(54)【発明の名称】弁付き管腔形状組織形成用基材、管腔形状組織形成用基材、膜状組織形成用基材、弁付き管腔形状組織の生産方法、管腔形状組織の生産方法、及び膜状組織の生産方法
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記撮影手段が前記基材本体に収容され、該基材本体のうちの少なくとも撮影手段を収容する部位が透視可能な素材から形成されたことを特徴とする請求項1に記載の弁付き管腔形状組織形成用基材。
前記撮影手段が前記基材本体に収容され、該基材本体のうちの少なくとも撮影手段を収容する部位が透視可能な素材から形成されたことを特徴とする請求項7に記載の管腔形状組織形成用基材。
前記撮影手段が前記基材本体に収容され、該基材本体のうちの少なくとも撮影手段を収容する部位が透視可能な素材から形成されたことを特徴とする請求項11に記載の膜状組織形成用基材。
【背景技術】
【0002】
病気や事故で失われた細胞、組織、器官を、人工素材や細胞により再び蘇らせる再生医療の研究が数多くなされている。通常、身体には自己防衛機能があり、体内の浅い位置にトゲ等の異物が侵入した場合には体外へ押し出そうとするが、体内の深い位置に異物が侵入した場合にはその周りに繊維芽細胞が集まってきて、主に繊維芽細胞とコラーゲンからなる結合組織体のカプセルを形成し異物を覆うことにより、体内において隔離することが知られている。このような後者の自己防衛反応を利用して、生体内において生細胞を用いた管状の生体由来組織を形成する方法が複数報告されている(特許文献1〜3参照)。
【0003】
特許文献1(特開2007−312821)には、棒状構造体の表面に螺旋状溝を形成し、この棒状構造体を生体内に埋入することにより、棒状構造体の表面に膜状の結合組織体を形成し、結合組織体の機械的強度を増加させる点が開示されている。
【0004】
特許文献2(特開2008−237896)には、棒状構造部材の外周に沿って外郭部材を螺旋形に形成し、これを生体に埋入して、棒状構造部材の外縁に結合組織体を形成する点が開示されている。結合組織体が外郭部材と棒状構造部材の表面との間に侵入し、結合組織体の内面形状が棒状構造部材の表面と同様の平滑面に形成される。結合組織体が、外郭部材を包埋する厚さに形成される。
【0005】
特許文献3(特開2010−094476)には、棒状構造部材の表面に外郭部材を形成し、これを結合組織形成用基材とする点が開示されている。この基材を生体内に埋入することにより、基材表面に膜状の組織体を形成する。その際、外郭部材の材料として、生体適合性に優れるが組織体やその構成成分に侵襲されにくい材料を使用することにより、外郭部材は組織体と癒着し結合組織体の機械的強度が増加されるとともに外郭部材の内面に組織体やその構成成分が露出しない人工血管が得られる。
【0006】
また、上記特許文献1〜3の人工血管よりも構造が複雑化した、例えば大動脈の大動脈洞(バルサルバ洞)のように、血管壁が半径外方向に膨出した膨大部と、その血流方向上流側の内部において半径方向内側に突出して血流方向に開閉する複数の弁葉と、を有する血管の生産も求められている。膨大部は、弁が開く際には血液の逃げ道となり、閉じた時には血液の溜まり場として機能し、弁の開閉を行いやすくすると共に血液の逆流を防ぐ働きをしている。
【0007】
このような膨大部及び弁を備えた弁付き人工血管の作成について、特許文献4に開示されている。特許文献4は、生体適合性ブロックコポリマーを含む人工心臓弁及び血管構造のためのスキャフォールドに関するものである。すなわち、複数のモデルパーツからなるバルブモデル上に、エレクトロスピニグ法によりファイバーを堆積させてメッシュ構造を構築する。そこからモデルパーツを離型することにより、バルブモデルのスキャフォールドが完成する。このスキャフォールドは、ポリマー繊維によって形成されたメッシュ様の構造を有する。スキャフォールド上で細胞(内皮細胞や筋線維芽細胞)を培養すると、メッシュ構造が足場となり、その内部で細胞が成長する。このようにして、弁付き人工血管を形成することができる。
【0008】
また、非特許文献1には、スキャフォールドを用いた弁付き人工血管の作成について開示されている。スキャフォールド(高分子のスポンジ材の型)を作り、そこで細胞培養することにより、弁付き人工血管を形成することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、例えば体内に各種の基材を埋入して、その表面に膜状の結合組織体を形成する場合、体内への基材の埋入及び取り出しを不用意に繰り返すことはできないため、体内で結合組織体が十分かつ確実に形成された状態で基材を取り出す必要がある。
【0012】
しかしながら、例えば身体の外部から基材の表面を視認して結合組織体が十分に形成されていることを確認するのは容易ではなく、体内から基材を取り出す時期の判断が難しくなりやすい。
【0013】
本発明は、生体組織が形成される様子を外部から観察することのできる弁付き管腔形状組織形成用基材、管腔形状組織形成用基材、
及び膜状組織形成用基
材、さらに、それらを用いた弁付き管腔形状組織の生産方法、管腔形状組織の生産方法、
及び膜状組織の生産方
法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明に
用いる生体組織形成観察装置は、生体組織材料の存在する環境下に配して使用するものであり、前記環境下で形成される組織体を撮影する撮影手段と、この撮影手段が撮影した画像を前記環境の外部に送信する送信手段とを備えたものである。
【0015】
上記構成によれば、撮影手段で撮影した画像を送信手段で前記環境の外部に送信することができるので、例えば皮膚の下や培養環境下で組織が再生する様子や血管が新生する様子など、生体組織材料の存在する環境下において組織体が形成される過程をリアルタイムで画像観察することができる。この画像観察により、例えば組織の再生や血管の新生が十分かつ確実であるか否かを確認して、次の工程に進むか否かを的確に判断することができる。
【0016】
ここで、「生体組織材料」とは、所望の生体由来組織を形成するうえで必要な物質のことであり、例えば、線維芽細胞、平滑筋細胞、内皮細胞、幹細胞、ES細胞、iPS細胞等の動物細胞、各種たんぱく質類(コラーゲン、エラスチン)、ヒアルロン酸等の糖類、その他、細胞成長因子、サイトカイン等の生体内に存在する各種の生理活性物質が挙げられる。この「生体組織材料」には、ヒト、イヌ、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ等の哺乳類動物、鳥類、魚類、その他の動物に由来するもの、又はこれと同等の人工材料が含まれる。
【0017】
また、「生体組織材料の存在する環境下」とは、動物(ヒト、イヌ、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ等の哺乳類動物、鳥類、魚類、その他の動物)の生体内(例えば、四肢部、腰部、背部又は腹部などの皮下、もしくは腹腔内への埋入)、又は、動物の生体外において、生体組織材料を含有する人工環境内を表す。また、動物へ埋入の方法をとる場合には低侵襲な方法で行うことと、動物愛護の精神を尊重し、十分な麻酔下で最小限の切開術で行うことが好ましい。
【0018】
また、上記の生体組織形成観察装置は、環境の外部からのオン/オフ操作によって断続使用可能とするのが好適である。この構成によれば、例えば電池の寿命が連続使用で8時間程度であったとしても、断続使用することによって電池の消耗を抑えることができ、例えば組織体が形成されるのに十分な期間として、1〜2ヵ月程度の使用を可能とすることもできる。さらに、環境の外部からのオン/オフ操作としては、音波や赤外線によるオン/オフ操作など、どのようなものであってもよいが、磁気によるオン/オフ操作は、生体組織形成観察装置を皮膚の下に埋入する場合であっても、確実にオン/オフ操作することができるので好適である。
【0019】
撮影手段としては、可視光を照射する光源と、組織体が反射する可視光を受信して画像化するカメラと、を備えたものを採用することができ、また、可視光に代えて、X線や赤外線、超音波を利用して組織体を撮影したり、組織体に紫外線などの励起光を照射して蛍光観察したりすることもできる。
【0020】
また、生体組織が形成されるのを観察するだけでなく、生体組織の組織反応など、生体組織が変化するのを観察することもできる。すなわち
、生体組織の存在する環境下に配して使用する生体組織変化観察装置であって、前記生体組織を撮影する撮影手段と、該撮影手段が撮影した画像を前記環境の外部に送信する送信手段とを備えたことを特徴とする生体組織変化観察装置を提供する
こともできる。
【0021】
この生体組織変化観察装置は、上記の生体組織形成観察装置と同様、環境の外部からのオン/オフ操作によって断続使用可能とするのが好適であり、また、環境の外部からのオン/オフ操作として、磁気によるオン/オフ操作が好適である。なお、環境の外部からのオン/オフ操作は、音波や赤外線によるオン/オフ操作など、どのようなものであってもよいのは勿論である。
【0022】
また、本発明は、生体組織材料の存在する環境下におくことにより、その表面に膜状の組織体を形成し、該組織体を剥離して管腔形状組織を形成するための基材であって、柱状の基材本体と、該基材本体の周囲に形成される組織体を撮影する撮影手段と、該撮影手段が撮影した画像を前記環境の外部に送信する送信手段とを備えたことを特徴とする管腔形状組織形成用基材を提供する。
【0023】
上記構成によれば、皮膚の下や培養環境下などの生体組織材料の存在する環境下に基材を配して、その表面に膜状の組織体を形成し、この組織体を基材から剥離して管腔形状組織とすることができる。しかも、上記の生体組織形成観察装置と同様の撮影手段及び送信手段を備えるので、前記環境から基材を取り出す前に、その表面に膜状の組織体が十分かつ確実に形成されていることを確認することができ、基材を取り出す時期を的確に判断することができる。
【0024】
また、上記の管腔形状組織形成用基材は、撮影手段を基材本体に収容し、この基材本体のうちの少なくとも撮影手段を収容する部位を透視可能な素材から形成するのがよい。この構成によれば、撮影手段を収容する部位を透視可能な素材から形成するので、撮影手段を基材本体に収容して保護しつつ、基材本体の内側から基材の表面に形成される組織体を観察することができる。
【0025】
さらに、基材本体のうち、少なくとも撮影手段を収容する部位を透光性のシリコーン樹脂から形成するのがよい。この構成によれば、透光性のシリコーン樹脂を通して基材本体の内側から基材の表面に形成される組織体を観察することができ、しかも、シリコーン樹脂が弾性を有するので、その表面に形成される組織体の膜を厚くすることができ、安定した生体組織を形成することができる。なお、シリコーン樹脂に代えて、透光性のアクリル樹脂などの素材を採用してもよい。
【0026】
管腔形状組織形成用基材で形成する管腔形状組織としては、人工血管を例示することができるが、人工血管に限定されるものではなく、リンパ管、気管、胆管、腸管、尿道管、尿管、卵管等を形成するのに採用することもできる。
【0027】
また、本発明は、生体組織材料の存在する環境下におくことにより、その表面に膜状の組織体を形成し、該組織体を剥離して弁付き管腔形状組織を形成するための基材であって、基材本体と、該基材本体の周囲に形成される組織体を撮影する撮影手段と、該撮影手段が撮影した画像を前記環境の外部に送信する送信手段とを備え、前記基材本体は、血管の上流側管状部を形成する第1柱状体と、血管の下流側管状部を形成する第2柱状体と、上流側管状部と下流側管状部の間にあって血管壁が半径外方向に膨出する膨大部、及びその内部において半径方向内側に突出して血流方向に開閉可能な弁葉を形成するための複数の膨出体とを備え、前記膨出体は、その本体の外周面が膨大部形成面となり、前記膨出体本体と第1柱状体及び/又は第2柱状体との間に設けられた隙間が弁葉形成部となることを特徴とする弁付き管腔形状組織形成用基材を提供する。
【0028】
上記構成によれば、上記の管腔形状組織形成用基材と同様、皮膚の下や培養環境下などの生体組織材料の存在する環境下に基材を配して、その表面に形成された膜状の組織体を弁付き管腔形状組織とすることができ、しかも、前記環境から基材を取り出す前に、その表面に膜状の組織体が十分かつ確実に形成されていることを確認することができる。
【0029】
この弁付き管腔形状組織形成用基材は、膨出体が第1柱状体及び第2柱上体の表面から飛び出した構造であり、この膨出体の外周面が膨大部形成面となり、膨出体と第1柱状体及び/又は第2柱状体との間に設けられた隙間(弁葉形成部)で弁葉を形成することができる。弁葉形成部で1つの完成した弁葉を形成することができるので、切断作業を行わずとも弁葉を完成することができる。このように形成された弁付き管腔形状組織は、生体組織から構成される膨大部及び弁を有するものであり、大動脈洞(バルサルバ洞)、肺動脈洞、頚動脈洞、上錐体動脈洞、横静脈洞、下垂体静脈洞等の膨大部及び弁を有する血管に適用可能である。
【0030】
また、上記の管腔形状組織形成用基材と同様、撮影手段を基材本体に収容し、この基材本体のうちの少なくとも撮影手段を収容する部位を透視可能な素材から形成するのがよく、さらに、基材本体のうち、少なくとも撮影手段を収容する部位を透光性のシリコーン樹脂から形成するのがよい。
【0031】
さらに、撮影手段を、弁葉形成部を撮影可能な位置に設けるのがよい。この構成によれば、比較的に組織体が形成されにくい弁葉形成部を観察することができるので、弁葉形成部に組織体が形成されていることを確認するだけで、膨出体の外側を観察することなく、膨出体の外側にも組織体が形成されているものと判断することができる。つまり、弁葉形成部に組織体が形成されるには、組織体が成長しながら弁葉形成部に侵入する必要があるため、弁葉形成部には、生体組織材料に直に接する膨出体の外側よりも、組織体が比較的に形成されにくく、弁葉形成部に組織体が形成されていれば、膨出体の外側にも組織体が形成されているものと判断することができる。また、弁葉形成部を撮影可能な位置に撮影手段を設けるには、例えば、撮影手段を第1柱状体側の端部に設ければよい。
【0032】
なお、全方向を撮影可能なよう撮影手段を設けた構成も採用可能であるのは勿論である。さらに、弁付き管腔形状組織形成用基材で形成する弁付き管腔形状組織として、心臓弁、静脈弁等として用いる弁付き人工血管を例示できるが、これに限定されるものでないことは勿論である。
【0033】
また、本発明は、生体組織材料の存在する環境下におくことにより、その表面に膜状の組織体を形成し、該組織体を剥離して膜状組織を形成するための基材であって、板状の基材本体と、該基材本体の周囲に形成される組織体を撮影する撮影手段と、該撮影手段が撮影した画像を前記環境の外部に送信する送信手段とを備えたことを特徴とする膜状組織形成用基材を提供する。
【0034】
上記構成によれば、上記の管腔形状組織形成用基材と同様、皮膚の下や培養環境下などの生体組織材料の存在する環境下に基材を配して、その表面に形成された膜状の組織体を膜状組織とすることができ、しかも、前記環境から基材を取り出す前に、その表面に膜状の組織体が十分かつ確実に形成されていることを確認することができる。この膜状組織形成用基材で形成する膜状組織は、表層を覆うあるいは膜状で機能する平面状の組織であり、心膜、硬膜、角膜、皮膚、心膜等を例示できるが、これに限定されるものでないことは勿論である。
【0035】
また、上記の管腔形状組織形成用基材と同様、撮影手段を基材本体に収容し、この基材本体のうちの少なくとも撮影手段を収容する部位を透視可能な素材から形成するのがよく、さらに、基材本体のうち、少なくとも撮影手段を収容する部位を透光性のシリコーン樹脂から形成するのがよい。
【0036】
また
、上記の生体組織形成観察装置を生体組織材料の存在する環境下におく設置工程と、前記環境下で生体組織を形成しつつ該生体組織の形成状態を前記生体組織形成観察装置によって観察する観察工程と、前記環境下から生体組織形成観察装置を取り出す取り出し工程と、を備えたことを特徴とする生体組織の形成方法を提供する。さらに、その観察工程において、前記環境の外部から生体組織形成観察装置をオン/オフ操作して生体組織の形成状態を断続的に観察するのがよい。
【0037】
また、本発明は、上記の管腔形状組織形成用基材を生体組織材料の存在する環境下におく設置工程と、前記管腔形状組織形成用基材の周囲に膜状の組織体を形成しつつ該組織体の形成状態を前記撮影手段及び送信手段によって観察する観察工程と、前記環境下から組織体で被覆された前記管腔形状組織形成用基材を取り出す取り出し工程と、前記組織体から前記管腔形状組織形成用基材を取り出す分離工程と、を備えたことを特徴とする管腔形状組織の生産方法を提供する。なお、本発明において、移植対象者に対して、自家移植、同種移植、異種移植のいずれでもよいが、拒絶反応を避ける観点からなるべく自家移植か同種移植が好ましい。また、異種移植の場合には、拒絶反応を避けるため公知の脱細胞化処理などの免疫源除去処理を施すのが好ましい。
【0038】
また、本発明は、上記の弁付き管腔形状組織形成用基材を生体組織材料の存在する環境下におく設置工程と、前記弁付き管腔形状組織形成用基材の周囲に膜状の組織体を形成しつつ該組織体の形成状態を前記撮影手段及び送信手段によって観察する観察工程と、前記環境下から組織体で被覆された前記弁付き管腔形状組織形成用基材を取り出す取り出し工程と、前記組織体から前記弁付き管腔形状組織形成用基材を取り出す分離工程とからなり、前記分離工程は、前記第1柱状体及び第2柱状体を前記膨出体から上下に分解して、前記組織体の内腔より取り出した後、複数の前記膨出体を前記内腔から取り出すことを特徴とする弁付き管腔形状組織の生産方法を提供する。
【0039】
また、本発明は、上記の膜状組織形成用基材を生体組織材料の存在する環境下におく設置工程と、前記膜状組織形成用基材の周囲に膜状の組織体を形成しつつ該組織体の形成状態を前記撮影手段及び送信手段によって観察する観察工程と、前記環境下から組織体で被覆された前記膜状組織形成用基材を取り出す取り出し工程と、前記組織体から前記膜状組織形成用基材を取り出す分離工程と、を備えたことを特徴とする膜状組織の生産方法を提供する。
【発明の効果】
【0040】
上記のとおり、本発明によると、撮影手段で撮影した画像を送信手段で外部に送信することができるので、生体組織が形成される様子を外部から観察することができる。これにより、例えば体内に各種基材を埋入して結合組織体を形成する場合、体内への基材の埋入及び取り出しを不用意に繰り返すことなく、基材の表面に結合組織体が十分に形成されていることを外部から確認して、体内から基材を取り出す時期を的確に判断することができる。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明に係る弁付き管腔形状組織形成用基材、管腔形状組織形成用基材、膜状組織形成用基材
、弁付き管腔形状組織の生産方法、管腔形状組織の生産方法、
及び膜状組織の生産方
法を実施するための形態について、図面を用いて説明する。
【0043】
図1〜
図10に示すように、弁付き管腔形状組織形成用基材としての弁付き人工血管形成用基材1は、例えば生体内などの生体組織材料の存在する環境下におくことにより、その表面に膜状の組織体2を形成し、この組織体2を剥離して弁付き人工血管3を形成するためのものであり、基材本体4と、この基材本体4の周囲に形成される組織体2の画像を前記環境の外部に送信する生体組織形成観察装置5とを備えている。
【0044】
基材本体4は、人工血管3の血流方向上流側部分である上流側管状部6を形成する第1柱状体7と、人工血管3の血流方向下流側部分である下流側管状部8を形成する第2柱状体9と、上流側管状部6と下流側管状部8の間にあって血管壁が半径外方向に膨出する膨大部10、及びその内部において半径方向内側に突出して血流方向に開閉可能な弁葉11を形成するための複数の膨出体12と、膨出体12を第1柱状体7および第2柱状体9に着脱自在に係止する係止手段13と、第1柱状体7、第2柱状体9及び膨出体12を一体的に固定する固定手段14と、を備え、その膨出体12の膨出体本体15の外周面が膨大部形成面16とされ、膨出体本体15と第1柱状体7との間に設けられた隙間が弁葉形成部17とされる。
【0045】
生体組織形成観察装置5は、基材本体4の周囲に形成される組織体2を撮影する撮影手段18と、撮影手段18が撮影した動画や写真などの画像を前記環境の外部に送信する送信手段19とを備え、透視可能な透光性の例えばシリコーン樹脂から形成された第1柱状体7の端部に埋設される。これにより、弁葉形成部17に侵入するよう形成される組織体2を撮影及び確認することができ、さらに、より組織体2が形成されやすい膨大部形成面16に組織体2が形成されていることの判断をもすることができる。
【0046】
なお、生体組織形成観察装置5を第1柱状体7の端部に埋設するには、第1柱状体7を成形する型内に生体組織形成観察装置5を配置しておき、型内にシリコーン樹脂などを供給して第1柱状体7を成形すればよい。
【0047】
図2に示すように、生体組織形成観察装置5は、例えば周知のカプセル内視鏡として用いられているものと同じものを用いることができ、磁気による前記環境の外部からのオン/オフ操作によって断続使用可能とされる。これにより、例えば電池の寿命が8時間であったとしても、生体組織2が十分に形成されるのに要する期間として、例えば1〜2ヵ月程度の使用が可能とされる。
【0048】
この生体組織形成観察装置5は、レンズ20、LED21及び高解像度CCD22を有して組織体2を撮影するための撮影手段18と、外部から操作可能な磁気スイッチ23と、電気を供給する小型電池24と、無線送信装置25及び無線アンテナ26を有する送信手段19とを備え、これらが収納容器27に収納されている。収納容器27の前部に透明な素材からなる窓部28が設けられ、撮影手段18が、そのLED21で組織体2に例えば可視光を照射して、収納容器27の内部から組織体2を撮影することができるようになっている。撮影手段18の撮影した画像は、信号化されて送信手段19で外部に送信され、この信号を外部で受信して外部で画像観察するようになっている。なお、小型電池24を設ける代わりに、受信部で電力を受信するようにしてもよい。
【0049】
基材本体4の材料は、生体に埋入した際に大きく変形することが無い強度(硬度)を有しており、化学的安定性があり、滅菌などの負荷に耐性があり、生体を刺激する溶出物が無いまたは少ない樹脂が好ましく、例えばシリコーン樹脂、アクリル樹脂等が挙げられるがこれに限定されるものではない。なお、弾性の高いシリコーン樹脂等の弾性体を用いると、その表面に形成される組織体2の厚みが厚くなる傾向がある。したがって、基材本体4の全て、または、少なくとも組織体2と接触する第1柱状体7、第2柱状体9及び膨出体12の表面をシリコーン樹脂等の弾性体から構成するのが好ましい。
【0050】
また、基材本体4の表面粗さ(Ra)は、0.1〜50μmとされる。基材本体4の表面粗さ(Ra)が90μmのとき、その基材本体4の表面に形成される組織体2の厚みは40.9±10.5μm、基材本体4の表面粗さ(Ra)が50μmのとき、その基材本体4の表面に形成される組織体2の厚みは124.4±17.4μm、基材本体4の表面粗さ(Ra)が20μmのとき、その基材本体4の表面に形成される組織体2の厚みは157.4±39.5μmとなった。したがって、基材本体4の表面粗さ(Ra)を50μm以下とすれば、その基材本体4の表面に形成される組織体2の厚みが十分に厚いものとなり好ましい。組織体2の厚みが厚ければ、形成される人工血管3の自立性が高まり、生体内の血管との吻合操作が行いやすい。本実施形態においては、基材本体4の表面粗さ(Ra)を20μmとした。
【0051】
第1柱状体7は、シリコーン樹脂製、第2柱状体9は、アクリル樹脂製の円柱状に形成され、それぞれ外径20mm、全長約30mmとされる。また、第1柱状体7の下流側の端面中心部には、直径10mm程度の貫通軸29が形成され、第2柱状体9の中心部分に形成された直径10mm程度の貫通孔30を貫通するようになっている。
【0052】
第1柱状体7及び第2柱状体9は、半径外方向に突出する部材がなく、その外周面が弁付き人工血管3の管状部の内腔面を形成する。第2柱状体9の表面には軸方向に延びる浅い細溝31が複数形成されている。細溝31により組織体2を引き抜くときに空気が入るため、抜きやすくなる。なお、第1柱状体7及び第2柱状体9の外径により血管3の太さが決定されるため、目的の太さによってその直径を変更可能である。
【0053】
第1柱状体7の貫通軸29の基端部には、膨出体12を係止するための係止リング32が外嵌され、この係止リング32及び第2柱状体9のそれぞれの合わせ面側の端面に、軸方向に凹んだ凹部33a、33bが複数形成される。凹部33a、33bは、弁葉11の数に合わせて本実施形態においては3つずつ形成され、第1柱状体7及び第2柱状体9の間で対応する位置に形成される。また、凹部33a、33bは、半径内方向側が幅広に形成された係止溝34を有する。
【0054】
膨出体12は、アクリル樹脂製であり、
図5〜
図10に示すように、膨出体本体15と、膨出体本体15から半径方向内側に張り出した係止部35とから構成される。膨出体12は、弁葉11の数に合わせて本実施形態においては3つ設けられる。係止部35は、膨出体本体15よりも半径内側方向に飛び出すようにして張り出しており、これが係止リング32の凹部33aと第2柱状体9の凹部33bとを重ね合わせた部分に係止されることにより、膨出体本体15が第1柱状体7、係止リング32及び第2柱状体9の表面から飛び出した状態となる。
【0055】
係止部35は、
図11に示すように、係止リング32の凹部33aと第2柱状体9の凹部33bとを重ね合わせた部分の形状と相補的な形状に形成される。したがって、膨出体12が第1柱状体7、係止リング32及び第2柱状体9に対して周方向及び軸方向に位置ずれするのを規制する。また、係止部35は、その半径内側の先端がフランジ状に拡大した幅広部36を備えており、この幅広部36が凹部33a、33bの係止溝34に嵌まることにより、膨出体12が第1柱状体7及び第2柱状体9に対して半径方向に位置ずれするのを規制する。
【0056】
膨出体本体15は、
図4に示すように、第1柱状体7及び第2柱状体9の側方へ膨出するような湾曲面を有しており、この湾曲した外周面が膨大部10の内腔面を形作る膨大部形成面16となる。膨出体本体15は、
図5及び
図6に示すように、その上流側縁がU字状に湾曲して形成される。3つの膨出体本体15は、
図4に示すように、周方向にわたって連続するように設けられる。また、膨出体本体15は、係止部35の下縁(上流側縁)よりも上側(血流方向下流側)の部位15aが係止リング32及び第2柱状体9と密着可能とされる。この構造によって、係止リング32と第2柱状体9との間の隙間を覆い隠すことができ、隙間への組織体2の余分な侵入を防止できる。なお、
図26に示すように、膨出体本体15で第1柱状体7と係止リング32と第2柱状体9との境界を周方向にわたって覆うようにしてもよい。この構造によると、第1柱状体7、係止リング32及び第2柱状体9の隙間を全て覆い隠すことができる。
【0057】
また、
図3、
図6、
図10及び
図12に示すように、膨出体本体15の上側の部位15aは係止リング32及び第2柱状体9と密着しているが、その下部(上流側)が薄肉となるように段落ちしており、この段落ち部分37と第1柱状体7との間に設けられた隙間が弁葉形成部17となる。
図13(a)、(b)に示すように、この弁葉形成部17に形成された組織体2は半径外内方向へ往復動することにより、弁葉11として機能することができる。
【0058】
また、
図6に示すように、段落ち部分37の下流側縁37aは、弁葉11の下流側縁(先端形状)を形作る。その段落ち部分37の下流側縁37aは弁葉下流側へ向かって尖った形状に形成されているため、弁葉11の先端も尖った角形状となる。弁葉形成部17の半径方向の厚みは、0.3〜1.0mm、より好ましくは0.3〜0.8mmとするのが好ましい。
【0059】
弁葉11は、膨出体本体15の下縁(上流側縁)と第1柱状体7との隙間から侵入する組織体2によって形成されるが、厚みのある弁葉11をより短期間に形成するために、
図19に示すように、膨出体本体15に半径方向に貫通した侵入孔38を形成してもよい。侵入孔38によって、膨出体本体15の半径方向外側面と弁葉形成部17とを連通させることができるので、組織体2を弁葉形成部17の側に侵入させやすくなる。侵入孔38の数は単数でもよいが、複数形成した方が組織体2を弁葉形成部17へ侵入させやすいので好ましい。なお、侵入孔38を設けた場合は、基材本体4の表面に形成された組織体2から膨出体12を抜き出す際には、侵入孔38の少なくとも片側で組織体2を切断する必要がある。また、侵入孔38の口径は0.5〜1.0mmとすることが望ましい。0.5mmよりも小さいと細胞の侵入が困難となり、1.0mmよりも大きいと組織体2を切断するのが困難になるためである。
【0060】
また、弁葉形成部17(すなわち、膨出体本体15の内面と、これに対応する第1柱状体7の表面の形状)は円弧状に形成され、半径外内方向へ往復動させやすい弁葉11を形成するようになっている。
【0061】
係止手段13は、上記係止リング32及び第2柱状体9の軸方向端面に形成されて軸方向に凹んだ凹部33a、33bと、上記膨出体12の係止部35とから構成され、
図11に示すように、係止部35を係止リング32の凹部33aと第2柱状体9の凹部33bとを重ね合わせた部分に収納しながら、係止リング32及び第2柱状体9で軸方向上下から挟みこんで係止することにより、膨出体12を第1柱状体7、係止リング32及び第2柱状体9に着脱自在に係止する。なお、係止手段13の構成は、膨出体12が第1柱状体7及び第2柱状体9に対して半径方向、周方向及び軸方向のいずれの方向にも位置ずれするのを規制する構造であれば、上記形態に限定されるものではない。
【0062】
固定手段14は、第1柱状体7の上記の貫通軸29と、第2柱状体9の上記の貫通孔30と、貫通孔30を貫通する貫通軸29の先端に螺合されて膨出体12の係止部35、第1柱状体7、係止リング32及び第2柱状体9を一体的に固定するナット39と、を備えている。このように、固定手段14にて、第1柱状体7、係止リング32、第2柱状体9及び膨出体12を完全に固定することにより、それぞれの合わせ面や、貫通孔30内に組織体2が形成されないですむ。
【0063】
次に、上記のような弁付き人工血管形成用基材1を用いて弁付き人工血管3を生産する方法について説明する。この生産方法は、弁付き人工血管形成用基材1を生体組織材料の存在する環境下におく「設置工程」と、弁付き人工血管形成用基材1の周囲に膜状の組織体2を形成しつつ組織体2の形成状態を生体組織形成観察装置5の撮影手段18及び送信手段19によって観察する「観察工程」と、前記環境下から組織体2で被覆された弁付き人工血管形成用基材1を取り出す「取り出し工程」と、組織体2から弁付き人工血管形成用基材1を取り出す「分離工程」とからなる。
【0064】
<設置工程>
まず、弁付き人工血管形成用基材1を生体組織材料の存在する環境下へ置く。生体組織材料の存在する環境下とは、動物の生体内(例えば、皮下や腹腔内への埋入)、又は、動物の生体外において生体組織材料が浮遊する溶液中等の人工環境内が挙げられる。生体組織材料としては、ヒト、イヌ、ウシ、ブタ、ヤギ、ウサギ、ヒツジなどの他の哺乳類動物由来のものや、鳥類、魚類、その他の動物由来のもの、又は人工材料を用いることもできる。
【0065】
弁付き人工血管形成用基材1を動物に埋入する場合には、十分な麻酔下で最小限の切開術で行い、埋入後は傷口を縫合する。弁付き人工血管形成用基材1の埋入部位としては例えば、結合組織形成用基材1を受け入れる容積を有する腹腔内、あるいは四肢部、賢部又は背部、腹部などの皮下が好ましい。また、埋入には低侵襲な方法で行うことと動物愛護の精神を尊重し、十分な麻酔下で最小限の切開術で行うことが好ましい。
【0066】
また、弁付き人工血管形成用基材1を生体組織材料の存在する環境下へ置く場合には、種々の培養条件を整えてクリーンな環境下で公知の方法に従って細胞培養を行えばよい。
【0067】
<観察工程>
設置工程の後、弁付き人工血管形成用基材1の周囲に膜状の組織体2が形成される過程をリアルタイムで観察して、「取り出し工程」に移行するか否かを判断する観察工程を行う。この観察工程においては、組織体2が形成されるまでの長時間の観察を可能とするよう、前記環境の外部から生体組織形成観察装置5を磁気によってオン/オフ操作して生体組織2の形成状態を断続的に観察する。
【0068】
図17に示すように、生体組織形成観察装置5が撮影した画像は、第1柱状体7の内部から、その透視可能な素材を通して見た膨出体12の内面側(弁葉形成部17)を示している。
【0069】
図18(a)に示すように、弁付き人工血管形成用基材1を設置した当初は弁葉形成部17に空洞が存在している。その後、
図18(a)〜(j)に示すように、弁葉形成部17の空洞に組織体2が徐々に侵入していき、やがて、
図18(j)に示すように、弁葉形成部17に弁葉11が形成される。さらに、弁葉形成部17に組織体2が十分に侵入して弁葉11が形成された状態では、組織体2の形成されやすい膨大部形成面16にも組織体2が形成されている。
【0070】
<取り出し工程>
所定時間の観察工程を経て、組織体2が十分に形成されているのを確認した後、弁付き人工血管形成用基材1を生体組織材料の存在する環境下から取り出す取り出し工程を行う。生体組織材料の存在する環境下から取り出された弁付き人工血管形成用基材1は、全体を生体組織による膜に覆われている。組織体2は、繊維芽細胞とコラーゲンなどの細胞外マトリックスで構成され、組織体2は弁付き人工血管形成用基材1の外周表面に癒着しているが、人工血管形成用基材1の内側には侵入していない。
【0071】
<分離工程>
分離工程においては、一端側の生体組織を取り除き、貫通軸29の先端からナット39を外す。そして、他端側の生体組織を取り除いた後、貫通孔30から貫通軸29を抜き出すようにして、第1柱状体7及び係止リング32と、第2柱状体9とを膨出体12から軸方向上下に分解して、それぞれを組織体2の内腔の上下端から抜き出す。
【0072】
次に、3つの膨出体12を抜き出す。膨出体12は、弁葉形成部17と膨大部10との間のポケットに収納されている状態となっている。この膨出体12を下流側へ抜き出すことにより、生体組織から構成される弁付き人工血管3を生産することができる。剥離された組織体2の内面は、基材本体4の表面に接しているので平滑になる。
【0073】
弁付き人工血管3は、
図14〜
図16に示すように、膨出体12の外周面の膨大部形成面16によって、半径外方向に向かってこぶ状に膨出した膨大部10が形成される。そして、膨大部10の内部において上流側部分に、ポケット状の構造が形成されることにより、そのポケット片が弁葉11となる。なお、
図16において、2点鎖線は弁葉が閉じた状態を示す仮想線である。
【0074】
3枚の弁葉11が膨らんでその下流側(開放側)の端部が互いに近づいた状態が弁の閉じた状態であり(
図16の仮想線部分)、3枚の弁葉11がしぼんでその下流側の端部が互いに離れていき、膨大部10の壁面に近づいた状態が弁の全開した状態(
図16の実線部分)となる。
【0075】
また、弁葉11の厚みが0.3〜1.0mmである。生体における弁葉11の厚みは約0.2mmであるので、通常であれば弁葉形成部17の厚みは生体と同じ0.2mmとすればよいのであるが、厚み0.2mmの弁葉11を有する弁付き人工血管3を体内へ移植すると、安定するまでの間、血流によって0.2mmよりも薄くなって破けてしまい、弁としての機能を損なってしまう。そこで、弁葉形成部17の厚みを0.3〜1.0mmとすることにより、移植後に弁葉11が薄くなっても最終的に約0.2mmで落ち着くので、弁の働きを持続させることができる。
【0076】
また、第1柱状体7を例えばシリコーン樹脂製とする場合、その周りに形成される組織体2、特に弁葉11が厚く形成される。また、基材本体4の表面粗さ(Ra)が50μm以下とされているので、基材本体4の表面に形成される組織体2が厚く形成される。したがって、組織体2は自立して管形状を維持することができることから、弁付き人工血管3として生体と縫合する時に吻合部位が開口した状態で、吻合操作を行いやすい。
【0077】
以上の説明のとおり、人工血管形成用基材1と組織体2との分離は、第1柱状体7及び係止リング32と、第2柱状体9とを膨出体12から上下に分解して、組織体2の内腔より取り出した後、複数の膨出体12を内腔から取り出すことにより、簡単に行うことができる。分解して取り出すことができるので、組織体2を傷つけないですむ。また、形成された弁付き人工血管3は、弁葉形成部17で1つの完成した弁葉11を形成することができるので、切断作業を行わずとも弁葉11を完成することができる。
【0078】
生産された人工血管形成用基材1を異種移植する場合には、移植後の拒絶反応を防ぐため、脱細胞処理、脱水処理、固定処理などの免疫源除去処理を施すのが好ましい。脱細胞処理としては、超音波処理や界面活性剤処理、コラゲナーゼなどの酵素処理によって細胞外マトリックスを溶出させて洗浄する等の方法があり、脱水処理の方法としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の水溶性有機溶媒で洗浄する方法があり、固定処理する方法としては、グルタアルデヒドやホルムアルデヒドなどのアルデヒド化合物で処理する方法がある。
【0079】
なお、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内において、適宜変更を加えることができる。例えば、第1柱状体7の貫通軸29の先端にナット39を螺合する代わりに、
図20に示すように、第1柱状体7の貫通軸29を第2柱状体9の貫通孔30に螺合するようにしてもよい。また、
図21に示すように、第2柱状体9に形成した貫通軸40を第1柱状体7の嵌合凹部41に螺合するようにしてもよい。
【0080】
また、
図22に示すように、第1柱状体7及び第2柱状体9のうちの一方に磁性体42を設け、第1柱状体及び第2柱状体のうちの他方に被磁性体43を設けるようにしてもよい。磁性体42と被磁性体43とが吸着することにより、第1柱状体7、第2柱状体9及び膨出体12を一体的に固定することができる。このとき、磁性体42及び被磁性体43をそれぞれ第1柱状体7及び第2柱状体9の端面に設けてもよいが、磁性体42を第1柱状体7(又は第2柱状体9)から突出する突部44の先端に設け、被磁性体43を第2柱状体9(又は第1柱状体7)に形成した嵌合凹部45の底に設ければ、第1柱状体7の突部44を第2柱状体9の嵌合凹部45に挿入することにより、その固定をより強固なものとすることができる。
【0081】
さらにまた、
図23に示すように、第1柱状体7(又は第2柱状体9)に配置された先端が折曲した係合爪46と、第2柱状体9(第1柱状体7)に形成された係合穴47とを設けるようにしてもよい。係合穴47は止め構造48を有しており、第1柱状体7の係合爪46を第2柱状体9の係合穴47に挿入した後、第1柱状体7を軸周りに回転させることにより、係合爪46の先端の折曲部分が係合穴47の止め構造48に引掛かけ、第1柱状体7を第2柱状体9に係脱自在に係合させることができる。
【0082】
また、
図23に示すように、第2柱状体9の内部に設けられた薬剤収容用の空洞部49と、空洞部49の開口を開閉自在とする蓋50と、空洞部49から半径外方向に延び各柱状体7、9の外面へ開口する浸出路51とを設ける構成としてもよい。空洞部49の開口から薬剤を入れた後、蓋50を閉めた状態で弁付き人工血管形成用基材1を生体組織材料が存在する環境下へ置くと、空洞部49内の薬剤を浸出路51を通して基材本体4の外部へ浸み出させることができる。浸出路51の口径は0.5mm以下とすることが望ましい。0.5mm以下とすると、浸出路51へ細胞が侵入しにくい。
【0083】
薬剤の種類としては、組織体2の形成を促進させるもの、たとえば、内皮細胞増殖促進剤(血管新生因子HFG、VEGF、bFGFなど)が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0084】
また、
図24に示すように、第1柱状体7及び第2柱状体9に互いに噛み合う回り止め52a、52bを形成するようにしてもよい。また、上記実施形態では、凹部33a、33bを係止リング32及び第2柱状体9に設けたが、いずれか一方に設けてもよく、係止リング32を設けることなく、第1柱状体7に凹部33aを設けるようにしてもよい。
【0085】
また、
図25に示すように、1又は複数の膨出体本体15の外面に接続される第3の柱状体53を設けてもよい。第3の柱状体53は、膨出体本体15の外面に着脱可能に設けられるのがよい。例えば膨出体本体15に形成した孔に雌ネジを切り、第3の柱状体53の先端に雄ネジを形成することにより、ネジ止めによって着脱可能に設ければよい。第3の柱状体53を膨出体本体15の外面に設けることにより、第3の柱状体53の外周面が膨大部10から分岐する血管内腔の形成面となる。
【0086】
また、
図26に示すように、貫通軸29の先端にナット39を螺合する代わりに、貫通軸29の先端に形成した挿入孔にロックピン54を挿入して、膨出体12の係止部35、第1柱状体7、係止リング32及び第2柱状体9を一体的に固定するようにしてもよい。また、基材本体4の表面に凹凸や外郭部材を設けて、生体由来組織の機械的強度をさらに向上させてもよい。
【0087】
また、組織体を撮影する撮影手段と、撮影手段が撮影した画像を外部に送信する送信手段とを有する生体組織形成観察装置を備えていれば、弁付き人工血管形成用基材1に限らず、膨大部及び弁のない人工血管を形成するための人工血管形成用基材や、膜状組織を形成するための膜状組織形成用基材も採用可能である。膜状組織は、表層を覆うあるいは膜状で機能する平面状の組織であり、この膜状組織を形成するには、管腔形状組織を形成するための柱状の基材に代えて、板状の基材を採用すればよい。
【0088】
さらに、人工血管を形成することなく、単に、体内や培養環境下で組織が再生又は変化する過程をリアルタイムで観察して確認するための生体組織形成観察装置又は生体組織変化観察装置として用いることもでき、血管を含む管状組織や、膜状組織等の結合組織を形成するための基材に適用することもできる。形成された生体由来組織は、管状組織、膜状組織及び弁状組織を含む結合組織となる。管状組織としては、血管、リンパ管、気管、胆管、腸管、尿道管、尿管、卵管等が挙げられる。膜状組織としては、心膜、硬膜、角膜、皮膚、心膜等が挙げられ、表層を覆うあるいは膜状で機能する平面状の組織である。弁状組織としては、心臓弁、静脈弁等が挙げられる。
【0089】
また、撮影手段18は、LED21で可視光を照射して高解像度CCD22で組織体2を撮影するものに限らず、X線や赤外線を利用して組織体を撮影するものであってもよく、この場合、可視光LED21に代えて、X線源又は赤外LEDを設けると共に、これらの光に対応するカメラを設ければよい。また、可視光LED21の代わりに紫外線LEDやパルス光源を設けて組織体2に励起光を照射し、組織体2を蛍光観察するようにしてもよい。また、超音波を発信及び受信することにより、超音波画像として組織体2を観察するようにしてもよく、超音波を利用して観察することにより、組織体2の厚さや密度をも把握することができるので好適である。