特許第5706863号(P5706863)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5706863マスターバッチ、ゴム組成物及び空気入りタイヤ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5706863
(24)【登録日】2015年3月6日
(45)【発行日】2015年4月22日
(54)【発明の名称】マスターバッチ、ゴム組成物及び空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 7/00 20060101AFI20150402BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20150402BHJP
   C08C 1/04 20060101ALI20150402BHJP
   C08L 1/02 20060101ALI20150402BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20150402BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20150402BHJP
   C08J 3/22 20060101ALI20150402BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20150402BHJP
   B60C 11/00 20060101ALI20150402BHJP
   B60C 15/06 20060101ALI20150402BHJP
【FI】
   C08L7/00
   C08L9/00
   C08C1/04
   C08L1/02
   C08K3/04
   C08K3/36
   C08J3/22CEQ
   B60C1/00 A
   B60C1/00 B
   B60C1/00 Z
   B60C11/00 B
   B60C11/00 D
   B60C15/06 B
   B60C15/06 C
【請求項の数】10
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-235841(P2012-235841)
(22)【出願日】2012年10月25日
(65)【公開番号】特開2013-166914(P2013-166914A)
(43)【公開日】2013年8月29日
【審査請求日】2014年3月18日
(31)【優先権主張番号】特願2012-6490(P2012-6490)
(32)【優先日】2012年1月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 達也
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 澄子
【審査官】 米村 耕一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−063651(JP,A)
【文献】 特開2012−001571(JP,A)
【文献】 特開2011−231214(JP,A)
【文献】 特開2011−256311(JP,A)
【文献】 特開2009−202865(JP,A)
【文献】 特開平06−087306(JP,A)
【文献】 特開2009−084564(JP,A)
【文献】 特開2006−206864(JP,A)
【文献】 特開2011−006551(JP,A)
【文献】 特開2011−231208(JP,A)
【文献】 特開2011−231204(JP,A)
【文献】 特開2011−231205(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00−13/08
C08L 1/00−101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン含有量が200ppm以下の改質天然ゴム及びミクロフィブリル化植物繊維を含むマスターバッチと、前記改質天然ゴム以外のジエン系ゴムとを含有するゴム組成物
【請求項2】
前記ミクロフィブリル化植物繊維は、1次形状の平均繊維径が4nm〜10μm、1次形状の平均繊維長が100nm〜200μmである請求項1記載のゴム組成物
【請求項3】
ム成分100質量部に対する前記ミクロフィブリル化植物繊維の含有量が1〜10質量部である請求項1又は2記載のゴム組成物。
【請求項4】
窒素吸着比表面積25〜190m/gのカーボンブラック及び/又は窒素吸着比表面積70〜300m/gのシリカを含有し、
ゴム成分100質量部に対する前記カーボンブラック及び前記シリカの合計含有量が25〜80質量部である請求項1〜3のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項5】
温度70℃、動歪み2%で測定した押出し方向の複素弾性率E*aと該押出し方向に直交する方向の複素弾性率E*bとの比(E*a/E*b)が1.2〜4.0である請求項1〜4のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項6】
前記ジエン系ゴムが天然ゴム、イソプレンゴム及びブタジエンゴムからなる群から選択される少なくとも1種である請求項1〜5のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項7】
タイヤ部材に使用される請求項〜6のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項8】
前記タイヤ部材がサイドウォール、クリンチ、ベーストレッド、タイガム、ビードエイペックス又は高性能タイヤ用トレッドである請求項7記載のゴム組成物。
【請求項9】
請求項〜8のいずれかに記載のゴム組成物を用いて作製した空気入りタイヤ。
【請求項10】
ケン化天然ゴムラテックス及びミクロフィブリル化植物繊維の混合物を凝固させる工程(I)、前記工程(I)で得られた凝固物を洗浄し、ゴム中のリン含有量を200ppm以下に調整する工程(II)、及び前記工程(I)及び(II)を経て得られたマスターバッチと、前記マスターバッチに含まれる改質天然ゴム以外のジエン系ゴムとを混練する工程(III)を含む請求項1〜8のいずれかに記載のゴム組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスターバッチ、該マスターバッチを含むゴム組成物、及び該ゴム組成物を用いて作製した空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
セルロース繊維等のミクロフィブリル化植物繊維を充填剤としてゴム組成物に配合することで、ゴム組成物を補強し、硬度やモジュラスを向上させることができる。しかしながら、ミクロフィブリル化植物繊維は、ゴム成分との相溶性が悪く、分散性が低いため、破断特性や低燃費性が悪化する場合がある。そのため、ミクロフィブリル化植物繊維の分散性を向上させる方法が求められている。
【0003】
特許文献1には、ミクロフィブリル化植物繊維を化学変性することで、ゴム成分とミクロフィブリル化植物繊維との相溶性を改善する方法が開示されている。しかし、この方法を用いたとしても、補強性やコストの面でカーボンブラック及び/又はシリカなどの従来の充填剤に対する優位性がないという点で改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4581116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記課題を解決し、ゴム組成物中でミクロフィブリル化植物繊維を良好に分散させ、従来の充填剤と同等以上の補強性を発揮させることができるマスターバッチ、該マスターバッチを含むゴム組成物、及び該ゴム組成物を用いて作製した空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、リン含有量が200ppm以下の改質天然ゴムと、ミクロフィブリル化植物繊維とを含むマスターバッチに関する。
【0007】
上記ミクロフィブリル化植物繊維は、1次形状の平均繊維径が4nm〜10μm、1次形状の平均繊維長が100nm〜200μmであることが好ましい。
【0008】
上記改質天然ゴム100質量部に対する上記ミクロフィブリル化植物繊維の含有量が5〜30質量部であることが好ましい。
【0009】
本発明はまた、上記マスターバッチを含み、ゴム成分100質量部に対する上記ミクロフィブリル化植物繊維の含有量が1〜10質量部であるゴム組成物に関する。
【0010】
上記ゴム組成物は、窒素吸着比表面積25〜190m/gのカーボンブラック及び/又は窒素吸着比表面積70〜300m/gのシリカを含有し、ゴム成分100質量部に対する上記カーボンブラック及び上記シリカの合計含有量が25〜80質量部であることが好ましい。
【0011】
上記ゴム組成物は、温度70℃、動歪み2%で測定した押出し方向の複素弾性率E*aと該押出し方向に直交する方向の複素弾性率E*bとの比(E*a/E*b)が1.2〜4.0であることが好ましい。
【0012】
上記ゴム組成物は、タイヤ部材に使用されることが好ましい。
【0013】
上記タイヤ部材がサイドウォール、クリンチ、ベーストレッド、タイガム、ビードエイペックス又は高性能タイヤ用トレッドであることが好ましい。
【0014】
本発明はまた、上記ゴム組成物を用いて作製した空気入りタイヤに関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、リン含有量が200ppm以下の改質天然ゴムと、ミクロフィブリル化植物繊維とを含むマスターバッチであるので、該マスターバッチを用いてゴム組成物を作製することで、ミクロフィブリル化植物繊維が均一に分散したゴム組成物が得られる。そして、該ゴム組成物をサイドウォールなどのタイヤ部材に使用することにより、操縦安定性、乗り心地性、転がり抵抗がバランス良く改善された空気入りタイヤが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】ミクロフィブリル化植物繊維の1次形状を示す模式図である。
図2】ミクロフィブリル化植物繊維の2次形状を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(マスターバッチ)
本発明のマスターバッチは、リン含有量が200ppm以下の改質天然ゴムと、ミクロフィブリル化植物繊維とを含む。従来、ミクロフィブリル化植物繊維は、マスターバッチ中での分散は可能であっても、該マスターバッチをゴム組成物に配合した場合に、ゴム組成物中に均一に分散させることは困難であるという課題があった。本発明のマスターバッチは、リン含有量が200ppm以下の改質天然ゴムを用いてこの課題を解決したものである。上記改質天然ゴムは、天然ゴム特有の蛋白質やリン脂質からなる蜂の巣状のセルが除去されているため、フィラーを取り込みやすく、かつ他のポリマーとの相溶性が高いという性質を有する。そのため、ミクロフィブリル化植物繊維及び上記改質天然ゴムを併用することで、ミクロフィブリル化植物繊維をゴム組成物中に均一に分散させることが可能なマスターバッチを調製できる。
【0018】
上記改質天然ゴム(HPNR:Highly Purified Natural Rubber)は、リン含有量が200ppm以下である。200ppmを超えると、貯蔵中にゲル量が増加し、加硫ゴムのtanδが上昇して低燃費性が悪化したり、未加硫ゴムのムーニー粘度が上昇して加工性が悪化する。該リン含有量は、200ppm以下、好ましくは120ppm以下である。ここで、リン含有量は、例えばICP発光分析等、従来の方法で測定することができる。リンは、リン脂質(リン化合物)に由来するものである。
【0019】
上記改質天然ゴムにおいて、窒素含有量は0.3質量%以下が好ましく、0.15質量%以下がより好ましい。窒素含有量が0.3質量%を超えると、貯蔵中にムーニー粘度が上昇して加工性が悪くなる傾向があり、また、低燃費性が悪化するおそれもある。窒素含有量は、例えばケルダール法等、従来の方法で測定することができる。窒素は、蛋白質に由来するものである。
【0020】
上記改質天然ゴム中のゲル含有率は、20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、7質量%以下が更に好ましい。20質量%を超えると、ムーニー粘度が上昇して加工性が悪くなる傾向があり、また、低燃費性が悪化するおそれもある。ゲル含有率とは、非極性溶媒であるトルエンに対する不溶分として測定した値を意味し、以下においては単に「ゲル含有率」または「ゲル分」と称することがある。ゲル分の含有率の測定方法は次のとおりである。まず、天然ゴム試料を脱水トルエンに浸し、暗所に遮光して1週間放置後、トルエン溶液を1.3×10rpmで30分間遠心分離して、不溶のゲル分とトルエン可溶分とを分離する。不溶のゲル分にメタノールを加えて固形化した後、乾燥し、ゲル分の質量と試料の元の質量との比からゲル含有率が求められる。
【0021】
上記改質天然ゴムは、実質的にリン脂質が存在しないことが好ましい。「実質的にリン脂質が存在しない」とは、天然ゴム試料をクロロホルムで抽出し、抽出物の31P NMR測定において、−3ppm〜1ppmにリン脂質によるピークが存在しない状態を表す。−3ppm〜1ppmに存在するリンのピークとは、リン脂質におけるリンのリン酸エステル構造に由来するピークである。
【0022】
ミクロフィブリル化植物繊維(セルロースナノファイバー)としては、例えば、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、農作物残廃物、布、再生パルプ、古紙、バクテリアセルロース、ホヤセルロース等の天然物に由来するものが挙げられる。ミクロフィブリル化植物繊維の製造方法としては特に限定されないが、例えば、上記天然物を水酸化ナトリウム等の薬品で化学処理した後、リファイナー、二軸混錬機(二軸押出機)、二軸混錬押出機、高圧ホモジナイザー、媒体撹拌ミル、石臼、グラインダー、振動ミル、サンドグラインダー等により機械的に磨砕ないし叩解する方法が挙げられる。
【0023】
本発明のマスターバッチにおいて、上記改質天然ゴム100質量部に対するミクロフィブリル化植物繊維の含有量は、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上である。5質量部未満であると、マスターバッチを配合したゴム組成物において、必要なミクロフィブリル化植物繊維を確保しようとすると、上記改質天然ゴムの量が多くなり過ぎて、架橋密度が低くなり、低燃費性が悪化する場合がある。また、ミクロフィブリル化植物繊維の含有量は、好ましくは30質量部以下、より好ましくは26質量部以下である。30質量部を超えると、マスターバッチがTSR、BR、SBR等の他のゴム成分に比べて硬くなり過ぎて、マスターバッチと他のゴム成分とが混ざりにくくなり、ミクロフィブリル化植物繊維の分散性が低下し、破断伸び、低燃費性が悪化する場合がある。
【0024】
本発明のマスターバッチは、例えば、ケン化天然ゴムラテックス及びミクロフィブリル化植物繊維の混合物を凝固させる工程(I)と、該工程(I)で得られた凝固物を洗浄し、ゴム中のリン含有量を200ppm以下に調整する工程(II)を含む方法により製造することができる。つまり、先ず、NaOH等のアルカリでケン化処理を施した天然ゴムラテックス(ケン化天然ゴムラテックス)を調製した上で、該ケン化天然ゴムラテックスにミクロフィブリル化植物繊維を投入して撹拌することで配合ラテックス(混合液)を作製し、該配合ラテックスを凝固させた後に、液相を廃棄し、得られた凝固物を洗浄して天然ゴム中のリン量を低減することにより、リン量が200ppm以下の改質天然ゴム(HPNR)を含む複合体が製造される。これにより、HPNR中にミクロフィブリル化植物繊維が均一に分散した複合体を製造できる。また、上記方法では、ケン化処理後にミクロフィブリル化植物繊維を投入しているため、アルカリ性が薄まり、ミクロフィブリル化植物繊維の損傷を抑えることができる。なお、ミクロフィブリル化植物繊維投入後は、短時間で次の作業、すなわち、撹拌、凝固に移ることが好ましい。
【0025】
(工程(I))
天然ゴムラテックスはヘベア樹などの天然ゴムの樹木の樹液として採取され、ゴム分のほか水、タンパク質、脂質、無機塩類などを含み、ゴム中のゲル分は種々の不純物の複合的な存在に基づくものと考えられている。本発明では、天然ゴムラテックスとして、ヘベア樹をタッピングして出てくる生ラテックス(フィールドラテックス)、遠心分離法やクリーミング法によって濃縮した濃縮ラテックス(精製ラテックス、常法によりアンモニアを添加したハイアンモニアラテックス、亜鉛華とTMTDとアンモニアによって安定化させたLATZラテックスなど)などを使用できる。
【0026】
天然ゴムラテックスのケン化処理は、天然ゴムラテックスに、NaOH等のアルカリと、必要に応じて界面活性剤を添加して所定温度で一定時間、静置することにより行うことができる。なお、必要に応じて撹拌等を行っても良い。このように、ラテックス状態でケン化処理を行うことで、天然ゴムの各粒子が均一に処理され、効率的にケン化処理を行うことができる。ケン化処理を施すと、ケン化により分離したリン化合物が後述する工程(II)で洗浄除去されるので、調製されるマスターバッチに含まれる天然ゴム中のリン含有量を抑えることができる。また、ケン化処理により、天然ゴム中の蛋白質が分解されるので、天然ゴムの窒素含有量を抑えることもできる。
【0027】
ケン化処理に用いるアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが好ましい。界面活性剤としては特に限定されず、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩などの公知のノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤が挙げられるが、ゴムを凝固させず良好にケン化できるという点から、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩が好適である。ケン化処理において、アルカリ及び界面活性剤の添加量、ケン化処理の温度及び時間は、適宜設定すればよい。
【0028】
工程(I)において、ミクロフィブリル化植物繊維は、水中に分散させた水溶液(ミクロフィブリル化植物繊維水溶液)の状態でケン化天然ゴムラテックスに投入してもよいし、ミクロフィブリル化植物繊維をそのままケン化天然ゴムラテックスに投入後、必要に応じて水で希釈してもよい。ミクロフィブリル化植物繊維を良好に分散できるという点から、ミクロフィブリル化植物繊維水溶液をケン化天然ゴムラテックスに投入することが好ましい。ミクロフィブリル化植物繊維水溶液中、ミクロフィブリル化植物繊維の含有量(固形分)は、好ましくは0.1〜40質量%、より好ましくは2〜40質量%、更に好ましくは5〜30質量%である。
【0029】
ミクロフィブリル化植物繊維の1次形状の平均繊維径(数平均繊維径)は、好ましくは4nm以上、より好ましくは30nm以上、更に好ましくは50nm以上である。4nm未満であると、複素弾性率E*の向上効果が発現しにくくなる傾向がある。また、ミクロフィブリル化植物繊維の1次形状の平均繊維径は、好ましくは10μm以下、より好ましくは500nm以下、更に好ましくは100nm以下である。10μmを超えると、ミクロフィブリル化植物繊維が分散しにくく、かつ、ミクロフィブリル化植物繊維が加工中に破損しやすくなる傾向がある。
【0030】
ミクロフィブリル化植物繊維の2次形状の平均繊維径(数平均繊維径)は、好ましくは15μm以上、より好ましくは30μm以上、更に好ましくは40μm以上である。15μm未満であると、複素弾性率E*の向上効果が発現しにくくなる傾向がある。また、ミクロフィブリル化植物繊維の2次形状の平均繊維径は、好ましくは100μm以下、より好ましくは90μm以下、更に好ましくは80μm以下である。100μmを超えると、ミクロフィブリル化植物繊維が分散しにくく、かつ、ミクロフィブリル化植物繊維が加工中に破損しやすくなる傾向がある。
【0031】
ミクロフィブリル化植物繊維の1次形状の平均繊維長(数平均繊維長)は、好ましくは100nm、より好ましくは200nm、更に好ましくは300nm、より更に好ましくは1μm以上、特に好ましくは2μm以上、最も好ましくは3μm以上である。100nm未満であると、ゴム物性に影響を及ぼすためには大量の繊維が必要となり、好ましくない。また、ミクロフィブリル化植物繊維の1次形状の平均繊維長は、好ましくは200μm以下、より好ましくは100μm以下、更に好ましくは50μm以下である。200μmを超えると、少量でゴム物性に影響を及ぼすことが可能となるが、繊維エッジ近傍のゴムマトリクスに歪みが集中し、耐亀裂成長性、破断強度が低下する傾向がある。
【0032】
ミクロフィブリル化植物繊維の2次形状の平均繊維長(数平均繊維長)は、好ましくは10μm以上、より好ましくは60μm以上、更に好ましくは100μm以上である。10μm未満であると、ゴム物性に影響を及ぼすためには大量の繊維が必要となり、好ましくない。また、ミクロフィブリル化植物繊維の2次形状の平均繊維長は、好ましくは300μm以下、より好ましくは250μm以下、更に好ましくは200μm以下である。300μmを超えると、少量でゴム物性に影響を及ぼすことが可能となるが、繊維エッジ近傍のゴムマトリクスに歪みが集中し、耐亀裂成長性、破断強度が低下する傾向がある。
【0033】
なお、ミクロフィブリル化植物繊維の1次形状の繊維径、繊維長は、図1に示すように、それぞれ一本の繊維の短辺方向の長さ、長辺方向の長さを意味する。また、ミクロフィブリル化植物繊維の2次形状の繊維径、繊維長は、図2に示すように、それぞれ繊維の凝集体の短辺方向の長さ、長辺方向の長さを意味する。ミクロフィブリル化植物繊維の1次形状の繊維径、繊維長は、ミクロフィブリル化植物繊維を水中で撹拌した後、1分程度静置し、得られた上澄み液をプレート上で乾燥させたものをSEM観察して測定することができ、2次形状の繊維径、繊維長は、ミクロフィブリル化植物繊維を水中で撹拌して得られた懸濁液の濁った部分を沈澱前に採取し、プレート上で乾燥させたものをSEM観察して測定することができる。1次形状、2次形状ともに、ゴムラテックスと混合する前に測定した値である。
また、ミクロフィブリル化植物繊維の平均繊維径及び平均繊維長は、ミクロフィブリル化植物繊維を含む水溶液の撹拌速度、撹拌時間や、撹拌機の撹拌羽根形状などによって調整することができる。撹拌速度が速いほど、繊維を細く、かつ短くすることができ、撹拌速度が遅いほど、繊維を太く、かつ長くすることができる。
【0034】
ミクロフィブリル化植物繊維によって複素弾性率E*を効率よく向上させ、かつ、最終的に得られるゴム組成物において、亀裂破壊の起点や目視できる異物を発生させないためには、適切な繊維長(100nm〜300μm(好ましくは1μm〜300μm))の繊維を近接させ、繊維同士の相互作用を生じさせることが必要となる。このような観点から、ミクロフィブリル化植物繊維は、全量を100%としたとき、繊維長が100nm〜300μmの範囲の個数頻度の積算値が、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上である。また、繊維長が1μm〜300μmの範囲の個数頻度の積算値が、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上である。
なお、上記積算値は、SEM画像上でミクロフィブリル化植物繊維の点と点(端と端)を手動で計測して得られた繊維径、繊維長の分布から算出する。n(サンプル数)≧100が妥当である。
【0035】
ケン化天然ゴムラテックスとミクロフィブリル化植物繊維との混合物は、これらを公知の方法で混合することで調製できる。
【0036】
混合物を凝固する方法には、酸凝固、塩凝固、メタノール凝固などがあるが、マスターバッチ中にミクロフィブリル化植物繊維を均一分散させた状態で凝固するためには、酸凝固、塩凝固又はこれらの併用が好ましい。凝固させるための酸としては、蟻酸、硫酸、塩酸、酢酸などが挙げられる。また、塩としては、例えば、1〜3価の金属塩(塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、硝酸カルシウム、塩化カルシウムなどのカルシウム塩など)が挙げられる。また、混合物の凝固は、酸又は塩の添加により混合物のpHを4〜9(好ましくは6〜8、より好ましくは6.5〜7.5)に調整して固形分を凝固させることで実施されることが好ましい。後述する本願実施例では、硫酸で凝固させた。
【0037】
(工程(II))
工程(II)では、工程(I)で得られた凝固物(凝集ゴム及びミクロフィブリル化植物繊維を含む凝集物)を洗浄し、ゴム(天然ゴム)中のリン含有量を200ppm以下に調整(低減)する。ケン化処理後に洗浄処理を施すことにより、凝固物における天然ゴム中のリン含有量を200ppm以下に低減し、天然ゴム特有の蛋白質やリン脂質からなる蜂の巣状のセルを除去することができる。
【0038】
洗浄方法としては、例えば、ゴム分を水で希釈した後に遠心分離する方法や、ゴム分を水で希釈した後に静置してゴムを浮遊又は沈殿させ水相のみを排出する方法が挙げられる。遠心分離する際は、まず天然ゴムラテックスのゴム分が5〜40質量%、好ましくは10〜30質量%となるように水で希釈し、次いで5000〜10000rpmで1〜60分間遠心分離すればよく、所望のリン含有量になるまで洗浄を繰り返せばよい。また、静置してゴムを浮遊又は沈殿させる場合も水の添加、撹拌を繰り返して、所望のリン含有量になるまで洗浄すればよい。
なお、洗浄方法はこれらに限定されず、pHが6〜7の範囲となるように炭酸ナトリウム等の弱アルカリ水で中和後、液相分を除去することで洗浄してもよい。
【0039】
洗浄後、通常、公知の方法(オーブン、減圧など)で乾燥される。後述する本願実施例では、真空減圧下、40℃で12時間乾燥させた。乾燥後、2軸ロール、バンバリーミキサーなどでゴム練りを行うと、リン含有量が200ppm以下の改質天然ゴム(高純度化天然ゴム)及びミクロフィブリル化植物繊維を含むクラム状のマスターバッチが得られる。上記マスターバッチは、まとまり性、ハンドリング性を良くするため、圧延ロールで数cm厚みのシートに成型することが好ましい。なお、上記マスターバッチは、本発明の効果を阻害しない範囲で他の成分を含んでもよい。
【0040】
(ゴム組成物)
本発明のゴム組成物は、上記マスターバッチを含有する。上記マスターバッチに含まれる上記改質天然ゴムの作用により、ミクロフィブリル化植物繊維が均一に分散したゴム組成物が得られる。
【0041】
ミクロフィブリル化植物繊維は、押出し方向(トレッド、ベーストレッド、サイドウォール、クリンチ、タイガム、ビードエーペックス等では、タイヤ周方向、すなわち、回転方向に相当する。)に配列するため、押出し方向を主として補強し、押出し方向に直交する方向(タイヤ径方向)への補強の寄与は少ない。この特性を利用して、タイヤ径方向の複素弾性率E*を維持しながら、タイヤ周方向の複素弾性率E*を高くすることができ、これにより、操縦安定性と、低燃費性及び乗り心地性とを両立させることができる。以下、その理由について説明する。
【0042】
タイヤ周方向の複素弾性率E*は、タイヤにスリップ角が付加され、捻り発生時、捻りトルクを生む。そのため、タイヤ周方向の複素弾性率E*が高いほど、操縦応答性は良好となる。一方、タイヤ径方向の複素弾性率E*は、直進回転時の転がり抵抗や、突起乗り越し時の入力に対するはね返り力の源となる。そのため、タイヤ径方向の複素弾性率E*が低いほど、低燃費性、乗り心地性が良好となる。本発明のゴム組成物は、ミクロフィブリル化植物繊維により、タイヤ径方向の複素弾性率E*を維持しながら、タイヤ周方向の複素弾性率E*を高くすることができるため、操縦安定性と、低燃費性及び乗り心地性とを両立させることができる。
【0043】
本発明のゴム組成物において、ゴム成分100質量%中の上記改質天然ゴムの含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上である。5質量%未満であると、ミクロフィブリル化植物の分散性を充分に向上できない場合がある。また、上記改質天然ゴムの含有量は、好ましくは80質量%以下、より好ましくは60質量%以下、更に好ましくは50質量%以下である。80質量%を超えると、破断伸びや低燃費性が悪化する傾向がある。
【0044】
本発明のゴム組成物は、上記改質天然ゴム以外の他のゴム成分を含んでもよい。他のゴム成分としては、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)等のジエン系ゴムが挙げられ、NR、IR、BRが好ましい。
【0045】
本発明のゴム組成物がNRを含有する場合、ゴム成分100質量%中のNRの含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは15質量%以上である。5質量%未満であると、充分な破断伸びが得られない場合がある。また、NRの含有量は、好ましくは80質量%以下、より好ましくは60質量%以下である。80質量%を超えると、耐亀裂成長性や耐リバージョン性が低下する場合がある。
【0046】
本発明のゴム組成物がIRを含有する場合、ゴム成分100質量%中のIRの含有量は、好ましくは3質量%以上、より好ましくは8質量%以上である。3質量%未満であると、加工性向上の効果が得られない傾向がある。また、IRの含有量は、好ましくは40質量%以下、より好ましくは20質量%以下である。40質量%を超えると、複素弾性率E*や破断伸びが低下する傾向がある。
【0047】
本発明のゴム組成物がBRを含有する場合、ゴム成分100質量%中のBRの含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは15質量%以上である。5質量%未満であると、耐亀裂成長性、加硫戻り性が悪化する場合がある。また、BRの含有量は、好ましくは80質量%以下、より好ましくは60質量%以下である。80質量%を超えると、充分な破断伸びが得られない場合がある。
【0048】
本発明のゴム組成物において、ミクロフィブリル化植物繊維の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上、更に好ましくは3質量部以上である。1質量部未満であると、ミクロフィブリル化植物繊維の相互作用が発生しにくく、高い複素弾性率E*が得られない場合がある。また、ミクロフィブリル化植物繊維の含有量は、好ましくは10質量部以下、より好ましくは8質量部以下である。10質量部を超えると、ミクロフィブリル化植物繊維の分散が困難となり、破断伸び、低燃費性が悪化する場合がある。
【0049】
本発明のゴム組成物は、カーボンブラック及び/又はシリカを含むことが好ましい。これにより、タイヤ径方向(押出し方向に直交する方向)を適度に補強することができ、低燃費性、乗り心地性、操縦安定性をバランス良く改善することができる。また、カーボンブラック及び/又はシリカにより、優れた破断伸び、破断抗力、耐亀裂成長性も得られる。更に、トレッド配合、クリンチ配合においては、適切な耐摩耗性も得られる。
【0050】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA)は、好ましくは25m/g以上、より好ましくは28m/g以上である。25m/g未満では、充分な破断伸びが得られないおそれがある。該NSAは、好ましくは190m/g以下、より好ましくは100m/g以下である。190m/gを超えると、充分な低燃費性が得られないおそれがある。
なお、カーボンブラックのNSAは、JIS K 6217−2:2001によって求められる。
【0051】
シリカの窒素吸着比表面積(NSA)は、好ましくは70m/g以上、より好ましくは100m/g以上である。70m/g未満では、充分な破断伸びが得られないおそれがある。該NSAは、好ましくは300m/g以下、より好ましくは250m/g以下である。300m/gを超えると、充分な低燃費性が得られないおそれがある。
なお、シリカのNSAは、ASTM D3037−93に準じてBET法で測定される値である。
【0052】
カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは40質量部以上である。また、カーボンブラックの含有量は、好ましくは80質量部以下、より好ましくは70質量部以下である。上記範囲内であると、乗り心地性を維持しながら、低燃費性、操縦安定性、破断伸びが良好に得られる。
【0053】
シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは3質量部以上、より好ましくは5質量部以上である。また、シリカの含有量は、好ましくは20質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。上記範囲内であると、低燃費性、破断伸びが良好に得られる。また、シュリンクが少なく、押出し寸法安定性が良好である。
ただし、シリカは、カーボンブラックと比較して、耐摩耗性や複素弾性率E*の向上効果が低く、かつ、シランカップリング剤の使用が必要でコストが高くなるため、配合しなくてもよい。
【0054】
カーボンブラック及びシリカの合計含有量は、トレッド以外の配合においては、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは25質量部以上、より好ましくは45質量部以上である。また、該合計含有量は、好ましくは80質量部以下、より好ましくは70質量部以下である。上記範囲内であると、低燃費性、乗り心地性、操縦安定性、破断伸びが良好に得られる。
また、トレッド配合では、重要性能である耐摩耗性、操縦安定性が良好に得られるという点から、カーボンブラック及びシリカの合計含有量は、好ましくは40〜120質量部、より好ましくは50〜110質量部である。
【0055】
本発明のゴム組成物は、C5系石油樹脂を含むことが好ましい。これにより、良好な操縦安定性が得られる。C5系石油樹脂としては、ナフサ分解によって得られるC5留分中のオレフィン、ジオレフィン類を主原料とする脂肪族系石油樹脂などが挙げられる。
【0056】
C5系石油樹脂の軟化点は、好ましくは50℃以上、より好ましくは80℃以上である。また、該軟化点は、好ましくは150℃以下、より好ましくは120℃以下である。上記範囲内であると、粘着性、破断伸びが良好に得られる。
【0057】
C5系石油樹脂の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1.5質量部以上である。また、該含有量は、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下である。上記範囲内であると、粘着性、破断伸びが良好に得られる。
【0058】
本発明のゴム組成物には、前記成分以外にも、従来ゴム工業で使用される配合剤、例えば、オイル、亜鉛華、ステアリン酸、各種老化防止剤、硫黄、加硫促進剤などを適宜配合できる。
【0059】
本発明のゴム組成物は、温度70℃、動歪み2%で測定した押出し方向(タイヤ周方向)の複素弾性率E*aと、温度70℃、動歪み2%で測定した押出し方向に直交する方向(タイヤ径方向)の複素弾性率E*bとの比(E*a/E*b)が、1.2〜4.0であることが好ましい。E*a/E*bを上記範囲内に調整することにより、低燃費性、操縦安定性、乗り心地性がバランス良く得られる。E*a/E*bは、1.3〜3.0に調整することがより好ましい。
本明細書において、タイヤ周方向、タイヤ径方向とは、具体的には特開2009−202865号公報の図1などに記載の方向である。
なお、本明細書において、E*a、E*bは、後述の実施例に記載の方法により測定される。
【0060】
E*a/E*bは、ミクロフィブリル化植物繊維の量、ミクロフィブリル化植物繊維の柔軟さ、ミクロフィブリル化植物繊維の絡み具合、ミクロフィブリル化植物繊維の1次形状、未加硫ゴム組成物の押出し圧力などにより調整できる。
具体的には、ミクロフィブリル化植物繊維をタイヤ周方向に均一な間隔で配向させるほど、また、ミクロフィブリル化植物繊維の量を増加させるほどE*a/E*bを増加できる。
なお、宇部興産(株)製のVCR617などのSPB(1,2−シンジオタクチックポリブタジエン結晶)含有BRを使用することによってもE*a/E*bを向上させることは可能であるが、ミクロフィブリル化植物繊維は、該SPB含有BRと比較して、E*a/E*bの向上効果が大きいという点で有利である。
【0061】
本発明のゴム組成物の製造方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、前記各成分をオープンロール、バンバリーミキサーなどのゴム混練装置を用いて混練し、その後加硫する方法などにより製造できる。
【0062】
本発明のゴム組成物は、タイヤ部材に使用することができ、特に、サイドウォール、クリンチ、ベーストレッド、タイガム、ビードエイペックス又は高性能タイヤ用トレッドに好適に使用できる。
なお、ベーストレッドとは、多層構造を有するトレッドの内層部であり、2層構造〔表面層(キャップトレッド)及び内面層(ベーストレッド)〕からなるトレッドでは内面層である。
クリンチとは、サイドウォールの内方端に配される部材であり、具体的には、例えば、特開2008−75066号公報の図1、特開2004−106796号公報の図1などに示される部材である。
タイガムとは、ケースコードの内側でインナーライナーの外側に配設される部材であり、具体的には、特開2010−095705号公報の図1などに示される部材である。
ビードエイペックスとは、ビードコアから半径方向外側にのびるように、タイヤクリンチの内側に配される部材であり、具体的には、特開2008−38140号公報の図1〜3などに示される部材である。
高性能タイヤ用トレッドとは、例えば、モーターサイクルや、2000cc以上の大排気量乗用車のタイヤのトレッドに使用される部材である。
【0063】
本発明の空気入りタイヤは、上記ゴム組成物を用いて通常の方法によって製造できる。すなわち、上記ゴム組成物を未加硫の段階でサイドウォールなどの形状に合わせて押し出し加工し、タイヤ成形機上にて通常の方法にて成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、未加硫タイヤを形成できる。この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧してタイヤを製造できる。
【実施例】
【0064】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0065】
以下に、実施例で用いた各種薬品について説明する。
天然ゴムラテックス:Muhibbah LATEKS社から入手したフィールドラテックスを使用
BRラテックス:下記方法で調製
SBRラテックス:下記方法で調製
ミクロフィブリル化植物繊維:王子製袋(株)製のネオファイバー
界面活性剤:花王(株)製のEmal−E(ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム)
NaOH:和光純薬工業(株)製のNaOH
凝集剤:花王(株)製のボイスC−60H(メタクリル酸エステル系ポリマー)
凝固剤:和光純薬工業(株)製の1%硫酸
NR:TSR20
IR:IR2200
BR1:宇部興産(株)製のBR150B
BR2:宇部興産(株)製のVCR617(SPB含有BR)
カーボンブラック1:キャボットジャパン(株)製のショウブラックN660(NSA:30m/g)
カーボンブラック2:キャボットジャパン(株)製のショウブラックN550(NSA:40m/g)
シリカ:デグッサ社製のUltrasil VN3(NSA:175m/g)
炭酸カルシウム:竹原化学工業(株)製のタンカル200
C5系石油樹脂:丸善石油化学(株)製のマルカレッツT−100AS(C5系石油樹脂:ナフサ分解によって得られるC5留分中のオレフィン、ジオレフィン類を主原料とする脂肪族系石油樹脂)(軟化点:102℃)
オイル:H&R社製のvivatec500
亜鉛華:東邦亜鉛(株)製の銀嶺R
ステアリン酸:日油(株)製のステアリン酸 椿
老化防止剤(6PPD):住友化学(株)製のアンチゲン6C(N−フェニル−N’−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン)
10%オイル含有不溶性硫黄:日本乾溜工業(株)製のセイミサルファー(2硫化炭素による不溶分60%、オイル分10%)
加硫促進剤(TBBS):大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
【0066】
(ミクロフィブリル化植物繊維水溶液の調製)
ミクロフィブリル化植物繊維を200倍(質量比)の水で希釈後、プロペラ式ホモジナイザーを用いて撹拌し、ミクロフィブリル化植物繊維水溶液を得た。このとき、撹拌速度、撹拌時間を変更し、ミクロフィブリル化植物繊維の平均繊維径、平均繊維長を調整した。
【0067】
(マスターバッチの調製)
天然ゴムラテックスの固形分濃度(DRC)を30%(w/v)に調整した後、天然ゴムラテックス1000gに対し、Emal−E10gとNaOH20gを加え、室温で48時間ケン化反応を行い、ケン化天然ゴムラテックスを得た。
次に、ケン化天然ゴムラテックスとミクロフィブリル化植物繊維水溶液とが乾燥時に所定の質量比率となるように計量、調整後、プロペラ式ホモジナイザーを用いて、450rpmの条件でこれらを2時間撹拌した。
次に、撹拌後の混合物1000gに対し、凝集剤1.5gを加え、プロペラ式ホモジナイザーを用いて、300rpmで2分間撹拌した。
次に、プロペラ式ホモジナイザーを用いて、450rpm、40〜45℃の条件で撹拌しながら凝固剤を加え、pHを6.8〜7.1に調整し、凝固物を得た。撹拌時間は1時間とした。得られた凝固物は、水1000mlで繰り返し洗浄した。
次に、数時間風乾させた凝固物を更に40℃で12時間真空乾燥し、マスターバッチ(MB)を得た。得られたMB(1)〜(12)を表2に示す。なお、MB(4)はケン化処理を行わずに作製した。また、MB(5)は天然ゴムラテックスの代わりにBRラテックスを、MB(6)は天然ゴムラテックスの代わりにSBRラテックスを使用した。
【0068】
なお、SBRラテックス、BRラテックスは以下の方法で調製した。使用した薬品を以下に示す。
水:蒸留水
乳化剤(1):ハリマ化成(株)製のロジン酸石鹸
乳化剤(2):和光純薬工業(株)製の脂肪酸石鹸
電解質:和光純薬工業(株)製のリン酸ナトリウム
スチレン:和光純薬工業(株)製のスチレン
ブタジエン:高千穂化学工業(株)製の1,3−ブタジエン
分子量調整剤:和光純薬工業(株)製のtert−ドデシルメルカプタン
ラジカル開始剤:日油(株)製のパラメンタンヒドロペルオキシド
SFS:和光純薬工業(株)製のソディウム・ホルムアルデヒド・スルホキシレート
EDTA:和光純薬工業(株)製のエチレンジアミン四酢酸ナトリウム
触媒:和光純薬工業(株)製の硫酸第二鉄
重合停止剤:和光純薬工業(株)製のN,N’−ジメチルジチオカルバメート
【0069】
(SBRラテックスの調製)
表1の仕込み組成に従い、撹拌機付き耐圧反応器に水、乳化剤(1)、乳化剤(2)、電解質、スチレン、ブタジエン及び分子量調整剤を仕込んだ。反応器温度を5℃とし、ラジカル開始剤及びSFSを溶解した水溶液と、EDTA及び触媒を溶解した水溶液とを反応器に添加して重合を開始した。重合開始から5時間後、重合停止剤を添加して反応を停止させ、SBRラテックスを得た。
【0070】
(BRラテックスの調製)
表1の仕込み組成に従って、SBRラテックスと同様の処方にてBRラテックスを得た。
【表1】
【0071】
MB(1)〜(12)に含まれるゴム分と、TSR20とについて、以下に示す方法により、窒素含有量、リン含有量及びゲル含有率を測定した。結果を表2に示す。
【0072】
(窒素含有量の測定)
窒素含有量は、熱分解後ガスクロマトグラフで定量した。
【0073】
(リン含有量の測定)
ICP発光分析装置(P−4010、日立製作所(株)製)を使用してリン含有量を求めた。
また、リンの31P−NMR測定は、NMR分析装置(400MHz、AV400M、日本ブルカー社製)を使用し、80%リン酸水溶液のP原子の測定ピークを基準点(0ppm)として、クロロホルムにより生ゴムより抽出した成分を精製し、CDClに溶解して測定した。
【0074】
(ゲル含有率の測定)
1mm×1mmに切断した生ゴムのサンプル70.00mgを計り取り、これに35mLのトルエンを加え1週間冷暗所に静置した。次いで、遠心分離に付してトルエンに不溶のゲル分を沈殿させ上澄みの可溶分を除去し、ゲル分のみをメタノールで固めた後、乾燥し質量を測定した。次の式によりゲル含有率(質量%)を求めた。
ゲル含有率(質量%)=[乾燥後の質量mg/最初のサンプル質量mg]×100
【0075】
【表2】
【0076】
表2に示すように、HPNRを含むMB1〜3、7〜12は、TSR20に比べて、窒素含有量、リン含有量、ゲル含有率が低減していた。また、31P NMR測定において、−3ppm〜1ppmにリン脂質によるピークを検出しなかった。
【0077】
(実施例及び比較例)
表3、4の上段に示す配合処方にしたがい、(株)神戸製鋼製1.7Lバンバリーミキサーを用いて、硫黄及び加硫促進剤以外の薬品を混練りした。次に、オープンロールを用いて、得られた混練り物に硫黄及び加硫促進剤を添加して練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。
得られた未加硫ゴム組成物を排出温度115℃の条件でサイドウォールの形状に押出し加工した後、生タイヤを製造し、170℃で加硫して試験用タイヤ(205/65R15)を得た。得られた試験用タイヤの性能を以下の試験により評価した。
【0078】
(粘弾性試験)
得られた試験用タイヤから、タイヤ軸を中心として周方向が長辺となる様に短冊状のゴム試験片を切り出しゴム試験片1(サイズ:縦20mm、横3mm、厚さ2mm)を得た。また、タイヤ軸を中心として半径方向(ラジアル方向)が長辺となる様に短冊状のゴム試験片を切り出しゴム試験片2(サイズ:ゴム試験片1と同様)を得た。
得られたゴム試験片1、2を用いて、(株)岩本製作所製の粘弾性スペクトロメータVESを用いて、温度70℃、周波数10Hz、初期歪10%及び動歪2%(長辺方向の歪)の条件下で、タイヤ周方向の複素弾性率E*a(MPa)、及びタイヤ径方向の複素弾性率E*b(MPa)を測定した。E*が大きいほど剛性が高いことを示す。
なお、E*aが大きいほど微小操舵角でのハンドル応答性に優れ、操縦安定性が優れることを示す。E*bが小さいほど路面の凹凸吸収性に優れ、乗り心地性が優れることを示す。E*a/E*bが大きいほど、過渡特性(操舵角度をつけてのコーナリングの直後に、ハンドルを直進に戻した際の車両戻りの良さ)が優れることを示す。
【0079】
また、前述の評価方法によりゴム試験片1のtanδを測定し、比較例1を100とし、各配合のtanδを指数表示した。tanδ(70℃)指数が大きいほど、低燃費性が優れることを示す。
【0080】
(シート加工性)
各未加硫ゴム組成物について、押出し後の各未加硫ゴム組成物を所定のサイドウォールの形状に成形した成形品のエッジ状態、ゴムの焼け度合い、ゴム同士の粘着度合い、平坦さ、及びミクロフィブリル化植物繊維の凝集塊の有無を目視、触覚により評価し、比較例1を100として指数表示した。数値が大きいほど、シート加工性が優れることを示している。
なお、エッジ状態については、最もエッジが真っ直ぐで滑らかな状態を良好とし、ゴムの焼け度合いについては、上記成形品から切り出した15cm角の2mmシートにおいて、ピッツ焼けゴム塊による凹凸がない状態を良好とし、平坦さについては、該シートが平坦で平面板に密着する状態を良好として評価した。
【0081】
(操縦安定性、乗り心地性)
試験用タイヤを車両(3000cc)の全輪に装着させ、一般的な走行条件のテストコースにて実車走行を行なった。操舵時のコントロールの安定性(操縦安定性)及び乗り心地性をテストドライバーが官能評価し、比較例1を100として指数表示をした。操縦安定性指数が大きいほど操縦安定性が優れることを示し、乗り心地性指数が大きいほど乗り心地性が優れることを示す。
【0082】
【表3】
【0083】
【表4】
【0084】
表3及び4より、リン含有量が200ppm以下の改質天然ゴムと、ミクロフィブリル化植物繊維とを含むMBを配合した実施例は、転がり抵抗、シート加工性、操縦安定性、乗り心地性がバランス良く改善された。
【0085】
一方、上記MBを配合していない比較例1〜3は、転がり抵抗、シート加工性、操縦安定性、乗り心地性のいずれかが大きく劣っており、性能のバランスが悪かった。
比較例4は、VCR617を配合することで、操縦安定性やシート加工性は良好であったが、E*a/E*bの値が実施例よりも劣っていた。
比較例5は、ミクロフィブリル化植物繊維の含有量が少ないため、操縦安定性が劣っており、比較例6は、ミクロフィブリル化植物繊維の含有量が多いため、乗り心地性が劣っていた。
比較例7〜9は、HPNRを含有していないため、ミクロフィブリル化植物繊維を充分に分散させることができず、低燃費性や操縦安定性が劣っていた。
比較例10及び11は、ミクロフィブリル化植物繊維を混練り時に投入しているため、ミクロフィブリル化植物繊維を充分に分散させることができず、低燃費性やシート加工性が大きく劣っていた。
図1
図2