゴム当たり)の範囲の濃度で存在する。
【0016】
接着組成物は、水性ベースを有するものまたは溶剤ベースを有するものに分類される。溶剤ベース接着剤は一般にエラストマーを、石油部分からの脂肪族または芳香族炭化水素溶剤、塩素化またはクロロフッ素化溶剤、エステルおよびケトンに溶解させることによって製造される。
【0017】
一般に、スチレン−ブタジエンコポリマー(SBR)種のエラストマーのために使用される溶剤は、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタンなどの脂肪族炭化水素;ならびにトルエン、ベンゼン、およびo−キシレンなどの芳香族炭化水素である。
【0018】
これらの成分に加えて、充填材料、酸化防止剤、顔料、殺真菌剤、発泡防止剤、可塑剤、湿潤剤などのような、他の添加剤もまた使用される。
【0019】
典型的には、水性ベースまたは溶剤ベースのいずれかを有する最終接着剤は、約3〜約30重量%の選択されたエラストマーを含有する。
【0020】
一般に、ポリマーは、乳化、懸濁、溶液または塊状重合によって製造することができる。しかしながら、乳化重合および懸濁技法が、他の技法と比較したときに、反応媒体の粘度調整の容易さおよびモノマーの最高転化率のために最も多く用いられる。重合は、バッチプロセス(batch process)、連続プロセス(continuous process)または、セミ連続バッチフィードプロセス(semi-continuous batch feed process)によって実施することができ、プロセスの過程の間、1つ以上の反応成分を加えることができる。反応温度は通常、約−10℃〜100℃範囲に、好ましくは5℃〜80℃の範囲にある。重合は、空気または酸素の不存在下に行われるべきである。
【0021】
水性乳化重合は、スチレン−ブタジエンコポリマー(SBR)を製造するために好ましくは用いられる技法である。乳化重合は、過酸化ベンゾイル、ジクミルペルオキシド、t−ブチルペルオキシド、クミルヒドロペルオキシド、p−メンタンヒドロペルオキシドなどのような有機過酸化物およびヒドロペルオキシド;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソブチルアミジンなどのようなアゾ化合物;過硫酸アンモニウム、カリウムおよびナトリウムなどの、過硫酸塩;ならびに紫外線などのフリーラジカル発生剤を用いて開始させることができる。通常、フリーラジカルを起動するまたは発生させる化合物は、レドックス系、またはベンゾフェノンおよびジアゾ有機化合物などの、感光剤と共に紫外線と組み合わせられる。
【0022】
典型的な乳化重合は、レドックス系、通常は無機塩を挿入された(tamponed)、酸または塩基で所望のpH値に調整された水、およびまた活性の陰イオン性、陽イオン性または非イオン性湿潤剤を含む、過硫酸塩または有機過酸化物を開始剤として使用する。乳化重合に関する従来技術は反応の任意の成分として連鎖移動剤の使用を開示していることもまた指摘されなければならない。通常使用される試剤は、例えば、メルカプタンである。
【0023】
乳化重合の最終生成物はラテックスの形態にあり、ゴムまたは固体ポリマーを得ることが望まれるときには凝固プロセスを受けなければならない。典型的な凝固プロセスは、例えば、硫酸マグネシウム、塩素酸カルシウム、メタノールおよびイソプロパノールなどの、多価金属塩およびアルコールを使用する。凝集技法もまた用いられる。得られたポリマーは通常洗浄され、乾燥される。
【0024】
一般に、合成コポリマーブタジエン・スチレン(SBR)エラストマーはそれ自体、ある種の工業分野向けに十分に好適な接着および凝集特性を持たず、そのため必要とされる性能を達成するために変性されなければならない。
【0025】
英国特許出願第2,137,212号明細書は、
(a)全活性固形分の10重量%〜45重量%のレベルでスチレンと、
(b)全活性固形分の40重量%〜90重量%のレベルでブタジエンと、
(c)全活性固形分の0重量%〜20重量%のレベルで、アクリロニトリル、メチルメタクリレート、酢酸ビニル、イソプレンもしくはアルキルラジカル中に3〜8個の炭素原子を有するアルキルアクリレート、または任意のアクリルモノマーから選択される、他のモノマーと、
(d)全活性固形分の5重量%〜55重量%のレベルで合成接着エンハンサー樹脂またはロジン誘導体;ならびに1つ以上の乳化剤および重合開始剤を含有する水溶液の接着エンハンサー(d)の存在下に重合するモノマー(a)、(b)および任意選択的に(c)と
を含有する混合物の形成を含む変性ポリマーの安定な接着剤分散系の製造方法を記載している。
本コポリマーの製造のための重合反応は、乳化重合で典型的に用いられる温度および圧力で、シングル-ステッププロセス(single-step process)で実施される。使用される乳化剤は、アルキルフェノール、脂肪酸またはアルコールのエチレンオキシド誘導体、ラウリル硫酸ナトリウム、アラルキルフェノール、脂肪酸または脂肪族アルコールの硫酸化またはスルホン化エチレンオキシドまたはプロピレンオキシド誘導体などの、表面張力を低下させる任意の化合物であってもよいが、しかしながら、必ずしも、ロジン石鹸である必要はない。重合の最終生成物は、ラベルおよび接着テープ向けの一般用途の感圧接着剤(PSA)を形成するために使用することができる。英国特許第2,137,212号明細書に述べられている実施例によれば、平均してスチレンの百分率は12.5%、ブタジエンの百分率は37.5%、およびロジンエステル誘導体の百分率は50%の範囲にある。しかしながら、前記文献は、エラストマーまたは最終接着剤の粘度調整も、履物および家具工業での用途も取り上げていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0026】
【特許文献1】英国特許出願第2,137,212号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明は、ラテックスの形態または凝固ゴムの形態のいずれかで、多数の最終用途に使用される、優れた接着および凝集特性を有する新規スチレン−ブタジエンコポリマー(SBR)を記載する。本出願人によって開発された新規コポリマーは、45〜75%の範囲の高いスチレン濃度、および85〜150の範囲の高いムーニー粘度を呈し、コンタクト接着剤および感圧接着剤を製造するために特に有用である。
【0028】
本発明のSBRコポリマーの使用は、優れた特性を接着組成物に提供し、PVC、熱可塑性ゴム(TR)、皮革、再構成皮革、木材、発泡体、発泡ポリスチレン、ロックウール、ガラスウール、亜鉛めっき基材、コンクリートなどのような、様々な基材の接合に改善された性能を保証する。本発明はまた、コストを削減するニーズを満たすことを意図され、とりわけ、家具および履物工業向けの優れた代替手段を提供する。
【0029】
ホット乳化重合法、界面活性剤の好適な選択、コポリマーでのスチレンのより高い濃度および増加したムーニー粘度によって、接着組成物の接着および凝集特性の極大化をもたらし、その結果として、履物および家具工業向けの優れた代替手段としての前記組成物の適用をもたらすスチレン−ブタジエンコポリマー(SBR)を得ることが可能であることが意外にも発見された。
【0030】
本発明はまた、高温での水性乳化重合;接着剤として働く、酸形態でスチレン−ブタジエンコポリマー中に組み込まれる、樹脂石鹸種の界面活性剤の使用;85〜150の範囲でのムーニー粘度および45〜75%の範囲でのスチレン含有率の調整を同時に含む、SBRコポリマーの取得方法を保護することを意図される。
【0031】
ホット水性乳化重合法は通常、40℃〜65℃、好ましくは45℃〜60℃の範囲の温度で実施される。ムーニー粘度は好ましくは、85〜150、より好ましくは100〜130の範囲に維持されるべきである。全固形分は20〜40%、好ましくは22〜30%の範囲にあり、総スチレン含有率は35〜75、好ましくは45〜65、より好ましくは50〜60の範囲にある。
【0032】
本発明によれば、差異を有する接着および凝集特性を有するSBRコポリマーを製造するための乳化重合法は、次の工程:
1 反応器をガス窒素でパージして、反応の開始および展開のプロセスを阻害するであろう酸素を媒体から完全に除去する工程と、
2 40℃〜60℃の範囲の温度に予熱された乳化剤を加える工程と、
3 モノマー(スチレンおよびブタジエン)と連鎖移動剤とを加える工程と、
4 予め調製されたフリーラジカル開始剤溶液を加える工程と、
5 ムーニー粘度が85〜150の範囲内に調整され、そして全固形分が20〜40%の範囲に維持される、SBRコポリマーラテックスが形成されるまで40℃〜65℃の範囲の温度で重合させる工程と、
6 モノマーの60%〜80%転化後に、反応停止剤を加えることによって重合を停止させる工程と、
7 未反応のブタジエンおよびスチレンモノマーを除去する工程と、
8 任意選択的に、無機塩および酸の水溶液などの、凝固剤を凝固容器に加えることによってラテックスを凝固させる工程と、
9 酸形態で組み込まれた、界面活性剤である樹脂石鹸を含有する、前記SBRコポリマーを洗浄しそして乾燥させる工程と
を含むことを特徴とする。
【0033】
乳化剤は樹脂酸と他の成分との混合物であり、密閉容器で調製される。使用される水は、イオンの存在が界面活性剤または乳化剤の不溶化を引き起こすかもしれず、それによって反応進行の狂いおよび/または形成ラテックスの不安定化が起こるかもしれないので、脱塩水である。水は、前記界面活性剤の添加の前に60℃〜70℃に予熱され、こうして界面活性剤の溶解動力学特性を改善する。前記界面活性剤は、モノマーの百部当たり2.0〜8.0部(phm)の範囲で、好ましくは4.0〜6.0phmの範囲で存在する。前記界面活性剤が完全に可溶化した後、分散剤が、その完全な可溶化まで加えられる。
【0034】
スルホコハク酸ジオクチル塩である分散剤は、形成ラテックスを安定化させる働きをし、0.1〜2.5phm、好ましくは0.7〜1.5phmの範囲の濃度で存在する。最後に、0.2〜1.5phm、好ましくは0.5〜1.0phmの範囲の濃度でのpH緩衝剤が加えられる。リン酸カリウム、酢酸ナトリウムおよび炭酸水素ナトリウムが最も広く利用され、本発明にとって好ましい化合物である。乳化混合物の最終pHは10〜11.5に調整されなければならない。一般に、リン酸がpH低下のために、そして水酸化ナトリウムがpH上昇のために使用される。前記乳化混合物は、60〜70℃の温度に維持される。
【0035】
本発明の方法に使用することができる、フリーラジカル発生剤は、当該技術分野で広く知られるものである。本発明に従った、フリーラジカル発生剤の濃度は0.015〜1.5phm、好ましくは0.1〜0.8phmの範囲にある。
【0036】
連鎖移動剤は、0.01〜1.0phm、好ましくは0.05〜0.6phm、より好ましくは0.1〜0.2phmの量で反応混合物中に存在し、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−オクチルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、トリデシルメルカプタン、テトラデシルメルカプタン、ヘキサデシルメルカプタンなど、およびそれらの混合物などの、アルキルおよび/またはアラルキルメルカプタンから選択される。好ましい連鎖移動剤はt−ドデシルメルカプタンおよびn−ドデシルメルカプタンである。
【0037】
本発明の方法に使用される連鎖停止剤は、従来の重合法に典型的に使用されるものである。前記連鎖停止剤は、0.015〜15phm、好ましくは0.1〜8phmの範囲の濃度で存在する。
【0038】
反応器で形成された生成物はラテックスであり、必要であれば、固体ポリマーになるために凝固プロセスにかけられなければならない。前記凝固プロセスは、2以上の原子価を有する金属の塩の添加からなり、好ましい塩は塩化カルシウム、塩化マグネシウムまたは硫酸アルミニウムである。前記塩は界面活性剤を不溶化し、それによって粒子を不安定化させ、前記粒子間の合体を増進する。鉱酸と1価の塩との、例えば、硫酸と塩化ナトリウムとの混合物もまた使用されてもよい。凝固の後、ポリマーは洗浄され、乾燥される。典型的には、凝固の前に、酸化防止剤がポリマーを保護するために添加される。
【0039】
こうして、優れた接着および凝集特性を有する、新規スチレン−ブタジエンコポリマー(SBR)が提供される。それらは、ラテックスの形態または凝固ゴムの形態のいずれかで、多数の最終用途に使用される。本出願人によって開発された新規コポリマーは、45〜75%の範囲の、高濃度のスチレン、および85〜150の範囲の高いムーニー粘度を有し、コンタクト接着剤および感圧接着剤を製造するのに特に有用である。
【0040】
本発明はまた、総スチレン含有率が高く、そしてムーニー粘度が高く、接着エンハンサー乳化系の存在下でホット重合された本発明のスチレン−ブタジエンコポリマー(SBR)で調合される接着組成物であって、とりわけ、皮革およびその人工物、木材、家具、民間建築物、履物の分野での用途向けを意図される接着組成物を記載する。
【0041】
本出願の接着組成物は、8〜20%、好ましくは12〜16%の本出願人の発明に定義されるようなSBRと;8〜24%の粘着付与剤と;0.5〜1.5%の保護剤と、54〜84%の溶剤とからなる。
【0042】
粘着付与剤、保護剤および溶剤は、一般に接着剤工業で使用されるものである。
【実施例】
【0043】
下に述べる実施例は、SBRコポリマーおよび本発明の対象である接着組成物の取得方法を例示することを意図する。また、接着組成物の最終特性を、本発明に最も近い従来技術、特に英国特許出願公開第2173212A号明細書によって開示されたものと比較して実証することを意図する。
【0044】
[実施例1−本発明]
[I−SBRコポリマーの製造]
この実験では、SBRコポリマーを、本発明の乳化重合技法を用いて合成した。減圧の(約600mmHg)の、20リットル容量反応器中へ、6,150gの水、7%で水中に乳化された2,950gの樹脂石鹸、3,150gのスチレン、1,850gのブタジエンおよび5gのn−ドデシルメルカプタンを加えた。反応混合物を約50℃の温度に加熱し、攪拌下に保った。加えられるさらなる原料は、550gの4%過硫酸カリウムの水溶液を含んでいた。重合反応を、21〜22%のラテックスの全固形分が得られるまで50℃の一定温度に約10時間保ち、次に580gの4%n−イソプロピルヒドロキシルアミンの水溶液を加えた。55%の総スチレンおよびムーニー粘度120を示す、ラテックスのサンプルを、従来技法を用いて凝固させ、前記の通り乾燥させた。
【0045】
[II−SBRラテックスの凝固]
固体エラストマーを得るために、上の工程Iで得られたSBRラテックスを凝固させた。
【0046】
スチーム加熱のためのケーシング(casing)を有する、20リットル容量ステンレススチール容器中へ、2,000gのSBRラテックスを入れた。ラテックスを、機械的攪拌下で約65℃に加熱し、乾燥ベースのゴム中に約1重量%の酸化防止剤を得るように、フェノール型酸化防止剤を加えた。激しい攪拌下で、600mlの20%塩素酸ナトリウム溶液を加え、次に凝固剤(0.4%の水中の硫酸溶液)を、ゴムの塊が形成するまでゆっくり加えた。いったん凝固プロセスが完了してしまうと、凝固残渣を取り去るために脱塩水での洗浄を始めた。次に、塊を、65℃で18時間かまたはゴム塊中に水分が全く残存しなくなるまで強制空気循環で定温放置乾燥するためのステンレススチール篩に入れた。
【0047】
[実施例2−接着組成物の製造]
[接着組成物A−本発明の対象のSBR ]
この組成物は、ホット重合され、55%の総スチレン、ムーニー粘度120およびポリマー中に組み込まれた5%の樹脂酸を有する、実施例1で得られたSBRの使用を含んでいた。
【0048】
周囲温度(約24℃)で、ステンレススチール316L製の、密閉Cowles型ミキサーでの、この接着剤の製造は、79%のトルエンを含み、その後、媒体を攪拌した。この攪拌は、接着剤製造プロセスの全体にわたって続けた。溶剤を加えた後、酸化防止剤(フェノール化合物およびホスフェート)の1%の混合物を加えた。次に、直径が約3mmの大きさである小片で、予めミルにかけた、10%の実施例1のSBRを加えた。コポリマーを加えた後、約25℃の温度が維持されることを確実にするためにシステムを冷却した。
【0049】
次に、その軟化点が約80℃である、10%のグリセロールエステルを加え、90分間均質化させた。完全な均質化を達成するために、システムを攪拌下に240分間保った。この時間の終わりに、サンプルを集めて粘度およびその後のその調節を測定した。
【0050】
接着剤の最終特性を表1に明示する。
【0051】
[比較例の接着組成物A1−英国特許出願公開第2173212A号明細書に基づく従来SBR]
この実施例は、20〜30%の範囲の総スチレン含有率および45〜55の範囲の典型的なムーニー粘度を有するコポリマーの使用を開示している英国特許出願公開第2173212A号明細書に記載されている実施例に基づいて、調合物を再製造した。
【0052】
周囲温度(約24℃)で、ステンレススチール316L製の、密閉Cowles型ミキサーでの、この接着剤の製造は、79%のトルエンを含み、その後、媒体を攪拌した。この攪拌は、接着剤製造プロセスの全体にわたって続いた。溶剤を加えた後、酸化防止剤(フェノール化合物およびホスフェート)の1%の混合物を加えた。次に、直径が約3mmの大きさである小片で、予めミルにかけた、23.5%の総スチレン含有率および52のムーニー粘度を有する、10%のSBRを加えた。コポリマーを加えた後、約25℃の温度が維持されることを確実にするためにシステムを冷却した。
【0053】
次に、その軟化点が約80℃である、10%のグリセロールエステルを加え、90分間均質化させた。完全な均質化を達成するために、システムを攪拌下に240分間保った。この時間の終わりに、サンプルを集めて粘度およびその後のその調節を測定した。
【0054】
接着剤の最終特性を表1に明示する。
【0055】
[接着組成物B−本発明の対象のSBR]
この組成物は、ホット重合され、55%の総スチレン、ムーニー粘度120およびポリマーに組み込まれた5%の樹脂酸を有する、実施例1で得られたSBRを使用した。
【0056】
周囲温度(約24℃)で、ステンレススチール316L製の、密閉Cowles型ミキサーでの、この接着剤の製造は、79%のトルエンを含み、その後、媒体を攪拌した。この攪拌は、接着剤製造プロセスの全体にわたって続いた。溶剤を加えた後、酸化防止剤(フェノール化合物およびホスフェート)の1%の混合物を加えた。次に、直径が約3mmの大きさである小片で、予めミルにかけた、10%の実施例1のSBRを加えた。コポリマーを加えた後、約25℃の温度が維持されることを確実にするためにシステムを冷却した。
【0057】
次に、その軟化点が約140℃である、7%の非反応性テルペン−フェノール樹脂とその軟化点が140℃である、3%の芳香族炭化水素樹脂とを加え、90分間均質化させた。完全な均質化を達成するために、システムを攪拌下に240分間保った。この時間の終わりに、サンプルを集めて粘度およびその後のその調節を測定した。
【0058】
接着剤の最終特性を表1に明示する。
【0059】
[較例の接着組成物B1−英国特許出願公開第2173212A号明細書に基づく従来SBR]
この実施例は、20〜30%の範囲の総スチレン含有率および45〜55の範囲の典型的なムーニー粘度を有するコポリマーの使用を開示している英国特許出願公開第2173212A号明細書に記載されている実施例に基づいているが、本出願人の発明によって好ましい特有の接着エンハンサーの存在下に接着調合物を再製造した。
【0060】
周囲温度(約24℃)で、ステンレススチール316L製の、密閉Cowles型ミキサーでの、この接着剤の製造は、79%のトルエンを含み、その後、媒体を攪拌した。この攪拌は、接着剤製造プロセスの全体にわたって続いた。溶剤を加えた後、酸化防止剤(フェノール化合物およびホスフェート)の1%の混合物を加えた。次に、直径が約3mmの大きさである小片で、予めミルにかけた、10%のSBRを加えた。コポリマーを加えた後、約25℃の温度が維持されることを確実にするためにシステムを冷却した。
【0061】
次に、その軟化点が約140℃である、7%の非反応性テルペン−フェノール樹脂とその軟化点が140℃である、3%の芳香族炭化水素樹脂とを加え、90分間均質化させた。完全な均質化を達成するために、システムを攪拌下に240分間保った。この時間の終わりに、サンプルを集めて粘度およびその後のその調節を測定した。
【0062】
下に、本出願人は、本発明の対象であるSBRコポリマーから調合された接着剤と従来技術に教示されている調合物との最終特性の比較表を示す。
【0063】
【表1】
【0064】
表1の分析は、凝集特性に有利に働く、高含有率の総スチレンおよび高いムーニー粘度によってもたらされる相乗効果を明らかにする。さらに、コポリマー中の分岐の存在に関与する、コポリマー中に組み込まれた樹脂酸の存在および高い重合温度は、接着特性に有利に働く。全てのこれらの因子を一緒に組み合わせることにより、従来のSBRで得られる結果よりはるかに優れた、剥離強度および剪断強度試験の優れた結果に反映された、接着組成物の高い性能が提供された。
【0065】
表1のデータの比較から、接着特性/凝集特性のバランスが、これらの4つの重要なパラメーター(総スチレンの高い含有率、高いムーニー粘度、コポリマー中に組み込まれた樹脂酸の存在および、重合温度によって規定される分岐の調節)を結び付ける本発明の特有の分子設計によって、初めて達成できたと容易に指摘することができる。