(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5706633
(24)【登録日】2015年3月6日
(45)【発行日】2015年4月22日
(54)【発明の名称】誘導炉
(51)【国際特許分類】
F27B 14/14 20060101AFI20150402BHJP
F27D 11/06 20060101ALI20150402BHJP
H05B 6/24 20060101ALI20150402BHJP
【FI】
F27B14/14
F27D11/06 A
H05B6/24
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2010-138827(P2010-138827)
(22)【出願日】2010年6月18日
(65)【公開番号】特開2012-2446(P2012-2446A)
(43)【公開日】2012年1月5日
【審査請求日】2013年4月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】592115825
【氏名又は名称】日新技研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110559
【弁理士】
【氏名又は名称】友野 英三
(74)【代理人】
【識別番号】100094592
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 政弘
(72)【発明者】
【氏名】杉田 薫
(72)【発明者】
【氏名】田崎 潤
【審査官】
原 賢一
(56)【参考文献】
【文献】
特開平04−064888(JP,A)
【文献】
特開平05−010676(JP,A)
【文献】
特開昭49−067832(JP,A)
【文献】
特開2002−147961(JP,A)
【文献】
特開平08−115787(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27B 5/00−5/18,14/00−14/20
F27D 1/00−1/18,11/00−11/12
H05B 6/24
C21D 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱対象物を収容するためのるつぼ(130)が内部に配置される筒体(120)と、
前記筒体の外周壁に近接して配設された誘導コイル(110)と、
前記誘導コイルの外周側に近接して配設された、前記誘導コイルから発生する漏洩磁束を低減するためのコア(11)を備えてなる複数のコア部(10)であって、前記コア(11)は複数の珪素鋼板によってなり、前記コアを挟むように配置される水冷銅板(12)で挟持された前記珪素鋼板が、横断面視コ字状のコア・クランプ(13)によって螺合される、複数のコア部(10)と、
前記筒体、前記誘導コイルおよび前記複数のコア部を覆うための、縦断面方向において二分することにより形成され軸心方向と直交する方向においてキャスター(152)で移動可能な二つのチャンバー半部(141)によってなるチャンバー(140)と
を具備し、
前記コア・クランプが、端部が支持部材(17)によって前記チャンバーの内壁に固着された支柱(16B)にコア押え(14)を介して固定されていることを特徴とする誘導炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導加熱を利用して溶解あるいは熱処理などをする誘導炉に関する。具体的には、使用電力を節減することができるとともに、省スペースが可能な誘導炉を提供せんとするものである。
【背景技術】
【0002】
従来より用いられている誘導炉の構成を、
図6に示し説明する。ここで、
図6は、高周波電流を使用する誘導炉の従来例の構成を示す部分縦断面図であり、説明を簡単にするため、各部を支持するための支持部材および断熱材などの付随的な構成要素の図示は省略している。
【0003】
130は、加熱対象物を収容するための、有底円筒状に形成されたるつぼであり、その
図6において、110は、高周波電流が流れる誘導コイルであり、その内側に配置された、絶縁または断熱してホットゾーンを形成するための円筒状の筒体120の外周壁に近接して、これを巻回するようにして配設されている。筒体120の素材には、絶縁のためであれば、例えば石英が用いられる。
【0004】
130は、加熱対象物を収容するための、有底円筒状に形成されたるつぼであり、その素材には、例えばイリジウムが用いられる(加熱対象物により、るつぼ材質は異なる。)。このるつぼ130は、図示されてはいない断熱材により、その全体が囲まれている。
【0005】
以上のように配された誘導コイル110、筒体120およびるつぼ130は、円筒状のチャンバー140により覆われ、チャンバー140は、基台150により支持されている。なお、チャンバー140は、その軸心方向すなわち図面上で上下方向において移動可能となっている。
【0006】
このような構成の誘導炉により、加熱対象物を溶解あるいは熱処理などをする場合は、加熱対象物を収容したるつぼ130を筒体120の内部に配置したうえで、誘導コイル110および内部にるつぼ130が配置された筒体120を、チャンバー140により覆う。
【0007】
誘導コイル110および筒体120がチャンバー140により覆われたならば、加熱対象物の種類に応じて、真空吸引をしてチャンバー140内を真空にするか、または、雰囲気ガスを充填する。
【0008】
そこで、誘導コイル110に高周波電流を流すと、これにより発生する渦電流によって、るつぼ130が発熱し、るつぼ130内に収容された加熱対象物は加熱される。加熱対象物が加熱されて溶融したならば、図示されてはいない昇降機構を駆動させてチャンバー140を上方に移動させたうえで、溶融した加熱対象物を収容しているるつぼ130を誘導炉より取り出すことになる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、
図6に示した従来例によると、つぎのような解決すべき課題がある。すなわち、加熱効率の悪いサファイヤなどの酸化物を加熱する場合は、大きな電源出力を必要とする。しかし、電源出力が大きくなると、誘導コイル110から発生する漏洩磁束も大きくなるため、無駄な電力が消費されてしまうことになる。
【0010】
また、大きな電源出力を使用することにより、誘導コイル110に流れる電流が増大して、誘導コイル110の周辺が加熱されると、誘導コイル110からチャンバー140までのギャップ(間隔)が小さければ、チャンバー140が加熱されてしまうことになる。
【0011】
したがって、大きな電源出力を必要とする酸化物を加熱する場合は、誘導コイル110からチャンバー140までのギャップを大きくしなければならない。すなわち、大きな電源出力を必要とする場合は、チャンバー140のサイズを大きくしなければならず、誘導炉の占有面積が大きくなってしまう。とくに、近時は、よりサイズの大きい酸化物の結晶の作製が求められており、径の大きい誘導コイル110を使用してより大きな電源出力を用いる場合は、誘導炉の占有面積が一層大きくなってしまうことになる。以上のような解決すべき課題が、
図6に示した従来例にはあった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで、上記課題を解決するために、本発明はなされたものである。そのために、本発明では、つぎのような手段を用いるようにした。すなわち、加熱対象物を収容するるつぼが内部に配置される筒体と、筒体の外周壁に近接して配設される誘導コイルと、誘導コイルの外周側に近接して配設される、誘導コイルから発生する漏洩磁束を低減する複数のコア部と、筒体、誘導コイルおよび複数のコア部を覆う軸心方向において移動可能なチャンバーとにより、誘導炉を構成するようにした。
【発明の効果】
【0013】
本発明によるならば、誘導コイルからの漏洩磁束を低減するためのコア部を配設するようにしたことから、漏洩磁束を低減することができる。その結果、電源出力を有効に利用することができるので、使用電力の節減を図ることが可能となる。
【0014】
また、チャンバーへの加熱を抑えることができるので、誘導コイルからチャンバーまでのギャップを大きくする必要がなく、誘導炉の占有面積を可能な限り小さなものとすることができる。すなわち、省スペースの要請に応えることが可能となる。したがって、本発明によりもたらされる効果は、実用上極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の
参考例1の構成を示す部分縦断面図である。
【
図2】
図1に示したコア部の構成を示す側面図である。
【
図3】
図1に示したコア部の構成を示す平面図である。
【
図4】本発明の
参考例2の構成を示す部分縦断面図である。
【
図5】本発明の実施例
1の構成を示す部分縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明による誘導炉は、加熱対象物を収容するるつぼが内部に配置される円筒状の筒体の外周壁に近接して配設される誘導コイルの外周側に、誘導コイルから発生する漏洩磁束を低減するための複数のコア部を、誘導コイルに近接して配設する。以下、
参考例により詳しく説明する。
【実施例1】
【0017】
本発明の
参考例1の構成を、
図1に示し説明する。ここで、
図1は、本
参考例における誘導炉の構成を示す部分縦断面図であり、説明を簡単にするため、
図6と同様に、各部を支持するための支持部材および断熱材などの付随的な構成要素の図示は省略している。
【0018】
図1において、本
参考例における誘導炉の構成が、
図6に示した従来例の構成と異なるところを説明する。発明による誘導炉では、誘導コイル110の外周側に、誘導コイル110から発生する漏洩磁束を低減するためのコア部10を、誘導コイル110に近接して配設している。その他の構成は、
図6に示した従来例と同じである。
【0019】
このコア部10は、
図2(側面図)に示すように、2枚の細長方形板状の水冷銅板12によって、
図3(平面図)に示すように、相互に接する多数の細長方形板状の珪素鋼板の薄板を用いたコア11を挟むことにより構成されている。コア11の幅および長さは、水冷銅板12と同一であり、誘導コイル110上端の上方から下端の下方にわたって配設され、コア11と誘導コイル110との間には、セラミックを用いた絶縁物15が介装されている。
【0020】
このような構成のコア部10は、水冷銅板12およびコア11を貫通するネジが螺合するコ字状のコア・クランプ13によって、支持されている。コア部10を支持するコア・クランプ13は、
図2に示すように、3つ用いられており、上方と下方の2つのコア・クランプ13が、コア押え14を介して、下端が基台150(
図1)に固着された細長角柱状の支柱16に固定されている。このようなコア部10は、
図3に示すように、8つ配設されている。
【0021】
以上のような構成の誘導炉により、加熱対象物を溶解あるいは熱処理などをする場合は、筒体120の内部に加熱対象物を収容したるつぼ130を配置したうえで、誘導コイル110および内部にるつぼ130が配置された筒体120を、チャンバー140により覆う。
【0022】
誘導コイル110および筒体120がチャンバー140により覆われたならば、加熱対象物の種類に応じて、真空吸引をしてチャンバー140内を真空にするか、または、雰囲気ガスを充填する。そこで、誘導コイル110に高周波電流を流すと、これにより発生する渦電流によって、るつぼ130が発熱し、るつぼ130内に収容された加熱対象物は、加熱され溶融することになる。
【0023】
同時に、誘導コイル110に近接して配設されたコア11(
図3)により、誘導コイル110から発生する漏洩磁束が低減される。本願発明者が行った実験によると、厚さが15mmで内径が400mmの誘導コイル110を用いて、加熱温度を2030〜2050℃(サァイヤの溶融温度)とする場合は、従来例によれば92.9kWの電源出力を必要とするのに対して、
図1に示した誘導炉によれば、72.6kWの電源出力で足り、約22%の電力節減が可能であるとの結果を得ている。
【0024】
また、実験によれば、コア11両端部の水冷銅板12からの冷却水排水温度は、加熱対象物の溶融時でも約39℃(△T7℃)までしか上昇しておらず、コア11の温度は、チャンバー140(
図1)を異常に加熱する程には上昇していないものと考えることができる。したがって、誘導コイル110からチャンバー140までのギャップを大きくする必要はないことになる。
【0025】
このように、本
参考例による誘導炉によれば、使用電力を節減することができるとともに、誘導コイル110からチャンバー140までのギャップを大きくする必要はないことから、省スペースの要請にも応えることができることになる。
【実施例2】
【0026】
図4は、本発明の
参考例2の構成を示す部分縦断面図であり、
図1における構成要素と同一の構成要素については、同一の符号を付している。
【0027】
図4において、ここに示した
参考例2の構成が、
図1に示した
参考例1の構成と異なるところは、コア部10を支えるための支柱16Bの固着位置である。
図1に示した
参考例1では、支柱16は、その下端を基台150(
図1)に固着していた。
【0028】
これに対して、本
参考例では、支柱16Bは、その両端部が、チャンバー140の内壁に固着された2つの方形板状の支持部材17により支持されている。これに伴い、支柱16Bの長さは、
図1に示した
参考例1における支柱16よりは短いものとなっている。その他の構成は、
図1に示した
参考例1の構成と同じである。
【0029】
このように構成するならば、誘導炉の作動により加熱対象物が溶融した後、チャンバー140を上方に移動させる場合に、コア部10もともに上方に移動する。コア部10が移動すれば、コア部10のメンテナンス、あるいは、るつぼ130や断熱材のセッティングなども容易に行えることができることになる。
【実施例3】
【0030】
図5は、本発明の実施例
1の構成を示す部分縦断面図であり、
図4における構成要素と同一の構成要素については、同一の符号を付している。
【0031】
図5において、ここにおける実施例
1の構成が、
図4に示した
参考例2の構成と異なるところは、チャンバー140Bおよび基台150Bが縦断面方向において2等分されて、それぞれキャスター152を装着した各基台半部151に支持された各チャンバー半部141が、それぞれチャンバー140Bの軸心方向と直交する方向すなわち図面上で水平方向において移動可能となっていることである。その他の構成は、
図4に示した
参考例2の構成と同じである。
【0032】
このように構成するならば、誘導炉を作動させて加熱対象物が溶融した後、各チャンバー半部141をそれぞれ水平方向において移動させると、コア部10もともに水平方向において移動する。コア部10が移動すれば、
図4に示した
参考例2と同様に、コア部10のメンテナンス、あるいは、るつぼ130や断熱材のセッティングなども容易に行えることができることになる。
【0033】
以上においては、8つのコア部10を用いる場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明は、これに限定されるものではない。複数のコア部10を用いる場合について、本発明は適用され得るものである。
【0034】
また、高周波電流を使用する誘導炉について説明したが、本発明は、これに限られるものではない。低周波電流を使用する誘導炉についても、本発明は適用することができるものである。
【0035】
さらに、コア11(
図3)の素材が珪素鋼板である場合について説明したが、本発明は、これに限定されるものではない。フェライト・コアおよび金属コアを用いる場合についても、本発明は適用し得るものである。
【0036】
なお、
図1に示した誘導炉におけるチヤンバー140には、点検などのための開閉扉を設けるようにしてもよい。
【0037】
また、
図4および
図5にそれぞれ示した誘導炉は、各図面上で時計方向または反時計方向に90°回転させた状態で設置して、
図4の誘導炉ではチヤンバー140を水平方向に移動可能な構成とし、
図5の誘導炉では各チヤンバー半部141を垂直方向に移動可能な構成とするようにしてもよい。その場合は、誘導炉は、加熱処理用として、すなわち、るつぼ130を用いずに加熱対象物を熱処理するものとして用いられることになる。
【符号の説明】
【0038】
10 コア部
11 コア
12 水冷銅板
13 コア・クランプ
14 コア押え
15 絶縁物
16,16B 支柱
17 支持部材
110 誘導コイル
120 筒体
130 るつぼ
140,140B チャンバー
141 チャンバー半部
150 基台