【実施例】
【0023】
〔
参考例1の構成〕
参考例1の製造方法により製造される電磁弁1の構成を、
図1および
図2に基づいて説明する。
まず、電磁弁1は、例えば
図1に示すように、100MPaを超える高圧の燃料を内燃機関2の燃焼室に直接噴射供給する蓄圧式の燃料噴射装置3を構成する減圧弁として利用されるものであり、蓄圧容器としてのコモンレール4に装着されてコモンレール4から燃料を逃してコモンレール4内の燃料圧(以下、コモンレール圧と呼ぶ。)を減圧する。
【0024】
また、燃料噴射装置3は、電磁弁1やコモンレール4以外に以下のような機器等を備える。
すなわち、燃料噴射装置3は、燃料タンク5から燃料を吸引するとともに高圧化してコモンレール4に供給するサプライポンプ6、コモンレール4から燃料の分配を受けて高圧の燃料を気筒内に噴射するインジェクタ7、コモンレール4に装着されてコモンレール圧を検出するレール圧センサ8、レール圧センサ8等の各種センサから得られる検出値に基づき電磁弁1、サプライポンプ6やインジェクタ7等の動作を制御する電子制御ユニット(ECU)9を備える。
【0025】
そして、電磁弁1から逃された燃料は、インジェクタ7から逃された燃料とともに逃し流路10を介して燃料タンク5に戻される。
電磁弁1は、コモンレール4内に連通する高圧流路13と逃し流路10に通じる低圧流路14とを形成する弁ボディ15と、弁ボディ15に設けられた弁座16に対し離着することで高圧流路13と低圧流路14との間を開閉する弁体17と、ECU9からの指令に応じて動作し弁体17を駆動する電磁ソレノイド装置18とを備え、電磁ソレノイド装置18により弁体17を駆動することで高圧流路13と低圧流路14との間を開閉して、コモンレール4からの燃料の逃しを開始したり、停止したりする。
【0026】
電磁ソレノイド装置18は、ボビン21に巻線されたコイル22と、コイル22への通電により励磁される固定子としてのステータコア23および可動子としてのアーマチャコア24と、励磁されたアーマチャコア24のステータコア23への当接を阻止するストッパ機構25とを備える。
【0027】
ステータコア23は、ボビン21の内周側および後端側に固定されるものであり、コイル22の内周側および後端側にて磁路を形成する。また、ボビン21の外周側および先端側にはヨーク26が配されており、ヨーク26の後端はステータコア23の後端部にかしめ固定される。
【0028】
アーマチャコア24は、ボビン21の内周側でステータコア23の先端と軸方向に対向して軸方向エアギャップG1を形成するとともにヨーク26の先端部の内周側でヨーク26の先端部の内周と径方向に対向して径方向エアギャップG2を形成するように配置されている。
【0029】
これにより、コイル22への通電が始まると、例えば、ステータコア23→ヨーク26→アーマチャコア24→ステータコア23の順に磁束が通る磁気回路が形成され、アーマチャコア24がステータコア23の方(後端側)に吸引されて移動する。
なお、ボビン21の内周側には、アーマチャコア24を励磁に伴う移動方向とは逆の方向(先端側)に付勢するスプリング27がセットされている。このため、コイル22への通電が終わると磁束が消滅し、アーマチャコア24は、スプリング27の付勢力によりステータコア23から軸方向に離れるように移動する。
【0030】
ストッパ機構25は、ステータコア23およびアーマチャコア24のそれぞれに固定された当接部材30a、30bを有し、当接部材30a、30b同士の当接によりステータコア23とアーマチャコア24との間に軸方向エアギャップG1を確保することで、アーマチャコア24のステータコア23への当接を阻止する。なお、アーマチャコア24側の当接部材30bは、弁体17と一体に設けられて弁体17の後端部をなすものである。
【0031】
ステータコア23側の当接部材30aは、円板状の大径部31および円柱状の小径部32を有する。ここで、ステータコア23には、ボビン21の内周側に配置される部分において先端側に開口するとともに、当接部材30aを収容して固定するための固定穴33が設けられている。そして、固定穴33の開口面がステータコア23において軸方向エアギャップG1を形成するエアギャップ形成面34aをなす。
【0032】
また、当接部材30aは、大径部31を固定穴33に圧入することでステータコア23に固定される。この際、大径部31は、固定穴33の後端底面に当接するように圧入される。また、小径部32の先端面がストッパ機構25におけるステータコア23側の当接面35aをなす。なお、固定穴33では、小径部32の外周側においてスプリング27が小径部32と同軸に収容されており、大径部31は、スプリング27の後端を支持するスプリング座として機能する。
【0033】
アーマチャコア24側の当接部材30bは、当接部材30aの小径部32と略同一径の円柱状に設けられている。また、当接部材30bは圧入によりアーマチャコア24に固定されている。ここで、アーマチャコア24には軸方向に貫通する貫通孔36が設けられており、当接部材30bは、貫通孔36に圧入されてアーマチャコア24を軸方向に貫通するように固定されている。そして、当接部材30bの後端面がストッパ機構25におけるアーマチャコア24側の当接面35bをなす。
【0034】
また、アーマチャコア24の後端面は、貫通孔36が開口する開口面38と、開口面38の外周側に環状に形成されて開口面38よりも後端側に隆起する隆起面39とからなる。そして、隆起面39がアーマチャコア24において軸方向エアギャップG1を形成するエアギャップ形成面34bをなす。なお、開口面38はスプリング27の先端を支持するスプリング座面として機能する。
【0035】
以上の構成により、電磁弁1では、コイル22への通電が始まるとアーマチャコア24がステータコア23により後端側に吸引されるので、弁体17および当接部材30bは、当接面35bが当接面35aに当接するまで後端側に移動し、弁体17は、弁座16から離座して高圧流路13と低圧流路14との間を開放する。このため、コモンレール4内から逃し流路10への燃料の逃しが始まる。この際、軸方向エアギャップG1はコイル22への通電開始前よりも小さくなるものの、エアギャップ形成面34a、34bは当接せず、設定された大きさの軸方向エアギャップG1が確保される。
【0036】
また、コイル22への通電が終わるとアーマチャコア24がスプリング27により先端側に付勢されるので、弁体17および当接部材30bは、弁体17が弁座16に着座するまで先端側に移動し、当接面35bは当接面35aから離れる。このため、高圧流路13と低圧流路14との間が閉鎖され、コモンレール4内から逃し流路10への燃料の逃しが終わる。
【0037】
〔
参考例1の製造方法〕
参考例1の電磁弁1の製造方法を、
図2および
図3に基づき説明する。
まず、電磁弁1の製造方法は、ステータコア23側の当接部材30aをステータコア23に圧入してステータユニット41を組み立てる第1組立工程と、アーマチャコア24側の当接部材30bをアーマチャコア24に圧入してアーマチャユニット42を組み立てる第2組立工程と、ステータユニット41およびアーマチャユニット42の少なくとも一方のユニットに研削を施す研削工程とを備える。
【0038】
第1、第2組立工程のそれぞれの工程では、当接部材30a、30bが当接したときの軸方向エアギャップG1を調節するためのスペーサをステータ、アーマチャユニット41、42に組み込むことなく、ステータ、アーマチャユニット41、42の組立が行われる(以下の説明では、「当接部材30a、30bが当接したとき」を「当接時」と略して呼ぶことがある。)。
【0039】
研削工程は、当接時の軸方向エアギャップG1の精度を高める必要がある場合に実施され、第1、第2組立工程における圧入により当接時の軸方向エアギャップG1の精度が充分に高い場合、実施されない。
そして、研削工程では、ステータユニット41およびアーマチャユニット42の少なくとも一方のユニットに研削を施すことにより、スペーサを使用することなく当接時の軸方向エアギャップG1の精度を高める。
【0040】
ここで、
参考例1の製造方法では、ステータユニット41においてエアギャップ形成面34aと当接面35aとを面一に揃えるとともに、アーマチャユニット42においてエアギャップ形成面34bと当接面35bとの段差を当接時の軸方向エアギャップG1に略一致させることで、当接時の軸方向エアギャップG1を設定する。
【0041】
すなわち、
参考例1の製造方法によれば、第1組立工程における圧入固定、および研削工程における研削の少なくとも一方により、エアギャップ形成面34aと当接面35aとを面一に揃えるとともに、第2組立工程における圧入固定、および研削工程における研削の少なくとも一方により、エアギャップ形成面34bと当接面35bとの段差を当接時の軸方向エアギャップG1に略一致させる。
【0042】
つまり、
参考例1の製造方法によれば、第1組立工程における圧入固定によりエアギャップ形成面34aと当接面35aとが充分に面一に揃っていない場合、研削工程において、ステータユニット41に対する研削が実施される。また、第1組立工程における圧入固定によりエアギャップ形成面34aと当接面35aとが充分に面一に揃っている場合、研削工程において、ステータユニット41に対する研削は実施されない。
【0043】
また、
参考例1の製造方法によれば、第2組立工程における圧入固定によりエアギャップ形成面34bと当接面35bとの段差が当接時の軸方向エアギャップG1に充分に略一致していない場合、研削工程において、アーマチャユニット42に対する研削が実施される。また、第2組立工程における圧入固定によりエアギャップ形成面34bと当接面35bとの段差が当接時の軸方向エアギャップG1に充分に略一致している場合、研削工程において、アーマチャユニット42に対する研削は実施されない。
【0044】
さらに、
参考例1の製造方法によれば、研削工程においてステータユニット41に対する研削を実施する場合、当接面35aに対する研削を行わずにエアギャップ形成面34aに対する研削のみを行うことで、エアギャップ形成面34aと当接面35aとを面一に揃える。このため、第1組立工程では、当接面35aがエアギャップ形成面34aよりも突出しないように、当接部材30aがステータコア23に圧入される。
【0045】
また、
参考例1の製造方法によれば、研削工程においてアーマチャユニット42に対する研削を実施する場合、当接面35bに対する研削を行わずにエアギャップ形成面34bに対する研削のみを行うことで、エアギャップ形成面34bと当接面35bとの段差を当接時の軸方向エアギャップG1に略一致させる。このため、第2組立工程では、当接面35bがエアギャップ形成面34bよりも突出しすぎないように(つまり、エアギャップ形成面34bと当接面35bとの段差が当接時の軸方向エアギャップG1の設定値よりも大きくならないように、)、当接部材30bがアーマチャコア24に圧入される。
【0046】
〔
参考例1の効果〕
参考例1の電磁弁1の製造方法によれば、研削工程は、当接時の軸方向エアギャップG1の精度を高める必要がある場合に実施され、ステータ、アーマチャユニット41、42の少なくとも一方のユニットに研削を施すことにより、スペーサを使用することなく当接時の軸方向エアギャップG1の精度を高める。
【0047】
研削によれば、砥石の送り量を設定して砥石を送り出すことにより、極めて高精度に、設定した送り量分の研削を実現できる。このため、研削を利用することで、スペーサを用いることなく、かつ、作業を煩雑化することなく高精度に当接時の軸方向エアギャップG1を調節することができる。
【0048】
また、研削工程は、エアギャップ形成面34a、34bの内の少なくとも一方の面を研削することにより、当接時の軸方向エアギャップG1の精度を高める。
ステータコア23およびアーマチャコア24の素材には、磁気特性の点から、電磁ステンレス、珪素鋼および低炭素鋼等の硬度の低い軟磁性材料が使用される。これに対し、当接部材30a、30bの素材には、当接による磨耗の進行を抑制するため、合金鋼やステンレス鋼等の硬度の高い材料が使用される。よって、当接時の軸方向エアギャップG1の設定に係わる面の内、硬度が低い方の素材からなる面を研削することにより研削を容易に行うことができる。
【0049】
〔
参考例2〕
参考例2の電磁弁1の製造方法では、ステータユニット41においてエアギャップ形成面34aと当接面35aとの段差を当接時の軸方向エアギャップG1に略一致させるとともに、アーマチャユニット42においてエアギャップ形成面34bと当接面35bとを面一に揃えることで、当接時の軸方向エアギャップG1を設定する(
図4参照)。
【0050】
すなわち、
参考例2の製造方法によれば、第1組立工程における圧入固定、および研削工程における研削の少なくとも一方により、エアギャップ形成面34aと当接面35aとの段差を当接時の軸方向エアギャップG1に略一致させるとともに、第2組立工程における圧入固定、および研削工程における研削の少なくとも一方により、エアギャップ形成面34bと当接面35bとを面一に揃える。
【0051】
つまり、
参考例2の製造方法によれば、第1組立工程における圧入固定によりエアギャップ形成面34aと当接面35aとの段差が当接時の軸方向エアギャップG1に充分に略一致していない場合、研削工程において、ステータユニット41に対する研削が実施される。また、第1組立工程における圧入固定によりエアギャップ形成面34aと当接面35aとの段差が当接時の軸方向エアギャップG1に充分に略一致している場合、研削工程において、ステータユニット41に対する研削は実施されない。
【0052】
また、
参考例2の製造方法によれば、第2組立工程における圧入固定によりエアギャップ形成面34bと当接面35bとが充分に面一に揃っていない場合、研削工程において、アーマチャユニット42に対する研削が実施される。また、第2組立工程における圧入固定によりエアギャップ形成面34bと当接面35bとが充分に面一に揃っている場合、研削工程において、アーマチャユニット42に対する研削は実施されない。
【0053】
さらに、
参考例2の製造方法によれば、研削工程においてステータユニット41に対する研削を実施する場合、当接面35aに対する研削を行わずにエアギャップ形成面34aに対する研削のみを行うことで、エアギャップ形成面34aと当接面35aとの段差を当接時の軸方向エアギャップG1に略一致させる。このため、第1組立工程では、当接面35aがエアギャップ形成面34aよりも突出しすぎないように(つまり、エアギャップ形成面34aと当接面35aとの段差が当接時の軸方向エアギャップG1の設定値よりも大きくならないように、)、当接部材30aがステータコア23に圧入される。
【0054】
また、
参考例2の製造方法によれば、研削工程においてアーマチャユニット42に対する研削を実施する場合、当接面35bに対する研削を行わずにエアギャップ形成面34bに対する研削のみを行うことで、エアギャップ形成面34bと当接面35bとを面一に揃える。このため、第2組立工程では、当接面35bがエアギャップ形成面34bよりも突出しないように、当接部材30bがアーマチャコア24に圧入される。
【0055】
〔
実施例〕
実施例の電磁弁1の製造方法によれば、当接部材30aは、固定穴33内で当接面35a、35bが当接するように固定される(
図5参照)。
すなわち、当接部材30aは、例えば、円板状の大径部31のみとして設けられ、大径部31の先端面が当接面35aをなす。また、当接部材30bは、アーマチャコア24を貫通して固定穴33の後端奥深くまで進入することができるように、
参考例1、2の当接部材30bよりも長く設けられている。また、スプリング27は、固定穴33において当接部材30bの外周側に当接部材30bと同軸に収容されている。
【0056】
そして、ステータユニット41において、エアギャップ形成面34aと当接面35aとの距離を当接深さG3と定義すると、
実施例の製造方法では、アーマチャユニット42においてエアギャップ形成面34bと当接面35bとの段差を当接時の軸方向エアギャップG1と当接深さG3との和に略一致させることで、当接時の軸方向エアギャップG1を設定する。
すなわち、
実施例の製造方法によれば、第2組立工程における圧入固定、および研削工程における研削の少なくとも一方により、エアギャップ形成面34bと当接面35bとの段差を当接時の軸方向エアギャップG1と当接深さG3との和に略一致させる。
【0057】
つまり、
実施例の製造方法によれば、第2組立工程における圧入固定によりエアギャップ形成面34bと当接面35bとの段差が当接時の軸方向エアギャップG1と当接深さG3との和に充分に略一致していない場合、研削工程において、アーマチャユニット42に対する研削が実施される。また、第2組立工程における圧入固定によりエアギャップ形成面34bと当接面35bとの段差が当接時の軸方向エアギャップG1と当接深さG3との和に充分に略一致している場合、研削工程において、アーマチャユニット42に対する研削は実施されない。
【0058】
さらに、
実施例の製造方法によれば、研削工程においてアーマチャユニット42に対する研削を実施する場合、当接面35bに対する研削を行わずにエアギャップ形成面34bに対する研削のみを行うことで、エアギャップ形成面34bと当接面35bとの段差を当接時の軸方向エアギャップG1と当接深さG3との和に略一致させる。このため、第2組立工程では、当接面35bがエアギャップ形成面34bよりも突出しすぎないように(つまり、エアギャップ形成面34bと当接面35bとの段差が当接時の軸方向エアギャップG1の設定値と当接深さG3の設定値との和よりも大きくならないように、)、当接部材30bがアーマチャコア24に圧入される。
【0059】
〔変形例〕
電磁弁1の製造方法の態様は、
実施例に限定されず種々の変形例を考えることができる。例えば、
実施例の製造方法によれば、エアギャップ形成面34a、34bに対する研削を行い、当接面35a、35bに対する研削を行わなかったが、当接面35a、35bに対する研削を行うようにしてもよい。
【0060】
また、
実施例の製造方法によれば、当接部材30a、30bそれぞれのステータコア23およびアーマチャコア24に対する固定は圧入によるものであったが、例えば、レーザ溶接により当接部材30a、30bそれぞれをステータコア23およびアーマチャコア24に固定してもよい。
【0061】
また、
実施例の製造方法によれば、研削工程では、アーマチャコア24に対する研削のみを行うことで、エアギャップ形成面34bと当接面35bとの段差を当接時の軸方向エアギャップG1と当接深さG3との和に略一致させていたが、ステータコア23に対する研削により当接深さG3を調節することで、エアギャップ形成面34bと当接面35bとの段差を当接時の軸方向エアギャップG1と当接深さG3との和に略一致させてもよい。
【0062】
さらに、
実施例の電磁弁1は、コモンレールから燃料を逃してコモンレール圧を減圧する減圧弁として利用されていたが、サプライポンプ6の調量弁に電磁弁1を利用してもよい。