(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本出願は、2008年11月8日に出願されたUS仮出願60/986,481号の優先権を主張し、その全ての開示を参照によって取り込む。
【0011】
本発明は、銀コーティングに保護有機膜を適用するための方法及び組成物を対象とする。銀コーティングは、浸漬銀めっき方法によって、或いは電解めっき法によって適用することができる。好適な実施態様では、銀コーティングは銅基板上に浸漬銀めっき法によってめっきされる。保護有機膜は、特に浸漬銀仕上げ及び下層の銅基板の信頼性を保持するのに適し、それによって、例えば、その上に浸漬めっき銀の層を有する銅又は銅合金基材の改善された外観、耐腐食性、耐クリープ腐食性、及びはんだぬれ性をもたらす。本発明の有機保護膜による保護に適した銅基板としては、電気回路板、チップキャリア、半導体基板、金属鉛フレーム、コネクター、及び他のはんだ性銅基板が挙げられる。銀浸漬置換めっきは、これら銅基板のはんだぬれ性を保持する1つの方法である。銀浸漬めっきは、一般的に約0.05ミクロンと約0.8ミクロンとの間、典型的には約0.15ミクロンと約0.40ミクロンとの間に特有の厚みを有する銀層を与える自己制
限的方法である。特定の浸漬方法及び組成物は、幅広い範囲外に厚みを有する銀層をめっきをすることができる。
【0012】
上記のように、浸漬めっき銀は、銅及び銀間の特定のはだか銅界面、特にPCB基板で孔及び高アスペクト比のブラインドビアを介しためっき部分等の銅表面を充分に保護できないおそれがある。さらに、浸漬めっき銀コーティングは、その工程の自己制御式特性による内孔によって特徴づけられる。最後に、浸漬めっき銀表面は特に高い汚染環境では、硫化及び酸化に加えてめっき工程による孔形成の影響を受けやすい。従って、本発明は、銅表面上、加えて浸漬めっき銀コーティングに腐食保護の層を与える保護有機膜を適用する方法を対象とする。保護有機膜を適用する方法は、表面上に銀コーティングを有する銅基板を、はんだ性銅基板上に蒸着させた浸漬めっき銀コーティングの耐腐食性を向上させるための組成物に暴露することが必要となる。
【0013】
従って、本発明はさらにかかる組成物を対象とする。該組成物は、銅及び銀表面と相互作用し、かつ保護することが可能な官能基を含む分子を含む。一の実施態様では、かかる分子は異なる官能性を有する2つ若しくはそれ以上の官能基、すなわち多官能性分子を含む。多官能性分子は、異なる官能性を有する2つの有機官能基を含む二官能性分子を包含する。本発明によれば、二官能性分子は、銅表面と相互作用し、かつ保護する少なくとも1つの有機官能基と、銀表面と相互作用し、かつ保護する少なくとも1つの有機官能基とを含む。本発明の中には、多官能性分子がさらに三官能性分子、四官能性分子等を包含し、各分子が異なる官能性を有する3つ、4つ、若しくはそれ以上の有機官能基を有する。一の実施態様では、多官能性分子を含む自己組織化された単層として、有機保護膜を特徴づけることができる。
【0014】
多官能性分子は銅表面と相互作用し、かつ保護する少なくとも1つの有機官能基を含む。一の実施態様では、銅表面と相互作用し、かつ保護する有機官能基はアミンである。アミンは、典型的にはヒドロカルビル又はアリール等の有機置換基に結合している窒素を含む。ヒドロカルビルはアルキル、アルケニル、及びアルキニルを包含する。該ヒドロカルビルは置換されていても置換されていなくてもよい。アリールはフェニル、ナフテニル、及び2つ以上の縮合環を有する基等の芳香族基を包含する。アリールは置換されていても置換されていなくてもよく、同素環であっても複素環であってもよい。
【0015】
適用可能なアミンとしては、第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン、及び窒素を含む芳香族複素環が挙げられる。第一級アミン、第二級アミン、及び第三級アミンは、一般構造式(I)を有していてもよい。
【化1】
式中、R
1、R
2、及びR
3はヒドロカルビル、アリール、又は水素のいずれかであり、R
1、R
2、及びR
3の少なくとも1つはヒロドカルビル又はアリールである。典型的な構造では、R
1、R
2、及びR
3の少なくとも1つが約2と約24との間の炭素原子、典型的には約6と約24との間の炭素原子、より典型的には約10と約18との間の炭素原子からなるヒドロカルビルの炭素鎖である。アリール基は典型的には約6と約24との間の炭素原子、より典型的には約6と約10との間の炭素原子からなり、すなわち、フェニル基(置換ベンゼン)、ナフチル基(置換ナフタレン)、置換アントラセン、置換フェナントレン、置換テトラセン等である。該ヒドロカルビル及びアリールはさらに置換されていてもよい。典型的な置換基としては、アルキル基が分岐した短炭素鎖、典型的には1〜4炭素原子を有する、すなわち、メチル、エチル、プロピル、及びブチル置換基並びにフェニル、ナフテニル、及び窒素、酸素、及び硫黄を含む芳香族複素環等の芳香族基が挙げられる。他の置換基としては、追加的アミン、チオール、カルボキシレート、ホスフェート、ホスホネート、スルフェート、スルホネート、ハロゲン、ヒドロキシル、アルコキシ、アリールオキシ、保護されたヒドロキシ、ケト、アシル、アシルオキシ、ニトロ、シアノ、エステル、及びエーテルが挙げられる。
【0016】
窒素を含む芳香族複素環は、好ましくは5員環の芳香族環(アゾール)である。該環は炭素原子、窒素原子、又は双方で置換することができる。好ましくは、該環は炭素原子で置換される。置換基は銀表面と相互作用し、かつ保護できる有機官能基であってもよい。他の適用可能な置換基としては、短炭素鎖、典型的には1〜4炭素原子を有する、すなわち、メチル、エチル、プロピル、及びブチル置換基並びにフェニル、ナフテニル、及び窒素、酸素、及び硫黄を含む芳香族複素環等の芳香族基が挙げられる。他の置換基としては、アミン、チオール、カルボキシレート、ホスフェート、ホスホネート、スルフェート、スルホネート、ハロゲン、ヒドロキシル、アルコキシ、アリールオキシ、保護されたヒドロキシ、ケト、アシル、アシルオキシ、ニトロ、シアノ、エステル、及びエーテルが挙げられる。該環は芳香族基又は複素環基に縮合することができ、同素環であっても複素環であってもよい。一の実施態様では、該環は6員環に縮合している。さらに追加的官能基で置換することのできる典型的なアゾールを表1に示す。
【0018】
窒素を含む好適な芳香族複素環式化合物としては、イミダゾール、トリアゾール、ピラゾール、ベンズイミダゾール、プリン、イミダゾ[4,5−b]ピリジン、及びベンゾトリアゾールが挙げられる。これらの中でも、ベンズイミダゾールが特に好ましい。
【0019】
特定の理論に縛られることなく、窒素を含む第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン、及び芳香族複素環が、銅導電膜の表面上の銅(I)イオン及び溶液中の銅(II)イオンと相互作用する。銅(I)イオンとの相互作用が、銅導電膜の表面上で不溶性銅(I)系有機金属を含む膜、すなわち、有機金属変換コーティング(OMCC)として公知になった膜を形成する。窒素を含む該芳香族複素環は溶液中で銅(II)イオンをキレート化する。これらの相互作用は、銅(I)イオンが豊富な銅導電膜の表面上で保護膜の形成をもたらし、これによって銅導電膜の表面上における銅(I)イオンの銅(II)イオンに対する比率を増大させる。さらに、窒素を含む第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン及び芳香族複素環が銅基板の表面上で窒素−銅結合を形成し、また銀層の表面上で窒素−銀結合を形成することもできると考えられる。結合は、窒素を含む有機官能基が銅及び銀表面上に有機保護層を形成する追加的手段を意味している。
【0020】
多官能性分子は銀表面と相互作用し、かつ保護する少なくとも1つの有機官能基を含む。一の実施態様では、銀表面と相互作用し、かつ保護する有機官能基は硫黄である。硫黄を含む有機官能基としては、チオール、ジスルフィド、チオエーテル、チオアルデヒド、チオケトン、及び硫黄を含む芳香族複素環が挙げられる。硫黄を含む好適な有機官能基はチオール及びジスルフィドである。チオールは、水素原子及びヒドロカルビル又はアリール等の有機置換基に結合した硫黄原子を含む官能基である。ジスルフィドは、別の硫黄原子及びヒドロカルビル又はアリール等の有機置換基に結合した硫黄原子を含む官能基である。ヒドロカルビルは約2と約24の間との炭素原子、典型的には約6と約24との間の炭素原子、より典型的には約10と約18との間の炭素原子を含んでいてもよい。アリール基は、典型的には約6と約24との間の炭素原子、より典型的には約6と約10との間の炭素原子からなり、すなわち、フェニル基、ナフテニル基である。該ヒドロカルビル及びアリールは置換されていても置換されていなくてもよい。典型的な置換基としては、アルキル基が分岐した短炭素鎖、典型的には1〜4炭素原子を有する、すなわち、メチル、エチル、プロピル、及びブチル置換基並びにフェニル、ナフテニル、及び窒素、酸素、及び硫黄を含む芳香族複素環等の芳香族基が挙げられる。他の置換基としては、アミン、チオール、カルボキシレート、ホスフェート、ホスホネート、スルフェート、スルホネート、ハロゲン、ヒドロキシル、アルコキシ、アリールオキシ、保護されたヒドロキシ、ケト、アシル、アシルオキシ、ニトロ、シアノ、エステル、及びエーテルが挙げられる。
【0021】
硫黄を含む有機官能基が主として銀層の表面上で硫黄−銀結合を形成することがわかった。またそれらは、銅基板の表面上で硫黄−銅結合を形成することもできる。
【0022】
本発明によれば、銅表面と相互作用し保護する有機官能基及び銀表面と相互作用し保護する有機官能基が同一分子上に位置し、かかる分子を多官能性分子にする。換言すると、多官能性分子は、窒素を含む官能基と硫黄を含む官能基とを含む。
【0023】
一の実施態様では、多官能性分子は窒素及びチオールを含む官能基を含む。多官能性分子は追加的官能性を含んでいてもよく、典型的には互いに有機官能基と結合するヒドロカルビル又はアリールを含む。例えば、多官能性分子は炭素鎖を介してアミン及びチオールと結合するヒドロカルビル基を含み、一般構造式(II)を有していてもよい。
【化2】
式中、R
1はヒドロカルビルであり、R
2及びR
3はヒドロカルビル、窒素又は水素である。ヒドロカルビルの炭素鎖は、約2と約24との間の炭素原子、典型的には約6と約24との間の炭素原子、より典型的には約12と約18との間の炭素原子からなっていてもよい。ヒドロカルビルの炭素鎖は置換されていても置換されていなくてもよい。典型的な置換基としては、アルキル基が分岐した短炭素鎖、典型的には1〜4炭素原子を有する、すなわち、メチル、エチル、プロピル、及びブチル置換基並びにフェニル、ナフテニル、及び窒素、酸素、及び硫黄を含む芳香族複素環等の芳香族基が挙げられる。他の置換基としては、アミン、チオール、カルボキシレート、ホスフェート、ホスホネート、スルフェート、スルホネート、ハロゲン、ヒドロキシル、アルコキシ、アリールオキシ、保護されたヒドロキシ、ケト、アシル、アシルオキシ、ニトロ、シアノ、エステル、及びエーテルが挙げられる。一の好適な実施態様では、直鎖炭化水素が銀及び銅表面上で望ましい高密度に圧縮された自己組織化単一層をより良好に達成するように、R
1ヒドロカルビルが他の基で置換されていない。
【0024】
一の実施態様では、構造式(II)によって定義される多官能性分子はアミン及びチオールを含む。アミンは第一級アミン、第二級アミン、又は第三級アミンであってもよい。アミン及びチオールを含む典型的な多官能性分子としては、システィン、メチオニン、2−アミノエタンチオール(システアミン)、3−アミノプロパンチオール、4−アミノブタンチオール、5−アミノペンタンチオール、6−アミノヘキサンチオール、8−アミノオクタンチオール、10−アミノデカンチオール、及び12−アミノドデカンチオールが挙げられる。比較的長鎖炭化水素を含む多官能基は、チオール基から炭素鎖の反対側の末端以外の位置にアミノ官能性を有していてもよい。例えば、適用可能なアミノドデカンチオールとしては、アミノ官能基が炭化水素鎖のどの炭素にも位置するものが挙げられる。
【0025】
一の実施態様では、構造式(II)によって定義される多官能性分子は窒素及びチオールを含む芳香族複素環を含む。一の実施態様では、構造式(II)の窒素原子、R
2、及びR
3は5員環の芳香族複素環を形成する。5員環の芳香族複素環の中のその他の2つの原子は、炭素原子又は窒素原子であってもよい。5員環の芳香族複素環は縮合しなくともよく(すなわち、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、トリアゾール、又はテトラゾール)、或いは6員環に縮合してもよい(すなわち、イソインドール、インドール、ベンズイミダゾール、インダゾール、ベンゾトリアゾール、プリン、又はイミダゾ[4,5−b]ピリジン)。上記表1を参照のこと。この実施態様では、多官能性分子は構造式(IIa)を有する。
【化3】
式中、R
1はヒドロカルビルであり、R
2、R
3、R
4、R
5は窒素、硫黄、又は炭素である。ヒドロカルビルの炭素鎖は、約2と約24との間の炭素原子、典型的には約6と約24との間の炭素原子、より典型的には約12と約18との間の炭素原子からなっていてもよい。ヒドロカルビル、R
2、R
3、R
4、及びR
5のいずれの炭素鎖も置換されていても置換されていなくてもよい。典型的な置換基としては、アルキル基が分岐した短炭素鎖、典型的には1〜4炭素原子を有する、すなわち、メチル、エチル、プロピル、及びブチル置換基並びにフェニル、ナフテニル、及び窒素、酸素、及び硫黄を含む芳香族複素環等の芳香族基が挙げられる。他の置換基としては、アミン、チオール、カルボキシレート、ホスフェート、ホスホネート、スルフェート、スルホネート、ハロゲン、ヒドロキシル、アルコキシ、アリールオキシ、保護されたヒドロキシ、ケト、アシル、アシルオキシ、ニトロ、シアノ、エステル、及びエーテルが挙げられる。一の好適な実施態様では、直鎖炭化水素が銀及び銅表面上で望ましい高密度に圧縮された自己組織化単一層をより良好に達成するように、R
1ヒドロカルビルが他の基で置換されていない。
【0026】
一の実施態様では、構造式(II)の窒素原子、R
1、R
2及びR
3からの炭素原子は5員環の芳香族複素環を形成する。5員環の中の他の原子は、炭素原子又は窒素原子であってもよい。5員環芳香族複素環は縮合しなくともよく(すなわち、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、トリアゾール、又はテトラゾール)、或いは6員環に縮合してもよい(すなわち、イソインドール、インドール、ベンズイミダゾール、インダゾール、ベンゾトリアゾール、プリン、又はイミダゾ[4,5−b]ピリジン)。上記表1を参照のこと。この実施態様では、多官能性分子は一般構造式(IIb)から(IIe)のいずれかを有することができる。
【化4】
式中、R
1はヒドロカルビルであり、R
2、R
3、及びR
4は窒素、硫黄、又は炭素である。ヒドロカルビルの炭素鎖は、約2と約24との間の炭素原子、典型的には約6と約24との間の炭素原子、より典型的には約12と約18との間の炭素原子からなっていてもよい。ヒドロカルビル、R
2、R
3、及びR
4のいずれの炭素鎖も置換されていても置換されていなくてもよい。典型的な置換基としては、アルキル基が分岐した短炭素鎖、典型的には1〜4炭素原子を有する、すなわち、メチル、エチル、プロピル、及びブチル置換基並びにフェニル、ナフテニル、及び窒素、酸素、及び硫黄を含む芳香族複素環等の芳香族基が挙げられる。他の置換基としては、アミン、チオール、カルボキシレート、ホスフェート、ホスホネート、スルフェート、スルホネート、ハロゲン、ヒドロキシル、アルコキシ、アリールオキシ、保護されたヒドロキシ、ケト、アシル、アシルオキシ、ニトロ、シアノ、エステル、及びエーテルが挙げられる。一の好適な実施態様では、直鎖炭化水素が銀及び銅表面上で望ましい高密度に圧縮された自己組織化単一層をより良好に達成するように、R
1ヒドロカルビルが他の基で置換されていない。
【0027】
耐腐食性組成物で用いる、並びに浸漬銀及び銅表面上の保護膜で用いる、窒素及びチオールを含む芳香族複素環を含む典型的な多官能性分子としては、以下が挙げられる。
2−メルカプトベンズイミダゾール;
2−メルカプト−5−メチルベンズイミダゾール;
2−メルカプト−5−ニトロベンズイミダゾール;
5−アミノ−2−メルカプトベンズイミダゾール;
5−エトキシ−2−メルカプトベンズイミダゾール;
5−(ジフルオロメトキシ)−2−メルカプト−1H−ベンズイミダゾール;
2−メルカプト−1−メチルイミダゾール;
1−メチル−1H−ベンズイミダゾール−2−チオール;
1−[2−(ジメチルアミノ)エチル]−1H−テトラゾール−5−チオール、1−(4−ヒドロキシフェニル)−1H−テトラゾール−5−チオール;
1−(2−メトキシフェニル)−4−(4−ニトロフェニル)−1H−イミダゾール−2−チオール;
1−(2−メチルフェニル)−4−(4−メチルフェニル)−1H−イミダゾール−2−チオール;
4−フェニルチアゾール−2−チオール;
1H−1,2,4−トリアゾール−3−チオール;
2−チアゾリン−2−チオール;
4−アミノ−6−メルカプトピラゾロ[3,4−d]ピリミジン;
3−アミノ−1,2,4−トリアゾール−5−チオール;
4−アミノ−5−(4−ピリジル)−4H−1,2,4−トリアゾール−3−チオール;
4−アミノ−5−フェニル−4H−1,2,4−トリアゾール−3−チオール;
5−アミノ−1,3,4−チアジアゾール−2−チオール;
2−メルカプト−5−メチルアミノ−1,3,4−チアジアゾール;
5−メルカプト−1−メチルテトラゾール;
1−フェニル−1H−テトラゾール−5−チオール;及び
アゾール及びチオール官能基を有する他の浴相溶性分子。
【0028】
一の実施態様では、多官能性分子は窒素及びジスルフィドを含む官能基を含む。この多官能性分子は、2つのチオールが互いにジスルフィド結合、−S−S−を介して結合していることを除いて、窒素及びチオールを含む官能基を含む分子とかなり類似している。従って、多官能性分子は次の一般構造式(III)を有していてもよい。
【化5】
式中、R
1及びR
4はヒドロカルビルであり、R
2、R
3、R
5、及びR
6はヒドロカルビル、窒素、又は水素である。ヒドロカルビルの炭素鎖は、約2と約24との間の炭素原子、典型的には約6と約24との間の炭素原子、より典型的には約12と約18との間の炭素原子からなっていてもよい。ヒドロカルビルの炭素鎖は置換されていても置換されていなくてもよい。典型的な置換基としては、アルキル基が分岐した短炭素鎖、典型的には1〜4炭素原子を有する、すなわち、メチル、エチル、プロピル、及びブチル置換基並びにフェニル、ナフテニル、及び窒素、酸素、及び硫黄を含む芳香族複素環等の芳香族基が挙げられる。他の置換基としては、アミン、チオール、カルボキシレート、ホスフェート、ホスホネート、スルフェート、スルホネート、ハロゲン、ヒドロキシル、アルコキシ、アリールオキシ、保護されたヒドロキシ、ケト、アシル、アシルオキシ、ニトロ、シアノ、エステル、及びエーテルが挙げられる。一の好適な実施態様では、直鎖炭化水素が銀及び銅表面上で望ましい高密度に圧縮された自己組織化単一層をより良好に達成するように、R
1ヒドロカルビルが他の基で置換されていない。窒素及びジスルフィドを含む官能基を含む典型的な分子としては、2,2'−ジピリジルジスルフィド、4,4'−ジピリジルジスルフィド、2−アミノフェニルジスルフィド、4−アミノフェニルジスルフィド、シスタミン(一般にジヒドロクロリド塩として入手可能)、ビス(2−アミノエチル)ジスルフィド、ビス(3−アミノプロピル)ジスルフィド、ビス(4−アミノブチル)ジスルフィド、ビス(5−アミノペンチル)ジスルフィド、ビス(6−アミノヘキシル)ジスルフィド、ビス(7−アミノヘプチル)ジスルフィド、ビス(8−アミノオクチル)ジスルフィド、ビス(10−アミノデシル)ジスルフィド、及びより長い炭素鎖を有するジスルフィドが挙げられる。
【0029】
多官能性分子は、耐腐食性組成物中に典型的な約3g/Lの濃度で存在していてもよい。かかる濃度は、典型的には腐食保護のための充分な基板の領域を得るための最小濃度である。一般的に、多官能性分子の濃度は少なくとも約0.01g/L、より典型的には少なくとも約0.1g/L、さらに典型的には少なくとも約1g/Lである。多官能性分子は耐腐食性組成物中にその溶解度の限界まで、典型的には最大約100g/Lの濃度で存在することができる。一般的には、多官能性分子の濃度は約10g/L未満、より典型的には約6g/L未満である。従って、多官能性分子の濃度は、約0.1g/Lと約10g/Lとの間、典型的には約1g/Lと約6g/Lとの間であり、例えば一の実施態様では約3g/Lである。
【0030】
耐腐食性組成物は、好ましくは上述したような多官能性分子を含む水溶液である。本発明の耐腐食性組成物はさらにアルコール、界面活性剤、及びアルカリ性pH調整剤を含むことができる。
【0031】
アルコールを耐腐食性組成物に取り込むことは、多官能性化合物の相溶性を向上させる。適用可能なアルコールとしては、ジオール、チオール、及び高級ポリオールが挙げられる。適切なアルコールとしては、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノール、エチレングリコール、プロパン−1,2−ジオール、ブタン−1,2−ジオール、ブタン−1,3−ジオール、ブタン−1,4−ジオール、プロパン−1,3−ジオール、ヘキサン−1,4−ジオール、ヘキサン−1,5−ジオール、ヘキサン−1,6−ジオール等が挙げられる。そして、ブテン−ジオル、ヘキセン−ジオール、及びブチンジオール等のアセチレンのジオール等の不飽和ジオール類が存在する。適切なトリオールはグリセロールである。追加的なアルコールとしては、トリエチレングリコール、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、アリルアルコール、フルフリルアルコール、及びテトラヒドロフルフリルアルコールが挙げられる。
【0032】
アルコールは、耐腐食性組成物中に少なくとも約10mL/Lの濃度で存在していてもよい。一般的に、アルコールの濃度は少なくとも約100mL/L、より典型的には少なくとも約150mL/Lである。アルコールは、耐腐食性組成物中にその水中での溶解度の限界までの濃度で存在することができる。アルコールだけを含む溶媒系を用いることは本発明の範囲内である。アルコールが補助溶媒である水性溶媒系では、アルコールの濃度は典型的には約500mL/L未満、より典型的には約200mL/L未満である。従って、アルコール濃度は約10mL/Lと約500mL/Lとの間、典型的には約150mL/Lと約200mL/Lとの間である。
【0033】
銅及び銀表面のぬれを向上させるのに界面活性剤を添加することができる。該界面活性剤は、カチオン性、アニオン性、非イオン性又は両イオン性であってもよい。特定の界面活性剤を単独で、或いは他の界面活性剤と組み合わせて用いてもよい。界面活性剤の1種は親水性頭部及び疎水性尾部からなる。アニオン性界面活性剤に関連する親水性頭部基としては、カルボキシレート、スルフォネート、スルフェート、ホスフェート、及びホスフォネートが挙げられる。カチオン性界面活性剤に関連する親水性頭部基としては、第四級アミン、スルホニウム、及びホスホニウムが挙げられる。第四級アミンとしては、第四級アンモニウム、ピリジニウム、ビピリジニウム、及びイミダゾリウムが挙げられる。非イオン性界面活性剤に関連する親水性頭部基としては、アルコール及びアミドが挙げられる。両イオン性界面活性剤に関連する親水性頭部基としては、ベタインが挙げられる。疎水性尾部は、典型的には炭化水素鎖からなる。該炭化水素鎖は典型的には約6と約24との間の炭素原子、より典型的には約8から約16の間の炭素原子を含む。
【0034】
典型的なアニオン性界面活性剤としては、アルキルホスホネート、アルキルエーテルホスフェート、アルキルスルフェート、アルキルエーテルスルフェート、アルキルスルホネート、アルキルエーテルスルホネート、カルボン酸エーテル、カルボン酸エステル、アルキルアリールスルホネート、及びスルホサクシネートが挙げられる。アニオン性界面活性剤としては、ソディウムラウリルスルフェート、ソディウムラウレススルフェート(2EO)、ソディウムラウレス、ソディウムラウレススルフェート(3EO)、アンモニウムラウリルスルフェート、アンモニウムラウレススルフェート、TEA−ラウリルスルフェート、TEA−ラウレススルフェート、MEA−ラウリルスルフェート、MEA−ラウレススルフェート、ポタジウムラウリルスルフェート、ポタジウムラウレススルフェート、ソディウムデシルスルフェート、ソディウムオクチル/デシルスルフェート、ソディウム2−エチルヘキシルスルフェート、ソディウムオクチルスルフェート、ソディウムノンオキシノール−4スルフェート、ソディウムノンオキシノール−6スルフェート、ソディウムクメンスルフェート、及びアンモニウムノンオキシノール−6スルフェートを含むULTRAFAX社が市販しているもの等のスルフェートエステル;ソディウムα−オレフィンスルホネート、アンモニウムキシレンスルホネート、ソディウムキシレンスルホネート、ソディウムトルエンスルホネート、ドデシルベンゼンスルホネート、及びリグノスルホネート等のスルホネートエステル;ジソディウムラウリルスルホサクシネート、ジソディウムラウレススルホサクシネート等のスルホサクシネート界面活性剤;及びソディウムココイルイセチオネート、ラウリルホスフェート、ホスフェートエステルのULTRAPHOSシリーズ、Cytec社から入手可能なCyastat(登録商標)609(N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−N−(3'−ドデシロキシ−2'−ヒドロキシプロピル)メチルアンモニウムメトスルフェート)及びCyastat(登録商標)LS((3−ラウラミドプロピル)トリメチルアンモニウムメチルスルフェート)を含む他のものが挙げられる。
【0035】
典型的なカチオン性界面活性剤としては、ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド、臭素及び塩素のセチルトリメチルアンモニウム塩、臭素及び塩素のヘキサデシルトリメチルアンモニウム塩、塩素及び臭素のアルキルジメチルベンジルアンモニウム塩等のような第四級アンモニウム塩が挙げられる。この点、Lodyne 106A(フルオロアルキルアンモニウムクロリドカチオン性界面活性剤28〜30%)及びAmmonyx 4002(オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリドカチオン性界面活性剤)等の界面活性剤が特に好ましい。
【0036】
好適な態様では、界面活性剤は非イオン性である。非イオン性界面活性剤の種類としては、例えばエチレンオキシド(EO)繰り返し単位及び/又はプロピレンオキシド(PO)繰り返し単位を基にしたポリエーテル基を含むものが挙げられる。これらの界面活性剤は一般的に非イオン性である。ポリエーテル鎖を有する界面活性剤は、約1と約36との間のEO繰り返し単位、約1と約36との間のPO繰り返し単位、又は約1と約36との間のEO繰り返し単位とPO繰り返し単位との組み合わせを有していてもよい。より典型的には、ポリエーテル鎖は、約2と約24との間のEO繰り返し単位、約2と約24との間のPO繰り返し単位、又は約2と約24との間のEO繰り返し単位とPO繰り返し単位との組み合わせからなる。さらに典型的には、ポリエーテル鎖は、約6と約15との間のEO繰り返し単位、約6と約15との間のPO繰り返し単位、又は約6と約15との間のEO繰り返し単位とPO繰り返し単位との組み合わせからなる。これらの界面活性剤はEO繰り返し単位とPO繰り返し単位とのブロック、例えば2つのPO繰り返し単位のブロックによって取り囲まれた1つのEO繰り返し単位のブロック、或いは2つのEO繰り返し単位のブロックによって取り囲まれた1つのPO繰り返し単位のブロックを含んでいてもよい。ポリエーテル界面活性剤の他の種類は、交互PO及びEO繰り返し単位からなる。これらの界面活性剤の中には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、及びポリプロピレングリコール/ポリエチレングリコールがある。
【0037】
さらに非イオン性界面活性剤の他の種類は、グリセロールエステル、ブタノールエステル、ペンタノールエステル、エキサノールエステル、ヘプタノールエステル、オクタノールエステル、ノナノールエステル、デカノールエステル、ドデカノールエステル、テトラデカノールエステル、フェノールエステル、アルキル置換フェノールエステル、α−ナフトールエステル、及びβ−ナフトールエステル等のアルコール又はフェノール基準基に基づくEO、PO、又はEO/PO繰り返し単位を含む。アルキル置換フェノールエステルに関しては、フェノール基は、約8の炭素原子(オクチルフェノール)又は約9の炭素原子(ノニルフェノール)等の、約1と約10との間の炭素原子を有する炭化水素鎖で置換されている。ポリエーテル鎖は、約1と約24との間のEO繰り返し単位、約1と約24との間のPO繰り返し単位、又は約1と約24との間のEO及びPO繰り返し単位の組み合わせからなる。より典型的には、ポリエーテル鎖は、約8と約16との間のEO繰り返し単位、約8と約16との間のPO繰り返し単位、又は約8と約16との間のEO及びPO繰り返し単位の組み合わせからなる。さらにより典型的には、ポリエーテル鎖は、約9、約10、約11、又は約12のEO繰り返し単位;約9、約10、約11、又は約12のPO繰り返し単位;或いは約9、約10、約11、又は約12のEO繰り返し単位及びPO繰り返し単位の組み合わせからなる。
【0038】
典型的なβ−ナフトール誘導体非イオン性界面活性剤は、ナフトールヒドロキシ基に結合した12エチレンオキシドモノマー単位を有するβ−ナフトールエトキシレートであるLugalvan BNO12である。類似の界面活性剤は、ポリエトキシレート化ノニルフェノールであるPolymax NPA-15である。他の界面活性剤は、典型的にはおよそ9又は10のEO繰り返し単位を有するオクチルフェノールエトキシレートであるTriton(登録商標)-X100である。追加的な入手可能である非イオン性界面活性剤としては、BASFから入手可能である界面活性剤のPluronic(登録商標)シリーズが挙げられる。Pluronic(登録商標)界面活性剤としては、BASFから入手可能なP65、P8 4、P85、P103、P104、P105、及びP123を含むEO/POブロック共重合体のPシリーズ;BASFから入手可能なF108、F127、F38、F68、F77、F87、F88、F98を含むEO/POブロック共重合体のFシリーズ;及びBASFから入手可能なL10、L101、L121、L31、L35、L44、L61、L62、L64、L81、及びL92を含むEO/POブロック共重合体のLシリーズが挙げられる。
【0039】
追加的な入手可能である非イオン性界面活性剤としては、水溶性でエトキシレート化非イオン性フルオロ界面活性剤である、Zonyl(登録商標)FSN(ポリエチレングリコール非イオン性界面活性剤を有するTelomar Bモノエーテル)、Zonyl(登録商標)FSN-100、Zonyl(登録商標)FS-300、Zonyl(登録商標)FS-500、Zonyl(登録商標)FS-510、Zonyl(登録商標)FS-610、Zonyl(登録商標)FSP、及びZonyl(登録商標)URを含むデュポンから入手可能な商品名Zonyl(登録商標)が挙げられる。他の非イオン性界面活性剤としては、ココアミドDEA及びココアミドMEA等のULTRAFAX社が市販しているアミン凝縮物が挙げられる。非イオン性界面活性剤の他の種類としては、典型的には約1と約36との間のEO繰り返し単位を有するポリエーテル基でエステル化された脂肪酸を含む酸エトキシ化脂肪酸(ポリエトキシ−エステル)が挙げられる。グリセロールエステルは、1グリセロール基準で1つ、2つ、又は3つの脂肪酸基を有している。
【0040】
界面活性剤は、好適な耐腐食性組成物中に少なくとも約0.01g/Lの濃度で存在することができる。多くの界面活性剤が非常に低い濃度で効果的なぬれ性をもたらす。最小限の濃度は、充分なぬれ性を達成するように調整することができ、それは一つには界面活性剤の属性に依存する。一般的に、界面活性剤の濃度は少なくとも0.1g/L、より典型的には少なくとも約0.5g/Lである。該界面活性剤は、約10.0g/L未満の濃度で耐腐食性組成物中に存在することができる。一般的には、界面活性剤の濃度は約5.0g/L未満、より典型的には約2.0g/L未満である。
【0041】
本発明の耐腐食性組成物は、好ましくは約1.0と約12.0との間のpH、典型的には約7.0と約11.0との間のpHを有する。該組成物は、好ましくはアルカリ性であり、なぜならアルカリ性溶液中では保護有機コーティングの形成が酸性溶液中よりもより迅速になるからである。アルカリ性調整は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム等の第四級アミンの水酸化物のようなアルカリ性pH調整剤を用いて達成される。一般的に、アルカリ性pH調整剤の濃度は所望のアルカリ性pHを達成するのに充分であり、約0.01g/Lと約10.0g/Lとの間、典型的には約0.01g/Lと約2.0g/Lとの間、より典型的には約0.1g/Lと約0.5g/Lとの間の濃度であってもよい。
【0042】
特定の特に好適な実施態様では、該組成物は水酸化アルカリ金属を含まないか、或いは特に水酸化ナトリウムを含まず、ナトリウムテトラボレート等の代替剤だけをpH調整に用いる。
【0043】
任意の実施態様では、亜鉛及び銅イオン等のある金属イオンは、より薄い膜を構築する手助けとなるようこの化学式に取り込むことができ、それはより良好な耐腐食性、耐熱性及び耐摩耗性をもたらす。
【0044】
本発明のもう一つの特徴は、はんだ性銅基材上に蒸着した浸漬めっき銀コーティングの耐腐食性を向上させる方法に向いている。該方法は、その上に浸漬めっき銀コーティングを有する銅基材を、多官能性分子を含む耐腐食性組成物に暴露することを必要とする。
【0045】
銅基材は、当業界に既知の方法によって浸漬めっき銀コーティングで準備をしてもよい。例えば、米国特許第2006/0024430号公報に記載され、参照することにより本明細書に全て取り込まれる浸漬めっき銀で銅基材をコーティングする方法が適用可能である。浸漬銀コーティング用の市販の化学物質としては、エントン社(ウェストヘーブン、コネティカット州)から入手できるAlphaSTAR(登録商標)が挙げられる。耐腐食性組成物に暴露する前に、ある実施態様では従来のエッチング液で、コーティングされた浸漬めっき銀コーティングをエッチングするのが有利であり得る。ある態様では、アルカリ性又は酸性溶液中で浸漬めっき銀コーティングをすすぐのが有利であり得る。
【0046】
他の実施態様では、当業界で既知の方法によって基材を電解銀コーティングでめっきしてもよい。例えば、電解銀コーティングは、エントン社(ウェストヘーブン、コネティカット州)から入手可能なSILVREX(登録商標) White Metal Technologyを用いてメーカーに示唆された条件を採用してめっきすることができる。この方法は、約20g/Lと約50g/Lとの間の銀イオン濃度及び約11と約13との間のpHを有するアルカリ性シアン化物銀めっき浴を採用する。電流密度が、約15℃と約45℃との間のめっき温度で約0.5A/dm
2と約3A/dm
2との間で変化し得るので、1ミクロンの薄層をめっきする時間は約1分と約3分との間である。99%を上回る銀の純度は、SILVREX(登録商標)めっき化学を用いて達成することができる。
【0047】
多官能性分子を含む耐腐食性組成物は、いかなる方法でも基材表面の充分な領域を充分に得るのに適用することができる。充分とは、暴露方法が、はだか銅の領域、特に高アスペクト比ブラインドビアで浸漬銀コーティングに存在し得る穴や貫通孔を介してめっきされた銅−銀界面を耐腐食性組成物で被覆するのを確実にすることを意味する。充分な領域は、多官能性分子が銅及び銀表面上に保護有機膜を形成するのに充分な方法で、はだか銀表面及び銀表面と相互作用することを確実にする。水浸しにする、さっと浸ける、滝のようにたらす、又は噴霧することによって暴露することができる。暴露時間は本発明の有効性にかろうじて決定的ではなく、方法の技術面に依存する可能性がある。典型的な暴露時間は、約1秒と約10分との間のようにわずか約1秒から約20分もの長い間であってもよい。実際には、暴露時間は約15秒と約120秒との間、典型的には約30秒と約60秒との間のように約15秒と約60秒との間である。これらの比較的短い暴露時間からみても、本発明の方法は急速な基板コーティングを達成する。耐腐食性組成物の温度は室温から約75℃までの間、典型的には約25℃と約45℃との間のように約25℃と約55℃との間で変化し得る。はだか銅領域の耐腐食性コーティングへの暴露は、ガス洗浄、ブラッシング、スクィージング、かき混ぜ、攪拌で強化される。特にかき混ぜは、保護有機コーティングを基材に適用するための組成物の能力を強化する上で効果的な手段であることが示された。銅基材を耐腐食性組成物に暴露した後、典型的には約10秒から約2分の間で脱イオン水を用いて、基材をすすいでもよい。
【0048】
本発明のもう一つの特徴は、はんだ性銅基材上に蒸着した浸漬銀コーティング上に適用した保護有機膜に向いている。その上に浸漬銀コーティングを有する銅基材の本発明の耐腐食性組成物への暴露は、銀表面及び露出した銅表面の双方上に保護有機膜をもたらす。多官能性分子からなる保護有機膜において、窒素を含む有機官能基は露出した銅表面と相互作用し、かつ保護し、硫黄を含む有機官能基は銀表面と相互作用し、かつ保護する。この保護有機膜の描写を
図1に示しており、ここでは保護有機膜2を構成する多官能性分子の官能基が、銅基材4及び浸漬銀コーティング6と相互作用することが示されている。
【0049】
多官能性分子は、従来の金表面に吸着された有機チオールの自己組織化に類似した方法で、銅及び銀表面と相互作用する。従って、多官能性分子は銅及び銀表面上で単一層の中に自己組織化する。膜の厚みは、およそ多官能性分子の長さから多官能性分子の数倍(すなわち、3又は4倍)の長さへ変化し得る。典型的な膜厚は、約50オングストロームと約1ミクロンとの間、より典型的には約50オングストロームと約1000オングストロームとの間であってもよい。従って、該有機保護膜は、大気中の湿気に対して強化された保護をもたらすことができるのと同様に、浸漬銀コーティングの腐食及び硫化に対する耐性を強化する比較的高密度で、疎水性の膜である。
【0050】
本発明の保護有機膜は、特に無鉛リフロー時に一般に到達する温度に対する高い熱的安定性によって特徴づけることができる。本発明の保護有機コーティングは、示査走査熱量測定及び熱重量分析(TGA)によって示されるように、従来の有機コーティング(OSP等)に比べ、リフロー温度により良好に耐えることができる。例えば、2−メルカプトベンズイミダゾールを含む保護有機コーティングは、約254℃と同じ高さの温度で安定である一方、膜のたった5%が274℃と同じ高さの温度で破壊される。これは、典型的には約230℃と約235℃との間の温度でリフローされる共晶スズ鉛はんだに適した典型的なリフロー温度に対して同等に好ましい。さらに、保護有機コーティングは多段無鉛リフロー工程に耐えることができる。
【0051】
その上、保護有機コーティングは、銅基材の外観及びはんだ性に対して害のある影響を与えないことがわかった。はんだ性は湿潤バランス試験と接触抵抗によって示される。最後に、保護有機コーティングは浸漬めっき銀コーティングの耐摩耗性及び潤滑性を向上させることがわかった。
【0052】
詳細に本発明を記載することは、添付した特許請求の範囲に定義された発明の範囲からはずれることなく修正及び変更が可能であることは明らかである。
【0053】
さらに本発明を例示するため、以下の非限定的な実施例を提供する。
【0054】
実施例1:耐腐食性組成物
以下の成分を有する耐食性組成物(およそ1リットル)を調製した。
1: 2−メルカプトベンズイミダゾール(0.1グラム、98%溶液、シグマ−アルドリッチ(セントルイス、ミズーリ州)から入手)
2: 3,3−ジクロロベンジルベンズイミダゾール(0.1グラム)
3: n−オクチルチオール(0.5グラム)
4: テトラヒドロフルフリルアルコール(390グラム、シグマ−アルドリッチ(セントルイス、ミズーリ州)から入手)
5: 臭化亜鉛(0.1g)
6: プルロニック(Plurinuc)P-65(2.0グラム、BASFから入手)
7: 水酸化カリウム(50%溶液の2.24グラム)
8: 1Lの水(およそ600mL)
【0055】
各成分を混合し、約2時間放置することによって組成物を調製した。
【0056】
実施例2:2−メルカプトベンズイミダゾールの熱的安定性
示査走査熱量測定(DSC)及び熱重量分析(TGA)によって、活性化合物、2−メルカプトベンズイミダゾールの熱的安定性を分析した。
【0057】
DSCは、2−メルカプトベンズイミダゾールがおよそ312℃の融点を有することを示した。DSC試験は、270℃と同等の高さ、典型的には262℃の温度に到達する無鉛リフローに2−メルカプトベンズイミダゾールが潜在的に耐え得ることを示した。
【0058】
第2のサンプルを熱重量分析した。表2はTGAによって測定された2−メルカプトベンズイミダゾールの分解進捗度を示す。
【0060】
表2から明らかなように、2−メルカプトベンズイミダゾールは一般にPbフリーリフロー工程で到達する温度で安定であり、顕著な分解は300℃を超える温度だけで起こる。
【0061】
実施例4:パネルの腐食性試験
10枚の銅パネルをエントン社から入手のAlphaSTAR(登録商標)を用いて浸漬めっき銀の層で被覆した。浸漬めっき銀コーティングの厚さはおよそ6マイクロインチであった。試験片の寸法は、2インチ×3インチであった。
【0062】
銅パネルの耐腐食性試験を行った。対照として役割を果たす2枚の銅パネルを耐腐食性組成物で処理しない一方、8枚のパネルを保護有機膜を蒸着するのに充分な方法で耐腐食性組成物で処理した。
【0063】
4枚のパネルを以下の耐腐食性組成物を用いて処理し、処理#1と称した。2−(3,4−ジクロロベンジル)−ベンズイミダゾール(3.0g/L)、0.1gの臭化亜鉛、0.2gのn−オクチルチオール、0.1gのプルロニック(Plurinuc)P-65、2−エトキシエタノール(500mL/L)及びKOH(1.12g/L)。
【0064】
4枚のパネルを以下の耐腐食性組成物を用いて処理し、処理#2と称した。2−メルカプトベンズイミダゾール(0.1グラム、98%溶液、シグマ−アルドリッチ(セントルイス、ミズーリ州)から入手);0.1グラムの3,3−ジクロロベンジルベンズイミダゾール、0.5グラムのn−オクチルチオール、テトラヒドロフルフリルアルコール(390グラム、シグマ−アルドリッチ(セントルイス、ミズーリ州)から入手);0.1gの臭化亜鉛、プルロニック(Plurinuc)P-65(2.0グラム、BASFから入手);水酸化カリウム(50%溶液の2.24グラム);及び1Lの水(およそ600mL)。表3に示す処理マトリックスに従って、該パネルをかき混ぜながら処理組成物にさっと浸けることによって処理した。処理後、該パネルを30秒間脱イオン水ですすいだ。
【0065】
1つの対照パネルを2回リフローした。
【0067】
次いで、パネルを最初に二酸化硫黄を含む空気に、続いて硫化水素を含む空気に暴露することによって腐食試験を行った。最初に、パネルを亜硫酸溶液(6%濃度、150mL)を含む密封されたガラスデシケーター(直径およそ150mm)に120分間置いた。次に、パネルを硫化水素(1mLの100mL水中の23.5%(NH
4)
2Sの溶液)を含む密封されたガラスデシケーター(直径およそ150mm)に15分間置いた。
【0068】
パネルについて視覚的に腐食の検査を行った。
図2は、表3の処理マトリックスに従ったパネルを示す写真である。一番下の列の(処理#2に関係する)4枚のパネルは、最も少ない腐食を示した。
【0069】
実施例5:多段リフローを介した試験片の腐食試験
銅クラッドFR4ラミネートである6枚の銅試験片を、エントン社から入手のAlphaSTAR(登録商標)を用いた浸漬銀の層で被覆した。
【0070】
銅試験片について多段リフローを介して耐腐食性の試験を行った。対照として役割を果たす3枚の銅試験片は、耐腐食性組成物で処理をしなかった。3枚の銅試験片を実施例4の処理#2と称した耐腐食性組成物を用いてかき混ぜることによって処理した。処理後、試験片を30秒間脱イオン水ですすいだ。
【0071】
パネルをリフローした。2枚のパネルを2回リフローした(対照のものと、有機保護膜を被覆したもの);2枚のパネルを3回リフローした(対照のものと、有機保護膜を被覆したもの);及び2枚のパネルを4回リフローした(対照のものと、有機保護膜を被覆したもの)。
次いで、試験片を最初に二酸化硫黄(ASTM B799)を含む空気に、続いて硫化水素を含む空気に暴露することによって腐食試験を行った。
【0072】
最初に、パネルを亜硫酸溶液(6%濃度、150mL)を含む密封されたガラスデシケーター(直径およそ150mm)に120分間置いた。次に、パネルを硫化水素(1mLの100mL水中の23.5%(NH
4)
2Sの溶液)を含む密封されたガラスデシケーター(直径およそ150mm)に15分間置いた。
【0073】
パネルについて視覚的に腐食の検査を行った。
図3は試験片を示す写真であり、試験片の一番上の列は2回のリフローを、試験片の真ん中の列は3回のリフローを、試験片の一番下の列は4回のリフローを受けた。試験片の左の欄は有機保護膜を含む一方、試験片の右の欄は無処理のままである。保護有機膜は4回のリフロー後に充分に腐食を抑制したが、一方で対照パネルは2回のリフローの後に相当な腐食を示したことが明らかであった。
【0074】
実施例6:保護有機膜の性能試験
銅試験片(2インチ×3インチの銅クラッドラミネート)をエントン社から入手のAlphaSTAR(登録商標)を用いた浸漬銀の層で被覆した。浸漬銀の層を有する銅試験片について性能試験を行った。
【0075】
最初の性能試験では、4枚の試験片について、工業基準試験方法IPC J-STD-003Aに従って、共晶スズ鉛はんだ及びフラックスを用いてぬれ性試験を行った。対照として役割を果たす2枚の銅試験片は、耐腐食性組成物で処理しなかった。2枚の銅試験片を実施例4の処理#2と称した耐腐食性組成物を用いてかき混ぜることによって処理した。処理後、試験片を30秒間脱イオン水ですすいだ。2枚の試験片(処理した試験片のものと、未処理の試験片のもの)をリフローの前にぬれ性評価した。2枚の試験片(処理した試験片のものと、未処理の試験片のもの)を上述した無鉛リフローに従って2回リフローした後にぬれ性評価した。ぬれ性試験の結果を
図4で視覚的に示す。
【0076】
第2の性能試験では、4枚の試験片について、ASTM B539に従って共晶スズ鉛はんだ及びフラックスを用いて接触抵抗試験を行った。対照として役割を果たす2枚の銅試験片は、耐腐食性組成物で処理しなかった。2枚の銅試験片を実施例4の処理#2と称した耐腐食性組成物を用いて処理した。処理後、試験片を30秒間脱イオン水ですすいだ。2枚の試験片(処理した試験片のものと、未処理の試験片のもの)をリフローの前に接触抵抗評価した。2枚の試験片(処理した試験片のものと、未処理の試験片のもの)を2回リフローした後に接触抵抗評価した。結果は接触抵抗が全てのサンプル間でわずかに変化することを示したが、かかる変化はさほど重要ではない。
【0077】
本発明の構成要素又はその好適な実施態様を紹介する際、「ある」、「該」、「前記」なる記載は、1つ又はそれ以上の要素があることを意味するのを意図している。「含む」、「からなる」、「有する」なる用語は、列挙した要素以外の追加的な要素があるかもしれないことを意味するのを意図している。
【0078】
上記の観点からして、本発明のいくつかの目的が達成され、他の有利な結果が得られるであろう。
【0079】
本発明の範囲を逸脱することなく、上述の組成物及び方法における種々の変更をなすことができるように、上述の明細書及び示された付随の図面中に含まれる内容は、実例であって制限されるものではないと解釈されるであろうことを意図している。