特許第5705998号(P5705998)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5705998低VOCコーティングのための新規なジ安息香酸エステル系可塑剤/融合助剤のブレンド
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5705998
(24)【登録日】2015年3月6日
(45)【発行日】2015年4月22日
(54)【発明の名称】低VOCコーティングのための新規なジ安息香酸エステル系可塑剤/融合助剤のブレンド
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20150402BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20150402BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20150402BHJP
   C09D 133/00 20060101ALI20150402BHJP
   C09D 131/04 20060101ALI20150402BHJP
   C09D 127/08 20060101ALI20150402BHJP
   C09D 163/00 20060101ALI20150402BHJP
   C09D 161/10 20060101ALI20150402BHJP
   C09D 161/28 20060101ALI20150402BHJP
   C09D 129/00 20060101ALI20150402BHJP
【FI】
   C09D201/00
   C09D5/02
   C09D7/12
   C09D133/00
   C09D131/04
   C09D127/08
   C09D163/00
   C09D161/10
   C09D161/28
   C09D129/00
【請求項の数】9
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2013-547647(P2013-547647)
(86)(22)【出願日】2011年12月28日
(65)【公表番号】特表2014-506283(P2014-506283A)
(43)【公表日】2014年3月13日
(86)【国際出願番号】US2011067584
(87)【国際公開番号】WO2012092370
(87)【国際公開日】20120705
【審査請求日】2013年8月21日
(31)【優先権主張番号】61/460,329
(32)【優先日】2010年12月30日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/460,330
(32)【優先日】2010年12月30日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/464,731
(32)【優先日】2011年3月8日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512116941
【氏名又は名称】エメラルド・カラマ・ケミカル・エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】Emerald Kalama Chemical,LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100109830
【弁理士】
【氏名又は名称】福原 淑弘
(74)【代理人】
【識別番号】100088683
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100095441
【弁理士】
【氏名又は名称】白根 俊郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100140176
【弁理士】
【氏名又は名称】砂川 克
(72)【発明者】
【氏名】アレント、ウィリアム・ディー.
(72)【発明者】
【氏名】マクブライド、エミリー
【審査官】 ▲吉▼澤 英一
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−516667(JP,A)
【文献】 特表2010−508420(JP,A)
【文献】 特表2010−504402(JP,A)
【文献】 特表2001−506310(JP,A)
【文献】 特表2012−502138(JP,A)
【文献】 特開2006−036878(JP,A)
【文献】 特表2001−512150(JP,A)
【文献】 米国特許第07071252(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00−201/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーコーティング組成物に使用される低VOC融合助剤トリブレンド添加剤であって、
トリブレンド組成物の全重量に基づいて、
.10重量%〜90重量%の範囲の量で存在するジ安息香酸ジエチレングリコールと、
.1重量%〜50重量%の範囲の量で存在するジ安息香酸ジプロピレングリコールと、
.10重量%〜90重量%の範囲の量で存在するジ安息香酸1,2−プロピレングリコールと
を含む、トリブレンド添加剤。
【請求項2】
ジ安息香酸ジエチレングリコールが、少なくとも60重量%の量で存在し、
ジ安息香酸ジプロピレングリコールが、少なくとも15重量%の量で存在し、
かつ、
ジ安息香酸1,2−プロピレングリコールが、少なくとも20重量%の量で存在する、
請求項1に記載のトリブレンド添加剤。
【請求項3】
前記ブレンドが、可塑剤トリブレンドの全重量に基づいて、80重量%の、ジ安息香酸ジエチレングリコールとジ安息香酸ジプロピレングリコールとの混合物であって、DEGDBとDPGDBの比は4:1である混合物、および20重量%のジ安息香酸1,2−プロピレングリコールを含む、請求項1に記載のトリブレンド添加剤。
【請求項4】
低VOCコーティング組成物であって、
a.水性ポリマーエマルション、および
b.ジ安息香酸ジエチレングリコールと、ジ安息香酸ジプロピレングリコールと、ジ安息香酸1,2−プロピレングリコールとのトリブレンドを含む、非フタル酸エステル系の低VOC融合助剤
を含み、
前記融合助剤が、低揮発性を有し、伝統的な低VOC融合助剤である、ジ安息香酸ジプロピレングリコール、ジ安息香酸ジエチレングリコールまたはジ−2−エチルヘキサン酸トリエチレングリコールに対して同等またはより良いウェットエッジ/オープンタイムおよび光沢評価、同等またはより良い耐スクラブ性および耐ブロック性を達成する低VOCコーティング組成物。
【請求項5】
トリブレンドの全重量に基づいて、
ジ安息香酸ジエチレングリコールが、10重量%〜90重量%の範囲の量で存在し、
ジ安息香酸ジプロピレングリコールが、1重量%〜50重量%の範囲の量で存在し、
ジ安息香酸1,2−プロピレングリコールが、10重量%〜90重量%の範囲の量で存在する、
請求項4に記載の低VOCコーティング組成物。
【請求項6】
トリブレンドの全重量に基づいて、
ジ安息香酸ジエチレングリコールが、60重量%を超える量で存在し、
ジ安息香酸ジプロピレングリコールが、15重量%を超える量で存在し、
ジ安息香酸1,2−プロピレングリコールが、20重量%を超える量で存在する、請求項5に記載の低VOCコーティング組成物。
【請求項7】
前記ポリマーエマルションが、ビニルアクリル樹脂、半光沢アクリル、光沢アクリルコポリマーエマルションまたは他のラテックスポリマーエマルションである、請求項4に記載の低VOCコーティング組成物。
【請求項8】
前記水性ポリマーエマルションが、ポリ酢酸ビニルおよびそのコポリマー、例えばエチレン−酢酸ビニル共重合体ポリ塩化ビニリデン;ポリフマル酸ジエチル;ポリマレイン酸ジエチル;ポリビニルブチラール;ポリウレタンおよびそのコポリマー;ポリスルフィド;硝酸セルロース;アルキルメタクリレート、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレートもしくはアリルメタクリレートのポリマー;種々の芳香族メタクリレート、例えば、ベンジルメタクリレートのポリマー;種々のアルキルアクリレート、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレートもしくは2−エチルヘキシルアクリレートのポリマー;種々のアクリル酸、例えば、メタクリル酸のポリマー;ビニルアクリル樹脂;スチレン化アクリル樹脂;アクリル−エポキシハイブリッド;エポキシ樹脂、フェノール−ホルムアルデヒドポリマー;メラミン樹脂;またはそれらの混合物を含む、請求項4に記載の低VOCコーティング組成物。
【請求項9】
a.ラテックス、ビニルアクリル樹脂またはアクリルコポリマーを含むポリマーエマルション、ならびに
b.非フタル酸エステル系融合助剤トリブレンドであって、トリブレンドの全重量に基づいて、
i.80重量%の、ジ安息香酸ジエチレングリコールとジ安息香酸ジプロピレングリコールとの混合物であって、DEGDBとDPGDBの比は4:1である混合物、および
ii.20重量%のジ安息香酸1,2−プロピレングリコール
を含む、低VOCコーティング組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料および他のコーティング組成物の配合に使用される新規な膜形成助剤に関する。特に、本発明は、新規なジ安息香酸エステルトリブレンド組成物、例えば、低VOC含量可塑剤組成物であって、低VOC含量が低く、伝統的な可塑剤/融合助剤組成物に比べて改善された性能特性を有し、したがって、塗料および他のコーティングを配合する周知のエマルション系の使用を容易にする組成物に関する。本発明の新規な膜形成助剤は、限定されるものではないが、ラテックス塗料およびコーティングを含む一般的なエマルションにおいて相溶性で、効率的であり、かつ十分に機能する。
【背景技術】
【0002】
揮発性有機化合物(「VOC」)は、空気中に容易に揮発または蒸発し、そこで、他の元素または化合物と反応して、オゾンを発生し得る炭素含有化合物である。オゾンは、そして次に、大気汚染、ならびにほんの数例挙げるだけで、呼吸障害、頭痛、火傷、涙目および吐き気を含む多くの健康上の懸念を引き起こす。一部のVOCは、腎臓および肝臓損傷のみならず、癌にも関連づけられてきた。
【0003】
VOCは、VOCを使用する製品の製造および適用における塗料およびコーティング産業の特に懸念事項である。塗料およびコーティングの製造におけるVOCの使用は、工場の空気品質不良および有害な化学物質への作業者曝露をもたらす。VOCに曝露される人は、限定されるものではないが、いくつかのタイプの癌、脳機能障害、腎機能障害および他の健康問題を含む、多くの健康問題を来しうる。
【0004】
同様に、有害なVOC蒸気に恒常的に曝露される、VOC含有塗料およびコーティングの塗装工および他の使用者は、健康問題を来たし得る。VOC含有製品は、特に室内適用によってそれらが乾燥するにつれて、空気中に有害なVOCを放出する。室内VOCレベルは、屋外レベルより日常的に10倍高く、塗装直後には最大で1,000倍まで高くなり得る。さらに、VOCレベルは、塗装中およびその後間もなく最高となるが、それらは、数年間滲出し続ける。実際、VOCの50パーセントのみが、最初の年に放出され得る。
【0005】
したがって、製造作業者および最終ユーザを保護するために、規制が実施されてきた。
【0006】
高VOC含量を有する塗料およびコーティングはまた、環境危険物とみなされている。それらは、大気へのVOC排出の、自動車に次ぐ2番目に大きな発生源であり、毎年おおざっぱに110億ポンドを占めている。
【0007】
消費者は、より安全な代替物を要求しており、コーティング配合者は、VOCを低減させる一方で、同時に必要とされる性能特性を有するコーティングを提供する課題と直面し続けている。ほとんどの場合、配合者は、コーティング中に用いられる最も揮発性の成分の量を減少させるか、またはそれを置き換え、これによりVOCの問題はある程度減少するが、妥協した性能をもたらし得る。望ましくは、低VOC含量塗料またはコーティングは、最低でも、比較的高いVOC含量を有する塗料またはコーティングと同等の性能を有すべきである。この目標に向けて、原料供給者は、性能を妥協しない塗料およびコーティングに使用される新規なより低いVOC製品を開発し続けている。
【0008】
コーティング組成物中に使用される通常は揮発性であるが、しばしば非常に必要な成分の一つは、膜形成助剤、すなわち、融合助剤であり、これにより、コストが比較的低い常用のよく認められているラテックスエマルションをコーティング配合者が使用することが可能になる。融合助剤は、分散ポリマーを軟化させ、それらが連続膜を融合または形成することを可能にすることによって、膜形成を促進する。次いで、融合助剤は、膜から部分的または完全に揮発して、膜が、その元の物理的性質、例えば、光沢および耐スクラブ性を回復することを可能にする。融合助剤は、塗料/コーティング膜の特性、例えば、光沢、耐スクラブ性、および耐ブロック性を改善するように選択される。融合助剤はまた、限定することなく、揮発性、混和性、安定性、相溶性、使いやすさ、およびコストを含む、様々な特性に基づいて選択される。伝統的な融合助剤は、非常に揮発性であり、塗料またはコーティングのVOC含量にかなり寄与し得る。
【0009】
比較的低いVOC含量を達成する代替物として、これらの非常に揮発性の膜形成助剤を必要としないポリマーエマルション系が開発されつつある。これらのより新しいエマルション系に用いられるポリマーは、低MFFT(最低膜形成温度)を可能にするために十分柔軟である傾向があるが、ある種の性能パラメータは、しばしば欠点を有することがあり、これらの比較的柔軟なエマルション系は、しばしば高価である。
【0010】
膜形成助剤は、当技術分野で公知である。疎水性膜形成助剤、例えば、工業標準のモノイソ酪酸2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール(TXMB)は、エマルションのポリマーに分配され、適用の融合段階の間にエマルションの分散粒子を軟化させる。次いで、融合助剤は、膜から部分的または完全に蒸発する。本質的に、この「逃散(escaping)」融合助剤は、融合段階で始まり、その後持続した期間続く、膜のVOCにかなり寄与する。これは、そして次に、膜の周囲の大気環境に影響を及ぼし、不快な臭気として現れる可能性がある。
【0011】
これらの問題のために、コーティング産業にとって、揮発性がより少なく、より耐久性のある膜形成助剤、例えば、可塑剤を開発し、使用する方向に向かう傾向があった。
【0012】
可塑剤は、ラテックス塗料および他のコーティングのための優れた融合助剤として何年間も知られかつ使用されてきた。場合によっては、それらはまた、コーティング中の比較的硬質のベースポリマーの軟化がしばしば求められるので、それらの可塑剤機能についても求められる。可塑剤が、他の塗料性能特性、例えば、亀甲割れ、ウェットエッジおよびオープンタイムを改善し得ることも周知である。可塑剤は、他の伝統的な融合助剤より大きい耐久度を有し、場合によっては、可塑剤の耐久性は、不利益となる可能性がある。融合助剤については、より大きな耐久性、したがって、より低いVOCと良好な最終膜特性とをうまく均衡させなければならない。
【0013】
高Tg(ガラス転移温度)を有するポリマーが一つまたは別の用途で用いられる場合のように、真の可塑剤が必要とされる場合、フタル酸系可塑剤、例えば、フタル酸ジ−n−ブチル(DBP)、フタル酸ジイソブチル(DIBP)またはフタル酸ブチルベンジル(BBP)が、コーティング産業で伝統的に使用されてきた。DBPおよびDIBPは、伝統的な融合助剤よりも低いVOC含量を有するが、なお依然としていくらか揮発性である一方、BBPは、非常に低いVOC含量を有する。しかしながら、VOC含量は別にして、特にDBPおよびBBPの使用は、規制面の懸念事項のために制限されるので、フタル酸エステルの使用は、一部の不利点を有する。
【0014】
ジ安息香酸エステル系可塑剤は、約1938年から様々な用途について認められてきた。コーティングにおけるそれらの有用性も周知である。ジ安息香酸エステル類は本質的に、非フタル酸エステル類であり、フタル酸エステル類に関連した制限または健康上の懸念を有しない。
【0015】
モノ安息香酸エステル融合助剤技術は、安息香酸イソデシル(IDB)が新しく比較的低いVOC融合助剤としてコーティング産業に導入された1980年代から発展および進化してきた。IDBは、多種多様なポリマー中で相溶性を示し、融合助剤としての伝統的なTXMBの使用と比較して、ラテックス塗料配合物中で有効で、低い臭気の融合助剤であることがわかった。
【0016】
Arendtの米国特許第5,236,987号には、ラテックス塗料用の融合助剤として安息香酸イソデシル、安息香酸デシル、安息香酸イソオクチル、安息香酸ノニル、および安息香酸ドデシルの使用が開示されている。
【0017】
21世紀の初めに、安息香酸2−エチルヘキシル(2−EHB)が、新しく比較的低いVOCの膜形成助剤として発売された。2−EHBは、より低い臭気のみならず、多くの配合物中でTXMBよりも大きな効率性を有することがわかった。安息香酸イソノニル(INB)は、IDBよりも有効なMFFT低下挙動を示しながら、2−EHBと同等の配合蒸発速度および効率性を有する融合助剤として2009年に導入された。
【0018】
第2世代の安息香酸エステルの融合助剤技術は、あまり揮発性でないジ安息香酸エステル類によって開発されてきた。ジ安息香酸エステル類は、モノ安息香酸エステル類の揮発性が高過ぎると考えられるところで、VOC低減の要件を満たし得る。ジ安息香酸エステル技術は、伝統的に、ジ安息香酸ジプロピレングリコール(DPGDB)と、ジ安息香酸ジエチレングリコール(DEGDB)とのブレンドに基づく。これらのブレンドを配合した膜は、耐スクラブ性、耐薬品性およびオープンタイムの増大における改善とともに、TXMBを配合したものと同等の性能特性を示すことがわかってきた。
【0019】
比較的低いVOCの水性ポリマーコーティング組成物および他の膜形成組成物に使用される他の成分と一緒のジ安息香酸エステルブレンドは、当技術分野で記載されている。
【0020】
Strepkaらの米国特許出願公開第2008/0182929号には、水性ポリマー組成物で示されるオープンタイムを延長する主たる目的のために、および一部は、融合助剤として典型的に用いられるより揮発性の有機化合物の少なくとも一部を置き換えるためにジエチレングリコールおよびジプロピレングリコールのジ安息香酸エステルを、対応するモノエステルの少なくとも1種と組み合わせて含有する比較的低いVOC含量水性コーティング組成物が開示されている。
【0021】
Strepkaらの米国特許出願公開第2008/0076861号には、床磨き剤としての使用のために、膜形成成分として少なくとも1種のアクリルもしくは酢酸ビニルポリマーまたはコポリマー、および6−炭素一価アルコールの安息香酸エステルと、ジ安息香酸ジエチレングリコールと、モノ安息香酸ジエチレングリコールとのブレンドを含む膜形成組成物が開示されている。
【0022】
米国特許出願公開第2011/0218285号には、水分散性ポリマー、水不溶性可塑剤、シクロヘキサンジメタノール、および任意にコーティング用の両親媒性成分を用いていてもよい、コーティングの少なくとも1つの性能特性、例えば、ウェットエッジ、オープンタイム、耐スクラブ性、湿潤接着性および耐水性を改善する低VOCコーティング添加剤が開示されている。開示された可塑剤のうちには、ジ安息香酸ジエチレングリコール、ジ安息香酸ジプロピレングリコールおよびジ安息香酸トリプロピレングリコールがある。
【0023】
さらに、性能特性を改善しながら、最小VOCを達成するために可塑剤/融合助剤技術を改良する継続された努力に対する必要性がある。より新しい、次世代のジ安息香酸エステルのトリブレンドが開発されてきており、これは、伝統的なジ安息香酸エステルブレンドを上回る一部の強化を含めて、現世代の低VOC融合助剤技術と比較して、光沢および耐スクラブ性で予想外にも増強された性能利点を達成しながら、コーティング用途における伝統的な可塑剤または低VOC融合助剤と同様に機能する。
【0024】
低VOC塗料およびコーティングに使用される新規なジ安息香酸エステルトリブレンド可塑剤が開発された。本発明は、3種のジ安息香酸エステル系可塑剤である、DEGDBと、DPGDBと、ジ安息香酸1,2−プロピレングリコール(PGDB)とのブレンドに関し、これは、低VOC融合助剤を可能にする一方で、予想外にも伝統的なジ安息香酸エステルブレンドを上回る改善された特性をもたらす。本発明のトリブレンドは、塗料およびコーティングで用いられる既存のジ安息香酸エステル系可塑剤技術に対する改善であり、塗料およびコーティング用途で従来知られていないか、または使用されていない。ジ安息香酸1,2−プロピレングリコール成分は、可塑剤としてのその使用についてこれまで知られていたが、本明細書で開示される本発明のブレンドの形態では知られていなかった。より具体的には、ジ安息香酸1,2−プロピレングリコールは、Bedoukianの米国特許第3,652,291号に記載されたように飲料用の香味剤として知られていた。
【0025】
本発明のトリブレンドは、ラテックスおよびアクリルコーティング用途において特に有用であり、改善された光沢、凍結/融解安定性、耐スクラブ性、ならびに伝統的なジ安息香酸エステル系可塑剤ブレンドを上回る耐薬品性および同等のオープンタイムを与える。この新規なトリブレンドは、塗料および他のコーティングで使用される多種多様の材料と相溶性である。DPGDBと、DEGDBと、PGDBとの新規なトリブレンドは、過去において塗料および他のコーティングで用いられたことがなかった。
【0026】
本発明の焦点は、塗料ならびに他の建築用および工業用コーティングを配合するための本発明のブレンドの使用にあるが、本発明は、これらの用途に限定されない。本発明の可塑剤トリブレンドは、限定されるものではないが、接着剤、コーキング材、OEMコーティング、プラスチゾル、シーラント、オーバープリントワニス、つや出し、インク、溶融配合されたビニル樹脂、ポリスルフィド、ポリウレタン、エポキシ樹脂、スチレン化アクリル樹脂およびそれらの組合せを含む用途で、単独でおよび他の可塑剤とのブレンドで使用され得る。
【0027】
本発明の目的は、伝統的なラテックスエマルションまたは他のポリマーコーティング中で使用される場合、低VOC含量、効率性および相溶性を有する膜形成助剤を提供することである。
【0028】
本発明のさらなる目的は、低VOC含量、ならびに限定されるものではないが、現在の低VOCエマルション塗料およびコーティングで達成されるものを上回る、光沢、耐スクラブ性および耐薬品性を含む、改善された性能特性を有するポリマーエマルション塗料またはコーティングを提供することである。
【0029】
本発明のさらに別の目的は、製造するためにコスト効率が良く、かつ環境的に優しく、取扱いに安全で、規制管理下にない低VOC含量のポリマーエマルション塗料またはコーティングを提供することである。
【発明の概要】
【0030】
本発明の可塑剤ブレンドは、3種のジ安息香酸エステル、すなわち、ジ安息香酸ジエチレングリコール(DEGDB)と、ジ安息香酸ジプロピレングリコール(DPGDB)と、ジ安息香酸1,2−プロピレングリコール(PGDB)との独特の配合物を含む。一態様において、可塑剤は、ブレンドの全重量に基づいて、約10重量%〜約90重量%のDEGDBと、約1重量%〜約50重量%のDPGDBと、約10重量%〜約90重量%のPGDBとを含む新規なトリブレンドである。
【0031】
上に特定された可塑剤/融合助剤は、互いに、ならびに塗料およびコーティングで用いられる種々のポリマー、例えば、ポリ塩化ビニルおよびそのコポリマー、種々のポリウレタンおよびそのコポリマー;種々のポリアクリレートおよびそのコポリマー;種々のポリスルフィドおよびそのコポリマー;種々のエポキシ樹脂およびそのコポリマー;ならびに酢酸ビニルおよびそのコポリマーと相溶性である。特に、本発明の新規なトリブレンドは、塗料およびコーティング産業で用いられるラテックスおよび他のポリマーエマルションと特に相溶性である。
【0032】
本発明の可塑剤/融合助剤ジ安息香酸エステルトリブレンドは、低揮発性を有し、工業標準の膜形成助剤(TXMB)、および現在の非ジ安息香酸エステル系低VOC融合助剤であるビス−(2−エチルヘキサン酸)トリ(エチレングリコール)(TEGDO)に対して遜色がない。特に、本発明のジ安息香酸エステルトリブレンドは、現在の標準的な低VOCの融合助剤代替物(伝統的なジ安息香酸エステルブレンドを含む)の一部と比較して、同等のおよび場合によってはより良い光沢および耐スクラブ性における性能利点をもたらす。本発明のトリブレンドは、より識別性のアクリルコポリマー光沢系における使用にかなりの利点を特に示し、ここで、それは、耐スクラブ性と耐ブロック性の両方に優れた利点を与える。本発明の配合物は、低VOC融合助剤(伝統的なジ安息香酸エステル系融合助剤を含む)の現在の状況を改善するために塗料およびコーティング配合者に代替物を与える。それらはまた、塗料およびコーティングにおいてより硬質のポリマー(Tg 10℃超)を使用する選択肢を与える。本発明のトリブレンドは、コーティングがより良い膜を形成するのに役立つので、低VOCコーティングを目的として設計されたより軟質のポリマーと使用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】非ジ安息香酸エステルとジ安息香酸エステルの両方の可塑剤および融合助剤の揮発度を示すチャート。
図2】種々の低VOC融合助剤について凍結/融解3サイクル後の艶消アクリル樹脂塗料の粘度安定性を示すチャート。
図3】種々の融合助剤について凍結/融解3サイクル後の半光沢アクリル樹脂塗料の粘度性安定性を示すチャート。
図4】種々の融合助剤について艶消ビニルアクリル樹脂塗料のウェットエッジ/オープンタイム評価を示すチャート。
図5】種々の融合助剤について半光沢アクリル樹脂塗料のウェットエッジ/オープンタイム評価を示すチャート。
図6】種々の低VOC融合助剤について光沢アクリルコポリマー塗料のウェットエッジ/オープンタイム評価を示すチャート。
図7】種々の融合助剤について半光沢アクリル樹脂塗料の光沢評価を示すチャート。
図8】種々の低VOC融合助剤について半光沢アクリル樹脂塗料の光沢評価を示すチャート。
図9】種々の低VOC融合助剤について光沢アクリルコポリマー塗料の光沢評価を示すチャート。
図10】種々の低VOC融合助剤について艶消ビニルアクリル樹脂塗料およびアクリル半光沢塗料の耐スクラブ性を示すチャート。
図11】種々の融合助剤について光沢アクリルコポリマー塗料の耐スクラブ性を示すチャート。
図12】種々の低VOC融合助剤について半光沢アクリル樹脂塗料の耐ブロック性を示すチャート。
図13】種々の低VOC融合助剤について光沢アクリルコポリマー塗料の耐ブロック性を示すチャート。
【発明の詳細な説明】
【0034】
本発明は、本明細書で検討される比率における3種の可塑剤、すなわち、DEGDBと、DPGDBと、PGDBとのトリブレンドに関する。本発明の可塑剤は、一般にしばしば比較的高いVOC含量を有する常用の可塑剤/融合助剤の代用物または代替物として、多数の熱可塑性、熱硬化性、またはエラストマー性ポリマー、およびポリマーエマルションと一緒に可塑剤/融合助剤として用いることができる。塗料およびコーティングで配合され得る公知のポリマーのいずれも、本発明によって低VOC含量塗料またはコーティングを調製するためにこの新規なトリブレンドと組み合わせて用いることができる。
【0035】
有用なポリマーには、限定されるものではないが、様々なラテックスおよびビニルポリマー(酢酸ビニル、塩化ビニリデン、フマル酸ジエチル、マレイン酸ジエチルまたはポリビニルブチラールを含む);種々のポリウレタンおよびそのコポリマー;種々のポリスルフィド;硝酸セルロース;ポリ酢酸ビニル、エチレン酢酸ビニル、およびそれらのコポリマー;ならびに種々のポリアクリレートおよびそのコポリマーが含まれる。
【0036】
特にアクリレート類は、本発明のトリブレンドとの使用のための種々の硬度のポリマーの大きな群を構成し、限定するものではないが、種々のポリアルキルメタクリレート、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、またはアリルメタクリレート;種々の芳香族メタクリレート、例えば、ベンジルメタクリレート;種々のアルキルアクリレート、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、または2−エチルヘキシルアクリレート;種々のアクリル酸、例えば、メタクリル酸;ビニルアクリル樹脂;スチレン化アクリル樹脂;およびアクリル−エポキシハイブリッドを含む。
【0037】
他のポリマーには、限定するものではないが、エポキシ樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド型、メラミン樹脂などが含まれる。
【0038】
本発明は、いずれの特定のポリマーにも限定されない。塗料およびコーティング用途で有用な他のポリマーは、当業者に公知である。
【0039】
本発明は、ラテックスまたは他のエマルション(例えば、アクリル樹脂)に関して本明細書で記載されるが、多種多様なポリマーと一緒に有用性を有する。
【0040】
本発明の可塑剤/融合助剤トリブレンドを構成する好ましいジ安息香酸エステル類には、DEGDB、DPGDB、およびジ安息香酸1,2−プロピレングリコール(PGDB)が含まれる。
【0041】
本発明のトリブレンドにおける個々のジ安息香酸エステルの量は、特定の最終用途および望まれる特性に応じて広範に変わり得る。したがって、DEGDBの量は、ジ安息香酸エステルトリブレンド組成物の全重量に基づいて約10重量%〜約90重量%まで、好ましくは約60重量%を超えて変わり得る。他の2種の可塑剤のいずれよりもDEGDBの高い量が、費用の検討によって好ましい。DEGDBは、PGDBおよびDPGDBよりもはるかに安価である。DPGDBの量は、一般にトリブレンドの全重量に基づいて約1重量%〜50重量%、好ましくは約15%超であり得る。PGDBの量は、ジ安息香酸エステルトリブレンドの全重量に基づいて、広範に例えば、10重量%〜約90重量%であり得るが、好ましくは約20重量%の量で存在する。PGDBもまた、DPGDBよりもコストがより低い。
【0042】
好ましい一態様は、以下に示される:
a. 1,2−PGDB 20重量%
b. DEGDB/DPGDB 80/20 80重量%
本発明の新規なジ安息香酸エステルトリブレンドは、屋外および屋内の用途、例えば、光沢、半光沢および光沢のない塗料における種々の低VOC塗料ならびに建築用および工業用コーティング用の代用物のまたは許容できる代替物の可塑剤/融合助剤として使用され得る。
【0043】
塗料およびコーティング中に使用されるジ安息香酸エステルトリブレンドの量は、特定の塗料またはコーティングの組成、特性、用途または使用および望まれる結果に応じて、変わり得る。標的目標の一つとして、本発明の可塑剤/融合助剤トリブレンドは、40°Fでひび割れしない膜を形成するのに十分な量で使用される。典型的な量は、建築用塗料/コーティング1ガロン当たり、約0.5〜約1.5%の範囲であり得る。軽工業用または他のコーティングは、より多く必要とし得る。
【0044】
他の有用な量は、例で示される。当業者は、特定のコーティング適用の意図された用途および望ましい性能に基づいてさらなる許容できる量に到達できると予想される。必要とされる融合助剤/可塑剤の量は、ベースエマルションのMFFTに基づく。ポリマーが硬質であればあるほど(MFFTおよびTgが高ければ高いほど)、より多くの可塑剤/融合助剤が必要とされる。一部の用途では、樹脂固形物に基づいて20%と同じ程度またはそれ以上の可塑剤が必要とされ得る。
【0045】
本発明の新規な可塑剤/融合助剤ブレンドは、低VOC含量、粘度安定性、すなわち、良好な凍結/融解性能、同等またはより良いウェットエッジ/オープンタイム性能、改善された光沢、ならびに予想外にも改善された耐スクラブ性および耐ブロック性を与える。多くの場合に、本発明のトリブレンドは、伝統的なおよび最新のジ安息香酸エステルブレンドを含めて、VOC含量にかかわらず、工業標準の融合助剤より性能が優れていた。本発明のトリブレンドは、低VOC配合物用の比較的軟質のポリマーの代替物として、比較的硬質のポリマーの使用を考慮する場合、融合助剤として特に有用である。
【0046】
本発明を、本明細書中に記載する例によってさらに説明する。
【0047】
実験方法論
試験したコーティング:
2種の一般的な建築用ラテックス塗料エマルションおよび軽工業用塗料用途に一般的に使用される1種のエマルションを選択して、本発明のトリブレンドに対して一連の試験を行った。以下の表1に示すビニルアクリル樹脂エマルション(MFFT=12℃、Tg=19℃)を艶消屋内配合物用のポリマーとして選択し、表2に示すアクリル樹脂エマルション(MFFT 12℃未満)を屋内用半光沢配合物用のポリマーとして選択した。さらに、表3に示す比較的硬質の光沢アクリルコポリマーエマルション(MFFT=30℃超)を、追加の性能の検証を与えるために選択した。硬質アクリルコポリマーは、具体的には建築用塗料用途が意図されておらず、その代わりに軽工業用途に設計されていることが認められる。しかしながら、本発明のトリブレンド可塑剤/融合助剤の相溶性を調査するためにこのエマルションを選択した。
【0048】
低VOC配合物用の比較的軟質のポリマーの代替物として、可塑剤と一緒の比較的硬質のポリマーの使用を考慮する場合、適切な比較を可能とするために、塗料/コーティング配合物のすべてについて、選択した試験方法論は同じであった。軟質ポリマーの使用以外の、比較的硬質のポリマーの使用は、比較的低いVOCコーティングを達成する代替経路であり、低VOC塗料およびコーティングを開発する際に考慮する塗料配合物に対してより多くの選択肢を与える。
【0049】
以下の列挙したものは、コーティングの重要なパラメータである:
艶消ビニルアクリル樹脂塗料−体積含有率=34.8%およびPVC=58%
半光沢アクリル樹脂−体積含有率=33.7%およびPVC=29.8%
光沢アクリルコポリマー−体積含有率=18%およびPVC=35%。
【0050】
一般的な出発配合物を以下の表に列挙する。必要とされる融合助剤の適切なレベルの決定以外は、融合助剤のいずれに対しても配合を最適化する試みは行わなかった。
【表1】
【表2】
【表3】
【0051】
試験した可塑剤/融合助剤成分:
以下の表4中の可塑剤/融合助剤を評価した:
【表4】
【0052】
TXMB(モノイソ酪酸2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール)は、EPA24ASTM D−2369試験法により100%揮発性とみなされる事実にもかかわらず、産業において標準である非常に広く使用された製品である。
【0053】
ジ−2−エチルヘキサン酸トリエチレングリコール(TEGDO)は、商業的な低VOC融合助剤(CLVOC)であり、これは、一次対照として用いた最新のより低いVOC非ジ安息香酸エステル系融合助剤である。
【0054】
K−FLEX850SとBENZOFLEX LA−705の両方は、最新の商業的に利用できる2種のジ安息香酸エステルのブレンドであり、K−FLEX500は、より古い伝統的な2種のジ安息香酸エステルのブレンドである。
【0055】
本発明の配合物には、X10およびX20が含まれ、これらは、用いられるエステルの比率のみで異なる、本発明に従う3種のジ安息香酸エステルのブレンドである。
【0056】
方法
塗料調製
摩砕用の原料を高速分散機で20分間混合した。次いで、樹脂を添加し、マスターバッチをより小さいバッチに分割した。それぞれの小バッチに、融合助剤、消泡剤および追加の水を添加した。次いで、塗料をさらに10分間混合し、試験前に一晩放置した。
【0057】
オーブン試験。ASTM D2369。本発明は、低VOC融合助剤に関するので、最初の重要な試験は、試験したそれぞれの融合助剤のVOCの決定であった。EPA法24で概略されたとおりに、ASTM D2369は、規定の試験条件下でコーティング中の揮発性有機含量を計算するためのコーティング中の揮発物を決定するための最適の手順である。この情報は、塗料製造者および使用者ならびにコーティングによって放出される揮発物を決定するための環境利益に有用である。この例では、それぞれの融合助剤1/3グラムを計量皿に入れ、3mLのトルエンを添加した。この融合助剤を110℃±5℃で1時間加熱した。固形分重量パーセント(非揮発物質)は差によって決定され得る。
【0058】
塗料/コーティング試験。塗料の評価は、以下の測定よりなった:
湿潤塗料および膜形成−pH、粘度、KUおよびICI、凍結/融解、フローおよびレベリング、ウェットエッジ/オープンタイム、指触乾燥、スパッタ、低温膜形成、タッチアップ(RTおよび低温)および亀甲割れ。
【0059】
乾燥膜−耐スクラブ性、耐ブロック性、コントラスト比、色および光沢。
【0060】
試験方法の詳細は、以下の表5に列挙する。
【表5】
【0061】
例1−可塑剤/融合助剤の揮発性
1ガロンの塗料で用いられる融合助剤の量は、大量ではないが、VOC含量に寄与するあらゆる成分を最小化することが不可欠である。一般に比較的低いレベルで用いられる原料でさえも、VOCをかなり減少させるために変更することができる。オーブン試験は、揮発性および半揮発性成分のVOC寄与を比較する標準的な方法である。上で記載したとおりのオーブン試験を、表4に列挙した可塑剤/融合助剤、ならびにDIBP、BBP、およびDBPに対して行った。
【0062】
図1は、オーブン試験で測定した結果に基づいた融合助剤の揮発度を示す。図1でわかるように、本発明の配合物X20は、2種のジ安息香酸エステルのブレンド(K−FLEX850S(最新の)およびK−FLEX500(伝統的な)と比較した場合、同等の低い揮発度を有したが、K−FLEX500の値がわずかにより高かった。X20はまた、一次対照(TEGDO)として用いた最新の非ジ安息香酸エステル系低VOC融合助剤と比較した場合、好ましい揮発度プロファイルを有した。X10について得られた値は、X20と実質的に同じであったが、図1に示さない。BENZOFLEX LA−705の値は、K−FLEX500と同等であったが、やはり図1に示さない。全体として、K−FLEX850S、X10およびX20は、同じ低い揮発度値をもたらした。
【0063】
図1は、低VOC融合助剤のすべてが、工業標準であるTXMBと比較して揮発性が非常に低いことがわかり、したがって、許容できる低VOC代替物であると考えられたことを確証する。非ジ安息香酸エステル系可塑剤の中で、DIBPは最も揮発性である。低VOC可塑剤融合助剤の残りは、特に低レベルの使用において、コーティングのVOCに非常に少ししか寄与しない。
【0064】
例2−融合助剤の効率性
塗料の評価を開始する前に、それぞれの融合助剤の効率性を上の表1、表2および表3に記載した基本塗料配合物において測定した。融合助剤の効率性の測定は、しばしば2成分の対で行い、融合助剤とベースエマルションとのブレンドのMFFTを測定する。この場合、それぞれの融合助剤の効率性レベルは、上に記載した塗料/コーティングのそれぞれにおいて40°F(4℃)で適切な膜形成を得るために必要とされる融合助剤の量(ポンド単位)を測定することによって確証した。この試験について、TXMBを効率性のための一次対照として用いたが、それが、依然としてこの種の試験における基準とみなされているからである。低VOC融合助剤について、最良の比較は、TEGDO(市販の低VOC融合助剤)である。
【0065】
100ガロンに対して、適切な融合助剤(膜形成)のために、(存在するプロピレングリコールメチルエーテルに加えて)艶消塗料は、6ポンド、半光沢は、3.5ポンド、および光沢塗料は、38ポンドのそれぞれの融合助剤を必要とした。それぞれの融合助剤は、この試験に基づいて同等の効率性を有したことが測定された。
【0066】
例3−湿潤および乾燥膜の特性
表6ないし表8は、上に記載したとおりの種々の融合助剤を用いて湿潤塗料または乾燥塗料について得られた性能データを示す。表でわかるように、性能は、pH、初期粘度(ストーマおよびICI)、熱安定性、フローおよびレベリング、亀甲割れ(艶消のみ、室温および低温)、タッチアップ(室温および低温)、色受容性、耐スパッタ性、および低温膜形成(密封および非密封基材の上での)を含めて、すべての場合で、それぞれの塗料について同様であった。融合助剤の選択は、これらの領域のすべてで性能を損なう可能性を有するので、これらのパラメータの大部分は、非常に重要と考えられる。より硬質の光沢アクリルコポリマー配合物については(表8)、データは、KF850S、X20およびTEGDOについて与えるのみである。
【表6】
【表7】
【表8】
【0067】
例4−耐凍結/融解性
比較的低いVOC含量塗料またはコーティングにおいて欠点を有し得る塗料特性の一つは、耐凍結/融解性である。図2および図3は、艶消ビニルアクリル樹脂塗料および半光沢アクリル樹脂塗料に対して凍結/融解3サイクルについて得られた結果を示す。ジ安息香酸エステル融合助剤を有する艶消塗料は、新しい低VOC含量のTEGDO融合助剤を有するものよりも良い凍結/融解特性を有した。半光沢配合物について、ジ安息香酸エステル系融合助剤を用いる塗料のすべては、TEGDO対照よりも優れていたが、TXMBアルコールエステル対照と同様であった。光沢アクリルコポリマー配合物において、評価した系のすべては、凍結/融解3サイクル後に不合格であった。これらの結果に基づいて、本発明のトリブレンドは、艶消および半光沢配合物において一部の利点を与える。
【0068】
例5−ウェットエッジ/オープンタイム
融合助剤の種類は、塗料のウェットエッジ/オープンタイムに影響を与え得る。可塑剤が、揮発性融合助剤よりもより良くウェットエッジを広げることは公知である。図4図5および図6は、本明細書で記載される可塑剤/融合助剤についてこの特性を説明するために得られたデータを提示する。評価した配合物についてウェットエッジまたはオープンタイムを検討するために用いた試験を表5に示し、考えられている他の現在の試験、例えば、ASTM D01委員会がこの塗料属性を説明するために検討しているものといくらか異なった。
【0069】
得られたデータは、低VOC融合助剤塗料のすべてが、艶消塗料において高VOC造膜助剤(TXMB)よりもいくらか長いウェットエッジを有するが、本発明のトリブレンド配合物X20は、艶消塗料においてTEGDOとジ安息香酸エステル対照KF850Sの両方より性能が優れていることを示した。半光沢アクリル樹脂塗料および光沢アクリルコポリマーコーティング系において、低VOC融合助剤のすべてについてのウェットエッジの特性は、同等であるようにみえた。
【0070】
例6−乾燥膜の特性
光沢は、コーティングの膜形成の品質の良い指標である。図7に示したデータは、TEGDOを除いて、低VOC融合助剤のすべてが、TXMBと比較して半光沢配合物においていくらかより高い光沢を有したことを示す。TEGDOの場合、その光沢は、他の低VOCジ安息香酸エステル系融合助剤およびTXMB融合助剤よりも低かった。図8は、半光沢配合物についての結果を示し、KF850S(対照)、X20(発明トリブレンド)およびTEGDOの融合助剤のみを比較する。データは、低VOCジ安息香酸エステル融合助剤KF850S(対照)およびX20(発明トリブレンド配合物)が、TEGDOよりも半光沢配合物においていくらかより高い光沢をもたらしたことを示す。光沢アクリルコポリマー系において、図9に示されるとおりに、X20ジ安息香酸エステルブレンドは、TEGDOよりもわずかにより高い光沢を与えた。
【0071】
例7−耐スクラブ性
ラテックス(または任意の)コーティング組成物中の融合助剤の仕事は、それがポリマーのための非常に揮発性の有機化合物または真の可塑剤であるかどうかにかかわらず、特に低温で、膜形成の過程を補助することである。融合助剤はまた、膜が乾燥後にコーティング性能に最小限の影響を与えるべきである。それらの相対的な耐久性によって、可塑剤が、膜特性、例えば、スクラブを減少させ得ることを想定し得るが、これは、必ずしもそうとは限らない。図10は、試験したジ安息香酸エステルが、艶消塗料においてTEGDOを配合したコーティングよりもわずかにより良い耐スクラブ性を有したことを示す。KF850SおよびTEGDOは、半光沢塗料において同様の耐スクラブ性を有し、本発明のトリブレンドX20は、半光沢塗料においてこれらの低VOC融合助剤の両方よりも性能が優れていた。
【0072】
図11では、TXMBを上回る低VOC融合助剤の耐スクラブ性の改善は、アクリルコポリマー光沢配合物において予想外かつかなり改善され、KF850Sジ安息香酸エステル系は、TEGDOを上回るさらなる改善を示す。これは、本発明のトリブレンドが、低VOC含量塗料およびより硬質のポリマーを含有するコーティングの配合に有用である一方、優れた耐スクラブ性をなお達成することを示す。
【0073】
例8−耐ブロック性
可塑剤に関する膜性能の別の指標は、耐ブロック性である。図12は、低VOC融合助剤を含有する半光沢塗料について得られた耐ブロック性データを示す。とりわけ、低VOC安息香酸エステル系可塑剤は、室温と高温の両方の7日間のブロッキング試験についてTEGDOより性能が優れていた。上記のとおり、性能を最適化するために配合を変更することは試みなかった。代わりに、この試験は、新世代の可塑剤/融合助剤トリブレンドプラットフォームを、低VOC膜形成助剤(他のジ安息香酸エステルブレンドを含む)に対する代用物または代替物として使用する実現可能性を実証した。
【0074】
図13では、本発明の配合物X20を配合したアクリルコポリマー光沢系が、7日間の曝露後にTEGDOとジ安息香酸エステル対照KF850Sの両方を上回る高温での明確な耐ブロック性の利点、および室温で7日間後にTEGDOを上回る利点を示した。
【0075】
上に示したデータは、本発明のジ安息香酸エステルトリブレンドが、コーティング用途のための可塑剤と低VOC融合助剤の両方として十分に機能することを示した。さらに、この試験は、新規なジ安息香酸エステルトリブレンドが、現在の標準で、低VOCの融合助剤の選択の一部と比較して、光沢および耐スクラブ性で優れた性能利点をもたらすことを示した。X20は特に、より識別性のアクリルコポリマー光沢系での使用においてかなりの利点を示し、ここで、それは、耐スクラブ性と耐ブロック性の両方に利点を与える。本発明の配合物は、低VOC融合助剤(伝統的なジ安息香酸エステル系融合助剤を含む)の現在の状況をよりよいものにするために塗料およびコーティング配合者に代替物を与える。
【0076】
特許の法律に従って、最良の形態および好ましい態様を示したが、本発明の範囲は、これらに限定するものではなく、添付した特許請求の範囲によって限定される。
以下に、当初の特許請求の範囲に記載していた発明を付記する。
[1]
ポリマーコーティング組成物に使用される低VOC融合助剤トリブレンド添加剤であって、
トリブレンド組成物の全重量に基づいて、
a.約10重量%〜約90重量%の範囲の量で存在するジ安息香酸ジエチレングリコールと、
b.約1重量%〜約50重量%の範囲の量で存在するジ安息香酸ジプロピレングリコールと、
c.約10重量%〜約90重量%の範囲の量で存在するジ安息香酸1,2−ジプロピレングリコールと
を含む、トリブレンド添加剤。
[2]
ジ安息香酸ジエチレングリコールが、少なくとも約60重量%の量で存在し、
ジ安息香酸ジプロピレングリコールが、少なくとも約5重量%の量で存在し、
かつ、
ジ安息香酸1,2−プロピレングリコールが、少なくとも約20重量%の量で存在する、
[1]に記載のトリブレンド添加剤。
[3]
前記ブレンドが、可塑剤トリブレンドの全重量に基づいて、80重量%の、ジ安息香酸ジエチレングリコールとジ安息香酸ジプロピレングリコールとの混合物であって、DEGDBとDPGDBの比は約4:1である混合物、および20重量%のジ安息香酸1,2−プロピレングリコールを含む、[1]に記載のトリブレンド添加剤。
[4]
低VOCコーティング組成物であって、
a.水性ポリマーエマルション、および
b.ジ安息香酸ジエチレングリコールと、ジ安息香酸ジプロピレングリコールと、ジ安息香酸1,2−プロピレングリコールとのトリブレンドを含む、非フタル酸エステル系の低VOC融合助剤
を含み、
前記融合助剤が、低揮発性を有し、伝統的な低VOC融合助剤に対して同等またはより良いウェットエッジ/オープンタイムおよび光沢評価、同等またはより良い耐スクラブ性および耐ブロック性を達成し、
前記コーティング組成物の粘度が、3サイクルの凍結/融解後に安定なままである、
低VOCコーティング組成物。
[5]
トリブレンドの全重量に基づいて、
ジ安息香酸ジエチレングリコールが、約10重量%〜約90重量%の範囲の量で存在し、
ジ安息香酸ジプロピレングリコールが、約1重量%〜約50重量%の範囲の量で存在し、
ジ安息香酸1,2−プロピレングリコールが、約10重量%〜約90重量%の範囲の量で存在する、
[4]に記載の低VOCコーティング組成物。
[6]
トリブレンドの全重量に基づいて、
ジ安息香酸ジエチレングリコールが、約60重量%を超える量で存在し、
ジ安息香酸ジプロピレングリコールが、約15重量%を超える量で存在し、
ジ安息香酸1,2−プロピレングリコールが、約20重量%を超える量で存在する、
[5]に記載の低VOCコーティング組成物。
[7]
前記ポリマーエマルションが、ラテックス、ビニルアクリル樹脂、半光沢アクリルまたは光沢アクリルコポリマーエマルションである、[4]に記載の低VOCコーティング組成物。
[8]
前記水性ポリマーエマルションが、酢酸ビニル、ポリ酢酸ビニル、エチレン酢酸ビニルおよびそれらのコポリマー;塩化ビニリデン;フマル酸ジエチル;マレイン酸ジエチル;ポリビニルブチラール;ポリウレタンおよびそのコポリマー;ポリスルフィド;硝酸セルロース;ポリアルキルメタクリレート、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレートもしくはアリルメタクリレート;種々の芳香族メタクリレート、例えば、ベンジルメタクリレート;種々のアルキルアクリレート、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレートもしくは2−エチルヘキシルアクリレート;種々のアクリル酸、例えば、メタクリル酸;ビニルアクリル樹脂;スチレン化アクリル樹脂;アクリル−エポキシハイブリッド;エポキシ樹脂、フェノール−ホルムアルデヒドポリマー;メラミン樹脂;またはそれらの混合物を含む、[4]に記載の低VOCコーティング組成物。
[9]
a.ラテックス、ビニルアクリル樹脂またはアクリルコポリマーを含むポリマーエマルション、ならびに
b.非フタル酸エステル系融合助剤トリブレンドであって、トリブレンドの全重量に基づいて、
i.80重量%の、ジ安息香酸ジエチレングリコールとジ安息香酸ジプロピレングリコールとの混合物であって、DEGDBとDPGDBの比は約4:1である混合物、および
ii.20重量%のジ安息香酸1,2−プロピレングリコール
を含む、低VOCコーティング組成物。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13