(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。
まず、本発明の技術的思想を適用可能な作業車両の一例としての油圧ショベルの構成について説明する。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態における油圧ショベル1の構成を示す概略斜視図である。
図1に示すように、油圧ショベル1は、下部走行体2と、上部旋回体3と、作業機5とを主に備えている。下部走行体2と上部旋回体3とにより、作業車両本体が構成されている。
【0016】
下部走行体2は、左右一対の履帯を有している。一対の履帯が回転することにより、油圧ショベル1が自走可能なように構成されている。上部旋回体3は、下部走行体2に対して旋回自在に設置されている。
【0017】
上部旋回体3は、オペレータが油圧ショベル1を操作するための空間であるキャブ4を含んでいる。キャブ4は、作業車両本体に含まれている。上部旋回体3は、後方側Bに、エンジンを収納するエンジンルーム、およびカウンタウェイトを含んでいる。なお、本実施形態では、オペレータがキャブ4内に着座したときに、オペレータの前方側(正面側)を上部旋回体3の前方側Fと称し、これと反対側、つまりオペレータの後方側を上部旋回体3の後方側Bと称し、着座状態でのオペレータの左側を上部旋回体3の左側Lと称し、着座状態でのオペレータの右側を上部旋回体3の右側Rと称する。以下では、上部旋回体3の前後左右と油圧ショベル1の前後左右とは一致しているものとする。
【0018】
土砂の掘削などの作業を行う作業機5は、上下方向に作動可能に、上部旋回体3により軸支されている。作業機5は、上部旋回体3の前方側Fの略中央部に上下方向に作動可能に取り付けられたブーム6と、ブーム6の先端部に前後方向に作動可能に取り付けられたアーム7と、アーム7の先端部に前後方向に作動可能に取り付けられたバケット8とを有している。バケット8は、その先端に刃先8aを有している。ブーム6、アーム7およびバケット8はそれぞれ、油圧シリンダであるブームシリンダ9、アームシリンダ10およびバケットシリンダ11によって、駆動されるように構成されている。
【0019】
キャブ4は、上部旋回体3の前方側Fの左側Lに配置されている。作業機5は、キャブ4に対し、キャブ4の一方の側部側である右側Rに設けられている。なお、キャブ4と作業機5との配置は
図1に示す例に限られるものではなく、たとえば上部旋回体3の前方右側に配置されたキャブ4の左側に作業機5が設けられていてもよい。
【0020】
図2は、油圧ショベル1のキャブ4内部の斜視図である。
図2に示すように、キャブ4の内部には、オペレータが前方側Fを向いて着座する運転席24が配置されている。キャブ4は、運転席24を覆って配置されている屋根部分と、屋根部分を支持する複数のピラーとを含んでいる。複数のピラーは、運転席24に対し前方側Fに配置されたフロントピラーと、運転席24に対し後方側Bに配置されたリアピラーと、フロントピラーとリアピラーとの間に配置された中間ピラーとを有している。各々のピラーは、水平面に対し直交する垂直方向に沿って延在し、キャブ4の床部と屋根部分とに連結されている。
【0021】
各々のピラーと、キャブ4の床部および屋根部分とによって囲まれた空間は、キャブ4の室内空間を形成している。運転席24は、キャブ4の室内空間に収容されており、キャブ4の床部のほぼ中央部に配置されている。キャブ4の左側Lの側面には、オペレータがキャブ4に乗降するためのドアが設けられている。
【0022】
運転席24に対し前方側Fに、前窓が配置されている。前窓は、透明材料により形成されており、運転席24に着座しているオペレータは前窓を通してキャブ4の外部を視認可能である。たとえば
図2に示すように、運転席24に着座しているオペレータは、前窓を通して、土砂を掘削するバケット8を直接見ることができる。
【0023】
キャブ4内部の前方側Fには、モニタ装置26が設置されている。モニタ装置26は、キャブ4内の右前側の角部に配置されており、キャブ4の床部から延びる支持台により支持されている。モニタ装置26は、フロントピラーに対し運転席24側に配置されている。モニタ装置26は、運転席24に着座しているオペレータから見て、フロントピラーの手前側に配置されている。
【0024】
モニタ装置26は、多目的に使用されるため、各種のモニタ機能を有する平面状の表示面26dと、多機能が割り当てられた複数のスイッチを有するスイッチ部27と、表示面26dに表示される内容を音声で表現する音声発生器28とを備えている。この表示面26dは液晶表示器、有機EL表示器などの、グラフィック表示器により構成されている。スイッチ部27は複数のキースイッチから成っているが、これに限定されずタッチパネル式のタッチスイッチであっても構わない。
【0025】
運転席24の前方側Fには、左右各履帯の走行操作レバー(左右走行操作レバー)22a,22bが設けられている。左右走行操作レバー22a,22bは、下部走行体2を操作するための走行操作部22を構成している。
【0026】
運転席24の右側Rには、キャブ4に搭乗しているオペレータが作業機5のうちブーム6およびバケット8の駆動を操作するための、第1操作レバー44が設けられている。運転席24の右側Rにはまた、各種のスイッチ類が装着されているスイッチパネル29が設けられている。運転席24の左側Lには、オペレータが作業機5のうちアーム7の駆動、および上部旋回体3の旋回を操作するための、第2操作レバー45が設けられている。
【0027】
モニタ装置26の上方には、モニタ21が配置されている。モニタ21は、平面状の表示面21dを有している。モニタ21は、一対のフロントピラーのうち、作業機5に近接する側の右側Rのフロントピラーに取り付けられている。モニタ21は、運転席24に着座しているオペレータの右前方への視線の中で、フロントピラーの手前側に配置されている。キャブ4の右側Rに作業機5を備えている油圧ショベル1において、モニタ21を右側Rのフロントピラーに取付けることにより、オペレータは、作業機5とモニタ21との両方を、小さい視線移動量で見ることができる。
【0028】
図3は、油圧ショベル1に情報の送受信を行う構成の概略を示す模式図である。油圧ショベル1は、コントローラ20を備えている。コントローラ20は、作業機5の動作、上部旋回体3の旋回、および下部走行体2の走行駆動などを制御する機能を有している。コントローラ20とモニタ21とは、双方向のネットワーク通信ケーブル23を介して接続されており、油圧ショベル1内の通信ネットワークを形成している。モニタ21およびコントローラ20は、ネットワーク通信ケーブル23を経由して互いに情報を送受信可能となっている。なお、モニタ21およびコントローラ20はそれぞれ、マイクロコンピュータなどのコンピュータ装置を主体として構成されている。
【0029】
コントローラ20と外部の監視局96との間で、情報の送受信が可能となっている。本実施形態では、コントローラ20と監視局96とは、衛星通信を介して通信している。コントローラ20には、衛星通信アンテナ92を有する通信端末91が接続されている。衛星通信アンテナ92は、
図1に示すように、左右方向に間隔を空けて上部旋回体3に搭載されている。地上の監視局96には、通信衛星93と専用通信回線で通信する通信地球局94に専用回線で結ばれたネットワーク管制局95が、インターネットなどを経由して接続されている。これにより、通信端末91、通信衛星93、通信地球局94およびネットワーク管制局95を経由して、コントローラ20と所定の監視局96との間でデータが送受信される。
【0030】
3次元CAD(Computer Aided Design)で作成された施工設計データは、予めコントローラ20に保存されている。モニタ21は、外部から受信した油圧ショベル1の現状位置を画面上にリアルタイムで更新表示し、オペレータが油圧ショベル1の作業状態を常時確認できるようになっている。
【0031】
コントローラ20は、施工設計データと作業機5の位置および姿勢をリアルタイムで比較し、その比較結果に基づいて油圧回路を駆動することにより、作業機5を制御する。より具体的には、作業対象の施工設計データに従った目標形状(設計面)と、バケット8の位置とを比較して、設計面以上は掘り込まないように、バケット8の刃先8aが設計面よりも低く位置しないように制御される。これにより、施工効率および施工精度を向上することができ、高品質の建設施工を容易に行うことが可能になる。
【0032】
図4は、側方から見た油圧ショベル1を模式的に示す図である。
図4に示すように、ブーム6の基端部は、ブームピン13を介して、上部旋回体3の前部に取り付けられている。アーム7の基端部は、アームピン14を介して、ブーム6の先端部に取り付けられている。バケット8は、バケットピン15を介して、アーム7の先端部に取り付けられている。
【0033】
ブームシリンダ9、アームシリンダ10およびバケットシリンダ11には、それぞれ第1〜第3ストロークセンサ16〜18が設けられている。第1ストロークセンサ16は、ブームシリンダ9のストローク長さを検出する。第2ストロークセンサ17は、アームシリンダ10のストローク長さを検出する。第3ストロークセンサ18は、バケットシリンダ11のストローク長さを検出する。
図4中に示す傾斜角θ1〜θ3については後述する。
【0034】
上部旋回体3には、グローバル座標演算器25が設けられている。衛星通信アンテナ92で受信した信号は、グローバル座標演算器25に入力される。グローバル座標演算器25は、衛星通信アンテナ92の位置を演算する。
【0035】
図5は、油圧ショベル1の制御システム200の機能構成を示すブロック図である。
図5に示すように、本実施形態における油圧ショベル1を制御するための制御システム200は、操作装置40と、コントローラ20と、入力部90とを備えている。入力部90は、上述したグローバル座標演算器25と、通信端末91とを有している。
【0036】
操作装置40は、作業機5を駆動するオペレータ操作を受け付け、オペレータ操作に応じた操作信号を出力する。操作装置40は、第1操作レバー装置41と、第2操作レバー装置42とを有している。第1操作レバー装置41は、オペレータによって操作される第1操作レバー44と、ブーム操作検出部41Aおよびバケット操作検出部41Bとを有している。第2操作レバー装置42は、オペレータによって操作される第2操作レバー45と、旋回操作検出部42Aおよびアーム操作検出部42Bとを有している。
【0037】
第1操作レバー44は、オペレータによるブーム6の操作と、オペレータによるバケット8の操作とを受け付ける。ブーム操作検出部41Aは、第1操作レバー44の操作に応じて、ブーム操作信号を出力する。バケット操作検出部41Bは、第1操作レバー44の操作に応じて、バケット操作信号を出力する。
【0038】
第2操作レバー45は、オペレータによる上部旋回体3の旋回操作と、オペレータによるアーム7の操作とを受け付ける。旋回操作検出部42Aは、第2操作レバー45の操作に応じて、旋回操作信号を出力する。アーム操作検出部42Bは、第2操作レバー45の操作に応じて、アーム操作信号を出力する。
【0039】
コントローラ20は、記憶部201と、設計面情報取得部202と、作業機角度演算部203と、刃先位置演算部204と、距離計算部205と、設計面角度計算部206と、演算処理部210とを有している。
【0040】
記憶部201には、各種情報、プログラム、閾値、マップなどが記憶されている。コントローラ20は、必要に応じてデータを記憶部201から読み出したり、記憶部201にデータを格納したりする。
【0041】
設計面情報取得部202は、作業機5による作業対象の3次元の目標対象を示す設計面のデータを取得する。設計面のデータが記憶部201に予め入力されており、記憶部201が設計面のデータを記憶している場合、設計面情報取得部202は、設計面のデータを記憶部201から読み出す。または、設計面情報取得部202は、随時更新される設計面のデータを、通信端末91を経由して外部から取得してもよい。
【0042】
作業機角度演算部203は、第1〜第3ストロークセンサ16〜18から、ブームシリンダ長さ、アームシリンダ長さおよびバケットシリンダ長さに係るデータを取得する。作業機角度演算部203はまた、第1ストロークセンサ16が検出したブームシリンダ長さから、作業車両本体の座標系の垂直方向に対するブーム6の傾斜角θ1を算出する。作業機角度演算部203はまた、第2ストロークセンサ17が検出したアームシリンダ長さから、ブーム6に対するアーム7の傾斜角θ2を算出する。作業機角度演算部203はまた、第3ストロークセンサ18が検出したバケットシリンダ長さから、アーム7に対するバケット8の刃先8aの傾斜角θ3を算出する。
【0043】
刃先位置演算部204は、作業機角度演算部203から、傾斜角θ1〜θ3を取得して、作業車両本体に対するバケット8の刃先8aの相対位置を演算する。刃先位置演算部204はまた、グローバル座標演算器25から、衛星通信アンテナ92の位置を取得する。刃先位置演算部204は、衛星通信アンテナ92の位置、および作業車両本体に対するバケット8の刃先8aの相対位置に基づいて、刃先8aの現在位置を算出する。
【0044】
距離計算部205は、刃先位置演算部204から、バケット8の刃先8aの現在位置を取得するとともに、設計面情報取得部202から、設計面のデータを取得する。距離計算部205は、設計面に対する刃先8aの相対位置を演算する。より詳細には、距離計算部205は、刃先8aが設計面に対して上方または下方にあること、および、設計面に対する垂直方向における設計面と刃先8aとの距離を算出する。
【0045】
設計面角度計算部206は、設計面情報取得部202から設計面のデータを取得し、水平方向に対する設計面の傾斜角度を算出する。
【0046】
演算処理部210は、操作装置40から旋回操作信号、ブーム操作信号、アーム操作信号およびバケット操作信号を取得し、これらの情報に基づいて比例電磁弁63に制御信号を出力することによって、旋回体の旋回動作および作業機5の駆動を行う。
【0047】
比例電磁弁63は、第1操作レバー装置41および第2操作レバー装置42と、ブームシリンダ9、アームシリンダ10およびバケットシリンダ11のそれぞれへの作動油の供給および排出を制御するパイロット切替弁とを接続する、パイロット回路中に設けられている。比例電磁弁63は、コントローラ20からの制御信号に応じて、その開度を調整する。各々のパイロット切替弁のパイロットポートに、比例電磁弁63の開度に応じたパイロット圧が印加されることにより、ブーム6、アーム7およびバケット8が駆動される。
【0048】
演算処理部210は、演算処理によって実現される制御機能を示す、複数の機能ブロックを有している。演算処理部210は、動作制限部211と、制限解除部212とを有している。
【0049】
演算処理部210は、設計面情報取得部202から取得した設計面のデータ、および刃先位置演算部204から取得した刃先8aの現在位置に基づいて、現在の刃先8aと設計面との位置関係を演算する。動作制限部211は、油圧ショベル1の動作が所定の条件を満たす場合に、動作制限制御の実行を指示する。
【0050】
具体的には、動作制限部211は、バケット8の刃先8aが設計面を侵食すると予想されるときに作業機5を強制的に停止させる動作制限制御を実行する。これにより、バケット8の刃先8aによる設計面の侵食を防ぐ自動制御(停止制御)が行われる。
【0051】
制限解除部212は、油圧ショベル1の動作が所定の条件を満たす場合に、動作制限部211に対し、動作制限制御としての停止制御の解除を指示する。具体的には、刃先8aが鉛直方向において設計面以下の位置にある状態においても、刃先8aが設計面から鉛直方向下方に所定距離以上離れたときには、動作制限制御が解除される。これにより、動作制限部211は、刃先8aが設計面から鉛直方向下方に所定距離以上離れている場合、動作制限制御の実行を指示しない。
【0052】
動作制限部211が動作制限制御の実行を指示しない場合、演算処理部210は、比例電磁弁63への出力を補正せずに、そのまま比例電磁弁63に出力する。これにより、オペレータによる操作装置40の操作に従って、オペレータの意図する通りに作業機5は動作する。
【0053】
なお、
図5には、制御システム200を使用した油圧ショベル1の制御によって実現される制御機能のうち、本実施形態に係る油圧ショベル1の制御に関連する一部の機能に対応する機能ブロックのみが、代表的に示されている。図示された各機能ブロックは、いずれもコントローラ20がプログラムを実行することにより実現されるソフトウェアとして機能してもよいが、ハードウェアにより実現されるようにしてもよい。なお、このようなプログラムは、記憶媒体に記録されて油圧ショベル1に搭載されてもよく、通信端末91を経由して油圧ショベル1に入力されてもよい。
【0054】
以上の構成を備えている油圧ショベル1を用いた整地作業について、以下説明する。
図6は、油圧ショベル1を用いた整地作業における、作業機5の位置合わせ前の概略図である。
図7は、油圧ショベル1を用いた整地作業における、作業機5の位置合わせ後の概略図である。
図6,7に示す設計面Sは、コントローラ20の記憶部201(
図5)に予め保存されている施工設計データに従った、作業機5による作業対象の目標形状を示している。コントローラ20は、施工設計データと作業機5の現在位置情報とに基づいて、上述した停止制御を働かせる。
【0055】
図6に示す作業機5が設計面Sの上方に存在する状態から、バケット8の刃先8aを設計面Sに位置合わせする場合、作業機5を操作するオペレータは、ブーム6を下降させる操作を行う。このオペレータの操作に従って、
図6中の矢印に示すように、ブーム6が下降し、バケット8の刃先8aが設計面Sに近づく。
【0056】
油圧ショベル1では、バケット8の刃先8aが設計面Sよりも下方に移動して設計面Sにバケット8の刃先8aが食い込むことを回避するために、刃先8aが設計面Sに接する位置で作業機5の動作を自動停止させる制御が行われる。コントローラ20は、バケット8の刃先8aが設計面Sよりも下に移動しそうなときに、設計面Sよりもバケット8の刃先8aが下がらないように、ブーム6を自動で停止する制御をする。このようにして、
図7に示すように、バケット8の刃先8aの設計面Sへの位置合わせが行われる。
【0057】
図8は、油圧ショベル1の制御システム200の動作を説明するためのフローチャートである。
図8には、制御システム200が停止制御を実行するときの動作が示されている。まずステップS10において、制御システム200は、自動モードと手動モードとのうち、自動モードが選択されているか否かを判断する。自動モードと手動モードとの切り替えは、オペレータの操作によって行われる。手動モードが選択されている場合(ステップS10においてNO)、手動モードで作業機5が駆動されることになる。
【0058】
自動モードが選択されている場合(ステップS10においてYES)、処理はステップS20に進み、停止制御が機能した状態で作業機5が駆動されることになる。
図5に示す動作制限部211は、バケット8の刃先8aが設計面を侵食すると予想されるときに停止制御を実行し、刃先8aによる設計面の侵食を防ぐ。
【0059】
続いてステップS30において、制御システム200は、バケット8の刃先8aが設計面より所定距離以上下方にあるか否かを判断する。
図5に示す演算処理部210は、設計面情報取得部202から設計面Sのデータを取得し、また刃先位置演算部204から刃先8aの現在位置を取得する。演算処理部210は、設計面Sと刃先8aの現在位置とを比較して、設計面Sと刃先8aとの距離を算出する。演算処理部210はさらに、設計面Sと刃先8aとの距離の閾値を記憶部201から読み出し、設計面Sと刃先8aとの間の距離と、当該閾値とを比較して、刃先8aが設計面Sから所定距離以上離れているか否かを判断する。
【0060】
図8に示すように、設計面Sと刃先8aとの距離の閾値は、たとえば500mmであってもよい。停止制御が正常に機能している場合、刃先8aの移動範囲は設計面Sよりも上方の領域に制限されるはずであり、刃先8aが設計面Sから鉛直方向下方に500mm離れる状況は、断線またはセンサ異常などの事象が発生していると考えられる。刃先8aが設計面Sから500mm離れているときには、停止制御が有効でない状況と考えられるので、停止制御が解除される。
【0061】
ステップS30の判断において、設計面Sと刃先8aとの距離が500mm未満と判断された場合、停止制御が継続され、停止制御が機能した状態で作業機5が駆動される。動作制限部211は、刃先8aが鉛直方向上方から設計面Sに接近するとき、刃先8aが設計面Sに到達する位置で作業機5の動作を停止する。
【0062】
ステップS30の判断において設計面Sと刃先8aとの距離が500mm以上であると判断された場合、停止制御が解除される。これにより、手動モードで作業機5が駆動されることになる。この場合、バケット8の刃先8aが設計面Sよりも鉛直方向下方にある状態においても、ブームの下げ動作は禁止されず、ブーム6に下げ動作をさせる指令信号の出力が可能である。
【0063】
次に、本実施形態の作用効果について説明する。
本実施形態の油圧ショベル1は、
図5に示すように、設計面Sのデータを取得する設計面情報取得部202と、バケット8の刃先8aの位置を演算する刃先位置演算部204と、バケット8の刃先8aが設計面Sに接近するときバケット8の刃先8aが設計面Sに到達する手前で作業機5の動作を停止する動作制限制御を実行する動作制限部211とを備えている。
図8に示すように、動作制限部211は、刃先8aが設計面Sから鉛直方向下方に所定距離以上離れている場合、動作制限制御を実行しない。
【0064】
図9は、バケット8と設計面Sとの位置関係の一例を示す模式図である。
図9中の符号Gは、現状地形における地面を示す。
図9中の符号Sは、上述した設計面である。
図9には、今から盛土作業を行う予定の窪地の地形が示されており、
図9に示す設計面Sは、盛土の上面に相当している。
図9中の符号Dは、鉛直方向における設計面Sとバケット8の刃先8aとの距離を示す。
【0065】
図9中に示す油圧ショベル1は、窪地の底面上に配置されており、設計面Sよりも下方の領域に入り込んでいる。このような状態で、バケット8の刃先8aによる設計面Sへの侵食を防ぐ動作制限制御が有効であれば、
図9に示す油圧ショベル1は、作業機5を動作させることができないことになる。
【0066】
本実施形態のように、刃先8aが設計面Sから鉛直方向下方に所定距離以上離れていると動作制限制御を実行しないように制御することで、油圧ショベル1を操作するオペレータは、作業機5を自在に操作することができる。バケット8が設計面Sよりも下方にある状態でオペレータの操作を作業機5の動作に反映させることができ、設計面Sより下で作業機5が動かない事態をなくせる。したがって、作業機5が動かない事象をオペレータが作業機5の故障と誤認識することを防止することができる。
【0067】
従来、バケット8が設計面Sよりも下方にある状態で作業機5を自在に操作するためには、オペレータは自動制御をオフにして手動モードに切り替える必要があり、切替操作が煩雑であった。本実施形態の油圧ショベル1では、自動制御をオフにする必要なく、バケット8が設計面Sよりも下方にある状態で作業機5を自在に操作することができるので、手動モードへの切替が必要なく、煩雑さを解消することができる。
【0068】
以上のように本発明の実施形態について説明を行ったが、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
作業機の自在な操作を可能とする作業車両を提供する。作業車両は、作業機による作業対象の目標形状を示す設計面のデータを取得する設計面情報取得部(202)と、バケットの刃先の位置を演算する刃先位置演算部(204)と、バケットの刃先が設計面に接近するときバケットの刃先が設計面に到達する手前で作業機の動作を停止する動作制限制御を実行する動作制限部(211)とを備えている。動作制限部(211)は、刃先が設計面から鉛直方向下方に所定距離以上離れている場合、動作制限制御を実行しない。