(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5706237
(24)【登録日】2015年3月6日
(45)【発行日】2015年4月22日
(54)【発明の名称】鉄道車両用ブレーキライニングおよびそれを備えたディスクブレーキ
(51)【国際特許分類】
F16D 65/092 20060101AFI20150402BHJP
B61H 5/00 20060101ALI20150402BHJP
【FI】
F16D65/092 B
B61H5/00
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-124145(P2011-124145)
(22)【出願日】2011年6月2日
(65)【公開番号】特開2012-251597(P2012-251597A)
(43)【公開日】2012年12月20日
【審査請求日】2013年11月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000220435
【氏名又は名称】株式会社ファインシンター
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100103481
【弁理士】
【氏名又は名称】森 道雄
(74)【代理人】
【識別番号】100134957
【弁理士】
【氏名又は名称】松永 英幸
(72)【発明者】
【氏名】加藤 孝憲
(72)【発明者】
【氏名】藤本 隆裕
(72)【発明者】
【氏名】阿佐部 和孝
(72)【発明者】
【氏名】坂口 篤司
(72)【発明者】
【氏名】狩野 泰
(72)【発明者】
【氏名】嵯峨 信一
(72)【発明者】
【氏名】前島 隆
(72)【発明者】
【氏名】中野 暁
(72)【発明者】
【氏名】中野 武
【審査官】
内田 博之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−194429(JP,A)
【文献】
特表平10−507250(JP,A)
【文献】
実公昭46−034271(JP,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 65/092
B61H 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両の車輪または車軸に固定されたブレーキディスクの摺動面に、ブレーキキャリパによって押し付けられるブレーキライニングであって、
各々の表面がブレーキディスクの摺動面と対向し、各々が互いに隙間を隔てて配列された複数個の摩擦部材と、
各摩擦部材の裏面に固着された裏金と、
各摩擦部材をその中心部において締結部材により裏面側からばね部材を介して支持し、ブレーキキャリパに取り付けられる基板と、からなり、
互いに隣接する2個の摩擦部材を一組とし、この一組の摩擦部材の裏金が一体であることを特徴とする鉄道車両用ブレーキライニング。
【請求項2】
前記裏金は、当該裏金に固着された摩擦部材同士の隙間に相当する部分がくびれていることを特徴とする請求項1に記載の鉄道車両用ブレーキライニング。
【請求項3】
前記裏金のくびれ部の最小幅が、当該裏金に固着された摩擦部材の最大幅の1/3〜2/3であることを特徴とする請求項2に記載の鉄道車両用ブレーキライニング。
【請求項4】
前記裏金は、当該裏金に固着された摩擦部材同士の隙間に相当する部分の最小長さが2〜7mmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の鉄道車両用ブレーキライニング。
【請求項5】
前記締結部材がリベットであり、前記各摩擦部材は、前記裏金とともに、前記各摩擦部材の中心部に形成された小孔を挿通する前記リベットによって前記基板に取り付けられることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の鉄道車両用ブレーキライニング。
【請求項6】
鉄道車両の車輪または車軸に固定されたブレーキディスクと、
請求項1〜5のいずれかに記載のブレーキライニングが取り付けられたブレーキキャリパと、を備えたことを特徴とする鉄道車両用ディスクブレーキ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の制動装置として用いられるディスクブレーキに関し、特に、車輪または車軸に固定されたブレーキディスクの摺動面に押し付けられる鉄道車両用ブレーキライニング、およびそれを備えた鉄道車両用ディスクブレーキに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、鉄道車両や自動車や自動二輪車などの陸上輸送車両の制動装置としては、車両の高速化や大型化に伴い、ディスクブレーキが多用されている。ディスクブレーキは、ブレーキディスクとブレーキライニングとの摺動による摩擦により制動力を得る装置である。
【0003】
鉄道車両用のディスクブレーキの場合、ドーナツ形円盤状のブレーキディスクを車輪または車軸に取り付けて固定し、このブレーキディスクの摺動面に、ブレーキキャリパによってブレーキライニングを押し付けることで制動力を発生させる。これにより、車輪または車軸の回転を制動し、車両の速度を制御する。
【0004】
その際、車両の減速速度はディスクブレーキの制動力に依存し、その制動力はブレーキディスクとブレーキライニングとの間の摩擦係数に大きく依存する。実走行では、制動中の車両の減速速度を的確に制御できることが望まれ、このためには、制動開始時点の走行速度が異なっても、ブレーキディスクとブレーキライニングとの間の摩擦係数が一定に安定しているのがよい。
【0005】
また、制動中、互いに接触するブレーキライニングとブレーキディスクの摺動面は、摩擦熱により温度が上昇する。この温度上昇は、ブレーキ負荷が大きくなる条件、具体的には、車両の走行速度が高速である条件や車両重量が大きい条件のときに著しくなる傾向にある。実走行では、ディスクブレーキの熱的な損傷を防止し、耐久性を向上させることが望まれ、このためには、制動中のブレーキライニングとブレーキディスクの接触をできるだけ均一化し、発生する摩擦熱を低減する必要がある。
【0006】
図1は、従来の一般的な鉄道車両用ディスクブレーキを示す図であり、同図(a)はブレーキライニングの平面図を、同図(b)は同図(a)のA−A断面の拡大図をそれぞれ示す。同図(a)では、ブレーキライニングを表面側となるブレーキディスク側から見た状態を示している。
【0007】
図1に示す従来の一般的なブレーキライニング(以下、「従来型ブレーキライニング」という)102は、複数枚の幅広い板状の摩擦部材103と、これらの各摩擦部材103の裏面に固着された裏金104と、各摩擦部材103を裏面側から裏金104とともに保持する基板106と、から構成される。各摩擦部材103は、裏金104ととともに、図示しないリベットによって基板106に強固に取り付けられている。このような構成の従来型ブレーキライニング102は、図示しないブレーキキャリパに基板106が取り付けられ、各摩擦部材103の表面がブレーキディスク101の摺動面101aと対向した状態とされる。
【0008】
ブレーキキャリパは、制動時に油圧や空圧などを駆動源として作動し、ブレーキライニング102をブレーキディスク101に押し付ける。このとき、ブレーキキャリパからブレーキライニング102に負荷される押付け力は、両者の取付け部の構造上、ブレーキライニング102の全域に均等に作用するわけではなく、ある特定の部分に集中して作用する。
【0009】
このため、従来型ブレーキライニング102を用いたディスクブレーキの場合、摩擦部材103がある程度広い板状であり、基板106に強固に固定されていることから、制動中に、ブレーキディスク101とブレーキライニング102の接触面圧は局所的に高くなる。その結果、制動中の摩擦による温度上昇が局所的に過大となり、この温度上昇の過大な部分でブレーキライニング102(摩擦部材103)とブレーキディスク101の摩耗量が増大したり、ブレーキディスク101にき裂が発生する。この熱的な損傷のため、ディスクブレーキの耐久性が損なわれる。
【0010】
このような問題に対し、近年、制動中のブレーキライニングとブレーキディスクの接触面圧を均一化することを目的として、構造を改良したブレーキライニングが種々提案されている。例えば、特許文献1〜3には、従来型ブレーキライニングの摩擦部材を小サイズに分割し、その分割した複数個の各摩擦部材を互いに隙間を隔てて配列したブレーキライニングが記載されている。
【0011】
前記特許文献1に記載されるブレーキライニングでは、各摩擦部材の裏面にそれぞれ個別に裏金が固着されている。各摩擦部材は、裏金ととともに、裏面側から個々にばね部材を介しリベットによって基板に取り付けられ、個々に弾性的に支持されている。
【0012】
前記特許文献2に記載されるブレーキライニングでは、互いに隣接する2個の摩擦部材を一組とし、この一組の摩擦部材の裏面にその両者にわたって一体の弾性片が固定されている。各弾性片は、当該弾性片に固定された摩擦部材同士の隙間に相当する部分が2本のリベットによって基板に強固に取り付けられ、これにより、各摩擦部材は、個々に当該摩擦部材同士の間の2箇所のリベット位置を支点にして弾性的に支持されている。
【0013】
前記特許文献3に記載されるブレーキライニングでは、互いに隣接する2個の摩擦部材を一組とし、この一組の摩擦部材の裏面にその両者にわたって一体の金属薄層が固着されている。各金属薄層は、当該金属薄層に固着された摩擦部材同士の隙間に相当する部分が、弾性要素を介し2本のリベットによって基板に取り付けられ、これにより、各摩擦部材は、個々に当該摩擦部材同士の間の2箇所のリベット位置を支点にして弾性的に支持されている。
【0014】
前記特許文献1〜3に記載されるブレーキライニングは、いずれも、摩擦部材が基板に弾性的に支持されていることから、制動中にブレーキディスクとの接触面圧の均一化が期待できる。
【0015】
しかし、前記特許文献1に記載されるブレーキライニングでは、摩擦部材が個々に独立して可動する構造であるため、ブレーキディスクとブレーキライニングとの間の摩擦係数が、制動開始時点の走行速度によって変動する場合がある。このような摩擦係数の変動は、前記特許文献2、3に記載されるブレーキライニングでも発生する。各摩擦部材が一組の摩擦部材同士の間を支点とし、弾性片または金属薄層を介して弾性支持されているため、摩擦部材が個々に独立して可動する構造であることに変わりはないからである。
【0016】
摩擦係数が制動開始時点の走行速度によって変動してしまうと、制動中の車両の減速速度を的確に制御することが困難になり、必要なブレーキ性能を確保することができない。特に、新幹線などの高速鉄道車両の場合、走行速度が低速から高速まで広範となるため、摩擦係数の変動が問題視される。
【0017】
また、前記特許文献1に記載されるブレーキライニングの場合、各摩擦部材は、1本のリベットで基板に締結されているため、制動中にその場で回転してしまう。繰り返しの制動に伴って、そのような摩擦部材の回転が繰り返されると、摩擦部材と基板との締結部に緩みが生じ、最終的に摩擦部材が落失する。このため、十分な耐久性と信頼性を確保することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2008−151188号公報
【特許文献2】国際公開WO2002/073059号パンフレット
【特許文献3】特開2006−194429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、制動中のブレーキライニングとブレーキディスクの接触面圧の均一化と、それらの間の摩擦係数の安定化を両立させるとともに、耐久性と信頼性を向上させることができる鉄道車両用ブレーキライニングおよびディスクブレーキを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、上記目的を達成するため、種々の試験および解析を実施し鋭意検討を重ねた結果、下記の(a)〜(c)の知見を得た。
【0021】
(a)上述の通り、制動中のブレーキライニングとブレーキディスクの接触面圧の均一化を図るには、複数個の小サイズの摩擦部材を個々に弾性的に支持し、各摩擦部材が個々に可動する構造にする必要がある。ただし、ブレーキディスクとブレーキライニングとの間の摩擦係数の安定化を図るには、個々の摩擦部材の動きをある程度拘束した構造にする必要がある。
【0022】
(b)上記(a)に示す接触面圧の均一化と摩擦係数の安定化は、互いに隣接する2個の摩擦部材を一組とし、この一組の摩擦部材の裏面にその両者にわたって一体の裏金を固着させ、各摩擦部材を裏面側から個々にばね部材を介しリベットによって基板に取り付ける構造とすることで、両立できる。各摩擦部材を個々にばね部材を介しリベットによって基板に取り付けることにより、各摩擦部材が個々に可動するようになるからである。また、一組の摩擦部材の裏面に一体の裏金を固着させることにより、一組の摩擦部材が裏金で連結され、その動きが必要最小限拘束されるようになるからである。
【0023】
(c)しかも、上記(b)に示す構造にすると、各摩擦部材は基板に対し実質的に2本のリベットで締結されることになるので、制動中にその場で回転することはなく、摩擦部材と基板との締結部に緩みが生じるのを防止でき、仮に、1箇所の締結部が破損した場合であっても、摩擦部材が即座に落失することはない。
【0024】
本発明は、上記(a)〜(c)に示す知見に基づいて完成させたものであり、その要旨は、下記(I)に示す鉄道車両用ブレーキライニング、および下記(II)に示す鉄道車両用ディスクブレーキにある。
【0025】
(I)鉄道車両の車輪または車軸に固定されたブレーキディスクの摺動面に、ブレーキキャリパによって押し付けられるブレーキライニングであって、
各々の表面がブレーキディスクの摺動面と対向し、各々が互いに隙間を隔てて配列された複数個の摩擦部材と、
各摩擦部材の裏面に固着された裏金と、
各摩擦部材をその中心部において
締結部材により裏面側からばね部材を介して支持し、ブレーキキャリパに取り付けられる基板と、からなり、
互いに隣接する2個の摩擦部材を一組とし、この一組の摩擦部材の裏金が一体であることを特徴とする鉄道車両用ブレーキライニングである。
【0026】
上記(I)のブレーキライニングにおいて、前記裏金は、当該裏金に固着された摩擦部材同士の隙間に相当する部分がくびれていることが好ましい。この場合、前記裏金のくびれ部の最小幅が、当該裏金に固着された摩擦部材の最大幅の1/3〜2/3であることが好ましい。
【0027】
また、上記(I)のブレーキライニングにおいて、前記裏金は、当該裏金に固着された摩擦部材同士の隙間に相当する部分の最小長さが2〜7mmであることが好ましい。
また、上記(I)のブレーキライニングにおいて、前記締結部材がリベットであり、前記各摩擦部材は、前記裏金とともに、前記各摩擦部材の中心部に形成された小孔を挿通する前記リベットによって前記基板に取り付けられることが好ましい。
【0028】
(II)鉄道車両の車輪または車軸に固定されたブレーキディスクと、
上記のいずれかのブレーキライニングが取り付けられたブレーキキャリパと、を備えたことを特徴とする鉄道車両用ディスクブレーキである。
【発明の効果】
【0029】
本発明の鉄道車両用ブレーキライニングおよびディスクブレーキによれば、互いに隣接する2個の摩擦部材を一組とし、この一組の摩擦部材の裏面にその両者にわたって一体の裏金を固着させ、各摩擦部材を裏面側から個々にばね部材を介しリベットによって基板に取り付ける構造とすることにより、制動中のブレーキライニングとブレーキディスクの接触面圧の均一化と、それらの間の摩擦係数の安定化を両立させるとともに、耐久性と信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】従来の一般的な鉄道車両用ディスクブレーキを示す図であり、同図(a)はブレーキライニングの平面図を、同図(b)は同図(a)のA−A断面の拡大図をそれぞれ示す。
【
図2】本発明の鉄道車両用ディスクブレーキの一例を示す図であり、同図(a)はブレーキライニングの平面図を、同図(b)は一組の摩擦部材の拡大平面図を、同図(c)は同図(a)のB−B断面の拡大図をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に、本発明の鉄道車両用ブレーキライニングおよびディスクブレーキについて、その実施形態を詳述する。
【0032】
図2は、本発明の鉄道車両用ディスクブレーキの一例を示す図であり、同図(a)はブレーキライニングの平面図を、同図(b)は一組の摩擦部材の拡大平面図を、同図(c)は同図(a)のB−B断面の拡大図をそれぞれ示す。同図(a)、(b)では、それぞれブレーキライニング、一組の摩擦部材を、表面側となるブレーキディスク側から見た状態を示している。
【0033】
本発明のディスクブレーキは、
図2(c)に示すように、ブレーキディスク1と、ブレーキライニング2と、このブレーキライニング2が取り付けられた図示しないブレーキキャリパと、を備える。ブレーキディスク1はドーナツ形円盤状であり、図示しない車輪または車軸にボルトなどによって取り付けられ、強固に固定されている。ブレーキキャリパは、制動時に作動し、ブレーキライニング2をブレーキディスク1の摺動面1aに押し付ける。これにより、ブレーキディスク1とブレーキライニング2との間に摺動による摩擦が生じ、制動力が発生する。こうして、ディスクブレーキは、車輪または車軸の回転を制動し、車両の速度を制御する。
【0034】
図2に示す本発明のブレーキライニング2は、複数個の摩擦部材3と、裏金4と、ばね部材5と、これらの全てを保持する基板6と、から構成される。摩擦部材3は、各々の表面がブレーキディスク1の摺動面1aと対向し、各々が互いに隙間を隔てて配列される。例えば、
図2(a)に示すように、摩擦部材3は、ブレーキディスク1の径方向に2個、ブレーキディスク1の周方向に7個の合計14個を配列した態様を採用することができる。この摩擦部材3の配列や個数は特に限定はない。
【0035】
摩擦部材3は、銅焼結材や樹脂系材料などからなり、前記
図1に示す従来型ブレーキライニング102における幅広い板状の摩擦部材103を小サイズに分割したような小塊状である。摩擦部材3は、
図2(a)、(b)に示すように、平面形状が円形であり、その中心部に小孔3aを有する。この小孔3aには、摩擦部材3を基板6に取り付ける際にリベット7が挿入される。摩擦部材3の平面形状は、円形に限らず、四角形や六角形などの多角形でも構わない。
【0036】
各摩擦部材3の裏面には、その強度や剛性を維持するため、鋼などの薄い金属板からなる裏金4が固着されている。裏金4は、互いに隣接する2個の摩擦部材3を一組とし、この一組の摩擦部材3の両者にわたって一体のものである。これにより、一組の摩擦部材3は、裏金4で連結された状態になっている。裏金4で連結する一組の摩擦部材3は、隣接する方向に限定はなく、ブレーキディスク1の径方向に隣接するものであっても、周方向に隣接するものであっても、それら以外の方向に隣接するものであってもよい。
【0037】
各摩擦部材3は、裏金4とともに、個々の中心部の小孔3aを挿通するリベット7によって基板6に取り付けられている。ここで、各摩擦部材3は、個々の裏面側の裏金4と基板6の間にそれぞればね部材5が配設されており、これにより、個々に弾性的に支持された状態になっている。なお、ばね部材5としては、
図2では皿ばねを例示しているが、板ばねやコイルばねを採用してもよい。
【0038】
このような構成のブレーキライニング2を備えたディスクブレーキによれば、各摩擦部材3が個々にばね部材5を介しリベット7によって基板6に取り付けられ、これにより、個々に弾性支持された状態になっているので、個々に可動するようになる。このため、制動中のブレーキライニング2とブレーキディスク1の接触面圧を均一化することができる。
【0039】
また、一組の摩擦部材3の裏面にその両者にわたって一体の裏金4が固着され、これにより、一組の摩擦部材3が裏金4で連結された状態となっているので、裏金で連結されていない場合と比較して、その動きが必要最小限拘束されるようになる。このため、制動開始時点の走行速度によらず、ブレーキディスク1とブレーキライニング2との間の摩擦係数を安定化することができる。
【0040】
しかも、各摩擦部材3は、実質的に2本のリベット7で基板6に締結されることになるので、制動中にその場で回転することはなく、基板6との締結部に緩みが生じるのを防止できる。仮に、それらの締結部に緩みが生じた場合であっても、2箇所の締結部が同時に破損しない限り、摩擦部材3が即座に落失することはない。したがって、ディスクブレーキの十分な耐久性と信頼性を確保することができる。
【0041】
もっとも、各摩擦部材3は、その中心部直下のリベット7の位置を支点にして弾性支持されているので、制動中にブレーキディスク1と接触し可動しても大きく傾くことはなく、その接触面が全域にわたって均一に摩耗し、偏摩耗が発生することはない。
【0042】
このような本発明のブレーキライニング2において、
図2(a)、(b)に示すように、裏金4は、これに固着された一組の摩擦部材3同士の隙間に相当する部分4a、すなわち摩擦部材3同士の連結部分4aがくびれていることが好ましい。軽量化を実現できる点で有利だからである。この場合、裏金4は、連結部分4a(くびれ部)の最小幅wが、これに固着された摩擦部材3の最大幅Dの1/3〜2/3であり、板厚t(
図2(c)参照)が1.5〜4mmであることが好ましい。上記した接触面積の均一化と摩擦係数の安定化を有効に実現できるからである。なお、ここでいう摩擦部材3の最大幅Dとは、連結部分4aの最小幅wと平行な方向での摩擦部材3の最大の幅を意味する。
【0043】
また、本発明のブレーキライニング2において、
図2(a)、(b)に示すように、裏金4は、連結部分4aの最小長さl、すなわち摩擦部材3同士の最小隙間lが2〜7mmであることが好ましく、より好ましくは3〜5mmとするのがよい。連結部分4aの最小長さlが短過ぎると、摩擦部材3の動きが拘束され過ぎて、上記した接触面積の均一化が困難となるからである。反対にそれが長過ぎると、摩擦部材3の動きが十分に拘束されず、上記した摩擦係数の安定化が困難となるからである。
【0044】
なお、摩擦部材3を弾性支持して可動させるためのばね部材5のばね定数は、実用的には、4〜10kN/mm程度であるのが好ましい。
【実施例】
【0045】
本発明の効果を確認するため、下記のFEM解析(有限要素法解析)およびブレーキ試験を実施した。
【0046】
[解析および試験の概要]
制動中のブレーキライニングとブレーキディスクの接触面圧の均一化を評価するため、FEM解析を行った。解析では、ブレーキライニングとブレーキディスクを弾性体でモデル化し、ブレーキライニングの背面からブレーキキャリパによる押付け力相当の荷重を与えた。このときに個々の摩擦部材に作用する荷重を評価した。
【0047】
主に制動中のブレーキディスクとブレーキライニングとの間の摩擦係数の安定化を評価するため、ブレーキ試験を行った。試験では、ブレーキディスクを取り付けた車輪をその場で回転させ、ブレーキキャリパに取り付けたブレーキライニングをそのブレーキディスクに押し付けて制動させた。このときにブレーキライニングに作用する押付け荷重と、測定されたブレーキトルクから摩擦係数を求めた。
【0048】
FEM解析およびブレーキ試験のいずれでも、新幹線に使用されているディスクブレーキを対象とした。
【0049】
[実施条件]
FEM解析およびブレーキ試験の主要な実施条件を下記の表1にまとめて示す。
【0050】
【表1】
[この文献は図面を表示できません]
【0051】
FEM解析では、前記
図2に示すディスクブレーキを採用し、本発明例1〜3の3条件について解析を実施した。いずれでも、裏金の板厚は2.3mmとし、一組の摩擦部材を連結する裏金の連結部分の最小幅は21mmとした。一組の摩擦部材を連結する裏金の連結部分の最小長さは、本発明例1で2mm、本発明例2で3mm、および本発明例3で5mmと変更した。
【0052】
また、本発明例1〜3に共通して、基板の長手方向長さ(ブレーキディスクの周方向に相当する長さ)は400mm、幅方向長さ(ブレーキディスクの径方向に相当する長さ)は130mmとした。ブレーキライニングを構成する各部材の材料について、摩擦部材は銅焼結材とし、それ以外はすべて鉄鋼材料とした。摩擦部材は14個とし、その平面形状は直径45mmの円形とした。摩擦部材と基板の間に配する皿ばねのばね定数は7kN/mmとした。ブレーキディスクは、内径476mm、外径724mmの略円盤状とし、ブレーキライニングと接触する摺動面の半径方向長さを120mmとした。
【0053】
そして、FEM解析は、押付け力を14kN、ブレーキディスクとブレーキライニングの接触面の摩擦係数を0.3として行った。
【0054】
さらに、FEM解析では、比較のために、比較例1、2の2条件について解析を実施した。比較例1では、上記本発明例1の諸条件のうちで、一組の摩擦部材を裏金で連結することなく、各摩擦部材の裏面に個別に裏金を固着したディスクブレーキ(前記特許文献1に記載されるもの)を採用し、比較例2では、前記
図1に示す従来型ディスクブレーキを採用した。
【0055】
一方、ブレーキ試験では、上記の本発明例1および比較例1の2条件について試験を実施した。各試験は、初速度として30〜330km/hの間から異なる8種類の速度を選定し、各初速度からの非常停止ブレーキとした。
【0056】
[評価方法]
本発明の目的は、上記した接触面積の均一化と摩擦係数の安定化を両立し、さらにディスクブレーキの耐久性を確保することにある。ブレーキ試験では、摩擦係数の安定化と耐久性を評価するため、それぞれに対応する指標として、摩擦係数のばらつきを調査するとともに、個々の摩擦部材がその場で回転するか否かを調査した。ここでは、各初速度からのブレーキ試験で得られた平均摩擦係数の中で、最大値と最小値を抽出し、その差を摩擦係数のばらつきとした。
【0057】
一方、FEM解析では、接触面積の均一化を評価するため、それに対応する指標として、個々の摩擦部材に作用する荷重のばらつきを調査した。ここでは、押付け力を与えたときに各摩擦部材に作用する荷重の中で、最大値と最小値を抽出し、その差を荷重のばらつきとした。
【0058】
[結果]
FEM解析およびブレーキ試験の結果を下記の表2にまとめて示す。
【0059】
【表2】
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【0060】
同表に示す結果から、本発明例1では、一組の摩擦部材を裏金で連結しているため、摩擦係数のばらつきが小さく、摩擦部材の回転も生じていないことがわかる。また、皿ばねによる摩擦部材の弾性支持の効果により、本発明例1〜3では、荷重のばらつきが小さくなることがわかる。これらのことから、本発明のブレーキライニングを備えたディスクブレーキは、接触面積の均一化と摩擦係数の安定化を両立し、さらに耐久性を確保できることが明らかとなる。
【0061】
一方、比較例1では、一組の摩擦部材を裏金で連結していないため、摩擦係数のばらつきが比較的大きく、複数の摩擦部材で回転が生じていることがわかる。また、比較例2では、従来型ブレーキライニングのため、荷重のばらつきが大きいことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の鉄道車両用ブレーキライニングおよびディスクブレーキは、あらゆる鉄道車両に有効に利用することができ、中でも、走行速度が低速から高速まで広範となる高速鉄道車両に有用である。
【符号の説明】
【0063】
1:ブレーキディスク、 1a:摺動面、 2:ブレーキライニング、
3:摩擦部材、 3a:小孔、 4:裏金、 4a:連結部分、
5:ばね部材、 6:基板、 7:リベット
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