(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明による静電型アクチュエータ制御装置100の一実施形態について図を用いて説明する。まず、
図1及び2を用いて静電型アクチュエータ200について説明する。
【0016】
静電型アクチュエータ200は、周囲の部材に固定される固定部210と、固定部210に対して揺動する可動部220と、固定部210と可動部220とを接続する支持部230とを有する。
【0017】
可動部220は、円盤形状を有するミラー部221と、ミラー部221の径方向に延びる腕部222と、腕部222の延伸方向に対して直角に腕部222から延びる可動部側電極223とを有する。ミラー部221の重心を通り、かつミラー部221の直径と平行な直線を支持軸Lとする。
【0018】
ミラー部221は、片方の円形面が鏡面224を成す。鏡面224に入射した光は鏡面224により反射される。可動部220が固定部210に対して揺動すると、固定部210に対する鏡面224の傾斜角度が変化する。これにより、鏡面224に入射した光の反射方向が変えられる。光を所定の方向へ安定的に反射させるため、可動部220の揺動角度、すなわち振れ角度は一定の許容範囲内に収まっていなければならない。
【0019】
腕部222は、ミラー部221の径方向に延びる平板状の直方体から成り、2つ設けられる。2つの腕部222は、支持軸L上に設けられ、ミラー部221の中心軸に対して互いに点対称となる。腕部222の厚さ、すなわちミラー部221の軸と平行な方向における長さはミラー部221の厚さよりも薄い。腕部222の正面はミラー部221の鏡面224と連続し、裏面はミラー部221の鏡面224の裏面225と連続する。腕部222の正面と裏面は、腕部222が延びる方向に延びる2つの側面と、腕部222の先端となる先端面とにより接続される。
【0020】
可動部側電極223は、腕部222の側面から直角に延びる複数の棒状の直方体から成る。複数の棒は、腕部222が延びる方向に等間隔で並べられて、腕部222の2つの側面から固定部210に向けて突出する。可動部側電極223の先端は、固定部210と接触しない。2つの側面のうち一方から突出する可動部側電極223は、鏡面224側に近接する位置に設けられ、他方から突出する可動部側電極223は、鏡面224の裏面225側に近接する位置に設けられる。
【0021】
固定部210は、可動部220を取り囲むように設けられる。
【0022】
支持部230は、棒状の直方体から成り、支持軸L上に2つ設けられる。2つの支持部230が固定部210から突出し、腕部222の先端面と接続される。支持部230は、捻れ方向に弾性を有する。
【0023】
固定部210における腕部222の側面に対向する位置から固定部側電極211が突出する。固定部側電極211は、可動部側電極223と平行に延びる複数の棒状の直方体から成る。複数の棒は、腕部222が延びる方向に等間隔で並べられ、可動部側電極223に挟まれるように、可動部側電極223の間にまで突出する。固定部側電極211は、可動部220と接触しない。鏡面224側に近接する可動部側電極223の間に設けられる固定部側電極211は、鏡面224の裏面225側に近接する位置に設けられ、鏡面224の裏面225側に近接する可動部側電極223の間に設けられる固定部側電極211は、鏡面224側に近接する位置に設けられる。可動部側電極223と固定部側電極211の突出長さは同じである。
【0024】
支持軸L方向から可動部側電極223と固定部側電極211とを見ると、可動部側電極223の一部と固定部側電極211の一部とが互いに重畳する。別言すると、支持軸L方向に垂直な投影面において、可動部側電極223の一部と固定部側電極211の一部とが互いに重畳している。
【0025】
可動部側電極223には、腕部222及び支持部230を介して可動部電極用回路(図示しない)が接続される。可動部電極用回路は接地され、可動部側電極223の電位をグランドレベルに保持する。
【0026】
固定部210には固定部側電極211に電荷を与えるための固定部側電極211用回路(図示しない)が形成される。固定部側電極211用回路には後述する駆動電源130(
図3参照)が接続され、固定部側電極211と可動部側電極223との間に電位差を与える。
【0027】
次に、静電型アクチュエータ200の動作について説明する。
【0028】
固定部側電極211用回路を介して、後述する駆動電源130が固定部側電極211に電位を与えると、可動部側電極223と固定部側電極211との間に電位差が生じる。このとき、可動部側電極223と固定部側電極211との間には、静電力により互いに引き合う引力、すなわち静電引力が生じる。
【0029】
すると、この静電引力により支持部230が捻れて、可動部側電極223が固定部側電極211と重なりあう方向に移動する。これにより可動部220が支持部230周りに揺動、つまり回転する。可動部220が回転すると、鏡面224の角度が変化し、鏡面224による反射光の射出方向が変化する。
【0030】
上述したように、支持部230の軸に対し垂直な投影面上では、可動部側電極223と固定部側電極211とが常時重なった状態になっている。すなわち、支持部230の軸と平行な方向において、可動部側電極223と固定部側電極211とが対向している。この構成によれば、より小さい電位差を両電極間に与えるだけで、可動部220を起動することが出来るとともに、与える電位差に対する可動部220の回転量の特性をほぼ線形にすることができる。
【0031】
次に、
図3を用いて静電型アクチュエータ制御装置100について説明する。
【0032】
静電型アクチュエータ制御装置100は、熱伝対から成る温度センサ110と、静電型アクチュエータ200に供給する交流電圧の波形を算出するDSP120と、電力を静電型アクチュエータ200に供給する駆動電源130とから主に構成される。
【0033】
温度センサ110は、静電型アクチュエータ200の近傍に設けられ、静電型アクチュエータ200の温度を電圧値として測定する。測定した電圧値をDSP120に送信する。
【0034】
DSP120は、演算器121と波形発生器122とから構成される。演算器121は静電型アクチュエータ200から受信した電圧値を介して静電型アクチュエータ200の温度を取得する。そして、後述するアルゴリズムを用いて、静電型アクチュエータ200に印加する交流電圧の値を算出する。波形発生器122は、演算器121が決定した電圧の値に従って交流電圧波形を生成し、駆動電源130に送信する。
【0035】
駆動電源130は、受信した交流電圧波形に従って交流電圧を生成し、静電型アクチュエータ200に生成した交流電圧を印加する。
【0036】
次に、静電型アクチュエータ制御装置100による制御の原理について、
図4から8を用いて説明する。
【0037】
図4における電圧振動Aおよび電圧振動Bは、駆動電源130が静電型アクチュエータ200に印加する電圧の変化を例示したグラフである。交流電圧の最大電圧と最小電圧との差をピークツーピーク電圧と呼び、交流電圧の振動中心における電圧と0Vとの差をバイアス電圧と呼ぶ。電圧振動Aは正弦波であって、ピークツーピーク電圧が2.0Vでありバイアス電圧は1.0Vである。電圧振動Bもまた正弦波であって、ピークツーピーク電圧が3.0Vであり、バイアス電圧は1.5Vである。
【0038】
図5は、実験により得られた、静電型アクチュエータ200に印加される電圧と静電型アクチュエータ200の共振周波数との関係を示したグラフである。電圧は、正弦波におけるピークツーピークの値で示される。静電型アクチュエータ200は、バイアス電圧の値が上昇するに従って、共振周波数がほぼ線形に上昇する特性を有する。バイアス電圧は、ピークツーピーク電圧を増減することにより増減される。そのため、ピークツーピーク電圧を増減することにより、静電型アクチュエータ200の共振周波数を制御できる。言い換えると、交流電圧波の振動中心値を増減することにより、静電型アクチュエータ200の共振周波数を制御できる。つまり、ピークツーピーク電圧を増減すると、従来技術における直流バイアス値を増減させたのと同様の効果を得ることができる。
【0039】
図6は、静電型アクチュエータ200が所定の温度であるとき、交流電圧のピークツーピーク電圧毎に、可動部220の振動周波数と振れ角度のゲインGdとの関係を示したグラフである。これらの関係は、実験により得られる。可動部220の振れ角ゲインGdは以下の式により求められる。
Gd=20・log
10(θ/V)
ここで、θはディグリーで表される可動部220の振れ角度、Vは印加される交流電圧のピークツーピークの値である。
【0040】
各電圧曲線において、頂点が共振周波数を示す。ピークツーピーク電圧が10Vp−pであるとき、静電型アクチュエータ200の共振周波数は約4095Hzであり、40Vp−pであるとき、静電型アクチュエータ200の共振周波数は約4106Hzである。
【0041】
例えば駆動周波数が4110Hzであるとき、ピークツーピーク電圧が10Vp−pでは振れ角ゲインGdは4.7dB、20Vp−pでは振れ角ゲインGdは13.0dB、30Vp−pでは振れ角ゲインGdは14.6dB、40Vp−pでは振れ角ゲインGdは16.0dBである。すなわち、ピークツーピーク電圧を変化させることにより、静電型アクチュエータ200の振れ角度を変化させることができる。
【0042】
さらに、いずれのピークツーピーク電圧でも、共振周波数よりもわずかに高い振動周波数帯における振れ角ゲインGdの変動が、共振周波数よりも低い振動周波数帯における変動よりも緩やかである。光を所定の方向へ安定的に反射させるため、安定した振れ角度で可動部220を駆動する必要がある。安定した振れ角度で可動部220を駆動するには、ピークツーピーク電圧が多少変化しても振れ角度が一定の許容範囲内に収まっている必要がある。また、ピークツーピーク電圧の変化に対して振れ角度が鋭敏に変化すると、振れ角度を精密に制御しにくくなる。そこで、振れ角ゲインGdの変動が緩やかである共振周波数よりも若干高い周波数帯で静電型アクチュエータ200を駆動する。これにより、安定かつ精密に可動部220の振れ角度を制御できる。なお、可動部220の振動周波数と振れ角度のゲインGdとの関係は静電型アクチュエータ200の温度により変化するため、この関係を示すグラフが温度ごとに作られる。
【0043】
図7は、
図6に示される4110Hzと4120Hzの駆動周波数における、ピークツーピーク電圧と可動部220の振れ角度のゲインGaとの関係を示したグラフである。このグラフにおける可動部220の振れ角ゲインGaは以下の式により求められる。
Ga=θ/V
ここで、θはディグリーで表される可動部220の振れ角度、Vは印加される交流電圧のピークツーピークの値である。
【0044】
いずれの駆動周波数においても、ピークツーピーク電圧が20Vp−pから40Vp−pまでの範囲において、振れ角ゲインと印加電圧との関係を示すグラフが線形となる。安定した振れ角度で可動部220を駆動し、かつ振れ角度を精密に制御するため、ピークツーピーク電圧に対して振れ角度が線形に変化することが好ましい。そこで、20Vから40Vまでのピークツーピーク電圧を静電型アクチュエータ200に印加し、可動部220を駆動する。これにより、容易に可動部220の振れ角度を制御できる。
図6のグラフと同様に、ピークツーピーク電圧と可動部220の振れ角度のゲインGaとの関係を示すグラフが温度ごとに作られる。
【0045】
図8は、
図6に示される4110Hzと4120Hzの駆動周波数における、ピークツーピーク電圧と可動部220の振れ角度との関係を示したグラフである。
図7のグラフから算出される。
【0046】
いずれの駆動周波数においても、ピークツーピーク電圧が20Vから40Vまでの範囲において、振れ角ゲインと印加電圧との関係を示すグラフが二次関数により近似される。ここで決定される二次関数を用いて、所望の振れ角度で可動部220を駆動するときのピークツーピーク電圧を決定する。
図6のグラフと同様に、ピークツーピーク電圧と可動部220の振れ角度との関係を示すグラフが温度ごとに作られる。
【0047】
図9は、実験により得られた、静電型アクチュエータ200の温度毎に、静電型アクチュエータ200の駆動周波数と可動部220の振れ角度のゲインGdとの関係を示したグラフである。
【0048】
各グラフにおいて、頂点が共振周波数を示す。温度がa℃であるとき、静電型アクチュエータ200の共振周波数はfaHzであり、温度がb℃であるとき、静電型アクチュエータ200の共振周波数はfbHzである。また、温度がc℃であるとき、静電型アクチュエータ200の共振周波数はfcHzである。温度a、b、cはa<b<cの関係、共振周波数fa、fb、fcは、fa>fb>fcの関係を有する。つまり、静電型アクチュエータ200の温度が上昇すると、共振周波数が低くなる。この特性をあらかじめ測定し、DSP120が記憶する。温度、共振周波数、及び振れ角ゲインの関係を用いて、最適な印加電圧を算出する。
【0049】
次に、静電型アクチュエータ制御装置100による制御手法について説明する。
【0050】
ユーザにより、可動部220の振れ角度及び駆動周波数があらかじめ設定される。次に、演算器121は、温度センサ110から可動部220の温度を入手する。
【0051】
前述の通り、
図8のグラフは温度ごとに作られる。そこで、演算器121は、温度ごとに作成された
図8のグラフから、可動部220の温度に対応するグラフを選択する。次に、そのグラフにおいて、ユーザにより設定された可動部220の駆動周波数を示す曲線を選択する。さらに、その曲線において、ユーザにより設定された可動部220の振れ角度に対応するピークツーピーク電圧を決定する。すなわち、演算器121は、可動部220の温度と、設定されている可動部220の振れ角度及び振動周波数とから印加電圧のピークツーピーク電圧を決定する。そして、算出されたピークツーピーク電圧と駆動周波数とを波形発生器122に送信する。
【0052】
波形発生器122は、受信したピークツーピーク電圧と駆動周波数とを用いて、静電型アクチュエータ200に印加する交流電圧波を生成する。そして、交流電圧波を駆動電源130に送信する。
【0053】
駆動電源130は、受信した交流電圧波形を用いて交流電圧を生成し、静電型アクチュエータ200に印加する。
【0054】
静電型アクチュエータ200はこの電圧に従って駆動され、要求された振れ角度及び駆動周波数で可動部220を振動させる。
【0055】
以上の動作中においても、静電型アクチュエータ200の温度を演算器121が温度センサ110から受信している。演算器121が静電型アクチュエータ200の温度変化を検知すると、現在の温度に応じた印加電圧を算出して波形発生器122に送信する。波形発生器122及び駆動電源130は前述と同様に機能して、現在の温度に応じた電圧を静電型アクチュエータ200に送信する。すなわち、静電型アクチュエータ制御装置100は、静電型アクチュエータ200の温度を用いて、フィードバック制御を行う。
【0056】
本実施形態によれば、直流バイアス成分を用いずに静電型アクチュエータ200を制御するため、効率よく静電型アクチュエータ200を駆動することができる。また、静電型アクチュエータ200の温度を用いて電圧波の制御を行うことにより、可動部220の駆動周波数及び振れ角度を正確に制御することができる。
【0057】
なお、温度センサ110により得られた静電型アクチュエータ200の温度を用いて印加電圧を決定する構成について説明したが、静電型アクチュエータ200の温度を用いずに印加電圧を決定してもよい。静電型アクチュエータ200の温度を考慮しなくても、振動中心値に応じた交流電圧波を印加することにより、静電型アクチュエータ200の共振周波数を制御することが可能である。
【0058】
また、1軸の静電型アクチュエータ200について説明したが、固定部210の周囲に更に固定部210、電極及び支持部230等を設けることにより、静電型アクチュエータ200を2軸としても良い。