特許第5706688号(P5706688)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5706688
(24)【登録日】2015年3月6日
(45)【発行日】2015年4月22日
(54)【発明の名称】RAGE融合タンパク質
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20150402BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20150402BHJP
   C07K 14/705 20060101ALI20150402BHJP
   C07K 16/00 20060101ALI20150402BHJP
   A61K 38/00 20060101ALI20150402BHJP
   A61P 13/12 20060101ALN20150402BHJP
   A61P 19/02 20060101ALN20150402BHJP
   A61P 37/00 20060101ALN20150402BHJP
   A61P 17/00 20060101ALN20150402BHJP
   A61P 25/00 20060101ALN20150402BHJP
   A61P 27/02 20060101ALN20150402BHJP
   A61P 11/00 20060101ALN20150402BHJP
   A61P 3/10 20060101ALN20150402BHJP
   C12N 1/15 20060101ALN20150402BHJP
   C12N 1/19 20060101ALN20150402BHJP
   C12N 1/21 20060101ALN20150402BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20150402BHJP
【FI】
   C12N15/00 AZNA
   C07K19/00
   C07K14/705
   C07K16/00
   A61K37/02
   !A61P13/12
   !A61P19/02
   !A61P37/00
   !A61P17/00
   !A61P25/00
   !A61P27/02
   !A61P11/00
   !A61P3/10
   !C12N1/15
   !C12N1/19
   !C12N1/21
   !C12N5/00 101
【請求項の数】9
【全頁数】36
(21)【出願番号】特願2010-512391(P2010-512391)
(86)(22)【出願日】2008年6月13日
(65)【公表番号】特表2010-529860(P2010-529860A)
(43)【公表日】2010年9月2日
(86)【国際出願番号】US2008066956
(87)【国際公開番号】WO2008157378
(87)【国際公開日】20081224
【審査請求日】2011年6月9日
(31)【優先権主張番号】60/943,994
(32)【優先日】2007年6月14日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509342223
【氏名又は名称】ギャラクティカ ファーマシューティカルズ, インク.
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブレック, グレゴリー, ティー.
(72)【発明者】
【氏名】ヒルバート, デーヴィッド, エム.
【審査官】 櫛引 明佳
(56)【参考文献】
【文献】 特表2006−512900(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/017643(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
C07K 19/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのポリペプチドを含む単離された融合タンパク質であって、
該少なくとも1つのポリペプチドは:
(a)配列番号6のアミノ酸1〜301、アミノ酸24〜301、アミノ酸1〜344及びアミノ酸24〜344からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む第一アミノ酸配列と;
(b)ヒト免疫グロブリンIgG4の重鎖の定常ドメインと少なくとも95%の配列同一性を有する第二アミノ酸配列とを有する、
単離された融合タンパク質。
【請求項2】
前記第一アミノ酸配列と前記第二アミノ酸配列との間にリンカーをさらに含む、請求項1に記載の単離された融合タンパク質。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の単離された融合タンパク質と薬学的に許容可能な基剤とを含む、医薬組成物。
【請求項4】
少なくとも1つのポリペプチドを含む単離された融合タンパク質であって、
該少なくとも1つのポリペプチドは:
(a)配列番号6のアミノ酸1〜344のアミノ酸配列を含む第一アミノ酸配列と;
(b)ヒト免疫グロブリンIgG4の重鎖の定常ドメインと少なくとも95%の配列同一性を有する第二アミノ酸配列とを有する、
単離された融合タンパク質。
【請求項5】
前記融合タンパク質は配列番号6及び配列番号8からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項4に記載の単離された融合タンパク質。
【請求項6】
前記融合タンパク質は配列番号6のアミノ酸配列を含む、請求項4又は5に記載の単離された融合タンパク質。
【請求項7】
前記融合タンパク質は配列番号8のアミノ酸配列を含む、請求項4又は5に記載の単離された融合タンパク質。
【請求項8】
前記融合タンパク質のアミノ酸配列は、配列番号6からなる、請求項4に記載の単離された融合タンパク質。
【請求項9】
請求項4に記載の単離された融合タンパク質と薬学的に許容可能な基剤とを含む、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2007年6月14日付で出願された米国特許仮出願番号第60/943,994号に基づいて優先権を主張する。米国特許仮出願番号第60/943,994号の開示の全体を具体的に本明細書に引用して援用する。
【0002】
技術分野
本発明は、概して、終末糖化産物(「AGE」)に関し、具体的には終末糖化産物レセプター(「RAGE」)を含む特定の融合タンパク質に関する。本発明の融合タンパク質は、AGE及び他のRAGEリガンド(例えば、S100、HMGB1)と結合する。本発明の融合タンパク質を含む組成物(又は構成物)を用いることで、疾患を治療することができる。
【背景技術】
【0003】
終末糖化産物(AGE)は、タンパク質の非酵素的糖化や酸化によって生成される。AGEは、自己免疫性結合組織疾患等のストレスが関係する状況下で出現し、酸化又はミエロペルオキシダーゼ反応により炎症を起こした組織で生成される。AGEは糖尿病に関連する多くの合併症と密接に関わっている。AGEの蓄積に付随して、例えば、糖尿病性腎症、糸球体基底膜の肥厚、メサンギウムの拡大等の特有の構造変化が生じ、糸球体硬化症や間質性線維症に至る。長期間にわたって非糖尿病ラットにAGEを注入すると、同様の形態変化や深刻なタンパク尿が引き起こされた。糖尿病動物モデルでは、アミノグアニジン等のAGE阻害剤によって糖尿病性腎症が予防されることが示されており、近年、糖尿病患者の或る臨床試験でも同じ効果が示された。AGEはまた、糖尿病性網膜症の非常に有効な治療標的でもある。糖尿病マウス及びラットの大規模な試験によって、この疾患の治療においてAGEの形成阻害が有効であることが実証された。
【0004】
糖尿病患者では、アテローム性動脈硬化症の進行が著しく、アテローム性動脈硬化症に関連して、心血管や脳血管に起因する死亡リスクが大幅に高い。動物及び人体試験により、AGEがアテローム性動脈硬化の病変の形成及び進行に重要な役割を果たしていることが示唆されている。糖尿病患者の血管組織中に増加したAGEの蓄積は、内皮細胞、マクロファージ及び平滑筋細胞の機能の変化に関係している。
【0005】
AGEは、単球、マクロファージ、微小血管系の内皮細胞、平滑筋細胞、メサンギウム細胞及びニューロンの細胞表面レセプターと相互作用する。終末糖化産物レセプター(RAGE)は、細胞表面レセプターの免疫グロブリンスーパーファミリーの一員である。RAGEは、3つの細胞外免疫グロブリン様ドメインと、膜貫通領域と、シグナル関連細胞質ドメインとにより構成されている。RAGEは、S100/カルグラニュリン(calgranulins)、アンフォテリン(amphoterin)/HMGB1及びアミロイドフィブリル等、AGEだけでなく様々なリガンドとも結合する。RAGEは、NF−κBが関与するシグナルカスケードを介して作用する。RAGEリガンドの存在下では、RAGEの発現がアップレギュレートされるので、関節リウマチ(RA)に罹患した対象の関節では、RAGEの発現が上昇している。
【0006】
RAGEには、可溶性RAGE(sRAGE)と称される膜貫通領域を欠く、分泌型アイソフォームが含まれる。sRAGEを投与すると、創傷治癒が回復したり(非特許文献1)、糖尿病性アテローム性動脈硬化症が抑制されたりする(非特許文献2)ことが示されている。特許文献1及び2には、RAGEリガンド結合要素と免疫グロブリン要素とから成る融合タンパク質が記載されている。
【0007】
高濃度AGEに関連した疾患等、AGE関連疾患の新規な治療方法が必要とされており、本発明はこの要求等を満たすものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2004/016229号パンフレット(A2)(Wyeth,Madison,NJ)
【特許文献2】米国特許出願公開第2006/0057679号明細書(A1)(O’Keefe,T.et al.)
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Goova,et al.(2001)Am.J.Pathol.159,513−525
【非特許文献2】Park,et al.(1998)Nat Med.4(9):1025−31
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、高濃度AGEに関連した疾患を治療するための物質及び方法を提供する。本発明は、一実施形態において、少なくとも1つのポリペプチドを含む融合タンパク質であって、該少なくとも1つのポリペプチドは:(a)哺乳動物の終末糖化産物レセプター(RAGE)リガンド結合ドメインと少なくとも95%の配列同一性を有し、RAGEリガンドと結合可能な第一アミノ酸配列と;(b)ヒト免疫グロブリンIgG4の重鎖の定常ドメイン又はその断片と少なくとも95%の配列同一性を有する第二アミノ酸配列とを有し、該第一アミノ酸配列は、野生型RAGEリガンド結合ドメインに少なくとも1つの変異を含む、融合タンパク質を提供する。本発明の一実施形態において、本発明の融合タンパク質はさらに、上記第一アミノ酸配列と上記第二アミノ酸配列との間にリンカー配列を含んでいてもよい。ある実施形態において、上記RAGEリガンド結合ドメインは、哺乳動物RAGE(例えばヒトRAGE)由来であってもよい。好適な哺乳動物RAGEリガンド結合ドメインは、配列番号6のアミノ酸1〜344、又は、配列番号6のアミノ酸24〜344を含んでいてもよい。一実施形態において、本発明の融合タンパク質は、配列番号2、配列番号4、配列番号6、及び、配列番号8からなる群から選択されるアミノ酸配列を含んでいてもよい。一実施形態において、本発明の単離された融合タンパク質は、配列番号6又は配列番号8を含む。他の実施形態において、本発明の単離された融合タンパク質は、配列番号6又は配列番号8からなる。本発明のある実施形態において、本発明の融合タンパク質はさらに、上記RAGEアミノ酸配列と上記IgG4アミノ酸配列との間にリンカーを含んでいてもよい。本発明はまた、本発明の融合タンパク質をコードする核酸分子(例えば、DNA又はRNA分子)、及び、本発明の融合タンパク質をコードする核酸分子を発現する宿主細胞についても考察する。
【0011】
本発明はまた、本発明の融合タンパク質と薬学的に許容可能な賦形剤又は希釈剤とを含む医薬組成物を提供する。
【0012】
本発明は、AGEに関連した疾患の治療方法を提供する。このような疾患には、対象(例えば、ヒト等の哺乳動物)においてAGE量が増加するという特徴を有する全ての疾患が含まれる。AGE関連疾患の治療方法は、治療上効果的な量の本発明の融合タンパク質を含む医薬組成物を、AGE関連疾患に罹患した対象に投与することを含む。本発明の方法により治療可能な疾患の例としては、以下に限定されないが、糖尿病腎症、関節リウマチ及び自己免疫疾患が挙げられ、具体的には、皮膚炎、糸球体腎炎、多発性硬化症、ぶどう膜炎、自己免疫性肺炎、インスリン依存性真性糖尿病、自己免疫性眼炎、全身性紅斑性狼瘡、インスリン抵抗性、関節リウマチ、糖尿病性網膜症及び硬皮症等が挙げられる。本発明の融合タンパク質はいずれも、本発明の方法の実施に際して用いることができる。一実施形態においては、配列番号6又は配列番号8を含む融合タンパク質を用いて本発明の方法を実施してもよく、他の実施形態においては、配列番号6又は配列番号8からなる融合タンパク質を用いて本発明の方法を実施してもよい。
【0013】
本発明の他の実施形態において、本発明は、RAGEが結合するリガンドの濃度をその濃度の低下を必要とする哺乳動物(例えばヒト)において低下させる方法を提供する。このような方法は、RAGEリガンドを低下させる量の本発明の融合タンパク質を上記哺乳動物に投与することを含んでいてもよい。
【0014】
本発明は、他の実施形態において、本発明のDNA塩基配列を含む組み換え発現ベクターと;該ベクターで形質転換、形質導入又はトランスフェクトされた宿主細胞と;本発明の融合タンパク質をコードする核酸で形質転換、形質導入又はトランスフェクトされた宿主細胞を該融合タンパク質の発現に好適な条件下で培養することを含む融合タンパク質の製造方法とを提供する。
【0015】
本発明はまた、本発明の融合タンパク質又はその断片を含む組成物(又は構成物)を提供する。本発明は、ある実施形態において、放射性同位体、キレート化剤、毒素、蛍光色素、ビオチン、hisタグ(his−tags)、mycタグ(myc−tags)等のペプチドエピトープ又は糖類が、直接又は間接的に付着した本発明の融合タンパク質又はその断片を含む組成物(又は構成物)を包含する。本発明の他の実施形態には、融合タンパク質の生物学的半減期又は生物学的機能を変化させるために別のタンパク質と融合させた本発明の融合タンパク質、及び、該融合タンパク質のグリコシル化変異体が含まれる。
【0016】
本発明のこれらの態様及び他の態様は、以下の詳細な説明を参照することにより明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】ストレプトゾトシン誘発糖尿病モデルマウスにおける、白血球停滞に対する典型的なRAGE−Ig融合タンパク質の効果を示す棒グラフである。
図2A】ストレプトゾトシン誘発糖尿病モデルマウスにおける、網膜の各層での網膜血管透過性に対する典型的なRAGE−Ig融合タンパク質の効果を示す棒グラフである。
図2B】ストレプトゾトシン誘発糖尿病モデルマウスにおける、網膜の各層での網膜血管透過性に対する典型的なRAGE−Ig融合タンパク質の効果を示す棒グラフである。
図2C】ストレプトゾトシン誘発糖尿病モデルマウスにおける、網膜の各層での網膜血管透過性に対する典型的なRAGE−Ig融合タンパク質の効果を示す棒グラフである。
図2D】ストレプトゾトシン誘発糖尿病モデルマウスにおける、網膜の各層での網膜血管透過性に対する典型的なRAGE−Ig融合タンパク質の効果を示す棒グラフである。
図3】ストレプトゾトシン誘発糖尿病モデルマウスにおける、網膜のタンパク質のニトロ化に対する典型的なRAGE−Ig融合タンパク質の効果を示す棒グラフである。
図4】ストレプトゾトシン誘発糖尿病モデルマウスにおける、網膜でのICAMの発現に対する典型的なRAGE−Ig融合タンパク質の効果を示す棒グラフである。
図5A】糖尿病に罹患して10か月後の糖尿病マウスの網膜組織1mm当たりに観察される無細胞毛細血管の数に対する典型的なRAGE−Ig融合タンパク質の効果を示す棒グラフである。
図5B】糖尿病に罹患して10か月後の糖尿病マウスで観察される、毛細血管細胞1000個当たりの周皮細胞ゴースト(pericyte ghost)の数に対する典型的なRAGE−Ig融合タンパク質の効果を示す棒グラフである。
図6】糖尿病に罹患して10か月後の糖尿病マウスにおける、接触に対する反応の50%閾値に対する典型的なRAGE−Ig融合タンパク質の効果を示す棒グラフである。
図7】実施例3の実験プロトコールを示すフローチャートである。
図8】II型コラーゲン誘発関節炎モデルマウスにおける、試験動物の体重に対する典型的なRAGE−Ig融合タンパク質の効果を示す折れ線グラフである。
図9】II型コラーゲン誘発関節炎モデルマウスにおける、関節炎の発症率に対する典型的なRAGE−Ig融合タンパク質の効果を示す棒グラフである。
図10】II型コラーゲン誘発関節炎モデルマウスにおける、関節炎の発症時期に対する典型的なRAGE−Ig融合タンパク質の効果を示す棒グラフである。
図11】II型コラーゲン誘発関節炎モデルマウスにおける、関節炎の発症率に対する典型的なRAGE−Ig融合タンパク質の経時的な効果を示す折れ線グラフである。
図12】II型コラーゲン誘発関節炎モデルマウスにおける、関節炎の重症度に対する典型的なRAGE−Ig融合タンパク質の経時的な効果を示す折れ線グラフである。
図13】II型コラーゲン誘発関節炎モデルマウスにおける、関節炎に罹患した足の数に対する典型的なRAGE−Ig融合タンパク質の経時的な効果を示す折れ線グラフである。
図14】A〜Dは、II型コラーゲン誘発関節炎モデルマウスにおける、融合タンパク質量をそれぞれ増加させた場合の典型的なRAGE−Ig融合タンパク質の、関節の形態に対する効果を示す顕微鏡写真である。
図15】II型コラーゲン誘発関節炎モデルマウスにおける、滑膜炎(黒色棒)及びパンヌス(灰色棒)に対する典型的なRAGE−Ig融合タンパク質の効果を示す棒グラフである。
図16】II型コラーゲン誘発関節炎モデルマウスにおける、辺縁部の糜爛(黒色棒)及び構造変化(灰色棒)に対する典型的なRAGE−Ig融合タンパク質の効果を示す棒グラフである。
図17】II型コラーゲン誘発関節炎モデルマウスにおける、総合的な組織学的関節炎スコアに対する典型的なRAGE−Ig融合タンパク質の効果を示す棒グラフである。
図18】II型コラーゲン誘発関節炎モデルマウスにおける、関節のマトリックスタンパク質損失に対する典型的なRAGE−Ig融合タンパク質の効果を示す棒グラフである。
図19】A〜Dは、II型コラーゲン誘発関節炎モデルマウスにおける、関節のマトリックスタンパク質損失に対する典型的なRAGE−Ig融合タンパク質の効果を示す、トルイジンブルー染色切片の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
定義
【0019】
本明細書中、「終末糖化産物レセプター」即ちRAGEとは、野生型哺乳動物RAGEアミノ酸配列と実質的に同様なアミノ酸配列を有するタンパク質を意味し、特異的なリガンド−レセプター結合様式で1つ以上のRAGEリガンドと結合する機能を有する。「終末糖化産物」及び「AGE」とは、上述したように還元糖がタンパク質、脂質及び核酸の遊離アミノ基と非酵素的に反応することにより生じた分子の混成群(heterogeneous group)を意味する。
【0020】
本明細書中、「RAGEリガンド結合ドメイン」又は「RAGE−LBD」は、任意の哺乳動物RAGEタンパク質、又は、特異的なリガンド−レセプター結合様式でRAGEリガンドと結合する性質を保持した哺乳動物のRAGEタンパク質の任意の部分を意味する。具体的なRAGEリガンド結合ドメインとしては、以下に制限されないが、膜貫通性RAGEタンパク質の1つ以上の細胞外ドメインを有するポリペプチドが挙げられる。表6に関して、RAGE−LBDは、少なくとも配列番号6のアミノ酸1〜99、又はアミノ酸24〜99、又はアミノ酸1〜208、又はアミノ酸24〜208、又はアミノ酸1〜301、又はアミノ酸24〜301、又はアミノ酸1〜344、又はアミノ酸24〜344を含むことが好ましい。
【0021】
本明細書において、「単離された」とは、上記融合タンパク質が純粋であることを定義する用語であり、以下に限定されないが、細胞培養培地における融合タンパク質の発現中に存在する他のタンパク質を実質的に含んでいないことも含めて、生成の過程で伴う他のタンパク質を当該タンパク質が実質的に含んでいないことを意味する。本発明の単離されたタンパク質は、生産工程の残留タンパク質汚染物質を、例えば、1〜25質量%、20〜25質量%、15〜20質量%、10〜15質量%、5〜10質量%、1〜5質量%、又は、約2質量%未満、含んでいてもよい。しかしながら、本発明の単離されたタンパク質を含む組成物(又は構成物)は、安定剤、基剤、賦形剤又は補治療剤(co−therapeutics)として添加される他のタンパク質を含んでいてもよい。
【0022】
本明細書では、「タンパク質」及び「ポリペプチド」を同義的に用いている。
【0023】
本明細書において、疾患又は障害を「治療する」とは、対象の疾患又は障害の少なくとも1つの徴候又は症状を改善することを意味する。
【0024】
「核酸」とは、デオキシリボ核酸(DNA)や、場合によってはリボ核酸(RNA)等のポリヌクレオチドを意味する。また、上記用語は、均等物として、ヌクレオチド類似体からなるRNA又はDNA類似体、及び、下記の実施形態に適用可能なものとして、一重(センス若しくはアンチセンス)又は二重らせん構造のポリヌクレオチドも含むものであることを理解されたい。
【0025】
特に明記しない限り、本明細書では「又は」、「若しくは」及び「或いは」(or)を「及び/又は」(and/or)と同義的に用いている。
【0026】
「パーセント同一」とは、2つのアミノ酸配列間、又は、2つのヌクレオチド配列間の配列同一性を意味する。パーセント同一性は、比較するために整列させた各配列中の位置を比較することによって求めることができる。同一性パーセントは、比較した配列が共に有する部分における同一アミノ酸又は核酸の数の関数で表される。FASTA、BLAST又はENTREZ等の様々なアライメントアルゴリズム及び/又はプログラムを用いることができる。FASTA及びBLASTは、GCG配列解析パッケージ(ウィスコンシン大学(ウィスコンシン州、マディソン))の一部として入手することができ、例えばデフォルト設定で用いることができる。ENTREZは、メリーランド州ベセズダの国立保健研究所、国立医学図書館、国立バイオテクノロジー情報センターを通じて入手することができる。ある実施形態では、例えば、各アミノ酸ギャップをそれが2つの配列間の単一のアミノ酸又はヌクレオチドのミスマッチであるかの如く重みを付けるなど、ギャップウェイトを1に設定したGCGプログラムを用いて2つの配列のパーセント同一性を決定することができる。
【0027】
配列同一性は、標準配列又は標準配列のサブ配列を検査配列(例えば、ヌクレオチド配列、アミノ酸配列等)と比較することにより決定してもよい。標準配列及び検査配列を、比較ウィンドウと称される任意の数の残基にわたって最適に整列させる。最適なアライメントを得るために、付加又は欠失(ギャップ等)を検査配列へ導入してもよい。パーセント配列同一性は、同一残基が両方の配列に共通して存在する位置の数を求め、一致する位置の数を比較ウィンドウの配列の全長で除算し、100を乗算することで百分率として求められる。パーセント配列同一性を計算する際には、一致する位置の数に加えて、ギャップの数及びサイズについても考慮する。
【0028】
通常、配列同一性はコンピュータプログラムを用いて決定される。代表的なプログラムとしては、 BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)プログラムが挙げられる。BLASTは、国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI、 http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)において公衆にアクセス可能なプログラムである。このプログラムでは、検査配列のセグメントをデータベースの配列と比較することによって、マッチの統計的有意性を判定し、閾値レベルより有意なマッチだけを識別し、出力する。BLASTプログラムのバージョンとしては、ギャップを許すバージョン、例えばバージョン2.X(Altschul,et al.,Nucleic Acids Res 25(17):3389−402,1997)が好適である。本発明のタンパク質の配列と同一な配列を有するタンパク質の識別に好適な別のプログラムとしては、以下に限定されないが、PHI−BLAST(Pattern Hit Initiated BLAST,Zhang,et al.,Nucleic Acids Res 26(17):3986−90,1998)及びPSI−BLAST(Position−Specific Iterated BLAST,Altschul,et al.,Nucleic Acids Res 25(17):3389−402,1997)が挙げられる。これらのプログラムは、上記したNCBIのウェブサイトで公衆に入手可能であり、本発明における配列同一性の決定にデフォルト設定で用いてもよい。
【0029】
融合タンパク質
【0030】
本発明は、少なくとも1つのポリペプチドを含む単離された融合タンパク質であって、該少なくとも1つのポリペプチドは:(a)哺乳動物の終末糖化産物レセプター(RAGE)リガンド結合ドメインと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有し、RAGEリガンドに結合可能な第一アミノ酸配列と;(b)ヒト免疫グロブリンIgG4の重鎖の定常ドメイン又はその断片と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有する第二アミノ酸配列とを有し、該第一アミノ酸配列は、野生型RAGEリガンド結合ドメインに少なくとも1つの変異、又は少なくとも2つの変異、又は少なくとも3つの変異、又は1〜4個の変異、又は1〜10個の変異を含む、単離された融合タンパク質を提供する。第一アミノ酸配列に生じていてもよい変異としては、タンパク質分解に対するRAGEリガンド結合ドメインの耐性を向上させることなどにより、融合タンパク質の安定性を向上させる変異、例えばフリン様プロテアーゼに対する融合タンパク質の耐性を向上させる変異などが挙げられる。第二アミノ酸配列の断片としては、それが一部を形成している融合タンパク質の血清半減期を、第一アミノ酸配列単独での血清半減期と比較して延長する性質を保持した断片などが好適である。第一アミノ酸配列及び第二アミノ酸配列は、ヒトRAGEリガンド結合ドメイン及びヒトIgG4由来であることが好ましい。
【0031】
本発明の融合タンパク質は、RAGEリガンド結合ドメイン、及び、IgG4定常ドメイン又はその断片に加えて、1つ以上のアミノ酸配列を含んでいてもよい。例えば、本発明の融合タンパク質では、RAGEリガンド結合ドメインとIgG配列との間にリンカー配列が挿入されていてもよい。本発明の融合タンパク質は、1つ以上のタグ配列、例えば6−ヒスチジン等の精製タグ配列を含んでいてもよい。本発明の融合タンパク質は、例えばc−myc(EQKLISEEDL(配列番号9))、インフルエンザ赤血球凝集素タンパク質のエピトープタグ由来の赤血球凝集素(YPYDVPDYA(配列番号10))等の市販の抗体に認識される1つ以上のエピトープを含んでいてもよい。
【0032】
本発明の実施に際して、当該技術分野で公知の任意の哺乳動物RAGEタンパク質を用いることができる。変異可能で、融合タンパク質の第一アミノ酸配列として使用可能なリガンド結合ドメインを同定するために、RAGEタンパク質の細胞外ドメインを用いることが好ましい。哺乳動物RAGEタンパク質の好適な例としては、以下に限定されないが、霊長類、ヒト(例えば、GenBank accession no.NP_001127及びNP_751947)、マウス(例えば、GenBank accession no.NP_031451)、イヌ(例えば、GenBank accession no.AAQ81297)、ラット(例えば、GenBank accession no.NP_445788)、ネコ、ウシ(例えば、GenBank accession no.AAI20128)、ヒツジ、ウマ及び豚(GenBank accession no.AAQ73283)のRAGEドメインが挙げられる。
【0033】
本発明では、野生型配列に対して1つ以上の変更又は修飾を含むRAGEアミノ酸配列を用いてもよい。このような変更又は修飾としては、以下に限定されないが、点突然変異、N末端の欠失、C末端の欠失、内部欠失、及び、それらの組み合わせが挙げられる。得られるタンパク質が生物活性(例えば、1つ以上のRAGEリガンドに結合する性質)を保持する限り、本発明で使用するRAGE配列に任意の変更又は修飾が導入されてもよい。本発明の融合タンパク質としてはまた、以下に限定されないが、第一アミノ酸配列が、結合ドメインに固有のグリコシル化パターンを付随させていても、付随させていなくてもよい哺乳動物のRAGEリガンド結合ドメイン由来である融合タンパク質等、内因性グリコシル化パターンを有するもの、又は、有さないものが挙げられる。
【0034】
本発明の実施に際し、任意の好適なIgGのFc領域を用いることができ、例えば、GenBank accession no.AAH25985のアミノ酸残基149〜473等、IgG4分子由来のものが好ましい。本発明で使用するIgG領域はIgG4のFc領域であってもよく、IgG4分子のCH2及びCH3領域を1つ以上含んでいてもよい。
【0035】
好適な融合タンパク質としては、例えば以下の表のものが挙げられる。
【0036】
表1に、ヒトRAGE−IgG4 Fc融合タンパク質遺伝子配列のヌクレオチド配列を示す。
【0037】
表1:ヒトRAGE−IgG4 Fc融合遺伝子配列(配列番号1)
【0038】
【表1】
【0039】
ボールド体はRAGEシグナル配列のコード配列であり、標準書体はヒトRAGEのコード配列である。また、下線部はIgG4のFc領域のコード配列である。
【0040】
表2:ヒトRAGE−IgG4 Fc融合タンパク質のアミノ酸配列(配列番号2)
【0041】
【表2】
【0042】
ボールド体はRAGEシグナル配列のアミノ酸配列であり、標準書体はヒトRAGEのアミノ酸配列である。また、下線部はIgG4のFc領域のアミノ酸配列である。
【0043】
表3:ヒトRAGE−リンカー−IgG4 Fc融合遺伝子配列(配列番号3)
【0044】
【表3】
【0045】
ボールド体はRAGEシグナル配列のコード配列であり、標準書体はヒトRAGEのコード配列である。また、二重下線部はペプチドリンカーのコード配列であり、一重下線部はIgG4のFc領域のコード配列である。
【0046】
表4:ヒトRAGE−リンカー−IgG4 Fc融合タンパク質のアミノ酸配列(配列番号4)
【0047】
【表4】
【0048】
ボールド体はRAGEシグナル配列のアミノ酸配列であり、標準書体はヒトRAGEのアミノ酸配列である。また、二重下線部はペプチドリンカーのアミノ酸配列であり、一重下線部はIgG4のFc領域のアミノ酸配列である。
【0049】
表5:ヒトRAGE変異体−IgG4 Fc融合遺伝子配列(配列番号5)
【0050】
【表5】
【0051】
ボールド体はRAGEシグナル配列のコード配列であり、標準書体はヒトRAGE変異体のコード配列である。また、波状下線部のボールド体は変異体hRAGE配列に導入された点突然変異部位であり、下線部はIgG4のFc領域のコード配列である。
【0052】
表6:ヒトRAGE変異体−IgG4 Fc融合タンパク質のアミノ酸配列(配列番号6)
【0053】
【表6】
【0054】
ボールド体はRAGEシグナル配列のアミノ酸配列であり、標準書体はヒトRAGE変異体のアミノ酸配列である。また、波状下線部のボールド体は変異体hRAGEに導入された点突然変異部位であり、下線部はIgG4のFc領域のアミノ酸配列である。
【0055】
表7:ヒトRAGE変異体−リンカー−IgG4 Fc融合遺伝子配列(配列番号7)
【0056】
【表7】
【0057】
ボールド体はRAGEシグナル配列のコード配列であり、標準書体はヒトRAGE変異体のコード配列である。また、波状下線部のボールド体は変異体hRAGE配列に導入された点突然変異部位であり、二重下線部はペプチドリンカーをコードする配列である。また、下線部はIgG4のFc領域のコード配列である。
【0058】
表8:ヒトRAGE変異体−リンカー−IgG4 Fcのアミノ酸配列(配列番号8)
【0059】
【表8】
【0060】
ボールド体はRAGEシグナル配列のアミノ酸配列であり、標準書体はヒトRAGE変異体のアミノ酸配列である。また、波状下線部のボールド体は変異体hRAGEに導入された点突然変異部位であり、二重下線部はペプチドリンカーのアミノ酸配列である。また、下線部はIgG4のFc領域のアミノ酸配列である。
【0061】
RAGE融合タンパク質の発現
本発明の融合タンパク質は、例えば真核生物発現系、バクテリア発現系、ウィルス発現系等、当該技術分野で公知の任意のタンパク質発現系で生成することができる。本発明の融合タンパク質の発現には、様々な宿主発現ベクター系を利用することができる。このような宿主系は、媒介物(vehicle)であって、本発明の融合タンパク質は、そこで生成され、その後そこから精製される。このような系としては、以下に限定されないが、バクテリア、酵母等の微生物、昆虫細胞、又は、植物細胞が挙げられる。酵母又は哺乳動物の発現系(例えばCOS−7細胞)で発現するRAGEの分子量及びグリコシル化パターンは、発現系に応じて、天然分子と類似していてもよく、わずかに異なっていてもよい。大腸菌等のバクテリアでRAGE DNAを発現させると、非グリコシル化分子が得られる。昆虫細胞中でバキュロウィルス発現系を用いることにより、グリコシル化パターンが異なるようにしてもよい。不活性化N−グリコシル化部位を有する哺乳動物RAGEの機能的突然変異類似体は、オリゴヌクレオチドの合成及び結合、又は、部位特異的突然変異技術により生成することができる。これらの類似体タンパク質は、酵母発現系を用いて、均質な還元糖型で高収率に生成することができる。
【0062】
当該技術分野において任意の公知方法により、本発明の融合タンパク質をコードする核酸分子を得ることができ、このポリヌクレオチドのヌクレオチド配列を決定することができる。本明細書の記述、公知のRAGEポリペプチド配列、その同定された又は同定可能なリガンド結合要素、及び、IgGの重鎖の定常ドメインの公知の配列を考慮して、上記ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を、当該技術分野において周知の方法により決定することができる。即ち、本発明の融合タンパク質をコードする核酸が形成されるように、特定のアミノ酸をコードすることが知られているヌクレオチドコドンを組み合わせてもよい。用いる発現系に基づいて、例えば、発現系により多く存在するtRNA分子に相当するコドンを選択するなどして、ヌクレオチドコドンを選択してもよく、これにより、より高濃度の融合タンパク質を発現させてもよい。融合タンパク質をコードするこのようなポリヌクレオチドは、化学的に合成されたオリゴヌクレオチドから組み立てられてもよい(例えばKutmeier et.al.Biotechniques 17:242(1994)に記載)。その際、簡潔に説明すると、融合タンパク質をコードする配列の一部を含む重複オリゴヌクレオチドの合成と、これらのオリゴヌクレオチドのアニーリング及び結合と、結合したオリゴヌクレオチドのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による増幅とを行う。
【0063】
本発明の融合タンパク質(融合タンパク質断片若しくはその変異体を含むか、融合タンパク質断片若しくはその変異体からなる他の分子も包含する)の組み換え発現では、融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターの構築が必要な場合がある。本発明の融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドが得られたならば、当該技術分野において周知の技術を用いた組換えDNA技術により、融合タンパク質の生成に用いるベクターを生成することができる。また、RAGE−Fcコード配列を含むこのような発現ベクターは、例えばリボソーム結合部位(即ち、コザック配列)、内部リボソーム進入部位(IRES)、ポリアデニル化部位等の適切な転写及び翻訳調節シグナル/配列を含んでいてもよい。
【0064】
本発明の融合タンパク質をコードする核酸分子を複製欠陥レトロウィルスベクター(例えば、モロニーマウス白血病ウィルス(MLV)又はHIV由来ベクター)を利用して哺乳動物細胞へ移し、水疱性口内炎ウィルスGタンパク質(VSV−G)でシュードタイプ化することにより、本発明の融合タンパク質をコードする核酸分子の単一コピーを安定して分裂中の細胞へ挿入してもよい。レトロウィルスベクターは、コードする遺伝子をRNAとして運搬する。このRNAは、細胞に進入した後、DNAに逆転写され、宿主細胞のゲノムに安定して組み込まれる。単一細胞に複数の遺伝子を挿入することにより、融合タンパク質の発現及び分泌を高めてもよい。また、複数回感染させることによって、組み込まれた遺伝子コピーの数を増加させ、融合タンパク質の発現量を増加させてもよい。融合タンパク質をコードする組み込まれた遺伝子は、ゲノム内に存在するため、細胞分裂を通して細胞内で維持される。
【0065】
本発明は、ある実施形態において、本発明の融合タンパク質を発現する安定した細胞系を提供する。タンパク質発現能の高い安定した哺乳動物細胞系を迅速に生成するための好適な方法の1つとして、GPExTM発現系(Gala Biotech,Catalent Pharma Solutions(ウィスコンシン州、ミドルトン)の一事業体,Bleck,Gregory T.,Bioprocessingjournal.com September/October 2005 p1−7)を用いることが挙げられる。このような方法では、MMLVに基づき複製欠陥シュードタイプ化レトロウィルスベクターを生成し、該ベクターを哺乳動物細胞(例えばCHO細胞)に形質導入することが必要な場合がある。ベクターを細胞のゲノムに組み込むことで、安定した細胞系を形成することができる。
【0066】
単離された融合タンパク質の精製
本発明の単離された融合タンパク質は、好適な宿主/ベクター系を培養し、本発明のDNA塩基配列の組換え翻訳生成物を発現させることによって生成することができる。当該DNA塩基配列の組換え翻訳生成物は、当該技術分野で周知の技術により、培養培地又は細胞抽出物から精製される。
【0067】
まず初めに、例えば、培養培地に組換えタンパク質を分泌する系から採取した上清をアミコン(Amicon)又はミリポアペリコン(Millipore Pellicon)限外濾過装置等の市販のタンパク濃度フィルタを用いて濃縮することができる。この濃縮工程の後、濃縮物を好適な精製マトリックスに適用してもよい。例えば、好適な親和性マトリックスは、例えば、AGE、又はレクチン、又はプロテインA、又はプロテインGを含んでいてもよく、或いは、好適な支持体に結合した抗体分子を含んでいてもよい。また、例えば、ペンダント・ジエチルアミノエチル(DEAE)基を有するマトリックス又は基質等の陰イオン交換樹脂を用いてもよい。上記マトリックスは、アクリルアミド、アガロース、デキストラン、セルロース、又は、タンパク質精製において広く用いられるその他の種類であってもよい。或いは、陽イオン交換工程を行ってもよい。好適な陽イオン交換体としては、スルホプロピル基又はカルボキシメチル基を含む各種不溶性マトリックスが挙げられ、スルホプロピル基が好ましい。
【0068】
通常、バクテリアの培養で生成された組換えタンパク質は、細胞ペレットから初期抽出を行った後、濃縮、塩析、水性イオン交換及びサイズ排除クロマトグラフィーのうち、1つ以上の工程を経て単離される。最終的に、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を最終精製工程として行ってもよい。組換え哺乳動物RAGEの発現に用いる微生物細胞は、凍結融解サイクル、超音波処理、機械的破壊又は細胞溶解剤の使用等、任意の簡便な方法により破壊することができる。
【0069】
本発明の融合タンパク質を分泌タンパク質として発現する酵母の発酵では、精製が非常に容易である。大規模発酵によって得られる分泌組換えタンパク質は、Urdalら(J.Chromatog.296:171,1984)により開示された方法に類似した方法によって精製することができる。この引用文献には、2回連続して逆層HPLC工程を行い、分取HPLCカラムで組換えヒトGMCSFを精製することが記載されている。
【0070】
医薬組成物
本発明の融合タンパク質は、それを必要とする対象への投与に好適なように処方されてもよく、例えば、医薬組成物として調剤されてもよい。本発明の組成物は、1つ以上の薬学的に許容可能な基剤、賦形剤又は希釈剤を含んでいてもよい。本明細書中、「薬学的に許容可能な基剤」は、生理学的に適合性のあるあらゆる溶媒、分散媒、コーティング剤、抗菌及び抗真菌剤、並びに、等張化物質及び吸収遅延剤等を含む。一実施形態において、上記基剤は非経口的投与に適している。上記基剤は、中枢神経系(例えば、髄腔内又は脳内)への投与に適したものであってもよく、或いは、静脈内、皮下、腹腔内又は筋内投与に適したものであってもよい。他の実施形態において、上記基剤は経口投与に適している。薬学的に許容可能な基剤としては、無菌水溶液又は分散液、及び、無菌注射溶液又は分散液の即時調製用の無菌粉末が挙げられる。薬学的活性を有する物質に対してこのような媒体及び薬品を使用することは、当該技術分野において周知である。本発明の融合タンパク質と適合性がないものを除き、任意の公知の媒体又は薬品が本発明の医薬組成物に使用されると考えられる。また、別の活性化合物を上記組成物に配合してもよい。
【0071】
好適な基剤は通常、使用する投与量及び濃度において、受容者に無毒である。通常、本発明の医薬組成物を調剤する際には、緩衝剤、アスコルビン酸等の酸化防止剤、低分子量(約10残基未満)ポリペプチド、タンパク質、アミノ酸、グルコース、トレハロース、ショ糖又はデキストリン等の炭水化物、EDTA等のキレート剤、グルタチオン及び他の安定剤、並びに、賦形剤の1つ以上と本発明の融合タンパク質とを組み合わせることとなる。中性緩衝食塩水、又は、同種血清アルブミンと混合した食塩水が、適切な希釈剤の例として挙げられる。
【0072】
本発明の融合タンパク質の治療としての投与
本発明では、本発明の融合タンパク質を、それを必要とする対象(例えば、哺乳動物、特にヒト)に、本発明の融合タンパク質と薬学的に許容可能な希釈剤又は基剤とを含む医薬組成物の形態で投与することが意図されている。本発明はまた、このような組成物によってヒトの疾患を治療する方法を提供する。
【0073】
本発明の方法は、典型的には、薬学的に有効な量の本発明の融合タンパク質を含む医薬組成物を投与することを含む。使用する薬学的に有効な量は、疾患の状態、個人の年齢、性別及び体重等の要因によって異なり得る。
【0074】
本発明の融合タンパク質の薬学的に有効な量は、対象の体重1kg当たり約1μg〜約500mgであってもよく、対象の体重1kg当たり約10μg〜約500mgであってもよく、対象の体重1kg当たり約100μg〜約500mgであってもよく、対象の体重1kg当たり約1mg〜約500mgであってもよく、対象の体重1kg当たり約10mg〜約500mgであってもよく、対象の体重1kg当たり約100mg〜約500mgであってもよく、対象の体重1kg当たり約100μg〜約25mgであってもよく、対象の体重1kg当たり約1mg〜約25mgであってもよく、対象の体重1kg当たり約5mg〜約25mgであってもよく、対象の体重1kg当たり約10mg〜約25mgであってもよく、対象の体重1kg当たり約15mg〜約25mgであってもよく、対象の体重1kg当たり約100μg〜約10mgであってもよく、対象の体重1kg当たり約1mg〜約10mgであってもよく、対象の体重1kg当たり約2.5mg〜約10mgであってもよく、対象の体重1kg当たり約5mg〜約10mgであってもよく、又は、対象の体重1kg当たり約7.5mg〜10mgであってもよい。
【0075】
ある実施形態では、本発明の融合タンパク質の薬学的に有効な量は、対象の体重1kg当たり0.5mgであってもよく、対象の体重1kg当たり1mgであってもよく、対象の体重1kg当たり2mgであってもよく、対象の体重1kg当たり3mgであってもよく、対象の体重1kg当たり4mgであってもよく、対象の体重1kg当たり5mgであってもよく、対象の体重1kg当たり6mgであってもよく、対象の体重1kg当たり7mgであってもよく、対象の体重1kg当たり8mgであってもよく、対象の体重1kg当たり9mgであってもよく、又は、対象の体重1kg当たり10mgであってもよい。
【0076】
単位投与形態は、治療対象である哺乳動物に対する単位投薬として好適な物理的に独立した単位を意味し、各単位は、所望の治療効果が得られるように算出された所定量の本発明の融合タンパク質を、必要な医薬用基剤とともに含んでいる。本発明の融合タンパク質の単位投与形態は、約1mg〜約1000mgであってもよく、約25mg〜約1000mgであってもよく、約50mg〜約1000mgであってもよく、約100mg〜約1000mgであってもよく、約250mg〜約1000mgであってもよく、約500mg〜約1000mgであってもよく、約100mg〜約500mgであってもよく、約200mg〜約500mgであってもよく、約300mg〜約500mgであってもよく、又は、約400mg〜約500mgであってもよい。本発明の融合タンパク質の単位投与量は、約100mg、200mg、300mg、400mg、500mg、600mg又は700mgであってもよい。
【0077】
本発明の組成物(又は構成物)は、本発明の融合タンパク質を組成物の総重量に対して約0.1重量%〜約20重量%の濃度で含有してもよく、約0.1重量%〜約18重量%、約0.1重量%〜約16重量%、約0.1重量%〜約14重量%、約0.1重量%〜約12重量%、約0.1重量%〜約10重量%、約0.1重量%〜約8重量%、約0.1重量%〜約6重量%、約0.1重量%〜約4重量%、約0.1重量%〜約2重量%、約0.1重量%〜約1重量%、約0.1重量%〜約0.9重量%、約0.1重量%〜約0.8重量%、約0.1重量%〜約0.7重量%、約0.1重量%〜約0.6重量%、約0.1重量%〜約0.5重量%、約0.1重量%〜約0.4重量%、約0.1重量%〜約0.3重量%、又は、約0.1重量%〜約0.2重量%の濃度で含有してもよい。
【0078】
本発明の医薬組成物は、1つ以上の本発明の融合タンパク質を組成物の総重量に対して、約1重量%〜約20重量%の濃度で含有してもよく、約1重量%〜約18重量%、約1重量%〜約16重量%、約1重量%〜約14重量%、約1重量%〜約12重量%、約1重量%〜約10重量%、約1重量%〜約9重量%、約1重量%〜約8重量%、約1重量%〜約7重量%、約1重量%〜約6重量%、約1重量%〜約5重量%、約1重量%〜約4重量%、約1重量%〜約3重量%、又は、約1重量%〜約2重量%の濃度で含有してもよい。本発明の医薬組成物は、1つ以上の本発明の融合タンパク質を組成物の総重量に対して、約0.1重量%の濃度で含有してもよく、約0.2重量%、約0.3重量%、約0.4重量%、約0.5重量%、約0.6重量%、約0.7重量%、約0.8重量%、約0.9重量%、約1重量%、約2重量%、約3重量%、約4重量%、約5重量%、約6重量%、約7重量%、約8重量%、又は、約9重量%の濃度で含有してもよい。
【0079】
最良の治療効果が得られるように投与計画を調整することができる。例えば、一個のボーラスを投与してもよく、数回に分けて時間をかけて投与してもよい。或いは、治療状況の緊急度に応じて投与量を増減させてもよい。投与を容易に且つ均一な量で行うために、投与単位形態で非経口組成物を調剤することが特に有利である。本発明の組成物は、静脈内、筋肉内、皮下への注射により投与されるように調剤されてもよい。ある実施形態において、本発明の組成物は、皮下又は筋肉内に投与されてもよい。
【0080】
ある実施形態において、投与計画は、例えば毎週投与する等、繰り返し投与することとしてもよい。治療計画は、一定期間(例えば4週間)にわたって毎週投与した後、低頻度の「維持」投与計画(例えば、月1回、又は、隔月)を実施することとしてもよい。所望の治療結果が得られるように、投与計画を調整してもよい。
【0081】
本発明の方法には、1つ以上の本発明の融合タンパク質を含む医薬組成物を有効量投与することを含む、ヒトのAGE依存炎症応答を抑制する方法が含まれる。
【0082】
本発明の方法は、1つ以上の本発明の融合タンパク質を含む医薬組成物を投与することを含む、AGE関連生物活性を抑制する方法を含む。上述したように、AGEは自己免疫疾患等の様々な疾患又は症状に関係している。本発明の融合タンパク質を用いて治療、改善、検知、診断、予見又はモニタリング可能な自己免疫疾患又は症状としては、以下に限定されないが、皮膚炎、糸球体腎炎、多発性硬化症、ぶどう膜炎、自己免疫性肺炎、インスリン依存性真性糖尿病、自己免疫性眼炎、全身性紅斑性狼瘡、インスリン抵抗性、関節リウマチ、糖尿病性網膜症、及び、硬皮症が挙げられる。
【0083】
本発明の方法によって治療又は予防され得るその他の疾患は、概して、罹患した細胞でRAGE若しくは1つ以上のRAGEリガンドの発現の増加が認められるあらゆる疾患、又は、RAGEの機能の低減により治療可能な(即ち、1つ以上の症状が消失又は改善され得る)あらゆる疾患などといった特徴を有するものである。例えば、RAGEとRAGEリガンドとの間の相互作用を阻害する薬品を投与することにより、RAGE機能を低減することが可能である。
【0084】
RAGEの発現の増加は、糖尿病性血管症、ネフロパシー、網膜症、ニューロパシーの他、アルツハイマー病及び血管壁の免疫/炎症反応といった異常等、幾つかの病理学的状態に関連している。RAGEリガンドは、関節炎(関節リウマチ等)を含む種々の炎症性異常が生じた組織で生成される。組織内でのアミロイドの沈着は、細胞に様々な毒作用を及ぼすものであり、アミロイド症と称される疾患に特有である。RAGEは、アミロイドβペプチド、βアミロイド(Abeta)、アミリン、血清アミロイドA及びプリオン由来ペプチドに見られるようなベータシート細繊維物質に結合する。RAGEはまた、アミロイド構造を有する組織において、高濃度に発現する。このように、RAGEはアミロイド異常に関連しており、RAGE−アミロイド相互作用は、ニューロンの変性に至る酸化ストレスを引き起こすと考えられている。
【0085】
種々のRAGEリガンド、とりわけS100/カルグラニュリン(calgranulins)、及び、アンフォテリン(Amphoterin)(HMGB)ファミリーのRAGEリガンドが、炎症を起こした組織で生成される。この所見は、敗血症等で生じるリポ多糖類による攻撃に対する応答等の急性炎症、及び、各種関節炎、潰瘍性大腸炎、炎症性腸疾患等の慢性炎症の両方に当てはまる。心疾患、とりわけアテローム性プラークに起因する心疾患においても、かなりの炎症性成分が存在すると考えられる。このような疾患には、閉塞性、血栓性、塞栓性疾患(それぞれの例として順に、アンギナ、脆弱性プラーク疾患、塞栓性発作など)が含まれる。腫瘍細胞でも、RAGEリガンド、特にアンフォテリンの発現が増加することが示されており、癌もまたRAGE関連疾患であることが示されている。更に、慢性炎症の酸化作用及び他の特徴は、特定の腫瘍の発生に寄与する要因となり得る。
【0086】
AGEは、関節リウマチや他の炎症性疾患の治療標的である。
【0087】
従って、本発明の組成物で治療され得るRAGE関連疾患としては、上記で説明した自己免疫疾患に加えて、アミロイド症(アルツハイマー病等)、クローン病、急性炎症性疾患(敗血症等)、ショック(敗血症性ショック、出血性ショック等)、心疾患(アテローム性動脈硬化症、発作、脆弱性プラーク疾患、アンギナ及び再狭窄症等)、糖尿病(特に糖尿病患者における心疾患)、糖尿病の合併症、プリオン関連疾患、癌、脈管炎、壊死性脈管炎等のその他の脈管炎症候群、ネフロパシー、網膜症及びニューロパシーが挙げられる。
【0088】
以下の実施例は、本発明の範囲を何ら制限するものではなく、本発明を説明する目的のためにのみ示されているものである。
【実施例】
【0089】
以下の実施例では、マウスRAGE(アミノ酸残基1〜342)の細胞外ドメインをマウスIgG2aの重鎖のFC領域のヒンジドメイン、CH2ドメイン及びCH3ドメインと融合させた融合タンパク質を用いて、マウス実験を行った。GPExTM発現系を用いて、CHO細胞で構築物を発現させた。用いたマウスRAGE配列の配列を以下の表に示す。
【0090】
表9:マウスRAGEの配列(配列番号11)
【0091】
【表9】
RAGEシグナルペプチド=一重下線
RAGE細胞外ドメイン=下線なし
マウスIgG2aヒンジ領域=二重下線
マウスIgG2a CH2領域=破線
マウスIgG2a CH3領域=波状下線
【0092】
実施例1
マウスにおけるストレプトゾトシン誘発糖尿病に対する本発明のRAGE融合タンパク質の効果
【0093】
マウスにおけるストレプトゾトシン誘発糖尿病は、糖尿病により誘発された網膜の変化を調査するモデルとして当該分野で認められている(Obrosova IG,Drel VR,Kumagai AK,Szabo C,Pacher P,Stevens MJ.Early diabetes−induced biochemical changes in the retina:comparison of rat and mouse models.Diabetologia.2006 Oct:49(10):2525−33参照)。
【0094】
本実験では、各群15頭のC57BL/6マウスからなる以下の5治療群を用いた:1)非糖尿病対照;2)糖尿病を誘発させるために、調査開始前に5日間連続して45mg/kgのストレプトゾトシンで処理したマウスからなる糖尿病対照;3)1日当たり10μgのmRAGE−IgG2a Fcを週3回腹腔内注射したストレプトゾトシン処理マウス;4)1日当たり100μgのmRAGE−IgG2a Fcを週3回腹腔内注射したストレプトゾトシン処理マウス;及び、5)1日当たり300μgのmRAGE−IgG2a Fcを週3回腹腔内注射したストレプトゾトシン処理マウス。
【0095】
調査では、マウスの体重、血糖、糖化ヘモグロビン(GHb)、蛋白尿、及び、感覚神経機能の尺度として触覚感度を評価した。調査終了時点でマウスを屠殺し、蛍光プローブを用いて網膜血管透過性、網膜毛細血管への白血球の付着、及び、NF−κBにより調節されるタンパク質の発現(COX−2、ICAM、iNOS)について評価した。
【0096】
2か月間長期調査の結果
【0097】
C57Bl/6Jマウスにおける、糖尿病に誘発された網膜の生理学的変化及び代謝の変化の進行に対するRAGE−Ig融合タンパク質の効果を調査した。融合タンパク質を3つの異なる濃度(10μg、100μg及び300μg)で1週間に3回、腹腔内に投与した。いずれの投与量でも、糖尿病マウスの体重増加や健康全般に対して薬剤の副作用は認められなかった。非絶食時血糖値は、非糖尿病対照群が155±24mg/dl(平均±標準偏差)、糖尿病対照群が358±38、糖尿病+10μgRAGE−Ig融合タンパク質群が417±36、糖尿病+100μgRAGE−Ig融合タンパク質群が376±36、及び、糖尿病+300μgRAGE−Ig融合タンパク質群が370±55であった。
【0098】
短期調査では、網膜症に関連した以下のパラメータを調査した。(1)白血球停滞、(2)網膜血管からの内因性アルブミンの透過性、(3)網膜のタンパク質のニトロ化、及び、(4)網膜でのICAM及びCOX−2の発現。
【0099】
1.白血球停滞
【0100】
方法:
糖尿病罹患2カ月で、心臓カテーテルを用いてPBSを完全に潅流させることにより、麻酔をかけた動物の血管から血液を除去した。その後、先行文献に記載されているように、この動物をフルオレセイン結合コンカナバリンAレクチン(PBS中20μg/ml;ベクターラボラトリーズ(カリフォルニア州、バーリンゲーム))で潅流した(Joussen et al.,FASEB J.2004 Sep;18(12):1450−2参照)。平面状に載置した網膜を蛍光顕微鏡検査法によって撮像し、血管壁に付着した白血球を計数した。
【0101】
結果:
糖尿病に罹患して2カ月のマウスでは、非糖尿病群と比較し、白血球停滞の有意な増加が認められた(P<0.05)。いずれのRAGE−Ig融合タンパク質治療群でも、白血球停滞は阻害されていなかった(図1参照)。
【0102】
2.血管透過性
【0103】
方法:
糖尿病に罹患して2カ月後、目を凍結切片(10μm)処理し、該凍結切片を10分間メタノールで固定し、PBSで4回を洗浄した。ヒツジの抗マウス血清アルブミン(Abcam(マサチューセッツ州、ケンブリッジ);AB8940;1:2000稀釈)で、各切片を2時間インキュベートした。洗浄後、FTIC標識二次抗体(AB6743;1:1000稀釈)で各切片を90分間インキュベートした。網膜の4層(内網状層、内顆粒層、外網状層、外顆粒層)それぞれの異なる3つの位置における平均蛍光発光量を、蛍光顕微鏡検査法により測定した。10回の無作為測定の平均を各位置の蛍光発光量とした。また、各網膜層内のそれぞれの3つの異なる位置の蛍光発光量の平均を、各網膜層における蛍光発光量とした。
【0104】
結果:
【0105】
糖尿病群の結果では、調査した網膜の4層それぞれにおいて、網膜の非血管部分の蛍光発光が有意に増加していた(即ち、アルブミンが血管から漏れたことに起因する)。結果を図2に示す(2A:内網状層、2B:内顆粒層、2C:外網状層、2D:外顆粒層)。内顆粒層及び外顆粒層のアルブミンの評価では、あえて核間の狭い範囲で測定したので、得られた数字は、測定を妨害する核を含まない網状層のものほどは大きいものにはなっていないであろう。
【0106】
3.網膜のタンパク質のニトロ化
【0107】
方法:
糖尿病に罹患して2か月後、網膜を単離し、ホモジネートした。各動物のタンパク質ホモジェネート50μgをニトロセルロース膜上にブロットすることで、ドットブロットを行った。膜をミルク(5%)でブロックし、洗浄し、抗ニトロチロシン(Upstate Biotechnology,Inc.#05−233;1:500稀釈)を用いて2時間免疫染色した後、二次抗体(Bio−Radヤギ抗マウスIgG−HRP結合体;1:1000稀釈)で1時間染色した。徹底的に洗浄した後、抗体によって検出された免疫染色を、増強化学発光法(ECL,Santa Cruz Biotechnology(カリフォルニア州、サンタクルーズ))で可視化した。免疫染色依存性化学発光は、フィルム上に記録されたものであって、免疫染色された点の密度が定量化される。結果を非糖尿病対照群で検出された値の百分率で示す。
【0108】
結果:
【0109】
結果を図3に示す。糖尿病マウスから採取した網膜のホモジェネートでは、タンパク質のニトロ化が予想通り増加していた。この翻訳後修飾は、治療によって投与量依存的に阻害された。タンパク質のニトロ化は、酸化ストレス及びニトロ化ストレス(nitrative stress)両方のパラメータとみなされる。
【0110】
4.網膜でのICAM及びCOX−2の発現
【0111】
方法:
網膜を単離し、超音波で処理し、上清を全網膜抽出物として使用した。サンプル(50μg)を、SDS−PAGEによって分画し、ニトロセルロース膜と、Tween20(0.02%)と脱脂乳(5%)とを含有するトリス緩衝生理食塩水でブロックされた膜とにエレクトロブロットした。ICAM−1に対する抗体(1:200稀釈;Santa Cruz Biotechnology)及びCOX−2に対する抗体を塗布した後、二次抗体を1時間塗布した。洗浄後、増強化学発光法により結果を可視化した。
【0112】
結果:
【0113】
結果を図4に示す。内皮細胞でのICAM−1の発現は、血管壁への白血球の付着(白血球停滞)において重大な役割を果たすので、本発明者らは網膜でのICAM−1の発現に対する糖尿病及び治療の影響を測定した。糖尿病に罹患して2か月後では、網膜でのICAM−1の発現が有意に増加していた。RAGE−Ig融合タンパク質を投与することによって、投与量依存的にICAMの発現が減少し、最大投与量ではこの発現が有意に阻害された。
【0114】
COX−2の分子量と一致する免疫染色されたバンドの発現は、糖尿病個体では増強されず、治療を受けた動物では変化が無かった(図示せず)。
【0115】
この短期調査で用いたRAGE−Ig融合タンパク質の効果に関する評価項目は全て、糖尿病性網膜症の初期(変性)段階の進行に関連することが確認されていたものを選択した。即ち、糖尿病によって誘発される網膜の毛細血管の変性を阻害することが確認された様々な治療法において、これらの欠陥も同様に阻害されていた。
【0116】
RAGEを阻害することにより、網膜の血管透過性及びニトロ化ストレスに関連した異常が阻害された。ニトロ化ストレスは、酸化ストレスのマーカーとも見なされる。しかしながら、RAGE阻害剤では、白血球停滞に関連した異常は阻害されなかった。
【0117】
実施例2
マウスにおける長期的なストレプトゾトシン誘発糖尿病に対する本発明のRAGE融合タンパク質の効果
【0118】
マウスにおけるストレプトゾトシン誘発糖尿病は、糖尿病により誘発された網膜の変化を調査するモデルとして当該分野で認められている(Obrosova IG,Drel VR,Kumagai AK,Szabo C,Pacher P,Stevens MJ.Early diabetes−induced biochemical changes in the retina:comparison of rat and mouse models.Diabetologia.2006 Oct:49(10):2525−33参照)。
【0119】
長期調査では、各群25頭のC57BL/6マウスからなる以下の5治療群を用いた:1)非糖尿病対照;2)糖尿病を誘発させるために、調査開始前に5日間連続して45mg/kgのストレプトゾトシンで処理したマウスからなる糖尿病対照;3)1日当たり10μgのmRAGE−IgG2a Fcを週3回腹腔内注射したストレプトゾトシン処理マウス;4)1日当たり100μgのmRAGE−IgG2a Fcを週3回腹腔内注射したストレプトゾトシン治療マウス;及び、5)1日当たり300μgのmRAGE−IgG2a Fcを週3回腹腔内注射したストレプトゾトシン治療マウス。
【0120】
調査では、マウスの体重、血糖、糖化ヘモグロビン(GHb)、蛋白尿、及び、感覚神経機能の尺度として触覚感度を評価した。調査終了時点でマウスを屠殺し、網膜における組織の病的変化及び神経変性を定量的に評価した。
【0121】
長期調査で測定した網膜症関連パラメータは、(1)無細胞毛細血管、(2)周皮細胞ゴースト、及び、(3)神経節細胞である。長期調査では、軽い接触に対する足の感度も末梢性ニューロパシーのマーカーとして測定した。
【0122】
糖尿病によって誘発された網膜組織の病的変化
【0123】
糖尿病に罹患して10カ月後、本発明者らが以前に報告しているように、眼をホルマリンで固定し、各動物から片方の網膜を単離し、流水で一晩洗浄した後、粗トリプシン溶液で2時間消化した。一本の毛でできた「ブラシ」で神経細胞を静かに取り除くことにより、網膜の血管を単離した。神経細胞を完全に取り除いたところで、単離した血管を顕微鏡用スライドガラスに載せ、一晩乾燥させ、ヘマトキシリンと過ヨウ素酸−シッフとで染色し、脱水した後、カバーグラスをかけた。中央網膜(mid−retina)に相当する6〜7領域(倍率×200)において、変性した(無細胞)毛細血管を盲検方式で定量した。無細胞毛細血管は、全長にわたって核が欠損した、毛細血管サイズの脈管として同定し、網膜領域1mm当たりで表した。周皮細胞ゴーストは、周皮細胞が消失した毛細血管基底膜の突き出た「隆起」の広がりにより評価した。盲検方式で中央網膜の5領域(倍率×400)中の少なくとも1000個の毛細血管細胞(内皮細胞及び周皮細胞)を調査した。既に無細胞であった血管におけるゴーストは全て除外した。
【0124】
網膜の神経変性に対する糖尿病の影響を調査するために、神経節細胞層内の細胞を計数した。ホルマリン固定した眼を、パラフィンに包埋し、矢状方向に網膜を通りさらに視神経を通って切断し、ヘマトキシリン・エオジンで染色した。神経節細胞層内の細胞を視神経の両側の2領域(中央網膜、及び、視神経に隣接した後部網膜(posterior retina))で計数した。視神経の両側の比較領域それぞれの平均をとり、単位長さ当たりで表した。
【0125】
結果
以前の成果から予想された通り、糖尿病の長期罹患によって、網膜の変性した無細胞毛細血管の数は有意に増加した(図5A)。RAGE−Ig融合タンパク質は、いずれの投与量でも、高血糖の重篤度に影響することなく、この毛細血管の変性を有意に阻害した。また、糖尿病では周皮細胞変性(周皮細胞ゴースト)が増加する傾向があったが、統計的有意性には至らなかった(図5B)。糖尿病C57Bl/6マウスでは、糖尿病ラット又はより大型の種と比較して、周皮細胞消失を検知することがはるかに困難であることを本発明者らは以前に明らかにしており、今回、このモデルにおいて、周皮細胞消失は血管疾患のパラメータとしての信頼性が低いと考える。糖尿病対照において有意な周皮細胞の消失が検知されなかったからかもしれないが、これらのマウスの周皮細胞消失に対しては、RAGE−Ig融合タンパク質のいかなる影響も検知されなかった。
【0126】
これらのC57Bl/6マウスにおいて、糖尿病により網膜の神経節細胞層の細胞数が減少すること(即ち神経変性)はなかった。この結果は、このマウスモデルに関する先行調査と一致していた。糖尿病が網膜の神経変性に影響しないので、神経変性に対して阻害剤の効果があったかどうかを評価することはできない。
【0127】
軽い接触に対する感度(末梢性ニューロパシーのマーカー)
【0128】
糖尿病性ニューロパシーに罹患した患者は、自発痛、軽い接触により引き起こされる痛み、及び、痛覚過敏症等の様々な異常な感覚を有し得る。糖尿病に罹患した齧歯動物でも、この痛覚過敏症が再現され、触覚アロディニアが起きることが、データとして蓄積されている。齧歯動物では、これは足の触覚反応閾値として測定される。
【0129】
方法:
マウス(糖尿病に罹患して8カ月)を金網底のテストケージに移し、10〜15分間環境に慣れさせた。Von Freyフィラメントを用いて、足の逃避(withdrawal)の50%機械的逃避閾値(50% mechanical withdrawal threshold)を測定した。剛度が対数比で増加する一連のフィラメントを、締付負荷(buckling weight)が0.6gのものから順に、右後肢の足裏の表面に適用し、フィラメントで締めつけることにより該足裏の表面に圧力をかけた。足を挙げた場合に陽性反応として記録し、次の測定ではより軽いフィラメントを選択した。5秒間反応がなかった場合、その後の測定では、次に重いフィラメントを用いた。行動に最初の変化が見られてから4回の測定を行うまで、或いは、5回連続で陰性反応(6g)又は4回連続で陽性反応(0.4g)があるまで、この方法を継続した。陽性及び陰性をスコアリングして得られた結果を用いて50%逃避反応閾値を算出した。
【0130】
結果:
糖尿病動物では、軽い接触に対する足の感度が有意に増加しており、これは、非糖尿病動物に比べて、糖尿病動物はより低い圧力で足を逃避させることを意味する(図6)。この糖尿病によって誘発された欠陥は、sRAGE−Ig融合タンパク質のいずれの投与量でも有意に阻害された。
【0131】
網膜症:
RAGE−Ig融合タンパク質を用いた調査は、糖尿病の以下の2期間で行った:(1)マウスに発症した糖尿病性網膜症の長期的な組織の病的変化に対する治療の効果を評価するための長期的調査(10カ月)、及び、(2)長期的な組織の病的変化に対する効果の裏付けになると思われる、治療の生理学的及び分子レベルでの効果を評価するための2〜3カ月の調査。RAGE−Ig融合タンパク質の効果に関する生理学的及び分子レベルでの評価項目は全て、糖尿病性網膜症の初期(変性)段階の進行に関連すること(因果関係があると思われること)が他の研究で確認されていたものを選択した。治療では3種類の投与量全てで、糖尿病により誘発された網膜の血管の変性が明らかに且つ有意に阻害された。同様に、この薬剤は3種類の投与量全てで、マウスにおいて、糖尿病で誘発される網膜の透過性の上昇を阻害していると思われた。今のところ、糖尿病性網膜症が初期(非増殖)段階は血管病変(血管無潅流及び血管変性、並びに、透過性の上昇)に基づいて定義されるので、上記の結果は臨床的に非常に重要である。
【0132】
糖尿病マウスから採取した網膜で測定した、分子レベル及び生理学的評価項目に対する治療の効果を組み合わせた。RAGEを阻害することによって、ニトロ化ストレス(網膜の酸化ストレスマーカー)に関連した異常が事実阻害された。しかしながら、RAGE阻害剤は、白血球停滞に関連した異常を阻害しなかった。sRAGEによって糖尿病個体の白血球停滞の増加が阻害されたことが、他のグループによって近年報告されているため、当該治療で白血球停滞に対して効果がなかったのは驚くべきことである。しかしながら、RAGE−Ig融合タンパク質を用いた調査を開始して以来、本発明者らにより得られた証拠(Diabetes 57:1387−93,2008)によって、糖尿病個体における網膜の白血球停滞に対する薬物治療の効果からは、糖尿病個体における網膜の毛細血管の変性に対する治療効果が予測されないことが示されている。従って、網膜の白血球停滞に対して治療効果がなくとも、観察された薬剤の効果の重要性は何ら変わらない。
【0133】
驚いたことに、糖尿病動物から採取した網膜におけるICAM−1の発現及びタンパク質のニトロ化に対して、薬剤は用量効果を示すようであった。しかし、この用量効果は、網膜の毛細血管の透過性及び変性に対しては明らかではなかった。本発明者らは、ICAM−1ノックアウト動物を用いて、逆の結果となるデータも得ているが、このことは、ICAMもニトロ化も糖尿病個体における網膜の血管の欠陥に関係しないことを示唆しているように思われる。
【0134】
薬剤が網膜に到達し、生物学的効果を奏し、少なくとも糖尿病性網膜症の初期の血管病変を阻害する効力を有意に示したことは事実、明白である。
【0135】
感覚性ニューロパシー:
終末糖化産物(AGE)、及び、AGEとRAGEとの相互作用は、酸化ストレスを誘発し、神経においてNF−kB及び様々なNF−kB関連炎症誘発性遺伝子をアップレギュレートし、痛覚の変化等の神経機能障害を悪化させることが、他の研究によって提唱されている。本発明のデータは、RAGE関連シグナルが糖尿病性ニューロパシーの少なくともある症状の進行の一因となっているという証拠に矛盾せず、長期調査では、sRAGE−Ig融合タンパク質がこの過程を阻害するという証拠を提供するものである。
【0136】
実施例3
II型コラーゲン誘発関節炎モデルマウスを用いたRAGE−Ig融合タンパク質の評価
【0137】
関節軟骨の主成分であるII型コラーゲンを用いて感受性系統のマウスを免疫処置することにより、進行性の炎症性関節炎が誘発される(Wooley et al.Journal of Experimental Medicine 1981;154:688−700)。コラーゲン誘発関節炎(CIA)は、罹患した足の幅が典型的には100%増加する紅斑及び浮腫によって臨床的に特徴づけられる。関節の変形及び脊椎炎への疾患の進行を評価するために、臨床的スコアリング指数が考案された(Wooley,Methods In Enzymology 1988;162:361−373)。罹患した関節は、組織病理学的に滑膜炎、パンヌス形成、並びに、軟骨及び骨糜爛を呈する。上記変化を指数で表すこともできる。免疫学的検査所見においては、II型コラーゲンに対する高濃度の抗体や高ガンマグロブリン血症等が確認される。このモデルは現在、関節疾患に対する免疫療法アプローチのテスト法として確立されており(Staines et al.British Journal of Rheumatology 1994;33(9):798−807)、関節リウマチ(RA)を治療するための生物学的物質及び薬理学的物質のいずれの研究にも用いられ、好結果を得ている(Wooley et al.Arthritis Rheum 1993;36:1305−1314、及び、Wooley et al.Journal of Immunology 1993;151:6602−6607)。
【0138】
RAGEレセプターの拮抗作用は、RAの治療標的となり得ると認められている。コラーゲン誘発関節炎に罹患したマウスにおいてRAGEを阻害した結果、関節炎の症状が臨床的にも組織学的にも抑制された。また、関節炎に罹患した足の組織では、疾患改善に伴って、TNFα、IL−6、並びに、マトリックスメタロプロテイナーゼMMP−3、MMP−9及びMMP−13の濃度が低下した(Hofmann et al.Genes Immun 2002;3(3):123−135)。これにより、コラーゲン誘発関節炎がRAGE標的治療に感受性を示すことが示される。
【0139】
本実験により、II型コラーゲンによる免疫処置後に投与された3種類の投与量でのRAGE−Ig融合タンパク質のCIAに対する影響が評価できよう。調査計画を図7に示す。
【0140】
Jackson Labs.より8〜10週齢のDBA/1 LacJマウス40頭を入手し、最低でも実験の10日前から施設に慣れさせた。実験開始時点で、全ての動物は16g未満であった。各マウスを以下の4治療群のうちの1群に分類した:1)無菌PBS100μlを毎日腹腔内注射;2)RAGE−Ig融合タンパク質10μgを含有する無菌PBS100μlを毎日腹腔内注射;3)RAGE−Ig融合タンパク質100μgを含有する無菌PBS100μlを毎日腹腔内注射;及び、4)RAGE−Ig融合タンパク質300μgを含有する無菌PBS100μlを毎日腹腔内注射。
【0141】
最初の投薬から3日後、全てのマウスにフロイント完全アジュバント(FCA)中のウシII型コラーゲン100μgを尾の基部に皮下注射した。疾患の発症を毎日調査して各マウスをモニタリングし、調査の記録をとった。マウスの体重を毎週測定し、健康状態全般について記録した。免疫処置後10週間にわたって、関節炎に罹患した各動物について、1週間に5回臨床的に評価した。また、足の測定は1週間に3回行った。免疫処置後10週間経過しても関節炎の徴候が見られないマウスについては、疾患陰性とみなした。
【0142】
結果
【0143】
健康全般及び毒性。
試験中、急性毒性症状は発生しなかった。また、全ての動物が、実験期間を生存した。当該治療は、十分に耐え得るものであり、毛皮のマット化や炎症等の不都合な徴候は観察されなかった。マウスの体重は、試験期間中にわずかな変化を示している(図8)。この変化は、各動物において典型的な疾患発症時の一時的な体重減少によるものである。各群間におけるこの変化の差は、統計的有意性には至らなかった。
【0144】
関節炎の発症率及び発症
当該試験でのコラーゲン関節炎の最終的な発症率を図9に示す。対照マウスでは100%発症しており、この結果は、発症率が典型的に80%〜100%で変動する標準的なコラーゲン関節炎モデルに矛盾しない。1日10μgのRAGEで治療されたマウスの発症率は80%であり、発症率の有意な減少は見られなかった。1日100μgのRAGEで治療されたマウスの関節炎発症率は60%であり、対照群より有意に低かった(p<0.05)。驚くべきことに、300μgのRAGEで治療されたマウスの関節炎発症率は、対照の発症率と同様に100%であった。
【0145】
疾患発症日の平均(及び標準偏差)を図10に示す。疾患の発症は、対照群では典型的にみられ、平均38.6日で関節炎の兆候が現れ始めた。10μg又は100μgのRAGEで治療されたマウスでは、疾患の発症は42.5日までわずかに遅延されたが、統計的有意性には至らなかった。しかしながら、300μgのRAGEで治療されたマウスでは、疾患の発症が有意に遅延された(p<0.05)。従って、高用量で投与されたマウスでは、疾患発症率は低下しなかったが、臨床的に明らかな関節炎へと進行するまでの時間は著しく延びた。
【0146】
RAGE治療による疾患発症の変化は、疾患発症率を経時的にプロットすることによって容易に評価することができる(図11)。対照群では、CIAの典型的な特徴である短期間での疾患発症が見られたが、10μg又は100μgのRAGEで治療されたマウスでは、疾患発症が遅延し、関節炎の最終的発症率がより低くなる結果となった。300μgのRAGEで治療されたマウスでも、約8週間は同様のパターンの疾患発症が示されたが、動物がその後関節炎を発症したため、疾患発症率は高いが疾患の発症は遅延するという結果になった。
【0147】
疾患の重症度及び進行。
治療動物及び対照動物の累積的な関節スコアを分析することによって、コラーゲン誘発関節炎の重症度に対し、RAGE治療により有意な効果が得られることが明らかとなった(図12)。対照マウスでは、累積関節炎指数が著しく増加し、典型的な慢性進行性疾患が発症した。対照的に、いずれの投与量であってもRAGEで治療されたマウスでは、関節炎スコアが著しく減少した。対照群と治療群との差は、免疫処置後43日目から高水準の統計的有意性(p<0.001)を示し、この差は試験期間中維持された。1日当たり100μgのRAGE治療では、累積関節炎スコアが最低値であったが、RAGE群間での関節炎スコアに有意差はなかったため、標準的な用量依存効果ではなく、「閾値」効果が得られたと示唆される。
【0148】
関節炎に罹患した足の数に対するRAGE治療の影響の分析(図13)では、この疾患の進行に対して有意な効果が実際認められる。さらに、43日目以降に罹患した足の数に対して有意な影響がみられた。有意水準はp<0.001からp<0.025へと異なったものになっているが、これは、RAGEの影響が疾患の重症度に対して関節炎進行よりもより顕著であったことを反映していると思われる。しかしながら、罹患した足の数の最大値(40)は、累積疾患スコアの最大値(120)よりも制限された値となっていることを留意されたい。さらに、100μgのRAGE群が関節炎の遅延で最高水準を示したが、RAGE治療群間に有意差はなかった。
【0149】
この結果から、予防プロトコールに準じてRAGEタンパク質を投与することによって、コラーゲン誘発関節炎に著しい効果が得られたと示唆される。いずれの投与量でも、RAGE注射によって明らかな毒性作用が生じることはなかった。また治療は、十分に耐え得るものであったと思われる。総合的な疾患発症率は、毎日100μg投与されたマウスで有意に減少し、疾患発症の遅延は、1日当たり300μgで治療されたマウスで認められた。しかしながら、疾患スコア及び関節炎に罹患した足の数の減少によって臨床的有効性が最も顕著に示されており、特に、免疫処置後43日目以降、RAGE治療マウスと対照動物との間で大きな差が検知された。この時点において、全ての投与量においてRAGE治療群では疾患の進行が遅延していたが、対照動物では典型的に重症関節炎に進行していた。
【0150】
組織病理学的評価:
臨床的評価調査が終了した時点で、すべてのマウスから四肢を切除し、中性緩衝ホルマリン溶液で保存した。関節を10%蟻酸で18日間脱灰し、脱水した後、パラフィンブロックに包埋した。縦軸に沿って切断した切片をスライドに固定し、ヘマトキシリン・エオジン、又は、トルイジンブルーのいずれかで染色した。標本をほぼ正中線で切断し、正中矢状サンプルをスライドに固定し評価した。これにより、一貫した形態学的評価が可能になった。5〜10個のサンプルをスライドに固定した(通常、スライド1枚当たりサンプル4〜6個)。染色後、各スライドを、カバーグラスで恒久的に固着させた。盲検法により評価者に群の割り当てが分からないようにして、1標本当たり最低3つの異なる切片を評価した。前肢では肘、手首及び中手関節の全てについてスコアリングし、後肢では膝、足首及び中足関節の全てについてスコアリングした。切断処理でほとんどのPIP関節が切除されるので、指については評価しなかった。スライドは、滑膜炎、パンヌス形成、辺縁部の糜爛、構造変化(主に亜脱臼)及び破壊の有無について評価した。次に、これらの集計点に基づき、総合的スコアを各切片に対して配点した。スコアリング法は以下に従った。
【0151】
滑膜の膜厚によって滑膜炎を判定し、以下のようにスコアリングした。
0 − 細胞3個分未満の厚み
1 − 細胞3〜5個分の厚み
2 − 細胞6〜10個分の厚み
3 − 細胞10〜20個分の厚み
4 − 細胞20〜30個分の厚み
【0152】
パンヌス形成に対し、以下のようにスコアリングした。
0 − パンヌス形成なし
1 − 微絨毛有り
2 − パンヌスの明らかな付着
3 − パンヌスの顕著な付着
4 − 関節腔におけるパンヌス浸潤
【0153】
辺縁部の糜爛に対し、以下のようにスコアリングした。
0 − 目に見える糜爛なし
1 − 関節包付着領域における小さなくぼみ
2 − 軟骨の明らかな糜爛
3 − 軟骨下骨への糜爛の拡大
4 − 骨及び軟骨の重度の糜爛
【0154】
構造変化に対し、以下のようにスコアリングした。
0 − 正常な関節構造
1 − 浮腫性変化
2 − 関節面の軽度の亜脱臼
3 − 関節面の重度の亜脱臼
4 − 完全な線維形成及びコラーゲン架橋
【0155】
総合的スコアに対しては、以下のように反映させた。
0 − 通常の正常な関節外観
1 − 軽度の変化であって、寛解に相当する程度であり、臨床上おそらく正常なもの
2 − 確定的な炎症性関節炎
3 − 重度の炎症性、糜爛性疾患
4 − 破壊性、糜爛性関節炎
【0156】
軟骨及び骨基質の分解。
一連の切片の軟骨基質成分を、組織化学的染料であるトルイジンブルーを用いて染色した。トルイジンブルー染色切片のプロテオグリカン損失を評価した。関節面の染色を成長板の染色と比較し、以下のようにスコアリングした。
0 − プロテオグリカン損失がなく、トルイジンブルー染色は正常
1 − 軽度のプロテオグリカン損失があり、軟骨表面から染色がいくらか損失している
2 − 中程度のプロテオグリカン損失があり、軟骨表面の染色が弱い
3 − 顕著なプロテオグリカン損失があり、軟骨表面のトルイジンブルー染色が確認できない
4 − 重度のプロテオグリカン損失があり、軟骨深部においてもトルイジンブルー染色が確認できない
【0157】
結果
【0158】
コラーゲン誘発関節炎の組織学的所見
各切片において、疾患の炎症性パラメータと糜爛性パラメータとを評価した。関節炎の外観(図14)から、対照(PBS処理)群ではこの時点において典型的な炎症性糜爛性疾患病変が確認され、滑膜の肥大や過形成といった典型的な関節炎の特徴、及び、顕著なパンヌス付着や辺縁部の糜爛が見られた。
【0159】
10μg/mlのRAGE−Ig融合タンパク質で治療した結果(図14B)、糜爛や軟骨表面の崩壊といった外観に全般的改善が見られ、炎症性パラメータ及び糜爛性パラメータにわずかな変化が見られた。100μg/mlのRAGE−Ig融合タンパク質で治療した結果(図14C)、対照と比較して、パンヌス形成及び糜爛が減少し、全体的に大きく異なっていた。しかしながら、300μg/mlのRAGE−Ig融合タンパク質を投与した結果(図14D)、食塩水対照群で認められた病変よりはいくらか軽度であるように思われたものの、やはり非常に重篤である関節炎が生じ、滑膜肥大や過形成、及び、著しいパンヌスの付着や辺縁部の糜爛が見られた。
【0160】
炎症に関するスコアの分析(図15)により、対照(食塩水処理)動物と比較した場合、全ての投与量においてRAGE−Ig融合タンパク質で治療されたマウスでは炎症が低減されることが明らかとなった。しかしながら、滑膜炎は100μg/ml群でのみ有意に低減され(p<0.05)、パンヌス形成も同様のスコアの減少を示した(p<0.03)。RAGE−Ig融合タンパク質を10μg/mlで用いても300μg/mlで用いても、その使用により確認された炎症性疾患パラメータの減少は、統計的有意性には達しなかった。
【0161】
コラーゲン誘発関節炎の糜爛性特徴の変化(糜爛及び関節構造の変化)の評価においても、同様のパターンの効果が認められた。100μg/mlのRAGE−Ig融合タンパク質で治療した群を対照(食塩水処理)動物と比較すると、関節の糜爛が有意(p<0.01)に減少していたが(図16)、10μg/ml及び300μg/mlのRAGE−Ig融合タンパク質で治療されたマウスで確認された減少は有意性には達しなかった。
【0162】
組織病理学的パラメータと総合的組織学的関節炎スコアを組み合わせると(図17)、個々の病理学的パラメータでの所見が反映されていた。対照(食塩水)処理動物と100μg/mlのRAGE−Ig融合タンパク質で治療されたマウスとの間に有意差が認められた(p<0.02)。また10μg/mlで治療されたマウスの総合的スコアは、ちょうど有意性(p=0.05)に達していたが、300μg/mlのRAGE−Ig融合タンパク質を用いた場合には、総合的疾患スコアの有意な減少は確認されなかった。
【0163】
トルイジンブルー染色された切片を検査することにより、RAGE−Ig融合タンパク質が関節炎の関節からのマトリックスタンパク質の損失に影響を及ぼすかどうかを判断した。データ(図18及び19に示す)により、RAGE−Ig融合タンパク質がプロテオグリカン損失を防止したことが示唆される。しかし、この効果は、投与量100μg/mlでのみ統計的に有意であった(p<0.05)。PBS対照群では、軟骨基質(プロテオグリカン及びコラーゲン)の大幅な損失が見られ、300μg/mlのRAGE−Ig融合タンパク質で治療されたマウスでは、近位の軟骨表面での染色の著しい損失が見られる。対照的に、10μg/ml又は100μg/mlのRAGE−Ig融合タンパク質を投与した場合では、マトリックスタンパク質が良好に保存されている。
【0164】
この組織学的所見は、RAGE−Ig融合タンパク質でコラーゲン誘発関節炎を治療することによって当該疾患の発症率及び重症度に効果が確認されたことを示す臨床データを支持するものである。組織学的パラメータは、100μg/mlで治療されたマウスでは高水準の統計的有意性に達し、10μg/mlで治療されたマウスでは総合的病変に関して統計的有意性に達した。100μg/mlのRAGE−Ig融合タンパク質では、関節構造の保存が良好であり、評価した関節炎パラメータ全てで有意な減少が認められた。炎症性の変化の程度が余病パラメータ(secondary disease parameters)よりも影響を受けていなかったので、全体的印象として、RAGE−Ig融合タンパク質は関節炎の糜爛形成過程を阻害したと思われる。300μg/mlのRAGE−Ig融合タンパク質で治療されたマウスでは、低用量の場合ほどの保護効果が得られなかったので、この濃度でのタンパク質投与に対しては抑制応答が示され得る、という可能性がさらに高まった。これらの所見は、全体として、当該調査で行った臨床観察に合致しており、RAGE−Ig融合タンパク質の抗関節炎効果を実証するものである。
【0165】
具体的な実施形態を示して本発明を詳細に説明したが、本発明の趣旨及び範囲を逸脱することなく、各種の変更及び改変を施すことが可能であり、このような変更及び改変は添付した特許請求の範囲内で実施可能であることは、当業者にとって明らかであろう。本明細書に引用した全ての特許文献及び刊行物を、各刊行物をそれぞれ具体的に且つ個別に提示してその全てを引用して援用するといったように、本明細書に引用して援用する。
【配列表フリーテキスト】
【0166】
配列番号9:合成ペプチド
配列番号10:合成ペプチド
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図18
図19
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]