特許第5706612号(P5706612)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5706612加齢黄斑変性症易罹患性の判定マーカー並びに判定方法及び判定キット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5706612
(24)【登録日】2015年3月6日
(45)【発行日】2015年4月22日
(54)【発明の名称】加齢黄斑変性症易罹患性の判定マーカー並びに判定方法及び判定キット
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20150402BHJP
   C12Q 1/68 20060101ALI20150402BHJP
【FI】
   C12N15/00 AZNA
   C12Q1/68 A
【請求項の数】15
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2009-298772(P2009-298772)
(22)【出願日】2009年12月28日
(65)【公開番号】特開2011-135838(P2011-135838A)
(43)【公開日】2011年7月14日
【審査請求日】2012年11月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】504013775
【氏名又は名称】学校法人 埼玉医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(74)【代理人】
【識別番号】100136858
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 浩
(72)【発明者】
【氏名】井上 聡
(72)【発明者】
【氏名】井上 公仁子
(72)【発明者】
【氏名】森 圭介
(72)【発明者】
【氏名】米谷 新
【審査官】 田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−544280(JP,A)
【文献】 MALLER J.et al.,Common variation in three genes, including a noncoding variant in CFH, strongly influences risk of age-related macular degeneration,Nat.Genet.,2006年,Vol.38,No.9,p.1055-1059
【文献】 Invest. Ophthalmol. Vis. Sci., 2007, Vol. 48, No. 11, pp. 5315-5319
【文献】 Nat. Genet., 2009.08.30, Vol. 41, No. 10, pp. 1061-1067
【文献】 Nat. Genet., 2007, Vol. 39, No. 7, Supplement, pp. S48-S54
【文献】 石川俊平他,ゲノム医学と医療応用の最前線 12.コピ-数多型(CNV)と疾患解析,実験医学,2009年 8月 1日,Vol.27,No.12,p.1909-1916
【文献】 Hum. Mutat., 2008, Vol. 29, No. 1, pp. 182-189
【文献】 眼科, 2009.11.05, Vol. 51, No. 12, pp. 1647-1652
【文献】 Mol. Vis., 2011, Vol. 17, pp. 2080-2092
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C12Q 1/68
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Thomson Innovation
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記配列番号:1で表される塩基配列を有し、加齢黄斑変性症の罹患の難易を検出するマーカーとして用いられることを特徴とする加齢黄斑変性症易罹患性判定用マーカー。
TGTCTCAGTGTATTGTTCTGTTGCTGTGCAGCAGGCATACAAATCTGACAATCTCGTAACTATTTGTGGCAAGC (配列番号:1)
【請求項2】
日本人の加齢黄斑変性症の罹患の難易を検出するマーカーとして用いられる請求項1に記載の加齢黄斑変性症易罹患性判定用マーカー。
【請求項3】
下記配列番号:1で表される塩基配列の一部及び全部のいずれかに相補的な蛍光標識を有するプローブを、被験体由来のDNA含有試料中の下記配列番号:1で表される塩基配列にハイブリダイズさせ、前記蛍光標識により前記試料中のCFH遺伝子の発現を測定する測定工程と、
前記測定工程で測定された蛍光強度から前記CFH遺伝子のDNAコピー数を決定するDNAコピー数決定工程と、
前記DNAコピー数決定工程で決定されたDNAコピー数から加齢黄斑変性症の罹患の難易の判定を補助する易罹患性判定補助工程と、
を少なくとも含むことを特徴とする加齢黄斑変性症の易罹患性の判定を補助する方法。
TGTCTCAGTGTATTGTTCTGTTGCTGTGCAGCAGGCATACAAATCTGACAATCTCGTAACTATTTGTGGCAAGC (配列番号:1)
【請求項4】
易罹患性判定補助工程が、決定されたDNAコピー数を組み合わせて判定を補助する工程であり、前記DNAコピー数の組合せが、(A)0コピー及び1コピーと、(B)2コピー及び3コピーとの組合せ、並びに、(C)0コピー〜2コピーと、(D)3コピーとの組合せのいずれかであり、前記組合せにおいて、前記(B)及び前記(D)のいずれかである場合に加齢黄斑変性症に易罹患性であるとする工程である請求項3に記載の加齢黄斑変性症の易罹患性の判定を補助する方法。
【請求項5】
測定工程が、被験体由来のDNA含有試料中の配列番号:1で表される塩基配列を鋳型とした定量PCRによりCFH遺伝子の発現を測定する工程である請求項3から4のいずれかに記載の加齢黄斑変性症の易罹患性の判定を補助する方法。
【請求項6】
下記配列番号:2及び下記配列番号:3で表される塩基配列を有するプライマーを用いて定量PCRを行う請求項5に記載の加齢黄斑変性症の易罹患性の判定を補助する方法。
TGTCTCAGTGTATTGTTCTGTTGCT (配列番号:2)
GCTTGCCACAAATAGTTACGAGATT (配列番号:3)
【請求項7】
定量PCRがハウスキーピング遺伝子を内部標準として定量され、
DNAコピー数決定工程が、CFH遺伝子に対応する蛍光強度と、前記ハウスキーピング遺伝子に対応する蛍光強度とを比較することにより前記CFH遺伝子のDNAコピー数を決定する工程である請求項5から6のいずれかに記載の加齢黄斑変性症の易罹患性の判定を補助する方法。
【請求項8】
定量PCRが、TaqMan法により行なわれる請求項5から7のいずれかに記載の加齢黄斑変性症の易罹患性の判定を補助する方法。
【請求項9】
DNAコピー数決定工程が、測定工程で測定された蛍光強度が飽和に達するより前の時点におけるCFH遺伝子に対応する蛍光強度から前記CFH遺伝子のDNAコピー数を決定する工程である請求項3から8のいずれかに記載の加齢黄斑変性症の易罹患性の判定を補助する方法。
【請求項10】
易罹患性判定補助工程において、一塩基多型を更に組み合わせて加齢黄斑変性症の罹患の難易の判定を補助する請求項3から9のいずれかに記載の加齢黄斑変性症の易罹患性の判定を補助する方法。
【請求項11】
一塩基多型が、rs800292(I62V)、rs1061170(Y402H)、及びrs1410996の少なくともいずれかである請求項10に記載の加齢黄斑変性症の易罹患性の判定を補助する方法。
【請求項12】
易罹患性判定補助工程が、日本人の加齢黄斑変性症の罹患の難易の判定を補助する工程である請求項3から11のいずれかに記載の加齢黄斑変性症の易罹患性の判定を補助する方法。
【請求項13】
請求項1に記載の加齢黄斑変性症易罹患性判定用マーカーを少なくとも含み、加齢黄斑変性症の罹患の難易を判定することを特徴とする加齢黄斑変性症易罹患性判定用キット。
【請求項14】
下記配列番号:2及び下記配列番号:3で表される塩基配列を有するプライマーと、下記配列番号:4で表される塩基配列を有するプローブとを少なくとも含み、加齢黄斑変性症の罹患の難易を判定することを特徴とする加齢黄斑変性症易罹患性判定用キット。
TGTCTCAGTGTATTGTTCTGTTGCT (配列番号:2)
GCTTGCCACAAATAGTTACGAGATT (配列番号:3)
GTGCAGCAGGCATACAAATCTG (配列番号:4)
【請求項15】
日本人の加齢黄斑変性症の罹患の難易を判定する請求項13から14のいずれかに記載の加齢黄斑変性症易罹患性判定用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加齢黄斑変性症易罹患性判定マーカー並びに該加齢黄斑変性症易罹患性判定マーカーを用いた加齢黄斑変性症易罹患性判定方法及び加齢黄斑変性症易罹患性判定キットに関する。
【背景技術】
【0002】
加齢黄斑変性症(Age−related Macular Degeneration:AMD)は、高齢者の眼底において、網膜中心部の黄斑部に組織の変性や血管新生が起こり、視機能障害に至る加齢性眼科疾患であり、我が国を含む先進国において増加傾向にある疾患である。現在、50歳以上の人口の約0.9%が罹患していると考えられ、数百万人単位の高齢者のQOL(Quality of Life)が著しく損なわれる疾患として注目されている。
しかし、加齢黄斑変性症に対する治療としては、視力低下発症後のものが主体であるため、病期進行してからの治療については効果が限られているのが現状である。
【0003】
加齢黄斑変性症の発症リスク因子としては、近年、補体系の抑制因子である補体H因子(CFH)(非特許文献1〜3参照)及びセリンプロテアーゼ遺伝子HTRA1近傍(非特許文献4〜5参照)の遺伝子多型が同定され、加齢黄斑変性症が遺伝的背景により強く影響を受ける可能性が示唆されている。
しかし、これらの遺伝子多型が加齢黄斑変性症発症に関与するメカニズムの詳細については不明な点が多く、加齢黄斑変性症の診断及び治療の分子標的として必要充分であるか否かについては明らかではない。
【0004】
特許文献1には、CFHをコードする遺伝子の多型部位における変異の存在又は非存在を、一塩基多型(SNP)を用いて測定する加齢黄斑変性症を発症する被験体の性向を決定するための診断方法が開示されている。
しかし、この方法を用いても加齢黄斑変性症疾患易罹患性の判定の確立及び精度が十分ではない点で問題であった。
【0005】
加齢黄斑変性症の発症は、前記遺伝的な要因だけでなく、喫煙や食生活等の疾患関連性が指摘されていることから、多数の遺伝子が関連する遺伝的要因と、環境要因との両者が関与する多因子疾患であると考えられる。
一般的に、多因子疾患においては、一遺伝子の変異や異常からその罹患リスクを判断することは困難であるため、前記SNPによる判定では不十分であるが、複数の罹患リスクマーカーの組み合わせにより、罹患性の難易をより正確に予測できる可能性が高くなる。
【0006】
近年、染色体DNAの重複や、欠失よりは短いゲノム領域(数10キロ塩基対以上)におけるDNAコピー数多型(copy number variation:CNV)が、SNPとは異なる新しいゲノム解析のマーカーとして注目を集めており、DNAコピー数多型の疾患関連性について解析が行われつつある。
【0007】
従来の遺伝学的解析では、SNPに代表される個人間の遺伝子の“配列の違い”について、よく検討されてきた。これに対して、DNAコピー数多型は、リファレンスとなるゲノムDNAと比較して、1キロ塩基対(kbp)から長いものでは数メガ塩基対(Mbp)に及ぶ長さの大きなゲノム領域において、DNAコピー数が変動する遺伝子の“数の違い”を意味する。
近年、DNAコピー数多型は、ヒトゲノム全体の12%以上(約360Mbp)という、従来考えられていたよりもはるかに広い領域にDNAコピー数多型が見られ、これまで知られていたSNPに加えて新たな個人間のゲノムの多様性を生み出している可能性が示された(非特許文献6参照)。これらのDNAコピー数多型には、様々な疾患、薬剤感受性に関連するものを含め約3,000個の遺伝子が含まれており、いわゆる染色体異常をともなう先天性疾患だけではなく、生活習慣病、自己免疫疾患といったcommon disease(ありふれた病気)を含むヒト形質の個人差に広く寄与している可能性が示された。DNAコピー数多型のデータは、現在、インターネット上の公共データベース(DataBase of Genomic Variants, http://projects.tcag.ca/variation/)に公開されている。
【0008】
SNPのジェノタイピングを検討する場合も、DNAコピー数多型を含むゲノム領域にそのSNPが存在する場合には、以下の問題により、コピー数多型解析が必要になる。
一般的に、SNPのジェノタイピングをTaqMan PCR法、あるいはインベーダ法などの方法で解析した場合、各反応がプラトーに達した後のエンドポイントにおいて、各アレルに対応する蛍光強度の比を求めると、各アレルについてのホモ接合体(アレル比 1:0若しくは0:1)及びヘテロ接合体(アレル比 1:1)の3つの群に対応する数値(グラフ上にプロットした場合は3つのクラスター)に集約される。これに対して、各反応がプラトーに達する前のある時点にてSNPのジェノタイピングを行うと、DNAコピー数多型を含まない領域におけるSNPのジェノタイピングにおいては、各アレルに対応する蛍光強度の比が3つのクラスターに分けられるが、DNAコピー数多型を含む領域におけるSNPのジェノタイピングにおいては、3つのクラスターに分けられない場合が存在しうる(非特許文献7参照)。
即ち、遺伝子の重複が起こっている被験体、特に重複の結果、「アレル非対称性」が生じている被験体では、上記3つのいずれとも異なる蛍光強度比をとり、3つのクラスターのいずれとも異なる位置にプロットされるものが検出されうる。「アレル非対称性」が起こっている被験体では、両アレルのコピー数比が1:1以外(例えば、2:1、1:2など)のヘテロ接合体である可能性を推測することができる。しかし、SNPのジェノタイピング解析のみでは、総コピー数は不明であり、両アレルの詳細な数を求めることができないため、コピー数多型の定量的解析が必要となる。
【0009】
したがって、SNPがコピー数多型のあるゲノム領域に含まれている場合には、従来、ヘテロ接合体と考えられていた被験体の中に、例えば、罹患リスクアレル:非リスクアレルが2:1のものと、罹患リスクアレル:非リスクアレルが1:2のものが存在しうることになり、罹患リスクのコピー数が実は異なっている可能性が推測される。また、SNPのジェノタイピング解析のみでは、「アレル対称性」の遺伝子重複(例えば、2コピー:2コピー)と、遺伝子重複のないヘテロ接合体(1コピー:1コピー)とを判別できず、遺伝子重複のあるホモ接合体(3コピー:0コピー)と遺伝子重複のないホモ接合体とホモ接合体と欠失(1コピー:0コピー)を判別できないなどの問題があり、コピー数多型の定量的解析から総コピー数を求めることが必要である。
【0010】
前記CFH遺伝子及びその関連遺伝子であるCFHR1−CFHR5は、進化の過程で遺伝子が重複して染色体1番の1q31.3領域で300kb程にわたるRCA(the Regulation of Complement Activation)locus(遺伝子群)を形成していることが知られている(非特許文献2参照)おり、CFH遺伝子の3’領域にDNAコピー数多型が存在することが知られているものの(非特許文献8及びDataBase of Genomic Variants参照)、これらのDNAコピー数多型と、加齢黄斑変性症罹患性との相関性については、国内外ともに未だ解析が進んでいない。
【0011】
したがって、著しい視力低下をきたす加齢黄斑変性症の発症及び進行を高い確率で予測可能であり、加齢黄斑変性症の早期予防や、既に発症した患者に対する最適な薬剤治療法の選択に好適に利用可能な加齢黄斑変性症易罹患性判定用マーカー、並びに、加齢黄斑変性症の罹患の難易を簡便に判定可能な加齢黄斑変性症易罹患性判定方法及び加齢黄斑変性症易罹患性判定キットの提供が強く望まれているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特表2008−529536号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Klein RJ et al., Science, 2005, 308(5720), 385−389
【非特許文献2】Edwards AO et al., Science, 2005, 308(5720), 421−424
【非特許文献3】Haines JL et al., Science, 2005, 308(5720), 419−421
【非特許文献4】Yang Z et al., Science, 2006, 314(5801), 992−993
【非特許文献5】Dewan A et al., Science, 2006, 314(5801), 989−92
【非特許文献6】Redon R et al., Nature,2006, 444(7118), 444−454
【非特許文献7】Hosono N et al., Hum Mutat, 2008, 29(1), 182−189
【非特許文献8】Alkan C et al., Nat Genetics, 2009, 41(10), 1061−1067
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、著しい視力低下をきたす加齢黄斑変性症の発症及び進行を、高い精度及び確率で予測可能であり、加齢黄斑変性症の早期予防や、既に発症した患者に対する最適な薬剤治療法の選択に好適に利用可能な加齢黄斑変性症易罹患性判定用マーカー、並びに、加齢黄斑変性症の罹患性の難易を簡便に判定可能な加齢黄斑変性症易罹患性判定方法及び加齢黄斑変性症易罹患性判定キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、以下のような知見を得た。即ち、配列番号:1で表される塩基配列で特定されるCFH遺伝子をマーカーとして、前記マーカーのDNAコピー数多型を定量PCRを用いて決定することで、前記DNAコピー数多型から高い確率及び精度で加齢黄斑変性症の罹患の難易を判定可能であること、また、前記DNAコピー数多型と併せてCFH遺伝子のアミノ酸変異を伴う一塩基多型との組合せにより更に高い精度及び確立で判定可能であることを知見し、本発明の完成に至った。
【0016】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 下記配列番号:1で表される塩基配列を有し、加齢黄斑変性症の罹患の難易を検出するマーカーとして用いられることを特徴とする加齢黄斑変性症易罹患性判定用マーカーである。
TGTCTCAGTGTATTGTTCTGTTGCTGTGCAGCAGGCATACAAATCTGACAATCTCGTAACTATTTGTGGCAAGC (配列番号:1)
<2> 被験体由来のDNA含有試料中の下記配列番号:1で表される塩基配列で特定されるCFH遺伝子の一部及び全部のいずれかに相補的な蛍光標識を有するプローブを、下記配列番号:1で表される塩基配列にハイブリダイズさせ、前記蛍光標識により前記CFH遺伝子の発現を測定する測定工程と、前記測定工程で測定された蛍光強度から前記CFH遺伝子のDNAコピー数を決定するDNAコピー数決定工程と、前記DNAコピー数決定工程で決定されたDNAコピー数から加齢黄斑変性症の罹患の難易を判定する易罹患性判定工程と、を少なくとも含むことを特徴とする加齢黄斑変性症易罹患性判定方法である。
TGTCTCAGTGTATTGTTCTGTTGCTGTGCAGCAGGCATACAAATCTGACAATCTCGTAACTATTTGTGGCAAGC (配列番号:1)
<3> 易罹患性判定工程が、決定されたDNAコピー数を組み合わせて判定する工程であり、前記DNAコピー数の組合せが、(A)0コピー及び1コピーと、(B)2コピー及び3コピーとの組合せ、並びに、(C)0コピー〜2コピーと、(D)3コピーとの組合せのいずれかであり、前記組合せにおいて、前記(B)及び前記(D)のいずれかである場合に加齢黄斑変性症に易罹患性であると判断する工程である前記<2>に記載の加齢黄斑変性症易罹患性判定方法である。
<4> 測定工程が、配列番号:1で表される塩基配列で特定されるCFH遺伝子を鋳型とした定量PCRにより前記CFH遺伝子の発現を測定する工程である前記<2>から<3>のいずれかに記載の加齢黄斑変性症易罹患性判定方法である。
<5> 下記配列番号:2及び下記配列番号:3で表される塩基配列を有するプライマーを用いて定量PCRを行う前記<4>に記載の加齢黄斑変性症易罹患性判定方法である。
TGTCTCAGTGTATTGTTCTGTTGCT (配列番号:2)
GCTTGCCACAAATAGTTACGAGATT (配列番号:3)
<6> 定量PCRがハウスキーピング遺伝子を内部標準として定量され、DNAコピー数決定工程が、CFH遺伝子に対応する蛍光強度と、前記ハウスキーピング遺伝子に対応する蛍光強度とを比較することにより前記CFH遺伝子のDNAコピー数を決定する工程である前記<4>から<5>のいずれかに記載の加齢黄斑変性症易罹患性判定方法である。
<7> 定量PCRが、TaqMan法により行なわれる前記<4>から<6>のいずれかに記載の加齢黄斑変性症易罹患性判定方法である。
<8> DNAコピー数決定工程が、測定工程で測定された蛍光強度が飽和に達するより前の時点におけるCFH遺伝子に対応する蛍光強度から前記CFH遺伝子のDNAコピー数を決定する工程である前記<2>から<7>のいずれかに記載の加齢黄斑変性症易罹患性判定方法である。
<9> 易罹患性判定工程において、一塩基多型を更に組み合わせて加齢黄斑変性症の罹患の難易を判定する前記<2>から<8>のいずれかに記載の加齢黄斑変性症易罹患性判定方法である。
<10> 一塩基多型が、rs800292(I62V)、rs1061170(Y402H)、及びrs1410996の少なくともいずれかである前記<9>に記載の加齢黄斑変性症易罹患性判定方法である。
<11> 前記<1>に記載の加齢黄斑変性症易罹患性判定用マーカーを少なくとも含み、加齢黄斑変性症の罹患の難易を判定することを特徴とする加齢黄斑変性症易罹患性判定用キットである。
<12> 下記配列番号:2及び下記配列番号:3で表される塩基配列を有するプライマーと、下記配列番号:4で表される塩基配列を有するプローブとを少なくとも含み、加齢黄斑変性症の罹患の難易を判定することを特徴とする加齢黄斑変性症易罹患性判定用キットである。
TGTCTCAGTGTATTGTTCTGTTGCT (配列番号:2)
GCTTGCCACAAATAGTTACGAGATT (配列番号:3)
GTGCAGCAGGCATACAAATCTG (配列番号:4)
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、著しい視力低下をきたす加齢黄斑変性症の発症及び進行を、高い精度及び確率で予測可能であり、加齢黄斑変性症の早期予防や、既に発症した患者に対する最適な薬剤治療法の選択に好適に利用可能な加齢黄斑変性症易罹患性判定用マーカー、並びに、加齢黄斑変性症の罹患の難易を簡便に判定可能な加齢黄斑変性症易罹患性判定方法及び加齢黄斑変性症易罹患性判定キットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、染色体1番、cytoband 1q31.3のCFH遺伝子において、配列番号:2で表される塩基配列を有するプライマーと、配列番号:3で表される塩基配列を有するプライマーとを用いたPCRの増幅産物の位置を示す図である。矢印で示した箇所が、PCR増幅産物の位置である。
図2図2は、NCBI Build 36(hg 18)においてchr1:194937326−194937399(NCBI Build 35では、chr1:193402360−193402433)に相当する配列において、配列番号:2で表される塩基配列を有するプライマーと、配列番号:3で表される塩基配列を有するプライマーとを用いたPCRの増幅産物とその周辺ゲノムの情報を示す図である。
図3図3は、NCBI Build 36(hg 18)においてchr1:194937326−194937399(NCBI Build 35では、chr1:193402360−193402433)に相当する配列において、配列番号:2で表される塩基配列を有するプライマーと、配列番号:3で表される塩基配列を有するプライマーとを用いたPCRの増幅産物とその周辺ゲノムの情報を示す図である。
図4図4は、配列番号:2で表される塩基配列を有するプライマーと、配列番号:3で表される塩基配列を有するプライマーとを用いたPCRの増幅産物を示す図である。
図5図5は、配列番号:2で表される塩基配列を有するプライマーと、配列番号:3で表される塩基配列を有するプライマーとを用いたPCRの増幅産物のCFH遺伝子における位置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(加齢黄斑変性症易罹患性判定用マーカー)
本発明の加齢黄斑変性症易罹患性判定用マーカーは、加齢黄斑変性症の罹患の難易を検出するマーカーとして用いられるマーカーであり、下記配列番号:1で表される塩基配列を有する。
下記配列番号:1で表される塩基配列は、加齢黄斑変性症と関連性が知られているCFH遺伝子9番イントロン(短型CFH遺伝子 NM_001014975では3’下流領域)が有する塩基配列である。
5’−TGTCTCAGTGTATTGTTCTGTTGCTGTGCAGCAGGCATACAAATCTGACAATCTCGTAACTATTTGTGGCAAGC −3’ (配列番号:1)
【0020】
前記加齢黄斑変性症易罹患性判定用マーカーは、1本鎖のDNAであってもよく、2本鎖のDNAであってもよく、前記DNAから転写されたRNAであってもよい。また、前記DNAやRNAからなる抗体であってもよい。
前記配列番号:1で表される塩基配列は、1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入など変異しているものであってもよく、1若しくは数個の塩基が3’末端及び5’末端の少なくともいずれかに付加しているものであってもよいが、前記加齢黄斑変性症易罹患性判定用マーカーは、前記CFH遺伝子又はそのRNAと、ストリンジェントな条件でハイブリダイズすることができる程度の相補関係を有するものが好ましく、前記配列番号:1で表される塩基配列そのものがより好ましい。
【0021】
ここで、ストリンジェントな条件とは、前記加齢黄斑変性症易罹患性判定用マーカーが結合する被験体由来のDNAの融解温度(Tm)に基づいて決定することができる(Berger and Kimmel 1987,Guide to Molecular Cloning Techniques Methods in Enzymology,Vol. 152,Academic Press,San Diego CA参照)。例えば、ハイブリダイズ後の洗浄条件として、通常「1×SSC(NaCl,trisodiumcitrate)、0.1質量% SDS(sodium dodecyl sulfate)、37℃」程度の条件を挙げることができる。前記条件で洗浄しても、前記加齢黄斑変性症易罹患性判定用マーカーと、被験体由来のDNAとがハイブリダイズ状態を維持するものをいう。
【0022】
<製造方法>
前記加齢黄斑変性症易罹患性判定用マーカーの製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、天然の遺伝子から制限酵素などにより酵素的に直接切り出す方法、天然の遺伝子を鋳型としてPCRで増幅させる方法、遺伝子クローニングによる方法、化学合成による方法などが挙げられる。
【0023】
前記PCR法の場合、前記配列番号:1で表される塩基配列を含む領域を挟むようにプライマーを設計し、公知の方法で調製することができる。
【0024】
前記遺伝子クローニング法の場合、例えば、正常核酸を増幅したものをプラスミドベクター、ファージベクター、プラスミドとファージとのキメラベクター等から選択されるベクターに組み込み、大腸菌、枯草菌等の原核微生物、酵母等の真核微生物、動物細胞等から選択される増殖可能な任意の宿主に導入することにより前記配列番号:1で表される塩基配列を大量に調製することができる。
【0025】
前記化学合成法としては、例えば、トリエステル法、亜リン酸法などのような、液相法又は不溶性の担体を使った固相合成法などが挙げられる。前記化学合成法の場合、公知の自動合成機等を用い、1本鎖の前記配列番号:1で表される塩基配列を大量に調製した後、アニーリングを行うことにより、2本鎖前記配列番号:1で表される塩基配列を調製することができる。
【0026】
<使用>
本願発明において、加齢黄斑変性症の罹患性の難易は、前記加齢黄斑変性症易罹患性判定用マーカーにより、被験体における、前記加齢黄斑変性症易罹患性判定用マーカーが認識するCFH遺伝子のDNAのコピー数多型により判定することができる。即ち、前記DNAコピー数多型が、加齢黄斑変性症の発症の危険度が低い者では0コピー〜1コピーであり、加齢黄斑変性症の危険度が高い者では2コピー〜3コピーである。このDNAコピー数多型の違いにより、加齢黄斑変性症の罹患性の難易を判定することができる。
【0027】
前記DNAコピー数多型の決定及び加齢黄斑変性症の罹患の難易の判定は、後述する本発明の加齢黄斑変性症易罹患性判定方法により行うことが好ましい。
なお、後述するとおり、前記DNAコピー数多型は、前記CFH遺伝子のDNAコピー数多型が既知である被験体との相対比による解析値であるため、0コピー〜3コピーはその解析値を示すものである。
【0028】
<用途>
前記加齢黄斑変性症易罹患性判定用マーカーは、著しい視力低下をきたす加齢黄斑変性症の発症及び進行を予測可能であるため、加齢黄斑変性症判定用に用いられる、DNAマイクロアレイ法、PCR法、インベーダーアッセイ等のPCR法によらない迅速DNA増幅法、塩基配列解析法などに好適に利用可能である。
【0029】
(加齢黄斑変性症易罹患性判定方法)
本発明の加齢黄斑変性症易罹患性判定方法は、測定工程と、DNAコピー数決定工程と、易罹患性判定工程と、を少なくとも含み、必要に応じて、更にその他の工程を含む。
【0030】
<測定工程>
前記測定工程は、被験体由来のDNA含有試料中の前記配列番号:1で表される塩基配列で特定されるCFH遺伝子の一部及び全部のいずれかに相補的な蛍光標識を有するプローブを、前記DNA含有試料中の前記CFH遺伝子にハイブリダイズさせ、前記蛍光標識により前記CFH遺伝子の発現を測定する工程である。
【0031】
−DNA含有試料−
前記DNA含有試料は、被験体由来の前記配列番号:1で表される塩基配列を有する領域を含むものである。
前記測定工程において、前記DNA含有試料は、予めDNAとして調製されたものであってもよく、被験体から採取してDNA調製から行ってもよい。
また、前記DNA含有試料は、DNAの代わりにDNAの転写産物であってもよく、これらの混合溶液であってもよい。
【0032】
前記DNA含有試料を前記被験体から採取する際に用いる被験体由来の試料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、細胞、組織、血液、血球成分、リンパ液、毛髪などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、前記被験体由来の試料は、血液及びその分画である血球成分が、採取が簡便であるため好ましい。
【0033】
前記被験体由来の試料からDNAを抽出する方法としては、特に制限はなく、公知の方法の中から、目的に応じて適宜選択することができる。
また、前記DNA含有試料は、前記抽出したDNAそのものであってもよく、前記配列番号:1で表される塩基配列を含む領域を予めPCRで増幅して得られた増幅産物であってもよい。
【0034】
−プローブ−
前記プローブの塩基配列としては、前記配列番号:1で表される塩基配列で特定されるCFH遺伝子の一部及び全部のいずれかに相補的な配列であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記配列番号:1で表される塩基配列の一部に相補的な配列が好ましく、下記配列番号:4で表される塩基配列がより好ましい。
5’−GTGCAGCAGGCATACAAATCTG−3’ (配列番号:4)
【0035】
前記プローブの蛍光標識としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、FAM、VIC、Cy3、Cy5、FITC、Texas Redなどが挙げられる。また、前記プローブは、蛍光標識の代わりに放射性標識を有するものであってもよいが、安全性の点で蛍光標識が好ましい。
【0036】
前記プローブを入手する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、合成する方法、市販品を用いる方法などが挙げられる。
前記市販品を用いる場合、例えば、TaqMan MGBプローブ(Copy Number Assays:アプライドバイオシステムズ社製)などを用いることができる。
【0037】
−遺伝子発現の測定−
前記配列番号:1で表される塩基配列で特定されるCFH遺伝子の発現を測定する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、DNAマイクロアレイ法、PCR(polymerase chain reaction)法、インベーダーアッセイ、PCR−RETINA法(polymerase chain reaction−real−time invader assay)(特開2008−263974号公報参照)などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、定量PCR法(qRT−PCR)が簡便に測定できる点で好ましく、リアルタイムPCR法がより好ましい。
【0038】
前記リアルタイムPCR法は、前記プローブの蛍光強度をモニターすることで前記CFH遺伝子の発現を測定することができるが、該モニターする方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、インターカレーター法、TaqMan法、サイクリングプローブ法(Molecular Beacon法)などが挙げられる。これらの中でも、TaqMan法やサイクリングプローブ法が、目的遺伝子であるCFH遺伝子に特異的なプローブを使用することにより極めて高い検出特異性を得ることができる点、また複数のプローブを用いたマルチカラー解析を行うことができる点で好ましい。
【0039】
前記TaqMan法で用いられるプローブは、前記配列番号:1で表される塩基配列の両端を蛍光物質と消光物質とで修飾した標的核酸の増幅領域にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチドであり、アニーリング時に前記CFH遺伝子にハイブリダイズするが消光物質の存在により蛍光を発せず、伸長反応時にDNAポリメラーゼのエキソヌクレアーゼ活性により分解されて蛍光物質が遊離することにより蛍光を発する。したがって、蛍光強度を測定することにより増幅産物の生成量をモニタリングすることができ、それによって元の鋳型DNA量を推定することができる。
【0040】
前記定量PCRに用いるプライマー配列としては、前記配列番号:1で表される塩基配列を含むゲノム領域を増幅させることができれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記プライマー配列の塩基数としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、15塩基〜30塩基が好ましく、17塩基〜25塩基がより好ましく、18塩基〜22塩基が更に好ましい。また、ある程度長いゲノム領域において、複数のプローブを用いたマルチPCRを行う場合は、プライマー対は、同等の温度で鋳型DNAにアニーリング可能なように設計されることが好ましい。
【0041】
前記プライマー配列を設計する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、Primer Express ver 3.0ソフトウェア(アプライドバイオシステムズ社製)、遺伝子相同性探索プログラムBLASTなどを用いて設計する方法などが挙げられる。
【0042】
これらの中でも、前記プライマー配列は、下記配列番号:2で表される塩基配列を有するプライマー配列をセンスプライマー配列として、また下記配列番号:3で表される塩基配列を有するプライマー配列をアンチセンスプライマー配列として用いることが好ましい。
5’−TGTCTCAGTGTATTGTTCTGTTGCT−3’ (配列番号:2)
5’−GCTTGCCACAAATAGTTACGAGATT−3’ (配列番号:3)
【0043】
前記プライマーは、前記配列番号:2で表される塩基配列及び前記配列番号:3で表される塩基配列の1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入された塩基配列からなるものであってもよい。
前記プライマーの入手方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、合成する方法、市販品を用いる方法などが挙げられる。
【0044】
前記定量PCRにおいて内部標準として用いる遺伝子としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、ハウスキーピング遺伝子が好ましい。
前記ハウスキーピング遺伝子としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、リボヌクレアーゼP(Ribonuclease P RNA:RNasa P)遺伝子、テロメラーゼ触媒サブユニット(telomerase reverse transriptase:TERT)遺伝子、18SリボソームRNA遺伝子、グリセルアルデヒド3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)遺伝子、β−アクチン遺伝子、シクロフィリン遺伝子などが挙げられる。
【0045】
前記定量PCRにおいて、前記配列番号:1で表される塩基配列に対するプローブの蛍光標識と、前記ハウスキーピング遺伝子に対するプローブの蛍光標識とで異なる蛍光標識を用いることで、これらのPCR増幅量を区別して検出することができる。
【0046】
<DNAコピー数決定工程>
前記DNAコピー数決定工程は、前記測定工程で測定された蛍光強度から前記CFH遺伝子のDNAコピー数を決定する工程である。
前記測定工程が、定量PCRで行われる測定される場合、前記蛍光強度は、該蛍光強度が飽和に達するより前の時点における前記CFH遺伝子に対応する蛍光強度から前記CFH遺伝子のDNAコピー数を決定することが好ましい。
具体的には、前記測定工程において測定した前記配列番号:1で表される塩基配列に対するプローブにより測定された蛍光強度(以下、「CFH遺伝子蛍光強度」と称することがある。)と、前記ハウスキーピング遺伝子に対するプローブにおける蛍光強度(以下、「内部標準蛍光強度」と称することがある。)とを比較して、前記CFH遺伝子のDNAコピー数を決定することができる。
【0047】
前記蛍光強度を比較する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、一方の蛍光強度を縦軸に、他方の蛍光強度を横軸にしてグラフ上にプロットする方法、CFH遺伝子蛍光強度及び内部標準蛍光強度を数値化してこれらの計算値により比較する方法などが挙げられる。
【0048】
前記グラフ上にプロットする方法である場合、CFH遺伝子蛍光強度と、内部標準蛍光強度とのDNAコピー数の比が同じ被験体についてはグラフ上のある領域にプロットが集中(クラスター化)し、前記DNAコピー数の比が異なる被験体についてはグラフ上の異なる位置にプロットされる。
【0049】
前記蛍光強度を数値化する方法である場合、CFH遺伝子蛍光強度と、内部標準蛍光強度とのDNAコピー数が同じ被験体については近似した数値が与えられ、前記DNAコピー数が異なる被験体については異なる数値が与えられる。
【0050】
ここで、前記配列番号:1で表される塩基配列のDNAコピー数多型が既知である被験体(以下、「リファレンス」と称することがある。)における蛍光強度と、未知である被験体(以下、「被験者」と称することがある。)における蛍光強度とを比較することにより、DNAコピー数の比を定量化することができる。
前記リファレンスとして用いるDNAとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、国際HapMapプロジェクトにおける日本人男性のDNA ID番号:NA19000などが挙げられる。
リファレンスのDNAコピー数をTaqMan法以外のマイクロアレイ法などで特定しておくことにより、TaqMan法で得られるDNAコピー数の相対値を絶対値に変換することができる。
【0051】
前記定量化方法としては、特に制限はなく、公知の統計学的手法の中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、相対解析法、検量線法、Livakらによるdelta−delta Ct(ΔΔCt)法(Legrand−Andreoletti M et al., Pharmacogenetics, 1998, 8(1), 7−14参照)などが挙げられる。これらの中でも、前記定量化方法は、ΔΔCtが簡便である点で好ましい。
【0052】
前記ΔΔCt法の概略を以下に示す。定量PCR法において、遺伝子が指数関数的に増幅している段階では、遺伝子分子数Nは、下記式1により表される。
N=N×(1+E) ・・・式1
前記式1において、「N」は初期分子数を表し、「E」は遺伝子増幅効率、「n」はPCRサイクル数を表す。
【0053】
ここで、前記遺伝子増幅効率Eが、被験者のCFH遺伝子とリファレンスのCFH遺伝子との間で同様と仮定した場合、遺伝子増幅が飽和に達するより前の指数関数的増幅ステージにおける、ある遺伝子分子数Nを閾値とし、指数関数的な増幅曲線と、前記閾値との交わった点をCt値とすると、標的遺伝子の初期濃度は、2−ΔΔCt値として表される。このΔΔCtは、下記式2で表される。
ΔΔCt=(X−Y)−(X’−Y’) ・・・式2
前記式2において、「X」は、リファレンスの内部標準の蛍光強度のCt値を表し、「Y」はCtリファレンスのCFH遺伝子の蛍光強度のCt値を表し、「X’」は、被験者の内部標準の蛍光強度のCt値を表し、「Y’」は被験者のCFH遺伝子の蛍光強度のCt値を表す。
【0054】
前記被験者の2−ΔΔCt値を算出する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、加齢黄斑変性症に罹患しているか否かの質的因子と、DNAコピー数多型という量的因子との相関を、最尤度法に基づき解析するR環境のパッケージなどで算出する方法などが挙げられる。
具体的には、統計ソフトウェアR(ベル研究所で開発されたS言語に基づいたデータ解析用の環境)において動作可能なDNAコピー数多型解析用のCNV tools(Barnes C et al., Nat Genet, 2008, 40(10), 1245−1252参照)を用いた統計解析方法で算出することができる。前記CNV toolsは、オープンソースで入手可能である(http://cnv−tools.sourceforge.net/CNVtools.html)。
これにより、被験者のDNAコピー数多型を決定することができる。
【0055】
<易罹患性判定工程>
前記易罹患性判定工程は、前記DNAコピー数決定工程で決定されたDNAコピー数から加齢黄斑変性症の易罹患性を判定する工程である。
前記易罹患性の判定は、前記DNAコピー数を、1コピー単独で使用して判定してもよく、2コピー以上を組み合わせて判定してもよいが、2コピー以上を組み合わせて判定する方法が、判定の確立及び精度が向上する点で好ましい。
前記DNAコピー数の組合せとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、(A)0コピー及び1コピーと、(B)2コピー及び3コピーとの組合せ、並びに、(C)0コピー〜2コピーと、(D)3コピーとの組合せのいずれかが好ましい。
前記組合せにおいて、前記(B)及び前記(D)のいずれかである場合に加齢黄斑変性症に易罹患性であると判断することができる。
【0056】
前記DNAコピー数の組合せが易罹患性の判定に有効か否かを検定する方法としては、特に制限はなく、公知の統計学的手法の中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、カイ二乗検定法、Fisher正確検定法、オッズ比を算出する方法、p値を算出する方法などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよいが、2種以上を併用することが、確立及び精度が高くなる点で好ましい。
【0057】
<その他の工程>
前記その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、CFH遺伝子の一塩基多型(以下、「SNP」と称することがある。)を解析するSNP解析工程を含むことが好ましい。
前記易罹患性判定工程において、前記DNAコピー数の組合せで判定する方法に加え、更にCFH遺伝子のSNPを組み合わせて判定を行うことにより、更に判定の確立及び精度を向上させることができる点で好ましい。
【0058】
前記CFH遺伝子のSNPとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、以下の(1)〜(3)に示すSNPなどが挙げられる。
(1)エクソン2の蛋白質62番目のイソロイシンがバリンへ変異したアミノ酸変異(I62V)を伴うSNP:rs800292(以下、「SNP1」と称することがある。)。
(2)エクソン9の蛋白質402番目のチロシンがヒスチジンに変異したアミノ酸変異(Y402H)を伴うSNP:rs1061170(以下、「SNP2」と称することがある。)。
(3)イントロン14のSNP:rs1410996(以下、「SNP3」と称することがある。)。
【0059】
前記SNPを解析する方法としては、特に制限はなく、公知の方法の中から、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、Mori K et al., Invest Ophthalmol Vis Sci, 2007, 48(11), 5315−5319に記載の方法や、特表2008−529536号公報に記載の方法などが挙げられる。
【0060】
<用途>
前記加齢黄斑変性症易罹患性判定方法は、後述する本発明の加齢黄斑変性症易罹患性判定用キットに好適に利用可能である。
本発明の加齢黄斑変性症易罹患性判定方法によれば、加齢黄斑変性症の発症及び進行を予測可能であり、これにより発症の危険度が高い人に関しては、より頻回に眼科検査を受けることにより加齢黄斑変性症の早期予防が可能となり、加齢黄斑変性症を既に発症した患者に対しては、最適な薬剤治療法の選択が可能となる。
【0061】
(加齢黄斑変性症易罹患性判定用キット)
本発明の加齢黄斑変性症易罹患性判定用キットの第1の態様としては、本発明の加齢黄斑変性症易罹患性判定用マーカーを少なくとも含み、必要に応じて、更に基板、蛍光標識、放射性標識、結合剤、内部標準マーカー、リファレンスゲノムDNA、プレート、ハイブリダイゼーション溶液、容器、使用説明書などのその他の要素を含む。
本発明の加齢黄斑変性症易罹患性判定用キットの第2の態様としては、前記配列番号:2で表される塩基配列を有するプライマー及び前記配列番号:3で表される塩基配列を有するプライマーと、前記配列番号:4で表される塩基配列を有するプローブとを少なくとも含み、必要に応じて、更に蛍光標識、放射性標識、内部標準マーカー、リファレンスゲノムDNA、酵素、PCR用バッファー、容器、使用説明書などのその他の要素を含む。
これらのキットは、被験体由来のDNA含有試料を用い、簡便に加齢黄斑変性症の罹患の難易を判定することができるものである。
【0062】
<第1の態様>
前記第1の態様の加齢黄斑変性症易罹患性判定用キットの形態としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、DNAマイクロアレイ、インベーダーアッセイなどが挙げられる。
前記DNAマイクロアレイは、基板上に前記加齢黄斑変性症易罹患性判定用マーカー及び内部標準マーカーが整列してなり、前記加齢黄斑変性症易罹患性判定用マーカーが、前記DNA含有試料中のCFH遺伝子又はその転写産物(以下、「標的試料」と称することがある。)と結合し、前記CFH遺伝子の発現と、内部標準マーカーの遺伝子発現とをモニタリングすることを特徴とする。
【0063】
前記基板としては、特に制限はなく、公知の材料の中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ガラス、樹脂などが挙げられる。
前記加齢黄斑変性症易罹患性判定用マーカーは、前記基板上に整列固定されてなり、この固定された加齢黄斑変性症易罹患性判定用マーカーと、標的試料とのハイブリダイゼーションを行い、高感度で標的DNA断片を検出する。
【0064】
前記加齢黄斑変性症易罹患性判定用マーカーと、標的試料とで形成されたハイブリッドの検出手段としては、特に制限はなく、公知の手段の中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、標的試料に予め結合させた蛍光標識若しくは放射性標識を利用する方法、前記ハイブリッドに取り込まれる蛍光発生基若しくは導電性基を有するインターカレーターを利用する方法などが挙げられる。
【0065】
前記DNAマイクロアレイの製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記基材表面において直接前記加齢黄斑変性症易罹患性判定用マーカーを合成する方法(オン・チップ法)、予め別に調製した加齢黄斑変性症易罹患性判定用マーカーを前記基材表面に固定する方法などが挙げられる。
【0066】
前記オン・チップ法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、光照射で選択的に除去される保護基の使用と、半導体製造に利用されるフォトリソグラフィー技術及び固相合成技術とを組み合わせて、微小なマトリックスの所定の領域での前記加齢黄斑変性症易罹患性判定用マーカーの選択的合成を行う方法などが挙げられる。
【0067】
予め調製した前記加齢黄斑変性症易罹患性判定用マーカーを前記基材表面に固定する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、スポッターを用いる方法などが挙げられる。
具体的には、まず、マイクロプレートに前記加齢黄斑変性症易罹患性判定用マーカーを調製する。また、前記基板表面にpoly−l−Lysine等の前記加齢黄斑変性症易罹患性判定用マーカーと前記基板との結合剤をコ−ティングする。この後、前記マイクロプレート中の前記加齢黄斑変性症易罹患性判定用マーカーをピンに付着させ、表面に結合剤をコーティングした基板上に、スポッター等を用いてピンに付着させた前記加齢黄斑変性症易罹患性判定用マーカーを接触させてスポットする。マイクロプレート中の全ての前記加齢黄斑変性症易罹患性判定用マーカーをスポットし終わるまでこの作業を繰り返し、DNAマイクロアレイを製造する。
【0068】
前記DNAマイクロアレイと、標的試料とをハイブリダイゼーションする方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記加齢黄斑変性症易罹患性判定用マーカーを基板上に固定させたDNAマイクロアレイと、蛍光物質で標識した被験体由来のDNA断片とを、ともにハイブリダイゼーション溶液に入れてハイブリダイズさせる方法などが挙げられる。
前記ハイブリダイゼーション溶液としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ホルムアルデヒド、SSC、SDS、EDTA(ethylenediamidetetraacetic acid)、蒸留水、及びこれらの混合溶液などが挙げられる。
前記ハイブリダイゼーション溶液の混合比率としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0069】
前記ハイブリダイゼーションにより、標的試料と、前記加齢黄斑変性症易罹患性判定用マーカーとが相補鎖DNAであれば、両者は二重らせん構造をとり結合することができる。
一方、両者が相補鎖でなければ結合することはなく、蛍光物質で標識したDNA含有試料は、そのままハイブリダイゼーション溶液に残留するか、その一部は基板上にコーティングされている結合剤と結合し残る場合もある。
【0070】
ハイブリダイズせず前記基板上に残った蛍光物質で標識したDNA含有試料は、洗浄することが好ましい。前記洗浄の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記基板をそのまま水槽等の中に入れて洗浄する方法などが挙げられる。これにより、前記加齢黄斑変性症易罹患性判定用マーカーと結合していないDNA含有試料は排除される。
【0071】
前記加齢黄斑変性症易罹患性判定用マーカーと結合している標的試料を検出する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、標的試料に標識した蛍光物質を、所定の光源からの光エネルギーで励起させ、蛍光物質が励起して発光する光をCCDなどの光センサーで検出する方法などが挙げられる。
【0072】
前記加齢黄斑変性症易罹患性判定用マーカーと、標的試料とのハイブリダイズによる蛍光強度と、内部標準マーカーと被験体由来のDNA断片との蛍光強度とを比較することにより、被験体におけるCFH遺伝子のDNAコピー数多型を決定し、加齢黄斑変性症の罹患の難易を判定することができる。
【0073】
<第2の態様>
前記第2の態様の加齢黄斑変性症易罹患性判定用キットは、PCR法、インベーダーアッセイなどで加齢黄斑変性症の罹患の難易を判定することができる。
【0074】
前記第2の態様の加齢黄斑変性症易罹患性判定用キットにおいて、前記プライマー及び前記プローブは、乾燥した状態であってもよく、溶液の状態であってもよい。前記プライマー及び前記プローブが溶液の状態である場合、該溶液としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水、エタノールなどが挙げられる。
前記プライマー及びプローブは、使用時に適宜前記溶液により所望の濃度に調製して用いることができる。
前記プライマー及びプローブの濃度としては、特に制限はなく、反応条件などに応じて適宜選択することができる。
前記プローブは、蛍光標識若しくは放射性標識を有するものが好ましく、蛍光標識を有するものが安全性が高い点で好ましい。
【0075】
前記PCR法及びインベーダーアッセイは、標的試料に前記プローブを結合させ、該標的試料を増幅させ、前記標識の強度により前記CFH遺伝子の発現をモニタリングすることを特徴とする。このとき、同時に内部標準マーカーの遺伝子発現をモニタリングすることが好ましい。
【0076】
前記第2の態様の加齢黄斑変性症易罹患性判定用キットの使用方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、本発明の前記加齢黄斑変性症易罹患性判定方法を用いることが好ましい。
【0077】
<用途>
前記加齢黄斑変性症易罹患性判定キットは、加齢黄斑変性症の発症及び進行を予測するための診断キットとして好適に利用可能である。
これにより、発症の危険度が高い人に関してはより頻回に眼科検査を受けることにより加齢黄斑変性症の早期予防が可能となり、また、加齢黄斑変性症を既に発症した患者に対しては、最適な薬剤治療法の選択が可能となる。
【実施例】
【0078】
以下に本発明の実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0079】
(実施例1)
<DNAコピー数多型解析方法>
<<DNA採取工程>>
埼玉医科大学倫理委員会の承認の下、埼玉医科大学病院眼科に受診した加齢黄斑変性症罹患者(以下、「AMD罹患者群」と称することがある。)男女195名と、眼底疾患を有さない非罹患者(以下、「対照群」と称することがある。)男女130名より、血液を採取し、DNAサンプルをWizard Genomic DNA Purification Kit(プロメガ社製)を用いて精製した。
【0080】
<<測定工程>>
DNAコピー数多型(以下、「CNV」と称することがある。)の解析には、TaqMan(登録商標) Copy Number Assays(アプライドバイオシステムズ社製)を販売元のインターネットホームページに記載の方法に従いCustom−madeで作製したものを用いた。
染色体1番、cytoband 1q31.3のCFH遺伝子(RefSeqデータベースID:NM_00186)に対するTaqMan MGBプローブ(Copy Number Assays:アプライドバイオシステムズ社製)は、5’末端がFAMにて蛍光標識されており、内部標準として用いたRNase P(Ribonuclease P RNA component H1(H1RNA) gene (RPPH1) on chromosome 14, cytoband 14q11.2)遺伝子に対するTaqMan MGBプローブ(Copy Number Assays:アプライドバイオシステムズ社製)は、5’がVICにて蛍光標識されているため、PCR増幅量を区別して検出することが可能である。
【0081】
前記CFH遺伝子に対して特異的なTaqMan MGBプローブ及びPCRプライマーは、Primer Express ver 3.0ソフトウェア(アプライドバイオシステムズ社製)及び遺伝子相同性探索プログラムBLASTを用いて、定量的PCR用に最適化したものを、CFH遺伝子9番イントロン上(短型CFH遺伝子 NM_001014975では3’下流領域)に設計した。前記TaqMan MGBプローブは、下記配列番号:4で表される塩基配列であり、前記PCRプライマーは、下記配列番号:2及び下記配列番号:3で表される塩基配列である。
[センスプライマー]
5’−TGTCTCAGTGTATTGTTCTGTTGCT−3’ (配列番号:2)
[アンチセンスプライマー]
5’−GCTTGCCACAAATAGTTACGAGATT−3’ (配列番号:3)
[プローブ]
5’−GTGCAGCAGGCATACAAATCTG−3’ (配列番号:4)
【0082】
前記PCRプライマーにより増幅されるCFH遺伝子の塩基配列は、下記配列番号:1で表される塩基配列であり、PCRの増幅産物の長さは、74塩基対(bp)である。
また、前記PCRプライマーと、それに挟まれる領域のTaqMan MGBプローブ位置は、ゲノムデータのバージョンとしてNCBI Build 36(hg 18)において、chr1:194937326−194937399(NCBI Build 35では、chr1:193402360−193402433)に相当し、下記に示すとおりである。
[増幅産物]
5’−TGTCTCAGTGTATTGTTCTGTTGCTgtgcagcaggcatacaaatctgacAATCTCGTAACTATTTGTGGCAAGC−3’ (配列番号:1)
前記配列番号:1で表される塩基配列において、大文字は、PCRプライマー部位を示し、下線部は、解析用TaqMan MGBプローブ相当部位を示す。
【0083】
PCRは、7900HT Fast Real−time PCR System(アプライドバイオシステムズ社製)により、384ウエルプレートを用いて行った。1反応における反応系は、表1に示すとおりであり、1サンプルにつき、3回実験を反復した。また、PCR温度プロトコールとしては、表2に示すとおりである。
【0084】
【表1】
【0085】
【表2】
【0086】
<<DNAコピー数決定工程>>
CFH遺伝子発現量は、内部標準として同じ反応系において共増幅したRNase P遺伝子発現量との相対値から、ΔΔCt法を用いて決定した。
また、CFH遺伝子のDNAコピー数が既知のリファレンスDNAとしては、国際HapMapプロジェクトにおける日本人男性のDNA ID番号:NA19000を用いた。
遺伝子が指数関数的に増幅しているステージにおいて、遺伝子分子数Nは、下記式1により表される。
N=N×(1+E) ・・・式1
前記式1において、「N」は初期分子数を表し、「E」は遺伝子増幅効率、「n」はPCRサイクル数を表す。
【0087】
遺伝子増幅効率Eが、CFH遺伝子と、RNase P遺伝子とで同様と仮定すると、CFH遺伝子の初期濃度は、指数関数的増幅ステージにおけるある閾値と、増幅曲線との交わった点であるCt値を用いて、2−ΔΔCt値として表され、ΔΔCtは、下記式2で表される。
ΔΔCt=(X−Y)−(X’−Y’) ・・・式2
前記式2において、「X」は、リファレンスDNAにおけるRNase P遺伝子の蛍光強度のCt値を表し、「Y」は、リファレンスDNAにおけるCFH遺伝子の蛍光強度のCt値を表し、「X’」は、対照群又はAMD罹患者群におけるRNase P遺伝子の蛍光強度のCt値を表し、「Y’」は対照群又はAMD罹患者群におけるCFH遺伝子の蛍光強度のCt値を表す。
【0088】
サンプルの2−ΔΔCt値は、統計ソフトウェアRに含まれるDNAコピー数多型解析用のCNV tools(Barnes C et al., Nat Genet, 2008, 40(10), 1245−1252参照)を用いて統計解析を行い、DNAコピー数を、0コピー、1コピー、2コピー、及び3コピーのいずれかに決定した。
【0089】
<<易罹患性判定工程>>
AMD罹患者群及び対照群において、DNAコピー数多型の違いによるグループ分けを行い、カイ二乗検定による加齢黄斑変性の罹患の難易との相関解析を行った。また、オッズ比(以下、「OR」と称することがある)及びp値による有意差検定を行った。
【0090】
<結果>
AMD罹患者群及び対照群の全人数における各DNAコピー数(以下、「CN」と称することがある。)の人数分布を表3に、AMD罹患者群及び対照群別の各DNAコピー数の人数分布を表4に示す。また、DNAコピー数によりグループ分けを行った場合のAMD罹患者群と、対照群との間の有意差検定の結果を表5及び表6に示す。
なお、DNAコピー数が0コピー及び1コピーの場合を、以下「グループA」と、DNAコピー数が2コピー及び3コピーの場合を、以下「グループB」と、DNAコピー数が0コピー〜2コピーの場合を、以下「グループC」と、DNAコピー数が3コピーの場合を、以下「グループC」と称することがある。
【0091】
【表3】
【0092】
【表4】
カイ二乗検定により、AMD罹患者群と、対照群との間のCN値分布には有意差が認められた。
カイ二乗値=19.741
自由度=3
p値=1.921×10−4
【0093】
【表5】
p値=8.847×10−4
OR=3.219909(95%信頼区間 1.541794〜6.987238)
【0094】
【表6】
p値=6.213×10−5
OR=2.616746(95%信頼区間 1.606671〜4.288098)
【0095】
表5より、DNAコピー数が0コピー及び1コピーの場合(グループA)と、DNAコピー数が2コピー及び3コピーの場合(グループB)とのグループ分けにおける加齢黄斑変性症の罹患と、DNAコピー数との相関性は有意であり、AMD罹患者群において、グループBにおけるオッズ比(OR)は、約3.2倍(95%信頼区間 1.5〜7.0)に期待された。
表6より、DNAコピー数が0コピー〜2コピーの場合(グループC)と、DNAコピー数が3コピーの場合(グループD)とのグループ分けにおける加齢黄斑変性症の罹患と、DNAコピー数との相関性も有意であり、AMD罹患者群において、DNAコピー数が3のオッズ比(OR)は、約2.6倍(95%信頼区間 1.6〜4.3)に期待された。
これらの結果より、オッズ比の点では、グループA及びBの組合せが好ましく、p値の点では、グループC及びDの組合せが好ましいことがわかった。
【0096】
(実施例2)
実施例2では、実施例1におけるグループA及びBと、CFH遺伝子のSNPを用いた解析とを組み合わせてAMDの罹患の難易の相関解析を行った。
【0097】
<SNP解析方法>
Mori K et al., Invest Ophthalmol Vis Sci, 2007, 48(11), 5315−5319に記載の方法により、AMD罹患性との相関が明らかになっているCFH遺伝子の3種類のSNPについて、TaqMan SNP Genotyping Assays(アプライドバイオシステムズ社製)を用いて遺伝子型を決定した。前記CFH遺伝子の3種類のSNPは、以下の(1)〜(3)に示すとおりである。
(1)エクソン2の蛋白質62番目のイソロイシンがバリンへ変異したアミノ酸変異(I62V)を伴うSNP:rs800292(以下、「SNP1」と称することがある。)。
(2)エクソン9の蛋白質402番目のチロシンがヒスチジンに変異したアミノ酸変異(Y402H)を伴うSNP:rs1061170(以下、「SNP2」と称することがある。)。
(3)イントロン14のSNP:rs1410996(以下、「SNP3」と称することがある。)。
【0098】
<結果>
SNP1、SNP2、及びSNP3のリスクアレルは、表7に示すとおりである。また、AMD罹患者群及び対照群の全人数におけるSNP1、SNP2、及びSNP3の遺伝子型の人数分布、及びこの結果から劣性遺伝モデルによる分割表にて解析(SNP Alyze(登録商標):ダイナコム株式会社製)を行った結果を併せて表7に示す。
【0099】
【表7】
【0100】
−SNP1の劣性遺伝と、CNV(グループA及びB)との組合せによるAMD易罹患性判定−
AMD罹患者群及び対照者群と、SNP1の劣性遺伝1及び2、並びに実施例1におけるグループA及びBとを用いた8グループ間でカイ二乗検定による加齢黄斑変性症の罹患の難易の相関解析を行った。また、オッズ比及びp値による有意差検定を行った。結果を表8に示す。なお、オッズ比は、最もリスクが低い群(表8において劣性遺伝子1かつCN値0、1の群)を1とする。
【0101】
【表8】
カイ二乗値=33.01
自由度=3
p値=3.206×10−7
【0102】
−SNP2の劣性遺伝と、CNV(グループA及びB)との組合せによるAMD易罹患性判定−
AMD罹患者群及び対照者群と、SNP2の劣性遺伝1及び2、並びに実施例1におけるグループA及びBとを用いた8グループ間でカイ二乗検定による加齢黄斑変性症の罹患の難易の相関解析を行った。また、オッズ比及びp値による有意差検定を行った。結果を表9に示す。なお、オッズ比は、最もリスクが低い群(表9において劣性遺伝子2かつCN値0、1の群)を1とする。
【0103】
【表9】
カイ二乗値=13.956
自由度=3
p値=2.966×10−3
【0104】
−SNP3の劣性遺伝と、CNV(グループA及びB)との組合せによるAMD易罹患性判定−
AMD罹患者群及び対照者群と、SNP3の劣性遺伝1及び2、並びに実施例1におけるグループA及びBとを用いた8グループ間でカイ二乗検定による加齢黄斑変性症の罹患の難易の相関解析を行った。また、オッズ比及びp値による有意差検定を行った。結果を表10に示す。なお、オッズ比は、最もリスクが低い群(表10において劣性遺伝子1かつCN値0、1の群)を1とする。
【0105】
【表10】
カイ二乗値=27.868
自由度=3
p値=3.871×10−6
【0106】
(実施例3)
実施例3では、実施例1におけるグループC及びDと、CFH遺伝子のSNPを用いた解析とを組み合わせてAMDの罹患の難易の相関解析を行った。SNP解析方法は、実施例2と同様の方法で行った。
【0107】
−SNP1の劣性遺伝と、CNV(グループC及びD)との組合せによるAMD易罹患性判定−
AMD罹患者群及び対照者群と、SNP1の劣性遺伝1及び2、並びに実施例1におけるグループC及びDとを用いた8グループ間でカイ二乗検定による加齢黄斑変性症の罹患の難易の相関解析を行った。また、オッズ比及びp値による有意差検定を行った。結果を表11に示す。なお、オッズ比は、最もリスクが低い群(表11において劣性遺伝子1かつCN値0、1、2の群)を1とする。
【0108】
【表11】
カイ二乗値=38.46
自由度=3
p値=2.261×10−8
【0109】
−SNP2の劣性遺伝と、CNV(グループC及びD)との組合せによるAMD易罹患性判定−
AMD罹患者群及び対照者群と、SNP2の劣性遺伝1及び2、並びに実施例1におけるグループC及びDとを用いた8グループ間でカイ二乗検定による加齢黄斑変性症の罹患の難易の相関解析を行った。また、オッズ比及びp値による有意差検定を行った。結果を表12に示す。なお、オッズ比は、最もリスクが低い群(表12において劣性遺伝子2かつCN値0、1、2の群)を1とする。
【0110】
【表12】
カイ二乗値=19.139
自由度=3
p値=2.559×10−4
【0111】
−SNP3の劣性遺伝と、CNV(グループC及びD)との組合せによるAMD易罹患性判定−
AMD罹患者群及び対照者群と、SNP3の劣性遺伝1及び2、並びに実施例1におけるグループC及びDとを用いた8グループ間でカイ二乗検定による加齢黄斑変性症の罹患の難易の相関解析を行った。また、オッズ比及びp値による有意差検定を行った。結果を表13に示す。なお、オッズ比は、最もリスクが低い群(表13において劣性遺伝子1かつCN値0、1、2の群)を1とする。
【0112】
【表13】
カイ二乗値=34.67
自由度=3
p値=1.433×10−7
【0113】
CNVの組合せのみで判定した場合と比較した実施例1と比較して、SNP1、SNP2、及びSNP3の遺伝子型と、CNVとの組合せにより判定した実施例2及び3では、AMD罹患性の難易を更に高い確率で判定することが可能であった。また、SNPとCNVとの組合せは、SNPの劣性遺伝と、CNVのグループC及びDとを組み合わせることが好ましいことがわかった。
【0114】
(比較例1)
実施例2におけるSNP1、SNP2、及びSNP3について、各SNP単独でFisher正確検定による加齢黄斑変性症の罹患の難易の相関解析を行った。また、オッズ比及びp値による有意差検定を行った。結果を表14に示す。表14において、SNP1及びSNP3については、各群における劣性遺伝2(リスクアレルがホモ接合型)のパーセントを示す。SNP2については、各群における劣性遺伝1(リスクアレルがホモ接合型およびヘテロ接合型)のパーセントを示す。
【0115】
【表14】
【0116】
表14より、SNP単独では、AMD罹患性の難易の判定確率は、実施例1及び2と比較して低いものであった。
【0117】
これらの結果より、従来の一遺伝子の変異や、連鎖不平衡に基づくSNPマーカーに着目した技術と比較して本願発明のDNAコピー数多型による加齢黄斑変性症易罹患性の判定は、精度及び確立が高く、疾患の診断に優れていると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明の加齢黄斑変性症易罹患性判定用マーカーは、著しい視力低下をきたす加齢黄斑変性症の発症及び進行を予測可能であるため、加齢黄斑変性症判定用に用いられる、DNAアレイ、塩基配列解析、PCR法又はPCR法によらない迅速DNA増幅法(インベーダーアッセイ)などに好適に利用可能である。
また、本発明の加齢黄斑変性症易罹患性判定方法及び加齢黄斑変性症易罹患性判定キットは、加齢黄斑変性症の発症及び進行を予測可能であり、これにより発症の危険度が高い人に関しては、より頻回に眼科検査を受けることにより加齢黄斑変性症の早期予防が可能となり、加齢黄斑変性症を既に発症した患者に対しては、最適な薬剤治療法の選択に好適に利用可能である。これにより、高齢者の視機能の維持とQOL向上、ひいては高齢者の医療費の削減も期待され、社会全体にも利益還元が期待される。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]