【実施例】
【0024】
本試験では、トリクロロエチレンおよびシス-1,2-ジクロロエチレンで汚染された人工地下水を作成し、ホップ抽出成分を添加して、ホップ抽出成分が微生物浄化に与える影響を把握することを目的とした室内培養試験を実施した。人工地下水の組成を表1に示す。
【0025】
【表1】
【0026】
120mLのガラスバイアル瓶に上記人工地下水を90mL、トリクロロエチレンを10μmol/L、シス-1,2-ジクロロエチレンを30μmol/L、乳酸ナトリウムを400mg/L(有機物濃度で150mg/L)、塩素化エチレン汚染地下水から採取した土壌1gと蒸留水10gを混合後に得られた土壌上澄み液を1mL、をそれぞれ添加してテフロンコーティング処理済みのブチルゴム栓とアルミシール栓を用いて密栓した。
【0027】
次に、乾燥ホップ(粉末)を1%(w/v)で蒸留水に混合して作成したホップ成分抽出水を、個々のガラスバイアル瓶に、O%(v/v)(コントロール)、3%(v/v)、1%(v/v)、0.1%(v/v)添加して、20℃の恒温室内で82日間振とう培養した。
【0028】
人工地下水中のトリクロロエチレン、シス-1,2-ジクロロエチレン、および塩化ビニルモノマーの培養期間中の経時変化を
図1に、43日目におけるガラスバイアル瓶中の気相中のエチレン濃度を
図2に、それぞれ示す。
この結果、全ての培養条件で浄化(脱塩素化)の傾向が確認されたが、培養開始から約1ヶ月後(36日目、43日目)では、浄化傾向に大きな差があることが確認できた。
培養開始から43日目の時点では、ホップ成分抽出水を添加していない条件と0.1%添加した条件ではシス-1,2-ジクロロエチレンの脱塩素化は確認されず、最終生成物であるエチレンの気相への生成も確認されなかった。
一方、ホップ成分抽出水を3%、および1%添加した条件では、脱塩素化傾向と最終生成物であるエチレンの気相への生成が確認され、ホップ成分抽出水の添加量の多い条件で脱塩素化が速く進行することが示された。
【0029】
浄化に関わる細菌の増加傾向を把握するため、デハロコッコイデス属(Dehalococcoides属、参考文献1〜2)の16S rRNA遺伝子コピー数、およびシス-1,2-ジクロロエチレン以降の脱塩素化に関わる公知の機能遺伝子(参考文献3〜6)であるvcrA遺伝子コピー数をリアルタイムPCR法により求めた。
培養試料からのゲノムDNAの取得方法、およびデハロコッコイデス属の16S rRNA遺伝子数のリアルタイムPCRによる決定方法については、次に示すとおりである。
【0030】
ゲノムDNAを取得するため、培養試料5mlを濾過したポリカーボネート製メンブレンフィルター(孔径0.2 mm)を20mg/ml-プロテナーゼK(3μL)、10%-Sodium dodecyl sulfate(30μL)、TEバッファー(567μL)を含む溶液内において50℃で1時間静置して、続いて5M-NaCl(100μL)、CATB/NaCl溶液(80μL)を加えて、65℃で10分間静置培養した。
【0031】
次に、クロロホルム/イソアミルアルコール(800μL)を加えて混合後、15000rpm、5分間の遠心分離後に上清液600μLを回収し、フェノール(300μL)、クロロホルム/イソアミルアルコール(24:1,300μL)を加えて、15000rpm、5分間の遠心分離後、上清550μLを回収した。そこに、3M-酢酸ナトリウム(55μL)、イソプロピルアルコール(550μL)を加え、15000rpm、10分間の遠心分離後に上精液を捨て、70%エタノール(1mL)を加え、15000rpm、10分間の遠心分離後に上精液を捨て、DNAを回収した。
【0032】
続いて、リアルタイムPCR法により、デハロコッコイデス属16S rRNA遺伝子コピー数を以下の方法で定量した。リアルタイムPCR法により増幅させる遺伝子領域は、デハロコッコイデス属細菌に共通する配列となる16S rDNA上の特異的領域を増幅させるプライマーとして「5’-CAGCAGGAGAAAACGGAATT-3’」と「5’-GACAGCTTTGGGGATTAGC-3’」を用い、リアルタイムPCRでの遺伝子断片検出法はSYBR Green Iを使用したインターカレーター方式とした。
【0033】
以下に1検体当たりのPCR反応組成を示す。上記方法で抽出したゲノムDNAは50μlのTEバッファーに溶解して使用した。なお、本試験ではブランクを設け、PCRの反応液にはDNA抽出物の代わりに滅菌蒸留水を混合した。
【0034】
2×SYBR Premix(タカラバイオ社製) 12.5μl
100μM 624-Fw 0.1μl
100μM 1232-Rv 0.1μl
50×ROX Dye(タカラバイオ社製) 0.5μl
DNA 抽出物 1.0μl
滅菌超純水 10.8μl
計 25.0μl
【0035】
リアルタイムPCR反応は、初期変性(95℃、30秒)の後、変性(95℃、5秒)・アニーリング(54℃、30秒)・伸長反応(72℃、45秒)を40回繰り返し、最後に60℃から95℃まで段階的に温度を上昇させる条件とした。地下水中のデハロコッコイデス属細菌のコピー数を定量するために、既知のデハロコッコイデス属細菌の16S rDNA領域をpGEM T-Easyベクター(Promega社製)にクローニングしたプラスミドDNAをスタンダードとして使用し、10
2〜10
8copiesの検出値について検量線を作成した。
【0036】
<参考文献>
[参考文献1]X.Maymo−Gatell,Y.-T. Chien,J.M.Gossett,and S.H.Zinder,Sience,276:1568-1571,1997.
[参考文献2]D.E.Fennell,I.Nijenhuis,S.F.Wilson,S.H.Zinder,and M.M.Haggblom,Environ.Sci.Technol.,38:2075-2081,2004.
[参考文献3]J.He,K.M.Ritalahti,M.R.Aiello,and F.E.Loffler,Appl.Environ.Microbiol.,69:996-1003,2003.
[参考文献4]M.Duhamel,K.Mo,and E.A.Edwards,Appl.Environ.Microbiol.,70:5538-5545,2004.
[参考文献5]J.A.Muller,B.M.Rosner,G.von Abendroth,G.Meshulam-Simon,P.L.McCarty,and A.M.Spormann.,Appl.Environ.Microbiol.,70:4880-4888,2004.
[参考文献6]K.M.Ritalahti,B.K.Amos,Y.Sung,Q.Wu,S.S.Koenigsberg,and F.E.Loffler,Appl.Environ.Microbiol.72:2765-2774,2006.
【0037】
vcrA遺伝子コピー数は、ゲノムDNAの採取後にリアルタイムPCR法により以下の方法で定量した。リアルタイムPCR法により機能遺伝子vcrAの特異的領域を増幅させるプライマーとして「5’-CGGGCGGATGCACTATTTT-3’」、および「5’-GAATAGTCCGTGCCCTTCCTC-3’」を用い、5’末端を蛍光物質(FAM)で、3’末端をクエンチャー物質(TAMRA)で修飾したオリゴヌクレオチド「5’-CGCAGTAACTCAACCATTTCCTGGTAGTGG-3’」をプローブとして用いた。
リアルタイムPCR法での遺伝子断片検出方法は、蛍光プローブ法とした。
【0038】
以下に1検体辺りのPCR反応組成を示す。上記方法で抽出したDNAは50μlのTEバッファーに溶解して使用した。なお、本試験ではブランクを設け、PCRの反応液にはDNA抽出物の代わりに滅菌蒸留水を混合した。
【0039】
2×Premix EX Tag(タカラバイオ社製) 12.5μl
100μM 1022-Fw 0.1μl
100μM 1093-Rv 0.1μl
100μM1042-Probe 0.1μl
50×ROX Dye(2)(タカラバイオ社製) 0.5μl
DNA 抽出物 1.0μl
滅菌超純水 10.7μl
計 25.0μl
【0040】
リアルタイムPCR反応は、初期変性(95℃、10秒)の後、変性(95℃、15秒)、アニーリング(58℃、1分)を40サイクル行い、特定遺伝子のコピー数を求めた。地下水中の機能遺伝子を保有する微生物種を定量するために、完全脱塩素化の培養系から既知のvcrA遺伝子領域をpGEM T-Easyベクター(Promega社製)にクローニングしたプラスミドDNAをスタンダードとして使用し、10
2〜10
8 copiesの検出値について検量線を作成した。
【0041】
本方法により、培養開始から43日目におけるデハロコッコイデス属細菌の16S rRNA遺伝子コピー数、およびvcrA遺伝子コピー数を定量した結果、両遺伝子数は
図3に示されるように同様の傾向を示した。
【0042】
デハロコッコイデス属細菌の16S rRNA遺伝子コピー数、およびvcrA遺伝子コピー数は、いずれも脱塩素化がみられたホップ成分抽出水を3%、および1%添加した条件で顕著に増加していることが確認できた。
【0043】
一方、培養開始から43日目における添加した有機物(乳酸)量に対して培養後に消費された有機物の割合を示す消費率は、
図4に示されるように、ホップ成分抽出水の添加量が多いほど小さかった。
【0044】
さらに、培養開始から43日目における人工地下水中に存在する微生物全体の増殖活性を示す指標となるATPは、
図5に示されるように、ホップ成分抽出水を添加すると低くなり、特に添加量が多くなるほどATP活性が低くなった。
【0045】
以上の試験結果から、以下の4点が明らかとなった。
(1)ホップ成分抽出水の添加量の多い条件で脱塩素化が速く進行すること。
(2)脱塩素化菌数の指標となる遺伝子コピー数は、ホップ成分抽出水を所定量以上添加した条件で顕著に増加すること。
(3)有機物の消費率は、ホップ成分抽出水の添加量が多いほど小さいこと。
(4)人工地下水中に存在する微生物全体の増殖活性を示す指標となるATPは、ホップ成分抽出水の添加量が多くなるほど活性が低くなること。
【0046】
上記(1)と(2)から、ホップ成分抽出水の添加が、脱塩素化に関わる有用細菌数を増加させ、脱塩素化を速く進行させることが明らかである。
逆に上記(2)(3)及び(4)からは、ホップ成分抽出水の添加が、浄化に関係しない細菌の増殖は抑制されることを窺い知ることができる。
【0047】
以上の結果を総合すると、ホップ抽出成分を存在させることにより、浄化に無関係な細菌の増殖は抑制され、脱塩素化に関わる有用細菌数を増加させて脱塩素化を促進させる作用効果があることが明らかとなった。
【0048】
本発明は、浄化促進材料はホップ抽出成分を添加した上記実施例に限られず、ホップまたは乾燥ホップそのものを添加してもよい。
要するに、浄化対象に対しホップ中に含有される成分を添加できる材料であれば浄化促進材料とすることができる。
また、浄化に必要な有用微生物はデハロコッコイデス属細菌あるいはvcrA遺伝子をもつ細菌に限定されず、ホップ、ホップ抽出成分、又はホップを含む材料を添加することにより、活性化する微生物であればなんでもよい。