(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記バッテリ充電状態検出手段により検出される前記バッテリの充電状態が前記適正状態時に、前記変速制御手段により前記変速機の前記非走行レンジが設定されると、前記クラッチ制御手段は前記クラッチを遮断し、さらに、前記変速機出力軸回転数検出手段により検出される前記変速機の出力軸回転数が、所定回転数以上である場合に、前記モータ制御手段は、前記モータの外部への出力トルクをゼロトルクに制御するゼロトルク制御を実施する
ことを特徴とする、請求項1記載のハイブリッド車両の制御装置。
前記クラッチ制御手段により前記クラッチを接続させ、前記モータ制御手段により前記モータに正又は負の微小トルクを発生させ、前記バッテリの充電状態を維持する充電状態維持制御を実施する充電状態維持制御手段を備え、
前記バッテリ状態検出手段により検出される前記バッテリの充電状態が前記適正状態でなく、前記変速制御手段により前記変速機において前記非走行レンジが設定されると、前記充電状態維持制御手段により前記充電状態維持制御を実施する
ことを特徴とする、請求項1又は2記載のハイブリッド車両の制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記のハイブリッド電気自動車に自動変速機を適用して、通常複数の変速段を選択的に設定するDレンジ(ドライブレンジ)等の走行レンジと、Pレンジ(パーキングレンジ)やNレンジ(ニュートラルレンジ)といった非走行レンジとを、選択操作すると、各レンジに対応すると共に車両の運転状態に対応して上記クラッチの断接及び変速段の切替を行なうようにしたものがある。
【0009】
このような場合に、PレンジやNレンジといった非走行レンジが選択されると、変速機をエンジン及びモータのトルクが駆動輪側には伝達されない状態とすると共に、クラッチは接続状態としてエンジンをアイドル運転させる。
この場合もハイブリッド電気自動車に永久磁石を用いるモータを適用すると、クラッチが接続され非走行レンジが選択されている際に、エンジンに連動するモータに要求されるトルクはゼロトルクであり、モータの特性上微小トルクを発生するため、SOCバランス制御が実施される。
【0010】
しかしながら、このSOCバランス制御によれば、非走行レンジが設定されている場合にも、モータにトルクを発生させるため、燃費が悪化するおそれがある。
また、発進時の燃費の向上や騒音低減には、モータ単体走行を適用することが有効であり、この場合、非走行レンジから走行レンジへ切替えて発進する時には、非走行レンジで接続されたクラッチを一度遮断し、変速機の変速段の設定を行なった後に、モータによる単体走行を実施することになる。このため、モータを装備せずエンジンのみを駆動源とする車両の発進よりも、接続されたクラッチを遮断する時間分だけ車両の発進タイミングが遅れてしまうおそれがある。
【0011】
本発明は、かかる課題に鑑み創案されたものであり、燃費の悪化を抑制又は解消し、速やかに車両を発進させることができるようにした、ハイブリッド車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、本発明のハイブリッド車両の制御装置は、エンジンと、電動機又は発電機として作動するモータと、前記モータに接続されたバッテリと、前記エンジンと前記モータとの間に介装され、前記エンジンの出力の伝達を断接するクラッチと、前記モータが設けられた入力軸をそなえ、前記エンジン及び前記モータの少なくとも何れかの出力回転を変速して駆動輪に伝達する走行レンジと該出力回転を該駆動輪に伝達しない非走行レンジとを有する変速機と、前記変速機の出力軸回転数を検出する変速機出力軸回転数検出手段と、前記クラッチの断接状態を切替えるクラッチ制御手段と、前記モータを制御するモータ制御手段と、前記変速機の前記走行レンジ又は前記非走行レンジを設定する変速制御手段と、前記バッテリの充電状態を検出するバッテリ充電状態検出手段とを備え、前記バッテリ充電状態検出手段により検出される前記バッテリの充電状態が
所定充電率よりも大きい適正状態(所定許容範囲内であって、充電率が所定充電率よりも高い状態)時に、前記変
速制御手段により前記変速機において前記非走行レンジが設定されると、前記クラッチ制御手段は前記クラッチを遮断し、さらに、前記変速機出力軸回転数検出手段により検出された前記変速機の出力軸回転数が所定回転数よりも小さい場合に、前記モータ制御手段は、前記モータの回転数を略ゼロ回転に制御するゼロ回転制御を実施することを特徴としている。
【0013】
また、前記バッテリ充電状態検出手段により検出される前記バッテリの充電状態が前記適正状態時に、前記変速制御手段により前記変速機の前記非走行レンジが設定されると、前記クラッチ制御手段は前記クラッチを遮断し、さらに、前記変速機出力軸回転数検出手段により検出される前記変速機の出力軸回転数が、所定回転数以上である場合に、前記モータ制御手段は、前記モータの
外部への出力トルクをゼロトルクに制御するゼロトルク制御を実施することが好ましい。
【0014】
また、前記クラッチ制御手段により前記クラッチを接続させ、前記モータ制御手段により前記モータに正又は負の微小トルクを発生させ、前記バッテリの充電状態を維持する充電状態維持制御を実施する充電状態維持制御手段を備え、前記バッテリ状態検出手段により検出される前記バッテリの充電状態が前記適正状態でなく、前記変
速制御手段により前記変速機において前記非走行レンジが設定されると、前記充電状態維持制御手段により前記充電状態維持制御を実施することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
(1)本発明のハイブリッド車両の制御装置によれば、バッテリの充電状態が、例えば所定許容範囲内であって充電率が所定充電率より大きい状態といった適正状態時に、変速制御手段により変速機において非走行レンジが設定されると、クラッチ制御手段はクラッチを遮断するため、エンジンはアイドル回転数を維持又はアイドルストップすることができ、燃費の悪化を抑制又は解消することができる。また、変速機の非走行レンジの設定時にクラッチが接続されないため、非走行レンジから走行レンジへの切替時に、接続されたクラッチを遮断する必要が無い。このため、非走行レンジから走行レンジへの切替後、即座に変速機のギヤ入れを実施することができ、速やかに車両を発進させることができる。また、変速機の非走行レンジ設定時にクラッチが接続されていないため、変速機のギヤ入れ時におけるショックの発生を解消することができる。
【0016】
さらに、変速機の出力軸回転数が所定回転数よりも小さい場合に、モータ制御手段はゼロ回転制御を実施するため、速やかにモータの回転数をゼロ回転に収束させ、モータの回転による充放電の発生を速やかに抑制し防止することができる。
【0017】
(2)また、バッテリの充電状態が適正状態時に、変速制御手段により変速機において非走行レンジが設定されると、クラッチ制御手段はクラッチを遮断し、さらに、変速機の出力軸回転数が所定回転数以上である場合に、モータ制御手段はゼロトルク制御を実施するように構成すれば、所定回転数に対応する車速以上での走行中において、変速機の非走行レンジ設定時に、モータの回転数と変速機の出力軸回転数との回転数差の拡大を抑制し、非走行レンジから走行レンジへの切替時の応答性を向上させることができる。
【0018】
また、モータのゼロトルク制御を実施するには、モータの回転数が高くなるに連れて電力を必要とするが、適正状態時に、モータ制御手段はゼロトルク制御を実施するように構成すれば、バッテリの充電状態を
所定許容範囲に収束させつつ、非走行レンジから走行レンジへの設定の切替時におけるギヤ入れ等の応答性を向上させることができる。
【0019】
(3)また、クラッチ制御手段によりクラッチを接続させ、モータ制御手段によりモータに正又は負の微小トルクを発生させ、バッテリの充電状態を維持する充電状態維持制御を実施する充電状態維持制御手段を備え、バッテリの充電状態が、例えばバッテリの充電率が所定許容範囲内であって所定充電率よりも低く、適正状態でない場合に、充電状態維持制御手段により充電状態維持制御を実施するように構成すれば、バッテリの充電状態を
所定許容範囲に維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について説明する。
【0022】
〈一実施形態〉
[構成]
まず、一実施形態にかかる制御装置が適用されるハイブリッド電気自動車(ハイブリッド車両、単に車両とも言う)の構成を説明する。本実施形態にかかるハイブリッド車両は、例えばトラック又はバスといったいわゆる大型又は中型のハイブリッド電気自動車である。
【0023】
図1に示すように、本実施形態のハイブリッド車両は、車両の駆動源としてのエンジン(内燃機関)1と、このエンジン1の出力を断接するクラッチ2と、車両の駆動源としての電動機又は発電機として作動するモータ(電動発電機)3と、車両の駆動源であるエンジン1及びモータ3の少なくとも何れかの出力回転を変速して伝達する変速機4と、駆動輪9と、これら変速機4と駆動輪9との間に介装されて回転動力を伝達する動力伝達部材5とを装備している。
【0024】
エンジン1の回転トルクを出力する出力軸(クランクシャフト)1Aは、クラッチ2の入力軸に接続される。
クラッチ2は、エンジン1の出力を断接するものである。このクラッチ2は、アクチュエータ6が付設される油圧式(液圧式)のクラッチであり、アクチュエータ6の作動により接続状態と遮断状態とを切替えられる。クラッチ2が接続状態にされるとエンジン1の出力は伝達され、クラッチ2が遮断状態にされるとエンジン1の出力は伝達されない。
【0025】
アクチュエータ6は、詳細を図示しないが、例えば、油圧室と、これに隣接するピストンと、ピストンを所定位置に戻すリターンスプリングとをそなえている。その油圧室に油圧(クラッチ圧)が供給されると、これに応じてピストンがリターンスプリングに抗して移動し、クラッチ2の入力側及び出力側のクラッチプレートを押圧する。このとき、クラッチ圧が増加するに連れてクラッチ2の入力側及び出力側のクラッチプレートは相互に接近し係合する。一方、クラッチ圧が低下するとリターンスプリングによりピストンが戻されクラッチ2の入力側及び出力側のクラッチプレートは押圧されなくなり離隔する。
【0026】
モータ3は、電動機として作動すれば車両の駆動源として機能する。また、モータ3は、発電機として作動すれば、エンジン1の出力回転や車両の制動による回生エネルギを回収する発電装置として機能する。このモータ3のロータ(回転子)は、クラッチ2の出力軸、即ち、変速機4の入力軸4Aに固設される。ここでは、モータ3として、永久磁石を用いる永久磁石式同期モータを用いる。
【0027】
また、モータ3は、インバータ20を介してバッテリ10と電力送給線で接続される。これにより、バッテリ10からモータ3に給電してモータ3を電動機として作動させることができ、モータ3を発電機として作動させてモータ3による発電電力によりバッテリ10を充電することができる。この充放電は、インバータ20の作動状態を切替えることにより行なわれる。
【0028】
バッテリ10は、制御用の信号線を介してバッテリECU(バッテリ状態検出手段)11に接続され、その充電状態(以下SOCともいう)をバッテリECU11により管理される。
インバータ20は、制御用の信号線でインバータECU21を介して車両ECU50に接続され、インバータECU21を介して車両ECU50にその作動を制御される。
【0029】
また、変速機4の入力軸4Aの近傍には、入力軸4Aの回転数、即ちモータ3の回転数(モータ回転数)N
MTRを検出するモータ回転数センサ31が付設される。このモータ回転数センサ31は、車両ECU50に接続され、モータ回転数センサ31により検出されたモータ回転数N
MTRの情報(検出信号)は、車両ECU50に伝達される。
変速機4は、その入力軸4Aに入力されるエンジン1及びモータ3の何れか又は両方の出力回転を変速して出力軸4Bに出力するものであり、変速段のギヤ対を装備し、変速段のギヤ対を係合又は解放させるスリーブやクラッチギヤといった各係合要素を有する。この変速機4は、所要の係合要素が係合されると走行レンジが設定され、係合要素の何れもが解放(非係合)されると非走行レンジが設定される。
【0030】
また、変速機4の入力軸4Aにはモータ3のロータが装備され、変速機4の出力軸4Bには動力伝達部材5が接続される。
変速機4の係合要素が係合されると、係合する係合要素に対応するギヤ対が係合され対応する変速段が設定される。変速段が設定されると、変速機4は、入力軸4Aに入力されるエンジン1及びモータ3の何れか又は両方の出力回転を設定された変速段に応じた変速比で変速し出力軸4Bに出力する。なお、エンジン1及びモータ3の少なくとも何れかの出力回転を走行に用いる際に設定される変速段は、走行レンジにおいて設定される。
【0031】
また、変速機4の係合要素が解放されると、何れの変速段も設定されない。この変速段が設定されない状態では、変速機4は、入力軸4Aに入力されるエンジン1及びモータ3の何れの出力回転も出力軸4Bに伝達しない。この場合、変速機4においては、変速機4の出力軸4Bの回転が拘束されないNレンジ(ニュートラルレンジ)、又は、変速機4の出力軸4Bの回転が拘束されるPレンジ(パーキングレンジ)が設定されることになり、これらのNレンジやPレンジは、エンジン1及びモータ3の出力回転を走行に用いない非走行レンジにおいて設定される。なお、変速機4においてNレンジが設定されると、その入力軸4Aと出力軸4Bとは動力伝達が遮断され、出力軸4B及び動力伝達部材5の回転は拘束されない。また、変速機4においてPレンジが設定されると、入力軸4Aと出力軸4Bとは動力伝達を遮断され、出力軸4B及び動力伝達部材5の回転が拘束される。
【0032】
このような変速機4の各係合要素の係合又は解放は、図示しないギヤシフトユニットにより油圧を用いて行なわれ、かかるギヤシフトユニットは車両ECU50により制御される。
また、変速機4の出力軸4Bの近傍には、出力軸4Bの回転数(出力軸回転数)N
T/Mを検出する変速機出力軸回転数センサ32が付設される。この変速機出力軸回転数センサ32は、車両ECU50に接続され、変速機出力軸回転数センサ32により検出された出力軸回転数N
T/Mの情報(検出信号)は、車両ECU50に伝達される。
【0033】
動力伝達部材5は、プロペラシャフト,差動装置及びドライブシャフト等から構成され、変速機4の出力軸4Bと駆動輪9との間に介装され、変速機4と駆動輪9との間の動力伝達を双方向に行なう。
本車両には、運転者により操作されるシフト部(シフトレバー)30が装備される。このシフト部30は、複数のレンジが設けられ、運転者によりシフトポジションを切替えることにより何れかのレンジを選択可能に構成される。この複数のレンジとしては、Pレンジ(パーキングレンジ),Rレンジ(リバースレンジ),Nレンジ(ニュートラルレンジ),Dレンジ(ドライブレンジ)といったレンジが挙げられる。このうち、Pレンジ,Nレンジは非走行レンジに含まれ、Rレンジ,Dレンジは走行レンジに含まれる。
【0034】
なお、ここではシフト部30にPレンジ,Rレンジ,Nレンジ,Dレンジが設定されるものを示すが、これに限らずLレンジ等の走行レンジをさらに備えてもよい。また、走行レンジ及び非走行レンジとして設定される具体的なレンジ数は、これに限定されない。
また、シフト部30は車両ECU50に接続され、このシフト部30において選択されたレンジの情報は、車両ECU50に伝達される。
【0035】
次に、ハイブリッド車両の制御装置にかかる制御系の構成を説明する。
エンジン1,クラッチ2,モータ3,変速機4,バッテリ10及びインバータ20の制御又は管理は、コンピュータを用いた電子制御により行なわれるようになっており、バッテリ10を管理するバッテリECU11と、インバータ20の作動を制御するインバータECU21とがそれぞれ設けられる。
【0036】
これらのバッテリECU11,インバータECU21,エンジン1,クラッチ2,モータ3及び変速機4を制御する車両ECU50が設けられる。これらの各ECU11,21,50は、例えばマイクロプロセッサやROM,RAM,入出力回路等からなる電子制御装置である。
バッテリECU11は、バッテリ10の温度,充放電される電流及び電圧等の情報を取得し、これらの情報に基づいてバッテリ10の充電状態(SOC)を演算し検出する。このSOCは、バッテリ10の充電率やこの充電率に基づいて算出される充電量で表すことができる。バッテリECU11により検出されたバッテリ10のSOCは車両ECU50に伝達される。
【0037】
車両ECU50は、クラッチ2の作動を制御するクラッチ制御部(クラッチ制御手段)51と、モータ3の作動を制御するモータ制御部(モータ制御手段)52と、変速機4を制御する変速制御部(変速制御手段)53と、バッテリ10の充電状態を維持するSOCバランス制御部(充電状態維持手段)54とを有する。
クラッチ制御部51は、車両の運転状況に応じてクラッチ2に付設されたアクチュエータ6のクラッチ圧を制御することにより、クラッチ2の断接状態を切替える。
【0038】
モータ制御部52は、車両の運転状況に応じてモータ3の作動を制御する。つまり、モータ制御部52は、インバータECU21を介してインバータ20の作動を制御することにより、バッテリ10からモータ3への給電とモータ3からバッテリ10への充電とを制御する。
また、モータ制御部52は、モータ3の出力トルクをゼロトルクに制御するゼロトルク制御と、モータ3の回転数をゼロ回転に制御するゼロ回転制御とを実施する。
【0039】
ゼロトルク制御とは、モータ3自身の引きずりトルクを打ち消すだけのトルクをモータ3に発生させ、モータ3の外部にはトルクを出力しないようにするものである。例えば、モータ3が回転している際にゼロトルク制御が実施されれば、モータ3に外部から加わるトルクに応じたモータ回転数N
MTRでモータ3は回転し、モータ3に外部からトルクが加わらなければモータ3はモータ回転数N
MTRを維持する。また、モータ3の回転数が高くなるに連れてモータ3自身の引きずりトルクが大きくなるため、ゼロトルク制御を実施するのにもモータ3の回転数に応じた電力を必要とする。
【0040】
ゼロ回転制御とは、モータ回転数センサ31により検出されたモータ回転数N
MTRに基づいて、モータ回転数N
MTRがゼロ回転に近づくように外部からモータ3に加わるトルクに対して逆向きの(モータ3の回転を止める方向)のトルクをモータ3に発生させるものである。
変速制御部53は、車両の運転状況に応じて変速機4の各係合要素の係合及び解放を制御する。これにより、変速制御部53は、変速機4を走行レンジの設定状態と非走行レンジの設定状態とに切替える。
【0041】
この変速制御部53は、運転者によるシフト部30の操作により非走行レンジが選択されると、後述するSOCバランス制御(充電状態維持制御)等のクラッチ2が接続されて実施される制御中でない限り、変速機4の係合要素を何れも解放して非走行レンジを設定する。また、運転者によるシフト部30の操作により走行レンジが選択されると、変速段の切替時を除いては所要の係合要素を係合し、車両の運転状況に応じた変速段を設定する。
【0042】
SOCバランス制御部54は、クラッチ制御部51によりクラッチ2を接続させ、モータ制御部52によりモータに正又は負の微小トルクを発生させることによりバッテリ10のSOCを維持(バランス)する制御を実施する。以下、このSOCバランス制御について、
図2を例示して説明する。ここでは、モータ3は、その特性上回転されると微小に正のトルクを発生し、バッテリ10を放電するものを示す。
【0043】
図2(a)は縦軸に車両の駆動側のトルクを正として、モータ制御部52によるモータ3への指示トルクを規定し、
図2(b)は縦軸にバッテリ10のSOCを規定し、これら
図2(a),(b)の横軸には時間軸を規定する。なお、
図2に示すSOCバランス制御の実施中は、クラッチ制御部51によりクラッチ2は常時接続状態とされ、モータ3の指示トルクがゼロトルクのフェーズと負のトルクのフェーズとを繰り返す。
【0044】
時点t
0では、モータ制御部52によるゼロトルク制御が開始される。この制御開始時点のSOC
sは、車両ECU50に記憶される。
時点t
0から時点t
1までは、モータ制御部52によるゼロトルク制御が実施されており、
図2(a)に示すようにモータ3に指示されるトルクはゼロトルクである。一方、
図2(b)に示すようにバッテリ10のSOCは時点t
0から時点t
1へ向けて減少している。すなわち、実際のモータ3は微小な正のトルクを発生し、バッテリ10は放電されている。この際、車両ECU50はバッテリECU11により検出されるバッテリ10のSOCと制御開始時点のSOC
sとの差分を周期的に算出している。
【0045】
時点t
1では、制御開始時点のSOC
sよりもバッテリ10のSOCが第1所定微小率だけ小さいSOC
Lとなる。このバッテリ10のSOC
Lは車両ECU50に記憶される。この第1所定微小率は、SOCバランス制御の実施下において過度なハンチングが発生せず、SOCの検出精度を鑑みたSOCの差分として、例えば1%といった充電率が予め実験的・経験的に設定される。また、この時点t
1では、バッテリ10の充電が開始される。この充電は、バッテリ10のSOCがSOC
Lとなることを条件に繰り返し開始される。
【0046】
時点t
1から時点t
3までは、バッテリ10は充電され、SOCバランス制御部54は、モータ制御部52によりモータ3に微小な負のトルクを発生させる。これにより、
図2(b)に示すように、バッテリ10のSOCは時点t
1から時点t
3へ向けて増加する。この際、車両ECU50はバッテリECU11から検出されるバッテリ10のSOCと時点t
1のSOC
Lとの差分を周期的に算出している。
【0047】
なお、時点t
1から時点t
2までの期間では、モータ制御部52によるモータ3の指示出力トルクを所定の変化率(減少率)に抑えるランプ処理が行なわれる。
時点t
3では、時点t
1のSOC
Lよりもバッテリ10のSOCが第2所定微小率だけ大きいSOC
Hとなる。この第2所定微小率は、SOCバランス制御の実施において過度なハンチングが発生せず、SOCの検出精度を鑑みたSOCの差分として、例えば2%といった充電率が予め実験的・経験的に設定される。また、この時点t
3では、バッテリ10の充電指示が終了する。そして、モータ制御部52によるゼロトルク制御が開始される。すなわち、バッテリ10の充電は、バッテリ10のSOCがSOC
Hとなることを条件に終了指示される。
【0048】
なお、時点t
3から時点t
4までの期間は、モータ制御部52によるモータ3の指示出力トルクを所定の変化率(増加率)に抑えるランプ処理が行なわれる。このため、バッテリ10の充電制御終了後のこの期間においても、バッテリ10のSOCは微増している。
時点t
4から時点t
5までは、再度モータ制御部52によるゼロトルク制御が実施される。この期間においても、実際のモータ3は微小な正のトルクを発生し、バッテリ10は放電されている。この際、車両ECU50は、バッテリECU11により検出されるバッテリ10のSOCを、記憶された時点t
1におけるSOC
Lと比較している。
【0049】
時点t
5は、時点t
1と同様であり、時点t
6〜t
8は、時点t
2〜t
4と同様である。
車両ECU50は、これらの制御部51,52,53,54を用いて、バッテリECU11により検出されたバッテリ10のSOCに基づく種々の制御を実施する。かかる種々の制御を、以下説明する。
車両ECU50は、バッテリECU11により検出されたバッテリ10のSOCが所定許容範囲内に収まるように強制充電や強制放電を行なう。車両ECU50は、バッテリ10のSOCが所定許容範囲の下限を下回った場合、モータ3を発電機として作動させ強制充電を行ない、バッテリ10のSOCが所定許容範囲の上限を上回った場合、モータ3を電動機として作動させ強制放電を行なう。
【0050】
なお、所定許容範囲は、強制充電又は強制放電を行なわなければバッテリ10を劣化させてしまう虞が小さいSOCの範囲として、例えばバッテリ10のSOCが30%以上且つ70%以下といった充電率の範囲が、予め実験的・経験的に設定される。
車両ECU50は、バッテリ10のSOCが所定許容範囲内では、以下の制御を実施する。
【0051】
バッテリ10のSOCが所定許容範囲であって第1所定充電率SOC
1よりも大きい状態(適正状態)であれば、車両ECU50は、変速機4がNレンジ(非走行レンジ)に設定される際に、クラッチ制御部51によりクラッチ2を遮断させる。この場合、車両ECU50は、変速機出力軸回転数センサ32により検出される出力軸回転数N
T/Mに基づいて、モータ制御部52を制御する。
【0052】
なお、第1所定充電率SOC
1は、所定許容範囲の上限よりも低く設定され、車両走行時にモータ制御部52によりモータ3のゼロトルク制御を実施しても、バッテリ10のSOCを所定許容範囲内において収束させることができるSOCとして、例えばバッテリ10のSOCが40%といった充電率が、予め実験的・経験的に設定される。
バッテリ10のSOCが適正状態であって、クラッチ2が遮断されている際に、変速機出力軸回転数センサ32により検出される出力軸回転数N
T/Mが所定回転数N
1よりも小さければ、車両ECU50は、モータ制御部52によるゼロ回転制御を実施する。なお、この場合、モータ回転数検出センサ31により検出されるモータ回転数N
MTRが略ゼロ回転の場合には、モータ制御部52によるゼロ回転制御を実施する必要がないため、車両ECU50は、モータ制御部52によるゼロトルク制御を実施する。
【0053】
なお、モータ回転数N
MTRが略ゼロ回転とは、モータ3が回転されてもその特性上発生される微小トルクによるバッテリ10の充放電が無視できる程度の回転数をいい、予め実験的・経験的に設定される。
また、所定回転数N
1は、変速機4においてギヤ入れを行なう際にショックが生じない変速機4の入力軸4Aと出力軸4Bとの回転数差の上限として設定され、例えばクリープトルクによる走行中の低速車速に所定のマージンを加えた車速に対応する回転数として、予め実験的・経験的に設定される。
【0054】
また、バッテリ10のSOCが適正状態であって、クラッチ2が遮断されている際に、変速機出力軸回転数センサ32により検出される出力軸回転数N
T/Mが所定回転数N
1以上であれば、車両ECU50は、モータ制御部52によるゼロトルク制御を実施する。
次に、バッテリ10のSOCが所定許容範囲であって第1所定充電率SOC
1よりも小さい状態であれば、車両ECU50は、変速機4がPレンジ又はNレンジ(非走行レンジ)に設定される際に、上述のSOCバランス制御部54によるSOCバランス制御を実施する。
【0055】
[作用・効果]
本発明の一実施形態に係るハイブリッド車両の制御装置は、上述のように構成されるため、車両ECU50により、
図3に示すような制御フローが行なわれる。この制御フローの処理は車両のキースイッチがオンに設定されている時には周期的に行なわれる。
ステップS10では、変速機4がPレンジやNレンジといった非走行レンジに設定されているか否かを判定する。非走行レンジに設定されていればステップS20へ移行し、Dレンジといった走行レンジに設定されていれば今回の制御フローを終了(リターン)する。
【0056】
ステップS20では、バッテリECU11により検出されるバッテリ10のSOCが第1所定充電率SOC
1よりも大きいか否かを判定する。バッテリ10のSOCが第1所定充電率SOC
1よりも大きければステップS30へ移行し、バッテリ10のSOCが第1所定充電率SOC
1以下であればステップS100へ移行する。
ステップS30では、フラグFが1にセットされているか否かを判定する。このフラグFは、クラッチ2が接続されていれば1にセットされ、クラッチ2が遮断されていれば0にセットされる。フラグFが1であればステップS40へ移行し、フラグFが0であればステップS32へ移行する。
【0057】
ステップS32では、クラッチ制御部51によりクラッチ2を遮断させる。そしてステップS34へ移行する。
ステップS34では、フラグFを1にセットし、ステップS40へ移行する。
ステップS40では、変速機4に設定された非走行レンジがNレンジか否かを判定する。変速機4にNレンジが設定さていればステップS50へ移行し、変速機4にPレンジが設定さていればステップS70へ移行する。
【0058】
ステップS50では、変速機出力軸回転数センサ32により検出される出力軸回転数N
T/Mが所定回転数N
1よりも大きいか否かを判定する。出力軸回転数N
T/Mが所定回転数N
1よりも大きければステップS60へ移行し、出力軸回転数N
T/Mが所定回転数N
1以下であればステップS70へ移行する。
ステップS60では、モータ制御52によるゼロトルクを実施する。
【0059】
また、ステップS70では、モータ回転数N
MTRが略ゼロ回転か否かを判定する。モータ回転数N
MTRが略ゼロ回転であればステップS80へ移行し、モータ回転数N
MTRが略ゼロ回転でなければステップS90へ移行する。
ステップS80では、モータ制御部52によるゼロトルク制御を実施する。そして、今回の制御フローを終了(リターン)する。
【0060】
ステップS90では、モータ制御部52によるゼロ回転制御を実施する。そして、今回の制御フローを終了(リターン)する。
また、ステップS100では、クラッチ制御部51によりクラッチ2を接続させ、ステップS110へ移行する。
ステップS110では、フラグFを0にセットし、ステップS120へ移行する。
【0061】
ステップS120では、SOCバランス制御部54によるSOCバランス制御を実施する。そして、今回の制御フローを終了(リターン)する。
なお、本制御フローのステップS80では、モータ回転数N
MTRは略ゼロ回転であり、ゼロ回転制御のハンチングを防止するためのステップとして機能する。このため、ゼロ回転制御の制御設定がハンチングが生じないように適切にされていれば、ステップS80は適宜省略することができる。
【0062】
したがって、バッテリ10のSOCが所定許容範囲であって第1所定充電率SOC
1よりも大きい状態である適正状態時に、変速制御部53により変速機4においてNレンジ(非走行レンジ)が設定されると、クラッチ制御部52はクラッチ2を遮断するため、エンジン1はアイドル回転数を維持又はアイドルストップすることができ、燃費の悪化を抑制又は解消することができる。また、変速機4のNレンジの設定時にクラッチ2が接続されないため、NレンジからDレンジといった走行レンジへの切替時に、接続されたクラッチ2を遮断する必要が無い。このため、NレンジからDレンジへの切替後、即座に変速機4のギヤ入れを実施することができ、速やかに車両を発進させることができる。また、変速機4のNレンジ設定時にクラッチ2が接続されていないため、変速機4のギヤ入れ時におけるショックの発生を解消することができる。
【0063】
さらに、変速機4の出力軸回転数N
T/Mが所定回転数N
1よりも小さい場合に、モータ制御部52はゼロ回転制御を実施するため、速やかにモータ3の回転数をゼロ回転に収束させ、モータ3の回転による充放電の発生を速やかに抑制し防止することができる。
また、バッテリ10のSOCが適正状態時に、変速制御部53により変速機4においてNレンジが設定されると、クラッチ制御部51はクラッチ2を遮断し、さらに、変速機4の出力軸回転数N
T/Mが所定回転数N
1以上である場合に、モータ制御部52はゼロトルク制御を実施するため、所定回転数N
1に対応する車速以上での走行中において、変速機4のNレンジ設定時に、モータ3の回転数N
MTRと変速機4の出力軸回転数N
T/Mとの回転数差の拡大を抑制し、NレンジからDレンジといった走行レンジへの切替時の応答性を向上させることができる。
【0064】
また、モータ3のゼロトルク制御を実施するには、モータ3の回転数が高くなるに連れて電力を必要とするが、バッテリ3のSOCが適正状態時に、モータ制御部52はゼロトルク制御を実施するため、バッテリ10の充電状態
を所定許容範囲に収束させつつ、NレンジからDレンジへの設定の切替時におけるギヤ入れ等の応答性を向上させることができる。
【0065】
また、変速機4においてPレンジ又はNレンジの非走行レンジが設定される場合に、クラッチ制御部51よりクラッチ2を接続させ、モータ制御部52によりモータ3に正又は負の微小トルクを発生させ、バッテリ10のSOCを維持するSOCバランス制御を実施するSOCバランス制御部54を備え、バッテリ10のSOCが、バッテリ10の充電率が所定許容範囲内であって第1所定充電率SOC
1以下であって、適正状態でない場合に、SOCバランス制御部54によりSOCバランス制御を実施するため、バッテリ10のSOCを
所定許容範囲に維持することができる。
【0066】
[その他]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
上述の実施形態では、単数のクラッチを装備する車両を示したが、これに限らず、2つのクラッチを装備するいわゆるDCT(Dual Clutch Transmission)が装備される車両に本発明の制御装置を適用してもよい。
【0067】
また、第1所定微小率を1%に設定し、第2所定微小率を2%に設定するものを示したが、これに限らず、これらの所定微小率には例えば0.8%や3%といった適宜の設定値を用いることができる。
また、第1所定充電率を40%に設定するものを示したが、第1所定充電率を45%や65%といった適宜の設定値を用いることができる。