特許第5706685号(P5706685)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5706685コンプライアンス装置及びこれを備えたロボットアームの構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5706685
(24)【登録日】2015年3月6日
(45)【発行日】2015年4月22日
(54)【発明の名称】コンプライアンス装置及びこれを備えたロボットアームの構造
(51)【国際特許分類】
   B25J 17/02 20060101AFI20150402BHJP
【FI】
   B25J17/02 G
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2010-294000(P2010-294000)
(22)【出願日】2010年12月28日
(65)【公開番号】特開2012-139774(P2012-139774A)
(43)【公開日】2012年7月26日
【審査請求日】2013年9月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】掃部 雅幸
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼山 裕規
【審査官】 牧 初
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭63−169289(JP,U)
【文献】 特開平3−66582(JP,A)
【文献】 実開昭62−159294(JP,U)
【文献】 特開2007−118132(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00−21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを保持する保持部と、前記保持部を支持する支持部との間に介在されて、両者間の位置ずれを許容するためのコンプライアンス装置であって、
前記保持部及び支持部にそれぞれ取り付けられる一対のブラケットと、
前記両ブラケット間に設けられ、その一方のブラケットに設けられた貫通孔を貫通して、当該一方のブラケットを他方のブラケットに対し近接/離遠するよう、移動可能に支持するガイドシャフトと、
前記両ブラケットに互いに離遠するように付勢力を付加する付勢手段と、を備え、
前記ガイドシャフトは、前記一方のブラケットを突き抜けて突出する端部に形成され前記貫通孔の周縁部に当接して当該一方のブラケットからの落脱を阻止するストッパ部と、前記ストッパ部と連なる少なくとも前記一方のブラケットの厚み分の範囲に形成され前記貫通孔と略同じ直径の同形部と、前記同形部よりも前記他方のブラケット側の少なくとも一部に形成された前記同形部よりも小径の括れ部とを有し、この括れ部において前記一方のブラケットが前記ガイドシャフトの軸心に対し垂直な方向にも変位可能に構成したことを特徴とするコンプライアンス装置。
【請求項2】
前記ガイドシャフトの前記括れ部には、前記同形部から徐々に外形が小さくなるテーパ状の部分が設けられている、請求項に記載のコンプライアンス装置。
【請求項3】
前記一方のブラケットの移動に対して減衰力を付加する減衰手段が設けられている、請求項1又は2に記載のコンプライアンス装置。
【請求項4】
前記ガイドシャフトには付勢手段としてコイルばねが外挿されており、
前記一方のブラケットの前記貫通孔にはフランジ付きのブッシュが内挿されていて、そのフランジに前記コイルばねの一方の端部が当接している、請求項1〜のいずれか1つに記載のコンプライアンス装置。
【請求項5】
前記ガイドシャフトがボルトによって構成され、このボルトに螺合されたナットによって前記ストッパ部が構成されている、請求項のいずれか1つに記載のコンプライアンス装置。
【請求項6】
前記ガイドシャフトは3本とされ、互いに略平行に且つ略等間隔に配置されている、請求項1〜のいずれか1つに記載のコンプライアンス装置。
【請求項7】
前記付勢手段がばね部材からなり、前記ばね部材は、その撓み量の増大に連れてばね定数が高くなるものである、請求項1〜のいずれか1つに記載のコンプライアンス装置。
【請求項8】
前記保持部がロボットアームに取り付けられたチャックを含み、そのロボットアームの少なくとも一部分に配設されていることを特徴とする、請求項1〜のいずれか1つに記載のコンプライアンス装置。
【請求項9】
ワークを保持するチャックが取り付けられたロボットアームの少なくとも一部分に、その前後の位置ずれを許容するために、前記請求項1〜のいずれか1つに記載のコンプライアンス装置が配設されていることを特徴とするロボットアームの構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークを保持するチャックを備えたロボットアーム等に用いて好適なコンプライアンス装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より生産現場においてワークを製品に組み付ける工程の自動化には産業用ロボットや自動組立機械が使用されており、そのワークの位置やそれを組み付ける製品等の位置を検出するために各種センサが用いられている。また、そのようなセンサを省略するか或いは検出精度の要求を緩和するために、ワークの位置ずれを吸収する機構が用いられることもあり、一般にRCC装置(remote center compliance device)、コンプライアンス装置等と呼ばれている。
【0003】
例えば特許文献1に記載されている部品組付装置は、ロボットアームの下端に柔構造の接続部材を介してチャックを吊り下げている。この接続部材は、上部プレートと下部プレートとが水平方向に容易に相対変位する構造であり、この変位によってワークの水平方向の位置ずれを吸収する。また、接続部材は、チャックの自重によって基準位置に留まるとともに、内部に高圧流体が注入されることによって、その基準位置に固定されるようになっている。
【0004】
また、特許文献2に記載のコンプライアンス装置では、上部のロボットハンドに装着される第1ベースプレートの下方に、水平面内のx軸方向に移動可能に第2ベースプレートを配置し、その下方にy軸方向に移動可能に第3ベースプレートを配置し、その下方に鉛直軸回りのθ方向に回動可能に第4ベースプレートを配置し、その下部にフィンガモジュールを配置している。さらに、それら第1〜第4のベースプレートの間にはそれぞれ中立位置への復帰機構と保持機構とが設けられている。
【0005】
それらの装置によれば、ロボットアームとこれにより保持されるワークとの間で、水平面内の任意の方向への相対変位が許容されることから、そのワークの水平方向の位置ずれを吸収して製品の所定箇所に組み付けることが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−247788号公報
【特許文献2】特開2007−296587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、前記従来例の装置はいずれも構成部品が多く、ワークを保持するチャックやフィンガユニット等を水平方向に変位可能とするための機構が複雑である。しかも、ワークを基準位置、中立位置に復帰させ、そこで固定するための専用の機器が付加されているから、装置全体が大型化し且つ高コストにならざるを得ない。
【0008】
また、前記の装置はいずれも水平方向の相対変位は許容する一方で、鉛直方向の変位は許容しない。このため、鉛直方向の位置ずれがあるとき又は衝突時に、周辺装置やワークが大きな負荷を受けるおそれがある。また、例えばねじ締め作業のようにボルト(ワーク)を把持して、それを下方のねじ孔にねじ込んでゆく場合には、ボルトをその回転に同期させて、1回転毎に1ピッチだけ正確に下方に送り出す必要があり、これをロボットアームの動作のみにより実現しようとすると、制御が複雑化するという難がある。
【0009】
本発明はかかる諸事情を鑑みてなされたもので、その目的は、ロボット等に用いるコンプライアンス装置を簡単な構造として低コスト化を図りつつ、ワークを対象物に向けて適度に押し出せるように構成することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成すべく本発明は、ワークを保持する保持部と、前記保持部を支持する支持部との間に介在されて、両者間の位置ずれを許容するためのコンプライアンス装置を対象とする。そして、前記保持部及び支持部にそれぞれ取り付けられる一対のブラケットと、これら両ブラケット間に設けられ、その一方を貫通して当該一方のブラケットを他方のブラケットに対し近接/離遠するよう、移動可能に支持するガイドシャフトと、前記の両ブラケットに互いに離遠するように付勢力を付加する付勢手段と、を備えるとともに、前記ガイドシャフトの少なくとも一部に括れ部を設け、ここにおいて前記一方のブラケットがガイドシャフトの軸心に対し垂直な方向にも変位可能となるように構成した。
【0011】
かかる構成のコンプライアンス装置によれば、まず、ワークを保持する保持側のブラケットと、これを支持する支持側のブラケットとが、ガイドシャフトに沿って相対変位可能になっており、その変位可能な方向についての位置ずれや衝突に起因する過負荷からの保護が図られている。また、その変位可能な方向に前記支持側のブラケットから保持側のブラケットに加わる付勢力によって、この保持側のブラケット及びワークが押し出されるようになるから、例えばボルトであるワークをねじ孔に向けて回転させるだけで、このワークを1回転毎にねじピッチだけ送り出して、ねじ込むことができる。
【0012】
また、前記ガイドシャフトは、前記一方のブラケットに挿通された側の端部において当該一方のブラケットの前記貫通孔の周縁部に当接して当該一方のブラケットの端部からの落脱を阻止するストッパ部と、前記ストッパ部と連なる少なくとも前記一方のブラケットの厚み分の範囲に形成され前記貫通孔と略同じ直径の同形部と、前記同形部よりも前記他方のブラケット側の少なくとも一部に形成された前記同形部よりも小径の括れ部とを有している。この括れ部において一方のブラケットがガイドシャフトの軸心に対し垂直な方向にも変位可能であるから、この一方のブラケットと他方のブラケットとの位置ずれが許容され、ワークの位置ずれが吸収される。括れ部を設ける範囲を大きめに設定すれば、一方のブラケットはガイドシャフトに対し斜めにもなり、このことによってもワークの位置ずれが吸収される。
【0013】
つまり、本発明のコンプライアンス装置によれば、簡単な構造でワークの位置ずれを吸収できるとともに、このワークを製品等の対象物に向けて適度な力で押し出せるようになり、ロボット等によってワークを送り出す動作は不要になるか、或いはその送り出しの精度についての要求が緩和される。
【0014】
一方のブラケットがガイドシャフトのストッパ部に当接した状態で一方のブラケットの貫通孔とガイドシャフトの同形部とが合致することで、ガイドシャフトとブラケットとの位置決めがなされる。

【0015】
なお、前記ガイドシャフトの同形部がブラケットの貫通孔と略同じ外形である、というのは、ガイドシャフトの同形部が貫通孔と相似形状であって且つ僅かに小さく、それらが合致した状態ではスムーズに摺動可能な程度の隙間が形成されることを意味する。
【0016】
その場合に前記ガイドシャフトの括れ部には、前記同形部から徐々に外形が小さくなるようにテーパ状の部分を設けてもよい。こうすれば、前記のように一方のブラケットがガイドシャフトのストッパ部に当接し、その同形部において位置決めされている状態と、その括れ部において位置ずれが許容される状態との間で、ガイドシャフトに沿ってスムーズに移動可能になる。よって、コンプライアンス装置は、ワークの位置決め状態とその位置ずれを吸収する状態とにスムーズに切替わる。さらに、前記一方のブラケットの移動に対して減衰力を付加するように、例えば粘性ダンパや摩擦ダンパ等の減衰手段を設けてもよい。
【0017】
前記の付勢手段としてはコイルばねや板ばね、ゴムのような弾性体を用いる以外にも、エアシリンダのような伸縮機構を用いてもよい。低コスト化のためには例えばコイルばねをガイドシャフトに外挿してもよい。この場合、ガイドシャフトが挿通される一方のブラケットの貫通孔にはフランジ付きのブッシュを内挿して、そのフランジをコイルばねの受け座として機能させてもよい。
【0018】
こうした場合はブッシュの筒孔の大きさが貫通孔の大きさであり、これとガイドシャフトの同形部の外形とが略同じになる。ブッシュの材質を摩擦係数の低いものにすれば、ガイドシャフトの摺動状態がよりスムーズになる。また、フランジに当接するコイルばねの端部との摺動もスムーズになる。長時間の使用によってブッシュが摩耗した場合は、それだけを交換すればよい。
【0019】
また、低コスト化のために前記ガイドシャフトをボルトによって構成し、このボルトに螺合させたナットを前記ストッパ部としてもよい。ガイドシャフトは1本或いは2本でもよいが、括れ部においてブラケットが傾くことを考慮して、3本のガイドシャフトを互いに略平行に且つ略等間隔に配置してもよい。3本のガイドシャフトのそれぞれに同じ仕様のコイルばねを外挿すれば、ブラケットの傾きを抑えることができる。
【0020】
さらに、付勢手段として前記のようにガイドシャフトにコイルばねを外挿する構成には限定されず、ガイドシャフトとは別個にコイルばね、板ばね、ゴム弾性体等のばね部材を設けてもよい。ばね部材として、その撓み量の増大に連れてばね定数が高くなるものを用いてもよく、この場合、巻き線の太さやピッチが変化するプログレッシブ・コイルばねを用いてもよいし、複数のばね部材を組み合わせてプログレッシブ特性を得るようにしてもよい。
【0021】
前記のようなコンプライアンス装置は例えば産業用ロボットのアームに用いて好適であり、このアームの先端にワークを保持するためのチャックが取り付けられている場合に、そのチャックとの間も含めたアームの少なくとも一部分に、前記のコンプライアンス装置を配設すればよい。
【0022】
見方を変えれば本発明は、ワークを保持するチャックが取り付けられたロボットアームの少なくとも一部分に、その前後の位置ずれを許容すべく前記のコンプライアンス装置を配設した構造に関するものである。
【発明の効果】
【0023】
以上より、本発明に係るコンプライアンス装置は、一対のブラケットとガイドシャフトと付勢手段とからなる簡単な構造であり、低コスト化に有利であるとともに、このコンプライアンス装置をロボットや自動組立機械等に用いれば、ワークを位置決めして保持することも、その位置ずれを吸収することもでき、ワーク押し当て時の過負荷から保護される。さらに、ワークを対象物に向けて適度に押し出すこともできるから、ロボットアーム等によってワークを送り出す動作が不要になるか、或いはその送り出しの精度についての要求が緩和される。この結果、ロボット等の制御を簡略化することも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明に係るコンプライアンス装置をアームの手首に装着したロボットの一例を示す斜視図である。
図2】同コンプライアンス装置単体を拡大して斜め上から見た斜視図である。
図3】同コンプライアンス装置について、(a)は位置決め状態を、(b)はフローティング状態を、それぞれ示す説明図である。
図4】ボルトのねじ込み作業におけるコンプライアンス装置の動作を示す説明図であり、(a)はボルトをねじ孔に挿入する際を、(b)はねじ込む際を、それぞれ示す。
図5】ボルトのピックアップにおける図4相当図であり、(a)は位置ずれのあるボルトのピックアップ直前を、(b)は位置ずれの修正動作を、それぞれ示す。
図6】長短二つのコイルばねを一組で用いた他の実施形態に係る図2相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、添付の図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。図1は、本発明に係るコンプライアンス装置が装着されるロボットの一実施の形態を示す斜視図であり、このロボット1に装着する前のコンプライアンス装置を拡大して示したのが図2である。図3は、コンプライアンス装置を側方から見て、その位置決め状態とフローティング状態とをそれぞれ簡略化して描いた説明図である。
【0026】
−ロボットの構成例−
図1に示すロボット1はいわゆる多関節型のもので、床などに固定される固定部2と、その上部において鉛直軸線aの周りに旋回(矢印Aで示す)可能なベース部3と、このベース部3の上部に順次、取り付けられた第1及び第2アーム部4,5とを備えている。第2アーム部5の先端部5aには手首部6が取り付けられ、この手首部6にコンプライアンス装置7を介してチャック8(保持部)が取り付けられている。
【0027】
すなわち、前記ベース部3の上部には、左右一対の支持壁部3aが設けられ、それらに挟まれた状態で第1アーム部4の基端部が水平軸線bの周りに回動可能に支持されている。これにより第1アーム部4は、矢印Bで示すように上下に傾倒可能になっている。また、第1アーム部4は、基端部の左右両側から延びる一対の板状部材からなり、その間に第2アーム部5の基端部を軸線cの周りに回動可能に支持している。これにより第2アーム部5も上下方向に傾倒(矢印C)可能になっている。
【0028】
第2アーム部5の先端には、その長手方向の軸線dの周りに回動(矢印D)可能な状態で二股状の先端部5aが設けられており、その間に円柱状の手首部6が軸線eの周りに回動(矢印E)可能に支持されている。その手首部6の先端、すなわち図の左手前寄りの端部に、コンプライアンス装置7を介してチャック8が取り付けられている。チャック8はコンプライアンス装置7と共に、例えば手首部6に内蔵した電動モータの作動により軸線fの周りに回動(矢印F)可能になっている。
【0029】
なお、図1において符号9は、チャック8に把持(保持)されているワークであって、一例としてボルトを示している。このボルト9は、その下方に位置する製品10の上面のねじ孔10aにねじ込まれる。この例では、ねじ孔10aの上端縁にテーパ状の拡径部が形成されている。
【0030】
−コンプライアンス装置の構成−
この実施形態ではコンプライアンス装置7は、前記のロボット1のチャック8と手首部6(支持部)との間に介設されていて、両者間の位置ずれを許容することにより、チャック8に保持されているワーク(ボルト9)の位置ずれを吸収する。以下にその構造について詳細に説明する。
【0031】
図2に拡大して示すように、この実施形態のコンプライアンス装置7は、チャック8の取り付けられる一方のブラケット70(図では下方に位置し、以下では下ブラケットという)と、ロボットアームの手首部6に取り付けられる他方のブラケット71(図では上方に位置し、以下では上ブラケットという)とを備えている。図の例では両ブラケット70,71はいずれも概略三角形状の板部材であり、中央に丸穴70a,71aが開口している。これらの丸穴70a,71aには、チャック8のモータに電力を供給するケーブル等が挿通される。
【0032】
図の例では、下ブラケット70の中央の丸穴70aは、上ブラケット71の丸穴71aに比べて大径であり、これを囲むように複数のボルト孔70b(図の例では4つ)が形成されている。図示しないが、これらのボルト孔70bに挿入されるボルトによって、下ブラケット70の下部にチャック8が締結される。同様に上ブラケット71にも中央の丸穴71aを囲むように複数のボルト孔71bが形成されている。なお、図の例では8つのボルト孔71bが示されているが、そのうちの6つには上ブラケット71をロボット1の手首部6に締結するためのボルトが挿入され、残りの2つには位置決めのためのピンが挿入される。
【0033】
そして、前記のブラケット70,71同士はその間に設けられた3本のガイドシャフト72によって連結されている。これらの各ガイドシャフト72は、上端部が上ブラケット71に固定される一方、下端側は下ブラケット70を貫通して、当該下ブラケット70を上下にスライド可能に支持している。また、各ガイドシャフト72にはコイルばね73(付勢手段)が外挿されていて、両ブラケット70,71に対し上下に離遠するよう押圧力を付加している。
【0034】
なお、図2には、3本のガイドシャフト72及びコイルばね73のうち、図の手前の2本のみが示されていて、図の奥にある1本のガイドシャフト72及びコイルばね73は、上ブラケット71に隠れている。また、説明の便宜上、図の手前右側のガイドシャフト72については隠れている部分も破線で示すとともに、これに外挿されているコイルばね73は途中で切り欠いて示している。
【0035】
詳しくは図3(a)に断面で示すように、両ブラケット70,71には、概略三角形状の頂部に対応する3カ所に1つずつ貫通孔70c,71cが形成されており、その各々にガイドシャフト72の端部が挿入されている。上下のブラケット71,70のそれぞれにおいて、3つの貫通孔71c,70cは中央の丸穴71a,70aを囲んで円周方向に互いに120度間隔で形成されており、3本のガイドシャフト72は互いに略平行に且つ等間隔に並んでいる。なお、図3においては説明の便宜上、下ブラケット70の断面に現れる2本のガイドシャフト72のみを示している。
【0036】
一例としてガイドシャフト72はリーマボルトであり、その軸部が上ブラケット71の貫通孔71cに付け根まで圧入されている。上ブラケット71の上面に位置するリーマボルトの頭部は、上方から押さえ板74によって押さえられている。この押さえ板74は、外形が上ブラケット71と同じ概略三角形状であり、その内部に大きな丸穴74aが開口することによって異形のリング状とされている。押さえ板74は、ガイドシャフト72の両側においてボルト75により上ブラケット71に締結されている。
【0037】
一方、下ブラケット70の貫通孔70cには、この例ではフランジ付きブッシュ76が上方から挿入され、その筒孔内に前記ガイドシャフト72が摺動自在に挿通されている。ブッシュ76は、一例として潤滑油を分散させた樹脂材により形成されており、高い摺動性を有している。ブッシュ76のフランジ部76aは、下ブラケット70の上面における貫通孔周縁部を覆って、その上面に当接するコイルばね73の下端を受け止める受け座として機能している。
【0038】
また、前記ブッシュ76を突き抜けて下方に突出するガイドシャフト72の下端部には雄ねじが形成されており、ここにナット77が螺合されている。このナット77は、下ブラケット70の下面における貫通孔70cの周縁部に下方から当接し、下ブラケット70がガイドシャフト72から脱落することを阻止するストッパとして機能している。つまり、下ブラケット70は、図3に白抜きの矢印で示すように、ガイドシャフト72によって上下に(上ブラケット71に対し近接/離遠するように)スライド(移動)可能に支持されていて、コイルばね73の押圧力により下方に付勢され、ナット77に押し当てられている。
【0039】
この状態で下ブラケット70の貫通孔70c(ブッシュ76の筒孔)内に位置しているのは、ガイドシャフト72を構成するリーマボルトの軸部であり、この部分の直径はブッシュ76の筒径と略同じである。両者の間にガタはなく、スムーズに摺動可能な程度の隙間が形成されている。言い換えると、ガイドシャフト72においてナット77の螺合される下端部の近傍、例えば下ブラケット70の厚み分の範囲には、下ブラケット70の貫通孔70c(この例ではブッシュ76の筒孔)と略同じ直径の同径部72a(同形部)が設けられている。
【0040】
そのため、前記のようにコイルばね73の押圧力を受けて下方のナット77に押し当てられている下ブラケット70は、その貫通孔70cがブッシュ76を介してガイドシャフト72の同径部72aと合致することにより、位置決めされる(位置決め状態)。すなわち、下ブラケット70がガイドシャフト72を介して上ブラケット71に対し、ひいてはロボット1の第2アーム部5に対して位置決めされる。これにより、チャック8に保持されているボルト9の位置決めがなされる。
【0041】
その位置決めの精度は、下ブラケット70の貫通孔70cに挿入されているブッシュ76の筒孔とガイドシャフト72の同径部72aとの隙間によって決まるが、この実施形態ではブッシュ76に高い摺動性を持たせているので、両者間の隙間を小さく設定することができる。隙間は例えば数百ミクロンから大きくても数ミリ程度に設定すればよい。
【0042】
また、この実施形態のガイドシャフト72には、前記の同径部72aの上方に連なって相対的に小径となるように括れ部72bが形成されており、ここにおいては下ブラケット70が水平方向(ガイドシャフト72と直交する方向)にも変位可能になる。すなわち、図3(b)に示すように下ブラケット70が上方に変位して、その貫通孔70c(ブッシュ76)がガイドシャフト72の括れ部72bを包含する状態では、それらの間に例えば数ミリ程度の隙間が形成される。このとき、下ブラケット70は、いわばガイドシャフト72から浮き上がったフローティング状態になる。
【0043】
フローティング状態では、前記の括れ部72bと貫通孔70c(ブッシュ76)との隙間の範囲で、図に矢印Sで示すように下ブラケット70がガイドシャフト72に対し水平方向に変位可能になるとともに、同じく矢印Rで示すように揺動して斜めにも変位可能になる。つまり、コンプライアンス装置7の上下のブラケット70,71間で水平方向及び水平軸周りの位置ずれが許容され、これにより、チャック8に保持されているボルト9の位置ずれが吸収される。
【0044】
この実施形態では一例として、リーマボルトの軸部における中央から先端側にかけての所定範囲を切削加工し、この範囲において漸進的に外径が変化して、中央で最も縮径するように括れ部72bを形成している。図の例ではガイドシャフト72の括れ部72bは、同径部72aから上方に向かって徐々に外径が小さくなるテーパ状の部分と、下ブラケット70の厚み程度の長さに亘って略一定の最小径に保たれる部分と、これに続いて上方に向かい徐々に外径が拡大するテーパ状の部分とからなる。なお、最小径の部分の長さは、下ブラケット70の厚みよりも大きくしてもよい。
【0045】
こうしてガイドシャフト72の同径部72aから括れ部72bの最小径部にかけて外径が徐々に変化することから、その同径部72aにおける位置決め状態と括れ部72bにおけるフローティング状態との間で、下ブラケット70はスムーズにスライド可能になっている。つまり、コンプライアンス装置7は、ワークであるボルト9の位置決め状態とその位置ずれを吸収する状態とにスムーズに切替わることになる。
【0046】
なお、前記括れ部72bよりも上方においてガイドシャフト72は、リーマボルトの本来の軸部によって構成されている。この本来の軸部の太さは、コイルばね73の巻き線の内周との隙間があまり大きくならないように設定されており、これによりコイルばね73の伸縮動作がスムーズに行われる。図の例よりもさらに隙間が小さくなるように、リーマボルトの軸径とコイルばね73の内径とを概ね同じくらいに設定してもよい。
【0047】
−コンプライアンス装置の動作−
次に、上述したロボット1のチャック8に把持したボルト9を、製品10のねじ孔10aにねじ込むときのコンプライアンス装置7の動作について図4を参照して説明する。同図(a)はボルトをねじ孔に挿入するときを、また、(b)はねじ込むときをそれぞれ模式的に示している。
【0048】
まず、前記の図1に示すようにロボット1のアームによって、そのチャック8に把持したボルト9を製品10のねじ孔10aの上方に位置づける。その後、ロボット1のアームの動作によってチャック8を下降させるが、このときに例えば製品10の設置場所が少しずれていて、その上面に開口するねじ孔10aに対しボルト9の位置がずれていると、図4(a)に模式的に示すように、ボルト9がねじ孔10aから水平方向に(図の例では右側に)ずれてしまう。
【0049】
そうして位置のずれたまま下降するボルト9の先端は、ねじ孔10aの上端の拡径部に当接して、当該ねじ孔10aの軸心寄り(図の左側)に案内されることになる。このとき、ロボットアームの下降動作に伴いボルト9は上向きの反力を受けるので、コンプライアンス装置7において下ブラケット70が上方に押圧され、前記図3(b)のように上方に変位してフローティング状態になる。これにより下ブラケット70の上ブラケット71に対する図の左側への変位、及び左側への揺動が許容される。
【0050】
つまり、ボルト9のねじ孔10aに対する位置ずれがコンプライアンス装置7によって吸収され、図4(b)のようにボルト9がねじ孔10aに挿入される。この状態でロボット1のアームを少しずつ下降させながら、その手首部6の電動モータによりコンプライアンス装置7及びチャック8を回転させて、ボルト9をねじ孔10aにねじ込んでゆく。このときにボルト9は、コンプライアンス装置7からの押圧力を受けて適度に押し出され、1回転毎にねじピッチ分だけ下降してゆく。よって、ロボットアームの動作だけで、チャック8を下降させる速度とボルト9の回転速度とを正確に対応させる必要はなく、場合によってはロボットアームは下降させなくてもよい。
【0051】
次に、前記ボルト9のねじ込みに先立って、ボルト9をピックアップするときのコンプライアンス装置7の動作について図5を参照して説明する。同図(a)は、位置のずれているボルトを把持(ピックアップ)する直前を、また、(b)は把持動作による位置ずれの修正を、それぞれ示す。
【0052】
まず、予め決められた位置に置かれているボルト9をピックアップするために、ロボット1のアームの動作によってチャック8を上方からボルト9に近づける。このとき、図5(a)に示すようにチャック8は開かれていて、その爪の範囲内にボルト9が含まれているが、その位置はチャック8の中心からずれている。また、コンプライアンス装置7には上下方向の外力は加わっておらず、前記図3(a)の位置決め状態になっている。
【0053】
ここからチャック8の閉じ動作によって爪が中心に寄っていくと、これに接触したボルト9が、図5(b)のように図の右側に移動してチャック8の中心に位置づけられる。このときコンプライアンス装置7は位置決め状態になっていて、上ブラケット71と下ブラケット70との間で位置ずれは許容されないから、チャック8の中心に位置づけられたボルト9は、ロボット1の手首部6の中心線上に位置する。つまり、ボルト9の位置ずれを修正して適切な位置で保持することができる。
【0054】
以上のように、この実施形態のロボット1にはアームの手首部6とチャック8との間にコンプライアンス装置7が介設されており、それが位置決め状態にあればワーク(ボルト9)を適切に位置決めして保持することができる。一方、ワークの位置ずれ等に起因して外力を受けると、コンプライアンス装置7がスムーズにフローティング状態に切替って、その位置ずれを吸収するようになる。
【0055】
また、コンプライアンス装置7は、コイルばね73の押圧力によってワークを対象物に向けて適度に押し出すことができるから、例えばボルト9をねじ孔10aにねじ込むときにロボット1のアームの動作は、ボルト9をねじ孔10aに向けて回転させるか、これに加えて大まかに送り出すだけでよく、その回転に同期させて正確にボルト9を送り出す、という高精度の制御は必要ない。つまり、制御の簡略化が図られる。
【0056】
さらに、そうしてワークを送り出すためのコイルばね73の押圧力は、そのコイルばね73の仕様を変更するだけで容易に変えることができるから、例えばワークの大きさや重さ、対象物との相互の位置関係、必要な押し付け力等々、作業の目的や条件に応じて好ましいコイルばね73の仕様を選定することにより、前記した効果を最大限に得ることができる。
【0057】
このように優れた性能、機能を有するコンプライアンス装置7は、上下一対のブラケット70,71とガイドシャフト72とコイルばね73からなる簡単な構造であり、低コスト化にも有利である。特にこの実施形態ではガイドシャフト72を汎用のリーマボルトによって構成することで、コストのさらなる低減が図られている。
【0058】
−その他の実施形態−
上述した実施形態の説明はあくまで例示に過ぎず、本発明、その適用物またはその用途を何ら制限するものではない。例えば、上述の実施形態においてコンプライアンス装置7は、3本のガイドシャフト72にそれぞれコイルばね73を外挿して、上下のブラケット70,71間に押圧力を加える付勢手段を構成しているが、これに限ることはない。
【0059】
すなわち、ガイドシャフト72の本数は3本に限らず、1本若しくは2本としてもよい。但し、下ブラケット70と上ブラケットとの傾斜を抑えるという観点からは3本以上とするのが好ましい。前記実施形態のように3本のガイドシャフト72を互いに略平行に且つ等間隔に配置し、それぞれに同じ仕様のコイルばね73を外挿すれば、下ブラケット70を上ブラケット71と平行に保つ上で有利である。
【0060】
これに対し、敢えて異なる仕様のコイルばねを用いて、それらのばね力の合計である付勢力に異方性を持たせてもよい。例えば1つのコイルばねのばね定数を、他のコイルばねに比べて低くすれば、そのばね定数の低いコイルばねの方に下ブラケット70が傾きやすくなるから、この下ブラケット70の傾きやすい方向を、ワークの位置決め精度の要求の緩い方向に合わせてもよい。
【0061】
或いは、複数のコイルばねの仕様は同じとしながら、それらを外挿するガイドシャフトのレイアウトに工夫をして、前記と同様の効果を得るようにしてもよい。例えば、位置決め精度の要求の厳しい方向にはガイドシャフト同士の間隔を広くし、要求の緩い方向については間隔を狭くしてもよい。
【0062】
また、前記の実施形態ではガイドシャフト72を汎用のリーマボルトによって構成し、これに螺合するナット77によって下ブラケット70のストッパを構成しているが、ガイドシャフト72はリーマボルトに限られないし、その形状も丸棒状には限定されず、例えば角柱等としてもよい。この場合には下ブラケット70の貫通孔70cも円形断面ではなく、ガイドシャフト72の外形に対応する断面形状となる。なお、ガイドシャフト72の同形部の外形は貫通孔70cと同じになるが、括れ部の外形は異なっていてもよい。
【0063】
さらに、付勢手段としては例えばブラケット70,71の間に、それらの丸穴70a,70bと同心状に大径のコイルばねを介設してもよいし、上下のブラケット70,71の間に板ばねを介設してもよい。或いは両ブラケット70,71の間にゴム弾性体を介在させてもよいし、エアシリンダを用いてもよい。
【0064】
また、付勢手段として、撓み量の増大に連れてばね定数の高くなるプログレッシブ特性のばね部材を用いてもよい。例えば、図6に示すように長短、2つのコイルばね78,79を一組にして用いれば、長い方のコイルばね78だけが圧縮されているときのばね定数は低くなり、短い方のコイルばね79も圧縮されるとステップ状にばね定数が立ち上がるようになる。
【0065】
或いは、図示は省略するが、巻き線の太さやピッチが変化する、いわゆる不等ピッチのコイルばね(プログレッシブ・コイルばね)を用いてもよい。この場合、巻き線ピッチの狭いところではその太さを細くする等、コイルばねの巻き線の太さも異ならせてもよい。
【0066】
さらに、図示は省略するが、上下のブラケット70,71の間に、両者の相対的な移動に対して減衰力を付加するように、例えば粘性ダンパや摩擦ダンパのような減衰手段を設けてもよい。こうすれば、例えばワークに加わる外力が急激に低下して、下ブラケット70が下方に押し出され、ナット77に衝突することがあってもその衝撃が緩和され、あまり大きくはならない。
【0067】
さらにまた、本発明に係るコンプライアンス装置は、前記実施形態のようにロボットアームの手首部6とチャック8との間に介設するだけでなく、図1のロボット1であれば、例えば第2アーム部5とその先端部5aとの間に介設してもよい。さらにはロボットアームに限定されず、それ以外の種々の自動組立機械にも本発明に係るコンプライアンス装置を適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
以上の如く、本発明に係るコンプライアンス装置は、簡単な構造で低コスト化が可能である上に、ワークを対象物に向けて適度に押し出しながら位置ずれも補償できるもので、ロボットのアーム等に用いて好適である。
【符号の説明】
【0069】
1 ロボット
6 アームの手首部(支持部)
7 コンプライアンス装置
70 下ブラケット(一方のブラケット)
71 上ブラケット(他方のブラケット)
72 ガイドシャフト(リーマボルト)
72a 同径部(同形部)
72b 括れ部
73 コイルばね(付勢手段)
76 フランジ付きブッシュ
76a フランジ
77 ナット(ストッパ部)
8 チャック(保持部)
9 ボルト(ワーク)
図1
図2
図3
図4
図5
図6