【実施例】
【0021】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに説明する。
多角形型架空電線の一種である多角形型低風圧電線のうち、直径18mm〜37.2mmまでの電線6種類(表1参照)に対して粉体の増摩剤を添加した増摩グリスを用いた実験を行った。
まず、多角形型低風圧電線の鋼心部について考慮して摩擦力を高くし、さらに(1)増摩剤の種類、(2)増摩剤のサイズを検討して表面に傷が生じない方法を創出した。
ここで使用した増摩剤は、炭化ケイ素、炭酸カルシウム、タルク(との粉)、シリカゲルの4種類であり、そのサイズは6〜70μmである。
【0022】
以下に具体的な手順について説明する。
多角形型架空電線の片側端末に対し次の処理を行った。端末から1.2mまでの多角形型架空電線に対して、外層より各層を解き、鋼心部を露出させる。
上記の方法で増摩グリスを塗布した後、アルミ素線をより合わせて元の架空電線状態に戻す。このより合わせ時に各素線間に隙間が生じないようにする。なお、増摩剤入り増摩グリスを塗布するのは鋼心部の外層までである。より上がった多角形型架空電線の増摩剤入り増摩グリスの塗布部分に既存のボルト式クランプを取り付け、電線把持力を調べるため引張強度試験を実施した。具体的には、引張試験機で電線端末−電線−ボルト式クランプ間に引張荷重をかけ、増摩グリスの鋼心部とアルミ素線間の把持力向上を確認した。
【0023】
<検討1>
(鋼心部の材質)
増摩剤として高い硬度を持つ炭化ケイ素(SiC)の粉末を用い、鋼心部を亜鉛メッキ鋼線で形成した多角形型低風圧電線を使用した。そして、上述の手順に従って、鋼心部とアルミ素線の間に炭化ケイ素を添加したグリスを介在させ、把持力評価試験を行った。
【0024】
把持力評価試験の結果、ボルト締め型クランプによる電線把持力は高くなったが、従来のACSR電線と同じ把持力は確保できなかった。試験後の電線を解体し、AC線と鋼心部の状況を見ると、増摩剤の食い込みは認められるが鋼心部の亜鉛メッキ鋼線上のメッキ層で(メッキ層の)滑りが発生してしまい、期待した把持力増加が得られないことがわかった。
そこで、鋼心部をアルミクラッド型のAC線とし、前述と同じ条件で試験を行い、把持力評価試験を実施して次の結果を得た。その結果、アルミクラッド部分に増摩剤が食い込んで把持力が上昇し、ボルト式クランプの電線把持規定値を満たすことがわかった。
この結果から、増摩剤による電線把持力増加の方法では、鋼心部をAC線化する必要があることがわかった。しかしながら、AC線の表面には増摩剤の微視的な傷が付き、AC線の耐腐食効果を落とすことが懸念されるため、添加粉体が硬い場合、粉体直径を十分に注意して決める必要がある。そこで、以下に示す検討2を行った。
【0025】
<検討2>
(増摩剤の平均直径及び増摩剤のグリスとの重量比)
(実施例1)
増摩剤として炭化ケイ素を用い、炭化ケイ素の平均直径を15μm、40μm、70μmとし、増摩剤とグリスの混合重量比(増摩剤/(グリス+増摩剤))をそれぞれ10%、15%、20%、30%、40%とした。そして、上記と同様の方法で増摩グリスを塗布し、把持力評価試験を行った。把持力評価試験の結果を下記表1に示す。なお、多角形型架空電線は、表1に示す通り160mm
2〜810mm
2の6種類をそれぞれ使用した。
その結果、炭化ケイ素は、非常に固い材料のため、多角形型架空電線の把持力は上昇し、混合重量比が15%〜40%の場合に所定の把持力を満足した。ボルト式クランプで多角形型架空電線を把持した部位の解体を行い、AC線の表面に付く傷を顕微鏡観察と塩水噴霧試験で調査したが、アルミ層を突き破る層は認められなかった。
ただし、混合重量比が40%を超えても同様の特性を得ることができたが、グリスの作成時の練合わせ作業に著しく時間を要すること、また添加物の増加に伴う費用増加が生じるため実用的ではない。
【表1】
【0026】
(実施例2)
増摩剤として炭酸カルシウムを用い、炭酸カルシウムの平均直径を3μm、6μm、10μmとし、増摩剤とグリスの混合重量比(増摩剤/(グリス+増摩剤))を10%、15%、20%、30%、40%とした。そして、上記と同様の方法で増摩剤入りグリスを塗布し、把持力評価試験を行った。把持力評価試験の結果を下記表2に示す。
その結果、炭酸カルシウムは非常に柔らかい材料であるが、混合重量比30%を超えると多角形型架空電線の把持力が必要把持力を満足した。ボルト式クランプで多角形型架空電線を把持した部位の解体を行いAC線の表面に付く傷を顕微鏡で観察したが、アルミ層を突き破る傷は認められなかった。
なお、混合重量比が40%を超えても同様の特性を得ることができたが、グリスの作成時の練合わせ作業に著しく時間を要すること、また添加物の増加に伴う費用増加が生じるため実用的ではない。
【表2】
【0027】
(実施例3)
増摩剤としてタルク(との粉)を用い、タルクの平均直径を10μm、22μm、32μmとし、増摩剤とグリスの混合重量比(増摩剤/(グリス+増摩剤))を10%、15%、20%、30%、40%とした。そして、上記と同様の方法で増摩剤入りグリスを塗布し、把持力評価試験を行った。把持力評価試験の結果を下記表3に示す。
その結果、このケースでもタルクは非常に柔らかい材料であるものの、混合重量比が30%を超えると、把持力が必要把持力を満足した。
なお、混合重量比が40%を超えても同様の特性を得ることができたが、グリスの作成時の練合わせ作業に著しく時間を要すること、また添加物の増加にともなる費用増加により実用的ではない。
また、ボルト式クランプで多角形型架空電線を把持した部位の解体を行い、AC線の表面に付く傷を顕微鏡で観察したが、アルミ層を突き破る傷は見られなかった。
【表3】
【0028】
(実施例4)
増摩剤としてシリカゲルを用い、シリカゲルの平均直径を8μm、22μm、36μm、増摩剤とグリスの混合重量比(増摩剤/(グリス+増摩剤))を10%、15%、20%、30%、40%としたものを用いた。そして、上記と同様の方法で増摩剤入りグリスを塗布し、把持力評価試験を行った。把持力評価試験の結果を下記表4に示す。
その結果、シリカゲルも非常に柔らかい材料であるが、このケースでも混合重量比が30%を超えると、把持力が必要把持力を満足した。
なお、混合重量比が40%を超えても同様の特性を得ることができたが、グリスの作成時の練合わせ作業に著しく時間を要すること、また添加物の増加にともなる費用増加により実用的ではない。
ボルト式クランプで多角形型架空電線を把持した部位の解体を行いAC線の表面に付く傷を顕微鏡で観察したが、アルミ層を突き破る傷は認められなかった。
【表4】
【0029】
(比較例)
増摩剤を添加せずに、上記と同様の方法で増摩剤を添加しないグリスを塗布し、把持力評価試験を行った。把持力評価試験の結果を下記表5に示す。
その結果、160mm
2〜610mm
2の多角形型架空電線で必要把持力を得ることができなかった。また、鋼心部とアルミ素線との間で滑り込みが発生した。
【表5】
【0030】
以上の結果から明らかなように、AC線と、アルミ素線との間に、粉体の増摩剤として平均直径が15〜70μmの炭化ケイ素で、増摩剤とグリスの混合重量比が増摩剤/(グリス+増摩剤)で15%〜
40%となるように混合した増摩グリスを介在させた本発明は、粉体の増摩剤を添加しないグリスを使用する比較例に比べて、ボルト式クランプ等で多角形型架空電線を把持した場合に、アルミ素線とAC線との間の摩擦が大きくなり、AC線の動きが抑制される。その結果、アルミ素線とAC線とが一体化し、高い電線把持力を得ることができる。
【0031】
また、AC線と、アルミ素線との間に、粉体の増摩剤として平均直径が6〜10μmの炭
酸カルシウムで、増摩剤とグリスの混合重量比が増摩剤/(グリス+増摩剤)で30%〜40%となるように混合した増摩グリスを介在させた本発明は、粉体の増摩剤を添加しないグリスを使用する比較例に比べて、ボルト式クランプ等で多角形型架空電線を把持した場合に、アルミ素線とAC線との間の摩擦が大きくなり、AC線の動きが抑制される。その結果、アルミ素線とAC線とが一体化し、高い電線把持力を得ることができる。
【0032】
また、AC線と、アルミ素線との間に、粉体の増摩剤として平均直径が22〜32μmのタルク(との粉)で、増摩剤とグリスの混合重量比が増摩剤/(グリス+増摩剤)で30%〜40%となるように混合した増摩グリスを介在させた本発明は、粉体の増摩剤を添加しないグリスを使用する比較例に比べて、ボルト式クランプ等で多角形型架空電線を把持した場合に、アルミ素線とAC線との間の摩擦が大きくなり、AC線の動きが抑制される。その結果、アルミ素線とAC線とが一体化し、高い電線把持力を得ることができる。
【0033】
また、AC線と、アルミ素線との間に、粉体の増摩剤として平均直径が22〜36μmのシリカゲルで、増摩剤とグリスの混合重量比が増摩剤/(グリス+増摩剤)で30%〜40%となるように混合した増摩グリスを介在させた本発明は、粉体の増摩剤を添加しないグリスを使用する比較例に比べて、ボルト式クランプ等で多角形型架空電線を把持した場合に、アルミ素線とAC線との間の摩擦が大きくなり、AC線の動きが抑制される。その結果、アルミ素線とAC線とが一体化し、高い電線把持力を得ることができる。