【実施例】
【0026】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。なお本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0027】
<放熱量の測定>
カトーテック社製、商品名“KES−F7精密迅速熱物性測定装置サーモラボII”を使用して測定した。保温性計測部の下に電子天秤を設置し、放熱量を計測しながら、重量変化の履歴も記録した。温度20℃、相対湿度65%の条件において、試料全体が均一に湿潤するように水1gを付与して、温度40℃に設定した保温性計測部に設置し、放熱量と水分変化量を測定した。試料の大きさはタテ100mm,ヨコ100mmとした。
【0028】
<抗菌性の測定>
JIS L 1902 2008菌液吸収法に従い、評価を行った(供試菌:黄色ブドウ球菌)。試料は洗濯前と洗濯10回後の2種類を用意した。洗濯方法は、JIS L 0217 103号に従った(但し、JAFET標準洗剤を使用)。
【0029】
<ジルコニウムの定量>
固定したジルコニウム化合物の量を調べる方法として、元素分析付高分解能電界放出型走査型電子顕微鏡による分析がある。この装置には、高分解能電界放出形走査電子顕微鏡及びエネルギー分散型X線分析装置から構成されており、繊維表面の元素分析及び定量計測ができる。ジルコニウム化合物が固定した繊維に炭素を蒸着させ、X線分析を行う事で繊維表面に存在する元素のスペクトルが計測でき、そのピーク値から各元素の重量割合を求める事ができる。この方法によって本実施例の繊維シートを分析し、繊維表面上に固着した物質の各元素の重量割合を測定し、ジルコニウム元素の重量割合を算出する。
【0030】
<吸水性の測定>
吸水性はJIS L1907滴下法で測定した。測定綿は裏面とした。
【0031】
<洗濯方法>
洗濯方法はJIS L0217 103に従った。
【0032】
(実施例1)
ナイロン−6からなるマルチフィラメント(トータル繊度78dtex,繊維本数48本)を丸編み機でニッティングした編物(目付け130g/m
2)5kgをウィンス染色機にセットして浴比1:20となるように水を100kg入れた。その後、次の薬剤を加えた。
(1)水溶性ジルコニウム化合物として酢酸ジルコニウムを6%owf
(2)エポキシ樹脂架橋剤として共栄社化学社製、商品名“エポライト40E”を10%owf
(3)コラーゲンとして旭陽化学工業社製、商品名“フィシュコラーゲン”を2%owf
(4)キトサン10%owf
(5)その他:脱気剤としてCIBA社製、商品名“ALBEGAL FFA”1%owf、均染剤として日華化学社製、商品名“ニッカサンソルト7000”6%owf、触媒としてホウフッ化亜鉛3%owf,ギ酸3%owf
【0033】
2℃/分で130℃まで昇温して60分間加熱循環させた。次いで80℃まで除冷して排液し、常法で水洗し、ソーピングと水洗をした。
【0034】
その後、常法により染色し、次いで柔軟剤を用いて柔軟加工をした。柔軟剤として日華化学社製、商品名“ナイスポールPR9000”を2%owf使用した。染色後、同じ浴内に柔軟剤を入れ、80℃を保ち、その後温度を下げ、廃液を行った。
【0035】
以上により得られた加工品と、上記処理をしていない編物(比較例1品)を放熱量と水分量変化(速乾性)の測定をした。結果を表1と
図3に示す。表1内の放熱量と水分量変化は計測開始1分後から4分後までの安定した状態の平均値である。
【0036】
【表1】
【0037】
表1に示すように実施例1品は比較例1品より放熱量が0.98 J/sec高かった。水1gの蒸発量は540calであり、この値から蒸発熱を計算すると実施例1品は比較例1品より0.76J/sec高かった。実際の放熱量のほうが蒸発熱より高いのは、放熱量測定では必ずしも水の蒸発熱の全部を捕捉して測定できていないからと思われる。しかし放熱量を測定することにより、水分量変化にともなう速乾性の尺度にはなると考えられる。このような理由から、実施例1品は速乾性があるとともに放熱性及び涼感性も高いと評価できる。実施例1品の繊維はSEMで観察すると
図1A,
図1Bであり、比較例1品は
図2A,
図2Bであった。
【0038】
さらに実施例1品と比較例1品の抗菌性を測定すると表2に示すとおりであった。
【0039】
【表2】
【0040】
さらに実施例1品と、現在市販されている夏物衣類商品との比較を行った。比較例として、本出願人の商品“アイスタッチ”経編品、A社の商品a,b,cを取り上げた。放熱量を比較すると次の表3のとおりである。
【0041】
【表3】
【0042】
表3から実施例1品の放熱量が高いことがわかる。
【0043】
(実施例2)
ナイロン−6からなるマルチフィラメント(トータル繊度111dtex,繊維本数60本)を丸編み機でニッティングした編物(目付け140g/m
2)を使用した以外は実施例1と同様とし、比較例として表4に示す条件で処理し、放熱量を測定した。結果を表4に示す。
【0044】
【表4】
【0045】
表4から、実施例2品の組成の編物は放熱量が高いことがわかる。
【0046】
(実施例3)
ナイロン−6からなるマルチフィラメント(トータル繊度111dtex,繊維本数60本)を丸編み機でニッティングした編物(目付け145g/m
2)を使用した以外は実施例1と同様とし、比較例として表5に示す条件で処理し、放熱量を測定した。結果を表5に示す。
【0047】
【表5】
【0048】
表5に示すように、柔軟剤を使用すると放熱量の向上効果が認められ、さらに風合いも良好になった。
【0049】
次に実施例3、比較例4〜5の編物の吸水性を測定した。結果を表6に示す。
【0050】
【表6】
【0051】
表6から明らかなとおり、比較例品に比べて実施例品は吸水が速く、吸水性が高いことがわかる。
【0052】
(実施例4)
実施例1品及び比較例1品を編地シャツとしたものと、さらに比較例6品として目付けが同一のポリエステル100%編地シャツ、比較例7品として目付けが同一の綿100%編地シャツを使用して着用試験をした。着用試験は、健康な20歳台から40歳台の男性10名を選び、8〜9月の最高気温が30℃を超える夏日に前記シャツを着用し、表7に示す項目について5段階評価を行い、平均値を算出した。
【0053】
【表7】
【0054】
実施例1品の着用試験の結果を表8に示す。
【0055】
【表8】
【0056】
比較例1品の着用試験の結果を表9に示す。
【0057】
【表9】
【0058】
比較例6品の着用試験の結果を表10に示す。
【0059】
【表10】
【0060】
比較例7品の着用試験の結果を表11に示す。
【0061】
【表11】
【0062】
以上の着用試験の5段階評価の結果を
図4にまとめて示す。
図4から明らかなとおり、実施例1品の評価はいずれにおいても最も高い評価結果が得られた。
【0063】
(実施例5)
実施例3で得られた編物と比較例5で得られた編物を洗濯10回し、乾燥した後に元素分析付高分解能電界放出型走査型電子顕微鏡により分析した。
図5Aは実施例3で得られた編物の分析データを示すチャートであり、
図5BはZr化合物を固定していない(比較例5:未処理品)編物の分析データである。
図5A−Bから表12に示すデータが算出される。
【0064】
【表12】
【0065】
表12から、ジルコニウムの存在は編物からも分析できることが明らかである。