(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
バッファ層は、ある一定の厚さ(臨界膜厚)以下であれば、Si基板とGaN電子走行層6との線膨張係数の差を緩衝できるが、臨界膜厚を超えると、歪みエネルギーを緩和するためにミスフィット転位が生じて格子緩和が起こり、バッファ層の本来の格子定数の値に近づく。その結果、バッファ層が本来の役割(緩衝作用)を果たせなくなり、GaN電子走行層6に大きな引張り応力が作用してクラックが発生する場合がある。
【0007】
そのため、従来はバッファ層の厚さ(バッファ層の周期数)を制限する必要があり、このことが、バッファ層を厚くしてデバイスの耐圧を向上させるうえでの障害となっていた。このような障害は、リーク電流値などの素子特性に悪影響を与えない範囲で改善することが望ましい。
本発明の目的は、リーク電流の増加を抑制しつつ、基板上のIII族窒化物半導体の超格子構造の周期数を増やした場合でもクラックの発生を抑制できる窒化物半導体素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための請求項1に記載の発明は、基板と、前記基板上に形成され、互いに組成が異なる2種のIII族窒化物半導体層が複数対交互に積層された超格子構造からなる第1バッファ層と、前記第1バッファ層上に、当該第1バッファ層に接して積層され、互いに組成が異なる2種のIII族窒化物半導体層が複数対交互に積層された超格子構造からなる第2バッファ層と、前記第2バッファ層上に形成され、III族窒化物半導体からなる素子動作層とを含み、前記第1バッファ層の平均格子定数LC1と、前記第2バッファ層の平均格子定数LC2と、前記素子動作層の平均格子定数LC3とが、下記式(1)を満たす、窒化物半導体素子である。
【0009】
式(1):LC1<LC2<LC3
第1バッファ層と素子動作層との間に介在される第2バッファ層は、これらの平均格子定数LC1とLC3との中間値である平均格子定数LC2を有するので、平均格子定数LC1(<LC2)を有する第1バッファ層と、平均格子定数LC3(>LC2)を有する素子動作層との線膨張係数の差を緩衝する役割を果たすことができる。したがって、第1バッファ層と素子動作層との間に第2バッファ層を介在させることにより、基板と素子動作層との線膨張係数の差を緩衝する機能を維持しつつ、バッファ層全体の超格子周期数を増加させても第1および第2バッファ層それぞれの厚さを臨界膜厚以下に抑えることができるので、格子緩和を抑制することができる。その結果、第1および第2バッファ層を、それぞれの臨界膜厚以下の範囲で厚くすることにより、素子の耐圧を向上させることができる。
【0010】
また、第1バッファ層と第2バッファ層との間にこれらとは別のIII族窒化物半導体層が介在されておらず、第2バッファ層が、第1バッファ層上に、当該第1バッファ層に接して積層されているので、リーク電流の増加を抑制することもできる。
また、請求項2に記載のように、前記第1バッファ層は、Al
x1GaN層およびAl
y1GaN層を複数対交互に積層したAl
x1GaN/Al
y1GaN超格子構造(0≦x1<1、0<y1≦1、x1<y1)を含み、前記第2バッファ層は、Al
x2GaN層およびAl
y2GaN層を複数対交互に積層したAl
x2GaN/Al
y2GaN超格子構造(0≦x2<1、0<y2≦1、x2<y2)を含んでいてもよい。
【0011】
その場合、前記第2バッファ層の前記Al
x2GaN層は、請求項3に記載のように、前記第1バッファ層の前記Al
x1GaN層よりも厚いことが好ましく、前記Al
x1GaN層のAl組成x1は、請求項4に記載のように、前記Al
x2GaN層のAl組成x2よりも大きいことが好ましい。
また、前記第1バッファ層の平均Al組成は、請求項5に記載のように、前記第2バッファ層の平均Al組成よりも大きいことが好ましく、前記第1バッファ層の超格子周期数は、請求項6に記載のように、前記第2バッファ層の超格子周期数よりも多いことが好ましい。
【0012】
また、前記基板は、請求項7に記載のように、Si基板、SiC基板またはサファイア基板であってもよい。
また、前記素子動作層は、請求項8に記載のように、GaN層を含んでいてもよい。GaN層はリーク電流を生じやすいので、本発明を適用した場合の効果が大きい。
また、前記基板と前記第1バッファ層との間には、請求項9に記載のように、AlN層が介在されていることが好ましい。たとえば、基板がSi基板であり、第1バッファ層がGaN/AlN超格子構造からなる場合、GaN層とSi基板とが接していると、GaとSiとが反応してSi基板に結晶欠損が生じるおそれがある。しかし、第1バッファ層と基板との間にAlN層を介在させることにより、そのような結晶欠損を防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下では、本発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るHEMTの構成を説明するための模式断面図である。
このHEMT1は、基板2と、基板2上にエピタキシャル成長(結晶成長)によって形成されたIII族窒化物半導体積層構造3とを備えている。
【0015】
基板2は、この実施形態では、Si単結晶基板(線膨張係数α1:2.55×10
−6(293K)程度)で構成されている。この基板2は、(111)面を主面21としたものであり、この主面21に沿う方向(後述するa軸方向)の窒化物半導体を構成する原子と結合するSi原子の格子間距離LC0は、たとえば、0.3840nm程度である。そして、この主面21上における結晶成長によって、III族窒化物半導体積層構造3が形成されている。III族窒化物半導体積層構造3は、たとえば、m面を結晶成長主面とするIII族窒化物半導体からなる。
【0016】
III族窒化物半導体積層構造3を形成する各層は、基板2に対してコヒーレントに成長されている。コヒーレントな成長とは、下地層からの格子の連続性を保った状態での結晶成長をいう。下地層との格子不整合は、結晶成長される層の格子の歪みによって吸収され、下地層との界面での格子の連続性が保たれる。たとえば、GaN層のm面からInGaN層およびAlGaN層をそれぞれ成長させる場合、無歪みの状態でのInGaNのa軸方向の平均格子定数(a軸平均格子定数)はGaNのa軸平均格子定数よりも大きいので、InGaN層にはa軸方向への圧縮応力(圧縮歪み)が生じる。これに対して、無歪みの状態でのAlGaNのa軸平均格子定数はGaNのa軸平均格子定数よりも小さいので、AlGaN層にはa軸方向への引張り応力(引張り歪み)が生じる。
【0017】
III族窒化物半導体積層構造3は、基板2側から順に、AlN層4(5nm〜500nm厚。たとえば、100nm厚)と、バッファ層5(0.1μm〜5.0μm厚。たとえば、1.6μm厚)と、素子動作層としてのGaN電子走行層6(100nm〜5000nm厚。たとえば、2.5μm厚)およびAlGaN電子供給層7(5nm〜100nm厚。たとえば、25nm厚)とを積層して構成されている。
【0018】
AlN層4は、Si単結晶基板2と第1GaN/AlN超格子層8の最下層のGaN層10(後述)との接触を阻止するための層である。AlNのa軸平均格子定数LC0´は、たとえば、0.3112nm程度であり、線膨張係数α2は、たとえば、4.15×10
−6(293K)程度である。
バッファ層5は、AlN層4上に、AlN層4に接して形成された第1バッファ層としての第1GaN/AlN超格子層8と、この第1GaN/AlN超格子層8上に、第1GaN/AlN超格子層8に接して形成された第2バッファ層としての第2GaN/AlN超格子層9とを含んでいる。
【0019】
第1GaN/AlN超格子層8は、GaN層10(4nm〜40nm厚。たとえば、20nm厚)とAlN層11(2nm〜10nm厚。たとえば、5nm厚)とが交互に複数回積層(10〜200周期。たとえば、50周期)された超格子構造からなる。つまり、この実施形態では、相対的に厚いGaN層10と、相対的に薄いAlN層11とを、基板2の側からこの順に複数対交互に積層して第1GaN/AlN超格子層8が構成されている。AlN層11が含まれる第1GaN/AlN超格子層8の平均Al組成は、15〜75%(たとえば、20%)である。また、第1GaN/AlN超格子層8のa軸平均格子定数LC1は、たとえば、3.177nm〜3.131nmであり、線膨張係数α3は、たとえば、5.374×10
−6〜4.510×10
−6(293K)である。
【0020】
第2GaN/AlN超格子層9は、GaN層12(4nm〜40nm厚。たとえば、30nm厚)とAlN層13(2nm〜10nm厚。たとえば、5nm厚)とが交互に複数回積層(5〜60周期。たとえば、10周期)された超格子構造からなる。つまり、この実施形態では、相対的に厚いGaN層12と、相対的に薄いAlN層13とを、基板2の側からこの順に複数対交互に積層して第2GaN/AlN超格子層9が構成され、この第2GaN/AlN超格子層9の超格子周期数は、第1GaN/AlN超格子層8の超格子周期数よりも少ない。最下層のGaN層12は、第1GaN/AlN超格子層8の最上層のAlN層13に接している。AlN層13が含まれる第2GaN/AlN超格子層9の平均Al組成は、4〜50%(たとえば、14%)である。また、第2GaN/AlN超格子層9のa軸平均格子定数LC2は、たとえば、3.186nm〜3.151nmであり、線膨張係数α4は、たとえば、5.532×10
−6〜4.870×10
−6(293K)である。
【0021】
GaN電子走行層6は、この実施形態では、不純物が意図的に添加されていないアンドープGaN層(すなわち、微量の不純物が含有されることがある。)として構成されている。GaN電子走行層6のa軸平均格子定数LC3は、たとえば、0.3157nm〜0.3221nmであり、線膨張係数α5は、たとえば、5.59×10
−6(293K)程度である。
【0022】
AlGaN電子供給層7は、この実施形態では、アンドープAlGaN層として構成されている。AlGaN電子供給層7のa軸平均格子定数LC4は、たとえば、0.3157nm〜0.3221nmである。また、AlGaN電子供給層7の平均Al組成は、10〜40%(たとえば、25%)である。また、AlGaN電子供給層7の線膨張係数α6は、たとえば、4.294×10
−6〜4.726×10
−6(293K)である。
【0023】
このように、互いに組成の異なるGaN層とAlGaN層との接合がヘテロ接合となることから、GaN電子走行層6には、AlGaN電子供給層7との接合界面近傍において、2次元電子ガス(図示せず)が生じている。2次元電子ガスは、GaN電子走行層6におけるAlGaN電子供給層7との接合界面近傍のほぼ全域に存在しており、その濃度は、たとえば、5×10
12〜1×10
14cm
−2である。HEMT1では、この2次元電子ガスを利用してソース−ドレイン間に電流を流すことによって素子動作が実行される。
【0024】
AlGaN電子供給層7上には、このAlGaN電子供給層7に接するように、ゲート電極14、ソース電極15およびドレイン電極16が互いに間隔を空けて設けられている。
ゲート電極14は、AlGaN電子供給層7との間でショットキー接合を形成できる電極材料、たとえば、Ni/Au(ニッケル/金の合金)などで構成することができる。
【0025】
ソース電極15およびドレイン電極16はいずれも、AlGaN電子供給層7に対してオーミック接触することができる電極材料、たとえば、Ti/Al(チタン/アルミニウムの合金)、Ti/Al/Ni/Au(チタン/アルミニウム/ニッケル/金の合金)、Ti/Al/Nb/Au(チタン/アルミニウム/ニオブ/金の合金)、Ti/Al/Mo/Au(チタン/アルミニウム/モリブデン/金の合金)などで構成することができる。
【0026】
なお、AlGaN電子供給層7の表面には、この表面を覆う表面保護膜(図示せず)が形成されていてもよい。表面保護膜は、たとえば、SiN、SiO
2などの絶縁材料で構成することができる。
図2は、III族窒化物半導体積層構造を構成する各層を成長させるための処理装置の構成を説明するための図解図である。
【0027】
処理室30内に、ヒータ31を内蔵したサセプタ32が配置されている。サセプタ32は、回転軸33に結合されており、この回転軸33は、処理室30外に配置された回転駆動機構34によって回転されるようになっている。これにより、サセプタ32に処理対象のウエハ35を保持させることにより、処理室30内でウエハ35を所定温度に昇温することができ、かつ、回転させることができる。ウエハ35は、前述のSi単結晶基板2を構成するSi単結晶ウエハである。
【0028】
処理室30には、排気配管36が接続されている。排気配管36はロータリポンプ等の排気設備に接続されている。これにより、処理室30内の圧力は、1/10気圧〜常圧とされ、処理室30内の雰囲気は常時排気されている。
一方、処理室30には、サセプタ32に保持されたウエハ35の表面に向けて原料ガスを供給するための原料ガス供給路40が導入されている。この原料ガス供給路40には、窒素原料ガスとしてのアンモニアを供給する窒素原料配管41と、ガリウム原料ガスとしてのトリメチルガリウム(TMG)を供給するガリウム原料配管42と、アルミニウム原料ガスとしてのトリメチルアルミニウム(TMAl)を供給するアルミニウム原料配管43と、インジウム原料ガスとしてのトリメチルインジウム(TMIn)を供給するインジウム原料配管44と、マグネシウム原料ガスとしてのエチルシクロペンタジエニルマグネシウム(EtCp
2Mg)を供給するマグネシウム原料配管45と、シリコンの原料ガスとしてのシラン(SiH
4)を供給するシリコン原料配管46と、キャリヤガスを供給するキャリヤガス配管47とが接続されている。これらの原料配管41〜47には、それぞれバルブ51〜57が介装されている。各原料ガスは、いずれも水素もしくは窒素またはこれらの両方からなるキャリヤガスとともに供給されるようになっている。
【0029】
たとえば、(111)面を主面とするSi単結晶ウエハをウエハ35としてサセプタ32に保持させる。この状態で、バルブ52〜56は閉じておき、キャリヤガスバルブ57を開いて、処理室30内に、キャリヤガスが供給される。さらに、ヒータ31への通電が行われ、ウエハ温度が900℃〜1300℃(たとえば、1050℃)まで昇温される。これにより、表面の荒れを生じさせることなくIII族窒化物半導体を成長させることができるようになる。
【0030】
ウエハ温度が900℃〜1300℃に達するまで待機した後、窒素原料バルブ51およびアルミニウム原料バルブ53が開かれる。これにより、原料ガス供給路40から、キャリヤガスとともに、アンモニアおよびトリメチルアルミニウムが供給される。その結果、ウエハ35の表面に、AlN層4がエピタキシャル成長させられる。
次に、第1GaN/AlN超格子層8(第1バッファ層)の成長が行われる。第1GaN/AlN超格子層8の成長は、窒素原料バルブ51およびガリウム原料バルブ52を開いてアンモニアおよびトリメチルガリウムをウエハ35へと供給することによりGaN層10を成長させる工程と、ガリウム原料バルブ52を閉じ、窒素原料バルブ51およびアルミニウム原料バルブ53を開いてアンモニアおよびトリメチルアルミニウムをウエハ35へと供給することにより、AlN層11を成長させる工程とを交互に実行することによって行える。具体的には、GaN層10を始めに形成し、その上にAlN層11を形成する。これを、たとえば、50回に渡って繰り返し行う。第1GaN/AlN超格子層8の形成時には、ウエハ35の温度は、たとえば、900℃〜1100℃(たとえば970℃)とされることが好ましい。
【0031】
第1GaN/AlN超格子層8の成長後、引き続いて第2GaN/AlN超格子層9(第2バッファ層)の成長が行われる。第2GaN/AlN超格子層9の成長は、窒素原料バルブ51およびガリウム原料バルブ52を開いてアンモニアおよびトリメチルガリウムをウエハ35へと供給することによりGaN層12を成長させる工程と、ガリウム原料バルブ52を閉じ、窒素原料バルブ51およびアルミニウム原料バルブ53を開いてアンモニアおよびトリメチルアルミニウムをウエハ35へと供給することにより、AlN層13を成長させる工程とを交互に実行することによって行える。具体的には、第1GaN/AlN超格子層8の最上層のAlN層11の形成後、アルミニウム原料バルブ53を閉じるとともにガリウム原料バルブ52を開いてGaN層12を始めに形成し、その上にAlN層13を形成する。これを、たとえば、10回に渡って繰り返し行う。第2GaN/AlN超格子層9の形成時には、ウエハ35の温度は、たとえば、900℃〜1100℃(たとえば970℃)とされることが好ましい。
【0032】
第2GaN/AlN超格子層9の最上層のAlN層13の形成後、アルミニウム原料バルブ53を閉じるとともにガリウム原料バルブ52が開かれる。これにより、原料ガス供給路40から、キャリヤガスとともに、アンモニアおよびトリメチルガリウムが供給される。その結果、第2GaN/AlN超格子層9の最上層のAlN層13上に、アンドープGaN電子走行層6がエピタキシャル成長させられる。
【0033】
次いで、n型AlGaN電子供給層7が形成される。すなわち、窒素原料バルブ51、ガリウム原料バルブ52、アルミニウム原料バルブ53およびシリコン原料バルブ56が開かれ、他のバルブ54,55が閉じられる。これにより、ウエハ35に向けて、アンモニア、トリメチルガリウム、トリメチルアルミニウムおよびシランが供給され、シリコンがドープされたAlGaNからなるn型AlGaN電子供給層7が形成されることになる。このn型AlGaN電子供給層7の形成時には、ウエハ35の温度は、900℃〜1100℃(たとえば970℃)とされることが好ましい。
【0034】
この実施形態によれば、第1GaN/AlN超格子層8とGaN電子走行層6との間に介在される第2GaN/AlN超格子層9は、これらのa軸平均格子定数LC1とLC3との中間値であるa軸平均格子定数LC2を有する。そのため、a軸平均格子定数LC1(<LC2)を有する第1GaN/AlN超格子層8と、a軸平均格子定数LC3(>LC2)を有するGaN電子走行層6との線膨張係数の差(α3−α5)を緩衝する役割を果たすことができる。
【0035】
したがって、
図1に示すように、第1GaN/AlN超格子層8とGaN電子走行層6との間に第2GaN/AlN超格子層9を介在させることにより、基板2とGaN電子走行層6との線膨張係数の差(α1−α5)を緩衝する機能を維持しつつ、バッファ層5全体の超格子周期数を増加させても第1および第2GaN/AlN超格子層8,9それぞれの厚さを臨界膜厚以下に抑えることができるので、格子緩和を抑制することができる。その結果、第1および第2GaN/AlN超格子層8,9を、それぞれの臨界膜厚以下の範囲で厚くすることにより、HEMT1の耐圧を向上させることができる。
【0036】
また、第1GaN/AlN超格子層8と第2GaN/AlN超格子層9との間にこれらとは別のIII族窒化物半導体層(たとえば、GaN層)が介在されておらず、第2GaN/AlN超格子層9が、第1GaN/AlN超格子層8上に、第1GaN/AlN超格子層8に接して積層されているので、リーク電流の増加を抑制することもできる。このリーク電流の増加抑制の効果は、比較的リーク電流の生じやすいGaNからなる電子走行層6を含むHEMT1において効果が大きい。
【0037】
また、第1GaN/AlN超格子層8の最下層のGaN層10とSi単結晶基板2とが接していると、GaとSiとが反応してSi単結晶基板2に結晶欠損が生じるおそれがあるが、このHEMT1では、第1GaN/AlN超格子層8と基板2との間にAlN層4が介在されているので、そのような結晶欠損を防止することができる。
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はさらに他の形態で実施することもできる。
【0038】
たとえば、前述の実施形態では、本発明の実施形態の一例としてHEMT1を取り上げたが、他の実施形態として、
図3に示すMISFET20が例示できる。
このMISFET20のIII族窒化物半導体積層構造22は、基板2側から順に、AlN層4と、バッファ層5と、素子動作層としてのp型GaNチャネル層23(300〜3000nm厚。たとえば、1.5μm厚)とを積層して構成されている。p型GaNチャネル層23の表層部には、互いに間隔を隔ててn型GaNソース領域24およびn型GaNドレイン領域25が形成されている。これらの領域24,25には、ソース電極26およびドレイン電極27がそれぞれオーミック接触している。また、p型GaNチャネル層23の表面におけるn型GaNソース領域24とn型GaNドレイン領域25との間には、ゲート絶縁膜28を介してゲート電極29が対向している。なお、
図3において、
図1に示す各部に対応する部分には、それらの各部と同一の参照符号を付している。
【0039】
また、Si単結晶基板に代えて、SiC基板(たとえば、m面を主面とするSiC基板)を、サファイア基板(たとえば、m面を主面とするサファイア基板)で基板2を構成することもできる。
また、バッファ層5における基板2側の超格子層は、GaN/AlN超格子構造に限らず、Al
x1GaN層およびAl
y1GaN層が複数対交互に積層されたAl
x1GaN/Al
y1GaN超格子構造(0≦x1<1、0<y1≦1、x1<y1)で表される組成物であればよく、具体的には、AlN/AlGaN超格子層、AlGaN/AlGaN超格子層などが例示できる。また、バッファ層5における電子走行層6側の超格子層も同様に、GaN/AlN超格子構造に限らず、Al
x2GaN層およびAl
y2GaN層が複数対交互に積層されたAl
x2GaN/Al
y2GaN超格子構造(0≦x2<1、0<y2≦1、x2<y2)で表される組成物であればよく、具体的には、AlN/AlGaN超格子層、AlGaN/AlGaN超格子層などが例示できる。
【0040】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【実施例】
【0041】
次に、本発明を実施例および比較例に基づいて説明するが、この発明は下記の実施例によって限定されるものではない。
1.実施例1および比較例1
実施例1および比較例1は、本発明による格子緩和の抑制効果および耐圧の向上効果を証明するために行ったものである。
(1)実施例1
まず、(111)面を主面とするSi基板の表面に、AlN層(40nm厚)をエピタキシャル成長させた。次いで、AlN層(5nm厚)を形成し、その上にAlGaN層(25nm厚)を形成する工程を60回繰り返し行うことにより、AlN/AlGaN超格子層(60周期)を形成した。AlGaN層の形成時には、AlGaN層のAl組成が20%となるように調整した。これにより得られたAlN/AlGaN超格子層全体の平均Al組成は、33.3%であった。
【0042】
次いで、AlN層(5nm厚)を形成し、その上にAlGaN層(25nm厚)を形成する工程を20回繰り返し行うことにより、AlN/AlGaN超格子層(20周期)を形成した。なお、AlGaN層の形成時には、AlGaN層のAl組成が8%となるように調整した。これにより得られたAlN/AlGaN超格子層全体の平均Al組成は、23.3%であった。
【0043】
その後、上側のAlN/AlGaN超格子層上に、GaN層(1μm厚)およびAlGaN層(Al組成25%、25nm厚)を順に形成することにより、III族窒化物半導体積層構造を作製した。
(2)比較例1
まず、(111)面を主面とするSi基板の表面に、AlN層(40nm厚)をエピタキシャル成長させた。次いで、AlN層(5nm厚)を形成し、その上にAlGaN層(25nm厚)を形成する工程を80回繰り返し行うことにより、AlN/AlGaN超格子層(80周期)を形成した。なお、AlGaN層の形成時には、AlGaN層のAl組成が21%となるように調整した。これにより得られたAlN/AlGaN超格子層全体の平均Al組成は、34.2%であった。
【0044】
その後、このAlN/AlGaN超格子層上に、GaN層(1μm厚)およびAlGaN層(Al組成25%、25nm厚)を順に形成することにより、III族窒化物半導体積層構造を作製した。
(3)c軸歪量の測定
(1)および(2)で得られたIII族窒化物半導体積層構造における超格子層上のGaN層にc軸方向に沿って作用する歪量を、Philips社製「X’PertMRD」を用いて測定した。結果を
図5に示す。
【0045】
図5に示すように、実施例1ではc軸歪量が−0.01%であった(c軸方向に沿って−0.01%歪む応力が生じており、a軸方向としては、引張り応力が生じている。)のに対し、比較例1ではc軸歪量が−0.05%であり(c軸方向に沿って−0.05%歪む応力が生じており、a軸方向としては、引張り応力が生じている。)、GaN層にクラックが発生していることが確認された。
【0046】
すなわち、比較例1では、AlN/AlGaN単位を80周期連続して積層することによって、AlN/AlGaN超格子層が臨界膜厚を超えて格子緩和が起こったと考えられる。
これに対し、実施例1では、互いに平均Al組成の異なるAlN/AlGaN超格子層をそれぞれ60周期および20周期に分けて形成することによって、バッファ層全体の超格子周期数は比較例1と同等であるが、個々のAlN/AlGaN超格子層の厚さを臨界膜厚以下に抑えることができたため、格子緩和を抑制できたと考えられる。
(4)破壊電圧の測定
次いで、バッファ層全体の周期数を20周期、60周期および80周期としたIII族窒化物半導体積層構造を作製した。なお、層構成は、実施例1と同じとした。
【0047】
そして、得られたIII族窒化物半導体積層構造のAlGaN層に電圧を印加し、AlN/AlGaN超格子層が絶縁破壊するときの電圧値を調べた。結果を
図6に示す。
図6に示すように、バッファ層(AlN/AlGaN超格子層)の周期数が多くなるほど、AlN/AlGaN超格子層への電界集中を抑制でき、その結果、III族窒化物半導体積層構造の耐圧を向上できることが確認された。
2.実施例2および比較例2〜3
実施例2および比較例2〜3は、本発明によるリーク電流の抑制効果を証明するために行ったものである。
(1)実施例2
まず、(111)面を主面とするSi基板(300μm厚)の表面に、AlN層(100nm厚)をエピタキシャル成長させた。次いで、GaN層(20nm厚)を形成し、その上にAlN層(5nm厚)を形成する工程を53回繰り返し行うことにより、GaN/AlN超格子層(53周期)を形成した。これにより得られたGaN/AlN超格子層全体の平均Al組成は、20%であった。
【0048】
次いで、GaN層(30nm厚)を形成し、その上にAlN層(5nm厚)を形成する工程を11回繰り返し行うことにより、GaN/AlN超格子層(11周期)を形成した。これにより得られたGaN/AlN超格子層全体の平均Al組成は、14%であった。
その後、上側のGaN/AlN超格子層上に、GaN層(2.5μm厚)およびAlGaN層(Al組成25%、25nm厚)を順に形成することにより、III族窒化物半導体積層構造を作製した。
【0049】
次いで、AlGaN層の表面に、それぞれTi/Al/Ni/Auからなるソース電極およびドレイン電極を形成した。
(2)比較例2
まず、(111)面を主面とするSi基板(300μm厚)の表面に、AlN層(100nm厚)をエピタキシャル成長させた。次いで、GaN層(20nm厚)を形成し、その上にAlN層(5nm厚)を形成する工程を64回繰り返し行うことにより、GaN/AlN超格子層(64周期)を形成した。これにより得られたGaN/AlN超格子層全体の平均Al組成は、20%であった。
【0050】
その後、GaN/AlN超格子層上に、GaN層(2.5μm厚)およびAlGaN層(Al組成25%、25nm厚)を順に形成することにより、III族窒化物半導体積層構造を作製した。
次いで、AlGaN層の表面に、それぞれTi/Al/Ni/Auからなるソース電極およびドレイン電極を形成した。
(3)比較例3
まず、(111)面を主面とするSi基板(300μm厚)の表面に、AlN層(100nm厚)をエピタキシャル成長させた。次いで、GaN層(20nm厚)を形成し、その上にAlN層(5nm厚)を形成する工程を20回繰り返し行うことにより、GaN/AlN超格子層(20周期)を形成した。これにより得られたGaN/AlN超格子層全体の平均Al組成は、20%であった。
【0051】
次いで、GaN層単層(200nm)を形成し、その上にGaN/AlN超格子層(20nm/5nm、平均Al組成20%)を上記と同様に10周期形成した。このGaN層単層およびGaN/AlN超格子層からなるユニットを形成する工程を3回繰り返した。その後、さらにGaN層単層(200nm)を形成した。次いで、GaN層(30nm厚)を形成し、その上にAlN層(5nm厚)を形成する工程を10回繰り返し行うことにより、GaN/AlN超格子層(10周期)を形成した。これにより得られたGaN/AlN超格子層全体の平均Al組成は、14%であった。
【0052】
その後、GaN/AlN超格子層(30nm/5nm、平均Al組成14%)上に、GaN層(2.5μm厚)およびAlGaN層(Al組成25%、25nm厚)を順に形成することにより、III族窒化物半導体積層構造を作製した。
次いで、AlGaN層の表面に、それぞれTi/Al/Ni/Auからなるソース電極およびドレイン電極を形成した。
(4)リーク電流の測定
(1)〜(3)で得られたIII族窒化物半導体積層構造のソース−ドレイン間に電圧を印加し、印加電圧を徐々に上昇させた。上昇の過程で流れたリーク電流の変化を
図8に示す。