(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
まず、比較例による半導体紫外線受光素子について説明する。
【0015】
図10Aは、比較例による受光素子の概略断面図である。比較例の受光素子では、半導体層の成長方法として分子線エピタキシ(MBE)を用いる。
【0016】
c面サファイア基板101上に、MgビームとOラジカルビームを同時照射して、MgO層102を厚さ約10nm成長させる。MgO層102の成長条件は、例えば、成長温度650℃、Mgフラックス0.05nm/s、OソースガンのO
2流量2sccm/RFパワー300Wとする。
【0017】
MgO層102は、その上に成長させるZnO系半導体層をZn極性面(+c面)で成長させる極性制御層となる。なお、無極性単結晶基板上方に成長させるZnO系半導体層の極性を、MgO層を介して制御する技術については、特開2005‐197410号公報の「発明を実施するための最良の形態」の欄に説明されている。
【0018】
MgO層102上に、Znビーム及びOラジカルビームを同時照射して、ZnOバッファー層103を厚さ約30nm成長させる。ZnOバッファー層103の成長条件は、例えば、成長温度300℃、Znフラックス0.1nm/s、OソースガンのO
2流量2sccm/RFパワー300Wとする。ZnOバッファー層103の成長後、結晶性及び表面平坦性改善のため、900℃、30分のアニールを施す。
【0019】
ZnOバッファー層103上に、Znビーム、Oラジカルビーム、及びGaビームを同時照射して、Gaドープn型ZnO層104を厚さ約2μm成長させる。n型ZnO層104の成長条件は、例えば、成長温度900℃、Znフラックス0.3nm/s、OソースガンのO
2流量2sccm/RFパワー300W、Gaセル温度380℃とする。
【0020】
n型ZnO層104上に、Znビーム及びOラジカルビームを同時照射して、アンドープZnO層105を厚さ約1.5μm成長させる。アンドープZnO層105の成長条件は、例えば、成長温度900℃、Znフラックス0.05nm/s、OソースガンのO
2流量2sccm/RFパワー300Wとする。
【0021】
アンドープZnO層105上に、アンドープZnO層105のエッチング用のレジストレジストパターンを形成する。このレジストパターンをマスクとして、酸でアンドープZnO層105をエッチングして、n型ZnO層104を露出させる。レジストパターンを除去して洗浄を行う。
【0022】
次に、アンドープZnO層105上に、導電性ポリマーによる有機物電極106を形成する。具体的には例えば、有機物電極106の材料として、PEDOT:PSSを用いることができる。PEDOT:PSSは、キャリアドーパント兼水分散剤としてポリスチレンスルホン酸(PSS)を含んだ、ポリチオフェン誘導体のポリ3,4‐エチレンジオキシチオフェン(PEDOT)である。PEDOT:PSSに、導電率増加剤として例えばジメチルスルホキシド(DMSO)を添加して使用する。なお、後述の実施例の有機物電極形成材料も、比較例のものと同様である。
【0023】
まず、アンドープZnO層105上に、有機物電極106形成のためのリフトオフ用のパターンを、レジストにより形成する。その後、紫外線(UV)オゾン洗浄を行う。そして、導電率増加剤を添加したPEDOT:PSSを、スピンコートにより(加熱処理後の厚さで)例えば厚さ30nm塗布し、リフトオフにより有機物電極106を形成する。リフトオフ後、ホットプレートにより例えば200℃、20分の加熱処理を施す。
【0024】
アンドープZnO層105は、n型不純物の添加されたGaドープn型ZnO層104に比べて高抵抗ではあるが、n型導電性を示す。有機物電極106は、アンドープZnO層105に対してショットキー電極を形成するとともに、紫外線透過性である。有機物電極106を透過してアンドープZnO層105に入射した紫外線により、光起電力が生じる。なお、このような半導体紫外線受光素子では、ショットキー電極を用いることにより、n型半導体層に比べて形成が難しいp型半導体を形成しなくてすむ。
【0025】
有機物電極106上に、金属マスクを用い、電子ビーム(EB)蒸着により厚さ100nmのAu層を堆積して、ワイヤーボンディング用金属電極107を形成する。アンドープZnO層105のエッチングで露出したn型ZnO層104上に、厚さ10nmのTi層108aを形成し、Ti層108a上に厚さ500nmのAu層108bを積層して、オーミック電極108を形成する。このようにして、比較例の受光素子が作製される。
【0026】
その後、ダイボンディング及びワイヤーボンディングにより、比較例の受光素子をステム上に接合して、比較例の受光装置が作製される。
【0027】
図10Bは、ワイヤーボンディング時における比較例の受光素子を示す概略断面図である。有機物電極106上に形成されたワイヤーボンディング用金属電極107に、Auボール111を介してAuワイヤー112がボンディングされる。
【0028】
しかし、比較例の受光素子は、ワイヤーボンディング用金属電極107と有機物電極106との密着性が悪く、ワイヤーボンディング用金属電極107が有機物電極106から剥離しやすい。
【0029】
本願発明者らは、以下に説明するように、ワイヤーボンディング用金属電極の有機物電極からの剥離が抑制された半導体紫外線受光素子を提案する。
【0030】
次に、第1実施例による半導体紫外線受光素子について説明する。第1実施例でも、比較例と同様に、半導体層の成長方法としてMBEを用いる。
図1A〜
図1Eは、第1実施例の受光素子の主要な製造工程を示す概略断面図である。
【0031】
図1Aを参照する。例えば比較例と同様な条件で、c面サファイア基板1上に、MgO層2を成長させ、MgO層2上にZnOバッファー層3を成長させアニールを行い、ZnOバッファー層3上にn型ZnO層4を成長させ、n型ZnO層4上にアンドープZnO層5を成長させる。MgO層2上方のZnO系半導体層は、Zn面で成長する。
【0032】
(Gaドープ)n型ZnOエピ層4及びアンドープZnOエピ層5のキャリア濃度は、それぞれ例えば、8.0×10
17cm
−3、7.6×10
15cm
−3である。
【0033】
なお、受光素子として適したショットキー接合を良好に形成するために、有機物電極と接触する半導体層のキャリア濃度は、例えば1×10
16cm
−3以下と低くすることが好ましい。Zn面でZnO系半導体層を成長させることにより、キャリア濃度の低い半導体層を安定して形成しやすい。
【0034】
アンドープZnO層5上に、レジストパターンRP1を形成する。レジストパターンRP1は、後の工程でオーミック電極7Oが配置される領域を露出する開口を有する。レジストパターンRP1をマスクとして、酸性溶液を用いたウエットエッチングでアンドープZnO層5をエッチングして、n型ZnO層4を露出させる。酸性溶液としては、HCl、HNO
3、HF、王水、EDTA溶液、バッファードHFなどを用いることができる。また、ドライエッチングを用いてもよい。その後、レジストパターンRP1を除去して洗浄を行う。
【0035】
図1Bを参照する。レジストパターンRP2を形成する。レジストパターンRP2は、後の工程で形成されるワイヤーボンディング用金属電極7Wにワイヤーボンディングが行われる領域を露出する開口を有する。レジストパターンRP2をマスクとして、酸性溶液でアンドープZnO層5、n型ZnO層4、ZnOバッファー層3、及びMgO層2をエッチングして、サファイア基板1を露出させる。酸性溶液としては、HCl、HNO
3、HF、王水、EDTA溶液、バッファードHFなどを用いることができる。また、ドライエッチングを用いてもよい。その後、レジストパターンRP2を除去して洗浄を行う。
【0036】
図1Cを参照する。レジストパターンRP3を形成する。レジストパターンRP3は、有機物電極6の形成領域を露出する開口を有する。UVオゾン洗浄を行った後、導電率増加剤を添加したPEDOT:PSSを、スピンコートにより(加熱処理後の厚さで)例えば厚さ30nm塗布する。レジストパターンRP3とともに不要部のPEDOT:PSSを除去するリフトオフにより、有機物電極6を形成する。リフトオフ後、ホットプレートにより例えば200℃、20分の加熱処理を施す。
【0037】
有機物電極6は、アンドープZnO層5の上面と、アンドープZnO層5、n型ZnO層4、ZnOバッファー層3、及びMgO層2の積層側面とを覆い、積層側面を覆った部分の端が、
図1Bのエッチング工程で露出したサファイア基板1上に達する。
【0038】
図1Dを参照する。オーミック電極7O及びワイヤーボンディング用金属電極7Wを形成する。なお、後の工程でオーミック電極7Oもワイヤーボンディングされるが、ワイヤーボンディング用金属電極7Wの方を、単にワイヤーボンディング用金属電極7Wと呼ぶこととする。
【0039】
オーミック電極7Oの形成領域と、ワイヤーボンディング用金属電極7Wの形成領域に開口を有する金属マスクを用い、EB蒸着により、例えば厚さ10nmのTi層7aを形成し、Ti層7a上に例えば厚さ500nmのAu層7bを積層して、オーミック電極7O及びワイヤーボンディング用金属電極7Wを同時形成する。
【0040】
オーミック電極7Oは、
図1Aのエッチング工程で露出したn型ZnO層4上に形成される。ワイヤーボンディング用金属電極7Wは、アンドープZnO層5の上面上の有機物電極6の縁部と、アンドープZnO層5、n型ZnO層4、ZnOバッファー層3、及びMgO層2の積層側面上の有機物電極6を覆い、さらに、
図1Bのエッチング工程で露出したサファイア基板1を覆って形成される。
【0041】
ワイヤーボンディング用金属電極7Wは、有機物電極6上から、絶縁性下地であるサファイア基板1上に延在するように配置され、透光領域を確保するため有機物電極6の一部上を覆い、サファイア基板1の上方部分に、ワイヤーボンディング領域となる程度の広い面積を確保する。Ti層7aが、絶縁性下地であるサファイア基板1との密着層として働く。
【0042】
有機物電極6が、アンドープZnO層5の上面、及び、アンドープZnO層5、n型ZnO層4、ZnOバッファー層3、及びMgO層2の積層側面を覆っているので、ワイヤーボンディング用金属電極7Wが導電性ZnO層3〜5と接触する短絡が防止されている。
【0043】
このようにして、第1実施例の受光素子が作製される。その後、ダイボンディング及びワイヤーボンディングにより、第1実施例の受光素子をステム上に接合して、第1実施例の受光装置が作製される。
【0044】
図1Eは、ワイヤーボンディング時における第1実施例の受光素子を示す概略断面図である。
【0045】
図2は、第1実施例の受光装置の全体構造を示す概略断面図である。受光素子のサファイア基板1が、ステム21の一方の電極21a上に接着剤22を介してダイボンディングされている。受光素子のオーミック電極7O(の上層であるAu層7b)と、電極21aとが、Auボール11、13を介してAuワイヤー12でワイヤーボンディングされている。
【0046】
受光素子のワイヤーボンディング用金属電極7W(の上層であるAu層7b)と、ステム21の他方の電極21bとが、Auボール14、16を介してAuワイヤー15でワイヤーボンディングされている。ワイヤーボンディング用金属電極7Wの、サファイア基板1上方領域に、Auボール14が配置されている。受光素子の上方が、紫外線透過窓24の形成された容器23で覆われている。
【0047】
第1実施例の受光素子では、ワイヤーボンディング用金属電極7Wが、有機物電極6と絶縁性基板1とにまたがって形成されていることにより、ワイヤーボンディング時の有機物電極6からのワイヤーボンディング用金属電極7Wの剥離が抑制されている。
【0048】
第1実施例の受光素子の電気的特性について説明する。半導体層4側(オーミック電極7O側)をカソード(陰極)、ショットキー電極である有機物電極6側(ワイヤーボンディング用金属電極7W側)をアノード(陽極)として、アノード側にプラス電圧が印加される場合が順バイアスで、マイナス電圧が印加される場合が逆バイアスである。逆バイアスまたは印加電圧0Vとして、受光素子が使用される。
【0049】
図3Aは、第1実施例の受光素子の電流−電圧特性(I‐V特性)を示すグラフである。横軸は印加電圧であり、縦軸は電流の絶対値でlog表示である。暗電流を破線で示し、光電流を実線で示す。光電流測定時の光源には、波長365nmのLED(0.035μW)を使用した。
【0050】
受光素子として使用する逆バイアスでの特性をみると、光を照射しない暗状態での暗電流は、電圧−4Vまで印加した時に、1nA以下である。光照射時の光電流は、電圧−4Vまで印加した時に、数10nAとなっている。
【0051】
第1実施例の受光素子の光入射時(オン時)と遮光時(オフ時)の応答特性について説明する。
【0052】
図3Bは、光応答特性測定回路を概略的に示す回路図である。受光素子がダイオードで示され、有機物電極側の端子と接地電位との間に抵抗R(91kΩ)が接続されている。受光素子の半導体層側の端子と接地電位との間に直流電圧源Vias(−1V)が接続されている。受光素子に光hνが入射される。
【0053】
紫外線レーザー光をチョッパーによりオンオフし、受光素子への印加電圧−1Vにおける抵抗Rの出力電圧Vを、光応答電圧としてオシロスコープで測定した。紫外線レーザーとして、波長325nmのHe‐Cdレーザー(1μW)を使用した。
【0054】
図3Cは、第1実施例の受光素子の光応答特性を示すグラフである。出力電圧の大きさを、矢印で示す。出力電圧12mVが得られた。受光感度に換算すると、約130mA/Wが得られたことになる。
【0055】
上記の測定結果より、第1実施例のZnO系半導体素子は、紫外線受光素子として機能することが確認された。
【0056】
図4は、第1実施例の変形例による受光素子の概略断面図である。本変形例の受光素子は、
図1Bの工程でのエッチングで、極性制御層であるMgO層2を残した構造である。
【0057】
有機物電極6は、
図1Cを参照して説明した工程と同様にして形成され、アンドープZnO層5の上面と、アンドープZnO層5、n型ZnO層4、及びZnOバッファー層3の積層側面とを覆い、積層側面を覆った部分の端が、露出したMgO層2上面に達する。
【0058】
ワイヤーボンディング用金属電極7Wは、
図1Dを参照して説明した工程と同様にして形成され、アンドープZnO層5の上面上の有機物電極6の縁部と、アンドープZnO層5、n型ZnO層4、及びZnOバッファー層3の積層側面上の有機物電極6を覆い、さらに、露出したMgO層2上面を覆って形成される。
【0059】
有機物電極6が、アンドープZnO層5、n型ZnO層4、及びZnOバッファー層3の積層側面を覆っているので、ワイヤーボンディング用金属電極7WがZnO層3〜5と接触する短絡が防止されている。MgO層2も、第1実施例のサファイア基板1と同様に絶縁性下地となるので、MgO層2上面上にワイヤーボンディング用金属電極7Wを形成しても、短絡が起こらない。
【0060】
なお、MgO層2上面上にワイヤーボンディング用金属電極7Wを形成することにより、サファイア基板1上面上にワイヤーボンディング用金属電極7Wを形成した第1実施例の電極構造に比べて、ワイヤーボンディング用金属電極7Wの密着性向上が期待できる。
【0061】
次に、第2実施例による半導体紫外線受光素子について説明する。第2実施例では、第1実施例のサファイア基板に替えて、高抵抗ZnO基板を用いる。特開2010‐70424号公報に、高抵抗率高純度の酸化亜鉛単結晶を製造する方法が公開されている。この方法によれば、Li濃度1.0×10
16atoms/cm
3以下、抵抗率1×10
10Ω・cm以上の高抵抗ZnO基板を得ることができる。本実施例では、抵抗率10
6Ω・cm以上の高抵抗ZnO基板を用いることが好ましい。抵抗率10
6Ω・cm以上の高抵抗基板は、実質的に絶縁性基板として扱うことができる。半導体層の成長方法としてMBEを用いる。
【0062】
図5は、第2実施例の受光素子の概略断面図である。高抵抗Zn面ZnO(0001)基板31上に、Znビーム及びOラジカルビームを同時照射して、ZnOバッファー層32を厚さ30nm成長させる。ZnOバッファー層32の成長条件は、例えば、成長温度300℃、Znフラックス0.1nm/s、OソースガンのO
2流量2sccm/RFパワー300Wとする。ZnOバッファー層32の成長後、900℃でアニールを行い、結晶性及び表面平坦性の改善を行う。
【0063】
ZnOバッファー層32上に、Znビーム、Oラジカルビーム、及びGaビームを同時照射して、Gaドープn型ZnO層33を厚さ約2μm成長させる。n型ZnO層33の成長条件は、例えば、成長温度900℃、Znフラックス0.3nm/s、OソースガンのO
2流量2sccm/RFパワー300W、Gaセル温度380℃とする。
【0064】
n型ZnO層33上に、Znビーム及びOラジカルビームを同時照射して、アンドープZnO層34を厚さ約1.5μm成長させる。アンドープZnO層34の成長条件は、例えば、成長温度900℃、Znフラックス0.15nm/s、OソースガンのO
2流量2sccm/RFパワー300Wとする。
【0065】
アンドープZnO層34の形成後、第1実施例で
図1Aを参照して説明した工程と同様にして、アンドープZnO層34をエッチングして、オーミック電極36Oの配置領域でn型ZnO層33を露出させる。
【0066】
次に、第1実施例で
図1Bを参照して説明した工程と同様にして、アンドープZnO層34、n型ZnO層33、ZnOバッファー層32をエッチングして、ワイヤーボンディング用金属電極36Wの形成領域で高抵抗ZnO基板31を露出させる。
【0067】
次に、第1実施例で
図1Cを参照して説明した工程と同様にして、有機物電極35を形成する。有機物電極35は、アンドープZnO層34の上面と、アンドープZnO層34、n型ZnO層33、及びZnOバッファー層32の積層側面とを覆い、積層側面を覆った部分の端が、露出した高抵抗ZnO基板31上に達する。
【0068】
次に、第1実施例で
図1Dを参照して説明した工程と同様にして、金属マスクを用いてTi層36a及びAu層36bを積層し、オーミック電極36Oとワイヤーボンディング用金属電極36Wとを同時形成する。オーミック電極36Oは、n型ZnO層33上に形成される。ワイヤーボンディング用金属電極36Wは、アンドープZnO層34の上面上の有機物電極35の縁部と、アンドープZnO層34、n型ZnO層33、及びZnOバッファー層32の積層側面上の有機物電極35を覆い、さらに、高抵抗ZnO基板31を覆って形成される。
【0069】
アンドープZnO層34の上面と、アンドープZnO層34、n型ZnO層33、及びZnOバッファー層32の積層側面が有機物電極35で覆われているので、アンドープZnO層34、n型ZnO層33、及びZnOバッファー層32とワイヤーボンディング用金属電極36Wとの短絡が防止される。
【0070】
また、ワイヤーボンディング用金属電極36Wが、有機物電極35と高抵抗基板31とにまたがって形成されていることにより、有機物電極35からのワイヤーボンディング用金属電極36Wの剥離が抑制される。
【0071】
このようにして、第2実施例の受光素子が作製される。その後、ダイボンディング及びワイヤーボンディングにより、第2実施例の受光素子をステム上に接合して、第2実施例の受光装置が作製される。
【0072】
図6A〜
図6Eは、受光素子上の有機物電極OE、ワイヤーボンディング用金属電極WE、及び、絶縁性下地の露出領域ISの種々の配置例を示す概略平面図である。なお、ワイヤーボンディング用金属電極WEの近傍を図示しており、オーミック電極形成領域は省略されている。
【0073】
図6Aは、受光素子の隅部に正方形状の絶縁性下地露出領域ISが配置され、他の部分は有機物電極OEが覆っており、絶縁性下地露出領域IS上に配置された円形状のワイヤーボンディング用金属電極WEが、絶縁性下地露出領域ISから有機物電極OE上にはみ出して重なっている。
【0074】
図6Bは、受光素子の内部に正方形状の絶縁性下地露出領域ISが配置され、その周りは有機物電極OEが覆っており、絶縁性下地露出領域IS上に配置された円形状のワイヤーボンディング用金属電極WEが、絶縁性下地露出領域ISから有機物電極OE上にはみ出して重なっている。
【0075】
図6Cは、受光素子の内部に円形状の絶縁性下地露出領域ISが配置され、その周りは有機物電極OEが覆っており、絶縁性下地露出領域IS上に、絶縁性下地露出領域ISより半径の大きな円形状のワイヤーボンディング用金属電極WEが配置されている。
【0076】
図6Dは、受光素子の隅部に正方形状の絶縁性下地露出領域ISが配置され、他の部分は有機物電極OEが覆っており、ワイヤーボンディング用金属電極WEは、絶縁性下地露出領域IS内に収まる円形部分と、円形部分から縦方向と横方向に延びて有機物電極OE上に延在する棒状部分とを有する。
【0077】
図6Eは、受光素子の内部に正方形状の絶縁性下地露出領域ISが配置され、その周りは有機物電極OEが覆っており、ワイヤーボンディング用金属電極WEは、絶縁性下地露出領域IS内に収まる円形部分と、円形部分から上下方向と左右方向に延びて有機物電極OE上に延在する棒状部分とを有する。
【0078】
第1及び第2実施例では、受光半導体層としてZnOを用いたが、受光半導体層としてMgZnOを用いることもできる。Mg組成xを明示したMg
xZn
1−xOは、0≦x<0.6のときはウルツ鉱構造となり、0.6≦x≦1のときは岩塩構造となる。なお、Mg組成xが0のMg
xZn
1−xOはZnOを表す。
【0079】
図11は、(ウルツ鉱構造の)Mg
xZn
1−xOのエネルギーギャップとMg組成xとの関係を示すグラフである。ウルツ鉱構造のMg
xZn
1−xOにおいて、Mg組成xを0から0.6まで大きくすると、エネルギーギャップは3.3eV(波長376nm)から4.4eV(波長282nm)まで大きくなる。また、岩塩構造のMg
xZn
1−xOにおいて、Mg組成xを0.6から1.0まで大きくすると、エネルギーギャップは5.4eV(波長230nm)から7.8eV(波長159nm)まで大きくなる。エネルギーギャップが大きくなることにより、受光感度波長が短波長側へシフトする。これを利用することにより波長選択が可能となる。
【0080】
太陽光の紫外線は、UV−A(320〜400nm)、UV‐B(280〜320nm)、及びUV−C(280nm以下)に分類されるが、UV−Cはオゾン層で吸収されて地表まで届かないので、通常の紫外線は、実質的にUV−AとUV‐Bである。UV−Cは、例えば火炎等のみに含まれることになる。
【0081】
エネルギーギャップの大きな岩塩構造のMg
xZn
1−xOを使用することにより、短波長のUV−C(280nm以下)だけを検知する事が可能となる。従って、例えば、UV−Cを含む炎を検知するための火炎センサーとして使用可能となる。
【0082】
なお、岩塩構造のMg
xZn
1−xOを成長させる場合は、成長基板として、同じ岩塩構造のMgO基板を使用するのが好ましい。
【0083】
上記実施例では、絶縁性基板として、サファイア基板(Al
2O
3)を用いたが、絶縁性基板としてAlN、MgO等を用いることもできる。
【0084】
なお、上記実施例では、オーミック電極が形成されるn型ZnO系半導体層として、Gaドープのn型ZnO層を用いたが、n型不純物を添加しないでn型キャリア濃度の高められたアンドープZnO系半導体層を用いることも可能である。
【0085】
ZnOバッファー層上に、例えば、成長温度300℃、Znフラックス0.11nm/s、OソースガンのO
2流量1sccm/RFパワー250W、Mgフラックス0nm/s〜0.03nm/sで、アンドープMg
xZn
1−xO層(0≦x≦0.3)を厚さ50nm〜300nm成長する。その後、基板温度を950℃まで上げて5分〜30分アニールを行い、結晶性及び表面平坦性改善とともにn型キャリア濃度の増加を行う。これを数回繰り返し、約2μmの厚さに積層する。
【0086】
次に、第3実施例による半導体紫外線受光素子について説明する。第1及び第2実施例では、受光半導体層としてII族酸化物半導体を用いたZnO系半導体紫外線受光素子を作製した。第3実施例では、受光半導体層としてIII族窒化物半導体を用いたGaN系半導体紫外線受光素子を作製する。
【0087】
図7は、第3実施例の受光素子の概略断面図である。c面サファイア基板41上に、MOCVD法により、GaNバッファー層42、n型GaN層43(例えば厚さ3μm)、及びアンドープGaN層44(例えば厚さ2μm)を成長させる。アンドープGaN層44のキャリア濃度は、例えば1.2×10
16cm
−3である。
【0088】
アンドープGaN層44上に、後の工程でオーミック電極46が配置される領域を露出する開口を有するレジストパターンを形成し、このレジストパターンをマスクとして、リアクティブイオンエッチング(RIE)でアンドープGaN層44をエッチングして、n型GaN層43を露出させる。その後、このレジストパターンを除去して洗浄を行う。
【0089】
次に、後の工程でワイヤーボンディング用金属電極47が配置される領域を露出する開口を有するレジストパターンを形成し、このレジストパターンをマスクとして、RIEでアンドープGaN層44、n型GaN層43、及びGaNバッファー層42をエッチングして、サファイア基板41を露出させる。その後、このレジストパターンを除去して洗浄を行う。
【0090】
次に、有機物電極45の形成領域を露出する開口を有するレジストパターンを形成し、スピンコートにより、導電率増加剤を添加したPEDOT:PSSを(加熱処理後の厚さで)例えば厚さ30nm塗布し、不要部のPEDOT:PSSを除去するリフトオフにより、有機物電極45を形成する。リフトオフ後、ホットプレートにより例えば200℃、20分の加熱処理を施す。
【0091】
有機物電極45は、アンドープGaN層44の上面と、アンドープGaN層44、n型GaN層43、及びGaNバッファー層42の積層側面とを覆い、積層側面を覆った部分の端が、露出したサファイア基板41上に達する。
【0092】
次に、露出したn型GaN層43上に、金属マスクを用いたEB蒸着により、例えば厚さ50nmのTi層46aを形成し、Ti層46a上に例えば厚さ100nmのPt層46bを積層し、Pt層46b上に例えば厚さ500nmのAu層46cを積層して、オーミック電極46を形成する。
【0093】
次に、金属マスクを用いたEB蒸着により、例えば厚さ50nmのTi層47aを形成し、Ti層47a上に例えば厚さ500nmのAu層47bを積層して、ワイヤーボンディング用金属電極47を形成する。
【0094】
ワイヤーボンディング用金属電極47は、アンドープGaN層44の上面上の有機物電極45の縁部と、アンドープGaN層44、n型GaN層43、及びGaNバッファー層42の積層側面上の有機物電極45を覆い、さらに、露出したサファイア基板41を覆って形成される。
【0095】
このようにして、第3実施例の受光素子が作製される。その後、ダイボンディング及びワイヤーボンディングにより、第3実施例の受光素子をステム上に接合して、第3実施例の受光装置が作製される。
【0096】
なお、第3実施例では受光半導体層としてGaNを使用したが、受光半導体層としてAl
zGa
1‐zN (0≦z≦1)を用いることもできる。Al組成zを大きくすることにより、エネルギーギャップが大きくなり、受光感度波長が短波長側へシフトする。これを利用することにより波長選択が可能となる。
【0097】
次に、第4実施例による半導体紫外線受光素子について説明する。第4実施例の受光素子は、受光感度波長帯域の異なる2つの受光半導体層を有する。例えば、受光半導体層としてウルツ鉱構造のZnO系半導体を用い、半導体層の成長方法としてMBEを用いる。
図8A〜
図8Eは、第4実施例の受光素子の主要な製造工程を示す概略断面図である。
【0098】
図8Aを参照する。例えば第1実施例と同様な条件で、c面サファイア基板51上にMgO層52を成長させ、MgO層52上にZnOバッファー層53を成長させアニールを行い、ZnOバッファー層53上にn型ZnO層54を成長させ、n型ZnO層54上にアンドープZnO層55を成長させる。アンドープZnO層55のエネルギーギャップは3.3eV(波長としては376nm)となる。
【0099】
アンドープZnO層55上に、Znビーム、Mgビーム、及びOラジカルビームを同時照射して、ウルツ鉱構造のMgZnO層56を例えば厚さ約1.5μm成長させる。MgZnO層56の成長条件は、例えば、成長温度900℃、Znフラックス0.2nm/s、Mgフラックス0.04nm/s、OソースガンのO
2流量2sccm/RFパワー300Wとする。この例では、アンドープMgZnO層56のMg組成が0.35で、このときエネルギーギャップは3.95eV(波長としては314nm)となる。
【0100】
アンドープMgZnO層56上に、レジストパターンRP51を形成する。レジストパターンRP51は、受光半導体層としてアンドープMgZnO層56を残す領域を覆い、その他領域を露出する。
【0101】
レジストパターンRP51をマスクとして、ウエットエッチングまたはドライエッチングでアンドープMgZnO層56をエッチングし、アンドープZnO層55を露出させる。その後、レジストパターンRP51を除去する。
【0102】
図8Bを参照する。レジストパターンRP52を形成する。レジストパターンRP52は、受光半導体層としてアンドープMgZnO層56を残す領域と、受光半導体層としてアンドープZnO層55を残す領域とを覆い、その他領域を露出する。
【0103】
レジストパターンRP52をマスクとして、ウエットエッチングまたはドライエッチングでアンドープZnO層55をエッチングし、n型ZnO層54を露出させる。その後、レジストパターンRP52を除去する。
【0104】
図8Cを参照する。レジストパターンRP53を形成する。レジストパターンRP53は、後に形成されるワイヤーボンディング用金属電極58WA及び58WBの配置される領域のサファイア基板51を露出する開口を有する。
【0105】
レジストパターンRP53をマスクとして、ウエットエッチングまたはドライエッチングで、n型ZnO層54、ZnOバッファー層53、及びMgO層52をエッチングし、底にサファイア基板51の露出する凹部TRを形成する。その後、レジストパターンRP53を除去する。
【0106】
この実施例では、受光半導体層としてアンドープZnO層55を用いる受光素子部分LSAと、受光半導体層としてアンドープMgZnO層56を用いる受光素子部分LSBとを、凹部TRが分離し、凹部TRの底に共通に、ワイヤーボンディング用金属電極58WA及び58WBが配置される。
【0107】
図8Dを参照する。レジストパターンRP54を形成する。レジストパターンRP54は、アンドープZnO層55に接続する有機物電極57Aの形成領域、及び、アンドープMgZnO層56に接続する有機物電極57Bの形成領域を露出する開口を有する。
【0108】
UVオゾン洗浄を行った後、導電率増加剤を添加したPEDOT:PSSを、スピンコートにより(加熱処理後の厚さで)例えば厚さ30nm塗布する。レジストパターンRP54とともに不要部のPEDOT:PSSを除去するリフトオフにより、有機物電極57A及び57Bを形成する。リフトオフ後、ホットプレートにより例えば200℃、20分の加熱処理を施す。
【0109】
有機物電極57Aは、アンドープZnO層55の上面と、アンドープZnO層55、n型ZnO層54、ZnOバッファー層53、及びMgO層52の積層側面とを覆い、積層側面を覆った部分の端が、露出したサファイア基板51上に達する。
【0110】
有機物電極57Bは、アンドープMgZnO層56の上面と、アンドープMgZnO層56、アンドープZnO層55、n型ZnO層54、ZnOバッファー層53、及びMgO層52の積層側面とを覆い、積層側面を覆った部分の端が、露出したサファイア基板51上に達する。
【0111】
図8Eを参照する。受光素子部分LSAのワイヤーボンディング用金属電極58WA及びオーミック電極58OAと、受光素子部分LSBのワイヤーボンディング用金属電極58WB及びオーミック電極58OAを形成する。
【0112】
これらの電極の形成領域に開口を有する金属マスクを用い、EB蒸着により、例えば厚さ50nmのTi層58aを形成し、Ti層58a上に例えば厚さ500nmのAu層58bを積層して、受光素子部分LSAのワイヤーボンディング用金属電極58WA及びオーミック電極58OAと、受光素子部分LSBのワイヤーボンディング用金属電極58WB及びオーミック電極58OBとを同時形成する。
【0113】
ワイヤーボンディング用金属電極58WAは、アンドープZnO層55の上面上の有機物電極57Aの縁部と、アンドープZnO層55、n型ZnO層54、ZnOバッファー層53、及びMgO層52の積層側面上の有機物電極57Aを覆い、さらに、サファイア基板51を覆って形成される。
【0114】
ワイヤーボンディング用金属電極58WBは、アンドープMgZnO層56の上面上の有機物電極57Bの縁部と、アンドープMgZnO層56、アンドープZnO層55、n型ZnO層54、ZnOバッファー層53、及びMgO層52の積層側面上の有機物電極57Bを覆い、さらに、サファイア基板51を覆って形成される。
【0115】
オーミック電極58OAは、受光素子部分LSA側で、n型ZnO層54上に形成され、オーミック電極58OBは、受光素子部分LSB側で、n型ZnO層54上に形成される。
【0116】
受光素子部分LSAとLSBのそれぞれについて、導電性ZnO系半導体層積層部分の上面及び側面が、有機物電極57A、57Bで覆われ、ワイヤーボンディング用金属電極58WA、58WBと、導電性ZnO系半導体層との短絡が防止される。
【0117】
また、受光素子部分LSAとLSBのそれぞれについて、ワイヤーボンディング用金属電極58WA、58WBが、有機物電極57A、57Bと絶縁性基板51とにまたがって形成されていることにより、有機物電極57A、57Bからのワイヤーボンディング用金属電極58WA、58WBの剥離が抑制される。
【0118】
このようにして、第5実施例の受光素子が作製される。その後、ダイボンディング及びワイヤーボンディングにより、第5実施例の受光素子をステム上に接合して、第5実施例の受光装置が作製される。
【0119】
第4実施例の受光素子は、例えば、日焼け対策のために太陽光の紫外線を測定する測定器に利用できる。上述のように、太陽光の紫外線は、実質的にUV−A(320〜400nm)とUV‐B(280〜320nm)である。
【0120】
受光半導体層をZnO層55とする受光素子部分LSAは、波長376nm以下の紫外線に受光感度があるので、UV−A(320〜400nm)及びUV‐B(280〜320nm)の測定に適する。
【0121】
一方、受光半導体層をMgZnO層56とする受光素子部分LSBは、例えばMg組成を0.35として波長314nm以下の紫外線に受光感度があるので、UV‐B(280〜320nm)の測定に適する。受光素子部分LSAで測定された光電流から、受光素子部分LSBで測定された光電流を差し引くことにより、UV−Aの強さも見積もることができる。
【0122】
なお、第4実施例では、ZnO層上側にMgZnO層を形成したが、MgZnO層上側にZnO層を形成することもできる。
【0123】
このように、ある受光半導体層の一部上に、この受光半導体層と同一結晶構造でエネルギーギャップの異なる他の受光半導体層をエピタキシャル成長させることにより、同一基板上に、受光感度波長帯域の異なる複数の受光素子部分を作ることができる。
【0124】
第4実施例の第1変形例として、第1実施例の変形例と同様に、MgO層52を残して、MgO層52上にワイヤーボンディング用金属電極58WA及び58WBを形成する構造とすることもできる。
【0125】
図9は、第4実施例の第2変形例の受光素子を示す概略断面図である。本変形例は、受光素子部分LSAとLSB間で、n型ZnO層54が分離されず、n型ZnO層54に接続するオーミック電極58Oを、受光素子部分LSAとLSBで共通とした構造である。
【0126】
また、この変形例では、受光素子部分LSAの外側に凹部TRAが、受光素子部分LSBの外側に凹部TRBが形成されている。凹部TRA及びTRBの底に露出したサファイア基板51上に、それぞれ、受光素子部分LSAのワイヤーボンディング用金属電極58WAと、受光素子部分LSBのワイヤーボンディング用金属電極58WBとが配置されている。
【0127】
以上説明した実施例では、有機物電極(PEDOT:PSS)の導電率増加剤として、ジメチルスルホキシド(DMSO)を添加して使用したが、エチレングリコールや1‐メチル‐2‐ピロリドン(NMP)などの非プロトン性極性溶媒を使用してもよい。
【0128】
また、有機物電極形成において、スピンコートによりPEDOT:PSSを塗布し、リフトオフしてパターン形成したが、スクリーン印刷用の導電性ポリマーを使用して、スクリーン印刷により直接パターン形成してもよい。スクリーン印刷用の導電性ポリマーもポリチオフェン誘導体から形成されている。
【0129】
以上実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。